特許第6376968号(P6376968)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6376968自動車用構造部材の加工方法及び自動車用構造部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376968
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】自動車用構造部材の加工方法及び自動車用構造部材
(51)【国際特許分類】
   B60J 5/00 20060101AFI20180813BHJP
   B21D 22/02 20060101ALI20180813BHJP
   B21D 53/88 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   B60J5/00 Q
   B21D22/02 F
   B21D53/88 Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-254160(P2014-254160)
(22)【出願日】2014年12月16日
(65)【公開番号】特開2016-113049(P2016-113049A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2017年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】特許業務法人なじま特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 学
(72)【発明者】
【氏名】濱谷 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】井口 敬之助
(72)【発明者】
【氏名】塗木 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】寺本 大輔
【審査官】 高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】 実開平06−012136(JP,U)
【文献】 特開2005−029954(JP,A)
【文献】 特開平05−311765(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/046007(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/02
53/88
B60J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空鋼管の端部を拡管率を40%以上で拡管した後、拡管部の中央部を平坦に押し潰し平坦部を形成した際、同時にその両側の2箇所に屈曲ビード部を形成して結合座面を形成し、前記屈曲ビード部はその高さが板厚の2〜5倍、その幅が板厚の2倍以上、座面幅の2割以下とすることを特徴とする自動車用構造部材の加工方法。
【請求項2】
中空鋼管の端部が40%以上の拡管率で拡管された端部を押し潰して結合座面とした中空鋼管の管端構造であり、この結合座面は、片面は平坦部であり、その反対面は両側の2カ所に屈曲ビード部を残してそれらの間の中央部を平坦部とした形状であり、かつ前記屈曲ビード部はその高さが板厚の2〜5倍、その幅が板厚の2倍以上、座面幅の2割以下であることを特徴とする自動車用構造部材。
【請求項3】
中空鋼管が溶融亜鉛めっき鋼管であり、前記2つの平坦部間が溶融・凝固しためっき層により結合されていることを特徴とする請求項2記載の自動車用構造部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空鋼管を用い、その端部を他部材と結合し、かつ強度を発揮するために用いられる自動車用構造部材の加工方法及び自動車用構造部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中空鋼管は自動車のドアインパクトビームをはじめ、各種の自動車用構造部材として広く使用されている。しかし断面円形の鋼管の端部をそのまま他部材と結合することは困難であるため、多くの場合には特許文献1に示すように、管端にブラケットを溶接したうえで、ドアパネルなどの他部材と結合している。一般にブラケットは鋼管よりも薄肉であり、溶接部は隅肉溶接であって溶接長も限られることから、このブラケットの部分が荷重伝達特性のネックとなり、破損の起点となることが多い。そこで中空鋼管の管端に何らかの加工を施し、溶接やボルト‐ナット等により中空鋼管の管端を他部材と直接結合し、荷重伝達特性を向上させる技術が求められている。
【0003】
例えば特許文献2には、中空鋼管の管端に小穴をミシン目状に加工したうえ、押広げ治具を管端に挿入してミシン目部分から切り開き、最後に押し潰し治具で管端を平面状に押し潰して結合座面とする管端加工方法が記載されている。この方法は平坦な座面を確保し易い利点がある。しかし、結合座面の幅は十分に確保できるが、管端を切り開くために荷重伝達特性が低下すること、押し潰しの付け根部が変形時のヒンジとなってしまい、荷重伝達特性の向上が認められないこと、等の問題があった。
【0004】
また特許文献3には、中空鋼管の管端を薄く加工したうえで平面状に押し潰して結合座面とする管端加工方法が記載されている。しかしこの場合にも、押し潰しの付け根部が変形時のヒンジとなってしまい、荷重伝達特性の向上が認められないという問題があった。
【0005】
なお特許文献4には、中空鋼管の管端部に直管部よりも板厚が大きいブラケットを結合する管端加工方法が記載されている。しかし1枚板のままでは十分な荷重伝達特性が得られず、またこのブラケットは丸断面から平板に徐変する形状であるため、曲げ特性の悪化が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−254969号公報
【特許文献2】特開平8−72544号公報
【特許文献3】実用新案登録第606585号公報
【特許文献4】特開2008−247280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は上記した従来技術の欠点を解決し、中空鋼管の管端を、結合座面の幅が広くかつ荷重伝達特性の向上を図ることができる形状とすることができる自動車用構造部材の加工方法及び自動車用構造部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するためになされた本発明の自動車用構造部材の加工方法は、中空鋼管の端部を拡管率を40%以上で拡管した後、拡管部の中央部を平坦に押し潰し平坦部を形成した際、同時にその両側の2箇所に屈曲ビード部を形成して結合座面を形成し、前記屈曲ビード部はその高さが板厚の2〜5倍、その幅が板厚の2倍以上、座面幅の2割以下とすることを特徴とするものである。
【0009】
また上記の課題を解決するためになされた本発明の自動車用構造部材は、中空鋼管の端部が40%以上の拡管率で拡管された端部を押し潰して結合座面とした中空鋼管の管端構造であり、この結合座面は、片面は平坦部であり、その反対面は両側の2カ所に屈曲ビード部を残してそれらの間の中央部を平坦部とした形状であり、かつ前記屈曲ビード部はその高さが板厚の2〜5倍、その幅が板厚の2倍以上、座面幅の2割以下であることを特徴とするものである。
【0011】
また、中空鋼管が溶融亜鉛めっき鋼管であり、前記2つの平坦部間が溶融・凝固しためっき層により結合されている構造とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、中空鋼管の端部を拡管した後、押し潰して結合座面を形成する。このように拡管して径を大きくしたうえで平坦に押し潰すことにより、単に押し潰した場合よりも結合座面の幅を大きくすることができる。また拡管により管端の肉厚が減少するため、相手部材が薄板の場合にもスポット溶接が容易になる。これらの効果を確保するために端部の拡管率を40%以上とすることが好ましく、60%以上とすることがさらに好ましい。
【0014】
また本発明によれば、従来のように管端の全体を平坦に押し潰すのではなく、拡管部の中央部を平坦に押し潰し平坦部を形成した際、同時にその両側の2箇所に屈曲ビード部を形成して結合座面を形成する。このように両端の2カ所に屈曲ビード部を残すことにより、押し潰しの付け根部が変形時のヒンジとなることが防止でき、荷重伝達特性の向上を図ることができる。その具体的な数値は後述する通りである。
【0015】
さらに、中空鋼管を溶融亜鉛めっき鋼管とし、押し潰された2つの平坦部間を溶融・凝固しためっき層により結合した構造とすれば、結合座面の強度をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の中空鋼管の自動車用構造部材の加工方法の工程説明図である。
図2】結合座面の斜視図である。
図3】結合座面の正面図と側面図である。
図4】実施例に用いた実施例品の説明図である。
図5】実施例に用いた従来品の説明図である。
図6】実施例で測定されたストロークと荷重の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施形態を説明する。
図1は本発明に係る自動車用構造部材の加工方法の工程説明図である。先ず中空鋼管1の端部を適宜長さにわたり拡管し、拡管部2を形成する。この拡管は中空鋼管1の端部をテーパ状のマンドレルに押し込む周知の方法によって行うことができる。拡管により端部の直径が拡大するとともに、肉厚tが減少する。ただし本発明においては、拡管の手段は特に限定されるものではない。
【0018】
前記したように、拡管部2の肉厚tが厚いと相手部材が薄板の場合にはスポット溶接しにくくなるため、拡管により十分に薄肉化することが望ましい。結合強度向上のためにスポット1打点追加可能とする場合には拡管率η≧40%、千鳥配置で2打点追加可能とする場合にはη≧60%とする。拡管率ηが40%の場合には座面幅を従来よりも20mm拡大することができ、スポット1打点が追加可能となる。また拡管率ηが60%の場合には座面幅を従来よりも30mm拡大することができ、千鳥配置で2打点の追加が可能となる。
【0019】
上記した拡管を可能とするためには、一様伸び(U‐EL)が10%以上、より好ましくは15%以上、穴広げ率(λ)が30%以上、より好ましくは40%以上の鋼材を選択することが望ましい。これらの特性を持つ材質の中空鋼管は必ずしも特別なものではなく、市販品から選択することができる。一様伸びは引張試験において、試験片平行部がほぼ一様に変形する永久伸びの限界値であり、通常、最大引張荷重に対応する永久伸びとして求められる値である。また穴広げ率は、JIS‐2256に規定されており、試験片に開けた円形の打抜き穴を円すい(錐)状のパンチで押し広げ,穴の縁に発生する割れが少なくとも一個所で厚さ方向に貫通したときの穴の径の拡大量を初期の穴の径に対する貫通したときの穴の径の比で表した値である。
【0020】
次に拡管部2を平坦な下型上に載せ、上方からポンチを下降させて拡管部2の中央部を平坦に押し潰し、結合座面3を形成する。その形状は図2図3に示されるように、拡管部の中央部を平坦に押し潰し平坦部5を形成した際、同時にその両側の2箇所に屈曲ビード部4を形成したものである。平坦部5は二重となって相互に密着する。このように両側の2カ所に屈曲ビード部4を残すことにより、結合座面3の曲げ強度及びねじり剛性が向上し、従来のように押し潰しの付け根部が変形時のヒンジとなることが防止される。
【0021】
図2に示される屈曲ビード部4のビード高さBhは、板厚tの2〜5倍(2t≦Bh≦5t)とする。ビード高さBhが2t未満となるまで押し潰すと、結合座面3の強度向上代が5%未満となり、十分な効果が得られない。逆にビード高さBhを5tより高くしても強度向上代が飽和してしまい、それ以上の強度増加が認められない。
【0022】
また図2に示される屈曲ビード部4のビード幅Bwは、板厚tの2倍以上、座面幅Wの2割以下(2t≦Bw≦0.2W)とする。ここで座面幅Wは、両端の屈曲ビード部4の外側面間の距離である。ビード幅Bwが2t未満であると、結合座面3の強度向上代が5%未満となり、十分な効果が得られない。逆にビード幅Bwが0.2Wを超えると相対的にスポット溶接可能な平坦部5の幅が減少するので好ましくない。
【0023】
中空鋼管1の端部に上記した構造の結合座面3を形成すれば、この結合座面3を相手部材にスポット溶接することにより、相手部材と中空鋼管1とを強固に接合することができる。拡管により結合座面3の平坦部5の肉厚は薄くなっているため、スポット溶接は容易である。また両端に屈曲ビード部4を残した形状としたので、負荷を受けたときにも押し潰しの付け根部6が変形時のヒンジとなることがない。この押し潰しの付け根部6は、図3に示されるように平坦部5の管軸方向の終端部のうち、肉厚tの2倍幅の部分を指す。従来はこの部分がヒンジとなって折れ曲がってしまい、相手部材と中空鋼管1との間の荷重伝達特性が低下していたのに対し、本願発明では実施例のデータに示すように、荷重伝達特性が向上した。
【0024】
また中空鋼管1として溶融亜鉛めっき鋼管を使用し、押し潰し後に焼入れ加工を行なえば、めっき層が溶融凝固して上下の平坦部5が全面結合する。これにより荷重伝達特性を更に向上させることができる。なおこの効果を得るためには、潰し後の上下の平坦部5の間隙を0.1mm以下とすることが望ましい。また上下板を密着可能なめっき目付量m(g/m)は、100g/m≦m≦700g/mである。めっき目付量mがこの範囲より少ないと密着効果が低下し、この範囲を超えても密着効果の増加は認められない。
以下に本発明の実施例を示す。
【実施例】
【0025】
自動車のドアインパクトビームとしてごく一般的な寸法である外径31.8mm、肉厚1.6mmの中空鋼管を用い、本発明の効果を確認した。その材質は、一様伸び(U‐EL)15%、穴広げ率(λ)が40%のものである。この鋼管は焼入れ後の強度が1500MPa級のものであり、スポット溶接のスポット間距離は20mmとした。
【0026】
図4に示すように、実施例品は、屈曲ビード部を残した結合座面を中空鋼管の長手方向の上下両端に形成し、スポット2打点で試験装置のフレームに固定したもので、その中央部を変位制御可能な先端100Rのポンチで押圧し、ポンチのストロークと荷重との関係を測定した。そのビード高さBhとビード幅Bwはともに3tとした。さらに溶融亜鉛めっき層により上下の平坦部を全面密着させたものについても、同様に測定を行った。
【0027】
従来品は図5に示すように、中空鋼管の両端部にブラケットを隅肉溶接したものを、スポット2打点で試験装置のフレームに固定し、同様にその中央部を変位制御可能な先端100Rのポンチで押圧し、ポンチのストロークと荷重との関係を測定した。
【0028】
その結果は図6のグラフに示す通りであり、実施例品は従来品に比較して、同一ストロークを与えたときの荷重が25〜35%向上した。さらにこの実施例品にめっきによる上下密着効果を付与したものは、従来品に比較して、同一ストロークを与えたときの荷重が20〜40%向上した。
【0029】
また実施例品は何れも、押し潰しの付け根部における歪が少なく、ヒンジとなって折れ曲がりにくいことを、応力解析によって確認した。
【0030】
本発明は自動車のドアインパクトビームへの適用に特に適したものであるが、必ずしもこれに限定されるものではなく、中空鋼管を相手部材と強固に接合したい自動車構造用途に広く適用できるものである。
【符号の説明】
【0031】
1 中空鋼管
2 拡管部
3 結合座面
4 屈曲ビード部
5 平坦部
6 押し潰しの付け根部
図1
図2
図3
図4
図5
図6