【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・公益社団法人日本セラミックス協会第27回秋季シンポジウム予稿の平成26年8月25日公開のウェブサイト(講演番号3R01) http://www.ceramic.or.jp/ig−syuki/27th/index.html#program ・公益社団法人日本セラミックス協会第27回秋季シンポジウムにおける平成26年9月11日の講演資料 ・平成26年11月16日発行の第40回固体イオニクス討論会講演要旨集(講演番号3B−13) ・第40回固体イオニクス討論会における平成26年11月18日の講演資料 ・オンライン版International Journal of Hydrogen Energy,第39巻,第35号,20829〜20836頁の平成26年7月14日公開のウェブサイト http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0360319914017923
【文献】
Yuji Okuyama et al.,"Incorporation of a proton into La0.9Sr0.1(Yb1-xMx)O3-δ(M=Y,In)",Solid State Ionics,2014年,Vol.262,p.865-869
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
BaCeO
3系プロトン伝導性固体電解質材料は、上記のように高いプロトン伝導性を有する反面、化学的安定性が低いことから、燃料電池等の用途に実用化することが困難である。つまり、ペロブスカイト型構造(ABO
3)のAサイトの大部分を占めるBaが、燃料ガス中や空気中の二酸化炭素と高温で容易に反応して炭酸塩となるため、高い耐久性が得られない。特許文献1,2では、BaCeO
3系プロトン伝導性固体電解質材料において、二酸化炭素耐性を高める工夫を行っているが、BaCeO
3系の材料を用いるかぎり、二酸化炭素との反応を抑制することには限界がある。
【0006】
そこで、BaCeO
3系材料に代わって、LaYbO
3系ペロブスカイト型酸化物をプロトン伝導性固体電解質材料として用いることが試みられている。LaYbO
3系ペロブスカイト型酸化物は、Baのようなアルカリ土類金属を主成分元素として含有するものではなく、BaCeO
3系材料に比べて高い化学的安定性が得られる。しかし、現在のところ、LaYbO
3系材料において、十分に高い導電率を得られるには至っておらず、実用的な発電特性を有するプロトン伝導燃料電池として応用することが難しい。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、二酸化炭素に対して高い耐性を有するとともに、高い導電率を有するLaYbO
3系プロトン伝導性固体電解質材料、および高い発電特性を有するプロトン伝導燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかるプロトン伝導性固体電解質材料は、La
1−yM
yYb
1−xIn
xO
3−δ(M=Ba,Sr,Ca,Mg;δは酸素空孔量;0<x<1;0<y≦0.2)の組成を有することを要旨とする。
【0009】
ここで、y=0.1であること、M=Srであることが好ましい。また、0<x≦0.5であること、特に0.1≦x≦0.3であることが好ましい。
【0010】
本発明にかかるプロトン伝導燃料電池は、上記のようなプロトン伝導性固体電解質材料を含んでなる電解質層の一方面にアノードが設けられ、他方面にカソードが設けられた単電池セル構造を有することを要旨とする。
【0011】
ここで、前記プロトン伝導燃料電池は、動作温度が600〜800℃の範囲にあることが好ましい。また、前記アノードは、Niを含んでなること、特に、Niと上記のようなプロトン伝導性固体電解質材料とを含むサーメットよりなることが好ましい。一方、前記カソードは、電子−侵入型酸化物イオン混合伝導体よりなることが好ましい。この場合、前記カソードは、La
2NiO
4よりなるとよい。あるいは、前記カソードは、Ba
0.5Sr
0.5Co
0.8Fe
0.2O
3−δ(δは酸素空孔量)よりなることが好ましい。
【0012】
そして、前記プロトン伝導燃料電池は、前記アノードまたはカソードを基板とし、前記基板の表面に、前記電解質層が、前記基板よりも薄い薄膜として形成されてなることが好ましい。この場合に、前記電解質層の厚さは50μm以下であるとよい。
【発明の効果】
【0013】
上記発明にかかるプロトン伝導性固体電解質材料においては、ペロブスカイト型構造(ABO
3)のBサイトを占める金属Mの一部がInに置換されていることの効果により、高い導電率を示す。また、Aサイトの大部分を、二酸化炭素と容易には反応しないLaが占めているため、二酸化炭素に対して高い耐性を示す。
【0014】
ここで、y=0.1である場合には、特に高い導電率を得ることができる。
【0015】
また、M=Srである場合には、二酸化炭素に対する高い耐性を確保しながら、高い導電率を達成することができる。
【0016】
また、0<x≦0.5である場合には、十分に高い導電率を得ながら、高価な元素であるInの添加量を抑えることができる。
【0017】
0.1≦x≦0.3である場合には、この範囲で導電率が極大値をとることから、少量のInの添加で、導電率を特に効果的に高めることができる。
【0018】
本発明にかかるプロトン伝導燃料電池においては、上記のような高い導電率と二酸化炭素に対する耐性を有するプロトン伝導性固体電解質材料を電解質層として有する。このため、高い発電特性を得ることができる。また、運転中に、燃料ガスや空気に由来する二酸化炭素による影響を受けにくい。
【0019】
ここで、プロトン伝導燃料電池の動作温度が600〜800℃の範囲にある場合には、高いプロトン伝導度を確保しながら、電子伝導の寄与による起電力の低下を抑えて、高い発電効率を得ることができる。
【0020】
また、アノードが、Niを含んでなる場合には、アノードにおける電極過電圧を小さく抑え、高い発電効率を得ることができる。アノードが、Niと上記のようなプロトン伝導性固体電解質材料とを含むサーメットよりなる場合には、その効果が特に顕著となる。
【0021】
一方、カソードが、La
2NiO
4をはじめとする電子−侵入型酸化物イオン混合伝導体よりなる場合には、酸素空孔−正孔混合伝導体を用いる場合と比較して、カソードにおける電極過電圧を低く抑え、高い発電効率を得ることができる。
【0022】
あるいは、カソードが、Ba
0.5Sr
0.5Co
0.8Fe
0.2O
3−δ(δは酸素空孔量)よりなる場合にも、カソードにおける電極過電圧を極めて小さく抑えることができ、非常に高い発電効率が得られる。
【0023】
そして、プロトン伝導燃料電池が、アノードまたはカソードを基板とし、基板の表面に、電解質層が、基板よりも薄い薄膜として形成されてなる場合には、電解質における電気抵抗を低く抑えることで、高い出力密度を達成することができる。
【0024】
この場合に、電解質層の厚さが50μm以下であれば、特に高い出力密度が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の実施形態にかかるプロトン伝導性固体電解質材料およびプロトン伝導燃料電池について説明する。
【0027】
[プロトン伝導性固体電解質材料]
まず、本発明の一実施形態にかかるプロトン伝導性固体電解質材料について説明する。
【0028】
本発明の一実施形態にかかるプロトン伝導性固体電解質材料(以下単に、電解質材料と称する場合がある)は、La
1−yM
yYb
1−xIn
xO
3−δなる組成を有する。ここで、Mは、Ba,Sr,Ca,Mgから選択される少なくとも1種の元素である。また、xは、In含有量であり、0<x<1の範囲で選択される。yは、金属Mの含有量であり、0<y≦0.2の範囲で選択される。δは、ペロブスカイト型構造ABO
3における酸素空孔量であり、おおむね、0≦δ≦0.1の範囲である。
【0029】
La
1−yM
yYb
1−xIn
xO
3−δは、ペロブスカイト型構造ABO
3をとるLaYbO
3において、AサイトのLaの一部が金属Mに置換され、BサイトのYbの一部がInに置換されたものとみなすことができる。AサイトのLa(3価)を金属Mの2価カチオンで置換することによって、酸化物イオン空孔(酸素空孔)が生じる。酸化物イオン空孔が水分子の酸素を取り込み、発生したプロトンを同時に結晶中に溶解させることにより、La
1−yM
yYbO
3−δがプロトン伝導性を獲得する。さらに、Inが添加されることで、プロトン溶解が促進され、プロトン伝導度が上昇する。
【0030】
Aサイトを置換する金属Mとしては、上記で列挙したものを選択しうるが、La
1−yM
yYbO
3−δにおける導電率は、Ba>Sr>Ca>Mgのように、イオン半径の増大に伴って高くなっている。特に、SrやBaのようにLaよりもイオン半径の大きな元素を添加することで、結晶が歪んで水素を取り込みやすくなるからである。また、BaよりもSrの方が炭酸塩を形成しにくいため、本電解質材料においては、二酸化炭素に対する高い耐性を確保しながら、高い導電率を得る観点から、M=Srとする場合が最も好適である。なお、上記のように、Inを添加しない状態においては、M=Srとした場合に、M=Baの場合よりも導電率において劣るが、M=Srであっても、下記のようにIn添加を行うことで導電率を十分に向上させることができる。
【0031】
上記のように、金属Mの添加量yは、0<y≦0.2となっている。これは、金属Mの濃度が0.2よりも大きいと、固溶限を超えてしまい、単相とならないからである。添加量yは、導電率を効果的に上昇させる観点から、0.05≦y≦0.2の範囲にあることが好ましい。さらに、y=0.1程度までは、添加量yを増大させるほど導電率が上昇するが、y=0.1近傍で、それ以上添加量yを増やしても、導電率が低下するようになる(
図10参照)。これは、金属Mの添加量を増やしても、プロトン濃度が上がらなくなる反面、プロトン移動度(拡散係数)が低下してしまうためであると考えられる。従って、y=0.1とすることが特に好ましい。
【0032】
上記のように、本電解質材料においては、Bサイトの一部をInで置換することにより、導電率が上昇される。ただし、x=0.5を超えてInを添加しても、導電率上昇の効果が飽和する傾向となるうえ、Inは高価な元素であり、多量に添加するほど、電解質材料の材料コストが上昇する。これらの観点から、0<x≦0.5であることが好ましい。
【0033】
さらに、0<x≦0.5の範囲において、0.1≦x≦0.3の領域、さらに詳しくはx=0.2近傍で、In添加量xの増加に伴って、導電率が増加から減少に転じ、極大値を与える傾向がある(
図1参照)。従って、高い導電率を少量のInの添加で効果的に得るため、0.1≦x≦0.3の範囲とすることがさらに好ましい。
【0034】
このように導電率がIn添加量xに対して極大値をとるのは、In添加によるプロトン濃度とプロトン移動度(拡散係数)への影響によると解釈される。つまり、Inの添加量を上げるほど、プロトン濃度は上昇する。一方、InとYbが混合状態となるほど、プロトン移動度は低下し、おおむねx=0.5で極小となる。よって、プロトン濃度とプロトン移動度の積で表されるプロトン伝導度に、x<0.5の領域で極大値が現れると考えられる。ここで、Inの添加に伴ってプロトン濃度が上昇するのは、添加されたInカチオンがペロブスカイト型酸化物の結晶に歪みを形成することの効果によると考えられる。つまり、酸化物イオン空孔としては、歪みが小さく、安定であり、プロトン溶解に関与しない種類と、歪みが大きく、不安定であり、プロトンの溶解によって安定化される種類の少なくとも2種が存在すると考えられるが、Inを添加し、結晶の歪みを増大させることで、後者のプロトン溶解に関与する酸化物イオン空孔が増加すると解釈される。一方、移動度は、プロトンの拡散における活性化エネルギーが高いほど低下するが、YbとInが混合されるほど、Ybのみの場合やInのみの場合と比較して、電子状態の混成によってプロトン拡散のポテンシャル障壁が大きくなると解釈される。
【0035】
本電解質材料においては、上記のように、LaYbO
3のLaの一部を金属Mに置換し、さらにYbの一部をInに置換した組成を有することにより、高いプロトン伝導性を得ることができる。高いプロトン伝導性を示すペロブスカイト型酸化物として、BaCeO
3系の材料が知られているが、例えば特許文献1,2に開示されたこの種の材料においては、500℃において0.001Scm
−1以上の導電率が観測されている。本実施形態にかかるLaYbO
3系酸化物においても、上記のようにInの添加を行うことで、それに匹敵する高い導電率を得ることができる。例えば、M=Srである場合には、後に説明する実施例において
図1で説明するように、500℃(773K)において、0.001Scm
−1に近い導電率(log(σ/Scm
−1)〜−3.0)が得られている。
【0036】
後に実施例において、
図2で示すように、本電解質材料は、おおむね800℃を超える温度において、プロトン伝導性よりも正孔伝導性(電子伝導性)が優勢となってしまう(
図2参照)。一方、プロトン伝導性は、600℃未満の温度において、低下が顕著となる。よって、本電解質材料は、600〜800℃の温度領域で、良好なプロトン伝導体として使用することができる。
【0037】
LaYbO
3系の本電解質材料においては、上記のように、BaCeO
3系電解質材料に匹敵する高い導電率が得られるのに加え、BaCeO
3系電解質材料に比べて二酸化炭素に対して高い耐性が得られる。BaCeO
3系ペロブスカイト型酸化物においては、Aサイトの大部分をBaが占めているが、Baは高温において二酸化炭素と容易に反応し、炭酸塩を形成する。これに対し、本電解質材料においては、Aサイトの大部分を二酸化炭素と容易には反応しないLaが占めており、二酸化炭素と反応しうるアルカリ土類金属元素Mは、Aサイトの20%以下を占めるのみである。よって、高温で二酸化炭素に晒されても、炭酸塩となりにくく、二酸化炭素に対して高い耐性を有する。また、BaCeO
3系の電解質材料は、水によっても分解を生じるが、LaYbO
3系の本電解質材料は、それに比べて、水に対する耐性も高い。
【0038】
本電解質材料は、固相反応法によって作製することができる。つまり、La
2O
3、Yb
2O
3、In
2O
3、SrCO
3等、電解質材料を構成する各成分元素を含有する出発物質を、所定の比率で配合し、ボールミル等を用いて混合する。混合は、乾式で行っても、エタノール等を用いて湿式で行ってもよい。そして、得られた混合粉末を適宜成形した後、1500〜1700℃の温度で焼成すればよい。
【0039】
本電解質材料は、高いプロトン伝導性と二酸化炭素や水に対する耐性を有することから、次に述べるように、プロトン伝導燃料電池(PCFC)の電解質層として好適に用いることができる。さらには、水素濃度を検出する水素センサとしての応用も考えられる。あるいは、水素ステーション等で水素を圧縮するのに利用する水素ポンプの材料としても応用が期待される。
【0040】
[プロトン伝導燃料電池]
次に、本発明の一実施形態にかかるプロトン伝導燃料電池について説明する。
【0041】
(1)プロトン伝導燃料電池の基本構成
本発明の一実施形態にかかるプロトン伝導燃料電池(以下単に、燃料電池またはPCFCと称する場合がある)は、上記のようなLa
1−yM
yYb
1−xIn
xO
3−δなる組成を有するプロトン伝導性固体電解質材料よりなる電解質層を有する。そして、電解質層の一方面にアノード(燃料極)を、他方面にカソード(空気極)を備えた単セル構造を有している。電解質層がプロトン伝導性を有することにより、単セルは、プロトン伝導燃料電池として機能する。
【0042】
なお、単セルにおいて、アノードおよびカソードの各電極は、電解質層に直接接合されていてもよいし、電極と固体電解質との間に任意に中間層が介在されていてもよい。また、単セルは通常、適宜セパレータを介して複数集積した状態で、燃料電池として使用に供される。セパレータと各電極の間には、適宜集電材が配置されてもよい。
【0043】
上記のように、La
1−yM
yYb
1−xIn
xO
3−δは高いプロトン伝導性を有するとともに、二酸化炭素に対して高い耐性を有する。このような特性を有する材料をPCFCの電解質層として用いることで、高い発電特性、つまり高起電力や高出力密度を達成することができる。また、二酸化炭素を含む燃料ガスを供給しながら長時間の運転を行っても、二酸化炭素の影響による変化を受けにくく、高い発電特性が維持されやすい。なお、本PCFCの電解質層は、La
1−yM
yYb
1−xIn
xO
3−δのみよりなっても、そのプロトン伝導性と二酸化炭素に対する耐性を損なわない限りにおいて、別の固体電解質材料を適宜添加されてもよい。このような固体電解質材料としては、二酸化炭素耐性のあるプロトン伝導体として、他のLa系ペロブスカイト型化合物、つまりLaScO
3,LaInO
3,LaYbO
3,LaYO
3等、およびそれらのA,Bサイトの一部を適宜置換した化合物を挙げることができる。
【0044】
上記のように、La
1−yM
yYb
1−xIn
xO
3−δは、800℃を超える温度領域で、正孔伝導がプロトン伝導に比べて優勢となる。すると、PCFCにおいて、起電力が低下し、発電効率も低下してしまうことになる。よって、本PCFCは、800℃以下の動作温度で使用することが好ましい。一方、600℃未満の温度領域では、プロトン伝導度の低下が著しく、十分な発電特性が得にくくなる。よって、本PCFCは、600℃以上の動作温度で使用することが好ましい。
【0045】
さらに、La
1−yM
yYb
1−xIn
xO
3−δを電解質層として用いた本PCFCにおいては、電解質材料へのInの添加によって、電解質層自体の導電率が向上されるだけでなく、電解質層に接合されるアノードおよびカソードにおける導電率も向上される(
図4参照)。これは、Inの添加によって、電極反応が活性化され、電極反応抵抗が低減されるためであると考えられる。
【0046】
本PCFCにおいては、アノードおよびカソードを構成する材料は特に指定されず、一般の固体酸化物形燃料電池のアノードおよびカソードとして使用可能な材料をそれぞれ適宜選択すればよい。しかし、電解質層を構成するLa
1−yM
yYb
1−xIn
xO
3−δとの組み合わせにおいて、高い発電特性を与えることができる特定のアノード材料およびカソード材料が存在する。次に、それらについて説明する。なお、アノードおよびカソードにおいては、次に説明する特定の材料の他に、それらの有する特性を妨げない範囲において、他の材料が適宜混合されていてもよい。
【0047】
(2)アノード材料
本PCFCにおいて、La
1−yM
yYb
1−xIn
xO
3−δよりなる電解質層に接合するアノードとして、Ni、あるいはNiのサーメットを用いることが好適である。Niおよびサーメットを構成するNiは、純Niの他に、Niを主成分とする合金であってもよい。
【0048】
本PCFCにおいて、アノードをNiより構成することで、アノード過電圧が非常に低い状態で発電を行うことができる。Niは、固体酸化物形燃料電池において、アノード材として汎用される金属材料であるが、電解質層を構成する材料によっては、電解質層との間で化学反応や原子拡散を起こす場合があり、各種電解質と組み合わせて必ずしも好適に用いることができるとは限らない。また、電解質層とアノード材との界面の状態によっては、電極反応が進行しにくい場合もある。しかし、本PCFCにおいて、La
1−yM
yYb
1−xIn
xO
3−δよりなる電解質層に接合させるアノードとしてNiを用いる場合には、このような問題が起こらず、良好な発電特性を与える。
【0049】
また、一般に、PtやPd等の貴金属を固体酸化物形燃料電池のアノードとして用いれば、Niを用いる場合と比較して、さらに低いアノード過電圧を実現できることも多い。しかし、La
1−yM
yYb
1−xIn
xO
3−δを電解質層とする本PCFCにおいては、PtやPdを用いる場合よりも、Niを用いる場合に、顕著に低いアノード過電圧が得られる(
図5参照)。これは、Niを用いた場合に、担体効果を含めた燃料を酸化する触媒活性が高いため、また、三相界面でガスの吸着/脱離がスムーズに行われやすいためであると考えられる。Niは、PtやPdよりも安価な金属であり、本PCFCにおいて、Niをアノードに用いることで、低コストで、発電特性に優れたPCFCを得ることができる。なお、アノードを作製するに際し、金属NiではなくNi酸化物(NiO)を用いてもよく、この場合には、PCFCの使用に先立ち、Niを還元しておけばよい。
【0050】
本PCFCにおいて、アノードとしては、単独のNiの他に、Niのサーメットを用いてもよい。特に、サーメットを構成するセラミック材料を本発明の実施形態にかかるプロトン伝導性固体電解質材料であるLa
1−yM
yYb
1−xIn
xO
3−δとすることで、Niを単独でアノードとして用いる場合よりもさらに低いアノード過電圧を得ることができる(
図5参照)。これは、NiとLa
1−yM
yYb
1−xIn
xO
3−δ電解質材料が接する界面の総面積が大きくなること等に起因して、アノードにおける電極反応が起こりやすくなるためであると考えられる。なお、アノードのサーメットを構成するLa
1−yM
yYb
1−xIn
xO
3−δと、アノードが接合される電解質層を構成するLa
1−yM
yYb
1−xIn
xO
3−δとの間で、x,yおよびMが同じであっても、異なっていてもよい。構成の簡素化等の観点からは、これらを同じにすることが好ましい。サーメットを構成するNiと電解質材料の比率としては、体積比で4:6〜6:4の範囲とすることが好ましい。
【0051】
(3)カソード材料
(3−1)電子−侵入型酸化物イオン混合伝導体を用いる場合
本PCFCにおいて、La
1−yM
yYb
1−xIn
xO
3−δよりなる電解質層に接合するカソードとして、電子−侵入型酸化物イオン混合伝導体よりなる電解質材料を用いることが好適である。電子−侵入型酸化物イオン混合伝導体は、格子間に侵入した酸化物イオンによる電気伝導と、電子伝導とが混合して起こる伝導体であり、La
2NiO
4(LN)を例示することができる。現在のところ、電子−侵入型酸化物イオン混合伝導体が固体酸化物形燃料電池のカソード材料として用いられることは多くない。
【0052】
一般には、固体酸化物形燃料電池において、LSMに代表される酸素空孔−正孔混合伝導体がカソード材料として多用される。酸素空孔−正孔混合伝導体においては、酸化物イオンが結晶中に実質的に侵入せず、酸素空孔による電気伝導と正孔伝導(つまり電子伝導)が混合して起こる。
【0053】
本電解質材料La
1−yM
yYb
1−xIn
xO
3−δとの組み合わせにおいては、カソードに電子−侵入型酸化物イオン混合伝導体を用いることで(
図6参照)、酸素空孔−正孔混合伝導体を用いる場合(
図3参照)よりも、高い最大出力密度を得ることができる。これにより、PCFCの発電特性が高められる。これは、酸素空孔−正孔混合導電体のように、結晶を構成する酸化物イオンが結晶中を移動する場合よりも、電子−侵入型酸化物イオン混合伝導体のように、結晶外から侵入した酸化物イオンが結晶中を移動する場合に、酸化物イオンが電解質層から到達したプロトンと結晶表面で反応しやすいためであると考えられる。このように、表面反応の寄与が大きいことは、LNのような電子−侵入型酸化物イオン混合伝導体を用いた場合でも、低温では過電圧が大きくなること等によって支持される。
【0054】
(3−2)Ba
0.5Sr
0.5Co
0.8Fe
0.2O
3−δを用いる場合 本PCFCにおいて、さらに優れた発電特性を与える
カソード材料として、Ba
0.5Sr
0.5Co
0.8Fe
0.2O
3−δ(BSCF;δは酸素空孔量)を挙げることができる。BSCFは、酸素空孔−正孔混合伝導体に分類されうるものであるが、本PCFCの
カソードとして用いることで、LNのような電子−侵入型酸化物イオン混合伝導体よりも、さらに高い発電特性を与える。
【0055】
つまり、BSCFを
カソードとして用いることで(
図7(a),(b)参照)、LSMのような、より一般的な酸素空孔−正孔混合伝導体を用いる場合(
図3、
図5参照)と比較して、極めて高い出力密度と、極めて低いカソード過電圧が得られる。これらの効果により、PCFCにおいて非常に高い発電特性を得ることができる。これは、BSCFが、一般的な酸素空孔−正孔混合伝導体と比較して、高い表面活性を有するためであると考えられる。
【0056】
BSCFにおいては、ペロブスカイト型構造のAサイトの全てがアルカリ土類金属で占められ、しかもその半分がBaであるので、もしPCFCの電解質層として用いれば、BaCeO
3系電解質を用いる場合と同様に、二酸化炭素による炭酸塩の形成が無視できないものとなると考えられる。しかし、ここでは、BSCFを、高濃度の二酸化炭素を含んだ燃料ガスと接触する電解質層ではなく、二酸化炭素濃度の低い空気としか接触しないカソードとして用いているので、二酸化炭素による劣化の問題は比較的小さい(
図8参照)。
【0057】
(4)固体電解質層の薄膜化
本PCFCの単セルにおいて、電解質層は、自立膜式よりなっても、アノードまたはカソードを基板とし、その基板の肉厚よりも薄く形成した薄膜状の電解質層を基板によって支持する支持膜式よりなってもよい。電解質層の電気抵抗を低減する観点からは、支持膜式とする方が好ましい。自立膜式の場合には、電解質層を自立させるために、ある程度以上の厚みが電解質層に必要であるのに対し、支持膜式の場合には、La
1−yM
yYb
1−xIn
xO
3−δよりなる電解質層を薄く形成することで、電解質層における電気抵抗を低減し、出力密度を高めることができるからである。例えば、自立膜式の場合には、電解質層を0.5mm程度の厚みで形成する必要があるのに対し、アノードまたはカソードを基板として、電解質層の厚さを50μm以下とすれば、効果的に電気抵抗の低減と出力密度の向上を図ることができる。例えば、出力密度を約5倍以上とすることができる(
図3,9参照)。電気抵抗が低く、セルとした時に集電ロスが少なくなる、最適な焼成温度が近く、電解質層との同時焼成が容易である、機械的強度が高い、等の理由から、カソードよりもアノードを基板とすることが好ましい。
【0058】
このような支持膜式のPCFCを作製するには、基板(例えばアノード)の表面に、電解質層を構成する電解質材料を含むスラリーを薄膜状に塗布等して焼結すればよい。さらに基板としない方の電極(例えばカソード)の薄膜を、電解質薄膜の上に形成すればよい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0060】
[実験1:In添加量の効果]
(試料の作製)
La
0.9Sr
0.1Yb
1−xIn
xO
3−δの組成を有する固体電解質材料を固相反応法にて調整した。つまり、出発物質として、La
2O
3(99.9%)、Yb
2O
3(99.9%)、In
2O
3(99.99%)、SrCO
3(99.9%)を秤量し、エタノール中で湿式混合した。ここで、Inの添加量xを0≦x<1の範囲で変化させるように、出発物質の配合量を選択した。そして、空気中で1300℃にて10時間の仮焼を行った。その後、ボールミルにて粉砕後、成形して静水圧プレスにて圧粉し、1600℃にて10時間、空気中で焼成した。
【0061】
(導電率の測定)
上記で得られた各試料を角柱状に加工し、白金電極を取り付けた。そして、交流四端子法にてインピーダンス測定を行い、電流−電圧特性から、各試料の導電率を計測した。導電率の計測は、圧力比で1.9%H
2O−1%H
2−Arの雰囲気において、400〜900℃(673〜1173K)の範囲の所定の温度で行った。
【0062】
(結果および考察)
図1に、測定温度ごとに、In添加量xを変化させた際の導電率(σ)の測定結果を示す。これによると、Inを添加することで、Inを添加しない場合(x=0)と比較して、導電率の値が大きくなっている。これより、プロトン伝導性を有するLa
0.9Sr
0.1YbO
3−δにInを添加することで、導電率を上昇させる効果が得られることが分かる。
【0063】
さらに、試料の導電率は、x≦0.5の領域、詳細にはx=0.2の近傍において、極大値をとっている。これより、少量のInの添加で導電率を効果的に向上させるためには、In添加量xをx≦0.5とすること、さらには0.1≦x≦0.3とすることが好ましいと言える。このように、導電率がIn添加量xに対して極大値をとる挙動は、既述のように、プロトン濃度およびプロトン移動度に対するInの影響に基づいて説明することができる。
【0064】
[実験2:導電率の温度依存性]
(試料の作製)
上記実験1と同様にして、x=0.2とした試料、つまりLa
0.9Sr
0.1Yb
0.8In
0.2O
3−δ電解質材料を作製した。
【0065】
(導電率の温度依存性の測定)
上記試料に対し、実験1で行ったのと同様の導電率測定を行った。ここで、測定時の雰囲気は、1.9%H
2O−1%O
2−Ar、1.9%D
2O−1%O
2−Ar、1.9%H
2O−1%H
2−Arの3通りとした。また、測定温度は、400〜900℃の間で変化させた。
【0066】
(結果および考察)
図2に、プロット点として、上記各雰囲気で測定された導電率(σ)の温度依存性を、温度(T)の逆数に対して示す。
図2においては、グラフ右側の比較的低温の領域において、還元的雰囲気(H
2O/H
2;▲)における導電率と、酸化的雰囲気(H
2O/O
2;●)における導電率がほぼ一致している。また、酸化的雰囲気において、比較的低温の領域において、H
2Oを用いた場合(●)とD
2Oを用いた場合(○)で、導電率に顕著な差(同位体効果)が見られている。
【0067】
導電率に同位体効果が見られているのはおおむね800℃以下(1000T
−1≧0.93K
−1)であり、800℃以下の領域において、酸化的雰囲気であっても、正孔伝導よりもプロトン伝導が支配的となることを示している。このことから、本電解質材料をPCFCの電解質層等として用いる際に、プロトン伝導を支配的に利用するためには、温度を800℃以下とすればよいことが分かる。
【0068】
一方、還元的雰囲気においては、全温度領域においてプロトン伝導が支配的に起こっていると考えられるが、
図2において、600℃以上(1000T
−1≦1.14K
−1)の領域では、導電率がなだらかにしか変化していないのに対し、600℃よりも低温の領域では、温度の低下に伴って、導電率が急激に低くなっている。これより、燃料電池等に利用するために、La
0.9Sr
0.1Yb
0.8In
0.2O
3−δにおいて高いプロトン伝導度を得るには、温度を600℃以上とすればよいことが分かる。
【0069】
このようなプロトン伝導および正孔伝導の温度および雰囲気に対する依存性は、プロトン、正孔を考慮した電気伝導モデルを用いたカーブフィッティングによって再現することができる。
図2では、このような解析に基づいて、プロトン伝導度と正孔伝導度の寄与を分離した結果を、カーブフィッティングの結果とともに示している。この解析結果も、上記のように、800℃以下でプロトン伝導が優勢となること、600℃以上で高いプロトン伝導度が得られることを示している。
【0070】
[実験3:プロトン伝導燃料電池における発電特性]
(試料の作製)
上記実験2と同様に調製したLa
0.9Sr
0.1Yb
0.8In
0.2O
3−δ電解質材料を直径13mm、厚さ0.5mmのディスク状に成形した。そしてディスクの一方面にカソード材としてLSMを積層し、1150℃にて焼成した。また、NiOとLa
0.9Sr
0.1Yb
0.8In
0.2O
3−δ電解質材料を体積比3:2にて混合してサーメットを形成し(Ni/LSYbInサーメット)、アノード材としてディスクの他方面に積層した。そして、600℃にて水素還元することでアノードのNiを還元した。このようにして燃料電池単セルの積層体を形成した。
(発電特性の測定)
上記のようにして形成した燃料電池単セルを用いて、(wet−H
2)Ni/La
0.9Sr
0.1Yb
0.8In
0.2O
3−δ|La
0.9Sr
0.1Yb
0.8In
0.2O
3−δ|La
0.8Sr
0.2MnO
3−δ(wet−air)で表される電池構造を作製した。ここで、アノードに供給するガスであるwet−H
2としては、1.9%H
2O−H
2を用い、カソードに供給するガスであるwet−airとしては、1.9%H
2O−21%O
2−N
2を用いた。そして、600〜800℃の温度にて、電流―電圧特性を測定することで、起電力と出力密度を得た。
【0071】
(結果と考察)
上記電池構造において得られた発電特性を
図3に示す。これによると、800℃(1073K)で、8.2mWcm
−2の最大出力密度が得られている。また、起電力は、ネルンストの式に従う挙動を示しており、過電圧の寄与分を除いて、カチオン伝導モデルにて見積もった理論値と一致している。これらより、上記電池構造において、カチオン伝導が起こっていることが確認される。
【0072】
[実験4:電極の導電率に対するプロトン伝導性電解質の効果]
(試料の作製)
実験3と同様にして、xの値を3とおりに変化させながら、La
0.9M
0.1Yb
0.8In
0.2O
3−δ(ただしx=0のときM=Ba、x=0.2,0.5のときM=Sr)を電解質とする燃料電池を構成した。アノードはNiとし、カソードはLSMとした。ここで、x=0の場合のみM=Baとしているのは、Srでは電解質の導電率が著しく低くなり、測定が困難であるためである。
【0073】
(電解質層および電極の導電率の測定)
上記電池に対して、インピーダンス測定による電流−電圧特性の測定と、電流遮断法による測定を併用することで、電解質層およびアノード、カソードそれぞれの導電率を分離して見積もった。測定温度は800℃とした。
【0074】
(結果と考察)
電解質層、アノード、カソードそれぞれの導電率(σ)を、In添加量xに対してプロットしたものを
図4に示す。当然ながら、電解質層の挙動は、
図1に示した電解質材料のみでの計測結果と合致している。そして、アノード、カソードの各電極においても、導電率がIn添加量xに対する依存性を示し、x=0.2付近で極大となっている。
【0075】
このことは、電解質層の組成が、電解質層自体のみならず、電解質層に接合された電極の導電率にも影響することを意味している。これは、Inの添加によって、電極反応が活性化され、電極反応抵抗が低減される結果であると解釈することができる。そして、少なくともアノードがNiである場合、カソードがLSMである場合には、La
0.9M
0.1Yb
0.8In
0.2O
3−δよりなる電解質層との界面で、電極の導電率を低下させるような化学反応は起こっていないと言える。
【0076】
[実験5:アノード材料の効果]
(試料の作製)
実験3の場合と同様に、La
0.9Sr
0.1Yb
0.8In
0.2O
3−δを電解質層とし、LSMをカソードとする燃料電池を作製した。アノードは、Pd,Pt,Ni,Ni/LSYbInサーメット(実験3と同じ)の4とおりとした。
【0077】
(アノード過電圧の測定)
800℃において、インピーダンス測定による電流−電圧特性の測定を行った。そして、理論式を用いてアノード電圧の寄与を分離し、理論的なアノード電圧との差として、アノード過電圧(η
anode)を見積もった。アノード過電圧が低いほど、電極反応の活性化エネルギーが小さく、燃料電池として優れているとみなすことができる。
【0078】
図5に、アノードの種類ごとに、アノード過電圧の値をプロットしている。これによると、アノードの種類によって、アノード過電圧に著しい差が見られている。これは、アノードの種類によって、アノード/電解質層界面の状態が大きく異なり、適切な電極種の選択が重要であることを示している。
【0079】
具体的には、PdおよびPtを用いる場合よりも、Niを用いる場合に、アノード過電圧が小さくなっている。そして、Ni/LSYbInサーメットにおいては、さらに著しくアノード過電圧が低くなっている。これは、低い電極反応抵抗を与えるNi/La
0.9M
0.1Yb
0.8In
0.2O
3−δ界面が大面積で形成されることの効果によると考えられる。
【0080】
[実験6:カソードの効果]
(試料の作製)
実験3の場合と同様の方法で、La
0.9Sr
0.1Yb
0.8In
0.2O
3−δを電解質層とし、Ni/LSYbInサーメットをアノードとし、La
2NiO
4(LN)またはBa
0.5Sr
0.5Co
0.8Fe
0.2O
3−δ(BSCF)をカソードとする2種の燃料電池を作製した。
【0081】
(発電特性の測定)
作製した2種の燃料電池について、実験3と同様にして、起電力と出力密度を測定した。さらに、BSCFをカソードとするものについては、800℃にて72時間にわたって運転を継続し、24時間経過後および72時間経過後にも同様の測定を行った。
【0082】
(結果と考察)
図6に、LNをカソードとした場合の発電特性の測定結果を示す。これによると、800℃(1073K)において、9.1mWcm
−2の最大出力密度が得られている。これは、
図3に示した実験3のLSMをカソードとする場合の8.2mWcm
−2との値よりも大きなものとなっている。
【0083】
図7(a)に、BSCFをカソードとした場合の発電特性の測定結果を示す。これによると、800℃(1073K)において、約20mWcm
−2もの最大出力密度が得られている。これは、LSMをカソードとする場合(
図3;8.2mWcm
−2)およびLNをカソードとする場合(
図6;9.1mWcm
−2)よりも極めて大きな値である。
【0084】
また、
図7(b)に、アノード、カソードの過電圧と電解質層のオーム損の各成分を分離した解析結果を示すが、カソードにおいて、低い過電圧が観測されている。例えばLSMをカソードに用いた場合には、カソード過電圧は、電流密度20mAcm
−2で0.2V程度であり、これに比べて非常に低い。また、オーム損が、図中に実線で示した理論値とよく一致している。これらより、BSCF
カソードとLa
0.9Sr
0.1Yb
0.8In
0.2O
3−δ電解質層の間には、電極反応の活性化障壁が小さい良質な界面が形成されていると言える。
【0085】
さらに、
図8に示す耐久試験の結果を見ると、(a)の発電特性測定において、少なくとも24時間が経過した以降は、起電力、出力密度とも大きな変化を示しておらず、安定している。また、(b)のカソード過電圧も大きな変化は示していない。このことは、長時間の運転を経ても、BSCFカソードは、二酸化炭素との反応によるBa炭酸塩の形成等の劣化をそれほど受けていないことを示している。一方で、(b)において、オーム損は比較的大きな経時変化を示している。これは、BSCFカソード中のCoが電解質層のLa
0.9Sr
0.1Yb
0.8In
0.2O
3−δ中に固溶したためであると考えられる。LaYbO
3系のカチオン伝導性固体電解質材料にCoを添加すると導電率が低下することが知られている。
【0086】
[実験7:電解質層の薄膜化]
(試料の作製)
(1)アノード基板の作製
まず、Ni/LSYbInサーメットよりなるアノード基板を作製した。具体的には、実験1と同様に作成したLa
0.9Sr
0.1Yb
0.8In
0.2O
3−δを粉砕後、NiOと体積比2:3となるように混合し、ディスク状に成形後、1200℃で5時間の仮焼を行った。そして、得られたディスクを厚さ0.5mmまで研磨した。
【0087】
(2)電解質薄膜の作製
(1)で用いたのと同じLa
0.9Sr
0.1Yb
0.8In
0.2O
3−δの粉末とエチルセルロースを100:6の質量比で混合し、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルを加えてペースト化した。これを、スクリーン印刷法にて、上記で作製したアノード基板の一方面に塗布して、1500℃で10時間、本焼成した。得られた電解質薄膜の厚さは約50μmであった。
【0088】
(3)カソードの作製
上記で作製した電解質薄膜の表面に、LSMにエチレングリコールを混ぜたペーストを塗布し、カソードとした。
【0089】
(4)アノード基板の還元処理
上記で電解質薄膜とカソード材の薄膜を形成したアノード基板に対して、900℃で1時間加熱することでシーリング処理を行った。さらに、800℃にて約3時間、1.9%H
2O−H
2雰囲気に曝露することで、アノード基板中のNiOの還元を行った。
【0090】
(発電特性の測定)
上記で得られた試料に対して、実験3と同様にして、起電力と出力密度を測定した。
【0091】
(結果と考察)
図9に、発電特性の測定結果を示す。これによると、800℃(1073K)で約40mWcm
−2もの最大出力密度が得られている。これは、
図3のように、同じ組成の電解質層を0.5mmの厚さの自立膜として形成した実験3の場合に得られた、8.2mWcm
−2との値の約5倍に当たる。これは、電解質層を薄膜化することで、電解質層における電気抵抗が減少したためであると考えられる。
【0092】
[実験8:金属Mの添加量]
以上の各実験においては、La
1−ySr
yYb
1−xIn
xO
3−δ(y=0.1)の組成を有する電解質材料を用いて特性等を検討したが、最後に、金属M(上ではSr)の添加量yが導電率に与える効果について、La
1−yBa
yYbO
3−δの場合を例として検討する。
【0093】
(試料の作製)
実験1の場合と同様にして、La
1−yBa
yYbO
3−δの組成を有する電解質材料を固相反応法にて調整した。ここで、Baの添加量yは、0.02〜0.20の範囲で4とおりに変化させた。
【0094】
(導電率の測定)
実験1の場合と同様にして、導電率の測定を行った。測定は、300〜900℃の範囲の所定の温度で行った。
【0095】
(結果と考察)
図10に、導電率(σ)の温度変化を、Baの添加量yごとに示す。これによると、添加量yが0.02から0.10に増加するに従って、各温度域で導電率が上昇している。y=0.02の場合には、特に低温の領域(図中右側)で導電率が低くなっており、おおむねy=0.05以上とした方がよいことが分かる。一方、添加量yを0.10から0.20にさらに増加させると、導電率が減少に転じている。つまり、y=0.10付近の添加量を選択すれば、特に高い導電率を得ることができる。
【0096】
本発明は上記実施形態および実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。