(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
印画対象のカラー画像データを、互いに重複する重なり領域を含みかつ用紙に転写される複数色のインクのそれぞれについて一致した端部を有する2つの部分画像の画像データに分割するステップと、
前記2つの部分画像が重ねて転写されることによる前記重なり領域での色の変化を打ち消すように前記重なり領域上の異なる複数の位置について予め作成された色変換係数群を用いて、前記カラー画像データの前記重なり領域における色値を変換するステップと、
前記重なり領域上の各位置における印画濃度の補正係数を用いて変換後の前記重なり領域における色値を調整することにより前記2つの部分画像の画像データを補正するステップと、
補正された前記2つの部分画像の画像データに従い前記重なり領域が重なるように前記2つの部分画像を順次転写して印画対象のカラー画像を形成するステップと、
を有することを特徴とする熱転写プリンタの制御方法。
前記変換するステップでは、画像を転写するときの主走査方向に沿って前記重なり領域を複数の部分領域に分割し、前記複数の部分領域のそれぞれについて、当該部分領域内で共通の色変換係数群を用いて前記カラー画像データの色値を変換する、請求項1に記載の制御方法。
前記変換するステップでは、前記複数の部分領域のそれぞれについて、当該部分領域の色変換係数群と当該部分領域に隣接する部分領域の色変換係数群とを用いて前記カラー画像データの色値を2通りに変換し、
前記複数の部分領域のそれぞれについて2通りに変換された前記色値を合成することにより、前記重なり領域の全体における変換後の色値を取得するステップをさらに有する、請求項2に記載の制御方法。
印画対象のカラー画像データを、互いに重複する重なり領域を含みかつ用紙に転写される複数色のインクのそれぞれについて一致した端部を有する2つの部分画像の画像データに分割する画像分割部と、
前記2つの部分画像が重ねて転写されることによる前記重なり領域での色の変化を打ち消すように前記重なり領域上の異なる複数の位置について予め作成された色変換係数群を用いて、前記カラー画像データの前記重なり領域における色値を変換する色変換部と、
前記重なり領域上の各位置における印画濃度の補正係数を用いて変換後の前記重なり領域における色値を調整することにより前記2つの部分画像の画像データを補正する濃度補正部と、
補正された前記2つの部分画像の画像データに従い前記重なり領域が重なるように前記2つの部分画像を順次転写して印画対象のカラー画像を形成する印画部と、
を有することを特徴とする熱転写プリンタ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、熱転写プリンタおよびその制御方法について説明する。ただし、本発明は図面または以下に記載される実施形態には限定されないことを理解されたい。
【0015】
図1は、プリンタ1の概略構成を示す断面図である。
図1では、プリンタ1が備える各構成要素の内で、説明のために必要な部分のみを示し、その他の構成要素については省略している。
【0016】
プリンタ1は、主な構成要素として、ロール紙ホルダ2、ヘッド3(サーマルヘッド)、供給側リボンローラ4A、巻取側リボンローラ4B、切断部5、プラテンローラ9、排出ローラ14、リボンガイドローラ15、グリップローラ17、ピンチローラ18などを有する。これらの各構成要素は、筐体7の中に配置されている。
【0017】
プリンタ1は、インクリボン4に塗布されたインクをロール状の用紙10に転写して画像を印刷する熱転写プリンタである。プリンタ1は、ヘッド3に対して用紙10を往復動させることにより、用紙10の同一領域上に、例えばイエロー、マゼンタおよびシアンの複数色およびオーバーコートをインクリボン4から順次転写する。印刷された用紙10は、切断部5により切断されて、プリンタ1の前面12に設けられた排出口6からプリンタ1の外部に排出される。なお、以下では、画像を印刷(プリント)することを「印画」ともいう。
【0018】
ロール紙ホルダ2は、ロール状に巻かれた用紙10を保持する。用紙10の材質は、熱転写プリンタに使用可能なものであれば特に限定されない。ロール紙ホルダ2は、正方向または逆方向に駆動されて、その中心軸の周りに回転する。ロール紙ホルダ2が正方向に回転することにより、用紙10は、ヘッド3とプラテンローラ9の間を通過して、排出口6に向けて搬送される。また、ロール紙ホルダ2が逆方向に回転することにより、用紙10はロール紙ホルダ2に巻き戻される。
【0019】
供給側リボンローラ4Aと巻取側リボンローラ4Bは、インクリボン4を保持する。これらのローラは、インクリボン駆動部24によって駆動され、それぞれの中心軸の周りに回転する。この駆動により、インクリボン4は、供給側リボンローラ4Aから供給され、リボンガイドローラ15を介してヘッド3とプラテンローラ9の間を通過して、巻取側リボンローラ4Bに巻き取られる。
【0020】
インクリボン4は、例えば、イエロー、マゼンタおよびシアンの各色インク領域ならびにオーバーコートの領域が同じ順序で長手方向に繰り返し配置された帯状のシートである。インクリボン4には、各色インク領域のサイズが6×4インチのものや6×8インチのものなど、様々な種類のものがあるため、印画対象の画像サイズに合ったインクリボン4がプリンタ1に取り付けられる。
【0021】
ヘッド3は、プラテンローラ9に対して移動可能に構成され、印画時には、インクリボン4と用紙10を間に挟んだ状態でプラテンローラ9に押圧される。ヘッド3は、内蔵された複数の発熱体を発熱させて、インクリボン4上の各色インクとオーバーコートを用紙10の同一領域上に順次転写することにより、用紙に画像を印刷する。この転写は、インクリボン4を巻き取りながらインクリボン4の領域ごとに繰り返される。ヘッド3には、例えば昇華型、熱溶融型などの熱転写プリンタの種類に応じた機構が用いられる。
【0022】
グリップローラ17とピンチローラ18は、用紙10を挟んで搬送する。グリップローラ17は、用紙10を送り出す方向(正方向)か、または巻き戻す方向(逆方向)のいずれかに回転駆動される。ピンチローラ18は、グリップローラ17に従動して回転する。また、ピンチローラ18は、用紙10の搬送時には、グリップローラ17に当接してグリップローラ17との間で用紙10を保持し、用紙10の搬送時以外には、グリップローラ17から離間して用紙10を解放する。
【0023】
ロール紙ホルダ2からヘッド3とプラテンローラ9の間を通過した用紙10は、排出経路13を通って、排出ローラ14により排出口6に向けて搬送される。切断部5は、排出経路13上における排出口6の直前に配置されており、排出経路13を通過し、排出口6からプリンタ1の外部に排出された用紙10を、排出口6の手前の位置で切断する。
【0024】
また、プリンタ1は、制御部20、データメモリ21、用紙駆動部22、ヘッド駆動部23、インクリボン駆動部24、切断駆動部25および通信インタフェース26を備える。
【0025】
制御部20は、CPUやメモリなどを含むマイクロコンピュータで構成され、プリンタ1の全体の動作を制御する。データメモリ21は、通信インタフェース26を介してホストコンピュータから受信した画像データを蓄積する記憶領域である。用紙駆動部22は、グリップローラ17とロール紙ホルダ2を駆動するモータであり、用紙10を送り出す方向か、または巻き戻す方向のいずれかにそれぞれを回転させる。ヘッド駆動部23は、画像データに基づいてヘッド3を駆動し、用紙10上に画像を印刷させる。インクリボン駆動部24は、供給側リボンローラ4Aと巻取側リボンローラ4Bを駆動するモータであり、巻取側リボンローラ4Bがインクリボン4を巻き取る方向か、または供給側リボンローラ4Aにインクリボン4を巻き戻す方向のいずれかに、供給側リボンローラ4Aと巻取側リボンローラ4Bを回転させる。切断駆動部25は、切断部5を駆動するモータである。通信インタフェース26は、例えば、通信ケーブルを介してホストコンピュータから印刷指示と印刷対象の画像データを受信する。
【0026】
プリンタ1では、インクリボン4の各色インク領域のサイズ(例えば6×8インチ)を超えるサイズ(例えば6×16インチ)の画像のパノラマ印刷を、用紙10を切断せずに各色インク領域のサイズの画像を連続して印刷することにより実現する。2枚の画像を連続して転写する場合には、印画物における1枚目の画像後端の色と2枚目の画像先端の色がサーマルヘッドの蓄熱温度の違いなどにより異なることから、その差を吸収するために、例えば幅10〜20mm程度の重なり領域が設けられる。その重なり領域では、Y,M,Cの各色インクが1回転写された上にもう1回Y,M,Cの各色インクが転写されるため、逆転写現象や過剰転写現象などに起因して、印画物の色が元の画像データのRGBに対応するYMCとは違う色になることがある。そこで、プリンタ1では、このような色の違いをホストコンピュータの画像処理で補正することにより、パノラマ印刷における変色の発生を抑制する。
【0027】
図2は、ホストコンピュータ50の概略ブロック図である。ホストコンピュータ50は、磁気ディスク装置などの記憶部51、CPUで構成される制御部52、キーボートやマウスなどの操作部53、ディスプレイ装置で構成される表示部54、通信インタフェース55などを有する汎用のコンピュータである。ホストコンピュータ50は、ユーザの操作に応じて画像の印刷指示を受け付け、制御部52により印刷対象の画像データを加工し、通信インタフェース55を介してその画像データと印刷指示をプリンタ1に送信する。
【0028】
ホストコンピュータ50は、連続して印刷される2枚の画像の重なり領域におけるすべてのドットについて、カラーマネジメント処理を行って、1枚目の画像と2枚目の画像の重なり度合および目的の色のRGB値から、1枚目の画像の階調値RGB
1と2枚目の画像の階調値RGB
2を求める。プリンタ1は、重なり領域における各ドットを、1枚目の印画時にはRGB
1に相当するエネルギーで印画し、2枚目の印画時にはRGB
2に相当するエネルギーで印画することで、目的のRGBに対応する色を表現する。
【0029】
以下では、例えば、6×8インチの画像用のインクリボンを用いて6×8インチの画像を2枚続けて印刷することにより6×16インチの印画物を作成する場合など、インクリボンの各色インク領域の2倍の大きさを有する画像を印刷する場合のホストコンピュータ50による画像データの処理について説明する。3枚以上の画像を続けて印刷してつなげる場合も、つなぎ目ごとに以下で説明する処理を繰り返せばよく、基本的に同様である。以下ではまず、ホストコンピュータ50での画像処理に用いられるテーブル情報について説明する。
【0030】
プリンタ1でも、連続する2枚の画像の重なり領域では、その領域を目立たなくするために、印画濃度を徐々に低下または上昇させながら2枚の画像を重ね合わせる。これを実現するために、記憶部51は、1枚目の画像用の濃度補正テーブルと2枚目の画像用の濃度補正テーブルを記憶する。特に、インク色の違いにより転写特性が異なることから、記憶部51は、イエローY、マゼンタMおよびシアンCの各色についてこれらの濃度補正テーブルを記憶する。
【0031】
図3は、濃度補正テーブルについて説明するための図である。
図3の符号300Y,300M,300Cは、それぞれイエローY、マゼンタMおよびシアンCについての濃度補正テーブルである。矢印A2,A3は、それぞれ転写時の副走査方向、主走査方向に相当し、これは以下で説明する各図でも同様である。濃度補正テーブル300Yにおける横軸xは、1枚目の部分画像I
1と2枚目の部分画像I
2の重なり領域I
Oにおける副走査方向の位置であり、縦軸f(x)は、位置xにおける画像データのうちイエローYの階調値の補正係数である。符号301の曲線は、1枚目の部分画像I
1の後端における濃度補正テーブルであり、2枚目の画像側に向かうにつれて濃度が低くなることを示す。符号302の曲線は、2枚目の部分画像I
2の先端における濃度補正テーブルであり、1枚目の画像から反対側に向かうにつれて濃度が高くなることを示す。これらは、マゼンタMおよびシアンCについても同様である。
【0032】
なお、
図3の下側では、重なり領域I
Oにおいて転写されたYMCの各インク層の断面も示している。
図3の符号E
1は1枚目の部分画像I
1の後端を示し、符号T
2は2枚目の部分画像I
2の先端を示す。
図3に示すように、プリンタ1では、重なり領域I
Oにおけるインク層のつなぎ目は、イエローY、マゼンタMおよびシアンCの各色(部分画像I
1についてのY
1,M
1およびC
1の間と、部分画像I
2についてのY
2,M
2およびC
2の間)で一致している。したがって、濃度補正テーブル300Y,300M,300Cは、それぞれ副走査方向の同じ範囲について作成される。なお、オーバーコート層については、用紙10の受容層をオーバーコートで覆ってしまうとその上にはカラーインクを転写することができなくなるので、2枚目の部分画像I
2の先端T
2よりも1枚目側につなぎ目が配置されるように転写される。
【0033】
図4(A)および
図4(B)は、濃度補正テーブルの例を示す表である。
図4(A)はイエローYの1枚目の部分画像I
1用の、
図4(B)はイエローYの2枚目の部分画像I
2用の濃度補正テーブルである。これらの図では、転写時の主走査方向(
図3における矢印A3方向)に沿ったn本のラインL
1〜L
nで重なり領域が構成され、Yの階調値が0〜255で表されるとして、副走査方向の位置ごとに、各階調値についての補正係数(重なり領域上の各位置における印画濃度の補正係数)が記憶されたテーブルを示している。記憶部51は、イエローYについて
図4(A)および
図4(B)の濃度補正テーブルを記憶し、マゼンタMおよびシアンCについても同様の濃度補正テーブルを記憶する。
【0034】
濃度補正テーブルは、ある初期値の補正係数に従って単色のベタ画像を一部重ねて2回印刷し、印画物の重なり領域とそれ以外との間における濃淡差の有無を測定し、濃淡差があれば補正係数の大きさを調整するという手順をその濃淡差がなくなるまで繰り返すことにより、実験的に作成される。例えば、イエローY、マゼンタMおよびシアンCの濃度補正テーブルは、それぞれ、Y,M,Cのベタ画像を用いて作成される。ただし、濃度補正テーブルの作成には、Y,M,Cの単色画像ではなく、例えば、淡、中、濃など濃度が互いに異なるグレー画像を用いてもよい。
【0035】
なお、R,G,BとC,M,Yはそれぞれ補色の関係にあり、最大階調数を1とすると、C=1−R、M=1−GおよびY=1−Bの関係式が成り立つことから、記憶部51は、YMCではなくRGBについて同様の濃度補正テーブルを記憶してもよい。
【0036】
また、重なり領域では、イエローY、マゼンタMおよびシアンCの各色インクがそれぞれ2回転写されることで、YMCの混合比率によっては発色特性が変化する場合がある。そこで、ベタ画像から作成された濃度補正テーブルの値を必要に応じてさらに調整することで、色比率による発色特性の変化を補正してもよい。
【0037】
図5(A)〜
図5(C)は、色比率に応じた濃度補正テーブルの調整について説明するための図である。
図5(A)は、1枚目および2枚目の画像についてのイエローY、マゼンタMまたはシアンCの濃度補正テーブル501,502を示す。これは、
図3に示したものと同じである。
図5(B)は、重なり領域における副走査方向の位置xと、YMCの混合比率(色比率)と、濃度調整値との対応関係503を示す。
図5(C)は、
図5(B)の対応関係503を用いた調整後の、1枚目および2枚目の画像についてのイエローY、マゼンタMまたはシアンCの濃度補正テーブル501’,502’を示す。
図5(C)の濃度補正テーブル501’,502’は、副走査方向の各位置xにおける濃度調整値をある比率でYMCのそれぞれの濃度補正テーブル501,502に反映させることにより作成される。記憶部51は、
図3の濃度補正テーブル300Y,300M,300Cに代えて、このように調整された濃度補正テーブル501’,502’をYMCのそれぞれについて記憶してもよい。あるいは、記憶部51は、
図5(B)の対応関係503と副走査方向の各位置xにおける濃度調整値の反映度合い(Duty比)とを記憶し、制御部52がそれらの情報を必要に応じて参照して濃度補正テーブル300Y,300M,300Cの値を調整してもよい。
【0038】
また、記憶部51は、重なり領域I
Oにおける副走査方向の異なる複数の位置について、YMCの階調値YMCを別の階調値YMC’に変換するための色変換テーブルを記憶する。この色変換テーブルは、対象とする副走査方向の位置で上記の濃度補正テーブルに従って2枚の画像を重ねて転写したときに重なり領域において印画物に生じ得る色の変化を打ち消すためのものである。すなわち、個々の色変換テーブルには、YMCの各混合比率について、目的の階調値YMCに対応する色が印刷されるようにプリンタ1に送信すべき階調値YMCの値が含まれる。
【0039】
図6は、色変換テーブルについて説明するための図である。
図6の上側に示すグラフの横軸xは、重なり領域I
Oにおける副走査方向の位置であり、縦軸f(x)は、位置xにおけるイエローY、マゼンタMまたはシアンCの階調値の補正係数である。記憶部51は、重なり領域I
Oにおける副走査方向の複数の位置X
1,X
2,X
3,・・・,X
mについて、変換前の階調値YMCと、変換後の階調値YMC’とを対応付けた色変換テーブル601,602,603,604,・・・を記憶する。これらの色変換テーブルは、色変換係数群の一例である。例えば、Y,M,Cの各階調値が0〜255の値で表されるならば、個々の色変換テーブルは、256×256×256個の成分をもつ3次元のテーブルになる。色変換テーブルの集合である色変換テーブル群600は、印刷対象の画像にはよらず、プリンタ1に固有のものである。
【0040】
データ量を削減するために、記憶部51は、重なり領域における副走査方向の位置が互いに異なるすべてのラインL
1〜L
nについてではなく、そのうちの一部のラインについてのみ、色変換テーブルを記憶するとよい。例えば、
図6の例では、色変換テーブル群600は、副走査方向の位置X
1〜X
mに対応するm個(m<n)の色変換テーブルで構成される。また、色変換テーブルが作成される位置X
1〜X
mは、等間隔でなくてもよい。例えば、濃度補正テーブルの補正係数が大きく変化する範囲では密になり、濃度補正テーブルの補正係数があまり変化しない範囲では疎になるように、位置X
1〜X
mを選択するとよい。後述するように、位置X
1〜X
m以外のラインにおける色変換テーブルは、他の位置における色変換テーブルを用いた線形補間により補われる。
【0041】
色変換テーブル群は、YMCの混合比率が異なる複数色のカラーパッチを作成し、上記の濃度補正テーブルに従ってそのカラーパッチを2枚重ねて印画し、副走査方向における選択された位置X
1〜X
mのそれぞれにおいて印画物を測色して、各色の対応関係YMC→YMC’を取得することにより作成される。すなわち、個々の色変換テーブルは、カラーマネジメント処理におけるICCプロファイルに相当する。
【0042】
なお、記憶部51は、YMCについての色変換テーブルに代えて、RGB値の間の対応関係(RGB→RGB’)か、またはRGB値とYMC値の対応関係(RGB→YMC’)を記憶してもよい。あるいは、記憶部51は、色変換テーブルとして、機器に依存しないCIE Lab色空間の色値であるLab値の間の対応関係(Lab→Lab’)を記憶してもよい。
【0043】
図2に示したように、制御部52は、印刷対象の画像データを処理するための機能ブロックとして、画像分割部52A、色変換部52B、合成処理部52Cおよび濃度補正部52Dを有する。制御部52は、例えば、印刷対象の画像データのRGBをYMCに直し、これらの各部により、上記の色変換テーブルを用いて重なり領域のYMCをYMC’に変換し、上記の濃度補正テーブルを用いてYMC’を1枚目の画像のYMC
1’と2枚目の画像のYMC
2’に変換し、それらをプリンタ1に送信する。以下では、制御部52の各機能ブロックの機能を順に説明する。
【0044】
画像分割部52Aは、印画対象のカラー画像データを互いに重複する重なり領域を含む2つの部分画像の画像データに分割する。その際、画像分割部52Aは、
図3に示したように、用紙に転写される複数色のインク(YMC)の色ごとに各部分画像の端部をずらさず、YMCの各色で2つの部分画像の端部を一致させる。言い換えると、個々の部分画像は、互いに重ねて転写されるY画像、M画像およびC画像の組で構成されるので、画像分割部52Aは、
図3の下側に示した通り、同じ部分画像ではY画像、M画像およびC画像の端部が一致するように、印画対象のカラー画像データを2組の部分画像の画像データに分割する。
【0045】
図7は、画像分割部52Aの機能を説明するための図である。印画対象の6×16インチの画像Iの副走査方向(矢印A2方向)における幅を2Lとおく。画像分割部52Aは、重なり領域を含むように画像Iを分割するために、副走査方向の画像Iの先端から幅dLの部分を捨て、そこから副走査方向に沿った幅Lの領域を1枚目の部分画像I
1とする。同様に、画像分割部52Aは、画像Iの後端から幅dLの部分を捨て、そこから副走査方向に沿った幅Lの領域を2枚目の部分画像I
2とする。これにより、画像Iの中央における斜線で示したdL×2の幅の領域が、2枚の部分画像I
1,I
2で共通の重なり領域I
Oになる。
【0046】
色変換部52Bは、記憶部51に記憶されている色変換テーブル群を用いて、印画対象の画像データのうち、画像分割部52Aにより作成された重なり領域における色値を変換する。例えば、色変換部52Bは、色変換テーブル群600を用いて、重なり領域の各ドットのYMCをYMC’に変換する。ただし、色変換テーブル群がRGBまたはLabの値で作成されている場合には、色変換部52Bは、RGB値の変換またはLab値の変換を行う。特に、重なり領域I
Oにおける主走査方向に沿ったすべてのラインL
1〜L
nについての色変換テーブルを記憶部51が記憶している場合には、色変換部52Bは、そのラインごとに、対応する色変換テーブルを使用して各ドットの色値を変換する。
【0047】
ただし、
図6を用いて説明したように、記憶部51は、主走査方向に沿った一部のラインについてのみ、色変換テーブルを記憶してもよい。そこで、色変換部52Bは、画像を転写するときの主走査方向に沿って重なり領域を複数の部分領域に分割し、複数の部分領域のそれぞれについて、その部分領域内で共通の色変換テーブルを用いて画像データの色値を変換することが好ましい。この場合、色変換部52Bは、各部分領域について、その部分領域の色変換テーブルとその部分領域に隣接する部分領域の色変換テーブルとを用いて画像データの色値を2通りに変換する。
【0048】
図8は、色変換部52Bの機能を説明するための図である。まず、色変換部52Bは、記憶部51に色変換テーブルが記憶されている副走査方向の位置X
1〜X
mを境目として、画像分割部52Aにより生成された2枚の部分画像の重なり領域I
Oを、主走査方向に沿ってO
1〜O
m−1の部分領域に分割する。色変換部52Bは、それぞれのY画像、M画像およびC画像の端部が一致するように各部分領域O
1〜O
m−1を構成する。なお、簡単のため、位置X
1とX
mはそれぞれ重なり領域I
Oの端部であるとする。そして、色変換部52Bは、位置X
1,X
2での色変換テーブル601,602を使って部分領域O
1をそれぞれ部分領域O
1’,O
1’’に変換し、位置X
2,X
3での色変換テーブル602,603を使って部分領域O
2をそれぞれ部分領域O
2’,O
2’’に変換し、以下同様にして部分領域O
1’〜O
m−1’と部分領域O
1’’〜O
m−1’’の画像データを作成する。このように、色変換部52Bは、各部分領域における画像データを、その部分領域の色変換テーブルにより変換し、また、その部分領域に隣接する部分領域の色変換テーブルにより変換して、2組の画像データを作成する。
【0049】
合成処理部52Cは、複数の部分領域のそれぞれについて色変換部52Bにより2通りに変換された色値を合成することで、重なり領域の全体における変換後の色値を取得する。その際、合成処理部52Cは、各部分領域について、対応する2通りの画像データの色値をそれぞれ重み付けして加えることにより、個々の色値を合成する。
【0050】
図9は、合成処理部52Cの機能を説明するための図である。合成処理部52Cは、部分領域O
1’,O
1’’を部分領域O
1’’’に合成し、部分領域O
2’,O
2’’を部分領域O
2’’’に合成し、以下同様にして部分領域O
1’’’〜O
m−1’’’の画像データを作成する。その際、合成処理部52Cは、例えば部分領域O
1’’’については、左端である位置X
1に近付くほど部分領域O
1’の色値の比率が高くなり、右端である位置X
2に近付くほど部分領域O
1’’の色値の比率が高くなるように重み付けして、同じドットに対応する2つの色値を合成する。
図9のグラフにおいて、横軸xは副走査方向の位置を示し、g(x)は位置xにおける部分領域O
1’,O
1’’の色値の合成比率を示す。そして、合成処理部52Cは、部分領域O
1’’’〜O
m−1’’’をつなぎ合わせて、変換後の重なり領域I
O’の画像データを作成する。
【0051】
すなわち、副走査方向のラインL
1〜L
kで部分領域O
1が構成されるとすると、例えば部分領域O
1内では、位置X
1のラインL
1と位置X
2のラインL
kにおける色値は、それぞれ位置X
1,X
2の色変換テーブル601,602で変換される。また、ラインL
2〜L
k−1における色値は、色変換テーブル601,602を用いた線形補間により作成された色変換テーブルで変換される。これにより、重なり領域I
Oにおける主走査方向に沿ったすべてのラインL
1〜L
nについての色変換テーブルを記憶部51が記憶していなくても、2枚の画像を重ねて転写したときに重なり領域において印画物に生じ得る色の変化を打ち消すように、重なり領域の画像データを変換することが可能になる。ただし、予めすべてのラインL
1〜L
nについての色変換テーブルを記憶部51が記憶している場合には、合成処理部52Cは不要になる。
【0052】
濃度補正部52Dは、記憶部51に記憶されている濃度補正テーブルを用いて、色変換部52Bにより変換され合成処理部52Cにより合成された後の重なり領域における色値を調整する。すなわち、濃度補正部52Dは、1枚目の画像用の濃度補正テーブルと2枚目の画像用の濃度補正テーブルを用いて、変換および合成された重なり領域のYMCの階調値をそれぞれ補正することにより、1枚目の画像用の重なり領域と2枚目の画像用の重なり領域の画像データを作成する。そして、濃度補正部52Dは、それらの重なり領域を各部分画像に反映させて、1枚目用の画像データと2枚目用の画像データを作成する。
【0053】
図10は、濃度補正部52Dの機能を説明するための図である。まず、濃度補正部52Dは、合成処理部52Cにより合成された重なり領域の画像データI
O’のYMC値を、濃度補正テーブル300Y,300M,300Cによりそれぞれ補正する。その際、濃度補正部52Dは、例えばイエローYについては、
図4(A)のテーブル(
図3の符号301のカーブ)を適用して、1枚目の部分画像の重なり領域における画像データのY値を作成するとともに、
図4(B)のテーブル(
図3の符号302のカーブ)を適用して、2枚目の部分画像の重なり領域における画像データのY値を作成する。濃度補正部52Dは、マゼンタMおよびシアンCについても、同様に、2枚の部分画像用の重なり領域の階調値を作成する。こうして作成されたYMC値が、1枚目の部分画像の重なり領域I
O1’’における画像データと2枚目の部分画像の重なり領域I
O2’’における画像データになる。そして、濃度補正部52Dは、1枚目の部分画像I
1における重なり領域I
Oを重なり領域I
O1’’に変更し、2枚目の部分画像I
2における重なり領域I
Oを重なり領域I
O2’’に変更して、最終的な2枚の部分画像I
1’,I
2’の画像データを作成する。
【0054】
制御部52は、通信インタフェース55を介して、濃度補正部52Dにより作成された2枚の部分画像I
1’,I
2’の画像データをプリンタ1に送信する。そして、プリンタ1は、2つの部分画像I
1’,I
2’の画像データに従い、重なり領域が重なるようにそれらの部分画像を順次転写して、用紙の上に印画対象のカラー画像Iを形成する。これにより、プリンタ1はパノラマ印刷を実現する。
【0055】
なお、プリンタ1が、インクリボンの各色インク領域のサイズ以下の画像を印刷する(すなわち、パノラマ印刷を行わない)ときには、ホストコンピュータ50は上記の画像処理を行わず、印画対象の画像データのRGB値(YMC値)をプリンタ1にそのまま送信する。
【0056】
図11は、制御部52による画像データの処理フローの例を示す図である。図示したフローは、ホストコンピュータ50の制御部52内のROMに予め記憶されたプログラムに従って、制御部52内のCPUにより実行される。ここでは、プリンタ1に6×8インチの各色インク領域を有するインクリボンが取り付けられている状態で、6×16インチの画像の印刷が指示されたとする。
【0057】
まず、画像分割部52Aは、印画対象のカラー画像データを、互いに重複する重なり領域を含む2つの部分画像の画像データに分割する(S1)。次に、色変換部52Bは、記憶部51に色変換テーブルが記憶されている副走査方向の位置X
1〜X
mを境目として、S1で作成された重なり領域を複数の部分領域に分割し、色変換テーブルを用いてそれぞれの部分領域における色値を2通りに変換する(S2)。その際、色変換部52Bは、1つの部分領域の色変換テーブルとその部分領域に隣接する部分領域の色変換テーブルとを用いて、対象の部分領域の画像データの色値を2通りに変換する。続いて、合成処理部52Cは、S2で2通りに変換された部分領域の色値を合成して、重なり領域全体の変換後の色値を取得する(S3)。さらに、濃度補正部52Dは、記憶部51に記憶されている濃度補正テーブルを用いて、S3で取得された変換後の重なり領域における印画濃度を調整して、2枚の部分画像の画像データを作成する(S4)。最後に、制御部52は、S4で作成された2枚の部分画像の画像データをプリンタ1に送信する(S5)。以上で、制御部52による画像データの処理フローは終了する。
【0058】
以上説明したように、プリンタ1では、2枚の画像を連続して転写する場合における画像の重なり領域で発生し得る変色を打ち消すように画像データの色値を変換する色変換テーブルを予め作成しておく。このため、ホストコンピュータ50がその色変換テーブルを用いて印画対象の画像データの色値を補正することにより、画像の重なり領域における変色の発生が抑制される。また、プリンタ1では、2枚の画像を連続して転写する場合におけるインク層のつなぎ目をYMCの各色で一致させる。このため、画像の重なり領域の大きさを最小限にすることができ、インクリボンの各色インク領域を有効利用することが可能になる。
【0059】
なお、ホストコンピュータ50の画像分割部52A、色変換部52B、合成処理部52Cおよび濃度補正部52Dによる画像処理は、プリンタ1の制御部20で行ってもよい。この場合には、その画像処理に必要な濃度補正テーブル300Y,300M,300Cと色変換テーブル群600は、プリンタ1に内蔵されたメモリに予め記憶される。