特許第6377058号(P6377058)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6377058-成形用樹脂組成物の製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6377058
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】成形用樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20180813BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20180813BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20180813BHJP
   C08K 7/04 20060101ALI20180813BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20180813BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08L23/00
   C08K3/013
   C08K7/04
   C08L9/00
   C08J3/22CES
   C08J3/22CFD
   C08J3/22CFG
【請求項の数】7
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2015-523861(P2015-523861)
(86)(22)【出願日】2014年6月23日
(86)【国際出願番号】JP2014003349
(87)【国際公開番号】WO2014208071
(87)【国際公開日】20141231
【審査請求日】2017年1月12日
(31)【優先権主張番号】特願2013-136544(P2013-136544)
(32)【優先日】2013年6月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-226262(P2013-226262)
(32)【優先日】2013年10月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(72)【発明者】
【氏名】金谷 浩貴
(72)【発明者】
【氏名】川辺 邦昭
(72)【発明者】
【氏名】田中 正和
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−047428(JP,A)
【文献】 特開2002−080708(JP,A)
【文献】 特開2002−080709(JP,A)
【文献】 特開2000−103954(JP,A)
【文献】 特開平08−082954(JP,A)
【文献】 特開2000−025369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−3/40
C08K 7/00−7/28
C08J 3/22
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂および熱可塑性ポリエステル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂(A)94〜49重量部と、
無機強化材(B)5〜50重量部と、
−140℃〜0℃のガラス転移温度Tgを有する、官能基含有オレフィン重合体(C)1〜46重量部と、
酸素、窒素から選ばれる元素を有する基を含むオレフィンワックス(D)0.01〜10重量部と、
を含有し(ただし、成分(A)、成分(B)および成分(C)の合計を100重量部とする)、かつ
成分(C)と成分(D)の重量比C/Dが、0.1〜30である、成形用樹脂組成物の製造方法であって、
前記官能基含有オレフィン重合体(C)と前記オレフィンワックス(D)とを含むマスターバッチを用意する工程と、
前記マスターバッチと、前記樹脂(A)と、前記無機強化材(B)とを溶融混練する工程と、
を含む、成形用樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂(A)は、200℃以上の融点を有し、15〜17族元素と、炭素元素と、水素元素とを含む熱可塑性樹脂である、請求項1に記載の成形用樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記無機強化材(B)が、ガラス繊維およびカーボン繊維から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の成形用樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記官能基含有オレフィン重合体(C)が、
ジエン化合物由来の単位と、
芳香族ビニル化合物由来の単位、シアン化ビニル化合物由来の単位、およびα,β-不飽和カルボン酸エステル由来の単位から選ばれる1以上の単位と、
を含む共重合体である、請求項1に記載の成形用樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記ジエン化合物由来の単位がブタジエン由来の単位であり、前記芳香族ビニル化合物由来の単位がスチレン由来の単位である、請求項4に記載の成形用樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記オレフィンワックス(D)が未変性オレフィンワックス(d)に酸素および窒素から選ばれる元素を有する置換基を導入して得られるオレフィンワックスであって、前記未変性オレフィンワックス(d)が下記(i)〜(iv)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の成形用樹脂組成物の製造方法。
(i)密度が870〜980kg/m
(ii)融点が65〜165℃
(iii)数平均分子量(Mn)が400〜10000
(iv)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が1.5〜5.5
【請求項7】
前記マスターバッチの熱重量測定・示差熱分析(TG−DTA)による5%熱減量温度と、前記官能基含有オレフィン重合体(C)または前記オレフィンワックス(D)の前記5%熱減量温度との差が20℃以上である、請求項1に記載の成形用樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機強化材を含有する成形用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ABS樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化性不飽和ポリエステル樹脂およびフェノール樹脂などの熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂は、融点あるいは軟化点が高く、しかも機械的物性に優れているので、自動車工業分野や電気、電子工業分野等の各種工業分野で広く使用されている。
【0003】
これら熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂の剛性、耐熱性を高めるために、ガラス繊維、カーボン繊維などの無機強化材を配合することが行われている。しかしながら、無機強化材を配合された熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂特有の高い耐衝撃性が損なわれるという問題点があった。
【0004】
このような無機強化材の配合による問題点を解消するため、樹脂組成物にカルボキシル基および/またはその誘導体基を有するオレフィンワックスを配合すること(特許文献1、2)、さらに複合ゴム系グラフト共重合体を配合すること(特許文献2)が行われている。しかしながら、このような成分を配合しても、耐衝撃性の低下や外観不良が問題となる、あるいは剛性が不足する場合があった。そこで、酸変性ワックスの添加(特許文献3)や、シリコン変性オイルワックスの添加(特許文献4)、カルボジイミド基と反応する官能基を有するポリオレフィンとカルボジイミド基含有化合物とを反応させて得られる樹脂改質材の添加が提案されている(特許文献5、6)。
【0005】
年々ポリカーボネート樹脂の需要は大きくなっており、更なる成長も見込まれている。特にポリカーボネートコンパウンドは、ノート型パソコンやスマートフォン市場の急成長により世界各国で必要とされている。その中で、環境問題対策、コスト削減を目的として部材薄肉化や金属代替が求められている。これらを実現するためにガラスフィラー配合による高強度化が用いられているが、これはポリカーボネートコンパウンドの衝撃強度を著しく低下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−188708号公報
【特許文献2】特開平7−238213号公報
【特許文献3】特公昭62−12814号公報
【特許文献4】特開2009−256655号公報
【特許文献5】再表2009/069649号公報
【特許文献6】再表2005/097840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、無機強化材を含む成形用樹脂組成物であって、成形体の耐衝撃性に優れ、成形体の表面光沢性が高く、成型金型からの離型性が良好な成形用樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一は、以下に記載する成形用樹脂組成物に関する。
[1]熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂(A)94〜49重量部と、無機強化材(B)5〜50重量部と、−140℃〜0℃のガラス転移温度Tgを有する、官能基含有オレフィン重合体(C)1〜46重量部と、酸素、窒素から選ばれる元素を有する基を含むオレフィンワックス(D)0.01〜10重量部と、を含有し(ただし、成分(A)、成分(B)および成分(C)の合計を100重量部とする)、かつ成分(C)と成分(D)の重量比C/Dが、0.1〜30である、成形用樹脂組成物。
【0009】
[2]前記樹脂(A)は、200℃以上の融点を有し、15〜17族元素と、炭素元素と、水素元素とを含む熱可塑性樹脂である、[1]に記載の成形用樹脂組成物。
[3]前記樹脂(A)が、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂およびポリイミド樹脂からなる群から選ばれる熱可塑性樹脂、またはエポキシ樹脂、熱硬化性不飽和ポリエステル樹脂およびフェノール樹脂からなる群から選ばれる熱硬化性樹脂を含む、[1]または[2]に記載の成形用樹脂組成物。
[4]前記無機強化材(B)が、ガラス繊維およびカーボン繊維から選択される少なくとも1種である、[1]に記載の成形用樹脂組成物。
[5]前記官能基含有オレフィン重合体(C)が、ジエン化合物由来の単位と、芳香族ビニル化合物由来の単位、シアン化ビニル化合物由来の単位、およびα,β-不飽和カルボン酸エステル由来の単位から選ばれる1以上の単位と、を含む共重合体である、[1]に記載の成形用樹脂組成物。
[6]前記ジエン化合物由来の単位がブタジエン由来の単位であり、前記芳香族ビニル化合物由来の単位がスチレン由来の単位である、[5]に記載の成形用樹脂組成物。
[7]前記オレフィンワックス(D)が未変性オレフィンワックス(d)に酸素および窒素から選ばれる元素を有する置換基を導入して得られるオレフィンワックスであって、前記未変性オレフィンワックス(d)が下記(i)〜(iv)を満たすことを特徴とする[1]に記載の成形用樹脂組成物。
(i)密度が870〜980kg/m
(ii)融点が65〜165℃
(iii)数平均分子量(Mn)が400〜10000
(iv)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が1.5〜5.5
【0010】
本発明の第二は、以下に示す成形用樹脂組成物の製造方法に関する。
[8]前述の[1]〜[7]のいずれかに記載の成形用樹脂組成物の製造方法であって、前記官能基含有オレフィン重合体(C)と前記オレフィンワックス(D)とを含むマスターバッチを用意する工程と、前記マスターバッチと、前記樹脂(A)と、前記無機強化材(B)とを溶融混練する工程とを含む、成形用樹脂組成物の製造方法。
[9]前記マスターバッチの熱重量測定・示差熱分析(TG−DTA)による5%熱減量温度と、前記官能基含有オレフィン重合体(C)または前記オレフィンワックス(D)の前記5%熱減量温度との差が20℃以上である、[8]に記載の成形用樹脂組成物の製造方法。
【0011】
本発明の第三は、以下に示す成形体に関する。
[10]前記[1]〜[7]のいずれかに記載の成形用樹脂組成物から得られる成形体。
【発明の効果】
【0012】
本発明の成形用樹脂組成物から得られる成形体は、耐衝撃性が高く、かつ表面光沢性が高い。また、成体を成形金型から剥離するときの離型性がよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】成形用樹脂組成物の組成と、成形体の表面光沢および成形体の耐衝撃性との関係を示すグラフである。
【0014】
1.成形用樹脂組成物について
本発明の成形用樹脂組成物は、樹脂(A)と、無機強化材(B)と、官能基含有オレフィン重合体(C)と、変性オレフィンワックス(D)とを含有する。
【0015】
1−1.樹脂(A)について
本発明の成形用樹脂組成物に含まれる樹脂(A)は、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である。樹脂(A)の例には、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリイミド樹脂からなる群から選択される熱可塑性樹脂;エポキシ樹脂、熱硬化性不飽和ポリエステル樹脂およびフェノール樹脂からなる群から選択される熱硬化性樹脂が含まれる。
【0016】
樹脂(A)は、これらの熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂の1種単独からなっていてもよく、2種以上の組み合せであってもよい。
【0017】
熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂についての定義、製法は周知であり、たとえば「実用プラスチック事典」(実用プラスチック事典 編集委員会編、株式会社産業調査会発行)等の刊行物に記載されている。
【0018】
以下の樹脂(1)〜(6)は、樹脂(A)でありうる熱可塑性樹脂の例である。
(1)ポリカーボネート樹脂
典型的には、芳香族ジオール(例えばビスフェノールA)とホスゲンとを反応することにより得られる樹脂であるが、本発明においては、ポリジエチレングリコールビスフェニルカーボネートが好ましい。このようなポリカーボネート樹脂は市販されており、例えば商品名NOVAREX(三菱化学(株))、パンライト(帝人(株))、レキサン(SABICイノベーティブプラスチックス)等をあげることができ、本発明において好ましく用いることができる。
【0019】
(2)熱可塑性ポリエステル樹脂
典型的には、ジカルボン酸とジオールとを重縮合させて得られる樹脂である。本発明においては、熱可塑性ポリエステル樹脂として、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリシクロヘキサンテレフタレート等が好ましく用いられる。このような熱可塑性ポリエステル樹脂は市販されており、例えば商品名ライナイト(デュポン ジャパン リミテッド)等を、本発明において好ましく用いることができる。
【0020】
(3)ポリアセタール樹脂
典型的には、ホルマリンあるいはトリオキサンを、所望に応じてエチレンオキサイドと共に、カチオン触媒の存在下に開環重合して得られる樹脂であり、ポリオキシメチレン鎖を主骨格とする樹脂である。本発明では、コポリマータイプのものが好ましく用いられる。このようなポリアセタール樹脂は市販されており、例えば商品名ユピタール(三菱エンジニアリングプラスチックス(株))等を、本発明において好ましく用いることができる。
【0021】
(4)ポリアミド樹脂
典型的には、ジアミンとジカルボン酸との重縮合、あるいはカプロラクタムの開環重合等により得られる樹脂である。本発明においては、脂肪族ジアミンと脂肪族または芳香族ジカルボン酸の重縮合反応物が好ましい。このようなポリアミド樹脂は市販されており、例えば商品名レオナ(旭化成ケミカルズ(株))、ザイテル(デュポン ジャパン リミテッド)等を、本発明において好ましく用いることができる。
【0022】
(5)ポリフェニレンオキシド樹脂
典型的には、2,6−ジメチルフェノールを銅触媒の存在下に酸化カップリングさせることにより得られる樹脂であるが、この樹脂に他の樹脂をブレンドする等の手法により変性した変性ポリフェニレンオキシド樹脂も、本発明において用いることができる。本発明においては、スチレン系ポリマーのブレンド変性物が好ましい。このようなポリフェニレンオキシド樹脂は市販されており、例えば商品名ザイロン(旭化成ケミカルズ(株))、ユピエース(三菱エンジニアリングプラスチックス(株))等を、本発明において好ましく用いることができる。
【0023】
(6)ポリイミド樹脂
典型的には、テトラカルボン酸とジアミンとを重縮合させ、主骨格にイミド結合を生成させて得られる樹脂である。本発明においては、無水ピロメリット酸とジアミノジフェニルエーテルから形成されるものが好ましい。このようなポリイミド樹脂は市販されており、例えば商品名ベスペル(デュポン ジャパン リミテッド)等を、本発明において好ましく用いることができる。
【0024】
以下の樹脂(7)〜(9)は、樹脂(A)でありうる熱硬化性樹脂の例である。以下の説明は、熱硬化前の熱硬化性樹脂について記載されている。
【0025】
(7)エポキシ樹脂
典型的には、芳香族ジオール(例えばビスフェノールA)とエピクロルヒドリンとをアルカリの存在下に反応させることにより得られる樹脂である。本発明においては、エポキシ当量170〜5000のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂が好ましい。このようなエポキシ樹脂は市販されており、例えば商品名エポミック(三井化学(株))、エピクロン(大日本インキ化学工業(株))、スミエポキシ(住友化学(株))等を、本発明において好ましく用いることができる。
【0026】
(8)熱硬化性不飽和ポリエステル樹脂
典型的には、脂肪族不飽和ジカルボン酸と脂肪族ジオールとをエステル化反応させることにより得られる樹脂である。本発明においては、マレイン酸やフマル酸等の不飽和ジカルボン酸と、エチレングリコールやジエチレングリコール等のジオールとをエステル化反応して得られる樹脂が好ましい。このような熱硬化性不飽和ポリエステル樹脂は市販されており、例えば商品名リゴラック(昭和高分子(株))、スミコン(住友ベークライト(株))等を、本発明において好ましく用いることができる。
【0027】
(9)フェノール樹脂
本発明におけるフェノール樹脂には、いわゆるノボラック型やレゾール型のいずれのフェノール樹脂も包含するが、本発明では、フェノール樹脂が、ヘキサメチレンテトラミンで硬化されるノボラック型やジメチレンエーテル結合を主体とする固形レゾールであることが好ましい。このようなフェノール樹脂は市販されており、例えば商品名スミコンPM(住友ベークライト(株))、ニッカライン(日本合成化学工業(株))等を、本発明において好ましく用いることができる。
【0028】
ここで、樹脂(A)は、200℃以上の融点(Tm)を有する熱可塑性樹脂であることが好ましい。樹脂(A)の融点(Tm)は、好ましくは205℃以上、より好ましくは210℃以上である。樹脂(A)の融点(Tm)は、好ましくは500℃以下、さらに好ましくは400℃以下、特に好ましくは350℃以下である。樹脂(A)の融点(Tm)は示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される。具体的には、試料約10mgをアルミパンに詰めて、昇温により試料を一度溶融させた後、10℃/分で30℃まで冷却した試料について、10℃/分で昇温する際の吸熱ピークを融点とする。また、融点(Tm)の観測よりも先に熱分解が生じてしまう高耐熱性樹脂の場合は、熱分解が生じたときの温度を融点(Tm)と定義する。
【0029】
融点(Tm)が200℃以上である樹脂(A)は、15〜17族元素と、炭素元素と、水素元素とを含む熱可塑性樹脂でありうる。15〜17族元素は、例えば酸素や窒素でありうる。15〜17族元素と、炭素元素と、水素元素とを含む熱可塑性樹脂は、より具体的には、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂などでありうる。具体的な商品としては、アミランCM1041LO(東レ(株):ポリアミド樹脂、融点225℃)、ノバデュラン5020(三菱エンジニアリングプラスチック(株):ポリブチレンテレフタレート樹脂、融点224℃)等が挙げられる。
【0030】
樹脂(A)の融点(Tm)が200℃以上であると好ましい理由は、当該樹脂(A)を後述のオレフィン重合体(C)及びオレフィンワックス(D)と組み合わせると、耐衝撃性、表面光沢性、及び金型離型性がバランスよく発揮される。通常、高融点樹脂を含む組成物の成形は成形温度を高くする傾向がある。そのため、分子量の低い離型剤が成形時に飛散しやすく、良好な離型性を得ることが難しい。また高融点樹脂組成物の金型離型性が悪いため、その成形体の表面光沢性も悪化し易い。さらに、分子量の低い離型剤が成形時に成形体表面にはじき出されると同時に、無機強化材(B)も成形体表面に同伴されることで成形体の表面光沢性が悪化することもある。また、改質剤が、成形時に飛散またはブリードアウトすることで、添加量に見合う十分な改質効果が得られ難い。
【0031】
これに対して、高融点の樹脂(A)の成形時に、特定の物性を有する官能基含有オレフィン重合体(C)とオレフィンワックス(D)とを併用すると、上記問題が改善されうる。この改善メカニズムは限定されないが、オレフィン重合体(C)とオレフィンワックス(D)を適宜選択することで両者の親和性が高まる結果、成型時にオレフィンワックス(D)のブリードアウトが抑制されること、無機強化材(B)とオレフィンワックス(D)との親和性がオレフィン系重合体(C)を介して高められた結果、オレフィンワックス(D)による改質効果が飛躍的に向上したこと、が推測される。
【0032】
樹脂(A)は、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂を含むことが好ましく、ポリカーボネート樹脂を含むことがより好ましい。樹脂(A)としてポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂が好ましい理由は、一般的に樹脂(A)のカルボニル基や芳香族骨格と、オレフィンワックス(D)との相溶性は乏しく、樹脂成形体に衝撃が加わったときに両者が界面剥離することがある。これに対し、本発明では、オレフィンワックス(D)が衝撃改質材として有効に作用して、成形体の耐衝撃性が高まるからである。
【0033】
樹脂(A)の含有量は、樹脂(A)と無機強化材(B)とオレフィン重合体(C)との合計100重量部あたり、94〜49重量部であり、好ましくは90〜55重量部であり、より好ましくは85〜58重量部、特に好ましくは80〜60重量部である。樹脂(A)の含有量が上記範囲内にあると、機械物性と表面光沢性のバランスに優れる無機強化材配合成形用樹脂組成物を得ることができる。
【0034】
1−2.無機強化材(B)
本発明の成形用樹脂組成物に含まれる無機強化材(B)は、ガラス繊維、カーボン繊維、フィラー類から選択される少なくとも1種をいう。これらの無機強化材(B)は1種で用いることもできるし、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0035】
ガラス繊維の種類は特に制限されず、ロービングガラス、チョップドストランドガラス、ミルドガラスなどを用いることができる。また、これらは1種類でも、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0036】
ガラス繊維の長さ(L)は、特に限定されないが、作業性の観点から0.3mm〜10mmが好ましく、2mm〜7mmがより好ましく、2mm〜5mmがさらに好ましい。ただし、樹脂組成物を調製するときの押出成形において、ガラス繊維が折れることもある。ガラス繊維の径も特に限定はなく、平均繊維径(D)は1〜25μm、好ましくは5〜17μmである。
【0037】
ガラス繊維のアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径=L/D)は1〜100、好ましくは5〜70の範囲にあり、50以下であることがさらに好ましいが、異なるアスペクト比のガラス繊維を適当な比率で混合して用いてもよい。アスペクト比が上記範囲内にあると、表面光沢性と機械物性のバランスに優れる無機強化材配合成形用樹脂組成物を得ることができる。ガラス繊維の断面形状についても特に限定はなく、円形、まゆ型、ひょうたん型、だ円型、円筒形などを用いることができる。ガラス繊維の長さは、成形品を溶解濾過して繊維のみを観察することで調べることができる。
【0038】
ガラス繊維は、表面処理されていてもよい。表面処理は、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤等で処理することで行われる。シランカップリング剤の例には、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシランおよびγ-クロロプロピルトリメトキシシランなどが含まれる。
【0039】
ガラス繊維は、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂等で集束処理されていてもよい。集束処理に用いられるオレフィン樹脂やウレタン系樹脂は、成形用組成物の物性に影響のない範囲で用いられる。さらにガラス繊維は、メッキ法および蒸着法などにより、ニッケル、銅、コバルト、銀、アルミニウム、鉄などおよびこれらの合金などの金属でコーティングされていてもよい。
【0040】
カーボン繊維は、形状、種類に特に制限はなく、形状は、チョップドストランド、ロービングストランド、ミルドファイバーなどの形状のものがあり、種類は、ピッチ系、ポリアクリロニトリル系のいずれであってもよい。
【0041】
カーボン繊維の繊維径は、直径0.5〜15μmが好ましく、1〜10μmがより好ましい。カーボン繊維の繊維径は、一般には6〜18μmであることが多い。
【0042】
カーボン繊維のチョップドストランドのカット長は1〜15mmが好ましく、より好ましくは2〜10mm、特に好ましくは3〜8mmである。また、チョップドストランドは成形途中で破砕される。
【0043】
成形用樹脂組成物中におけるカーボン繊維の繊維軸方向の長さLと繊維径Dの比であるアスペクト比(L/D)は15〜100の範囲が好ましく、20〜50の範囲が更に好ましい。
【0044】
カーボン繊維は、原料組成物を紡糸または成形し、次いで炭化することにより得られたものであってもよい。また、カーボン繊維は、基本的に紡糸工程を経ることなく、気相成長法で得られたカーボン繊維であってもよい。
【0045】
気相成長法で得られたカーボン繊維は、繊維径が小さく且つアスペクト比(L/D)も大きい。そのため、気相成長法で得られたカーボン繊維を含む成形用樹脂組成物から、高剛性とともに、良好な表面外観を有する成形品を得ることができる。
【0046】
カーボン繊維は、賦活処理を行うことにより比表面積を大きくしたものであってもよい。
【0047】
カーボン繊維は、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤等で表面処理したものが好ましい。
【0048】
また集束剤としては、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ナイロン系樹脂等が挙げられるが、エポキシ系樹脂およびウレタン系樹脂が好ましい。
【0049】
フィラー類は、炭酸カルシウム、シリカ、カオリン、クレー、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、アルミナ、水酸化マグネシウムのような無定形フィラー、タルク、マイカ、あるいはガラスフレークなどの板状フィラー、ワラステナイト、チタン酸カリウム、塩基性硫酸マグネシウム、セピオライト、ゾノトライト、あるいはホウ酸アルミニウムなどの針状フィラー、金属粉、金属フレーク、あるいは、カーボンブラック、カーボン微粒子などのフィラーなどが用いられる。その他ガラスビース、ガラス粉などが用いられる。これらフィラーは単体もしくは複数の組み合せで使用してもよいし、その表面に炭素被覆またはシランカップリング処理等を施したものを単体もしくは複数の組み合せとして使用してもよい。
【0050】
本発明の成形用樹脂組成物に含まれる無機強化材(B)は、ガラス繊維、カーボン繊維、カーボン微粒子を含むことが好ましく、ガラス繊維、カーボン繊維を含むことがさらに好ましい。無機強化材(B)は、オレフィン重合体(C)やオレフィンワックス(D)との親和性の観点から、ガラス繊維であることが特に好ましい。また、樹脂組成物は、家庭用品から工業用品に至る広い用途の成形体に成形されうるため、導電性がない(絶縁性である)ガラス繊維を、無機強化材(B)とすることが好ましい場合がある。
【0051】
本発明の樹脂組成物は成形体に成形される。成形は、例えば射出成形、押出成形および圧縮成形などにより行われるが、意匠性と成形性の観点から射出成形が好ましい。本発明の樹脂組成物は、成形工程を経ることで、成形体中の無機強化材(B)が配向することが好ましい。つまり、成形体において無機強化材(B)が異方性をもって存在することが好ましい。無機強化材(B)の配向異方性が高いほど、成形体の耐衝撃性が高まる。
【0052】
本発明の樹脂組成物において、無機強化材(B)には、後述のオレフィン重合体(C)やオレフィンワックス(D)が付着していることが好ましい。それにより、無機強化材(B)が樹脂組成物中で移動しやすくなり、成形体における無機強化材(B)の配向異方性がより高まる。また、無機強化材(B)が成形体の表面から突出しにくくなる。そのため、成形体の表面光沢性が高まり、成形体の美観や意匠性が改善される。
【0053】
無機強化材(B)の含有量は、樹脂(A)と無機強化材(B)と官能基含有オレフィン重合体(C)の合計100重量部に対して、5〜50重量部であることが好ましく、6〜35重量部であることがより好ましく、7〜25重量部であることがさらに好ましく、8〜15重量部であることが特に好ましい。5重量部より少なくなると、機械的物性向上の効果を十分得ることができず、50重量部より多くなると成形体の表面光沢性が悪化する。
【0054】
1−3.オレフィン重合体(C)
本発明の成形用樹脂組成物に含まれるオレフィン重合体(C)は、−140℃〜0℃の範囲のガラス転移温度Tgを有する。−140℃〜0℃のガラス転移温度Tgを有するオレフィン重合体(C)は、常温条件下でゴム弾性を有する。オレフィン重合体(C)は、無機強化材(B)を含む本発明の樹脂組成物の耐衝撃性を高めることができる。
【0055】
無機強化材(B)を含有する樹脂組成物の成形体は、その剛性は高い一方で、靱性が低くなり、脆弱になりやすい。つまり、耐衝撃性が低くなりやすい。本発明の樹脂組成物は、無機強化材(B)とともに、オレフィン重合体(C)を含有することで、靱性の高い成体を提供することができる。
【0056】
オレフィン重合体(C)はオレフィンモノマーの重合体であるが、ポリエンモノマー由来の構造単位を含むことが好ましい。ポリエンモノマーの例には、ブタジエン、イソプレンなどのジエン化合物が含まれる。ポリエンモノマー由来の構造単位を介してオレフィン重合体鎖が互いに架橋することで、オレフィン重合体(C)がゴム弾性を発現することが好ましい。例えば、オレフィン重合体(C)は、オルガノシロキサン由来の構成単位を含んでいてもよい。オルガノシロキサン由来の構成単位を有することで、オレフィン重合体(C)がゴム弾性を発現することが好ましい。
【0057】
オレフィン重合体(C)には、さらに官能基含有オレフィンモノマー由来の構造単位が含まれている。官能基の例には、芳香環を含む基、15〜17族元素を含む基が挙げられる。例えば、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、ニトリル基、エステル基、カルボキシル基、ケトン基、アルデヒド基、エーテル基、アミド基、イミド基、ハロゲン原子が挙げられ、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、ニトリル基、エステル基、カルボキシル基が好ましい。
【0058】
オレフィン重合体(C)における官能基は、本発明の成形用樹脂組成物において、オレフィン重合体(C)と無機強化材(B)との親和性を高める基であることが好ましい。より具体的には、オレフィン重合体(C)は官能基を介して無機強化材(B)に付着できることが好ましく、より好ましくは無機強化材(B)を覆うように存在する。
【0059】
官能基含有オレフィンモノマーの具体例には、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、クロロスチレン、ブロムスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、ビニルナフタレン、イソプロペニルナフタレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸(無水物);(メタ)アクリル酸のメチル、エチル、プロピル、ブチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル等のα,β-不飽和カルボン酸エステルなどが含まれる。
【0060】
オレフィン重合体(C)のTgの下限値は−130℃以上、好ましくは−120℃以上、より好ましくは−110℃以上;上限値は−20℃以下、好ましくは−40℃以下、より好ましくは−60℃以下である。オレフィン重合体(C)のTgが上記範囲内にあると、樹脂組成物の成形体の耐衝撃性が改善される。
【0061】
オレフィン重合体(C)のMFR(温度200℃,荷重5kg)の下限値は0.1以上、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上;上限値は70以下、好ましくは60以下、より好ましくは50以下である。オレフィン重合体(C)のMFRが上記範囲内にあると、樹脂組成物の成形体の表面平滑性と機械物性のバランスに優れる。
【0062】
オレフィン重合体(C)の密度勾配管法で測定した密度の下限値は、900kg/m以上、好ましくは920kg/m以上、より好ましくは930kg/m以上;上限値は1200kg/m以下、好ましくは1100kg/m以下、より好ましくは1050kg/m以下である。オレフィン重合体(C)の密度が上記範囲内にあると、樹脂組成物の成形体の機械物性と耐衝撃性が改善される。
【0063】
オレフィン重合体(C)は、ジエン化合物などのポリエンモノマーと、官能基含有オレフィンモノマーとを共重合反応させることで得られる。共重合反応はランダム共重合反応であることが好ましい。
【0064】
オレフィン重合体(C)の具体例には、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS,Tg:−80℃)、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS,Tg:−80℃)、メタクリル酸アルキル−スチレン共重合体(MS,Tg:−42℃)、メタクリル酸アルキル−ポリジメチルシロキサン−スチレン共重合体(Tg:−125℃)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR,Tg:−85℃)、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR,Tg:−80℃)、水添スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SEBS,Tg:−80℃)などが含まれる。オレフィン重合体(C)の市販品として、商品名スタイラック(旭化成ケミカルズ(株))、サイコラック(宇部サイコン(株))、カネエース((株)カネカ)、メタブレン((株)三菱レイヨン)、テクノABS(テクノポリマー(株))、UMG ABS(UMG ABS(株))、サンタック(日本エイアンドエル(株))等を挙げることができ、中でもアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体やメタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体を好ましく用いることができる。
【0065】
オレフィン重合体(C)としてアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体やメタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体が好ましい理由は、これらはブタジエンがコア部、アクリロニトリル−スチレン共重合体やメタクリル酸メチル−スチレン共重合体がシェル部となるコアシェル構造を成す。そして、シェル部であるアクリロニトリル−スチレン共重合体やメタクリル酸メチル−スチレン共重合体が樹脂(A)と優れた親和性を示し、コア部であるブタジエン成分の分散性を高めるためである。
【0066】
官能基含有オレフィン重合体(C)の含有量は、樹脂(A)と無機強化材成分(B)と官能基含有オレフィン重合体(C)の合計100重量部に対して、1〜46重量部であることが好ましく、2〜40重量部であることがより好ましく、3〜35重量部であることがさらに好ましい。1重量部より少なくなると、成形時の外観に影響を及ぼすため良好な表面平滑性を得ることができず、46重量部より多くなると、機械物性に影響を及ぼす。
【0067】
1−4.オレフィンワックス(D)
オレフィンワックス(D)は「酸素および窒素から選ばれる元素を有する基」を有する。より典型的には、オレフィンワックス(D)は、(未変性)オレフィンワックス(d)を、酸素および窒素から選ばれる元素を有する化合物で変性反応させることで、酸素および窒素から選ばれる元素を有する置換基を導入することで得られる。
【0068】
オレフィンワックス(D)における「酸素および窒素から選ばれる元素を有する基」は、オレフィンワックス(D)と無機強化材(B)との親和性を向上させる基であることが好ましい。それにより、無機強化材(B)にオレフィンワックス(D)が付着して、無機強化材(B)をオレフィンワックス(D)で被覆することができる。
【0069】
一般的なオレフィンワックスのような低分子量重合体を含む樹脂組成物の成形体の表面外観は、通常、悪化する傾向にある。しかしながら、本発明の成形用樹脂組成物に含まれるオレフィンワックス(D)は、樹脂(A)との相容性が高く、かつ無機強化材(B)との相互作用が起こり易いと考えられる。つまり、無機強化材(B)を、オレフィンワックス(D)が保護するような構成をとり、無機強化材(B)の再凝集を抑制して微分散を達成すると考えられる。その結果、成形品の表面光沢性、耐衝撃性、離型性バランスに優れた構成をとり易くなるのではないかと本発明者らは推測している。
【0070】
1−4−1.未変性オレフィンワックス(d)
未変性オレフィンワックス(d)の例には、ポリエチレンワックスやポリプロピレンワックスが含まれる。オレフィンを重合して得られた低分子量ポリオレフィンそのものであってもよく、重合して得た高分子量ポリオレフィンを熱分解して低分子量化して得られた低分子量ポリオレフィンであってもよい。未変性オレフィンワックス(d)は、オレフィンを重合して得た低分子量ポリオレフィンであることが特に好ましい。
【0071】
オレフィンを重合して得られる低分子量ポリオレフィンは、従来から公知のいずれの方法によっても製造することができる。例えば、チタン系触媒、バナジウム系触媒、メタロセン触媒などを用いて、オレフィンを重合すればよい。
【0072】
未変性オレフィンワックス(d)は、エチレン単独重合体、またはエチレンと炭素原子数3〜20のα−オレフィンとの共重合体であることがより好ましい。α−オレフィンは、直鎖状であっても分岐していてもよく、また置換されていても非置換であってもよい。α−オレフィンは炭素原子数3〜10のα−オレフィンが好ましく、より好ましくは炭素原子数3のプロピレン、炭素原子数4の1−ブテン、炭素原子数5の1−ペンテン、炭素原子数6の1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、炭素原子数8の1−オクテンなどが挙げられ、更に好ましくはプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンが挙げられる。結晶化度の観点から、プロピレン、1−ブテンであることが特に好ましい。
【0073】
未変性オレフィンワックス(d)の形態は、樹脂およびエラストマーのいずれの形態でもよい。ポリオレフィンの立体構造としてはアイソタクチック構造、シンジオタクチック構造ともにいずれであっても使用可能であり、立体規則性について特段の制限はない。市販の未変性オレフィンワックスをそのまま利用してもよい。
【0074】
未変性オレフィンワックス(d)の、密度勾配管法で測定した密度の下限値が、870kg/m以上、好ましくは890kg/m以上、より好ましくは910kg/m以上、であり、その上限値は、980kg/m以下、好ましくは970kg/m以下、より好ましくは960kg/m以下である。未変性オレフィンワックス(d)の密度が上記範囲内にあると、表面のタック感が少なく、機械的特性、衝撃性に優れる無機強化材配合成形用樹脂組成物を得ることができる。
【0075】
未変性オレフィンワックス(d)の、示差走査熱量計(DSC)で測定した融点の下限値は65℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上、特に好ましくは100℃以上であり;上限値は165℃以下、好ましくは135℃以下、より好ましくは120℃以下である。未変性オレフィンワックス(d)の融点が上記範囲内にあると、表面のタック感が少なく、機械的特性、衝撃性に優れる成形用樹脂組成物を得ることができる。
【0076】
未変性オレフィンワックス(d)の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)は、GPC測定から求めることができる。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した数平均分子量(Mn)は400〜10,000、好ましくは400〜3,000、より好ましくは400〜2,000、特に好ましくは1,000〜2,000の範囲である。未変性オレフィンワックス(d)の数平均分子量(Mn)が上記範囲内にあると、変性時のハンドリング性に優れる。
【0077】
未変性オレフィンワックス(d)の、GPC測定した重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)の上限値が5.5以下、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.0以下である。また、Mw/Mnの下限値が1.5以上、好ましくは2.0以上である。未変性オレフィンワックス(d)の重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)が上記範囲内にあると、樹脂組成物の成形体の表面のタック感が少なく、成形体の機械的特性や耐衝撃性が改善される。
【0078】
分子量のGPC測定は以下の条件で行うことができる。重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)は、市販の単分散標準ポリスチレンを用いて検量線を作成し、下記の換算法に基づいて求めることができる。
装置:ゲル浸透クロマトグラフAlliance GPC2000型(Waters社製)
溶剤:o−ジクロロベンゼン
カラム:TSKgel GMH6−HT×2、TSKgel GMH6−HTLカラム×2(何れも東ソー(株))
流速:1.0 ml/分
試料:0.15mg/mL o−ジクロロベンゼン溶液
温度:140℃
分子量換算 :PE換算/汎用較正法
【0079】
汎用較正の計算には、Mark−Houwink粘度式の係数を用いた。PS、PEのMark−Houwink係数はそれぞれ、文献(J.Polym. Sci.,Part A−2, 8,1803 (1970)、Makromol. Chem., 177, 213 (1976))に記載の値を用いた。
【0080】
未変性オレフィンワックス(d)の針入硬度は30dmm(dmm=0.1mm)以下、好ましくは20dmm以下、特に好ましくは15dmm以下である。針入硬度はJIS K2207に準拠して測定することができる。未変性オレフィンワックス(d)の針入硬度が上記範囲内にあると、成形用樹脂組成物の機械的特性が優れる。
【0081】
未変性オレフィンワックス(d)の、135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]が通常0.04〜0.47dl・g−1、好ましくは0.04〜0.30dl・g−1、より好ましくは0.04〜0.20dl・g−1、さらにより好ましくは0.05〜0.18dl・g−1の範囲である。未変性オレフィンワックス(d)の極限粘度[η]が上記範囲内にあると、変性時のハンドリング性に優れる。
【0082】
1−4−2.酸変性オレフィンワックス(D1)
オレフィンワックス(D)の第一の態様は、未変性オレフィンワックス(d)の酸変性オレフィンワックス(D1)でありうる。酸変性オレフィンワックス(D1)は、カルボキシル基および/またはカルボキシル誘導体基を有する。カルボキシル基および/またはカルボキシル誘導体基は、酸変性オレフィンワックス(D1)のいずれの部分に結合していてもよい。酸変性オレフィンワックス(D1)におけるカルボキシル基および/またはカルボキシル誘導体基の濃度は特に限定されないが、酸変性オレフィンワックス(D1)に対して、0.1〜6meq/gの範囲が好ましい。0.1meq/gより低いと、樹脂組成物の剛性および耐衝撃性が十分に改善されないことがある。6meq/gより高いと、酸変性オレフィンワックス(D1)の熱安定性が低下することがある。
【0083】
酸変性オレフィンワックス(D1)は、未変性オレフィンワックス(d)をカルボキシル基および/またはカルボキシル誘導体基を有する化合物で変性して得られる。カルボキシル誘導体基とは、カルボン酸無水物基、カルボン酸の塩、カルボン酸アルキルエステル/アリールエステルなどが含まれる。
【0084】
カルボキシル基および/またはカルボキシル誘導体基を有する化合物の例には、カルボン酸基を1以上有する不飽和化合物、無水カルボン酸基を1以上有する不飽和化合物、およびその誘導体が含まれる。不飽和基としては、ビニル基、ビニレン基、不飽和環状炭化水素基などを挙げることができる。
【0085】
カルボキシル基および/またはカルボキシル誘導体基を有する化合物の具体例には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ノルボルネンジカルボン酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸などの不飽和カルボン酸、またはこれらの酸無水物あるいはこれらの誘導体(例えば酸ハライド、アミド、イミド、エステルなど)が含まれる。さらに、具体的な化合物の例には、塩化マレニル、マレニルイミド、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物、マレイン酸モノメチル、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよびヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどが含まれる。
【0086】
カルボキシル基および/またはカルボキシル誘導体基を有する化合物の更に好ましい例には、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−トが含まれる。更には、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物などのジカルボン酸無水物であることが特に好ましい。カルボキシル基および/またはカルボキシル誘導体基を有する化合物は、1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。
【0087】
酸変性オレフィンワックス(D1)は市販品であってもよい。市販品の酸変性オレフィンワックス(D1)の例には、ダイヤカルナ−PA30(三菱化学(株))、ハイワックス酸処理タイプの2203A、1105A(三井化学(株))および酸化パラフィン(日本精蝋(株))などが含まれる。
【0088】
酸変性オレフィンワックス(D1)は、カルボキシル基および/またはカルボキシル誘導体基を有する化合物とともに、スチレン系モノマーで変性されていてもよい。スチレン系モノマーの例には、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン等が含まれる。なかでも未反応物除去の観点からスチレンが好ましい。
【0089】
酸変性オレフィンワックス(D1)は、未変性オレフィンワックス(d)を、カルボキシル基および/またはカルボキシル誘導体基を有する化合物および必要に応じて他の変性モノマー(スチレン系モノマーなど)で、グラフト反応させて得られうる。
【0090】
酸変性オレフィンワックス(D1)の製造方法は特に限定されず、従来公知の種々の方法を利用することができる。未変性オレフィンワックス(d)と、カルボキシル基および/またはカルボキシル誘導体基を有する化合物および必要に応じて他の変性モノマー(スチレン系モノマーなど)と、有機過酸化物と、を同時または逐次的に溶融混練することによって得られる。
【0091】
溶融混練は、例えば、ヘンシェルミキサー、V型ブレンダー、タンブラーブレンダー、リボンブレンダーなどに装入して混練した後、単軸押出機、多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどで溶融混練する。これらのうちでも、オートクレーブなどのバッチ式溶融混練性能に優れた装置を使用すると、各成分がより均一に分散・反応した酸変性オレフィンワックス(D1)を得ることができる。連続式に比べ、バッチ式は滞留時間の調整がしやすく、また滞留時間を長く取れるため変性率及び変性効率を高めることが比較的容易であり、本発明においては最も好ましい態様である。
【0092】
酸変性オレフィンワックス(D1)が、不飽和カルボン酸誘導体系モノマーとスチレン系モノマーとでグラフト変性されている場合には、そのグラフト量比「(不飽和カルボン酸誘導体系モノマー)/(スチレン系モノマー)」は0.01〜1であることが好ましく、0.03〜0.8であることがより好ましく、0.05〜0.6であることが特に好ましい。グラフト量比が0.01より小さい場合、不飽和カルボン酸誘導体系モノマーの無機強化材表面への相互作用が少なくなるため耐衝撃性が向上しにくい。またグラフト量比が1より大きい場合、変性オレフィンワックス(D1)の溶融粘度が高くなるため製造が困難である。
【0093】
酸変性オレフィンワックス(D1)における、オレフィンワックス(D)に対するスチレン系モノマーのグラフト量比「スチレン系モノマー/オレフィンワックス(D)」は0.05〜3であることが好ましく、0.07〜2.5であることがより好ましく、0.1〜2であることが特に好ましい。グラフト量比が上記範囲内にあると、変性オレフィンワックス(D1)の熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂への分散性が良くなり、表面光沢性、衝撃性に優れる成形用樹脂組成物を得ることができる。
【0094】
1−4−3.カルボジイミド変性オレフィンワックス(D2)
オレフィンワックス(D)の第二の態様は、未変性オレフィンワックス(d)のカルボジイミド変性オレフィンワックス(D2)でありうる。カルボジイミド変性オレフィンワックス(D2)は、未変性オレフィンワックス(d)とカルボジイミド基と反応する官能基を有する化合物とを反応させて、カルボジイミド基と反応する基を有するオレフィンワックス(d’)を得て;さらに、カルボジイミド基と反応する基を有するオレフィンワックス(d’)とカルボジイミド基含有化合物とを反応させて得られる。
【0095】
カルボジイミド基と反応する官能基を有する化合物としては、カルボジイミド基との反応性を有する活性水素を持つ基を有する化合物が挙げられる。具体的には、カルボン酸、アミン、アルコ−ル、チオ−ル等の官能基を有する化合物である。これらの中では、カルボン酸から由来する基を持つ化合物が好適に用いられ、中でも特に不飽和カルボン酸および/またはその誘導体が好ましい。また、活性水素を持つ基を有する化合物以外でも、水などにより容易に活性水素を有する基に変換される基を有する化合物も好ましく使用することができ、具体的にはエポキシ基、グリシジル基を有する化合物が挙げられる。本発明において、カルボジイミド基と反応する官能基を有する化合物は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0096】
カルボジイミド基と反応する官能基を有する化合物として用いられる不飽和カルボン酸および/またはその誘導体は、カルボン酸基を1以上有する不飽和化合物、無水カルボン酸基を1以上有する不飽和化合物およびその誘導体などでありうる。不飽和基としては、ビニル基、ビニレン基、不飽和環状炭化水素基などを挙げることができる。
【0097】
カルボジイミド基と反応する官能基を有する化合物の具体例には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ノルボルネンジカルボン酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸などの不飽和カルボン酸、またはこれらの酸無水物あるいはこれらの誘導体(例えば酸ハライド、アミド、イミド、エステルなど)が挙げられる。さらに、具体的な化合物の例には、塩化マレニル、マレニルイミド、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸無水物、マレイン酸ジメチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジエチル、フマル酸ジエチル、イタコン酸ジメチル、シトラコン酸ジエチル、テトラヒドロフタル酸ジメチル、ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸ジメチル、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−ト、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレ−ト、グリシジル(メタ)アクリレ−ト、メタクリル酸アミノエチルおよびメタクリル酸アミノプロピルなどが含まれる。
【0098】
カルボジイミド基と反応する官能基を有する化合物である不飽和カルボン酸および/またはその誘導体は、1種単独であっても、2種以上を組み合せて使用することもできる。中でも、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−ト、グリシジルメタクリレ−ト、メタクリル酸アミノプロピルが好ましい。更には、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物などのジカルボン酸無水物であることが特に好ましい。
【0099】
未変性オレフィンワックス(d)に、カルボジイミド基と反応する官能基を有する化合物を導入するために、周知の方法を採用することが可能である。例えば、未変性オレフィンワックス(d)にカルボジイミド基と反応する官能基を有する化合物をグラフト共重合させたり、未変性オレフィンワックス(d)とカルボジイミド基と反応する官能基を有する化合物をラジカル共重合する方法等を例示することができる。
【0100】
グラフト共重合方法
カルボジイミド基と反応する官能基を有するオレフィンワックス(d’)をグラフト共重合により得る場合には、未変性オレフィンワックス(d)に、カルボジイミド基と反応する官能基を有する化合物と、必要に応じてその他のエチレン性不飽和単量体等とを、ラジカル開始剤の存在下でグラフト共重合する。カルボジイミド基と反応する官能基を有する化合物を、未変性オレフィンワックス(d)にグラフト変性させる反応条件は特に限定されず、溶液法、有機溶媒に溶解させる方法、溶融混練法等、従来公知のグラフト重合法を採用することができる。
【0101】
ラジカル共重合方法
カルボジイミド基と反応する官能基を有するオレフィンワックス(d’)は、オレフィンとカルボジイミド基と反応する官能基を有する化合物とをラジカル共重合することによって得ることもできる。オレフィンとしては、上述のグラフト主鎖となるポリオレフィン(d)を形成する場合のオレフィンと同一のものを採用することが可能であり、また、カルボジイミド基と反応する官能基を有する化合物も上述の通りである。ラジカル共重合は、従来公知のラジカル共重合法の条件を採用することができる。
【0102】
オレフィンワックス(d’)における、一分子鎖中のカルボジイミド基と反応する官能基の個数は「Mn/(100×f/M)」で表される。Mnはオレフィンワックス(d’)の数平均分子量であり、fはカルボジイミド基と反応する基の分子量であり、Mはオレフィンワックス(d’)の全体におけるカルボジイミド基と反応する基の含有率(wt%)である。オレフィンワックス(d’)における、一分子鎖中のカルボジイミド基と反応する官能基の個数は0.1〜2であることが好ましく、0.1〜1.4であることがより好ましく、0.2〜0.7であることが特に好ましい。
【0103】
オレフィンワックス(d’)における、一分子鎖中のカルボジイミド基と反応する官能基の個数が上記範囲を満たすと、オレフィンワックス(d’)とカルボジイミド基含有化合物との反応が円滑に進行し、かつ得られる成体の表面外観が改善し(表面光沢性が向上し)、耐衝撃性が高まる。さらには、成形体の金型からの離型性が改善される。
【0104】
カルボジイミド基と反応する官能基を有するオレフィンワックス(d’)中の、カルボジイミド基と反応する官能基の含有量が上記範囲を超えて過剰となると、カルボジイミド基と反応する官能基同士がカルボジイミド基含有化合物を介して架橋されて、カルボジイミド変性オレフィンワックス(D2)を製造することが困難となる場合がある。また上記範囲以下であると、カルボジイミド変性オレフィンワックス(D2)の製造は可能であるものの、カルボジイミド変性オレフィンワックス(D2)の骨格となるカルボジイミド基含有化合物とオレフィン樹脂との結合部分が少なくなるため、上述の効果を十分に向上させることができない。
【0105】
オレフィンワックス(d’)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した数平均分子量(Mn)は400〜5,000、好ましくは500〜4,000、より好ましくは1,000〜3,000の範囲にある。数平均分子量(Mn)が上記範囲にあると、安定的に製造することができるだけでなく、樹脂組成物中でのカルボジイミド変性オレフィンワックス(D2)の分散性が優れる。
【0106】
オレフィンワックス(d’)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は1.5〜5.5、好ましくは1.6〜4.0、より好ましくは1. 7〜3.5の範囲にある。オレフィンワックス(d’)のMw/Mnが上記範囲にあると、本発明の成形用樹脂組成物の成形時の流動性と、カルボジイミド変性オレフィンワックス(D2)の成形体表面へのブリードアウトが抑制される。
【0107】
オレフィンワックス(d’)の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリエチレン換算の値であり、GPCによる測定は、温度:140℃、溶媒:オルトジクロロベンゼンの条件下で行われる。
【0108】
変性オレフィンワックス(d’)の135℃デカリン中で測定される極限粘度[η]は0.04〜0.47dl・g−1、好ましくは0.03〜0.47dl・g−1、より好ましくは0.04〜0.30dl・g−1、さらに好ましくは0.05〜0.18dl・g−1の範囲である。極限粘度[η]が上記範囲にあると、変性反応の際のハンドリング性に優れる。
【0109】
変性オレフィンワックス(d’)の示差走査熱量計(DSC)で測定される融点は65〜135℃、好ましくは70〜120℃、より好ましくは80〜110℃の範囲にある。融点が上記範囲にあると、変性反応の際のハンドリング性に優れ、また成形品の離型性も改善される。
【0110】
オレフィンワックス(d’)の密度勾配管法で測定した密度は870〜980kg/m、好ましくは890〜960kg/m、より好ましくは910〜940kg/mの範囲にある。密度が上記範囲にあると、表面のタック感が薄く、機械的特性、耐衝撃性に優れる成形体を得ることができる。
【0111】
オレフィンワックス(d’)の針入度は30dmm以下、好ましくは25dmm以下、より好ましくは20dmm以下、さらに好ましくは10dmm以下である。針入度が上記範囲にあると、成形用樹脂組成物の機械物性に優れる。針入度はJIS K2207に準拠して測定することができる。
【0112】
オレフィンワックス(d’)は、単独であっても複数種の変性オレフィンワックスの混合であっても、他の通常離型剤として用いられるワックス類と混合して用いても差し支えない。
【0113】
カルボジイミド変性オレフィンワックス(D2)は、カルボジイミド基と反応する官能基を有するオレフィンワックス(d’)とカルボジイミド基含有化合物とを反応させて製造される。
【0114】
カルボジイミド基含有化合物は、下記一般式(1)で示される繰り返し単位を有するポリカルボジイミドである。
−N=C=N− (1)
【0115】
カルボジイミド基含有化合物は、ポリカルボジイミド化合物であってもよい。ポリカルボジイミド化合物は、ポリカルボジイミドが1残基のみの場合でもよく、単独又は複数の種類のカルボジイミド基含有化合物を混合して使用することも可能である。
【0116】
カルボジイミド基含有化合物の合成法は特に限定されない。例えば、有機ポリイソシアネ−トを、イソシアネ−ト基のカルボジイミド化反応を促進する触媒の存在下で反応させて、カルボジイミド基含有化合物を合成することができる。また、市販のカルボジイミド基含有化合物を使用することも可能である。市販のカルボジイミド基含有化合物としては、日清紡績株式会社製 カルボジライトHMV−8CAやLA1(いずれも商品名)などが挙げられる。
【0117】
カルボジイミド基含有化合物の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めたポリスチレン換算数平均分子量(Mn)は、通常400〜500,000、好ましくは1,000〜10,000、更に好ましくは2,000〜4,000である。数平均分子量(Mn)がこの範囲にあると、フィラーの補強性や分散性の向上効果に優れたカルボジイミド変性オレフィンワックス(D2)が得られる。GPC測定は、Waters515[カラム;Shodex GPC K−806L + K−806L],溶媒;クロロホルムを用い、温度;40℃,検出機;示屈折率, 単分散ポリスチレンを基準として測定することができる。
【0118】
カルボジイミド基含有化合物の繰り返し単位数は、2〜15量体であることが好ましく、3〜13量体であることがより好ましく、3〜11量体であることが特に好ましい。
【0119】
カルボジイミド変性オレフィンワックス(D2)のカルボジイミド当量は、通常、0.1〜5であり、好ましくは0.3〜4であり、より好ましくは0.5〜3である。この当量が上記範囲よりも小さいと、カルボジイミド変性オレフィンワックス(D2)と無機強化(B)との相互作用が発現しにくくなり、樹脂成形体の表面外観の悪化などにつながる。カルボジイミド当量が大きいと、相対的にオレフィン割合が少なくなり、離型効果が得られない。
【0120】
カルボジイミド変性オレフィンワックス(D2)におけるカルボジイミド基含有量は、カルボジイミド当量として、13C−NMR、IR、滴定法等により測定できる。同様に、カルボジイミド基化合物(E)におけるカルボジイミド基含有量も、カルボジイミド当量として、13C−NMR、IR、滴定法等により測定できる。
【0121】
カルボジイミド当量を13C−NMR測定を用いて求める場合は、次のようにして行われる。試料0.35gをヘキサクロロブタジエン2.0mlに加熱溶解させる。この溶液をグラスフィルター(G2)で濾過した後、重水素化ベンゼン0.5mlを加え、内径10mmのNMRチューブに装入する。そして日本電子製GX−500型NMR測定装置を用い、120℃で13C−NMR測定を行う。積算回数は、10,000回以上とする。130〜142ppmのシグナルより、カルボジイミド当量を求める。
【0122】
カルボジイミド当量をIR測定を用いて求める場合は、次のようにして行われる。試料を250℃、3分で熱プレスシ−トを作製した後に、赤外分光光度計(日本分光製、FT‐IR 410型)を用いて透過法で赤外吸収スペクトルを測定する。測定条件は、分解能を2cm−1、積算回数を32回とする。IRでは2130〜2140cm−1の吸収を利用して観察することができる。
【0123】
前述の通り、カルボジイミド変性オレフィンワックス(D2)は、カルボジイミド基と反応する官能基を有する変性オレフィンワックス(d’)とカルボジイミド基含有化合物とを反応させて製造される。その製造方法は特に限定されず、従来公知の種々の方法にしたがって行うことができる。例えば、オートクレーブ等を用いたバッチ式の変性方法や、押出機等を用いた連続式の変性が挙げられる。
【0124】
以下に、連続式溶融混練する場合の例を示す。カルボジイミド基と反応する官能基を有する変性オレフィンワックス(d’)とカルボジイミド基含有化合物を同時に、または逐次的に、たとえば、ヘンシェルミキサ−、V型ブレンダー、タンブラーブレンダー、リボンブレンダーなどに装入して混練した後、単軸押出機、多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどで溶融混練することによって得られる。これらのうちでも、多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどの混練性能に優れた装置を使用すると、各成分がより均一に分散・反応された重合体組成物を得ることができるため好ましい。
【0125】
以下に、バッチ式溶融混練する場合の例を示す。オレフィンワックス(d’)とカルボジイミド基含有化合物を同時に、または逐次的に、例えばオートクレーブ等の釜で溶融混練することで得られる。連続式に比べ、バッチ式では滞留時間の調整がしやすく、また滞留時間を長く取れるため変性率及び変性効率を高めることが比較的容易であり、本発明においては望ましい態様である。
【0126】
カルボジイミド基と反応する官能基を有する変性オレフィンワックス(d’)に対するカルボジイミド基含有化合物の変性量は、変性オレフィンワックス(d’)100重量部に対して、2〜60重量部であることが好ましく、さらに好ましくは2〜30重量部である。変性割合が上記範囲よりも小さいと、カルボジイミド変性オレフィンワックス(D2)と無機強化材(B)との相互作用が発現しにくくなる。そのため、樹脂成形体の表面の外観の悪化などにつながる。変性割合が上記範囲よりも大きいと、相対的にオレフィン成分の割合が少なくなり、金型離型効果が得られない。
【0127】
1−4−4.酸化オレフィンワックス(D3)
オレフィンワックス(D)の第三の態様は、未変性オレフィンワックス(d)の酸化オレフィンワックス(D3)でありうる。酸化オレフィンワックス(D3)は、未変性オレフィンワックス(d)を酸素含有ガスと接触させることにより得られる。酸素含有ガスは、純酸素(液体空気分留または水の電解によって得られ、酸素が不純物として含む程度の他成分を含んでいても差し支えない)であってもよく、純酸素と他のガスとの混合ガスたとえば空気、およびオゾンを含んでいてもよい。酸化オレフィンワックス(D3)は、カルボキシル基、カルボニル基および/または水酸基を有する。カルボキシル基、カルボニル基および/または水酸基は、酸化オレフィンワックス(D3)のいずれの部分に結合していてもよい。酸化オレフィンワックス(D3)におけるカルボキシル基、カルボニル基および/または水酸基の濃度は特に限定されないが、酸化オレフィンワックス(D3)に対して、0.1〜6meq/gの範囲が好ましい。前記濃度が0.1meq/gより低いと、樹脂組成物の成形体の剛性および耐衝撃性が十分に改善されないことがある。前記濃度が6meq/gより高いと、酸化オレフィンワックス(D3)の熱安定性が低下することがある。
【0128】
酸化オレフィンワックス(D3)は市販品であってもよい。市販品の酸化オレフィンワックス(D3)の例には、サンワックス(三洋化成工業(株))、PETROLITE(BAKER HUGHES)、LICOWAX(CLARIANT)、VISCOWAX(INNOSPEC LEUNA)などが含まれる。
【0129】
本発明の成形用樹脂組成物におけるオレフィンワックス(D)の含有量は、樹脂(A)と無機強化材(B)と官能基含有オレフィン重合体(C)の合計100重量部に対して0.01〜10重量部であり、0.05〜8重量部であることが好ましく、0.1〜7重量部であることがより好ましく、0.2〜5重量部であることがさらに好ましい。0.01重量部より少なくなると、良好な成形性や耐衝撃性が得ることが難しく、10重量部より多くなると、樹脂組成物の成形体の機械物性が低下しやすい。
【0130】
また、本発明の成形用樹脂組成物における「オレフィン重合体(C)とオレフィンワックス(D)との合計含有量」は、樹脂(A)と無機強化材(B)と官能基含有オレフィン重合体(C)の合計100重量部に対して、1.01〜56重量部であり、3〜53重量部であることが好ましく、5〜50重量部であることがより好ましい。樹脂(A)と無機強化材(B)の合計割合が相対的に高すぎると、成形物の耐衝撃性や表面光沢性が低下する。また、樹脂(A)と無機強化材(B)の合計割合が相対的に低すぎると、機械特性、特に剛性が低下する。
【0131】
さらに、本発明の成形用樹脂組成物における官能基含有オレフィン重合体(C)とオレフィンワックス(D)との含有比「C/D」は0.1〜30であり、1.1〜25であることが好ましく、1.2〜20であることがより好ましく、1.5〜15であることが特に好ましい。オレフィン重合体(C)の割合が相対的に高すぎると、成形物の耐衝撃性が低くなったり、成形物を金型から剥離するときの離型性が悪化したりすることがある。また、オレフィンワックス(D)の割合が相対的に高すぎると、分子量の低いオレフィンワックス(D)が成形時に成形体表面にはじき出されると同時に、無機強化材(B)も成形体表面に同伴されることで成形体の表面光沢性が低下しやすい。
【0132】
1−5.任意成分
本発明の樹脂組成物には、本発明の目的および効果を損なわない範囲で任意の添加剤、たとえば臭素化ビスフェノール、臭素化エポキシ樹脂、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリカーボネート、トリフェニルホスフェート、ホスホン酸アミドおよび赤燐等のような難燃剤;三酸化アンチモンおよびアンチモン酸ナトリウム等のような難燃助剤;燐酸エステルおよび亜燐酸エステル等のような熱安定剤;ヒンダードフェノール等のような酸化防止剤;耐熱剤;耐候剤;光安定剤;離型剤;流動改質剤;着色剤;滑剤;帯電防止剤;結晶核剤;可塑剤;発泡剤;軟化剤;充填剤;等を必要に応じてその有効発現量配合してもよい。
【0133】
2.成形用樹脂組成物の製造方法
本発明の成形用樹脂組成物は、任意の種々の方法を利用して製造することができる。例えば、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂から選択される少なくとも1種の樹脂(A)と、無機強化材(B)と、オレフィン重合体(C)と、オレフィンワックス(D)と、他の任意成分とを、同時にまたは任意の順序で、タンブラーブレンダー、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、単軸或いは二軸の押出機などで混合する方法が適宜用いられる。
【0134】
成形用樹脂組成物へのオレフィンワックス(D)の添加方法として、予め無機強化材(B)にオレフィンワックス(D)を付着・含浸させ、これを成形用樹脂組成物に添加してもよい。無機強化材(B)が連続繊維状である場合には、予め繊維束と油剤、サイジング材、マトリックス樹脂とを接触させておき、無機強化材(B)にオレフィンワックス(D)を付着・含浸させてもよい。
【0135】
無機強化材(B)にオレフィンワックス(D)を付着させる方法は特に限定されないが、例えば、オレフィンワックス(D)のエマルジョン、サスペンジョン、溶液あるいは融液を入れた含浸浴の中に、無機強化材(B)を含む連続ロービングを通して、無機強化材(B)にオレフィンワックス(D)を付着させる方法;リバースロール、正回転ロール、キスロール、スプレイ、カーテンで、無機強化材(B)にオレフィンワックス(D)をコーティングする方法;オレフィンワックス(D)の粉末を、無機強化材(B)を含む連続ロービングに吹きつけるか、オレフィンワックス(D)粉末を入れた槽の中に無機強化材(B)を含む連続ロービングを通し、無機強化材(B)にオレフィンワックス(D)粉末を付着させた後溶融させる方法;クロスヘッドの中に、無機強化材(B)を含む連続ロービングを通しながら押出機などからクロスヘッドにオレフィンワックス(D)を供給する方法、などが挙げられる。
【0136】
無機強化材(B)にオレフィンワックス(D)を含浸させる方法は特に限定されないが、例えば、オレフィンワックス(D)が溶融する温度において、ロールやバーで無機強化材(B)に張力をかけたり、拡幅と集束を繰り返したり、圧力や振動を加えるなどの操作でオレフィンワックス(D)を無機強化材(B)の内部まで含浸させる方法でありうる。より具体的な例として、加熱された複数のロールやバーの表面に繊維束を接触するように通して、拡幅させて、オレフィンワックス(D)を含浸させる方法等でありうる。なかでも、絞り口金、絞りロール、ロールプレス、ダブルベルトプレスを用いて、オレフィンワックス(D)を無機強化材(B)に含浸させる方法が好適に用いられる。
【0137】
絞り口金とは、進行方向に向かって口金径の狭まる口金のことであり、強化繊維束を集束させながら、無機強化材(B)に余分に付着したオレフィンワックス(D)を掻き取ると同時に、含浸を促すことができる口金である。また、絞りロールとは、ローラーで無機強化材(B)の強化繊維束に張力をかけることで、無機強化材(B)に余分に付着したオレフィンワックス(D)を掻き取ると同時に、含浸を促すことができるローラーである。また、ロールプレスは、2つのロール間の圧力で連続的に無機強化材(B)の強化繊維束内部の空気を除去すると同時に、含浸を促す装置である。ダブルベルトプレスとは、無機強化材(B)の強化繊維束の上下からベルトを介してプレスすることで、含浸を促す装置である。
【0138】
また、無機強化(B)が連続繊維状ではない場合でも、溶融または水・各種溶媒に分散または溶解させたオレフィンワックス(D)と無機強化材(B)とを混合し、水・各種溶媒を用いた場合はそれを除去することで、オレフィンワックス(D)を無機強化材(B)に含浸・付着させることができる。
【0139】
また本発明の成形用樹脂組成物は、オレフィン重合体(C)とオレフィンワックス(D)とを含むマスターバッチを用意する工程と、マスターバッチと、樹脂(A)と、無機強化材(B)とを溶融混練する工程と、を含んでいてもよい。
【0140】
マスターバッチには、オレフィン重合体(C)とオレフィンワックス(D)とが含まれる。本発明の成形用樹脂組成物において、オレフィン重合体(C)とオレフィンワックス(D)とを均一に分散させにくい場合がある。そこで、オレフィン重合体(C)とオレフィンワックス(D)とを含むマスターバッチを調製し、さらにマスターバッチと樹脂(A)と無機強化材(B)とを混合させることで、均一に分散させることができる。また、オレフィンワックス(D)の無機強化材(B)への被覆率が向上し、無機強化材(B)が成形体の表面から突出しにくくなる。そのため、成形体の表面光沢性が高まり、成形体の美観や意匠性が改善される。
【0141】
また、オレフィン重合体(C)とオレフィンワックス(D)とを含むマスターバッチは、オレフィン重合体(C)やオレフィンワックス(D)よりも耐熱性が向上する。耐熱性が向上する機構は明らかになっていないが、オレフィン重合体(C)とオレフィンワックス(D)とが溶融混練されることによって架橋反応し、揮発しやすい低分子量成分が減少するためであると考えられる。そして、オレフィン重合体(C)とオレフィンワックス(D)とを含むマスターバッチを使用した成用樹脂組成物は、マスターバッチを経由せずに調製した成用樹脂組成物に比べて耐熱性が向上する。耐熱性が高いことは、熱可塑性樹脂としてエンジニアリングプラスチック、特に耐熱性が要求されるスーパーエンジニアリングプラスチックを用いる場合、発煙や焼焦げの発生が抑えられるため有用である。
【0142】
前記マスターバッチの熱重量測定・示差熱分析(TG−DTA)による5%熱減量温度と官能基含有オレフィン重合体(C)またはオレフィンワックス(D)の5%熱減量温度との差は20℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましい。つまり、マスターバッチの5%熱減量温度とオレフィン重合体(C)の5%熱減量温度との差、及びマスターバッチの5%熱減量温度とオレフィンワックス(D)の5%熱減量温度との差のうち、少なくとも一方が20℃以上であることが好ましい。通常、マスターバッチの5%熱減量温度のほうが、官能基含有オレフィン重合体(C)またはオレフィンワックス(D)の5%熱減量温度より高い。そして、当該温度差が20℃以上であることは、マスターバッチとすることによって、耐熱性が高まったことを示す。5%熱量温度は、熱重量測定・示差熱分析(TG−DTA)計により測定され、昇温によって重量が5%減量する温度である。
【0143】
マスターバッチにおけるオレフィン重合体(C)とオレフィンワックス(D)との重量比C/Dは0.1〜30であり、1〜25であることが好ましく、2〜20であることがより好ましい。オレフィン重合体(C)の割合が相対的に高すぎると、成形物の耐衝撃性が低くなったり、成形物を金型から剥離するときの離型性が悪化したりすることがある。また、オレフィンワックス(D)の割合が相対的に高すぎると、溶融粘度が低いためマスターバッチを製造し難い。さらに、成形体の表面外観が悪化し、例えば光沢性が低下しやすい。
【0144】
また、マスターバッチには、少量の樹脂(A)が含まれていてもよいし、前述の任意成分が含まれていてもよい。マスターバッチは、各成分をタンブラーブレンダー、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、単軸或いは二軸の押出機などで混合して製造されうる。
【0145】
次に、マスターバッチと、樹脂(A)と、無機強化材(B)とを溶融混練することで本発明の成形用樹脂組成物が得られる。
【0146】
3.成形用樹脂組成物の用途
本発明の樹脂組成物は、それを成形することで成形体として用いることができる。成形の方法は特に限定されないが、例えば射出成形、押出成形および圧縮成形などにより成形され、意匠性と成形性の観点から射出成形が好ましい。
【0147】
本発明の樹脂組成物は、家庭用品から工業用品に至る広い用途の成形体に成形されうる。成形体の例には、電気部品、電子部品、自動車用部品、機械機構部品、食品容器、フィルム、シート、繊維などが挙げられる。より具体的には、例えば、プリンター、パソコン、ワープロ、キーボード、PDA(小型情報端末機)、電話機、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末、WiFiルーター、ファクシミリ、複写機、ECR(電子式金銭登録機)、電卓、電子手帳、電子辞書、カード、ホルダー、文具等の事務・OA機器;洗濯機、冷蔵庫、掃除機、電子レンジ、照明器具、ゲーム機、アイロン、炬燵などの家電機器;TV、VTR、ビデオカメラ、デジタルカメラ、一眼レフカメラ、携帯オーディオ端末、ラジカセ、テープレコーダー、ミニディスク、CDプレイヤー、スピーカー、液晶ディスプレイなどのAV機器;コネクター、リレー、コンデンサー、スイッチ、プリント基板、コイルボビン、半導体封止材料、電線、ケーブル、トランス、偏向ヨーク、分電盤、時計などの電気・電子部品および通信機器などが挙げられる。
【0148】
また、座席(詰物、表地など)、ベルト、天井張り、コンパーチブルトップ、アームレスト、ドアトリム、リアパッケージトレイ、カーペット、マット、サンバイザー、ホイルカバー、タイヤ、マットレスカバー、エアバック、絶縁材、吊り手、吊り手帯、電線被材、電気絶縁材、塗料、コーティング材、上張り材、床材、隅壁、デッキパネル、カバー類、合板、天井板、仕切り板、側壁、カーペット、壁紙、壁装材、外装材、内装材、屋根材、防音板、断熱板、窓材などの自動車、車両、船舶、航空機および建築用材料;衣類、カーテン、シーツ、合板、合繊板、絨毯、玄関マット、シート、バケツ、ホース、容器、眼鏡、鞄、ケース、ゴーグル、スキー板、ラケット、テント、楽器などの生活・スポーツ用品などが挙げられる。
【0149】
さらには、シャンプーや洗剤などのボトル、食用油、醤油などの調味料ボトル、ミネラルウォーターやジュースなどの飲料用ボトル、弁当箱、茶碗蒸し用椀などの耐熱食品用容器、皿、箸などの食器類、その他各種食品容器や、包装フィルム、包装袋などが挙げられる。
【実施例】
【0150】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0151】
官能基含有オレフィン重合体(C)として、以下のものを使用した。
(C−1)メタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体
カネエースM−711:MFR0.3kg/10min(200℃,5kg),Tg−80℃,密度951kg/m,5%熱減量温度320℃
(C−2)アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体
テクノABS130:MFR18kg/10min(220℃,10kg),Tg−80℃,密度1050kg/m
(C−3)アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体
テクノABS350:MFR55kg/10min(220℃,10kg),Tg−80℃,密度1040kg/m
(C−4)メタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体
カネエースM−511:MFR4.3kg/10min(200℃,5kg),Tg−79℃,密度948kg/m,5%熱減量温度329℃
(C−5)メタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体
メタブレンC−223A:MFR3.3kg/10min(200℃,5kg),Tg−79℃,密度950kg/m,5%熱減量温度321℃
(C−6)メタクリレート・スチレン共重合体
カネエースFM−40:MFR8.0kg/10min(200℃,5kg),Tg−42℃,密度1000kg/m,5%熱減量温度281℃
(C−7)メタクリレート・ジメチルシロキサン・スチレン共重合体
カネエースMR−01:MFR10.0kg/10min(200℃,5kg),Tg−125℃,密度1080kg/m,5%熱減量温度286℃
【0152】
酸素、窒素から選ばれる元素を有する基を含むオレフィンワックス(D)としては、酸変性ポリエチレンワックスであるハイワックス1105A(三井化学(株))を用いた。
【表1】
【0153】
ハイワックス1105Aの各物性は以下の方法で分析した。
<密度>
JISK7112に準じて、密度勾配管を用いて測定した。
<融点>
SII社製のDSC(RDC220)を用い、50℃/分で200℃まで昇温し、20℃/分で30℃まで降温して5分保持後、10℃/分で200℃以上まで測定した。ピークが2つ以上ある場合は最も強度が高いピークを融点とした。
<数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)>
カルボジイミド基と反応する官能基を有する変オレフィンワックス(D)の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)は、GPC測定から求めた。GPC測定は以下の条件で行った。また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)は、市販の単分散標準ポリスチレンを用いて検量線を作成し、下記の換算法に基づいて求めた。
・装置:ゲル浸透クロマトグラフAlliance GPC2000型(Waters社製)
・溶剤:o−ジクロロベンゼン
・カラム:TSKgel GMH6−HT×2、TSKgel GMH6−HTLカラム×2(何れも東ソー(株))
・流速:1.0 ml/分
・試料:0.15mg/mL o−ジクロロベンゼン溶液
・温度:140℃
・分子量換算 :PE換算/汎用較正法
なお、汎用較正の計算には、Mark−Houwink粘度式の係数を用いた。PS、PEのMark−Houwink係数はそれぞれ、文献(J.Polym.Sci.,PartA−2,8,1803 (1970)、Makromol.Chem.,177, 213 (1976))に記載の値を用いた。
<酸価>
JIS K5902に従って測定した。
【0154】
比較例9
芳香族ポリカーボネート樹脂(帝人(株):パンライトL−1225Y,5%熱減量温度480℃)80重量部、ポリカーボネート用グラスファイバー(日東紡(株):チョップドストランドCS(F)3PE455S)10重量部、メタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体((株)カネカ:カネエースM−711)10重量部、および酸変性ポリエチレンワックス(三井化学(株):ハイワックス1105A)0.5重量部を、同方向回転二軸押出機 HK25D((株)パーカーコーポレーション:φ25mm,L/D=41)を用いて溶融混練して、シリンダー温度280℃のもと押出してペレット化した無機強化材配合組成物を得た。
【0155】
得られたペレットを、120℃で8時間乾燥した後、射出成形機((株)ニイガタマシンテクノ,ニイガタNN100)を用いて、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数60rpm、射出圧力130MPa、金型温度90℃の条件で射出成形して、各JIS試験に従い試験片を作製した。作製した試験片の各物性を、下記に示す方法で評価した。
【0156】
(a)シャルピー衝撃試験
作製した試験片を、JIS K−7111に基づき、ハンマー重量2J、ハンマー回転周りのモーメント1.08N・J、ハンマー持ち上げ角度50°、衝撃速度2.9m/s、回転軸から打撃点までの距離0.23mの条件でシャルピー衝撃値を測定した。
(b)曲げ試験
作製した試験片を、JIS K−7171に準じて、荷重レンジ50kg、試験速度2mm/min、曲げスパン64mmの条件で弾性率および強度を測定した。
(c)引張試験
作製した試験片を、JIS K−7162−1Aに基づき、荷重レンジ1000kg、試験速度500mm/min、つかみスパン115mmの条件で降伏・破断強度および伸びを測定した。
(d)表面光沢評価
作製した試験片(100mm×100mm×4mm)の60°反射率を、GLOSS METER GM−3D (MURAKAMI Color Lab.製)を用いて測定した。ゲート付近を裏表、計5点ずつ測定した平均値を算出した。
(e)金型離型性評価
射出成形機を用いてコップ型成形体(φ50×50×1.6mm)を作製した。金型剥離のため、成形品を4本の突き出しピンで突き出す際に、ヒビ、変形、コップ底突き抜け等破壊が目視で観察されなかったものを○、ヒビ、変形、破壊が目視で観察されたものを状態に応じて△〜×とした。
(f)耐熱性評価
SII社製のTG−DTA7300を用い、空気流量200mL/分の下、アルミパンに乗せたペレット約10mgを10℃/分で700℃まで昇温したときの重量変化を測定し、5%熱減量温度は昇温によって重量が5%減量した温度を記録した。また5%熱減量率は樹脂(A)及び樹脂組成物の5%熱減量温度と、官能基含有オレフィン重合体(C)及びオレフィンワックス(D)の添加量から、下記式に基づいて算出した。熱減量率は、官能基含有オレフィン重合体(C)及びオレフィンワックス(D)を一定量添加した場合の、樹脂組成物の耐熱性の低下度合いを示す。つまり、熱減量率が少ないほど、官能基含有オレフィン重合体(C)及びオレフィンワックス(D)の添加による影響(耐熱性低下)が少ない。
5%熱減量率={(Aの5%熱減量温度)−(樹脂組成物の5%熱減量温度)}/(CとDの合計添加量)
【0157】
比較例10
酸変性ポリエチレンワックス(三井化学(株):ハイワックス1105A)の添加量を1重量部に変更した以外は、比較例9と同様にしてペレット化し、ガラス繊維強化材配合熱可塑性組成物を得た。比較例9と同様に射出成形を行なって試験片を作製し、同様の評価試験を行なった。
【0158】
比較例11
酸変性ポリエチレンワックス(三井化学(株):ハイワックス1105A)の添加量を3重量部に変更した以外は、比較例9と同様にしてペレット化し、5%熱減量温度が431℃であるガラス繊維強化材配合熱可塑性組成物を得た。比較例9と同様に射出成形を行なって試験片を作成し、同様の評価試験を行なった。
【0159】
比較例12
芳香族ポリカーボネート樹脂(帝人(株):パンライトL−1225Y)70重量部、ポリカーボネート用グラスファイバー(日東紡(株):チョップドストランドCS3PE455S)10重量部、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(テクノポリマー(株):テクノABS130,MFR18)20重量部および酸変性ポリエチレンワックス(三井化学(株):ハイワックス1105A)3重量部を用いて、比較例9と同様にしてペレット化し、ガラス繊維強化材配合熱可塑性組成物を得た。比較例9と同様に射出成形を行なって試験片を作成し、同様の評価試験を行なった。
【0160】
比較例13
芳香族ポリカーボネート樹脂(帝人(株):パンライトL−1225Y)の添加量を60重量部とし、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(テクノポリマー(株):テクノABS130,MFR18)の添加量を30重量部に変更した以外は、比較例12と同様にしてペレット化し、ガラス繊維強化材配合熱可塑性組成物を得た。比較例9と同様に射出成形を行なって試験片を作成し、同様の試験を行なった。
【0161】
比較例14
アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(テクノポリマー(株):テクノABS130,MFR18)を、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(テクノポリマー(株):テクノABS350,MFR55)に変更した以外は、比較例13と同様にしてペレット化し、ガラス繊維強化材配合熱可塑性組成物を得た。比較例9と同様に射出成形を行なって試験片を作成し、同様の試験を行なった。
【0162】
<実施例7>
メタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体((株)カネカ:カネエースM−711)10重量部、および酸変性ポリエチレンワックス(三井化学(株):ハイワックス1105A)3重量部を、同方向回転二軸押出機 HK25D((株)パーカーコーポレーション:φ25mm,L/D=41)を用い、シリンダー温度220℃で押出してマスターバッチを得た。5%熱減量温度は、カネエースM−711が320℃、ハイワックス1105Aが285℃、マスターバッチが352℃であった。
【0163】
メタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体((株)カネカ:カネエースM−711)、および酸変性ポリエチレンワックス(三井化学(株):ハイワックス1105A)を、前述のマスターバッチ13重量部に変更した以外は、比較例9と同様にしてペレット化し、5%熱減量温度が438℃であるガラス繊維強化材配合熱可塑性組成物を得た。比較例9と同様に射出成形を行なって試験片を作成し、同様の試験を行なった。
【0164】
比較例15
芳香族ポリカーボネート樹脂(帝人(株):パンライトL−1225Y)85重量部、ポリカーボネート用グラスファイバー(日東紡(株):チョップドストランドCS(F)3PE455S)10重量部、メタクリレート・スチレン共重合体((株)カネカ:カネエースFM−40)5重量部、および酸変性ポリエチレンワックス(三井化学(株):ハイワックス1105A)1.5重量部に変更した以外は、比較例9と同様にしてペレット化し、ガラス繊維強化材配合熱可塑性組成物を得た。比較例9と同様に射出成形を行なって試験片を作成し、同様の評価試験を行なった。
【0165】
比較例16
メタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体((株)カネカ:カネエースFM−40)をメタクリレート・ジメチルシロキサン・スチレン共重合体((株)カネカ:カネエースMR−01)に変更した以外は、比較例15と同様にしてペレット化し、ガラス繊維強化材配合熱可塑性組成物を得た。比較例9と同様に射出成形を行なって試験片を作製し、同様の評価試験を行なった。
【0166】
<実施例10>
メタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体((株)カネカ:カネエースM−711)、および酸変性ポリエチレンワックス(三井化学(株):ハイワックス1105A)を、実施例7で調製したマスターバッチ6.5重量部に変更した以外は、比較例9と同様にしてペレット化し、ガラス繊維強化材配合熱可塑性組成物を得た。比較例9と同様に射出成形を行なって試験片を作成し、同様の試験を行なった。
【0167】
<実施例11>
メタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体((株)カネカ:カネエースM−511)10重量部、および酸変性ポリエチレンワックス(三井化学(株):ハイワックス1105A)3重量部を、同方向回転二軸押出機 HK25D((株)パーカーコーポレーション:φ25mm,L/D=41)を用い、シリンダー温度220℃で押出してマスターバッチを得た。
【0168】
メタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体((株)カネカ:カネエースM−711)、および酸変性ポリエチレンワックス(三井化学(株):ハイワックス1105A)を、前述のマスターバッチ13重量部に変更した以外は、比較例9と同様にしてペレット化し、ガラス繊維強化材配合熱可塑性組成物を得た。比較例9と同様に射出成形を行なって試験片を作成し、同様の試験を行なった。
【0169】
<実施例12>
メタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体((株)カネカ:カネエースM−711)、および酸変性ポリエチレンワックス(三井化学(株):ハイワックス1105A)を、実施例11で調製したマスターバッチ6.5重量部に変更した以外は、比較例9と同様にしてペレット化し、ガラス繊維強化材配合熱可塑性組成物を得た。比較例9と同様に射出成形を行なって試験片を作成し、同様の試験を行なった。
【0170】
<実施例13>
メタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体(三菱レイヨン(株):メタブレンC−223A)10重量部、および酸変性ポリエチレンワックス(三井化学(株):ハイワックス1105A)3重量部を、同方向回転二軸押出機 HK25D((株)パーカーコーポレーション:φ25mm,L/D=41)を用い、シリンダー温度220℃で押出してマスターバッチを得た。5%熱減量温度は、メタブレンC−223Aが321℃、ハイワックス1105Aが285℃、マスターバッチが360℃であった。
【0171】
メタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体((株)カネカ:カネエースM−711)、および酸変性ポリエチレンワックス(三井化学(株):ハイワックス1105A)を、前述のマスターバッチ13重量部に変更した以外は、比較例9と同様にしてペレット化し、5%熱減量温度が442℃であるガラス繊維強化材配合熱可塑性組成物を得た。比較例9と同様に射出成形を行なって試験片を作成し、同様の試験を行なった。
【0172】
<実施例14>
メタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体((株)カネカ:カネエースM−711)、および酸変性ポリエチレンワックス(三井化学(株):ハイワックス1105A)を、実施例13で調製したマスターバッチ6.5重量部に変更した以外は、比較例9と同様にしてペレット化し、ガラス繊維強化材配合熱可塑性組成物を得た。比較例9と同様に射出成形を行なって試験片を作成し、同様の試験を行なった。
【0173】
<比較例1>
芳香族ポリカーボネート樹脂(帝人(株):パンライトL−1225Y)を90重量部に変更し、メタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体((株)カネカ:カネエースM−711)および酸変性ポリエチレンワックス(三井化学(株):ハイワックス1105A)を添加しないこと以外は、比較例9と同様にしてペレット化し、ガラス繊維強化材配合熱可塑性組成物を得た。比較例9と同様に射出成形を行なって試験片を作成し、同様の試験を行なった。
【0174】
<比較例2>
芳香族ポリカーボネート樹脂(帝人(株):パンライトL−1225Y)を90重量部に変更し、メタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体((株)カネカ:カネエースM−711)を添加しないこと以外は、比較例11と同様にしてペレット化し、5%熱減量温度が410℃であるガラス繊維強化材配合熱可塑性組成物を得た。比較例9と同様に射出成形を行なって試験片を作成し、同様の試験を行なった。
【0175】
<比較例3>
芳香族ポリカーボネート樹脂(帝人(株):パンライトL−1225Y)を87重量部に、メタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体((株)カネカ:カネエースM−711)を3重量部に変更し、酸変性ポリエチレンワックス(三井化学(株):ハイワックス1105A)を添加しないこと以外は、比較例9と同様にしてペレット化し、ガラス繊維強化材配合熱可塑性組成物を得た。比較例9と同様に射出成形を行なって試験片を作成し、同様の試験を行なった。
【0176】
<比較例4>
酸変性ポリエチレンワックス(三井化学(株):ハイワックス1105A)を添加しないこと以外は、比較例9と同様にしてペレット化し、5%熱減量温度が433℃であるガラス繊維強化材配合熱可塑性組成物を得た。比較例9と同様に射出成形を行なって試験片を作製し、同様の評価試験を行なった。
【0177】
<比較例5>
芳香族ポリカーボネート樹脂(帝人(株):パンライトL−1225Y)を89.8重量部に、メタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体((株)カネカ:カネエースM−711)を0.2重量部に変更したこと以外は、比較例11と同様にしてペレット化し、ガラス繊維強化材配合熱可塑性組成物を得た。比較例9と同様に射出成形を行なって試験片を作製し、同様の評価試験を行なった。
【0178】
<比較例6>
アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(テクノポリマー(株):テクノABS130,MFR18)を0.1重量部に変更したこと以外は、比較例12と同様にしてペレット化し、ガラス繊維強化材配合熱可塑性組成物を得た。比較例9と同様に射出成形を行なって試験片を作製し、同様の評価試験を行なった。
【0179】
<比較例7>
酸変性ポリエチレンワックス(三井化学(株):ハイワックス1105A)を添加しないこと以外は、比較例12と同様にしてペレット化し、ガラス繊維強化材配合熱可塑性組成物を得た。比較例9と同様に射出成形を行なって試験片を作製し、同様の評価試験を行なった。
【0180】
<比較例8>
酸変性ポリエチレンワックス(三井化学(株):ハイワックス1105A)を添加しないこと以外は、比較例13と同様にしてペレット化し、ガラス繊維強化材配合熱可塑性組成物を得た。比較例9と同様に射出成形を行なって試験片を作製し、同様の評価試験を行なった。
【0181】
表2に、無機強化材配合成形用樹脂組成物の組成と、試験片の評価試験の結果を示す。
【0182】
【表2】
【0183】
比較例1の樹脂組成物は、官能基含有オレフィン重合体(C)およびオレフィンワックス(D)のいずれをも含有しない。そのため、成形体の耐衝撃性(シャルピー衝撃強度)が低く、成形体の表面光沢性も低い。比較例2では、オレフィンワックス(D)である酸変性ポリエチレンワックスは含有するが、官能基含有オレフィン重合体(C)は含有しない。そのため、成形体の耐衝撃性(シャルピー衝撃強度)が高まっているものの、成形体の表面光沢性は改善されていない。さらに、5%熱減量率が23.3と非常に大きく、オレフィンワックス(D)の添加により、樹脂組成物の耐熱性が低下したことがわかる。一方、比較例3,4,7および8の樹脂組成物は、官能基含有オレフィン重合体(C)であるメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体は含有するが、オレフィンワックス(D)は含有しない。そのため、成形体の表面光沢性は高いものの、成形体の耐衝撃性(シャルピー衝撃強度)が低い。また、いずれの比較例においても、成形体の金型からの離型性が悪いことがわかる。さらに、比較例4の耐熱性評価に示されるように、5%熱減量率が4.7であり、官能基含有オレフィン重合体(C)の添加により、樹脂組成物の耐熱性が低下した。
【0184】
これに対して比較例9〜16および実施例7、10〜14は、所定量の官能基含有オレフィン重合体(C)およびオレフィンワックス(D)を含有している。その結果、成形体の耐衝撃性(シャルピー衝撃強度)が比較例4の成形体よりも高く、かつ成形体の表面光沢性が比較例2よりも高い。さらには、成形体の金型からの離型性がよい。また、比較例11実施例7、及び実施例13の5%熱減量率は、いずれも3.8以下であり、官能基含有オレフィン重合体(C)やオレフィンワックス(D)の添加により、樹脂組成物の耐熱性が低下し難かった。
【0185】
また実施例7、10〜14は所定量の官能基含有オレフィン重合体(C)およびオレフィンワックス(D)を含むマスターバッチを使用しており、実施例7の成形体は比較例11の成形体と同じ組成であるが表面光沢性が改善されていることがわかる。この改善メカニズムは限定されないが、オレフィン重合体(C)とオレフィンワックス(D)を予め混練することで両者の親和性がより高まる結果、成型時にオレフィンワックス(D)のブリードアウトが抑制されることが推測される。
【0186】
図1のグラフには、比較例1、比較例2、比較例4、比較例11の、成形体の耐衝撃性(シャルピー衝撃強度)と成形体の表面光沢性とが示される。図1のグラフに示されるように、所定量の官能基含有オレフィン重合体(C)およびオレフィンワックス(D)を含む本発明の成形用樹脂組成物から得た成形体は、耐衝撃性と表面光沢性が顕著に改善されていることがわかる。
【0187】
一方で、比較例5および6の樹脂組成物は、官能基含有オレフィン重合体(C)およびオレフィンワックス(D)を含有しているものの;比較例5の樹脂組成物は、官能基含有オレフィン重合体(C)の含有比率が低いため、成形体の表面光沢性が高まっておらず、比較例6の樹脂組成物は、オレフィンワックス(D)のワックスの含有比率が低いため、耐衝撃性が高まっていない。
【0188】
このように、官能基含有オレフィン重合体(C)とオレフィンワックス(D)との含有比率(C/D)を調整することで、成形物の耐衝撃性の向上と表面光沢性の向上とを実現できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0189】
本発明の成形用樹脂組成物から得られる成形体は、耐衝撃性が高く、かつ表面光沢性が高い。しかも、金型から剥離するときの離型性もよい。そのため、家庭用品から工業用品に至る広い用途の成形体として用いられる。
図1