特許第6377426号(P6377426)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6377426
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】水性医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4184 20060101AFI20180813BHJP
   A61K 31/4245 20060101ALI20180813BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20180813BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20180813BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20180813BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20180813BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20180813BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20180813BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   A61K31/4184
   A61K31/4245
   A61K47/18
   A61K9/08
   A61K47/32
   A61K47/34
   A61K47/10
   A61K47/26
   A61K47/02
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-128685(P2014-128685)
(22)【出願日】2014年6月23日
(65)【公開番号】特開2015-24990(P2015-24990A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2017年6月23日
(31)【優先権主張番号】特願2013-130795(P2013-130795)
(32)【優先日】2013年6月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000100492
【氏名又は名称】わかもと製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高島 有史
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 光代
(72)【発明者】
【氏名】山村 雄
【審査官】 菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−526856(JP,A)
【文献】 特開2003−327530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/4184
A61K 9/08
A61K 31/4245
A61K 47/02
A61K 47/10
A61K 47/18
A61K 47/26
A61K 47/32
A61K 47/34
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)テルミサルタン、アジルサルタンおよびその薬理上許容される塩もしくは誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のアンジオテンシンII受容体拮抗薬、
(B)メグルミン、モノエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、トロメタモールおよびジエタノールアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種のアミンおよび
(C)ポリビニルピロリドンを含有する
pHが4.5〜9.0である
水性医薬組成物
【請求項2】
さらに(D) 界面活性剤を含む請求項1に記載の水性医薬組成物
【請求項3】
さらに(E) 等張化剤を含む請求項1または2に記載の水性医薬組成物
【請求項4】
(D)界面活性剤がポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート、ステアリン酸ポリオキシル、チロキサポール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンヒマシ油およびベンザルコニウム塩化物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項2〜3のいずれか1項に記載の水性医薬組成物
【請求項5】
(E)等張化剤が、グリセリン、プロピレングリコール、マンニトール、ブドウ糖、ソルビトール、キシリトール、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項3〜4のいずれか1項に記載の水性医薬組成物
【請求項6】
(A)テルミサルタン、アジルサルタンおよびその薬理上許容される塩もしくは誘導体 からなる群から選ばれる少なくとも1種のアンジオテンシンII受容体拮抗薬、
(B)メグルミン、モノエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、トロメタモールおよびジエタノールアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種のアミンおよび
(C)水溶性高分子ポリビニルピロリドンを混合し、
その後pHを4.5〜9.0に調整する工程を含む
水性医薬組成物の製法
【請求項7】
さらに(D) 界面活性剤を混合する工程を含む請求項6に記載の水性医薬組成物の製法
【請求項8】
さらに(E) 等張化剤を混合する工程を含む請求項6または7に記載の水性医薬組成物の製法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難水溶性のアンジオテンシンII受容体拮抗薬を有効成分として含有する澄明な水性医薬組成物およびその製法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
アンジオテンシンII受容体拮抗薬としては、例えば、カンデサルタンシレキセチル、カンデサルタン、バルサルタン、オルメサルタン、オルメサルタンメドキソミル、テルミサルタン、イルベサルタン、アジルサルタン、アジルサルタンメドキソミル、ロサルタンカリウムがあり、高血圧症を効能・効果とする血圧降下薬として知られている。
【0003】
現在上市されているアンジオテンシンII受容体拮抗薬の多くが難水溶性である。例えば、カンデサルタンシレキセチル、バルサルタン、オルメサルタンメドキソミル、テルミサルタン、イルベサルタン、アジルサルタン、アジルサルタンメドキソミルの水に対する溶解度は0.01%(0.01g/100mL)以下であり、水にほとんど溶けない。
【0004】
前記のアンジオテンシンII受容体拮抗薬は固形の経口薬として処方されている。しかし、可溶化により液状の医薬品が安定して生産できるようになれば、注射薬、点眼薬、点鼻薬、点耳薬などの複数の剤型により投与経路が拡大し、様々な用法で投与可能となる。
【0005】
難水溶性のアンジオテンシンII受容体拮抗薬の液剤の応用例としては、特開平8-67674号において、白色ウサギにカンデサルタンシレキセチル懸濁液を点眼することにより眼圧が下がったという実験結果が開示されている。また、特許第4276768号においては、アンジオテンシンII受容体拮抗薬が、単純網膜症あるいは前増殖網膜症の予防、治療または進展抑制に有利に利用できると報告されており、その中で懸濁点眼液の処方例が開示されている。
【0006】
点眼において、懸濁製剤と澄明な水性製剤の実用性および使用感の差は非常に大きい。懸濁製剤の使用のたびに必要となる転倒撹拌の実施や点眼後の霧視は、患者のアドヒアランスを著しく下げる要因となっており、患者にとって澄明な水性製剤の方がより好ましいとされている。
【0007】
また、製造法において、懸濁点眼液は複雑な滅菌工程を必要とし、水性点眼液のような簡潔なろ過滅菌ができない。よって、調製に時間がかかるだけでなく、製造設備と生産コストが高額になり、また点眼剤の無菌性の確保も難しくなる。
【0008】
難水溶性のアンジオテンシンII受容体拮抗薬を医薬品として可溶化させ、澄明な水性医薬組成物とする技術が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8-67674
【特許文献2】特許第4276768号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は、難水溶性であるアンジオテンシンII受容体拮抗薬を可溶化し、アンジオテンシンII受容体拮抗薬を溶解した澄明な水性医薬組成物およびその製法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決することを目的として鋭意研究した結果、(B)アミンおよび(C)水溶性高分子を組み合わせることにより、難水溶性のアンジオテンシンII受容体拮抗薬を水に可溶化する技術を見出した。本発明はこのような知見に基づき完成されたものである。
【0012】
本発明は、下記[1]〜[12]に示す医薬組成物およびその製法を提供する。
[1](A)アンジオテンシンII受容体拮抗薬、(B)アミンおよび(C)水溶性高分子を含有する水性医薬組成物
[2]さらに(D) 界面活性剤を含む[1]に記載の水性医薬組成物
[3]さらに(E) 等張化剤を含む[1]または[2]に記載の水性医薬組成物
[4](A)アンジオテンシンII受容体拮抗薬が、カンデサルタンシレキセチル、カンデサルタン、バルサルタン、ロサルタンカリウム、オルメサルタン、オルメサルタンメドキソミル、テルミサルタン、イルベサルタン、アジルサルタン、アジルサルタンメドキソミルおよびその薬理上許容される塩もしくは誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む[1]〜[3]のいずれか1つに記載の水性医薬組成物
[5](A)アンジオテンシンII受容体拮抗薬がカンデサルタンシレキセチルである[1]〜[4]のいずれか1つに記載の水性医薬組成物
[6](B)アミンがメグルミン、モノエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、トロメタモール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、グルコサミン、トリエチルアミン、リシン、アルギニンおよびヒスチジンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む[1]〜[5]のいずれか1つに記載の水性医薬組成物
[7](C)水溶性高分子がポリビニルピロリドンである[1]〜[6]のいずれか1つに記載の水性医薬組成物
[8](D)界面活性剤がポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート、ステアリン酸ポリオキシル、チロキサポール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンヒマシ油およびベンザルコニウム塩化物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む[1]〜[7]のいずれか1つに記載の水性医薬組成物
[9](E)等張化剤が、グリセリン、プロピレングリコール、マンニトール、ブドウ糖、ソルビトール、キシリトール、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む[1]〜[8]のいずれか1項に記載の水性医薬組成物
[10](A)アンジオテンシンII受容体拮抗薬、(B)アミンおよび(C)水溶性高分子を混合する工程を含む水性医薬組成物の製法
[11]さらに(D) 界面活性剤を混合する工程を含む[10]に記載の水性医薬組成物の製法
[12]さらに(E) 等張化剤を混合する工程を含む[10]または[11]に記載の水性医薬組成物の製法
【発明の効果】
【0013】
本発明の水性医薬組成物は、主に眼科用組成物、点鼻用組成物、点耳用組成物、注射用組成物などの液剤として使用することが可能である。
【0014】
本発明の水性医薬組成物は、懸濁製剤の場合と比べて、調製時に煩雑な製造工程を含まないため、無菌性の確保が容易になることが期待される。
【0015】
また、本発明の点眼用水性製剤は、患者の負担となる使用毎に生じる転倒撹拌や点眼時の霧視を軽減することが予測される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に用いられる(A)アンジオテンシンII受容体拮抗薬としては、カンデサルタンシレキセチル、カンデサルタン、バルサルタン、ロサルタンカリウム、オルメサルタン、オルメサルタンメドキソミル、テルミサルタン、イルベサルタン、アジルサルタン、アジルサルタンメドキソミルおよびその薬理上許容される塩もしくは誘導体などが挙げられ、好ましいものはカンデサルタンシレキセチル、カンデサルタン、バルサルタン、オルメサルタンメドキソミル、テルミサルタン、イルベサルタン、アジルサルタンであり、特に好ましいものはカンデサルタンシレキセチルである。各薬物濃度は薬物による治療効果が得られる範囲であれば特に制限はないが、通常0.001〜10w/v%、好ましくは0.01〜5w/v%であり、より好ましくは0.05〜3w/v%である。
【0017】
本発明の組成物に、(A)アンジオテンシンII受容体拮抗薬以外に、さらに配合される薬物としては、次のようなものが挙げられる。ジピベフリン塩酸塩、エピネフリンなどの非選択性アドレナリン作動薬;ブリモニジン、アプラクロニジン塩酸塩などのα2受容体選択性アドレナリン作動薬;ピロカルピン塩酸塩、ジスチグミン臭化物、ネオスチグミンメチル硫酸塩などの副交感神経刺激薬;チモロールマレイン酸塩、カルテオロール塩酸塩、ニプラジロール、ベタキソロール塩酸塩、レボブノロール塩酸塩などのβ遮断薬;イソプロピルウノプロストン、ビマトプロスト、ラタノプロスト、トラボプロスト、タフルプロストなどのプロスタグランジン誘導体;ドルゾラミド塩酸塩、ブリンゾラミドなどの炭酸脱水酵素阻害剤;ファスジルなどのRhoキナーゼ阻害薬;アシタザノラスト水和物、レボカバスチン塩酸塩、ケトチフェンフマル酸塩、クロモグリク酸ナトリウム、トラニラスト、イブジラスト、ペロミラストカリウム、オロパタジン塩酸塩などの抗アレルギー薬;ベタメタゾンリン酸ナトリウム、フルオロメトロン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロンヘキサニド、ジフルプレドナート、酢酸プレドニゾロンなどの合成副腎皮質ホルモン剤;インドメタシン、プラノプロフェン、ロキソプロフェンナトリウム、ジクロフェナクナトリウ厶、ブロムフェナクナトリウム水和物、ネパフェナク、メロキシカム、ロルノキシカムなどの非ステロイド性抗炎症薬;シクロスポリン、タクロリムスのような免疫抑制剤;アズレンスルホン酸ナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、リゾチーム塩酸塩などの抗炎症薬;カルベニシリンナトリウム、セフメノキシム塩酸塩、クロラムフェニコール、コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム、ゲンタマイシン硫酸塩、エリスロマイシンラクトビオン酸塩、アジスロマイシン、トブラマイシン、カナマイシン、硫酸フラジオマイシン、ミクロノマイシン塩酸塩、シプロフロキサシン塩酸塩、ロメフロキサシン塩酸塩、オフロキサシン、レボフロキサシン水和物、ノルフロキサシン、パズフロキサシントシル酸塩、トスフロキサシントシル酸塩、ガチフロキサシン、モキシフロキサシン塩酸塩、ベシフロキサシン塩酸塩、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリンなどの抗菌薬;ピマリシン、フルコナゾール、ミコナゾール硝酸塩、アムホテリシンBのような抗真菌薬;アシクロビル、ガンシクロビル、シドフォビル、ソリブジン、イドクスウリジン、アデニンアラビノシド、トリフルオロチミジンのような抗ウイルス薬;アミノエチルスルホン酸、アミノ酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、ジクアホソルナトリウム、レバミピドなどの角膜障害またはドライアイ治療薬;シアノコバラミン、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、アスコルビン酸、チアミン、ナイアシン、葉酸、ピリドキサール、パントテン酸、ビオチン、パルミチン酸レチノール、トコフェロール、フィロキノン、メナキノンなどのビタミン類;リドカイン塩酸塩、オキシブプロカイン塩酸塩などの局所麻酔薬;ベシル酸アムロジピン、ベニジピン塩酸塩、ジルチアゼム塩酸塩、ニフェジピン、ベラパミル塩酸塩、アゼルニジピン、シルニジピン、マニジピン塩酸塩、エホニジピン塩酸塩、ニトレンジピンなどのカルシウム拮抗薬;アントシアニン、イソフラボン、レスベラトロール、エラグ酸、クロロゲン酸などのポリフェノール類;β-カロテン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、ルテインなどのカロテノイド類;セサミン、エダラボン、SODおよびその誘導体、グルタチオン、システインなどの抗酸化薬;ボセンタン水和物、アンブリセンタンなどのエンドセリン受容体拮抗薬;B−MECAなどのアデノシンA3受容体作動薬;メマンチン塩酸塩、アマンタジン塩酸塩、ケタミン塩酸塩、デキストロメトルファン、メサドンなどのNMDA受容体拮抗薬;WIN55212‐2などのカンナビノイド受容体作動薬;ラメルテオン、5‐メトキシカルボニルアミノ‐N‐アセチルトリプタミン、アゴメラチンなどのメラトニン受容体作動薬;タンドスピロンクエン酸、AL‐34662などのセロトニン受容体作動薬などを挙げることができる。
これらの薬物の配合量は、その効果が得られれば特に制限はないが、通常0.001〜10w/v%である。
【0018】
本発明に用いられる(B)アミンとしては、本発明の効果が得られれば特に制限はないが、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メグルミン、グルコサミン、2‐アミノ‐2‐メチル‐1‐プロパノール、トロメタモール、トリエチルアミン、リシン、アルギニン、ヒスチジンなどが好ましく、特に好ましいのはメグルミン、モノエタノールアミン、2‐アミノ‐2‐メチル‐1‐プロパノール、トロメタモールであり、最も好ましいのはメグルミン、モノエタノールアミン、トロメタモールである。
これらのアミンは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
本発明における(A)アンジオテンシンII受容体拮抗薬と(B)アミンの重量比は、通常1:0.02〜1:700、好ましくは1:0.2〜1:14であり、より好ましくは1:0.2〜1:8、最も好ましくは1:0.2〜1:3の範囲である。
【0020】
本発明に用いられる(C)水溶性高分子としては、多糖類を除き、その上で、本発明の効果が得られれば特に制限はないが、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどが好ましく、特に好ましいのはポリビニルピロリドンである。これらの高分子は単独でまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
本発明における(A)アンジオテンシンII受容体拮抗薬と(C)水溶性高分子の重量比は、(A):(C)として、通常1:0.001〜1:500、好ましくは1:0.001〜1:14であり、より好ましくは1:0.005〜1:8、最も好ましくは1:0.01〜1:6である。
【0022】
本発明に用いられるポリビニルピロリドンの粘度平均分子量に特に制限はないが、1,000〜1,000,000が好ましく、10,000〜700,000が特に好ましい。また、2種以上の粘度平均分子量の異なるポリビニルピロリドンを混合して粘度平均分子量を調整することも可能である。
本発明に用いられるポリビニルアルコールの平均重合度に特に制限はないが、700〜4,500が好ましく、900〜3,500が特に好ましい。また、2種以上の粘度平均分子量の異なるポリビニルアルコールを混合して平均重合度を調整することも可能である。
本発明に用いられるポリエチレングリコールの重量平均分子量に特に制限はないが、300〜50,000が好ましく、1,000〜20,000が特に好ましい。また、2種以上の粘度平均分子量の異なるポリエチレングリコールを混合して重量平均分子量を調整することも可能である。
【0023】
本発明に用いられる(D)界面活性剤としては、本発明の効果が得られれば特に制限はないが、好ましくはポリソルベート、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ステアリン酸ポリオキシル、チロキサポール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ベンザルコニウム塩化物であり、特に好ましくはポリソルベート80、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ステアリン酸ポリオキシル40、チロキサポール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ベンザルコニウム塩化物などが挙げられ、最も好ましくはポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60などの非イオン性界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は単独でまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
(A)アンジオテンシンII受容体拮抗薬、(B)アミン、および(C)水溶性高分子に更に(D)界面活性剤を共存させることにより、(A)アンジオテンシンII受容体拮抗薬の可溶化に要する時間を短縮することができる。
【0024】
本発明における(A)アンジオテンシンII受容体拮抗薬と(D)界面活性剤の重量比は、(A):(D)として、通常1:0.0001〜1:500、好ましくは1:0.0005〜1:6であり、より好ましくは1:0.001〜1:4、最も好ましくは1:0.001〜1:1である。
【0025】
本発明に用いられる(E)等張化剤としては、本発明の効果が得られれば特に制限はないが、好ましくはブドウ糖等の糖類、マンニトール、ソルビトール、キシリトール等の糖アルコール、プロピレングリコール、グリセリン、塩化ナトリウム、塩化カリウムであり、特に好ましくはグリセリン、プロピレングリコール、マンニトールなどが挙げられ、最も好ましくはグリセリン、プロピレングリコールなどが挙げられる。これらの等張化剤は単独でまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
(A)アンジオテンシンII受容体拮抗薬、(B)アミンおよび(C)水溶性高分子に、更に(E)等張化剤を共存させることにより、本医薬組成物を医薬品として適した浸透圧比に調整することができる。
【0026】
本発明における水性医薬組成物のpHは4.5〜9.0であり、好ましくは5.0〜9.0であり、より好ましくは5.5〜8.5、最も好ましくは6.0〜8.0である。
本発明の水性医薬組成物のpHを調整するために、通常添加される種々のpH調整剤が使用される。酸類としては、例えば、アスコルビン酸、塩酸、グルクロン酸、グルコン酸、酢酸、乳酸、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、硫酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸などが挙げられる。塩基類としては、例えば、ホウ砂、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。その他のpH調整剤としては、グリシン、ヒスチジン、イプシロンアミノカプロン酸などのアミノ酸類なども挙げることができる。この中でも塩酸、リン酸、リン酸二水素ナトリウムが好ましく、リン酸二水素ナトリウムが特に好ましい。
【0027】
本発明の水性医薬組成物を調製するにあたり、薬学的に許容し得る可溶化剤、安定化剤、保存剤などを、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明の水性医薬組成物に添加することができる。
安定化剤としては、メチルセルロース、ヒプロメロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒアルロン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどの多糖類が挙げられ、この中でもメチルセルロース、ヒアルロン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウムが好ましい。
保存剤としては、ベンザルコニウム塩化物、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ポリドロニウムなどの逆性石鹸類、パラヒドロキシ安息香酸メチル、パラヒドロキシ安息香酸プロピル、パラヒドロキシ安息香酸ブチル等のパラベン類、クロロブタノール、フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウムなどの有機酸、およびその塩類が使用できる。
その他添加剤としては、エチレンジアミン四酢酸およびそれらの薬学的に許容される塩、トコフェロールおよびその誘導体、クエン酸ナトリウム、タウリン、イプシロンアミノカプロン酸、亜硫酸ナトリウムなどの安定化剤が挙げられる。
【0028】
本発明の水性医薬組成物を調製するにあたり用いられるメチルセルロース、ヒプロメロースおよびヒドロキシエチルセルロースの2w/v%水溶液とした時の粘度は、置換基の種類や置換度等によって異なるが、特に制限はなく、通常1〜150,000が好ましく、3〜12,000が特に好ましい。また、2種以上の粘度平均分子量の異なる粘度平均分子量の異なるメチルセルロースを混合したり、2種以上の粘度平均分子量の異なるヒプロメロースを混合したり、2種以上のヒドロキシエチルセルロースを混合したりして粘度を調整することも可能である。
本発明の水性医薬組成物を調製するにあたり用いられるヒアルロン酸ナトリウムの平均分子量に特に制限はないが、10,000〜2,000,000が好ましく、500,000〜1,200,000が特に好ましい。また、2種以上のヒアルロン酸ナトリウムを混合して平均分子量を調整することも可能である。
本発明の水性医薬組成物を調製するにあたり用いられるカルボキシメチルセルロースナトリウムの平均分子量に特に制限はないが、50,000〜1,000,000が好ましく、90,000〜700,000が特に好ましい。また、2種以上のカルボキシメチルセルロースナトリウムを混合して重量平均分子量を調整することも可能である。
【0029】
本発明の水性医薬組成物の浸透圧比は、本発明の効果が得られれば特に制限はないが、通常は0.5〜2.0であり、好ましくは0.7〜1.8、より好ましくは0.8〜1.6、最も好ましくは0.9〜1.5である。
【0030】
発明の構成要件である(A)アンジオテンシンII受容体拮抗薬と(B)アミンと(C)水溶性高分子の重量比は、(A):(B):(C)として、通常1:0.02:0.001〜1:700:500、好ましくは1:0.2:0.001〜1:14:14であり、より好ましくは1:0.2:0.005〜1:8:8、最も好ましくは1:0.2:0.01〜1:3:6である。
また、(A)アンジオテンシンII受容体拮抗薬と(B)アミンと(C)水溶性高分子と(D)界面活性剤の重量比は、(A):(B):(C):(D)として、通常1:0.02:0.001:0.0001〜1:700:500:500、好ましくは1:0.2:0.001:0.0005〜1:14:14:6であり、より好ましくは1:0.2:0.005:0.001〜1:8:8:4、最も好ましくは1:0.2:0.01:0.001〜1:3:6:1である。
【0031】
以下に、本発明の水性医薬組成物の製法を例示する。
精製水にアミン、水溶性高分子、界面活性剤および等張化剤を含む各種添加剤を添加し、撹拌して溶解させる。このとき、溶解させるのに必要であれば加熱した精製水を利用することもできる。ここに、有効成分であるアンジオテンシンII受容体拮抗薬を加え良く攪拌する。すべての成分が溶解し、薬液が澄明になったことを確認後、pHを調整し、精製水でメスアップする。この水溶液をメンブレンフィルターによりろ過滅菌後、プラスチック製ボトルなどに充填する。
【0032】
前記の製法としては、例えば次のような調製工程を示すことができる。
精製水にメグルミン、モノエタノールアミン、2‐アミノ‐2‐メチル‐1‐プロパノール、ジエタノールアミンまたはトロメタモールと、ポリビニルピロリドンK25と、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60またはポリソルベート80と、グリセリンと、ベンザルコニウム塩化物とを精製水80mLに添加し、攪拌して溶解させた。ここに、アンジオテンシンII受容体拮抗薬を添加し、溶解するまで撹拌した。すべての成分が溶解し、薬液が澄明になったことを確認後、pHを調整した。次に、精製水でメスアップし、メンブランフィルターでろ過滅菌後、プラスチック製ボトルなどに充填する。
【0033】
前述の製法以外に、次のような製法で本発明の水性医薬組成物を調製することも可能である。
精製水にグリセリンと、ベンザルコニウム塩化物と、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60またはポリソルベート80とを添加し、攪拌して溶解させた。ここに、メグルミン、モノエタノールアミン、2‐アミノ‐2‐メチル‐1‐プロパノール、ジエタノールアミンまたはトロメタモールと、ポリビニルピロリドンK25と、アンジオテンシンII受容体拮抗薬を添加し、溶解するまで撹拌した。すべての成分が溶解し、薬液が澄明になったことを確認後、pHを調整し、精製水でメスアップする。この水溶液をメンブランフィルターでろ過滅菌後、プラスチック製ボトルなどに充填する。
【実施例】
【0034】
[比較例1〜3]
所定量のメグルミン、ポリビニルピロリドンK25またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60と、所定量のグリセリンと、所定量のベンザルコニウム塩化物とを精製水80mLに添加し、溶解した。ここに、所定量のカンデサルタンシレキセチルを加えてよく撹拌した。その後、1mol/Lの塩酸を添加し、pHを調整した。精製水で100mLにメスアップし、比較例1〜3とした。比較例1〜3の組成を表1に示した。
【0035】
本発明により次のような水性医薬組成物を調製することが可能である。
【0036】
[実施例1〜9]
所定量のメグルミン、モノエタノールアミン、2‐アミノ‐2‐メチル‐1‐プロパノール、ジエタノールアミンまたはトロメタモールと、所定量のポリビニルピロリドンK25と、処方によっては所定量のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60またはポリソルベート80と、処方によっては所定量のグリセリンと、処方によっては所定量のベンザルコニウム塩化物とを精製水80mLに添加し、攪拌して溶解させた。ここに、所定量のカンデサルタンシレキセチルを添加し、溶解するまで撹拌した。溶解を確認後、1mol/Lの塩酸を添加し、pHを調整した。次に、精製水で100mLにメスアップし、メンブランフィルターでろ過し、本発明の水性医薬組成物である実施例1〜9を調製した。実施例1〜9の組成を表1に示した。
【0037】
【表1】
【0038】
[実施例10・11]
所定量のメチルセルロース(製品名:METOLOSE(登録商標)SM‐4、信越化学工業(株)製)またはヒプロメロース(製品名:METOLOSE(登録商標)65SH400、信越化学工業(株)製)に、85℃に加熱した80mLの精製水を添加し撹拌することで分散させた。均一に分散したことを確認後、撹拌しながら氷冷した。全体が澄明になったことを確認後、室温に戻るまで放置した。所定量のメグルミンと、所定量のポリビニルピロリドンK25と、所定量のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60またはポリソルベート80と、所定量のグリセリンと、所定量のベンザルコニウム塩化物とを、先に調製したメチルセルロース溶液またはヒプロメロース溶液に添加し、攪拌して溶解させた。ここに、所定量のカンデサルタンシレキセチルを添加し、溶解するまで撹拌した。溶解を確認後、1mol/Lの塩酸を添加し、pHを調整した。次に、精製水で100mLにメスアップし、メンブランフィルターでろ過し、本発明の水性医薬組成物である実施例10・11を調製した。実施例10・11の組成を表2に示した。
【0039】
[実施例12〜20]
所定量のメグルミンと、所定量のポリビニルピロリドンK25、ポリビニルピロリドンK30、ポリビニルピロリドンK90と、処方によってはポリビニルアルコール1000(部分けん化型)またはポリエチレングリコール4000と、所定量のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60またはポリソルベート80と、処方によっては所定量のヒドロキシエチルセルロース(NATROSOL(登録商標))、ヒアルロン酸ナトリウムまたはカルボキシメチルセルロースナトリウムと、所定量のグリセリンと、所定量のベンザルコニウム塩化物とを、精製水80mLに添加し、攪拌して溶解させた。ここに、所定量のカンデサルタンシレキセチルを添加し、溶解するまで撹拌した。溶解を確認後、1mol/Lの塩酸またはリン酸二水素ナトリウムを添加し、pHを調整した。次に、精製水で100mLにメスアップしてメンブランフィルターでろ過し、本発明の水性医薬組成物である実施例12〜20を調製した。実施例12〜20の組成を表2に記載した。
【0040】
【表2】
【0041】
[実施例21〜31]
所定量のメグルミンと、所定量のポリビニルピロリドンK25と、所定量のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリソルベート80、ステアリン酸ポリオキシル40、チロキサポール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(プルロニック(登録商標)F68)と、所定量のグリセリンと、所定量のベンザルコニウム塩化物とを精製水80mLに添加し、攪拌して溶解させた。ここに、所定量のカンデサルタンシレキセチルを添加し、溶解するまで撹拌した。溶解を確認後、1mol/Lの塩酸またはリン酸二水素ナトリウムを添加し、pHを調整した。次に、精製水で100mLにメスアップし、メンブランフィルターでろ過し、本発明の水性医薬組成物である実施例21〜31を調製した。実施例21〜31の組成を表3に記載した。
【0042】
【表3】
【0043】
[実施例32〜43]
所定量のメグルミンまたはモノエタノールアミンと、処方によっては所定量のトロメタモールと、所定量のポリビニルピロリドンK25と、所定量のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60またはポリソルベート80と、処方によっては所定量のグリセリンまたはプロピレングリコールと、所定量のベンザルコニウム塩化物と、処方によっては所定量のイプシロンアミノカプロン酸、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(以下、「EDTA」ともいう)またはクエン酸ナトリウムとを、精製水80mLに添加し、攪拌して溶解させた。ここに、所定量のカンデサルタンシレキセチルを添加し、溶解するまで撹拌した。溶解を確認後、1mol/Lの塩酸、ホウ酸、ホウ砂、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸またはクエン酸を添加し、pHを調整した。次に、精製水で100mLにメスアップし、メンブランフィルターでろ過し、本発明の水性医薬組成物(実施例32〜43)を調製した。実施例32〜43の組成を表4に示した。
【0044】
【表4】
【0045】
[実施例44〜55]
所定量のメグルミンまたはモノエタノールアミンと、処方によっては所定量のトロメタモールと、所定量のポリビニルピロリドンK25と、所定量のベンザルコニウム塩化物と、処方によっては所定量のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60またはポリソルベート80と、処方によっては所定量のグリセリンとを、精製水80mLに添加し、攪拌して溶解させた。ここに、所定量のカンデサルタンシレキセチル、カンデサルタン、アジルサルタン、バルサルタン、イルベサルタン、オルメサルタンメドキソミルまたはテルミサルタンを添加し、溶解するまで撹拌した。溶解を確認後、1mol/Lの塩酸またはリン酸二水素ナトリウムを添加し、pHを調整した。次に、精製水で100mLにメスアップし、メンブランフィルターでろ過し、本発明の水性医薬組成物(実施例44〜55)を調製した。実施例44〜55の組成を表5に示した。
【0046】
【表5】
【0047】
[実施例56〜58]
所定量のメグルミンと、所定量のポリビニルピロリドンK25と、所定量のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60と、所定量のグリセリンとを、精製水80mLに添加し、攪拌して溶解させた。ここに、所定量のカンデサルタンシレキセチルを添加し、溶解するまで撹拌した。溶解を確認後、1mol/Lの塩酸を添加し、pHを調整した。次に、精製水で100mLにメスアップし、メンブランフィルターでろ過し、本発明の水性医薬組成物(実施例56〜58)を調製した。実施例56〜58の組成を表6に示した。
【0048】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0049】
アミンおよび水溶性高分子を配合することで、難水溶性のアンジオテンシンII受容体拮抗薬の可溶化が可能になる。
本発明により提供される澄明な水性医薬組成物により、眼科用組成物、点鼻用組成物、点耳用組成物、注射用組成物などの液剤として、アンジオテンシンII受容体拮抗薬を有効成分とする医薬組成物を新たな投与経路で開発することができる。液剤による薬物の局所投与が可能となれば、必要な部位に薬物を高濃度で到達させると共に全身的な副作用を減少させることが可能となる。また、点眼液として利用すれば、従来の懸濁点眼液で発生するような使用毎に生じる転倒撹拌や点眼時の霧視が軽減されることが予測され、患者負担が減り、アドヒアランスの向上が期待される。