【実施例1】
【0021】
本実施例におけるスロットル装置1は、金属製のスロットルボデー2に備えられた吸気通路4上に金属製で略円盤状の弁体5が回動可能な状態で配置されている。弁体5は棒状の弁軸51に対して固定されており、弁軸51を回転させることにより弁体5を回転させることが可能となる。弁軸51の一端側はスロットルギヤ21に差し込まれており、弁軸51とスロットルギヤ21は相対移動不能に固定されている。この弁軸51は、スロットルボデー2に取り付けられたベアリング71により回転可能に支えられている(
図3参照)。
【0022】
スロットルボデー2には電動のモータ22が取り付けられている。モータ22は棒状のモータ軸の先端側に歯車22aが備えられている。この歯車22aは大歯車部231と小歯車部232を備える二段歯車により形成される中間ギヤ23と噛み合うものであり、特に大歯車部231と歯車22aが噛み合うように構成されている。二段歯車の小歯車部232はスロットルギヤ21と噛み合うように配置されており、モータ軸の回転速度よりもゆっくりとスロットルギヤ21が回転することを可能としている。なお、モータ軸の回転方向を変えれば、弁体5の回転方向も変わることになる。
【0023】
吸気通路4内を移動する空気の流れに対して直交するように弁体5が位置する状態は全閉状態である(
図6参照)。本実施例のスロットル装置1は、モータ22に電気が通じていない状態において、全閉状態とならないように構成されている。具体的には、モータ22に電気が通じていない状態においては、全閉状態から弁体5が少し傾いた状態となるように構成している(
図7参照)。この状態を本明細書ではデフォルト状態と呼ぶ。デフォルト状態においては、少量の空気が吸気通路4内を通気可能な状態となる。
【0024】
モータ22に電気が通じていない場合にデフォルト状態とすることを可能とするため、本実施例のスロットル装置1にはスプリング6を備えている。スプリング6はデフォルト状態とは異なる状態である場合にデフォルト状態に戻すように付勢することを可能とするものである。スプリング6の付勢力は、モータ22に通電されている状態(モータ軸をコントロールできる状態)ではスプリング6によりデフォルト状態にすることはできないが、モータ22への通電が途切れた場合にスプリング6の復元力を利用してデフォルト状態にすることが可能なように選定されている。
【0025】
本実施例のスプリング6はデフォルト状態から弁体5が開いている状態であっても閉じている状態であっても、一つのスプリング6でデフォルト状態に戻すことが可能なものである。このスプリング6は、スプリング6を巻回する方向を途中で変えるものであり、スプリング6の一端であるギヤ側端部61がスロットルギヤ21に備えられたギヤ係止部212に接続され、他端であるボデー側端部62がスロットルボデー2に備えられたボデー係止部(図示せず)に接続されるものである。スプリング6の巻回方向を変える部分は、スプリング6の外径より外方に突出するように形成されており、スロットルギヤ21に備えられた受け入れ部213に引掛けられるフック部63としてU字状に形成されている。なお、ギヤ側端部61もボデー側端部62もスプリング6の外径より外方に突出するように形成されている(
図2参照)。
【0026】
スロットルギヤ21が回動し、デフォルト状態から
図6に示すような全閉状態に移動する間、フック部63はフック当接部28に当接している。固定されているフック当接部28に対してスロットルギヤ21が相対移動しようとするため、
図4の実線で示した状態から二点鎖線で示した状態となり、受け入れ部213に引掛けられたフック部63は受け入れ部213に引掛けられた状態が解除される。フック部63が引きかけられている部位が受け入れ部213からフック当接部28に変えられることになるタイミングでは、フック部63は弁軸51の軸方向に向けて移動しやすくなる。これは、デフォルト状態から全閉状態に移動する際、螺旋部64に力がかかり、螺旋部64は径を小さくするように弾性変形することとも関係がある。なお、螺旋部64の内径が小さくなるように変形している状態であっても、第二螺旋部65の内径は小さくなるわけではない。
【0027】
デフォルト状態から
図8に示すような全開状態に移動する間、フック部63は受け入れ部213に引掛けられた状態であり、
図4の破線で示すように、フック部63と受け入れ部213は接した状態で移動することになる。このため、フック部63とボデー側端部62との間で巻回された第二螺旋部65は内径が小さくなるように変形することになる。この際、螺旋部64の内径は小さくなるわけではない。
【0028】
本実施例の受け入れ部213は、弁軸51の軸方向に沿うように形成されたギヤ側係止部214と脱落防止ガイド部215を用いて形成されている。脱落防止ガイド部215はギヤ側係止部214から突出するように形成されており、第一の脱落防止ガイド部215aと第二の脱落防止ガイド部215bにより凹状の受け入れ部213が形成されている。第一の脱落防止ガイド部215aと第二の脱落防止ガイド部215bの長手方向は、ギヤ側係止部214の長手方向に対して略直交するように形成されている。このようにして、断面視略四角形状の溝が形成された受け入れ部213に対して、弁体5の動きに応じ、フック部63が相対的に移動することが可能なように構成されている。
【0029】
受け入れ部213の底部にはフック部63の少なくとも一部を嵌めることが可能なへこみ部216が形成されている。また、受け入れ部213の底部にはへこみ部216に嵌ったフック部63と当接可能な部位を備える基準部217が弁軸51の軸方向に延びるように形成されている。直線状の基準部217よりも受け入れ部213の入口側には、へこみ部216に嵌ったフック部63と当接可能な当接部218が形成されている。この当接部218は、フック部63が基準部217に接している状態で当接可能な部位である。
【0030】
デフォルト状態及び、デフォルト状態から弁体5が開く方向に向けて移動するように弁軸51が回転する際には、フック部63はギヤ側係止部214に当接した状態が維持されて、スロットルギヤ21と一体的に移動する。つまり、この際、フック部63はスロットルギヤ21との相対的な移動が抑制されるが、スロットルボデー2との相対的な移動がなされることになる。一方、デフォルト状態から弁体5が閉じる方向に向けて弁軸51が回転する際には、フック部63は、スロットルボデー2に備えられたフック当接部28により移動が抑制された状態となっている。このため、フック部63はギヤ側係止部214から離れるように移動することになる。つまり、この際、フック部63はスロットルボデー2との相対的な移動が抑制されるが、スロットルギヤ21との相対的な移動がなされることになる。この際、フック部63に当接していたギヤ側係止部214は、弁軸51の軸線付近を中心とした円弧を描くように移動してフック部63から離れることになる。
【0031】
ギヤ側係止部214がフック部63から離れるように移動する間、フック部63はフック当接部28に接した状態が維持されている。このためギヤ側係止部214を基準に考えると、フック部63は、弁軸51の軸方向に移動することは抑制されながら、弁軸51の周方向に向けて移動しているものと捉えることが可能となる。本実施例においては、当接部218と基準部217に支えられたフック部63と、ギヤ側係止部214と、が離れるように移動する際のギヤ側係止部214の移動方向は、ギヤ側係止部214の長手方向と直交する面に対して略平行となる。
【0032】
本実施例においては、基準部217より受け入れ部213の入口側に形成された当接部218は、基準部217と当接部218との距離がスプリング線の半径以下となるように形成されている。つまり、基準部217に当接しているフック部63のスプリング線の半径をRとし、当接部218と基準部217との距離をBとした際に0<B≦Rとなるように形成されている。また、当接部218及び基準部217に当接しているフック部63とギヤ側係止部214とが離れるように移動する際に、フック部63と脱落防止ガイド部215とが擦れることを抑制する構成としている。具体的には、所定の部分においてフック部63と脱落防止ガイド部215とが離間するように形成されている。より詳しくは、当接部218及び基準部217に当接しているスプリング線の中心をとおり、弁軸51の軸方向に対して直交する面を基準直交面BSとした際に、基準部217から受け入れ部213の入口側に向けてRの長さより離れている部位には、基準直交面BSと脱落防止ガイド部215との距離LがRより大きくなる部位を備えるように形成されている。特に、弁体5の回動範囲において、フック部63とギヤ側係止部214とが離間する最大距離までの範囲全部において、基準直交面BSと脱落防止ガイド部215との距離LがRより大きくなるように形成されている。なお、弁体5の回動範囲において、フック部63とギヤ側係止部214とが最大限離間している場合においても、第一の脱落防止ガイド部215aと第二の脱落防止ガイド部215bとの間にフック部63が位置することができるように、第一の脱落防止ガイド部215aと第二の脱落防止ガイド部215bの長さが設定されている。
【0033】
本実施例の受け入れ部213は、底部に段差部219を形成することにより、へこみ部216が形成されている。また、基準直交面BSに対してスプリング線の中心と当接部218を結ぶ直線とがなす角度をα(但し、0度<α≦90度)とし、段差部219の基部と当接部218との軸方向の距離をAとした際に、A>R×(1−sinα)を満たしている。
【0034】
当接部218が形成されている段差部219のうち、当接部218よりも受け入れ部213の入口側よりの部位には、傾斜面79が形成されている。通常、当該傾斜面79上にスプリング線が乗り上げることはないが、当該傾斜面79上にスプリング線が移動してしまった際にも、スプリング線がスムーズにへこみ部216に収まるように構成している。例えば
図9に示すように傾斜面79上に乗り上げたスプリング線は、弾性力によりギヤ側係止部に向けてFという大きさの力が働く。この力は滑り落ちる方向に向けてF×sinθという大きさの力をもたらすことになる。また、摩擦係数をμとした際、μ×F×cosθという大きさの力が抵抗としてかかることになる。したがってμ×F×cosθ<F×sinθという式を満たせば、スプリング6がへこみ部216に収まるように移動することになる。つまり、このように移動させるためにはμ<tanθを満たせばよいことになり、言い換えるとθ>arctanμを満たせばよいこととなる。なお、スプリング6がへこみ部216に向けて移動していればθ=arctanμでも良い。
【0035】
本実施例の傾斜面79は、基準部217となす角度をθとした場合であって、傾斜面79の静摩擦係数をμとした際にθ≧arctanμとなるものである。なお、この段差部219の傾斜面79は段差部219に形成された角状の当接部218から延びるように構成されている。
【0036】
本実施例のスロットル装置1であると、フック部63とギヤ側係止部214が離れるように動く際に、フック部63と脱落防止ガイド部215が擦れることが抑制される。したがって、所定の動きをする際のモータ22への負荷などを抑制することが可能となる。
【0037】
本実施例のスロットル装置1であると、角ばった部位が当接部218となるため、フック部63のスプリング線と当接部218との接触面積を抑制することが可能となる。また、受け入れ部213の隅に当接部218を形成する段差部219を設けることで構成されているため、複雑な形状ではなく、製造が容易である。なお、従来からある当接部218の無いスロットルギヤの隅に当接部218を形成するパーツを接合することで形成することなども可能である。
【実施例2】
【0038】
次に、実施例2について説明する。実施例1との相違点は当接部218周囲の構造であるので、以下においては、その点を中心に説明する。実施例1においては、底部のうち最も低い位置に形成された平面状の部位が基準部217の一部となるように形成されており、当該基準部217上をフック部63が弁軸51の軸方向に向けて摺動可能に構成されている。このような形態とは異なり、基準部217上をフック部63が直線的に移動することができない形態とすることも可能である。例えば、
図10に示すように、基準部217から受け入れ部213の入口側にむけて隆起した部位により側面視で円弧状となる凹部77を形成する。この凹部77は、直線状の基準部217が円弧の接線に相当する関係となるように形成されており、フック部63は基準部217上を直線的に移動することができない構成となっている。また、凹部77はフック部63の一部を嵌めることが可能なへこみ部216を形成することになる。
【0039】
本実施例における凹部77は、円弧の半径が略Rとなるように形成されており、フック部63を形成するスプリング線の円弧に沿うように形成されている。本実施例では隆起した部位の頂は平面状に形成されており、隆起した部位同士の間に凹部77が形成される。本実施例のスロットル装置1では、凹部77は間隔をあけて三箇所設けており、真ん中の凹部77と、残りの凹部77の何れかに嵌りこんだフック部63は弁軸51の軸方向への移動が抑制されることとなる。なお、通常二つの凹部77でフック部63を受け止めることとなるが、本実施例においては凹部77を三箇所設けている。このようにしておけば、ギヤ側係止部214から離れていたフック部63がギヤ側係止部214に接触する際に両端の凹部77に挟まれる位置でギヤ側係止部214に引っ掛かれば、その後弁軸51の軸方向に沿ったどちらの向きにフック部63が移動したとしても、フック部63は凹部77に嵌ることが可能となる。
【0040】
以上、二つの実施例を用いて実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態のほか、その他各種の形態で実施可能なものである。例えば、実施例1に記載されたような形態において、脱落防止ガイド部は二つで形成されている必要はなく三つ以上とすることも可能である。また、実施例2に記載された形態において側面視で円弧状となる凹部は一つや二つとすることも、四つ以上とすることも可能である。但し、一つの場合は実施例より大きめな凹部とすることで、フック部がバランスよく支持されるようにすることが望ましい。
【0041】
スロットルギヤを付勢するスプリングは必ずしも一本のみで形成されている必要性は無く、複数本のスプリングを使用することも可能である。例えば、ギヤ側端部とフック部との間に一本のスプリングを配置し、フック部とボデー側端部との間に別のスプリングを配置することも可能である。
【0042】
第一の脱落防止ガイド部と第二の脱落防止ガイド部は平行となるように形成されている必要性は無く、ギヤ側係止部から離れるにつれて、互いの距離が長くなるように形成することも可能である。
【0043】
段差部は角が形成されるようなものでなくてもよく、なだらかな突状に形成することも可能である。
【0044】
基準直交面に対してスプリング線の中心と当接部を結ぶ直線とがなす最大角度αは機能を満たす限り何度でもかまわない。例えば30度や45度や90度とすることが可能である。
【0045】
基準部と傾斜面がなす角度θは、機能を満たす限り何度でもかまわないが、基準直交面と脱落防止ガイド部との距離を長くするためにはθが小さいほうが望ましい。
【0046】
傾斜面の角度と摩擦係数の関係は、摩擦係数が静摩擦係数である場合に限らず、静摩擦係数より小さい動摩擦係数として考えても良い。但し、静摩擦係数と傾斜面の角度がθ≧arctanμの関係を満たしていれば、傾斜面に乗り上げたフック部が常にへこみ部に向けて移動することになるため、望ましい。
【0047】
フック部とギヤ側係止部が離間するような動きはデフォルト状態と全閉状態との移動の際に生じるように構成する必要性は無い。デフォルト状態と全開状態との移動の際にフック部とギヤ側係止部が離間するように動く構成とすることも可能である。
【0048】
また、乗物としては、車両であることに限らず、飛行機やヘリコプターなど空中を飛行する乗物や、船舶や潜水艇など海面や海中などを移動する乗物としてもよい。