(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0011】
なお、「〜」は特に断りがなければ、以上から以下を表す。
【0012】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る熱電変換材料の製造方法について説明する。
図1は、本実施形態に係る熱電変換材料の製造方法のフローを示す図である。本実施形態に係る熱電変換材料の製造方法は、原料を準備する工程(S10)、原料を坩堝内に充填する工程(S30)、合金粉末を生成する工程(S50)、および熱電変換材料を形成する工程(S70)を含む。熱電変換材料は、複数の元素からなる。原料を準備する工程(S10)では、複数の原料を準備する。各原料は、一種以上の元素を含む粒子の集合からなり、複数の原料は互いに組成が異なる。充填する工程(S30)では、複数の原料を坩堝内に充填する。合金粉末を生成する工程(S50)では、坩堝内の複数の原料を加熱し、合金粉末を生成する。熱電変換材料を形成する工程(S70)では、合金粉末を焼結して熱電変換材料を形成する。充填する工程(S30)では、複数の原料からなる複数の層を坩堝内に形成する。複数の層において、隣接する2つの層では、複数の元素のうち少なくとも1つの元素の体積含有率が層間で互いに異なる。充填する工程(S30)では、複数の元素のうち、熱電変換材料における体積含有率が最も大きい第1元素が、複数の層のうち2つ以上の層に含まれるよう充填する。元素の体積含有率は、各元素の物質量での含有率に当該元素の単体のモル体積を乗じた値とする。以下に詳細に説明する。
【0013】
熱電変換材料は特に限定されず、たとえば、スクッテルダイト系、シリサイド系、ハーフホイスラー系、Bi−Te系、クラスレート系等が挙げられる。
【0014】
まず、複数の原料を準備する(S10)。原料は、得たい熱電変換材料に含まれる元素の単体原料や、当該元素を含む化合物原料および合金原料等であり得る。準備する各原料の分量比は、得たい熱電変換材料の組成と、各原料の組成に応じて適宜調整する。準備する複数の原料は互いに組成が異なるものである。そして、各原料は、得たい熱電変換材料に含まれる複数の元素のうち一種以上の元素を含む粒子からなる。ひとつの原料に含まれる複数の粒子の組成はほぼ同一である。粒子の形状は特に限定されないが、たとえば球状、キューブ状、扁平状、棒状、破砕状(crushed type)などである。粒子の大きさは特に限定されないが、たとえば平均体積にして0.0001cm
3以上50cm
3以下である。
【0015】
次いで、準備した複数の原料を坩堝内に充填する(S30)。
図2(a)および
図2(b)は、本実施形態に係る充填方法の例を示す図である。それぞれ、原料が充填された坩堝30の断面図である。なお、坩堝30への充填方法の例を示す以下の各図では、坩堝30内の複数の層50の厚さを等しく描いているが、これに限定されず、用いる各原料の体積等に応じて、各層50の厚さは適宜互いに異なっていてもよい。充填する工程では、複数の原料を坩堝30内に層状に充填する。坩堝30内に形成される複数の層50においては、層50としての組成が異なる。すなわち、層50に含まれる元素のうち少なくとも1つの元素の体積含有率が層間で互いに異なる。なお、元素の体積含有率は、各元素の物質量(モル)での含有率に当該元素の単体のモル体積を乗じた値とし、原料がたとえば化合物である場合には、その化合物の組成に基づいて求められる。なお、層50に含まれない元素の体積含有率は0%である。
【0016】
第1元素の体積含有率は特に限定されないが、たとえば40%以上であり、さらには60%以上である場合に、より効果的に歩留まりが向上できる。
【0017】
原料を坩堝30に充填する際には、複数の元素のうち、熱電変換材料における体積含有率が最も大きい第1元素が、2つ以上の層に含まれるよう充填する。熱電変換材料における体積含有率が最も大きい第1元素が含まれる層50を、以下では第1元素含有層500と呼ぶ。なお、坩堝30内の複数の層50に含まれる第1元素含有層500の層数は、2層以上であれば特に限定されないが、歩留まり向上の観点から、3層以上であることが好ましく、5層以上であることがより好ましい。
【0018】
原料は、坩堝30の最上端まで充填されてもよいが、歩留まり向上の観点から、坩堝30の上部には原料が充填されない空間が残ることが好ましい。
【0019】
以下に、坩堝30への原料の充填方法について例を挙げて説明する。
図2(a)では、第1元素を含む原料Aと、原料Bの2つの原料を準備し、原料Aと、原料Bを交互に積層した例を示している。具体的には、3つの第1元素含有層500を形成し、第1元素含有層500と第1元素含有層500との間に原料Bからなる層50を形成している。
【0020】
本図の例の場合、複数の層50は、複数の原料の各含有比率について坩堝30の深さ方向に対称性を持つよう形成される。この様な深さ方向の対称性を確保して充填することにより、坩堝30内の反応の進行が偏ることを低減でき、急激な反応の進行が抑えられ、歩留まり良く所望の熱電変換材料が得られる。
【0021】
図2(b)では、たとえば第1元素を含む原料A、原料B、および原料Cの3つの原料を準備し、坩堝30の底から順に第1元素含有層500、原料Bからなる層50b、第1元素含有層500、原料Cからなる層50a、および第1元素含有層500を形成した例を示している。
【0022】
たとえば上記の例の様にして、用いる全ての原料を坩堝30内に充填する。なお、坩堝30には蓋をしても良いが、その場合にも、反応が急激に進む場合には、原料が坩堝30から出てしまうことが起こりうるため、本方法が有効である。
【0023】
本実施形態に係る充填方法によれば、体積含有率が高く、反応の進行に最も影響が大きい第1元素を含む原料が、坩堝30内に分散して配置され、坩堝30内でより均一に反応を進めることができる。よって、原料同士を混合する必要が無いほか、急激な反応の進行が抑えられ、歩留まり良く所望の熱電変換材料が得られる。
【0024】
なお、層50は、坩堝30の底に略平行に、かつ、およそ平らにならされていれば良い。また、層50同士の境界は平面である必要はなく、原料の粒子径に応じた凹凸を伴ってよい。
【0025】
なお、2つ以上の異なる原料に第1元素が含まれる場合、互いに異なる原料からなる複数の第1元素含有層500が形成されうる。ただし、歩留まり向上の観点から、複数の第1元素含有層500は互いに隣り合わないことが好ましい。
【0026】
次いで、坩堝30内の複数の原料を加熱し、合金粉末を生成する(S50)。
合金粉末は、たとえば、溶解法、急冷凝固法(ガスアトマイズ、水アトマイズ、単ロール法、双ロール法)、メカニカルアロイング法、ボールミル法、ビーズミル法などを適宜組み合わせることによって生成することができる。
【0027】
本実施形態では、溶解法とボールミル法とを組み合わせて合金粉末を生成する例について説明する。上述の様に坩堝30に充填された原料を、不活性ガス雰囲気中において、得ようとする合金の融点以上の温度まで、たとえば1000℃〜1250℃まで加熱溶解し、2〜5時間保持した後、水急冷する。水急冷した材料を熱電変換材料の単一相形成の温度域まで、たとえば500〜700℃程度まで加熱し、24時間保持した後、室温まで冷却し、インゴットを得る。得られたインゴットをボールミル装置を用いて粉砕して合金粉末を得る。
【0028】
歩留まり向上の観点から、加熱溶解する際には、昇温温度を以下の様に調整することが好ましい。すなわち、複数の原料のうち最も体積含有率が大きい第1原料の融点をT
mとしたとき、T
m−50℃以上T
m+50℃以下の範囲における原料の昇温速度を50℃/min以下とすることが好ましい。ここで、第1原料の融点T
mとは、単体原料の融点、または化合物原料の融点等である。こうすることにより、大量の第1原料の反応が、急激に進むことを抑制することができる。当該範囲以外では、製造効率向上のために必要に応じて50℃/minより速い昇温温度としても良い。
【0029】
次いで、得られた合金粉末を焼結して熱電変換材料を形成する(S70)。
焼結は、たとえばホットプレス法、加熱焼結法、放電プラズマ成型法、または熱処理法などを適宜組み合わせることによって行うことができる。
【0030】
本実施形態では、放電プラズマ成型法を用いて焼結を行う例に着いて説明する。
粉末をカーボンダイスに入れ、真空もしくは不活性ガス雰囲気中において、5MPa〜60MPaの圧力の下でパルス電流をかけながら500〜750℃の温度まで加熱する。そのまま10分間保持した後、室温まで冷却することで目的の熱電変換材料を得ることができる。
【0031】
次に、本実施形態に係る熱電変換材料の製造方法の作用および効果を説明する。
本実施形態に係る熱電変換材料の製造方法によれば、坩堝30内でより均等に反応を進めることができるため、歩留まり良く所望の熱電変換材料が得られる。
【0032】
(第2の実施形態)
図3は、第2の実施形態に係る熱電変換材料の製造方法のフローを示す図である。
本実施形態に係る熱電変換材料の製造方法は、原料を混合する工程(S20)をさらに含む点、および、合金粉末を生成する方法を除いて第1の実施形態と同様である。
【0033】
本実施形態に係る熱電変換材料の製造方法では、複数の原料は、3つ以上の原料であり、原料を準備する工程(S10)の後、原料を坩堝内に充填する工程(S30)の前に、複数の原料のうち、2つ以上の原料を混合して混合物を得る工程(S20)をさらに含む。そして、複数の層50は、混合物からなる層50を含む。なお、以下では複数の原料をあらかじめ混合して得た混合物からなる層50を特に混合層と呼ぶ。
【0034】
本実施形態では、原料が3つ以上である場合には、充填する工程(S30)の前に2つ以上の原料をミキサー等で混合して混合物を用意しておく。ただし、全ての原料を1つに混合することは行わない。あらかじめ混合する複数の原料は特に限定されないが、サイズの違いが大きい原料同士はミキサー等を用いても互いに混ざり合いにくいため、比較的サイズの近い原料同士を混合することが好ましい。
【0035】
なお、混合する工程(S20)では、全ての原料を1つに混合することは行わない限り、3つ以上の原料を混合しても良い。
【0036】
なお、混合物はひとつに限らず、原料の組み合わせの異なる複数の混合物を作っても良い。また、ひとつの原料を複数の混合物に分けて含有させても良い。ただし、複数の混合物は、混合物としての組成が互いに異なる。すなわち、複数の混合物において、少なくとも1つの元素の、各混合物における体積含有率は互いに異なるものとする。
【0037】
一部の原料をあらかじめ混合しておくことにより、より均一に反応を進めることができ、急激な反応の進行が抑えられ、歩留まり良く所望の熱電変換材料が得られる。
【0038】
本実施形態に係る熱電変換材料の製造方法の充填する工程(S30)では、少なくとも1つの層50は、用意した混合物からなり、複数の原料からなる混合層である。
図4は、本実施形態に係る充填方法の例を示す図である。本図では、第1元素を含む原料A、原料B、および原料Cの3つの原料を準備し、原料を混合する工程において、原料Bおよび原料Cを混合し、坩堝30の底から順に第1元素含有層500、原料Bと原料Cとの混合物からなる混合層510、第1元素含有層500、原料Bと原料Cとの混合物からなる混合層510、および第1元素含有層500を形成した例を示している。なお、ここでは第1元素を含む原料以外の原料を混合する例について説明したが、これに限定されず、第1元素を含んで混合物を用意してもよい。
【0039】
次いで、坩堝30内の複数の原料を加熱し、合金粉末を生成する(S50)。
本実施形態では、ガスアトマイズ法を用いて合金粉末を生成する例について説明する。
【0040】
上述の様に坩堝30に充填された原料を、不活性ガス雰囲気中において、電気炉加熱によって、得ようとする合金の融点以上の温度まで、たとえば1200℃〜1250℃程度まで昇温して加熱溶解し、2時間保持した後、0.5〜20MPa程度のAr噴射圧力およびたとえばφ2mmの噴射ノズルでアトマイズ装置によって、合金粉末を生成する。加熱溶解する際には、第1の実施形態と同様にT
m−50℃以上T
m+50℃以下の範囲における原料の昇温速度を50℃/min以下に調整することが好ましい。
【0041】
次いで、第1の実施形態と同様に得られた合金粉末を焼結して熱電変換材料を形成する(S70)。
【0042】
なお、坩堝30への充填方法と、合金粉末の生成方法とは、任意に組み合わせることができ、たとえば第1の実施形態において、溶解法とボールミル法の代わりにガスアトマイズ法を用いても良いし、第2の実施形態において、ガスアトマイズ法の代わりに溶解法とボールミル法を用いても良い。
【0043】
本実施形態に係る熱電変換材料の製造方法によれば、第1の実施形態と同様の作用および効果が得られる。
【0044】
(第3の実施形態)
第3の実施形態に係る熱電変換材料の製造方法は、坩堝30への原料の充填方法を除いて第1の実施形態と同様である。
【0045】
図5は、本実施形態に係る1つの層50を平面視した図である。本実施形態では、各層50において、層50を平面視する方向から見て坩堝30の内壁32からなる図形の重心34について、各原料の分布が略点対称となるように充填される。この様な対称性を以下では「面内対称性」と呼ぶ。なお、略対称とは、完全に対称な状態に限らず、目測で原料を配置できる程度の対称性を含む。
【0046】
本図の例では、当該層50は、原料20aと原料20bとからなる。敷き詰められた原料20aの間に、原料20bが面内対称性を保つように配置されている。
【0047】
面内対称性を有する充填方法の例としては、他に、複数の原料を重心34を中心とする同心円状に配置する方法などがある。また、ひとつの原料からなる層50は、面内に一様であり、面内対称性を有していると言える。
【0048】
なお、一部の層50が面内対称性を有しても良いが、歩留まり向上の観点から、全ての層50が面内対称性を有することが好ましい。
【0049】
層50の面内対称性を確保することにより、坩堝30内の反応の進行が偏ることを抑制でき、急激な反応の進行が抑えられ、歩留まり良く所望の熱電変換材料が得られる。
【0050】
原料を準備する工程(S10)、合金粉末を生成する工程(S50)、および熱電変換材料を形成する工程(S70)等は、第1の実施形態または第2の実施形態と同様に行うことができる。
【0051】
本実施形態に係る熱電変換材料の製造方法によれば、第1の実施形態と同様の作用および効果が得られる。
【0052】
(変形例)
本発明に係る熱電変換材料の製造方法は、上記第1〜第3の実施形態に限定されるものではなく、以下の変形例を初めとして様々な変形が可能である。
【0053】
坩堝30への原料の充填方法の変形例について以下に説明する。
以下において、2つ以上の原料からなる層50は、混合層510でも良いし、面内対称性を保って形成した層50でもよいし、面内対称性を有さない層50でもよい。
【0054】
図6は、坩堝30への原料の充填方法の第1の変形例を示す図である。
複数の原料のうち、粒子の平均体積が最も大きい原料を、2つ以上の層50に分けて充填する。粒子の平均体積が最も大きい原料を含む層50を、以下では特に最大原料含有層520と呼ぶ。2つ以上の最大原料含有層520を設けることで、サイズの違いに起因して他の原料と混合しにくい平均体積が大きい原料が、坩堝30内に分散して配置され、坩堝30内でより均一に反応を進めることができる。よって、急激な反応の進行が抑えられ、より歩留まり良く所望の熱電変換材料が得られる。
【0055】
なお、最大原料含有層520は、当該原料のみからなる層50であっても良いし、2つ以上の原料からなる層50であってもよい。また、平均体積が最も大きい原料が第1元素を含む場合、最大原料含有層520は同時に第1元素含有層500であり得る。
【0056】
なお、層50としての組成の異なる複数種類の最大原料含有層520がある場合には、歩留まり向上の観点から、最大原料含有層520同士は互いに隣り合わないことが好ましい。
【0057】
なお、平均体積が最も大きい原料と同程度の平均体積を有する原料が他にもある場合には、歩留まり向上の観点から、当該原料も同様に、2つ以上の層に分けて充填することが好ましい。
【0058】
なお、歩留まり向上の観点から、平均体積が二番目に大きい原料も同様に、2つ以上の層に分けて充填することが好ましい。
【0059】
複数の原料のうち、粒子の平均体積が最も大きい原料は特に限定されないが、たとえばCo、Ca、Ba、および希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含む。Coを含む原料はコストの面から、平均体積が大きいものを準備するのが好ましく、一方、Ca、Ba、および希土類元素を含む原料は、大気中での酸素との反応等を抑制するため、平均体積が大きいものを準備するのが好ましいからである。希土類元素としては、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、およびYb等が挙げられる。
【0060】
なお、Ca、Ba、または希土類元素の単体からなる原料は反応性が高いため、歩留まり向上の観点から、平均体積が最も大きくない場合にも、2つ以上の層50に分けて充填することが好ましい。
【0061】
また、本変形例では、複数の原料のうち、粒子の平均体積が最も小さい原料を、2つ以上の層に分けて充填する。粒子の平均体積が最も小さい原料を含む層50を、以下では特に最小原料含有層540と呼ぶ。2つ以上の最小原料含有層540を設けることで、サイズの違いに起因して他の原料と混合しにくい平均体積が小さい原料が、坩堝30内に分散して配置され、坩堝30内でより均一に反応を進めることができる。よって、急激な反応の進行が抑えられ、より歩留まり良く所望の熱電変換材料が得られる。
【0062】
なお、最小原料含有層540は、当該原料のみからなる層50であっても良いし、2つ以上の原料からなる層50であってもよい。また、平均体積が最も小さい原料が第1元素を含む場合、最小原料含有層540は同時に第1元素含有層500であり得る。
【0063】
なお、層50としての組成の異なる複数種類の最小原料含有層540がある場合には、歩留まり向上の観点から、最小原料含有層540同士は互いに隣り合わないことが好ましい。
【0064】
なお、平均体積が最も小さい原料と同程度の平均体積を有する原料が他にもある場合には、歩留まり向上の観点から、当該原料も同様に、2つ以上の層に分けて充填することが好ましい。
【0065】
なお、歩留まり向上の観点から、平均体積が二番目に小さい原料も同様に、2つ以上の層に分けて充填することが好ましい。
【0066】
複数の原料のうち、粒子の平均体積が最も小さい原料は特に限定されないが、たとえば融点が1000℃以上の原料である。高融点の原料は、製造効率向上の観点から、平均体積が小さいものを用いるのが好ましいからである。融点が1000℃以上の原料としては、たとえばTi、Co、Fe、W、Zr、Ta、Mo、Ru、Ir、Os、およびNb等の各単体原料が挙げられる。
【0067】
本図では、第1元素含有層500を5層、最大原料含有層520を2層、最小原料含有層540を4層、その他の層50を2層形成する例を示している。その他の層50は、第1元素、平均体積が最も小さい原料、および平均体積が最も大きい原料を、いずれも含まない層50である。また、本図では、深さ方向の対称性が保たれている。
【0068】
なお、複数の原料のうち、粒子の平均体積が最も大きい原料の平均体積をV
1、粒子の平均体積が最も小さい原料の平均体積をV
2としたとき、V
2/V
1の値が0.01以下である場合に、原料サイズの違いが大きく、製造歩留まりの向上に、より効果的に寄与する。
【0069】
なお、本変形例では、粒子の平均体積が最も大きい原料と粒子の平均体積が最も小さい原料のいずれもが2つ以上の層に分けて充填される例について説明したが、これに限定されない。粒子の平均体積が最も大きい原料と粒子の平均体積が最も小さい原料のいずれか一方のみが2つ以上の層に分けて充填されてもよい。
【0070】
図7は、坩堝30への原料の充填方法の第2の変形例を示す図である。本変形例に係る充填方法では、5つの第1元素含有層500、2つの最大原料含有層520、4つの最小原料含有層540、2つのその他の層50が設けられている。一方、本変形例に係る充填方法では、深さ方向の対称性がない。
【0071】
図8は、坩堝30への原料の充填方法の第3の変形例を示す図である。本変形例に係る充填方法では、3つの第1元素含有層500、2つの最大原料含有層520、4つの最小原料含有層540、2つのその他の層50が設けられている。本変形例に係る充填方法では、深さ方向の対称性がある。
【0072】
図9は、坩堝30への原料の充填方法の第4の変形例を示す図である。本変形例に係る充填方法では、5つの第1元素含有層500、1つの最大原料含有層520、1つの最小原料含有層540、4つのその他の層50が設けられている。本変形例に係る充填方法では、深さ方向の対称性がない。
【0073】
図10は、坩堝30への原料の充填方法の第5の変形例を示す図である。本変形例に係る充填方法では、3つの第1元素含有層500、1つの最大原料含有層520、1つの最小原料含有層540、4つのその他の層50が設けられている。本変形例に係る充填方法では、深さ方向の対称性がない。なお、隣り合う層50aと層50bと、および、層50bと層50cとは、層50としての組成が異なる。すなわち、層50に含まれる元素のうち少なくとも1つの元素の体積含有率が層間で互いに異なる。
【0074】
図11は、坩堝30への原料の充填方法の第6の変形例を示す図である。本変形例はたとえば第1元素を含む原料と、粒子の平均体積が最も小さい原料とが同一である場合の例であり、第1元素含有層500は同時に最小原料含有層540である。本変形例に係る充填方法では、5つの第1元素含有層500、2つの最大原料含有層520、5つの最小原料含有層540、2つのその他の層50が設けられている。本変形例に係る充填方法では、深さ方向の対称性がある。
【0075】
上記の第1〜第6の変形例においても、第1の実施形態と同様の作用および効果を得られる。
【0076】
なお、
図2、4、および6〜11は、各層の積層順を示したものであり、各層の厚みの比率を必ずしも反映させたものではない。
【0077】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0079】
実施例1〜14および比較例1〜5として、それぞれ以下の組成を目標に熱電変換材料を製造した。
実施例1、8、10〜14、比較例1および3:La
0.75Ba
0.01Ga
0.1Ti
0.1Co
1Fe
3Sb
12
実施例2:Ce
0.75Ba
0.01Ga
0.1Ti
0.1Co
1Fe
3Sb
12
実施例3:Pr
0.75Ba
0.01Ga
0.1Ti
0.1Co
1Fe
3Sb
12
実施例4、9、比較例2、および4:Yb
0.3Ca
0.1Al
0.1Ga
0.1In
0.1Co
3.75Fe
0.25Sb
12
実施例5:La
0.3Ca
0.1Al
0.1Ga
0.1In
0.2Co
3.75Fe
0.25Sb
12
実施例6および比較例5:Pr
0.2Co
4Sb
12
実施例7:La
0.25Ce
0.25Pr
0.25Ba
0.01Ga
0.1Ti
0.1Co
1Fe
3Sb
12
【0080】
[熱電変換材料の作製]
原料として、各元素の純金属を準備した。各原料の形状、融点、および粒子の平均体積を表1にまとめた。各実施例および各比較例で用いる原料の量は、表2および表3にそれぞれ示した、全原料に対する体積含有率の通りとした。また、表1に示した粒子の平均体積を用いて、各実施例、比較例のV
2/V
1の値を求めた。全ての実施例において、最も体積含有率の大きい元素(第1元素)はSbであり、最も体積含有率の大きい原料(第1原料)はSb原料であり、粒子の平均体積が最も大きい原料はCo原料であった。また、粒子の平均体積が最も小さい原料は、実施例1〜5、7〜14、および比較例1〜4においてFe原料であり、実施例6および比較例5においてSb原料であった。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
(実施例1〜5)
準備した原料のうち、最も体積含有率の大きいSb(第1元素)の原料、粒子の平均体積が最も大きい原料であるCo原料、および希土類元素の原料を除いた、残りの原料をミキサーで混合し、混合物Aを得た。次いで、カーボン材質の坩堝内に、全ての原料を充填した。このとき原料は、
図6の様に、具体的には坩堝の底から順に、Sb原料からなる層(以下、Sb層と呼ぶ。)、Co原料からなる層(以下、Co層と呼ぶ。)、混合物Aからなる層(以下、MA層と呼ぶ。)、Sb層、希土類元素の原料からなる層(以下、希土類層と呼ぶ。)、MA層、Sb層、MA層、希土類層、Sb層、MA層、Co層、およびSb層を形成して充填した。すなわちこのとき、Sb原料からなる層(第1元素含有層)の数を5とし、粒子の平均体積が最も大きい原料を含む層(最大原料含有層)の数を2とし、混合物Aからなる層の数を4とした。ここで、混合物Aからなる層は、粒子の平均体積が最も小さい原料であるFe原料を含む層(最小原料含有層)である。このとき、各層の分布、すなわち、原料の含有比率が、坩堝の深さ方向に対称となるようにした。
【0085】
原料を充填した坩堝を、不活性ガス雰囲気中において、電気炉加熱によって1200℃まで加熱溶解し、2時間保持した後、20MPaのAr噴射圧力およびφ2mmの噴射ノズルでアトマイズ装置によって、合金粉末を生成した。ここで、加熱溶解の際には、Sb原料(第1原料)の融点を基準に±50℃の範囲、すなわち581℃以上681℃以下の範囲では、昇温速度が50℃/min以下となるように、調整した。
【0086】
得られた合金粉末をカーボンダイスに入れ、不活性ガス雰囲気中において、40MPaの圧力の下でパルス電流をかけながら600〜750℃の温度まで加熱した。次いで10分間保持した後、室温まで冷却することで目的の熱電変換材料を得た。
【0087】
(実施例6)
実施例6では、坩堝への原料の充填方法を除き、実施例1と同様にして熱電変換材料を得た。本実施例では、Sb原料は、第1元素を含む原料であると同時に、粒子の平均体積が最も小さい原料である。本実施例では、坩堝に原料を充填する際、原料は、
図11の様に、具体的には坩堝の底から順に、Sb層、Co層、Sb層、Pr原料からなる層(以下、Pr層と呼ぶ。)、Sb層、Pr層、Sb層、Co層、およびSb層を形成して充填した。
【0088】
(実施例7)
実施例7では、坩堝へ充填する前に複数の希土類元素を混合した点を除き、実施例1と同様にして熱電変換材料を得た。具体的には、La、Ce、およびPrの原料を合わせてミキサーで混合し、混合物Bを得た。次いで坩堝に原料を充填する際、原料は、
図6の様に、具体的には坩堝の底から順に、Sb層、Co層、MA層、Sb層、混合物Bからなる層(以下、MB層と呼ぶ。)、MA層、Sb層、MA層、MB層、Sb層、MA層、Co層、およびSb層を形成して充填した。
【0089】
(実施例8および9)
実施例8では、合金粉末の生成方法を除き、実施例1と同様にして熱電変換材料を得た。
また、実施例9では、合金粉末の生成方法を除き、実施例4と同様にして熱電変換材料を得た。
【0090】
具体的には、実施例1と同様の方法で原料を充填した坩堝を、不活性ガス雰囲気中において、電気炉加熱によって1200℃まで加熱溶解し、2時間保持した後、水急冷した。水急冷した材料を600℃まで加熱し、24時間保持した後、室温まで冷却し、インゴットを得た。次いで、このインゴット原料を粉砕して合金粉末を得た。ここで、加熱溶解の際には、Sb原料(第1原料)の融点を基準に±50℃の範囲では、昇温速度が50℃/min以下となるように、調整した。
【0091】
得られた合金粉末をカーボンダイスに入れ、不活性ガス雰囲気中において、40MPaの圧力の下でパルス電流をかけながら600〜750℃の温度まで加熱した。次いで10分間保持した後、室温まで冷却することで目的の熱電変換材料を得た。
【0092】
(実施例10)
実施例10では、昇温温度の調整を行わなかった点を除き、実施例1と同様にして熱電変換材料を得た。実施例10では、加熱溶解の際、Sb(第1原料)の融点を基準に±50℃の範囲において、昇温速度が50℃/minを超えていた。
【0093】
(実施例11)
実施例11では、原料を坩堝の深さ方向に対称に充填しなかった点を除き、実施例1と同様にして熱電変換材料を得た。実施例11では、坩堝内に積層した原料において、Sb原料の体積が、上半分よりも下半分で多くなるように充填した。具体的には、坩堝に原料を充填する際、原料は、
図7の様に、具体的には坩堝の底から順に、Sb層、Co層、Sb層、MA層、Sb層、希土類層、MA層、Sb層、MA層、希土類層、MA層、Co層、およびSb層を形成して充填した。
【0094】
(実施例12)
実施例12では、Sbの層(第1元素含有層)の数を3として充填した点を除き、実施例1と同様にして熱電変換材料を得た。具体的には、坩堝に原料を充填する際、原料は、
図8の様に、具体的には坩堝の底から順に、Sb層、Co層、MA層、希土類層、MA層、Sb層、MA層、希土類層、MA層、Co層、Sb層を形成して充填した。
【0095】
(実施例13)
実施例13では、粒子の平均体積が最も大きい原料を含む層(最大原料含有層)の数、および粒子の平均体積が最も小さい原料を含む層(最小原料含有層)の数をいずれも1として充填した点を除き、実施例1と同様にして熱電変換材料を得た。
具体的には、準備した原料のうち、Sb(第1元素)の原料、粒子の平均体積が最も大きい原料であるCo原料、および粒子の平均体積が最も小さい原料であるFe原料を除いた、残りの原料をミキサーで混合し、混合物Cを得た。次いで、カーボン材質の坩堝内に、全ての原料を充填した。このとき原料は、
図9の様に、具体的には坩堝の底から順に、Sb層、混合物Cからなる層(以下、MC層と呼ぶ。)、Sb層、Co層、MC層、Sb層、MC層、Fe原料からなる層(以下、Fe層と呼ぶ。)、Sb層、MC層、Sb層を形成して充填した。
【0096】
(実施例14)
実施例14では、坩堝への原料の充填方法を除き、実施例1と同様にして熱電変換材料を得た。具体的には、準備した原料を、混合する工程を経ずに、坩堝に充填した。坩堝に原料を充填する際、原料は、
図10の様に、具体的には坩堝の底から順に、Sb層、Fe層、Co層、Ba原料からなる層、Sb層、Ti原料からなる層、La原料からなる層、Ga原料からなる層、Sb層を形成して充填した。このとき、各層内の各原料の分布は一様であり、すなわち全ての層が面内対称性をもって充填された。
【0097】
(比較例1および2)
比較例1では、坩堝への原料の充填方法を除き、実施例1と同様にして熱電変換材料を得た。また、比較例2では、坩堝への原料の充填方法を除き、実施例4と同様にして熱電変換材料を得た。
【0098】
具体的には、比較例1および比較例2では、準備した原料を、それぞれひとまとまりにして坩堝内に充填した。すなわち、平面的な層構造を形成せず、Sbも1つの領域に集中させて充填した。
【0099】
(比較例3および4)
比較例3では、坩堝への原料の充填方法を除き、実施例1と同様にして熱電変換材料を得た。また、比較例4では、坩堝への原料の充填方法を除き、実施例4と同様にして熱電変換材料を得、比較例5では、坩堝への原料の充填方法を除き、実施例6と同様にして熱電変換材料を得た。
【0100】
具体的には、比較例3から5では、準備した原料を、すべて合わせてミキサーで30分間混合した上で、カーボン材質の坩堝に充填した。このとき、全ての原料は均一には混合できず、坩堝内の原料の分布に偏りが生じた。
【0101】
[作製の成否評価]
実施例1から14、および比較例1から5において、同一の方法でそれぞれ合計15回、熱電変換材料を作製した。そのうち、所望の組成の熱電変換材料が得られた場合を「成功」と評価し、急な反応が進行したことにより電気炉内で原料の一部が坩堝から出てしまうなどして、所望の組成の熱電変換材料が得られなかった場合を「失敗」と評価した。なお、熱電変換材料の組成はICP(Inductively Coupled Plasma)分析によって測定した。
【0102】
各実施例における熱電変換材料の作製条件および評価結果を表2にまとめて示した。また、各比較例における熱電変換材料の作製条件および評価結果を表3にまとめて示した。
【0103】
実施例1から実施例14では、成功回数が多く、歩留まりが高いことが確かめられた。特に実施例1から実施例9において歩留まりが高かった。一方、比較例1から比較例5では、成功回数が少なく、製造安定性が低かった。