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前記中性子捕獲ガスは、少なくとも2つ以上の中性子捕獲ガスを含み、当該2つ以上のそれぞれの中性子捕獲ガスの中性子捕獲断面積が最大となるエネルギー領域は互いに異なることを特徴とする請求項1に記載の中性子測定装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る中性子測定装置について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0014】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る中性子測定装置を含めた構成を示す概念的ブロック図である。中性子測定装置100は、中性子発生源1で生成されて、照射対象2に照射される中性子ビームを測定するものである。ここで、中性子発生源1は、たとえば、
図1に示す加速器であり、あるいは、原子炉などがある。照射対象2は、たとえば、
図1に示すようなBNCTによる治療を受ける患者の場合がある。あるいは、材料照射試験などの場合は、中性子照射を受ける材料の場合がある。
【0015】
中性子測定装置100は、検出用セル10、放射線種弁別部30およびエネルギー推定部40を有する。検出用セル10は、中性子発生源1から照射対象2に発せられる中性子ビームBIの途中に設けられる。すなわち、中性子ビームBIが検出用セル10に入射して検出用セル10を通過し、中性子ビームBOとなって照射対象2に流れていく。
【0016】
図2は、検出用セルの縦断面図を含む構成図である。検出用セル10は、容器11、容器11に形成された開口に取付けられて容器11とともに密閉空間18を形成する集光部材12、および集光部材12の外面に沿って設けられている側面型光検出部20を有し、これらが一体に組み立てられている。
【0017】
容器11は、一端が閉止された円筒形状で、他端が開放されている。容器11の材料としては、中性子の吸収断面積、散乱断面積が小さい材料、あるいは減速効果が小さい材料が好ましい。たとえば、水素を多く含むプラスチック材料は減速効果が大きく好ましくない。あるいは、鉛などの重金属も好ましくない。また、内圧あるいは外圧に耐える範囲でできる限り薄いものが好ましい。
【0018】
容器11の開放部分に集光部材12が設けられている。集光部材12は、光を透過し、かつ中性子の吸収断面積、散乱断面積が小さい材料、あるいは減速効果が小さい材料が好ましい。たとえば、透明ガラス等である。容器11は、中性子捕獲ガス13およびシンチレータガス14を内包している。なお、容器11の形状は、円筒形状には限らない。たとえば、多面体の一つの面が開放されている形状でもよいし、一部に開口を有する球殻形状でもよい。
【0019】
中性子捕獲ガス13は、中性子に対する捕獲断面積が大きく反応により放射線を生ずる元素(中性子捕獲元素)を含む気体を用いる。中性子捕獲ガス用の元素としては、大別して2種類がある。1つ目は、中性子の捕獲反応によって、荷電粒子と捕獲ガンマ線を放出する元素である。2つ目は、荷電粒子を生ぜず、捕獲ガンマ線のみを生ずる元素である。中性子捕獲ガス13は、これらのうち少なくとも1種類の元素を有する。
【0020】
シンチレータガス14は、荷電粒子や捕獲ガンマ線などの放射線により発光する元素を含む気体である。このような元素としては、たとえば、ヘリウム(He)、窒素(N)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)およびキセノン(Xe)などがあり、シンチレータガス14はこれらの元素のうち少なくとも一つを有する。以下、発生する可視光領域の光、遠紫外光、紫外光、赤外光、遠赤外光を含む光を「光」と総称する。
【0021】
中性子捕獲ガス13およびシンチレータガス14は、混合されて容器11内に収納されている。封入したガスの圧力や、ガスの封入方法(封じ切り、連続置換)のいずれも対応可能である。
【0022】
側面型光検出部20は、シンチレータガス14の発光時間、発光量を測定するための検出器である。側面型光検出部20は、入射する光を電気的なパルス信号に変換する。側面型光検出部20としては、光電子増倍管(PMTs:Photomultiplier Tube)、シリコンPMT(Si−PMT)、フォトダイオード(PD:Photodiode)、アバランシェフォトダイオード(APD:Avalanche Photodiode)などが使用可能である。あるいは電荷結合素子(CCD:Charge Coupled Device)/相補性金属酸化膜半導体(CMOS:Complementary Metal−Oxide−Semiconductor)等の撮像素子など、光を電気信号として計測できるものであればいずれの種類でも、シンチレータガス14の発光波長に対して感度を有するものであれば選定可能である。
【0023】
なお、容器11の内部でシンチレータガス14が発光したときには、光は周囲の空間に図中矢印の方向に等方的に進行する。この場合、集光部材12の方向に直接に進行する光はその一部であるため、それ以外の光も集光部材12の方向に集光させることが望ましい。このために、容器11の内面には、
図2に示すように、反射部材16が設けられている。反射部材16は、膜状の板を容器11の内面に張り付けてもよいが、反射材を用いて容器11の内面に蒸着等で形成してもよい。反射部材16はシンチレータガス14の種類に対応した材料のものを使用する。
【0024】
図2に示す放射線種弁別部30は、側面型光検出部20と信号ケーブル25で接続されている。信号ケーブル25は、側面型光検出部20の電気的パルス信号を正確に伝送できるものであり、たとえば同軸ケーブルである。
【0025】
放射線種弁別部30は、側面型光検出部20で得られたパルス信号の波高値、時間幅等から測定対象の中性子の信号と、ガンマ線の信号を弁別する。測定対象の中性子の信号とガンマ線の信号とでは、中性子の反応により放出されるエネルギーが、中性子の反応以外による外部からのバックグラウンドのガンマ線のエネルギーとは異なることから、信号の波高値が異なる。また、波形も異なることから、これらを区別することができる。
【0026】
放射線種弁別部30としては、パルス信号の波高値や時間幅を分析できる機能を備えたものであればいずれも適用可能である。例えば、フラッシュ型アナログ−ディジタル変換回路(Flash Analog−to−digital Converter)を用いて、波高値および時間推移を同時に計測することができる。あるいは、マルチチャンネルアナライザー(MCA:Multi−channel Analyzer)やTDC(Time to Digital Converter)を組み合わせたものでもよい。
【0027】
図2に示すエネルギー推定部40は、パルス信号の波高値から中性子のエネルギーを算出する装置であり、中性子エネルギーに対応した検出器の応答をメモリ等で保存したものと測定結果を参照することでエネルギー分布を測定する。そのため、メモリと比較演算のできる機能がついている計算機等で対応可能である。メモリに保存するデータは、たとえば、校正試験時に後述する種々の核種の中性子捕獲反応時の応答データを測定して保存することにより取得可能である。あるいは、核種のデータハンドブック等から集積することもできる。
【0028】
次に、本実施形態の作用を説明する。中性子捕獲ガス13およびシンチレータガス14の混合ガスを内包する容器11と集光部材12の外側に設けられた側面型光検出部20とを有する検出用セル10が、中性子発生源1から照射対象2に発せられる中性子ビームBIの途中に設けられる。中性子は電荷をもっていないため物質に入射した場合、物質中の原子核との間で、弾性散乱、非弾性散乱、捕獲等の反応が発生する。これらの反応断面積は、中性子のエネルギーと物質の原子核の種類で決まる。中性子測定装置の場合、散乱で弾き飛ばされた荷電粒子であるたとえば陽子を測定する手法と、中性子と反応し生じた荷電粒子を測定する手法の大きく2つがある。どちらの手法の場合であっても、反応で生じた荷電粒子をシンチレータ方式の検出器、半導体式の検出器で計測することが可能である。本実施形態では、後者の方法である中性子の捕獲による反応を利用している。
【0029】
検出用セル10に流入する中性子の一部は、容器11内の中性子捕獲ガス13中の中性子捕獲元素に捕獲される。
図3は、中性子捕獲ガスに用いられる元素の中性子捕獲に関する特性を示す表である。それぞれ、1keVのエネルギーの中性子の場合について示している。
【0030】
中性子の捕獲反応によって荷電粒子と捕獲ガンマ線が生成される元素としては、
図3でB−10と表示しているホウ素10(B
10)がある。B
10の(n,α)反応の反応断面積は、中性子のエネルギーが増大するにつれて小さくなり、1keVのエネルギーの中性子の場合、反応断面積は約20barnである。B
10の(n,α)反応によって、ヘリウム原子核すなわちアルファ線と、リチウム7および捕獲ガンマ線が生成される。放出されるアルファ線のエネルギーは2.5×10
3keV、すなわち2.5MeVである。また、生成される捕獲ガンマ線のエネルギーは、478keVである。
【0031】
また、荷電粒子を生ぜず捕獲ガンマ線のみを生ずる元素としては、キセノン129(Xe
129)およびキセノン131(Xe
131)がある。Xe
129は1keVのエネルギーの中性子の場合、約2000barnと大きな共鳴吸収断面積を有する。生成される捕獲ガンマ線のエネルギーは、536keVである。Xe
131は1keVのエネルギーの中性子の場合、約1000barnの共鳴吸収断面積を有する。生成される捕獲ガンマ線のエネルギーは、668keVである。
【0032】
図3には表示していないが、中性子の捕獲反応によって荷電粒子と捕獲ガンマ線が生成されるその他の元素として、ヘリウム3(He
3)は、中性子の捕獲反応によって、三重水素と反跳陽子および捕獲ガンマ線を生成する。この反応で放出されるエネルギーは0.764MeVである。また、リチウム6(Li
6)は、中性子の捕獲反応によって、ヘリウム原子核(アルファ線)と三重水素および捕獲ガンマ線を生成する。この反応で放出されるエネルギーは4.78MeVである。
【0033】
また、荷電粒子を生ぜず捕獲ガンマ線のみを生ずるその他の元素としては、たとえば、クリプトン83(Kr
83)がある。
【0034】
いま、中性子捕獲ガス13がB
10を含む化合物、たとえばBF
3の場合、入射する中性子との間で(n,α)反応が発生し、発生放射線としてアルファ線および捕獲ガンマ線が発生する。具体的には、B
10の(n,α)反応の2.5MeVのアルファ線と、B
10の捕獲ガンマ線(477.595keV)、Xe
129の捕獲ガンマ線(536keV)やXe
131の捕獲ガンマ線(667.79keV)が生じる。B
10の(n,α)反応の反応断面積は、中性子のエネルギーが増大するにつれて小さくなるのに対し、たとえば、Xe
129では0.1keV〜2keV付近では共鳴ピークを持つため、0.1eVにおける捕獲断面積より大きく、この領域の中性子に対してのみ高感度となる。
【0035】
これらの発生放射線の一部が容器11内のシンチレータガス14と反応し、シンチレータガス14内の原子にエネルギーを付与し、付与されたエネルギーに応じた光が発生する。
【0036】
図4は、シンチレータガスに用いられ得る元素の特性を示す表である。それぞれ、4.7MeVのエネルギーのアルファ線に対する反応の場合を示している。なお、4.7MeVというエネルギーは、アルファ線源として一般的に用いられるアメリシウム241のアルファ線のエネルギーである。
【0037】
キセノンの場合、平均発光波長は325nm、波長200nm以上の光子数で規定した発光量は3700[1/α]である。同じく、クリプトンの場合、平均発光波長は318nm、発光量は2100[1/α]、アルゴンの場合、平均発光波長は250nm、発光量は1100[1/α]、ヘリウムの場合、平均発光波長は390nm、発光量は1100[1/α]、窒素の場合、平均発光波長は390nm、発光量は800[1/α]である。以上のように、発光量、発光波長はガスの種類によって異なる。以上の元素の場合は、光は、いずれも紫外光である。
【0038】
発生した光は、発光か所から等方的に広がり、一部は直接、集光部材12に至る。また、その他の紫外光は、容器11の内面に設けられた反射部材16により反射し、反射の後、あるいは多重反射を繰り返した後に、集光部材12に到達する。集光部材12に到達した紫外光は、集光部材12を通過して側面型光検出部20に流入する。
【0039】
側面型光検出部20に流入した紫外光は、その強度に応じた電気的なパルス信号に変換される。側面型光検出部20で得られたパルス信号は信号ケーブル25で放射線種弁別部30に伝送される。放射線種弁別部30では、パルス信号の波高値、時間幅等から測定対象である中性子の信号と、測定上はノイズとなるガンマ線の信号を弁別する。
【0040】
次に、電気的パルス信号は、エネルギー推定部40に信号ケーブル35で伝送される。エネルギー推定部40では、ガンマ線を含むこれらのエネルギーを放射線種弁別部30で識別し、放射線のエネルギー別に強度分布を測定する。これらの強度分布からエネルギー推定部40で、B
10の反応断面積の大きい0.1keV以下の熱中性子量と、Xeの共鳴ピークが存在する1keV付近の熱外中性子の量を推定することができる。
【0041】
なお、電気的パルス信号のレベルを、検出感度の確保等のために適正な値にするには、混合ガスの圧力を調整することによって可能である。
【0042】
図5は、第1の実施形態に係る中性子測定方法の手順を示すフロー図である。
図5を引用しながら、中性子測定方法について説明する。まず、中性子との反応により放射線を生成する中性子捕獲ガス13と放射線により発光するシンチレータガス14を封入した容器11を有する検出用セル10を中性子ビーム中に設置する(ステップS01)。中性子との反応で発生した荷電粒子のエネルギーをシンチレータガス14により光に変換する(ステップS02)。
【0043】
発生した光を、集光部材12を介して光検出部である側面型光検出部20で受光し、電気的なパルス信号に変換する(ステップS03)。電気的パルス信号を受け入れて、放射線弁別部30で線種を弁別するとともに、エネルギー推定部40でエネルギー別の強度を測定する(ステップS04)。
【0044】
本実施形態においては、中性子ビーム中に設置される検出用セル10は、混合ガスを内包する容器11および側面型光検出部20が主な構成要素であり、その体積の大部分はガス空間であることから、中性子ビームへの外乱を最小限に抑えることができる。また、基本的に発光の検出のみなので、検出用セル10については電圧印加等が不要であり装置構成上の複雑さが無い。
【0045】
以上のように、本実施形態によれば、中性子ビームへの影響を抑えつつ、中性子をオンラインで測定することができる。
【0046】
[第2の実施形態]
図6は、第2の実施形態に係る中性子測定装置の検出用セルの縦断面図を含む構成図である。本実施形態は、第1の実施形態の変形である。第1の実施形態においては、側面型光検出部20が、集光部材12の外側に設けられているのに対して、本第2の実施形態においては、分離型光検出部21が検出用セル10とは別に設けられている。すなわち、本第2の実施形態においては、検出用セル10には光検出部は含まれていない。
【0047】
検出用セル10と別置きされている分離型光検出器21と集光部材12a間には、光伝送部材24が設けられている。光伝送部材24は、集光部材12aを経由した光を伝送することが可能な部材であり、たとえば、光ファイバー等が適用可能である。光ファイバーはシンチレータガス14の発光波長を少ない減衰で伝送できるものであれば、構造は問わない。
【0048】
本実施形態における集光部材12aは、容器11内のシンチレータガス14から生じた光を受けて、光伝送部材24に伝達する。集光部材12aは、図示していないが、その内部に入射した光をその内表面で全反射させ、直接または多重反射の上、光伝送部材24に到達するように形成されている。
【0049】
集光部材12aおよび光伝送部材24を経由した光は、分離型光検出部21に到達する。分離型光検出部21に流入した光は、その強度に応じた電気的なパルス信号に変換される。分離型光検出部21で得られたパルス信号は信号ケーブル25で放射線種弁別部30に伝送される。
【0050】
本実施形態によれば、中性子ビーム上に設置される検出用セルに光検出部を含まないため、さらに中性子ビームへの影響を低減することができる。
【0051】
[第3の実施形態]
図7は、第3の実施形態に係る中性子測定装置の検出用セルの縦断面図を含む構成図である。本実施形態は、第1の実施形態の変形である。本第3の実施形態においては、集光部材12の外側に、側面型光検出部20aおよび側面型光検出部20bが互いに並列に設けられている。側面型光検出部20aと放射線種弁別部30間には信号ケーブル26aが設けられている。また、側面型光検出部20bと放射線種弁別部30間には信号ケーブル26bが設けられている。
【0052】
容器11内には、シンチレータガス14および2種類の中性子捕獲ガスが収納されている。中性子捕獲ガスは、第1の中性子捕獲ガス13aと第2の中性子捕獲ガス13bとからなる。第1の中性子捕獲ガス13aと第2の中性子捕獲ガス13bとは、互いに特性の異なるガスである。例えば、Heを用いた場合He
3では、高い断面積で(n,p)反応を起こす。また、第1の実施形態の中で説明したXe以外でも、Kr
83では1keV〜10keVで10barn程度の比較的高い捕獲断面積を持ち881keVの捕獲ガンマ線を発生する。そのため、例えば、He
3、Xe
129、Kr
83の混合ガスを使用した場合、100eV以下ではHe
3の(n,p)反応、100eVから2keVまではXe
129の中性子捕獲、それ以上はKr
83の中性子捕獲のそれぞれの反応の断面積が大きく、広いエネルギー領域にわたって中性子の検出感度を確保することができる。
【0053】
図8は、対ガンマ線中性子比のエネルギー依存性の例を示す概念的なグラフである。すなわち、放射線種弁別部30で中性子起因の光と、ガンマ線起因の光が弁別されるが、対ガンマ線中性子比=(中性子起因の光の強度)/(ガンマ線起因の光の強度)のように定義した場合、対ガンマ線中性子比は、エネルギー依存性を有する。
【0054】
すなわち、たとえば、He
3の(n,p)反応の断面積のように低エネルギーで大きく、かつ、共鳴ピークを持たない反応では、たとえば、
図8のE0近傍のエネルギーのように平坦な特性となる。一方、Xe
129のように、たとえば、E1近辺で中性子捕獲反応に共鳴ピークを持つ核種の場合は、対ガンマ線中性子比はE1近辺で大きく低下することになる。
【0055】
これらの特性は、中性子捕獲核種と、組合せが決まれば予め把握できるものである。たとえば、第1の中性子捕獲ガス13aがHe
3を含むヘリウムで、第2の中性子捕獲ガス13bがXe
129の場合を考える。対ガンマ線中性子比が
図8のr0である場合は、Xe
129の共鳴領域のエネルギーの中性子の存在はほぼ無視できることになる。また、たとえば、対ガンマ線中性子比が
図8のr1である場合は、Xe
129の共鳴領域のエネルギーの中性子の割合が大きいことになる。このように、対ガンマ線中性子比からも、中性子のエネルギー領域を推定することができる。
【0056】
以上のように、分離型光検出部21で得られた信号を放射線種弁別部30で弁別し、He
3由来の陽子、Xe
131由来の668keVガンマ線、Kr
83由来の881keVガンマ線の量を測定することにより、もしくはその比を測定することで、どのエネルギー領域の中性子が多いのか中性子エネルギーを推定することが可能となる。
【0057】
[第4の実施形態]
図9は、第4の実施形態に係る中性子測定装置の検出用セルの縦断面図を含む構成図である。本実施形態は、第1の実施形態の変形である。本第4の実施形態においては、容器11は、中性子捕獲ガス13およびシンチレータガス14を収納する容器であるとともに、自身が、放射線によって発光するシンチレータとしての機能を有する容器型シンチレータ部15でもある。
【0058】
容器型シンチレータ部15は、第1の実施形態における容器と同様の形状であるが、材料が異なる。本第4の実施形態における容器型シンチレータ部15は、放射線による発光性を有する第2のシンチレータ14bを用いている。第2のシンチレータ14b用の放射線に対する発光性を有する材料としては、合成石英、ホウケイ酸ガラス、タリウム活性化ヨウ化ナトリウム、ゲルマニウム酸ビスマス(BGO:Bi
4Ge
3O
12)などがある。なお、これらの材料の構造強度が十分ではない等の場合は、中性子ビームへの外乱を極力抑えながら、容器型シンチレータ部15の周囲を囲むような2重容器形状の容器内に収納することでもよい。
【0059】
第1の実施形態と同様に、容器型シンチレータ部15と集光部材12により密閉空間18が形成されている。密閉空間18内には、第1の中性子捕獲ガス13a、第2の中性子捕獲ガス13b、および第1のシンチレータガス14aが封入されている。
【0060】
図10は、中性子測定装置の作用を示す概念図であり、荷電粒子を生成する反応の場合を示す。また、
図11は、中性子捕獲ガンマ線のみを生成する反応の場合を示す。
【0061】
図10の場合、第1の中性子捕獲ガス13a中の中性子捕獲原子A1に中性子が捕獲され、荷電粒子A2と捕獲ガンマ線A4が発生する。荷電粒子A2はすぐに第1のシンチレータガス14a中のシンチレータ原子A3にエネルギーを与え、シンチレータ原子A3は発光する。一方、捕獲ガンマ線A4の第1のシンチレータガス14aとの相互作用の確率は小さいが、容器型シンチレータ部15まで到達すると固体である第2のシンチレータ14bとの相互作用の確率は高く多くは相互作用を起こし、容器型シンチレータ部15中のシンチレータ原子A5が発光する。
【0062】
以上のように、第1の中性子捕獲ガス13a中の中性子捕獲原子A1に中性子が捕獲される場合は、シンチレータ原子A3が発光した後に、シンチレータ原子A5が発光するので、この場合は、2つの発光が僅かな時間差で生ずることになる。
【0063】
一方、
図11の場合、第2の中性子捕獲ガス13b中の中性子捕獲原子B1に中性子が捕獲される場合は、捕獲ガンマ線B2が生成され、容器型シンチレータ部15まで到達すると、多くは第2のシンチレータ14bとの相互作用を起こし第2のシンチレータ14b中のシンチレータ原子B3が発光する。
【0064】
以上のように、2つのケースでは、発光の様相が異なることから、僅かな時間差の発光の有無によって、いずれの場合であるか区別できることになる。第1の中性子捕獲ガス13a中の中性子捕獲原子A1の中性子捕獲断面積が最大となる中性子エネルギー、第2の中性子捕獲ガス13b中の中性子捕獲原子B1の中性子捕獲断面積が最大となる中性子エネルギーは既知であるので、中性子のエネルギー領域がいずれの領域であるかを推定できることになる。
【0065】
[第5の実施形態]
図12は、第5の実施形態に係る中性子測定装置の検出用セルの斜視図を含む構成図である。本実施形態は第1の実施形態の変形である。本第5の実施形態における中性子測定装置100は、複数の検出用セルを有する。検出用セル10a、10b、10c、および10dは、中性子ビームの進行方向に垂直な方向に互いに並列に配列されている。
【0066】
第1の検出用セル10a内には、第1の中性子捕獲ガス13a、第2の中性子捕獲ガス13b、およびシンチレータガス14が収納されている。第2の検出用セル10b内には、第1の中性子捕獲ガス13a、第3の中性子捕獲ガス13c、およびシンチレータガス14が収納されている。第3の検出用セル10c内には、第1の中性子捕獲ガス13a、第4の中性子捕獲ガス13d、およびシンチレータガス14が収納されている。第4の検出用セル10d内には、第1の中性子捕獲ガス13a、第5の中性子捕獲ガス13e、およびシンチレータガス14が収納されている。第1の中性子捕獲ガス13a、第2の中性子捕獲ガス13b、第3の中性子捕獲ガス13c、第4の中性子捕獲ガス13d、および第5の中性子捕獲ガス13eは、それぞれに中性子捕獲断面積が最大となるエネルギー領域を異にする核種を有するガスである。
【0067】
第1の検出用セル10aと放射線種弁別部30との間には、信号ケーブル27aが設けられている。同様に、第2の検出用セル10b、第3の検出用セル10cおよび第4の検出用セル10dと放射線種弁別部30との間には、それぞれ信号ケーブル27b、27cおよび27dが設けられている。
【0068】
以上のように構成された本中性子測定装置100においては、それぞれの検出用セルは、第1の中性子捕獲ガス13aおよびシンチレータガス14を共通に有するとともに、さらに、互いに異なるかつ第1の中性子捕獲ガス以外の中性子捕獲ガスを有する。
【0069】
このため、それぞれの検出用セル10a、10b、10cおよび10dにおいては、異なるエネルギーの中性子に対する感度を有する中性子捕獲ガスを有することになる。
【0070】
図13は、複数核種の対ガンマ線中性子比のエネルギー依存性の例を示す概念的なグラフである。たとえば、第1の中性子捕獲ガス13aがHe
3で、第2の中性子捕獲ガス13bがKr
83、第3の中性子捕獲ガス13cがXe
129、第4の中性子捕獲ガス13dがXe
131、第5の中性子捕獲ガス13eがN
2の場合を考える。
【0071】
これらのガスがすべて混合された場合は、(a)のように複数のピークを生ずる特性を示すことになる。この場合、対ガンマ線中性子比がたとえば
図13のr1であることが導かれたとしても、いずれの共鳴ピークに起因するものなのか区別をつけることができない。
【0072】
本実施形態のように、それぞれの検出用セルに、共鳴ピークを有する互いに異なる中性子捕獲ガスが分散して封入されている場合は、それぞれが(b)に示すような特性を有することから、容易に起因する共鳴ピークを判別でき、その結果、中性子のエネルギーを推定することが可能となる。
【0073】
なお、本実施形態においては、検出用セル10a、10b、10cおよび10dのそれぞれにおいて2種類の中性子捕獲ガスが用いられている場合を示したが、これには限定されない。たとえば、1種類のみの中性子捕獲ガスが用いられる検出用セルを含んでいてもよい。あるいは、分別が可能であれば、3種類以上の中性子捕獲ガスが用いられる検出用セルを含んでいてもよい。
【0074】
[その他の実施形態]
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
【0075】
たとえば、実施形態では、容器11内に収納される中性子捕獲ガス13とシンチレータガス14との混合ガスについては、照射される中性子ビームのエネルギー、強度等に基づいて、その混合比および封入圧力が決定され、その仕様に基づいて製作されることとしている。ただしこれには限定されない。たとえば、封入方法は、このような封じ切りではなく、連続的あるいは間欠的に置換されるように補給部と放出部を設けてもよい。
【0076】
また、中性子捕獲ガス13とシンチレータガス14の混合比を調整できるように、たとえば補給タンクと調節弁とを備えて一方のガスを補給可能としてもよい。また、両者の絶対量を圧力を変化させることにより調節できるように圧力レギュレータを設けてもよい。
【0077】
また、各実施形態の特徴を組み合わせてもよい。たとえば、第2の実施形態ないし第5の実施形態のそれぞれは、第1の実施形態の変形である。したがって、第2ないし第5の実施形態のそれぞれの特徴同士を組み合わせてもよい。
【0078】
さらに、これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。