【文献】
Transgenic Res.,1995年11月,Vol.4. No.6,p.369-377
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
(背景技術)
多数の天然および合成のタンパク質が診断および治療の用途に供されている;他の多くのタンパク質が開発中または臨床試験中である。タンパク質製造の最近の方法は、天然由来の物からの単離、および細菌および哺乳動物の細胞中での組換え製造を包含する。しかし、これらのタンパク質製造方法が複雑でかつ高いコストであるために、別法を開発するための努力が続いている。例えば、ブタ、ヒツジ、ヤギおよびウシのミルク中の外来タンパク質を製造するための方法が報告されている。これらの手法は幾つかの制限を受ける。それは、起源物[ファウンダー(founder)]と生成トランスジェニック群との間の長い世代時間、高価な育種および家畜コスト、およびゲノム中の導入遺伝子挿入部位での位置効果のために変化する発現レベルなどである。また、タンパク質は、小麦およびライ麦から製粉および麦芽製造過程を使用して製造される。しかし、植物の翻訳後修飾は、脊椎動物の翻訳後修飾とは異なる。後者は、外来タンパク質の機能にしばしば重大な影響を与える。
【0003】
組織培養物および乳腺のバイオリアクターと同様に、鳥の卵管も潜在的にバイオリアクターとして役に立つ。高レベルの外来タンパク質が卵の中に分泌され、含まれるような鳥遺伝物質を修飾するすばらしい方法は、安価な大量のタンパク質の生成をもたらすであろう。そのような手法の幾つかの利点は、a)短い世代時間(24週間)および人工受精によるトランスジェニック群の急速な確立;b)生成のニーズに見合う群サイズを増加させることによる簡単に評価される生成;c)発現したタンパク質の翻訳後の修飾;4)オートメーション化された給餌および卵の収集;d)自然に無菌である卵白;e)卵白中のタンパク質の高濃度によって低下した加工コストとなろう。
【0004】
ニワトリを含む鳥再生系は十分に報告されている。雌鶏の卵は、卵管を通過する際に、卵黄上に分泌される幾つかの層から成る。卵の生成は、雌鶏の卵巣中で大きな卵黄の形成によって始まる。次いで、不受精卵母細胞は、卵黄嚢の一番上に位置づけられる。排卵、または卵巣からの卵黄の放出によって、卵母細胞は、精子が存在する場合に受精される卵管の漏斗状器官に移る。次いで、管状腺細胞と繋がった卵管のマグナムに移動する。これらの細胞は、卵白アルブミン、リゾチーム、オボムコイド、コンアルブミンおよびオボムチンを包含する卵白タンパク質を、タンパク質が鳥の胚および卵黄上に貯蔵されるマグナムの内腔中に分泌する。
【0005】
卵白アルブミン遺伝子は、卵管マグナムの管状腺細胞中に特異的に発現する45kDのタンパク質をコードする[Beato,Cell 56:335-344(1989)]。卵白アルブミンは、最も豊富な卵白タンパク質であって、管状腺細胞によって生成される全タンパク質の50%以上または大きい等級Aの卵あたり約4gのタンパク質を含む(Gilbert,"Egg albumen and its formation " in Phtsiology and biochemistry of the Domestic Fowl, Bell and Freeman,eds.,Academic Press, London, New York, pp. 1291-1329)。該卵白アルブミン遺伝子および20kb以上の各フランキング領域は、クローンされ、分析されている[Lai et al., Proc. Natl.Acad. Sci. USA 75: 2205-2209(1978);Gannon et al.,Natur e278 :428-424(1979);Roop et al., Cell 19:63-68(1980);and Royal et al., Nature 279:125-132(1975)]。
【0006】
多大な注意が卵白アルブミン遺伝子の調節に対して払われてきた。該遺伝子は、ステロイドホルモン、例えばエストロゲン、グルココルチコイド、プロゲステロンに応答し、このホルモンは、未熟なヒヨコにおいて、管状腺細胞あたり約70,000卵白アルブミンmRNA転写物、および成熟した雌鶏において100,000卵白アルブミンmRNA転写物の蓄積を誘導する[Palmiter; J. Biol.Chem.248:8260-8270(1973);Palmiter, Cell 4:189-197(1975)]。トランスフェクトした管状腺細胞においてDNAse過敏分析およびプロモーター・レポーター遺伝子アッセイは、卵白アルブミン遺伝子発現に必要とされる配列を含有するものとして7.4kb領域を定義した。5'フランキング領域は、転写開始部位から‐0.25、‐0.8、‐3.2および‐6.0kbに集まった4つのDNAseI‐過敏部位を含有する。これらの部位は、それぞれHS‐I、‐II、‐IIIおよび‐IVとよばれる。これらの領域は、クロマチン構造中における変化を反映し、卵管細胞中の卵白アルブミン遺伝子発現と特異的に相関する[(Kaye et al., EMBO 3:1137-1144(1984)]。HS‐IIおよび‐IIIの過敏は、エストロゲンによって誘導され、卵白アルブミン遺伝子発現のホルモン誘導においてこれらの領域に対する役割を果たす。
【0007】
HS‐IIおよび‐IIIの両者が、卵白アルブミン遺伝子転写のステロイド誘導について必要であり、これらの配列を包含する5'領域の1.4kb部位は、管状腺細胞中でステロイド依存性卵白アルブミン発現を起こすのに十分である[Sanders and Mcknight, Biochemistry 27:6550-6557(1988)]。HS‐Iは、負の応答配列(NRE)と呼ばれる。これは、HS−Iが、ホルモンの非存在下では卵白アルブミン発現を抑える幾つかの負の調節配列を有するからである[Haekers et al., Mol. Endo.9:1113-1126(1995)]。タンパク質ファクターは、これらの配列を結合し、組織特異的発現における役割を示唆する卵管核酸中で唯一見出される幾つかのファクターを包含する。HS−IIは、ステロイド依存性の応答エレメント(SDRE)と呼ばれる。これは、HS‐IIが転写のステロイド誘導を開始するために必要とされるためである。HS‐IIは、Chirp-Iとして知られるタンパク質またはタンパク質複合体を結合する。Chirp-I は、エストロゲンによって誘導され、シクロヘキサミド(cyclohexamide)の存在下で、急速にターンオーバーする[Dean et al., Mol Cell. Bio. 16:2015-2024(1996)]。管状腺細胞培養系を用いる実験は、NFKB様ファクターを含むステロイド依存型においてSDREを結合する別の一組のファクターを定義している[Nordstrom et al., J.Biol. Chem. 268:13193-13202(1993); Schweers and Sanders, J. Biol. Chem. 266: 10490-10497(1991)]。
【0008】
HS‐IIIおよび-IVの機能についてはあまり知られていない。HS‐IIIは、機能的エストロゲン応答エレメントを含有し、エストロゲン受容体cDNAと、HeLa細胞中へ共トランスフェクションしたときに、エストロゲン誘導性を卵白アルブミン近接プロモーターまたは異種プロモーターどちらかに与える。これらのデータは、HS‐IIIが卵白アルブミン遺伝子の全体的な調節において、機能的な役割を果たし得るということを示唆する。HS‐IVの機能は、機能的エストロゲン応答エレメントを含有しないこと以外あまり知られていない[Kato et al., Cell 68:731-742(1992)]。
【0009】
外因性遺伝物質を導入することによる、および/または特異的遺伝子を崩壊することによる真核生物のゲノムを修飾することが、大いに注目されてきている。ある真核生物細胞は、外因性真核生物のタンパク質生成のための、より優れた宿主であることを証明し得る。また、あるタンパク質をコードする遺伝子の導入は、経済的価値が増加し得る新規表現型の創造を与える。さらに、幾つかの遺伝的に生じる疾患状態は、遺伝的欠陥のある細胞が、そうでなければ、生成することができないタンパク質を発現させる外来遺伝子の導入によって治療され得る。最終的に、遺伝物質の挿入または除去による動物ゲノムの修飾は、遺伝子機能の基礎研究を支持し、疾患状態を治療するのに使用されまたは改良された動物の表現型をもたらす遺伝子の導入を与える。
【0010】
遺伝子形質転換は、二つの異なった方法によって哺乳動物において達成されている。第一番に、マウス、ブタ、ヤギ、ヒツジおよびウシを含む哺乳動物において、導入遺伝子を受精卵の前核中にミクロ注入し、次いで、それを養母の子宮中に置くと、その生殖細胞系において導入遺伝子を運ぶ起源動物を生じる。導入遺伝子は、ある特定の細胞型に外来タンパク質を発現させる特異的調節配列をプロモーターに運ぶために設計される。導入遺伝子をゲノム中にランダムに挿入すると、ゲノム中への導入遺伝子の挿入部位での位置効果は、導入遺伝子発現のレベルの低下を不定に引き起こすことがある。また、この手法は、所望の細胞型において導入遺伝子の発現を指示するために必要な配列が定義され、導入遺伝子ベクター中に包含されるような、プロモーターの特徴を明らかにすることを要する[Hogan et al. Manipulating the Mouse Embryo, Cold Spring Harbor Laboratory, NY(1988)]。
【0011】
動物の遺伝子形質転換を有効にする第2の方法は、遺伝子崩壊を目的とする。そこでは、選択できるマーカー遺伝子をはさむ標的遺伝子配列を保持する標的ベクターが胚幹細胞(ES)に導入される。相同組換えによって、標的ベクターは、染色体遺伝子座で標的遺伝子配列を置換するかまたは標的遺伝子産物の発現を妨げる内部配列中へ挿入される。適切に崩壊した遺伝子を保持するES細胞のクローンが選択され、次いでキメラの起源動物を発生させる初期段階の胚盤胞中に注入され、その幾つかの動物は生殖細胞系中に導入遺伝子を保持するようになる。導入遺伝子が標的の遺伝子座の欠損を引き起こす場合において、導入遺伝子は、導入遺伝子ベクターで生じた外来DNAで標的遺伝子座を置換する。外来DNAは、培養物においてトランスフェクションされたES細胞を検出するために有用な選択性を持つマーカーをコードするDNAからなり、加えて、欠損遺伝子の代わりに挿入される外来タンパク質をコードするDNA配列を含有し、標的遺伝子プロモーターが外来遺伝子の発現をおこすようになる。[U.S. Patent Nos. 5,464,764および5,487,992(M.P.Capecchi and K.R. Thomas)]。この手法には、ES細胞がヤギ、ウシ、ヒツジおよびブタを含む多くの哺乳動物に利用できないという制限がある。さらに、この方法は、欠損遺伝子が生物体または細胞型の生存または適当な発生のために必要であるときは有用でない。
【0012】
鳥遺伝子形質転換体についての近年の発展は、鳥ゲノムの修飾を可能とした。生殖細胞系形質転換ニワトリは、複製欠陥性レトロウイルスを新く生まれた卵におけるヒヨコ胞胚葉の副胚腔中に注入することによって発生させ得る[U.S. Patent Number 5, 162,215; Bosselman et al., Science243:533-543(1989);Thoraval et al., Transgenic Research 4:369-36(1995)]。外来遺伝子を保持するレトロウイルス核酸は、胚細胞の染色体にランダムに挿入されトランスジェニック動物を生み出し、その一部は、生殖細胞系において導入遺伝子を保持するようになる。レトロウイルスベクターは、DNAの大きな断片を宿すことは不可能であり、この方法を使用して導入し得る外来遺伝子および外来調節配列の大きさおよび数を制限する。さらに、この方法は、相同組換えによって遺伝子の標的導入または欠損をさせない。挿入部位での位置効果を克服するため、融合遺伝子構築物の5'および3'領域で挿入された隔離エレメントの使用が、報告されている[Chim et al., Cell 74:504-514(1993)]。
【0013】
別の方法において、導入遺伝子は、受精卵の胚片中にミクロ注入され、遺伝子をF1世代に伝える安定なトランスジェニック起源鳥を作る[Lave et al. Bio/Technology 12:60-63(1994)]。しかし、この方法は幾つかの欠点を持つ。受精卵を収集するために雌鶏を殺さねばならず、トランスジェニック起源物のフラクションは少なく、注入卵について労働集約型の代用殻でのインビトロ培養を必要とする。
【0014】
別の手法において、推定にもとずく原始胚細胞を含有する胞胚葉細胞(PGC)は、ドナー細胞から摘出され、導入遺伝子を用いてトランスフェクションされ、受容胚の副胚内腔中に導入される。トランスフェクトされたドナー細胞を、トランスジェニック胚を生じる受容胚中に導入すると、その中の幾つかは生殖系列導入遺伝子を持つと考えられる。導入遺伝子は、非相同性組換えによってランダムな染色体部位に挿入される。この方法は、所望の細胞型で導入遺伝子の直接的な発現を必要とする配列が定義され、導入遺伝子ベクターに包含されるようなプロモーターの特徴を明確にすることを要する。しかし、トランスジェニック起源鳥は、いまだこの方法によって生み出されていない。
【0015】
Lui, Poult Sci. 68:999-1010(1995)らは、培養においてニワトリ常在性遺伝子の一部を欠損するためにvitellogenin 遺伝子のフランキングDNA配列を含有する標的ベクターを用いた。しかし、これらの細胞が生殖系列に寄与し、このようにトランスジェニック胚を生み出し得るということは分かっていない。さらに、この方法は、欠損遺伝子が生物体または細胞型の生存または適当な発生に対して必要である場合に有用でない。
【0016】
即ち、鳥ゲノム中にマグナム活性プロモーターに操作可能的に連結される外来DNAを導入する方法に対する必要性があると思われる。鳥ゲノムの標的遺伝子の必須でない部分に外来DNAを導入する方法を必要とする。標的遺伝子の調節配列が、好ましくは標的遺伝子の機能を崩壊させずに外来遺伝子の発現を駆動するような方法である。また、鳥卵管内に組み込まれた導入遺伝子の発現を選択的にもたらす能力が、望まれる。さらに、卵管内で外因性遺伝子を発現し、卵の中に発現した外因性タンパク質を分泌する生殖系修飾のトランスジェニック鳥を創造する必要性がある。
【発明の概要】
【0017】
(発明の概要)
本発明は、外因性コード配列を鳥のゲノムに安定的に導入し、この外因性コード配列を発現せしめて、所望のタンパク質をつくるかまたは鳥の表現型を変えるかする方法を提供する。本方法で有用なベクターも本発明で提供され、外因性タンパク質を発現する鳥および外因性タンパク質を含有する鳥の卵が提供される。
【0018】
1つの態様において、本発明は、鳥の特殊な組織において外因性タンパク質をつくる方法を提供する。特に、本発明は鳥卵管における外因性タンパク質の産生方法を提供する。導入遺伝子が胞胚葉細胞に、好ましくは段階Xの近辺で、導入されて、トランスジェニック鳥がつくられ、所望のタンパク質が卵管のマグナムの管状腺で発現され、管腔中に分泌され、卵黄上に保存される。このようにつくられたトランスジェニック鳥は、生殖系に導入遺伝子を保有する。こうして、外因性遺伝子の鳥への移入が、外因性遺伝子の鳥胚細胞への人工的導入によって、およびメンデルのやり方で外因性遺伝子の鳥の子孫への安定的移入によってなすことができる。
【0019】
本発明は鳥の卵管において外因性タンパク質をつくる方法を提供する。この方法は第1工程として、コード配列およびそのコード配列に操作可能的に連結したプロモーターを含有するベクターを提供し、プロモーターによる核酸の発現が鳥卵管のマグナムの管状腺でなされる。次いで、ベクターが鳥の胞胚葉細胞に導入され、細胞は培養または胚から新たに単離されるものであり、ベクター配列が鳥のゲノム中にランダムに挿入される。最後に、卵管中で外因性タンパク質を発現する成熟トランスジェニック鳥がトランスジェニック胞胚葉細胞から誘導される。外因性タンパク質を含有する鳥卵をつくるのにこの方法が用いられるのは、管状腺細胞において、発現される外因性タンパク質が卵管腔に分泌され、卵黄上に保存されるときである。
【0020】
1つの態様において、鳥のゲノムへのベクターのランダム染色体挿入によってトランスジェニック鳥をつくることは、胞胚葉細胞のDNAトランフェクトを行い、次いでこの細胞を受容胚葉下の胚芽下空洞に注入してなされる。この方法で使用されるベクターは、外因性コード配列と融合し、卵管の管状腺でのコード配列の発現を指令するプロモーターを有する。
【0021】
他の態様において、ランダム染色体挿入およびトランスジェニック鳥の生産は、胞胚葉細胞を、正当なレトロウイルスベクターの5'と3'のLTSの間の導入遺伝子RNAを保持する複製欠損レトロウイルスまたは複製可能レトロウイルスでもって形質導入することでなされる。例えば、1つの具体的態様において、鳥白血症ウイルス(ALV)のレトロウイルスベクターが用いられるが、これは、卵白アルブミン・プロモーター領域のセグメントの下流に挿入される外因性遺伝子を含有する修飾pNLBフラスミドを含む。修飾レトロウイルスベクターのRNA複写は、ウイルス粒子中に包括され、トランスジェニック鳥に成長する胞胚葉を感染するのに用いられる。あるいは、レトロウイルス形質導入粒子をつくるヘルパー細胞が胞胚葉に運ばれる。
【0022】
1つの態様において、本発明方法で用いられるベクターは、マグナム特異的プロモーターを含有する。この態様において、外因性コード配列の発現は卵管においてのみ生じる。選択的に、この態様で用いられるプロモーターは卵白アルブミンプロモーター領域のセグメントであり得る。本発明の1つの局面では、卵白アルブミンプロモーターを切除すること、および/または卵白アルブミンプロモーターの重要な調節エレメントを縮めることが関与し、卵管マグナムの管状腺細胞における高レベルの発現に要する配列を保持し、ベクター中に容易に組みこまれ得るのに十分小さいものである。例えば、卵白アルブミンプロモーター領域のセグメントが用いられる。このセグメントは、卵白アルブミン遺伝子の5'フランキング領域を含む。卵白アルブミンプロモーター・セグメントの全長は、約0.88kbから約7.4kbであり、好ましくは約0.88kbから約1.4kbである。このセグメントは、好ましくは、卵白アルブミン遺伝子のステロイド依存性調節エレメントと負調節エレメントとを含む。このセグメントはまた選択的に、卵白アルブミン遺伝子の5'非翻訳領域(5'UTR)からの残基も含む。
【0023】
本発明の他の態様において、鳥ゲノムに統合されたベクターは、外因性コード配列に操作可能的に連結した構成的プロモーターを含有する。
構成的プロモーターが卵管中で発現されるべき外因性コード配列に操作可能的に連結していると、本発明方法は、第2コード配列およびその第2コード配列に操作可能的に連結したマグナム特異的プロモーターを含有する第2ベクターも所望により提供する。この第2ベクターも成熟トランスジェニック鳥の管状腺細胞で発現される。この態様において、マグナム中の第1コード配列の発現は、第2ベクターにより発現されるタンパク質の細胞中の存在に直接的または間接的に依存している。このような方法は所望によりCre−loxP系の使用を含む。
【0024】
他の態様において、トランスジェニック鳥の産生は、導入遺伝子の特殊な染色体部位への相同的組換えによりなされる。外因性プロモーター欠損ミニ遺伝子が標的部位すなわち内因性遺伝子に挿入され、ついでこの遺伝子の調節配列が外因性コード配列の発現を支配する。この技術すなわちプロモーター欠損ミニ遺伝子挿入法(PMGI)は、卵管特異的発現を指示する標的遺伝子での使用に限定されないので、適当な部位に挿入されると、いかなる臓器での発現にも用いることができる。卵での外因性タンパク質の産生を可能にするのに加え、プロモーター欠損ミニ遺伝子挿入法は、家禽の生産および卵生産の産業に用いるのに適している。そこでは、遺伝子挿入によって鳥の重要な特性が高まる。脂のない肉、疾病抵抗性、環境適応、低コレステロール卵などである。
【0025】
本発明の1つの局面は、鳥における標的内因性遺伝子中へのプロモーター欠損ミニ遺伝子の挿入に使用される標的ベクターを提供する。このベクターは、コード配列、少なくとも1つのマーカー遺伝子および標的核酸配列を含んでいる。マーカー遺伝子は、Xenopus laevis ef−1αプロモーター、HSVtkプロモーター、CMVプロモーターおよびβアクチンプロモーターなどの構成的プロモーターに連結し、標的ベクターを統合した細胞を同定するのに用いられる。標的核酸配列は、標的遺伝子における挿入点をはさむ配列に相当し、標的ベクターの標的遺伝子への挿入を指令する。
【0026】
本発明は、鳥の特殊な細胞における外因性タンパク質を生産する方法を提供する。この方法は、プロモーター欠損ミニ遺伝子を含有する標的ベクターを提供することを含む。標的ベクターは、特殊な細胞で発現される内因性遺伝子を鳥の胞胚葉細胞中で標的とするように設計される。トランスジェニック胞胚葉細胞は、次いで受容胞胚葉下の胚芽下空胞に注入されるか、鳥の胞胚葉細胞中に導入される。標的ベクターが標的内因性遺伝子中に組込まれる。次いで、得た鳥が、所望の鳥細胞中の標的遺伝子の調節エレメントの制御下に、外因性コード配列を発現する。この方法の利用によってまた、成熟トランスジェニック鳥が最終的にトランスジェニック胞胚葉細胞から誘導されると、外因性タンパク質を含有する鳥卵が生産される。トランスジェニック鳥において、コード配列が標的遺伝子の調節配列の制御下にマグナムにおいて発現され、外因性タンパク質が卵管腔中に分泌され、外因性タンパク質がその鳥の卵黄上に保存される。
【0027】
本発明の1つの態様において、標的内因性遺伝子は鳥卵管の管状腺細胞で発現される遺伝子である。管状腺での選択的発現に好ましい標的内因性遺伝子は、卵白アルブミン遺伝子(OV遺伝子)である。まず本発明の例には、標的内因性遺伝子としての卵白アルブミン遺伝子の使用があるが、他の適当な内因性遺伝子も使用される。例えば、コンアルブミン、オボムコイド、オボムチンおよびリゾチームがすべて、本発明において鳥卵管の管状腺細胞における外因性タンパク質の発現のための標的遺伝子として用いられる。
【0028】
プロモーター欠損ミニ遺伝子挿入などの方法における挿入点は、標的遺伝子の5'非翻訳域にある。あるいは、挿入に使用される標的ベクターがコード配列の直接上流に内部リボソーム挿入エレメントを含有すると、挿入点は標的遺伝子の3'非翻訳域であり得る。
【0029】
本発明の他の局面は、鳥種に対し外因性タンパク質を含有する鳥卵を提供する。本発明を用いて、卵管中での外因性タンパク質の発現、タンパク質の卵管マグナムの管腔への分泌、鳥卵黄上への定着が可能となる。卵中に包含されたタンパク質は1卵につき1g以上の量で存在する。
【0030】
本発明の他の態様は、ニワトリや七面鳥などのトランスジェニック鳥を提供する。この鳥は生殖系の遺伝子物質中に導入遺伝子を保持する。1つの態様において、導入遺伝子は、選択的にマグナム特異的であるプロモーターに操作可能的に連結した外因性遺伝子を含む。このトランスジェニック鳥において外因性遺伝子は卵管の管状腺細胞で発現される。他の態様において、導入遺伝子は代りに、内因性遺伝子の5'非翻訳域または3'非翻訳域のいずれかに位置する外因性遺伝子を含み、内因性遺伝子の調節配列が外因性遺伝子の発現を指令する。この態様において、内因性遺伝子は、選択的に卵白アルブミン、リゾチーム、コンアルブミン、オボムコイドまたはオボムチンである。
【0031】
(図面の簡単な説明)
図1(a)および(b)は、卵白アルブミンプロモーターセグメント、コード配列、外因性タンパク質Xをコードする遺伝子Xを含む卵白アルブミンプロモーター発現ベクターを表示する。
【0032】
図2(a)、2(b)、2(c)および2(d)は、卵白アルブミンプロモーター・セグメント、コード配列、外因性タンパク質Xをコードする遺伝子Xを含む本発明のレトロウイルスベクターを表示する。
図2(e)は、2(a)および2(b)のベクター中への挿入のため外因性遺伝子を増幅する方法を表示する。
図2(f)は、コード配列遺伝子X、の発現を制御する卵白アルブミンプロモーター、第2コード配列、遺伝子Yの発現をなす内部リボソーム挿入部位(IRES)エレメントを含むレトロウイルスベクターを表示する。
【0033】
図3(a)および3(b)は、ALV誘導ベクターpNLBおよびpNLB−CMV−BL夫々の模式図を示す。ベクターはニワトリゲノム中に組込まれているのが表れるように示す。
【0034】
図4は、NLB−CMV−BLが導入された雌鶏からの卵白中のβ−ラクタマーゼ量についてβ−ラクタマーゼ活性アッセイにより測定した結果を示す。
【0035】
図5は、NLB−CMV−BLが導入された雌鶏からの卵白中のβ−ラクタマーゼの存在を表わすウエスタンブロットを示す。
【0036】
図6(a)および6(b)は、マグナム特異的、組換え活性遺伝子発現を表示する。
図6(a)では、模式的creおよびβ−ラクタマーゼ導入遺伝子が非マグナム細胞中の雌鶏のゲノム中に統合されている。
図6(b)では、模式的creリコンビナーゼおよびβ−ラクタマーゼ導入遺伝子がマグナム中の雌鶏のゲノム中に統合されている。
【0037】
図7は、loxP部位を用いるβ−ラクタマーゼ発現を静止する別の方法を表示する。ここでは、第1コドン(ATG)を有し停止コドン(TAA)をフレーム中ではさむ2つのloxP部位が、シグナルペプチドが崩壊されないようにβ−ラクタマーゼシグナルペプチドコード配列中に挿入される。
【0038】
図8(a)および8(b)は、本発明のプロモーター欠損ミニ遺伝子を標的遺伝子に挿入するのに用いられた標的ベクターを表示する。
【0039】
図9は、本発明のプロモーター欠損ミニ遺伝子の標的遺伝子への正しい相同的挿入を検出するための標的ベクターを示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
(発明の詳細な記述)
a)定義および一般的パラメーター
下記の定義は、本明細書で用いる種々の用語の意味および範囲を示し明確にするものである。
【0042】
「核酸またはポリヌクレオチド配列」は、限定ではないが、次のものを含む。真核mRNA、cDNA、ゲノムDNA、合成DNAおよびRNA配列であって、天然のヌクレオチド塩基のアデニン、グアニン、シトシン、チミジンおよびウラシルを含む。この用語は1以上の修飾塩基を有する配列も含む。
【0043】
「コード配列」または「オープン・リーディング・フレーム」は、適当な調節配列の制御下に置かれたときに、インビトロまたはインビボでポリペプタイドへ転写と翻訳(DNAの場合)または翻訳(mRNAの場合)され得るポリヌクレオチドまたは核酸配列を意味する。コード配列の境界は、5'(アミノ)末端の開始コドンおよび3'(カルボキシ)末端の停止コドンにより決定される。転写終末配列はコード配列の3'に通常は位置している。コード配列は5'および/または3'末で非翻訳域によってはさまれている。
【0044】
「エクソン」は、核転写体に転写されたときに、核スプライシングによりイントロンすなわち介在配列が除去された後に、細胞質mRNA中で「発現」される遺伝子部分を意味する。
【0045】
核酸の「制御配列」または「調節配列」は、翻訳の開始および停止のコドン、プロモーター配列、リボソーム結合部位、ポリアデニル化シグナル、転写終了配列、上流調節ドメイン、エンハンサーなどの、一定の宿主細胞において所望のコード配列を転写および翻訳するのに必要かつ十分なものを云う。真核細胞に適した制御配列の例としては、プロモーター、ポリアデニル化シグナルおよびエンハンサーがある。これらの制御配列のすべてが組換えベクター中に存在しなければならない必要性はない。所望の遺伝子の転写および翻訳がなされるのに必要かつ十分な配列が存在しておればよい。
【0046】
「操作的または操作可能的に連結した」は、所望の機能が発揮されるようにコード配列および制御配列が配置されることを意味する。こうして、コード配列に操作可能的に連結した制御配列はコード配列の発現を行うことができる。コード配列が転写調節領域に連結するか、または転写調節領域の制御下にあるときは、DNAポリメラーゼが、プロモーター配列に結合し、コードタンパク質に翻訳され得るmRNAにコード配列を転写する。制御配列は、コード配列の発現を指令する機能を発揮する限り必ずしもコード配列に隣接している必要はない。このように、例えば、介在非翻訳で転写されていない配列がプロモーター配列とコード配列との間に存在することができ、このプロモーター配列はコード配列に「操作可能的に連結した」となお考えることができる。
用語「異種」および「外因性」は、コード配列および制御配列などの核酸配列に関し、組換え構成体の領域には通常関連しないか、および/または特定の細胞に通常関連しない配列を意味する。従って核酸構成体の「異種」領域は、天然には他の分子と関連して見出されない他の核酸分子内にあるか、またはその分子に接着している核酸の同定可能なセグメントである。例えば、構成体の異種領域は、天然のコード配列に関連して見出されない配列によってはさまれたコード配列を含み得る。異種コード配列の他の例は、コード配列自体が天然には見られない構成体である(例えば、生来の遺伝子と異なるコドンを有する合成配列である)。同様に、宿主細胞に通常は存在しない構成体で形質転換された宿主細胞があれば、本発明の目的について異種と考えられる。「外因性遺伝子」または「外因性コード配列」は、特定の組織または細胞に天然には存在しない核酸を意味する。
【0047】
「外因性タンパク質」は特定の組織または細胞に存在しないタンパク質を意味する。
「内因性遺伝子」は、特定の細胞に通常関連する自然発生の遺伝子およびその断片を意味する。
【0048】
本明細書でいう発現産物は、一定の化学構造を有するタンパク質様の物質からなる。しかし、厳密な構造は、多くの因子、特にタンパク質に共通の化学的修飾に依存する。例えば、すべてのタンパク質がイオン性のアミノおよびカルボキシル基を含有しているので、タンパク質は酸性塩または塩基性塩の形、あるいは中性の形で得ることがある。第1級アミノ酸配列は、糖分子(グリコシル化)を用いる誘導または他の化学的誘導でつくられる。この誘導は、例えば脂質、リン酸塩、アセチル基などと共有結合またはイオン結合でなされ、しばしばサッカライドとの結合を介して起きる。これらの修飾は、インビトロまたはインビボで起き、後者は翻訳後の系を介して宿主細胞によってなされる。このような修飾は分子の生物活性を増加または減少する。これらの化学的に修飾された分子も本発明の範囲にある。
【0049】
クローニング、増幅、発現、精製についての他の方法は当業者に明らかである。代表的な方法は、Sambrook, Fritsch,Maniatis; Molecular Cloning,a Laboratory Manual, 2nd Ed, Cold Spring Harbor Laboratory (1989)に開示されている。
【0050】
「PMGI」は、プロモーター欠損ミニ遺伝子挿入であって、プロモーターを欠く遺伝子が相同組換えを介して標的遺伝子に挿入され、標的遺伝子の調節配列が適当な組織における挿入遺伝子の発現を支配するようにする方法である。ミニ遺伝子は、遺伝子の修飾体であって、しばしば適当なポリアデニル化シグナルを有するcDNAであり、時に1つのイントロンである。ミニ遺伝子はゲノム遺伝子のすべてのイントロンを通常は欠失している。
【0051】
「ベクター」は、1本鎖、2本鎖、環状または超らせん形のDNAまたはRNAからなるポリヌクレオチドを意味する。典型的なベクターは、機能的遺伝子の発現ができるように適当な距離で操作可能的に連結した下記のエレメントを含む。複製源、プロモーター、エンハンサー、5'mRNAリーダー配列、リポソーム結合部位、核酸カセット、終末およびポリアデニル化部位、選択可能マーカー配列である。具体的な使用において1以上のこれらのエレメントを除外できる。核酸カセットは、発現されるべき核酸配列の挿入のための制限部位を含むことがある。機能的ベクターにおいて、核酸カセットは、翻訳の開始および終了の部位を含み、発現すべき核酸配列を含有する。イントロンは選択的に構成体に含まれ、好ましくは
>100bp5'のコード配列にある。
【0052】
いくつかの態様において、プロモーターは、配列の追加または欠失で修飾され、または他の配列で置換される。これらの配列には、天然配列、合成配列、および合成と天然の配列の組合せである配列が含まれる。多くの真核プロモーターは2種の認識配列を含有する。すなわち、TATAboxと上流プロモーターエレメントである。前者は、転写開始部位の局在上流にあり、RNAポリメラーゼを指令して、正しい部位で転写を開始する。一方、後者は、転写速度を決定し、TATAboxの上流である。エンハンサー・エレメントも連結プロモーターからの転写を推進するが、多くは特定の細胞型でのみ機能する。ウイルスから誘導された多くのエンハンサー/プロモーター・エレメント、例えばSV40、Rousサルコーマ・ウイルス(RSV)およびCMVプロモーターは、広範な細胞型で活性であり、「構成的」または「偏在的」である。クローニング部位に挿入された核酸配列は、所望のポリペプチドをコードするオープン・リーディング・フレームを有すことができ、コード配列が所望のポリペプチドをコードしていると、適当なmRNA分子の生産を遮断するか、および/または異常スプライスまたは異常なmRNA分子を生産する潜在性スプライスを欠いている。
【0053】
主に用いられる終了領域は、比較的に変換性があるようなので、便利なものの1つである。終了領域は、所望の意図する核酸配列に生来のものであるか、他の源から誘導される。
【0054】
ベクターの構成は、特定のコード配列が適当な調節配列を有するベクター中に局在するようになされる。制御配列に対するコード配列の位置および方向は、コード配列が制御または調節の配列の「制御」下で転写されるようになされる。所望の特定タンパク質をコードする配列の修飾は、この目的を達成するのに望ましい。例えば、いくつかの場合には、配列の修飾が必要であって、適当な方向を有する制御配列に結合するように、またはリーディング・フレームを保持するようになされる。制御配列および他の調節配列は、ベクターへの挿入前にコード配列に結合される。あるいは、コード配列は発現ベクターに直接クローンされ得る。このベクターは、制御配列と、その調節的制御下にリーディング・フレームにある適当な制限部位とをすでに含有しているものである。
【0055】
「マーカー遺伝子」は、正しくトランスフェクトされた細胞の同定および単離を可能にするタンパク質をコードする遺伝子である。適当なマーカーには、限定ではないが、緑色、黄色、青色の蛍光タンパク質遺伝子(夫々、GFP、YFP、BFP)がある。他の適当なマーカーには、チミジンキナーゼ(tk)、ジヒドロフォレート・レダクターゼ(DHFR)、アミノグルコシド・ホスホトランスフェラーゼ(APH)遺伝子がある。後者は、カナマイシン、ネオマイシン、ゲネティシンなどのアミノグルコシド抗生物質に対して抵抗性を持つ。このような遺伝子および他のマーカー遺伝子、例えばクロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ(CAT)、β−ラクタマーゼ、β−ガラクトシダーゼ(β−gal)は、所望のタンパク質を発現する遺伝子と共に主要な核酸カセット中に組み込まれるか、あるいは、選択マーカーが単離ベクターに含有されそして共にトランスフェクトされ得る。
【0056】
「レポーター遺伝子」は、遺伝子がコードするタンパク質の存在によって細胞中の遺伝子の活性を「知らせる」マーカー遺伝子である。
【0057】
「レトロウイルス粒子」、「導入する粒子」、「導入粒子」は、非ウイルス性のDNAまたはRNAを細胞中に導入し得る複製欠損ウイルスまたは複製可能ウイルスを意味する。
「形質転換」「形質導入」「トランスフェクション」はすべて、ポリヌクレオチドの鳥胚葉細胞への導入を意味する。
【0058】
「マグナム」は、漏斗と峡との間の卵管の部分であって、卵白タンパク質を合成し分泌する管状腺細胞を含有している。
本明細書で用いる「マグナム特異的プロモーター」とは、主にまたは専らマグナムの管状腺細胞において活性であるプロモーターを意味する。
【0059】
b)胞胚葉細胞のトランスジェネシス
本発明の方法により、導入遺伝子が、鳥の胞胚葉細胞に導入されて、トランスジェニックのニワトリまたは他の鳥種がつくられる。これらの鳥は、生殖系列組織の遺伝物質中に導入遺伝子を有する。胞胚葉細胞は、典型的に段階VII-XII細胞またはそれと同等な段階であり、好ましくは段階Xに近いものである。本発明に有用な細胞には、胚生殖(EG)細胞、胚幹(ES)細胞および始原生殖細胞(PGC)を含む。胞胚葉細胞は、新たに単離するか、培養中に維持されており、胚内部に存在している。
【0060】
本発明の方法の実施に有用な種々のベクターを本明細書中で記載している。これらベクターは、鳥のゲノム中に外因性コーディング配列の安定な導入に使用し得る。他の態様では、ベクターは、鳥の具体的な組織、特に卵管中での外来性タンパク質の産生に使用し得る。また更なる態様では、ベクターは、外来性タンパク質を含む鳥の卵を作成する方法に使用する。
【0061】
ある場合では、胞胚葉細胞中への本発明のベクターの導入を、新たに単離するか培養中の胞胚葉細胞で行う。次いで、トランスジェニック細胞を、典型的には、卵中の受容胞胚葉の胚下腔に注入する。しかし、ある場合では、ベクターを直接、胞胚葉の胚の細胞に送達する。
【0062】
本発明のある態様では、胞胚葉細胞のトランスフェクトおよび鳥ゲノム中へのランダムに安定した組込みに使用するベクターは、コーディング配列およびマグナム特異的プロモーターを含み、操作および位置の関係において、鳥の卵管のマグナムの管状腺細胞でコーディング配列を発現する。マグナム特異的プロモーターは、所望により卵白アルブミンプロモーター領域のセグメントであり得るが、管状腺細胞中のコーディング配列の発現を指示するのに十分な大きさである。
【0063】
図1(a)および1(b)は、卵白アルブミンプロモーター発現ベクターの例を示す。遺伝子Xは外来性タンパク質をコードするコーディング配列である。曲がった矢印は、転写開始部位を示す。ある例では、ベクターは、5'隣接領域である卵白アルブミン遺伝子、1.4kbを含む(
図1(a))。
図1(a)の「−1.4kbプロモーター」の配列は、卵白アルブミン転写開始部位の約1.4kb上流(−1.4kb)から始まる配列に相当し、卵白アルブミン遺伝子の5'非翻訳領域へ約9残基伸びている。約1.4kb長のセグメントには、2つの重要な調節エレメントがあり、ステロイド依存性調節エレメント(SDRE)および負調節エレメント(NRE)である。NREは、ホルモンのない条件下で遺伝子の発現を阻害するためそう呼ばれている。短い0.88kbセグメントがまた、両方のエレメントを含む。他方の例では、ベクターは、約7.4kbの5'隣接領域である卵白アルブミン遺伝子を含み、更に2つのエレメント(HS-IIIおよびHS-IV)を有し、その1つは、エストロゲンにより遺伝子誘導できる機能性領域が含まれることが知られている(
図1(b))。短い6kbセグメントにはまた、4つすべてのエレメントを含み、所望により本発明に使用され得る。
【0064】
本発明のランダム組込みに使用される各ベクターには、好ましくは、ニワトリβ-グロブリン配座由来の少なくとも1つの1.2kbエレメントが含まれる。このエレメントは、ゲノムへの導入部位において活性化および不活性化の両方から内部遺伝子を隔離するものである。好ましい態様では、2つの隔離エレメントを、卵白アルブミン遺伝子構成の一方の端に加える。β-グロブリン配座において、隔離エレメントは、グロブリン遺伝子ドメインより上流の遺伝子を遠位配座調節領域(LCR)が活性化するのを防ぎ、トランスジェニックのハエにおける位置効果を克服する。以上のことは、このエレメントが挿入部位で正および負の両方の効果を防止できることを示唆する。隔離エレメントは、遺伝子の5'または3'末端の何れかにおいてのみ必要であり、それは、導入遺伝子が多数組込まれ、一列に並んだ複製が近隣導入遺伝子の隔離の隣接する一連の遺伝子を効果的に作成するからである。他の態様では、隔離エレメントはベクターと連結しないが、ベクターで共トランスフェクトされる。この場合、ベクターおよびエレメントを細胞中で、ゲノムへランダムに組込む方法により一列に並べて連結する。
【0065】
各ベクターは、所望により、マーカー遺伝子をも含むことができ、発現ベクターが安定して組込まれた細胞クローンを同定および促進できる。マーカー遺伝子の発現は、種々の細胞型で高レベルの発現をする偏在性プロモーターにより駆動される。好ましい態様では、緑色蛍光タンパク質(GFP)レポーター遺伝子(Zolotukhin et al., J. Virol 70: 4646-4654 (1995))は、Xenopus伸張因子1-α(ef-1α)プロモーター(Johnson and Krieg, Gene 147:223-26 (1994))により駆動される。Xenopus ef-1αプロモーターは、種々の細胞型で発現する強力なプロモーターである。GFPは、蛍光の促進および人体に適応するための変異を含むか、ヒト遺伝子のコドン用法プロフィールにコドンをマッチさせるために修飾される。鳥のコドン用法は、事実上、ヒトのコドン用法と同じであり、人体に適応した遺伝子型はまた、鳥の胞胚葉細胞において高発現する。他の態様では、マーカー遺伝子を、操作可能的に、偏在性プロモーターであるHSV tk、CMVまたはβ-アクチンの1つと連結させる。
【0066】
ヒトおよび鳥のコドン用法は十分にマッチしている一方、非脊椎動物遺伝子を導入遺伝子中のコーディング配列として使用する場合、非脊椎動物遺伝子配列は、コドン用法がヒトおよび鳥のものに類似するように、修飾され、適当なコドンに変換される。
【0067】
胞胚葉細胞のトランスフェクションが、当業者に既知の多くの方法で調整され得る。ベクターの細胞への導入は、細胞膜の通過促進を容易にするポリリシンまたは陽イオン性脂質と核酸とを最初に混合することで進められる。しかし、ベクターの細胞への導入は、好ましくは、リポソームまたはウイルスのような送達伝播体の使用より実施される。本発明のベクターを胞胚葉細胞への導入に使用し得るウイルスには、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペス単体ウイルスおよびワクシニアウイルスが含まれるが、これらに限らない。
【0068】
胞胚葉細胞をトランスフェクトするある方法では、パッケージされたレトロウイルスを基にしたベクターを、ベクターを鳥ゲノム中に組込むため、胞胚葉細胞中へのベクターの送達に用いる。
【0069】
レトロウイルス形質導入粒子を胚中の胞胚葉細胞に送達すること以外に、レトロウイルスを作成するヘルパー細胞が胞胚葉に送達され得る。
【0070】
鳥ゲノムへ導入遺伝子をランダムに導入するための好ましいレトロウイルスは、複製欠損ALVレトロウイルスである。適当なALVレトロウイルスベクターを作成するため、pNLBベクターを、レトロウイルスゲノムの5'と3'の長い末端反復体(LTR)の間の卵白アルブミンプロモーターおよび1以上の外因性遺伝子の領域に挿入することにより修飾する。卵白アルブミンプロモーターの下流に位置する任意のコーディング配列が、高レベルで、卵管マグナムの管状腺細胞中においてのみ発現する。卵白アルブミンプロモーターにより、高レベル発現の卵白アルブミンタンパク質が駆動され、卵管管状腺細胞中のみで活性があるからである。培養した卵管管状腺細胞中でアッセイするときに、7.4kb 卵白アルブミンプロモーターによる最も活性な構成体の作成が見られるが、卵白アルブミンプロモーターは、レトロウイルスベクター中で使用するためには短くしなければならない。好ましい態様では、レトロウイルスベクターは、1.4kbセグメントである卵白アルブミンプロモーターを含む。0.88kbセグメントであっても十分である。
【0071】
本発明の何れかのベクターはまた、シグナルペプチドをコードするコーディング配列を所望により含み得、そのシグナルペプチドは卵管の管状腺細胞由来のベクターのコーディング配列が発現するタンパク質の分泌を指示する。本発明のこの態様により、本発明の方法を用い鳥の卵中に存在し得る外因性タンパク質のスペクトルが効果的に広げられる。仮に外因性タンパク質が分泌しない場合、コーディング配列を生ずるベクターは、リゾチーム遺伝子由来のシグナルペプチドをコードする約60bpを含むDNA配列を含むよう修飾される。シグナルペプチドをコードするDNA配列は、cDNAがコードするタンパク質のN末端に位置するようにベクター中に挿入される。
【0072】
図2(a)-2(d)および2(f)は、適当なレトロウイルスベクターの例を示す。ベクターは、5'および3'の隣接LTRを用い鳥ゲノム中に挿入される。Neoはネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子である。曲がった矢印は、転写開始部位を示す。
図2(a)および2(b)は、LTRおよび卵管転写産物を示し、リゾチームシグナルペプチド(LSP)をコードする配列を有する。その一方、
図2(c)および2(d)は、その配列を有しない転写産物を示す。レトロウイルスベクターストラテジーは2つある。真核性シグナルペプチドを含む何れかのタンパク質は、
図2(b)および2(d)に示すベクターにクローニングし得る。通常分泌しない任意のタンパク質は、
図2(a)および2(b)に示すベクター中にクローニングすると、管状腺細胞から分泌し得る。
【0073】
図2(e)は、外来性遺伝子をリゾチームシグナルペプチドベクター中にクローニングするためのストラテジーを示す。ポリメラーゼ連鎖反応を使用し、コーディング配列、遺伝子Xの複製を増幅する。その増幅には、2つの酵素による消化後の増幅遺伝子をプラスミドに挿入することができる制限酵素部位を含む一対のオリゴヌクレオチドプライマーを用いる。5'および3'オリゴヌクレオチドには、それぞれ、Bsu36IおよびXbaI制限酵素部位が含まれている。
【0074】
本発明の他の態様には、本発明の何れかのベクターにおいて内部リボゾーム挿入部位(IRES)の使用を含み、ジ-またはポリシストロン性mRNAから2以上のタンパク質を翻訳することができる。IRES単位は、1以上の追加のコーディング配列の5'末端と融合し、次いで、ベクター中のオリジナルコーディング配列の末端に挿入されて、コーディング配列はIRESにより互いに分離される。本発明のこの態様によって、産物の翻訳後修飾が促進される。1つのコーディング配列が他のコーディング配列産物を修飾することができる酵素をコードし得るからである。例えば、第一のコーディング配列は、第二のコーディング配列によりコードされる酵素によりヒドロキシル化され、活性化されるコラーゲンをコードし得る。
【0075】
例えば、
図2(f)のレトロウイルスベクターの例では、内部リボソーム挿入部位(IRES)エレメントは、2つの外来性コーディング配列(遺伝子Xおよび遺伝子Y)の間に位置する。IRESにより、タンパク質Xおよびタンパク質Yの両方が、卵白アルブミンプロモーターにより指示される同一転写産物から翻訳され得る。曲がった矢印は、転写開始部位を示す。遺伝子Xによりコードされるタンパク質の発現は、特異的に発現するが分泌しない場合、管状腺細胞中で最も高くなると予想される。遺伝子Yによりコードされるタンパク質はまた、管状腺細胞に特異的に発現するが、効率よく分泌するため、タンパク質Yが卵中にパッケージされる。
【0076】
本発明の他の態様では、本発明の何れかの方法で使用するベクターのコーディング配列により、生じたRNAを安定化する3'非翻訳領域(3'UTR)が提供される。3'UTRをレトロウイルスベクターに付加したとき、融合卵白アルブミンプロモーター、遺伝子Xおよび3'UTRの方向が、構成中逆向きでなければならない。それは、3'UTRの付加が全長ゲノムRNAの転写産物で妨げられるためである。本発明の好ましい態様では、3'UTRは、卵白アルブミンもしくはリゾチーム遺伝子の非翻訳領域、あるいはマグナム細胞中で機能的であるなんらかの3'UTR、即ちSV40後半領域である。
【0077】
本発明の他の態様では、構成的プロモーターを使用し、鳥のマグナム中において導入遺伝子のコーディング配列を発現する。この場合、発現はマグナムだけに限られず、発現はまた鳥の他の組織内でも生ずる。しかし、このような導入遺伝子の使用は、発現されるタンパク質がその鳥に非毒性でさえあれば、卵管におけるタンパク質の発現および続く卵白中へのタンパク質の分泌を効果的にするのに適当である。
【0078】
図3(a)は、本発明の態様で使用するのに適したベクターである、複製欠損鳥白血病ウイルス(ALV)に基づくベクターpNLBの模式図を示す。pNLBベクターにおいて、殆どのALVゲノムはネオマイシン耐性遺伝子(Neo)およびβ−ガラクトシダーゼをコードするlacZ遺伝子により置きかえられる。
図3(b)は、lacZがCMVプロモーターおよびβ−ラクタマーゼコード配列(β−LaまたはBL)により置換されているベクターpNLB−CMV−BLを示す。ベクターの構築は、具体的例である下記実施例1に報告する。β−ラクタマーゼは、CMVプロモーターから発現され、3'末端反復配列(LTR)にポリアデニル化シグナル(pA)を利用する。β−ラクタマーゼは、天然シグナルペプチドを有する;従って、それは血液および卵白に発見される。
【0079】
鳥胚は、pNLB−CMV−BL形質導入粒子により十分に形質導入される(具体的な例である下記実施例2および3参照)。得られた安定に形質導入された雌鶏からの卵の卵白は、卵当り、20mgまでの分泌された活性β−ラクタマーゼを含むことが判明した(具体的な例である下記実施例4および5参照)。
【0080】
本発明の別の態様において、構成的プロモーターを含む導入遺伝子が使用されるが、導入遺伝子は、導入遺伝子の発現が有効にマグナム特異的になるように操作される。このように、本発明により提供される鳥卵管に外因性タンパク質を産生させる方法は、その管状腺細胞に二つの導入遺伝子を担持するトランスジェニック鳥の産生を含む。一つの導入遺伝子は、構造プロモーターに操作可能に結合した第1コード配列を含む。第2の導入遺伝子は、マグナム特異的プロモーターに操作可能的に結合した第2コード配列を含み、第1コード配列の発現が直接的または間接的に第2コード配列により発現されるタンパク質の細胞での存在に依存している。
【0081】
所望により、Cre−loxPまたはFLP−FRTシステムのような部位特異的組換えシステムを、操作した構造プロモーターのマグナム特異的活性化の実行に利用する。一つの態様において、第1の導入遺伝子はFRT結合遮断配列を含み、それはFTP非存在下で第1コード配列の発現およびFTPをコードする第2コード配列の発現を遮断する。他の態様において、第1導入遺伝子は、Cre酵素非存在下で第1コード配列の発現およびCreをコードする第2コード配列の発現を遮断するloxP結合遮断配列を含む。loxP結合遮断配列は、第1コード配列の5'非翻訳領域に位置し得、loxP結合配列は、所望によりオープン・リーディング・フレームを含み得る。
【0082】
例えば、本発明の一つの態様において、マグナム特異的発現は、分泌するタンパク質のコード配列(CDS)にサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターを結合させることにより、構成導入遺伝子上に付与される(
図6(a)および6(b))。コード配列の5'非翻訳領域(UTR)はloxP結合遮断配列を含む。loxP結合遮断配列は二つのloxP部位を含み、その間は停止コドンに続く開始コドン(ATG)であり、短いナンセンスオープン・リーディング・フレーム(ORF)を創製する。loxP配列は二つの開始コドンを同じ配向で含むことは注目である。従って、それらがloxP摘出後のコード配列の翻訳によって妨害されないために、loxP部位はATGが逆の鎖にあるように配向すべきである。
【0083】
Cre酵素の非存在下、サイトメガロウイルスプロモーターは、小オープン・リーディング・フレーム(ORFの)発現を駆動する。リボザイムは、ORFの開始コドンである第1ATGで開始し、そしてコード配列の開始コドンで翻訳を再開始できずに終わる。コード配列が翻訳されないことを確実にするために、第1ATGをコード配列ATGと共にフレームから外す。Cre酵素が、CMV−cDNA導入遺伝子を含む細胞内で発現された場合、Cre酵素はloxP部位を結合し直し、介在ORFを摘出する(
図6(b))。ここで、翻訳はコード配列の開始コドンから始まり、所望のタンパク質の合成をもたらす。
【0084】
本システムを組織特異的にするために、Cre酵素を、CMV−loxPコード配列導入遺伝子と同じ細胞内で、マグナム特異的卵白アルブミンプロモーターのような組織特異的プロモーターの制御下に発現させる(
図6(b))。切断卵白アルブミンプロモーターは実際に弱い可能性があるが、まだ組織特異的であり、有効な介在ORFの摘出を誘導するのに十分な量のCre酵素を発現する。実際、低レベルのリコンビナーゼは、翻訳装置のためのコード配列転写に対して競合しないため、組換えタンパク質の高い発現を可能にする。
【0085】
コード配列の翻訳の遮断の別の方法は、loxP部位の間への転写停止シグナルおよび/またはスプライシングシグナルの挿入を含む。これらは、遮断ORFと共にまたは単独で挿入できる。本発明の他の態様において、停止コドンはコード配列のシグナルペプチドのloxP部位の間に挿入できる(
図7参照)。リコンビナーゼが発現される前は、ペプチドはコード配列の前で停止する。リコンビナーゼが発現された後(組織特異的プロモーターの支配の下)、停止コドンが摘出され、コード配列の翻訳が可能になる。loxP部位およびコード配列は、それらがフレーム内であり、loxP停止コドンがフレームの外であるように並列される。シグナルペプチドが更なる配列を許容できるため(Brown et al., Mol. Gen. Genet. 197:351-7 (1984))、loxPまたは他のリコンビナーゼ標的配列(即ち、FRT)の挿入は、所望のコード配列の分泌を妨害しそうにない。
図7に示すベクターの発現において、loxP部位は、loxPによりコードされるアミノ酸が成熟、分泌タンパク質に存在しないように、シグナルペプチド内に存在する。Cre酵素が発現される前に、翻訳は停止コドンで停止し、β−ラクタマーゼの発現を防止する。リコンビナーゼが発現された後(マグナム細胞中のみで)、loxP部位は再結合し、第1停止コドンを摘出する。従って、β−ラクタマーゼは選択的にマグナム細胞内でのみ発現される。
【0086】
前記の態様において、遮断ORFは、チキンに害がないペプチドであり得る。遮断ORFは、またALV形質導入粒子および/またはトランスジェニック鳥の産生に有用である遺伝子であり得る。一つの態様において、遮断ORFはマーカー遺伝子である。
【0087】
例えば、遮断ORFは、形質導入粒子の製造に必要なネオマイシン耐性遺伝子である。導入遺伝子がチキンゲノムに統合されたら、ネオマイシン耐性遺伝子は必要が無くなり、摘出できる。
【0088】
あるいは、β−ラクタマーゼは、トランスジェニック鳥の産生に有用なマーカーであるため、遮断ORFとして使用できる。(トランスジェニック鳥内のマーカーとしてのβ−ラクタマーゼの使用の具体的例は、下記実施例4参照)。実施例として、
図6(a)の遮断ORFはβ−ラクタマーゼにより置換され、下流コード配列はここで分泌生物薬剤をコードする。β−ラクタマーゼは、血液および他の組織に発現される;Creのマグナム特異的発現およびβ−ラクタマーゼの組換え介在摘出の後、マグナムでは発現されず、所望のタンパク質の発現を可能にする。
【0089】
CreおよびloxP導入遺伝子は、同時または別々にチキンゲノムに介在導入遺伝子を介して挿入される。チキンゲノムへの安定な統合をもたらすトランスジェネシスの方法が適当である。卵白アルブミンプロモーターリコンビナーゼおよびCMV−loxP−CDS導入遺伝子の両方が同時にチキンに挿入される。しかし、トランスジェネシスの有効性は低く、従って、両方の導入遺伝子のチキンゲノム内での獲得は同時に低い。別の好ましい方法において、一つの群れを、マグナム特異的プロモーター/リコンビナーゼ導入遺伝子を担持するように産生し、第2の群れを、CMV−loxP−CDS導入遺伝子を担持するように産生する。群れを次いで互いに交配する。この異系交配から得られた雌鶏は、そのマグナム内のみにコード配列を発現する。
【0090】
トランスジェニックのニワトリを産生するための胞胚葉細胞のトランスフェクト法において、標的ベクターを標的遺伝子内へのプロモーター欠損ミニ遺伝子挿入(PMGI)に使用する。標的ベクターは、コード配列、構成的プロモーターに操作可能に結合した少なくとも一つのマーカー遺伝子、および所望の標的遺伝子内の所望の挿入点にフランキングな配列と適合する標的核酸配列を含む。標的核酸配列は、標的遺伝子への標的ベクターの挿入を支配する。マーカー遺伝子は、標的ベクターを統合している細胞の同定を可能にする。
【0091】
一つの態様において、標的遺伝子は、鳥卵管で発現される内因性遺伝子である。例えば、標的遺伝子は卵白アルブミン、リソザイム、コンアルブミン、オボムコイドおよびオボムチンからなる群から選択し得る。(リソザイム遺伝子は、卵管細胞に加えてマクロファージで発現されるため、発現の卵管細胞のみへの限定が望ましい場合、適当な標的遺伝子でないことに注意すべきである。)
【0092】
PMGIは、鳥卵管および鳥種以外の種で、発現される遺伝子以外の標的遺伝子と共に使用する。
ベクターが支配する挿入点は、標的遺伝子の5'または3'非翻訳領域であり得る。3'非翻訳領域が標的の場合、標的ベクターは、更に、ベクターのコード配列の直ぐ上流に位置する内部リボソーム挿入部位エレメントを含む。
【0093】
図8(a)および(b)は、各々卵白アルブミン標的遺伝子の5'または3'非翻訳領域(UTR)へのPMGIの挿入を説明する。
図8(a)に説明する態様において、プロモーター欠損ミニ遺伝子(PMG)は、卵白アルブミン標的遺伝子の5'UTRに挿入される。外因性タンパク質および卵白アルブミンの両方をコードするジシストロン性mRNAは、矢印で示す転写開始部位から転写される。リボゾームはジシストロン性mRNAの5'末端に結合し、外因性遺伝子を翻訳し、次いで卵白アルブミンコード領域の前で停止する。多シストロン性転写の卵白アルブミン部分が翻訳されないことは注意する。従って、産生される卵白アルブミンのレベルは、卵白アルブミン遺伝子の一つのコピーの翻訳が中断されるため、正常レベルの約半分である。
図8(b)に説明する態様において、PMGは3'UTRに挿入される。外因性遺伝子の翻訳は、リボゾームが結合し、下流コード領域を翻訳するIRESエレメントの存在により開始される。
【0094】
いずれの場合も、標的ベクターは、標的ベクターが安定に統合された細胞クローンおよび集団の同定および富化を可能にするマーカーを含む。適当な同定遺伝子は、G418に対する耐性を付与されたタンパク質をコードするneo、または緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするGFPを含むが、これらに限定されない。好ましい態様において、GFP発現は均質に緑色の蛍光を発し、従って、安定に統合された標的ベクターを含むクローンの同定に使用する。マーカー遺伝子は、HSV tk、β−アクチン、CMV、またはef−1aのプロモーターを含むが、これらに限定されない遍在プロモーターから発現される。現在好ましい態様において、ef−1aプロモーターはGFPの発現を駆動する。
【0095】
本発明はまた標的遺伝子へのプロモーター欠損ミニ遺伝子の挿入に使用し得るベクターを提供し、それは上記の標的ベクターのエレメントを含むが、第2構成プロモーターに操作可能に結合した第2マーカー遺伝子も含む。第2マーカー遺伝子は標的ベクターの標的核酸配列の外側に位置し、標的遺伝子へのプロモーター欠損ミニ遺伝子の挿入に際し、第2マーカー遺伝子は挿入されない。
【0096】
例えば、本発明の一態様には、PMGI標的ベクターにおける、青色蛍光タンパク質(BFP)およびGFPをコードするマーカー遺伝子の使用が含まれる(
図9)。この方法は、正−負の選択方法の変形であり(米国特許第5,464,764号および同第5,487,992(Capecchiら))、この方法では、BFPを使用して、プロモーターを欠くミニ遺伝子(PMG)が標的遺伝子に正しく挿入された稀有細胞を同定する。BFP遺伝子を元の標的ベクターの3'末端に挿入する(
図9を参照)。標的ベクターおよび標的が相同的組換えを正しく受けている場合には、GFP遺伝子のみを挿入する。そうすると、正しく挿入されたPMGを含むコロニーは、緑色の蛍光を発する。これとは対照的に、大多数の細胞では、BFP遺伝子が含まれる完全なベクターを、ゲノムにおけるランダムな位置に挿入する。ランダムな挿入が行われたコロニーは、GFPおよびBFPの存在により、青色および緑色の蛍光を発する。
【0097】
図9は、5'UTRにおけるベクターの使用を説明するが、このベクターは、5'または3'UTRのいずれにおける使用にも適当である。
【0098】
上述の通り、本発明の方法により製造したベクターは、場合により、ポリアデニル化部位を含む3'UTRを有して、製造したRNAに安定性を与え得る。好ましい態様において、3'UTRは、外因性遺伝子のものであり得るか、または卵白アルブミン、リゾチーム、もしくはSV40後期領域よりなる群から選択され得る。しかしながら、PMGIベクターへの卵白アルブミン配列の付加は、適切な標的化を妨げるであろうことから、卵白アルブミンの3'UTRは、内因性卵白アルブミン遺伝子に挿入すべきPMGIベクターにおいて適当ではない。
【0099】
c)外因性タンパク質の製造
鳥卵管における外因性タンパク質の製造、および外因性タンパク質を含む卵の産生を与える本発明の方法には、適当なベクターを与えて、ベクターが鳥ゲノムに統合されるよう、ベクターを胚の胞胚葉細胞に導入した後に、さらなる段階が含まれる。その後の段階には、先の段階で製造したトランスジェニック胞胚葉細胞から、成熟したトランスジェニック鳥を誘導することが含まれる。成熟したトランスジェニック鳥を胞胚葉細胞から誘導することには、場合により、トランスジェニック胞胚葉細胞を胚に移入して、胚を十分に発達させることが含まれ、胚の発達につれて、細胞が鳥に取り込まれるようになる。次いで、その結果得られたヒヨコを成熟するまで育てる。別の態様において、胞胚葉細胞を胚の内部にベクターで直接トランスフェクトするか、または導入する。その結果得られた胚を発達させて、ヒヨコを成熟させる。
【0100】
いずれの場合においても、トランスジェニック胞胚葉細胞から産生したトランスジェニック鳥は、起源物として知られている。幾つかの起源物は、卵管のマグナムにおける管状腺細胞に導入遺伝子を持つ。これらの鳥は、卵管において、導入遺伝子によりコードされる外因性タンパク質を発現させる。外因性タンパク質が適当なシグナル配列を含むと、卵管の管腔および卵の卵黄に分泌される。
【0101】
幾つかの起源物は、生殖系起源物である。ある生殖系起源物は、その生殖系組織の遺伝物質中に導入遺伝子を持つ起源物であって、外因性タンパク質を発現させる卵管マグナム管状腺細胞にも導入遺伝子を持ち得る。それゆえに、本発明に従って、トランスジェニック鳥は、外因性タンパク質を発現させる管状腺細胞を有することになり、トランスジェニック鳥の子孫もまた、外因性タンパク質を発現させる卵管マグナム管状腺細胞を有する。(あるいはまた、子孫は、鳥の特定組織における外因性遺伝子の発現により決定される表現型を発現させる。)
【0102】
本発明を使用して、ヒトおよび動物の医薬品、診断薬、および家畜飼料添加物として使用されるタンパク質を含む広範囲な所望のタンパク質を、高収率かつ低コストで発現させることができる。ヒト成長ホルモン、インターフェロンおよびβ−カゼインといったようなタンパク質は、本発明により、望ましくは卵管において発現し、卵に沈着するタンパク質の例である。製造することが可能な他のタンパク質には、限定されるものではないが、アルブミン、α−1アンチトリプシン、アンチトロンビンIII、コラーゲン、VIII、IX、X因子(等)、フィブリノーゲン、ヒアルロン酸、インシュリン、ラクトフェリン、プロテインC、エリスロポエチン(EPO)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、組織型プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、飼料添加酵素、ソマトトロピンおよびキモトリプシンが含まれる。ヒト腫瘍細胞の表面抗原に結合して、それらを破壊する免疫毒素のような、遺伝的に操作された抗体もまた、医薬品または診断藥としての使用のために発現させることができる。
【実施例】
【0103】
d)実施例
次の具体的な実施例は、本発明を説明しようとするものであって、請求の範囲を限定するものではない。
【0104】
実施例1.ベクター構成
複製欠損鳥白血病ウイルス(ALV)に基づいたベクター(Cossetら,1991)であるpNLBのlacZ遺伝子を、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、およびリポーター遺伝子であるβ−ラクタマーゼ(β−LaまたはBL)よりなる発現カセットで置換した。pNLBおよびpNLB−CMV−BLベクターの構成物を各々、
図3(a)および3(b)に示す。
【0105】
pNLBのlacZ遺伝子を導入遺伝子で有効に置換するために、中間アダプタープラスミドとなるpNLBアダプターを最初に作成した。pNLBアダプターは、pNLBのチュード・バック(chewed back)ApaI/ApaIフラグメント(Cossetら,J. Virol. 65:3388−94(1991))(pNLBにおいて、5'ApaIは、lacZの289bp上流にあり、そして3'ApaIは、3'LTRおよびGagセグメントの3'にある)をpBluescriptKS(−)のチュード・バックKpnI/SacI部位に挿入することにより作成した。pCMV−BLのフィルド−イン(filled-in)MluI/XbaIフラグメント(Mooreら,Anal. Biochem. 247:203−9(1997))をpNLBアダプターのチュード・バックKpnI/NdeI部位に挿入し、lacZをCMVプロモーターおよびBL遺伝子(pNLBにおいて、KpnIはlacZの67bp上流にあり、そしてNdeIはlacZ終止コドンの100bp上流にある)で置換し、それによって、pNLBアダプターCMV−BLを作成した。pNLB−CMV−BLを作成するために、pNLBのHindIII/BlpI挿入断片(lacZを含む)をpNLBアダプターCMV−BLのHindIII/BlpI挿入断片で置換した。pNLBのHindIII/BlpI部位への平滑断片フラグメントの直接ライゲーションは、理由は解明されていないが、大部分が再配列サブクローンを与えることから、この二段階クローニングが必要であった。
【0106】
実施例2.形質導入粒子の製造
SentasおよびIsoldesをF10(Gibco)、5% 新生仔ウシ血清(Gibco)、1% ニワトリ血清(Gibco)、50μg/ml フレオマイシン(Cayla Laboratories)、および50μg/ml ハイグロマイシン(Sigma)中で培養した。次のことを除き、Cossetら,1993(この文献に記載されている内容は、本発明の一部を構成する)に記載されているようにして、形質導入粒子を製造した。9×10
5 SentasへのレトロウイルスベクターpNLB−CMV−BL(上の実施例1から得られた)のトランスフェクションから2日後、ウイルスを新たな培地で6−16時間収集して、濾過した。全ての培地を使用して、ポリブレンを最終濃度が4μg/mlとなるまで加えた100mmのプレート3枚に、3×10
6 Isoldesを導入した。翌日、培地を、50μg/ml フレオマイシン、50μg/ml ハイグロマイシンおよび200μg/ml G418(Sigma)を含む培地で置換した。10−12日後、単一G418
rコロニーを単離して、24ウェルのプレートに移した。7−10日後、Sentasの形質導入、続いて、G418選択により、各々のコロニーから得られる力価を測定した。典型的には、60コロニーのうち2つが力価を1−3×10
5で与えた。それらのコロニーを広げ、Allioliら,Dev. Biol. 165:30−7(1994)(この文献に記載されている内容は、本発明の一部を構成する)に記載されているようにして、ウイルスを2−7×10
7まで濃縮した。NLB−CMV−BL形質導入粒子で導入した細胞の培地中でβ−ラクタマーゼをアッセイすることにより、CMV−BL発現カセットの完全性を確かめた。
【0107】
実施例3.トランスジェニックニワトリの産生
卵殻孔を1−2層の卵殻膜で覆い、一度乾燥させて、Duco モデルセメントで覆うことを除き、Thoravalら,Transgenic Res. 4:369−377(1995)(この文献に記載されている内容は、本発明の一部を構成する)に記載されているようにして、新たに産まれた卵における第X期の胚をNLB−CMV−BL形質導入粒子(上の実施例2から得られた)で導入した。
【0108】
NLB−CMV−BL形質導入粒子での第X期の胚の形質導入により、約120のWhite Leghornsを製造した。これらの鳥は、キメラ起源物であって、完全にトランスジェニック鳥となるわけではない。形質導入したニワトリから得られる血液および精液中の大規模なDNA分析は、いずれの与えられた組織においても、僅か10−20%しか検出可能なレベルの導入遺伝子を有していないことを示す。それらの鳥のうち、実際には、いずれの与えられた組織における細胞の僅か2−15%しかトランスジェニックではなかった。
【0109】
実施例4.血液および卵白におけるβ−ラクタマーゼ活性のアッセイ
上の実施例3で産生した雌鶏が卵を産み始めたら、それらの卵の卵白をβ−ラクタマーゼの存在に関してアッセイした。次の変更を伴い、Mooreら,Anal. Biochem. 247:203−9(1997)(この文献に記載されている内容は、本発明の一部を構成する)に記載されているようにして、β−ラクタマーゼアッセイを行った。
【0110】
2〜10日齢のヒヨコから得られる血液をアッセイするために、脚の静脈をメスで刺した。血液50μlをヘパリン添加した毛細管(Fisher)に集め、このうち25μlを96ウェルのプレート中のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)100μlに移した。精製β−ラクタマーゼ(Calbiochem)の様々な希釈溶液を幾つかのウェルに加えた後、対照の(形質導入していない)ヒヨコから得られた血液を加えて、β−ラクタマーゼ標準曲線を確立した。4℃で1日後、プレートを730×gで10分間遠心分離した。上澄み25μlをPBS75μlに加えた。PBS中の20μM 7−(チエニル−2−アセトアミド)−3−[2−(4−N,N−ジメチルアミノフェニルアゾ)ピリジニウムメチル]−3−セフェム−4−カルボン酸(PADAC、Calbiochem社製)100μlを加えて、ウェルを560nmで10分の動態学的読み取りにてプレート読み取り装置で直ちに読み取り、または暗所に室温で一晩放置した。ウェルが紫色から黄色に変わったら、ウェルを陽性と記録した。もう少し成長した鳥から得られる血液をアッセイするために、ヘパリン(Sigma)50μlを注入した注射器を使用して、血液200−300μlを羽の静脈から採取することを除き、同じ手順に従った。
【0111】
NLB−CMV−BLを導入した群れの分析によると、9羽のニワトリが血液中に有意なレベルのβ−ラクタマーゼを有することを示した。これらのニワトリのうち3羽は雄であって、PCR分析(以下の実施例10を参照)により測定すると、これらは精液中に有意なレベルのNLB−CMV−BL導入遺伝子を有する唯一の3羽の雄であった。従って、これらは、トランスジェニックG
1子孫を完全に得るための非近交系であるべき雄である。他の6羽のニワトリは、マグナム組織においてβ−ラクタマーゼを発現する雌鶏であった(以下を参照)。他の鳥は、血液中に低レベル(検出レベルより少し上)のβ−ラクタマーゼを有していたが、β−ラクタマーゼを含むトランスジェニック精液または卵は有していなかった。従って、血液中でのβ−ラクタマーゼの発現は、ニワトリが上手く形質導入されたかどうかの有力な指標である。
【0112】
卵白中のβ−ラクタマーゼをアッセイするために、新たに産まれた卵をその日のうちに4℃の冷蔵庫に移し、この時点で、β−ラクタマーゼは、少なくとも1ヶ月間安定である。(卵白に加えた、細菌により発現する精製β−ラクタマーゼは、最小活性を4℃では数週間で失うことが測定され、卵白中のβ−ラクタマーゼの安定性が確かめられた。)卵白試料を集めるために、卵をプラスチック製ラップの上で割った。卵白をピペットで数回吸い上げ下げして、濃厚および希薄な卵白を混合した。卵白試料を96ウェルのプレートに移した。1ウェルにつき1M NaH
2PO
4(pH 5.5)1.5μlを補ったPBS100μlを含む96ウェルのプレートに、卵白試料10μlを移した。20μM PADAC100μlを加えた後、ウェルを560nmで10分または12時間の動態学読み取りにてプレート読み取り装置で直ちに読み取った。精製β−ラクタマーゼの様々な希釈溶液を、対照の(形質導入していない)雌鶏から得られた卵白10μlと一緒に、幾つかのウェルに加えて、β−ラクタマーゼ標準曲線を確立した。未処置の雌鶏およびNLB−CMV−BLを導入した雌鶏の両方から得られる卵白をβ−ラクタマーゼの存在に関してアッセイした。
【0113】
以下の
図4および表1に示すように、有意なレベルのβ−ラクタマーゼを6羽の雌鶏の卵白において検出した。卵における発現を実証するための最初の雌鶏であるHen 1522(「Betty Lu」)が産んだ卵は、卵1個あたり0.3mgまたはそれ以上の活性β−ラクタマーゼを有する。他の3羽のNLB−CMV−BLを導入した雌鶏(Hen 1549、Hen 1790、およびHen 1593)からのβ−ラクタマーゼの製造もまた示す。β−ラクタマーゼを含む卵を産んだ雌鶏はいずれもまた、その血液中に有意なレベルのβ−ラクタマーゼを有していた。
【0114】
β−ラクタマーゼ活性のアッセイに基づき、β−ラクタマーゼの発現レベルは、(卵1個あたり卵白40ミリリットルであると仮定すると)卵1個あたり0.1〜1.3mgの範囲となる。しかしながら、この量は、ウェスタンブロットアッセイ(以下の実施例5を参照)により得られる量から考えると著しく低く、真の値より低く誤って測定された。酵素活性のアッセイとウェスタンブロットアッセイ(実施例5)との間の結果の相違は、卵白におけるβ−ラクタマーゼ阻害剤の存在によるものであることが分かった。精製β−ラクタマーゼの活性は、反応200ml中の卵白50mlによりほぼ100%阻害されたが、反応200ml中の卵白10mlによっては穏やかな阻害しかされなかったことから、卵白により阻害されることが分かる。さらにまた、アッセイ工程中に酵素基質であるPADACが自発的に分解することもまた、β−ラクタマーゼ濃度の間違った低い計算値の原因であった。
【0115】
【表1】
対照は処置をしていない雌鶏の卵である。BLのレベルが低いのは反応速度アッセイ中にPADACの自発的分解がおこるためである。他の雌鶏にNLB-CMV-BLを実施例3で述べたとおり形質導入した。それぞれの卵白を3回アッセイした。
【0116】
実施例5 卵白中β-ラクタマーゼのウエスタンブロット
実施例4でアッセイした卵白と同じもので、卵中のβ-ラクタマーゼ存在量についてウエスタンブロットアッセイを確認し、卵中のβ-ラクタマーゼ存在量について上述の実施例4の反応速度アッセイよりも正確な測定が得られた。
【0117】
分析を行なうために、卵白10μlを0.5M Tris-Cl(pH6.8)、10% ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、10% グリセロール、1.43M 2-メルカプトエタノール、0.001% ブロモフェノールブルー 30μlに加えた。サンプルを95℃で5分間加熱し、12%SDS-PAGEで分離し、イモビロンP膜(Millipore)で転写した。β-ラクタマーゼを、ウサギ抗-β-ラクタマーゼ(5末端-3末端)の1:500希釈物およびヤギ 抗-ウサギIgG HRPコンジュゲート(Promega)の1:5000希釈物で検出した。強化化学ルミネセンス(ECL)ウエスタンブロット法システム(Amersham)で、イムノブロットを可視化した。
【0118】
様々なβ-ラクタマーゼサンプルについて、ウエスタンブロット法および抗-β-ラクタマーゼ抗体で分析した。これらの結果を
図5に示す。ブロットのレーン1-4はそれぞれ5.2、1.3、0.325および0.08μgの細菌性発現を含む:精製したβ-ラクタマーゼを対照の卵白に加え、標準曲線を形成する。レーン5は処置していない雌鶏の卵白を含む。レーン6はHen1552(Betty Lu)の卵白 2μlである。レーン7-8はそれぞれHen1790の卵白 1および2μlを含む。レーン9-10はそれぞれHen1793の卵白 1および2μlを含む。レーン11-12はHen1549の卵白の1および2μlアリコートを含む。レーン13-14はそれぞれHen1581の卵白 1および2μlを示す。レーン15はHen1587の卵白 2μlを示す。
【0119】
分子量標準の位置を、
図5のブロットの左側にキロダルトン(kDa)で示す。31kDaの帯はβ-ラクタマーゼである。卵白中のβ-ラクタマーゼの分子量は精製したβ-ラクタマーゼの分子量とほぼ等しい。卵白β-ラクタマーゼも単一分子種であり、さらにこの合成はβ-ラクタマーゼコード配列に正確であり、このβ-ラクタマーゼは卵白と同様にマグナム細胞中で非常に安定である。13kDaの帯は、抗-β-ラクタマーゼ抗体と架橋反応する卵白タンパク質である。
【0120】
ウエスタンブロットの結果に基づき、レーン6のβ-ラクタマーゼ(Hen1522のもの、Betty Lu)を、120ngまたは卵に対して2.4mgの量(卵毎の卵白を40mlとする)で評価する。レーン9のβ-ラクタマーゼ(Hen1793のもの)を325ng(卵に対して13mgである)で評価する。ウエスタンブロット分析評価による、卵に対するβ-ラクタマーゼのレベルは、実施例4のβ-ラクタマーゼ酵素アッセイの評価のレベルと比べて相当高い(10倍程の高さ)。上述の通り、タンパク質評価における食い違いは、卵白による酵素活性阻害および基質分解によって引き起こされていると考えられる。
【0121】
ここで報告した、卵に対して13mgまでのβ-ラクタマーゼが、完全なトランスジェニック鳥でなくキメラ起源物によって産生されたことは、注目すべきことである。上述のとおり、キメラ起源物で得られた何れかの組織細胞のうちほんの2-15%のみが実際にトランスジェニックであった。このモザイク現象の程度を考慮してマグナム組織に適用すると、β-ラクタマーゼ卵陽性雌鶏 6体のマグナムのみが部分的にトランスジェニックであった。そのため、完全なトランシジェニック鳥(G
1子孫)が、さらに高いレベルで、あるいは200mg/卵ほど高いレベルで発現することが期待できる。この推定は有意である。それは、CMVなどの非マグナム特異的プロモーターが、卵白タンパク質合成機構の卵白アルブミンおよびリゾチームなどのマグナム特異的遺伝子に匹敵するからである。
【0122】
実施例6 胞胚葉細胞の単離およびエキソビボトランスフェクション
本発明の他の実施態様として、胞胚葉細胞を発現ベクターでエキソビボトランスフェクトする。
本方法で、供与胞胚葉細胞を、Barred Plymouth Rock雌鶏の受精卵から、立体環状リングのWhatman濾紙を使用して(胞胚葉の上に置き、リングの卵黄膜を貫通して切断した後持ち上げる)単離する。付着した胞胚葉がついているリングを、リン酸緩衝食塩水(PBS)が入ったペトリ皿の側面上方に移し、次いで付着した卵黄をピペットで丁寧に取り出す。暗域をヘアーループで切り離し、半透明期X胞胚葉を大量運搬ピペットチップでマイクロチューブへ移す。胞胚葉に対して約30,000−40,000の細胞が単離される。特定実験用に胞胚葉 10つを集める。
【0123】
細胞を短時間トリプシン(0.2%)消化で分散し、ダルベッコ修飾イーグル媒体(DMEM)中で低速遠心分離をして一旦洗浄し、リポフェクチン(16mg/200ml,BRL)を介した線状プラスミドで、室温で3時間トランスフェクトする。
図1、3または4に示すベクターは、ここで適切な発現構成体として働く。細胞を洗浄して媒体を有するリポフェクチンを取り除き、次いで、400−600の細胞をアテーナ-カナディアンランダムブレッドライン(ACライン)からg-照射した(650rad)受容段階X胚中へ注入する。注入は、小窓(〜0.5cm)を介して受容胞胚葉の副胚腔下部へ行なう。小窓を新鮮な卵殻膜とデューコプラスティックセメントで封じる。卵を、加湿インキュベーター中で2時間おきに90
o回転させながら39.1℃でインキュベートする。
【0124】
実施例7 PCRアッセイによるトランスジェニックモザイクの同定
トランスフェクションしたまたは形質導入した胞胚葉を含む胚から孵化したヒヨコのうち、Barred Plymouth Rock羽モザイク現象を発現しているもののみを確保する。導入遺伝子中にレポーター遺伝子が存在しなくても、トランスジェニックモザイクはPCRアッセイで同定することができる。
【0125】
トランスジェニックモザイクを同定するために、個々のヒヨコのDNA血液およびブラックフェザーパルプを、導入遺伝子の存在下で導入遺伝子に特異なプライマー対を使用してPCRアッセイする(Love et al., Bio/Technology 12:60-63(1994))。導入遺伝子キメラを誘導し、取り除き、ジエチルスチルベストロール(DES)ペレットと共に再導入し、レポーター活性発現で分析したマグナムを摘出する。血液と肝臓をアッセイし、組織特異性をモニターする。
【0126】
孵化後10日から20日の雌および雄の血液DNAを採取した。本研究室で開発したDNA抽出の新規高処理量方法を使用して、DNAを血液から抽出する。本方法は、血液を羽静脈からヘパリン凝血防止したシリンジへ抜き取り、一滴を、細胞膜のみを溶解する緩衝液含有の平底96ウェルシャーレの1ウェルの中へすばやく入れる。このプレートを短時間遠心分離すると、核がペレット化する。上清を取り除き、第二の溶解緩衝液を加えて核からゲノムDNAを取り出し、ヌクレアーゼで分解する。このDNAをプレート中でエタノール沈殿化し、70% エタノールで洗浄し、乾燥し、水 100μl(1ウェルに対して)に再懸濁する。ヒヨコの血液1滴(8μl)から80μgほどのDNAを得ることができる。一人の人間で一日に少なくとも768種のサンプルについて処理することができ、このDNAはPCRおよびTaqman(登録商標)(Perkin Elmer/Applied Biosystems)分析での使用に適当である。
【0127】
単離したDNAを、Taqman配列検出アッセイを使用して導入遺伝子があるか試験し、胚形質導入工程の有効性を評価する。Taqman配列検出システムで特定配列の直接検出を行なう。目的のPCR産物の内部領域に相補的な蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブのみが、目的PCR産物をアニールするときに蛍光を発する。このPCR産物は本事例では導入遺伝子と相補的である。サイクリング工程中にすべての検出をPCRチューブ中で行なうので、Taqmanシステムは配列検出アナログと同様に高処理PCR(ゲル電気泳動を必要としない)となり、さらにサザン分析と同程度の感度をもつ。単離したDNA 1μl(DNA600-800ngを含む)をTaqman反応に使用する。それぞれの反応は2セットのプライマー対とTaqmanプローブとを含む。第一セットはニワトリのグリセルアルデヒド-3-ホスフェートデヒドロゲナーゼ遺伝子(GAPDH)を検出する。これをゲノムDNA特性の内部標準とし、また導入遺伝子投与量の標準としても使用する。第二セットは目的の導入遺伝子に特異的である。落射蛍光発光検出器を備えた立体顕微鏡で精査して、蛍光を検出する。2つのTaqmanプローブを、独特の波長を有する異なる染料につける:両方のPCR産物をABI/PE 7700配列検出器で同時に検出する。180羽以上の鳥が孵化し、このうち20%(36羽)は血液中に導入遺伝子を有する。
【0128】
実施例8 正しく組入れられたプロモーター欠損ミニ遺伝子(PMG)を有する胞胚葉細胞の同定
図8に示すPMGI標的ベクターによるトランスフェクトで、条件を整えた媒体中のフィーダーライン上で細胞培養し、すべてまたはほぼ半分の細胞が蛍光中一様に緑色であるコロニーをつくる。落射蛍光発光検出器を備えた立体顕微鏡で蛍光を検出する。一様な蛍光によって、ベクターがゲノム中に安定に組込まれたことが分かる。これらの細胞クローンのうち、ほんの小さな部分集合が、標的遺伝子中に正しく挿入されたPMGを実際に有する。クローン細胞のほとんどは、ゲノム中にランダムに挿入されたPMGを有する。正しく挿入されたPMGを有するクローン細胞を同定するために、TaqManPCRアッセイを使用して上述のとおりコロニーをスクリーンする。2つのプライマーを使用して、組込部位の導入遺伝子セグメントを増幅する。プライマーの1つは遺伝子X(卵管で発現する外因遺伝子)中にあり、他方はちょうど5'標的配列の外部にある。そのため、この断片は標的遺伝子中に正しく挿入されることによってのみ増幅される。正しく組込まれた遺伝子を含むコロニーを、分化しない成長を促進する種々のサイトカインを用いて、フィーダー細胞上の培地で制限継代にかける。細胞を受容胚に注入する。あるいは、緑色コロニーをプールし、受容胚に注入する。続いて、孵化したヒヨコを、正しく挿入された遺伝子があるかについてスクリーンする。
【0129】
実施例9.プロモーター欠損ミニ遺伝子挿入(PMGI)のための青色/緑色検出
図4のような、PMGI標的ベクターでのトランスフェクションに続いて、細胞をフィーダー層非存在下で1日生育させ、翌日、蛍光活性化セルソーターを使用して青色/緑色細胞から緑色細胞を分離する。次いで緑色細胞を受容胚に注入する前に、フィーダーセルを簡単に通過させる。緑色細胞を正確な挿入に関しても上記のようにスクリーニングする。
【0130】
実施例10.完全なトランスジェニックG
1チキンの産生
雌1羽当り1週間当り6G
1子孫とは逆に、1羽の雄が1週間当り20から30G
1子孫を生じることができるため、繁殖のために雄を選択し、それにより、G
1トランスジェニックの拡大を速くする。G
0雄の餌にはスルファメタジンを添加する。スルファメタジンは、健康または繁殖能力に影響せずに、20−22週齢ではなく10−12週齢で精子を産生できるように、雄の性的成熟を加速する(Speksnijder and Ivarie, 非公開データ)。
【0131】
全雄の精子DNAを導入遺伝子の存在に関してスクリーニングする。精子を回収し、DNAをChelex-100を使用して抽出する。簡単に、3μlの精子および200μlの5%Chelex-100を混ぜ、続いて2μlの10mg/mlプロテイナーゼKおよび7μlの2M DTTを添加する。サンプルを56℃で30−60分インキュベートする。サンプルを8分沸騰させ、10秒間激しくボルテックス処理する。10から15kGで2−3分遠心後、上清についてPCRまたはTaqman分析が直ぐにできる。DNAを、導入遺伝子に相補的なTaqmanプローブおよびプライマーを使用してTaqmanアッセイで分析する。90羽のG
0雄のうち5%、または4羽から5羽が、その精子DNAに導入遺伝子を有すると概算される。
【0132】
実施例4に上記のように、NLB-CMV-BL形質導入群は、PCR分析で測定して、精子内に有意なレベルのNLB-CMV-BL導入遺伝子を有する3羽の雄を含む(実施例10参照)。従って、これらの雄を完全なトランスジェニックG
1子孫を得るための更なる繁殖に選択する。
【0133】
生殖細胞トランスジェニック雄と、1週間当り90羽の非トランスジェニック白色レグホーン雌との繁殖により、1週間当り16羽のG
1子孫が得られると概算される。孵化したヒヨコを肛門性別判定し、血液DNA中の導入遺伝子の存在に関して、Taqmanアッセイでスクリーニングする。雄および雌各20羽、計40羽のG
1遺伝子導入が得られるが、それに3週かかる。
雄は更なる繁殖のためにおき、雌は卵内への導入遺伝子の発現に関して試験する。
【0134】
上記明細書に引用の全ての刊行物は、出典明示により明細書に包含させる。本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明の種々の修飾および変形が、当業者には明らかである。本発明は、具体的な好ましい態様に関連して記載しているが、請求している本発明は、このような具体的態様に不当に限定されるべきではないことは理解されるべきである。実際、当業者には明白な、本発明の実施のための記載の形態の種々の変形は、特許請求の範囲の範囲内であると解釈される。