特許第6377412号(P6377412)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6377412アクティブノイズコントロールシステム及びアクティブノイズコントロール方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6377412
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】アクティブノイズコントロールシステム及びアクティブノイズコントロール方法
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20180813BHJP
【FI】
   G10K11/178 100
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-108531(P2014-108531)
(22)【出願日】2014年5月26日
(65)【公開番号】特開2015-225130(P2015-225130A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2017年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】100094042
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 知
(72)【発明者】
【氏名】安井 健治
(72)【発明者】
【氏名】柳沼 勝夫
【審査官】 三森 雄介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−050998(JP,A)
【文献】 特開平08−044372(JP,A)
【文献】 特開2005−133588(JP,A)
【文献】 特開平11−259078(JP,A)
【文献】 特開2010−276773(JP,A)
【文献】 特開2005−138837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/178
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
騒音源から発せられる騒音を計測する計測用マイクと、騒音を低減するための制御音を作成し出力する制御コントローラと、該制御コントローラから出力される制御音を放出する制御用スピーカーとを備え、
上記制御コントローラは、上記計測用マイクから入力される騒音中の、制御対象周波数帯域の周波数成分のみを透過させるバンドパスフィルタと、該バンドパスフィルタを透過した周波数成分から制御対象卓越周波数を推定する適応フィルタと、予め計測された上記制御コントローラの周波数毎の位相遅れに基づき、上記適応フィルタから入力される上記制御対象卓越周波数に対する位相遅れについて時間制御で位相補正を行い、さらにその逆位相の制御音を作成して上記制御用スピーカーへ出力する制御信号演算部とを備えることを特徴とするアクティブノイズコントロールシステム。
【請求項2】
前記適応フィルタは、前記バンドパスフィルタを透過した周波数成分から前記制御対象卓越周波数の音圧を推定し、
前記制御信号演算部は、予め計測された前記計測用マイク及び前記制御用スピーカーの周波数毎のゲイン特性に基づき、上記適応フィルタから入力される上記制御対象卓越周波数に対する音圧についてゲイン補正を行った制御音を作成することを特徴とする請求項1に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【請求項3】
前記制御信号演算部が行う位相遅れに対する位相補正は、
前記適応フィルタによって推定された前記制御対象卓越周波数の1波長のデータ数Nを求める工程と、
制御時刻から、上記求めた1波長の波形データを記憶する工程と、
上記適応フィルタによって推定された上記制御対象卓越周波数に対する前記制御コントローラの位相遅れを求める工程と、
上記位相遅れに相当するデータ数Npを求める工程と、
上記1波長のデータ数Nから上記位相遅れに相当するデータ数Npを差し引いたデータ数Nxを求める工程と、
上記記憶した1波長の波形データから、制御時刻を起点として遡って、差し引いたデータ数Nxを取り去って位相補正することを特徴とする請求項1または2に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【請求項4】
前記制御信号演算部は、予め計測された前記制御コントローラの周波数毎の位相遅れに加えて、予め計測された前記計測用マイク及び前記制御用スピーカーの周波数毎の位相遅れに基づき、前記適応フィルタから入力される前記制御対象卓越周波数に対する位相遅れについて時間制御で位相補正を行うことを特徴とする請求項1〜3いずれかの項に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【請求項5】
前記制御信号演算部は、予め計測された前記計測用マイク及び前記制御用スピーカーの周波数毎のゲイン特性に加えて、予め計測された前記制御コントローラの周波数毎のゲイン特性に基づき、前記適応フィルタから入力される前記制御対象卓越周波数に対する音圧についてゲイン補正を行った制御音を作成することを特徴とする請求項1〜4いずれかの項に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【請求項6】
請求項1に記載のアクティブノイズコントロールシステムを用い、前記計測用マイクで、前記騒音源から発せられる騒音を計測し、次に、前記バンドパスフィルタで、上記計測用マイクから入力される騒音中の、前記制御対象周波数帯の周波数成分のみを透過させ、次に、前記適応フィルタで、上記バンドパスフィルタを透過した周波数成分から前記制御対象卓越周波数を推定し、次に、前記制御信号演算部で、予め計測された前記制御コントローラの周波数毎の位相遅れに基づき、上記適応フィルタから入力される上記制御対象卓越周波数に対する位相遅れについて時間制御で位相補正を行い、さらにその逆位相の制御音を作成して前記制御用スピーカーへ出力し、最後に、上記制御用スピーカーで、上記制御信号演算部から入力される制御音を放出することを特徴とするアクティブノイズコントロール方法。
【請求項7】
前記適応フィルタは、前記制御対象卓越周波数を推定する際、前記バンドパスフィルタを透過した周波数成分から該制御対象卓越周波数の音圧を推定し、
前記制御信号演算部は、上記適応フィルタから入力される上記制御対象卓越周波数に対する位相遅れについて時間制御で位相補正を行う際、予め計測された前記計測用マイク及び前記制御用スピーカーの周波数毎のゲイン特性に基づき、該適応フィルタから入力される該制御対象卓越周波数に対する音圧についてゲイン補正を行って制御音を作成することを特徴とする請求項6に記載のアクティブノイズコントロール方法。
【請求項8】
前記制御信号演算部が行う位相遅れに対する位相補正は、
前記適応フィルタによって推定された前記制御対象卓越周波数の1波長のデータ数Nを求める工程と、
制御時刻から、上記求めた1波長の波形データを記憶する工程と、
上記適応フィルタによって推定された上記制御対象卓越周波数に対する前記制御コントローラの位相遅れを求める工程と、
上記位相遅れに相当するデータ数Npを求める工程と、
上記1波長のデータ数Nから上記位相遅れに相当するデータ数Npを差し引いたデータ数Nxを求める工程と、
上記記憶した1波長の波形データから、制御時刻を起点として遡って、差し引いたデータ数Nxを取り去って位相補正することを特徴とする請求項6または7に記載のアクティブノイズコントロール方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラーマイクを用いることなく、フィードフォワード制御による騒音低減制御を精度良く実行することが可能であると共に、処理速度の向上やシステムの簡素化も達成可能なアクティブノイズコントロールシステム及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場や建設現場等から発生する騒音により、近隣住民から苦情が寄せられることがある。工場等で使用される機械のうち、ファン、室外機などの設備機器及びバックホウ等の掘削機から発生する音は、低周波数領域(およそ100Hz以下)に、他の周波数よりも突出して音圧の高い周波数特性を持っている。サッシなどの建具は、低周波数領域の遮音性能が良くないため、低周波数帯域にピークを持つ騒音が伝搬すると、居住者に不快な音として影響を与えてしまい、問題となるおそれがある。
【0003】
音の干渉現象を利用したアクティブノイズコントロールについては、例えば特許文献1〜3が知られている。特許文献1の「能動騒音制御装置」は、制御アルゴリズムで修正されたFIR適応型ディジタルフィルタの伝達関数に、特定のディジタルフィルタの伝達関数を畳み込み演算するようにしている。
【0004】
特許文献2の「建設機械のエンジン騒音消音装置」は、建設機械のエンジンマフラーの近傍にて、スピーカを着脱自在に設け、前記エンジンマフラーの音の出力の先にエンジン音計測用のマイクを設置し、前記スピーカと前記マイクとに電気的に接続した制御装置を前記建設機械に設け、前記エンジンマフラーからの騒音と逆位相の音を前記スピーカから出して、前記建設機械の騒音を低減させる建設機械のエンジン騒音消音装置としている。
【0005】
特許文献3の「レデューサを用いた騒音低減装置」は、原音と逆位相の二次音源の音を前記原音の近接位置から放出して前記原音を消音するもので、前記二次音源用のスピーカにレデューサを取り付けて、前記スピーカを前記原音の位置から後退させると共に、前記レデューサの吐出口を前記原音に近接させて併設させた騒音低減装置としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−64567号公報
【特許文献2】特開2010−24876号公報
【特許文献3】特開2011−241745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
騒音の周波数等が一定である場合、干渉させる制御音は一定でよい。しかし、建設作業機械の騒音を対象とする場合、エンジンのふかし具合や作業負荷の変動によって、発生する騒音の周波数や音圧が変化する。このため、制御音も、騒音の変化に応じて、その周波数や音圧を変化させる必要がある。
【0008】
アクティブノイズコントロールであって、フィードフォワード制御を用いる場合、従来にあっては、例えば図5に示すように、制御結果を観測するエラーマイク101を用いていた。図示例のアクティブノイズコントロールシステム100は、騒音源102からの騒音をマイク103で計測し、計測された騒音を適応フィルタ104で逆位相の制御音に変換して、この変換された制御音をスピーカー105から放出するようにしている。
【0009】
この制御の際、騒音と制御音の双方を別途エラーマイク101で計測し、エラーマイク101で計測される音に対し、適応アルゴリズム106を用いて、制御音の周波数、音圧、騒音との位相差を算出し、適応フィルタ104の係数を調整して、より適正な制御音を放出できるようにしている。なお、図中、107は、制御用スピーカーからエラーマイクまでの伝達関数、108は、騒音源からエラーマイクまでの伝達関数である。
【0010】
ところで、屋外など、複雑かつ多様な外乱がある場所でエラーマイクを用いると、計測されるデータにノイズが多く含まれ、精度良く制御を行うことが難しいという課題があった。当該課題については、誤差信号を把握するためのエラーマイクは、受音点毎に外乱に起因する誤差が異なるものであり、屋外では受音点が無数にあることを考えると、この方法は、屋外における騒音低減に適しているとは言えないからである。
【0011】
また、エラーマイクで計測されたデータの処理に時間がかかり、処理速度が遅いと共に、エラーマイクを用いることでシステムが複雑化するという問題もあった。
【0012】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、エラーマイクを用いることなく、フィードフォワード制御による騒音低減制御を精度良く実行することが可能であると共に、処理速度の向上やシステムの簡素化も達成可能なアクティブノイズコントロールシステム及びその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明にかかるアクティブノイズコントロールシステムは、騒音源から発せられる騒音を計測する計測用マイクと、騒音を低減するための制御音を作成し出力する制御コントローラと、該制御コントローラから出力される制御音を放出する制御用スピーカーとを備え、上記制御コントローラは、上記計測用マイクから入力される騒音中の、制御対象周波数帯域の周波数成分のみを透過させるバンドパスフィルタと、該バンドパスフィルタを透過した周波数成分から制御対象卓越周波数を推定する適応フィルタと、予め計測された上記制御コントローラの周波数毎の位相遅れに基づき、上記適応フィルタから入力される上記制御対象卓越周波数に対する位相遅れについて時間制御で位相補正を行い、さらにその逆位相の制御音を作成して上記制御用スピーカーへ出力する制御信号演算部とを備えることを特徴とする。
【0014】
前記適応フィルタは、前記バンドパスフィルタを透過した周波数成分から前記制御対象卓越周波数の音圧を推定し、前記制御信号演算部は、予め計測された前記計測用マイク及び前記制御用スピーカーの周波数毎のゲイン特性に基づき、上記適応フィルタから入力される上記制御対象卓越周波数に対する音圧についてゲイン補正を行った制御音を作成することを特徴とする。
【0015】
前記制御信号演算部が行う位相遅れに対する位相補正は、前記適応フィルタによって推定された前記制御対象卓越周波数の1波長のデータ数Nを求める工程と、制御時刻から、上記求めた1波長の波形データを記憶する工程と、上記適応フィルタによって推定された上記制御対象卓越周波数に対する前記制御コントローラの位相遅れを求める工程と、上記位相遅れに相当するデータ数Npを求める工程と、上記1波長のデータ数Nから上記位相遅れに相当するデータ数Npを差し引いたデータ数Nxを求める工程と、上記記憶した1波長の波形データから、制御時刻を起点として遡って、差し引いたデータ数Nxを取り去って位相補正することを特徴とする。
【0016】
前記制御信号演算部は、予め計測された前記制御コントローラの周波数毎の位相遅れに加えて、予め計測された前記計測用マイク及び前記制御用スピーカーの周波数毎の位相遅れに基づき、前記適応フィルタから入力される前記制御対象卓越周波数に対する位相遅れについて時間制御で位相補正を行うことを特徴とする。
【0017】
前記制御信号演算部は、予め計測された前記計測用マイク及び前記制御用スピーカーの周波数毎のゲイン特性に加えて、予め計測された前記制御コントローラの周波数毎のゲイン特性に基づき、前記適応フィルタから入力される前記制御対象卓越周波数に対する音圧についてゲイン補正を行った制御音を作成することを特徴とする。
【0018】
本発明にかかるアクティブノイズコントロール方法は、上記のアクティブノイズコントロールシステムを用い、前記計測用マイクで、前記騒音源から発せられる騒音を計測し、次に、前記バンドパスフィルタで、上記計測用マイクから入力される騒音中の、前記制御対象周波数帯の周波数成分のみを透過させ、次に、前記適応フィルタで、上記バンドパスフィルタを透過した周波数成分から前記制御対象卓越周波数を推定し、次に、前記制御信号演算部で、予め計測された前記制御コントローラの周波数毎の位相遅れに基づき、上記適応フィルタから入力される上記制御対象卓越周波数に対する位相遅れについて時間制御で位相補正を行い、さらにその逆位相の制御音を作成して前記制御用スピーカーへ出力し、最後に、上記制御用スピーカーで、上記制御信号演算部から入力される制御音を放出することを特徴とする。
【0019】
前記適応フィルタは、前記制御対象卓越周波数を推定する際、前記バンドパスフィルタを透過した周波数成分から該制御対象卓越周波数の音圧を推定し、前記制御信号演算部は、上記適応フィルタから入力される上記制御対象卓越周波数に対する位相遅れについて時間制御で位相補正を行う際、予め計測された前記計測用マイク及び前記制御用スピーカーの周波数毎のゲイン特性に基づき、該適応フィルタから入力される該制御対象卓越周波数に対する音圧についてゲイン補正を行って制御音を作成することを特徴とする。
【0020】
前記制御信号演算部が行う位相遅れに対する位相補正は、前記適応フィルタによって推定された前記制御対象卓越周波数の1波長のデータ数Nを求める工程と、制御時刻から、上記求めた1波長の波形データを記憶する工程と、上記適応フィルタによって推定された上記制御対象卓越周波数に対する前記制御コントローラの位相遅れを求める工程と、上記位相遅れに相当するデータ数Npを求める工程と、上記1波長のデータ数Nから上記位相遅れに相当するデータ数Npを差し引いたデータ数Nxを求める工程と、上記記憶した1波長の波形データから、制御時刻を起点として遡って、差し引いたデータ数Nxを取り去って位相補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかるアクティブノイズコントロールシステム及びその方法にあっては、エラーマイクを用いることなく、フィードフォワード制御による騒音低減制御を精度良く実行することができると共に、処理速度の向上やシステムの簡素化を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係るアクティブノイズコントロールシステムの好適な一実施形態を示す構成図である。
図2図1に適用される制御コントローラ、計測用マイク、並びに制御用スピーカーの各種特性を予め計測する様子を説明する説明図である。
図3】本発明に係るアクティブノイズコントロールシステム及びその方法に適用される位相遅れの補正方法を説明する説明図である。
図4図1に示したアクティブノイズコントロールシステムによるアクティブノイズコントロール方法の現場における作動状況を説明する説明図である。
図5】従来技術を説明するためのシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明にかかるアクティブノイズコントロールシステム及びアクティブノイズコントロール方法の好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施形態に係るアクティブノイズコントロールシステムの構成図である。図2は、図1に適用される制御コントローラ、計測用マイク、並びに制御用スピーカーの各種特性を予め計測する様子を説明する説明図である。図3は、位相遅れの補正方法を説明する説明図である。図4は、本実施形態に係るアクティブノイズコントロールシステムによるアクティブノイズコントロール方法の作動状況を説明する説明図である。
【0024】
図1に示すように、本実施形態に係るアクティブノイズコントロールシステム(以下、「ANCS」という)1は、フィードフォワード制御を実行するものであって、騒音源2から発せられる騒音Qを計測する計測用マイク(レファレンスマイクとも称される)3と、制御用マイク3から入力される入力信号を増幅して出力するマイク用アンプ4と、マイク用アンプ4から入力されるアナログ信号をデジタル信号に変換して出力するA/D変換器5と、A/D変換器5から入力されるデジタル信号を処理して、騒音を低減するための制御音を作成し出力する制御コントローラ6と、制御コントローラ6から入力されるデジタル信号をアナログ信号に変換して出力するD/A変換器7と、D/A変換器7から入力される入力信号を増幅して出力するスピーカー用アンプ8と、スピーカー用アンプ8から出力される出力信号、すなわち制御コントローラ6から出力される制御音Sを放出する制御用スピーカー9とから構成される。
【0025】
そして、騒音Qに対し、制御用スピーカー9から、騒音Qとは逆位相の制御音Sを発生させ、これにより騒音Qを干渉し、低減するようになっている。制御コントローラ6には、バンドパスフィルタ6aと、適応フィルタ6bと、制御信号演算部6cが備えられる。
【0026】
本実施形態に係るANCS1は、種々の周波数成分が含まれる騒音から、低減すべき周波数の騒音を選択し、その周波数の騒音を低下させることを目的とする。本実施形態では、騒音の卓越周波数を対象として、制御コントローラ6は、この卓越周波数の騒音を低減するようになっている。
【0027】
本実施形態に係るANCS1の適用に際しては、制御対象である騒音の特性を予め計測等により調査しておき、騒音の特性に合わせて、どのような周波数の騒音に対して消音制御を行うかが予め検討される。
【0028】
例えば、建設機械は、アイドリング状態や低負荷、中負荷、高負荷状態などで、エンジンの運転状態が異なり、それに伴って、発せられる騒音の特性(卓越周波数や音圧)が相違するため、これを予め把握しておき、得られた騒音の特性に基づいてANCS1が設定される。
【0029】
本実施形態では、消音すべき騒音、すなわち制御対象周波数帯域が低周波帯域である場合について説明する。制御対象周波数帯域が、中・高周波帯域であっても同様である。
【0030】
マイク用アンプ4及びスピーカー用アンプ8については、計測用マイク3からの入力信号及びD/A変換器7からの出力信号それぞれに対する増幅量が常時一定とされる。
【0031】
A/D変換器5は、把握されている騒音の特性に基づいて予め設定されるサンプリング周波数により、計測用マイク3からのアナログ信号(音波)をデジタル信号(音波)に変換する。騒音の周波数のサンプリングについては例えば、音の1波長を64分割以上でモデル化することとし、一例として400Hzまでの騒音対策に適用する場合には、サンプリング周波数は、25.6kHzとされる。A/D変換器5からの出力信号(デジタル信号)は、制御コントローラ6のバンドパスフィルタ6aに入力される。
【0032】
バンドパスフィルタ6aは、マイク用アンプ4及びA/D変換器5を介して、計測用マイク3から入力される騒音中の、制御対象周波数帯の音のみを透過させる。すなわち、バンドパスフィルタ6aは、把握されている騒音の特性に基づいて予め設定されているカットオフ周波数で、消音すべき卓越周波数付近の周波数成分を取り出し、その他の不要な周波数成分の信号をカットする。これにより、騒音に含まれる、制御対象周波数帯域よりも高い高周波数成分及び制御対象周波数帯よりも低い低周波数成分が除去され、制御対象周波数帯の周波数成分が取り出される。
【0033】
バンドパスフィルタ6aでは、入力信号と出力信号に位相差が発生する。この位相差は、周波数の変化と共に変化する。バンドパスフィルタ6aを透過した信号の逆位相の音を制御用スピーカー9から放出しても、騒音の逆位相の音とはならない。この場合、騒音低減の効果は小さく、位相差が大きくなると騒音を増幅させる場合も考えられる。このことから、効果的な騒音低減には、バンドパスフィルタ6aからの出力信号の位相補正を行うことが必要となる。
【0034】
バンドパスフィルタ6aは、設計段階において、周波数毎の位相特性が既知である。後述するけれども、バンドパスフィルタ6aについては、この既知の周波数毎の位相特性を利用することにより、適応フィルタ6bで推定される周波数(制御対象卓越周波数)に対し、制御信号演算部6cで位相補正をすることができる。
【0035】
バンドバスフィルタ6aを透過した低周波の周波数成分から、制御コントローラ6の適応フィルタ6bにより、制御対象卓越周波数が推定される。また、適応フィルタ6bは、バンドパスフィルタ6aを透過した周波数成分から制御対象卓越周波数の音圧を推定する。
【0036】
適応フィルタ6bは周知のように、ステップサイズパラメーターを用いた周波数分析を行う。すなわち、適応フィルタ6bは、シミュレーション等の実験によって選定されるステップサイズパラメータに基づき、卓越周波数、すなわち騒音低減時の制御対象となる卓越周波数とその音圧を時間領域で推定する。
【0037】
低周波騒音の周波数の推定に用いられる適応フィルタ6bの実時間における卓越周波数の推定は、重要である。適応フィルタ6bの適用により、周波数変動する騒音の周波数を推定して、このような周波数が変動する騒音に対する騒音低減効果を確保するようになっている。
【0038】
計測用マイク3を通して得られる騒音から、時間経過における騒音の周波数の変化及び最大音圧の変化が取得され、バンドパスフィルタ6aでは、入力音圧がピークの周波数が現れ、そして、バンドパスフィルタ6aの出力から適応フィルタ6bを使って、制御対象となる騒音の周波数及び音圧の推定が行われる。
【0039】
適応フィルタ6bで推定された実時間における制御対象卓越周波数及びその音圧が制御信号演算部6cに入力される。制御信号演算部6cは、予め計測された制御コントローラ6の周波数毎の位相遅れに基づき、適応フィルタ6bから入力される制御対象卓越周波数に対する位相遅れについて時間制御で位相補正を行い、さらにその逆位相の制御音を作成する。
【0040】
また、制御信号演算部6cは、予め計測された計測用マイク3及び制御用スピーカー9の周波数毎のゲイン特性に基づき、適応フィルタ6bから入力される制御対象卓越周波数に対する音圧についてゲイン補正を行った制御音を作成する。
【0041】
本実施形態に係るANCS1は、前提として、エラーマイクを使用しないので、ANCS1そのものにおけるシステムの位相誤差や音圧誤差を把握することができない。本実施形態に係るANCS1は、エラーマイク無しでも、システムの位相誤差や音圧誤差を補正する方法を案出することで完成されている。そのポイントは、制御信号演算部6cの機能にある。
【0042】
すなわち、適応フィルタ6bにおいて行われる、騒音の卓越周波数の推定を利用し、制御信号演算部6cは、システムに内在する位相特性やゲイン特性に基づき、特有の位相補正等の処理を行って、バンドパスフィルタ6aによって抽出され、適応フィルタ6bで推定された周波数に対して、作成する制御音の位相差を補正し、その上で、逆位相の制御音を出力する。
【0043】
上述したように、バンドパスフィルタ6aでは、入力信号と出力信号に位相差が発生する。従ってまた、バンドパスフィルタ6aを含む制御コントローラ6全体としても、入力信号と出力信号に位相差が発生する。騒音に対して逆位相の制御音を作成するにあたっては、時間制御で位相補正を行って、騒音と制御音の位相を合わせる必要がある。制御用スピーカー9及び計測用マイク3については、これらのゲインが周波数に依存して変化することを考慮する必要がある。
【0044】
位相補正するための準備として、現場に設置されるANCS1と同一のANCS1、あるいは現場に設置するANCS1それ自体について、予め位相特性を計測しておく。図2には、計測している様子が示されている。計測は、室内の反射音等の外乱(ノイズ)を避けるため、無響室10で行われる。騒音として使用される発生音Q0は、純音とされる。
【0045】
計測対象は、上述したように、現場に設置されるANCS1と同一である。発生音(純音)Q0を放出する発生音源11と計測用マイク3との距離D及び制御音Sを放出する制御用スピーカー9と実験室用マイク12との距離Dは等しく設定される。この距離Dは、ANCS1を現場に設置する際の騒音源2と計測用マイク3との距離に合わせることが好ましい。発生音Q0と制御音Sの干渉を少なくするため、放出する音の方向を反転させると共に、発生音源11と制御用スピーカー9とは、十分な距離をとって配置される。
【0046】
計測時のシステム構成による位相差について、略述すると、発生音源Q0からの音圧信号(純音)は、計測用マイク3から制御コントローラ6に入力される。制御コントローラ6では、制御演算が行われ、演算結果に基づく制御音Sが、制御用スピーカー9から放出される。
【0047】
制御コントローラ6の位相差、すなわちシステム上の位相差は、バンドパスフィルタ6aの位相差と、計測用マイク3の位相差と、制御用スピーカー9の位相差を足し合わせたものといっていいい。逆位相の制御音を発生するためには、この制御コントローラ6の位相差を考慮した制御信号が必要となる。位相差は、機器系の位相特性とバンドパスフィルタ6aの位相特性を加算したものであり、制御コントローラ6の調整では、把握された機器系の位相特性に対し、バンドパスフィルタ6aの変更が行われる。
【0048】
計測時には、バンドパスフィルタ6aを透過する制御対象周波数全域について、制御コントローラ6、ひいては計測用マイク3及び制御用スピーカー9を含めたANCS1全体の周波数毎の位相特性を計測する。
【0049】
また、ANCS1を使用するにあたって、ゲイン補正を行うために、バンドパスフィルタ6aを透過する制御対象周波数全域について、制御コントローラ6、ひいては計測用マイク3及び制御用スピーカー9を含めたANCS1全体の周波数毎のゲイン特性を計測する。
【0050】
必要に応じて、マイク用アンプ4、A/D変換器5、D/A変換器7、並びにスピーカー用アンプ8の位相特性やゲイン特性を考慮に入れるようにしても良い。
【0051】
これにより、位相補正及びゲイン補正のために実測されたANCS1の位相特性及びゲイン特性の計測データが取得され、制御信号演算部6cの記憶領域に周波数毎に記憶される。
【0052】
本実施形態に係るANCS1の制御コントローラ6は、言ってみれば、バンドパスフィルタ6aやそれ自体に止まらず、計測用マイク3や制御用スピーカー9のゲイン及び周波数特性等、機器全体の特性が組み込まれた制御コントローラ6である。
【0053】
制御信号演算部6cは、ANCS1の位相特性やゲイン特性を記憶領域から読み出し、適応フィルタ6bで推定された制御対象卓越周波数の、実際の騒音に対する位相遅れについて、時間制御で位相補正を実行する。
【0054】
制御信号演算部6cが行う位相遅れに対する位相補正の方法は、次の通りである(図3参照)。図中、実線は、制御コントローラ6の位相特性(音圧変化)、破線は、バンドパスフィルタ6aの出力から、適応フィルタ6bで推定された制御対象卓越周波数の位相特性(音圧変化)、すなわち真の音圧である。Bは制御開始時刻、Mは制御開始時刻Bにおける制御コントローラ6の音圧値、Rは制御開始時刻Bにおける真の音圧値である。
(1)適応フィルタ6bによって推定された制御対象卓越周波数の1波長(1周期分の波;A〜Bの範囲)のデータ数Nを、制御の時間刻みに基づいて求める。
(2)制御開始時刻Bから、上記求めた1波長(1周期分)の波形データ(データ数N個で表現される波形)を記憶する。
(3)適応フィルタ6bによって推定された制御対象卓越周波数に対する、制御コントローラ6の位相遅れφ(rad )を求める。推定された周波数の位相と、上記無響室10での計測で取得されている周波数の位相から求められる。
(4)位相遅れに相当するデータ数Npを求める。(Np=N×(φ/2π))
(5)1波長(1周期分)のデータ数Nから位相遅れに相当するデータ数Npを差し引いたデータ数Nxを求める。
(6)記憶した1波長分の波形データから、制御開始時刻Bを起点として遡って、差し引いたデータ数Nxを取り去り、この位置の位相補正された音圧(位相)Hを本来の音圧(位相)Rと判断する。これは、波の位相が、0〜2πで繰り返されることに基づく。
【0055】
制御信号演算部6cはさらに、位相補正された波形を逆位相にする処理を行って制御音を作成する。作成された制御音は、制御コントローラ6の制御信号演算部6cから出力される。出力音圧の作成には、計測によって得られたANCS1のゲイン特性が用いられ、出力音圧は、推定された音圧に応答倍率をかけたものとされる。
【0056】
制御コントローラ6から出力される制御音のデジタル信号は、D/A変換器7でアナログ信号に変換される。D/A変換器7から出力される制御音の出力信号(アナログ信号)は、スピーカー用アンプ8に入力されて増幅される。スピーカー用アンプ8から出力される、増幅された制御音Sは、制御用スピーカー9から放出される。
【0057】
本実施形態に係るアクティブノイズコントロール方法は、上述したANCS1を動作させることによって達成される。エラーマイクを用いることなく、適応フィルタ6bにおいて行われる、騒音の卓越周波数の推定を利用し、制御信号演算部6cは、システムに内在する位相特性やゲイン特性に基づき、特有の位相補正等の処理を行って、バンドパスフィルタ6aによって抽出された周波数に対して、作成する制御音の位相差と音圧差を補正し、その上で、逆位相の制御音を出力する。
【0058】
アクティブノイズコントロール方法の実行手順は、次の通りである。計測用マイク3で、騒音源2から発せられる騒音Qを計測し、次に、バンドパスフィルタ6aで、マイク用アンプ4及びA/D変換器5を通して計測用マイク3から入力される騒音中の、制御対象周波数帯の周波数成分のみを透過させ、次に、適応フィルタ6bで、バンドパスフィルタ6aを透過した周波数成分から制御対象卓越周波数を推定し、次に、制御信号演算部6cで、予め計測された制御コントローラ6の周波数毎の位相遅れに基づき、適応フィルタ6bから入力される制御対象卓越周波数に対する位相遅れについて時間制御で位相補正を行い、さらにその逆位相の制御音を作成してこれより出力し、最後に、制御用スピーカー9で、D/A変換器7及びスピーカー用アンプ8を通して制御信号演算部6cから入力される制御音Sを放出するようになっている。
【0059】
適応フィルタ6bは、制御対象卓越周波数を推定する際、バンドパスフィルタ6aを透過した周波数成分から制御対象卓越周波数の音圧を推定し、制御信号演算部6cは、適応フィルタ6bから入力される制御対象卓越周波数に対する位相遅れについて時間制御で位相補正を行う際、予め計測された計測用マイク3及び制御用スピーカー9の周波数毎のゲイン特性に基づき、適応フィルタ6bから入力される制御対象卓越周波数に対する音圧についてゲイン補正を行って制御音を作成するようにしてもよい。
【0060】
本実施形態に係るANCS1を、現場Pに設置して消音制御を行う様子が図4に示されている。騒音源2と制御用スピーカー9の配置には、周知のダイポール放射が採用され、これにより放射音響パワーが低減される。受音点13で計測用マイク3で計測を行うと、騒音源2から放出される騒音Qと、制御用スピーカー9から放出される、同じ音圧で逆位相の制御音Sとが干渉し、これにより騒音を低減することができる。
【0061】
ANCS1の制御コントローラ6では、計測された騒音がバンドパスフィルタ6aに入力され、適応フィルタ6bが、バンドパスフィルタ6aの出力から時間領域で制御対象卓越周波数を推定し、さらに制御信号演算部6cが位相及び音圧を補正し、この補正された波成分の逆位相の音を作成するようにしていて、これにより騒音を低下させることができる。
【0062】
以上説明した本実施形態に係るアクティブノイズコントロールシステム1及びその方法にあっては、予め計測された制御コントローラ6の周波数毎の位相遅れに基づき、適応フィルタ6bから入力される制御対象卓越周波数に対する位相遅れについて時間制御で位相補正を行い、さらにその逆位相の制御音を作成する制御信号演算部6cを備えたので、好ましくは、当該制御信号演算部6cは、予め計測された計測用マイク3及び制御用スピーカー9の周波数毎のゲイン特性に基づき、適応フィルタから入力される制御対象卓越周波数に対する音圧についてゲイン補正を行った制御音を作成するので、更に好ましくは、制御信号演算部6cは、予め計測された制御コントローラ6の周波数毎の位相遅れに加えて、予め計測された計測用マイク3及び制御用スピーカー9の周波数毎の位相遅れに基づき、適応フィルタ6bから入力される制御対象卓越周波数に対する位相遅れについて時間制御で位相補正を行うので、さらに望ましくは、制御信号演算部6cは、予め計測された計測用マイク3及び制御用スピーカー9の周波数毎のゲイン特性に加えて、予め計測された制御コントローラ6の周波数毎のゲイン特性に基づき、適応フィルタ6bから入力される制御対象卓越周波数に対する音圧についてゲイン補正を行った制御音を作成するので、エラーマイクを用いることなく、フィードフォワード制御による騒音低減制御を精度良く実行することができる。
【0063】
また、エラーマイクを使用すると、エラーマイクで計測されたデータの処理に時間がかかり、処理速度が遅くなるのに対し、本実施形態に係るANCS1及びその方法では、エラーマイクを使用しないので、その分処理データが削減されて、処理速度を向上することができ、音の処理に対して本質的に求められるシステムの作動応答性を格段に高めることができる。さらに、エラーマイクを使用しないので、制御要素として考慮が必要となる機器要素数を削減して、制御内容を簡素化でき、システムが複雑化することを防止することができる。
【0064】
さらに、制御信号演算部6cが行う位相遅れに対する位相補正の方法として、適応フィルタ6bによって推定された制御対象卓越周波数の1波長のデータ数Nを求める工程と、制御時刻から、上記求めた1波長の波形データを記憶する工程と、適応フィルタ6bによって推定された制御対象卓越周波数に対する制御コントローラ6の位相遅れを求める工程と、位相遅れに相当するデータ数Npを求める工程と、上記の1波長のデータ数Nから上記位相遅れに相当するデータ数Npを差し引いたデータ数Nxを求める工程と、上記記憶した1波長の波形データから、制御時刻を起点として遡って、差し引いたデータ数Nxを取り去ることで位相補正するという、特有の位相補正方法を備えたので、エラーマイクを用いることなく、精度の高いフィードフォワード制御を実行することができ、これにより、消音制御すべき音の周波数が時々刻々変化する騒音に対し、これに適合する制御音を時間領域で適切に放出できる効率の良いANCS1を構成することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 アクティブノイズコントロールシステム
2 騒音源
3 計測用マイク
6 制御コントローラ
6a バンドパスフィルタ
6b 適応フィルタ
6c 制御信号演算部
9 制御用スピーカー
Q 騒音
S 制御音
図1
図2
図3
図4
図5