(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、ワイヤー構造においては、ループ部の最小径は、所定の基準径以上に確保される必要がある。よって、上記特許文献1に記載のワイヤー構造では、支持部材がワイヤーに対して相対変位可能な距離、すなわち衝撃エネルギーのうち摩擦によって吸収可能なエネルギー量に制限がある。
【0006】
本発明の目的は、摩擦によって吸収可能なエネルギー量の制限を緩和可能なエネルギー吸収ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段として、本発明のエネルギー吸収ユニットは、物体の落下時または衝突時に発生するエネルギーを吸収するエネルギー吸収ユニットであって、長尺部材と、前記長尺部材に摺動自在に取り付けられた中間部材であって、当該中間部材と長尺部材とが相対変位する時に当該長尺部材の外周面に接触して摩擦を生じさせる摩擦発生部を有する中間部材と、前記長尺部材の両端部のうちのいずれか一方の端部に配置され、前記中間部材の長尺部材に対する相対的な移動を制限する移動制限手段と、を備え、前記長尺部材または前記中間部材の少なくとも一方は、前記物体又は当該物体からの荷重を受ける荷重受け部材のいずれかに接触可能、又は前記荷重受け部材に固定可能であることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、中間部材は、長尺部材に沿って相対的に摺動するときに摩擦発生部と長尺部材との間で摩擦力が生じる。したがって、長尺部材または中間部材の少なくとも一方が、物体の落下時または衝突時などにおいて物体からの荷重を受けたときに、中間部材と長尺部材とが相対的に変位してこれらの間で摩擦を生じさせることにより、物体の落下時または衝突時に発生するエネルギーを吸収することが可能である。中間部材の長尺部材に対する相対的な移動を制限する移動制限手段は、長尺部材の端部に配置されているので、長尺部材の長さの範囲で中間部材は摺動可能であるので、エネルギー吸収が制限されない。よって、摩擦によって吸収可能なエネルギー量の制限を緩和することが可能である。
【0009】
前記長尺部材の縦弾性係数は、100GPa以上であるのが好ましい。この場合、中間部材の摺動時に生じる摩擦荷重が安定し、想定したエネルギー吸収能力を発揮できる。
【0010】
また、前記長尺部材は、棒状体であるのが好ましい。この場合、長尺部材は、引張および圧縮の両方に抵抗可能なので、物体の落下時または衝突時に長尺部材が長手方向に圧縮荷重を受ける配置でも、引張荷重を受ける配置でも使用できる。
【0011】
前記長尺部材は、単線、あるいは線材または複数の素線が撚り合わされたケーブルであってもよい。かかる構成によれば、この場合、棒状体と比較して設置や輸送が容易である。
【0012】
本発明の落下防止装置は、物体の落下時に発生するエネルギーを吸収するエネルギー吸収ユニットであり、長尺部材と、前記長尺部材に摺動自在に取り付けられた中間部材であって、当該中間部材と長尺部材とが相対変位する時に当該長尺部材の外周面に接触して摩擦を生じさせる摩擦発生部を有する中間部材と、前記長尺部材の両端部のうちのいずれか一方の端部に配置され、前記中間部材の長尺部材に対する相対的な移動を制限する移動制限手段とを備えたエネルギー吸収ユニットと、前記長尺部材または前記中間部材の少なくとも一方に接続された線状部材と、を備えており、前記線状部材は、前記物体又は当該物体からの荷重を受ける荷重受け部材のいずれかに接触可能であり、又は前記荷重受け部材に固定可能であることを特徴とする。
【0013】
かかる構成によれば、エネルギー吸収ユニットの長尺部材または中間部材の少なくとも一方が、物体の落下時において線状部材を介して物体からの荷重を受けたときに、中間部材と長尺部材とが相対的に変位してこれらの間で摩擦を生じさせることにより、物体の落下時に発生するエネルギーを吸収することが可能である。中間部材の長尺部材に対する相対的な移動を制限する移動制限手段は、長尺部材の端部に配置されているので、長尺部材の長さの範囲で中間部材は摺動可能であるので、エネルギー吸収が制限されない。よって、摩擦によって吸収可能なエネルギー量の制限を緩和することが可能である。
【0014】
しかも、物体の落下時のエネルギーはエネルギー吸収ユニットによって専ら吸収されるので、線状部材は落下時に発生するエネルギーを考慮せずに自由に設計することが可能である。
【0015】
また、前記線状部材を、前記中間部材または前記長尺部材の少なくとも一方に着脱自在に連結する固定部材をさらに備えているのが好ましい。かかる構成によれば、線状部材を設置した後に、固定部材を介してエネルギー吸収ユニットを容易に接続することが可能である。また、線状部材が設置された状態で、エネルギー吸収ユニットのみを容易に交換することも可能である。
【0016】
前記固定部材は、筒状体であり、前記長尺部材の一部が当該固定部材の内部に挿入された状態で、前記中間部材と前記線状部材とを接続してもよい。かかる構成によれば、前記長尺部材の一部を筒状体である固定部材の内部に挿入することによって、長尺部材が固定部材に干渉することなく中間部材と線状部材とを容易に接続することが可能である。
【0017】
また、前記線状部材の縦弾性係数は、前記長尺部材の縦弾性係数よりも低いのが好ましい。この場合、線状部材として柔らかいロープなどの部材を用いることが可能になり、線状部材の設置や搬送が容易になる。
【0018】
また、前記線状部材は、単線、あるいは線材または複数の素線が撚り合わされたケーブルであるのが好ましい。かかる構成によれば、線状部材は曲げやすく、取付・運搬等が容易である。
【0019】
また、前記線状部材の両端部には、前記エネルギー吸収ユニットがそれぞれ配置されていてもよい。かかる構成によれば、ケーブルの両端部において、それぞれエネルギー吸収ユニットがエネルギー吸収を行うことにより、大きなエネルギーを吸収することが可能である。
【0020】
本発明の落下防止構造は、物体の落下時に発生するエネルギーを吸収するエネルギー吸収ユニットであり、長尺部材と、前記長尺部材に摺動自在に取り付けられた中間部材であって、当該中間部材と長尺部材とが相対変位する時に当該長尺部材の外周面に接触して摩擦を生じさせる摩擦発生部を有する中間部材と、前記長尺部材の両端部のうちのいずれか一方の端部に配置され、前記中間部材の長尺部材に対する相対的な移動を制限する移動制限手段とをそれぞれ備えた複数のエネルギー吸収ユニットと、前記長尺部材または前記中間部材の少なくとも一方に接続された複数の線状部材と、前記複数の線状部材によって支持され、前記物体の落下時において当該物体からの荷重を受ける面状部材と、を備えていることを特徴とする。かかる構成によれば、前記落下防止装置の効果に加えて、さらに、面状部材によって広範囲において落下する物体を受けることが可能である。
【0021】
さらに、本発明のエネルギー吸収装置は、物体の落下または衝突時に発生するエネルギーを吸収するエネルギー吸収ユニットであり、長尺部材と、前記長尺部材に摺動自在に取り付けられた中間部材であって、当該中間部材と長尺部材とが相対変位する時に当該長尺部材の外周面に接触して摩擦を生じさせる摩擦発生部を有する中間部材と、前記長尺部材の両端部のうちのいずれか一方の端部に配置され、前記中間部材の長尺部材に対する相対的な移動を制限する移動制限手段とを備えたエネルギー吸収ユニットと、前記長尺部材または前記中間部材の少なくとも一方に接続され、前記物体の落下時または衝突時に当該物体からの荷重を受ける荷重受け部材とを備えていることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、長尺部材または中間部材の少なくとも一方が、物体の落下時または衝突時などにおいて荷重受け部材を介して物体からの荷重を受けたときに、中間部材と長尺部材とが相対的に変位してこれらの間で摩擦を生じさせることにより、物体の落下時または衝突時に発生するエネルギーを吸収することが可能である。中間部材の長尺部材に対する相対的な移動を制限する移動制限手段は、長尺部材の端部に配置されているので、長尺部材の長さの範囲で中間部材は摺動可能であるので、エネルギー吸収が制限されない。よって、摩擦によって吸収可能なエネルギー量の制限を緩和することが可能である。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によれば、摩擦によって吸収可能なエネルギー量の制限を緩和可能なエネルギー吸収ユニットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態についてさらに詳細に説明する。
【0026】
図1に示されるエネルギー吸収ユニット1は、長尺部材2と、当該長尺部材2の外周面に配置された中間部材3と、長尺部材2の一端に固定された移動制限部材4と、長尺部材2の他端に固定された連結部5とを備えている。中間部材と長尺部材2とが互いに接触しながら相対変位するときの摩擦を利用して、物体の落下時または衝突時に発生する運動エネルギーを吸収する。
【0027】
長尺部材2は、その長手方向への中間部材3の相対的な変位を許容する長さを有する長尺な部材である。長尺部材2としては、例えば、棒鋼などの棒状体などが用いられるが、単線、あるいは線材または複数の素線が撚り合わされたケーブル、またはワイヤロープなども用いることが可能である。このうち、とくに、長尺部材2が棒状体であれば、外部から引張荷重および圧縮荷重のいずれを受けても抵抗できるので好ましい。
【0028】
長尺部材2の縦弾性係数は、100GPa以上であれば、中間部材3の摺動時に生じる摩擦荷重が安定し、想定したエネルギー吸収能力を発揮できるので好ましい。長尺部材2の縦弾性係数は、100GPa未満であれば、中間部材3の摺動が安定しないので、摺動時の安定性の観点から上記のように100GPa以上であるのが好ましい。
【0029】
中間部材3は、長尺部材2に摺動自在に取り付けられている。中間部材3は、長尺部材2との間で相対変位が生じたときに摩擦を発生する。中間部材3は、例えば円筒状の部材からなり、その内周面において当該中間部材3の摺動時に当該長尺部材2の外周面に接触して摩擦を生じさせる摩擦発生部3aを有する。
【0030】
中間部材3は、長尺部材2が貫通された状態で当該中間部材3とともに中間部材3の外径よりも若干小さいダイスを通して押出加工されたり、長尺部材2が貫通された状態でプレス加工されたりすることにより、中間部材3の摩擦発生部3aは長尺部材2の外周面に押圧される。ただし、中間部材3又は長尺部材2に対して長尺部材2の長手方向に沿って
図1の左右いずれかの方向に過大な力が作用したら中間部材3と長尺部材2との間で相対変位する。
【0031】
移動制限部材4は、中間部材3の長尺部材2に対する相対的な移動を制限する手段であり、例えば、長尺部材2の一端にカシメなどによって固定された端末金物などである。移動制限部材4は、長尺部材2の端部に配置されているので、長尺部材2の長手方向の範囲で中間部材3が変位可能であり、エネルギー吸収が制限されない。
【0032】
連結部5は、長尺部材2の他端、すなわち、長尺部材2における移動制限部材4と反対側の端部に固定された端末金物などであり、長尺部材2と同軸線上に伸びるおねじ部5aを有するが、めねじ部を有してもよい。
【0033】
上記のように構成されたエネルギー吸収ユニット1は、
図2〜3に示されるように、カプラ10などの固定部材によって落下防止ケーブル6と接続されて使用される。このように、エネルギー吸収ユニット1と、落下防止ケーブル6と、カプラ10(固定部材)とを組み合わせることによって、
図3に示される落下防止装置11が構成される。
【0034】
落下防止ケーブル6は、長尺部材2または中間部材3の少なくとも一方(すなわち、いずれか一方または両方)に固定され、
図3の例では長尺部材2の端部に固定された連結部5に対して、カプラ10を介して接続されている。具体的には、落下防止ケーブル6は、ケーブル本体7と、ケーブル本体7の一方の端部に固定された第1接続部8と、ケーブル本体7の他方の端部に固定された第2接続部9とを有する。第1接続部8は、おねじ部8aを有する端末金物である。なお、
図3に示される第2接続部9は、第1接続部8と同様の構成を有しているが、他の形状であってもよい。第2接続部9は、構造物に固定された定着面に固定される。
【0035】
エネルギー吸収ユニット1を取り付ける対象物は、必要な強度と取付・運搬等を容易とするものであれば良い。
【0036】
カプラ10は、例えば円筒状の部材からなり、その内周面にはめねじ部10aが形成されている。カプラ10のめねじ部10aに対して両側から連結部5のおねじ部5aおよび第1接続部8のおねじ部8aが螺合することにより、エネルギー吸収ユニット1の長尺部材2と落下防止ケーブル6とがカプラ10を介して着脱自在に連結される。なお、カプラ10以外にも、落下防止ケーブル6を長尺部材2に着脱自在に連結することが可能な部材(例えば一対のブラケットなど)であれば、本発明の固定部材として用いることが可能である。
【0037】
落下防止ケーブル6は、例えば、
図6のネット13に取り付けられ落下する物体からの荷重を受ける機能を有する。なお、落下防止ケーブル6は、物体が落下したときにその物体を受けるネット13が下方に垂れ下がったときに、ネット13に接触できるように配置してもよい。さらに、落下防止ケーブル6は、落下する物体(例えば
図7のパネルCなど)に対して直接に接触できるように取り付けてもよい。この落下防止装置11では、物体の落下するエネルギーは、エネルギー吸収ユニット1で吸収するので、落下防止ケーブル6の縦弾性係数は、長尺部材2の縦弾性係数よりも低く設定されている。そのため、落下防止ケーブル6としては、長尺部材2よりも柔らかいロープなどの部材を用いることが可能になる。落下防止ケーブル6としては、例えば、曲げやすく、取付・運搬等が容易な、単線、あるいは線材または複数の素線が撚り合わされたケーブルなどが用いられるが、ワイヤロープなどであってもよい。
【0038】
このような落下防止装置11は、例えば、
図4に示されるように、構造物などに固定された定着面Bに取り付けられる。具体的には、エネルギー吸収ユニット1の長尺部材2が定着面Bを貫通し、中間部材3は定着面Bに接触した状態で配置される。落下防止ケーブル6が落下する物体(例えば
図7のパネルC)からの荷重をケーブル本体7に受けて矢印A方向に引っ張られた場合には、落下防止ケーブル6とともに長尺部材2も矢印A方向に引っ張られる。このとき、中間部材3が定着面Bに当接して移動しない状態で、長尺部材2と中間部材3とが相対的に変位することにより、これらの間で摩擦が発生することにより、落下する物体の運動エネルギーを熱エネルギーに変換してエネルギー吸収ユニット1によってエネルギーを吸収することが可能である。なお、中間部材3は、落下防止ケーブル6が荷重を受ける前の状態では、定着面Bに接触していなくてもよい。
【0039】
上記のように構成された落下防止装置11を用いて、例えば、
図6〜7に示されるように、複数の落下防止装置11と、落下する物体を受けるネット13(面状部材)とを組み合わせた落下防止構造15を構成することが可能である。
【0040】
具体的には、
図6〜7に示される落下防止構造15は、複数の落下防止装置11と、ネット13と、フレーム14とを備えている。
【0041】
フレーム14は、矩形の枠体からなり、ビルなどの構造物の天井付近において天井面に沿って水平な状態で構造物の柱または梁などに安定した状態で固定されている。フレーム14は、互いに距離をあけて配置された一対の第1板14aおよび第2板14bを有する。
【0042】
複数の落下防止装置11は、これら第1板14aおよび第2板14bの長手方向に沿って並んで配置されている。各落下防止装置11は、第1板14aおよび第2板14bによって両端支持されている。具体的には、各落下防止装置11のエネルギー吸収ユニット1の長尺部材2が第1板14aを貫通し、中間部材3が第1板14aに対してフレーム14の外側から当接している。一方、落下防止ケーブル6は、第2板14bを貫通し、第2接続部9が第2板14bに対してフレーム14の外側から当接している。これにより、第2接続部9は、第2板14bによって落下防止ケーブル6の延びる方向への移動が規制される。
【0043】
ネット13は、複数の落下防止ケーブル6によって支持され、天井を構成するパネルCなどの物体の落下時において当該パネルCからの荷重を受けることが可能な面状部材である。ネット13は、複数の落下防止ケーブル6によって支持されていればよく、複数の落下防止ケーブル6の上にネット13が載っている状態でもよいし、落下防止ケーブル6とネット13とがブラケットなどを介して連結されていてもよい。
【0044】
面状部材としては、ネット13以外にもシート状または板状の部材であってもよい。
【0045】
上記のように構成された落下防止構造15では、
図7に示されるように、例えば、ネット13の上に天井のパネルCが落下したときに、ネット13はパネルCを受ける。このとき、落下防止ケーブル6のケーブル本体7は、第2接続部9によってフレーム14の第2板14bによって移動が規制された状態で、下方向Dにたわむ。これにより、落下防止ケーブル6に発生した張力がカプラ10および連結部5を介してエネルギー吸収ユニット1の長尺部材2に伝達される。長尺部材2は、落下防止ケーブル6から受けた張力によってフレーム14の第1板14aに押し込まれる方向Aに移動する。そのとき、長尺部材2と中間部材3との相対変位によってこれらの間に摩擦が発生する。その結果、落下するパネルCの運動エネルギーをエネルギー吸収ユニット1では摩擦による熱エネルギーとして吸収することが可能である。よって、ネット13や落下防止ケーブル6に対する衝撃的な荷重は軽減され、これらネット13や落下防止ケーブル6の劣化や破損を防止することが可能である。
【0046】
また、長尺部材2が第1板14aに押し込まれる方向Aに過度に移動しても、長尺部材2の端部に固定された移動制限部材4が中間部材3に当接することにより、長尺部材2が第1板14aから脱落することを防止することが可能である。
【0047】
本実施形態のエネルギー吸収ユニット1では、中間部材3は、長尺部材2に沿って相対的に摺動するときに摩擦発生部3aと長尺部材2との間で摩擦力が生じる。したがって、長尺部材2が、パネルCなどの物体の落下時又は衝突時においてパネルCからの荷重をネット13および落下防止ケーブル6を介して受けたときに、中間部材3と長尺部材2とが相対的に変位してこれらの間で摩擦を生じさせることにより、パネルCの落下時又は衝突時に発生するエネルギーを吸収することが可能である。中間部材3の長尺部材2に対する相対的な移動を制限する移動制限部材4は、長尺部材2の端部に配置されているので、長尺部材2の長さの範囲で中間部材3は摺動可能であるので、エネルギー吸収が制限されない。よって、摩擦によって吸収可能なエネルギー量の制限を緩和することが可能である。
【0048】
しかも、上記のエネルギー吸収ユニット1では、長尺部材2の縦弾性係数が100GPa以上であるので、中間部材3の摺動時に生じる摩擦荷重が安定し、想定したエネルギー吸収能力を発揮できる。その結果、パネルCなどの物体の落下時に発生するエネルギーを中間部材3と長尺部材2との間で発生する摩擦エネルギーに円滑に変換しながら吸収することが可能である。
【0049】
上記の長尺部材2が棒鋼などの棒状体である場合、長尺部材2は、引張および圧縮の両方に抵抗可能なので、物体の落下時または衝突時に長尺部材2が長手方向に圧縮荷重を受ける配置でも、引張荷重を受ける配置でも使用できる。
【0050】
なお、長尺部材2は、単線、あるいは線材または複数の素線が撚り合わされたケーブルであってもよい。この場合、棒状体と比較して設置や輸送が容易である。
【0051】
本実施形態の落下防止装置11では、エネルギー吸収ユニット1の長尺部材2が、パネルCなどの物体の落下時において落下防止ケーブル6を介して物体からの荷重を受けたときに、中間部材3と長尺部材2とが相対的に変位してこれらの間で摩擦を生じさせることにより、物体の落下時に発生するエネルギーを吸収することが可能である。中間部材3の長尺部材2に対する相対的な移動を制限する移動制限部材4は、長尺部材2の端部に配置されているので、長尺部材2の長さの範囲で中間部材3は摺動可能であるので、エネルギー吸収が制限されない。よって、摩擦によって吸収可能なエネルギー量の制限を緩和することが可能である。
【0052】
しかも、物体の落下時のエネルギーはエネルギー吸収ユニット1によって専ら吸収されるので、落下防止ケーブル6は落下時に発生するエネルギーを考慮せずに自由に設計することが可能である。なお、落下防止ケーブル6は、物体の落下時に若干伸びることによってエネルギーを若干吸収することが可能であるので、エネルギー吸収ユニット1のエネルギー吸収機能を補助することも可能である。
【0053】
本実施形態の落下防止装置11は、落下防止ケーブル6と長尺部材2とを着脱自在に連結するカプラ10を備えているので、落下防止ケーブル6をフレーム14に設置した後に、カプラ10を介してエネルギー吸収ユニット1を容易に接続することが可能である。また、落下防止ケーブル6が設置された状態で、エネルギー吸収ユニット1のみを容易に交換することも可能である。
【0054】
本実施形態の落下防止装置11では、落下防止ケーブル6(具体的には、ケーブル本体7)の縦弾性係数は、長尺部材2の縦弾性係数よりも低くなるように設定されている。この場合、落下防止ケーブル6として柔らかいロープなどの部材を用いることが可能になり、落下防止ケーブル6の設置や搬送が容易になる。
【0055】
本実施形態の落下防止装置11では、落下防止ケーブル6は、単線、あるいは線材または複数の素線が撚り合わされたケーブルであるので、落下防止ケーブル6は曲げやすく、取付・運搬等が容易である。
【0056】
本実施形態の落下防止構造15では、上記の落下防止装置11の効果に加えて、さらに、ネット13によって、広範囲において落下するパネルCなどの物体を確実に受けることが可能である。
【0057】
(変形例)
上記の実施形態の落下防止装置11では、
図3に示されるように、落下防止ケーブル6の一端にエネルギー吸収ユニット1が接続されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、エネルギー吸収ユニット1を落下防止ケーブル6の両端部に接続してもよい。その場合、落下防止ケーブル6の両端部において、それぞれエネルギー吸収ユニット1がエネルギー吸収を行うことにより、大きなエネルギーを吸収することが可能である。
【0058】
また、上記の実施形態の落下防止装置11では、落下防止ケーブル6がカプラ10を介してエネルギー吸収ユニット1の長尺部材2に連結されているが、本発明はこれに限定されるものではない。
図8〜10に示される変形例のように、落下防止ケーブル6がカプラ10を介してエネルギー吸収ユニット21の中間部材3に連結されるようにしてもよい。
【0059】
このような変形例におけるエネルギー吸収ユニット21は、長尺部材2と、長尺部材2の外周面に摺動自在に取り付けられ、かつ、摩擦発生面3aを有する中間部材3と、長尺部材2の一端に固定された移動制限部材25と、長尺部材2他端に形成されたおねじ部24と、中間部材3をカプラ10に接続するための接続部26とを有する。
【0060】
接続部26は、筒状の部材からなり、中間部材3に対して同軸上に連結されて当該中間部材3と一体になって移動可能である。接続部26の外周面には、おねじが形成されている。
【0061】
カプラ10は、長尺な筒状体であり、当該カプラ10の内周面の両端付近には、めねじ部10aがそれぞれ形成されている。移動制限部材25およびその近傍の長尺部材2の部分は、
図10のように当該カプラ10の内部に挿入されている。その状態で、中間部材3に連結された接続部26は、カプラ10の一方のめねじ部10aに接続されている。落下防止ケーブル6の第1接続部8のおねじ部8aは、カプラ10の他方のめねじ部10aに接続されている。これにより、中間部材3と落下防止ケーブル6とがカプラを10および接続部26を介して接続された落下防止装置20が構成される。この変形例では、中間部材3は、接続部26を介してカプラ10に接続されているので、カプラ10と一体になって長尺部材2対して相対変位する。
【0062】
長尺部材2の他端に形成されたおねじ部24は、定着面Bを貫通してその先端側からナット27が締結されている。よって、長尺部材2は、定着面Bに固定されることによって軸方向の移動が規制される。
【0063】
この
図8〜10に示される変形例では、
図10の状態から落下防止ケーブル6が落下する物体からの荷重を受けて矢印A方向に引っ張られた場合には、落下防止ケーブル6とともにカプラ10および中間部材3も矢印A方向に引っ張られる。すなわち、
図5のように移動制限部材4が中間部材3に向かって移動する場合と反対に、中間部材3が移動制限部材25に向かって移動する。このとき、長尺部材2と中間部材3とが相対的に変位することにより、これらの間で摩擦が発生することにより、落下する物体の運動エネルギーを熱エネルギーに変換してエネルギー吸収ユニット21によってエネルギーを吸収することが可能である。
【0064】
このような
図10〜11に示される落下防止装置20では、長尺部材2の一部を筒状体であるカプラ10の内部に挿入することによって、長尺部材2がカプラ10に干渉することなく中間部材3と落下防止ケーブル6とを容易に接続することが可能である。
【0065】
また、落下防止ケーブル6が過度に引っ張られても移動制限部材25が接続部26に当接することにより、長尺部材2がカプラ10および中間部材3から完全に抜け出るおそれがなくなる。
【0066】
図1〜3におけるエネルギー吸収ユニット1では、一体の中間部材3が長尺部材2の外周面に取り付けられているが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の他の変形例として、
図12〜13に示されるエネルギー吸収ユニット31のように、2つの要素32、33からなる中間部材34を用いてもよい。エネルギー吸収ユニット31のその他の構成は、
図1〜3に示されるエネルギー吸収ユニット1と共通しているので各構成要素の説明を省略する。
【0067】
中間部材34の2個の要素32、33のうちの定着面Bに近い要素32は、
図13に示されるように、定着面Bに当接した状態で配置され、要素33は、要素32から離間して配置されている。
【0068】
このようなエネルギー吸収ユニット31を用いた場合、エネルギー吸収ユニット31が物体の落下時に落下防止ケーブル6から矢印A方向の荷重を受けたときには、まず、長尺部材2および中間部材34の一方の要素33は一体になって矢印A方向へ移動する。このとき長尺部材2が定着面Bに位置する要素32に対して相対変位することにより、長尺部材2と要素32との間の摩擦により物体の落下におけるエネルギーを吸収する。ついで、長尺部材2の矢印A方向への移動が進み、要素32と要素33とが当接したときには要素33は要素32に移動が規制される。その後は、長尺部材2と中間部材34の2個の要素32、33とのそれぞれの間で摩擦が発生することにより、エネルギー吸収ユニット31のエネルギー吸収機能が増大し、物体の落下におけるエネルギーをより多く吸収することが可能である。このようにすれば、エネルギー吸収量を多段式に増大させることが可能になる。なお、中間部材34の要素の個数は、2個に限定されるものではなく、3個以上であってもよい。
【0069】
また、本発明の他の変形例として、物体の衝突時に発生するエネルギーを吸収するために、
図16〜17に示されるように、複数のエネルギー吸収ユニット41と、物体の荷重を受ける荷重受け部材48とを組み合わせて、
図16〜17に示されるエネルギー吸収装置40を構成してもよい。すなわち、このエネルギー吸収装置40は、複数(
図16では4本)のエネルギー吸収ユニット41と、複数のエネルギー吸収ユニット41を支持する支持板47と、荷重受け部材48と、を備えている。
【0070】
エネルギー吸収ユニット41は、
図18〜20に示されるように、長尺部材2と、当該長尺部材2の外周面に配置された中間部材3と、長尺部材2の両端部にそれぞれ形成されたおねじ部44、45とを備えている。
【0071】
中間部材3は、円筒状の部材からなり、その内周面において当該中間部材3と長尺部材2とが相対変位する時に当該長尺部材2の外周面に接触して摩擦を生じさせる摩擦発生部3aを有する。
【0072】
長尺部材2は、圧縮荷重に耐えることが可能な棒状体であり、棒鋼などで製造される。
【0073】
支持板47は、構造物又は地面に定着した柱などに固定される。
【0074】
荷重受け部材48は、広い範囲で物体を受けることができる形状を有する板状の部材である。荷重受け部材48は、物体から受ける衝撃的な荷重に耐えることが可能な強度を有し、鋼板などによって製造される。
【0075】
長尺部材2の一方の端部に形成されたおねじ部45は、荷重受け部材48に形成されためねじ部48aに螺合し、これにより、長尺部材2と荷重受け部材48とが結合される。
【0076】
長尺部材2の他方の端部に形成されたおねじ部44は、支持板47に形成された貫通孔47aを貫通し、貫通した部位にナット46が締結されている。これにより、中間部材3は、物体の衝突前において支持板3に当接した状態を維持している。
【0077】
図16〜17に示されるエネルギー吸収装置40では、長尺部材2が、物体の衝突時において荷重受け部材48を介して物体から矢印E方向の荷重を受けたときに、
図20に示されるように中間部材3と長尺部材2とが相対的に変位してこれらの間で摩擦を生じさせることにより、物体の衝突時に発生するエネルギーを吸収することが可能である。
【0078】
長尺部材2の端部には、おねじ部45が配置され、そのおねじ部45に結合した荷重受け部材48が中間部材3の長尺部材2に対する相対的な移動を制限する。すなわち、おねじ部45がそれに結合した荷重受け部材48を用いて中間部材3の移動を制限する移動制限手段として機能する。そのため、長尺部材2の長さの範囲で中間部材3は摺動可能であるので、エネルギー吸収が制限されない。よって、摩擦によって吸収可能なエネルギー量の制限を緩和することが可能である。
【0079】
上記のようなエネルギー吸収装置40を用いれば、自動車又は津波の漂流物などの物体の衝突時に発生するエネルギーを吸収することが可能である。あるいは、エネルギー吸収装置40を荷重受け部材48を上に向くように設置すれば、エレベータなどの物体が落下した時に発生するエネルギーも吸収することが可能である。
【0080】
なお、
図16〜17に示される変形例では、荷重受け部材48が長尺部材2の端部に接続されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、荷重受け部材48を中間部材3に接続するようにしてもよい。その場合、
図9〜11に示されるような長尺のカプラ10などの部材を介して、荷重受け部材48を中間部材3に接続すればよい。
【0081】
本発明のさらに他の変形例として、
図21〜22に示されるように、エネルギー吸収ユニット51が長尺部材として非常に長尺のケーブル52を備えた構成であってもよい。このエネルギー吸収ユニット51は、橋梁などの構造物57に取り付けられた被支持物、例えば支柱56などが当該構造物57から脱落した際に支柱56の落下時のエネルギーを吸収しながら当該支柱56を受けるものである。
【0082】
具体的には、エネルギー吸収ユニット51は、長尺部材であるケーブル52と、ケーブル52の一端と他端との間の部位に設けられた中間部材53と、ケーブル52の一端に設けられた第一定着部材55と、ケーブル52の他端に設けられた第二定着部材54と、を備えている。このエネルギー吸収ユニット51は、第一取付部58L及び第二取付部58Rを有する橋梁などの構造物57に設置される。具体的に、第一定着部材55が第一取付部58Lに固定され、第二定着部材54が第二取付部58Rに固定されることにより構造物57に設置される。
図21に示されるように、エネルギー吸収ユニット51は、構造物57のうち第一取付部58Lと第二取付部58Rとの間の部位に固定された被支持物である支柱56を貫通した状態で構造物57に固定されている。
【0083】
第一取付部58Lは、構造物57の本体57Aの側面にボルト等の締結部材によって固定される平板状の第一基部59Lと、この第一基部59Lから当該第一基部59Lと直交する方向に突出する平板状の第一突出部60Lとを有する。第一突出部60Lには、ケーブル52の挿通を許容するとともに第一定着部材55の挿通を阻止する大きさの穴が設けられている。
【0084】
第二取付部58Rは、構造物57の本体57Aの側面にボルト等の締結部材によって固定される平板状の第二基部59Rと、この第二基部59Rから当該第二基部59Rと直交する方向に突出する平板状の第二突出部60Rとを有する。第二突出部60Rには、ケーブル52の挿通を許容するとともに中間部材53の挿通を阻止する大きさの穴が設けられている。
【0085】
ケーブル52は、複数の素線61(
図23を参照)がより合わされることによって形成されている。この例では、ケーブル52として、PC鋼より線が用いられている。ただし、ケーブル52として、ストランドロープ等が用いられてもよい。ケーブル52の径は、支柱56、第一突出部60L及び第二突出部60Rに設けられたそれぞれの穴の径よりも小さく設定される。
【0086】
第一定着部材55は、ケーブル52に対して相対変位しないように当該ケーブル52の一端に固定されている。第一定着部材55は、第一取付部58Lに固定可能な形状を有する。この例では、第一定着部材55は、第一突出部60Lに形成された穴の径よりも大きな外径を有するとともに、第一突出部60Lに対して外側(第二突出部60Rと反対側)から接触可能な筒状のケーシングを有する。
【0087】
第二定着部材54は、ケーブル52に対して相対変位しないように当該ケーブル52の他端に固定されている。この例では、第二定着部材54は、筒状のケーシングを有する。
【0088】
中間部材53は、ケーブル52を挿通可能で、かつ第二取付部58Rに固定可能な形状を有する。この例では、中間部材53は、第二突出部60Rに形成された穴の径よりも大きな外径を有するとともに、第二突出部60Rに対して外側(第一突出部60Lと反対側)から当接する当接面53aを有する筒状のケーシングを有する。
【0089】
第一定着部材55が第一取付部58Lに固定されるとともに中間部材53が第二取付部58Rに固定された状態において、第二突出部60Rから中間部材53に対して当該中間部材53がケーブル52に沿って第二定着部材54に向かう向きの荷重が作用したとき、中間部材53は、当該中間部材53とケーブル52との間に摩擦を生じさせながら当該中間部材53が第二定着部材54に接触するまでケーブル52に対して相対変位可能にケーブル52に固定されている。具体的には、中間部材53は、当該中間部材53の内周面が複数の素線61のうち径方向の最も外側に位置する複数の最外素線61a(
図23を参照)の各々の外周面の一部に沿うように、当該中間部材53の外側から圧縮されることによってケーブル52に固定されている。この中間部材53の圧縮は、例えば、押出加工、具体的には当該中間部材53の外径よりも一回り小さな内径を有する図略のダイスなどの筒状の部材の内側に当該中間部材53を挿通させて中間部材53をケーブル52の外周面に押圧することにより行われる。このため、
図23に示されるように、中間部材53の内周面は、当該中間部材53の内側に位置する複数の最外素線61aの外周面に沿うように変形し、複数の最外素線61aの各々の外周面の一部と面接触している。
【0090】
これまで説明してきたように、エネルギー吸収ユニット51は、第一定着部材55が第一取付部58Lに固定されるとともに中間部材53が第二取付部58Rに固定され、例えば支柱56が当該支柱56を貫通するケーブル52に支持された状態(
図21に示される状態)で構造物57に設置される。この状態から支柱56が落下すると、支柱56の荷重はケーブル52に対して下方にかかる。このとき、第一定着部材55が第一取付部58Lに固定され、中間部材53が第二取付部58Rに固定されていることから、ケーブル52のうち第一定着部材55と中間部材53との間の部位には引張荷重が作用する。これにより、第二取付部58Rから中間部材53に対して当該中間部材53がケーブル52に沿って第二定着部材54に向かう向きの荷重が作用する。そうすると、
図22に示されるように、中間部材53は、当該中間部材53とケーブル52との間に摩擦を生じさせながら当該中間部材53が第二定着部材54に接触するまでケーブル52に対して相対変位する。すなわち、第2定着部材54は、中間部材53のケーブルに対する相対変位の移動範囲を制限する移動制限手段として機能する。
【0091】
中間部材53は、当該中間部材53とケーブル52との間に一定の摩擦を生じさせつつケーブル52の軸方向に沿ってケーブル52に対して相対変位する。このとき、支柱56の落下時にケーブル52に加わる衝撃エネルギーの少なくとも一部が前記摩擦によって発生する熱エネルギーとして放散される。よって、エネルギー吸収ユニット51では、中間部材53が第二定着部材54に接触するまで衝撃エネルギーの吸収が可能であるので、摩擦によって吸収可能なエネルギー量の制限が緩和される。
【0092】
上記の
図21〜23の変形例では、中間部材53の内周面が複数の最外素線61aの各々の外周面の一部と面接触しているので、中間部材53が第二定着部材54に向かって(前記滑り方向に沿って)変位するときの当該中間部材53とケーブル52との間に生じる摩擦が大きくなる。よって、前記摩擦によって吸収可能なエネルギー量が大きくなる。
【0093】
上記実施形態では、
図10〜11に示される落下防止装置20のように、エネルギー吸収ユニット21の長尺部材2または中間部材3のいずれか一方(
図10〜11の場合は中間部材3)が、落下する物体の荷重を受ける落下防止ケーブル6に固定されているが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の変形例として、
図24〜25に示されるように、落下防止装置20の落下防止ケーブル6をループ状にして、長尺部材2および中間部材3の両方が、落下防止ケーブル6に固定されているようにしてもよい。すなわち、落下防止ケーブル6は、ケーブル本体7と、その両端の第1接続部8および第2接続部28とを有している。第1接続部8は、円筒状のカプラ10を介して中間部材3に連結されている。一方、第2接続部28は、長尺部材2における移動制限部材25と反対側の端部(
図24の右側の端部)に連結されている。ケーブル本体7は、2本の棒状体29の両方にループ状に掛けられている。棒状体29は、構造物に固定されている。この
図24〜25に示される変形例では、
図24に示される長尺部材2の大部分がカプラ10に収容された初期状態において、落下防止ケーブル6が落下する物体からの荷重を受けて、
図25に示されるように第1接続部8と第2接続部28とが離れる方向に引っ張られた場合には、落下防止ケーブル6とともにカプラ10および中間部材3が
図25の左方向へ引っ張られるとともに長尺部材2が右方向へ引っ張られる。このとき、長尺部材2と中間部材3とが相対的に変位することにより、これらの間で摩擦が発生することにより、落下する物体の運動エネルギーを吸収することが可能である。
【0094】
このような
図24に示されるループ状の落下防止ケーブル6の両端部をエネルギー吸収ユニットの長尺部材2および中間部材3の両方に接続した構造では、例えば、
図24の落下防止ケーブル6のケーブル本体7における棒状体29よりも下方の部分は、物体が衝突または落下した時に物体からの荷重を受けることが可能である。すなわち、落下防止ケーブル6は、荷重受け部材として機能する。したがって、
図24に示される構造は、物体の落下時または衝突時に発生するエネルギーを吸収するエネルギー吸収装置として機能することが可能である。
【0095】
さらに、ケーブル本体7における棒状体29よりも下方の部分によって
図6〜7に示されるネット13などの面状部材が支持されることにより、
図6〜7に示されるようなネット13によって落下物を受けることが可能な落下防止構造を構成することも可能である。
【0096】
(実験例)
つぎに、
図26(a)、(b)に示される本発明の実施形態に係るエネルギー吸収ユニット61について、ウエイトWを落下したときのエネルギー吸収性能を調べた。このエネルギー吸収ユニット61は、長尺部材である線材62と、線材62の外周面に取り付けられた中間部材63と、線材62の上端に固定された移動制限部材64と、線材62の下端に固定された端末金物65とを備える。移動制限部材64は、中間部材63の線材62に対する相対的な移動を制限する部材である。中間部材63は、円筒状の部材であり、その内周面において線材62と接触して摩擦を発生する摩擦発生部を有する。
【0097】
線材62は、構造物に固定された定着部Bを貫通して垂直方向に延びるように配置されている。中間部材63は、定着部Bの上端部B1に当接した状態で所定の高さに静止している。
【0098】
上記のように構成されたエネルギー吸収ユニット61では、ウエイトWが所定の高さHから落下して端末金物65に衝突したときに、線材62は下方へ引っ張られ、中間部材63の内部をすべりながら下方へδだけ変位する。このとき、線材62と中間部材63とのの間で摩擦が発生することによりウエイトWの運動エネルギーの一部が摩擦によって吸収される。
【0099】
このウエイトWの落下実験の結果について、
図27のグラフに示されるように、Iで示される中間部材を有しない比較例、すなわち、線材62の上端が定着部Bに直接固定された場合に線材62における発生荷重の最大値と、IIで示される本発明の実施形態、すなわち、中間部材63を有するエネルギー吸収ユニット61の実施形態における発生荷重の最大値とを比較すれば、Iで示される最大荷重に対してIIで示される最大荷重は1/3以下に低減していることがわかる。
【0100】
ウエイトWが端末金物65に衝突した直後の発生荷重を見た場合、
図28のグラフに示されるように、中間部材を有しない比較例ではIで示される曲線のように短時間に急速に発生荷重が上昇し、一方、中間部材を有する本発明の実施形態ではIIで示される曲線のように発生荷重が低いレベルで長い時間にわたって続くことがわかる。
【0101】
つぎに、
図29の模式図を参照すれば、Iで示される中間部材を有しない比較例では、ウエイトWの運動エネルギーが線材62のひずみエネルギーとして蓄積される。よって、ウエイトWが端末金物65に衝突した直後では、線材62がΔL
1だけ伸びながら発生荷重がP1まで上昇する。すなわち、Iで示される比較例では、ウエイトWの運動エネルギーに等しい線材62のひずみエネルギーは、底辺ΔL
1、高さP1の三角形の面積の大きさに相当する。このIで示される比較例では、ウエイトWが端末金物65に衝突した後に線材62に蓄積されたひずみエネルギーの反発でウエイトWが反発する。
【0102】
一方、IIで示される中間部材63を有する本発明の実施形態では、線材62と中間部材63との摩擦によって、ウエイトWの運動エネルギーの大部分を吸収するので、線材62のひずみエネルギーの蓄積は軽減され、ウエイトWが端末金物65に衝突した後にほとんど跳ね上がらなくなる。すなわち、IIで示される本発明の実施形態では、
図29の模式図を参照すれば、線材62がΔL2だけ伸びて発生荷重がP1よりはるかに低いP2まで上昇したときに線材62が中間部材63に対してすべり出し、その後、線材62と中間部材63との間で発生する摩擦荷重がP2より低い値でスリップ距離ΔSの間維持される。したがって、IIで示される本発明の実施形態では、ウエイトWの運動エネルギーの大部分は、
図29のハッチングで示される範囲のうちスリップ距離ΔSの範囲に示されるように、線材62と中間部材63との摩擦によって吸収されるので、ウエイトWの落下時の衝撃が緩和される。したがって、IIで示される本発明の実施形態では、中間部材63を有していることにより、線材62に発生する荷重を低く抑えることが可能になる。