特許第6377162号(P6377162)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジャガー ランド ローバー リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許6377162-ビークル制御システムと方法 図000002
  • 特許6377162-ビークル制御システムと方法 図000003
  • 特許6377162-ビークル制御システムと方法 図000004
  • 特許6377162-ビークル制御システムと方法 図000005
  • 特許6377162-ビークル制御システムと方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6377162
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】ビークル制御システムと方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20180813BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20180813BHJP
   B60W 10/10 20120101ALI20180813BHJP
   B60W 10/184 20120101ALI20180813BHJP
   B60W 10/20 20060101ALI20180813BHJP
   B60W 10/22 20060101ALI20180813BHJP
   B60W 30/182 20120101ALI20180813BHJP
   B60T 8/1755 20060101ALI20180813BHJP
   B60G 17/0165 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   B60W30/02
   B60W10/06
   B60W10/10
   B60W10/184
   B60W10/20
   B60W10/22
   B60W30/182
   B60T8/1755 Z
   B60G17/0165
【請求項の数】22
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-539461(P2016-539461)
(86)(22)【出願日】2014年8月19日
(65)【公表番号】特表2016-537261(P2016-537261A)
(43)【公表日】2016年12月1日
(86)【国際出願番号】EP2014067657
(87)【国際公開番号】WO2015032616
(87)【国際公開日】20150312
【審査請求日】2016年4月27日
(31)【優先権主張番号】1316035.3
(32)【優先日】2013年9月9日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512308720
【氏名又は名称】ジャガー ランド ローバー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Jaguar Land Rover Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(72)【発明者】
【氏名】サイモン・オーウェン
(72)【発明者】
【氏名】カール・リチャーズ
【審査官】 大山 健
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−138886(JP,A)
【文献】 特開2011−000982(JP,A)
【文献】 特開2004−299505(JP,A)
【文献】 特開2001−153678(JP,A)
【文献】 特表2000−501358(JP,A)
【文献】 特開2001−122096(JP,A)
【文献】 特開2008−290595(JP,A)
【文献】 特開2010−025632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 −50/16
B60T 8/1755
B60G 17/0165
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータビークル用制御システムであって、
車がサイドスロープを走行しているサイドスロープ状態を検出する手段と、
後車軸スリップ角度(アングルTAS)が閾値(アングルTASt)を超えていることを検出する手段と、
一つ又は複数の車輪に加わるトルク量を制御して、車に回転モーメントを誘導する手段と、を含み、
サイドスロープの検出に応じて、車軸に対して下方に傾斜した車軸の、サイドスリップと反対の方向に、第1の回転モーメントを自動的に誘導するように構成され
アングルTAStを超える後車軸スリップ角度の検出に応じて、前記後車軸スリップ角度を減らす方向に、第2の回転モーメントを誘導するように構成されている、モータビークル用制御システム。
【請求項2】
サイドスロープ角が予め決められた角度を超えている場合、サイドスロープ状態が存在すると判断するように構成されている、請求項1のシステム。
【請求項3】
アングルTASの値に応じて決定された大きさの第2の回転モーメントが誘導されるように構成されている、請求項1又は2のシステム。
【請求項4】
ブレーキトルク及び/又はパワートレインドライブトルクを加えることによって、車軸スリップ角の値を減少するために第2の回転モーメントを誘導するように構成された、請求項1〜のいずれかのシステム。
【請求項5】
傾斜上方の後輪にブレーキトルクを加えることによって、第2の回転モーメントを少なくとも部分的に誘導させるように構成された、請求項のシステム。
【請求項6】
傾斜上方の後輪に供給されるパワートレインドライブトルクを、傾斜下方の後輪に供給されるパワートレインドライブトルクよりも大きくすることによって、第2の回転モーメントを誘導させるように構成された、請求項4又は5のシステム。
【請求項7】
傾斜下方の後輪に供給されるパワートレインドライブトルクを、傾斜上方の後輪に供給されるパワートレインドライブトルクよりも大きくすることによって、第2の回転モーメントを誘導するように構成された、請求項4又は5のシステム。
【請求項8】
前記車の下り坂側に対して前記車の上り坂側の最低地上高差を設けるようにサスペンションシステムを調整させるように構成された請求項1〜のいずれかのシステム。
【請求項9】
車体ロール補正を行って車体のロールを減らすように構成された車体ロール制御システムを調整するように構成され、
前記システムは、車体ロール制御システムにより、前記サイドスロープ状態に関連したロールに対する車体の抵抗を増加させるように構成されている、請求項1〜のいずれかの制御システム。
【請求項10】
少なくとも一つ車のサブシステムの複数の制御モードの選択された一つで動作するように構成されており、
前記システムは、複数のサブシステム制御モードの選択された一つで少なくとも一つのサブシステムの制御を開始するためにサブシステムコントローラを有し、
前記複数のサブシステム制御モードは、車に関する一つ又は複数の異なる走行条件に対応している、請求項1〜のいずれかの制御システム。
【請求項11】
選択された制御モード、車軸スリップ角の値、及び必要な回転モーメント、の一つ又は複数に応じて、上方に傾斜した車輪に加えられるトルクを、下方に傾斜した車輪に加えられるトルクよりも大きくすることによって回転モーメントを生じさせるか、又は、下方に傾斜した車輪に加えられるトルクを上方に傾斜した車輪に加えられるトルクよりも大きくすることによって回転モーメントを生じさせるか否かを決定するように構成されている、請求項4又は5に従属した、請求項1のシステム。
【請求項12】
ユーザが操作可能なモード選択入力手段によって、ユーザが必要なコントローラ制御モードを選択する、マニアル制御モード選択状態で動作可能な、請求項10又は11のシステム。
【請求項13】
前記システムが適当な制御モードを自動的に選択するように構成されている自動選択状態で動作可能な請求項10から12のいずれかの制御システム。
【請求項14】
前記システムは、複数のサブシステム制御モードのそれぞれが適当な範囲を判断する一つ又は複数のドライブ状態インジケータを評価する評価手段を有し、
前記システムは、前記オートマチックモード選択状態で、前記サブシステムを自動的に制御して、最も適当なサブシステム制御モードで前記サブシステムの一つ又は複数の制御を開始する、請求項13の制御システム。
【請求項15】
前記制御モードは、エンジンマネージメントシステム、トランスミッションシステム、ステアリングシステム、ブレーキシステム、及びサスペンションシステムのうちから選択された少なくとも一つのビークルサブシステムの制御モードである、請求項10〜14のいずれかの制御システム。
【請求項16】
前記制御モードは、エンジンマネージメントシステム、トランスミッションシステム、ステアリングシステム、ブレーキシステム、及びサスペンションシステムのうちから選択された少なくとも二つのビークルサブシステムの制御モードである、請求項15の制御システム。
【請求項17】
各制御モードにおいて、前記システムは、一つ又は複数のビークルサブシステムが、ドライブ条件に適当なサブシステム設定モードで動作される、請求項10〜16のいずれかの制御システム。
【請求項18】
更に、ダイナミックスタビリティ制御システムを含み、
前記スロープの検出に応じて、制御システムが、車軸に対して下方に傾斜した車軸のサイドスリップと反対の方向に、回転モーメントを自動的に誘導する場合に、アンダーステア又はオーバーステアを補償するように車のヨーを正しくするダイナミックスタビリティ制御システムによる介入は停止される、請求項1〜17のいずれかの制御システム。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかのシステムを有するビークル。
【請求項20】
前記ビークルがオフロード走行に適合している、請求項19のビークル。
【請求項21】
ビークルを制御する方法であって、
ビークルがサイドスロープを走行しているサイドスロープ状態を検出し、
後車軸スリップ角度(アングルTAS)が閾値(アングルTASt)を超えていることを検出し、
一つ又はそれ以上の車輪に加えるトルク量を制御してビークルに回転モーメントを誘導し、
前記方法は、サイドスロープの検出に応じて、車軸に対して下方に傾斜した車軸のサイドスリップと反対の方向に、第1の回転モーメントを自動的に誘導し、
アングルTAStを超える後車軸スリップ角度の検出に応じて、前記後車軸スリップ角度を減らす方向に、第2の回転モーメントを誘導する、方法。
【請求項22】
請求項21の方法を実行するようにビークルを制御するための、コンピュータが読み取り可能なコードを担持した媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、一つ又は複数のビークルサブシステムのためのビークル制御システム、及び一つ又は複数のビークルサブシステムを制御するための方法に関する。
【0002】
異なるドライブ条件に適合するように、異なる設定で動作可能な複数のサブシステムを備えたビークルを提供することが知られている。例えば、オートトランスミッションは、種々のモード(例えば、スポーツモード、マニアルモード、ウィンタモード、又はエコノミモード)で制御される。各モードにおいて、地形条件やドライバの特定の好みに適合するように、アクセルペダルに対する応答やギヤ比が変更される条件などのシステム制御パラメータが変更される。エアサスペンションにオンロードモードとオフロードモードを持たせることが知られている。ドライバが直接制御できるように、ある種のモードでは、安定制御システムは十分に能力を発揮しない状態で動作される。また、パワーステアリングシステムは、ドライブ条件に応じて、アシスタントレベルを変えるように、異なるモードで動作可能である。
【0003】
異なる設定で動作可能なモータビークル(自動車)用の改善された制御システムを提供することが望ましい。
【発明の概要】
【0004】
本発明の実施形態は、請求の範囲を参照することにより理解される。
【0005】
本発明の複数の形態は、制御システム、ビークル、及び方法を提供するものである。
【0006】
本発明の実施形態に係る制御システムは、従来のエンジンだけの自動車、電気自動車、及び/又はハイブリッド電気自動車を含む、種々のビークルに適当なものである。
【0007】
保護が求められている本発明の一形態によれば、モータビークル用の制御システムが提供され、該制御システムは、
ビークルがサイドスロープを走行しているサイドスロープ状態を検出する手段と、
一つ又は複数の車輪に加えるトルクを制御してビークルに回転モーメントを誘導する手段とを有し、
前記システムは、後車軸が前車軸に対して下り坂方向にサイドスリップする方向とは反対の方向に回転モーメントを誘導するように構成されている。
【0008】
サイドスロープ状態が検出されると、前記回転モーメントは、サイドスロープ誘導ヨー方向とは逆の方向に誘導される。ヨーが始まっている否かに拘わらず、後車軸が前車軸に対して下り坂方向にサイドスリップしているビークルのヨーを防止する又は減少させるように、回転モーメントが加えられる。
【0009】
本発明の幾つかの実施形態では、サイドスロープが検出されると、制御システムがサイドスロープによって誘導されるヨーに対抗するように、積極的に回転モーメントを誘導する、という利点がある。これは、ビークルがサイドスロープを走行する際に、後車軸スリップ角の増加が減少するという利点がある。幾つかの実施形態では、サイドスロープの走行中、後車軸スリップ角は、該システムによって誘導される回転モーメントによって実質的にゼロになるように構成されている。
【0010】
後車軸スリップ角は、地上をビークルが走行するときの前車軸に対する後車軸が、後車軸のサイドスリップが実質的に無い状態での前車軸の方向から後車軸が逸れる角度を意味する。地上を走行するビークルの進路において、後車軸のサイドスリップが実質的に無い方向から、該後車軸が前車軸に対して逸れる角度を意味する。後車軸スリップ角は、ビークルの縦軸とビークルの走行方向との間の角度と考えることができる。ビークルが、平均海面等の基準高上の標高又は高さの直線に沿ったサイドスロープを横切りながら、走行面の傾斜方向に垂直な方向に走行しているとき、後車軸スリップ角は、ビークルの縦軸と走行面の傾斜方向に直交する方向との間の角度である。
【0011】
制御システムは、サイドスロープ角が予め決められた角度を超えている場合にサイドスロープ状態が存在すると判断するように構成される。
【0012】
幾つかの実施形態では、ビークル形状を基準に、ビークルロール角を得るためにビークルロール率が採用され、絶対ビークル角を求めるために横加速度が採用される。
【0013】
制御システムはさらに、閾値(アングルTASt)を超える後車軸スリップ角(アングルTAS)を検出する手段を有する。システムは、アングルTAStを超える後車軸スリップ角を検出したとき、回転モーメントを誘導するように構成されている。回転モーメントは、後車軸スリップ角を減少する方向に誘導される。
【0014】
制御システムは、アングルTASの値に応じて決められる大きさの回転モーメントが誘導されるように構成されている。
【0015】
選択的に、制御システムは、ブレーキトルク及び/又はパワートレイン駆動トルクを加えることによって後車軸スリップ角の値を減少するように、回転モーメントが誘導されるように構成される。
【0016】
選択的に、制御システムは、傾斜上方の後輪にブレーキトルクを加えることで、回転モーメントを部分的に誘導させるように構成される。
【0017】
選択的に、制御システムは、傾斜上方の後輪に供給されるパワートレイン駆動トルクを傾斜下方の後輪に供給されるパワートレイントルクよりも大きくすることで、回転モーメントが誘導されるように構成される。
【0018】
パワートレイン駆動トルクの差は、内側後輪へのパワートレイントルクを減少することにより、及び/又は外側後輪へのパワートレイントルクを増加することにより、得られる。
【0019】
選択的に、制御システムは、傾斜下方の後輪に供給されるパワートレイン駆動トルクが傾斜上方の後輪に供給されるパワートレイントルクを上回るようにすることで、回転モーメントが誘導されるように構成される。
【0020】
傾斜下方の後輪に供給されるパワートレイン駆動トルクが傾斜上方の後輪に供給されるパワートレイントルクを上回るようにするのは、平坦面をビークルが走行する場合に使用されるやり方の逆である。
【0021】
幾つかの実施形態では、制御システムは、システムが後方に向けて上方に傾斜させる一つ又は複数の制御モデルが動作しているとき、傾斜上方の後輪に供給されるパワートレイントルクが傾斜下方の後輪に供給されるパワートレイントルクを上回るようにすることで、回転モーメントが誘導されるように構成されている。追加として、又は代わりに、システムは、後方に向けて下方に傾斜させる一つ又は複数の制御モデルが動作しているとき、傾斜下方の後輪に供給されるパワートレイントルクが傾斜上方の後輪に供給されるパワートレイントルクを上回るようにすることで、回転モーメントが誘導されるように構成されている。
【0022】
後方に向けて下方に傾斜した制御モードは、砂上を走行するサンドモードを含む。幾つかの実施形態では、ドライバがアクセルペダルを踏み込んだときに車軸の両側でパワートレイントルク差を生じさせることで、また、ドライバがアクセルペダルを踏み込んでいないときに車軸の両側でブレーキトルク差を生じさせることで、回転トルクが誘導される。
【0023】
パワートレイントルク差又はブレーキトルク差は、後車軸で生じさせるのが都合良い。
【0024】
選択的に、制御システムは、サスペンションシステムを調整して、ビークルの傾斜下方における最低地上高に対してビークルの傾斜上方における最低地上高に差を付けるように構成してもよい。
【0025】
最低地上高の調整は、ビークルの傾斜下方におけるサスペンションシステムの最低地上高を増加することにより、及び/又は、ビークルの傾斜上方におけるサスペンションシステムの最低地上高を減少することにより、行ってもよい。
【0026】
制御システムは、ビークル本体のロールを補正して減らすために設けられたビークル本体ロール制御システムの調整するように構成されている。このシステムは、ビークル本体ロール制御システムにより、サイドスロープ状態に関連したロールに対するビークル本体の抵抗を増加させるように構成されている。
【0027】
選択的に、制御システムは、ビークルの少なくとも一つのサブシステムにおける複数の制御モードの選択された一つで動作されるように構成されている。このシステムは、複数のサブシステム制御モードの選択された一つで少なくとも一つのサブシステムの制御を開始するためのサブシステムコントローラを有する。複数のサブシステム制御モードはそれぞれ、ビークルの一つ又は複数のドライブ条件に対応している。
【0028】
選択的に、制御システムは、選択された制御モード、後車軸のスリップ角の値、及び必要な回転モーメントの一つ又は複数に応じて、傾斜上方の車輪に加えるトルクを傾斜下方の車輪に加えるトルクよりも大きくすることにより回転トルクを生じさせるか、または、傾斜下方の車輪に加えるトルクを傾斜上方の車輪に加えるトルクよりも大きくすることにより回転トルクを生じさせるかを判断するように構成してもよい。
【0029】
必要な回転モーメントは上限を定めてもよい。
【0030】
制御システムは、マニアル制御モード選択状態で動作可能である。マニアル制御モード選択状態では、ユーザは必要なシステム制御モードを、ユーザが操作可能なモード選択入力手段によって選択する。
【0031】
制御システムは、オートマチックモード選択状態で動作可能である。この場合、システムは、適当なシステム制御モードを自動的に選択するように構成される。
【0032】
選択的に、制御システムは、どのサブシステム制御モードが適当かを判断するために一つ又は複数のドライブ状態インジケータを評価するエバリュエーション(評価)手段を有する。このシステムは、オートマチックモード選択状態では、自動的にサブシステムコントローラを制御し、最も適当なサブシステム制御モードで一つ又は複数のサブシステムの制御を開始する。
【0033】
選択的に、制御モードは、エンジンマネージメントシステム、トランスミッションシステム、ステアリングシステム、ブレーキシステム、及びサスペンションシステムの中から選択された少なくとも一つのビークルシステムの制御モードである。
【0034】
選択的に、制御モードは、エンジンマネージメントシステム、トランスミッションシステム、ステアリングシステム、ブレーキシステム、及びサスペンションシステムの中から選択された少なくとも二つのビークルシステムの制御モードである。
【0035】
動作モードは、これらのシステムのそれぞれの制御モードである。
【0036】
選択的に、各制御モードにおいて、システムは、一つ又は複数のビークルサブシステムを、ドライブ条件に適当なサブシステム設定モードで動作するように構成されている。
【0037】
例えば、あるビークル負荷に対して異なる最低地上高で動作可能なサスペンションシステムをとるビークルサブシステムの場合、サブシステム設定モードは、異なるそれぞれの最低地上高に対応して複数のモードを含む。エンジンパワートレインコントローラ方式のビークルサブシステムコントローラの場合、コントローラは、複数の異なるパワートレインコントローラ設定モードのそれぞれで、アクセルペダルの位置に応じてそれぞれのエンジントルクを提供するように動作可能である。したがって、サブシステム制御モードは、一連のサブシステム設定モードに対応している(例えば、各サブシステムに対して一つの設定モードが対応している)。例えば、一つの動作モードでは、「高」最低地上高サブシステム設定モードはサスペンションシステムに対して設定され、「低」アクセルペダルマップサブシステム設定モードはパワートレインコントローラに対して設定される。サブシステムによっては、2つの異なるパラメータを設定してもよい。したがって、サスペンションシステムは、サスペンションのビークル本体ロール剛性設定を、複数の設定モード(例えば、低、中、高)の一つに設定できる。
【0038】
種々の公知のサブシステム設定モードを説明する。公知のサブシステム設定モードと設定モードが実行される方法については、米国特許出願2003/0200016を参照のこと。その他の設定モードも利用可能である。追加として、又は代わりに、その他のサブシステムを制御してもよい。
【0039】
選択的に、制御モードはサスペンションシステムの制御モードを含み、複数のサブシステム設定モードは複数の最低地上高を有する。
【0040】
制御モードは、流体サスペンションシステムの制御モードを含む。このシステムでは、ビークルの両側にある車輪のサスペンションの間が流体結合される。また、複数のサブシステム設定モードは、該流体結合を異なる状態に設定する。
【0041】
選択的に、制御モードは、ステアリングシステムの制御モードを含む。このシステムはステアリングをアシストする。複数のサブシステム設定モードは、ステアリングアシストを異なる状態に設定する。
【0042】
選択的に、制御モードは、ブレーキシステムの制御モードを含む。このシステムは、ブレーキをアシストする。複数のサブシステム設定モードは、ブレーキアシストを異なる状態に設定する。
【0043】
選択的に、制御モードは、ブレーキ制御システムの制御モードを含む。このシステムは、車輪のスリップを制御するアンチロック機能を提供する。複数のサブシステム設定モードは、車輪のスリップを異なる状態に設定する。
【0044】
選択的に、制御モードは、トラクション(けん引)制御システムの制御モードを含む。このシステムは、車輪のスピンを制御するように構成されている。複数のサブシステム設定モードは、車輪のスピンを異なる状態に設定する。
【0045】
選択的に、制御モードは、ヨー制御システムの制御モードを含む。このシステムは、車輪のヨーを制御するように構成されている。複数のサブシステム設定モードは、予想されるヨーと上述したビークルヨーとの差を異なる状態に設定する。
【0046】
選択的に、制御モードは、レンジチェンジトランスミッションの制御モードを含む。このシステムは、トランスミッションのハイレンジモードとローレンジモードを含む。
【0047】
レンジチェンジトランスミッションは、例えば、ビークルのエンジン又はトランスミッション(例えば、オートマチックトランスミッション)からのトルク伝達経路にドライブラインのプロップシャフトを連結するために、パワートランスファーユニット又はパワーテイクオフユニットを有する。
【0048】
選択的に、制御モードはパワートレインシステムの制御モードを含む。このシステムは、パワートレイン制御手段とアクセルペダル又はスロットルペダルを有する。システム設定モードは、アクセルペダル又はスロットルペダルの移動量に応じてパワートレイン制御手段の応答性を複数の段階に変える。
【0049】
選択的に、制御モードは、複数のトランスミッション率で動作可能なトランスミッションシステムの制御モードを含む。このシステムは、ビークルの少なくとも一つのパラメータを監視し、それに応じてトランスミッション率を選択するように構成されたトランスミッション制御手段(例えば、電子トランスミッションコントローラ)を含む。サブシステム設定モードは、複数のトランスミッション設定モードを有する。トランスミッション設定モードでは、少なくとも一つのパラメータに応じて、トランスミッション率が選択される。
【0050】
複数のサブシステムの一つは、複数のレベルのディファレンシャルロックを提供するディファレンシャルシステムを有する。このサブシステム設定モードは、異なるディファレンシャルロックを提供するように構成されている。
【0051】
ディファレンシャルシステムは、複数の入力に基づいてディファレンシャルロックのレベルを制御し、それぞれのモードで上記入力に個々に応答するように構成されている。
【0052】
ディファレンシャルシステムは、センタディファレンシャル、フロントディファレンシャル、及び/又はリアディファレンシャルを有する。実施形態によっては、ディファレンシャルはクラッチをベースにしたシステムである。車輪の回転速度の違いは、相対的な回転を許容するために、ディファレンシャルケージによって指示されたピニオンホイールを介して両側の車輪が連結された従来のディファレンシャルギヤ構造によるのではなく、クラッチのスリップによって調整される。
【0053】
一つのサブシステムは、本体のロールを補正してビークル本体のロールを減らすように構成されたビークル本体ロール制御システムを有する。サブシステム設定モードは、少なくとも幾つかのドライブ条件では、異なるレベルのビークル本体ロール補正を提供する。
【0054】
一つのサブシステムは、下り坂を下るときのビークルの速度を制御するスピード制御システムを有する。スピード制御システムは、異なる設定モードで、異なる速度にビークルを制御するように構成されている。
【0055】
選択的に、複数の動作モードは、粗い地形を走行するのに適した方式でサブシステムが制御されるオフロードモードと路上走行に適した方法でサブシステムが制御されるオンロードモードを含む。
【0056】
選択的に、サスペンションシステムは、オフロードモードではオンロードモードよりも高い最低地上高に設定するように構成されている。
【0057】
さらに選択的に、オフロードモードでは、オンロードモードよりも高レベルの相互連結が行われる。
【0058】
トラクション制御システムは、オフロードではオンロードよりも車輪スピンが小さくなるように構成されている。
【0059】
選択的に、ヨー制御システムは、オフロードモードではオンロードモードよりも高レベルの逸脱(ダイバージェンス)が得られるように構成されている。
【0060】
選択的に、オフロードモードでは、レンジチェンジトランスミッションがローレンジで動作される。
【0061】
選択的に、オフロードモードでは、オンロードモードよりも、パワートレイン制御手段は、所定のアクセル又はスロットルペダル位置(少なくとも、低レベルのアクセルペダル踏み込み量)で、低レベルのドライブトルクを生じるように構成されている。
【0062】
選択的に、ディファレンシャルシステムは、オフロードモードでは、オンロードモードよりも、高レベルのディファレンシャルロックが得られるように、構成されている。
【0063】
選択的に、ビークル本体ロール制御システムは、オフロードモードでは、オンロードモードよりも、高レベルの本体ロール剛性が得られるように、構成されている。
【0064】
選択的に、スピード制御システムは、オフロードモードでは動作状態に置かれず、オンロードモードで動作状態に置かれるように構成される。
【0065】
選択的に、ドライブモードは、低摩擦面を走行するのに適した状態でサブシステムが制御される少なくとも一つの低摩擦モードと、高摩擦面を走行するのに適した状態でサブシステムが制御される少なくとも一つの高摩擦モードを含む。
【0066】
選択的に、ブレーキ制御システムは、高摩擦モードにおけるスリップのレベルを低摩擦モードにおけるスリップのレベルよりも高くする。代わりに、ブレーキ制御システムは、低摩擦モードにおけるスリップのレベルを高摩擦モードにおけるスリップのレベルよりも高くしてもよい。
【0067】
選択的に、トラクション制御システムは、高摩擦モードにおける車輪スピンのレベルを低摩擦モードにおける車輪スピンのレベルよりも高くする。代わりに、トラクション制御システムは、低摩擦モードにおける車輪スピンのレベルを高摩擦モードにおける車輪スピンのレベルよりも高くしてもよい。
【0068】
選択的に、ブレーキ制御システムは、高摩擦モードにおけるブレーキアシストのレベルを低摩擦モードにおけるブレーキアシストのレベルよりも大きくする。
【0069】
選択的に、パワートレイン制御手段は、低摩擦モードでは、高摩擦モードよりも、所定のアクセル又はスロットルペダル位置(少なくとも、低レベルのアクセルペダル踏み込み量)で、低レベルのドライブトルクを生じるように構成されている。
【0070】
選択的に、トランスミッションシステムは、高摩擦モードでは、低摩擦モードよりも、少なくとも一つのパラメータの値に対して高いギヤで動作するように構成されている。
【0071】
選択的に、ディファレンシャルシステムは、低摩擦モードのとき、高摩擦モードよりも、高いレベルのディファレンシャルロックを提供するように構成されている。
【0072】
選択的に、高摩擦モードは、ビークルが普通に動作し且つオンロード走行に適した、スタンダードモード又はデフォルトモードを有する。
【0073】
選択的に、少なくとも2つの低摩擦モードがあり、サスペンションシステムは、一方の低摩擦モードでは他方の低摩擦モードよりも高い最低地上高をとるように構成されている。
【0074】
さらに、選択的に、少なくとも2つの低摩擦モードを有し、一方の低摩擦モードでは他方の低摩擦モードよりも高いレベルのクロスリンク(架橋)が得られるように構成されている。
【0075】
選択的に、少なくとも2つの低摩擦モードは、深いぬかるみの走行に適したぬかるみモードと、雪・草・砂利の道を走行するのに適した低摩擦モードを有する。
【0076】
選択的に、複数の低摩擦モードがあってもよい。サブシステムが草の上を走行するのに適した状態で制御されるグラス(草)モード、サブシステムが氷の上を走行するのに適した状態で制御されるアイス(氷)モード、サブシステムがぬかるみを走行するのに適した状態で制御されるぬかるみモードである。
【0077】
選択的に、複数のモードの一つは、サブシステムが砂の上を走行するのに適した状態で制御されるサンド(砂)モードである。サンドモードでは、複数のサブシステムの少なくとも一つは、車輪が砂の中に埋まらないように、ビークルが低速で走行するときは比較的低レベルの車輪スピンだけを許容するが、ビークルが高速で走行するときは比較的高レベルの車輪スピンを許容する。選択的に、サンドモードでは、パワートレイン制御システムは、低速時、あるスロットルペダル位置に対して比較的低レベルの駆動トルクを提供し、高速時、あるスロットルペダル位置に対して比較的高レベルの駆動トルクを提供するように構成されている。
【0078】
オフロードモードは、岩肌を走行するのに適した状態でサブシステムが制御されるロッククロールモードである。代わりに、もっと一般的なオフロードの場合に設定してもよい。一つ又は複数の他のオフロードモードを追加的に又は代わりに設けてもよい。
【0079】
複数のモードの一つがラフロードモードである。この場合、粗い道を走行する(例えば、粗い面を比較的高速で走行する)のに適した状態でサブシステムが制御される。
【0080】
複数のモードの少なくとも一つは、ブレーキをかけたとき車輪が比較的大きくスリップすることを許容するプラウ面モードである。このモードは、例えば、雪道や砂道で有効で、ブレーキをかけたときに車輪の前方にある堆積物がブレーキ性能を向上する。
【0081】
選択的に、複数のモードの少なくとも一つは、オンロードの走行に適した状態でサブシステムが制御される、オンロードモードである。例えば、複数のモードの一つはハイウェイモード又は自動車道モードで、この場合、実質的に平坦な路面を高速(一般には時速80キロ(時速50マイル)以上)で走行するのに適した状態でサブシステムが制御される。複数のモードの一つは田舎道モードで、この場合、通常は頻繁にきつい曲がりのある田舎道を走行する(結果的に、低速で且つ一定しない速度で走行する)のに適した状態でサブシステムが制御される。
【0082】
ドライブモードは、少なくとも2つの入力の少なくとも一方によって選択可能である。一方は、選択された地形に基づいて選択されたモードに影響を与えるように構成された地形選択入力で、他方は、ビークルの選択されたモードに基づいて選択されたモードに影響を与えるように構成された使用モード入力である。これらの入力はそれぞれ、ユーザによって制御されるか、又は、一つ又は複数のセンサから出力される。
【0083】
使用モード入力は、複数の運転スタイル(例えば、通常スタイル、スポーツスタイル、及びエコノミスタイルを含む。)のいずれかを選択できるように構成されている。
【0084】
代わりに,又は追加として、使用モード入力は、複数のビークルの状態(例えば、けん引状態、又は積載状態)のいずれかを選択できるように構成されている。
【0085】
選択的に、制御システムは、アンダーステア又はオーバーステアの検出に応答して、安定制御システムによって一つ又は複数の車輪に加わるトルク量の変化を中止するように動作可能である。
【0086】
上述のように、サイドスロープを検出するとビークルに回転モーメントを誘導する制御システムの動作は、サイドスロープ後車軸スリップ補正機能と呼ばれる。サイドスロープ後車軸スリップ補正機能は、自動車に関しては、従来の安定制御システムで行われる機能に追加して行われる機能と理解すべきである。
【0087】
幾つかの実施形態では、サイドスロープ状態が検出され、サイドスロープ後車軸スキップ補正機能により本願で説明する方法に従って回転モーメントが加えられると、ダイナミック安定制御システム(DSC)、トラクション制御システム(TCS)等の安定制御システムの一つ又は複数の介入は中止される。幾つかの実施形態では、例えばアンダーステア又はオーバーステアを補償するためのヨー補正が中止される。その間、加速中の車輪スピンを補償するトラクションコントロールが続けられ、システムが動作している制御モードに応じて選択されたトラクションコントロールサブシステム用設定パラメータにしたがって動作する。
【0088】
代わりに、いくつかの実施形態では、サイドスロープ状態を検出すると、安定制御システムが介在して過度のヨーを減らすために満足すべき一つ又は複数の条件が変更される。幾つかの実施形態では、DSCによる介入の一つ又は複数の条件は、サイドスロープ条件が検出されたとき、アングルTAStを超えるアングルTASの値に対する介入を遅らせるよう変更される。例えば、アングルTAStが15度の場合、DSC介入の閾値は、20度、30度、又はその他の適当な値のアングルTASに対応している。
【0089】
この特徴は、サイドスロープ状態が生じると、比較的平坦な地面を走行するために最適化された安定制御システムに依存するのではなく、ヨーエラーを埋め合わせる特定の制御方式が採用されるので、自動車の静音性が向上するとい利点がある。本発明の幾つかの実施形態では、サイドスロープを走行するときの自動車の静音性が大幅に良くなるとともに、同乗者の快適性に加えた自動車の操作性に対するドライバの自信が高まる。
【0090】
保護が求められている本発明の他の形態では、本発明の他の形態に係るシステムを含む車が提供される。
【0091】
その車は、オフロード走行に適応したものである。
【0092】
保護が求められている本発明の他の形態では、車を制御する方法が提供されており、この方法は、
車がサイドスロープを走行しているサイドスロープ状態を検出し、
一つ又は複数の車輪に加わるトルクを制御して車に回転モーメントを誘導する。
この方法は、後車軸が前車軸に対して下り坂方向にサイドスリップする方向とは反対の方向に回転モーメントを誘導する。
【0093】
保護が求められている本発明の他の形態では、本発明に係る方法を実行するために、車を制御するためのコンピュータが読み取り可能なコードを担持した媒体を提供する。本願の範囲内には、先のパラグラフ、請求の範囲、及び/又は以下の説明と図面に記載された種々の形態、実施例、特徴、変形例が個別に又はそれらを組み合わせたものが含まれる。一つの実施形態で説明した特徴は、他の特徴と両立しない限りは、すべての実施形態に適用可能である。本願発明の一実施形態に関して説明した特徴は、単独で、又は他の特徴と組み合わせて、本願発明の他の形態に含めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
図1図1は、本発明の実施形態に係る車の概略図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る車制御システムのブロック図で、該システムは車制御システムを構成する種々のビークルサブシステムを含む。
図3図3は、各車動作モードで選択されるビークルサブシステム設定モードを示すテーブルである。
図4図4は、サイドスロープを走行する、本発明の実施例に係る車を示す概略図で、図4(a)はサイドスロープを検出したときに回転モーメントを加える初期状態を示す平面図、図4(b)はサイドスロープによる非ゼロ後車軸スリップ角度を示す平面図、図4(c)は後車軸スリップ角度がほぼゼロに補正された後の車を後方から見た図である。
図5図5は、本発明の実施形態に係る車の操作方法を示す概略図である。
【発明の詳細な説明】
【0095】
以下、添付図面を参照し、実施例を通じて本発明の形態を説明する。
【0096】
図1は、本発明の一実施形態に係るビークル(車、車両)を示す。ビークルは、オンロード(路面)だけでなく、オフロード、すなわち一般の舗装道路以外の地形で使用されるのに適している。ビークル100はパワートレイン(伝動機構)129を有する。パワートレインは129はエンジン121を有する。エンジン121はドライブライン(動力伝達装置)130に接続されている。ドライブライン130はトランスミッション124を有する。図示する実施形態において、トランスミッション124はオートマチックトランスミッション124である。本発明の実施形態は、マニュアルトランスミッション、連続変速トランスミッション、又はその他の適当なトランスミッションを備えたビークルで使用するのも適している。
【0097】
ドライブライン130は、フロントデファレンシャル(差動装置)135Fと一対のドライブシャフト118によって、一対の前輪111,112を駆動するように構成されている。前輪111,112、フロントデファレンシャル135F、及びフロントドライブシャフト118は、ビークル100のフロントアクスル(前車軸)FAを構成する。ドライブライン130はまた補助ドライブライン部131を有する。補助ドライブライン部131は、補助ドライブシャフト又はプロップシャフト132、リアデフェレンシャル135、及び一対のリアドライブシャフト139によって、一対のリアホイール114,115を駆動するように構成されている。リアホイール114,115、リアデファレンシャル135、リアドライブシャフト139は、ビークル100のリアアクスル(後車軸)RAを構成する。本発明の実施形態は、トランスミッションが一対のフロントホイールのみを駆動する又は一対のリアホイールのみを駆動するビークル(すなわち、前輪駆動車又は後輪駆動車)と共に使用するのに適しているか、または、二輪駆動と四輪駆動を選択可能なビークルと共に使用するのに適している。図1の実施形態では、トランスミッション124はパワートランスファーユニット(PTU)137によって補助ドライブライン部131に分離可能に連結可能であり、これにより二輪駆動と四輪駆動の動作を選択可能である。本発明の実施形態は、4つを超える車輪を有するビークル、又は二輪(例えば、三輪車又は四輪車もしくは四を超える数の車輪を有するビークルの二輪)だけで駆動されるビークルにも適している。
【0098】
PTU137は、入力シャフトと出力シャフトの間のギヤ比が高比率又は低比率に選択可能な、「高比率」又は「低比率」の構成で動作可能なである。高比率の構成は、一般的なオンロード運転又は「高速」運転に適している。一方、低比率の構成は、オフロード地形条件や他の低速条件(例えば、けん引)に適している。
【0099】
ビークル100は、アクセルペダル161、ブレーキペダル163、及びステアリングホイール181を有する。ステアリングホイール181は、それに設けられたクルーズコントロールセレクタボタン181を有する。
【0100】
ビークル100は、中央制御部(「ビークルコントロールユニット(VCU)10」という。)を有する。VCU10は、ビークル100に設けられた種々のセンサや種々のサブシステム12に送る複数の信号を出力する又はそれらのセンサやサブシステムから送られる複数の信号を受信する。
【0101】
図2は、VCU10をさらに詳細に示す。VCU10は、複数のビークルのサブシステム12を制御する。サブシステム12には、限定的ではないが、エンジン管理システム12a、トランスミッションシステム12b、電子パワーアシスト式ステアリングユニット12c(ePASユニット)、ブレーキシステム12d、サスペンションシステム12e、及びドライブラインシステム12fが含まれる。6つのサブシステムが、VCU10によって制御されるとして示されているが、実際には、ビークルにはさらに多くの数のビークルサブシステムが含まれ、VCU10によって制御される。VCU10はサブシステム制御モジュール14を有する。サブシステム制御モジュール14は、配線13を介してビークルサブシステム12のそれぞれに制御信号を送り、ビークルが走行する地形等の走行条件に適当な形で、複数のサブシステムの制御を開始する。サブシステム12はまた、サブシステムのステータス(状態)に関する信号をフィードバックするために、信号線13を介してサブシステム制御モジュール14に接続されている。幾つかの実施例では、ePASユニット12cに代えて、油圧式パワーステアリングユニットを設けてもよい。
【0102】
VCU10は、符号16,17で示す複数の信号を受信する。信号16,17は、複数のビークルセンサから受信され、ビークルの動作や状態に関する種々のパラメータを代表している。GB2492655号で詳細に説明しているように、信号16,17は、複数の運転状態を示す指標を提供する(すなわち、計算のために使用される)。これらの指標は、ビークルが走行している自然条件を示す。本発明の実施形態の一つの有利な特徴は、VCU10が、地形指標に基づいて種々のサブシステムに対して最も適当な制御モードを決定し、自動的にサブシステムを制御することである。すなわち、VCU10は、地形指標に基づいて最も適当な制御モードを決定し、その制御モードに対応するサブシステム設定モードで各サブシステム12を自動的に動作する。
【0103】
ビークルのセンサ(図示せず)は、限定的ではないが、VCU10に連続センサ出力16を提供する複数のセンサを含む。この複数のセンサには、車輪速度センサ、車高センサ、サスペンション・アーティキュレーション・センサ、大気温度センサ、大気圧センサ、タイヤ圧センサ、ビークルのヨー・ロール・ピッチを検出するヨーセンサ、ビークル速度センサ、縦加速度センサ、エンジン・トルク・センサ(又はエンジン・トルク・エスティメータ)、ステアリング角度センサ、ステアリング・ホイール速度センサ、傾斜センサ(又は傾斜エスティメータ)、横加速度センサ(安定制御システム(SCS)の一部)、ブレーキ・ペダル・ポジション・センサ、加速ペダル・ポジション・センサ、縦・横・垂直モーション・センサが含まれる。
【0104】
他の実施形態では、上述したセンサの選択だけが行われる。VCU10はまた、ビークルの電子パワー・アシスト・ステアリング・ユニット(ePASユニット12c)からの信号を受信し、ホイールに加わるステアリング力(ドライバによって加えられるステアリング力とePASユニット12cによって加えられるステアリング力の組み合わせ)を示す。
【0105】
ビークル100はまた、VCU10に離散的なセンサ出力信号17を提供する複数のセンサが設けられている。これらの信号には、クルーズ・コントロール・ステータス信号(オン/オフ)、トランスファーボックス又はPTU137ステータス信号(ギヤ比がHIレンジ又はLOレンジのいずれかを示す信号)、ヒル・ディセント・コントロール(HDC)・ステータス信号(オン/オフ)、トレーラ・コネクト・ステータス信号(オン/オフ)、スタビィティ・制御システム(SCS)が起動されているか否かを示す信号(オン/オフ)、ウィンドウスクリーン・ワイパー信号(オン/オフ)、エア・サスペンション・ライドハイト・ステータス信号(HI/LO)、及びダイナミック・スタビリティ・コントロール(DSC)信号(オン/オフ)が含まれる。
【0106】
VCU10は、エスティメータ・モジュール又はプロセッサ18の形をした評価手段と、セレクタ・モジュール又はプロセッサ20の形をした選択手段を含む。まず、センサからの連続出力16はエスティメータ・モジュール18に送られ、離散信号17はセレクタ・モジュール20に送られる。
【0107】
エスティメータ・モジュール18の第1段階では、多数の地形インジケータを導き出すために種々のセンサ出力16が使用される。エスティメータ・モジュール18の第1段階では、車輪速度センサからビークル速度が導き出され、車輪加速度が車輪速度センサから導き出され、車輪に加わる縦方向力がビークル縦加速度センサで導き出され、(車輪のスリップが発生した場合)ヨー・ピッチ・ロールを検出するモーションセンサから車輪スリップの発生するトルクが導き出される。エスティメータ・モジュール18の第1段階で行われるその他の計算には、車輪慣性トルク(回転する車輪の加速及び減速に関連したトルク)、「プログレスの連続性」(例えばビークルが岩の多い地形を走行している際にビークルが始動しているか叉停止しているかの評価)、空力抵抗、ヨー・レート、及び横ビークル加速度が含まれる。
【0108】
エスティメータ・モジュール18はまた、地形インジケータが計算される第2段階を含む。地形インジケータは、表面ローリング抵抗(車輪の慣性トルク、ビークルにかかる縦方向の力、空力抵抗、及び車輪にかかる縦方向の力に基づく。)、ステアリング車輪181にかかるステアリング力(横方向の加速度とステアリング車輪センサからの出力)、車輪の縦方向スリップ(車輪にかかる縦方向の力、車輪加速度、SCSアクティビティ、及び車輪のスリップが発生しているか否かを示す信号に基づく。)、横摩擦(測定された横方向加速度とヨー対予測された横方向加速度とヨーから計算される。)、及びコルゲーション検出(でこぼこ道の表面を示す、高周波で低振幅な車輪高の変化)を含む。
【0109】
SCS活動信号は、SCS ECU(図示せず)からの複数の出力から導き出される。SCS ECUは、DSC活動活動を示すDSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロール)関数、TC活動を示すTC(トラクション・コントロール)関数、ABS活動を示すABS及びDCアルゴリズム、個々の車輪に対するブレーキ介入、及びSCS ECUからエンジンへのエンジントルク低減要求を含む。これらはすべて、スリップ・イベントが発生し、SCS ECUが作用してそれを制御していることを示す。エスティメータ・モジュール18はまた、車輪速度センサを用いて、車輪速度変化とコルゲーション検出信号を求める。
【0110】
フロントガラスワイパー信号(オン/オフ)に基づき、エスティメータモジュール18が、どれだけの時間フロントガラスワイパーがオン状態(すなわち、雨の継続信号)にあったかを計算する。
【0111】
VCU10はまた、空気サスペンションセンサ(車高センサ)と車輪加速度計に基づいて地形の粗さを計算する道路粗さモジュール24を含む。粗さ出力信号26の形の地形インジケータ信号は、道路粗さモジュール24から出力される。
【0112】
車輪縦スリップと横摩擦推定の推定値は、エスティメータ・モジュール18内で妥当性チェックとして互いに比較される。
【0113】
車輪速度変化とコルゲーション出力、表面ローリング抵抗推定、車輪縦スリップとコルゲーション検出の計算は、摩擦妥当性チェックとともに、エスティメータ・モジュール18から出力され、VCU10内での更なる処理のために、自動車が走行している地形の性質を示す地形インジケータ出力信号22を提供する。
【0114】
エスティメータ・モジュール18からの地形インジケータ信号22は、自動車が走行している地形の種類を示すインジケータに基づいて、複数の自動ビークルサブシステム制御モジュールのいずれが最も適当かを判断するために、セレクタ・モジュール20に提供される。最も適当な制御モジュールは、エスティメータ・モジュール18と道路粗さモジュール24からの地形インジケータ信号22,26に基づいて、複数の制御モジュールのそれぞれが適当であるかどうかの妥当性を分析することによって判断される。
【0115】
自動ビークルサブシステム12は、セレクタモジュール20からの制御出力信号30に応答して、ドライバからの入力が無くても、サブシステム制御モード(VCU10の動作の「オートマチック・モード」又は「オートマチック・コンディション」)で自動的に制御される。代わりに、自動ビークルサブシステム12は、ヒューマン・マシン・インターフェイス(HMI)モジュール32を介して、マニアル・ユーザ入力(VCU10の動作の「マニアル・モード」又は「マニアル状態」)に応じて、バスシステム制御モードで動作されるようにしてもよい。したがって、ユーザは、要求されたシステム・コントロール・モジュール(動作モード)の選択によって、いずれのサブシステム・制御モードで、サブシステムが動作されるかを判断する。HMIモジュール32は、ディスプレイ・スクリーン(図示せず)とユーザが動作可能なスイッチパック170を有する。ユーザは、コントロール・ノブ172を押すことによって、該コンのロール/ノブ172を後退位置と露出位置との間で切り換えることによって、VCU10の動作のマニアル・モード(状態)とオートマチック・モード(状態)の間で選択する。ノブが露出位置にあるとき、VCU10はマニアルモード又はマニアル状態で動作する。このスイッチパック170により、ユーザは、マニアルモード又はマニアル状態のとき、コントロール・ノブ172を回転することによって、所望のサブシステム制御モードを選択できる。
【0116】
サブシステム・コントローラ14は、それ自体が、信号ライン13を介して直接、自動ビークルサブシステム12a〜12fを制御する。代わりに、各サブシステムには、関連するサブシステム12a〜12fを制御するために、それ自身の関連する中間コントローラ(図1には示さず)を設けてもよい。後者の場合、サブシステム・コントローラ14は、サブシステムに対して実際に制御ステップを実行するのではなく、サブシステム12a〜12fに対して最も適当なサブシステム・制御モードの選択を制御するだけでもよい。中間コントローラは、実際上、メイン・サブシステム・コントローラ14に一体化された一部分を形成している。
【0117】
図3は、米国特許出願2003/0200016号から取得した表で、VCU10が動作するそれぞれの動作モードにおいて自動車100のサブシステム12によってとられる特定のサブシステム構成モードを示す。
【0118】
動作モードは、
(a)高速道路モード、
(b)田舎道モード、
(c)都市走行(都市)モード、
(d)けん引(路上走行)モード
(e)未舗装道路モード、
(f)雪/氷(路上走行)モード、
(g)GGSモード、
(h)砂モード、
(i)岩徐行モード又は玉石横断モード、
(j)泥/わだちモード、
である。
【0119】
図3を参照すると、サスペンション・システム12eは、最低地上高(高い、標準、低い)とサイド/サイド・エア・インターコネクションに応じて設定される。サスペンション・システム12eは、流体サスペンション・システム(本実施形態ではエア・サスペンション・システム)である。これにより、米国特許出願2003/0200016で説明されているように、自動車の両側にある車輪のサスペンションの間が流体結合される。複数のサブシステム構成モードが異なるレベルの結合を提供する。本件では、無結合と少なくとも部分的な結合である。
【0120】
ePASステアリング・ユニット12cの構成は、異なるレベルのステアリング・アシスタントを提供するように調整される。この場合、ステアリング・ホイール18は、ステアリング・アシスタンスが大きくなるほど、より簡単に回転できる。アシスタント量は、動作モードによっては、自動車の速度に逆比例する。
【0121】
ブレーキシステム12dは、動作モードに応じて、ブレーキペダル163に加えられた圧力に対して比較的大きなブレーキ力又は比較的小さなブレーキ力を提供する。
【0122】
ブレーキシステム12dはまた、アンチ・ロック・ブレーキシステムがアクティブ状態のとき、色々なレベルの車輪スリップ(低摩擦時は比較的小さな量(低μ面)、高摩擦面では比較的大きな量)を許容するように構成されている。
【0123】
エレクトロニクック・トラクション・コントロール(ETC)システムは、高ミュー(μ)又は低ミュー(μ)の状況で動作可能である。このシステムは、低ミューの状況では、高ミューの状況に比べて、ビークル制御に介入前は、大きな車輪スリップを許容する。
【0124】
高ミュー又は低ミューの状況では、ダイナミック・スタビリティ・制御システム(DSC)もまた動作される。
【0125】
エンジン・マネージメント・システム12aは、「クイック」又は「スロー」アクセル(又はスロットル)ペダル・プログレッション・構成モードで動作される。この場合、アクセルペダルの進行に伴うエンジントルクの増加が比較的早い又はゆっくりしている。その速度は、砂モード等の一つ又は複数のモードでの速度に依存する。
【0126】
PTU137は、本願で説明する、ハイレンジ(HI)サブシステム設定モード又はローレンジ(LO)サブシステム設定モードで動作可能である。
【0127】
トランスミッション124は、経済性と走行性を合理的にバランスさせた「ノーマル」モード、トランスミッションをノーマルノードよりもローギヤに保つ「パフォーマンス」モード(特に、車を加速するために、ドライバが高レベルの駆動トルクを要求している場合)、ギヤチェンジ制御が完全にドライバに委ねられた「マニアル」モードで動作可能である。「雪(スノー)」モードや「氷(アイス)」モードもある。これらのモードでは、特に、静止状態から加速する場合、車輪のスピンに起因する摩擦の損失を防止するために、トランスミッションは通常モードよりもハイギヤに保たれる。また、「砂(サンド)」モードでは、車輪が過度にスピンするのを防止するために、低速時にトランスミッションはハイギヤに保たれる。過度な車輪のスピンは、低速時に車輪が地面を掘るようなホイール・ディギング(車輪が地面を削る現象)を生じる。しかし、砂モードでは、出来るだけ大きなけん引力を得るために車輪のスリップは好ましいものであるため、高速時にローギヤを使用する。ローギヤにすることで、エンジン121は、エンジン速度が高く且つパワー出力が高い動作領域に留まる。これにより、車100は、パワー不足によって、動きが取れなくなるという事態を回避できる。
【0128】
幾つかの実施形態では、センタ・ディファレンシャルとリア・ディファレンシャルはそれぞれ、クラッチパックを含み、「完全開放」状態と「完全ロック」状態との間でロッキングの程度を変えるように制御可能である。実際のロッキングの程度は、常時、複数の公知の要素に基づいて制御される。しかし、ディファレンシャルが「もっと開放される」又は「もっとロックされる」ように調整可能である。具体的に、クラッチパックにかかるプレロードは変化する。クラッチパックは、ロッキングトルク(すなわち、クラッチ及びディファレンシャルをスリップさせる、ディファレンシャルにかかるトルク)を制御する。フロント・ディファレンシャルはまた、同様に制御される。
【0129】
車100が受信する信号を参照して、車100が走行している路面の傾斜を監視するように構成されている。特に、VCU10のエスティメータ・モジュール18は、車100の移動方向に平行な線に対して走行面が傾斜している角度を求めるように構成されている。この角度は、サイドスロープ角(アングルSS)と呼ばれ、図4(c)に示されている。サイドスロープ角は、車体ロール角(アングルBR(図4(c)参照))を示すセンサ出力に基づいて決められる。この角度は、車100の垂直軸Zと重力に関する真の垂直軸Vとの角度である。
【0130】
VCU10は、サイドスロープ角(アングルSS)を正確に求めるために、コーナリング中の求心力による車体のローリングを考慮し、ロール量センサのデータから導かれるロール角の値を調整することによって、アングルSSの値を計算するように構成されている。実施形態によっては、アングルSSの値は、横加速度を示す信号とこの信号のフィルタリングされた導関数を参照して求められる。このフィルタリングされた導関数は、例えば、ローパスフィルタを通過した後の横加速度の変化率に対応している。
【0131】
VCU10はまた、車100の縦軸Lと車100の走行方向Dとの間の角度を計算する。後者の角度は、図4(b)に示されるように、けん引軸スリップ角(アングルTAS)と呼ばれる。アングルTASの値は、現在の車の速度に関してヨー角の予想された変化率とステアリング角との差(又は誤差)を参照して推定される。この誤差は、ヨーエラーと呼ばれる。アングルTASを推定する他の方法も有効である。
【0132】
サイドスロープ角(アングルSS)の値は、VCU10のサイドスロープ補償モジュール80に出力される。
【0133】
アングルSSが予め決められたトリガー閾値角アングルSStを超えている場合、車100がサイド・スロープをうまく通り抜けていることをモジュール80が検出すると、サイド・スロープMSSによって車100に作用する回転モーメントに対抗するために、モジュール80はトルクベクトル化MTV(図1)によって車100に回転モーメントを加えるべきか否か判断する。本実施形態において、予め決められたアングルSStは5度である。その他の値も有効である。実施形態によっては、アングルSStの値は、選択された制御モードに依存する。
【0134】
本実施形態において、MTVの値は、ルック・アップ・テーブル(LUT)80LUTを参照して、モジュール80によって決定される。ルック・アップ・テーブルはMTVの値を出力する。MTVの値は、車の速度、アングルSS、アングルTAS、及び/又はヨーエラー、及び現在選択されている制御モードに依存する。制御モードによっては、サイドスロープ状態の確認に応じて回転モーメントMTVが加えられることがない。
【0135】
モジュール80は、信号ライン81を介して、サブシステム制御モジュール14に指令を出力する。サブシステム制御モジュール14は、エンジンマネージメントシステム12a、ドライブラインコントローラ12f、及びブレーキシステム12dに操作し、トルクベクトル化によって回転モーメントを得る。
したがって、サブシステム14は、フロントアクスル(前車軸)FAに対する下方傾斜方向におけるリアアクスルRAのサイドスリップに対向する方向に必要な回転モーメントMTVが誘導されるように、エンジンマネージメントシステム12a、ドライブラインコントローラ12f、及びブレーキシステム12dを適当に制御することによって、回転モーメントを誘導する。
【0136】
本実施形態では、トルクベクトル化には、ブレーキシステム12dによるブレーキ力の適用(ブレーキングによるトルクベクトル化TVB)と、エンジンマネージメントシステム12aとドライブラインシステム12fによる車輪間の駆動トルクの分配(パワートレインによるトルクベクトル化TVP)の組み合わせが用いられる。本実施形態では、TVBは、アクセルペダル161が踏まれていないときに回転モーメントを得る場合に採用され、TVPは、アクセルペダルが踏まれているときに回転モーメントを得る場合に採用される。実施例によっては、TVPだけでは必要な回転モーメントが得られない場合、TVPに加えてTVBが採用される。
【0137】
本実施形態では、アングルSSが閾値アングルSStを超えている場合、VCU10は、アングルTAS又はヨーエラーの値に拘わらず、予め決められた制御モード(GGS又はサンド)の一つでVCU10が動作していれば、基準値MTVBに等しい有限の回転モーメントの適用を指令する。これにより、回転モーメントが基準の回転モーメント又は回転モーメントオフセットを導入し、アングルSSがアングルSStを超えていれば、たとえ後車軸のサイドスリップが発生していなくても、まっすぐ前方に向けてビークル100を付勢する。
【0138】
VCU10が、アングルTASの値が予め決められた閾値アングルTAStを超えていると判断した場合、アングルTASを減少するために、VCU10はMTVの値を基準値MTVB以上に大きくする。本実施形態では、アングルTASの値を超えると、VCB10が動作している制御モードに応じてMTVB以上にMTVが増加する。
所定の制御モード(例えば、GGS)では、MTVの増加の引き金となる臨海角は、サンドモード等の他のモードにおけるそれよりも小さい。これは、砂地などの比較的ソフトで変形し易い表面は、表面を大きく変形/浸食することなく、アングルTASの大きな値に適応できるのに対し、草地などの比較的壊れやすい面は比較的小さなアングルTAS値であっても変形を生じやすい、という理由からである。したがって、比較的壊れやすい面の変形はけん引性の低下(その面と車輪との間の摩擦係数の低下)を招くので、そのような比較的壊れやすい面の変形の変形は減らすことが好ましい。いくつかの実施例では、VCU10がGGS制御モードで動作しているときの臨界角は約10度、VCU10がサンド制御モードで動作しているときの臨界角は15度である。その他の構成も有効である。
【0139】
閾値角度アングルTAStよりも小さな値にアングルTASを維持する場合、必要に応じてMTVの値を変調するために、VCU10は閉ループフィードバック構成を採用している。幾つかの実施形態では、VCU10は、アングルTASを実質的にゼロに維持するように努める。その他の構成も有効である。
【0140】
傾斜上方の後車輪のパワートレイントルクと傾斜下方の後車輪のパワートレイントルクとの間に差を設けることで回転モーメントを得ることも可能である。選択的に、パワートレインの差は、前車軸に対する後車軸のトルクを増加することにより、前車軸と後車軸との間に設けてもよい。砂地などの面を走行する場合、後車軸のサイドスリップを補正するために、内側後輪にブレーキをかけることが望ましい。むしろ、後車軸の両後輪の間に異なるパワートレイントルクを加えることも好ましい。
【0141】
前車軸と後車軸にトルクを配分する中央ディファレンシャル又はその他の手段を採用してもよい。上述の所定の状態では、後車輪に加えられるトルクの配分を増加することが望ましい。
【0142】
内側後車輪へのパワートレイントルクを減少することにより、及び/又は、外側後輪へのパワートレイントルクを増加することにより、パワートレイン駆動トルク差を得るようにしてもよい。これは、リアディファレンシャル135によって後輪間のトルク配分を変化させることによって行うことができる。本実施形態では、リアディファレンシャル135は、左右の後ドライブシャフト139にトルクを加えるように構成された左右のクラッチパックを滑らすことによって、左右の後輪114,115の間のスピード差を対応する。
【0143】
代わりに、VCU10は、傾斜下方の車輪に供給されるパワートレインドライブトルクの値を傾斜上方の車輪に供給されるそれよりも大きくすることで、回転モーメントを誘導するように構成してもよい。
【0144】
幾つかの実施形態では、VCU10は、後部を上方傾斜させた一つ又は複数の所定の制御モードでシステムが動作しているときに限り、傾斜上方の車輪に供給されるパワートレイン駆動トルクを傾斜下方の車輪に供給されるパワートレイン駆動トルクよりも大きくすることで、アングルTASを減少するために、ビークルに回転モーメントが誘導されるように構成してもよい。追加的に又は代替的に、VCU10は、後部を下方傾斜させた一つ又は複数の所定の制御モードでシステムが動作しているときに限り、傾斜下方の車輪に供給されるパワートレイン駆動トルクを傾斜上方の車輪に供給されるパワートレイン駆動トルクよりも大きくすることで、ビークルに回転モーメントが誘導されるように構成してもよい。
【0145】
一つ又は複数の後部を下方に傾斜する制御モードは、砂地を走行するためのサンドモードを含む。
【0146】
傾斜下方の後輪に供給されるパワートレインドライブトルクを傾斜上方の後輪に供給されるパワートレインドライブトルクよりも大きくするのは、平坦面をビークルが走行するときに用いられるやり方と逆である。幾つかの実施形態では、システムは傾斜上方の後輪に供給されるパワートレインドライブトルクを傾斜下方の後輪に供給されるパワートルクよりも大きくすることによって回転トルクを誘導するものではない。
【0147】
幾つかの実施形態では、ドライバがアクセルペダルを踏んだときは車軸の両側に加わるパワートレイントルクに差を、ドライバがアクセルペダルを踏んでいないときは車軸の両側に加わるブレーキトルクに差を設けることで、回転モーメントを誘導してもよい。パワートレイントルクの差又はブレーキトルクの差は後車軸に設けることが有利である。
【0148】
図5は、本発明の実施形態に係る、ビークル100の動作方法を示す。
【0149】
ステップS101では、ビークル100のVCU10は、セレクタノブ172の位置に応じて、マニアル制御モード選択状態又はオートマチックモード選択状態のいずれかの選択された制御モードで動作している。VCU10は、ステップS101で、VCU10が予め決められた一群の制御モードで一つ(本実施形態では、GGSモード又はサンドモード)で動作しているか否か判断する。VCU10がこれらのモードの一つで動作している場合、VCU10はステップS103で処理を継続する。そうでなければ、VCU10はステップS101を繰り返す。
【0150】
ステップS103では、VCU10は、サイドスロープ角アングルSSの値を参照して、サイドスロープ状態が存在するか否か判断する。アングルSSの値がスロープ角閾値アングルSSCt(GGS制御モードが選択されているときは5度、サンドモードが選択されているときは10度)を超えている場合、VCU10はステップS105で処理を継続する。そうでなければ、VCU10はステップS101で処理を継続する。
【0151】
ステップS105では、VCU10は、サブシステム制御モジュール14を介して、ビークル100に基準回転モーメントMTVBを加える指令をする。その大きさは、メモリに保存されたサイドスロープルックアップテーブルを参照して決められる。回転モーメントの大きさは、選択された制御モード、車両速度、及びアングルSSの値に依存する。実施形態によっては、追加的に、又は代替的に、回転モーメントは、ステアリング角度に部分的に依存してもよい。回転モーメントは、前車軸に対して下方に傾斜した方向に向けて、車両100の後車軸のスリップに対抗する方向に、加えられる。
【0152】
ステップS107では、VCU10が、後車軸スリップ角、アングルTASの値がトリガー閾値アングルTAStを超えているか否か確認する。アングルTAS>アングルTAStの場合、VCU10はステップS109で処理を継続する。そうでなければ、VCU10はステップS101で処理を継続する。
【0153】
ステップS109で、VCUはルックアップテーブルを用いて、アングルTASをアングルTAStよりも下げるべく、閉ループフィードバック設定に対してパラメータを提供する。このパラメータは、MTVの値を、選択された制御モジュールと車両速度に応じて、比較的速い又は比較的遅い速度に増やすように、構成されている。
【0154】
実施形態によっては、アングルTASの値を確認することに代えて、ステップS107で、VCU10は、ヨーエラーの値がヨーエラー閾値を超えているか否か確認する。ヨーエラーが閾値を超えていれば、VCU10はステップS109で処理を継続し、超えていなければ、ステップS101で処理を継続する。ステップS109では、VCU10は、ルックアップテーブルを用いて、ヨーエラーの値をヨーエラー閾値よりも小さくする閉ループフィードバック設定のためのパラメータを提供する。このパラメータは、MTVの値を、選択された制御モジュールと車両速度に応じて、比較的速い又は比較的遅い速度に増やすように、構成されている。続いて、VCU10は、ステップS101で処理を継続する。
【0155】
各後輪に加えられるトルクの相対的な値は、複数のパラメータ(選択された制御モード、車両速度、後車軸スリップ角、サイドスロープ角、車両が受けるけん引力の測定値、及びその他のパラメータ等)の一つ又は複数に応じて、決定される。例えば、サンド制御モードでは、VCU10は、比較的大きな値のMTVを得るために、比較的大きなトルク差を設けるように構成されている。これに対し、GGSモードでは、MTVの値は、所定のアングルTAS又はヨーエラーに対して低いこともある。VCU10がMTVを増加及び減少する速度は、一つ又は複数のパラメータに依存する。例えば、砂の上を走行する場合、増加をアングルTASに留めるために、VCU10はMTVを比較的急速に増加する。砂の上を走行する場合、アングルTASの増加は比較的急速に起こる。従来の自動車では、ドライバは、後車軸の大きなサイドスリップが発生するのを防止するために、草地を走行する場合に比べて、迅速に行動する必要がある。したがって、本発明の実施例によれば、アングルTASがアングルTASCを超えるか、ヨーエラーがヨーエラー閾値を超えると、MTVの増加速度が大きくなる。
【0156】
幾つかの実施形態では、サイドスロープ状態が検出されると、一つ又は複数の安定制御システム(例えば、ダイナミック安定制御システム(DSC)、けん引制御システム(TCS)等。これは、VCU10により実行される機能又はその他の計算装置で行われる。)の介入を支配する一つ又は複数の条件が変更される。幾つかの実施形態では、ヨーを補正するために(例えば、アンダーステア又はオーバーステアを埋め合わせるために)、安定制御システムの介入を支配する一つ又は複数の条件が変更される。一方、車輪のスピンを相殺するけん引制御システムの応答は不変である。けん引制御システム(これは、車両サブシステムであることから、けん引制御システムともいう。)は、VCU10が動作する生後モードに応じて選択されたサブシステム設定パラメータに動作する。
【0157】
本実施形態では、DSCシステムは、アングルSSがアングルSStを超える場合、ヨーエラーの最大閾値よりも大きな値の横方向スリップに起因する過剰なヨーの補正するように構成されている。その閾値は、DSCシステムが介入する前に、VCU10が介入して、アングルTASt以下にアングルTASが減少する。
【0158】
本実施例において、DSCシステムは、制御モードに応じて、ブレーキ及び/又はパワートレイントルクベクトル化によって、ヨーを修正するために介入するように構成されている。本実施形態では、VCU10がサンド制御モードで動作している場合、VCU10は車100の片側の車輪(車100の後車軸)のみにブレーキをかける。
【0159】
この特徴は、サイドスロープ状態が存在する場合、水平な地面を走行するために最適化された安定制御システムに依るのではなく、ヨーエラーを補償するための特定の制御方法が採用されるので、車の安定正が向上するという利点がある。本発明の実施形態によれば、サイドスロープに遭遇したとき、車の安定性が一段と向上するとともに、車の操縦性に関するドライバの自信と同乗者の快適性が向上する。
【0160】
本発明の実施形態は、以下に番号が付されたパラグラフを参照することによって理解される。
【0161】
1.自動車用コントローラであって、
一つ又は複数のセンサを参照して、車がサイドスロープを走行しているサイドスロープ状態を検出し、
パワートレイン及び/又はブレーキシステムによって、車に回転モーメントを誘導するように、車の一つ又は複数の車輪にトルクを加え、
前記コントローラは、後車軸が前車軸に対して下り坂方向にサイドスリップする方向とは反対の方向に回転モーメントを誘導するように構成されている。
【0162】
2.サイドスロープ角が予め決められた角度を超えている場合、サイドスロープ状態が存在すると判断するように構成されている、パラグラフ1のコントローラ。
【0163】
3.後車軸スリップ角度(アングルTAS)が閾値(アングルTASt)を超えていることを検出するように構成されており、
前記コントローラは、アングルTASを超える後車軸スリップ角を検出すると、回転モーメントを誘導するように構成されており、
前記回転モーメントは、前記後車軸スリップ角を減らす方向に誘導される、段落1又は2のコントローラ。
【0164】
4.アングルTASの値に応じて決定された大きさの回転モーメントが誘導されるように構成されている、段落3のコントローラ。
【0165】
5.ブレーキトルク及び/又はパワートレインドライブトルクを加えることによって、後車軸スリップ角の間を減少するために回転モーメントを誘導するように構成された、パラグラフ1〜4のいずれかのコントローラ。
【0166】
6.後に向かって上方に傾斜した車輪にブレーキトルクを加えることによって回転モーメントを少なくとも部分的に誘導させるように構成された、段落5のコントローラ。
【0167】
7.後方に向かって上方に傾斜した車輪に供給されるパワートレインドライブトルクを、後方に向かって下方に傾斜した車輪に供給されるパワートレインドライブトルクよりも大きくすることによって、回転モーメントを誘導させるように構成された、段落5又は6のコントローラ。
【0168】
8.後方に向かって下方に傾斜した車輪に供給されるパワートレインドライブトルクを、後方に向かって上方に傾斜した車輪に供給されるパワートレインドライブトルクよりも大きくすることによって、回転モーメントを誘導するように構成された、段落5又は6のコントローラ。
【0169】
9.前記車の下り坂側に対して前記車の上り坂側に最低地上高の差を形成するようにサスペンションシステムを調整させるように構成された段落1〜8のいずれかのコントローラ。
【0170】
10.車体ロール補正を行って車体のロールを減らすように構成された車体ロール制御システムを調整するように構成され、
前記コントローラは、車体ロール制御システムにより、前記サイドスロープ状態に関連したロールに対する車体の抵抗を増加させるように構成されている、段落1〜9のいずれかのコントローラ。
【0171】
11.少なくとも一つ車のサブシステムの複数の制御モードの選択された一つで動作するように構成されており、
前記コントローラは、複数のサブシステム制御モードの選択された一つで少なくとも一つのサブシステムの制御を開始するためにサブシステムコントローラを有し、
前記複数のサブシステム制御モードは、車に関する一つ又は複数の異なる走行条件に対応している、段落1〜10のいずれかのコントローラ。
【0172】
12.選択された制御モード、後車軸スリップ角の値、及び必要な回転モーメントの一つ又は複数に応じて、上方に傾斜した車輪に加えられるトルクを下方に傾斜した車輪に加えられるトルクよりも大きくすることによって回転モーメントを生じさせるか、又は、下方に傾斜した車輪に加えられるトルクを上方に傾斜した車輪に加えられるトルクよりも大きくすることによって回転モーメントを生じさせるか否かを決定するように構成されている、請求項5又は6に従属した、段落1のコントローラ。
【0173】
13.ユーザが操作可能なモード選択入力装置によって、ユーザが必要なコントローラ制御モードを選択する、マニアル制御モード選択状態で動作可能な、段落11又は12のコントローラ。
【0174】
14.前記コントローラが適当な制御モードを自動的に選択するように構成されている自動選択状態で動作可能な段落11から13のいずれかのコントローラ。
【0175】
15.前記コントローラは、複数のサブシステム制御モードのそれぞれが適当か否かを判断する一つ又は複数のドライブ状態インジケータを評価するエバリュエータを有し、
前記コントローラは、前記オートマチックモード選択状態で、前記サブシステムを自動的に制御して、最も適当なサブシステム制御モードで前記サブシステムの一つ又は複数の制御を開始する、段落14のコントローラ。
【0176】
16.前記制御モードは、エンジンマネージメントシステム、トランスミッションシステム、ステアリングシステム、ブレーキシステム、及びサスペンションシステムのうちから選択された少なくとも一つのビークルサブシステムの制御モードである、段落11〜15のいずれかのコントローラ。
【0177】
17.前記制御モードは、エンジンマネージメントシステム、トランスミッションシステム、ステアリングシステム、ブレーキシステム、及びサスペンションシステムのうちから選択された少なくとも二つのビークルサブシステムの制御モードである、段落16のいずれかのコントローラ。
【0178】
18.各制御モードにおいて、前記コントローラは、一つ又は複数のビークルサブシステムが、ドライブ条件に適当なサブシステム設定モードで動作される、段落11〜17のいずれかのコントローラ。
【0179】
19.アンダーステア又はオーバーステアの検出に応じて、スタビリティ制御システムによって、一つ又は複数の車輪に加えられるトルクの変化が停止する、段落1〜18のいずれかのコントローラ。
【0180】
20.段落1〜19のいずれかのコントローラを有するビークル。
【0181】
21.前記ビークルがオフロード走行に適合している、段落20のビークル。
【0182】
22.ビークルを制御する方法であって、
ビークルがサイドスロープを走行しているサイドスロープ状態を検出し、
一つ又はそれ以上の車輪に加えるトルクを制御してビークルに回転モーメントを誘導し、
前記方法は、後車軸が前車軸に対して下り坂方向にサイドスリップする方向とは反対の方向に回転モーメントを誘導させる、方法。
【0183】
23.段落22の方法を実行するようにビークルを制御するための、コンピュータが読み取り可能なコードを担持した媒体。
【0184】
明細書及び請求の範囲において、「有する」、「含む」、およびそれに類する文言(例えば、「有し」、「有する」)は、「含むがそれに限定されない」意味であり、その他の部分、添加、成分、又は工程を排除するものではない。
【0185】
明細書及び請求の範囲において、特に限定的に記載されている場合を除いて、「単数」の表現は複数を含むものである。特に、不定冠詞が使われている記載については、特に限定的に記載されている場合を除いて、単数と複数の両方を意味するものと理解すべきである。
【0186】
特定の形態について記載されているが、本発明の実施形態はその他の形態、実施例にも適用可能である。
【0187】
英国特許出願GB1111288.5、GB1211910.3、GB1202427.9,英国特許GB2325716,GB2308415,GB2341430、GB2382158,及びGB2381597,及び米国特許出願2003/0200016の内容はすべて、本願明細書の一部を構成するものとして援用する。
図1
図2
図3
図4
図5