(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、寸法、形状等について模式的に表す場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係るX線分析装置60の構造を示す模式図である。当該実施形態に係るX線分析装置60は、例えば、X線回折装置(XRD)である。X線分析装置60は、X線発生装置1と、試料台101と、光学系103と、X線検出器105と、回転駆動系106と、を備えている。
【0015】
本発明の主な特徴は、X線発生装置1の構造にある。X線発生装置1は、電子標的に照射される電子線を偏向させる、電子線偏向部と、電子線が通過する空間の磁場を検出するための、磁気センサと、を備える。磁気センサが測定する磁場に基づいて、電子線偏向部は、電子線が電子標的に照射する位置を変化させることが可能となる。X線発生装置1の詳細については後述する。
【0016】
以下、当該実施形態に係るX線分析装置60の構造について説明する。試料台101は、針状のサンプルホルダーと、1又は複数の回転駆動系と、を備えており、針状のサンプルホルダーの先端には単結晶である試料100が装着され、試料100はサンプルホルダーに支持される。光学系103は、多層膜集光ミラーとコリメータとを備え、X線発生装置1が放射するX線を多層膜集光ミラーによって集光しコリメータより試料100へ出射している。光学系103が出射するX線が試料100に入射するよう、サンプルホルダーが配置される。さらに、回転駆動系にサンプルホルダーの他端が固定され、回転駆動系により、試料100を3次元的に方向転換させることが可能となっている。
【0017】
X線検出器105は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)である。X線が試料100に照射され、試料100より回折X線が発生する。X線検出器105は、試料100より発生する回折X線を2次元の平面で検出することが可能である。X線検出器105は、試料100を中心に角度移動をすることが出来る回転駆動系106の上に配置されている。試料台101の回転駆動系と、回転駆動系106により、X線検出器105は、試料100の回折像全体を検出することが可能である。なお、X線検出器105は、CCDに限定されることはなく、試料100の回折像を検出することが出来るX線検出器であればよい。また、試料100の例として単結晶としたが、これに限定されることはなく、試料100の種別や分析目的に応じて、X線分析装置60の構成を変えればよい。
【0018】
前述の通り、外乱磁場の発生源は、X線分析装置60が設置される実験室の外部にある場合(外乱磁場の発生源が地磁気である場合を含む)に加えて、実験室の内部にある場合があり得る。特に、X線分析装置60は、試料台101の回転駆動系や、X線検出器105が配置される回転駆動系106を含んでおり、これら回転駆動系は、ステップモータを含んでいる。X線分析装置60によって測定が行われる場合に、駆動するステップモータは外乱磁場の発生源となり得る。また、測定が行われている間に、外乱磁場が変動し得る。このように、実験室の内部、特に、実験装置そのものに外乱磁場の発生源が存在する場合に、本発明は顕著な効果を奏する。
【0019】
図2及び
図3は、本発明の実施形態に係るX線発生装置1の構造を示す模式図である。
図2はX線発生装置1のブロック図であり、
図3はX線発生装置1の主要部品の透視図を電子線の断面形状とともに示した図である。
図2及び
図3には、xyz座標が記載されており、理想的な電子線に基づいて定義される。z軸方向は該電子線の光軸方向であり、xy平面は該電子線の光軸に垂直な平面である。x軸方向は、電子標的に照射される該電子線の断面の偏平方向(長軸方向)であり、y軸方向は、偏平方向に垂直な方向(短軸方向)である。
【0020】
当該実施形態に係るX線発生装置1は、電子線発生部11(電子銃)と、アライメントコイル12(Alignment Coil)と、偏平・回転コイル13(Deforming & Rotating Coil)と、集束コイル14(Focusing Coil)と、偏向コイル15(Deflecting Coil)と、磁場プローブ16と、ローターターゲット17(電子標的)と、制御部18と、外囲器20(真空チャンバー)と、を備えている。なお、電子線調整部2は、アライメントコイル12と、偏平・回転コイル13と、集束コイル14と、を含んでいる。当該実施形態に係るX線発生装置1において、理想的な電子線のローターターゲット17における断面は楕円形状(楕円ビーム)であり、楕円形状の偏平方向(長軸方向)はローターターゲット17の軸方向である。また、電子線発生部11と、ローターターゲット17とは、外囲器20の中に収納されており、内部が真空状態に維持される。電子線調整部2に含まれる各部品、偏向コイル15、及び磁場プローブ16は、外囲器20の外部に配置される。
【0021】
ローターターゲット17は円柱形状の回転体であり、その側面には金属が帯状に形成されている。側面の幅(円柱の高さ)は40mmである。ローターターゲット17の側面に形成される金属に電子線が照射され、X線が発生する。すなわち、ローターターゲット17の側面に形成される金属が電子標的である。当該実施形態では、ローターターゲット17の側面はCu(銅)によって形成されている。
【0022】
電子線がローターターゲット17に衝突することにより、X線が発生する。ローターターゲット17の軸と、ローターターゲット17の側面における電子線の断面(楕円)の長軸と、によって形成される平面(xz平面)を考える。ここで、かかる平面において、長軸(x軸方向)となす角を取り出し角θとすると、X線の発生箇所(電子線の断面)の中心からθ=14°となる方向に、X線窓30が配置され、ローターターゲット17より発生するX線のうち、X線窓30を通過するX線が外部へ出射される。
【0023】
電子線発生部11は、フィラメント21と、ウェネルト22(Wehnelt)と、アノード23と、を備えており、アノード23には孔が形成されている。なお、フィラメント21とウェネルト22とで、カソードを構成している。フィラメント21から放出された電子が加速され、この孔を通り抜けて外部へ放出し、電子線となる。すなわち、電子線発生部11は、電子標的であるローターターゲット17に照射するための電子線を出射する。ウェネルト22によって、フィラメント21とアノード23との間で、電子線は集束し、クロスオーバーを形成して、その後発散する。さらに、電子線は、集束コイル14によって、例えば、ローターターゲット17の側面に電子線が焦点を結ぶよう調整される。電子線の焦点サイズを小さくするためには、クロスオーバーのサイズを小さくするのが望ましい。それゆえ、フィラメント21に用いる材料は、電子放出密度が大きくてフラットな小径エミッタ―を実現できる六ホウ化ランタン(LaB6)や六ホウ化セリウム(CeB6)等の希土類金属化合物が望ましいが、これに限定されることはない。
【0024】
電子線調整部2は、電子線発生部11とローターターゲット17との間に配置され、電子線発生部11が出射する電子線が、所望の条件でローターターゲット17に照射されるよう、電子線を調整する。ここでは、電子線調整部2は、複数のコイルを用いて、磁場によって電子線を調整する。電子線調整部2に含まれる各部品については後述する。
【0025】
偏向コイル15は、ローターターゲット17に照射される電子線を偏向させる電子線偏向部であり、電子線調整部2とローターターゲット17との間に配置される。偏向コイル15は4極コイルによって構成されており、偏向コイル15通過前の電子線の光軸を垂直に貫く平面のいずれの方向にも、偏向コイル15通過後の電子線を偏向させることが出来る。偏向コイル15の原理は、
電磁偏向形ブラウン管オシロスコープの偏向コイルと同じである。
【0026】
磁場プローブ16は、その先端にホール素子を備え、ホール素子が備えられる位置(磁場プローブ16の先端)の磁場を測定する、磁気センサである。磁場プローブ16には、xyz3軸方向の磁場をそれぞれ測定することが出来る3次元磁気センサが望ましく、ここでは、磁場プローブ16の先端にはx軸方向、y軸方向、z軸方向それぞれの成分の磁場を検出するホール素子が備えられているが、これに限定されることはない。z軸方向に進む電子線の進行方向を変化させるのは、xy平面成分の磁場であるので、xy平面成分の磁場を測定できる2次元磁気センサであってもよい。さらに、1次元磁気センサであっても、90度回転することにより、x軸方向とy軸方向それぞれの成分の磁場を測定すればよい。
【0027】
磁場プローブ16は、
図2及び
図3に示す通り、電子線調整部2とローターターゲット17との間であって、外囲器20の外側に配置される。すなわち、磁場プローブ16は、電子線から離間されて配置されている。磁場プローブ16は、電子線調整部2とローターターゲット17との間を電子線が通過する空間の磁場を検出するための、磁気センサである。電子線調整部2の出射口からローターターゲット17における電子線の照射箇所までの空間における外乱磁場の変動が、ローターターゲット17における電子線の照射箇所の変動の原因となる。磁場プローブ16が測定する磁場が、電子線調整部2とローターターゲット17との間を電子線が通過する空間における磁場に等しいと近似できる程度に、磁場プローブ16が実際に測定する磁場の位置が、かかる空間を通過する電子線に対して出来る限り近傍となるよう、磁場プローブ16を配置するのが望ましい。具体的には、磁場プローブ16が実際に測定する磁場の位置が、電子線の中心から、30mm以内が望ましく、さらに10mm以内が望ましい。前述の通り、磁場プローブ16は外囲器20の外側に配置されており、外囲器20の外縁から、5mm以内が望ましく、さらに2mm以内が望ましい。
【0028】
X線発生装置1の内部に、磁場プローブ16(磁気センサ)が備えられることにより、磁場プローブ16が電子線調整部2とローターターゲット17との間を電子線が通過する空間の磁場を検出することができる。しかしながら、X線発生装置1が稼働し、X線を出射している時に、実際に電子線が通過する空間の磁場を検出することは不可能である。それゆえ、磁場プローブ16が、電子線がローターターゲット17を照射する領域の近傍であって、電子線から離間して配置されることにより、実際に電子線が通過する空間の磁場に等しいと近似できる磁場を、磁場プローブ16は検出することができる。
【0029】
制御部18は、電子線発生部11が出射する電子線が、所望の条件でローターターゲット17を照射するよう、電子線調整部2に電子線を調整させる。制御部18は、CPU40と、電子線発生部制御部41と、アライメントコイル制御部42と、偏平・回転コイル制御部43と、集束コイル制御部44と、偏向コイル制御部45と、磁場プローブ制御部46と、ローターターゲット制御部47と、メモリ50と、を備えている。電子線発生部制御部41、アライメントコイル制御部42、偏平・回転コイル制御部43、集束コイル制御部44、偏向コイル制御部45、磁場プローブ制御部46、及びローターターゲット制御部47は、それぞれ、電子線発生部11、アライメントコイル12、偏平・回転コイル13、集束コイル14、偏向コイル15、磁場プローブ16、及びローターターゲット17を制御する。CPU40に入力又はCPU40から出力される信号データは、外部インターフェース(I/F)を介して入出力可能である。かかる信号データはメモリ50に格納されてもよい。また、CPU40の内部で実行される演算結果がメモリ50に格納される。CPU40の内部での演算結果は、外部インターフェース(I/F)を介して、外部へ出力することが出来る。制御部18は、市販のコンピュータ機器と各部品への制御回路によって実現される。制御部18は、X線発生装置1に内蔵されていてもよいし、制御部18の一部又は全部は、X線発生装置1の外部に配置されてもよい。
【0030】
次に、電子線調整部2に含まれる各部品について説明する。アライメントコイル12は、電子線の光軸を調整する電子線光軸調整部である。電子線の光軸が、偏平・回転コイル13や集束コイル14の磁場中心に近づくよう、アライメントコイル12によって、電子線発生部11が出射する電子線が光軸調整される(アライメントされる)。電子線の光軸が、偏平・回転コイル13や集束コイル14の磁場中心と一致しているのがさらに望ましい。
【0031】
アライメントコイル12は、電子線の光軸(z軸方向)に沿って並ぶ2組のコイルを含み、各組のコイルは4極コイルである。2組の4極コイルにより、x軸回りの回転とy軸回りの回転の組み合わせを、各組のコイルによって順に実行することによって、電子線の光軸をz軸方向に平行に近づけつつ、光軸をxy平面の中心に近づけることが可能である。
【0032】
偏平・回転コイル13は、電子線の断面形状を変化させる、電子線断面形成部である。
電子線の断面は、偏平・回転コイル13により、楕円形状に形成される。偏平・回転コイル13は8極コイルによって構成されている。偏平・回転コイル13が8極コイルによって構成されていることにより、電子線の断面を、所望の偏平比(長径と短径の比)、所望の偏平方向(長軸方向)の楕円形状とすることが出来る。例えば、長径が短径の例えば4倍となるように、偏平される(偏平比4:1)。前述の通り、ローターターゲット17から発生するX線のうち、取り出し角θが14°となる方向のX線が外部に放出される。X線の焦点サイズは、電子標的に照射される電子線のビームサイズと実質的に等しいが、かかる取り出し角の場合、見かけ上のX線の焦点サイズは、ローターターゲット17における電子線の断面の長軸方向の長さ(長径)が1/4に圧縮される。それゆえ、ここでは、ローターターゲット17における電子線の断面は長径が短径の4倍となる楕円形状である場合に、見かけ上のX線の焦点が円形状(ドット)の微小焦点となる。なお、X線発生装置のX線の焦点として円形状の微小焦点を所望する場合は、電子線の断面の偏平比を、取り出し角θに応じて決定すればよい。
【0033】
また、電子線が集束コイル14を通過する際に、電子線が焦点に向けて集束されることに加えて、電子線の断面が回転する。当該実施形態に係るX線発生装置では、集束コイル14とローターターゲット17との間に、偏向コイル15と磁場プローブ16を配置する必要があり、集束コイル14とローターターゲット17との間に、偏平・回転コイル13をさらに配置することは望ましくない。それゆえ、当該実施形態に係るX線発生装置では、偏平・回転コイル13が、集束コイル14よりも電子線発生部11側に配置されている。ローターターゲット17における電子線の断面の偏平方向がローターターゲット17の軸方向に沿うように、集束コイル14における回転角を考慮して、偏平・回転コイル13通過後の電子線の断面の偏平方向を決定すればよい。偏平・回転コイル13は、電子線の断面の偏平方向を所望の方向とすることが出来るので、電子線の断面の偏平方向を90度回転させた試験電子線を生成することも容易である。
【0034】
なお、前述の通り、偏平・回転コイル13は8極コイルで構成されている。8極コイルは2組の4極コイルからなり、2組の4極コイルは、x軸及びy軸の正負それぞれの向きに配置される4極コイルと、該4極コイルをそれぞれz軸に対して45°回転させた位置にある4極コイルである。
【0035】
集束コイル14は、電子線をローターターゲット17に向けて集束させる電子線集束部である。集束コイル14は磁界型電子レンズである。電子線発生部11より出射される電子線は、発散をしながら、アライメントコイル12及び偏平・回転コイル13を通過するが、集束コイル14が電子線を集束させる。電子線を集束させる程度を表す集束距離(レンズの焦点距離)を、集束コイル14に流れる電流(集束コイル電流)によって制御することが出来る。ローターターゲット17の側面において電子線が焦点を結ぶのが望ましい。前述の通り、電子線が集束コイル14を通過する際に、電子線の断面が回転する。電子の軌道回転角Ψは、Ψ=0.186・I・N/√V
0(I:集束コイル電流,N:集束コイルの巻き数,V
0:電子加速電圧)で表される。なお、電子加速電圧V
0は、フィラメント21とアノード23間の電圧である。
【0036】
以上、当該実施形態に係るX線発生装置の構造について説明した。従来のX線発生装置は、ターゲットを接地電圧とし、カソード電圧とバイアス電圧の3極が形成する電界によって、フィラメントから放出される電子線をターゲットに集束させていた。このようなX線発生装置が発生するX線の焦点サイズは、Φ70μm以上である。X線の焦点サイズがΦ70μm以下の微小焦点を実現するためには、当該実施形態に係る電子線調整部のように、電子線光軸調整部、電子線断面形成部、及び電子線集束部が磁気的に電子線の調整を行うことが望ましく、かかる電子線調整部を備えるX線発生装置によって、焦点サイズがΦ70μm以下のX線の発生が実現される。焦点サイズがΦ50μm以下のX線を従来のX線発生装置で実現することは困難であり、典型的にはΦ20μm以下の焦点サイズのX線の発生を実現することが出来る。
【0037】
特に、電子線調整部において、電子線光軸調整部、電子線断面形成部、及び電子線集束部を、電子線発生部側から電子標的側へ順に配置することにより、電子線集束部と電子標的に存在する空間の自由度が増し、当該実施形態のように、電子線偏向部や磁気センサなどを配置することが出来る。電子線断面形成部が電子線の断面を円形状から偏平形状に変化させると、前述の通り、電子線集束部を通過する際に電子線の断面が回転する。しかし、当該実施形態のように、その回転角を考慮して、電子
線断面形成部が電子線の断面を変化させることにより、かかる配置であっても、電子標的における電子線の断面を所望の形状とすることが実現する。
【0038】
なお、当該実施形態に係る電子線調整部2に含まれるアライメントコイル12、偏平・回転コイル13、及び集束コイル14は、電子顕微鏡や電子線描画装置など、電子線を用いる装置に備えられる部品と原理は共通している。特に、当該実施形態に係る偏平・回転コイルは、電子顕微鏡に用いられるスティグメータ(8極コイル)と原理は共通している。しかしながら、当該実施形態に係る偏平・回転コイルは、電子線の断面を意図的に楕円形状(偏平形状)と形成することを目的として配置されるのに対して、スティグメータは非点補正、すなわち、電子線の断面形状が円形状でない場合に円形状に近づけることを目的として配置されるので、使用する目的が全く異なっている。
【0039】
また、従来のX線発生装置では、電子線を調整する自由度が少なく、フィラメントの交換により、X線の焦点サイズが±5%程度まで変動することもあり得た。しかし、X線の焦点サイズがΦ70μm以上のX線発生装置を備える測定装置(例えば、単結晶構造解析装置やX線顕微鏡)では、かかるX線の焦点サイズの変動もあまり問題となっていない。前述の通り、X線の焦点サイズがΦ70μm以下の微小焦点を実現するためには、電子線光軸調整部、電子線断面形成部、及び電子線集束部が磁気的に電子線の調整を行うことが望ましいが、電子線発生部と電子標的の間に電子線調整部を配置する必要があり、両者の距離は従来のX線発生装置と比べると(例えば、10倍以上)非常に長くなる。それゆえ、例えば、電子線集束部である集束コイル(集束レンズ)に流れる電流(集束コイル電流)の変動で焦点サイズも敏感に変動する。本発明により電子線を調整することが可能となっており、本発明は顕著な効果を奏している。また、例えば、集束コイルによって誤って電子標的における電子線の断面を過度に小さくしてしまうと、電子標的にダメージを与えてしまうことも考えらえられる。そのために、高出力でX線を出射する前に、低出力によって電子線を調整しておくことが重要となる。
【0040】
さらに、X線の焦点サイズがΦ70μm以上のX線発生装置を備える測定装置では、外乱磁場の変動に起因して、電子標的における電子線の照射箇所が変動し、X線の焦点位置が変動しても、あまり問題とはなっていない。しかしながら、X線発生装置のX線の焦点サイズがより小さくなると、X線の焦点位置の変動が測定装置の測定精度に与える影響はより大きくなる。光学系に含まれる多層膜集光ミラーの配置は、X線発生装置のX線の焦点位置に対して決定されるが、一度、多層膜集光ミラーの配置が決定されると、測定開始後に、多層膜集光ミラーの配置を変更することは困難である。それゆえ、X線発生装置と光学系の位置決定後に、外乱磁場の変動により、X線発生装置のX線の焦点位置が変動すると、測定精度を低下させてしまう。
【0041】
当該実施形態に係るX線分析装置では、磁気センサが測定する磁場に基づいて、電子線偏向部は、電子線が電子標的に照射する位置を変化させて、X線発生装置のX線の焦点位置を調整することが出来る。X線分析装置が、ステップモータなどの外乱磁場の発生源を有する場合に、特に顕著な効果を奏する。
【0042】
以下、当該実施形態に係るX線発生装置において、電子線が電子標的に照射する位置を調整する調整法について説明する。
図4は、当該実施形態に係るX線発生装置1の調整方法を示す図である。以下の調整方法は、制御部18が偏向コイル15(電子線偏向部)や磁場プローブ16(磁気センサ)を制御することにより実現される。
【0043】
[S1:磁場測定ステップ]
電子線近傍の磁場を測定する。具体的には、磁場プローブ16が、その先端に配置されるホール素子によって、ホール素子が配置される位置の磁場を測定する。ホール素子が検出する電圧(又は電流)を検出し、磁場プローブ制御部46がその電圧(又は電流)の値を取得する。磁場プローブ制御部46は、取得した電圧(又は電流)の値に基づいて、かかる位置の磁場のxyz各成分を計算する。
【0044】
[S2:偏向量計算ステップ]
磁場測定ステップにおいて測定される磁場に基づいて、電子線の偏向量を計算する。進行方向に垂直な成分を有する磁場中を電子が進行する場合に、電子はローレンツ力を受けて、進行方向を変化させる。ここで、電子線調整部2(集束コイル14)の出射口からローターターゲット17の照射領域までの空間における磁場を一定だとすると、電子線調整部2(集束コイル14)の出射口からローターターゲット17の照射領域までの距離と磁場から、電子線の偏向量を計算することが出来る。長さLの磁場Bが存在する空間を電子(負電荷の絶対値e)が速度v
0で通過する場合、電子線調整部2から出射される電子線の光軸に対して、B・R=mv
0/e(式1)により求まる角度α(偏向角α)となる角度に、電子は偏向される(回転半径Rは、L≒R・αより求まる)。なお、速度v
0は、(1/2)mv
02=eV
0(V
0は電子加速電圧)により求まる。
【0045】
なお、z方向に進行する電子は、xy成分を有する磁場によって偏向される。電子線の偏向量は、偏向の向き(xy平面における単位ベクトルe
θ)と偏向角αで表してもよい。また、実際に、ローターターゲット17に照射される位置におけるxy座標で表してもよい。また、他の方法によって表記してもよい。
【0046】
[S3:偏向部制御ステップ]
偏向量計算ステップにおいて計算される偏向量に基づいて、電子線が電子標的に照射する位置を変化させる。測定される磁場に基づいて計算される電子線の偏向量を打ち消すように、偏向コイル制御部45が、偏向コイル15に所望の電流を流し、偏向コイル15は電子線を偏向させる。それにより、電子線がローターターゲット17に照射する位置を変化させて、X線の焦点位置を調整する。
【0047】
以上、電子線が電子標的に照射する位置を調整する調整法を説明した。係る調整法を、X線発生装置稼働時に繰り返し実行することにより、リアルタイムでX線の焦点位置を調整することが出来る。前述の通り、当該実施形態に係るX線分析装置60は、
図1に示すX線回折装置に限定されることはない。例えば、X線分析装置60がX線膜厚計であってもよい。X線膜厚計となるX線分析装置60は、20μm以下といった微小焦点のX線発生装置1と、ミラーと、試料を支持する試料ステージと、を備えている。測定の間、試料ステージに内蔵されるステップモータにより、試料ステージはX線発生装置1に対する位置が変わる。試料ステージに内蔵されるステップモータ(電磁モータ)の漏れ磁束が、X線発生装置1における外乱磁場の変動となり、X線の焦点位置の変動を引き起こし、ミラーの位置は固定されているので、試料に照射されるX線の強度低下を招いてしまう。しかしながら、当該実施形態に係るX線発生装置1により、電子線が電子標的に照射する位置を変化することが出来るので、その効果は格別となる。例えば、電子加速電圧V
0=40kVで加速された電子が長さL=10mm,B=1.2gaussの磁場を有する空間を通過する場合、かかる空間への入射位置と出口位置では、電子の入射方向から平面視して、17μm曲げられる。すなわち、焦点サイズが10μmといった微小焦点を有するX線発生装置では、1.2gaussといった外乱磁場の変動であっても、焦点位置が焦点サイズ(やビーム径)よりも大きく変動させられてしまう。
【0048】
以上、本発明の実施形態に係るX線発生装置と、その調整方法について説明した。本発明に係るX線発生装置は、上記実施形態に限定されることなく、広く適用することが出来る。例えば、上記実施形態における電子標的は、ローターターゲットとしたが、平面ターゲットであってもよい。また、上記実施形態に係るX線発生装置に備えられる電子線調整部及び電子線偏向部はそれぞれ、(複数の)コイルによって構成されており、電子線を磁気的に制御している。しかし、これに限定されることなく、同様の機能を有する他の素子によって実現されてもよい。さらに、本発明は、X線発生装置に限定されることなく、電子顕微鏡や電子線描画装置などの他の電子線応用装置にも適用することが出来る。