(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記第1冷却機構が上記スリットジェットノズル及び一対の水切りロールを厚鋼板の表裏に対向するよう有し、上記第2冷却機構が上記散水ノズルを厚鋼板の表裏に対向するよう有する請求項1に記載の厚鋼板冷却方法。
上記第1冷却機構を使用する場合、上記第2冷却機構による搬送方向の散水量を段階的又は連続的に小さくし、上記第1冷却機構を使用しない場合、上記第2冷却機構による搬送方向の散水量を段階的又は連続的に大きくする請求項1又は請求項2に記載の厚鋼板冷却方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記不都合に鑑みて、本発明は、厚鋼板を比較的均一に冷却できる厚鋼板冷却方法及び厚鋼板冷却装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた発明は、熱間圧延後の厚鋼板の搬送方向に列設される冷却装置を用い、上記厚鋼板を冷却する方法であって、上記冷却装置が、搬送方向と垂直の幅方向に略カーテン状に噴水できるスリットジェットノズル及びこのスリットジェットノズルの搬送方向前後に配設される一対の水切りロールを有する第1冷却機構と、この第1冷却機構の搬送方向下流側に配設され、略等密度で配設される複数の散水ノズルを有する1又は複数の散水ヘッダーを含み、これらの複数の散水ノズルの水量調整により搬送方向の水量密度を段階的又は連続的に変更できる第2冷却機構とを備え、上記第2冷却機構における散水ノズルの平均径をd[m]、上記厚鋼板表面の単位面積当たりの散水ノズルの本数をN[本/m
2]、散水ノズルの厚鋼板までの平均距離をH[mm]とした場合、それらの値が下記式(1)、(2)及び(3)を満たし、上記第1冷却機構による冷却の有無及び厚鋼板冷却条件に応じて上記第2冷却機構による搬送方向の水量密度を段階的又は連続的に変更することを特徴とする厚鋼板冷却方法である。
N×d
2<0.0055 ・・・(1)
H≦300 ・・・(2)
N>500 ・・・(3)
【0009】
当該厚鋼板冷却方法は、上記式(1)を満たすことによって水量密度を適切化でき、上記式(2)を満たすことによって散水される冷却水の動圧により冷却水が直接衝突する部分だけが過度に冷却されることを防止でき、かつ、上記式(3)を満たすことによって厚鋼板表面に略均一に散水することができる。また、当該厚鋼板冷却方法は、上記第1冷却機構による冷却の有無及び厚鋼板冷却条件に応じて上記第2冷却機構による搬送方向の水量密度を段階的又は連続的に変更することによって、厚鋼板の表面温度が厚鋼板表面の水膜が膜沸騰状態から核沸騰状態へと遷移する温度領域内にある時間を短縮することができる。これによって、膜沸騰状態から核沸騰状態への移行をスムーズに行うことにより、沸騰状態のばらつきによる温度のばらつきを抑制できる。このため、当該厚鋼板冷却方法は、厚鋼板を比較的均一に冷却することができる。
【0010】
上記第1冷却機構が上記スリットジェットノズル及び一対の水切りロールを厚鋼板の表裏に対向するよう有し、上記第2冷却機構が上記散水ノズルを厚鋼板の表裏に対向するよう有するとよい。このように、上記第1冷却機構が上記スリットジェットノズル及び一対の水切りロールを厚鋼板の表裏に対向するよう有し、上記第2冷却機構が上記散水ノズルを厚鋼板の表裏に対向するよう有することによって、厚鋼板の表裏を効率よく冷却することができるので、厚鋼板をより均一に冷却することができる。
【0011】
上記第1冷却機構を使用する場合、上記第2冷却機構による搬送方向の散水量を段階的又は連続的に小さくし、上記第1冷却機構を使用しない場合、上記第2冷却機構による搬送方向の散水量を段階的又は連続的に大きくするとよい。このように、上記第1冷却機構を使用する場合、上記第2冷却機構による搬送方向の散水量を段階的又は連続的に小さくすることによって、第1冷却機構により核沸騰となる温度まで厚鋼板の表面温度が低下した直後の散水量が大きくなるので、厚鋼板の厚さ方向中心部の熱が表面に伝導して表面温度が膜沸騰状態となり得る遷移温度に再上昇することを抑制できる。また、上記第1冷却機構を使用しない場合、上記第2冷却機構による搬送方向の散水量を段階的又は連続的に大きくすることによって、上記第2冷却機構内の上流側での散水量が小さくなるので、厚鋼板の表面温度が遷移温度に低下するまでの時間が長くなり、厚鋼板の厚さ方向中心部の温度を低下させてから表面温度を遷移温度以下に低下させることになる。そして、表面温度を遷移温度以下に低下させるときには、散水量が大きくなるので、表面温度を核沸騰状態となる温度まで比較的短時間で低下させられる。以上のように、第1冷却機構を使用する場合にも、第1冷却機構を使用しない場合にも、厚鋼板の表面温度が沸騰状態が不安定となる遷移温度である時間を短縮し、厚鋼板の表裏をより均一に冷却することができる。
【0012】
上記第1冷却機構を使用する場合、上記第2冷却機構による散水量の搬送方向の変化量を搬送方向下流側に順次小さくするとよい。このように、上記第1冷却機構を使用する場合、厚鋼板の厚さ方向中心部から表面に伝導する熱量が上流側から下流側にかけて指数関数的に減少するので、これに合わせるよう上記第2冷却機構による散水量の搬送方向の変化量を搬送方向下流側に順次小さくすることによって、厚鋼板を過剰に冷却することなく、表面温度の再上昇をより適切に抑制することができる。
【0013】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、熱間圧延後の厚鋼板の搬送方向に列設され、上記厚鋼板を冷却する装置であって、搬送方向と垂直の幅方向に略カーテン状に噴水できるスリットジェットノズル及びこのスリットジェットノズルの搬送方向前後に配設される一対の水切りロールを有する第1冷却機構と、この第1冷却機構の搬送方向下流側に配設され、略等密度で配設される複数の散水ノズルを有する1又は複数の散水ヘッダーを含み、これらの複数の散水ノズルの水量調整により搬送方向の水量密度を段階的又は連続的に変更できる第2冷却機構と、上記第1冷却機構の使用の有無及び第2冷却機構の複数の散水ノズルの搬送方向の水量調整を行う制御機構とを備え、上記第2冷却機構における散水ノズルの平均径をd[m]、上記厚鋼板表面の単位面積当たりの散水ノズルの本数をN[本/m
2]、散水ノズルの厚鋼板までの平均距離をH[mm]とした場合、それらの値が下記式(1)、(2)及び(3)を満たし、上記制御機構により第1冷却機構の冷却の有無及び厚鋼板冷却条件に応じて上記第2冷却機構による搬送方向の水量密度を段階的又は連続的に変更することを特徴とする厚鋼板冷却装置である。
N×d
2<0.0055 ・・・(1)
H≦300 ・・・(2)
N>500 ・・・(3)
【0014】
当該厚鋼板冷却装置は、第2冷却機構が上記式(1)、(2)及び(3)を満たすことによって、散水される冷却水の動圧による撹拌が少なく、厚鋼板表面に形成される水膜の状態を安定させられる。また、当該厚鋼板冷却装置は、制御機構が、上記第1冷却機構による冷却の有無及び厚鋼板冷却条件に応じて上記第2冷却機構による搬送方向の水量密度を変更することによって、膜沸騰状態から核沸騰状態への移行をスムーズに行うことができる。このため、当該厚鋼板冷却装置は、沸騰状態のばらつきによる冷却効果のばらつきを抑制することができるので、厚鋼板を比較的均一に冷却することができる。
【0015】
ここで、「散水ノズルの厚鋼板までの平均距離」とは、散水ノズルの開口から厚鋼板の表面までの平均距離を意味する。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明の厚鋼板冷却方法及び厚鋼板冷却装置は、厚鋼板を比較的均一に冷却することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0019】
[厚鋼板加工設備]
図1の厚鋼板加工設備は、原料厚鋼板(スラブ)Pを加熱する加熱炉1と、加熱された原料厚鋼板Pを熱間圧延する粗圧延機2と、粗圧延機2で圧延された厚鋼板Pをさらに熱間圧延する仕上圧延機3と、仕上圧延機3で熱間圧延された厚鋼板Pを冷却する厚鋼板冷却装置4と、冷却された厚鋼板Pを矯正するレベラー5とを備える。
【0020】
加熱炉1、粗圧延機2、仕上圧延機3及びレベラー5については、それぞれ公知の構成とすることができるので、詳細な説明は省略する。
【0021】
〔厚鋼板冷却装置〕
厚鋼板冷却装置4は、熱間圧延後の厚鋼板Pを搬送しつつ厚鋼板Pの表面(上面)及び裏面(下面)に冷却水を散水することにより厚鋼板Pを冷却するものであって、加速冷却装置とも呼ばれる。この厚鋼板冷却装置4において、厚鋼板Pの冷却は、予め設定される冷却停止温度まで急速に冷却される。冷却停止温度としては、目的とする製品(厚鋼板Pの用途)に応じて定められるが、例えば200℃以上650℃以下とされる。
【0022】
厚鋼板冷却装置4で冷却される厚鋼板Pの平均厚さとしては、特に限定されないが、例えば12mm以上100mm以下とすることができる。
【0023】
当該厚鋼板冷却装置4は、
図2に示すように、熱間圧延後の厚鋼板Pの搬送方向に列設される。この当該厚鋼板冷却装置4は、第1冷却機構10と、第1冷却機構10の搬送方向下流側に配設される第2冷却機構20と、第1冷却機構の上流側で厚鋼板Pの表面の幅方向の温度分布を測定する温度測定装置30と、温度第1冷却機構10及び第2冷却機構20を制御する制御機構40とを主に有する。
【0024】
<第1冷却機構>
第1冷却機構10は、厚鋼板Pの表裏に対向するよう配設される一対のスリットジェットノズル11と、このスリットジェットノズル11の搬送方向前後に、厚鋼板Pの表裏に対向するようそれぞれ配設される二対(表裏各一対)の水切りロール12,13とを有する。
【0025】
(スリットジェットノズル)
スリットジェットノズル11は、搬送方向と垂直の幅方向に延在するスリットを有し、このスリットから略カーテン状に冷却水を噴水することにより、厚鋼板Pを冷却する。
【0026】
スリットジェットノズル11の幅方向の単位長さあたりの噴水量の下限としては、1m
3/(min・m)が好ましく、2m
3/(min・m)がより好ましい。一方、スリットジェットノズル11の上記噴水量の上限としては、4m
3/(min・m)が好ましく、3m
3/(min・m)がより好ましい。スリットジェットノズル11の上記噴水量が上記下限に満たない場合、厚鋼板Pを十分に冷却できないおそれがある。逆に、スリットジェットノズル11の上記噴水量が上記上限を超える場合、先にスリットジェットノズル11から噴射された冷却水が厚鋼板Pの表裏に滞留し、新たにスリットジェットノズル11から噴射された冷却水が厚鋼板Pの表裏面に達することを阻害し、冷却が不十分となるおそれや、多量の冷却水を消費することによりエネルギー効率が低下するおそれがある。
【0027】
スリットジェットノズル11からの冷却水の平均噴射速度の下限としては、15m/secが好ましく、20m/secがより好ましい。一方、スリットジェットノズル11からの冷却水の平均噴射速度の上限としては、40m/secが好ましく、30m/secがより好ましい。スリットジェットノズル11からの冷却水の平均噴射速度が上記下限に満たない場合、先に噴射した冷却水に阻まれて新たに噴射された冷却水が厚鋼板Pの表面に達することができず、冷却が不十分となるおそれがある。逆に、スリットジェットノズル11からの冷却水の平均噴射速度が上記上限を超える場合、噴射した冷却水が飛散するおそれや、設備コスト及びエネルギーコストが不必要に増大するおそれがある。
【0028】
スリットジェットノズル11のスリットの平均幅の下限としては、1mmが好ましく、1.5mmがより好ましい。一方、スリットジェットノズル11のスリットの平均幅の上限としては、4mmが好ましく、3mmがより好ましい。スリットジェットノズル11のスリットの平均幅が上記下限に満たない場合、十分な噴水量を得ることができないおそれがある。逆に、スリットジェットノズル11のスリットの平均幅が上記上限を超える場合、十分な噴射速度を得ることができないおそれがある。
【0029】
(水切りロール)
水切りロール12,13は、スリットジェットノズル11から噴射され、厚鋼板Pの表裏面を伝って上流側及び下流側に流れる冷却水を堰き止め、表面側ではこの冷却水を厚鋼板の幅方向に流すことで、裏面側では冷却水を重力に任せて落下させることで、それぞれ厚鋼板Pの表裏から冷却水を排除する。
【0030】
上流側の水切りロール12の中心と厚鋼板Pの表裏面におけるスリットジェットノズル11からの冷却水噴射位置との搬送方向の間隔としては、例えば600mm以上800mm以下とすることができる。また、下流側の水切りロール13の中心と厚鋼板Pの表裏面におけるスリットジェットノズル11からの冷却水噴射位置との搬送方向の間隔としては、例えば700mm以上900mm以下とすることができる。
【0031】
<第2冷却機構>
第2冷却機構20は、搬送方向に並んで配設され、厚鋼板Pの表裏に対向する複数対(図では4対)の散水ヘッダー(表面側散水ヘッダー21及び裏面側散水ヘッダー22)を含む。第2冷却機構20は、表面側散水ヘッダー21毎に散水量を調整でき、搬送方向の水量密度を段階的に変更できるよう構成される。
【0032】
(表面側散水ヘッダー)
表面側散水ヘッダー21は、
図3に示すように、厚鋼板Pの幅方向(図中左右方向)に長い直方体状であり、底面に略等密度で開口するよう配設され、厚鋼板Pに散水できる複数の散水ノズル23を備える。また、この表面側散水ヘッダー21は、内部空間を幅方向に3つに区分する2枚の隔壁24を備え、2枚の隔壁24が幅方向に対称、かつ幅方向に対して傾斜して搬送方向上流側に向けて広がるように配設されている。これにより、表面側散水ヘッダー21の内部空間は、2枚の隔壁24の内側の中央領域と2枚の隔壁24の外側の2つの端部領域とに区分される。この表面側散水ヘッダー21に対して、厚鋼板Pは、図中の矢印D方向に搬送される。
【0033】
表面側散水ヘッダー21の散水ノズル23の平均径をd[m]、厚鋼板Pの表面の単位面積当たりの散水ノズル23の本数をN[本/m
2]、散水ノズル23の厚鋼板Pまでの平均距離をH[mm]とした場合、それらの値が下記式(1)、(2)及び(3)を満たす。
N×d
2<0.0055 ・・・(1)
H≦300 ・・・(2)
N>500 ・・・(3)
【0034】
上記式(1)に示すように[N×d
2]の値は0.0055よりも小さい値とされる。[N×d
2]の値の下限としては、0.004が好ましく、0.0045がより好ましい。一方、[N×d
2]の値の上限としては、0.0053が好ましく、0.0051がより好ましい。[N×d
2]の値が上記下限に満たない場合、散水ノズル21の開口割合が小さくなり、厚鋼板Pの表面の散水ノズル23に対向する部分と対向しない部分との冷却効果の差が大きくなることで厚鋼板Pの冷却が不均一となるおそれがある。逆に、[N×d
2]の値が0.0055を超える場合、散水ノズル21の開口割合が大きくなり、散水量(水量密度)が過大となって厚鋼板Pの温度を調節できないおそれがある。
【0035】
散水ノズル23の厚鋼板Pまでの平均距離Hの下限としては、100mmが好ましく、150mmがより好ましい。一方、散水ノズル23の厚鋼板Pまでの平均距離Hの上限としては、300mmであり、250mmが好ましく、200mmがより好ましい。散水ノズル23の厚鋼板Pまでの平均距離Hが上記下限に満たない場合、散水ノズル23から流出する冷却水の流れが不安定となるおそれがある。逆に、散水ノズル23の厚鋼板Pまでの平均距離Hが上記上限を超える場合、散水した冷却水が重力により加速することにより、厚鋼板Pの冷却水が衝突する領域と冷却水が衝突しない領域との冷却効果の差が大きくなり、厚鋼板Pの冷却の均一性が不十分となるおそれがある。
【0036】
散水ノズル23の平均径dの下限としては、1.5×10
−3mが好ましく、2×10
−3mがより好ましい。一方、散水ノズル23の平均径dの上限としては、5×10
−3mが好ましく、4×10
−3mがより好ましい。散水ノズル23の平均径dが上記下限に満たない場合、水量密度が不十分となるおそれや、冷却水の流速が大きくなることで冷却水が衝突する部分と衝突しない部分との温度差が大きくなるおそれがある。逆に、散水ノズル23の平均径dが上記上限を超える場合、水量密度が過大となって厚鋼板Pの温度を調節できないおそれがある。
【0037】
単位面積当たりの散水ノズル23の本数Nは500本/m
2より大きい数とされる。単位面積当たりの散水ノズル23の本数Nの下限としては、520本/m
2が好ましく、530本/m
2がより好ましい。一方、単位面積当たりの散水ノズル23の本数Nの上限としては、800本/m
2が好ましく、600本/m
2がより好ましい。単位面積当たりの散水ノズル23の本数Nが上記下限に満たない場合、厚鋼板Pの表面の散水ノズル23に対向する部分と対向しない部分との冷却効果の差が大きくなり、厚鋼板Pの冷却が不均一となるおそれがある。逆に、単位面積当たりの散水ノズル23の本数Nが上記上限を超える場合、水量密度が過大となって厚鋼板Pの温度を調節できないおそれがある。
【0038】
表面側散水ヘッダー21の水量密度の下限としては、冷却開始温度にもよるが、一般的には、50L/(min×m
2)が好ましく、100L/(min×m
2)がより好ましい。一方、表面側散水ヘッダー21の水量密度の上限としては、5000L/(min×m
2)が好ましく、3000L/(min×m
2)がより好ましい。表面側散水ヘッダー21の水量密度が上記下限に満たない場合、厚鋼板Pを十分に冷却できないおそれがある。逆に、表面側散水ヘッダー21の水量密度が上記上限を超える場合、厚鋼板Pの温度が低くなり過ぎるおそれがある。
【0039】
また、散水ノズル23の配置としては、横断方向に一定ピッチで配列される散水ノズル23の列が複数形成され、搬送方向に隣接する列中の散水ノズル23の配置が幅方向に1/2ピッチずつずらされるような千鳥状の配置とすることができる。
【0040】
また、表面側散水ヘッダー21は、中央領域に冷却水を供給する中央給水流路25及び2つの端部領域に冷却水をそれぞれ給水する一対の端部給水流路26を有する。中央給水流路25には、主調整弁27を介して冷却水が供給される。一方、端部給水流路26には、中央給水流路25から分岐する分岐流路28に設けた分岐調整弁29を介して、中央給水流路25から冷却水が供給されるようになっている。
【0041】
幅方向中心における水量密度は、中央給水流路25への給水量によって定められる。また、幅方向両端における水量密度は、端部給水流路26への給水量によって定められる。そして、隔壁24が存在する領域では、隔壁24により区分される中央領域と端部領域との搬送方向の長さ割合に応じた水量密度で散水する。つまり、表面側散水ヘッダー21は、幅方向に分布を有する水量密度で厚鋼板Pの表面に冷却水を散水でき、かつ幅方向の水量分布を調整できるように構成されている。
【0042】
(裏面側散水ヘッダー)
上記裏面側散水ヘッダー22は、厚鋼板Pを挟んで表面側散水ヘッダー21に対向するよう配設され、厚鋼板Pの裏面に均等な水量密度で冷却水を散水する。
【0043】
裏面側散水ヘッダー22は、表面側散水ヘッダー21と同様に、略等密度で開口するよう配設され、厚鋼板Pの裏面に散水する複数の散水ノズル23を有する。この裏面側散水ヘッダー22による散水量は、幅方向の位置にかかわらず一定とすることができる。
【0044】
裏面側散水ヘッダー22の散水ノズル23の平均径、厚鋼板Pの表面の単位面積当たりの散水ノズル23の本数、散水ノズル23の厚鋼板Pまでの平均距離は、上記表面側散水ヘッダー21と同様とすることができる。
【0045】
<温度測定装置>
温度測定装置30は、厚鋼板Pが第1冷却機構10に導入される前に、厚鋼板Pの表面の搬送方向に垂直な幅方向の温度分布を測定する。この温度測定装置30は、第1冷却機構10の上流側で厚鋼板Pの表面の幅方向の温度分布を測定できるものであればよく、例えば放射温度計を用いることができる。
【0046】
<制御機構>
制御機構40は、上記第1冷却機構10の使用の有無の選択を行う制御要素、第2冷却機構20の複数の散水ノズル23の搬送方向の水量調整を行う制御要素、及び表面側散水ヘッダー21の幅方向の水量密度分布調整を行う制御要素を有する。
【0047】
制御機構40は、例えばマイクロコンピューターを有するパーソナルコンピューター、プログラマブルロジックコントローラー等からなり、制御プログラムに従って、第1冷却機構10及び第2冷却機構20を制御する。上記制御プログラムは、上記各制御要素をそれぞれ構成する例えばプログラムモジュール、パートプログラム等を含む。
【0048】
第1冷却機構10の使用の有無は、ユーザーの選択によって決定してもよく、例えば厚鋼板Pの材質及び寸法、熱間圧延温度及び冷却停止温度等の厚鋼板冷却条件に応じて予め設定してもよい。
【0049】
制御機構40は、散水ノズル23の水量密度を表面側散水ヘッダー21毎に変更する。具体的には、制御機構40は、第2冷却機構20による搬送方向の散水量を第1冷却機構10を使用する場合には、段階的に小さくし、第1冷却機構10を使用しない場合には、段階的に大きくすることが好ましい。
【0050】
第1冷却機構10を使用する場合、第1冷却機構10において厚鋼板Pの表面温度が厚鋼板Pの表面に形成される水膜が核沸騰する温度領域まで低下する。しかしながら、第1冷却機構10を通過した直後の厚鋼板Pの中心温度は表面温度に比べて高く、この厚鋼板Pの厚さ方向中心部の熱が表面に伝導することにより、第1冷却機構10を通過した後、厚鋼板Pの表面温度が再上昇しようとする。
【0051】
そこで、第2冷却機構20により厚鋼板Pに冷却水を散水することによって、厚鋼板Pの厚さ方向中心部から表面に伝導した熱を除去する。この結果、厚鋼板Pの表面温度が再上昇して厚鋼板Pの表面に形成される水膜の沸騰状態が部分的に膜沸騰状態となることが防止されるので、冷却が不安定又は不均一になることを抑制できる。このように、当該厚鋼板冷却装置4は、厚鋼板Pの表面に形成される水膜の沸騰状態を安定させることで、厚鋼板Pの冷却効果のばらつきを小さくして、厚鋼板Pを比較的均一に冷却することができる。
【0052】
従って、当該厚鋼板冷却装置4において、制御機構40は、厚鋼板Pの中心温度が比較的高い第2冷却機構20内の上流側では、表面側散水ヘッダー21の水量を大きくすることによって厚鋼板Pの表面温度の再上昇を抑制する。一方、制御機構40は、厚鋼板Pの中心温度が比較的低い下流側では、表面側散水ヘッダー21の水量を小さくすることによって厚鋼板Pの表面温度の過度の低下を防止できる。
【0053】
さらに、当該厚鋼板冷却装置4では、第1冷却機構10を使用する場合、第2冷却機構20を通過する間に厚鋼板の厚さ方向中心部から表面に伝導する熱量は、上流側から下流側にかけて指数関数的に減少する。従って、この伝導熱量の減少に合わせるために、第2冷却機構20による散水量の搬送方向の変化量、つまり隣接する2つの表面側散水ヘッダー21の間の水量密度の差を搬送方向下流側に順次小さくすることが好ましい。
【0054】
また、第1冷却機構10を使用しない場合、第2冷却機構20の入口における厚鋼板Pの表面温度は、通常、厚鋼板Pの表面に形成される水膜が膜沸騰する温度領域である。第2冷却機構20では、表面側散水ヘッダー21の水量を大きくしても厚鋼板Pの表面温度を厚鋼板Pの表面に形成される水膜が核沸騰する温度領域まで短時間で低下させること、つまり膜沸騰と核沸騰とが混在する遷移状態となる温度領域を短時間で渡過させることは困難である。
【0055】
そこで、当該厚鋼板冷却装置4において、第1冷却機構10を使用しない場合には、第2冷却機構20内の上流側の表面側散水ヘッダー21の水量を小さくし、厚鋼板Pの表面温度を膜沸騰状態となる範囲内に保つよう徐冷することにより、厚鋼板Pの中心温度を低下させるとよい。これにより、厚鋼板Pの厚さ方向中心部から表面に供給される熱量を減少させてから、下流側の表面側散水ヘッダー21の水量を大きくすることにより、厚鋼板Pの表面に形成される水膜の沸騰状態が不安定となる温度領域を比較的短時間で通過させることができる。これにより、当該厚鋼板冷却装置4は、第1冷却機構10を使用しない場合にも、厚鋼板Pを比較的均一に冷却することができる。
【0056】
また、制御機構40による表面側散水ヘッダー21の幅方向の水量密度分布調整は、温度測定装置30により測定される厚鋼板Pの表面の幅方向の温度分布、厚鋼板Pの物性、散水ヘッダーから散水される冷却水の温度、及び第2冷却機構20の複数の散水ノズル23の搬送方向の水量分布に基づいて行われる。具体的には、表面側散水ヘッダー21の幅方向の水量密度分布調整は、冷却後の厚鋼板の表面の温度分布を予測する処理と、予測される冷却後の幅方向の温度偏差を小さくするよう幅方向の水量密度分布を変更する処理とを行う。
【0057】
〔厚鋼板冷却方法〕
本発明の一実施形態に係る厚鋼板冷却方法は、上記厚鋼板冷却装置4によって行うことができる。つまり、当該厚鋼板冷却方法は、上記厚鋼板冷却装置4の第1冷却機構10及び第2冷却機構20を用い、上記制御機構40ついて説明したように第1冷却機構10による冷却の有無及び厚鋼板冷却条件に応じて第2冷却機構20による搬送方向の水量密度を段階的に変更する方法とされる。
【0058】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0059】
当該厚鋼板冷却方法及び厚鋼板冷却装置において、第2冷却機構の散水ノズルの搬送方向の水量密度が連続的に変更されてもよい。
【0060】
また、当該厚鋼板冷却方法及び厚鋼板冷却装置において、第2冷却機構の散水量の変化は、単調増加や単調減少以外に任意の増減を行うものであってもよい。
【0061】
当該厚鋼板冷却方法及び厚鋼板冷却装置において、第2冷却機構における幅方向の水量密度の調整は必須ではない。
【0062】
また、当該厚鋼板冷却方法及び厚鋼板冷却装置において、第1冷却機構及び第2冷却機構の裏面側の冷却手段は省略されてもよい。また、第1冷却機構及び第2冷却機構の裏面側の冷却手段は、スリットジェットノズル及び散水ヘッダーの組合せに限られず、他の冷却手段によって厚鋼板の裏面を冷却してもよい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0064】
[厚鋼板冷却装置]
本発明の効果を検証するために、幅方向に開口するスリットジェットノズルを有する第1冷却機構と、散水ノズルを有する表面側散水ヘッダーを略間隔を空けずに搬送方向に並べて配設した4つの第2冷却機構及びこれに対向するよう配設した4つの下側散水ヘッダーを備える冷却装置を用意し、以下の実験を行った。
【0065】
[ノズル条件確認実験]
ノズル条件確認実験として、第2冷却機構の表面側散水ヘッダーの散水ノズルの径、単位面積当たりの散水ノズルの本数、及び散水ノズルの厚鋼板までの平均距離を変えた以下のノズル条件1〜3を用いて、厚鋼板を冷却して冷却後の温度偏差と水量密度との関係を確認した。
【0066】
なお、このノズル条件確認実験では、第1冷却機構は使用せず、各表面側散水ヘッダーの散水密度は幅方向及び搬送方向に一定とした。また、この実験には、板厚40mm、板幅400mmの厚鋼板を用い、冷却開始温度を850℃、冷却停止温度を成り行き(400℃〜600℃)とした。そして、冷却後の厚鋼板表面の幅方向各位置の温度の幅方向中心における温度との偏差を測定して平均値を算出することにより、冷却の均一性の指標とした。なお、温度偏差は、冷却後の温度のばらつきが大きい幅方向端部を除外し、幅方向中心から左右に100mmの範囲内を測定対象とした。また、このノズル条件確認実験は、各表面側散水ヘッダーの水量密度を変更して厚鋼片の冷却を繰り返し行った。
【0067】
(ノズル条件1)
ノズル条件1としては、散水ノズルの径を3.0×10
−3m、単位面積当たりの散水ノズルの本数を556本/m
2とした4つの上側散水ヘッダーを散水ノズルの厚鋼板までの平均距離が300mmとなるよう配置した。このノズル条件1では、N×d
2=0.005004<0.0055であった。
【0068】
(ノズル条件2)
ノズル条件2としては、散水ノズルの径を3.0×10
−3m、単位面積当たりの散水ノズルの本数を556本/m
2とした4つの上側散水ヘッダーを散水ノズルの厚鋼板までの平均距離が500mmとなるよう配置した。このノズル条件2では、N×d
2=0.005004<0.0055であった。
【0069】
(ノズル条件3)
ノズル条件3としては、散水ノズルの径を7.8×10
−3m、単位面積当たりの散水ノズルの本数を89本/m
2とした4つの上側散水ヘッダーを散水ノズルの厚鋼板までの平均距離が1500mmとなるよう配置した。このノズル条件3では、N×d
2=0.005415<0.0055であった。
【0070】
図4に、上記ノズル条件確認実験の結果を示す。この結果からは、散水ノズルの平均径の2乗に単位面積当たりの散水ノズルの本数を乗じた値(N×d
2)が小さほど温度偏差が小さくなると考えられる。また、散水ノズルの厚鋼板までの平均距離が小さいほど温度偏差が小さくなると考えられる。また、単位面積当たりの散水ノズルの本数が大きいほど温度偏差が小さくなると考えられる。従って、上記式(1)、式(2)及び(3)を満たすことにより、冷却後の厚鋼板の温度偏差を小さくできると予想される。
【0071】
[水量密度変更実験]
水量密度変更実験として、上記ノズル条件1で第1冷却機構による冷却を行う場合と行わない場合とで、それぞれ4つの上側散水ヘッダーの水量密度を等しくするときと、上側散水ヘッダーの水量密度を変更するときとについて、厚鋼板の幅方向中心における表面温度が冷却過程でどのように変化するかを確認した。
【0072】
第1冷却機構による冷却を行った場合に、上側散水ヘッダーの水量密度を搬送方向に一定にしたときと、上側散水ヘッダーの水量密度を搬送方向に変化させたときとについて、それぞれ搬送方向の水量密度変化(a)及び鋼板幅方向中央の表面温度変化(b)を
図5に示す。
【0073】
また、第1冷却機構による冷却を行わなかった場合に、上側散水ヘッダーの水量密度を搬送方向に一定にしたときと、上側散水ヘッダーの水量密度を搬送方向に変化させたときとについて、それぞれ搬送方向の水量密度変化(a)及び鋼板幅方向中央の表面温度変化(b)を
図6に示す。
【0074】
なお、冷却速度を合わせるために、第1冷却機構による冷却を行う場合には板厚25mmの厚鋼板を用い、第1冷却機構による冷却を行わない場合には板厚12.5mmの厚鋼板を用いた。
【0075】
第1冷却機構による冷却を行った場合、
図5に示すように、上側散水ヘッダーの散水量を搬送方向に段階的に小さくすることで、厚鋼板表面の水膜が膜沸騰状態と核沸騰状態との間で不安定になると思われる400℃以上600℃以下の遷移温度領域内に厚鋼板の表面温度がある時間を短くすることができた。特に、上側散水ヘッダーの散水量の変化量が徐々に小さくなるようにすることによって、厚鋼板の表面温度が遷移温度領域内にある時間をより効果的に短縮できると考えられる。
【0076】
逆に、第1冷却機構による冷却を行わなかった場合、
図6に示すように、上側散水ヘッダーの散水量を搬送方向に段階的に大きくすることによって、厚鋼板表面の水膜が膜沸騰状態と核沸騰状態との間で不安定になると思われる400℃以上600℃以下の遷移温度領域内に厚鋼板の表面温度がある時間を短くすることができた。
【0077】
このように、本発明の厚鋼板冷却方法を適用することによって、厚鋼板表面の水膜の沸騰状態が不安定になる時間を短くすることができ、結果的に厚鋼板を均一に冷却できると考えられる。