特許第6377599号(P6377599)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6377599
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】端子対およびコネクタ
(51)【国際特許分類】
   H01R 13/03 20060101AFI20180813BHJP
【FI】
   H01R13/03 D
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-239566(P2015-239566)
(22)【出願日】2015年12月8日
(65)【公開番号】特開2017-107698(P2017-107698A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2016年5月20日
【審判番号】不服2017-13196(P2017-13196/J1)
【審判請求日】2017年9月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城 崇人
【合議体】
【審判長】 大町 真義
【審判官】 平田 信勝
【審判官】 内田 博之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−6065(JP,A)
【文献】 特開2010−37629(JP,A)
【文献】 特開2015−144063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触部が設けられた弾性片を備えた雌端子である第1端子と、
前記接触部よりも広い接触領域が設けられた挿入片を備えた雄端子である第2端子と、を備え、
前記第1端子は前記挿入片を挿入可能になっており、
前記第1端子の前記弾性片に設けられた前記接触部が、前記第1端子に挿入された前記挿入片の前記接触領域内において前記第2端子に接触することで、電気的に相互に接続される端子対であって、
前記接触部の最表面は、第1めっき層で被覆され、
前記接触領域の最表面は、前記第1めっき層のビッカース硬度よりも低いビッカース硬度を有する第2めっき層で被覆されており、
前記第1めっき層および前記第2めっき層を形成する金属は、銀又はその合金である端子対。
【請求項2】
前記第1めっき層のビッカース硬度と前記第2めっき層のビッカース硬度との差は、10Hv以上である請求項1に記載の端子対。
【請求項3】
前記第1めっき層のビッカース硬度は110Hv以上であり、前記第2めっき層のビッカース硬度は100Hv以下である請求項2に記載の端子対。
【請求項4】
前記接触部は、前記接触領域に線接触もしくは点接触している請求項1ないし請求項3の何れか一項に記載の端子対。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れか一項に記載の端子対を備えるコネクタであって、
前記第1端子を収容する第1コネクタと、
前記第1コネクタと嵌合可能であって、前記第2端子を収容する第2コネクタと、を有するコネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、端子対およびこれを備えるコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用コネクタとして、雌端子に設けられた接触片が、雌端子内に挿入された雄端子に所定の接触圧を有して接触することで、電気的に接続されるように設計された端子対を備えるものが用いられている。このようなコネクタは、エンジンルーム等の振動環境が厳しい箇所に適用されると、車両の振動が端子接続部に伝わって雌端子と雄端子とが接触部分において摺動し、端子が摩耗して抵抗が上昇したり、接続不良が発生したりするおそれがある。
【0003】
こうした振動への対策として、雌端子を保持する雌コネクタハウジングと、雄端子を保持する雄コネクタハウジングとの間に、ガタ詰め突起等を設ける技術が提案されている。この技術は、端子の挿入方向と直交する方向における振動の影響の低減には効果的であるが、端子の挿入方向における振動に対してはあまり効果が認められない。そこで、端子の挿入方向における振動対策として、例えば下記特許文献1には、コネクタハウジングに設けられたレバーを操作して、雌コネクタハウジングと雄コネクタハウジングとを挿入方向に強固に固定するコネクタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−18765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のようなコネクタでは、固定操作用のレバーを要するために、コネクタハウジングのコストが上昇し、コネクタ全体が大型化すること、嵌合時に固定のためのレバー操作が必要となるために、作業性が低下すること、などの問題が生じていた。
【0006】
本明細書に開示する技術は、上記事情に基づいて完成されたものであって、耐振動性が高く、接続信頼性に優れた簡易な構成の端子対およびコネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書が開示する端子対は、接触部が設けられた第1端子と、前記接触部よりも広い接触領域が設けられた第2端子と、を備え、前記第1端子の前記接触部が、前記接触領域内において前記第2端子に接触することで、電気的に相互に接続される端子対であって、前記接触部の最表面は、第1めっき層で被覆され、前記接触領域の最表面は、前記第1めっき層のビッカース硬度よりも低いビッカース硬度を有する第2めっき層で被覆されている。
【0008】
上記構成によれば、接触領域の最表面は、接触部の最表面を被覆する第1めっき層のビッカース硬度よりも小さなビッカース硬度を有する第2めっき層で被覆される。なお、本明細書において接触領域とは、第2端子において第1端子の接触部と接触しうる領域をいう。このような構成の端子に車両の振動が伝わって接触部が接触領域内を摺動すると、接触領域よりも接触面積が狭い接触部に形成された第1めっき層は、第2めっき層よりもビッカース硬度が高いので、摩耗しにくくなっている。これにより、第1めっき層と第2めっき層との電気的な接続を維持することができるので、端子間の電気の導通性が長期間にわたって保持される。
【0009】
このように、従来の構造の端子対において各端子の最表面を被覆するめっき層の硬度を調整するという簡易な構成によって、大幅なコストの増加や形状変更等を伴うことなく、耐振動性が高く、接続信頼性に優れた簡易な構成の端子対を得ることができる。
【0010】
本明細書が開示する端子対において、前記第1めっき層および前記第2めっき層を形成する金属は、銀、金、及びパラジウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属又はその合金である。
【0011】
銀、金、及びパラジウム、並びに、これらの合金は、比較的に酸化されにくい。第1めっき層および第2めっき層を構成する金属として、これらの金属又は合金を用いることによって、第1めっき層及び第2めっき層の、一方又は双方が摩耗した場合でも、これらの金属又は合金の摩耗粉は、酸化されずに、接触部と接触領域との間にも介在することができる。これにより、摩耗粉を介在することによって接触部と接触領域との電気的接続を維持することができるので、端子対の接続信頼性をより向上させることができる。
【0012】
本明細書が開示する端子対において、前記第1めっき層および前記第2めっき層を形成する金属は、銀又はその合金である。
【0013】
一般に、車両用コネクタ等に用いられる端子には、様々な特性を考慮して、スズ、銀、金によるめっきが施される。これらの金属中で、銀は特に高い凝着性を有する。このため、最表面が銀めっき層で被覆された端子が接触部分において摺動し、摩擦によって銀めっき層の一部が剥離しても、生じた銀摩耗粉の多くは、端子表面に残っている銀めっき層に凝着する等して接触部分に止まる傾向にある。
【0014】
上記構成によれば、端子に車両の振動が伝わって接触部が接触領域内を摺動すると、接触部の第1めっき層よりも先に、接触領域の第2めっき層が摩耗する。こうして生じた銀摩耗粉は、銀の高い凝着性によって接触部下面の第1めっき層に凝着する等して接触領域内に留まり、第2めっき層の摩耗痕を補填して、接触部と接触領域との間にも介在し得る。ここで、銀は酸化されにくいため、銀摩耗粉は酸化されない状態で残存し、高い導電性が維持される。よって、接触部分に残存する銀摩耗粉によって、接触部の第1めっき層が保護されるだけでなく、端子間の電気の導通性が長期間にわたって高く保持される。これにより、端子対の電気的な接続信頼性を更に向上させることができる。
【0015】
本明細書が開示する端子対において、前記第1めっき層のビッカース硬度と前記第2めっき層のビッカース硬度との差は、10Hv以上とすることができる。また、前記第1めっき層のビッカース硬度は110Hv以上であり、前記2めっき層のビッカース硬度は110Hv以下であってもよい。このような構成によれば、第1めっき層が第2めっき層よりも先に摩耗する事態を抑制でき、前述の効果を確実に得ることができる。
【0016】
また、本明細書が開示する端子対において、前記接触部は、前記接触領域に線接触もしくは点接触していてもよい。このような構成の端子対では、接触部が接触領域に比して格段に小さいために局所的に摩耗しやすく、摩耗による接触不良等が発生しやすいことから、本明細書が開示する技術が一層有用である。
【0017】
また、本明細書が開示する端子対において、前記第2端子は、前記接触領域が設けられた挿入片を備える雄端子であり、前記第1端子は、前記接触部が設けられた弾性片を備え、前記挿入片を挿入可能な雌端子であって、前記雌端子に挿入された前記挿入片に、前記弾性片が弾性的に接触するものであってもよい。このような構成の端子対では、弾性的に接触している第1端子と第2端子とが摺動しやすいことから、本明細書が開示する技術を効果的に適用することができる。
【0018】
また、本明細書が開示する技術は、上記のような端子を備え、前記第1端子を収容する第1コネクタと、前記第1コネクタと嵌合可能であって、前記第2端子を収容する第2コネクタと、を有するコネクタとして実施することもできる。
【発明の効果】
【0019】
本明細書が記載する技術によれば、耐振動性が高く、接続信頼性に優れた簡易な構成の端子対およびコネクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態1に係る端子対における、雄端子と雌端子の接触部分を表す断面図
図2A】比較として、接触部と、接触部の銀めっき層よりも硬い銀めっき層で被覆された接触領域とを有する端子対における接触部分の部分拡大模式図
図2B図2Aの接触部分において接触させた端子を摺動させた後の、銀めっき層および銀摩耗粉の状態を推察した部分拡大模式図
図2C図2Bからさらに摺動を繰り返した後の、銀めっき層および銀摩耗粉の状態を推察した部分拡大模式図
図3A】雄端子と雌端子の接触部分の部分拡大模式図
図3B図3Aの接触部分において接触させた端子を摺動させた後の、銀めっき層および銀摩耗粉の状態を推察した部分拡大模式図
図3C図3Bからさらに摺動を繰り返した後の、銀めっき層および銀摩耗粉の状態を推察した部分拡大模式図
図4】摺動摩耗耐久試験の概要を示す模式図
図5】摺動摩耗耐久試験において測定された抵抗の推移を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0021】
<実施形態>
以下、一の実施形態について、図1ないし図3を参照しつつ説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る端子対1は、雌端子10(第1端子)と雄端子20(第2端子)とを備えて構成される。以下の説明では、図1における上側を上(下側を下)、左側を左(右側を右)とし、雌端子10および雄端子20の互いに嵌合する側を前(逆側を後)とする。なお、上下左右の方向は説明便宜上のものであって、端子対1は任意の姿勢で用いることができる。
【0022】
〔端子対の構造〕
(雌端子10)
雌端子10は、雌端子母材51を含む導電性金属板材を、所定の形状にプレス加工して形成される。雌端子10の最表面には、後述するように第1銀めっき層53(第1めっき層の一例)が形成されている。雌端子10は、図1に表されているように、後述する雄端子20のタブ片21が挿入される接続筒部11と、接続筒部11の後方に連なって設けられた電線接続部13と、を備える。雌端子10は、電線接続部13において、ワイヤバレル部15が電線3の端末に露出された芯線5に圧着され、インシュレーションバレル部17が電線3に圧着されることで、電線3に対して電気的に接続されている。
【0023】
接続筒部11は、略角筒状をなしており、接続筒部11の内部に、第一接触片31および第二接触片33が設けられている。図1に表されているように、第一接触片31は、接続筒部11の天面を下方に叩き出すことで形成されており、雄端子20のタブ片21が所定の位置まで挿入されると、第一接触片31下面の一部がタブ片21の上面に面接触する。一方、第二接触片33は、接続筒部11の底面を延出して複数箇所において折り曲げることにより、弾性変形可能な弾性接触片として形成されている。第二接触片33の上面には、自然状態における第一接触片31の下面との間隔がタブ片21の厚み寸法よりも小さくなるように設定された膨出部33A(接触部)が形成されている。
【0024】
(雄端子20)
雄端子20は、雄端子母材41を含む導電性金属板材を、所定の形状にプレス加工して形成される。雄端子20の最表面には、後述するように最表面に第2銀めっき層43(第2めっき層の一例)が形成されている。雄端子20は、図1に表されているように、前後方向に延びる幅広な平板状のタブ片21を備えている。雄端子20は、タブ片21の後方の電線接続部23において、ワイヤバレル部25が電線7の端末に露出された芯線9に圧着され、インシュレーションバレル部27が電線7に圧着されることで、電線7に対して電気的に接続されている。
【0025】
(電気接続構造)
上記のような構造の端子対1を電気的に相互に接続するには、第二接触片33を弾性変形させて第一接触片31と膨出部33Aとの間隔を押し広げつつ、雄端子20のタブ片21を雌端子10内に挿入する。挿入されたタブ片21は、弾性回復しようとする第二接触片33の膨出部33Aによって上方に付勢され、第一接触片31に押し付けられて、第一接触片31と第二接触片33との間に挟持される。このようにして、タブ片21の上面が第一接触片31の下面に面接触するとともに、タブ片21下面の接触領域21Aが第二接触片33の膨出部33A(接触部)に接触して、雌端子10と雄端子20とが電気的に接続される。なお、接触領域21Aは、タブ片21下面において膨出部33Aと接触しうる領域をいう。
【0026】
〔端子の構成〕
(母材)
雌端子母材51および雄端子母材41としては、銅や銅合金等、端子基材として用いられる公知のものを用いることができる。これらの両母材は、同種金属からなるものであっても、異種金属からなるものであってもよい。また、雌端子母材51および雄端子母材41の一方または双方の表面に、ニッケル等からなる中間層が設けられていてもよい。中間層を設けることで、この上に形成するめっき層の硬度や耐久性等を調整したり、母材からめっき層への原子の拡散を抑制したりすることができる。
【0027】
(めっき層)
雌端子母材51の最表面には、第1銀めっき層53が形成されている。なお、雌端子母材51の最表面とは、雌端子母材51の上面、下面および側面等、外部に露出される全ての表面をいう。第1銀めっき層53は、少なくとも第二接触片33の膨出部33A上面において、タブ片21に接触する部位の最表面に設けられていればよい。本実施形態では、第1銀めっき層53は、第一接触片31の下面(タブ片21に接触する面)および膨出部33Aを含む第二接触片33の上面に、これらの最表面を被覆するように形成される。
【0028】
一方、雄端子母材41の最表面には、第2銀めっき層43が形成されている。第2銀めっき層43は、少なくともタブ片21下面において、第二接触片33の膨出部33Aが接触しうる接触領域21Aの全域の最表面に亘って設けられていればよい。本実施形態では、第2銀めっき層43は、タブ片21の上面および下面の全体の最表面を被覆するように形成される。
【0029】
第1銀めっき層53および第2銀めっき層43は、電気めっき法等の公知の方法により形成できる。両銀めっき層は、同じ方法によって形成してもよいし、異なる方法で形成してもよい。また、何れも銀を主成分とするものであればよく、銀固有の高い凝着性や耐酸化性を損なわない限りにおいて、他の元素を含んでいてもよい。両銀めっき層の構成元素および成分組成は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0030】
銀は、比較的軟らかい金属であるが、銀めっき層のビッカース硬度は、結晶粒径等に依存し、めっき条件を調整すること等で制御できる。例えばめっき液にアンチモン等の元素を添加すると銀微結晶の結晶成長が抑制され、結晶粒径が小さく硬度の高い銀めっき層が得られることが知られている。汎用されている銀めっき層のビッカース硬度は90〜100Hvであり、一般には、70Hv未満のものが低硬度銀めっき層、110Hv以上のものが高硬度銀めっき層と称される。
【0031】
本明細書が開示する技術において、第1銀めっき層53は、第2銀めっき層43よりも高いビッカース硬度を有するように形成される。第1銀めっき層53と第2銀めっき層43のビッカース硬度の差は、これらの接触部分における第1銀めっき層53の摩耗を抑制する観点から、10Hv以上とされ、15Hv以上であることが好ましく、20Hv以上であることがより好ましい。なお第1銀めっき層53はビッカース硬度が110Hv以上の高硬度銀めっき層とされ、第2銀めっき層43は100Hv以下の汎用の銀めっき層とされることが好ましい。
【0032】
第1銀めっき層53および第2銀めっき層43の厚みは特に限定されないが、銀めっき層の効果を発揮させつつコストの上昇を抑制する観点から、1〜10μmとされることが好ましい。両銀めっき層の厚みは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0033】
(作用効果)
続いて、図2および図3を参照しつつ、本実施形態の作用および効果について説明する。
【0034】
まず比較として、本実施形態とは異なり、接触領域の最表面が、接触部を被覆する第1銀めっき層以上のビッカース硬度を有する第2銀めっき層で被覆されている端子対について、説明する。
図2は、雌端子母材51および第1銀めっき層153を備えて構成された第二接触片133と、雄端子母材41および第2銀めっき層143を備えて構成されたタブ片121と、の接触部分を、拡大して模式的に示したものである。本比較形態において、第二接触片133およびタブ片121は、前述した本実施形態の第二接触片33およびタブ片21と同様の形状構造である。ただし、本比較形態において、雄端子母材41を被覆する第2銀めっき層143は、雌端子母材51を被覆する第1銀めっき層153よりも硬く、第1銀めっき層153よりも高いビッカース硬度を有するものとする。
【0035】
図2Aは、両端子が接触する直前の状態を表している。第二接触片133が弾性回復してタブ片121に圧着すると、第二接触片133に設けられた膨出部133Aが、接触領域121Aにおいてタブ片121の下面に接触する。そして、車両の振動がこれらの接触部分に伝わった場合には、膨出部133Aが接触領域121A内を摺動し、両者が離れることなく電気的接続が保たれるようになっている。ここで、膨出部133Aは、常に同じ部位がタブ片121と接触した状態となるため、接触領域121Aと比べて摺動による摩擦の影響が部分的に大きくなる。よって、本比較形態のように第2銀めっき層143の方が第1銀めっき層153よりも硬い場合は勿論、両部材を硬度が等しい銀めっき層で被覆した一般的な構成でも、図2Bに表されているように、第1銀めっき層153の方が局所的に先に摩耗する。ここで、膨出部133Aは、前述のように常に同じ部位がタブ片121に接触した状態にあるため、膨出部133Aに生じた第1銀摩耗粉153Pは、膨出部133A端子の接触部分の表面に留まることができずに排斥されて、端子間の電気の導通性が低下する。さらに摺動が繰り返されると、露出した雌端子母材51によって第2銀めっき層143が摩擦され、図2Cに表されているように、雄端子母材41も露出して接触不良が生じ、導通性が一層低下する。
【0036】
上記比較形態に対し、本実施形態では、接触領域の最表面は、接触部を被覆する第1銀めっき層よりも低いビッカース硬度を有する第2銀めっき層で被覆されている。
図3は、本実施形態に係る雌端子10と雄端子20の接触部分の部分拡大模式図である。図3Aは、雌端子10の第二接触片33が雄端子20のタブ片21に圧着する直前の状態を表している。第二接触片33の弾性回復によって互いに圧着された端子の接触部分に車両の振動が伝わると、膨出部33Aは接触領域21A内を摺動する。
【0037】
本実施形態によれば、接触領域21Aの最表面を被覆する第2銀めっき層43の方が膨出部33Aを被覆する第1銀めっき層53よりも低いビッカース硬度を有しているため、摺動が繰り返されると、図3Bに表されているように、第2銀めっき層43の方が先に摩耗して、接触領域21Aの表面に第2銀摩耗粉43Pを生じる。第2銀摩耗粉43Pは、銀固有の高い凝着性により、膨出部33A表面の第1銀めっき層に引き寄せられて接触領域21Aの表面に留まる傾向にある。そして、摺動する膨出部33Aと接触領域21Aとの界面に入り込む等して、第2銀めっき層43の摩耗痕を補填し、膨出部33Aと接触領域21Aとの間に介在し得る。ここで、第2銀摩耗粉43Pは、銀固有の高い耐酸化性により酸化されない状態で残存するため、高い導電性を維持する。このため、図3Bからさらに摺動が繰り返されても、図3Cに表されているように、雌端子10と雄端子20との接触部分に残存している第2銀摩耗粉43Pによって、膨出部33Aの第1銀めっき層53の摩耗が抑制されるだけでなく、端子間の電気の導通性が長期間にわたって高く保持される。
【0038】
以上のように、本実施形態によれば、膨出部33Aが摺接する接触領域21Aの最表面を、膨出部33Aの最表面を被覆する第1銀めっき層53のビッカース硬度よりも低いビッカース硬度を有する第2銀めっき層43で被覆するという簡易な構成によって、大幅なコストの増加や形状変更等を伴うことなく、耐振動性が高く、接続信頼性に優れた簡易な構成の端子対を得ることができる。
【0039】
以下、実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本明細書により開示される技術は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0040】
〔実施例1〕
雌端子母材51および雄端子母材41として、板厚0.25mmの銅合金基板を使用し、これらの表面に、電気めっき法により、第1銀めっき層53もしくは第2銀めっき層43を形成した。第1銀めっき層53および第2銀めっき層43の厚みは、何れも5μmとした。これらの銀めっき層について、後述するようにビッカース硬度の測定を行ったところ、第1銀めっき層のビッカース硬度は113Hv、第2銀めっき層のビッカース硬度は95Hvであった(第1銀めっき層のビッカース硬度>第2銀めっき層のビッカース硬度)。
【0041】
〔比較例1〕
雌端子母材51および雄端子母材41として、実施例1で使用したものと同じ板厚0.25mmの銅合金基板を使用し、これらの表面に、第1銀めっき層153もしくは第2銀めっき層143を、電気めっき法により厚みが5μmとなるように、実施例1と同様に形成した。これらの銀めっき層のビッカース硬度の測定を行ったところ、第1銀めっき層153のビッカース硬度は60Hv、第2銀めっき層143のビッカース硬度は95Hvであった(第1銀めっき層のビッカース硬度<第2銀めっき層のビッカース硬度)。
【0042】
〔評価〕
(ビッカース硬度の測定)
実施例1および比較例1で得られた導電性金属板材における第1銀めっき層53および第2銀めっき層43のビッカース硬度は、株式会社ミツトヨ製の微小表面材料特性評価システム「MZT−522」を用いて測定した。
【0043】
(摺動摩耗耐久試験における抵抗値の測定)
実施例1および比較例1で得られた導電性金属板材を用いて雌端子10および雄端子20を形成し、これらを図1に表されているように接続した端子対1を、摺動摩耗耐久試験に供試した。試験は、アイコーエンジニアリング株式会社製の微摺動摩耗耐久測定装置「G04−0705」を用いて行った。試験の概要を図4に示す。まず、端子対1のうち、雄端子20の電線接続部23を可動ステージS1上に載置し、雌端子10の電線接続部13を固定ステージS2上に予め載置した。なお、雌端子10の接続筒部11内には、雄端子20のタブ片21が挿入保持されている。試験に当たっては、モータMを駆動して可動ステージS1を前後方向に摺動させ、雌端子10側の電線3および雄端子20側の電線7に接続したDC電源Pから電圧を印加して電圧計Vで電圧を検知することによって、摺動回数に対する抵抗の推移を測定した。摺動距離は120μm、摺動速度は1Hzとした。
【0044】
〔結果および考察〕
摺動摩耗耐久試験によって得られた結果を、図5のグラフに示す。グラフより、比較例1では、摺動回数が6000回を超えると抵抗が上昇し始め、11000回前後で急激に上昇した。これに対し、実施例1では、12000回に至るまで抵抗が低い値で安定していたことが読み取れる。すなわち、実施例1の構成によれば、耐振動性が高く、接続信頼性に優れた簡易な構成の端子対が得られることが確認された。
【0045】
<他の実施形態>
本明細書に開示される技術は、上記記述および図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も技術的範囲に含まれる。
【0046】
(1)雌端子10(第1端子)および雄端子20(第2端子)の形状は、限定されない。参考例として、雌端子10に接触領域が形成され、雄端子20に接触部が形成されていてもよい。両端子は、点、線、面の何れの形状で接触するものであってもよい。また、両端子は、参考例として、例えば、ボルト締結等により一方が他方に圧着接続されるようなものであってもよい。参考例として、端子対1は、本実施形態の雌端子10および雄端子20のように一方の端子が他方の端子内に挿入されるようなものに限定されない。
【0047】
(2)雌端子母材51および雄端子母材41の材質は、限定されず、端子の母材として用いられる公知のものを使用することができる。第1銀めっき層53および第2銀めっき層43は、銀を主成分とするものであればよく、銀固有の高い凝着性および耐酸化性を損なわない範囲において、その他の元素を含んでいてもよい。
【0048】
(3)参考例として、第1めっき層及び第2めっき層は銀、金、パラジウム、スズ、ニッケル等、又はこれらの合金等、必要に応じて任意の金属を適宜に選択することができる。これらのうち、銀、金、パラジウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属又はこれらの合金は、比較的に酸化されにくいので、接触部と接触領域との摩耗によりこれらの金属の摩耗粉末が形成された場合に、摩耗粉が酸化されずに接触部と接触領域との間に介在して電気的接続を維持することができるので、好ましい。
【0049】
(4)本実施形態においては、第1めっき層及び第2めっき層は銀又は銀合金により形成される構成としたが、参考例として、第1めっき層を形成する金属と、第2めっき層を形成する金属とが、異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1…端子対
10…雌端子
20…雄端子
21…タブ片(挿入片)
21A…接触領域
33…第二接触片(弾性片)
33A…膨出部(接触部)
41…雄端子母材
43…第2銀めっき層
51…雌端子母材
53…第1銀めっき層
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4
図5