【実施例】
【0087】
実施例1:CDH3発現CHO細胞株の樹立
抗CDH3抗体スクリーニング用細胞株を得るため、全長CDH3を発現するCHO細胞を樹立した。
(1)CDH3遺伝子発現ベクターの作製
配列番号1に示す全長ヒトCDH3DNAを哺乳類発現ベクターpEF4/myc−HisB(インビトロジェン社)へ挿入するため、2種類の制限酵素KpnI(タカラバイオ社)及びXbaI(タカラバイオ社)で37℃、1時間処理した後、同じくKpnI及びXbaIで処理したpEF4/myc−HisBへT4 DNAリガーゼ(プロメガ社)により常法に従って挿入し、発現ベクターpEF4−CDH3−myc−Hisを得た。
【0088】
(2)CDH3安定発現株の取得
FuGENE(登録商標)6トランスフェクション試薬(ロシュ・ダイアグノスティックス社)のプロトコールに準じ、トランスフェクション前日に径10cmディッシュに8×10
5細胞のCHO細胞を播種し一晩培養後、8μgの発現ベクターpEF4−CDH3−myc−Hisと16μLのFuGENE6試薬を400μLの無血清RPMI1640培地(SIGMA−ALDRICH社)に混合し15分間室温放置後、細胞培養液に加えトランスフェクションを行った。トランスフェクション翌々日に選択試薬(Zeocin(登録商標))を用いて限界希釈法にてクローニングを行った。
【0089】
CDH3全長発現CHOのクローン選抜は、抗c−Mycモノクローナル抗体(SANTA CRUZ BIOTECHNOLOGY社)を用いたウェスタンブロット法により行い、その結果、発現量が高く、かつ増殖が良好なCDH3全長発現CHO細胞株(EXZ1501)を得た。この細胞株、親株であるCHO細胞、およびCDH3発現が確認されているNCI−H358肺癌細胞株と市販抗CDH3抗体(R&D SYSTEMS社)のフローサイトメーターによる測定結果を
図1に示す。
【0090】
実施例2:可溶型CDH3抗原の作製
抗CDH3抗体作製の免疫原とするため、C末端膜貫通領域以降を欠損させた可溶型CDH3(sCDH3)タンパク質を作製した。
(1)可溶型CDH3抗原発現ベクターの作製
CDH3全長cDNAをテンプレートとして、CDH3細胞外領域に相当する部分(配列番号1の1−2010に相当、以下sCDH3cDNA)を増幅するように設計されたフォワードプライマー(CGCGGTACCATGGGGCTCCCTCGT:配列番号3)とリバースプライマー(CCGTCTAGATAACCTCCCTTCCAGGGTCC:配列番号4)を用いてPCR反応を行った。反応にはKOD−Plus(東洋紡社)を用い、94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で90秒を30サイクルの反応条件で行った。
【0091】
その後、アガロースゲル電気泳動で目的サイズである約2.0kbpのバンドを含むゲル断片を切り出し、QIA(登録商標)クイックゲル抽出キット(キアゲン社)を用いて、目的のsCDH3cDNAを得た。
【0092】
このsCDH3cDNAを発現用ベクターpEF4/myc−HisBへ挿入するために、2種類の制限酵素KpnI及びXbaIで処理した後、同じくKpnI及びXbaIで処理したpEF4/myc−HisBにT4 DNAリガーゼを用いて常法に従い挿入し、発現ベクターpEF4−sCDH3−myc−Hisを得た。
【0093】
(2)可溶型CDH3タンパク質の発現
FuGENE6トランスフェクション試薬のプロトコールに準じ、トランスフェクション前日に径10cmディッシュに8×10
5個のCHO細胞を播種し一晩培養後、8μgの発現ベクターpEF4−sCDH3−myc−Hisと16μLのFuGENE6試薬を400μLの無血清RPMI1640培地に混合、15分間室温放置後、細胞培養液に加えトランスフェクションを行った。トランスフェクション翌々日に選択試薬(Zeocin)を用いて限界希釈法にてクローニングを行った。
【0094】
可溶型CDH3発現CHO細胞の選抜は、抗c−Mycモノクローナル抗体(SANTA CRUZ BIOTECHNOLOGY社)を用いたウェスタンブロット法で行った。培養上清中への分泌量が多く増殖が良好な細胞株を選択した結果、可溶型CDH3発現CHO細胞株(EXZ1702)が得られた。選択された可溶型CDH3発現CHO細胞株(EXZ1702)は、培養面積1,500cm
2のローラーボトル3本を用い、ローラーボトル1本あたり無血清培地CHO−S−SFM−II(インビトロジェン社)333mLにて72時間培養を行い、培養上清を回収した。得られた培養上清からHisTrap(登録商標)HPカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社)によるアフィニティークロマトグラフィーとSuperdex(登録商標)200pgカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社)によるゲル濾過クロマトグラフィーにより可溶型CDH3タンパク質を得た。
【0095】
実施例3:抗CDH3マウス抗体の作製
(1)可溶型CDH3タンパク質を免疫原としたモノクローナル抗体の作製
生理食塩水に溶解した50μgの可溶型CDH3タンパク質とTiter−MAX Gold(登録商標)(タイターマックス社)を等量混合し、MRL/lprマウス(日本エスエルシー株式会社)の腹腔内および皮下に注射することにより初回免疫を行った。2回目以降の免疫は同様に調製した25μgタンパク質量相当の可溶型CDH3タンパク質とTiter−MAX Goldを混合して腹腔内および皮下に注射することにより実施した。最終免疫から3日後にマウスから脾臓細胞を無菌的に調製し、常法に従って、ポリエチレングリコール法によりマウスミエローマ細胞SP2/O−Ag14あるいはP3−X63−Ag8.653との細胞融合を行った。
【0096】
(2)抗CDH3マウス抗体産生ハイブリドーマの選抜
抗CDH3マウス抗体の選抜は、全長CDH3を発現するCHO細胞株(EXZ1501)を用いたフローサイトメトリで行った。すなわち、全長CDH3を発現するCHO細胞株(EXZ1501)を2mM EDTA−PBSで処理することで培養プレートから剥離後、1×10
6個/mLとなるようにFACS溶液(1%BSA,2mM EDTA,0.1%NaN
3入りPBS)に懸濁した。この細胞懸濁液を50μL/ウェルとなるように96ウェルプレートに播種し、ハイブリドーマ培養上清を加えて4℃で60分間反応させ、FACS溶液(200μL/ウェル)で2回洗浄した後、AlexaFluor488標識抗マウスIgG・ヤギF(ab‘)
2(インビトロジェン社)を加えて、4℃で30分間反応させた。その後FACS溶液で2回洗浄した後、フローサイトメトリを実施し、CDH3発現CHO細胞との反応が認められるハイブリドーマを選抜した。
【0097】
当該ハイブリドーマより得られた抗体と、CDH3発現CHO細胞(EXZ1501)、親株であるCHO細胞及びCDH3が高発現であると確認されているヒト細気管支肺胞上皮癌細胞株NCI−H358との典型的な反応結果を
図2A-Cに示す。選抜したハイブリドーマ全てが、CDH3発現CHO細胞(EXZ1501)およびNCI−H358と反応し、CHO細胞とは反応しないことを確認した。
図2Dには受託番号NITE BP−1536に由来するハイブリドーマから精製したマウス抗体(抗体番号:PPAT−076−44M)のフローサイトメトリ結果を示す。
【0098】
実施例4:正常組織および癌組織でのCDH3mRNAの発現
正常ヒト組織および各種癌組織より、レーザーマイクロダイセクション法(Laser Capture Microdissection)で回収したサンプルよりISOGEN(ニッポンジーン社)を用い定法に従って全RNAを調製した。RNA各10ngをGeneChipU−133B(Affymetrix社)を用い、Expression Analysis Technical Manual(Affymetrix社)に準じて遺伝子発現を解析した。全遺伝子の発現スコアの平均値を100とし、癌細胞において発現が亢進する遺伝子を探索したところ、CDH3は正常ヒト組織では発現が限られ、肺癌、大腸癌、膵臓癌で発現が高かった(
図3A、B)。また、分化度の異なる膵臓癌組織におけるCDH3mRNAの発現を検討したところ、分化度に関わらず発現が高い組織が認められた(
図3C)。
【0099】
実施例5:免疫組織化学染色による癌組織でのCDH3タンパク質の発現
癌臨床検体でのCDH3タンパク質の発現を確認するため、癌検体組織アレイで免疫染色を行った。癌細胞組織アレイは、上海芯超生物科技有限公司社(Shanghai Outdo Biotech Co.,Ltd.)製の、膵癌(腺癌)、肺癌(腺癌)、肺癌(扁平上皮癌)および大腸癌(腺癌)を使用した。
【0100】
各組織アレイスライドを脱パラフィン処理し、10mMTris、1mM EDTA(pH9.0)で95℃、40分賦活化を行った。ENVISION+Kit(Dako社)付属のブロッキング試薬にて内在性ペルオキシダーゼの不活性化を行った後、抗CDH3抗体610227(BD BIOSCIENCE社)、およびネガティブコントロールとして抗HBs抗体Hyb−3423と5μg/mLの濃度で4℃一晩反応させた。抗体溶液を洗い流した後に、ENVISION+Kit付属のポリマー二次抗体試薬と室温30分間反応させた。ENVISION+Kit付属の発色試薬にて発色を行い、ヘマトキシリンエオジン溶液にて核染色を行った。
図4に結果を示す。癌細胞は抗CDH3抗体で染色され、正常細胞は染色されなかった。
【0101】
実施例6:ハイブリドーマからのRNAの精製
CDH3抗体を産生するマウスハイブリドーマ細胞から、細胞質に存在するRNAをGough, Rapid and quantitative preparation of cytoplasmic RNA from small numbers of cells, Analytical Biochemisty, 173, p93−95 (1988)(非特許文献10)により記載されている方法(ただし、この論文に記されている溶解緩衝液のかわりに別のTNE緩衝液 25mM Tris−HCl,pH7.5;1%NP−40;150mM NaCl;1mM EDTA,pH8.0を用いた)に従って単離した。具体的な操作方法としては、5×10
6個のハイブリドーマ細胞を0.2mLのTNE緩衝液に懸濁して細胞膜を溶解後、遠心により細胞核を除去した。得られた約0.2mL細胞質上清に0.2mLの抽出緩衝液(10mM Tris−HCl,pH7.5;0.35M NaCl;1%(w/v)SDS;10mM EDTA,pH8.0;7M尿素)を加えた。この混合物をフェノールおよびクロロホルムで抽出し、得られたRNA溶液にキャリアとしてグリコーゲン(ロッシュ、Cat No.901393)を加えてから、エタノールで沈澱させた。次にRNA沈殿物を、細胞質RNA濃度が0.5〜2μg/μLになるように10〜50μLの滅菌蒸留水を加えて溶解した。
【0102】
実施例7:ハイブリドーマから調製したRNAからのcDNAライブラリーの作製
一本鎖cDNAを合成するため、前記のように調製した細胞質RNAの0.5〜3μgを50mM Tris−HCl,pH8.3(室温);75mM KCl;3mM MgCl
2;10mM DTT、100ngのランダムプライマー、0.5mM dNTP、200ユニットのSuperscriptII(逆転写酵素、インビトロジェン社)を含む20μL反応混合液を調製し、42℃で50分間インキュベートした。このように合成したcDNAライブラリーをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法の鋳型として直接使用した。
【0103】
実施例8:抗CDH3マウス抗体可変領域をコードする遺伝子のPCR法による増幅
抗CDH3マウス抗体可変領域の配列を決定するため、実施例7で得られたcDNAライブラリーをテンプレートとして、PCR法により抗CDH3マウス抗体可変領域の遺伝子増幅を実施した。プライマーは全て北海道システムサイエンス株式会社に合成依頼し、以下に記載するような組み合わせで実施した。
【0104】
A.マウス軽鎖可変領域コード遺伝子のPCRプライマー
5’末端においてFR1部分と相同性を有するPCRプライマーと3’末端においてマウス軽鎖内のJ鎖遺伝子と相同性を有する4セットプライマー(1)、あるいは5’末端において軽鎖シグナル部分(7セットプライマー)と3’末端においてKC部分(KVLアンチセンスプライマー)と相同性を有するプライマーセット(2)の2種類のプライマーセットを用いてポリメラーゼ連鎖反応により、該cDNAからマウス免疫グロブリン軽鎖可変域DNAを単離した。プライマー配列は次のとおりであった。
なお、塩基配列において、MはAまたはC、RはAまたはG、WはAまたはT、SはCまたはG、YはCまたはT、KはGまたはT、VはAまたはCまたはG、HはAまたはCまたはT、DはAまたはGまたはT、BはCまたはGまたはT、NはAまたはCまたはGまたはTをそれぞれ示す。
【0105】
(1)マウス軽鎖可変域クローニング4セットセンスプライマー
「Phage Display −A Laboratory Manual−,Barbas Burton Scott Silverman」 PROTOCOL 9.5(非特許文献11)を参考にSense Primer 17種、Reverse Primer 3種を合成した。
VKセンスプライマー(FR1部分、下記17プライマーの混合物)
5'-GAYATCCAGCTGACTCAGCC-3'(縮重度2):配列番号5
5'-GAYATTGTTCTCWCCCAGTC-3'(縮重度4):配列番号6
5'-GAYATTGTGMTMACTCAGTC-3'(縮重度8):配列番号7
5'-GAYATTGTGYTRACACAGTC-3'(縮重度8):配列番号8
5'-GAYATTGTRATGACMCAGTC-3'(縮重度8):配列番号9
5'-GAYATTMAGATRAMCCAGTC-3'(縮重度16):配列番号10
5'-GAYATTCAGATGAYDCAGTC-3'(縮重度12):配列番号11
5'-GAYATYCAGATGACACAGAC-3'(縮重度4):配列番号12
5'-GAYATTGTTCTCAWCCAGTC-3'(縮重度4):配列番号13
5'-GAYATTGWGCTSACCCAATC-3'(縮重度8):配列番号14
5'-GAYATTSTRATGACCCARTC-3'(縮重度16):配列番号15
5'-GAYRTTKTGATGACCCARAC-3'(縮重度16):配列番号16
5'-GAYATTGTGATGACBCAGKC-3'(縮重度12):配列番号17
5'-GAYATTGTGATAACYCAGGA-3'(縮重度4):配列番号18
5'-GAYATTGTGATGACCCAGWT-3'(縮重度4):配列番号19
5'-GAYATTGTGATGACACAACC-3'(縮重度2):配列番号20
5'-GAYATTTTGCTGACTCAGTC-3'(縮重度2):配列番号21
【0106】
Jアンチセンス(4セットプライマー)
J1/J2アンチセンスプライマー(1)
5'-GGSACCAARCTGGAAATMAAA-3'(縮重度:8):配列番号22
J4アンチセンスプライマー(2)
5'-GGGACAAAGTTGGAAATAAAA-3':配列番号23
J5アンチセンスプライマー(3)
5'-GGGACCAAGCTGGAGCTGAAA-3':配列番号24
J1/J2,J4,J5アンチセンスプライマー混合物(4)
【0107】
(2)マウス軽鎖可変域クローニング7セットプライマー
VKセンスプライマー(シグナルペプチド部分、ノバジェン社のマウスIg−プライマーセット(Novagen;Merck,Cat.No.69831−3)を元に制限酵素部位を除去するように塩基配列を改変)
Aセットセンスプライマー
5'-ATGRAGWCACAKWCYCAGGTCTTT-3':配列番号25
Bセットセンスプライマー
5'-ATGGAGACAGACACACTCCTGCTAT-3':配列番号26
Cセットセンスプライマー
5'-ATGGAGWCAGACACACTSCTGYTATGGGT-3':配列番号27
Dセットセンスプライマー(下記2プライマーの混合物)
5'-ATGAGGRCCCCTGCTCAGWTTYTTGGIWTCTT-3':配列番号28
5'-ATGGGCWTCAAGATGRAGTCACAKWYYCWGG-3':配列番号29
Eセットセンスプライマー(下記3プライマーの混合物)
5'-ATGAGTGTGCYCACTCAGGTCCTGGSGTT-3':配列番号30
5'-ATGTGGGGAYCGKTTTYAMMCTTTTCAATTG-3':配列番号31
5'-ATGGAAGCCCCAGCTCAGCTTCTCTTCC-3':配列番号32
Fセットセンスプライマー(下記4プライマーの混合物)
5'-ATGAGIMMKTCIMTTCAITTCYTGGG-3':配列番号33
5'-ATGAKGTHCYCIGCTCAGYTYCTIRG-3':配列番号34
5'-ATGGTRTCCWCASCTCAGTTCCTTG-3':配列番号35
5'-ATGTATATATGTTTGTTGTCTATTTCT-3':配列番号36
Gセットセンスプライマー(下記4プライマーの混合物)
5'-ATGAAGTTGCCTGTTAGGCTGTTGGTGCT-3':配列番号37
5'-ATGGATTTWCARGTGCAGATTWTCAGCTT-3':配列番号38
5'-ATGGTYCTYATVTCCTTGCTGTTCTGG-3':配列番号39
5'-ATGGTYCTYATVTTRCTGCTGCTATGG-3':配列番号40
KVLアンチセンスプライマー
5'-ACTGGATGGTGGGAAGATGGA-3':配列番号41
【0108】
B.マウス重鎖可変領域コード遺伝子のPCRプライマー
5’末端においてマウス重鎖シグナル部分(4セットプライマー)と相同性を有するプライマーと3’末端においてKC部分と相同性を有するプライマー、あるいは5’末端においてFR1部分と相同性を有する1セットのプライマーと3’末端においてマウス重鎖の定常領域(IGHC)と相同性を有する2種類のプライマーセットを用いてポリメラーゼ連鎖反応により、該cDNAからマウス免疫グロブリン重鎖可変域DNAを単離した。プライマー配列は次のとおりであった。
【0109】
(3)マウス重鎖可変域クローニングプライマー
VHセンスプライマー(シグナル部分:4セットプライマー、Current Protocols in Immunology(John Wiley and Sons, Inc.), Unit 2.12 Cloning, Expression, and Modification of Antibody V RegionsのTable 2.12.2を参考にした)。
5'-ATGGRATGSAGCTGKGTMATSCTCTT-3'(縮重度:32):配列番号42
5'-ATGRACTTCGGGYTGAGCTKGGTTTT-3'(縮重度:8):配列番号43
5'-ATGGCTGTCTTGGGGCTGCTCTTCT-3':配列番号44
5'-ATGGRCAGRCTTACWTYY-3'(縮重度:32):配列番号45
【0110】
(4) マウス重鎖可変域クローニングプライマー
VHセンスプライマー(FR1部分、Tanら、Journal of Immunology;169,p1119(2002)(非特許文献14)のセンスプライマーの塩基配列を改変してデザインした)。
5'-SAGGTSMARCTKSAGSAGTCWGG-3'(縮重度:256):配列番号46
【0111】
VHアンチセンスプライマー((3),(4)に共通のアンチセンスプライマー、マウスIgGすべてのアイソフォームとアニーリングできるように塩基配列を縮重してデザインした)。
5'-CASCCCCATCDGTCTATCC-3'(縮重度:6):配列番号47
【0112】
実施例9:抗CDH3マウス抗体の可変領域の配列決定
DNA Engine(Bio−Rad社)を用いたPCR法により抗CDH3マウス抗体軽鎖、重鎖それぞれの可変領域を実施例8に示したプライマーを用いて増幅した。増幅したDNAフラグメントはサブクローニングベクターpGEM(プロメガ社)に組み込んで、このベクターのT7,SP6ユニバーサルプライマーで塩基配列を決定した。
これにより配列決定された受託番号NITE BP−1536であるマウスハイブリドーマに由来する抗CDH3マウス抗体(抗体番号:PPAT−076−44M)の可変領域のうち、CDRに相当するアミノ酸配列を以下に示す。
【0113】
SLTSYGVH:配列番号56(CDR−H1)
GVIWSGGSTD:配列番号57(CDR−H2)
ARNSNNGFAY:配列番号58(CDR−H3)
NIYSNLA:配列番号59(CDR−L1)
LLVYAAKN:配列番号60(CDR−L2)
QHFYDTPWT:配列番号61(CDR−L3)
【0114】
なお、CDR−H1、H2及びH3はそれぞれ各抗体重鎖を、CDR−L1、L2及びL3はそれぞれ各抗体軽鎖を構成するCDR配列を表す。
両抗体の軽鎖、および重鎖可変域の塩基配列はIMGT/V−QUEST(http://www.imgt.org/IMGT_vquest/vquest?livret=0&Option=mouseIg)で検索して、確かに抗体遺伝子がクローニングできていることを確認した。
【0115】
実施例10:抗CDH3抗体の一過性発現ベクターの作製
クローニングされた抗CDH3マウス抗体の軽鎖及び重鎖のV領域をコードする遺伝子は、キメラ軽鎖発現ベクターにはヒトCk領域をコードする遺伝子を、キメラ重鎖発現ベクターにはヒトCg1領域をコードする遺伝子をそれぞれ接続した遺伝子を設計し、これら軽鎖、重鎖キメラ抗体遺伝子をGenScript社によって全長人工合成した。両端には制限酵素部位(5’側にNheI,3’側にEcoRI)を付加した。
【0116】
これにより、キメラ化抗体発現ベクターに供するため、受託番号NITE BP−1536を有する細胞由来の抗CDH3キメラ化抗体(以下、抗体番号PPAT−076−44Cとする。重鎖及び軽鎖可変領域配列がPPAT−076−44Mと同じ)が合成された。
受託番号NITE BP−1536を有する細胞は、2013年2月13日に独立行政法人 製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(郵便番号292−0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に寄託されている(国際寄託への移管請求は、2014年1月24日:受領番号NITE ABP−1536)。
【0117】
ヒト化に際しては、FRに相当する領域をヒトに由来したFR配列に入れ替え、同様に全長人工合成した。FRに相当する領域のアミノ酸配列は、ヒトコンセンサスフレーム配列(配列番号62〜69)あるいは生殖系列フレーム配列(配列番号72〜79)を用いた。生殖系列フレーム配列はクローニングされた抗CDH3マウス抗体の塩基配列をIMGT/V−QUEST(http://www.imgt.org/IMGT_vquest/vquest?livret=0&Option=humanIg)に入力し、最も類似度の高い配列を選択して設計した。また、親和性低下に対応したアミノ酸配列の置換(reshape)も実施した。
【0118】
今回用いた抗CDH3ヒト化抗体の重鎖あるいは軽鎖可変領域のアミノ酸配列を以下に示した。
抗体番号PPAT−076−44Ha、PPAT−076−44Hb、PPAT−076−44Hc、およびPPAT−076−44Hdは、抗体番号PPAT−076−44Mと同じCDR配列を持つ。
【0119】
抗体番号PPAT−076−44Ha、PPAT−076−44Hbは、FRにヒトコンセンサスフレームワーク配列を用い、抗体番号PPAT−076−44Hc、PPAT−076−44Hdは、FRに由来としたマウス抗体に最も類似したヒト生殖系列配列を用いている。また、PPAT−076−44Hb、PPAT−076−44Hdは、付記したようなアミノ酸配列の置換を導入している。
【0120】
抗体番号;PPAT−076−44Ha(配列番号48を重鎖可変領域、配列番号49を軽鎖可変領域に持つ)
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFSLTSYGVHWVRQAPGKGLEWVGVIWSGGSTDYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARNSNNGFAYWGQGTLVTVSS:配列番号48(重鎖可変領域)
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQNIYSNLAWYQQKPGKAPKLLVYAAKNLQSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQHFYDTPWTFGQGTKVEIK:配列番号49(軽鎖可変領域)
【0121】
抗体番号;PPAT−076−44Hb(配列番号50を重鎖可変領域、配列番号51を軽鎖可変領域に持つ)
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFSLTSYGVHWVRQAPGKGLEWVAVIWSGGSTDYADSVKGRFTISKDNSKNTVYLQMNSLRAEDTAVYYCARNSNNGFAYWGQGTLVTVSS:配列番号50(重鎖可変領域)
(配列番号48に対してG49A、R71K、L78Vが置換されている)
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQNIYSNLAWYQQKPGKAPKLLVYAAKNLASGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQHFYDTPWTFGQGTKVEIK:配列番号51(軽鎖可変領域)
(配列番号49に対してQ55Aが置換されている)
【0122】
抗体番号;PPAT−076−44Hc(配列番号52を重鎖可変領域、配列番号53を軽鎖可変領域に持つ)
QVQLVESGGGVVQPGRSLRLSCAASGFSLTSYGVHWVRQAPGKGLEWVGVIWSGGSTDYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARNSNNGFAYWGQGTLVTVSS:配列番号52(重鎖可変領域)
DIQLTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQNIYSNLAWYQQKPGKAPKLLVYAAKNLESGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQHFYDTPWTFGQGTKVEIK:配列番号53(軽鎖可変領域)
【0123】
抗体番号;PPAT−076−44Hd(配列番号54を重鎖可変領域、配列番号55を軽鎖可変領域に持つ)
QVQLVESGGGVVQPGRSLRLSCAASGFSLTSYGVHWVRQAPGKGLEWVGVIWSGGSTDYADSVKGRFTISKDNSKNTVYLQMNSLRAEDTAVYYCARNSNNGFAYWGQGTLVTVSS:配列番号54(重鎖可変領域)
(配列番号52に対してR71K、L78Vが置換されている)
DIQLTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQNIYSNLAWYQQKPGKAPKLLVYAAKNLASGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQHFYDTPWTFGQGTKVEIK:配列番号55(軽鎖可変領域)
(配列番号53に対してE55Aが置換されている)
【0124】
アミノ酸配列変換後にこれらの配列を持つように設計した人工合成遺伝子を、ヒトIgG1由来の定常領域の遺伝子が組み込まれたpCXN3ベクターに重鎖可変領域の遺伝子を、ヒトκ鎖由来の定常領域の遺伝子が組み込まれたpCXN3ベクターに軽鎖可変領域の遺伝子をそれぞれ挿入した発現ベクターを構築し、抗CDH3ヒト化抗体(またはキメラ化抗体)の軽鎖発現ベクター及び重鎖発現ベクターを得た。
【0125】
実施例11:抗CDH3抗体の一過性発現と精製
(1)抗CDH3抗体の一過性発現
抗CDH3抗体の一過性発現にはFreeStyle(ライフテクノロジーズ社)を用いた。遺伝子導入用浮遊細胞である293−F(ライフテクノロジーズ社)は前日に継代した。トランスフェクション当日、一種類の抗体発現には、1x10
6細胞/mLの細胞濃度に調製した400mLの細胞懸濁液を準備した。これに抗体重鎖発現ベクター100μg及び軽鎖発現ベクター100μgの合計200μgのプラスミドをOptiProSFMに懸濁した溶液(I)を調製した。次に200μLのMAX reagentを8mLのOptiPRO SFMに加えて溶液(II)とした。溶液(I)と溶液(II)を混合して室温で10分から20分静置した。この合計16mLの反応液を293−F細胞を懸濁した400mLの293発現培地に加え、6日から7日間37℃、8%CO
2で細胞培養震盪機TAITEC BioShaker BR-43FLで培養した。6日から7日間後、それぞれの組換え抗体を含む培養上清を回収し、これを用いて精製をおこなった。
【0126】
(2)抗CDH3抗体の精製
培養上清に含まれるIgG抗体タンパク質は、AKTAprime(GEヘルスケア社)を用いたAb-Capcher ExTra(プロテノバ)アフィニティーカラムで精製した。得られたピークフラクションは、溶媒としてダルベッコのPBSで平衡化したセファクリルS-300カラムによるゲルろ過をして、さらに精製した。精製したIgG抗体タンパク質の定量は、吸光係数を用いて算出した。IgG抗体の吸光係数はEXPASYのProtParam(http://web.expasy.org/protparam/)に各抗体の全アミノ酸配列を用いて計算して求めた。
【0127】
実施例12:酵素免疫測定法(ELISA)による抗体の定量
遺伝子導入したCHO細胞の培養上清をELISAにより測定して、キメラ抗体が生産されていることを確認した。キメラ抗体を検出するため、プレートをヤギ抗ヒトIgG(H+L)(マウス、ウサギ、ウシ、マウスIgGに対して吸収済み)(コスモバイオ:AQI, Cat A−110UD)でコートした。ブロックした後、抗CDH3キメラ抗体産生CHO細胞からの培養上清を段階希釈し、各ウエルに加えた。プレートをインキュベーション、および洗浄後、ヤギ抗ヒトIgG(H+L)(マウス、ウサギ、ウシ、マウスIgGに対して吸収済み)−HRP(コスモバイオ:AQI,Cat.A−110PD)を加えた。インキュベーション及び洗浄の後、TMB発色液(エア・ブラウン社、Cat.TM4999)を加えた。さらにインキュベーションした後、反応を停止しそして450nmにおける吸光度を測定した。標準として精製ヒトIgGを用いた。
【0128】
実施例13:抗体の結合活性
実施例10に示した配列を持つ抗体は、その結合活性をフローサイトメトリで評価した。
反応対象となる細胞株(CDH3の高発現が確認されているNCI−H358細胞株)を2mM EDTA−PBSで処理することにより培養プレートから剥離後、1×10
6個/mLとなるようにFACS溶液に懸濁した。この細胞懸濁液を50μL/ウェルとなるように96ウェルプレートに播種し、精製したキメラ抗体を10μg/mLになるように添加し、4℃で60分間反応させた。FACS溶液(150μL/ウェル)で2回洗浄した後、AlexaFluor488標識抗ヒトIgG・ヤギF(ab‘)
2(インビトロジェン社)4μg/mlを加えて、4℃で30分間反応させた。その後FACS溶液で2回洗浄した後、フローサイトメトリを実施した。
【0129】
その結果、ヒト化を実施した抗体(PPAT−076−44Ha、PPAT−076−44Hc)はCDH3発現癌細胞株(NCI-H358)で弱い反応が認められた。更にReshapeを施した抗体(PPAT−076−44Hb、PPAT−076−44Hd)ではNCI-H358に対し、強い反応性が認められた(
図5A)。また、PPAT−076−44Hb、PPAT−076−44Hdは、CHO細胞には反応しないが、CDH3強制発現CHO細胞においてはNCI-H358細胞株と同じく反応が認められた(
図5B、C)。
【0130】
PPAT−076−44Mに由来したマウス抗体のヒト化は、CDR配列として規定した配列と、コンセンサスあるいはヒト生殖系列に由来したフレーム配列との組み合わせによって、不十分ながら結合活性を示す抗体を得たことから、ここで規定したCDR配列は妥当なものであると推定される。なお、PPAT−076−44Mに由来したヒト化抗体はReshapeを実施することで結合活性が回復することから、いずれかのアミノ酸残基が構造維持に重要な役割を果たしていることが支持される。
【0131】
実施例14:薬剤の合成
DM1SMeは、米国特許第5,208,020号(特許文献10)および米国特許6,333,410B1号(特許文献11)に記載されたように調製した。合成は株式会社シンスタージャパンに委託した。その構造式を
図6に示す。
【0132】
実施例15:薬剤結合抗体の調製
1.結合薬剤の還元処理
エタノール300μLで溶解した0.78mgのDM1SMeと50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)180μL及びTCEP Solution(Bond Breaker、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)20μLを混合し、窒素雰囲気下、室温で30分以上反応させ、薬剤を還元した。
還元薬剤はHPLCを使用して精製した後に溶媒を留去し、10mg/mLになるようにジメチルアセトアミドに溶解した。
【0133】
2.マレイミド化抗体の調製
1mg/mL抗体にモル比30倍過剰となる量のsulfo−SMCC(PIERCE社)を加え、30℃、1時間反応させた。
過剰な架橋剤を除くため、50mMリン酸カリウム、50mM NaCl、2mM EDTA(pH6.5)で平衡化した脱塩カラムで脱塩処理(ZebaSpinColumn、 サーモフィッシャーサイエンティフィック社)した。
【0134】
3.薬剤による抗体の修飾
1mg/mLのマレイミド化した抗体と、結合したマレイミド基数の1.7倍に相当する還元薬剤とを50mMリン酸カリウム、50mM NaCl、2mM EDTA(pH6.5)中で、室温にて一晩反応させた。その後、過剰な薬剤をゲルろ過操作により除いた。
【0135】
実施例16:抗体薬剤結合量の定量
抗体当たりの薬剤結合数は、252nm及び280nmの吸光度を測定することで決定した。決定方法は(J.Med.Chem.,49,4392−4408(2006))(非特許文献12)、及びMethods.Mol.Biol.525、p445−67(2009)(非特許文献21))に記載の方法を参考に、吸光係数も記載の値(εAb
280=223,000M
-1cm
-1, εAb
252=82,510M
-1cm
-1, εDM1
280=5,180M
-1cm
-1, εDM1
252=26,160M
-1cm
-1)を用いて行った。
【0136】
実施例17:細胞障害試験
薬剤結合抗体の細胞傷害性と特異性はWST−8を発色基質とした細胞増殖測定試薬(同仁化学研究所社,Cell counting assay kit−8)を使用して評価した。
即ち、各種癌細胞株とヒト化抗体薬剤コンジュゲートを任意の量共存させ、37℃で3日間、5%CO
2環境下でインキュベートした。培地はFBSを添加した各細胞株所定のものとした。その後、細胞増殖測定試薬を添加放置後、A450/620の吸光度を測定し、癌細胞株のみで抗体を加えないウェルより得られた吸光度の値を100%としたときの相対的な値を細胞生存率として表記した。
【0137】
図7Aでは、細胞株としてNCI−H358、抗体薬剤コンジュゲートとしてPPAT−076−44Hb及びPPAT−076−44Hdに薬剤を結合したものを用いた。両抗体の薬剤コンジュゲートともに細胞傷害性を示した。
図7Bでは、細胞株としてHCC1954、抗体薬剤コンジュゲートとしてPPAT−076−44Hdに薬剤を結合したものを用い、
図7Cでは細胞株としてHCC70、抗体薬剤コンジュゲートとしてPPAT−076−44Hdに薬剤を結合したものを用いた。両細胞株ともにCDH3が発現するため、PPAT−076−44Hdの薬剤コンジュゲートは細胞傷害性を示す。
図7Dでは、細胞株は表1に記したものを用い、抗体薬剤コンジュゲートとして、PPAT−076−44Hdに薬剤を結合したものを用いた。薬剤は、それぞれ実施例15に記載した方法で結合した。表1に記した細胞株のmRNAシグナル値は公開データベース(https://cabig−stage.nci.nih.gov/community/caArray_GSKdata/)から平均値を取得し、シグナルの小さなもの(NCIH1930, SW962)はCDH3発現陰性対照として試験した。CDH3が発現する細胞株は癌腫に関わらず、細胞増殖が阻害された。
いずれの薬剤コンジュゲートもDARは3〜4のものを用いた。
【0138】
【表1】
【0139】
実施例18:ヒト化抗体を用いたHCC1954担癌動物試験
ヒト化抗体(PPAT−076−44Hb、及びPPAT−076−44Hd)の抗体薬剤コンジュゲートによる腫瘍縮小効果を、乳がん細胞株HCC1954を移植したゼノグラフトモデルで確認した。
実施例16の方法で定量した両抗体薬剤コンジュゲートの薬剤結合数(DAR)は、PPAT−076−44Hb(DAR3.69)、PPAT−076−44Hd(DAR3.51)であった。
担癌は、まず抗アシアロGM1抗体(WAKO 014−09801)を、大塚蒸留水1mLで溶解後、大塚生理食塩水4mLを加えて全量5mLとした後、この溶液をマウス1匹あたり100uL腹腔内に投与した。次にHCC1954は10%FBS含有RPMI1640培地を用いて培養し、SCIDマウス(メス、日本クレア)の右腹側部皮下に5x10
6個/マウスになるように移植した 。
試験は各群5匹とし、5mg/kgで週に1度、計2回尾静脈より投与を行なった。
腫瘍体積を測定した結果を
図8に示す。
図8に示す通りヒト化抗体による抗体薬剤コンジュゲートは高い抗腫瘍効果を示した。
【0140】
実施例19:ヒト化抗体を用いたHCC70担癌動物試験(1)
ヒト化抗体(PPAT−076−44Hb)とキメラ化抗体(PPAT−076−44C)の抗体薬剤コンジュゲートによる腫瘍縮小効果を、乳がん細胞株HCC70を移植したゼノグラフトモデルにて確認した。
両抗体薬剤コンジュゲートのDARは、PPAT−076−44Hb(DAR2.90)、PPAT−076−44C(DAR3.07)であった。
担癌は、抗アシアロGM1抗体(WAKO 014−09801)を、大塚蒸留水1mLで溶解後、大塚生理食塩水4mLを加えて全量5mLとした後、この溶液をマウス1匹あたり100uL腹腔内に投与した。次にHCC70は10%FBS含有RPMI640培地を用いて培養し、SCIDマウス(メス、日本クレア)の右腹側部皮下に5x10
6個/マウスになるように移植した。
試験は各群5匹とし、ヒト化抗体コンジュゲートは0.6、3.0あるいは15mg/kg、キメラ化抗体コンジュゲートは3.0mg/kg、薬剤非結合のヒト化抗体(Naked)は15mg/kgの各用量で週に1度、計2回投与を行なった。腫瘍体積を測定した結果を
図9に示す。
図9に示す通り、ヒト化抗体による抗体薬剤コンジュゲートは、キメラ化抗体による抗体薬剤コンジュゲートに比して高い抗腫瘍効果が繰り返し示された。
【0141】
実施例20:ヒト化抗体を用いたHCC70担癌動物試験(2)
ヒト化抗体(PPAT−076−44Hd)とキメラ化抗体(PPAT−076−44C)の抗体薬剤コンジュゲートによる腫瘍縮小効果を、乳がん細胞株HCC70を移植したゼノグラフトモデルにて確認した。
担癌は実施例19と同様に行ない、ヒト化抗体コンジュゲートは0.6、3.0あるいは15mg/kg、キメラ化抗体コンジュゲートは3.0mg/kg、薬剤非結合のヒト化抗体(Naked)は15mg/kgの各用量で週に1度、計2回尾静脈より投与を行なった。試験は各群5匹とした。両抗体薬剤コンジュゲートのDARは、PPAT−076−44C(DAR3.07)、PPAT−076−44Hd(DAR2.98)だった。
腫瘍体積を測定した結果を
図10に示す。
図10に示した通り、ヒト化抗体は薬剤を結合する事で高い抗腫瘍効果を示し、用量に依存した抗腫瘍効果が確認された。また同じ投与量(3.0mg/kg)においては、実施例19と同様にキメラ化抗体の抗体薬剤コンジュゲートに比して高い抗腫瘍効果が再度示された。
【0142】
実施例21:ヒト化抗体を用いたOKa−C−1担癌動物試験
本願発明の抗体薬剤コンジュゲートの腫瘍増殖抑制能を、肺がん細胞株OKa−C−1(独立行政法人医薬基盤研究所、JCRB1343)を移植したゼノグラフトモデルで確認した。担癌は、OKa−C−1を10%FBS含有RPMI1640培地を用いて培養し、SCIDマウス(メス、日本クレア)の右腹側部皮下に6.5x10
6個/マウスになるように移植した。ヒト化抗体コンジュゲートは15mg/kgの用量で週に1度、計2回尾静脈より投与を行なった。試験は各群3匹とした。ここではヒト化抗体としてPPAT−076−44Hdを使用し、それぞれに実施例15に記載した方法で薬剤を結合した。各抗体分子当たりの平均薬剤結合数(DAR)を実施例16に記載した方法で定量したところ、DARは3.04だった。腫瘍体積を測定した結果を
図11に示す。
図11に示した通り、ヒト化抗体は薬剤を結合する事で、乳癌細胞株に対するものと同様に高い抗腫瘍効果が確認された。
【0143】
実施例22:CDH3N末部分長タンパク質の発現
(1)CDH3N末部分長タンパク質の発現ベクター作製
取得したCDH3抗体の反応性を確認するため、CDH3抗原のN末端領域をマウスIgG2aのFc部分と連結した融合蛋白質を調製した。融合タンパク質のcDNA配列は配列番号70、アミノ酸配列は配列番号71に記載した。シグナルペプチドは抗体κ鎖のものを使用し、サブクローニングのために制限酵素部位を5プライム側にNheIを、3プライム側にEcoRI部位を付加した(米GenScript社で合成)。これをNheIとEcoRIで消化した哺乳類用発現ベクターのpCAGGS、あるいは遺伝子増幅用にマウスDHFR遺伝子を組み込んだpCAGGS−DHFRに組み込んだ。
【0144】
(2) CDH3N末部分長タンパク質の発現と精製
一過性発現はライフテクノロジー社のフリースタイルを用いた。生産細胞にはライフテクノロジー社の293Fを使用し、遺伝子導入試薬はフリースタイル・マックス・トランスフェクション試薬(ライフテクノロジー社)を用いた。Fc融合可溶性抗原の遺伝子を導入した293Fは、CO
2濃度を制御できるタイテック製の震盪機で4〜7日間培養して生産した。生産した融合蛋白質はプロテインAセファロース(プロテノバ社)カラムで精製した。一過性発現で発現・精製した抗原のCBB染色図を
図12Aに示し、
図12Bに市販CDH3抗体(BD BIOSCIENCE社、及びR&D Systems社)を1次抗体として用いた染色像を示す。2次標識抗体にはAnti Mouse IgG F(ab’)2-HRP(goat IgG)(CAPPEL #55553)を用いた。
【0145】
実施例23:CDH3N末部分長タンパク質固相ELISA
CDH3N末部分長タンパク質をPBSで2.5μg/mLとし、96ウェルプレートに100μL/ウェルで分注して、4℃で一晩静置した。翌日、ウェル内の溶液を捨て、Buffer A: 50mM Tris−HCl/150mM NaCl/1mM CaCl
2/0.05% Tween20 (pH7.5)で洗浄した。次に被検物質(抗CDH3抗体)を希釈系列を作って100μL/ウェルで分注し、室温1時間震盪した。溶液を捨て、Buffer Aで洗浄した後、HRP標識抗体(HRP−goat anti human IgG (H+L) (absorbed with mouse, rabbit,bovine IgG) (American Qualex International, cat. A−110PD))をbufferAで10,000倍希釈したものを調製し、100μL/ウェルで分注し、室温1時間震盪した。Buffer Aで洗浄した後、TMB発色液を100μL/ウェルで加え、暗所で15分静置して発色を行った。停止液を100μL/ウェルで加えた後、プレートリーダーで450nmの吸光度を測定した。結果を
図13に示す。披検物質としてPPAT−076−44Hb、及びPPAT−076−44Hdを用いた。
【0146】
実施例24:Alexa488標識抗体の作製
標識に用いる抗体を標識用緩衝液(50mM NaHCO3, 0.5M NaCl pH8.5)に置換する。抗体1mgに対し、25mM Alexa488(1mgをDMF62.1μlに溶解, ライフテクノロジー社)0.5μlを添加して、遮光下室温で1時間静置する。その後、PBSに緩衝液を交換した。
【0147】
実施例25:抗体親和性比較試験(1)
ヒト化が親和性に及ぼす影響をフローサイトメーター(FACS)を用いた競合試験で確かめた。測定は希釈系列を作った被験抗体、CDH3が発現している細胞株、及び被験抗体と競合する一定量のAmaxa488標識抗体を共存させて、室温1時間反応、FACS用液で洗浄後、FACS測定を行なった。各抗体濃度のGEO Mean値から、競合抗体のみのGEO Mean値を100%とした場合の阻害率を算出してIC50を求め、これを親和性の指標とした。
被験抗体と競合する抗体として、NITE BP−989細胞産生物から精製したマウス抗体を実施例24の方法で標識し、被験抗体としてPPAT−076−44Hd、PPAT−076−44C、及びPPAT−076−44Mを用いた。その結果を
図14に示す。被験抗体は全てAlexa488標識抗体と競合するがその度合いが異なり、マウス及びキメラ化抗体に比して、本願のヒト化抗体(PPAT−076−44Hd)の親和性度合いが向上している事が示された。
【0148】
実施例26:抗体親和性比較試験(2)
本願発明のヒト化抗体に結合した平均薬剤結合数(DAR)が親和性に及ぼす影響を実施例25と同じくFACSを用いた競合試験で確かめた。抗体薬剤コンジュゲートは、実施例15に記載した方法で、平均DAR0〜8の範囲で調製した。DARは実施例16に記載した方法で定量した。
細胞株はNCI−H358を用い、PPAT−076−44Hb及びPPAT−076−44Hdを測定する時は、競合抗体として実施例24の手順でAlexa488を標識したNITE BP−989細胞産生物から精製したマウス抗体を用い、実施例25で示したのと同じFACS競合試験により、親和性の指標として各IC50値を算出した。
図15(A:PPAT−076−44Hb、B:PPAT−076−44Hd)に示した比較は、薬剤を結合していない各抗体のIC50値を1とした相対値を表している。いずれのヒト化抗体も薬剤が結合する事で親和性は低下しない事を示している。
【0149】
実施例27:担癌モデル株のCDH3発現確認
担癌モデル株のCDH3タンパク質の発現を確認するため、担癌組織切片の免疫染色を行った。マウス皮下に細胞株を移植して所定日数経過させた担癌マウスから得た腫瘍組織を脱パラフィン処理し、オートクレーブで121℃、15分賦活化を行った。0.3% H
2O
2を含むメタノールにて内在性ペルオキシダーゼの不活性化、10%ヤギ血清でブロッキング処理後、抗CDH3抗体610227(BD BIOSCIENCE社)に4℃一晩反応させた。抗体溶液を洗い流した後に、ヒストファインシンプルステインMAX−PO二次抗体試薬と室温1時間反応させた。ヒストファインDAB基質キットを添付プロトコールのとおり使ってDAB発色を行い、ヘマトキシリンエオジン溶液にて核染色を行った。
図16(A:HCC1954、B:HCC70、C:OKa−C−1)に結果を示す。担癌腫瘍は細胞膜部分が抗CDH3抗体で染色された。