(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1固定プレート(5)が、前記第1方向(X)で離間して前記新設鋼材(4)に固定された少なくとも2つの一体プレート部材(51、51)と、前記新設鋼材(4)および前記少なくとも2つの一体プレート部材(51、51)から分離され、前記少なくとも2つの一体プレート部材(51、51)の間に配置される少なくとも1つの分離プレート部材(52)とを備えることを特徴とする請求項1または2記載の鋼材接合構造(1)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の鋼材接合構造の実施形態を説明する。
【0014】
本発明の鋼材接合構造1は、
図1に示されるように、既設の建築構造物において、既に配設された鋼材(既設鋼材3)を含む構造体2に、新たに配設する鋼材(新設鋼材4)を接合するために用いられる。本発明の鋼材接合構造が適用される建築構造物としては、たとえば鉄骨構造物などが挙げられるが、鋼材を用いた建築構造物であればいかなる建築構造物に対しても適用することができる。また、本発明の鋼材接合構造は、たとえば既設の建築構造物に耐震補強工事を施すような場合に、制振ダンパーなどの制振装置に接続された鋼材やブレースを新設鋼材として構造体に接合するために用いることができる。しかし、本発明の鋼材接合構造は、その用途に限定されることはなく、既設鋼材を含む構造体に新設鋼材を接合する他の用途にも用いることができる。以下、既設の建築構造物において、梁として配設されたH形鋼(既設鋼材)を含む構造体に、制振装置に接続された鋼材(新設鋼材)を接合した例について説明する。
【0015】
本発明の一実施形態(以下、第1実施形態という)の鋼材接合構造1は、
図1〜
図3に示されるように、第1方向Xに延び、その第1方向Xに略垂直な第2方向Yで互いに離間して略平行に配置された第1面31aおよび第2面32aを有する既設鋼材3と、既設鋼材3を含む構造体2に接合される新設鋼材4とを備えている。さらに、鋼材接合構造1は、新設鋼材4に設けられ、第1面31a側に配置された第1固定プレート5と、第2面32a側に配置され、第1固定プレート5とともに構造体2を第2方向Yで挟持する第2固定プレート6と、第1固定プレート5および第2固定プレート6を第2方向Yで連結する緊張材9とを備えている。鋼材接合構造1では、第1固定プレート5および第2固定プレート6が、第2方向Yで緊張材9により連結されて、第2方向Yで構造体2を挟持することによって、第1固定プレート5が設けられた新設鋼材4が、既設鋼材3を含む構造体2に接合される。
【0016】
構造体2は、第1実施形態では、既設鋼材3と、既設鋼材3の第1面31a側に設けられた床材Fとを含んでいる。しかし、構造体2は、既設鋼材3を含んでいればよく、たとえば床材Fとは別に天井材や壁材など他の部材を含んでいてもよいし、床材Fを含むことなく既設鋼材3のみを含んでいてもよい。また、床材Fを含めて他の部材の設けられる位置も、既設鋼材3の第1面31a側に限定されることはなく、既設鋼材3の第2面32a側など他の位置であっても構わない。
【0017】
既設鋼材3は、
図1〜
図3に示された第1実施形態では、水平方向(第1方向X)に延びて配設されたH形鋼である。既設鋼材3は、
図1〜
図3に示されるように、鉛直方向(第2方向Y)で互いに離間して略平行に配置された第1フランジ31および第2フランジ32と、第1フランジ31と第2フランジ32との間を連結するウェブ33とを備え、水平方向に略垂直な断面形状が略H字状を呈している。上述した第1面31aおよび第2面32aはそれぞれ、第1実施形態では、第1フランジ31の外面および第2フランジ32の外面に対応する。既設鋼材3は、第1実施形態では水平方向に延びているが、一方向に延びていればよく、たとえば鉛直方向など他の方向に延びていてもよい。また、既設鋼材3は、第1実施形態ではH形鋼であるが、既設鋼材3が延びる方向と略垂直な方向で互いに離間して略平行に配置された2つの面を有していればよく、たとえば四角柱状の鋼材など他の形状の鋼材であっても構わない。また、既設鋼材3の材質としては、特に限定されることはなく、建築構造物に一般的に用いられる鋼材の材質と同様の材質とすることができる。
【0018】
新設鋼材4は、既設鋼材3を含む構造体2に接合される部材である。新設鋼材4は、
図1〜
図3に示されるように、鉛直方向(第2方向Y)に延びて配設されており、第2方向Yの一端側(下端側)に、溶接やボルト締結などの公知の方法により、第1固定プレート5が固定され、第2方向Yの他端側(上端側)に、図示しない制振装置が接続される。新設鋼材4は、既設鋼材3の第1面31a側に設けられた床材Fを介して、第1固定プレート5とともに既設鋼材3の第1面31aに間接的に接合される。しかし、新設鋼材4は、既設鋼材3を含む構造体2に接合されればよく、第1固定プレート5とともに既設鋼材3の第1面31aに床材Fを介さずに直接的に接合されてもよいし、既設鋼材3の第1面31aではなく、第2面32aにのみ直接的または間接的に接合されてもよいし、既設鋼材3の第1面31aおよび第2面32aの両方に直接的または間接的に接合されてもよい。たとえば、既設鋼材3の第1面31a側および第2面32a側の両方に新設鋼材4を接合する場合には、第1実施形態において、第2固定プレート6を他の新設鋼材に設けることによってその構造が実現する。したがって、本発明の鋼材接合構造によれば、新設鋼材4は、第1固定プレート5とともに既設鋼材3の第1面31aおよび/または第2面32aに直接的または間接的に接合される。
【0019】
また、新設鋼材4は、
図1〜
図3に示された第1実施形態では、水平方向で互いに離間して略平行に配置された2つのフランジ41、42と、2つのフランジ41、42間を連結する連結部材43とを備え、水平方向の断面形状が略H字状を呈している。しかし、新設鋼材4は、第1固定プレート5が設けられ、第1固定プレート5とともに構造体2に接合することができれば、その形状や、配設される方向、他端に接続される部材などは、第1実施形態に限定されることはなく、たとえば鉛直方向から傾斜するブレースを新設鋼材として用いてもよい。また、新設鋼材4の材質としては、特に限定されることはなく、建築構造物に一般的に用いられる鋼材の材質と同様の材質とすることができる。
【0020】
第1固定プレート5および第2固定プレート6は、上述したように、緊張材9によって互いに第2方向Yで連結され、第2方向Yで構造体2を挟持して、新設鋼材4を構造体2に接合する。第1固定プレート5は、
図1および
図3に示されるように、第1方向Xおよび第2方向Yに略垂直な第3方向Zにおける第1固定プレート5の両端が、第3方向Zにおける第1面31aの両端から突出するように形成され、配設される。同様に、第2固定プレート6は、第3方向Zにおける第2固定プレート6の両端が、第3方向Zにおける第2面32aの両端から突出するように形成され、配設される。そして、第1固定プレート5および第2固定プレート6のそれぞれの突出した領域5a、6aにおいて、緊張材9により第1固定プレート5および第2固定プレート6が連結される。このように突出した領域5a、6aにおいて第1固定プレート5および第2固定プレート6を連結することで、既設鋼材3に緊張材9のための貫通孔を設けることなく、また溶接によることなく、新設鋼材4を構造体2に接合することができ、新設鋼材4を既設鋼材3に間接的に接合することができる。
【0021】
より具体的に説明すると、第1固定プレート5および第2固定プレート6は、
図1〜
図3に示されるように、略同一の表面積で、略同一の第1方向Xに延びる略矩形の板状に形成され、互いの板状の面が第2方向Yで構造体2を介して対向するように配設されている。第1固定プレート5および第2固定プレート6はそれぞれ、第3方向Zの長さが、第1面31aおよび第2面32aのそれぞれの第3方向Zの長さより長くなるように形成されている。そして、上述したように、第1固定プレート5および第2固定プレート6はそれぞれ、第3方向Zの両端が、第1面31aおよび第2面32aのそれぞれの第3方向Zの両端から突出するように配設されている。第1固定プレート5および第2固定プレート6のそれぞれから突出した領域(第1突出部5aおよび第2突出部6a)は、第1方向Xに延びる略矩形状に形成されている。第1突出部5aおよび第2突出部6aのそれぞれには、緊張材9が挿通可能であり、第1方向Xに沿って並ぶ4つの貫通孔(第1貫通孔5hおよび第2貫通孔6h)が設けられている(
図2および
図3を参照)。第1突出部5aおよび第2突出部6aに設けられた第1貫通孔5hおよび第2貫通孔6hに緊張材9が挿通され、その緊張材9に緊張力が付与されることによって、第1固定プレート5および第2固定プレート6が構造体2を介して互いに連結される。そして、第1固定プレート5および第2固定プレート6が互いに連結されることによって、新設鋼材4が構造体2に接合され、既設鋼材3に間接的に接合される。
【0022】
第1固定プレート5および第2固定プレート6はそれぞれ、第3方向Zの両端が、第1面31aおよび第2面32aのそれぞれの第3方向Zの両端から突出するように形成されていればよく、たとえば略楕円形状など他の形状に形成されてもよいし、互いに異なる大きさに形成されてもよい。また、第1固定プレート5および第2固定プレート6としては、既設鋼材3や新設鋼材4と同じ材質の鋼材を用いることができるが、鋼材接合構造1に力が加わっても、既設鋼材3や新設鋼材4よりも先に脆性破壊が生じることがなければよく、他の材質の材料で形成されたものを用いることもできる。
【0023】
緊張材9は、緊張力が付与されることにより、第1固定プレート5および第2固定プレート6を互いに連結する。緊張材9は、
図1〜
図3に示されるように、第2方向Yに沿って延び、第1突出部5aおよび第2突出部6aに設けられた第1貫通孔5hおよび第2貫通孔6hに挿通され、第2方向Yの両端が、第1突出部5aおよび第2突出部6aの、構造体2に対向する面と反対側の面から突出するように配置されている。緊張材9は、第1突出部5aおよび第2突出部6aから突出した両端に座金Wが挿通され、ナットNが螺合されて、第2方向Yに沿って緊張力が付与される。緊張材9に緊張力が付与されることによって、第1固定プレート5および第2固定プレート6は、第2方向Yで互いに近接する方向に力を受けて、構造体2を挟持するように互いに連結される。後述するように、緊張材9に付与される第2方向Yの緊張力が、新設鋼材4と構造体2との接合部分が受ける第2方向Yの引張力に対抗することができるので、鋼材接合構造1は、高い接合強度を得ることができる。
【0024】
緊張材9の配置や数は、新設鋼材4を構造体2に十分な強度で接合できるように適宜設定され、上述した第1実施形態の配置や数に限定されることはない。ただし、緊張材9は、第1固定プレート5および第2固定プレート6を、第1方向Xおよび第3方向Zを含む平面内で均等な力で互いに連結することが望ましく、そのために第1突出部5aおよび第2突出部6aの全域に亘って平均的に分散されて配置されることが望ましい。また、緊張材9は、新設鋼材4が構造体2に対して第3方向Zの力を受けた時に、新設鋼材4と構造体2との接合部分が受けるせん断力に対抗できるように配置されることが望ましい。具体的には、緊張材9は、新設鋼材4が第3方向Zの力を受けたときに、第3方向Zにおける既設鋼材3の両端に直接的、またはシール材などを介して間接的に当接するように配置されることが望ましい。このような配置によって、新設鋼材4が第3方向Zで力を受けて、新設鋼材4と構造体2との接合部分にせん断力を受けても、緊張材9は、既設鋼材3の両端に当接することによって、そのせん断力に対抗することができる。
【0025】
緊張材9は、第1固定プレート5および第2固定プレート6を十分な強度で連結することができ、新設鋼材4および構造体2が互いに逆向きに引き離されるような引張力を受けた時に脆性破壊を生じない強度を有していれば特に限定されるものではないが、たとえば公知のPC鋼棒や高力ボルトを用いることができる。
【0026】
鋼材接合構造1ではさらに、
図1〜
図3に示されるように、第1固定プレート5と構造体2との間に第1接着剤層7が配置されている。第1接着剤層7は、第1固定プレート5と構造体2とを接着し、後に詳しく述べるように、第1固定プレート5と構造体2との接合部分が受ける引張力とせん断力に対抗する。鋼材接合構造1は、第1接着剤層7がその引張力やせん断力に対抗することができるので、高い接合強度を得ることができる。また、鋼材接合構造1では、第2固定プレート6と構造体2との間に第2接着剤層8が配置されてもよい。第2接着剤層8は、第2固定プレート6と構造体2とを接着し、第2固定プレート6と構造体2との接合部分が受ける引張力とせん断力に対抗する。したがって、鋼材接合構造1は、第2接着剤層8が配置されることにより、より高い接合強度が得られる。
【0027】
第1接着剤層7および第2接着剤層8としてはそれぞれ、第1固定プレート5および第2固定プレート6を構造体2に十分な強度で接着させることができれば特に限定されないが、エポキシ樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、シリコーン樹脂系接着剤、ポリウレタン系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、SGA系接着剤、解体性接着剤などを用いることができ、その中でもエポキシ樹脂系接着剤が好適に用いられる。
【0028】
鋼材接合構造1はまた、
図1〜
図3に示されるように、第1面31aと第2面32aとの間に、既設鋼材3が第2方向Yで受ける圧縮力に対抗可能な介挿部材10が介挿されてもよい。より具体的には、介挿部材10は、既設鋼材3の第1フランジ31の内面31bと第2フランジ32の内面32bとの間に介挿され、第1フランジ31の内面31bおよび第2フランジ32の内面32bに当接するように配置されている。介挿部材10は、第1フランジ31の内面31bおよび第2フランジ32の内面32bの間の第2方向Yに延びる略角柱状の鋼管で、内部にモルタルが注入されて形成されている。介挿部材10は、既設鋼材3が第2方向Yで受ける圧縮力に対抗可能な軸剛性を有し、第1フランジ31の内面31bおよび第2フランジ32の内面32bに当接して配置されることにより、既設鋼材3が第2方向Yで圧縮力を受けても、第1フランジ31、第2フランジ32およびウェブ33が座屈するのを抑制することができる。ここで、第1フランジ31の内面31bおよび第2フランジ32の内面32bへの介挿部材10の当接は、第1実施形態のように他の部材を介さない直接的な当接であってもよいし、シール剤や接着剤など他の部材を介した間接的な当接であってもよい。また、介挿部材10は、既設鋼材3が第2方向Yで受ける圧縮力に対抗可能であればよく、たとえばモルタルが注入されていない中空の鋼材(角型鋼管等)や中実の四角柱状の鋼材など他の形態の鋼材や他の材質の部材であってもよい。
【0029】
つぎに、第1実施形態の鋼材接合構造1に引張力、せん断力および圧縮力が加えられた時に奏する鋼材接合構造1の作用・効果を、
図4を用いて説明する。
図4は、第1実施形態の鋼材接合構造1に引張力、せん断力および圧縮力が加えられた時に、鋼材接合構造1の各部位が対抗する力を模式的に示している。
【0030】
新設鋼材4が構造体2に対して
図4中上向きに引っ張られる力を受けると、新設鋼材4に設けられた第1固定プレート5も同時に同じ力を受けて、新設鋼材4と構造体2との接合部分は、
図4中上下方向の引張力を受ける。このとき、鋼材接合構造1では、第1固定プレート5は、第1接着剤層7によって構造体2に接着されているので、第1接着剤層7の有する接着力がこの引張力に対抗する(符号F1)。加えて、第1固定プレート5は、
図4中上下方向に緊張力が付与された緊張材9によって、第2固定プレート6とともに構造体2を挟持するように構造体2に固定されているので、緊張材9の有する
図4中上下方向の緊張力がこの引張力に対抗する(符号F2)。
【0031】
一方、新設鋼材4が構造体2に対して
図4中左右方向に移動させられる力を受けると、新設鋼材4に設けられた第1固定プレート5も同時に同じ力を受けて、新設鋼材4と構造体2との接合部分は、
図4中左右方向のせん断力を受ける。このとき、第1固定プレート5は、第1接着剤層7によって構造体2に接着されているので、第1接着剤層7の有する接着力がこのせん断力に対抗する(符号F3)。ここで、第1接着剤層7は、緊張材9の
図4中上下方向の緊張力によって、第1固定プレート5と構造体2との間で強固に挟持されているので、緊張材9の緊張力がない場合と比べて、せん断力に対してより大きな抗力を有している。
【0032】
したがって、第1実施形態の鋼材接合構造1によれば、新設鋼材4と構造体2との接合部分が受ける引張力には、第1接着剤層7の有する接着力および緊張材9の有する緊張力が対抗し、新設鋼材4と構造体2との接合部分が受けるせん断力には、第1接着剤層7の有する接着力が対抗することができるので、十分な強度で、新設鋼材4を構造体2に接合し、新設鋼材4を既設鋼材3に間接的に接合することができる。
【0033】
また、新設鋼材4が構造体2に対して
図4中下向きに押圧する力を受けると、新設鋼材4に設けられた第1固定プレート5も同時に同じ力を受けて、構造体2に含まれる既設鋼材3は、
図4中上下方向に圧縮力を受けることになる。このとき、鋼材接合構造1では、既設鋼材3の第1面31aと第2面32aとの間(第1フランジ31の内面31bと第2フランジ32の内面32bとの間)に介挿部材10が介挿されているので、介挿部材10が有する軸剛性がこの圧縮力に対抗する(符号F4)。したがって、鋼材接合構造1では、介挿部材10を備えることにより、既設鋼材3の第1フランジ31および第2フランジ32の間に圧縮力が加わっても、介挿部材10がこの圧縮力に対抗して、第1フランジ31、第2フランジ32およびウェブ33が座屈するのを抑制することができる。
【0034】
つぎに、
図5を用いて、本発明の鋼材接合構造の他の実施形態(以下、第2実施形態という)を説明する。
図6には、第2実施形態における第1固定プレート5の構造をわかりやすくするために、新設鋼材4を構造体2から分離し、第1固定プレート5を分解した状態を示した図を示している。なお、
図5および
図6では、
図1〜
図3に示された第1実施形態と共通する構成に同一の符号を付してある。また、以下の説明の中では、
図1〜
図3に示された第1実施形態と共通する構成の説明は省略する。
【0035】
第2実施形態の第1固定プレート5は、
図5および
図6に示されるように、新設鋼材4に固定された一体プレート部材51と、新設鋼材4および一体プレート部材51から分離された分離プレート部材52とを備えている。より具体的には、第1固定プレート5は、第1方向Xで離間して新設鋼材4に固定された2つの一体プレート部材51、51と、新設鋼材4および2つの一体プレート部材51、51から分離され、2つの一体プレート部材51、51の間に配置される1つの分離プレート部材52とを備えている。そして、分離プレート部材52は、第1方向Xの両方の端部52a、52aが、隣接する一体プレート部材51、51の端部51a、51aと当接するように配置されている。また、一体プレート部材51、51および分離プレート部材52はそれぞれ、上述した第1固定プレート5および第2固定プレート6の連結方法と同様の方法で、第2固定プレート6に連結されている。なお、第2固定プレート6は、第2実施形態では第1固定プレート5のように分離されたプレート部材を備えていないが、後述する作用・効果をより一層発揮させるためには、第1固定プレート5の一体プレート部材51および分離プレート部材52の位置に対応して、分離されたプレート部材を備えることが望ましい。
【0036】
この第2実施形態の鋼材接合構造1に引張力、せん断力および圧縮力が加えられた時に奏する鋼材接合構造1の作用・効果を、
図7を用いて説明する。
図7は、第2実施形態の鋼材接合構造1に引張力、せん断力および圧縮力が加えられた時に、鋼材接合構造1の各部位が対抗する力を模式的に示している。なお、以下の説明では、
図4に示された第1実施形態の鋼材接合構造1の奏する作用・効果と共通する事項の説明は省略する。
【0037】
新設鋼材4が構造体2に対して
図7中上向きに引っ張られる力を受けると、新設鋼材4に固定された一体プレート部材51、51も同時に同じ力を受けるが、新設鋼材4および一体プレート部材51、51から分離された分離プレート部材52は、その力を全く受けることがないか、またはほとんど受けることがない。そのため、一体プレート部材51、51と構造体2との接合部分は、
図7中上下方向の引張力を受けるが、分離プレート部材52と構造体2との接合部分は、
図7中上下方向の引張力を全く受けることがないか、またはほとんど受けることがない。したがって、第2実施形態の鋼材接合構造1では、一体プレート部材51、51および分離プレート部材52はともに、第1接着剤層7によって構造体2に接着されているが、その第1接着剤層7のうち一体プレート部材51、51に接着された第1接着剤層7の部分71、71が主として引張力に対抗する(符号F1)。加えて、第2実施形態の鋼材接合構造1では、一体プレート部材51、51および分離プレート部材52はともに、
図7中上下方向に緊張力が付与された緊張材9によって、第2固定プレート6とともに構造体2を挟持するように構造体2に固定されているが、主に引張力を受ける一体プレート部材51、51と構造体2との接合部分において、緊張材9の有する緊張力が引張力に対抗する(符号F2)。なお、ここで言う「第1接着剤層7のうち一体プレート部材51、51に接着された第1接着剤層7の部分71、71が主として引張力に対抗する」とは、第1接着剤層7のうち一体プレート部材51、51に接着された第1接着剤層7の部分71、71のみが引張力に対抗することを意味するが、「のみ」という用語が厳密な意味に限定されることはなく、分離プレート部材52に接着された第1接着剤層7の部分72よりも優先して、一体プレート部材51、51に接着された第1接着剤層7の部分71、71が引張力に対抗することをも意味する。
【0038】
一方、新設鋼材4が構造体2に対して
図7中左右方向に移動させられる力を受けると、新設鋼材4に固定された一体プレート部材51、51も同時に同じ力を受けると同時に、一体プレート部材51、51の
図7中左右方向の端部51a、51aに当接した分離プレート部材52もまた、一体プレート部材51、51から同じ力を受ける。そのため、一体プレート部材51、51と構造体2との接合部分だけでなく、分離プレート部材52と構造体2との接合部分もまた、
図7中左右方向のせん断力を受ける。このとき、第2実施形態の鋼材接合構造1では、一体プレート部材51、51および分離プレート部材52はともに、第1接着剤層7によって構造体2に接着されているが、第1接着剤層7のうち一体プレート部材51、51に接着された第1接着剤層7の部分71、71と、分離プレート部材52に接着された第1接着剤層7の部分72とがせん断力に対抗する(符号F3)。
【0039】
以上で説明したように、第2実施形態の鋼材接合構造1では、新設鋼材4が構造体2に対して第2方向Yの力を受けることで第1接着剤層7が引張力を受けた時に、第1接着剤層7のうち一体プレート部材51、51に接着された第1接着剤層7の部分71、71が主として引張力に対抗する。その一方で、新設鋼材4が構造体2に対して第1方向Xの力を受けることで第1接着剤層7がせん断力を受けた時に、第1接着剤層7のうち一体プレート部材51、51に接着された第1接着剤層7の部分71、71と、分離プレート部材52に接着された第1接着剤層7の部分72とがせん断力に対抗する。つまり、分離プレート部材52に接着された第1接着剤層7の部分72は、第1固定プレート5と構造体2との接合部分が受けるすべての力のうち、一部のせん断力のみ(または、主として一部のせん断力)を受けて、そのせん断力に対抗することになる。したがって、第2実施形態の鋼材接合構造1では、前述の状態を実現するように一体プレート部材51、51および分離プレート部材52を配置することにより、分離プレート部材52に接着された第1接着剤層7の部分72は、引張力を含んだ複合力(引張力+せん断力)を受けることが抑制されるので、引張力に対抗する必要がなく(または、ほとんどなく)、専らせん断力に対抗することができ、第1接着剤層7の部分72の有する耐せん断力性能を最大限発揮することができる。そして、引張力により一体プレート部材51、51が構造体2から剥離したとしても、分離プレート部材52によって安定的にせん断力に対抗することができる。さらに、鋼材接合構造1の耐力計算をするような場合には、分離プレート部材52に接着された第1接着剤層7の部分72がせん断力のみ(または、主としてせん断力)を受けることを考慮すればいいので、耐力計算が容易になり、その結果、鋼材接合構造の構造設計が容易になる。
【0040】
なお、第1固定プレート5は、
図5に示された第2実施形態では、2つの一体プレート部材51、51および1つの分離プレート部材52を備えている。しかし、上述した第2実施形態の鋼材接合構造1と同様の原理により、同様の作用・効果を得ることができれば、第1固定プレート5は、第2実施形態に限定されることはない。たとえば、第1固定プレート5は、2つの分離プレート部材52と、2つの分離プレート部材52の間に配置される1つの一体プレート部材51とを備えていてもよい。また、第1固定プレート5は、3つ以上の一体プレート部材51と2つ以上の分離プレート部材52を備えていてもよいし、一体プレート部材51の間に2つ以上の分離プレート部材52が配置されてもよい。また、第2実施形態のように、分離プレート部材52の両方の端部52a、52aが、一体プレート部材51、51の端部51a、51aに直接的に当接していてもよいし、第2実施形態とは異なり、分離プレート部材52の両方の端部52a、52aが、別部材を介して一体プレート部材51、51の端部51a、51aに間接的に当接していてもよい。ただし、第2実施形態のように、第1固定プレート5が、2つの一体プレート部材51、51と、一体プレート部材51、51の間に配置された1つの分離プレート部材52を備えるように構成されることで、鋼材接合構造1の構成がシンプルになり、施工が容易になる。
【0041】
以上に示してきたように、本発明の鋼材接合構造によれば、既設鋼材と新設鋼材とを溶接することなく、また既設鋼材に貫通孔を設けることなく、引張力およびせん断力に対抗するのに十分な強度で、既設鋼材と新設鋼材とを接合することができる。