(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6377580
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】靴下
(51)【国際特許分類】
A41B 11/00 20060101AFI20180813BHJP
【FI】
A41B11/00 D
A41B11/00 G
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-147998(P2015-147998)
(22)【出願日】2015年7月27日
(65)【公開番号】特開2017-25455(P2017-25455A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2017年8月7日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)美津濃株式会社商品展示会(東京) 開催日:平成27年6月10日〜同年6月12日 (2)美津濃株式会社商品展示会(大阪) 開催日:平成27年6月16日〜同年6月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591128383
【氏名又は名称】株式会社キタイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】白石 篤史
(72)【発明者】
【氏名】喜夛 輝昌
【審査官】
米村 耕一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−299236(JP,A)
【文献】
特開2014−094253(JP,A)
【文献】
特開2004−250796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41B 11/00−11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
定荷重における伸長率がタテ方向及びヨコ方向とも相対的に低い強緊締領域と、タテ方向及びヨコ方向のいずれか一方の同伸長率が相対的に高い弱緊締領域を含む靴下であって、
前記強緊締領域は、親指袋の少なくとも一部を覆い、第1中足骨の底面と側面を覆い、内側踏まず部から第1中足骨の上方に上がり、
内果の下部に沿って踵骨の後側面に回り、外果の下部を通過する位置までベルト状で連続し、前記外果の下部を通過した位置で下方に下がり、
外側踏まず部から第5中足骨底部を通り前記親指袋まで連続し、足底踏まず部の主要部を覆い、
前記弱緊締領域は、少なくとも底から見て親指以外の指袋とこれに連続する第2〜第5中足骨頭付近までの領域に存在し、
前記親指袋の強緊締領域は、親指上面基部を除き親指全面を覆っていることを特徴とする靴下。
【請求項2】
前記強緊締領域は、前記足底踏まず部から小指に向かって突出する突出部を有する請求項1に記載の靴下。
【請求項3】
前記内果の下部から踵の後側部を通り外果の下部まで連続しているベルト状の部分は、幅が10〜20mmである請求項1又は2に記載の靴下。
【請求項4】
前記靴下は、標準サイズの足型を100%としたとき、50〜90%の大きさで作成されている請求項1〜3のいずれかに記載の靴下。
【請求項5】
前記強緊締領域は、15N荷重におけるタテ方向及びヨコ方向の伸長率は120%以上250%未満であり、前記弱緊締領域の15N荷重におけるタテ方向及びヨコ方向のいずれか一方の伸長率は250%以上350%以下である請求項1〜4のいずれかに記載の靴下。
【請求項6】
前記弱緊締領域は、伸長率150%における強力が2〜9.9Nであり、前記強緊締領域は伸長率150%における強力が10〜18Nである請求項1〜5のいずれかに記載の靴下。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は靴下に関するものであり、より詳しくは歩行時の体重移動がしやすい靴下に関する。
【背景技術】
【0002】
靴下は運動機能を補助し、バランスや姿勢制御に役立つことが知られている。特許文献1には、足裏面から見て親指袋から斜めに踵部の側面を通り、小指袋につなぐ弾性繊維材が提案されている。特許文献2には、親指袋から第1中足骨の側面を通り踵部の側面まで補強材を配置することが提案されている。特許文献3には、親指袋の一部から第1中足骨の側面を通り踵部の側面までと、中足部と基節骨の関節部を取り巻くように補強材を配置することが提案されている。本出願人らは特許文献4において、土踏まずを横切る領域と踵骨上方を横切る領域に高弾性部材を配置することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−121177号公報
【特許文献2】特表2010−518898号公報
【特許文献3】特開2012−034718号公報
【特許文献4】特開2006−225833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の技術は、快適な歩行を実現するには不十分であるという問題があった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、歩行時の体重移動を適正にし、爪先まで使って歩行するよう誘導でき、異常な動作での歩行を抑制し、快適な歩行ができる靴下を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の靴下は、定荷重における伸長率がタテ方向及びヨコ方向とも相対的に低い強緊締領域と、タテ方向及びヨコ方向のいずれか一方の同伸長率が相対的に高い弱緊締領域を含む靴下であって、前記強緊締領域は、親指袋の少なくとも一部を覆い、第1中足骨の底面と側面を覆い、内側踏まず部から第1中足骨の上方に上がり、内果の下部に沿って踵骨の後側面に回り、外果の下部を通過する位置までベルト状で連続し、前記外果の下部を通過した位置で下方に下がり、外側踏まず部から第5中足骨底部を通り前記親指袋まで連続し、足底踏まず部の主要部を覆い、前記弱緊締領域は、少なくとも底から見て親指以外の指袋とこれに連続する第2〜第5中足骨頭付近までの領域に存在
し、前記親指袋の強緊締領域は、親指上面基部を除き親指全面を覆っていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の靴下は、歩行時の体重移動を適正にし、爪先まで使って歩行するよう誘導でき、異常な動作での歩行を抑制し、快適な歩行ができる。より詳しくは、歩行時において踵から着地し、足裏全面に体重移動し、足裏全面から足指側に体重を移動し、最後は親指先端から足を上げていく一連の歩行動作を誘導でき、異常な動作での歩行を抑制し、快適な歩行ができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は本発明の一実施例における靴下の模式的底面図である。
【
図5】
図5A−Dは本発明の一実施例における靴下を履いた時の歩行説明図である。
【
図6】
図6は本発明の実施例1と比較例1の靴下を履いて歩行したときの垂直分力の移動グラフである。
【
図7】
図7Aは本発明の実施例1と比較例1の靴下を履いて歩行したときの快適性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の靴下は、定荷重における伸長率がタテ方向及びヨコ方向とも相対的に低い強緊締領域と、同伸長率がタテ方向及びヨコ方向のいずれか一方の伸長率が相対的に高い弱緊締領域を含む。前記強緊締領域は、下記のa〜cを連続した領域である。
a.親指袋の少なくとも一部を覆い、第1中足骨の側面を通り、内側踏まず部から第1中足骨の上方に上がり、
b.内果の下部に沿って踵骨の後側面に回り、外果の下部を通過する位置までベルト状で連続し、前記外果の下部を通過した位置で下方に下がり、
c.外側踏まず部から第5中足骨底部を通り前記親指袋まで連続し、足底踏まず部の主要部を覆う。
【0010】
前記aにより、親指を基点としてテンションを与え、親指にしっかりと荷重させるように誘導するラインができる。また前記cにより、第5中足骨底部から第1中足骨底部の領域にかけて、母趾球を基点としてテンションを与え、重心が外側から内側に向かって移動するように誘導するラインができる。
【0011】
本発明の弱緊締領域は、少なくとも、底から見て親指以外の指袋とこれに連続する第2〜第5中足骨頭付近までの領域に存在する。また前記強緊締領域以外の領域に存在していても良い。例えば、内果と外果の各下部を踵の後ろ側面で結ぶ線より上の足首領域と、踵領域と、表から見て親指以外の指袋とこれに連続する足首領域までである。
【0012】
親指袋の強緊締領域は、親指上面基部を除き親指全面を覆うのが好ましい。これにより、親指は常に足底面の踵側に引っ張られ、歩行時の足裏全面の着地から親指先端に体重移動する一連の歩行動作を円滑にできる。
【0013】
強緊締領域は、足底踏まず部から小指に向かって突出する突出部を有していても良い。これにより、足底踏まず部をより強固に緊締できる。
【0014】
内果の下部から踵の後側部を通り外果の下部まで連続しているベルト状の部分は、幅が10〜20mmであるのが好ましい。これにより、踵の後側部から足指袋までテンションを与えることができる。
【0015】
本発明の靴下は、標準サイズの足型を100%としたとき、50〜90%の大きさに作成されているのが好ましく、さらに好ましくは65%〜75%の大きさである。これにより、足のサポートがより強固にできる。
【0016】
強緊締領域は、15N荷重におけるタテ方向及びヨコ方向の伸長率は120%以上250%未満が好ましく、さらに好ましくは140〜220%である。また、弱緊締領域の15N荷重におけるタテ方向及びヨコ方向のいずれか一方の伸長率は250%以上350%以下であるのが好ましく、さらに好ましくは270〜330%である。これにより、より有効に爪先まで使って歩行するよう誘導できる。
【0017】
弱緊締領域は、伸長率150%(元の長さの1.5倍に伸長)における強力が2〜9.9Nが好ましく、さらに好ましくは3〜9.5Nである。また、強緊締領域は伸長率150%における強力が10〜18Nであるのが好ましく、さらに好ましくは10〜15Nである。これにより、より有効に爪先まで使って歩行するよう誘導できる。
【0018】
本発明の靴下は、親指袋が独立していればよく、2本以上5本以下の指袋を持つ靴下が好ましい。本発明において、2本以上5本以下の指袋の靴下は、指ソックスとも言う。
【0019】
本発明の靴下は、一例として、靴下編機(丸編機)を使用して編成する。まず、足首の部分から丸編して円周状に編成する。踵の部分に来たら、丸編機の一部の編針を使用して先端が狭い台形になるように編成し、続いて逆の形に編成を進め、編始めの部分まで戻ったらベース編の丸編みに戻して踏まず部を編成する。踏まず部は括れ形に編成しても良い。次に各指袋を編成する。最後に指袋の上の開口部を縫製することにより靴下となる。
【0020】
靴下に使用する繊維は、弾性糸を含む繊維糸が好ましい。弾性糸は、ポリウレタン系弾性糸及びポリエステル系弾性糸から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。ストレッチ性が高く、靴下に適しているからである。前記弾性糸は、ベアヤーン(裸糸)として、非弾性糸(リジッド糸)と引きそろえて使用しても良いし、又は表面にポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ウール、木綿などが被覆されたカバードヤーンとして使用しても良い。
【0021】
本発明の靴下は、例えばロナティー社製の丸編機を使用して編成できる。この編機のうち本発明に特に好適なのは、編機の径が3.75インチであり、針本数が200本の編機である。
【0022】
以下図面を用いて説明する。以下の図面においては、同一符号は同一物であることを示す。
図1は本発明の一実施例における靴下の模式的底面図、
図2は同上面図、
図3は同左側面図、
図4は同右側面図である。この靴下1の強緊締領域は、底面から見て親指袋2の全部を覆い、第1中足骨の底面と足底踏まず部の主要部3を覆い、内果の下部から外果の下部4までベルト状に配置されている。さらに強緊締領域は、足底踏まず部から小指に向かって突出する突出部11を含む。
【0023】
弱緊締領域は、踵部5と、第2〜5指袋とこれに続く第2〜5中足骨の底面6と、足首部7と、靴下上面8である。
図2の12は縫製ラインである。
【0024】
図1の矢印9は、第1中足骨の底面と足底踏まず部の主要部3を覆う強緊締領域により、親指を基点としてテンションが与えられ、親指にしっかりと荷重させるように誘導するラインである。
図1の矢印10は、同強緊締領域により、第5中足骨底部から第1中足骨底部の領域にかけて、母趾球を基点としてテンションが与えられ、重心が外側から内側に向かって移動するように誘導するラインである。
【0025】
図5A−Dは本発明の一実施例における靴下を履いた時の歩行説明図である。まず、
図5Aに示すように歩行時は踵から着地する。矢印は筋肉の活動方向である。次に
図5Bに示すように足裏全面に体重移動し、次いで足裏全面から足指側に体重を移動し(
図5C)、最後は親指先端から足を上げていく(
図5D)。本実施例の靴下はこの歩行動作を助け、踵から着地の際(
図5A)から親指先端から足を上げていくまで(
図5D)、
図1の矢印9及び10に示すテンションが与えられ、一連の歩行動作を誘導でき、異常な動作での歩行を抑制し、快適な歩行ができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
<使用糸>
1.親指袋
ポリウレタン糸(繊度77decitex)にナイロン糸(繊度77decitex)をカバーリングしたファイバーツイステッドヤーン(FTY)糸を4本引き揃えた糸
2.強緊締領域
(1)ポリウレタン糸(繊度77decitex)にナイロン糸(繊度77decitex)をカバーリングしたファイバーツイステッドヤーン(FTY)糸を4本引き揃えた糸
(2)ポリウレタン糸(繊度198decitex)にポリエチレンテレフタレート糸(繊度83decitex)を2本カバーリングしたダブルカバードヤーン(DCY)糸
3.靴下本体
(i)ポリウレタン糸(繊度33decitex)にポリエチレンテレフタレート糸(繊度83decitex)をカバーリングしたファイバーツイステッドヤーン(FTY)糸
(ii)アクリル糸(32/−:毛番手)、ポリウレタン(繊度:33decitex(30d))に綿糸(30/−:綿番手)をカバーリングしているコアスパンヤーン(CSY)糸
【0028】
<編機>
ロナティー社製の丸編機を使用した。この丸編み機は直径が3.75インチであり、針本数が200本である。
<編成方法>
1.親指袋
編み物組織はプレーン編みとした。
2.強緊締領域
編み物組織はプレーン編み+ゴム編みとした。
3.靴下本体
編み物組織はプレーン編み+ゴム編みとした。
以上の編成方法で
図1〜4に示す靴下を編成した。得られた靴下のサイズは18cmであり、これが標準足の25cm用であるので、着用時には約1.5倍に拡張して足に着用することになる。1足の重量は48gであった。
【0029】
また、各領域の15Nと18Nの伸長率(平均値)、及び伸長率150%における強力は表1に示すとおりである。
【0030】
【表1】
【0031】
得られた靴下を履いて歩行時の垂直分力を測定した。比較例として、一般的なソックスを同様に測定した。この結果を
図6に示す。
図6から明らかなとおり、本発明の実施例1の靴下は比較例(従来品)に比べて垂直分力(床を押す力)が高いことが確認できた。
【0032】
次に自然な状態で快適に歩行する速度を測定した。その結果、
図7に示す通り、本発明の実施例1の靴下は比較例(従来品)に比べて快適歩行速度が約13%高いことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の靴下は、歩行用に好適であるが、登山、トレッキング、ハイキング、スキー、スノーボード、スケート、野球、ゴルフ、ホッケー、サッカー、ジョギング、マラソン、テニス、バドミントン、スカッシュ、卓球などあらゆるスポーツにも好適である。その他、一般の靴下としても有用である。
【符号の説明】
【0034】
1 靴下
2 親指袋
3 第1中足骨の底面と足底踏まず部の主要部
4 内果の下部から外果の下部
5 踵部
6 第2〜5指袋とこれに続く第2〜5中足骨の底面
7 足首部
8 靴下上面
11 突出部
12 縫製ライン