特許第6377321号(P6377321)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6377321
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】画像形成装置用多層無端管状ベルト
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20180813BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20180813BHJP
   G03G 15/00 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   B32B27/30 D
   B32B27/00 103
   B32B27/00 C
   G03G15/00 550
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-111919(P2013-111919)
(22)【出願日】2013年5月28日
(65)【公開番号】特開2014-231153(P2014-231153A)
(43)【公開日】2014年12月11日
【審査請求日】2016年3月7日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】脇中 敏
(72)【発明者】
【氏名】木村 剛
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/058961(WO,A1)
【文献】 特開2011−000795(JP,A)
【文献】 特開平05−077252(JP,A)
【文献】 特開2003−122154(JP,A)
【文献】 特開2011−180349(JP,A)
【文献】 特開2005−254810(JP,A)
【文献】 特開昭63−080411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
G03G 13/20,15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と表面層からなる多層ベルトであって、
表面層がフッ素系樹脂からなり、
基材層と表面層との接着強度が1.5N/10mm以上であり、
基材層が、
(A)ポリエーテルエーテルケトン70〜90重量%、及び
(B)ポリエーテルイミド及び/又はポリフェニルスルホン10〜30重量%
からなり、
基材層と表面層との間にプライマー層を有さない、多層無端管状ベルト。
【請求項2】
フッ素系樹脂が、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、フッ化エチレンプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレンヘキサフルオロプロピレンビニリデンフルオライド及びテトラフルオロエチレン−エチレンコポリマーからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のベルト。
【請求項3】
フッ素系樹脂が、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマーである、請求項2に記載のベルト。
【請求項4】
基材層が導電剤を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のベルト。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載のベルトからなる定着ベルト。
【請求項6】
フッ素系樹脂からなる表面層を、基材層の外面に積層した後、加熱と加圧を同時に行うことにより、基材層と、フッ素系樹脂からなる表面層とを有する多層無端管状ベルトを製造する方法であって、
基材層と表面層との接着強度が1.5N/10mm以上であり、
基材層が、
(A)ポリエーテルエーテルケトン70〜100重量%、及び
(B)ポリエーテルイミド及び/又はポリフェニルスルホン0〜30重量%
からなり、
表面層において、基材層と積層する側の表面に、予めケミカルエッチング処理により表面改質処理を行う、方法。
【請求項7】
基材層が、
(A)ポリエーテルエーテルケトン70〜90重量%、及び
(B)ポリエーテルイミド及び/又はポリフェニルスルホン10〜30重量%
からなる、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層無端管状ベルトに関する。具体的には、複写機、プリンター、ファクシミリ等の電子写真方式を用いた画像形成装置の、中間転写ベルト、定着ベルト等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を用いた画像形成装置は、まず、像担持体上に形成された静電潜像をトナーで現像し、現像されたトナー像を中間転写ベルト上に一次転写した後、これを用紙等の記録媒体上に二次転写し、さらに、当該記録媒体上の未定着のトナー像を、定着ベルトを用いて、加熱・加圧して画像を当該記録媒体に定着させるものである。
【0003】
このような中間転写ベルトや定着ベルトとして、基材層及び離型層を有する多層無端管状ベルトが知られている。当該離型層としては、フッ素樹脂がよく用いられているが、フッ素樹脂は表面自由エネルギーが小さいことから、一般に、他の素材との接着性に劣るという欠点を有する。そのため、基材層上にフッ素樹脂層を形成する際には、プライマーと呼ばれる下塗り剤を使用して、その接着性を向上させる方法が採用されている。具体的には、基材層にプライマーを塗布した後にフッ素樹脂塗料をコーティングする方法、又は、基材層にプライマーを塗布した後にフッ素樹脂フィルムを接着する方法等がある(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、プライマーを使用する場合、プライマー塗布工程が必要となるため、ベルト製造における作業工程が煩雑になるという問題があった。また、プライマーの塗布むらが生じ、得られるベルトの接着強度にバラツキが生じるという問題もあった。さらに、積層後の経時変化により、ベルトからプライマーが剥がれ落ちる恐れもあった。
【0005】
したがって、プライマーを使用せずに、所望の接着強度を満たす多層無端管状ベルトが要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2012−029380号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、プライマー層を設けることなく所望の接着強度を満たし、耐久性に優れた多層無端管状ベルトを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、基材層と表面層との間にプライマー層を設けることなく、その接着強度が、ベルト周方向いずれの場所でも1.5N/10mm以上となる多層ベルトの開発に成功し、該多層ベルトが、接着強度に優れ、本発明の課題を解決できることを見出した。かかる知見に基づきさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の多層無端管状ベルトに係る。
【0010】
項1.基材層と表面層からなる多層ベルトであって、
表面層がフッ素系樹脂からなり、
基材層と表面層との接着強度が1.5N/10mm以上であり、
基材層と表面層との間にプライマー層を有さない、多層無端管状ベルト。
【0011】
項2.基材層が、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン及びポリフェニルスルホンからなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載のベルト。
【0012】
項3.基材層が、
(A)ポリエーテルエーテルケトン、及び
(B)ポリエーテルイミド及び/又はポリフェニルスルホン
を含む、項1又は2に記載のベルト。
【0013】
項4.(A)ポリエーテルエーテルケトン70〜90重量%、及び
(B)ポリエーテルイミド及び/又はポリフェニルスルホン10〜30重量%、
からなる、項3に記載のベルト。
【0014】
項5.フッ素系樹脂が、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、フッ化エチレンプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレンヘキサフルオロプロピレンビニリデンフルオライド及びテトラフルオロエチレン−エチレンコポリマーからなる群より選択される少なくとも1種である、項1〜4のいずれか1項に記載のベルト。
【0015】
項6.フッ素系樹脂が、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマーである、項5に記載のベルト。
【0016】
項7.基材層が導電剤を含む、項1〜5のいずれか1項に記載のベルト。
【0017】
項8.項1〜7のいずれか1項に記載のベルトからなる定着ベルト。
【0018】
項9.フッ素系樹脂からなる表面層を、基材層の外面に積層した後、加熱と加圧を同時に行うことにより、基材層と、フッ素系樹脂からなる表面層とを有する多層無端管状ベルトを製造する方法。
【0019】
項10.表面層において、基材層と積層する側の表面に、予め表面改質処理を行う、項9に記載の方法。
【0020】
項11.項9又は10に記載の方法により得られる、多層無端管状ベルト。
【発明の効果】
【0021】
本発明の多層無端管状ベルトは、基材層と表面層との間にプライマー層を有さないことから、プライマーの塗布むらによる接着強度のバラツキがない。すなわち、ベルト全体に亘って均一の接着強度を有している。また、プライマー塗布工程が不要であることから、多層無端管状ベルトの製造工程を簡略化できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
I.多層無端管状ベルト
本発明の多層無端管状ベルトは、基材層と表面層とからなる多層ベルトであって、表面層がフッ素系樹脂からなり、基材層と表面層との接着強度が1.5N/10mm以上であって、基材層と表面層との間にプライマー層を有さないことを特徴とする。
【0023】
以下、定着ベルトを例にとり、各層毎に説明する。
【0024】
表面層
本発明の多層無端管状ベルトにおける表面層は、定着時に溶融状態の未定着トナー像と固着するのを防ぐため、離型性に優れることが求められる。そのため、表面自由エネルギーの小さい、フッ素系樹脂が用いられる。
【0025】
フッ素系樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー(PFA)、フッ化エチレンプロピレン(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、テトラフルオロエチレンヘキサフルオロプロピレンビニリデンフルオライド(THV)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)等が挙げられる。
【0026】
上記フッ素系樹脂は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、PFAを用いることが好ましい。
【0027】
また、表面層には、必要に応じて、樹脂に添加される公知の添加剤、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、滑剤、防曇剤、スリップ剤、難燃剤、表面調整剤等を適宜配合することができる。
【0028】
また、本発明の表面層は、フィラーを含んでもよい。
【0029】
フィラーとしては、例えば、導電剤、熱伝導剤等が挙げられる。
【0030】
導電剤としては、例えば、公知の電子導電性物質、イオン導電性物質を用いることができる。
【0031】
電子導電性物質としては、例えば、カーボンブラック、SAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、SRF、FT、MT、酸化処理等を施したカラー(インク)用カーボン、熱分解カーボン、天然グラファイト、人造グラファイト等の導電性炭素系物質、アンチモンドープの酸化錫、酸化インジウム−酸化錫複合酸化物(ITO)等の導電性金属酸化物、酸化チタン、酸化亜鉛、ニッケル、銅、銀、ゲルマニウム、アルミニウム、銅合金等の金属及び金属酸化物、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン等の導電性ポリマー等が挙げられる。
【0032】
イオン導電性物質としては、例えば、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸リチウム、過塩素酸カルシウム、塩化リチウム等の無機イオン性導電物質、トリデシルメチルジヒドロキシエチルアンモニウムパークロレート、ラウリルトリメチルアンモニウムパークロレート、変性脂肪族・ジメチルエチルアンモニウムエトサルフェート、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−N−(3’−ドデシロキシ−2’−ヒドロキシプロピル)メチルアンモニウムエトサルフェート、3−ラウルアミドプロピル−トエイメチルアンモニウムメチルサルフェート、ステアルアミドプロピルジメチル−β−ヒドロキシエチル−アンモニウム−ジハイドロジェンフォスフェート、テトラブチルアンモニウムホウフッ酸塩、ステアリルアンモニウムアセテート、ラウリルアンモニウムアセテート等の第4級アンモニウムの過塩素酸塩、硫酸塩、エトサルフェート塩、メチルサルフェート塩、リン酸塩、ホウフッ化水素酸塩、アセテート等の有機イオン性導電物質、あるいは電荷移動錯体等が挙げられる。
【0033】
これらの導電剤を1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
前記導電剤のうち、カーボンブラックを用いることが好ましい。カーボンブラックとしては、具体的には、ガスブラック、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック、チャネルブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ等が挙げられる。より少量の混合で所望の導電率を得るのに有効なものとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラックとオイルファーネスブラックが挙げられる。なお、ケッチェンブラックとは、コンタクティブファーネス系のカーボンブラックである。
【0035】
熱伝導剤としては、例えば、金属窒化物、シリコン、スズ等を挙げることができる。金属窒化物としては、具体的には、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等が挙げられる。
【0036】
表面層にフィラーを含むことにより、表面層の耐クリープ性、熱伝導性もしくは電気伝導性、その他諸性質が向上する。フィラーを配合する場合、表面層の成型性、強度等の物理的、化学的物性を著しく損なわないようにすることが望ましい。例えば、0.5〜5重量%程度配合すると、表面層の特性を損なうことなく、その諸性質を向上させることができる。
【0037】
表面層の厚さは、通常、10〜40μm、好ましくは、25〜35μmである。このような厚みの表面層を有することにより、長時間駆動で表面磨耗が生じても、離型性を失わない表面層、すなわち耐摩耗性の有する表面層を実現することができる。
【0038】
基材層
本発明の多層無端管状ベルトにおける基材層は、加圧ロールと対向させて未定着トナー像を載せた紙を通過させるため、加熱や加圧に対する耐久性に優れることが求められる。そのため、耐熱性樹脂が用いられる。
【0039】
耐熱性樹脂としては、例えば、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニルスルホン(PPSU)等が挙げられる。
【0040】
ポリイミド(PI)は、通常、モノマー成分としてテトラカルボン酸二無水物とジアミン又はジイソシアネートとを、公知の方法により縮重合して製造されるポリマーであり、熱硬化性ポリイミドと熱可塑性ポリイミドに大別できる。
【0041】
熱硬化性ポリイミドとしては、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとを、有機溶媒中で反応させて得られるものが、好ましく用いられる。
【0042】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸、ナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸、2,3,5,6−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2′,3,3′−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、アゾベンゼン−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン、β,β−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、β,β−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン等の二無水物が挙げられる。
【0043】
芳香族ジアミンとしては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノクロロベンゼン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、2,4′−ジアミノビフェニル、ベンジジン、3,3′−ジメチルベンジジン、3,3′−ジメトキシベンジジン、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、4,4′−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3′−ジアミノベンゾフェノン、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、4,4′−ジアミノアゾベンゼン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、β,β−ビス(4−アミノフェニル)プロパン等が挙げられる。
【0044】
前記ジイソシアネートとしては、上記したジアミン成分におけるアミノ基がイソシアネート基に置換した化合物等が挙げられる。
【0045】
有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホニルトリアミド等が挙げられる。必要に応じて、クレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類、ヘキサンベンゼン、トルエン等の炭化水素類を混合してもよい。また、これら溶媒を、単独で用いても、2種以上の混合物として使用してもよい。
【0046】
熱可塑性ポリイミドとしても、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとを、有機溶媒中で反応させて得られるものが、好ましく用いられる。
【0047】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、前記熱硬化性ポリイミドの原料と同じものが挙げられ、芳香族ジアミンとしては、例えば、ビス[4−{3−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル}フェニル]エーテル、4,4´−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、2,2´−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン等を挙げることができる。これらは、適宜組合せて使用することができる。
【0048】
ポリエーテルイミド(PEI)は、脂肪族、脂環族又は芳香族系のエーテル単位と、環状イミド基とを、繰り返し単位として含有するポリマーである。本発明におけるPEIとしては、溶融成形性を有するものであれば特に限定されない。また、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、PEIの主鎖に、環状イミド、エーテル結合以外の構造単位、例えば、芳香族、脂肪族、脂環族エステル単位、オキシカルボニル単位等が含有されていても良い。
【0049】
具体的なPEIとしては、下記繰り返し単位を含むポリマーが好ましく使用される。
【0050】
【化1】
【0051】
(式中、Rは、6〜30個の炭素原子を有する2価の芳香族残基を示し、Rは、6〜30個の炭素原子を有する2価の芳香族残基、2〜20個の炭素原子を有するアルキレン基、2〜20個の炭素原子を有するシクロアルキレン基、及び2〜8個の炭素原子を有するアルキレン基で連鎖停止されたポリジオルガノシロキサン基からなる群より選択された2価の有機基を示す。)
上記R、Rの、6〜30個の炭素原子を有する2価の芳香族残基としては、例えば、下記式群に示される芳香族残基を有するものが好ましく使用される。
【0052】
【化2】
【0053】
PEIは、通常、モノマー成分として、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを公知の方法で重合させて得られるポリアミック酸から、脱水、環化反応を経て製造される。芳香族ジアミンとしては、前記熱硬化性ポリイミドの原料と同じものが挙げられる。芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ビスフェノール−A型テトラカルボン酸二無水物等を挙げることができる。これらは、適宜組合せて使用することができる。
【0054】
本発明では、溶融成形性やコストの観点から、2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物とm−フェニレンジアミン、又はp−フェニレンジアミンとの縮合物が好ましく使用される。このポリエーテルイミドは、「ウルテム」の商品名で、サビック社から市販されており、入手可能である。「Ultem 1000」や「Ultem XH6050」の登録商標名で知られているものである。
【0055】
ポリアミドイミド(PAI)は、トリメリット酸と芳香族ジアミン又はジイソシアネートとを、公知の方法により縮重合して製造される。この場合、芳香族ジアミン又はジイソシアネートは、前記熱硬化性ポリイミドの原料と同じものを用いることができる。
【0056】
ポリエーテルケトン(PEK)は、下記式(1)で示される繰り返し単位を含むポリマーである。
【0057】
−Ar−C(=O)−Ar′−O− (1)
(式中、Ar及びAr′は、同一又は異なって、置換又は無置換のフェニレン基を表す。)
【0058】
Ar及びAr′におけるフェニル環上の置換基としては、特に限定されないが、例えば、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基、ハロゲン原子等が挙げられる。Ar及びAr′は、無置換のp−フェニレン基を表すことが好ましい。
【0059】
本発明のPEKとしては、1種類の繰り返し単位から構成される単独重合体であってもよいし、2種類以上の繰り返し単位から構成される共重合体であってもよい。好ましくは、前記式(1)で表される繰り返し単位1種類から構成される単独重合体である。
【0060】
また、前記式(1)で表される繰り返し単位と、これ以外の繰り返し単位との共重合体であってもよい。当該他の繰り返し単位としては、例えば、以下のようなものが挙げられる。
−Ar−C(=O)−Ar−O−Ar−A−Ar−O−
−Ar−C(=O)−Ar−O−
−Ar−C(=O)−Ar−C(=O)−Ar−O−Ar−A−Ar−O−
−Ar−SO2−Ar−O−Ar−O−
−Ar−SO2−Ar−O−Ar−A−Ar−O−
(ここで、Arは前記と同じであり、Aは、直接結合、酸素原子、硫黄原子、−SO2−、−CO−、又は2価の炭化水素基を表す。)
【0061】
PEKは、通常、ハロゲンと水酸基を置換体として各端に結合させたベンゾフェノンを、公知の求核置換反応で結合させて製造される。また、片方にケトン基を介して求電子剤として塩素を結合させた、すなわち、アシル基−C(=O)Clとしたベンゾフェノンを、公知の求電子置換反応で結合させる製造方法もある。原料たるモノマーの構成比を調整することによって、前記重合体の末端を、フッ素原子等のハロゲン原子とすることもできるし、水酸基とすることもできる。一般にはフッ素原子が重合体末端にあることが好ましい。また、重合体末端に末端封止剤を反応させることにより、ハロゲン末端や水酸基末端を、フェニル基等の不活性置換基に置き換えたものでもよい。
【0062】
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)は、下記式(2)で示される繰り返し単位を含むポリマーである。
【0063】
−Ar−C(=O)−Ar−O−Ar′−O− (2)
(式中、Ar及びAr′は、同一又は異なって、置換又は無置換のフェニレン基を表す。)
【0064】
Ar及びAr′におけるフェニル環上の置換基としては特に限定されないが、例えば、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基、ハロゲン原子等が挙げられる。Ar及びAr′は、無置換のp−フェニレン基を表すことが好ましい。
【0065】
本発明のPEEKとしては、1種類の繰り返し単位から構成される単独重合体であってもよいし、2種類以上の繰り返し単位から構成される共重合体であってもよい。好ましくは、前記式(2)で表される繰り返し単位1種類から構成される単独重合体である。
【0066】
また、前記式(2)で表される繰り返し単位と、これ以外の繰り返し単位との共重合体であってもよい。当該他の繰り返し単位としては、例えば、以下のようなものが挙げられる。
−Ar−C(=O)−Ar−O−Ar−A−Ar−O−
−Ar−C(=O)−Ar−O−
−Ar−C(=O)−Ar−C(=O)−Ar−O−Ar−A−Ar−O−
−Ar−SO2−Ar−O−Ar−O−
−Ar−SO2−Ar−O−Ar−A−Ar−O−
(ここで、Arは前記と同じであり、Aは、直接結合、酸素原子、硫黄原子、−SO2−、−CO−、又は2価の炭化水素基を表す。)
【0067】
PEEKは、通常、ヒドロキノンと、ハロゲンを置換体として両端に結合させたベンゾフェノンとを、公知の求核置換反応により結合させて製造される。例えば、ジフェニルスルホン(DPS)中で、炭酸アルカリ金属、例えば、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムの存在下で、4,4’−ジフルオロベンゾフェノンとヒドロキノンを反応させる方法等により調製することができる。また、ベンゾフェノンと、両端に求電子剤として塩素を結合させたケトン基を持つベンゼン環を、塩化アルミニウム等を触媒として、公知の求電子置換反応で結合させる製造方法もある。原料たるモノマーの構成比を調整することによって、前記重合体の末端を、フッ素原子等のハロゲン原子とすることもできるし、水酸基とすることもできる。一般にはフッ素原子が重合体末端にあることが好ましい。また、重合体末端に末端封止剤を反応させることにより、ハロゲン末端や水酸基末端を、フェニル基等の不活性置換基に置き換えたものでもよい。
【0068】
PEEKの市販品として代表的なものとしては、ビクトレックス(Victrex)社製の商品名「ビクトレックスPEEK」シリーズが挙げられる。具体的には、ビクトレックス社PEEK 450G、381G、151G、90G(商品名)、ダイセル・デグサ社のVESTAKEEP(商品名)、が挙げられ、ほかにソルベイ社からも上市されている。
【0069】
ポリフェニルスルホン(PPSU)は、分子中に複数のスルホニル基(−SO2−)と複数の芳香族炭化水素を有するポリマーである。通常、ポリハロゲン化芳香族化合物とスルフィド化剤とを、公知の方法により重合して製造される。
【0070】
具体的なPPSUとしては、下記繰り返し単位を含むポリマーが好ましく使用される。
【0071】
【化3】
【0072】
このPPSUは、4,4′−ジヒドロキシビフェニル及び4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホンから求核置換により製造できる。また、このPPSUは、「レーデル」の商品名で、ソルベイスペシャルティポリマーズ社から市販されており、入手可能である。「Radel R-5000」「Radel R-5100」「Radel R-5500」「Radel R-5600」「Radel R-5800」の登録商標名で知られているものである。
【0073】
これらの耐熱性樹脂の中でも、定着ベルトとして用いる場合は、PEEK、PEI、PPSUを用いることが好ましく、特に、屈曲による耐久性に優れるPEEKを主成分として用いることが好ましい。さらに、(A)PEEKと、(B)PEI及び/又はPPSUとを併用することにより、屈曲による耐久性に優れ、かつ加熱や加圧による寸法安定性にも優れた定着ベルトとすることができる。上記成分(A)PEEKと、成分(B)PEI及び/又はPPSUとは、(A)70〜90重量%、(B)10〜30重量%で併用することが好ましい。(A)PEEKが70重量%以上であれば、屈曲による耐久性に優れる点で好ましい。また、(A)PEEKが90重量%以下であれば、加熱や加圧による寸法安定性に優れる点で好ましい。
【0074】
また、基材層には、必要に応じて導電剤を含んでいても良い。
【0075】
導電剤としては、例えば、公知の電子導電性物質、イオン導電性物質を用いることができる。
【0076】
電子導電性物質としては、例えば、カーボンブラック、SAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、SRF、FT、MT、酸化処理等を施したカラー(インク)用カーボン、熱分解カーボン、天然グラファイト、人造グラファイト等の導電性炭素系物質、アンチモンドープの酸化錫、酸化インジウム−酸化錫複合酸化物(ITO)等の導電性金属酸化物、酸化チタン、酸化亜鉛、ニッケル、銅、銀、ゲルマニウム、アルミニウム、銅合金等の金属及び金属酸化物、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン等の導電性ポリマー等が挙げられる。
【0077】
イオン導電性物質としては、例えば、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸リチウム、過塩素酸カルシウム、塩化リチウム等の無機イオン性導電物質、トリデシルメチルジヒドロキシエチルアンモニウムパークロレート、ラウリルトリメチルアンモニウムパークロレート、変性脂肪族・ジメチルエチルアンモニウムエトサルフェート、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−N−(3’−ドデシロキシ−2’−ヒドロキシプロピル)メチルアンモニウムエトサルフェート、3−ラウルアミドプロピル−トエイメチルアンモニウムメチルサルフェート、ステアルアミドプロピルジメチル−β−ヒドロキシエチル−アンモニウム−ジハイドロジェンフォスフェート、テトラブチルアンモニウムホウフッ酸塩、ステアリルアンモニウムアセテート、ラウリルアンモニウムアセテート等の第4級アンモニウムの過塩素酸塩、硫酸塩、エトサルフェート塩、メチルサルフェート塩、リン酸塩、ホウフッ化水素酸塩、アセテート等の有機イオン性導電物質、あるいは電荷移動錯体等が挙げられる。
【0078】
これらの導電剤を1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0079】
前記導電剤のうち、カーボンブラックを用いることが好ましい。カーボンブラックとしては、例えば、ガスブラック、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック、チャネルブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ等が挙げられる。より少量の混合で所望の導電率を得るのに有効なものとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラックとオイルファーネスブラックが挙げられる。なお、ケッチェンブラックとは、コンタクティブファーネス系のカーボンブラックである。
【0080】
導電剤を含む場合、その使用量は、通常、基材層に対して5〜20重量%程度であればよい。これにより基材層に、中間転写ベルト、定着ベルト等に適した導電性が付与される。
【0081】
なお、基材層には、必要に応じて、樹脂に添加される公知の添加剤、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、熱伝導剤、可塑剤、光安定剤、滑剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、架橋剤、架橋助剤、接着剤、難燃剤、分散剤等を適宜配合することができる。特に、熱伝導剤としては、金属窒化物(窒化ホウ素、窒化アルミニウム)、シリコン、スズ等を配合するとよい。
【0082】
また、基材層の厚みは、50〜200μm、好ましくは60〜160μmである。当該厚みが50μm以上であれば、外力による寸法安定性能が優れ、駆動時の(延伸や歪みによる)変形量が少なく、画像ズレが起こりにくい。また、当該厚みが200μm以下であれば、耐屈曲性に優れ、駆動時のベルトのワレが起こりにくい。
【0083】
多層ベルト
本発明の多層無端管状ベルトにおける基材層と表面層との接着強度は、後記の実施例に記載した方法で測定した値であり、1.5N/10mm以上、好ましくは、2.0N/10mm以上である。接着強度が1.5N/10mm以上であれば、通紙の圧力付加で、表面層の剥離が起こらない。
【0084】
また、本発明の多層無端管状ベルトの高温下弾性率は、350MPa以上、さらには400MPa以上であることが好ましい。高温下弾性率が350MPa以上であれば、外径方向の径変動の抑制が可能である。なお、当該高温下弾性率は、後記の実施例に記載した方法で測定できる。
【0085】
さらに、本発明の多層無端管状ベルトのMIT回数は、50回以上であることが好ましい。MIT回数が50回以上であれば、定着ベルト使用時に、割れることなく持続し駆動できる。なお、当該MIT回数は、後記の実施例に記載した方法で測定できる。
【0086】
II.多層無端管状ベルトの製造方法
以上のような構成を有する多層無端管状ベルトの製造方法については、プライマーを使用しない限り、特に限定されない。例えば、以下の工程を含む製造方法によって得ることができる。
(1)耐熱性樹脂及び必要に応じて導電剤を含む、基材層を形成するための組成物を、遠心成形又は溶融押出成形して基材層を形成する工程、
(2)フッ素系樹脂及び必要に応じてフィラーを含む、表面層を形成するための組成物を、遠心成形又は溶融押出成形して表面層を形成する工程、
(3)上記(1)で得られた基材層の外面に、上記(2)で得られた表面層を積層する工程。
【0087】
以下、各工程について説明する。なお、本発明の製造方法において使用する原料やその含有量等は、前述のとおりである。
【0088】
工程(1)(基材層の形成)
基材層は、例えば、次のようにして製膜することができる。
【0089】
まず、基材層の材料として、PEEK、PEI、PPSU又はそのブレンド樹脂を用いる場合について説明する。
【0090】
当該耐熱性樹脂、及び必要に応じてカーボンブラック等の導電剤等を混合し、基材層形成組成物を調製する。当該混合には、公知の混合手段を適用可能であり、例えば二軸押出機を用いることができる。次に、上記基材層形成組成物について、溶融押出成形を行う。当該押出成形には、公知の押出成形手段を適用可能であり、例えば単軸押出機と押出成形用のサーキュラーマンドレルダイを用いることができる。得られる基材層の厚みは、サーキュラーマンドレルのリップ幅及び押出成形条件を適宜設定して調節することができる。吐出後のチューブの形状を精度よく保持するために、ダイ出口にエアーリング等のマンドレルを使用してもよい。また、二軸押出機の先端にサーキュラーマンドレルダイを設置することにより、一度に無端管状ベルトを成形することも可能である。
【0091】
当該押出成形により、基材層は連続したチューブとして得られるので、定着ベルトとして使用する場合には、必要な幅で横断し、ベルトとして使用できるようにする。
【0092】
基材層の材料としてポリイミドを用いる場合は、ポリイミドの原料であるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとをNMP等の溶媒中で反応させて、一旦ポリアミック酸溶液とし、必要に応じて、カーボンブラック等の導電剤を上記ポリアミック酸溶液に添加して、カーボンブラック等の導電剤が分散されたポリアミック酸を調製する。
【0093】
得られたポリアミック酸を用い、回転ドラム(円筒状金型)等による遠心成形を行う。加熱は、ドラム内面を徐々に昇温し100〜190℃程度、好ましくは110〜130℃程度に到達せしめる(第1加熱段階)。昇温速度は、例えば、1〜2℃/分程度であればよい。上記の温度で20分〜3時間維持し、およそ半分以上の溶剤を揮発させて自己支持性のある管状ベルトを成形する。
【0094】
また、第1加熱段階における回転ドラムの回転速度は重力加速度の0.5〜10倍の遠心加速度であることが好ましい。
【0095】
次に、第2段階加熱として、温度280〜400℃程度、好ましくは300〜380℃程度で処理してイミド化を完結させる。この場合も、第1段階加熱温度から一挙にこの温度に到達するのではなく、徐々に昇温して、その温度に達するようにすることが望ましい。なお、第2段階加熱は、管状ベルトを回転ドラムの内面に付着したまま行っても良いし、第1加熱段階終了後に、回転ドラムから管状ベルトを剥離し、取り出して別途イミド化のための加熱手段に供して、280〜400℃になるように加熱してもよい。このイミド化の所用時間は、通常約20分〜3時間程度である。
【0096】
基材層の材料としてポリアミドイミドを用いる場合も同様にして、ジアミン或いはジアミンから誘導されたジイソシアネートと、トリメリット酸とを溶媒中で反応させて直接ポリアミドイミドとし、これを遠心成形して、継目のない(シームレス)ポリアミドイミドの基材層を製膜できる。
【0097】
工程(2)(表面層の形成)
表面層は、例えば、次のようにして製膜することができる。
【0098】
PFA、FEP、ETFE等のフッ素系樹脂、及び必要に応じてフィラー等を混合し、表面層形成組成物を調製する。当該混合には、公知の混合手段を適用可能であり、例えば二軸押出機を用いることができる。次に、上記表面層形成組成物について、溶融押出成形を行う。当該押出成形には、公知の押出成形手段を適用可能であり、例えば、当該表面層形成組成物を単軸押出機に供給し、溶融しつつ環状ダイスを経由して、チューブ状に押し出し、室温冷却しながら、フラット状でローラに巻き取ることができる。
【0099】
工程(3)(表面層と基材層の二層化)
表面層と基材層の二層化は、例えば、上記(1)で得られた基材層の外面に、上記(2)で得られた表面層の内面とを重ね合わせて、加熱加圧することにより、行うことができる。より詳細には、表面層の片面に予め改質処理を施し、その処理面と基材層とを積層した後、加熱と加圧処理を同時に行うことで、プライマーを使用することなく2層を接着させる。
【0100】
表面改質処理としては、特に限定されず、通常のケミカルエッチング処理を挙げることができる。例えば、Na/液体アンモニア(金属ナトリウムを液体アンモニア中に溶解させたもの)、ナフタレンアルカリ金属(アルカリ金属をナフタレンと反応させたもの)のテトラヒドロフラン溶液等を用いて行われる。好ましくは、Na/液体アンモニアを用いる。
【0101】
具体的には、まず、工程(2)で巻き取られた表面層となるチューブの内表面を、当該Na/液体アンモニア等の処理液に浸した後、次いで、アルコール、水の順番で浸し、洗浄して、ケミカルエッチング処理を行う。この処理によって、表面層の内表面に、基材に対し優れた接着性を有するエッチング処理面が形成され、表面層のエッチング処理表面が、基材層と接着可能になる。定着ベルトとして使用する場合には、当該エッチング工程の後、チューブをベルトの長さにカットする。
【0102】
次に、表面層と基材層の二層化を行う。
【0103】
具体的には、まず、基材層の外面に、表面層のエッチング処理面を重ね合わせる。この際、基材層の外径よりも、表面層の外径が0mm〜0.5mm大きい方が望ましい。その後、管状ベルトの内部から、エアーで加圧しベルトを膨張させ、予め加熱された管状の外枠に沿わせて2層を接着させる。エアーの圧力は0.5MPa〜1.5MPa、外枠の温度は200℃〜250℃が望ましいが、この限りではない。
【実施例】
【0104】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0105】
本発明において、各値は以下のとおり測定した。
【0106】
<接着強度>
・測定方法
接着強度は、引張試験機(オートグラフAG500-E) を用いて、180°ピール強度測定方式で求めた。
具体的には、まず、ベルトの周方向均等に3ヶ所から、幅10mm長さ250mm(ベルトの全幅)の短冊状サンプルを切り出した。次に、当該短冊状サンプルの端部から、表面層と基材層に剥離し、上部チャックに表面層、下部チャックに基材層を挟みこみ、チャック間距離40mmを起点に、速度30mm/minで引張り、ベルトの幅方向(250mm)全てにわたって剥離させ、最小値を読み取った。残りの2サンプルについても同様に行った。
・接着強度の求め方
上記3つのサンプルの測定値のうち、最小値をこのベルトの接着強度とした。
【0107】
<高温下弾性率>
JISK7127に準拠した試験片について、引張速度10mm/minに従い、162℃環境下で、引張弾性率を測定した。
【0108】
<MIT回数>
ASTM-D2176に準拠し、サンプル幅15mm、折り曲げ角度135°、折り曲げスピード175cpmの条件で3回測定を行い、その平均値をMIT回数とした。
【0109】
<耐久性>
支持ローラに定着ベルトをセットし、180℃に温度を調節しながら、加圧ローラを定着ベルトに押し付け、定着ベルトを加圧ローラに従動回転させた。200Nの加圧力で、表面速度が100mm/secとなるように条件を設定し、350時間、空回転耐久テストを行った。
耐久テスト後、ベルトの寸法変化、ベルトの端部からのクラック、表面層の剥離を確認し、いずれの項目も不具合がなければ○、不具合があれば×とした。
【0110】
実施例1
(1)基材層の製膜
PEEK(PEEK381G、ビクトレックス社製)900gと、PEI(Ultem XH6050 、サビック社製)100gをドライブレンドし、スクリュー径30mの単軸押出機に投入し、外径18mm、厚み120μmの管状ベルトを得た。
(2)表面層の製膜
PFA(テトラフルオロエチレンコポリマー、三井デュポンフロロケミカル(株)及びデュポン社製テフロン350-J)1800g及びカーボンブラック(ケッチェンブラック、ケッチェンブラックインターナショナル(株)製)200gの混合物を、押出機に投入し、外径18mm、厚み30μmのチューブを得た。
(3)表面層と基材層の二層化
金属ナトリウム10gを液体アンモニア1L中に溶解させたNa/液体アンモニアを処理液とし、上記(2)で得られたチューブ内面を、−50℃で10秒間、当該処理液に浸した後、常温で20秒間メタノールに浸し、次いで常温で20秒間水に浸すことにより、チューブ表面の改質処理を行った。当該処理は、2ペアのピンチローラー間に、巻物状の表面層チューブを通過させ、ローラー間に、前記処理液及び洗浄液を注入し、連続で処理を行った。
表面改質処理後の表面層を、長さ250mmにカットし、その改質処理表面を、上記(1)で得られた基材層(表面層と同様に長さ250mmにカットしたもの)の外面に重ね合わせ、次いで、基材層の内面にエアーを封入し、0.7Mpaの内圧をかけて、管状ベルトを膨張させ、220℃に熱した円形状SUSシリンダーの壁面に押し当て成形することで、プライマーを有さない2層ベルトを得た。
【0111】
実施例2〜6
基材層の樹脂組成及び表面層の表面改質方法を、表1に示したとおりに変えた以外は、実施例1と同様にして多層ベルトを作製した。PPSUとしては、ソルベイ社製のRadel R-5000を用いた。また、ナフタレンによる表面処理については、Na/液体アンモニアに替えて、ナトリウム/ナフタレン錯体の溶剤溶液(株式会社テクノス社製 フロロボンダーE)を用いて、実施例1と同様の処理方法で行った。
【0112】
実施例7〜10
基材層の樹脂組成を、表1に示したとおりに変えた以外は、実施例1と同様にして多層ベルトを作製した。なお、導電剤入り基材層は、PEEKとして、ダイセルエボニック社製VESTAKEEP 3300G を用い、カーボンブラック(ケッチェンブラック、ケッチェンブラックインターナショナル(株)製)を15重量%配合した後、2軸スクリュー押出機に投入して(シリンダー温度350℃)作製したペレット状原料を使用した。
【0113】
比較例1及び2
表面層の表面改質を行わずにそのまま二層化した以外は、それぞれ実施例1及び実施例3と同様にして多層ベルトを作製した。
【0114】
比較例3及び4
表面層の表面改質を行わず、基材層表面にプライマーをディッピングコート方式で塗布を行った後に基材層と表面層を二層化した以外は、それぞれ実施例1及び実施例2と同様にして多層ベルトを作製した。当該プライマーとしては、ハンツマン・ジャパン社製のAraldite AV138 / Hardener HV998 を、酢酸エチルで5wt%希釈して作製したコート液を用い、速度120mm/minで基材層表面への塗布を行った。
【0115】
試験例1
実施例及び比較例で得られた各多層ベルトを、定着ベルトとして、上記の方法に従って接着強度、高温下弾性率、MIT回数を測定し、結果を表1に示した。また、定着ベルトとしての耐久性についても、上記の方法に従って測定し、結果を表1に示した。
【0116】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の多層無端管状ベルトは、プライマーを有さないため、塗布むらによる接着強度のバラツキを生じることがなく、ベルト全体に亘って均一の接着強度を有している。したがって、複写機、プリンター、ファクシミリ等の電子写真方式を用いた画像形成装置の、中間転写ベルト、定着ベルト等に、広く適用できる。