特許第6377572号(P6377572)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6377572
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】X線発生装置、及びその調整方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/30 20060101AFI20180813BHJP
   H01J 35/08 20060101ALI20180813BHJP
   H01J 35/14 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   H01J35/30
   H01J35/08 C
   H01J35/14
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-96316(P2015-96316)
(22)【出願日】2015年5月11日
(65)【公開番号】特開2016-213078(P2016-213078A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2018年1月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野々口 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】野口 学
(72)【発明者】
【氏名】加藤 光一
(72)【発明者】
【氏名】西田 隆二
(72)【発明者】
【氏名】日下 雄二
(72)【発明者】
【氏名】影山 将史
(72)【発明者】
【氏名】茶木 友弘
【審査官】 道祖土 新吾
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第01557864(EP,A1)
【文献】 国際公開第2011/104011(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/168468(WO,A1)
【文献】 特開2010−146992(JP,A)
【文献】 特表2014−503960(JP,A)
【文献】 特開昭56−145640(JP,A)
【文献】 特開2015−079615(JP,A)
【文献】 特開2002−008960(JP,A)
【文献】 特開昭63−122985(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0117616(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0233046(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0301805(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/08
H01J 35/14
H01J 35/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属と、前記第1の金属と異なる金属である第2の金属と、前記第2の金属と異なる金属である第3の金属と、が順に連続して第1の方向に沿って並んで配置される、電子標的と、
前記電子標的に照射するための電子線を出射する、電子線発生部と、
前記電子線発生部と前記電子標的との間に配置され、前記電子線発生部が出射する前記電子線を調整する、電子線調整部と、
前記電子線調整部と前記電子標的との間に配置され、前記電子標的に照射される前記電子線を前記第1の方向に偏向させる、電子線偏向部と、
前記電子線調整部と前記電子標的との間に配置され、前記電子標的が放出する電子を検出する、電子検出器と、
を備える、X線発生装置であって、
前記電子線調整部は、前記電子線の断面形状を第2の方向に偏平する形状へ変化させる、電子線断面形成部を、備える、ことを特徴とする、X線発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線発生装置であって、
前記電子線調整部は、前記電子線を前記電子標的に向けて集束させるとともに、前記第2の方向から前記第1の方向へ前記電子線の前記断面形状を回転させる、電子線集束部を、備える、ことを特徴とする、X線発生装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のX線発生装置であって、
前記電子線調整部は、前記電子線の光軸を調整する、電子線光軸調整部を、備える、ことを特徴とする、X線発生装置。
【請求項4】
請求項1に記載のX線発生装置であって、
前記電子線偏向部が、前記電子線の前記電子標的における位置を、前記第1の金属から前記第3の金属まで走査し、前記電子検出器が、前記電子線の前記電子標的における複数の位置それぞれにおいて、前記電子標的が放出する電子を検出する、第1測定、を行う、 ことを特徴とする、X線発生装置。
【請求項5】
第1の金属と、前記第1の金属と異なる金属である第2の金属と、前記第2の金属と異なる金属である第3の金属と、が順に連続して第1の方向に沿って並んで配置される、電子標的と、
前記電子標的に照射するための電子線を出射する、電子線発生部と、
前記電子線発生部と前記電子標的との間に配置され、前記電子線発生部が出射する前記電子線を調整する、電子線調整部と、
前記電子線調整部と前記電子標的との間に配置され、前記電子標的に照射される前記電子線を前記第1の方向に偏向させる、電子線偏向部と、
前記電子線調整部と前記電子標的との間に配置され、前記電子標的が放出する電子を検出する、電子検出器と、
を備える、X線発生装置であって、
前記電子線調整部は、前記電子線の断面形状を変化させる、電子線断面形成部を、備え、
前記電子線偏向部が、前記電子線の前記電子標的における位置を、前記第1の金属から前記第3の金属まで走査し、前記電子検出器が、前記電子線の前記電子標的における複数の位置それぞれにおいて、前記電子標的が放出する電子を検出する、第1測定と、
前記電子線断面形成部が、前記電子標的における前記電子線の断面の、前記第1の方向と交差する第2の方向が、前記第1の方向になるよう、前記電子線を回転してなる、試験電子線を生成する、試験電子線生成と、
前記電子線偏向部が、前記試験電子線の前記電子標的における位置を、前記第1の金属から前記第3の金属まで走査し、前記電子検出器が、前記試験電子線の前記電子標的における複数の位置それぞれにおいて、前記電子標的が放出する電子を検出する、第2測定と、
を行う、ことを特徴とする、X線発生装置。
【請求項6】
請求項に記載のX線発生装置であって、
前記電子線偏向部が、前記電子線の前記電子標的における位置を、前記第1の金属から前記第3の金属まで走査し、前記電子検出器が、前記電子線の前記電子標的における複数の位置それぞれにおいて、前記電子標的が放出する電子を検出する、第1測定を、前記電子線集束部が前記電子線を集束させる複数の集束程度それぞれに対して行う、
ことを特徴とする、X線発生装置。
【請求項7】
第1の金属と、前記第1の金属と異なる金属である第2の金属と、前記第2の金属と異なる金属である第3の金属と、が順に連続して第1の方向に沿って並んで配置される、電子標的、を備える、X線発生装置の調整方法であって、
電子線の前記電子標的における位置を、前記第1の金属から前記第3の金属まで前記第1の方向に走査し、前記電子線の前記電子標的における複数の位置それぞれにおいて、前記電子標的が放出する電子を検出する、第1測定工程と、
前記第1測定工程において検出される検出結果に基づいて、前記電子線の前記第1の方向に沿った第1の幅を取得する、第1の幅取得工程と、
前記電子線の前記電子標的における前記断面の、前記第1の方向と交差する第2の方向が、前記第1の方向になるよう、前記電子線を回転してなる、試験電子線を生成する、試験電子線生成工程と、
前記試験電子線の前記電子標的における位置を、前記第1の金属から前記第3の金属まで前記第1の方向に走査し、前記試験電子線の前記電子標的における複数の位置それぞれにおいて、前記電子標的が放出する電子を検出する、第2測定工程と、
前記第2測定工程において検出される検出結果に基づいて、前記電子線の前記第2の方向に沿った第2の幅を取得する、第2の幅取得工程と、
を備える、X線発生装置の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線発生装置に関し、特に、電子線調整機能を備えるX線発生装置、及びその調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、X線発生装置において、高速度の電子線(電子ビーム)を電子標的(ターゲット)に衝突させることにより、X線が発生する。従来、X線発生装置が出射するX線の焦点サイズは、X線発生装置のX線出射側にピンホールを取り付け、X線CCDカメラなどにて拡大画像を撮影することによって測定される(ピンホール撮影法)のが、一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2014−503960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
X線発生装置は、X線回折装置(XRD)など完成品に実装されて販売される。それゆえ、出荷前の工場において、ピンホール撮影法によりX線発生装置のX線の焦点サイズを測定し、それに基づいて電子線を調整して、X線の焦点サイズを調整するのが、一般的である。電子線源であるフィラメントを交換すれば、X線発生装置のX線の焦点サイズは変わることとなる。しかしながら、X線の焦点サイズが比較的大きい場合においては、フィラメントの交換などによって、焦点サイズが変化したとしても、それほど問題とはされなかった。それゆえ、一度、完成品が工場で出荷検査された後は、とくに問題がない限り、X線発生装置の再検査が行われていなかった。
【0005】
また、X線の焦点サイズの変化が問題とされる場合は、再度、ピンホール撮影法により、X線の焦点サイズを測定して、X線の焦点サイズを調整することとなる。そのためには、ピンホールをX線発生装置に取り付けることとなり、完成品に備えられる光学系を一度取り除くこととなる。それゆえ、完成品出荷後、ピンホール撮影法によるX線の焦点サイズを測定することは、ピンホール撮影法自体に工程と時間を要する上に、X線発生装置の調整後、再度、完成品(装置)の光学系の調整を行う必要があり、ユーザにとって大きな負担となっている。また、拡大画像を撮影するために、X線CCDカメラをX線発生装置から遠ざけて設置する必要があり、完成品(装置)にX線CCDカメラを装着すること自体にも困難となり得る。さらに、人体に有害なX線を出射するX線発生装置を、一般のユーザが直接取り扱うことは、危険である。
【0006】
近年、X線発生装置のX線の焦点サイズをより小さくすることが求められており、そのためには、電子線の電子標的における断面サイズ(ビームサイズ)を容易に測定することにより、電子線を調整して、X線の焦点サイズを調整することが求められる。フィラメントを交換するなど環境変化に対して、必要に応じて、一般のユーザが電子線のビームサイズを測定する必要が生じている。
【0007】
特許文献1に、X線源での電子ビームの整列および合焦に関する技術が開示されている。例えば、図1a又は図1bに示す通り、電子標的が液体金属ジェットである電子衝突X線源において、電子標的(相互作用領域30)の下流にセンサ52を配置している。ここで、センサ52は、電子標的の下流に到達する電子を検出している。しかしながら、かかる技術は、電子標的が液体金属ジェットである場合に限定される技術である。電子標的が固体金属である場合には、電子標的の下流に到達する電子を正確に測定することが出来ず、かかる技術を適用することが出来ない。
【0008】
本発明はかかる課題を鑑みてなされたものであり、本発明は、電子標的における電子線のビームサイズを容易に測定することが可能となるX線発生装置、及びその調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記課題を解決するために、本発明に係るX線発生装置は、{第1の金属と、前記第1の金属と異なる金属である第2の金属と、前記第2の金属と異なる金属である第3の金属と、が順に連続して第1の方向に沿って並んで配置される、電子標的}と、前記電子標的に照射するための電子線を出射する、電子線発生部と、前記電子線発生部と前記電子標的との間に配置され、前記電子線発生部が出射する前記電子線を調整する、電子線調整部と、前記電子線調整部と前記電子標的との間に配置され、前記電子標的に照射される前記電子線を前記第1の方向に偏向させる、電子線偏向部と、前記電子線調整部と前記電子標的との間に配置され、前記電子標的が放出する電子を検出する、電子検出器と、を備える。
【0010】
(2)上記(1)に記載のX線発生装置であって、前記電子線調整部は、前記電子線の断面形状を変化させる、電子線断面形成部を、備えていてもよい。
【0011】
(3)上記(1)又は(2)に記載のX線発生装置であって、前記電子線調整部は、前記電子線を前記電子標的に向けて集束させる、電子線集束部を、備えていてもよい。
【0012】
(4)上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のX線発生装置であって、前記電子線調整部は、前記電子線の光軸を調整する、電子線光軸調整部を、備えていてもよい。
【0013】
(5)上記(1)に記載のX線発生装置であって、前記電子線偏向部が、前記電子線の前記電子標的における位置を、前記第1の金属から前記第3の金属まで走査し、前記電子検出器が、前記電子線の前記電子標的における複数の位置それぞれにおいて、前記電子標的が放出する電子を検出する、第1測定、を行ってもよい。
【0014】
(6)上記(2)に記載のX線発生装置であって、前記電子線偏向部が、前記電子線の前記電子標的における位置を、前記第1の金属から前記第3の金属まで走査し、前記電子検出器が、前記電子線の前記電子標的における複数の位置それぞれにおいて、前記電子標的が放出する電子を検出する、第1測定と、前記電子線断面形成部が、前記電子標的における前記電子線の断面の、前記第1の方向と交差する第2の方向が、前記第1の方向になるよう、前記電子線を回転してなる、試験電子線を生成する、試験電子線生成と、前記電子線偏向部が、前記試験電子線の前記電子標的における位置を、前記第1の金属から前記第3の金属まで走査し、前記電子検出器が、前記試験電子線の前記電子標的における複数の位置それぞれにおいて、前記電子標的が放出する電子を検出する、第2測定と、を行ってもよい。
【0015】
(7)上記(3)に記載のX線発生装置であって、前記電子線偏向部が、前記電子線の前記電子標的における位置を、前記第1の金属から前記第3の金属まで走査し、前記電子検出器が、前記電子線の前記電子標的における複数の位置それぞれにおいて、前記電子標的が放出する電子を検出する、第1測定を、前記電子線集束部が前記電子線を集束させる複数の集束程度それぞれに対して行ってもよい。
【0016】
(8)本発明に係るX線発生装置の調整方法は、{第1の金属と、前記第1の金属と異なる金属である第2の金属と、前記第2の金属と異なる金属である第3の金属と、が順に連続して第1の方向に沿って並んで配置される、電子標的}、を備える、X線発生装置の調整方法であって、電子線の前記電子標的における位置を、前記第1の金属から前記第3の金属まで前記第1の方向に走査し、前記電子線の前記電子標的における複数の位置それぞれにおいて、前記電子標的が放出する電子を検出する、第1測定工程と、前記第1測定工程において検出される検出結果に基づいて、前記電子線の前記第1の方向に沿った第1の幅を取得する、第1の幅取得工程と、を備える。
【0017】
(9)上記(8)に記載のX線発生装置の調整方法であって、前記電子線の前記電子標的における前記断面の、前記第1の方向と交差する第2の方向が、前記第1の方向になるよう、前記電子線を回転してなる、試験電子線を生成する、試験電子線生成工程と、前記試験電子線の前記電子標的における位置を、前記第1の金属から前記第3の金属まで前記第1の方向に走査し、前記試験電子線の前記電子標的における複数の位置それぞれにおいて、前記電子標的が放出する電子を検出する、第2測定工程と、前記第2測定工程において検出される検出結果に基づいて、前記電子線の前記第2の方向に沿った第2の幅を取得する、第2の幅取得工程と、をさらに備えていてもよい。
【0018】
(10)上記(8)に記載のX線発生装置の調整方法であって、前記第1測定工程を、前記電子線を集束させる複数の集束程度それぞれに対して行ってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、電子標的における電子線のビームサイズを容易に測定することが可能となるX線発生装置、及びその調整方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係るX線発生装置の構造を示す模式図である。
図2】本発明の実施形態に係るX線発生装置の構造を示す模式図である。
図3】本発明の実施形態に係るX線発生装置の調整方法を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係る光軸調整ステップにおける光軸調整例を示す図である。
図5】本発明の実施形態に係る焦点調整ステップを示す図である。
図6】本発明の実施形態に係る焦点調整ステップにおける焦点調整例を示す図である。
図7】本発明の実施形態に係る断面形状調整ステップを示す図である。
図8】本発明の実施形態に係る断面形状調整ステップにおける解析例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、寸法、形状等について模式的に表す場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0022】
図1及び図2は、本発明の実施形態に係るX線発生装置1の構造を示す模式図である。図1はX線発生装置1のブロック図であり、図2はX線発生装置1の主要部品の透視図を電子線の断面形状とともに示した図である。図1及び図2には、xyz座標が記載されており、理想的な電子線に基づいて定義される。z軸方向は該電子線の光軸方向であり、xy平面は該電子線の光軸に垂直な平面である。x軸方向は、電子標的に照射される該電子線の断面の偏平方向(長軸方向)であり、y軸方向は、偏平方向に垂直な方向(短軸方向)である。
【0023】
当該実施形態に係るX線発生装置1は、電子線発生部11(電子銃)と、アライメントコイル12(Alignment Coil)と、偏平・回転コイル13(Deforming & Rotating Coil)と、集束コイル14(Focusing Coil)と、偏向コイル15(Deflecting Coil)と、電子検出器16(Electron Detector)と、ローターターゲット17(電子標的)と、制御部18と、外囲器20(真空チャンバー)と、を備えている。なお、電子線調整部2は、アライメントコイル12と、偏平・回転コイル13と、集束コイル14と、を含んでいる。当該実施形態に係るX線発生装置1において、理想的な電子線のローターターゲット17における断面は楕円形状(楕円ビーム)であり、楕円形状の偏平方向(長軸方向)はローターターゲット17の軸方向である。また、電子線発生部11と、電子検出器16と、ローターターゲット17とは、外囲器20の中に収納されており、内部が真空状態に維持される。電子線調整部2に含まれる各部品や偏向コイル15は外囲器20の外部に配置される。
【0024】
ローターターゲット17は円柱形状の回転体であり、その側面には複数の金属が帯状に形成されている。側面の幅(円柱の高さ)は40mmである。ローターターゲット17の側面に形成される複数の金属に電子線が照射され、X線が発生する。すなわち、ローターターゲット17の側面に形成される複数の金属が電子標的である。当該実施形態では、ローターターゲット17の基台はCuによって形成されており、基台に幅0.7mm、幅精度が1μm以下の精度を有するW(タングステン)金属帯が埋めこまれている。それにより、Cu(銅:第1の金属)と、W(タングステン:第2の金属)と、Cu(第3の金属)と、が順に連続して第1の方向(軸方向)に並んで配置されている。ここで、第2の金属は、電子線の調整に用いるための金属帯である。金属帯の両側に、第1の金属及び第3の金属がそれぞれ形成されている。なお、第1の金属と第2の金属が連続して配置されているとは、第1の金属と第2の金属とが接しているか、実質的に接しているとみなされるほど隙間が電子線のビームサイズと比較して十分に小さいことを言う。また、第1の金属と第2の金属の境界において、照射される電子線によりローターターゲット17が放出する電子の数が異なるよう、第1の金属及び第2の金属は異なる金属である。具体的には、第1の金属の原子番号と、第2の金属の原子番号は、一方が他方の1.5倍以上であるのが望ましい。同様に、第2の金属及び第3の金属は異なる金属であるが、第1の金属と第3の金属は同じ金属であってもよく、電子線の調整の観点では同じ金属であるのが望ましい。ローターターゲット17が放出する電子は、電子線がローターターゲット17を照射する際に後方散乱される電子であり、電子標的となる金属内で弾性散乱し放出される反跳電子(高いエネルギー)や、二次電子(電子線の電子のエネルギーと比較して、低いエネルギー)を含んでいる。
【0025】
電子線がローターターゲット17に衝突することにより、X線が発生する。ローターターゲット17の軸と、ローターターゲット17の側面における電子線の断面(楕円)の長軸と、によって形成される平面(xz平面)を考える。ここで、かかる平面において、長軸(x軸方向)となす角を取り出し角θとすると、X線の発生箇所(電子線の断面)の中心からθ=14°となる方向に、X線窓30が配置され、ローターターゲット17より発生するX線のうち、X線窓30を通過するX線が外部へ出射される。
【0026】
本発明に係るX線発生装置の主な特徴は、第1の金属と第2の金属と第3の金属とが順に連続して第1の方向に並んで配置されている電子標的にある。第2の金属が形成される部分の第1の方向に沿う長さに基づいて、電子標的に照射される電子線の調整を行うことが可能となっている。
【0027】
電子線発生部11は、フィラメント21と、ウェネルト22(Wehnelt)と、アノード23と、を備えており、アノード23には孔が形成されている。なお、フィラメント21とウェネルト22とで、カソードを構成している。フィラメント21から放出された電子が加速され、この孔を通り抜けて外部へ放出し、電子線となる。すなわち、電子線発生部11は、電子標的であるローターターゲット17に照射するための電子線を出射する。ウェネルト22によって、フィラメント21とアノード23との間で、電子線は集束し、クロスオーバーを形成して、その後発散する。さらに、電子線は、集束コイル14によって、例えば、ローターターゲット17の側面に電子線が焦点を結ぶよう調整される。電子線の焦点サイズを小さくするためには、クロスオーバーのサイズを小さくするのが望ましい。それゆえ、フィラメント21に用いる材料は、電子放出密度が大きくてフラットな小径エミッタ―を実現できる六ホウ化ランタン(LaB6)や六ホウ化セリウム(CeB6)等の希土類金属化合物が望ましいが、これに限定されることはない。
【0028】
電子線調整部2は、電子線発生部11とローターターゲット17との間に配置され、電子線発生部11が出射する電子線が、所望の条件でローターターゲット17に照射されるよう、電子線を調整する。ここでは、電子線調整部2は、複数のコイルを用いて、磁場によって電子線を調整する。電子線調整部2に含まれる各部品については後述する。
【0029】
偏向コイル15は、ローターターゲット17に照射される電子線を偏向させる電子線偏向部であり、電子線調整部2とローターターゲット17との間に配置される。偏向コイル15は4極コイルによって構成されており、偏向コイル15通過前の電子線の光軸を垂直に貫く平面のいずれの方向にも、偏向コイル15通過後の電子線を偏向させることが出来る。偏向コイル15の原理は、電磁偏向形ブラウン管オシロスコープの偏向コイルと同じである。当該実施形態では、ローターターゲット17における電子線の断面の偏方向(長軸方向)を第1の方向として、偏向コイル15が電子線を偏向し、ローターターゲット17の側面において第1の方向に電子線を走査する。電子線の走査方向は、ローターターゲット17の軸方向に沿う方向であり、軸方向と一致しているのが望ましい。なお、偏向コイル15によって電子線をローターターゲット17の軸方向に沿う方向のみ走査する場合は、4極コイルのうち、y軸方向に並ぶ2極のコイルのみであってもよい。
【0030】
電子検出器16は、ローターターゲット17が放出する電子を検出する。電子線調整部2とローターターゲット17との間に配置される。電子検出器16の配置は、ローターターゲット17より後方散乱される電子を補足出来る限り、電子線調整部2と偏向コイル15の間に配置されてもよい。しかしながら、より電子を補足する観点からは、偏向コイル15とローターターゲット17との間に配置されるのが望ましい。ここで、電子検出器16は、後方散乱電子(BSE:Back Scattering Electron)検出器であり、ローターターゲット17から後方散乱された電子(反跳電子や二次電子)を検出する。電子検出器16は、電子線発生部11(フィラメント21)、ローターターゲット17、及び外囲器20とは電気的に浮いた状態(フロート状態)となっており、電子検出器16は検流計を介して接地電位と接続されている。後方散乱される電子のうち、反跳電子はエネルギーが高いので、電子検出器16に特に電圧を印加しなくても、反跳電子を容易に捕獲することが可能である。電子検出器16は、リング形状をしており、リング形状の孔を電子線が通過する。この形状により、電子線のローターターゲット17へ照射を妨げることなく、電子検出器16はローターターゲット17が放出する電子を検出することが出来る。なお、電子検出器16は、電子を検出するという観点からはリング形状が望ましいが、電子線のローターターゲット17への照射を妨げるものでない限り、この形状に限定されるものではない。
【0031】
制御部18は、電子線発生部11が出射する電子線が、所望の条件でローターターゲット17を照射するよう、電子線調整部2に電子線を調整させる。制御部18は、CPU40と、電子線発生部制御部41と、アライメントコイル制御部42と、偏平・回転コイル制御部43と、集束コイル制御部44と、偏向コイル制御部45と、電子検出器制御部46と、ローターターゲット制御部47と、メモリ50と、を備えている。電子線発生部制御部41、アライメントコイル制御部42、偏平・回転コイル制御部43、集束コイル制御部44、偏向コイル制御部45、電子検出器制御部46、及びローターターゲット制御部47は、それぞれ、電子線発生部11、アライメントコイル12、偏平・回転コイル13、集束コイル14、偏向コイル15、電子検出器16、及びローターターゲット17を制御する。CPU40に入力又はCPU40から出力される信号データは、外部インターフェース(I/F)を介して入出力可能である。かかる信号データはメモリ50に格納されてもよい。また、CPU40の内部で実行される演算結果がメモリ50に格納される。CPU40の内部での演算結果は、外部インターフェース(I/F)を介して、外部へ出力することが出来る。制御部18は、市販のコンピュータ機器と各部品への制御回路によって実現される。制御部18は、X線発生装置1に内蔵されていてもよいし、制御部18の一部又は全部は、X線発生装置1の外部に配置されてもよい。
【0032】
次に、電子線調整部2に含まれる各部品について説明する。アライメントコイル12は、電子線の光軸を調整する電子線光軸調整部である。電子線の光軸が、偏平・回転コイル13や集束コイル14の磁場中心に近づくよう、アライメントコイル12によって、電子線発生部11が出射する電子線が光軸調整される(アライメントされる)。電子線の光軸が、偏平・回転コイル13や集束コイル14の磁場中心と一致しているのがさらに望ましい。
【0033】
アライメントコイル12は、電子線の光軸(z軸方向)に沿って並ぶ2組のコイルを含み、各組のコイルは4極コイルである。2組の4極コイルにより、x軸回りの回転とy軸回りの回転の組み合わせを、各組のコイルによって順に実行することによって、電子線の光軸をz軸方向に平行に近づけつつ、光軸をxy平面の中心に近づけることが可能である。
【0034】
偏平・回転コイル13は、電子線の断面形状を変化させる、電子線断面形成部である。電子線の断面は、偏平・回転コイル13により、楕円形状に形成される。偏平・回転コイル13は8極コイルによって構成されている。偏平・回転コイル13が8極コイルによって構成されていることにより、電子線の断面を、所望の偏平比(長径と短径の比)、所望の偏平方向(長軸方向)の楕円形状とすることが出来る。例えば、長径が短径の例えば4倍となるように、偏平される(偏平比4:1)。前述の通り、ローターターゲット17から発生するX線のうち、取り出し角θが14°となる方向のX線が外部に放出される。X線の焦点サイズは、電子標的に照射される電子線のビームサイズと実質的に等しいが、かかる取り出し角の場合、見かけ上のX線の焦点サイズは、ローターターゲット17における電子線の断面の長軸方向の長さ(長径)が1/4に圧縮される。それゆえ、ここでは、ローターターゲット17における電子線の断面は長径が短径の4倍となる楕円形状である場合に、見かけ上のX線の焦点が円形状(ドット)の微小焦点となる。なお、X線発生装置のX線の焦点として円形状の微小焦点を所望する場合は、電子線の断面の偏平比を、取り出し角θに応じて決定すればよい。
【0035】
また、電子線が集束コイル14を通過する際に、電子線が焦点に向けて集束されることに加えて、電子線の断面が回転する。当該実施形態に係るX線発生装置では、集束コイル14とローターターゲット17との間に、偏向コイル15と電子検出器16を配置する必要があり、集束コイル14とローターターゲット17との間に、偏平・回転コイル13をさらに配置することは望ましくない。それゆえ、当該実施形態に係るX線発生装置では、偏平・回転コイル13が、集束コイル14よりも電子線発生部11側に配置されている。ローターターゲット17における電子線の断面の偏平方向がローターターゲット17の軸方向に沿うように、集束コイル14における回転角を考慮して、偏平・回転コイル13通過後の電子線の断面の偏平方向を決定すればよい。偏平・回転コイル13は、電子線の断面の偏平方向を所望の方向とすることが出来るので、電子線の断面の偏平方向を90度回転させた試験電子線を生成することも容易である。
【0036】
なお、前述の通り、偏平・回転コイル13は8極コイルで構成されている。8極コイルは2組の4極コイルからなり、2組の4極コイルは、x軸及びy軸の正負それぞれの向きに配置される4極コイルと、該4極コイルをそれぞれz軸に対して45°回転させた位置にある4極コイルである。
【0037】
集束コイル14は、電子線をローターターゲット17に向けて集束させる電子線集束部である。集束コイル14は磁界型電子レンズである。電子線発生部11より出射される電子線は、発散をしながら、アライメントコイル12及び偏平・回転コイル13を通過するが、集束コイル14が電子線を集束させる。電子線を集束させる程度を表す集束距離(レンズの焦点距離)を、集束コイル14に流れる電流(集束コイル電流)によって制御することが出来る。ローターターゲット17の側面において電子線が焦点を結ぶのが望ましい。前述の通り、電子線が集束コイル14を通過する際に、電子線の断面が回転する。電子の軌道回転角Ψは、Ψ=0.186・I・N/√V(I:集束コイル電流,N:集束コイルの巻き数,V:電子加速電圧)で表される。なお、電子加速電圧Vは、フィラメント21とアノード23間の電圧である。
【0038】
以上、当該実施形態に係るX線発生装置の構造について説明した。従来のX線発生装置は、ターゲットを接地電圧とし、カソード電圧とバイアス電圧の3極が形成する電界によって、フィラメントから放出される電子線をターゲットに集束させていた。このようなX線発生装置が発生するX線の焦点サイズは、Φ70μm以上である。X線の焦点サイズがΦ70μm以下の微小焦点を実現するためには、当該実施形態に係る電子線調整部のように、電子線光軸調整部、電子線断面形成部、及び電子線集束部が磁気的に電子線の調整を行うことが望ましく、かかる電子線調整部を備えるX線発生装置によって、焦点サイズがΦ70μm以下のX線の発生が実現される。焦点サイズがΦ50μm以下のX線を従来のX線発生装置で実現することは困難であり、典型的にはΦ20μm以下の焦点サイズのX線の発生を実現することが出来る。
【0039】
特に、電子線調整部において、電子線光軸調整部、電子線断面形成部、及び電子線集束部を、電子線発生部側から電子標的側へ順に配置することにより、電子線集束部と電子標的に存在する空間の自由度が増し、当該実施形態のように、電子線偏向部や電子検出器などを配置することが出来る。電子線断面形成部が電子線の断面を円形状から偏平形状に変化させると、前述の通り、電子線集束部を通過する際に電子線の断面が回転する。しかし、当該実施形態のように、その回転角を考慮して、電子断面形成部が電子線の断面を変化させることにより、かかる配置であっても、電子標的における電子線の断面を所望の形状とすることが実現する。
【0040】
なお、当該実施形態に係る電子線調整部2に含まれるアライメントコイル12、偏平・回転コイル13、及び集束コイル14は、電子顕微鏡や電子線描画装置など、電子線を用いる装置に備えられる部品と原理は共通している。特に、当該実施形態に係る偏平・回転コイルは、電子顕微鏡に用いられるスティグメータ(8極コイル)と原理は共通している。しかしながら、当該実施形態に係る偏平・回転コイルは、電子線の断面を意図的に楕円形状(偏平形状)と形成することを目的として配置されるのに対して、スティグメータは非点補正、すなわち、電子線の断面形状が円形状でない場合に円形状に近づけることを目的として配置されるので、使用する目的が全く異なっている。
【0041】
また、従来のX線発生装置では、電子線を調整する自由度が少なく、フィラメントの交換により、X線の焦点サイズが±5%程度まで変動することもあり得た。しかし、X線の焦点サイズがΦ70μm以上のX線発生装置を備える測定装置(例えば、単結晶構造解析装置やX線顕微鏡)では、かかるX線の焦点サイズの変動もあまり問題となっていない。前述の通り、X線の焦点サイズがΦ70μm以下の微小焦点を実現するためには、電子線光軸調整部、電子線断面形成部、及び電子線集束部が磁気的に電子線の調整を行うことが望ましいが、電子線発生部と電子標的の間に電子線調整部を配置する必要があり、両者の距離は従来のX線発生装置と比べると(例えば、10倍以上)非常に長くなる。それゆえ、例えば、電子線集束部である集束コイル(集束レンズ)に流れる電流(集束コイル電流)の変動で焦点サイズも敏感に変動する。本発明により電子線を調整することが可能となっており、本発明は顕著な効果を奏している。また、例えば、集束コイルによって誤って電子標的における電子線の断面を過度に小さくしてしまうと、電子標的にダメージを与えてしまうことも考えらえられる。そのために、高出力でX線を出射する前に、低出力によって電子線を調整しておくことが重要となる。
【0042】
以下、当該実施形態に係るX線発生装置において、電子線を所望の条件に調整する調整法について説明する。図3は、当該実施形態に係るX線発生装置1の調整方法を示す図である。以下の調整方法は、制御部18が、電子線調整部2や、偏向コイル15(電子線偏向部)、電子検出器16を制御することにより実現される。
【0043】
[S1:調整準備ステップ]
まず、電子線の調整を行う状態を準備する。具体的には、制御部18の電子線発生部制御部41が、電子線発生部11のフィラメント21(カソード)とアノード23との間に電子加速電圧を印加する。また、電子線発生部制御部41が、フィラメント21に電流を流し、フィラメント21を点灯する。その際、当該電流を通常のX線発生時の1/10程度に設定する。そして、電子線発生部制御部41が、バイアス電圧を印加し、最適電圧に調整する。
【0044】
なお、当該実施形態に係るX線発生装置は、電子標的としてローターターゲット17を用いている。電子線の調整には、ローターターゲット17の回転を止めて静止した状態で調整を行うのが望ましい。それゆえ、調整の際に、電子標的がダメージを受けないように、フィラメント21に流す電流を通常のX線発生時の1/10程度に制御するのが望ましい。ここで、バイアス電圧とは、電子線発生部11のフィラメント21(カソード)とウェネルト22との間に印加される電圧である。バイアス電圧を最適電圧とすることにより、クロスオーバーのサイズを所望のサイズとする。望ましくは最小にする。
【0045】
[S2:光軸調整ステップ]
ここでは、電子線の光軸を調整する。調整の指標は、電子標的(ターゲット)に流れるターゲット電流であり、ローターターゲット制御部47がターゲット電流を検出する。具体的には、偏平・回転コイル13や集束コイル14に高磁場を生成させる。ターゲット電流をより増加させるよう、アライメントコイル12を調整する。
【0046】
偏平・回転コイル制御部43及び集束コイル制御部44がそれぞれ、偏平・回転コイル13や集束コイル14に流す電流を増加し、生成する磁場を高磁場とする。望ましくは最大化する。なお、状況によっては、集束コイル14を弱励磁(100mA程度)とし、偏平・回転コイル13をオンにする状態において、電子線の光軸調整をした方が望ましい場合もある。また、偏向コイル制御部45が偏向コイル15をオフ状態にする。この場合、電子線の光軸が、偏平・回転コイル13の磁場中心、又は集束コイル14の磁場中心から離れていると、電子がこれらコイルを通過する際に、コイルが生成する磁場によって大幅に曲げられ、外囲器20の内壁(細管)に衝突し、ローターターゲット17まで到達しない。すなわち、ターゲット電流は小さい。電子線の光軸を、偏平・回転コイル13の磁場中心、及び集束コイル14の磁場中心に近づけることにより、ターゲット電流は増加する。それゆえ、ターゲット電流をモニターしながら、アライメントコイル制御部42が、アライメントコイル12の電流を調整する。望ましくは、ターゲット電流を最大化するアライメントコイル12の電流とし、これが最適値である。なお、ローターターゲット17は、外囲器20の内壁(細管)やフィラメント21、アノード23と、電気的に浮いた状態(フロート状態)となっている。それゆえ、ターゲット電流を検出することが出来る。
【0047】
図4は、当該実施形態に係る光軸調整ステップにおける光軸調整例を示す図である。中央の図は、横軸がx軸方向の軸調整を行うアライメント電流X(mA)を、縦軸がy軸方向の軸調整を行うアライメント電流Y(mA)を、それぞれ表しており、図にはターゲット電流の値が等高線により示されている。下側の図は、アライメント電流YがY=−0.1mAの場合の、アライメント電流Xに対するターゲット電流を示している。同様に、側の図は、アライメント電流XがX=0.1mAの場合の、アライメント電流Yに対するターゲット電流を示している。この光軸調整例では、X=0.1mA,Y=−0.1mAのときに、ターゲット電流が最大となっている。
【0048】
[S3:焦点調整ステップ]
ここでは、電子線の焦点位置を調整する。調整の指標は、電子検出器が検出する電子量である。具体的には、検出される電子量に基づいて、集束コイル14に流す電流(集束コイル電流)を調整して、電子線のローターターゲット17における断面を所望の大きさにする。
【0049】
図5は、当該実施形態に係る焦点調整ステップを示す図である。まず、アライメントコイル制御部42が、アライメントコイル12に、光軸調整ステップにおいて調整されたアライメント電流を流すとともに、偏平・回転コイル制御部43が偏平・回転コイル13をオフ状態とし、焦点調整用電子線を発生させる(Sa:焦点調整用電子線生成ステップ)。そして、集束コイル制御部44が集束コイル14に流す電流(集束コイル電流)を設定し、該電流に応じる集束程度に電子線を集束させる(Sb:集束形成ステップ)。
【0050】
次に、かかる集束程度において、第1測定を行う(Sc:第1測定ステップ)。ここで、第1測定とは、電子線偏向部が、電子線の電子標的における位置を、第1の金属から第3の金属まで第1の方向に走査し、電子検出器が、電子線の電子標的における複数の位置それぞれにおいて、電子標的が放出する電子を検出することである。具体的には、偏向コイル制御部45が、偏向コイル15に流す電流を変化させ、偏向コイル15が、電子線を偏向させ、ローターターゲット17における電子線の断面を、第1の金属(Cu)から第3の金属(Cu)まで第1の方向(x軸方向)に走査する。ここで、ローターターゲット17における電子線の断面の中心を、電子線のローターターゲット17における位置とすると、偏向コイル15が電子線の断面を第1の方向に走査しながら、複数の位置それぞれにおいて、電子検出器制御部46により電子検出器16はローターターゲット17が放出する電子を検出する。複数の位置それぞれにおける電子検出量をプロットすることにより検出電子プロファイルが得られる。
【0051】
放出される電子は、ターゲットとなる金属の種類によって異なる。例えば、ある電子線が金属に照射される場合に、W(タングステン)が放出する電子量は、Cu(銅)が放出する電子量より大きい。それゆえ、電子線の断面がすべて第1の金属(Cu)の領域に含まれる場合では、検出電子量は小さい。電子線を走査し、電子線の断面の一部が第2の金属(W)の領域に含まれるようになると、検出電子量は増加する。電子線を走査して、電子線の断面が第1の金属と第2の金属との境界を横切る過程で、検出電子量は徐々に増加する。さらに電子線を走査し、電子線の断面がすべて第2の金属(W)の領域に含まれる場合には検出電子量は大きく、その状態において電子線を走査しても検出電子量はほとんど変化せず実質的に一定である。同様に、電子線の断面が第2の金属と第3の金属との境界を横切る過程で、検出電子量は徐々に減少する。さらに電子線を走査し、電子線の断面がすべて第3の金属(Cu)の領域に含まれる場合には検出電子量は小さく、その状態において電子線を走査しても検出電子量はほとんど変化せず実質的に一定である。
【0052】
なお、「電子線の電子標的における位置を、第1の金属から第3の金属まで第1の方向に走査する」とは、電子線偏向部が電子線を偏向させることにより、電子線の電子標的における断面が第1の金属の領域にすべて含まれる状態から、第3の金属の領域にすべて含まれる状態まで、第1の方向に変化させることを言う。
【0053】
次に、集束コイル制御部44が集束コイル14に流す電流を他の値に設定し、該電流の値に応じる集束程度に電子線を集束させる(Sb:集束形成ステップ)。かかる集束程度において、第1測定を行う(Sc:第1測定ステップ)。設定されたN個(N≧2の自然数)の値(電流の値i,i,・・i)に対して、これを繰り返す。すなわち、N個の値それぞれに対して、第1測定を行う。そして、複数の集束程度における第1測定の結果に基づいて、所望の集束程度を与える電流の値を決定する(Sd:集束コイル電流決定ステップ)。具体的には、CPU40に、複数の集束程度における第1測定の結果が入力され、複数の集束程度それぞれにおける検出電子プロファイルを作成する。CPU40が実行する解析では、例えば、検出電子プロファイルがつくる曲線に対して微分係数を算出する。第1の金属と第2の金属の境界を横切る領域における微分係数のピーク値(最大値)を比較する。最大のピーク値を与える集束コイル電流を、電子線の焦点サイズを小さくする集束コイル電流として決定する。複数のプロファイルより、最大のピーク値を供給する集束コイル電流を内挿により求めてもよい。また、微分係数のピークの半値幅を求め、最小の半値幅を与える集束コイル電流により、集束コイル電流の設定値を決定してもよい。さらに、最大のピーク値(最小の半値幅)を与える集束コイル電流に対する第1測定の測定結果に対して、後述する第1の幅取得ステップを実行することにより、電子線の焦点(ドット)の幅を決定してもよい。
【0054】
図6は、当該実施形態に係る焦点調整ステップにおける焦点調整例を示す図である。ここでは、5つの異なる集束コイル電流の値それぞれにおける検出電子プロファイルが示されている。図の横軸は電子線偏向量(mm)であり、電子線のローターターゲット17における位置を示している。図の縦軸は検出電子量(arb.unit)であり、電子検出器16が検出する電子量を示している。5つの電流の値における検出電子プロファイルを比較しやすいように、電流の値の小さい方(A)から大きい方(E)にかけて、5つのプロファイルをずらして示している。電子線の焦点があっておらず、電子線のローターターゲット17における断面が大きくなると、第1の金属(Cu)と第2の金属(W)の境界を横切る過程で、検出電子量の増加がなまる。反対に、電子線の焦点がローターターゲット17の側面に近づくにつれて、電子線の断面は小さくなり、かかる境界において、検出電子量は急峻に増加する。第2の金属(W)と第3の金属(Cu)の境界を横切る過程での、検出電子量の減少についても同様である。
【0055】
図6に示す通り、3番目のプロファイル(C)において、検出電子量が急峻に変化しており、5つの電流の値の中では、この電流の値が、電子線の焦点がローターターゲット17の側面により近い集束コイル電流の値となっている。
【0056】
なお、当該実施形態では、第1の金属から第3の金属を含むプロファイルを用いて、電子線の焦点調整を行っているが、これに限定されることはない。分解能を高めて、電子線の走査を第1の金属から第2の金属(又は第2の金属から第3の金属)にかけてのみ行ってもよい。その場合、理論計算によるプロファイル形状と実際のプロファイル形状との差より、電子線の焦点サイズを決定してもよい。
【0057】
[S4:断面形状調整ステップ]
ここでは、電子線の電子標的における断面形状を測定し、電子線の断面形状を調整する。調整の指標は、電子検出器が検出する電子量である。具体的には、電子標的における電子線の断面のうち、第1の方向に沿った幅(第1の幅)を取得し、続いて、第1の方向とは交差する第2の方向に沿った幅(第2の幅)を取得する。
【0058】
図7は、当該実施形態に係る断面形状調整ステップを示す図である。偏平・回転コイル制御部43が、偏平・回転コイル13の2組のコイル(4極コイル)に設定された電流を流し、偏平・回転コイル13が、ローターターゲット17における電子線の断面を、所望の偏平比及び所望の偏平方向と予測する電子線を生成する(SA:電子線生成ステップ)。前述の通り、電子線が集束コイル14を通過する際に、電子線の断面は回転するので、その回転角を考慮して、偏平・回転コイル制御部43は、偏平・回転コイル13に流す電流を決定する。
【0059】
次に、第1測定を行う(SB:第1測定ステップ)。ここで、第1測定は、前述の焦点調整ステップにおける第1測定と同じである。ただし、測定の対象とする電子線のローターターゲット17における断面形状は異なっている。第1測定により、複数の位置それぞれにおける電子検出量を取得する。
【0060】
続いて、電子線の電子標的における断面の第1の方向に沿った幅である第1の幅を取得する。第1測定ステップにおいて検出される検出結果に基づいて、第1の幅を取得する(SC:第1の幅取得ステップ)。具体的には、CPU40に、第1測定の結果が入力され、検出電子プロファイルを作成する。CPU40は、検出電子プロファイルの形状から幅を求め、既知である第2の金属(W)の幅を差し引いて、電子線のローターターゲット17における断面の第1の方向に沿った幅(第1の幅)を取得する。
【0061】
図8は、当該実施形態に係る断面形状調整ステップにおける解析例を示す図である。図8は、第1測定の結果をプロットした検出電子プロファイルが示されている。電子線の断面が第1の金属(第3の金属)の領域にすべて含まれるときの検出電子量の平均を求め、第1の金属(第3の金属)の検出電子量を取得する。同様に、電子線の断面が第2の金属の領域にすべて含まれるときの検出電子量の平均を求め、第2の金属の検出電子量を取得する。第1の金属(第3の金属)の検出電子量と、第2の金属の検出電子量と、の平均値となる検出電子量における電子線偏向量(電子線走査の位置)を算出する。両者の電子線偏向量の間の長さを幅W1とする。この幅W1から第2の金属の幅W0を差し引いた値が、電子線の断面の偏平方向に沿った幅(第1の幅)である。
【0062】
図7に示す通り、次に、試験電子線を生成する(SD:試験電子線生成ステップ)。ここで、試験電子線のローターターゲット17における断面は、電子線生成ステップ(SA)で生成する電子線のローターターゲット17における断面を回転したものとなっている。電子線のローターターゲット17における断面の第2の方向が、試験電子線のローターターゲット17における断面の第1の方向になるように、電子線の断面を回転してなるのが、試験電子線である。偏向コイル15の偏向方向が第1の方向であり、ここでは、第2の方向は偏向コイル15の偏向方向に直交する方向であり、電子線の断面を90度回転させてなるのが試験電子線である。
【0063】
そして、第2測定を行う(SE:第2測定ステップ)。ここで、第2測定は第1測定と同じ測定であるが、測定の対象が試験電子線である点が第1測定と異なっている。試験電子線を第1の方向に走査することは、電子線生成ステップ(SA)で生成する電子線を第2の方向に走査することに対応する。
【0064】
さらに、試験電子線の電子標的における断面の第1の方向に沿ったの幅である第2の幅を取得する(SF:第2の幅取得ステップ)。試験電子線の断面の第1の方向に沿った幅は、電子線生成ステップ(SA)で生成する電子線の断面の第2の方向に沿った幅に対応している。第2測定ステップにおいて検出される検出結果に基づいて、第2の幅を取得する。
【0065】
電子線の断面における第1の幅及び第2の幅から、生成される電子線が所望の偏平比及び所望の偏平方向の断面となっているかどうかを判定する(SG:断面形状判定ステップ)。電子線の断面形状の第1の幅及び第2の幅より、電子線のビームサイズが得られる。制御部18が電子線の断面形状が所望のものではないと判断した場合は、制御部18の偏平・回転コイル制御部43は、偏平・回転コイル13の2組のコイル(4極コイル)に異なる値の電流を流し、偏平・回転コイル13が、新たな断面を有する電子線を生成する。かかる電子線に対しても、第1測定及び第2測定を繰り返し、第1の幅及び第2の幅を取得する。これを繰り返す。断面形状判定ステップにおいて、制御部18が電子線の断面形状が所望のものであると判断して、電子線の調整が終了する。管電流をX線発生時の値に戻して、所望のX線を出射することとなる。
【0066】
ローターターゲット17における電子線の断面形状が所望の偏平比の楕円となっているのみならず、偏平方向(長軸方向)が、ローターターゲット17の軸方向と一致しているのが望ましい。より厳密には、X線窓30が配置されるX線の取り出し方向と、電子線の断面の偏平方向と、が同一平面を形成するよう、電子線の断面の偏平方向(長軸方向)を調整する。
【0067】
前述の通り、電子線の断面は、集束コイル14を通過する際に回転し、その回転角は、集束コイル電流に依存している。それゆえ、かかる回転の後に、ローターターゲット17における電子線の断面が所望の偏平方向となるように、制御部18は偏平・回転コイル13に流す電流を決定する。例えば、偏平比を固定して、偏平方向を徐々に変化させる。言い換えれば、電子線の断面の形状自体を固定して徐々に断面を回転させる。その角度毎に、第1の幅及び第2の幅を取得して、第1の幅が最大(第2の幅が最小)となるとき、ローターターゲット17における電子線の断面の偏平方向は第1の方向(電子線の走査方向)と一致する。このようにして、制御部18は電子線の断面の偏平方向を制御することが出来る。
【0068】
当該実施形態に係るX線発生装置の主な特徴は、ローターターゲット17の側面に、電子線の調整に用いるための金属帯である第2の金属が形成されていることにある。これにより、第1の方向に電子線を走査しながら、放出される電子を検出することにより、電子線のローターターゲット17におけるビームサイズ(第1の方向に沿った長さ)を取得することが出来る。電子線偏向量による検出電子より、電子線の焦点合わせや、電子線の断面形状の調整を行うことが出来る。
【0069】
ローターターゲット17の側面には、第1の方向に沿って並ぶ第1の金属乃至第3の金属が配置されているので、電子線を第1の方向に走査することにより、電子線の断面のうち第1の方向に沿った長さ(第1の幅)を取得することが出来るが、ローターターゲット17の構造上、例えば第1の方向に直交する方向に電子線を走査しても、放出する電子の数は変化せず、該方向に沿った長さを取得することは出来ない。しかしながら、当該実施形態では、電子線断面形成部が、電子線の断面形状を、第2の方向から第1の方向へ回転するよう、変化させて試験電子線を生成する。試験電子線を第1の方向に走査して、第1の方向に沿った幅を取得することにより、電子線の第2の方向に沿った長さ(第2の幅)も取得することが出来る。これにより、電子線の焦点合わせや、電子線の断面形状の調整をより正確に行うことが出来る。
【0070】
上記実施形態に係る調整方法の一例では、焦点調整ステップ(S3)において、電子線のローターターゲット17における断面形状をより小さくするように、集束コイル14に流れる電流を調整している。しかし、これに限定されることはない。電子線のローターターゲット17におけるビームサイズが例えば10μmを下回る微小焦点となる場合、断面形状調整ステップ(S4)における電子線の偏平比・偏平方向の調整を、電子線の焦点がずれた状態、すなわち、電子線のローターターゲット17におけるビームサイズを所望のものより大きくした状態で、行えばよい。その後に、かかる断面形状の電子線に対して、焦点調整ステップ(S3)を行う。その場合に、いくつかの集束コイル電流において、検出電子プロファイルより、所望の焦点サイズとなる集束コイル電流の値を外挿して求めればよい。その際には、集束コイル14における回転角を考慮して、偏平・回転コイル13に流す電流をさらに修正する。
【0071】
以上、本発明の実施形態に係るX線発生装置と、その調整方法について説明した。本発明に係るX線発生装置は、上記実施形態に限定されることなく、広く適用することが出来る。例えば、上記実施形態における電子標的は、ローターターゲットとしたが、平面ターゲットであってもよい。平面ターゲットにも、第1の金属乃至第3の金属が帯状に並んで配置されることにより、本発明を適用することが出来る。また、上記実施形態に係るX線発生装置に備えられる電子線調整部及び電子線偏向部はそれぞれ、(複数の)コイルによって構成されており、電子線を磁気的に制御している。しかし、これに限定されることなく、同様の機能を有する他の素子によって実現されてもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 X線発生装置、2 電子線調整部、11 電子線発生部、 12 アライメントコイル、13 偏平・回転コイル、14 集束コイル、15 偏向コイル、16 電子検出器、17 ローターターゲット、18 制御部、20 外囲器、21 フィラメント、22 ウェネルト、23 アノード、30 X線窓、40 CPU、41 電子線発生部制御部、 42 アライメントコイル制御部、43 偏平・回転コイル制御部、44 集束コイル制御部、45 偏向コイル制御部、46 電子検出器制御部、47 ローターターゲット制御部、50 メモリ。
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