【実施例】
【0057】
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。もちろん本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
なお、実施例1〜2および比較例1においては、硫酸澱物からHgおよびSeの除去まですなわち本実施形態に対応する一連の工程を行った。実施例1においては比較的小規模な状況下(いわゆるラボレベル)で試験を行い、実施例2−1、実施例2−2および比較例1においてはそれよりも規模が大きな状況下で試験を行った。
【0059】
一方、実施例3〜4においては、本実施形態で挙げた例が好適であることを証明するための試験を行った。
例えば実施例3では、酸化浸出工程においてNaClOを用いることが好適であることを証明すべく、比較例2(H
2O
2を使用)および比較例3(KMnO
4粉末を使用)を比較対象として試験を行った。
また実施例4では、Hg第一分離工程においてZn粉末を用いたことによる濾過性の向上度合いを証明するために、比較例4(Hgを硫化により沈殿)を比較対象として試験を行った。
【0060】
<実施例1>
本実施例においては、試験槽としては1Lのものを用いた。攪拌機の羽形状は3枚傾斜パドルとし、回転数は250〜300rpmとした。なお、処理対象とする硫酸澱物は、自社から生じたものを使用した。硫酸澱物に含有されるHgの品位は20.0質量%であり、Seの品位は2.5質量%であった。その他金属成分(Zn,Pb、Ag,Cu,As、Ti,Al)の品位は38.2質量%、残りは他含有物(硫黄、酸素、ハロゲン等)である。
【0061】
1−A)酸化浸出工程
本工程においては、NaClO溶液を1L用いた。そして、試験槽において上記の硫酸澱物をNaClO溶液へと浸し、HgおよびSeを浸出させた。その際、硫酸澱物の量は、NaClO溶液において100g/Lとなるように設定した。なお、反応時間は30分とし、終点温度は40℃とした。そして電位は900mVを超えるように設定した。なお、電位の測定条件としては、反応時間の終了時に銀/塩化銀電極を用い、終点温度を40℃とした。以降、同様とする。
その結果、HgおよびSeの浸出率は共に98〜99%となり、極めて良好な結果となっていた。なお、HgおよびSeの浸出率は、上記の硫酸澱物の組成、ならびに、反応終了後の溶液に含有されるHgおよびSeの量から求めた。また、当該HgおよびSeの量はthermo社製のICP発光分光装置を用いて求めた。以降、HgおよびSeの量についての測定方法は同様とする。
【0062】
1−B)Hg第一分離工程
本工程においては、林金属製のZn粉末をHgに対してモル比で2.0〜2.5mol当量用いた。そして、試験槽に対して上記のZn粉末を投入し、NaClO溶液中のHgをZnにて置換させ、Hgを沈殿させた。なお、反応時間は30〜40分とし、終点温度は10〜15℃とした。そして電位は0mV近傍とした。反応終了後、固液分離として吸引濾過装置を用いて濾過を行った。その際の条件は、濾過面直径を8cm、濾過面積を0.00503m
2、吸引圧力を0.5kg/cm
2とした。
その結果、まず濾過に要した時間は9.7分であり極めて短時間で濾過を行うことができた。さらに、濾液を調べたところ、Hgの除去率は99%を超えた数値となっており、Hgの濃度は検量下限(1ppm)以下となり、極めて良好な結果となっていた。ちなみに、残渣となった沈殿におけるHgの品位は、thermo製のICP発光分析装置で調べたところ、45〜50%であり、重量に換算するとHgは残渣中において60重量%存在した。なお、残渣におけるHg/Znのモル比は1.8〜2.0であった。
【0063】
1−C)Hg第二分離工程
本工程においては、Hg第一分離工程後の濾液をCT(コーンタンク)に移し替えた。そして当該タンクに0.3%のNaSHを10mL添加し、濾液中に残存しているHgを硫化により沈殿させつつ、Se分離工程に向けての下準備として濾液中にSを含有させる処理を行った。なお、反応時間は10分とし、終点温度は20℃とした。最終的な電位は−60mVとし、pHは5.8〜6.0とした。反応終了後、Hg第一分離工程と同様に、固液分離として加圧濾過機を用いて濾過を行った。
その結果、濾液を調べたところ、Hgの濃度は検量下限(1ppm)以下となり、極めて良好な結果となっていた。
【0064】
1−D)Se分離工程
本工程においては、Hg第二分離工程後の濾液を元の試験槽に移し替えた後、12NのHClを濾液に加えたときにHClが3Nになるように、12NのHClを濾液に加えた。そして、自社において硫酸製造時に発生した亜硫酸ガスを流速500mL/minで180分吹き込みながら、ヒータにより80℃へと加熱し、Se
6+からSeへの還元反応を行った。反応終了後、Hg第一分離工程と同様に、吸引濾過装置を用いて濾過を行った。
その結果、濾液を調べたところ、Seの除去率は99%を超えた数値となっており、極めて良好な結果となっていた。残渣となった沈殿におけるSeの品位は、thermo製のICP発光分析装置で調べたところ、90〜99%であり、極めて品位の高いメタルセレンが得られた。なお、Hgの濃度は10ppm以下であり、HgとSeとを確実に分離することができていた。
【0065】
<実施例2−1>
実施例1がラボレベルの規模であったのに対し、本実施例においては、試験槽としては100Lのものを用いた。その他、実施例1と異なる諸々の条件については、以下の表1および表2にまとめた。表1は工程全体に係る条件を示し、表2は硫酸澱物におけるHgやSeの含有率、酸化浸出工程の条件および濾過性を含む結果、ならびに最終的なHgおよびSeの回収率を示す。なお、NaClO溶液としては廃液を用いた。
【表1】
【表2】
【0066】
なお、各工程における液量、残渣量、Hgに関するデータ、Seに関するデータについて、以下に述べる。
【0067】
1−A)酸化浸出工程
まず、硫酸澱物の重量は10.27kgとした。硫酸澱物に含有されるHgの品位は20.7%であり、重量は2126gであった。Seの品位は2.3%であり、重量は239gであった。他金属(亜鉛、銅、鉛、鉄、カドミウム、コバルト、ニッケル、貴金属、ガリウム、インジウム)24.7質量%、他含有物は、水銀、セレン、他金属以外の酸素、硫黄、ハロゲン等であり、殆どが酸素、硫黄である残余分である。
そして、本工程を行った後の后液106Lにおいて、Hgの濃度は19g/Lであり、重量は2016gであり、硫酸澱物の分配率を100%としたときに、分配率は94.8%であった。Seの濃度は2.29g/Lであり、重量は242.9gであり、硫酸澱物の分配率を100%としたときに、分配率は101.5%であった。なお、分配率の規定の仕方については以降同様とする。なお、分配率は、数値における2%以下の分析誤差はある。
また、本工程を行った後の残渣7.54kgにおいて、Hgの品位は0.4%であり、重量は27.4gであり、分配率は1.3%であった。Seの品位は0.1%であり、重量は4.3gであり、分配率は1.8%であった。
つまり、本工程を行った後の残渣には、HgもSeも殆ど含有されておらず、硫酸澱物における大半のHgおよびSeを浸出させることができた。
【0068】
1−B)Hg第一分離工程
本工程を行った後の濾液106Lにおいて、Hgの濃度は0.006g/Lであり、重量は0.6gであり、分配率は0.03%であった。Seの濃度は2.2g/Lであり、重量は228.1gであり、分配率は95.3%であった。
また、本工程を行った後の残渣3.38kgにおいて、Hgの品位は58.6%であり、重量は1984.3gであり、分配率は93.3%であった。Seの品位は0%であり、重量は0gであり、分配率は0%であった。
つまり、本工程を行った後の残渣は、その大部分がHgにより構成されており、しかもSeは全くと言っていいほど含まれていなかった。その一方、濾液においてはHgが殆ど含まれておらず、HgとSeを確実に分離することができていた。
【0069】
1−C)Hg第二分離工程
本工程を行った後の濾液106Lにおいて、Hgの濃度は0.002g/Lであり、重量は0.2gであり、分配率は0.010%であった。Seの濃度は2.05g/Lであり、重量は217.5gであり、分配率は90.85%であった。
また、本工程を行った後の残渣0.005kgにおいて、Hgの品位は14.9%であり、重量は0.84gであり、分配率は0.04%であった。Seの品位は0.4%であり、重量は0.023gであり、分配率は0.009%であった。
つまり、本工程を行った後に濾液に残存していたHgを除去することができた。
【0070】
1−D)Se分離工程
本工程を行った後の濾液140L(HCl溶液の分だけ増加)において、Seの濃度は0.00005g/Lであり、重量は0gであり、分配率は0.0029%であった。
また、本工程を行った後の残渣0.3kgにおいて、Hgの品位は0.0002%であり、重量は0gであり、分配率は0.00002%であった。その一方、Seの品位は99.2%であり、重量は0.22kgであり、分配率は90.77%であった。
つまり、本工程を行った後の残渣は、その大部分がSeにより構成されている一方、Hgは殆ど含まれておらず、Hgと金属Seを確実に分離することができていた。そして最終的に、硫酸澱物からHgおよびSeをそれぞれ、迅速かつ確実にしかも比較的簡素な手法で取り除くことに成功した。
【0071】
<実施例2−2>
本実施例においても、試験槽としては100Lのものを用いた。その他の条件に関しては、Hg、Se、他金属、他含有物の組成を変えた硫酸澱物を使用した以外は、実施例2−1と同様とした。なお、上記の組成の条件については上記の表2に記載している。
【0072】
<比較例1>
本比較例においては、酸化浸出工程における電位を818mVとして、900mV未満としたことを除けば、実施例2−1と同様の条件とした。その結果を同じく上記の表2に記載している。
【0073】
表2を見ると、実施例2−1および実施例2−2においては、HgおよびSeの浸出率、濾過性、最終的なHgおよびSeの除去率において極めて良好な結果を示しており、迅速かつ確実にHgおよびSeをそれぞれ除去することができていた。
その一方、比較例1においては、そもそもHgおよびSeの浸出率に劣り、硫酸澱物とHg、Seとの分離性が良くないので試験そのものを中止した。さらに、各工程を経るにつれ除去率が低下していき、試験を途中で中断するほとであった。
【0074】
<実施例3>
試験の条件としては、硫酸澱物10gを水100mlにリパルプし、硫酸澱物の濃度を100g/Lとした。攪拌速度は200〜300rpmとした。そして質量濃度14%のNaClOを硫酸澱物に添加し、電位を900mVよりも大きくしつつ、HgおよびSeの浸出率を測定した。本実施例においては、酸化浸出工程においてNaClOを用いることが好適であることを証明するために、比較例2(H
2O
2を使用)および比較例3(KMnO
4粉末を使用)を比較対象として試験を行った。その結果を以下の表3に示す。
【表3】
【0075】
<比較例2>
本比較例においては、酸化浸出工程において濃度30%のH
2O
2を300mL使用したことを除けば、実施例3と同じ条件で試験を行った。本比較例の結果も表3に記載している。
【0076】
<比較例3>
本比較例においては、酸化浸出工程においてキシダ化学製のKMnO
4粉末を2g使用したことを除けば、実施例3と同じ条件で試験を行った。本比較例の結果も表3に記載している。
【0077】
実施例3、比較例2および比較例3を対比すると、実施例3においては、NaClOを用いることにより良好な浸出率が得られた。その一方、比較例2および比較例3においては、900mVを超えるような電位を設定したとしても、良好な浸出率を得ることができなかった。
【0078】
<実施例4>
本実施例においては、Hg第一分離工程においてZn粉末を用いたことによる濾過性の向上度合いを証明するために、比較例4(Hgを硫化により沈殿)を比較対象として試験を行った。その結果を以下の表4に示す。なお、本実施例は実施例1に該当する。
【表4】
【0079】
<比較例4>
本比較例においては、Hg第一分離工程においてHgを硫化により沈殿させたことを除けば、実施例4と同じ条件で試験を行った。本比較例の結果を以下の表5に記載する。なお、Hg第一分離工程においてHgを硫化により沈殿させる際の試験の条件としては、実施例1におけるHg第二分離工程と同様とした。また、硫化により沈殿させる反応終了後、アドバンテック社製の加圧濾過機を用いて濾過を行った。その際の条件は、濾過面直径を12cm、濾過面積を0.01131m
2、圧力を4.2kg/cm
2とした。つまり、実施例4(すなわち実施例1)に比べて、濾過面直径を1.5倍、濾過面積を約2倍、圧力を約8倍とした。別の言い方をすると、実施例4だと、比較例4に比べて濾過面直径が2/3であり、濾過面積は約半分であり、圧力は1/8という、濾過において一見不利な条件に置かれている。
【表5】
【0080】
実施例4および比較例4を対比すると、実施例4においては、比較例4よりも不利な条件に置かれているにもかかわらず、濾液量1Lを濾過するのに、比較例4に比べて濾過速度が5倍以上に向上した。実施例4においては、Hgの沈殿に対する濾過性が著しく向上した。
【0081】
以上の結果、上記の実施例によれば、比較的簡素な手法によって硫酸澱物からHgおよびSeをそれぞれ、迅速かつ確実に除去する技術を提供できることが明らかとなった。