(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されるような突出量の小さい係止突起を備える構造は、係止突起が一体的に形成される部材の剛性が高い。そのために、リテーナ側の係止突起とハウジング側の係止突起が強い力で接触するので、リテーナの仮係止位置と本係止位置の間の操作を繰り返していると、双方の先端が削れてしまう。そうすると、リテーナを必要な力でハウジングに係止できなくなることがある。
片持ち梁状のアームを用いる構造は、リテーナ側の係止突起がハウジング側の係止突起と接触して乗り越える際にアームが撓むので、係止突起同士が接触する力が軽減される結果、双方の突起が削れるのを防止できる。しかし、この構造は、仮係止位置と本係止位置の間の操作する際に片持ち梁状のアームを撓ませるのに必要な操作力が大きいので、操作性が劣る。
本発明は、このような課題に基づいてなされたもので、片持ち梁状のアームを有するリテーナを用いながらも、リテーナを小さい力で操作できるコネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、端子が挿入される複数のキャビティを備えるコネクタハウジングと、仮係止位置と本係止位置の間を移動可能に前記コネクタハウジングに保持され、本係止位置において端子を抜け止めするリテーナと、を備える電気コネクタに関し、リテーナが以下の特徴を有している。つまり、本発明に係るリテーナは、仮係止位置において、コネクタハウジングに係止される仮係止突起と、本係止位置において、前記コネクタハウジングに係止される本係止突起と、仮係止突起が自由端側に形成される片持ち梁状の第1弾性梁と、第1弾性梁に両端が支持され、本係止突起が形成される第2弾性梁と、を備え
、本係止突起がコネクタハウジングと係合して第2弾性梁が撓むと、第1弾性梁が連動して撓むことを特徴とする。
【0007】
本発明による電気コネクタは、第1弾性梁と第2弾性梁の二重の撓み構造を備えており、第1弾性梁と第2弾性梁の剛性を個別に設定することができる。したがって、第2弾性梁の剛性を低くすることにより、リテーナの本係止突起がコネクタハウジング側の対応する係止突起を乗り越える際に、リテーナの本係止突起に生ずる応力を第2弾性梁が受けて撓むので、操作力を低減できる。これにより、本係止突起が削れるのを防止できる。
【0008】
本発明の電気コネクタにおいて、第2弾性梁を、第1弾性梁に長手方向に延びるスリットを設けることにより、第1弾性梁の一部に形成することが好ましい。そうすれば、第2弾性梁を第1弾性梁の寸法の範囲内に形成できるので、リテーナを含めた電気コネクタの寸法を抑えることができる。
【0009】
また、本発明の電気コネクタにおいて、本係止突起は、仮係止突起が形成される第1弾性梁の側と同じ側に形成されることが好ましい。そうすれば、本係止突起と仮係止突起が同じ側に設けられると、異なる側に設けられるのに比べて、寸法を抑えることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、第1弾性梁と第2弾性梁の二重の撓み構造を備えているので、第2弾性梁の剛性を低くすることにより、リテーナの本係止突起がコネクタハウジング側の対応する係止突起を乗り越える際に、リテーナの本係止突起に生ずる応力を第2弾性梁が受けて撓むことができる。したがって、本発明によると、リテーナの操作力を低減して、本係止突起が削れるのを防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に示す実施形態に基づいて本発明の電気コネクタ1を詳細に説明する。
コネクタ1は、片持ち梁構造のアームを有しながらも、リテーナ20の仮係止位置と本係止位置の間の操作を小さい操作力で実現できるところに特徴を有している。具体的には、片持ち梁(cantilever)構造の中に両持ち梁(fixed-fixed beam)構造を設けたところに特徴を有している。以下、コネクタ1の構成を説明し、次いで、コネクタ1の作用・効果を説明する。
【0013】
[コネクタ1]
コネクタ1は、
図1及び
図2に示すように、端子30(
図6及び
図7参照)を収容するハウジング10と、ハウジング10とは独立して作製されるリテーナ20を備える。リテーナ20は、仮係止位置(
図6参照)と本係止位置(
図7参照)の間を移動可能にハウジング10に装着される。コネクタ1は、図示を省略する相手側のコネクタ(以下、相手コネクタ)と嵌合されることにより、電気信号、電力を伝える役割を担う。ハウジング10とリテーナ20は、それぞれが絶縁性の樹脂を射出成形することで一体的に形成される。
なお、コネクタ1において、相手コネクタと嵌合される
図1及び
図2の下方を前Fと定義し、端子30に接続される電線31(
図6及び
図7参照)が引き出される
図1及び
図2の上方を後Rと定義することにする。また、
図1及び
図2に示すx軸方向を高さ方向、y軸方向を幅方向及びz軸方向を前後方向と定義する。
【0014】
通常、コネクタ1は、リテーナ20が仮係止位置に装着された状態でコネクタ1の製造元からそれを機器に組み込むユーザに搬送される。ユーザは、端子30をハウジング10に挿入した後に、リテーナ20を本係止位置に移動させる。そうすると、端子30は、リテーナ20により、ハウジング10から抜け出るのが阻止される。リテーナ20は、本係止位置に移動された後に、仮係止位置に戻されることがある。このように、リテーナ20は、本係止位置と仮係止位置の間を繰り返して移動する操作がなされることがあり、この際の操作力を小さくすることが望まれる。
【0015】
[ハウジング10]
ハウジング10は、
図1及び
図2に示すように、ハウジング本体11と、ハウジング本体11を前後方向に貫通し、端子30を収容する複数のキャビティ12とを備えている。ハウジング本体11は、
図6(b)及び
図7(b)に示すように、キャビティ12に向けて突出するハウジングランス13を備えている。キャビティ12の所定位置に挿入された端子30は、ハウジングランス13が係止されることで、ハウジング本体11からの抜け止めが図られている。このハウジングランス13による一次的な抜け止めを補完するために、コネクタ1は、リテーナ20を備えている。リテーナ20が本係止位置に押し込まれると、追って説明するように、端子30を係止することで、二次的な抜け止めを図る。
【0016】
ハウジング10は、
図2に示すように、リテーナ20が挿入されるリテーナ収容凹部14を備えている。
リテーナ収容凹部14は、ハウジング本体11の高さ方向xの一方の側面に開口する挿入口15と、高さ方向xの他方の側面に開口する支持口16(
図4(a),
図5(a)参照)と、を備えており、挿入口15と支持口16の間は、概ね直方体状の空隙をなしている。リテーナ20は、挿入口15からリテーナ収容凹部14に挿入され、少なくとも仮係止位置まで押し込まれると、その先端24が支持口16に挿入される。
リテーナ20が挿入口15から挿入され、キャビティ12に端子30を挿入するまでは、リテーナ20は端子30との干渉を避ける位置、つまり仮係止位置に退避している。端子30の挿入後、リテーナ20がリテーナ収容凹部14の奥の本係止位置まで挿入されると端子30と干渉し、ハウジング10から端子30が抜け出るのを阻止する。
【0017】
ハウジング10は、
図2及び
図4に示すように、幅方向yの両方の側面に、本係止突起17と仮係止突起18が、挿入口15の側からこの順に、ハウジング本体11と一体的に形成されている。本係止突起17と仮係止突起18は、当該側面から突出する寸法は同じであるが、高さ方向xの寸法は仮係止突起18の方が長く形成されている。これは、仮係止突起18がリテーナ20の抜け止めとしての機能を確実に担保するためである。
【0018】
また、ハウジング10は、
図1及び
図2に示すように、ハウジング本体11の後端周縁に後方に向けて延びるシール保持壁19が設けられており、このシール保持壁19に取り囲まれる空隙内に図示を省略するワイヤシールが装着される。ワイヤシールは、後方からハウジング本体11の内部に水が進入するのを阻止する一括のゴム栓である。
【0019】
[リテーナ20]
リテーナ20は、
図2〜
図4に示すように、リテーナ収容凹部14の内部に挿入されるリテーナ本体21と、リテーナ本体21の両側(幅方向yに沿った両端)に設けられる一対のロックアーム(第1弾性梁)25,25と、を備える。
リテーナ本体21は、ハウジング10のリテーナ収容凹部14にほぼ隙間なく挿入される程度の外形及び寸法を有している。
リテーナ本体21は、表裏を貫通して形成される複数の挿通孔22を備えており、それぞれの挿通孔22は、ハウジング本体11のキャビティ12と同様のピッチで設けられている。リテーナ本体21は、それぞれの挿通孔22に、その内側に向けて突出する抜け止め突起23(
図7(b)参照)を備えており、抜け止め突起23は、リテーナ20が本係止位置に押し込まれると、端子30に係止されることで、端子30の抜け止めをする。
なお、リテーナ20において、リテーナ収容凹部14に先に挿入される側(
図3(a)の上側)を前fとし、その逆側(
図3(a)の下側)を後rと定義する。
【0020】
一対のロックアーム25,25は、
図3及び
図4に示すように、リテーナ本体21の後端にリテーナ本体21と一体的に接続される固定端25Aを有する片持ち梁状の部材であり、幅方向yの荷重を受けると当該方向に撓む弾性変形が可能に構成されている。
それぞれのロックアーム25は、固定端25Aを除いて、リテーナ本体21に対して概ね平行に設けられており、リテーナ本体21に対向する面側に、本係止突起26と仮係止突起27が一体的に形成されている。本係止突起26と仮係止突起27は、ロックアーム25の固定端25Aの側からこの順に配置されている。本係止突起26はロックアーム25の前後方向のほぼ中央に設けられており、仮係止突起27はロックアーム25のほぼ自由端25Bに設けられている。
【0021】
リテーナ20が仮係止位置にいるときには、仮係止突起27がハウジング10の仮係止突起18に係止されることにより、リテーナ20が抜け止めされる。また、リテーナ20が本係止位置にいるときには、本係止突起26がハウジング10の本係止突起17に係止されることにより、端子30が抜け止めされる。
仮係止突起27は、リテーナ20の抜け止めという機能を担保するために、突出寸法を大きくして仮係止突起18との係り代を大きくする。これに対して、本係止突起26は、仮係止から本係止への操作、及び、この逆の操作に要する操作力を小さくするために、突出寸法を小さくして本係止突起17との係り代を小さくする。
【0022】
ただし、本係止突起17と本係止突起26の係り代を小さくしたとしても、仮係止と本係止の操作を繰り返すと、本係止突起17と本係止突起26の双方の先端が削れてしまう。そこで、リテーナ20は、この先端が削れるのを防止するために、
図3に示すように、ロックアーム25に両持ち梁構造(第2弾性梁)28を設け、本係止突起26をこの両持ち梁構造28で支持することにした。
両持ち梁構造28は、ロックアーム25に表裏を貫通するスリット29をロックアーム25の長手方向に沿って形成することにより、片持ち梁状のロックアーム25に両端が支持される。スリット29は、固定端25Aの近傍及び自由端25Bの近傍を除いた、ロックアーム25の前後方向のほぼ全域に亘って形成されている。スリット29の前端側及び後端側に、両持ち梁構造28の固定端28A,28Bが設けられる。本係止突起26は、両持ち梁構造28の前後方向のほぼ中央に設けられている。両持ち梁構造28は、幅方向yの荷重を受けると当該方向に撓む弾性変形が可能に構成されている。リテーナ20が仮係止位置から本係止位置に移動する過程で、本係止突起26が本係止突起17を乗り越える際に、両持ち梁構造28は本係止突起26を介して集中荷重を受けて撓む。これにより、本係止突起17と本係止突起26の接触する力が軽減され、上述した本係止突起17と本係止突起26が削れるのを防止することができる。
【0023】
リテーナ20が仮係止位置から本係止位置に移動する過程で、両持ち梁構造28に上述の撓みが生ずると、ロックアーム25も連動して撓むように構成されている。
【0024】
[仮係止及び本係止]
次に、
図4及び
図5を参照して、リテーナ20が仮係止位置及び本係止位置にいるときの、ハウジング10の本係止突起17、仮係止突起18と、リテーナ20の本係止突起26、仮係止突起27との係止関係を説明する。
図4に示すように、リテーナ20が仮係止位置にいると、リテーナ20の仮係止突起27がハウジング10の仮係止突起18に係止されることにより、リテーナ20がハウジング10から抜け止めされる。一方で、リテーナ20の本係止突起26は、ハウジング10の本係止突起17の手前に位置している。そして、この仮係止位置において、リテーナ20は、
図6に示すように、抜け止め突起23が端子30の係止端32から離れており、端子30との干渉が回避されている。ただし、端子30は、ハウジングランス13により一次的に抜け止めされている。
【0025】
図5に示すように、リテーナ20が本係止位置係止に移動すると、リテーナ20の仮係止突起27はハウジング10の仮係止突起18から離れるものの、仮係止突起27が依然として仮係止突起18を越えた位置にいるため、抜け止めの機能は維持される。一方で、リテーナ20の本係止突起26は、ハウジング10の本係止突起17を乗り越える。そして、この本係止状態においては、リテーナ20は、
図7に示すように、抜け止め突起23が端子30の係止端32と干渉する位置まで押し込まれることで、端子30は二次的に抜け止めされる。
【0026】
[ロックアーム25、両持ち梁構造28の撓み]
次に、
図8を参照して、リテーナ20をハウジング10のリテーナ収容凹部14に挿入する過程における、ロックアーム25及び両持ち梁構造28の撓みの挙動を説明する。
はじめに、ロックアーム25の仮係止突起27がハウジング10の仮係止突起18に乗り越える途中には、
図8(a)に示すように、片持ち梁としてのロックアーム25は、自由端25Bが幅方向yの外側に向くように変位して撓む。このとき、本係止突起26には荷重が加わらずに、両持ち梁構造28が撓むことはないので、片持ち梁としてのロックアーム25だけに弾性撓みが生ずる。
リテーナ20をリテーナ収容凹部14の奥に向けてさらに押し込むと、仮係止突起27は仮係止突起18を乗り越えて、リテーナ20は
図8(b)に示すように、仮係止位置に達する。コネクタ1は、通常、リテーナ20がこの仮係止位置に置かれた状態で、製造元からユーザに納入される。
【0027】
リテーナ20が押し込まれて仮係止位置から本係止位置に移動する過程で、
図8(c)に示すように、リテーナ20の本係止突起26はハウジング10の本係止突起17に乗り上げる。このとき、本係止突起26は幅方向yの外側に向けて荷重を受けるので、両持ち梁構造28は、本係止突起26の位置に集中荷重を受けたことになり、当該位置を最大変位とする弾性撓みが生ずる。なお、この位置では、自由端25Bは、より外側に位置してもよい。さらにリテーナ20を押し込むと、
図8(d)に示すように、本係止突起26が本係止突起17を乗り越えて、リテーナ20は本係止位置に達する。本係止突起26が本係止突起17を乗り越える過程においては、片持ち梁としてのロックアーム25に弾性撓みが生ずる。
【0028】
以上のように、リテーナ20は、主に仮係止の操作の過程で撓むロックアーム25と、本係止の操作の過程で撓む両持ち梁構造28を備え、ロックアーム25と両持ち梁構造28からなる二重の撓み構造を備えている。
【0029】
[コネクタ1の効果]
以上の構成を備えるコネクタ1の効果を説明する。
コネクタ1は、上述したように、リテーナ20が二重の撓み構造を備えており、両持ち梁構造28は仮係止と本係止の相互の操作に必要な力を小さくするために剛性を低くしている。
このコネクタ1は、リテーナ20の本係止突起26がハウジング10の本係止突起17を乗り越える際に、本係止突起26に生ずる応力を両持ち梁構造28で受けて撓むので、仮係止と本係止の相互の操作の際に、本係止突起17と本係止突起26が削れるのを防止できる。
【0030】
また、コネクタ1は、本係止突起26と仮係止突起27を、それぞれ、両持ち梁構造28と片持ち梁状のロックアーム25に設けている。したがって、仮係止と本係止の相互間の操作力を低く抑えつつ、リテーナ20の抜け止めを確実に行うことができる。
【0031】
次に、コネクタ1は、本係止突起26と仮係止突起27を、ロックアーム25の幅方向yの同じ側に設けているので、ロックアーム25の幅方向yの寸法を抑えることができる。また、コネクタ1は、均一な幅を有するロックアーム25にスリット29を設けることにより、両持ち梁構造28を形成しているので、ロックアーム25の幅を広くする必要がない。したがって、コネクタ1は、リテーナ20を含めた1の幅方向yの寸法を抑えることができる。
【0032】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることができる。
【0033】
以上の説明では、本係止突起26と仮係止突起27を、ロックアーム25の幅方向の同じ側に設ける例を説明したが、本発明はこれに限定されず、
図9(a)に示すように、ロックアーム25の幅方向の異なる側に設けることもできる。この場合には、ハウジング10の本係止突起17と仮係止突起18を設ける位置を、ロックアーム25の幅方向の異なる側に対応させて設ける必要がある。
また、以上の説明では、均一な幅を有するロックアーム25にスリット29を設けて両持ち梁構造28を形成する例を説明したが、本発明はこれに限定されず、
図9(b)に示すように、両持ち梁構造28の部分だけロックアーム25の幅方向に突出するように形成することもできる。
また、以上の説明では、ハウジング10にリテーナ20を係止するコネクタ1に二重の撓み構造を適用した例を説明したが、本発明はこれに限定されず、互いに二つの係止突起を備える部材の組み付け構造に広く適用することができる。
つまり、本発明は、第1係止位置と第2係止位置の間を移動可能に係止対象物に保持される係止構造体として捉えることができる。この係止構造体は、第1係止位置において、係止対象物に係止される第1係止突起と、第2係止位置において、係止対象物に係止される第2係止突起と、第1係止突起が自由端側に形成される片持ち梁状の第1弾性梁と、第1弾性梁に両端が支持され、第2係止突起が形成される第2弾性梁と、を備える。