特許第6377558号(P6377558)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6377558可塑性グラウト材及びそれを用いて行う止水工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6377558
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】可塑性グラウト材及びそれを用いて行う止水工法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20180813BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20180813BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20180813BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20180813BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20180813BHJP
   C04B 7/02 20060101ALI20180813BHJP
   C09K 17/44 20060101ALI20180813BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20180813BHJP
   C04B 111/70 20060101ALN20180813BHJP
   C09K 103/00 20060101ALN20180813BHJP
【FI】
   C04B28/02
   C04B18/08 Z
   C04B24/26 D
   C04B22/08 Z
   C04B22/14 B
   C04B24/26 F
   C04B7/02
   C09K17/44 P
   E02D3/12 101
   C04B111:70
   C09K103:00
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-57825(P2015-57825)
(22)【出願日】2015年3月20日
(65)【公開番号】特開2016-175803(P2016-175803A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2017年10月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 学
(72)【発明者】
【氏名】柳井 修司
(72)【発明者】
【氏名】室野井 敏之
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊行
(72)【発明者】
【氏名】中島 悠介
【審査官】 永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−143037(JP,A)
【文献】 特開2013−147409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B7/00−32/02
C04B40/00−40/06
C04B103/00−111/94
C09K17/00−17/52
E02D3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主材セメントとフライアッシュと水中不分離性混和剤とを含有してなるセメントミルク材と、
カルシウムアルミネートと石膏とを含有してなるセメント鉱物系可塑化材と、
アクリル酸エステル共重合体エマルジョンを含有してなるポリマー系可塑化材と、を含有し、
前記セメントミルク材に含有される主材セメントは、低熱ポルトランドセメントであって、
前記セメントミルク材に含有されるフライアッシュは、JIS規格II種相当の高品質フライアッシュである改質フライアッシュであって、
前記セメントミルク材に含有される水中不分離性混和剤は、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸系増粘剤である可塑性グラウト材。
【請求項2】
前記水中不分離性混和剤の前記主材セメント及び前記フライアッシュの合計量に対する含有量が1.5質量%以上3.0質量%以下である請求項1に記載の可塑性グラウト材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の可塑性グラウト材を止水対象域の流水中に注入することによって行う止水工法であって、
前記可塑性グラウト材中における前記主材セメントに対する前記セメント鉱物系可塑化材の含有量比が、7.0質量%以上11.0質量%以下となる配合比で、前記セメント鉱物系可塑化材及び前記ポリマー系可塑化材からなる可塑化剤と、前記セメントミルク材と、を、止水対象域への注入直前に混合する止水工法。
【請求項4】
前記止水対象域における、前記流水の流速が、20cm/sec以上30cm/sec以下である請求項3に記載の止水工法。
【請求項5】
止水対象域における前記流水の水温が35℃以上100℃以下である請求項3又は4のいずれかに記載の止水工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流水条件下において、土木構造物等の空洞部や空隙部等に流水が存在する場合に、当該空洞部等に充填することによって止水を行うことができる可塑性グラウト材、及びそれを用いて行う止水工法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、トンネル工法で施工された鉄道、道路等の工事現場において、背面空洞部等の空隙部分に可塑化材を注入することによって不要な空隙を埋める「可塑性グラウト工法」が広く行われている。そしてこの工法に用いるための可塑化材として、種々の可塑性グラウト材が研究され既に実用に供されている。
【0003】
従来公知の可塑性グラウト材の代表的なものとして、例えば、セメントを含有するセメントミルク材と、カルシウムアルミネート、石膏、アクリル酸エステル共重合体エマルジョン等を含有する可塑化材とを混合してなる可塑性グラウト材が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
又、特に水量の多い場所における打設を前提とした水中打設用の可塑性グラウト材として、ポリビニールアルコールやベントナイトを適量配合することにより、水中での不分離性と疎水特性を向上させた可塑性グラウト材も開発されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−235721号公報
【特許文献2】特開2005−126506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、可塑性グラウト材を用いて止水工事を行う工事現場のうちには、流水の流速が極めて大きい場合や、或いは、流水の水温が通常よりも高温である場合等、様々な環境条件が想定される。しかしながら、従来の可塑性グラウト材は、このような様々な環境件化に対応できるものでなかかった。例えば、特に大きな流速を有する流水条件下においては、従来の可塑性グラウト材は十分な止水効果を発揮できない。本発明者らの研究の結果、例えば、流速20〜30cm/sec程度の流水条件下では、従来の可塑性グラウト材は、注入後、可塑化による止水効果を発揮しないまま、流水に洗い流されてしまうことが分かっている。
【0007】
一方、通常の外気温程度の温度を超える高温の流水が存するような環境においても、従来の可塑性グラウト材は、好ましい態様での可塑化が阻害されてしまい、やはり、このような高温度環境での十分な止水を行なうことはできなかった。
【0008】
本発明は、上記状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来公知の可塑性グラウト材では十分な止水が困難であった大きな流速や、或いは、高温の流水が存する過酷な環境条件下においても、十分な止水効果を発揮しうる高性能の可塑性グラウト材、及びそれを用いて行う止水工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、可塑性グラウト材の主材セメントの配合を、従来の可塑性グラウト材におけるそれとは異なる独自の配合とすること、特には、不分離性混和剤としてアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸系増粘剤を添加することを特徴とする所定の配合とすることにより、流速や水温が通常範囲を超えた過酷な環境条件下においても、十分な止水性能を発揮しうる高性能の可塑性グラウト材とすることができることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0010】
(1) 主材セメントとフライアッシュと水中不分離性混和剤とを含有してなるセメントミルク材と、カルシウムアルミネートと石膏とを含有してなるセメント鉱物系可塑化材と、アクリル酸エステル共重合体エマルジョンを含有してなるポリマー系可塑化材と、を含有し、前記セメントミルク材に含有される主材セメントは、低熱ポルトランドセメントであって、前記セメントミルク材に含有されるフライアッシュは、JIS規格II種相当の高品質フライアッシュである改質フライアッシュであって、前記セメントミルク材に含有される水中不分離性混和剤は、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸系増粘剤である可塑性グラウト材。
【0011】
(1)の発明によれば、可塑性グラウト材を構成するセメントミルク材を、低熱ポルトランドセメント、改質フライアッシュ、水中不分離性混和剤としてのアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸系増粘剤を含有してなる構成とした。これに所定の可塑化材を混合することによって、従来の可塑性グラウト材によっては止水が困難であった流速が大きな、或いは、水温が高温であるといった環境条件下においても、十分な止水効果を発揮しうる可塑性グラウト材を得ることができる。
【0012】
(2) 前記水中不分離性混和剤の前記主材セメント及び前記フライアッシュの合計量に対する含有量が1.5質量%以上3.0質量%以下である(1)に記載の可塑性グラウト材。
【0013】
(2)の発明によれば、必要最小限の水中不分離性混和剤の添加により、(1)の可塑性グラウト材の上記効果を十分に好ましい態様で発現させることができる。
【0014】
(3) (1)又は(2)に記載の可塑性グラウト材を止水対象域の流水中に注入することによって行う止水工法であって、前記可塑性グラウト材中における前記主材セメントに対する前記セメント鉱物系可塑化材の含有量比が、7.0質量%以上11.0質量%以下となる配合比で、前記セメント鉱物系可塑化材及び前記ポリマー系可塑化材からなる可塑化剤と、前記セメントミルク材と、を、止水対象域への注入直前に混合する止水工法。
【0015】
(3)の発明によれば、(1)又は(2)に記載の可塑性グラウト材を採用し、更には、可塑化材の添加量を最適化して止水工事を行うことにより、上記の過酷な環境条件下においても、十分な止水を行うことができる。
【0016】
(4) 前記止水対象域における、前記流水の流速が、20cm/sec以上30cm/sec以下である(3)に記載の止水工法。
【0017】
(4)の発明によれば、従来の可塑性グラウト材では、止水が困難であった、特に流水の流速が大きな環境条件下においても、可塑性グラウト材を用いた止水工程によって十分な止水効果を享受することができる。
【0018】
(5) 止水対象域における前記流水の水温が35℃以上100℃以下である(3)又は(4)のいずれかに記載の止水工法。
【0019】
(5)の発明によれば、従来の可塑性グラウト材では、止水が困難であった、特に流水の水温が高い環境条件下、例えば、水温が35℃以上の流水が存在する環境下等においても、可塑性グラウト材を用いた止水工程によって十分な止水効果を享受することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来公知の可塑性グラウト材では十分な止水が困難であった大きな流速や、或いは、高温の流水が存する過酷な環境条件下においても、十分な止水効果を発揮しうる高性能の可塑性グラウト材、及びそれを用いて行う止水工法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明する。尚、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0022】
<可塑性グラウト材>
本発明の可塑性グラウト材は、それぞれ独自の配合からなるセメントミルク材と、可塑化材とを混合することにより得ることができる。可塑化材は、2種の可塑化材、即ち、セメント鉱物系可塑化材及びポリマー系可塑化材とからなる。これらの2種の可塑化材は、それぞれ別途製造保管し、使用時、即ち、空隙部等への注入直前に混合することが好ましいが、それらの混合物であってもよい。
【0023】
[セメントミルク材]
セメントミルク材の主材セメントとしては、低熱ポルトランドセメントを用いる。そして、この主材セメントに、改質フライアッシュを添加してなる混合セメントを、可塑性グラウト材を構成するセメントミルク材として用いることができる。
【0024】
(主材セメント)
従来の可塑性グラウト材においては、特に、低熱ポルトランドセメントに限ることなく、経済性や作業性を高める観点から、普通、早強、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメントを適宜使い分けていた。これに対し、本発明の可塑性グラウト材においては、独自の知見に基づき、ポルトランドセメントの中でも、特に低熱ポルトランドセメントを限定的に選択した点がその特徴の一つである。主材セメントを低熱ポルトランドセメントに限定することにより、可塑性グラウト材のフレッシュ性状及び可塑化までの時間のばらつきを抑制することができる。
【0025】
尚、上記の主材セメントの粉末度は、3000cm/g以上7000m/g以下の範囲であることが好ましい。3000cm/g未満では、初期の強度発現性の向上を十分示さない場合がある。
【0026】
又、可塑性グラウト材中における上記の主材セメントの含有量は、可塑性グラウト材1m当たり250kg以上800kg以上の範囲であることが好ましい。250kg未満では、短・長期強度の発現不良やブリーディング過多の場合があり、800kgを超えると、セメントミルクの粘度が高く、圧送性に問題が生じ、経済的で無い場合がある。
【0027】
(フライアッシュ)
例えば、火力発電所のボイラから排出される石炭燃焼灰等、手段を問わず、石炭を燃焼させて得られた石炭灰を、主材セメントに混合させることは、セメント製造の経済性向上等を企図して従来広く行われている。可塑性グラウト材におけるセメントミルク材についても同様である。そのような石炭灰のなかでも、JIS規格のフライアッシュが好ましく用いられてきた。本発明の可塑性グラウト材は、独自の知見に基づき、フライアッシュの中でも、特に、JIS規格II種相当の高品質フライアッシュである改質フライアッシュを、主材セメントに付加混合する石炭灰として選択した点がその特徴の一つである。尚、改質フライアッシュとは、フライアッシュを加熱改質して未燃炭素量を低減することによって得られたものであって、上記JIS規格に係る要件を満たすフライアッシュのことを言う。
【0028】
一般的に、フライアッシュをコンクリート材料として用いた場合、含有する未燃炭素により有機混和剤の有効成分が吸着されコンクリートのフレッシュ性状が低減すると言われているが、それに対して、上記の改質フライアッシュは、加熱改質により未燃炭素量を低減させている点、従来の一般的なフラッシュとは異なり、コンクリートのフレッシュ性状を低減することがほとんどない。主材セメントと混合して用いるフライアッシュを、このような改質フライアッシュに限定することにより、可塑性グラウト材のフレッシュ性状及び可塑するまでの時間のばらつきを抑制することができる。
【0029】
尚、上記のフライアッシュのブレーン比表面積は、2500cm/g以上の範囲であることが好ましい。又、上記のフライアッシュの密度は、1.95g/cm以上の範囲であることが好ましい。
【0030】
又、可塑性グラウト材中における上記のフライアッシュの使用量は、総粉体量で1m当たり100kg以上800kg以下の範囲であることが好ましい。100kg未満では、ブリーディングが多くなり空洞充填が不良である場合があり、800kgを超えると、長期強度発現に問題が生ずる場合があり、セメントミルクの粘度が高くなり圧送性に問題が生ずる場合がある。
【0031】
(水中不分離性混和剤)
本発明の可塑性グラウト材を構成するセメントミルク材は、以下にその詳細を説明する特定の水中不分離性混和剤、即ち、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸系増粘剤(以下、「AMPS系増粘剤」とも言う)を含有することを特徴とする。
【0032】
AMPS系増粘剤とは、下記の構造式(化1)によって示されるアクリル系ポリマーを含有してなる混合物のことである。特徴として、融点が185〜200℃と高く、高温環境下においても優れた粘性と保水性を発揮する。尚、「TEL−VIS(テルビス)」の製品名で株式会社テルナイトより、販売されているものを、本発明のAMPS系増粘剤として好ましく用いることができる。又、上記「TEL−VIS(テルビス)」については、「コンクリート用水中不分離性混和剤品質規格(案)JSCE−D−104」に合格することが確認されている。
【0033】
【化1】
【0034】
水中不分離性の混和剤は、従来、複数種の物が実用化されている。ここで、水中不分離性の混和剤は、セルロース系とアクリル系の2種に大別される。しかし、現在使用されている混和剤のほとんどは、セルロース系の混和剤である。これに対し、本発明の可塑性グラウト材は、独自の知見に基づき、水中不分離性混和剤として、従来の使用実績が乏しい、AMPS系増粘剤を敢えて選択した点に特徴がある。水中不分離性混和剤を上記のAMPS系増粘剤に限定することにより、流水の温度が高い高温条件下においても、分離することなく好ましい水中不分離性を保持することができる。
【0035】
又、可塑性グラウト材中における上記の水中不分離性混和剤の使用量は、主材セメント及びフライアッシュの合計量に対する含有量が1.5質量%以上3.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、同含有量が2.0質量%である。1.5質量%未満では、水中不分離性向上の効果が必ずしも十分ではない場合がある。一方3.0質量%を超えても、それ以上の効果の増進は認められない場合が多い。
【0036】
[可塑化材]
可塑化材は、上述の通り、2種の可塑化材、即ち、セメント鉱物系可塑化材及びポリマー系可塑化材とからなる。或いは、可塑化材は、これら2種の可塑化材の混合物であってもよい。前者のセメント鉱物系可塑化材としては、例えば、電気化学工業社製の「クリーングラウトCG−1000」を用いることができ、一方のポリマー系可塑化材としては、電気化学工業社製の「クリーングラウトCG−2000」を用いることができる。
【0037】
(セメント鉱物系可塑化材)
セメント鉱物系可塑化材は、主として、カルシウムアルミネート、石膏、凝結遅延剤、及び水からなる。
【0038】
セメント鉱物系可塑化材に含有されるカルシウムアルミネート(以下、「CA」とも言う)は、CaO、Al、及びSiOを含有するものであり、石膏との併用により主として短期強度の発現に寄与する。CAの組成は、CaO含有率20質量%以上60質量%以下、Al含有率20質量%以上70質量%以下が好ましく、CaO含有率30質量%以上55質量%以下、Al含有率30質量%以上60質量%以下、及びSiO含有率0質量%以上20質量%以下がより好ましい。この範囲外では短期強度が小さくなる場合がある。
【0039】
CAは、石灰石等のカルシア原料、アルミナ、ボーキサイト、長石、及び粘土等のアルミナ原料に、更には、ケイ石、ケイ砂、石英、及びケイ藻土等のシリカ原料等を配合した後、ロータリーキルン等で焼成、又は、電気炉や高周波炉等で溶融することにより製造される。
【0040】
使用するCAの粉末度は、粉末度で3000cm/g以上7000m/g以下の範囲であることが好ましい。3000cm/g未満では、初期の強度発現性の向上を十分示さない場合がある。
【0041】
セメント鉱物系可塑化材に含有される石膏は、無水石膏、半水石膏、及び二水石膏が挙げられ、更に天然石膏や、リン酸副生石膏、排脱石膏、及びフッ酸副生石膏等の化学石膏、又は、これらを熱処理して得られる石膏等が含まれる。これらの中では、強度発現性が大きい点で、無水石膏が好ましい。
【0042】
石膏の粉末度は、3000cm/g以上7000m/g以下の範囲であることが好ましい。3000cm/g未満では、初期の強度発現性の向上を十分示さない場合がある。
【0043】
石膏の使用量は、CA100質量部に対して、50質量部以上200質量部が好ましい。50質量部未満では短期強度が小さい場合があり、200質量部を超えても短期強度が小さい場合がある。
【0044】
CAと石膏の混合品(以下「急硬材」とも言う)の使用量は、可塑性グラウト材1m当たり5kg以上50kg以下が好ましい。5kg未満では、短期強度の発現が不良である場合があり、50kgを超えると硬化時間の制御が難しく、ミキサやポンプを固めてしまう場合がある。又、長期強度発現に問題が生ずる可能性があり経済的でない場合がある。
【0045】
セメント鉱物系可塑化材は、凝結遅延剤を含有するものであることが好ましい。凝結遅延剤としては、主として炭酸カリウム及びクエン酸からなるものを用いることができる。そして、これを可塑性グラウト材1mに対して0.1kg〜0.5kg程度含有させることにより、可塑化材の硬化時間を、適度に遅らせることができる。このような凝結遅延剤として、例えば、「D−100セッター」(電気化学工業社製)等の市販の凝結遅延剤を用いることができる。
【0046】
(ポリマー系可塑化材)
ポリマー系可塑化材は、主として、アクリル酸エステル共重合体エマルジョン(以下「エマルジョン」とも言う)と水とからなる。エマルジョンは、急硬材の練り置き性能、安全性、及び可塑性の点で、使用することが好ましい。エマルジョンは、不飽和カルボン酸と、不飽和カルボン酸と共重合可能なエチレン性不飽和化合物とを、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、又は塊状重合等の方法を用いて共重合することにより得られるポリマーエマルジョンである。
【0047】
不飽和カルボン酸類としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸、無水マレイン酸や無水シトラコン酸等の不飽和カルボン酸無水物、並びに、マレイン酸モノエチル等の不飽和カルボン酸半エステル等が挙げられる。これらの中では、凝結性状が大きい点で、不飽和カルボン酸が好ましく、アクリル酸及び/又はメタクリル酸がより好ましい。
【0048】
不飽和カルボン酸と共重合可能なエチレン性不飽和化合物としては、エチレン、アクリルニトリル等のシアノビニルモノマー、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステルモノマー、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート等のメタクリル酸エステルモノマーや脂肪族カルボン酸ビニルエステル、ビニルエーテルモノマー等の多官能性ビニルモノマー等が挙げられる。これらの中では、より優れた効果を示す点で、アクリル酸エステルモノマー及び/又はメタクリル酸エステルモノマーが好ましい。
【0049】
エマルジョン中、不飽和カルボン酸類とエチレン性不飽和化合物の共重合比(モル比)は、より優れた効果を示す点で、不飽和カルボン酸類:エチレン性不飽和化合物の共重合比(モル比)が20:1〜1:20であることが好ましく、5:1〜1:5であることがより好ましい。この範囲外では可塑効果が悪くなる場合がある。
【0050】
エマルジョンの使用量は、主材セメントに対する含有量比で、固形分濃度で0.05質量%以上2質量%未満が好ましい。0.05質量%未満ではセメントミルクの注入後の可塑性が弱く、隙間等への漏れが発生し、セメントミルクが地下水や流水に希釈される場合があり、2質量%を超えるとその効果の向上が期待できないばかりか、短・長期強度が悪くなる場合がある。
【0051】
又、セメント鉱物系可塑化材及びポリマー系可塑化材は、いずれも消泡剤を含有するものであってもよい。消泡剤を含有することにより、可塑化材の混練時の泡立ちが無くなり、可塑化材の圧送性が均一となり、セメントミルク材との混合性が一定となり、均一な可塑性グラウト材を流し込むことが可能となる。
【0052】
本発明で使用する消泡剤としては、シリコーン系、ノニオン系、アルコール系、脂肪酸、エーテル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、ポリエーテル系、及びフッ素系等が挙げられる。具体的には、シリコーン系は、オイル型若しくはそのオイル型をトルエン等の溶剤で溶かした溶液型、シリコーンオイルに無機質の微粉末を添加したコンパウンド型、並びに、各種の乳化剤を用いたエマルジョン型等が挙げられる。これらの中では、消泡効果や可塑化材の物性の点から、シリコーン系やノニオン系が好ましい。
【0053】
消泡剤の使用量は、急硬材100質量部に対して、0.05質量部以上2.0質量部以下の範囲であることが好ましい。0.05質量部未満では可塑化材の混練り時の泡立ちの低減効果が弱い場合があり、2.0質量部を超えるとその効果の向上が期待できないばかりか、短期強度や長期強度が低下する場合がある。消泡剤の混合方法は、可塑化材B材混練り時に水に投入する方法や、急硬材にコンパウンドとして混合する方法が好ましい。
【0054】
<可塑性グラウト材を用いる止水工法>
本発明の止水工法は、上述の各成分を含有してなる可塑性グラウト材を止水対象域の流水中に注入することによって流水をせき止める止水工法である。
【0055】
可塑性グラウト材を得るための可塑化材のセメントミルク材への混合は、圧送されているセメントミルク圧送管中の枝管(Y字管又はシャワーリング)へ、可塑化材用ポンプ等により圧入され、無駆動ミキサ(スタッティックミキサ)により混合し、注入する方法が好ましい。この混合は、セメント鉱物系可塑化材及びポリマー系可塑化材とからなる可塑化材と、セメントミルク材と、を、止水対象域へ注入する直前に行うことが好ましい。
【0056】
混合位置は、注入ノズルの先端から0.5〜30mが好ましく、1〜10mがより好ましい。0.5m未満では、混合が不十分で、セメントミルク材が流れ出る場合があり、30mを超えると、可塑したモルタルでホースに圧力が掛かり、注入に不具合が生ずる場合がある。
【0057】
本発明の止水工法で用いる可塑性グラウト材は、上記の通り、それぞれ独自の配合からなるセメントミルク材と、可塑化材とを撹拌混合して形成される。セメントミルク材と可塑化材とを混合することにより、可塑化させることができるものである。セメントミルク材と、可塑化材との混合割合は、使用目的や流水に係る環境条件に応じて適宜決定されるが、主材セメントに対するセメント鉱物系可塑化材の含有量比が、7.0質量%以上11.0質量%以下となるように、各材の混合量を調整することが好ましい。
【0058】
混練時間は特に材料分離が生じなければ限定されるものではなく、例えば、ハンドミキサによる場合、10秒程度の混錬が好ましい。
【0059】
本発明で使用する可塑性グラウト材は、日本道路公団規格試験法であるシリンダー法によって測定されたフロー値が、80〜150mmであることが好ましく、80〜120mmであることがより好ましい。可塑性グラウト材は、内径80mmのシリンダーを使用するので、当該フロー値が80mm未満とはならず、150mmを超えると限定注入等には適さない場合がある。本発明で使用する可塑性グラウト材は、優れた可塑性能を有し、限定注入にも適している。
【0060】
本発明の止水工法における可塑性グラウト材の注入方法は、セメントミルク材と可塑化材とを、施工現場で、又は施工現場とは異なる場所で予め製造し、現場で混合するものである。これらの材の製造装置については、従来と同様でよく、グラウトミキサ、モルタルミキサ、ハンドミキサ、往復撹拌ミキサ等、通常の注入材用のセメントミルクや可塑化液を作製する際に使用されているミキサを用いることができる。
【0061】
又、本発明の止水工法は、従来の一般的な可塑性グラウト材が可塑による止水作用を発揮しえずに流れてしまう止水対象の流水の流速が、20cm/sec以上の止水対象域における使用が特に有効である。又、止水対象域における流水の水温が35℃以上であるような、例えば、亜熱帯地域での施工や、地熱の影響で高温となった流水の止水が必要となっている施工現場等、通常よりも高温度の流水の止水が必要な領域での使用も同様に従来の可塑性グラウト材に対する顕著な優位性を発揮する。
【実施例】
【0062】
<止水効果の評価>
単位時間当たりの導入水量と、水路自体の傾斜を調節することによって、適宜所望の速度の流水環境を疑似的に発現可能な実験用水路において、本発明の可塑性グラウト材による止水効果を確認する試験を行った。水路は、φ1000mmの円筒状の形状で、傾斜角度は水平面に対して20°の傾斜角度とした。又、可塑性グラウト材注入前の、水路内の流水の流速が25cm/secとなるように導入水量を調節した。尚、導入する水の水温は40℃とした。可塑性グラウト材の材料は下記のものをそれぞれ用い、それらの配合は下記表1の通りとした。そして、上記の流水環境の水路に、内径25mmのシリンダーを用いて、300リットル/分の可塑性グラウト材を注入した。尚、比較例1として、セメント鉱物系可塑化材の含有量比のみを従来の可塑性グラウト材程度に減量した点のみを実施例1との配合上の差異としたものを用意した。又、比較例2として、従来品の配合による一般的な可塑性グラウト材を用意した。実験の結果は表2に示す通りであった。
【0063】
[使用材料]
(主材セメント)
低熱ポルトランドセメント:市販品、ブレーン値3440cm/g、密度3.22g/cm
普通ポルトランドセメント:市販品、ブレーン値3200cm/g、密度3.15g/cm
(石炭灰)
改質フライアッシュ:高品質フライアッシュII種相当、密度2.21g/cm
普通フライアッシュ:東京電力常磐火力産フライアッシュII種、密度2.23g/cm
(不分離性混和剤)
アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸系増粘剤(AMPS系増粘剤):「テルビス」((株)テルナイト製)
(セメント鉱物系可塑化材)
「クリーングラウトCG−1000」(電気化学工業(株)製)、カルシウムアルミネートC12組成、非晶質、ブレーン値6050cm/g、ガラス化率100%、市販無水セッコウの粉砕品、ブレーン値5900cm/gを同等で混合。密度2.21g/cm
(凝結遅延剤)
「D−100セッター」(電気化学工業(株)社製)
(ポリマー系可塑化材)
「クリーングラウトCG−2000」(電気化学工業(株)製)、エチルアクリレート/メタクリル酸を共重合したポリマーエマルジョン(モル比45/55)固形分濃度30%、密度1.05g/cm
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
比較例2については、可塑性グラウト材のJISフロー値(流動性、充填性を示す指標)が100mm〜150mmの範囲でばらつきが大きかったため、上記の通り、充填不足が生じ漏水を十分に止めることができなかった。尚、可塑性グラウト材の圧送速度(300l/mis)とB/Cの関係を実験で求め、可塑後のグラウト材の品質安定性(JISフロー値で100mm程度)及び充填状況等を勘案し、本願発明の可塑性グラウト材のおいては、B/C=10質量%を最適値とした。
【0067】
<水中不分離性の評価>
実施例の可塑性グラウト材について、不分離性混和剤の添加率(主材セメントと石炭灰の合計量に対する含有量比(%))のみを、0%から4%まで順次変動させたものについて、それぞれ水中不分離性を評価した。測定は、土木学会の水中不分離コンクリート設計施工指針付属書の水中分離度試験に準じて行い、不分離性混和剤の添加率の異なる上記各可塑性グラウト材を20℃の温度の水中に落下させた場合の浮遊物質量と混濁物質量を、それぞれ測定した。結果を表3に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
表3から、水中不分離性混和剤を添加することで、浮遊物質量及び懸濁物質量が添加しないものと比較して低下していることが分かる。これは、水中不分離性が向上していることを意味する。又、添加量としては、2質量%程度、不分離性混和剤を混入することで十分な水中不分離性を有するものになることが判断された。
【0070】
<可塑後の貫入抵抗値の評価>
実施例の可塑性グラウト材について、可塑後の貫入抵抗値を測定した。又、上記の比較例2の可塑性グラウト材に実施例と同量比の添加率(主材セメントと石炭灰の合計量に対する含有量比(%):2%)となるように不分離性混和剤を添加したものを比較例3とした。測定は、バッチ式ミキサにて5秒間撹拌した後の可塑化した状態の各可塑性グラウト材について、下記条件による「針貫入抵抗試験」によって、可塑後90秒にて測定した貫入針抵抗値(最大荷重値)について、各3回測定し、その平均値を求めた。結果を表4に示す。
(針貫入抵抗試験)
使用ミキサ:愛工舎製作所ケンミックスプレミアKMM770
回転数:自転:約450rpm、公転:約135rpm
撹拌時間:5秒
試験開始までの時間:90秒(90秒以内に下記の容器に詰める)
容器(塩ビTSキャップ):内φ48mm×h=55mm×3個
貫入針の太さ:φ6mm
【0071】
【表4】
【0072】
ここで、上記の貫入抵抗値は、その値が大きい程、可塑の時間にばらつきが生じておらず、又、可塑性グラウト材中に、空隙や隙間が存在していないことを示す。これにより、供試体がモールドにしっかりと充填され、十分な止水が可能となる。
【0073】
以上より、本願発明による可塑性グラウト材は、従来公知の可塑性グラウト材では十分な止水が困難であった大きな流速、高い水温の流水が存する過酷な環境条件下においても、十分な止水効果を発揮しうる可塑性グラウト材であることが実証された。