(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
トーチ銃身と、前記トーチ銃身に取り付けられるチップと、前記トーチ銃身に取り付けられ、前記チップを内部に収容する筒状のノズルと、を備え、ガスシールドアーク溶接に用いられる溶接トーチであって、
前記チップは、
前記トーチ銃身に取り付けられる筒状のチップボディと、
前記チップボディの外周に挿入される筒状のオリフィスと、
前記チップボディの先端外周に着脱自在に取り付けられ、前記オリフィスを前記チップボディの外周に支持するオリフィス支持ナットと、
前記チップボディの先端内周に着脱自在に取り付けられる筒状のコンタクトチップと、
前記チップボディと前記コンタクトチップとの間に配置される環状のシールド部材と、を備え、
前記シールド部材の外径は、前記オリフィス支持ナットの先端外径以上、前記オリフィスの外径以下に設定されることを特徴とする溶接トーチ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る溶接トーチの一実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0018】
≪溶接トーチの構成について≫
まず、本実施形態の溶接トーチの全体像を把握するために、溶接トーチが用いられた溶接ロボット1について説明する。
【0019】
溶接ロボット1は、
図1及び
図2に示すように、ワイヤパック2と、トーチケーブル3と、ワイヤ送給装置4と、溶接電源5と、マニピュレータ6と、溶接トーチ10と、を備える。なお、
図1中の符号Aは、溶接対象である母材である。
【0020】
ワイヤパック2は、
図1に示すように、溶接ワイヤWの供給源であり、所定量の溶接ワイヤWが格納されるものである。溶接ワイヤWは、例えば、銅めっきワイヤ、銅めっきなしワイヤ等を用いることができる。
【0021】
トーチケーブル3は、溶接電源5から供給される溶接電流、ワイヤパック2に格納される溶接ワイヤW、及び不図示のシールドガス格納装置から供給されるシールドガスを溶接トーチ10に供給するものである。トーチケーブル3は、一端がワイヤ送給装置4に接続され、他端が溶接トーチ10に接続されている。
【0022】
ワイヤ送給装置4は、トーチケーブル3を介して、溶接ワイヤWをローラ等により繰り出して溶接トーチ10に送給するものである。そして、このワイヤ送給装置4を備えることにより、溶接ワイヤWが溶接トーチ10に自動的に供給される。
【0023】
溶接電源5は、溶接電流の供給源であり、ワイヤ送給装置4及びトーチケーブル3を介して溶接トーチ10に溶接電流を供給する。
【0024】
マニピュレータ6は、先端に溶接トーチ10が取り付けられた多関節ロボットであり、不図示のロボット制御装置により動作が制御される。
【0025】
<溶接トーチ>
溶接トーチ10は、
図2及び
図3に示すように、マニピュレータ6に取り付けられるトーチ銃身11と、トーチ銃身11に取り付けられるチップ20と、トーチ銃身11に取り付けられ、チップ20を内部に収容する円筒状のノズル21と、を備え、ガスシールドアーク溶接を行うものである。
【0026】
(トーチ銃身)
トーチ銃身11の先端部には、チップ20及びノズル21が取り付けられる円筒状のホルダ12が形成されている。そして、ホルダ12の内周面には、チップ20のチップボディ30を螺合させる雌ねじ部12aが形成され、ホルダ12の外周面には、ノズル21を螺合させる雄ねじ部12bが形成されている。なお、トーチ銃身11には、トーチケーブル3を介して溶接電流、溶接ワイヤW、及びシールドガスが供給されている。
【0027】
また、トーチ銃身11は、ホルダ12内に配置され、溶接ワイヤWをガイドするインナチューブ13を備える。このインナチューブ13は、ホルダ12の先端から突出して設けられており、ホルダ12の雌ねじ部12aにチップボディ30を螺着することにより、チップボディ30内に挿入されるようになっている。
【0028】
(チップ)
チップ20は、
図4及び
図5に示すように、トーチ銃身11に取り付けられる筒状のチップボディ30と、チップボディ30の外周に先端側から挿入される筒状のオリフィス40と、チップボディ30の先端外周に着脱自在に取り付けられ、オリフィス40をチップボディ30の外周に支持するオリフィス支持ナット50と、チップボディ30の先端内周に着脱自在に取り付けられる筒状のコンタクトチップ60と、チップボディ30とコンタクトチップ60との間に挟み込まれる円環状のシールド部材70と、を備える。
【0029】
(チップボディ)
チップボディ30は、銅等の通電性を有する金属材料からなる円筒形状の部材であり、その後端部の外周面にトーチ銃身11のホルダ12の雌ねじ部12aに螺合する雄ねじ部31が形成されている。また、チップボディ30は、トーチ銃身11のホルダ12の雌ねじ部12aに螺着されると、インナチューブ13の外周面との間に一定の空間を形成する。
【0030】
また、チップボディ30の外周面には、チップボディ30の外周に挿入されたオリフィス40に当接して、オリフィス40の位置決めを行うフランジ部32が形成されている。また、チップボディ30には、オリフィス40側にシールドガスを供給する複数(本実施形態では4つ)の貫通穴33が周方向に等間隔で形成されている。
【0031】
また、チップボディ30の先端部の内周面には、コンタクトチップ60を螺合させる雌ねじ部34が形成されている。また、チップボディ30の先端部の外周面には、オリフィス支持ナット50を螺合させる雄ねじ部35が形成されている。
【0032】
(オリフィス)
オリフィス40は、セラミック材料からなる円筒形状の部材であり、チップボディ30に装着された状態において、チップボディ30の貫通穴33よりも先端側の位置に、シールドガスをノズル21内に噴出する複数(本実施形態では8つ)のガス噴出穴41が周方向に等間隔で形成されている。
【0033】
また、オリフィス40の内周面には、8つのガス噴出穴41と連通する周溝42が形成されている。この構成により、チップボディ30の貫通穴33から供給されたシールドガスが周溝42を介してガス噴出穴41にスムーズに導かれるので、ガス噴出穴41から噴出されるシールドガスを整流化することができる。
【0034】
また、オリフィス40の後端部の外周面には、オリフィス40の外周面とノズル21の内周面との隙間を閉塞するフランジ部43が形成されている。これにより、フランジ部43よりもトーチ銃身11側にスパッタが進入することを防止することができる。
【0035】
そして、オリフィス40は、チップボディ30に装着された状態において、チップボディ30の雄ねじ部35にオリフィス支持ナット50を螺着することにより、チップボディ30のフランジ部32とオリフィス支持ナット50との間に挟み込まれて、チップボディ30に支持される。
【0036】
(オリフィス支持ナット)
オリフィス支持ナット50は、銅等の通電性を有する金属材料からなるリング形状の部材であり、その内周面に、チップボディ30の先端部の雄ねじ部35に螺合する雌ねじ部51が形成されている。
【0037】
また、オリフィス支持ナット50の外周面の前側部分には、先端側に向かうに従って縮径するテーパ面52が全周に亘って形成されている。また、オリフィス支持ナット50の外周面の後側部分には、スパナ等の工具を用いて締め付けを行うための2つの平行面が径方向対称に形成されている。そして、オリフィス40は、オリフィス支持ナット50により締め付けられるため、周方向の回転が抑制される。
【0038】
また、オリフィス支持ナット50の材料としては、スパッタが付着しにくい材料を用いた方が好ましい。具体的には、スパッタの付着後の清掃実験を行った結果、クロム銅が好適であり、黄銅を用いてもよい。
【0039】
(コンタクトチップ)
コンタクトチップ60は、溶接電流を溶接ワイヤWに供給すると共に、溶接対象の母材Aに溶接ワイヤWをガイドするものである。コンタクトチップ60は、銅等の通電性を有する金属材料で形成されている。
【0040】
コンタクトチップ60は、その軸中心に溶接ワイヤWをガイドする導通穴61を有する円筒形状の部材である。導通穴61の後端部には、後側に向かうに従って拡径する誘導テーパ面61aが形成されており、この誘導テーパ面61aにより溶接ワイヤWが導通穴61にスムーズに導入される。
【0041】
また、コンタクトチップ60の後端部の外周面には、チップボディ30の雌ねじ部34に螺合する雄ねじ部62が形成されている。そして、コンタクトチップ60の雄ねじ部62をチップボディ30の雌ねじ部34に螺着することにより、コンタクトチップ60の導通穴61がインナチューブ13の先端開口に対向するように配置される。
【0042】
(シールド部材)
シールド部材70は、コンタクトチップ60の雄ねじ部62に後側から挿入される円環状の板部材である。そして、シールド部材70がコンタクトチップ60の雄ねじ部62に挿入された状態で、コンタクトチップ60の雄ねじ部62をチップボディ30の雌ねじ部34に螺着することにより、シールド部材70がチップボディ30とコンタクトチップ60との間に挟持される。これにより、シールド部材70は、オリフィス40及びオリフィス支持ナット50よりも前方に配置されている。
【0043】
そして、
図5に示すように、シールド部材70の外径D1は、オリフィス支持ナット50の先端外径D2以上、オリフィス40の外径D3以下に設定されている。そして、シールド部材70の外径D1がオリフィス支持ナット50の先端外径D2より小さい場合、チップボディ30とオリフィス支持ナット50との隙間やチップボディ30とオリフィス40との隙間にスパッタが入り込み、蓄積することにより、シールドガス不良やスパッタの噛み込みによるチップボディの損傷(自動交換時の停止)が生じてしまう。また、シールド部材70の外径D1がオリフィス40の外径D3より大きい場合、ノズル21内のシールドガスの流れが乱流となるため、シールドガス不良が発生してしまう。
【0044】
また、シールド部材70の板厚Tは、0.5mm〜3.0mmに設定されている。そして、シールド部材70の板厚Tが0.5mm以上の場合、スパッタ付着時の熱によるシールド部材70の歪みを抑制することができる。また、シールド部材70の板厚Tが3.0mm以下の場合、シールド部材70の外周面にスパッタが付着するのを抑制することができる。
【0045】
また、シールド部材70の内径D4は、コンタクトチップ60の着脱部分である雄ねじ部62の外径D5の1.5倍以下に設定されている。そして、シールド部材70の内径D4が雄ねじ部62の外径D5の1.5倍以下の場合、シールド部材70の径方向のズレを抑制することができ、より対称性を維持したシールドが可能となる。
【0046】
また、本実施形態のシールド部材70は、円環状の板部材であるため、シールド部材70の前面(シールド部材70のコンタクトチップ60の先端側の表面)70F及び後面(シールド部材70のコンタクトチップ60の後端側の表面)70Rは平面にそれぞれ形成されている。そして、シールド部材70の前面70F及び後面70Rの表面粗さ(Ra)は、50μm以下に設定されている。そして、シールド部材70の前面70F及び後面70Rの表面粗さ(Ra)が50μm以下の場合、シールド部材70の前面70F及び後面70Rへのスパッタの付着を抑制することができ、さらに、シールド部材70の前面70F及び後面70Rの表面粗さ(Ra)が20μm以下の場合においては、スパッタの付着をより抑制することができる。このため、例え、スパッタが付着したとしても、清掃装置のブラシ等で容易に除去することができる。なお、表面粗さ(Ra)は、算術平均粗さであって、粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計し、平均した値である。
【0047】
なお、スパッタは、発生時、溶融した状態の金属であり、ノズル21の内面等の表面に付着し、凝固することで蓄積していく。そして、スパッタが付着する表面の粗さが大きい場合、付着した溶融金属は表面の凹凸に入り込み、凝固後、強固な機械的接合となりやすく、除去が困難になる。
【0048】
また、シールド部材70の表面は、純銅又は銅を50重量%以上含む合金で構成されている。これは、シールド部材70の全体が純銅又は銅を50重量%以上含む合金で形成される場合と、シールド部材70の表面に純銅又は銅を50重量%以上含む合金のコーティングが形成される場合のどちらでもよい。
【0049】
そして、シールド部材70の表面が純銅又は銅を50重量%以上含む合金で構成される場合、シールド部材70へのスパッタの付着を抑制することができ、例え、スパッタが付着したとしても、清掃装置のブラシ等で容易に除去することができる。さらに、純銅又は銅を50重量%以上含む合金である場合、溶鉄−固体銅間の濡れ性が悪くなるため、付着したスパッタをより剥離しやすくなる。
【0050】
(ノズル)
ノズル21は、金属材料からなる円筒形状の部材であり、溶接対象の母材Aに対して、オリフィス40のガス噴出穴41から噴出されるアルゴン(Ar)や炭酸ガス(CO
2)等のシールドガスを噴射するものである。また、ノズル21は、チップ20を内部に収容することが可能な内部空間を有する。また、ノズル21の後端部の内周面には、トーチ銃身11のノズル21の雄ねじ部12bに螺合する雌ねじ部21a(
図6(e)参照)が形成されている。
【0051】
次に、溶接トーチ10を構成するコンタクトチップ60の交換及びチップ20の清掃について説明する。なお、コンタクトチップ60の導通穴61の内面が溶接ワイヤWにより摩耗するため、所定の溶接時間経過後にコンタクトチップ60を交換する必要がある。また、ノズル21の内面及びチップ20の外面(オリフィス40、オリフィス支持ナット50、コンタクトチップ60、及びシールド部材70の外面)に、溶接時間の経過と共にスパッタが付着するため、これらの面を清掃する必要がある。また、シールド部材70は、清掃後そのまま使用可能であるが、コンタクトチップ60の交換の都合上、コンタクトチップ60と共に交換される。
【0052】
ここでは、溶接トーチ10を構成するコンタクトチップ60を自動で交換すると共に、チップ20の外面を自動で清掃する装置(以下「交換清掃装置」と呼ぶ)を用いる場合を想定する。交換清掃装置は、例えば、特開2012−130928号公報や特開平7−60448号公報に記載される技術を用いてもよいし、他の公知の技術を用いてもよい。なお、コンタクトチップ60の交換やチップ20の清掃は、手動で行うことも可能である。その場合は、以下の説明における「交換清掃装置」を「交換清掃者」と読み替える。
【0053】
最初に、交換清掃装置は、ノズル21を回転させ、ノズル21をトーチ銃身11から取り外す(
図6(a)参照)。
【0054】
続いて、交換清掃装置は、金属製のブラシBをチップ20の外面に押し当てた状態で、周方向や軸方向に摺動させることでスパッタを除去し、チップ20の外面を清掃する(
図6(b)参照)。なお、図示していないが、取り外したノズル21の内面も清掃される。
【0055】
続いて、交換清掃装置は、コンタクトチップ60を回転させ、チップボディ30からコンタクトチップ60をシールド部材70と共に取り外す(
図6(c)参照)。そして、本実施形態の溶接トーチ10では、オリフィス40がオリフィス支持ナット50により支持されているため、コンタクトチップ60を取り外してもオリフィス40は落下しない。
【0056】
続いて、交換清掃装置は、新しいコンタクトチップ60と新しいシールド部材70を、チップボディ30の先端に取り付ける(
図6(d)参照)。そして、本実施形態の溶接トーチ10では、シールド部材70は、チップボディ30とコンタクトチップ60との間に挟持される。
【0057】
続いて、交換清掃装置は、清掃後のノズル21をトーチ銃身11に取り付ける(
図6(e)参照)。これにより、溶接トーチ10を構成するコンタクトチップ60の交換及びチップ20の清掃が終了する。
【0058】
以上説明したように、本実施形態の溶接トーチ10によれば、チップボディ30とコンタクトチップ60との間に挟み込まれる円環状のシールド部材70を備え、シールド部材70の外径D1が、オリフィス支持ナット50の先端外径D2以上、オリフィス40の外径D3以下に設定されるため、コンタクトチップ60とオリフィス支持ナット50との間にスパッタが入り込むのを防止することができる。また、ノズル21内のシールドガスの流通を妨げることがないため、シールドガス不良を防止することができる。
【0059】
また、本実施形態の溶接トーチ10によれば、オリフィス40及びオリフィス支持ナット50よりも前方にシールド部材70が配置されるため、オリフィス40及びオリフィス支持ナット50の外周に飛来するスパッタをシールド部材70で防いで、その外周に付着するスパッタを減少させることができる。従って、交換清掃装置のブラシBによるチップ20の清掃時間を短縮することができると共に、ブラシBの摩耗を抑制することができるため、溶接機の自動運転を効率化することができると共に、ブラシBの交換頻度が下がり溶接コストを削減することができる。また、硬いセラミック材料からなるオリフィス40の清掃時間を短縮することができるので、ブラシBの摩耗をより抑制することができる。
【0060】
また、本実施形態の溶接トーチ10によれば、シールド部材70の内径D4が、コンタクトチップ60の雄ねじ部62の外径D5の1.5倍以下に設定されるため、シールド部材70の径方向のズレを抑制することができ、より対称性を維持したシールドが可能となる。
【0061】
また、本実施形態の溶接トーチ10によれば、シールド部材70の前面70F及び後面70Rの表面粗さ(Ra)が、50μm以下に設定されるため、シールド部材70の前面70F及び後面70Rへのスパッタの付着を抑制することができ、例え、スパッタが付着したとしても、清掃装置のブラシ等で容易に除去することができる。
【0062】
また、本実施形態の溶接トーチ10によれば、シールド部材70の表面が、純銅又は銅を50重量%以上含む合金で構成されるため、シールド部材70へのスパッタの付着を抑制することができ、例え、スパッタが付着したとしても、清掃装置のブラシ等で容易に除去することができる。
【0063】
次に、本実施形態のチップ20の第1変形例として、
図7に示すように、オリフィス支持ナット50の軸方向長さを延長して、オリフィス支持ナット50の前端面をチップボディ30の前端面と面一にしてもよい。この場合、シールド部材70は、チップボディ30及びオリフィス支持ナット50とコンタクトチップ60との間に挟み込まれる構成となる。なお、本変形例では、オリフィス支持ナット50の軸方向長さを延長したが、チップボディ30の軸方向長さを短縮してもよい。
【0064】
次に、本実施形態のチップ20の第2変形例として、
図8に示すように、オリフィス支持ナット50の軸方向長さを更に延長して、オリフィス支持ナット50の前端面をチップボディ30の前端面よりも前側に出してもよい。この場合、シールド部材70は、オリフィス支持ナット50とコンタクトチップ60との間に挟み込まれる構成となる。なお、本変形例では、オリフィス支持ナット50の軸方向長さを延長したが、チップボディ30の軸方向長さを短縮してもよい。
【0065】
なお、本発明は上記実施形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
例えば、上記実施形態では、シールド部材は、独立した部材であるが、これに限定されず、オリフィス支持ナットやコンタクトチップに一体に形成されていてもよい。
【実施例】
【0066】
本発明の作用効果を確認するため、下記表1に示す実施例1〜8及び比較例1〜3のシールド部材を備える溶接トーチを用意して、それぞれに対して溶接試験を行った。本試験では、1時間の連続溶接と自動清掃(コンタクトチップ交換、ノズル清掃)を10回(計10時間)繰り返し行い、シールドガスのシールド性、連続自動運転性、及びスパッタ付着性を確認した。
【0067】
次に、本試験の溶接条件について説明する。但し、ここで説明する溶接条件は一例であり、本発明の実施形態が以下の溶接条件に限定されるものではない。
[溶接条件]
溶接電流:300A
アーク電圧:32V
溶接速度:30cm/min
ワイヤ突出長さ:25mm
シールドガス:100%CO
2ガス
オリフィスの外径:14mm
オリフィス支持ナットの先端外径:10mm
コンタクトチップの雄ねじ部の外径:6mm
【0068】
【表1】
【0069】
上記表1におけるシールド性に関しては、溶接部分にピットが発生した場合は、シールドガス不良が発生したとして×とし、ピットが発生しない場合は○とした。また、連続自動運転性に関しては、自動清掃時に運転が停止した場合を×とし、10時間停止しなかった場合を○とした。また、スパッタ付着性に関しては、シールド性及び連続自動運転性が共に○の場合のみ、シールド部材のスパッタ付着量を計測した。シールド部材のスパッタ付着量が3g以下のときは、自動清掃後シールド部材に付着したスパッタが残る可能性が低く、次溶接時にスパッタ付着による堆積をさらに抑制することができる。よって、シールド部材のスパッタ付着量が3g以下の場合は、好ましい条件として○とし、3gを超える場合は△とした。
【0070】
表1から明らかなように、実施例1、5、7、8は、シールド性及び連続自動運転性が共に良好で、スパッタ付着量も3g以下の少量であるので、好ましい条件であることがわかった。
【0071】
また、実施例2は、シールド性及び連続自動運転性が共に良好で、スパッタ付着量が3gを超えている。そして、スパッタ付着量が3gを超えたのは、実施例2のシールド部材の内径がコンタクトチップの雄ねじ部の外径の1.5倍(9mm)より大きいことから、交換時にシールド部材が径方向へのズレが生じたまま装着されたためと考えられる。
【0072】
また、実施例3は、シールド性及び連続自動運転性が共に良好で、スパッタ付着量が3gを超えている。そして、スパッタ付着量が3gを超えたのは、実施例3のシールド部材の板厚が3.0mmより大きいことから、シールド部材の外周面にスパッタが付着したためと考えられる。
【0073】
また、実施例4は、シールド性及び連続自動運転性が共に良好で、スパッタ付着量が3gを超えている。そして、スパッタ付着量が3gを超えたのは、実施例4のシールド部材の材質が銅を50重量%以下含む合金であることから、スパッタの剥離性が劣っていたためと考えられる。
【0074】
また、実施例6は、シールド性及び連続自動運転性が共に良好で、スパッタ付着量が3gを超えている。そして、スパッタ付着量が3gを超えたのは、実施例6のシールド部材の表面粗さ(Ra)が50μmを超えて粗くなったことによって、スパッタの剥離性が劣化したためと考えられる。
【0075】
また、比較例1は、シールド部材の外径がオリフィス支持ナットの先端外径(10mm)より小さい場合である。この比較例1では、スパッタに対するシールド効果が低いため、オリフィスの外面やコンタクトチップとオリフィス支持ナットとの間にスパッタが蓄積し、シールドガス不良が生じて、最終的にコンタクトチップ交換時に運転が停止した。
【0076】
また、比較例2は、シールド部材の外径がオリフィスの外径(14mm)より大きい場合である。この比較例2では、スパッタに対するシールド効果は高いものの、シールドガスの流通がシールド部材により妨げられるため、シールドガス不良が生じてしまった。
【0077】
また、比較例3は、シールド部材が用いられない従来の溶接トーチの場合である。この比較例3では、溶接を重ねるごとにノズル内にスパッタが蓄積し、シールドガス不良が生じて、最終的にコンタクトチップ交換時に運転が停止した。