(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376937
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】電子聴診装置およびこの装置に用いられるカバー部材
(51)【国際特許分類】
A61B 7/04 20060101AFI20180813BHJP
【FI】
A61B7/04 B
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-212967(P2014-212967)
(22)【出願日】2014年10月17日
(65)【公開番号】特開2016-77623(P2016-77623A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年9月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】下出 浩治
(72)【発明者】
【氏名】細矢 範行
【審査官】
門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−179054(JP,A)
【文献】
特開2012−090909(JP,A)
【文献】
特表2011−505997(JP,A)
【文献】
特開2008−142112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 7/04
A61M 1/00 − 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体音を検出する電子聴診装置であって、
生体に直接または間接的に取り付けられて前記生体音を連続的に検出する生体音センサと、
前記生体音センサとの間に隙間を形成するように設けられ、該生体音センサに対する外部からの物理的刺激によって該生体音センサに混入するノイズを低減するカバー部材と、
を備えており、
前記カバー部材には、前記物理的刺激によって前記生体音センサに混入するノイズをさらに低減する開孔部が形成されていることを特徴とする、電子聴診装置。
【請求項2】
前記カバー部材の表面積に占める前記開孔部の開孔面積の割合が少なくとも6%である、請求項1に記載の電子聴診装置。
【請求項3】
前記生体音センサと前記生体との間に介在する柔軟性を備えるシート状部材をさらに備える、請求項1または2に記載の電子聴診装置。
【請求項4】
前記シート状部材は、その表面の少なくとも一部に粘着性を有するものである、請求項3に記載の電子聴診装置。
【請求項5】
前記カバー部材の前記生体に接触する側、あるいは、前記生体音センサと前記生体との間に介在する柔軟性を備えるシート状部材に接触する側である底部がフランジ状とされている、請求項1から4のいずれかに記載の電子聴診装置。
【請求項6】
前記底部によって画定される平面に垂直な方向における前記生体音センサの聴診部と前記カバー部材との距離Zと、前記聴診部と前記カバー部材の底部との最短距離Xとの関係がX>Zであることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の電子聴診装置。
【請求項7】
前記カバー部材の前記シート状部材に接触する側である底部が、その内径が大きくなる裾広がり形状となっている、請求項6に記載の電子聴診装置。
【請求項8】
前記カバー部材は、前記底部とは反対側の頂部に近いほど内径が絞られた形状となっている、請求項6または7に記載の電子聴診装置。
【請求項9】
前記カバー部材は、前記底部とは反対側の頂部に近いほど外径が絞られた形状となっている、請求項6または7に記載の電子聴診装置。
【請求項10】
前記カバー部材に、前記生体の血液回路および/または前記生体音センサのケーブルを当該カバー部材の外部へと導く導通部が形成されている、請求項1から9のいずれか一項に記載の電子聴診装置。
【請求項11】
前記カバー部材に、前記生体音センサのケーブルを留め付け可能なケーブル留めが形成されている、請求項1から10のいずれか一項に記載の電子聴診装置。
【請求項12】
請求項1から11に記載の電子聴診器装置に用いられるカバー部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイタルサイン(生体情報)などの生体音をモニタリングする電子聴診装置およびこの装置に用いられるカバー部材に関する、
【背景技術】
【0002】
腎不全患者の治療方法のひとつである人工血液透析は、現在広く普及している治療方法である。この治療方法では、血液透析患者の腕の皮膚下において動脈と静脈をつなぎ合わせる手術をしてシャントを作製し、このシャントにより静脈に大量の動脈血が流れるようにして、その血液をダイアライザに導くことで血液の浄化と除水を行う。
【0003】
ところで、血液透析患者の血圧が透析治療後半において低下することはよく知られている。この原因は、間質からのプラズマリフィリングと呼ばれる水の移動が除水速度に対して追いつかず、一時的に血液量が低下するために起こることにあるといわれている。血液透析中の血圧低下は、場合によっては患者の意識がなくなるなどの容態変化を引き起こすため、透析の臨床現場において問題視されている。このため、透析中の血液透析患者の血圧低下などの容態急変をいち早く知るために、バイタルサインを連続的にモニタリングすることに対して関心が高まっている。
【0004】
このようにバイタルサインをモニタリングする方法の一つとして、聴診器によりシャント音を聴診するという方法が知られており、この方法によれば、シャント音から患者の状態を透析室で簡便に知ることが可能である。例えば聴診したシャント音から、血液透析中の血圧を推定する方法が特許文献1に開示されている。しかし、特許文献1では、電子聴診器の聴診部にノイズを低減させる工夫がなされていないため、連続的モニタリング中に患者が毛布を聴診部にかぶせたり、寝返りをうったりすることを原因とする聴診部への物理的刺激によって生じるノイズによる影響を防止することができない。
【0005】
一方で、特許文献2、特許文献3には、ノイズの混入を避けるためにカバーをつけて、マイクロホンと分離したり、筐体とマイクロホンの隙間に素材を充填したりする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5132003号公報
【特許文献2】特開2008−142112号公報
【特許文献3】特開2013−74915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
音には固体振動音と空気振動音とがあり、電子聴診器で音を採集する場合、空気振動音よりも固体振動音のほうがノイズとして大きく出現することがわかっている。このため、電子聴診器の聴診部(マイクロホン)に何らかの物が直接触れられることは避けなければならない。
【0008】
この点、カバーをつけてマイクロホンと分離する特許文献2の方法では、カバーへの衝撃による固体振動音がマイクロホンには直接伝わらないものの、その衝撃が空気振動音に変換され、隙間の空気を介してマイクロホンに伝わることから、ノイズによる影響を防ぐことはできない。
【0009】
また、特許文献3に開示される筐体とマイクロホンの隙間に素材を充填する方法では、外部環境雑音と摺動雑音が考慮されている一方で、筐体への衝撃が考慮されていない。ゆえに、筐体に与えられた衝撃がすべて固体振動音としてマイクロホンに伝わるため、連続的なモニタリング時に外部からの衝撃に由来するノイズの発生を防ぐことは難しい。
【0010】
本発明は上記不具合を解決するためになされたものであり、バイタルサインなどの生体からの音を連続的にモニタリングする際に混入しうるノイズを低減させる電子聴診装置およびこの装置に用いられるカバー部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するべく想到されるに至った本発明は、生体音を検出する電子聴診装置であって、生体に直接または間接的に取り付けられて前記生体音を連続的に検出する生体音センサと、前記生体音センサ
との間に隙間を形成するように設けられ、該生体音センサに対する外部からの物理的刺激によって該生体音センサに混入するノイズを低減するカバー部材と、を備えており、前記カバー部材には、前記物理的刺激によって前記生体音センサに混入するノイズをさらに低減する開孔部が形成されているというものである。
【0012】
このような構成の電子聴診装置においては、生体音センサとカバー部材との隙間に素材等が充填されておらず、空気が介在している。このため、カバー部材に外部からの物理的刺激が加わったとしても、素材を介して固体振動音が生体音センサに伝わることはない。
【0013】
また、この電子聴診装置においては、上述のように生体音センサとカバー部材との間の隙間を空気のままとしながらも、カバー部材に開孔部が形成されていることから、カバー部材に物理的刺激が加わったときに生じうる空気振動音を、当該開孔部を通じて外部に逃がすことができる。これによれば、カバー部材等を伝わって固体振動音に変換される空気振動音を低減し、これにより、生体音センサにノイズが混入するのを低減することができる。
【0014】
この電子聴診装置においては、前記カバー部材の表面積に占める前記開孔部の開孔面積の割合が少なくとも6%であることが好ましい。
【0015】
また、電子聴診装置は、前記生体音センサと前記生体との間に介在する柔軟性を備えるシート状部材をさらに備えていてもよい。
【0016】
前記シート状部材は、その表面の少なくとも一部に粘着性を有するものであってもよい。
【0017】
また、電子聴診装置において、前記カバー部材の前記生体に接触する側、あるいは、前記生体音センサと前記生体との間に介在する柔軟性を備えるシート状部材に接触する側である底部がフランジ状とされていることが好ましい。
【0018】
また、前記底部によって画定される平面に垂直な方向における前記生体音センサの聴診部と前記カバー部材との距離Zと、前記聴診部と前記カバー部材の底部との最短距離Xとの関係がX>Zであることが好ましい。
【0019】
さらに、電子聴診装置においては、前記カバー部材の前記シート状部材に接触する側である底部が、その内径が大きくなる裾広がり形状となっていることが好ましい。
【0020】
前記カバー部材は、前記底部とは反対側の頂部に近いほど内径が絞られた形状となっていてもよい。
【0021】
あるいは、前記カバー部材は、前記底部とは反対側の頂部に近いほど外径が絞られた形状となっていてもよい。
【0022】
また、前記カバー部材に、前記生体の血液回路および/または前記生体音センサのケーブルを当該カバー部材の外部へと導く導通部が形成されていてもよい。
【0023】
前記カバー部材に、前記生体音センサのケーブルを留め付け可能なケーブル留めが形成されていてもよい。
【0024】
また、本発明に係るカバー部材は、上述した電子聴診器装置に用いられるというものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、バイタルサインなどの生体からの音を連続的にモニタリングする際に混入しうるノイズを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】バイタルサインの連続的モニタリングの使用イメージを表した、血液透析患者における電子聴診装置の使用の一例を示す図である。
【
図2】電子聴診装置を構成するモニタセンサの構成例を示す斜視図である。
【
図5】ノイズ低減部材の構成例を示す斜視図である。
【
図7】カバー固定部材の構成例を示す斜視図である。
【
図8】電子聴診装置の第2の実施形態を示す図である。
【
図9】電子聴診装置の内部の構成例を示す図である。
【
図10】電子聴診装置の第2の実施形態における別例を示す図である。
【
図11】ノイズ低減部材の開孔部をふさいでノイズ混入試験をした結果を示すグラフである。
【
図12】各種の防振シートを用いてノイズ混入試験を行い評価した結果を示すグラフである。
【
図13】カバー部材の内径を変化させたノイズ低減部材を使用してノイズ混入試験をして評価した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。本発明に係る電子聴診装置1は、ノイズ低減用のカバー部材31を備えたノイズ低減部材30と、モニタセンサ(生体音センサ)16と、からなる生体音モニタリング用の装置である。
【0028】
<電子聴診装置の第1の形態>
図1は血液透析患者における電子聴診装置1の使用の一例を示す図である。患者の腕100の皮膚下では、大量の動脈血が流れてその血液をダイアライザに導くよう、動脈と静脈とがつなぎ合わされてシャントが作製されている。
図1に示す電子聴診装置1は、患者のバイタルサインを連続的にモニタリングするべく、静脈側血液回路13に設置されているが、静脈側に限定するものではなく、動脈側血液回路12に設置されてもよく、動脈側血液回路12と静脈側血液回路13の両方に設置できる。モニタセンサ16(の聴診部23)には、モニタリングした生体音の信号を送信するケーブル24が接続されている。なお、
図1中の符号14は動脈側穿刺部、15は静脈側穿刺部を表している。
【0029】
図2、
図14は電子聴診装置1を構成するモニタセンサ16の構成例を示す図である。聴診部23は、回路接続治具26によって血液回路22に接続されている。回路接続治具26にはくり抜かれた溝26aがあり、その溝26aに血液回路22が嵌め込まれる(
図14参照)。聴診部23にはケーブル24が接続されている。聴診部23は、生体音としてシャント血流音を血液回路22から採集する。
【0030】
図3は電子聴診装置1の使用例を示す斜視図である。上述したモニタセンサ16には、ノイズ低減用のカバー部材31によって構成されるノイズ低減部材30が付設されている。カバー部材31は、聴診部23をカバーするように取り付けられている。このカバー部材31の通路口(導通部)33からは、血液回路22およびケーブル24が外部に導かれている。
【0031】
図4はノイズ低減部材30の構成例を示す図であり、
図5はその斜視図である。また、
図6は、カバー固定部材35の構成例を示す図であり、
図7はその斜視図である。
【0032】
ノイズ低減部材30は、開孔部32を有するカバー部材31と防振シート34からなる。
【0033】
カバー部材31は、電子聴診装置1に対する外部からの物理的刺激によってモニタセンサ16に混入しうるノイズを低減するよう、モニタセンサ16から分離した状態で該モニタセンサ16を覆うように設けられている。カバー部材31とモニタセンサ16の隙間に素材等は充填されておらず、空気が介在した状態となっている。このため、カバー部材31に外部からの物理的刺激が加わったとしても、素材を介して固体振動音がモニタセンサ16に伝わることはない。さらにカバー部材31には、開孔部32が形成されている。
【0034】
開孔部32は、カバー部材31に物理的刺激が加わったときに生じうる空気振動音を、当該開孔部32を通じて外部に逃がす。したがって、開孔部32を備えたカバー部材31は、物理的刺激によってモニタセンサ16に混入するノイズをさらに低減することができる。
【0035】
また、開孔部32の径を大きくする等、カバー部材31の表面積に占める開孔率を高くすれば、空気振動音がさらに外部に逃げやすくなるため、ノイズが低減しやすくなる。カバー部材31の表面積に占める開孔部の開孔面積の割合が少なくとも6%である。
【0036】
なお、各図に示した開孔部32の形状や大きさ、個数は好適例にすぎない。孔の構成は例示したものに限られることはなく、要は、空気振動音が外部に逃げることができれば例えばメッシュ形状でも構わない。
【0037】
カバー部材31には血液回路22およびモニタセンサ16のケーブル24を導通して外部に導く通路口33が設けられている。なお、通路口33の具体的構成は特に限定されず、ケーブル等を導通することができれば、孔状に切り欠かれていても、あるいは
図4に示すように底縁から切り欠かれていても構わない。
【0038】
なお、本明細書では、上述したカバー部材31のうち、患者の腕100あるいは防振シート34に取り付けられる側を底部といい、
図4において符号31bで示す。また、該底部31bとは反対側(
図4等において上を向く側)を頂部といい、
図4において符号31aで示す。
【0039】
モニタセンサ16は、患者の腕100に直接取り付けられてもよいし、あるいは、患者の腕100との間にシート状のもの好ましくは防振シート34を介在させた状態で間接的に取り付けられてもよい。シート状のものを介在させることで、モニタセンサ16をより安定した状態で取り付けたり、モニタセンサ16等を直接取り付けた場合に生じうる皮膚のかぶれ等を抑制したりすることが可能となる。本実施形態で採用する防振シート34は防振ないしは振動を低減させる柔軟なシート状部材からなり、カバー部材31から聴診部23に伝わる固定振動音を減衰させる。防振シート34の好適な厚さと硬度の範囲の一例を挙げれば、厚さ1〜5mm、硬度ショアA12以下、である。
【0040】
また、防振シート34として、その表面の少なくとも一部あるいは全面に粘着性を有するものを採用することができる。このような粘着性を有する防振シート34によれば、患者の腕100等、生体表面への貼り付けがしやすく、また、モニタセンサ16を当該防振シート34に貼り付けることによって固定しやすくもある。さらに、粘着性を有することで血液回路の動きが抑制され、患者の動き等により血液回路が動くことで回路接続治具26との間で発生するノイズや聴音の不安定さを低減させることが可能となる。
【0041】
このような粘着性の防振シート34を用いる場合、カバー部材31のうち防振シート34の接触する側である底部31bがフランジ状とされていれば、防振シート34との接触領域が増えてさらに固定しやすくなる。また、このように底部31bがフランジ状とされたカバー部材31は、患者の腕100に直接取り付けた場合、接触領域が多いぶん安定しやすいし、腕100の表面に対する圧力を低減させる。
【0042】
なお、カバー部材31は、聴診部23と血液回路22を防振シート34上に設置後、それらを覆う位置に配置され、医療用テープで防振シート34に貼り付けられて固定される。ただしこれはカバー部材31の固定方法の一例にすぎない。この他、例えば、カバー部材31の着脱を可能とするカバー固定部材35を予め防振シート34に接着しておき、嵌め込み用切り込み36(
図6にのみ示す)にカバー部材31を嵌め合わせる等して固定しても構わない(
図6参照)。
【0043】
防振シート34としては例えば耐震シートAを使用することができるが(なお、ここでは具体的な製品名などは示さない)、これに限定されることなく、固体振動音を減衰させるシートなら、ウレタン系、オレフィン系、スチレン系、アミド系、イソブチレン系、塩化ビニル系、およびシリコーン系の素材を用いても構わない(表1参照)。
【表1】
【0044】
<電子聴診装置の第2の形態>
図8および
図9は、電子聴診装置1の別の形態(第2の形態)を示す図である。
図8に示す電子聴診装置のノイズ低減部材30は、開孔部32と通路口33があるカバー部材31と、防振シート34とから構成される。このカバー部材31は、底部31b付近の外径が頂部31a付近におけるよりも大きい段付き(ステップ状)の末広がり形状であり、内径も同様に底部31b付近のほうが大きくなるように形成されている。このように、防振シート34(ないしは生体の表面)に接触するカバー部材31の内径が大きいと、聴診部23に固体振動音が伝わりにくくなる。すなわち、固体振動音が面を伝わる際の距離(沿面距離)が長いほど、振動音が減衰するのであるが、本実施形態のごとくカバー部材31の底部31bの内径が大きいと、聴診部23とカバー部材31の内面との間隔(距離)が長くなり、固体振動音が減衰するようになる。
【0045】
上述したように、カバー部材31の底部31bの内径が大きければ、聴診部23とカバー部材31の内面との間隔(距離)が長くなり固体振動音がより減衰するようになる。また、このような固体振動音の減衰に対してカバー部材31の外形状や外径の大きさが及ぼす影響はほとんどない。
【0046】
なお、電子聴診装置1を小型化するという点からすれば、カバー部材31の底部31bほど内径を広げた形状(すそ野を広くした形状)であって、尚かつ、頂部31aに近いほど内径を絞った形状であることが好適である。あるいは、頂部31aに近いほど外径が絞られた形状のカバー部材31も、小型化の点で好適である。
【0047】
ここで、好適な距離関係の一例を示す。カバー部材31の底部31bによって画定される平面(例えば、底部31bが面接触する防振シート34の表面)を想定し、該平面に垂直な方向(平面が水平面なら、鉛直方向)における聴診部23の頂部を23cとした場合の、該頂部23cとカバー部材31との、垂直方向に沿った距離をZとする。また、聴診部23とカバー部材31の底部31bとの最短距離をXとする(
図9参照)。こうした場合、聴診部23に伝わる固体振動音をより減衰させるという観点からは、X>Zであることが好ましい。X>Zであれば、X≦Zである場合よりも小型化しやすいという利点がある。
【0048】
図10は、電子聴診装置1の第2の実施形態における別の例を示す図である。この電子聴診装置1におけるカバー部材31は、内径が、底部31bに近付くにつれ徐々に大きくなる末広がり形状となっている。また、このカバー部材31の外周形状はドーム状であるが、上述したように、固体振動音を減衰させるうえで、カバー部材31の外形状や外径の大きさの影響は小さく、これらを適宜設定して構わない。
【0049】
また、本実施形態の電子聴診装置1におけるカバー部材31には通路口(導通部)33が形成されており、該通路口33を利用して、血液回路22および/またはモニタセンサ16に接続されたケーブル24を当該カバー部材31の外部へと導くことができる。
【0050】
さらに、カバー部材31には、ケーブル24を留め付け可能なケーブル留め37が形成されており、ここにケーブル24を留め付けることによってケーブル24の振動が抑制されてノイズが混入しにくくなるようにすることができる。すなわち、電子聴診装置1の聴診部23には信号を伝えるケーブル24がついていて、このケーブル24に触れたときの衝撃(物理的刺激)は聴診部23に振動として伝わりノイズとして現れやすいことから、これを防ぐ措置(例えば、ケーブル24をテープで固定するなどの措置)が必要となる。この点、本実施形態の電子聴診装置1によればケーブル留め37を利用してケーブル24を固定し、ケーブル24からの振動がノイズとして出現しないようにすることができる(
図10参照)。ちなみに、Bluetooth(登録商標)などの無線通信技術を用いれば聴診部23のケーブル24を省略することが可能である。
【0051】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では生体音を検出してバイタルサインをモニタリングする電子聴診装置1を例示して説明したが、本発明の用途はこのようにバイタルサインをモニタリングする場合に限られない。その他の用途としては、例えば、電子聴診装置1を用いてシャント音そのものを観測することで血管の血栓等による閉塞の発生を検知することが可能である。あるいは、在宅患者を見守る「在宅行動モニタリング」用の装置として適用することも可能である。さらには、医療用途に限らず工場や野外で何らかの装置の音のモニタを行うような場合、外部からの刺激(野外だと樹木の枝が触れるなど)を低減可能な装置として適用することも可能である。
【0052】
また、上述の実施形態では、患者の腕100で生体音を検出するのに適した構成例として、聴診部23が底部31b側を向いたモニタセンサ16を例示したがこれも好適例にすぎず、このほか、例えば体外循環用チューブを使って生体音の検出をする場合において好適なように聴診部23が上向きになるように構成することも可能である。
【実施例1】
【0053】
カバー部材31の頂部31aを約1秒間隔で一定時間(1分、30秒、20秒、10秒、5秒)、約0.4Nの力でたたくことにより、ノイズ混入試験を行った。得られた音波形から音パワーを算出して、評価した。音パワーとは、ここでは電子聴診装置1が出力する音波形の振幅を二乗したものとした。なお、音パワーの算出方法は、特許文献1に記載の方法に従った。
【0054】
図4および
図5に示したノイズ低減部材30の開孔部32をふさいでノイズ混入試験をした結果を
図11に示す。開孔部32をふさぐことによりカバー部材31内での音パワーが上昇し、ノイズが混入していることがわかる。この結果から、カバー部材31に開孔部32が設けられていることがノイズ低減には有効であることがわかった。
【実施例2】
【0055】
表1に示す各種の防振シート34を用いてノイズ混入試験を行い評価した。その結果を
図12に示す。防振シート34の柔らかさが柔らかいほど、ノイズが混入しにくい傾向があった。防振シート34としては、柔らかく、固体振動音を減衰させやすいシートが好ましいことがわかった。
【実施例3】
【0056】
カバー部材31の内径を変化させたノイズ低減部材30を使用して、ノイズ混入試験をして評価した結果を
図13に示す。カバー部材31の内径が大きくなるほど、ノイズが混入しにくいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、バイタルサインなどの生体音を連続的にモニタリングする電子聴診装置に適用して好適である。
【符号の説明】
【0058】
1 電子聴診装置
12 動脈側血液回路
13 静脈側血液回路
14 動脈側穿刺部
15 静脈側穿刺部
16 モニタセンサ(生体音センサ)
22 血液回路
23 聴診部
23c 聴診部の頂部
24 ケーブル
26 回路接続治具
26a 血液回路嵌め込み用の溝
30 ノイズ低減部材
31 ノイズ低減用のカバー部材(カバー部材)
31a 頂部
31b 底部
32 開孔部
33 通路口(導通部)
34 防振シート(シート状部材)
35 カバー固定部材
36 嵌め込み用切り込み
37 ケーブル留め
100 腕
X 聴診部とカバー部材の底部との最短距離
Z 底部によって画定される平面に垂直な方向における生体音センサの聴診部(の頂部)とカバー部材との距離