【実施例】
【0073】
本明細書に記載されるいくつかの実施形態は、下記の非限定的な実施例において更に説明される。
【0074】
[実施例1]
単一のマイクロチャネルを備える装置
1つの変形形態では、化学勾配をもたらし、その中を通って軸索が成長するであろうマイクロチャネル内に、特定の成長因子を局所送達することができる、埋め込み型装置が作製される。この変形形態と比較するため、
図1Aは、導管10内の管腔またはマイクロチャネル11を図示する。マイクロチャネル11は、活性物質(示されない)を含み、少なくとも一時的な望ましい化学ポテンシャルの領域を提供する。しかし、マイクロチャネル長にわたる活性物質濃度を、
図1Aの構造を用いて制御することは難しい。この変形形態のための更なる比較例として、
図1Bは、導管10内の埋め込まれた微粒子13を含むマイクロチャネル12を示す。微粒子13は、薬物または成長因子などの活性物質(図示されない)を含浸し、生分解性であり得る。微粒子13は、予測可能に長期にわたって、事前に選択されたか、または制御されたプログラム可能な方法で活性物質を、分解または別の方法で放出することができる。従って、
図1Bの構造は、長期にわたってマイクロチャネル12内にある濃度の活性物質を供給し得る。しかし、このモデルは濃度勾配を持たない。一方、
図1Cは、本開示の装置の実施形態を示す。コイル状繊維16は活性物質を含浸し、マイクロチャネル14を取り囲む。マイクロチャネル14は、ヒドロゲル導管10内に埋め込まれる。マイクロチャネル14の長さに沿った繊維のコイル16の配置は、マイクロチャネル14中に放出される活性物質の制御可能な勾配を作り出す。濃度、ひいては制御可能な勾配は、らせん状の巻き数、ピッチ数、もしくは巻きの間の横方向距離、繊維のサイズもしくは厚さ、および/または、チャネルの長さを変化させることによって予測可能に調整され得る。従って、
図1Cの装置は、マイクロチャネル内に持続的な化学勾配を生じさせることによって長期的な活性物質送達を可能にする。化学勾配は、長期にわたる拡散によるコイル状繊維からマイクロチャネル内への活性物質の放出によってもたらされる。コイル状繊維からの活性物質放出の時間プロファイルは、繊維内の活性物質の濃度、活性物質の大きさおよび/または化学組成、繊維材料の化学組成および/または微細構造、ならびに導管内に配置されるマトリックス材料の化学組成および/または微細構造のうちの1つ以上に基づいて制御され得る。更に、マイクロチャネル周囲の繊維の巻き数は、いくつかの実施形態では、化学勾配の望ましい傾斜度をもたらすようにプログラムされ得る。「プログラムされる」という用語は、本明細書における言及目的では、望ましい結果をもたらすように制御され得る、制御可能な、任意の事前に選択され、あらかじめ決められた繊維のコイルの位置付けを意味することが理解される。化学勾配の「傾斜度」は、本明細書における言及目的では、所定の方向でマイクロチャネルの長さに対する、所定の活性物質または他の化学種の濃度のグラフの傾きを含む。
【0075】
[実施例2]
複数のマイクロチャネルを備える装置
本明細書に記載される装置は、いくつかの実施形態では、複数のマイクロチャネルを備える。このような装置は、間隙を超えて軸索の成長を促進するために使用され得る。軸索が間隙を超えて成長しなければならない場合、しばしば、特定のモダリティー(modalities)または種類の軸索を、異なるコンパートメントまたは空間領域内に分離する必要がある。このような分離は、感覚枝および運動枝の修復、ならびに/または閉回路の末梢神経インターフェイスの発達のために有用であり得る。更に、このような分離は、本明細書に記載される装置の複数のマイクロチャネルの周囲に本明細書に記載される複数の繊維を配置することによって実現でき、それらの繊維は、異なるマイクロチャネルに送達される成長因子の量および/もしくは種類が異なり、ならびに/または、異なるマイクロチャネル内にもたらされる化学勾配の傾斜度が異なる。このようにして、神経の混合集団に由来する特定の種類の軸索は、特定のマイクロチャネル内に誘引され、それによって最終的に特定の軸索型に適した標的に誘導され得る。更に、この過程は、混合集団中の複数の異なる軸索型のために実施され得る。
【0076】
図2は、異なるモダリティー(modality)を有する軸索および他の細胞型を誘導する多管腔導管における、好ましくは異なる勾配を有するいくつかのコイル状繊維の適用の概略図を示す。これは、それぞれの細胞型の最適濃度勾配を提供しながら、異なる細胞型の導管への誘導を可能にする。モダリティー(modality)特異的軸索誘導は、勾配構築の1つの企図される用途である。より具体的には、
図2は、任意選択で異なるモダリティー(modality)を有することが可能なそれぞれのマイクロチャネルとともに、それぞれのマイクロチャネル24b、25b、26b、27bに位置するコイル状繊維24a、25a、26a、27aを有する多管腔導管22内に誘導される、混合神経集団由来のいくつかの軸索20を示す概略図である。この変形形態では、それぞれの管腔またはマイクロチャネルは、特定の種類のニューロン(神経細胞)の成長を誘引することが知られている特定の分子刺激(ニューロトロフィンまたはプレイオトロフィンなど)を含むらせん状に巻かれた繊維に取り巻かれる。分子刺激の放出は、コイル状繊維の内側のマイクロチャネル内に勾配を作り出す。勾配は、更に上記に記載されたような繊維構造によって(例えば、らせんの全巻き数、隣接した巻きの間の横方向距離、および/または巻きのピッチを選択することによって)制御され得る。
【0077】
多数の成長因子の相乗効果を確認するために、単一の神経栄養因子または多能性因子から分枝した感覚ニューロンの成長を試験した。この試験は、これらの化学刺激によって誘導される成長のベースラインを決定した。
図3は、軸索および他の種類の細胞を誘導する多重チャネルの導管において、異なる勾配をもたらす多数のコイル状繊維の適用を示す概略図である。
図3に示されるように、導管30は、マイクロチャネルの壁の長さの周囲に方向付けられた2つのコイル状繊維33、34を有する第一マイクロチャネル32を含む。同様に、第二マイクロチャネル36は、第二マイクロチャネルの壁の長さの周囲に方向付けられた2つのコイル状繊維37、38を有する。この構造は、異なる細胞型の異なるマイクロチャネルへの誘導を可能にし、それぞれのマイクロチャネルは、異なる細胞型に対する望ましい効果に対応した特定の活性物質の、望ましい、事前に選択された、最適な濃度勾配を有し得る。例えば、異なるマイクロチャネルの異なる化学勾配は、異なる種類の軸索の成長を促進するように、それぞれ選択され得る。任意の数の活性物質および任意の数の繊維は、望ましい化学勾配を実現する方法で、マイクロチャネルの周囲に配置され得ることが理解されるべきである。
【0078】
[実施例3]
化学勾配を形成する方法
実施例1の
図1Cの装置の一般構造を有する装置を使用して、以下のように、本明細書に記載される1つの実施形態の化学勾配を形成した。最初に、ポリ(DL-乳酸-co-グリコール酸)共重合体(PLGA)コイル状繊維を作製した。生分解性PLGA(85:15)共重合体(0.84固有粘度(i.v.)、135,000重量平均分子量(MW))を、湿式紡糸工程を用いて繊維にした。簡潔には、20 wt.% PLGA溶液をジクロロメタン(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)に完全に溶解させた。この溶液をガラス製注射筒(気密性、Hamilton, Reno, NY)に充填し、イソプロパノールで満たした直径1.5-cmのチューブに注入することによって、繊維を形成した。あらかじめ洗浄したマイラー基板を回収用の糸巻きとして使用した。考えられる多くの紡糸パラメーターとともに、紡糸液注入速度および繊維回収速度を、それぞれ1.8 mL/hおよび8.5 m/minに制御することによって、直径30μmの繊維を得た。加えて、必要であれば、活性物質(例えば成長因子など)の生物活性を保護するために、ポリエチレングリコール(PEG)を紡糸用調合に加えた。コイル状繊維を形成するために、繊維をガラス棒に巻き付け(しばしば、形成繊維とも呼ばれる)、一晩乾燥させることによって残っているジクロロメタンを蒸発させた。形成後、繊維をチタン繊維(直径=250μm)の周囲にコイル状に巻き、使用前は4℃で保存した。
【0079】
活性物質(または対照種)を含有する繊維を形成するために、コイル状繊維を活性物質の溶液中で一晩処理した。例えば、下記の溶液を用いて、活性物質(または対照種)を含有するPLGA繊維を形成した。すなわち、(1)神経成長物質NGF(5μg/mL, Invitrogen, Carlsbad, CA);(2)対照種ウシ血清アルブミン(BSA, 20 mg/mL, Sigma-Aldrich, St. Louis, MO);および蛍光種シアニン色素-3(Cy3, 5μg/mL, Jackson ImmunoResearch Lab, West Grove, PA)。
【0080】
Cy3充填PLGAコイル状繊維を光学顕微鏡法および蛍光顕微鏡法を用いて撮像することによって、コイルが、化学勾配をもたらし、製造用の金属を除去した後でもそれらの構造を維持することを実証した。
図4A〜Fは、同一繊維の低濃度および高濃度領域の拡大(顕微鏡)画像を示し、巻き数および蛍光色素(Cy3)充填繊維から放射される蛍光の顕著な違いを確認する。
図4Aは、製造用の繊維(図示されない)の周囲に巻き付けられたコイル40の画像を示す。
図4Bは、神経導管内に置かれ得るコイル状PLGA繊維42を示す。
図4C〜Fは、
図4Bに示される囲み44、46内の領域の高倍率画像である。
図4DのCy3-PLGAコイル状繊維47は、高密度領域から撮像され、ここで「高密度」とは比較的高いピッチ(囲み44)を指す。Cy3-PLGAコイル状繊維48は、低密度領域(囲み46)から撮像される。
【0081】
繊維の製造は、有機溶媒(ジクロロメタン)の利用などの強い化学薬品処理を必要とする。成長因子(タンパク質)がコイルの製造過程の間保護されたことを確認するために、NGF充填コイル状繊維を褐色細胞腫(PC-12)細胞の存在下に供給した。PC-12細胞は、神経成長因子(NGF)の存在下で増殖し分化する細胞株である。本明細書の下記に更に記載される透過性多管腔マトリックス(transparent multiluminal matrix)(TMM)装置を用いて、細胞/ECM懸濁液を成型装置領域の細胞ウェル内に充填し、陰圧を生じることによって管腔内に押し込んだ。管腔内に播種した細胞を、4%パラホルムアルデヒド(PFA)で24時間固定し、Oregon Green PhalloidinおよびTO-PRO 3 Iodide(Invitrogen, Carlsbad, CA)で染色することによって、それぞれ細胞骨格標識および核標識として可視化した。PC-12細胞の突起の長さを、ゼロ濃度、低濃度、および高濃度領域で測定した。染色色素の浸透を促進するために、ゲルを細胞培養プレート中に入れ、その間溶液を4℃で一晩、磁性板および撹拌子を用いて撹拌した。
【0082】
褐色細胞腫細胞(PC-12細胞)を、アガロースゲルを成型するために使用される新しい長方形の枠(12.5 mm×36 mm)に充填した。成型装置は、歯科用セメントで作られ、多数のチタン繊維(0.25 mm x 17 mm; SmallParts, Logansport, IN)を導入するために使用された。成長因子を含有するポリマーコイルを巻き付けたチタン繊維を、装置の両端の穿孔を通して設置した。滅菌状態のもとで、成型装置を、細胞培養皿中のスライドガラス上に置き、1.5%超高純度アガロース(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)溶液を、繊維を覆うように注いで、重合させた。PC12細胞(1×10
6 ml)を、成長因子を減少させたマトリゲル(3.5 mg/mL, BD Biosciences, San Jose, CA)中に懸濁した。固化したゲルからチタン繊維を除去する際に生じる陰圧は、PC12細胞/ECM混合物を、成型されたヒドロゲルマイクロチャネルの管腔内に引き込んだ。成長因子コイル状繊維は、管腔内で損なわれず、PC12細胞と近接していた。細胞培養物にRPMI-1640培地(Sigma, St. Louis, MO)を与え、インキュベーター内に37℃、5%CO
2で72時間維持した。
【0083】
マイクロチャネル内で分化したPC12細胞の可視化のために、ゲルを4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定し、免疫蛍光検査のために処理した。ゲルをブロッキング溶液(0.1%Triton-PBS/ 1%正常血清)で洗浄した後、サンプルを、それぞれ細胞骨格標識および核標識としてOregon Green PhalloidinおよびTO-PRO 3 Iodide (Invitrogen,Carlsbad, CA)とともにインキュベートした。Zeiss共焦点顕微鏡(Zeiss Axioplan 2 LSM 510 META)を用いて、染色を評価した。通常の顕微鏡法および蛍光顕微鏡法ならびに多管腔ヒドロゲル中の微小脈管ネットワークのz-スタック3D画像再構成を用いて、染色を評価、解析した。Axiovision LEソフトウェア(CarlZeiss, Axiocam,version 4.7.2)およびZeiss LSM Image Browser(version 4.2.0.12)を用いて、3つの異なるコイル密度(ゼロ、低密度および高密度)でのPC-12細胞突起の長さの定量化を行った。
【0084】
すべてのデータ値を、平均値±平均値の標準誤差として表した。データは、Prism 4ソフトウェア(GraphPad Software Inc.)を用いて、パラメトリックなスチューデントのt検定またはノンパラメトリックなスチューデントのt検定と、その後のMann Whitneyポストホック評価によって解析された。p≦0.05を有する値を、統計的に有意であると見なした。
【0085】
図5A〜Dは、NGF充填マイクロチャネル内でのPC-12細胞の生物活性を示す。
図5Aは、実験計画の概略図である。NGF充填コイル状繊維52は、神経導管50内に置かれた。PC-12細胞はその後、チャネルの内部に充填された。
図5Bは、コイルから遠位に位置するPC-12細胞を示す顕微鏡画像である(
図5Aの「囲みB」に対応するマイクロチャネルの領域)。これらの細胞は、播種された24時間後、いかなる突起も示さなかった。
図5Cは、コイルの中央に位置するPC-12細胞を示す顕微鏡画像である(
図5Aの「囲みC」に対応するマイクロチャネルの領域)。これらの細胞は分化し、24時間以内にいくらかの突起を示した。
図5Dは、最大のコイル巻き数を有する、チャネルの高密度領域に位置するPC-12細胞を示す顕微鏡画像である(
図5Aの「囲みD」に対応するマイクロチャネルの領域)。24時間後、この領域の細胞は分化し、長い突起を示した。管腔内部の細胞の画像は、NGF充填コイルがない領域では、球状に見え、突起を示さなかった。しかし、NGF充填コイル状繊維を有する領域に播種された細胞は、完全に分化し、長い突起を有した。興味深いことに、これらの突起は、より高密度のコイルを有する領域において、より長かった。これによって、より多くの巻き数を有する領域は、より多くのNGFを放出し、従って、より高濃度の成長因子を有することが確認された。可視化された画像を定量化するために、細胞体と同等の、または細胞体より長いすべての突起の長さを測定した。データの定量分析は、
図5B〜Dに示される3つの「囲み」領域B〜Dにおいて、細胞突起の長さの間に有意差を示した(
図6参照)。0.05以下のP値は有意と考えられる。平均突起長は、遠位(1.4 +/- 1.14μm)と比較して、近位(p<0.002;n=6;71.33 +/- 12.17μm)領域および中央(35.66 +/-12.69μm)において有意に長かった。
【0086】
図6は、マイクロチャネル内のNGF充填コイル状繊維におけるPC12細胞の生物活性を図示する。NGF充填コイル状繊維は神経導管内に置かれた。PC12細胞の生物活性は、NGFを含まない領域(
図5Aの「囲みB」)、低密度のコイル巻き数を有する領域(
図5Aの「囲みC」)および高密度のコイル巻き数を有する領域(
図5Aの「囲みD」)での細胞突起を測定することによって、決定された。細胞を、播種24時間後に撮像し、ImageJを用いて突起長を測定した。
図6に示されるように、コイルから遠位に充填されたPC12細胞(
図5Aの囲みB)は、播種された72時間後、いかなる突起も示さなかった。コイルの中央に位置するPC-12細胞(
図5Aの囲みC)は分化し、24時間以内にいくらかの突起を有した。72時間後、NGF充填コイルの最大の巻き数を有する、チャネルの高密度領域に位置するPC-12細胞(
図5Aに示される画像の囲みD)は分化し、長い突起を有した。コイルの中央に位置するPC-12細胞(
図5A画像の囲みC)は分化し、24時間以内にいくらかの突起を有した。異なる領域における細胞突起長には有意差があった。(*)p<0.05および(**) p<0.005。
【0087】
[実施例4]
化学勾配を形成する方法
乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)コイルからの成長因子放出は、有限要素解析を用いて解かれる多媒体モデルの2つの配置(等方性および異方性)においてモデル化された。モデルは、COMSOL Multiphysicsにおいて、2.4 GHz Intel(登録商標)Core(商標)2 Quad プロセッサー搭載コンピューターを用いて実行され、250μmの直径および1cmの長さを有する円筒内に配置される250μmの直径および1μmの厚さを有するリングに定義された。第一の配置(等方性)は、20個のリングの均一な分布で構成された。第二の配置(異方性)は、互いに異なる間隔でリングの配置を有する3つの区画の配置で構成された。区画は、250、500、および1000μmを有する区画で構成された。充填されたPLGAコイルからの放出プロファイルは、分解性ポリマーからの放出のためのKorsmeyer-Peppas式の修正版を用いてモデル化された。コイルの初期条件は、1μgの均一な投与量として与えられた。28日間、シミュレーションを行った。
【0088】
数学モデルでは、充填導管は、アガロースゲルの拡散係数を有すると見なされた。チャネルの直径は250μmであると見なされた。数理解析の結果は、等方性のコイル状繊維が28日間維持される均一なチャネル内濃度を生じることを示した。導管の両端は、開いていると見なされた。従って、近位端および遠位端では、管腔からの拡散流による成長因子の濃度の減少が観察された。しかし、近位端および遠位端の中央と比較した濃度の変化は、最小限であり(中央の濃度の15%未満)、導管構造は均一な濃度を保つ傾向がある。コイル状繊維の異方性の配置は、早くも5日間で勾配を作り出し、長期間(少なくとも28日間)勾配を維持する傾向がある。成長因子の遠位端および近位端からの流出は、勾配の構築に影響を及ぼさなかった。勾配の傾斜度は、研究を通じて(5日目から28日目まで)実質的に同一に維持された。コイル状繊維の等方性配置の数学的推論に注目した。等方性配置における勾配の均一な分布は、少なくとも28日間マイクロチャネル内にとどまる。Comsolを用いたマイクロチャネル内の予測濃度分布の画像は、異方性の配置において少なくとも28日間の持続的な勾配の構築を確認した。
【0089】
[実施例5]
化学勾配を形成する方法
管腔内NGF-コラーゲン勾配プロトコール
コラーゲン充填多管腔神経ガイド(nerve guides)における分子勾配の作製によって持続的な成長因子放出を実現する方法は、
図7A〜Gおよび
図8A〜Bに示されるように、本明細書に記載される。これを実現するために、チタンロッドにコイル状に巻かれたNGF放出繊維を、透過性多管腔マトリックス(TMM)成型装置に作られた開口部に挿入した。TMMは、それを通してチタンロッドが挿入される向かい合った末端の穴を有する四角形のプラスチックオープンフレームで構成される。その後、1.5%アガロースを金属ロッド上に加え、NGF放出ポリマーコイルをアガロース中に効率的に埋め込んだ。
【0090】
神経ガイド(nerve guides)(NG)は、管壁にNTF勾配を組み込む(
図7A)、またはNTF溶出微粒子を使用する(
図7C)。しかし、現在の多管腔NG設計は、勾配によるNTF放出が欠けている。本研究は、管腔のコラーゲンによってヒドロゲルマイクロチャネルの壁に固定されたコイル状ポリマー繊維を使用することによって、この制約に対処する(
図7D)。
図7Eは、金属ロッドにコイル状に巻かれたCy3 IgG充填PLGA繊維の写真である。蛍光画像およびデンシトメトリーは、結果として生じる勾配を説明する。
図7Fは、繊維コイル配置を示す透過性多管腔マトリックス(TMM)成型装置の概略図である。アガロース重合後の金属ロッドのTMMからの除去は、コイルをマイクロチャネルの壁に固定し、同時に管腔をコラーゲンで満たす(
図7Fi-iii)。
図7Gでは、共焦点画像は、コラーゲン充填剤(緑)とともにTMM内に配置されたポリマーコイル(赤)を示す。スケールバー=100μm。
【0091】
より具体的には、
図7Aに示されるように。コラーゲン導管70aは、勾配中で供給されるNGFを含有する。
図7Bは、NGFを含有する多管腔またはマイクロチャネル72bを備える導管70bを示す。
図7Cは、NGF微粒子74を含む多管腔またはマイクロチャネル72cを備える導管70cを示す。この変形形態では、マイクロチャネル72cはそれぞれ、実質的に均一なNGF濃度を有する。
図7Dは、勾配を構築するNGF充填コイル繊維76を有する多管腔またはマイクロチャネル72dを備える導管70dを示す。
【0092】
TMM法に従って、コラーゲン77はその後、TMMの「充填」ウェル内に添加された(
図7Fi)。繊維成形金属(チタン)ロッド78の除去時に、NGF放出繊維コイルは、アガロース79で成型された結果として生じるマイクロチャネルの壁に保持され、それらの除去によって生じる陰圧は、実質的に同時にこのようなマイクロチャネルの管腔空間をコラーゲン77で満たす(
図7Fii-iii)。この方法は、コラーゲン充填マイクロチャネル内のポリマー繊維に封入されたCy3-IgG、BSAまたはNGFなどの分子の、長期にわたる持続的な放出のために設計され、許容性および走化性の両方の神経成長調節をもたらす。
図7Gは、除去される金属ロッドとともにコイル76を示す顕微鏡写真である。
図7Hおよび7Iは、コイル状繊維76の周囲に導入され、コイル状繊維76を「埋める」ためのコラーゲン77と一体となったコイル状繊維76の顕微鏡写真である。
【0093】
コイル状ポリマー繊維からの成長因子放出
2つの繊維源を用いて、30μmのコイル状繊維を作製した。すなわち、乳酸グリコール酸共重合体(PLGA 85:15; 135KD)およびELUTE(商標)生分解性ポリジオキサノンである。PLGA繊維は湿式紡糸によって作製された。簡潔には、20%PLGA溶液をジクロロメタン(DCM; Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)で調製し、循環しているイソプロパノール凝固浴槽にシリンジポンプ(1.8 mL/hr)を用いて供給し、同時に結果として生じる繊維を回転している糸巻き(8.5 m/min)に回収した。乾燥したPLGAコイル繊維を、NGF(10μg /mL; Invitrogen, Carlsbad, CA)、BSA(20 mg/mL; Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)またはシアニン色素-3(Cy3; 5μg/mL; Jackson ImmunoResearch Lab, Inc., West Grove, PA)とともに一晩インキュベートした。ほとんどの試験は、TissueGen Inc, Dallas, TXによって特注生産されたELUTE(商標)生分解性ポリジオキサノン繊維を使用することによってNGFを封入し、それをチタン金属ロッド(0.25 mm×17 mm; SmallParts, Logansport, IN)に80回、等間隔(均一)、または縦軸方向の3.33 mmの領域に15、25、および40巻きの異なる間隔(10〜100 ng/mL勾配)のいずれかでコイル状に巻いた。繊維を室温で乾燥させ、使用するまで-20℃で保存した。
【0094】
導電性ポリマーのポリピロールに赤い色素を充填した。
図8Aに示されるように、電気的シミュレーションでは、色素は120分間にわたって繊維から放出され、勾配を構築した。
図8Bは、SIおよびSII領域の定量化を示し、勾配の形成を裏付けている。
【0095】
PC12細胞培養
BSAまたはNGFのいずれかを含有するコイル状PLGA繊維と一体となった金属ロッドを、上述のようにTMM成型装置に配置した。滅菌状態のもとで、成型装置を、細胞培養皿中のスライドガラス上に置き、1.5%超高純度アガロースを用いて繊維を覆った。重合後、無テロメアのニワトリコラーゲン(atelomeric chicken collagen)(85%I型、15%II型; Millipore)に懸濁した褐色細胞腫細胞(PC-12;1×10
6 / mL)を、成型された250μm ODヒドロゲルマイクロチャネルに、発生する陰圧によって充填した。TMM細胞培養物を、10%HS、5%FBS、および1%pen/strepが追加されたRPMI-1640培地(Hyclone SH30027.02)中で72時間培養し、37℃および5%CO
2で維持した。試験の終わりに、細胞培養物をPBSで十分に洗浄し、染色した。別の通常のPC12細胞培養物を、1×10
6 / mLの播種密度で標準的な培養皿で培養し、10〜100 ng/mL のNGF範囲に曝露してそれらの生物学的応答を測定した(
図9A〜C)。PC12をバイオセンサーとして用いて、異なるNGF濃度に対する神経突起の応答を測定した。線形回帰を用いることによって方程式を定義し、PC12神経突起長に基づくTMMマイクロチャネル内のNGFの管腔濃度を計算した。PC12細胞は、様々なレベルのNGFに応答することを示した。
図9A〜Cに示されるように、分化した細胞の神経突起長は、(共焦点画像に示されるように)NGF濃度のレベルが増加するにつれて増加する。
図9Aは、10 ng/mLのNGF濃度を示す。
図9Bは、20 ng/mLのNGF濃度を示す。
図9Cは、50 ng/mLのNGF濃度を示す(スケールバー=100μm)。
【0096】
成長因子拡散のモデル化
均一配置と勾配配置との両方において、多媒体環境(すなわち、管腔コラーゲンを含むアガロースマイクロチャネル)を考慮し、有限要素解析を用いて、PLGAコイルからの成長因子放出をモデル化した。タンパク質放出速度は、べき乗方程式に、製造業者によって提供されるフィッティング放出データを用いることによって推定された。ジオメトリ(geometry)(K=0.37)、時間(t=0-28 d)、および放出機構(n=0.25;(M
t = M
∞K
n)、式中、Mは放出される薬物の量であり、M
∞は薬物の総量である)を有するべき乗方程式。PLGAコイルからの放出速度は、初期バーストに続く相互接続した細孔を介した拡散を考慮して、バルク浸食モデルを用いて推定された。Carman-Kozenyモデルを用いることによって、一定体積(Ω)での分子濃度(Φ)経時的変化(δt)を考慮した、水、1.5%アガロース、および0.3%コラーゲン中での分子拡散(D)を推定した。ポリマー繊維から放出される下記の式:δΦ/ δ t)∇Φ = Σ J*n∇Sによって表面(S)と垂直に統合される拡散流ベクトル(J=D∇Φ)。Multiphysics Modeling and Engineering Simulation Software(COMSOL 4.0)において、外部管(T)を3 mm OD、1.5 mm IDおよび10 mmの長さ、ならびにアガロースマイクロチャネルを有する固体円柱と見なして、モデルを実行した。使用されるメッシングモジュールには、180〜1000μmの最大エレメントサイズ、エレメントサイズ、1.5成長率および0.6の曲率解像度を有する境界について、四面体、三角形、および六面体メッシュボリュームエレメントが含まれた。モデルは、公開された厳密解を用いて検証され、in vitroで得られた放出速度データを統合した。
【0097】
TMMマイクロチャネル内でのDRG外植片の成長
新生児(P0-4)DRG細胞を正常なマウスから分離し、均一または勾配NGFコイルのいずれかを有するTMMマイクロチャネルの一端に置いた。DRG培養物をNeurobasal A培地(Sigma, St. Louis, MO)中で培養し、浸漬によって4%PFA中でそれらを固定する前に37℃および5%CO
2で7日間維持した。その後、培養物を洗浄、染色した。
免疫染色
TMMゲルをPBSで十分に洗浄した。その後、PC12細胞をOregon Green Phalloidinと反応させて、細胞骨格を標識した。DRG軸索成長の免疫標識のために、組織を4%ロバ血清中で1時間インキュベートし、その後マウス抗βチューブリンIII抗体(1:400; Sigma Aldrich)とともに一晩4℃でインキュベートした。その後、組織をCy2コンジュゲートロバ抗マウスIgG(1:400; Sigma Aldrich)とともにインキュベートし、洗浄した。Zeiss共焦点顕微鏡(Zeiss Axioplan 2 LSM 510 META)において長作動距離水浸対物レンズを使用することによって、直接ヒドロゲルマイクロチャネル内で細胞染色および軸索成長を評価した。
【0098】
画像解析および定量化
異なるNGFコイルの巻き数に対応する低濃度(SI)および高濃度(SII)領域(
図10A〜K)のマイクロチャネル内部で、分化したPC12細胞の神経突起長を評価した。細胞体から神経突起の遠位端までの神経突起長を測定した。細胞直径より長い神経突起を有する細胞のみを、Axiovision LEソフトウェア(CarlZeiss, Axiocam, version 4.7.2)、Zeiss LSM Image Browser(version 4.2.0.1)を用いて、定量化について検討する。DRGの軸索長を、20×倍率でz-スタック(各308μmスライス厚で20画像)から定量化した。DRGの端から成長円錐末端までの軸索長を、Axiovision LEソフトウェア(CarlZeiss, Axiocam, version 4.7.2)およびZeiss LSM Image Browser(version 4.2.0.1)を用いて、コイルのない区画およびその区画内に中間のコイル数(1〜8)または高いコイル数(9〜15)を有する区画について測定した。Image Jを用いて、軸索の転向角を測定した。存在するすべての軸索の、転向した軸索の数に対する比率として、転向角の定量化を計算した。すべての実験を二連でそれぞれ3〜6回行った。
【0099】
統計解析
すべてのデータ値を、平均値±平均値の標準誤差として表した。PC12データは、パラメトリックなスチューデントのt検定と、その後のMann Whitneyポストホック評価によって解析された。DRG実験から得られたデータは、Prism 4 ソフトウェア(GraphPad Software Inc.)を用いて、ANOVAとその後のNewman-Keulsの多重比較によって評価された。p≦0.05を有する値を、統計的に有意であると見なした。
結果
3D NGF微小勾配中でのPC12の分化
ポリマーコイルが神経成長因子の生物学的に活性のある勾配を構築するために使用され得るかどうかを決定するために、BSAまたはNGF溶出コイルがヒドロゲル壁に固定されたTMMマイクロチャネルの管腔内で分化するPC12細胞の能力を試験した。播種3日後、BSA対照では、丸い未分化の細胞のみが観察された(
図10A〜C)。一方、NGFコイルとともに培養された細胞は、PC12細胞体から伸長する神経突起によって示されるように、様々な程度の神経分化を示した。神経突起伸長は、チャネル内に置かれたコイルの巻き数に比例することが観察された。コイルの巻き数の少ないもの(区画I;SI)は、丸い未分化の細胞と神経突起を有する細胞の混合集団を示したが(
図10D〜F)、コイルの巻き数のより多い領域のもの(区画II;SII)は、大部分が、明らかにより長いニューロン様の伸長を有する分化した細胞であった(
図10G〜I)。この観察を確認するために、両方の領域において分化したPC12細胞の神経突起長を評価したところ、SI領域での細胞(55.76±12.53μm;p<0.005)と比較して、SII領域では有意により多数の分化したPC12細胞(87±14.6μm)を示した。これらの両方は、同様に、BSA放出コイルにおいて観察される細胞(9.31±1.94μm;p<0.0001)とは有意に異なっていた。
図10Jおよび10Kを参照。
【0100】
BSA(
図10A〜C;対照)またはNGF(
図10D〜I)放出繊維が壁にコイル状に巻かれた、コラーゲン充填アガロースマイクロチャネル内で培養されたPC12細胞の、DICおよび蛍光画像。PC12は、CTR群では未分化のままであるが(矢じり)、NGF放出群では伸長し(矢印)、コイルの巻き数の少ない領域(SI)と比較した際、コイルの巻き数のより多い領域(SII)ではより多かった。
図10Jは、分化したPC12の神経突起長の定量化を示す。
図10Kは、様々なレベルのNGFに曝露されたPC12細胞の神経突起長の較正曲線を示す。重ね合わせた線形回帰は、マイクロチャネルでの繊維コイルの少ない巻き数(SI)および多い巻き数(SII)に対応するNGF濃度値を示す。*=p<0.0001 CTRと比較;+=p<0.005 SI(n=6)と比較。
【0101】
これらの観察は、ポリマーコイルが、管腔コラーゲンマトリックス中に生物活性のあるNGFを放出することができ、そこに低濃度領域(SI)および高濃度領域(SII)を構築することができる勾配を形成していることを示した。この見解は、24時間にわたる、TMMアガロースマイクロチャネルに置かれた、ELISA BSA放出コイルを溶出するコイルのSIおよびSII領域からのタンパク質放出の定量化によって支持され、SIIと比較してSI領域で50%より少ない濃度差を確認した(
図11参照)。in situでの SIおよびSIIマイクロチャネル領域における生物活性のあるNGFの濃度は、その後、それらの分化がNGF濃度に対して線形比例することが知られているため、バイオセンサーとしてPC12を用いることによって直接評価された。10〜100 ng/mLの濃度範囲のNGFに曝露されたPC12の神経突起長を測定した。これらの細胞は5〜120μmの長さに伸長し、NGF濃度と線形的に相関することが、更に決定された(R=0.96;
図10K参照)。その後、PC12成長較正曲線から推定される線形回帰方程式を使用することによって、管腔内NGFを決定した(NGF=[(PC12神経突起長+1.91)/(17.06)])。この式を用いて、TMMマイクロチャネルの低コイル領域(SI)および中程度コイル領域(SII)で観察される成長が、それぞれ40および83 ng/mLのNGFに相当することが決定され、それはタンパク質放出で観察された差とほぼ一致していた。TMMマイクロチャネルからのBSA放出の定量化は、24時間後、SIでの20%放出と比較して、封入されたBSAの40%が区画IIから放出されたことを示す。
【0102】
タンパク質微小勾配拡散のモデル化
次に、コンピューターモデルを設計することによって、TMMマイクロチャネルの管腔コラーゲン充填剤におけるNGF拡散動態を予測した。TMMゲルの実際の物理的な大きさに従った10 mmの縦方向距離にわたり、アガロースとコラーゲンとの両方において、ポリマー繊維からマイクロチャネル管腔へのNGFと同様のサイズのタンパク質の拡散係数値を組み込んだCOMSOLにおけるコンピューターシミュレーションモデルが実行された。1、5および7日間にわたるマイクロチャネル容積(0.7 μl)中のNGF濃度が推定され、それらの壁表面に均一(U)および勾配(G)コイル分布パターンを有するものを比較した。管腔の0.1%コラーゲンを通るタンパク質拡散係数(7.6-12 m
2/sec)は、1.5%アガロースマイクロチャネル構造を通る拡散係数(2.31-14 m
2/sec)より速いため、拡散は主にコラーゲン軸を通じて起こる。モデルによると、7日間で、Uコイル配置のポリマー繊維は、マイクロチャネルに沿って約7 ng/mLの均一な濃度を形成し、近位および遠位の開口部付近から希釈される。一方、Gコイル配置は、より多くのコイルの巻き数を有する末端に向かって0.02〜12.42 ng/mLの直線勾配をもたらし、また末端付近から希釈される。予想された濃度の差に加えて、モデルは、2つの配置の間で有意と思われる経時的な変化を予測した。U配置は、チャネルの末端に次第により大きな希釈領域を伴い、長期にわたって安定を保つ。
【0103】
しかし、コイルのG配置は、時間とともにより高い濃度からより低い濃度までの勾配の拡張をもたらす。マイクロチャネルの末端での希釈作用にもかかわらず、G 配置での勾配の傾斜度は、シミュレーション期間中有意に変化しないように思われ、平均30°の傾斜度で0.02〜12 ng/mLの勾配をもたらす(
図12参照)。
【0104】
コイルの均一な分布は、末端でのいくらかの希釈を伴い、1〜7日間にわたってマイクロチャネル全体に均一なNGFの拡散をもたらす。コイル状繊維の非均一配置は、22°の急角度を有する10〜100 ng/mLのNGF濃度勾配をもたらし、それは時間とともに増加し、拡張して、マイクロチャネルの容積の大部分に広がる。
図12に示されるように、この違いは、均一濃度および勾配濃度を縦軸に沿って比較した際に顕著である。
【0105】
同時に、その結果は、アガロースマイクロチャネルの壁上のより多くの巻き数のコイル状繊維が、管腔コラーゲンマトリックス内での生物活性のある成長因子の直線分子勾配を構築することができ、ひいては、軸索成長を走化性誘導するために使用され得ることを確認した。
【0106】
神経成長は、3D勾配成長因子送達によって促進され、誘導される
ヒドロゲルマイクロチャネルの壁に施されたポリマーコイルが持続的な成長因子勾配を生じ得ることを確認した後、NGF溶出コイルのin vitroでの神経再生に対する効果を、TMMゲルの一端に置かれた新生児DRGから伸長した軸索繊維の数を評価することによって試験した(
図13A〜F)。コイルを含まないゲル(
図13B)を、均一な7巻きおよび14巻きのNGF封入コイルを含むゲルと比較した。軸索数の増加は統計学的差異には達しなかったが、軸索成長の程度は、陰性対照と比較して、NGFコイルを有するゲルにおいて質的により良好であった。しかし、軸索長の定量化は、成長因子なし(651.2±40.40μm)および低密度コイル群(808.18±55.57μm;<8巻き;
図13E〜F)の両方と比較して、より高密度のNGFコイル群(1321±51.71μm;9〜15コイル巻き数)において有意に増加した(p<0.005;n=4)。感覚ニューロン再生に対するNGF勾配の有益な効果を確認するために、別のDRG群を、NGF濃度が18 ng/mLで一定に保たれる均一条件または勾配条件のいずれかに曝露した。
【0107】
図13Aは、TMMゲルの微分干渉コントラスト(differential intensity contrast)(DIC)画像を示し、コラーゲンを充填して、管腔の一端にDRG外植片を置いた後の1つの成型マイクロチャネルを示している。PDO繊維コイルはアガロース中、マイクロチャネルの壁上に固定され、可視化のために空気で満たされる。β-チューブリンの可視化(緑)のために免疫標識されたDRG軸索成長の共焦点画像は、コイルなし(
図13B参照);9巻き未満のNGF充填繊維(
図13C参照);および9〜15巻きのNGF溶出コイル(
図13D参照)を有するTMMゲルについて示される。定量化は、軸索の数(
図13E参照)とDRGの軸索長(
図13F参照)との両方について示される。軸索長は、Zeiss LSM Image Browser(version 4.2.0.12)を用いて測定された。異なる領域での細胞突起の長さにおいて有意差があった(p<0.001)。
【0108】
感覚ニューロン再生に対するNGF勾配の有益な効果を確認するために、別のDRG群を、NGF濃度が18 ng/mLで一定に保たれる均一(U)条件または勾配(G)条件のいずれかに曝露した。均一濃度群(U)(
図14A)と比較して、勾配を構築するように配置されたコイルを有する群(G)は、より強力な軸索再生を示した(
図14B)。軸索長の定量化は、均一な成長因子濃度を含有するものと比較して(1045±81.33, n=5;
図14C参照)、勾配NGFが補充された円筒状のコラーゲン充填通路を通って成長するニューロン(1694±100.1;n=3)の有意な成長の利点(p<0.05)を確認した。同一濃度に保ちながら均一または勾配NGF条件下で、マイクロチャネル内で観察されるβ-チューブリン染色した(緑)DRGの軸索長の直接比較は、次第に増加するNGF濃度に向かって成長するニューロンの軸索長の有意な増加を示した。* p<0.001、n=3〜5。スケールバー=100μm。
【0109】
NGF勾配への強固な軸索走化性
DRG軸索伸長における勾配NGFの成長促進効果に加えて、均一群における神経突起伸長はマイクロチャネルの壁上のコイルに向かって誘導されたことに注目した。実際、それらの群の軸索は、それらがコラーゲンを通って成長する際、上向きおよび下向きの軌道をたどることが観察された(
図15A)。全く対照的に、NGF勾配が遠位端に向かって構築された群は、それらが伸長する際、軸索はコイルを無視して、確固とした直線状の成長を示した(
図15B)。成長角度の定量化は、均一群の軸索が+60から−60°の幅広い方向性の成長を示し、この見解を支持した(
図15C)。反対に、NGFの勾配を与えられた軸索は、より方向性のある成長角度を示し、+30から−30°であった(
図15D)。
【0110】
β-チューブリン標識したDRG軸索を培養し、コイルの均一分布を通して成長させた。軸索成長は、NGF充填コイルへと向かった。
図15AおよびCを参照されたい。しかし、
図15Bおよび15Dに示されるように、勾配分布を通して、軸索成長は、チャネルの中央で成長する傾向がある。
【0111】
軸索成長の転向角比率は、鋭角を示す。転向角の定量化は、存在するすべての軸索の、転向した軸索の数に対する比率として決定された。均一分布および勾配分布を比較した際、転向比率には有意差があった(* p<0.005)。更にこの所見を確認するために、転向角比率を測定し、急な転向をする軸索の数が、NGF勾配に向かって成長する群と比較して、均一群において有意に多いことを決定した(それぞれ、0.5368±0.06321、n=4;0.1909±0.03772、n=3;p<0.005)。
図16は、均一(U)または勾配(G)NGF条件のいずれかに曝露されたDRGの比較観察された転向角比率を示す。同時に、このデータは、コイル状ポリマー繊維の勾配を用いた管腔内への成長因子の放出によって、強力な走化性成長環境が実現され得ることを示す。
【0112】
更に、標的細胞は、成長因子を分泌し、軸索伸長および標的認識の間、発生および成人の損傷したニューロンのための走化性誘導刺激として機能する分子勾配を形成している。活発な経路探索の間、軸索は、それらが成長を特定の方向に向かわせるために用いる誘引分子および反発分子の勾配を感知する。
【0113】
本開示に従って、また上記のように、再現性のあるin vivoでの方法は、タンパク質充填繊維、好ましくはポリマー繊維を、多管腔ヒドロゲル導管、例えば、神経導管などの壁に固定するために考案された。本明細書に開示される装置、方法および組成物は、再生している軸索にいかなる障害も与えず管腔内勾配を提供する。加えて、本設計は、適切な勾配傾斜度をもたらすように、それぞれの領域におけるコイルの巻き数を変えることによって、高度に調節可能である。
【0114】
生体内の細胞は、多様な刺激の勾配に応答して、移動し、分化し、増殖する。勾配は、物理的または化学的性質であり得る。物理勾配は、例えば、表面トポロジー、剛性、および材料の多孔性などの、物理的特性の段階的変化を含む。例えば、骨では、細孔径は、外側から内側へと減少する。この現象は、その力学的特性を変化させるだけでなく、その勾配特性が細胞を移動および分化させることを可能にする。化学勾配、特に生体分子の勾配はまた、すべての細胞過程において非常に重要である。例えば、細胞移動は、絶対濃度に依存するだけでなく、勾配の傾きにも依存する。勾配表面および均一な表面を比較した場合、細胞の移動速度がはるかに速かったことも注目されている。bFGFなどの因子がヒドロゲル上に勾配方向に固定されることによって、大動脈平滑筋細胞に対するこの勾配の効果が研究された。これらの細胞は勾配の増加する方向に整列し、移動することが知られている。理論的解析を用いることによって、均一および勾配基質上での細胞の移動速度が予測された。このようなモデルは、速度と勾配との関係が二相性依存的であると予測する。
【0115】
1つの変形形態によれば、現在開示されているモデルは、システム性能の評価を可能にし、勾配の用量および放出に影響を及ぼす機構に知見を与える。勾配を再構築するためのあらゆる努力にもかかわらず、これらの現在の技術の大部分は平面に関連しており、三次元マトリックスがin vivoでの状況をより厳密に模倣しているということを無視している。本開示の変形形態は、3Dで勾配を構築する方法を提供し、複数の勾配刺激を組み込むことができ、細胞型に基づいて、予測可能、選択的、且つ制御可能に調整され得る。
【0116】
本開示では、NGFの生物活性のある濃度勾配が構築された。NGFの勾配は、選択された領域にわたるコイル状繊維の巻き数を変えることによって制御され得る。より具体的には、PC12は、水溶性NGFにおいて見られるのと同様に神経突起を伸長することによって、NGFの濃度に応答した。加えて、DRGの成長および方向性もまた、勾配の存在によって影響を受けた。本明細書に記載される勾配の方法論は、目的の細胞を標的とするために、任意のタンパク質の封入を許容する。本開示は、末梢神経系における長いギャップ修復または脊髄損傷における軸索誘導のいずれかに関して、開示された装置、方法および組成物の使用を企図する。
【0117】
本明細書に開示される再現可能でプログラム可能な勾配形成方法は、常により多くの生物活性のある物質を、望ましい部位、例えば、神経再生部位などに、軸索成長を誘導するために送達する能力を有する。勾配濃度は、活性物質を含有している、導電性または非導電性のいずれかの生体繊維の巻き数(すなわちピッチ)によって制御され得る。本明細書に開示される方法、装置、および組成物はまた、生物学的活性物質を、時間制御または品質制御された方法で、拡散または電気刺激によって放出するために、埋め込み型装置に組み込まれ得る。
【0118】
従って、本明細書に開示される活性物質(例えば、化学物質または生物学的物質)の制御された勾配は、例えば、人工蝸牛電極など、神経再生の誘引および誘導に適用されることができ、その中で、脳由来成長因子(BDNF)などの物質の制御送達は、ニューロンを電極に誘引し、細胞の生存を維持するために有効であり得る。濃度勾配が生物学的効果に重要である場合の、物質の薬物送達もまた、実施され得る。この方法は再現可能であり、構築された勾配は予測可能に実現され得る。
【0119】
より具体的には、いくつかの変形形態では、複数のまたは連続した勾配材料またはマトリックス、例えば、ゲルなどが、勾配をもたらすように積み重ねられ、または他の方法で配置される。勾配材料は、異なる濃度の治療薬を含有するため、治療薬の勾配を提供し得る。勾配材料は、本発明の目的に矛盾しない治療特性または他の特性(例えば物理的特性など)の任意の組合せを有することができ、生体環境を含む様々な自然環境をモデル化および/または再現するために使用され得る。加えて、任意の数のゲルが使用され得る。
図17は、それぞれが異なる濃度の治療薬を含み、勾配を形成するように配置された3つの勾配材料部分1702、1704および1706を備える導管1700を示す。しかし、他の数の勾配材料、例えば、2つ、4つ、5つ、または6つの勾配材料を使用することもまた可能である。いくつかの事例では、6つより多くの勾配材料が使用され得る。
図17に示されるように、勾配材料部分1702は、最も高い濃度を有し、部分1704はより低い濃度であり、部分1706は最も低い濃度である。
【0120】
加えて、柔らかい生体適合性の成分を用いて勾配を形成する方法もまた企図される。これらの方法は、様々な目的を達成するために様々な方法で改変され得る。加えて、本明細書に記載されるように、勾配を形成する様々な微粒子担体の封入によって、様々な因子のカプセル化が実現され得る。企図される変形形態は、治療勾配を提供するためにゲル(例えばヒドロゲルなど)の中に組み込まれ/懸濁される微粒子を含む。
図18は、1つの変形形態による組成物の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示し、ここでは、微粒子1802が担体マトリックス1800、例えばヒドロゲルのようなゲルなどの中に懸濁されて示される。
【0121】
更に、いくつかの変形形態では、活性物質、例えば、治療薬などを含有し、それぞれの材料が、好ましくは、様々な濃度の1つの活性物質、複数の活性物質、または様々な濃度の複数の活性物質を含有している、複数の勾配材料またはマトリックス、例えばゲルなどが、事前に選択され、あらかじめ決められた予測可能な勾配領域、および必要であれば非勾配領域をもたらすような方向に配置され得る。
【0122】
本発明の様々な実施形態は、本発明の様々な目的の達成において記載されている。これらの実施形態は単に本発明の原理の実例であるにすぎないことが、認識されるべきである。多数のその修正および改変は、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、当業者にとって容易に明白であろう。