特許第6377601号(P6377601)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ペルセウスプロテオミクスの特許一覧

特許6377601抗CDH3ヒト化抗体、その薬剤コンジュゲート、及びそれらの使用
<>
  • 特許6377601-抗CDH3ヒト化抗体、その薬剤コンジュゲート、及びそれらの使用 図000003
  • 特許6377601-抗CDH3ヒト化抗体、その薬剤コンジュゲート、及びそれらの使用 図000004
  • 特許6377601-抗CDH3ヒト化抗体、その薬剤コンジュゲート、及びそれらの使用 図000005
  • 特許6377601-抗CDH3ヒト化抗体、その薬剤コンジュゲート、及びそれらの使用 図000006
  • 特許6377601-抗CDH3ヒト化抗体、その薬剤コンジュゲート、及びそれらの使用 図000007
  • 特許6377601-抗CDH3ヒト化抗体、その薬剤コンジュゲート、及びそれらの使用 図000008
  • 特許6377601-抗CDH3ヒト化抗体、その薬剤コンジュゲート、及びそれらの使用 図000009
  • 特許6377601-抗CDH3ヒト化抗体、その薬剤コンジュゲート、及びそれらの使用 図000010
  • 特許6377601-抗CDH3ヒト化抗体、その薬剤コンジュゲート、及びそれらの使用 図000011
  • 特許6377601-抗CDH3ヒト化抗体、その薬剤コンジュゲート、及びそれらの使用 図000012
  • 特許6377601-抗CDH3ヒト化抗体、その薬剤コンジュゲート、及びそれらの使用 図000013
  • 特許6377601-抗CDH3ヒト化抗体、その薬剤コンジュゲート、及びそれらの使用 図000014
  • 特許6377601-抗CDH3ヒト化抗体、その薬剤コンジュゲート、及びそれらの使用 図000015
  • 特許6377601-抗CDH3ヒト化抗体、その薬剤コンジュゲート、及びそれらの使用 図000016
  • 特許6377601-抗CDH3ヒト化抗体、その薬剤コンジュゲート、及びそれらの使用 図000017
  • 特許6377601-抗CDH3ヒト化抗体、その薬剤コンジュゲート、及びそれらの使用 図000018
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6377601
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】抗CDH3ヒト化抗体、その薬剤コンジュゲート、及びそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20180813BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20180813BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20180813BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20180813BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20180813BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20180813BHJP
   A61K 51/10 20060101ALI20180813BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20180813BHJP
【FI】
   C07K16/28
   C07K16/46
   C12N15/13
   A61K39/395 T
   A61K39/395 L
   A61P35/00
   A61K47/68
   A61K51/10 100
   A61K51/10 200
   !C12P21/08
【請求項の数】30
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2015-500306(P2015-500306)
(86)(22)【出願日】2014年2月14日
(86)【国際出願番号】JP2014053473
(87)【国際公開番号】WO2014126198
(87)【国際公開日】20140821
【審査請求日】2016年11月2日
(31)【優先権主張番号】特願2013-27386(P2013-27386)
(32)【優先日】2013年2月15日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-91163(P2013-91163)
(32)【優先日】2013年4月24日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-01536
(73)【特許権者】
【識別番号】503196776
【氏名又は名称】株式会社ペルセウスプロテオミクス
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】石井 敬介
(72)【発明者】
【氏名】見供 克之
(72)【発明者】
【氏名】甲田 克志
(72)【発明者】
【氏名】野村 富美子
(72)【発明者】
【氏名】粥川 容子
(72)【発明者】
【氏名】松浦 正
【審査官】 田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/126137(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/057315(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/057328(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/099524(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/176765(WO,A1)
【文献】 特表2008−508880(JP,A)
【文献】 特表2011−514146(JP,A)
【文献】 特表2012−525853(JP,A)
【文献】 ZHANG C.C. et al.,PF-03732010: A Fully Human Monoclonal Antibody against P-Cadherin with Antitumor and Antimetastatic,Clin. Can. Res.,2010年 9月 9日,Vol.16,p.5177-5188
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
A61K 39/395
A61K 47/68
A61P 35/00
C12N 15/13
C12P 21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重鎖可変領域の相補性決定領域配列が配列番号56(CDR−H1)、配列番号57(CDR−H2)、及び配列番号58(CDR−H3)であり、軽鎖可変領域の相補性決定領域配列が配列番号59(CDR−L1)、配列番号60(CDR−L2)、及び配列番号61(CDR−L3)を含み、かつフレームワーク領域配列が重鎖可変領域が重鎖ヒトサブグループIIIコンセンサスフレームワーク配列であり、軽鎖可変領域が軽鎖ヒトκサブグループIコンセンサスフレームワーク配列を含有してなる抗CDH3ヒト化抗体。
【請求項2】
請求項1に記載した抗CDH3ヒト化抗体との配列同一性が少なくとも90%以上であり、重鎖可変領域の相補性決定領域配列が配列番号56(CDR−H1)、配列番号57(CDR−H2)、及び配列番号58(CDR−H3)であり、軽鎖可変領域の相補性決定領域配列が配列番号59(CDR−L1)、配列番号60(CDR−L2)、及び配列番号61(CDR−L3)を含み、かつCDH3を認識できる抗CDH3ヒト化抗体。
【請求項3】
請求項1に記載した抗体のフレームワーク領域部分における1から数個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換しており、かつCDH3を認識できる、抗CDH3ヒト化抗体。
【請求項4】
置換されるアミノ酸が軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる55位のアミノ酸である、請求項に記載の抗CDH3ヒト化抗体。
【請求項5】
置換されるアミノ酸が重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる71位、及び78位のアミノ酸から選ばれる1つ以上である、請求項に記載の抗CDH3ヒト化抗体。
【請求項6】
軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる55位のアミノ酸がアラニンに置換している、請求項に記載の抗CDH3ヒト化抗体。
【請求項7】
重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる71位のアミノ酸がリジンに置換している、請求項に記載の抗CDH3ヒト化抗体。
【請求項8】
重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる78位のアミノ酸がバリンに置換している、請求項に記載の抗CDH3ヒト化抗体。
【請求項9】
重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる71位のアミノ酸残基のリジンへの置換、78位のアミノ酸残基のバリンへの置換、及び軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる55位のアミノ酸残基のアラニンへの置換から選択される1以上の置換を有する、請求項1に記載の抗CDH3ヒト化抗体。
【請求項10】
以下の何れかの抗体。
(1)重鎖可変領域に配列番号48に記載のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域に配列番号49に記載のアミノ酸配列を有する、抗CDH3ヒト化抗体;
(2)重鎖可変領域に配列番号50に記載のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域に配列番号51に記載のアミノ酸配列を有する、抗CDH3ヒト化抗体;
(3)重鎖可変領域に配列番号52に記載のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域に配列番号53に記載のアミノ酸配列を有する、抗CDH3ヒト化抗体;及び
(4)重鎖可変領域に配列番号54に記載のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域に配列番号55に記載のアミノ酸配列を有する、抗CDH3ヒト化抗体:
【請求項11】
CDH3との結合能を有する、請求項1から10のいずれか1項に記載の抗CDH3ヒト化抗体の断片。
【請求項12】
Fab,F(ab′)、又はscFvである、請求項11に記載の抗CDH3ヒト化抗体の断片。
【請求項13】
CDH3がヒトCDH3である、請求項1から10のいずれか1項に記載の抗CDH3ヒト化抗体。
【請求項14】
CDH3が配列番号2の細胞外領域である、請求項1から10のいずれか1項に記載の抗CDH3ヒト化抗体。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載の抗CDH3ヒト化抗体又はその断片と、化学療法剤又は放射性物質とが連結している、免疫複合体。
【請求項16】
化学療法剤が、細胞障害性物質である、請求項15に記載の免疫複合体。
【請求項17】
細胞傷害性物質が、メイタンシノイド又はその誘導体、あるいはアウリスタチン又はその誘導体である、請求項16に記載の免疫複合体。
【請求項18】
細胞傷害性物質が、DM1、DM3又はDM4から選択されるメイタンシノイド又はその誘導体、あるいはMMAEあるいはMMAFから選択されるアウリスタチン又はその誘導体である、請求項16に記載の免疫複合体。
【請求項19】
抗CDH3ヒト化抗体又はその断片1分子あたり平均1〜7個のDM1が結合している、請求項18に記載の免疫複合体。
【請求項20】
抗CDH3ヒト化抗体又はその断片と、化学療法剤とがリンカーを介して連結している、請求項15から19の何れか1項に記載の免疫複合体。
【請求項21】
抗CDH3ヒト化抗体又はその断片と、化学療法剤とが、抗体のFc領域の分子内ジスルフィド結合を介して連結しているか、又は抗体のFc領域を遺伝子工学的に改変して連結している、請求項15から19の何れか1項に記載の免疫複合体。
【請求項22】
リンカーが、2価反応性架橋試薬である、請求項20に記載の免疫複合体。
【請求項23】
リンカーが、N−スクシンイミジル4−(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシレート(SMCC)、スルホスクシイミジル−4−(N−マレイミドメチル)−シクロヘキサン−1−カルボキシレート(Sulfo−SMCC)、N−スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)−シクロヘキサン−1−カルボキシ−(6−アミドカプロエート) (LC−SMCC)、κ−マレイミドウンデカン酸N−スクシンイミジルエステル(KMUA)、γ−マレイミド酪酸N−スクシンイミジルエステル(GMBS)、ε−マレイミドカプロン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(EMCS)、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)、N−(α−マレイミドアセトキシ)−スクシンイミドエステル(AMAS)、スクシンイミジル−6−(β−マレイミドプロピオンアミド)ヘキサノエート(SMPH)、N−スクシンイミジル4−(p−マレイミドフェニル)−ブチレート(SMPB)、N−(p−マレイミドフェニル)イソシアネート(PMPI)、N−スクシンイミジル4(2−ピリジルチオ)ペンタノエート(SPP)、N−スクシンイミジル(4−イオド−アセチル)アミノ安息香酸エステル(SIAB)、6−マレイミドカプロイル(MC)、マレイミドプロパノイル(MP)、p−アミノベンジルオキシカルボンイル(PAB)、及びN−スクシンイミジル4(2−ピリジルチオ)ブタノエート(SPDB)から成る群より選択される請求項20に記載の免疫複合体。
【請求項24】
リンカーがプロテアーゼによって切断される、請求項20に記載の免疫複合体。
【請求項25】
リンカーが、バリン−シトルリン(Val−Cit)、アラニン-フェニルアラニン(ala-phe)、及びパラアミノベンゾイック酸(PABA)の少なくとも1以上を含む、請求項20に記載の免疫複合体。
【請求項26】
細胞傷害性能が抗体可変領域のフレームワーク領域配列のヒト化によって増強されている、請求項15に記載の免疫複合体。
【請求項27】
請求項15から26の何れか1項に記載の免疫複合体を含む、CDH3の過剰発現によって特徴づけられる疾患を治療するための医薬。
【請求項28】
CDH3の過剰発現によって特徴づけられる疾患が癌である、請求項27に記載の医薬。
【請求項29】
癌が、結腸直腸癌、非小細胞肺癌、乳癌、頭頚部癌、卵巣癌、肺癌、浸潤性膀胱癌、膵臓癌、脳の転移性癌、甲状腺癌、頭頚部扁平上皮癌、食道扁平上皮癌、肺扁平上皮癌、皮膚扁平上皮癌、メラノーマ、乳腺癌、肺腺癌、子宮頚部扁平上皮癌、膵臓扁平上皮癌、結腸扁平上皮癌、又は胃扁平上皮癌、前立腺癌、骨肉腫又は軟組織肉腫から選択される、請求項28に記載の医薬。
【請求項30】
抗腫瘍剤として使用する、請求項27から29の何れか1項に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗CDH3ヒト化抗体、及びその免疫複合体、特にはその薬剤コンジュゲートに関する。さらに本発明は、抗CDH3ヒト化抗体及びその免疫複合体の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、死亡原因の上位を占める重要な疾患であるが、その治療ニーズはいまだ満たされていない。近年、従来の化学療法の正常細胞にもダメージを与えるという問題点を解決するために、癌細胞に特異的に発現する特定の分子を標的として薬剤を設計し治療を行う分子標的薬による癌治療が盛んに研究されている。
【0003】
その標的のひとつとして細胞膜表面抗原であるCDH3(P−カドヘリン)が同定された。CDH3はカルシウム依存的に同種親和性の細胞接着に関与する分子として発見された膜タンパク質である(Yoshida and Takeichi, Cell 28:217−224,1982(非特許文献1))。相互にホモロジーが高い約110アミノ酸残基からなるカドヘリンリピートを持つタンパク質はカドヘリンスーパーファミリーと呼ばれ、CDH3はその主要メンバーに属する。
【0004】
ある種の癌細胞においてはCDH3の発現上昇例が報告されており、正常組織と比較して癌組織でのCDH3の発現が高い癌細胞に対して抗体を用いた癌治療が検討されている(WO2002/097395号公報(特許文献1)、WO2007/102525号公報(特許文献2)、特表2011−526583(特許文献4)、WO2011/080796 A1(特許文献5))。
【0005】
このように特定の抗原を標的とした分子標的薬は、抗体医薬としてすでに多くが実際に上市されており、その多くは抗体依存性細胞傷害活性(ADCC、Antibody Dependent Cellular Cytotoxicity)を主な作用機序としている。しかしながら、その薬効は必ずしも十分なものではなく、より強力な抗癌作用を目指した技術開発も同時に進められている。
【0006】
抗体の抗癌作用を増強する有効な手段の一つとして、抗体と強力な毒性を有する物質(毒素)との連結があげられる。毒素はそれ単独で患者に投与すると正常組織にも障害を及ぼし、有効な治療手段とはなり得ない。しかしながら、癌細胞特異的な抗原と結合する抗体と毒素を連結することにより、正常な組織に悪影響を及ぼさず、癌細胞のみ殺傷しえる能力を持つに至る。こうした薬剤は抗体薬物コンジュゲート(ADC、 Antibody Drug Conjugate)と呼ばれる。即ち、毒素は抗体と結合した状態では何ら毒性を示さない。しかし、ある種の抗体は標的とする抗原を発現する細胞に結合するとその細胞内に取り込まれ、リソソームにて分解される。したがって、毒素を結合したその種の抗体が細胞内に取り込まれた後、細胞内で分解される事で毒素が放出され、特定の細胞内部においてのみ毒性が発現し、その効果により細胞は殺傷される。
【0007】
ADCに用いられる薬剤成分には、ジフテリア毒素などの細菌性タンパク質毒素、リシンなどの植物タンパク質毒素、アウリスタチン、メイタンシノイド、カリケアマイシンなどの低分子毒素及びその誘導体が含まれる。
【0008】
ADCにおいて、抗体に結合している薬剤は血液中を循環し、標的とする腫瘍に集積した後に薬効をしめす。腫瘍部位以外での薬剤の放出(抗体からの離脱)は、副作用を生じる危険性があるため必ずしも好ましくはない。つまり、抗体に結合している薬剤は細胞内に取り込まれた後に抗体から離脱する設計が好ましい。
【0009】
近年ジェネンテック社はこのような観点から、乳癌治療薬としてすでに上市されているトラスツズマブに非開裂型リンカー(SMCC)を介して毒素を結合した薬剤(開発名:T−DM1)を開発し、非常に高い臨床効果を得ている(N.Engl.J.Med. 2012 Nov 8;367(19):1783−91(非特許文献2))。また、開裂性リンカーを介して薬剤成分と連結した抗体薬剤コンジュゲートも開発され、例えばNCAM抗原を発現する疾患を対象に、開裂型リンカー(SPP)を介して薬剤とHuN901抗体を結合させた抗体薬剤コンジュゲートの開発がImmunoGen社により進められている。
【0010】
また、抗体に放射性物質を結合させ治療に供するような放射性免疫療法薬も開発され、キメラ化抗CD20抗体に放射性物質90Y(イットリウム)あるいは111In(インジウム)を結合させた薬剤として、ゼヴァリン(一般名:イブリツモマブチウキセタン)が上市されている。
【0011】
なお、当該抗体を薬剤コンジュゲートなどとして用いる時、特に患者への投与期間が長期に及ぶ場合、異種免疫グロブリンに対する抗体(例えばヒト抗マウス抗体、 HAMA)、などを生じさせる可能性がある投与抗体自身の免疫原性は、最小限度あるいは全く無いことが望ましく、そのような抗体を利用して薬剤コンジュゲートを作出することは有益である。
【0012】
このような抗体を得る手段として、例えばマウス等の異種生物に由来して取得された抗体の相補性決定領域(CDR、 Complementarity determining region)とヒトに由来した抗体のフレームワーク領域(FR、 Framework Region)をつなぎ合わせて作出されるヒト化抗体技術が、当業者では常套的に用いられる(特開2005−000169(特許文献12)、及び特許第4836147号(特許文献13))。しかし、CDRと組み合わされるFRが適切でない場合、親和性の消失、安定性の低下といった望ましくない結果となることもしばしば見られる。こうした事象に対応するため、その設計に移植元となった抗体に由来するアミノ酸残基をフレームワーク領域の該当する位置のアミノ酸残基と置換するreshapeと呼ばれる方法も試みられ、適切な置換を行なう事が出来れば、ヒト化によって生じうる親和性低下の改善が図られることもある(Nature;332,p323(1988)(非特許文献3)、及び米国特許6180370号(特許文献3))。
【0013】
このように、当該ヒト化抗体のマウス等の異種生物に由来したCDR配列とヒトに由来したFR配列は、それぞれその元となったアミノ酸配列と100%同一であることは好ましいが、ヒト化、キメラ化の過程で抗原との結合を維持を目的としたアミノ酸残基置換は常套的に試みられる。CDH3との結合性を維持し、その免疫原性を極端に上げない範囲で、親和性維持を目的に遺伝子工学的な改変を加えることもまた好ましく、ヒト化により組み合わされたCDR及びFRから成る元配列に対する配列相同性の程度は、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上、または100%同一である。このような配列の一部改変した抗体は、CDH3の特定のエピトープと特異的に結合性するという意味において、もとのハイブリドーマに由来したCDRの性質をそのまま維持した抗体と考えられる。
【0014】
このようにして得られたヒト化抗体を用いることでその免疫原性を最小限に留め、更にADCのような強力な細胞傷害性を有する免疫複合体として疾患の治療に供することは、その薬剤投与を受ける患者にとって明確な利益となりえる。また当分野では、肺がん、大腸がん、乳癌といった様々な癌を治療するための更なる薬剤に対する需要がある。この目的のために特に有用な薬剤に、有意に毒性が低いが有益な治療的有効性がある抗CDH3ヒト化抗体薬剤コンジュゲートが含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】WO2002/097395号公報
【特許文献2】WO2007/102525号公報
【特許文献3】米国特許6180370号
【特許文献4】特表2011−526583
【特許文献5】WO2011/080796 A1
【特許文献6】WO2013/150623
【特許文献7】EP239400号公報
【特許文献8】国際公開WO96/02576号公報
【特許文献9】特表2008−516896号公報
【特許文献10】米国特許第5,208,020号
【特許文献11】米国特許第6,333,410B1号
【特許文献12】特開2005−000169
【特許文献13】特許第4836147号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Yoshida and Takeichi, Cell 28:217−224,1982
【非特許文献2】N.Engl.J.Med. 2012 Nov 8;367(19):1783−91
【非特許文献3】Nature;332,p323(1988)
【非特許文献4】Somat.Cell.Mol.Genet.;12,p5555(1986)
【非特許文献5】Nature;276,p269(1978)
【非特許文献6】Cancer Res.;68(22),p9280(2008)
【非特許文献7】Nature Biotechnology;26(8),p925(2008)
【非特許文献8】Bio Conjugate Chemistry;19,p1673(2008)
【非特許文献9】Cancer Res.;68(15),p6300(2008)
【非特許文献10】Analytical Biochemisty;173,p93(1988)
【非特許文献11】「Phage Display −A Laboratory Manual−」 PROTOCOL 9.5
【非特許文献12】J.Med.Chem.;49,p4392(2006)
【非特許文献13】Cancer Res.;52,p127(1992)
【非特許文献14】Journal of Immunology;169,p1119(2002)
【非特許文献15】Sequences of proteins of immunological interest, 5th Ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)
【非特許文献16】J.MoI Biol.;196,p901(1987)
【非特許文献17】J.Immunol.;151,p2296(1993)
【非特許文献18】J.Mol.Biol.;196:p901(1987))
【非特許文献19】Biotechnology;9,p266(1991)
【非特許文献20】Proc.Natl.Acad.Sci.USA;89,p4285(1992)
【非特許文献21】Methods.Mol.Biol.;525,p445(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、より免疫原性の少ない抗CDH3ヒト化抗体を作出し、これを用いてCDH3を発現する癌細胞をより効率的に殺傷する抗CDH3ヒト化抗体薬剤コンジュゲートを提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、CDH3を特異的に認識する抗体から規定されるCDR配列と、種々のヒト由来FR配列とを組み合わせることによって、そして親和性を改善するために適切なアミノ酸変異を導入することによって、免疫原性の少ない抗CDH3ヒト化抗体を作出し、これを用いてCDH3を発現する癌細胞をより効率的に殺傷する抗CDH3ヒト化抗体薬剤コンジュゲートを作出することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0019】
本発明によれば、受託番号NITE BP−1536を有する細胞が産生する抗体(以下、このマウス抗体を抗体番号:PPAT−076−44Mとする)の重鎖可変領域由来の相補性決定領域配列(以下、CDR−H1、H2、H3)及び軽鎖可変領域由来の相補性決定領域配列(以下、CDR−L1、L2、L3)を含み、かつフレームワーク領域配列が重鎖可変領域が重鎖ヒトサブグループIIIコンセンサスフレームワーク配列であり、軽鎖可変領域が軽鎖ヒトκサブグループIコンセンサスフレームワーク配列を含有してなる抗CDH3ヒト化抗体が提供される。
【0020】
本発明によればさらに、CDR−H1、H2、H3が、それぞれ配列番号56、配列番号57、及び配列番号58であり、CDR−L1、L2、L3がそれぞれ配列番号59、配列番号60、及び配列番号61を含み、かつフレームワーク領域配列が重鎖可変領域が重鎖ヒトサブグループIIIコンセンサスフレームワーク配列であり、軽鎖可変領域が軽鎖ヒトκサブグループIコンセンサスフレームワーク配列を含有してなる抗CDH3ヒト化抗体が提供される。
【0021】
本発明によればさらに、受託番号NITE BP−1536を有する細胞が産生する抗体の重鎖可変領域由来の相補性決定領域配列(CDR−H1、H2、H3)及び軽鎖可変領域由来の相補性決定領域配列(CDR−L1、L2、L3)を含み、かつフレームワーク領域配列が最適なアライメントのもとで選択されたヒトの生殖系列に由来する配列を含有してなる抗CDH3ヒト化抗体が提供される。
【0022】
本発明によればさらに、CDR−H1、H2、H3がそれぞれ配列番号56、配列番号57、及び配列番号58であり、CDR−L1、L2、L3がそれぞれ配列番号59、配列番号60、及び配列番号61を含み、かつフレームワーク領域配列が最適なアライメントのもとで選択されたヒトの生殖系列に由来する配列を含有してなる抗CDH3ヒト化抗体が提供される。
【0023】
本発明によればさらに、上記の抗CDH3ヒト化抗体との配列相同性が少なくとも90%以上であり、かつCDH3を認識できる抗CDH3ヒト化抗体が提供される。
【0024】
本発明によればさらに、上記した抗体のフレームワーク領域部分における1から数個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換しており、かつCDH3を認識できる、抗CDH3ヒト化抗体が提供される。
【0025】
本発明によればさらに、上記した抗体の相補性決定領域配列のうちフレームワーク領域との境界における1から数個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換しており、かつCDH3を認識できる抗CDH3ヒト化抗体が提供される。
【0026】
好ましくは、置換されるアミノ酸が軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる55位のアミノ酸である。
好ましくは、置換されるアミノ酸が重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる49位、71位、あるいは78位から1つ以上が選ばれるアミノ酸である。
【0027】
好ましくは、軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる55位のアミノ酸がアラニンに置換している。
好ましくは、重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる71位のアミノ酸がリジンに置換している。
好ましくは、重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる78位のアミノ酸がバリンに置換している。
好ましくは、重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる49位のアミノ酸がアラニンに置換している。
【0028】
好ましくは、上記抗体は、重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる49位のアミノ酸残基のアラニンへの置換、71位のアミノ酸残基のリジンへの置換、78位のアミノ酸残基のバリンへの置換、及び軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる55位のアミノ酸残基のアラニンへの置換から選択される1以上の置換を有する。
【0029】
本発明によれば、以下の何れかの抗体が提供される。
(1)重鎖可変領域に配列番号48に記載のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域に配列番号49に記載のアミノ酸配列を有する、抗CDH3ヒト化抗体;(抗体番号:PPAT−076−44Ha)
(2)重鎖可変領域に配列番号50に記載のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域に配列番号51に記載のアミノ酸配列を有する、抗CDH3ヒト化抗体;(抗体番号:PPAT−076−44Hb)
(3)重鎖可変領域に配列番号52に記載のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域に配列番号53に記載のアミノ酸配列を有する、抗CDH3ヒト化抗体;(抗体番号:PPAT−076−44Hc)
(4)重鎖可変領域に配列番号54に記載のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域に配列番号55に記載のアミノ酸配列を有する、抗CDH3ヒト化抗体;(抗体番号:PPAT−076−44Hd)
【0030】
好ましくは、本発明の抗体は、CDH3との結合能を有する。
好ましくは、本発明の抗体は、Fab,F(ab′)2、又はscFvである。
【0031】
本発明によればさらに、CDH3との結合能を有する、上記抗体の部分配列が提供される。
好ましくは、CDH3がヒトCDH3である。
好ましくは、CDH3が配列番号2の細胞外領域(配列番号2の1から654アミノ酸に相当する)である。
【0032】
本発明によればさらに、上記した抗CDH3ヒト化抗体、その断片又はその部分配列と、化学療法剤又は放射性物質とが連結している、免疫複合体が提供される。
【0033】
好ましくは、化学療法剤が、細胞障害性物質である。
好ましくは、細胞傷害性物質が、メイタンシノイド又はその誘導体、あるいはアウリスタチン又はその誘導体である。
好ましくは、細胞傷害性物質が、DM1、DM3又はDM4から選択されるメイタンシノイド又はその誘導体、あるいはMMAEあるいはMMAFから選択されるアウリスタチン又はその誘導体である。
好ましくは、抗CDH3ヒト化抗体、その断片又はその部分配列1分子あたり平均1〜7個のDM1が結合している。この平均薬剤結合個数は抗体親和性に影響を及ぼさない。
【0034】
好ましくは、抗CDH3ヒト化抗体、その断片又はその部分配列と、化学療法剤とがリンカーを介して連結している。
好ましくは、抗CDH3ヒト化抗体、その断片又はその部分配列と、化学療法剤とが、抗体のFc領域の分子内ジスルフィド結合を介して連結しているか、又は抗体のFc領域を遺伝子工学的に改変して連結している。
好ましくは、リンカーが、2価反応性架橋試薬である。
【0035】
好ましくは、リンカーが、N−スクシンイミジル4−(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシレート(SMCC)、スルホスクシイミジル−4−(N−マレイミドメチル)−シクロヘキサン−1−カルボキシレート(Sulfo−SMCC)、N−スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)−シクロヘキサン−1−カルボキシ−(6−アミドカプロエート) (LC−SMCC)、κ−マレイミドウンデカン酸N−スクシンイミジルエステル(KMUA)、γ−マレイミド酪酸N−スクシンイミジルエステル(GMBS)、ε−マレイミドカプロン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(EMCS)、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)、N−(α−マレイミドアセトキシ)−スクシンイミドエステル(AMAS)、スクシンイミジル−6−(β−マレイミドプロピオンアミド)ヘキサノエート(SMPH)、N−スクシンイミジル4−(p−マレイミドフェニル)−ブチレート(SMPB)、N−(p−マレイミドフェニル)イソシアネート(PMPI)、N−スクシンイミジル4(2−ピリジルチオ)ペンタノエート(SPP)、N−スクシンイミジル(4−イオド−アセチル)アミノ安息香酸エステル(SIAB)、6−マレイミドカプロイル(MC)、マレイミドプロパノイル(MP)、p−アミノベンジルオキシカルボンイル(PAB)、及びN−スクシンイミジル4(2−ピリジルチオ)ブタノエート(SPDB)から成る群より選択される。
【0036】
好ましくは、リンカーがプロテアーゼによって切断される。
好ましくは、リンカーが、バリン−シトルリン(Val−Cit)、アラニン−フェニルアラニン(ala−phe)、及びパラアミノベンゾイック酸(PABA)の少なくとも1以上を含む。
好ましくは、細胞傷害性能が抗体可変領域のフレームワーク領域配列のヒト化によって増強されている。
【0037】
本発明によればさらに、上記した免疫複合体を含む、CDH3の過剰発現によって特徴づけられる疾患を治療するための医薬が提供される。
好ましくは、CDH3の過剰発現によって特徴づけられる疾患が癌である。
好ましくは、癌は、結腸直腸癌、非小細胞肺癌、乳癌、頭頚部癌、卵巣癌、肺癌、浸潤性膀胱癌、膵臓癌、脳の転移性癌、甲状腺癌、頭頚部扁平上皮癌、食道扁平上皮癌、肺扁平上皮癌、皮膚扁平上皮癌、メラノーマ、乳腺癌、肺腺癌、子宮頚部扁平上皮癌、膵臓扁平上皮癌、結腸扁平上皮癌、又は胃扁平上皮癌、前立腺癌、骨肉腫又は軟組織肉腫から選択される。
好ましくは、本発明の医薬は、抗腫瘍剤として使用する。
【0038】
本発明によればさらに、上記した免疫複合体を患者に投与することを含む、CDH3の過剰発現によって特徴づけられる疾患を治療する方法が提供される。
本発明によればさらに、CDH3の過剰発現によって特徴づけられる疾患を治療するための医薬の製造のための、上記した免疫複合体の使用が提供される。
【発明の効果】
【0039】
抗CDH3ヒト化抗体は、その元となる抗体と比較して免疫原性の低減が期待される。ヒト化抗体は、元となった抗体のCDR配列とヒト由来FR配列の適切な組み合わせにより構成される。もしこれが抗原との親和性を示さない時は、更に抗体可変領域へのアミノ酸変異を導入することで親和性回復の試みもなされる。CDR配列と適切なFR配列との組み合わせ、及び必要に応じたアミノ酸変異導入により、CDH3と特異的に結合する抗CDH3ヒト化抗体が得られる。このようにして得られた本発明の抗CDH3ヒト化抗体と化学療法剤とを連結して成る免疫複合体は、化学療法剤を結合しない抗体と比較して、CDH3を発現する癌細胞に対して強力な細胞傷害活性を示す。更に本発明の抗CDH3ヒト化抗体と化学療法剤とを連結して成る免疫複合体は、WO2013/150623(特許文献6)に記載されるような抗CDH3キメラ化抗体に比して親和性も向上し、抗CDH3キメラ化抗体と化学療法剤とを連結して成る免疫複合体と比較して、より強力な細胞傷害活性を示す。従って、CDH3を発現する癌細胞を有する患者に本発明による免疫複合体を投与することによって、高い抗癌作用を発揮できるとともに、それ自身の免疫原性の低減も達成できる。本発明の免疫複合体は、抗癌剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1図1は、ヒトCDH3強制発現細胞株と市販抗ヒトCDH3抗体を反応させたフローサイトメトリの結果を示す。A:CHO細胞、B:CDH3強制発現CHO細胞。C:肺がん由来細胞株NCI−H358。a:抗CDH3抗体0.01ug/mL、b:抗CDH3抗体0.1ug/mL、c:抗CDH3抗体1ug/mL
図2図2は、取得抗体のフローサイトメトリ結果を示す。取得抗体群の典型的なフローサイトメトリ結果3例をA−Cに示す。A:CDH3強制発現CHO細胞、B:CHO細胞、C:肺がん由来細胞株NCI−H358。a:抗CDH3抗体0.01ug/mL、b:抗CDH3抗体0.1ug/mL、c:抗CDH3抗体1ug/mL。Dには受託番号NITE BP−1536に由来するハイブリドーマから精製したマウス抗体(PPAT−076−44M)のフローサイトメトリ結果を示す。Dの各図右側ピークは、アイソタイプ一致抗体を用いた陰性対照を示し、左側ピークはPPAT−076−44Mを10ug/mLで測定した結果を示す。
図3図3は、各種腫瘍組織のCDH3のmRNAの発現結果を示す。A:正常組織、B:各種癌組織、C:膵臓癌分化度
図4図4は、各種ヒト腫瘍組織でのCDH3の発現結果を示す。
図5図5は、各CDH3抗体を反応させたフローサイトメトリの結果を示す。使用細胞株はA:肺がん由来細胞株NCI−H358、B:CHO細胞、C:CDH3強制発現CHO細胞。各図左側のピークが陰性対照を示す。
図6図6は、DM1SMeの構造を示す。
図7図7は、CDH3抗体薬剤コンジュゲートの細胞傷害性試験結果を示す。A:NCI−H358細胞株、抗体薬剤コンジュゲート(PPAT−076−44Hb、PPAT−076−44Hdに薬剤結合)、B:HCC1954細胞株、抗体薬剤コンジュゲート(PPAT−076−44Hdに薬剤結合)、C:HCC70細胞株、抗体薬剤コンジュゲート(PPAT−076−44Hdに薬剤結合)、D:表1に示した細胞株、抗体コンジュゲート(PPAT−076−44Hdに薬剤結合)。
図8図8は、CDH3抗体薬剤コンジュゲート(PPAT−076−44Hb、及びPPAT−076−44Hdに薬剤結合)を用いた動物試験結果(HCC1954乳がんモデル)を示す。
図9図9は、CDH3ヒト化抗体薬剤コンジュゲート(PPAT−076−44Hbに薬剤結合)を用いた動物試験結果(HCC70乳がんモデル)による用量依存性、及びキメラ化抗体薬剤コンジュゲート(PPAT−076−44Cに薬剤結合)との比較結果を示す。
図10図10は、CDH3ヒト化抗体薬剤コンジュゲート(PPAT−076−44Hdに薬剤結合)を用いた動物試験結果(HCC70乳がんモデル)による用量依存性、及びキメラ化抗体薬剤コンジュゲート(PPAT−076−44Cに薬剤結合)との比較結果を示す。
図11図11は、CDH3ヒト化抗体薬剤コンジュゲート(PPAT−076−44Hdに薬剤結合)を用いた動物試験結果(OKa−C−1肺がんモデル)を示す。
図12図12は、CDH3N末部分長タンパク質の発現結果を示す。A:CBB染色(右側レーンが発現産物。左側レーンは分子量マーカー)。B:ウェスタンブロット(M:サイズマーカー、1:市販CDH3抗体(BD BIOSCIENCE社)、2:市販CDH3抗体(R&D Systems社)、3:抗体無し)。
図13図13は、CDH3N末部分長タンパク質を固相としたELISAの測定結果を示す。
図14図14は、PPAT−076−44Hd(ヒト化抗体)と、その親抗体であるPPAT−076−44M(マウス抗体)、及びPPAT−076−44C(キメラ化抗体)の親和性比較結果を示す。
図15図15は、平均薬剤結合数(DAR)の異なるCDH3抗体薬剤コンジュゲートと薬剤を結合していない抗体との相対的な親和性を示す。A:PPAT−076−44Hb、B:PPAT−076−44Hd。
図16図16は、動物試験で用いたマウス担癌モデルの担癌腫瘍組織部分のCDH3発現を示す。A:HCC1954、B:HCC70、C:Oka−C−1。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、抗CDH3ヒト化抗体及びその使用方法に関する。本発明の抗CDH3ヒト化抗体は、CDH3を特異的に認識する抗体から規定されるCDR配列と種々の適切なヒト由来FR配列を組み合わせることにより提供され、更には親和性を改善するために適切なアミノ酸変異を導入することにより提供される。一態様では、本発明の抗体は細胞表面に発現されるCDH3に結合する。一態様では、本発明の抗体はCDH3領域内のエピトープに結合する。好ましくは、本発明の抗体は、ヒト細胞表面に発現されるCDH3に結合し、特に好ましくは癌細胞表面に発現されるCDH3に結合する。一態様では、本発明の抗体は、Fab、Fab’−SH、Fv、scFv又は(Fab’)2断片から選択されるヒト化抗体断片でもよい。このような抗体は、例えば各種リンカーを介して効率的に化学療法剤と結合することによって、抗体薬剤コンジュゲートとして用いることができる。また本発明の抗体は、任意のスペーサー配列を介して毒素と結合することもできる。即ち、本発明によれば、癌細胞を効率的に殺傷する抗CDH3ヒト化抗体薬剤コンジュゲートが提供される。
【0042】
本発明の抗体を作成するための抗原としては、CDH3又はその部分ペプチドを用いることができる。一例としては、CDH3細胞外領域(配列番号2の1から654アミノ酸に相当する)に相当する可溶型CDH3タンパク質などを用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0043】
本発明の抗体は、ヒト化モノクローナル抗体である。ヒト化モノクローナル抗体を取得するための材料として、本発明ではマウスへの免疫を経てハイブリドーマを取得する。このような材料は当該分野で周知な種々の方法で取得することができる。例えば以下に記載する方法でも得ることが出来るが、これに限定されるものではない。
【0044】
CDH3特異的に結合する抗体を産生するハイブリドーマ樹立のためには、先ずCDH3又はその部分ペプチドを抗原としてマウスに投与する。1匹当たりの投与量は、アジュバントを用いないときは0.1〜100mgであり、アジュバントを用いるときは1〜100μgである。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、水酸化アルミニウムアジュバント等が挙げられる。免疫は、主として静脈内、皮下、腹腔内に注入することにより行われる。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔、好ましくは2〜5週間間隔で、1〜10回、好ましくは2〜5回免疫を行う。そして、最終の免疫日から1〜60日後、好ましくは1〜14日後に抗体産生細胞を採集する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾臓細胞又は局所リンパ節細胞が好ましい。
【0045】
ハイブリドーマを得るため、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。ミエローマ細胞は、HAT培地等への薬剤選択性を有し一般に入手可能なマウス由来の株化細胞を使用することができる。例えば P3X63−Ag.8.U1(P3U1)、NS−1などが挙げられる。
【0046】
細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI−1640培地などの動物細胞培養用培地中で、1×106〜1×107個/mLの抗体産生細胞と2×105〜2×106個/mLのミエローマ細胞とを混合し、細胞融合促進剤存在のもとで融合反応を行うことができる。細胞融合促進剤として、平均分子量1000〜6000ダルトンのポリエチレングリコール等を使用することができる。また、電気刺激を利用した市販の細胞融合装置を用いて抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることもできる。
【0047】
ハイブリドーマは、選択培地の培養操作により得ることができる。細胞懸濁液を例えばウシ胎児血清含有RPMI−1640培地などで適当に希釈後、マイクロタイタープレート上に3×105個/well程度まき、各ウェルに選択培地を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行う。その結果、選択培地で培養開始後、14日前後から生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
【0048】
次に、増殖してきたハイブリドーマの培養上清中に、目的とする抗体が存在するか否かをスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、特に限定されるものではない。例えば、ハイブリドーマとして生育したウェルに含まれる培養上清の一部を採集し、酵素免疫測定法、放射性免疫測定法等によって、CDH3と結合する抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングすることができる。融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行い、最終的にモノクローナル抗体産生細胞であるハイブリドーマを樹立することができる。
【0049】
樹立したハイブリドーマを材料とすれば、これに由来した抗体のヒト化は既知の方法で達成することができる。具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込み、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(EP239400号公報(特許文献7)、国際公開WO96/02576号公報(特許文献8)など)。
【0050】
相補性決定領域(CDR)配列は、抗体間の可変領域で特に相違が激しく、その抗体の特異性決定に極めて重要な役割を果たす配列領域を示す。この領域に属するアミノ酸残基は、抗原に対する結合性および特異性に直接的に関わる残基を多く含んでいると考えられ、軽鎖及び重鎖可変領域に各々3領域が存在する。
CDRはKabatら(Sequences of proteins of immunological interest, 5th Ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)(非特許文献15))によって配列比較により規定され、Chothiaら(J.Mol.Biol.;196,p901(1987)(非特許文献16))により三次元構造によっても規定される。
【0051】
Kabatが規定したCDRは、一般的に軽鎖可変領域は残基24−34付近、残基50−56付近、残基89−97付近に位置し、重鎖可変領域では残基31−35付近、残基50−65付近、残基95−102付近に位置するとされるが、この領域の全ての残基が抗原結合に直接関与するとは必ずしも限らず、三次元構造から規定されたCDR領域と完全に一致するという訳では無い。なお、本明細書中にアミノ酸の残基番号が表記される時の番号付与体系はKabatのナンバリングに従っている。
【0052】
選択されるヒトFR配列は、適時適切なものが選ばれる。本願明細書において、選択されたヒトFR配列は、ヒトコンセンサスフレームワーク配列から得られる軽鎖可変領域あるいは重鎖可変領域を含有する配列である。
【0053】
ヒトコンセンサスフレームワーク配列は、ヒト免疫グロブリン軽鎖あるいは重鎖可変領域において、最も共通して生じるアミノ酸残基を表すFR配列である。通常、ヒト免疫グロブリン軽鎖あるいは重鎖可変領域配列は、可変領域配列のサブグループから選別される。Kabat等によると、軽鎖可変領域は軽鎖ヒトκサブグループIであり、重鎖可変領域が重鎖ヒトサブグループIIIである。
【0054】
一実施態様では、軽鎖ヒトκサブグループIのコンセンサス配列は少なくとも以下の配列の一部あるいは全部が含まれ、FR−L1、FR−L2、FR−L3、FR−L4の各配列の一部あるいは全部にCDR配列が挟み込まれた形で構成される。
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQ:配列番号62(FR−L1)
WYQQKPGKAPK:配列番号63(FR−L2)
LQSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYC:配列番号64(FR−L3)
FGQGTKVEIK:配列番号65(FR−L4)
【0055】
一実施態様では、重鎖ヒトサブグループIIIのコンセンサス配列は少なくとも以下の配列の一部あるいは全部が含まれ、FR−H1、FR−H2、FR−H3、FR−H4の各配列の一部あるいは全部にCDR配列が挟み込まれた形で構成される。
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGF:配列番号66(FR−H1)
WVRQAPGKGLEWV:配列番号67(FR−H2)
YADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYC:配列番号68(FR−H3)
WGQGTLVTVSS:配列番号69(FR−H4)
【0056】
以上のヒトコンセンサスフレームワーク配列は、各サブグループで最も高頻度に出現するアミノ酸残基により構成される。
【0057】
また、本発明においては、最適なアライメントのもとで選択されたヒトの生殖系列に由来するフレームワーク配列を使用することもできる。これは、ヒトコンセンサスフレームワーク配列が抗体ヒト化において必ずしも適切でない場合も有り得ることに対応し、ベストフィット法として知られる。
【0058】
即ち、マウス抗体の可変領域配列を既知の公開されたヒト可変領域配列ライブラリーに対してスクリーニングする。その中で最も配列的に近似したヒト可変領域配列をヒト化抗体の生殖系列に由来したヒトフレームワーク配列として用いることができる(Simsら,J.Immunol.;151,p2296(1993)(非特許文献17)、Chothiaら,J.Mol.Biol.;196,p901(1987)(非特許文献18)、Tempestら.,Biotechnology;9,p266(1991)(非特許文献19))。
【0059】
最も配列的に近似した生殖系列配列は、そのようなライブラリーを多数登録したデータベースにおいて元抗体の配列に対するアライメント(例えば、IMGT/V−QUEST(http://www.imgt.org/IMGT_vquest/vquest?livret=0&Option=humanIg))を実施することで確かめることができる。
【0060】
一実施態様では、軽鎖生殖系列配列は少なくとも以下の配列の一部あるいは全部が含まれ、FR−L1、FR−L2、FR−L3、FR−L4の各配列の一部あるいは全部にCDR配列が挟み込まれた形で構成される。
DIQLTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQ:配列番号72(FR−L1)
WYQQKPGKAPK:配列番号73(FR−L2)
LESGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYC:配列番号74(FR−L3)
FGQGTKVEIK:配列番号75(FR−L4)
【0061】
一実施態様では、重鎖生殖系列配列は少なくとも以下の配列の一部あるいは全部が含まれ、FR−H1、FR−H2、FR−H3、FR−H4の各配列の一部あるいは全部にCDR配列が挟み込まれた形で構成される。
QVQLVESGGGVVQPGRSLRLSCAASGF:配列番号76(FR−H1)
WVRQAPGKGLEWV:配列番号77(FR−H2)
YADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYC:配列番号78(FR−H3)
WGQGTLVTVSS:配列番号79(FR−H4)
【0062】
何れかの方法で選ばれたフレームワーク(FR)配列がヒト化に適当であるかどうかは、各抗体クローンCDR配列との組み合わせが適切であり、結合を目指す抗原に対して適切な立体構造を維持しえたか否かによって判断することができる。
【0063】
もしCDR配列とヒトに由来したFR領域を挟んで移植することで発現したヒト化抗体が、その配列選択が適切でない場合には親和性が低下することもしばしば起こりえる。これはFR領域中に存在する残基も、その構造維持において重要な役割を果たすものが存在することを意味する。この事象に対応したアミノ酸残基置換を行うことができる。例えば、アライメントの結果、ヒト由来の配列と位置的に相同な場所に存在するマウス抗体由来のアミノ酸と同じ残基へと置換(reshape)することができる。これによりヒト化によって生じた親和性の低下を改善することができる場合がある。
【0064】
置換されるべきアミノ酸残基の位置は、対象とする抗体によって異なり、多くの場合、実際に発現させるまで特定されない。以下の実施例においては、比較的多くの文献(例えば、Proc.Natl.Acad.Sci.USA;89,p4285(1992)(非特許文献20))において置換が実施される軽鎖可変領域の55位、重鎖可変領域の49位、71位、及び78位から選択される1以上の位置のアミノ酸残基を置換することによって、親和性低下に対する向上を図ることが意図されたが、その置換位置、組み合わせ及び置換後のアミノ酸残基の種類は任意であり、これに限定されるものではない。
【0065】
抗体を生産するための宿主は哺乳動物起源のものが多いが、当業者であれば、発現したい遺伝子産物に最も適する特定の宿主細胞系を適宜選択することができる。一般的な宿主細胞系としては、CHO由来細胞株(チャイニーズハムスター卵巣細胞系)、CV1(サル腎臓系)、COS(SV40T抗原をするCV1の誘導体)、SP2/0(マウスミエローマ)、P3x63−Ag3.653(マウスミエローマ)、293(ヒト腎臓)、及び293T(SV40T抗原をする293の誘導体)などが挙げられるが、これらに限定されない。宿主細胞系は、各種メーカー、the American Tissue Culture Collection(ATCC)、または文献に記載の論文発表機関から入手することができる。
【0066】
宿主細胞系としては、好ましくはdgfr遺伝子の発現欠損であるCHO由来細胞株又はSP2/0を使用することができる(Urland, G.ら、Somat.Cell.Mol.Genet.;12,p5555(1986)(非特許文献4)、およびSchulman, M.ら、Nature;276,p269(1978)(非特許文献5))。最も好ましくは、宿主細胞系はDHFR欠失CHOである。
【0067】
宿主細胞中へのプラスミドのトランスフェクションは、任意の技術を使って実施できる。具体的な方法としては、トランスフェクション(リン酸カルシウム法、DEAE法、リポフェクション、およびエレクトロポレーションを含む)、センダイウイルス等のエンベロープを利用してDNAを導入する方法、マイクロインジェクション、およびレトロウイルスウイルスやアデノウイルス等のウイルスベクターを用いた感染が挙げられるが、これらに限定されるものではない(Current Protocols in Molecular Biology, Chapter 9 Introduction of DNA into Mammalian Cells, John Wiley and Sons, Inc.)。最も好ましいのは、エレクトロポレーションによる宿主中へのプラスミド導入である。
【0068】
これらの抗体は、CDH3を認識する限り、一価抗体、二価抗体、多価抗体のいずれでもよく、抗体断片(フラグメント)等の低分子化抗体や抗体の修飾物などであってもよい。また、抗体断片や低分子化抗体、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、ScFv(single chain Fv)、DiabodyなどにFc部分を融合したものでもよい。このような抗体を得るには、これら抗体をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させればよい。
【0069】
本発明の抗体の好ましい使用態様としては、抗体に細胞傷害性物質等の化学療法剤を結合させた免疫複合体、即ち、抗体薬物コンジュゲート(ADC)を挙げることができる。本発明の免疫複合体は、例えばCDH3を発現している癌細胞と接触させることにより癌細胞を傷害することができる。
【0070】
本発明で用いられる化学療法剤の例としては、デュオカルマイシン、デュオカルマイシンのアナログ及び誘導剤、CC−1065、CBIを主成分とするデュオカルマイシンアナログ、MCBIを主成分とするデュオカルマイシンアナログ、CCBIを主成分とするデュオカルマイシンアナログ、ドキソルビシン、ドキソルビシンコンジュゲート、モルフォリノ−ドキソルビシン、シアノモルフォリノ−ドキソルビシン、ドラスタチン、ドレスタチン−10、コンブレタスタチン、カリケアマイシン(calicheamicin)、メイタンシン、メイタンシンアナログ、DM1,DM2,DM3,DM4、DMI、アウリスタチンE、アウリスタチンEB(AEB)、アウリスタチンEFP(AEFP)、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、5−ベンゾイルバレリン酸AEエステル(AEVB)、チューブリシン、ジソラゾール、エポシロン、パクリタキセル、ドセタキセル、SN−38、トポテカン、リゾキシン、エキノマイシン、コルヒチン、ビンブラスチン、ビンデシン、エストラムスチン、セマドチン、エリューテロビン、メトトレキサート、メトプテリン、ジクロロメトトレキサート、5−フルオロウラシル、6−メルカプトプリン、シトシンアラビノシド、メルファラン、リューロシン、リューロシダイン、アクチノマイシン、ダウノルビシン、ダウノルビシンコンジュゲート、マイトマイシンC、マイトマイシンA、カルミノマイシン、アミノプテリン、タリソマイシン、ポドフィロトキシン、ポドフィロトキシン誘導体、エトポシド、エトポシドリン酸塩、ビンクリスチン、タキソール、タキソテールレチノイン酸、酪酸、N8−アセチルスペルミジン並びにカンプトセシン等を挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。
【0071】
本発明における免疫複合体は、前記の化学療法剤と抗体とを公知の方法により結合することにより作製できる。抗体と化学療法剤は、それら自身が有する連結基などを介して直接結合されてもよいし、また、リンカーや他の物質を介して間接的に結合されてもよい。
【0072】
薬剤が直接結合される場合の連結基は、例えばSH基を用いたジスルフィド結合やマレイミドを介する結合が挙げられる。例えば、抗体のFc領域の分子内ジスルフィド結合と、薬剤のジスルフィド結合を還元して、両者をジスルフィド結合にて結合する。また、マレイミドを介する方法もある。また別の方法として、抗体内にシステインを遺伝子工学的に導入する方法もある。
【0073】
抗体と化学療法剤を、他の物質(リンカー)を介して間接的に結合することも可能である。リンカーには、抗体または薬剤または両方と反応する官能基を1または2種類以上有することが望ましい。官能基の例としてはアミノ基、カルボキシル基、メルカプト基、,マレイミド基、ピリジニル基等をあげることができる。
【0074】
リンカーの例としては、N−スクシンイミジル4−(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシレート(SMCC)、スルホスクシイミジル−4−(N−マレイミドメチル)−シクロヘキサン−1−カルボキシレート(Sulfo−SMCC)、N−スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)−シクロヘキサン−1−カルボキシ−(6−アミドカプロエート) (LC−SMCC)、κ−マレイミドウンデカン酸N−スクシンイミジルエステル(KMUA)、γ−マレイミド酪酸N−スクシンイミジルエステル(GMBS)、ε−マレイミドカプロン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(EMCS)、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)、N−(α−マレイミドアセトキシ)−スクシンイミドエステル(AMAS)、スクシンイミジル−6−(β−マレイミドプロピオンアミド)ヘキサノエート(SMPH)、N−スクシンイミジル4−(p−マレイミドフェニル)−ブチレート(SMPB)、およびN−(p−マレイミドフェニル)イソシアネート(PMPI)、N−スクシンイミジル4(2−ピリジルチオ)ペンタノエート(SPP)、N−スクシンイミジル(4−イオド−アセチル)アミノ安息香酸エステル(SIAB)、6−マレイミドカプロイル(MC)、マレイミドプロパノイル(MP)、p−アミノベンジルオキシカルボンイル(PAB)、及びN−スクシンイミジル4(2−ピリジルチオ)ブタノエート(SPDB)等があげられるが、これらに限定されるものではない。このリンカーは例えば、パラアミノベンゾイック酸(PABA)に、バリン−シトルリン(Val−Cit)、アラニン−フェニルアラニン(ala−phe)のようなペプチドリンカーが組み合わさってもよいし、上記にあげたリンカーをそれぞれ適時組み合わせて使用しても良い。
【0075】
薬剤と抗体との結合方法に関しては、例えば、Cancer Res.;52,p127(1992)(非特許文献13)、Cancer Res.;68(22),p9280(2008)(非特許文献6)、Nature Biotechnology;26(8),p925(2008)(非特許文献7)、Bio Conjugate Chemistry;19,p1673(2008)(非特許文献8)、Cancer Res.;68(15),p6300(2008)(非特許文献9)、又は特表2008−516896号公報((特許文献9))などに記載の方法に準じて行うことができる。
【0076】
本発明の別の実施形態としては、抗体に毒素を化学的または遺伝子工学的に結合した、いわゆるイムノトキシンをあげることができる。用いられる毒素としては、例えば、ジフテリアトキシンA鎖、シュードモナスエンドトキシン、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデクシンA鎖、ゲロニン、サポリン等をあげることができるが、これに限定されるものではない。
【0077】
更に本発明の別の実施形態として、抗体に放射性物質を結合させることもできる。放射性物質としては、癌治療薬として用いる場合、細胞傷害性放射性金属が好ましく、癌診断薬として用いる場合には細胞非傷害性放射性金属であることが好ましい。
【0078】
このような細胞傷害性放射性金属としては、例えばイットリウム90(90Y)、レニウム186(186Re)、レニウム188(188Re)、銅67(67Cu)、鉄59(59Fe)、ストロンチウム89(89Sr)、金198(198Au)、水銀203(203Hg)、鉛212(212Pb)、ジスプロシウム165(165Dy)、ルテニウム103(103Ru)、ビスマス212(212Bi)、ビスマス213(213Bi)、ホルミウム166(166Ho)、サマリウム153(153Sm)、ルテチウム177(177Lu)などを挙げることができる。これらの放射性金属の中でも、90Y、153Sm、177Luが、半減期、放射線エネルギー、容易な標識反応、標識率、錯体の安定性等の点から好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0079】
一方、診断薬に用いる細胞非傷害性放射性金属としては、テクネシウム99m(99mTc)、インジウム111(111In)、インジウム113m(113mIn)、ガリウム67(67Ga)、ガリウム68(68Ga)、タリウム201(201Tl)、クロム51(51Cr)、コバルト57(57Co)、コバルト58(58Co)、コバルト60(60Co)、ストロンチウム85(85Sr)、水銀197(197Hg)、銅64(64Cu)が好適に用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0080】
これらの放射性金属元素を抗カドヘリン抗体に結合させるには、該抗体に金属キレート試薬を反応させ、これに放射性金属元素を反応させて錯体とするのが好ましい。このようにして得られた修飾抗体は、放射性金属元素が金属キレート試薬を介して結合している。
【0081】
このような錯体形成に用いられる金属キレート試薬の例としては、例えば(1)8−ヒドロキシキノリン、8−アセトキシキノリン、8−ヒドロキシキナルジン、硫酸オキシキノリン、O−アセチルオキシン、O−ベンゾイルオキシン、O−p−ニトロベンゾイルオキシン、キノリン骨格を有するキノロン系化合物であるノルフロキサシン、オフロキサシン、エノキサシン、シプロフロキサシン、ロメフロキサシン、トスフロキサシン、フレロキサシン、スパルフロキサシン等のキノリン誘導体;(2)クロラニル酸、アルミノン、チオ尿素、ピロガロール、クペロン、ビスムチオール(II)、ガロイル没食子酸、チオリド、2−メルカプトベンゾチアゾール、テトラフェニルアルソニウムクロライド等の化合物;(3)エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)およびこれらに類似した骨格を有するジヒドロキシエチルグリシン、ジアミノプロパノール四酢酸、エチレンジアミン二酢酸、エチレンジアミン二プロピオン酸塩酸塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ヘキサメチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、イミノ二酢酸、ジアミノプロパン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三プロピオン酸、ニトリロトリス(メチレンスルホン酸)三ナトリウム塩、トリエチレンテトラミン六酢酸、メチルDTPA、シクロヘキシルDTPA、アミノベンジルEDTA、イソチオシアノベンジルEDTA、イソチオシアノベンジルDTPA、メチルイソチオシアノベンジルDTPA、シクロヘキシルイソチオシアノベンジルDTPA、マレイミドプロピルアミドベンジルEDTA、マレイミドペンチルアミドベンジルEDTA、マレイミドデシルアミドベンジルEDTA、マレイミドペンチルアミドベンジルDTPA、マレイミドデシルアミドベンジルEDTA、マレイミドデシルアミドベンジルDTPA;(4)1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−四酢酸(DOTA)、1,4,7−トリアザシクロノナン−1,4,7−三酢酸(NOTA)、1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン−1,4,8,11−四酢酸(TETA)、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン(Cyclen)、1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン(Cyclam)、イソチオシアノベンジルDOTA、イソチオシアノベンジルNOTA等が挙げられる。
【0082】
これらの金属キレート試薬のうち、イソチオシアノベンジルDOTA、メチルイソチオシアノベンジルDTPA、シクロヘキシルイソチオシアノベンジルDTPAが金属キレートの容易な抗体への導入反応、標識率、錯体の安定性等の点で好ましい。
【0083】
抗体への放射性金属元素の結合は、常法に従って行うことができる。例えば抗体と金属キレート試薬とを反応させ、予め標識前駆体を調製しておき、次いで放射性金属元素を反応させることにより行うことができる。
【0084】
なお、本発明により提供される免疫複合体は、その薬剤の安定的な状態を保持に対応するため薬学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤などを適宜含有させることができる。本発明の免疫複合体は、例えば注射剤として製剤することができる。本発明の免疫複合体の投与量は、患者の症状の程度、年令及び体重、投与方法などに依存し、有効成分である抗体の重量としては通常、約10ng〜約100mg/kg体重の範囲である。
【0085】
本発明の免疫複合体により治療されうる疾患はCDH3がその細胞に発現しているものであれば特に限定されない。例えば、結腸直腸癌、非小細胞肺癌、乳癌、頭頚部癌、卵巣癌、肺癌、浸潤性膀胱癌、膵臓癌、脳の転移性癌、甲状腺癌、頭頚部扁平上皮癌、食道扁平上皮癌、肺扁平上皮癌、皮膚扁平上皮癌、メラノーマ、乳腺癌、肺腺癌、子宮頚部扁平上皮癌、膵臓扁平上皮癌、結腸扁平上皮癌、又は胃扁平上皮癌、前立腺癌、骨肉腫又は軟組織肉腫などをあげることが出来るが、これに限定されるものではない。
【0086】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、これの目的は例示的なものであって、本発明の内容が実施例によって限定されるものではない。 なお本明細書において引用されたすべての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0087】
実施例1:CDH3発現CHO細胞株の樹立
抗CDH3抗体スクリーニング用細胞株を得るため、全長CDH3を発現するCHO細胞を樹立した。
(1)CDH3遺伝子発現ベクターの作製
配列番号1に示す全長ヒトCDH3DNAを哺乳類発現ベクターpEF4/myc−HisB(インビトロジェン社)へ挿入するため、2種類の制限酵素KpnI(タカラバイオ社)及びXbaI(タカラバイオ社)で37℃、1時間処理した後、同じくKpnI及びXbaIで処理したpEF4/myc−HisBへT4 DNAリガーゼ(プロメガ社)により常法に従って挿入し、発現ベクターpEF4−CDH3−myc−Hisを得た。
【0088】
(2)CDH3安定発現株の取得
FuGENE(登録商標)6トランスフェクション試薬(ロシュ・ダイアグノスティックス社)のプロトコールに準じ、トランスフェクション前日に径10cmディッシュに8×105細胞のCHO細胞を播種し一晩培養後、8μgの発現ベクターpEF4−CDH3−myc−Hisと16μLのFuGENE6試薬を400μLの無血清RPMI1640培地(SIGMA−ALDRICH社)に混合し15分間室温放置後、細胞培養液に加えトランスフェクションを行った。トランスフェクション翌々日に選択試薬(Zeocin(登録商標))を用いて限界希釈法にてクローニングを行った。
【0089】
CDH3全長発現CHOのクローン選抜は、抗c−Mycモノクローナル抗体(SANTA CRUZ BIOTECHNOLOGY社)を用いたウェスタンブロット法により行い、その結果、発現量が高く、かつ増殖が良好なCDH3全長発現CHO細胞株(EXZ1501)を得た。この細胞株、親株であるCHO細胞、およびCDH3発現が確認されているNCI−H358肺癌細胞株と市販抗CDH3抗体(R&D SYSTEMS社)のフローサイトメーターによる測定結果を図1に示す。
【0090】
実施例2:可溶型CDH3抗原の作製
抗CDH3抗体作製の免疫原とするため、C末端膜貫通領域以降を欠損させた可溶型CDH3(sCDH3)タンパク質を作製した。
(1)可溶型CDH3抗原発現ベクターの作製
CDH3全長cDNAをテンプレートとして、CDH3細胞外領域に相当する部分(配列番号1の1−2010に相当、以下sCDH3cDNA)を増幅するように設計されたフォワードプライマー(CGCGGTACCATGGGGCTCCCTCGT:配列番号3)とリバースプライマー(CCGTCTAGATAACCTCCCTTCCAGGGTCC:配列番号4)を用いてPCR反応を行った。反応にはKOD−Plus(東洋紡社)を用い、94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で90秒を30サイクルの反応条件で行った。
【0091】
その後、アガロースゲル電気泳動で目的サイズである約2.0kbpのバンドを含むゲル断片を切り出し、QIA(登録商標)クイックゲル抽出キット(キアゲン社)を用いて、目的のsCDH3cDNAを得た。
【0092】
このsCDH3cDNAを発現用ベクターpEF4/myc−HisBへ挿入するために、2種類の制限酵素KpnI及びXbaIで処理した後、同じくKpnI及びXbaIで処理したpEF4/myc−HisBにT4 DNAリガーゼを用いて常法に従い挿入し、発現ベクターpEF4−sCDH3−myc−Hisを得た。
【0093】
(2)可溶型CDH3タンパク質の発現
FuGENE6トランスフェクション試薬のプロトコールに準じ、トランスフェクション前日に径10cmディッシュに8×105個のCHO細胞を播種し一晩培養後、8μgの発現ベクターpEF4−sCDH3−myc−Hisと16μLのFuGENE6試薬を400μLの無血清RPMI1640培地に混合、15分間室温放置後、細胞培養液に加えトランスフェクションを行った。トランスフェクション翌々日に選択試薬(Zeocin)を用いて限界希釈法にてクローニングを行った。
【0094】
可溶型CDH3発現CHO細胞の選抜は、抗c−Mycモノクローナル抗体(SANTA CRUZ BIOTECHNOLOGY社)を用いたウェスタンブロット法で行った。培養上清中への分泌量が多く増殖が良好な細胞株を選択した結果、可溶型CDH3発現CHO細胞株(EXZ1702)が得られた。選択された可溶型CDH3発現CHO細胞株(EXZ1702)は、培養面積1,500cm2のローラーボトル3本を用い、ローラーボトル1本あたり無血清培地CHO−S−SFM−II(インビトロジェン社)333mLにて72時間培養を行い、培養上清を回収した。得られた培養上清からHisTrap(登録商標)HPカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社)によるアフィニティークロマトグラフィーとSuperdex(登録商標)200pgカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社)によるゲル濾過クロマトグラフィーにより可溶型CDH3タンパク質を得た。
【0095】
実施例3:抗CDH3マウス抗体の作製
(1)可溶型CDH3タンパク質を免疫原としたモノクローナル抗体の作製
生理食塩水に溶解した50μgの可溶型CDH3タンパク質とTiter−MAX Gold(登録商標)(タイターマックス社)を等量混合し、MRL/lprマウス(日本エスエルシー株式会社)の腹腔内および皮下に注射することにより初回免疫を行った。2回目以降の免疫は同様に調製した25μgタンパク質量相当の可溶型CDH3タンパク質とTiter−MAX Goldを混合して腹腔内および皮下に注射することにより実施した。最終免疫から3日後にマウスから脾臓細胞を無菌的に調製し、常法に従って、ポリエチレングリコール法によりマウスミエローマ細胞SP2/O−Ag14あるいはP3−X63−Ag8.653との細胞融合を行った。
【0096】
(2)抗CDH3マウス抗体産生ハイブリドーマの選抜
抗CDH3マウス抗体の選抜は、全長CDH3を発現するCHO細胞株(EXZ1501)を用いたフローサイトメトリで行った。すなわち、全長CDH3を発現するCHO細胞株(EXZ1501)を2mM EDTA−PBSで処理することで培養プレートから剥離後、1×106個/mLとなるようにFACS溶液(1%BSA,2mM EDTA,0.1%NaN3入りPBS)に懸濁した。この細胞懸濁液を50μL/ウェルとなるように96ウェルプレートに播種し、ハイブリドーマ培養上清を加えて4℃で60分間反応させ、FACS溶液(200μL/ウェル)で2回洗浄した後、AlexaFluor488標識抗マウスIgG・ヤギF(ab‘)2(インビトロジェン社)を加えて、4℃で30分間反応させた。その後FACS溶液で2回洗浄した後、フローサイトメトリを実施し、CDH3発現CHO細胞との反応が認められるハイブリドーマを選抜した。
【0097】
当該ハイブリドーマより得られた抗体と、CDH3発現CHO細胞(EXZ1501)、親株であるCHO細胞及びCDH3が高発現であると確認されているヒト細気管支肺胞上皮癌細胞株NCI−H358との典型的な反応結果を図2A-Cに示す。選抜したハイブリドーマ全てが、CDH3発現CHO細胞(EXZ1501)およびNCI−H358と反応し、CHO細胞とは反応しないことを確認した。図2Dには受託番号NITE BP−1536に由来するハイブリドーマから精製したマウス抗体(抗体番号:PPAT−076−44M)のフローサイトメトリ結果を示す。
【0098】
実施例4:正常組織および癌組織でのCDH3mRNAの発現
正常ヒト組織および各種癌組織より、レーザーマイクロダイセクション法(Laser Capture Microdissection)で回収したサンプルよりISOGEN(ニッポンジーン社)を用い定法に従って全RNAを調製した。RNA各10ngをGeneChipU−133B(Affymetrix社)を用い、Expression Analysis Technical Manual(Affymetrix社)に準じて遺伝子発現を解析した。全遺伝子の発現スコアの平均値を100とし、癌細胞において発現が亢進する遺伝子を探索したところ、CDH3は正常ヒト組織では発現が限られ、肺癌、大腸癌、膵臓癌で発現が高かった(図3A、B)。また、分化度の異なる膵臓癌組織におけるCDH3mRNAの発現を検討したところ、分化度に関わらず発現が高い組織が認められた(図3C)。
【0099】
実施例5:免疫組織化学染色による癌組織でのCDH3タンパク質の発現
癌臨床検体でのCDH3タンパク質の発現を確認するため、癌検体組織アレイで免疫染色を行った。癌細胞組織アレイは、上海芯超生物科技有限公司社(Shanghai Outdo Biotech Co.,Ltd.)製の、膵癌(腺癌)、肺癌(腺癌)、肺癌(扁平上皮癌)および大腸癌(腺癌)を使用した。
【0100】
各組織アレイスライドを脱パラフィン処理し、10mMTris、1mM EDTA(pH9.0)で95℃、40分賦活化を行った。ENVISION+Kit(Dako社)付属のブロッキング試薬にて内在性ペルオキシダーゼの不活性化を行った後、抗CDH3抗体610227(BD BIOSCIENCE社)、およびネガティブコントロールとして抗HBs抗体Hyb−3423と5μg/mLの濃度で4℃一晩反応させた。抗体溶液を洗い流した後に、ENVISION+Kit付属のポリマー二次抗体試薬と室温30分間反応させた。ENVISION+Kit付属の発色試薬にて発色を行い、ヘマトキシリンエオジン溶液にて核染色を行った。
図4に結果を示す。癌細胞は抗CDH3抗体で染色され、正常細胞は染色されなかった。
【0101】
実施例6:ハイブリドーマからのRNAの精製
CDH3抗体を産生するマウスハイブリドーマ細胞から、細胞質に存在するRNAをGough, Rapid and quantitative preparation of cytoplasmic RNA from small numbers of cells, Analytical Biochemisty, 173, p93−95 (1988)(非特許文献10)により記載されている方法(ただし、この論文に記されている溶解緩衝液のかわりに別のTNE緩衝液 25mM Tris−HCl,pH7.5;1%NP−40;150mM NaCl;1mM EDTA,pH8.0を用いた)に従って単離した。具体的な操作方法としては、5×106個のハイブリドーマ細胞を0.2mLのTNE緩衝液に懸濁して細胞膜を溶解後、遠心により細胞核を除去した。得られた約0.2mL細胞質上清に0.2mLの抽出緩衝液(10mM Tris−HCl,pH7.5;0.35M NaCl;1%(w/v)SDS;10mM EDTA,pH8.0;7M尿素)を加えた。この混合物をフェノールおよびクロロホルムで抽出し、得られたRNA溶液にキャリアとしてグリコーゲン(ロッシュ、Cat No.901393)を加えてから、エタノールで沈澱させた。次にRNA沈殿物を、細胞質RNA濃度が0.5〜2μg/μLになるように10〜50μLの滅菌蒸留水を加えて溶解した。
【0102】
実施例7:ハイブリドーマから調製したRNAからのcDNAライブラリーの作製
一本鎖cDNAを合成するため、前記のように調製した細胞質RNAの0.5〜3μgを50mM Tris−HCl,pH8.3(室温);75mM KCl;3mM MgCl2;10mM DTT、100ngのランダムプライマー、0.5mM dNTP、200ユニットのSuperscriptII(逆転写酵素、インビトロジェン社)を含む20μL反応混合液を調製し、42℃で50分間インキュベートした。このように合成したcDNAライブラリーをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法の鋳型として直接使用した。
【0103】
実施例8:抗CDH3マウス抗体可変領域をコードする遺伝子のPCR法による増幅
抗CDH3マウス抗体可変領域の配列を決定するため、実施例7で得られたcDNAライブラリーをテンプレートとして、PCR法により抗CDH3マウス抗体可変領域の遺伝子増幅を実施した。プライマーは全て北海道システムサイエンス株式会社に合成依頼し、以下に記載するような組み合わせで実施した。
【0104】
A.マウス軽鎖可変領域コード遺伝子のPCRプライマー
5’末端においてFR1部分と相同性を有するPCRプライマーと3’末端においてマウス軽鎖内のJ鎖遺伝子と相同性を有する4セットプライマー(1)、あるいは5’末端において軽鎖シグナル部分(7セットプライマー)と3’末端においてKC部分(KVLアンチセンスプライマー)と相同性を有するプライマーセット(2)の2種類のプライマーセットを用いてポリメラーゼ連鎖反応により、該cDNAからマウス免疫グロブリン軽鎖可変域DNAを単離した。プライマー配列は次のとおりであった。
なお、塩基配列において、MはAまたはC、RはAまたはG、WはAまたはT、SはCまたはG、YはCまたはT、KはGまたはT、VはAまたはCまたはG、HはAまたはCまたはT、DはAまたはGまたはT、BはCまたはGまたはT、NはAまたはCまたはGまたはTをそれぞれ示す。
【0105】
(1)マウス軽鎖可変域クローニング4セットセンスプライマー
「Phage Display −A Laboratory Manual−,Barbas Burton Scott Silverman」 PROTOCOL 9.5(非特許文献11)を参考にSense Primer 17種、Reverse Primer 3種を合成した。
VKセンスプライマー(FR1部分、下記17プライマーの混合物)
5'-GAYATCCAGCTGACTCAGCC-3'(縮重度2):配列番号5
5'-GAYATTGTTCTCWCCCAGTC-3'(縮重度4):配列番号6
5'-GAYATTGTGMTMACTCAGTC-3'(縮重度8):配列番号7
5'-GAYATTGTGYTRACACAGTC-3'(縮重度8):配列番号8
5'-GAYATTGTRATGACMCAGTC-3'(縮重度8):配列番号9
5'-GAYATTMAGATRAMCCAGTC-3'(縮重度16):配列番号10
5'-GAYATTCAGATGAYDCAGTC-3'(縮重度12):配列番号11
5'-GAYATYCAGATGACACAGAC-3'(縮重度4):配列番号12
5'-GAYATTGTTCTCAWCCAGTC-3'(縮重度4):配列番号13
5'-GAYATTGWGCTSACCCAATC-3'(縮重度8):配列番号14
5'-GAYATTSTRATGACCCARTC-3'(縮重度16):配列番号15
5'-GAYRTTKTGATGACCCARAC-3'(縮重度16):配列番号16
5'-GAYATTGTGATGACBCAGKC-3'(縮重度12):配列番号17
5'-GAYATTGTGATAACYCAGGA-3'(縮重度4):配列番号18
5'-GAYATTGTGATGACCCAGWT-3'(縮重度4):配列番号19
5'-GAYATTGTGATGACACAACC-3'(縮重度2):配列番号20
5'-GAYATTTTGCTGACTCAGTC-3'(縮重度2):配列番号21
【0106】
Jアンチセンス(4セットプライマー)
J1/J2アンチセンスプライマー(1)
5'-GGSACCAARCTGGAAATMAAA-3'(縮重度:8):配列番号22
J4アンチセンスプライマー(2)
5'-GGGACAAAGTTGGAAATAAAA-3':配列番号23
J5アンチセンスプライマー(3)
5'-GGGACCAAGCTGGAGCTGAAA-3':配列番号24
J1/J2,J4,J5アンチセンスプライマー混合物(4)
【0107】
(2)マウス軽鎖可変域クローニング7セットプライマー
VKセンスプライマー(シグナルペプチド部分、ノバジェン社のマウスIg−プライマーセット(Novagen;Merck,Cat.No.69831−3)を元に制限酵素部位を除去するように塩基配列を改変)
Aセットセンスプライマー
5'-ATGRAGWCACAKWCYCAGGTCTTT-3':配列番号25
Bセットセンスプライマー
5'-ATGGAGACAGACACACTCCTGCTAT-3':配列番号26
Cセットセンスプライマー
5'-ATGGAGWCAGACACACTSCTGYTATGGGT-3':配列番号27
Dセットセンスプライマー(下記2プライマーの混合物)
5'-ATGAGGRCCCCTGCTCAGWTTYTTGGIWTCTT-3':配列番号28
5'-ATGGGCWTCAAGATGRAGTCACAKWYYCWGG-3':配列番号29
Eセットセンスプライマー(下記3プライマーの混合物)
5'-ATGAGTGTGCYCACTCAGGTCCTGGSGTT-3':配列番号30
5'-ATGTGGGGAYCGKTTTYAMMCTTTTCAATTG-3':配列番号31
5'-ATGGAAGCCCCAGCTCAGCTTCTCTTCC-3':配列番号32
Fセットセンスプライマー(下記4プライマーの混合物)
5'-ATGAGIMMKTCIMTTCAITTCYTGGG-3':配列番号33
5'-ATGAKGTHCYCIGCTCAGYTYCTIRG-3':配列番号34
5'-ATGGTRTCCWCASCTCAGTTCCTTG-3':配列番号35
5'-ATGTATATATGTTTGTTGTCTATTTCT-3':配列番号36
Gセットセンスプライマー(下記4プライマーの混合物)
5'-ATGAAGTTGCCTGTTAGGCTGTTGGTGCT-3':配列番号37
5'-ATGGATTTWCARGTGCAGATTWTCAGCTT-3':配列番号38
5'-ATGGTYCTYATVTCCTTGCTGTTCTGG-3':配列番号39
5'-ATGGTYCTYATVTTRCTGCTGCTATGG-3':配列番号40
KVLアンチセンスプライマー
5'-ACTGGATGGTGGGAAGATGGA-3':配列番号41
【0108】
B.マウス重鎖可変領域コード遺伝子のPCRプライマー
5’末端においてマウス重鎖シグナル部分(4セットプライマー)と相同性を有するプライマーと3’末端においてKC部分と相同性を有するプライマー、あるいは5’末端においてFR1部分と相同性を有する1セットのプライマーと3’末端においてマウス重鎖の定常領域(IGHC)と相同性を有する2種類のプライマーセットを用いてポリメラーゼ連鎖反応により、該cDNAからマウス免疫グロブリン重鎖可変域DNAを単離した。プライマー配列は次のとおりであった。
【0109】
(3)マウス重鎖可変域クローニングプライマー
VHセンスプライマー(シグナル部分:4セットプライマー、Current Protocols in Immunology(John Wiley and Sons, Inc.), Unit 2.12 Cloning, Expression, and Modification of Antibody V RegionsのTable 2.12.2を参考にした)。
5'-ATGGRATGSAGCTGKGTMATSCTCTT-3'(縮重度:32):配列番号42
5'-ATGRACTTCGGGYTGAGCTKGGTTTT-3'(縮重度:8):配列番号43
5'-ATGGCTGTCTTGGGGCTGCTCTTCT-3':配列番号44
5'-ATGGRCAGRCTTACWTYY-3'(縮重度:32):配列番号45
【0110】
(4) マウス重鎖可変域クローニングプライマー
VHセンスプライマー(FR1部分、Tanら、Journal of Immunology;169,p1119(2002)(非特許文献14)のセンスプライマーの塩基配列を改変してデザインした)。
5'-SAGGTSMARCTKSAGSAGTCWGG-3'(縮重度:256):配列番号46
【0111】
VHアンチセンスプライマー((3),(4)に共通のアンチセンスプライマー、マウスIgGすべてのアイソフォームとアニーリングできるように塩基配列を縮重してデザインした)。
5'-CASCCCCATCDGTCTATCC-3'(縮重度:6):配列番号47
【0112】
実施例9:抗CDH3マウス抗体の可変領域の配列決定
DNA Engine(Bio−Rad社)を用いたPCR法により抗CDH3マウス抗体軽鎖、重鎖それぞれの可変領域を実施例8に示したプライマーを用いて増幅した。増幅したDNAフラグメントはサブクローニングベクターpGEM(プロメガ社)に組み込んで、このベクターのT7,SP6ユニバーサルプライマーで塩基配列を決定した。
これにより配列決定された受託番号NITE BP−1536であるマウスハイブリドーマに由来する抗CDH3マウス抗体(抗体番号:PPAT−076−44M)の可変領域のうち、CDRに相当するアミノ酸配列を以下に示す。
【0113】
SLTSYGVH:配列番号56(CDR−H1)
GVIWSGGSTD:配列番号57(CDR−H2)
ARNSNNGFAY:配列番号58(CDR−H3)
NIYSNLA:配列番号59(CDR−L1)
LLVYAAKN:配列番号60(CDR−L2)
QHFYDTPWT:配列番号61(CDR−L3)
【0114】
なお、CDR−H1、H2及びH3はそれぞれ各抗体重鎖を、CDR−L1、L2及びL3はそれぞれ各抗体軽鎖を構成するCDR配列を表す。
両抗体の軽鎖、および重鎖可変域の塩基配列はIMGT/V−QUEST(http://www.imgt.org/IMGT_vquest/vquest?livret=0&Option=mouseIg)で検索して、確かに抗体遺伝子がクローニングできていることを確認した。
【0115】
実施例10:抗CDH3抗体の一過性発現ベクターの作製
クローニングされた抗CDH3マウス抗体の軽鎖及び重鎖のV領域をコードする遺伝子は、キメラ軽鎖発現ベクターにはヒトCk領域をコードする遺伝子を、キメラ重鎖発現ベクターにはヒトCg1領域をコードする遺伝子をそれぞれ接続した遺伝子を設計し、これら軽鎖、重鎖キメラ抗体遺伝子をGenScript社によって全長人工合成した。両端には制限酵素部位(5’側にNheI,3’側にEcoRI)を付加した。
【0116】
これにより、キメラ化抗体発現ベクターに供するため、受託番号NITE BP−1536を有する細胞由来の抗CDH3キメラ化抗体(以下、抗体番号PPAT−076−44Cとする。重鎖及び軽鎖可変領域配列がPPAT−076−44Mと同じ)が合成された。
受託番号NITE BP−1536を有する細胞は、2013年2月13日に独立行政法人 製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(郵便番号292−0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に寄託されている(国際寄託への移管請求は、2014年1月24日:受領番号NITE ABP−1536)。
【0117】
ヒト化に際しては、FRに相当する領域をヒトに由来したFR配列に入れ替え、同様に全長人工合成した。FRに相当する領域のアミノ酸配列は、ヒトコンセンサスフレーム配列(配列番号62〜69)あるいは生殖系列フレーム配列(配列番号72〜79)を用いた。生殖系列フレーム配列はクローニングされた抗CDH3マウス抗体の塩基配列をIMGT/V−QUEST(http://www.imgt.org/IMGT_vquest/vquest?livret=0&Option=humanIg)に入力し、最も類似度の高い配列を選択して設計した。また、親和性低下に対応したアミノ酸配列の置換(reshape)も実施した。
【0118】
今回用いた抗CDH3ヒト化抗体の重鎖あるいは軽鎖可変領域のアミノ酸配列を以下に示した。
抗体番号PPAT−076−44Ha、PPAT−076−44Hb、PPAT−076−44Hc、およびPPAT−076−44Hdは、抗体番号PPAT−076−44Mと同じCDR配列を持つ。
【0119】
抗体番号PPAT−076−44Ha、PPAT−076−44Hbは、FRにヒトコンセンサスフレームワーク配列を用い、抗体番号PPAT−076−44Hc、PPAT−076−44Hdは、FRに由来としたマウス抗体に最も類似したヒト生殖系列配列を用いている。また、PPAT−076−44Hb、PPAT−076−44Hdは、付記したようなアミノ酸配列の置換を導入している。
【0120】
抗体番号;PPAT−076−44Ha(配列番号48を重鎖可変領域、配列番号49を軽鎖可変領域に持つ)
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFSLTSYGVHWVRQAPGKGLEWVGVIWSGGSTDYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARNSNNGFAYWGQGTLVTVSS:配列番号48(重鎖可変領域)
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQNIYSNLAWYQQKPGKAPKLLVYAAKNLQSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQHFYDTPWTFGQGTKVEIK:配列番号49(軽鎖可変領域)
【0121】
抗体番号;PPAT−076−44Hb(配列番号50を重鎖可変領域、配列番号51を軽鎖可変領域に持つ)
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFSLTSYGVHWVRQAPGKGLEWVAVIWSGGSTDYADSVKGRFTISKDNSKNTVYLQMNSLRAEDTAVYYCARNSNNGFAYWGQGTLVTVSS:配列番号50(重鎖可変領域)
(配列番号48に対してG49A、R71K、L78Vが置換されている)
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQNIYSNLAWYQQKPGKAPKLLVYAAKNLASGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQHFYDTPWTFGQGTKVEIK:配列番号51(軽鎖可変領域)
(配列番号49に対してQ55Aが置換されている)
【0122】
抗体番号;PPAT−076−44Hc(配列番号52を重鎖可変領域、配列番号53を軽鎖可変領域に持つ)
QVQLVESGGGVVQPGRSLRLSCAASGFSLTSYGVHWVRQAPGKGLEWVGVIWSGGSTDYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARNSNNGFAYWGQGTLVTVSS:配列番号52(重鎖可変領域)
DIQLTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQNIYSNLAWYQQKPGKAPKLLVYAAKNLESGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQHFYDTPWTFGQGTKVEIK:配列番号53(軽鎖可変領域)
【0123】
抗体番号;PPAT−076−44Hd(配列番号54を重鎖可変領域、配列番号55を軽鎖可変領域に持つ)
QVQLVESGGGVVQPGRSLRLSCAASGFSLTSYGVHWVRQAPGKGLEWVGVIWSGGSTDYADSVKGRFTISKDNSKNTVYLQMNSLRAEDTAVYYCARNSNNGFAYWGQGTLVTVSS:配列番号54(重鎖可変領域)
(配列番号52に対してR71K、L78Vが置換されている)
DIQLTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQNIYSNLAWYQQKPGKAPKLLVYAAKNLASGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQHFYDTPWTFGQGTKVEIK:配列番号55(軽鎖可変領域)
(配列番号53に対してE55Aが置換されている)
【0124】
アミノ酸配列変換後にこれらの配列を持つように設計した人工合成遺伝子を、ヒトIgG1由来の定常領域の遺伝子が組み込まれたpCXN3ベクターに重鎖可変領域の遺伝子を、ヒトκ鎖由来の定常領域の遺伝子が組み込まれたpCXN3ベクターに軽鎖可変領域の遺伝子をそれぞれ挿入した発現ベクターを構築し、抗CDH3ヒト化抗体(またはキメラ化抗体)の軽鎖発現ベクター及び重鎖発現ベクターを得た。
【0125】
実施例11:抗CDH3抗体の一過性発現と精製
(1)抗CDH3抗体の一過性発現
抗CDH3抗体の一過性発現にはFreeStyle(ライフテクノロジーズ社)を用いた。遺伝子導入用浮遊細胞である293−F(ライフテクノロジーズ社)は前日に継代した。トランスフェクション当日、一種類の抗体発現には、1x106細胞/mLの細胞濃度に調製した400mLの細胞懸濁液を準備した。これに抗体重鎖発現ベクター100μg及び軽鎖発現ベクター100μgの合計200μgのプラスミドをOptiProSFMに懸濁した溶液(I)を調製した。次に200μLのMAX reagentを8mLのOptiPRO SFMに加えて溶液(II)とした。溶液(I)と溶液(II)を混合して室温で10分から20分静置した。この合計16mLの反応液を293−F細胞を懸濁した400mLの293発現培地に加え、6日から7日間37℃、8%CO2で細胞培養震盪機TAITEC BioShaker BR-43FLで培養した。6日から7日間後、それぞれの組換え抗体を含む培養上清を回収し、これを用いて精製をおこなった。
【0126】
(2)抗CDH3抗体の精製
培養上清に含まれるIgG抗体タンパク質は、AKTAprime(GEヘルスケア社)を用いたAb-Capcher ExTra(プロテノバ)アフィニティーカラムで精製した。得られたピークフラクションは、溶媒としてダルベッコのPBSで平衡化したセファクリルS-300カラムによるゲルろ過をして、さらに精製した。精製したIgG抗体タンパク質の定量は、吸光係数を用いて算出した。IgG抗体の吸光係数はEXPASYのProtParam(http://web.expasy.org/protparam/)に各抗体の全アミノ酸配列を用いて計算して求めた。
【0127】
実施例12:酵素免疫測定法(ELISA)による抗体の定量
遺伝子導入したCHO細胞の培養上清をELISAにより測定して、キメラ抗体が生産されていることを確認した。キメラ抗体を検出するため、プレートをヤギ抗ヒトIgG(H+L)(マウス、ウサギ、ウシ、マウスIgGに対して吸収済み)(コスモバイオ:AQI, Cat A−110UD)でコートした。ブロックした後、抗CDH3キメラ抗体産生CHO細胞からの培養上清を段階希釈し、各ウエルに加えた。プレートをインキュベーション、および洗浄後、ヤギ抗ヒトIgG(H+L)(マウス、ウサギ、ウシ、マウスIgGに対して吸収済み)−HRP(コスモバイオ:AQI,Cat.A−110PD)を加えた。インキュベーション及び洗浄の後、TMB発色液(エア・ブラウン社、Cat.TM4999)を加えた。さらにインキュベーションした後、反応を停止しそして450nmにおける吸光度を測定した。標準として精製ヒトIgGを用いた。
【0128】
実施例13:抗体の結合活性
実施例10に示した配列を持つ抗体は、その結合活性をフローサイトメトリで評価した。
反応対象となる細胞株(CDH3の高発現が確認されているNCI−H358細胞株)を2mM EDTA−PBSで処理することにより培養プレートから剥離後、1×106個/mLとなるようにFACS溶液に懸濁した。この細胞懸濁液を50μL/ウェルとなるように96ウェルプレートに播種し、精製したキメラ抗体を10μg/mLになるように添加し、4℃で60分間反応させた。FACS溶液(150μL/ウェル)で2回洗浄した後、AlexaFluor488標識抗ヒトIgG・ヤギF(ab‘)2(インビトロジェン社)4μg/mlを加えて、4℃で30分間反応させた。その後FACS溶液で2回洗浄した後、フローサイトメトリを実施した。
【0129】
その結果、ヒト化を実施した抗体(PPAT−076−44Ha、PPAT−076−44Hc)はCDH3発現癌細胞株(NCI-H358)で弱い反応が認められた。更にReshapeを施した抗体(PPAT−076−44Hb、PPAT−076−44Hd)ではNCI-H358に対し、強い反応性が認められた(図5A)。また、PPAT−076−44Hb、PPAT−076−44Hdは、CHO細胞には反応しないが、CDH3強制発現CHO細胞においてはNCI-H358細胞株と同じく反応が認められた(図5B、C)。
【0130】
PPAT−076−44Mに由来したマウス抗体のヒト化は、CDR配列として規定した配列と、コンセンサスあるいはヒト生殖系列に由来したフレーム配列との組み合わせによって、不十分ながら結合活性を示す抗体を得たことから、ここで規定したCDR配列は妥当なものであると推定される。なお、PPAT−076−44Mに由来したヒト化抗体はReshapeを実施することで結合活性が回復することから、いずれかのアミノ酸残基が構造維持に重要な役割を果たしていることが支持される。
【0131】
実施例14:薬剤の合成
DM1SMeは、米国特許第5,208,020号(特許文献10)および米国特許6,333,410B1号(特許文献11)に記載されたように調製した。合成は株式会社シンスタージャパンに委託した。その構造式を図6に示す。
【0132】
実施例15:薬剤結合抗体の調製
1.結合薬剤の還元処理
エタノール300μLで溶解した0.78mgのDM1SMeと50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)180μL及びTCEP Solution(Bond Breaker、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)20μLを混合し、窒素雰囲気下、室温で30分以上反応させ、薬剤を還元した。
還元薬剤はHPLCを使用して精製した後に溶媒を留去し、10mg/mLになるようにジメチルアセトアミドに溶解した。
【0133】
2.マレイミド化抗体の調製
1mg/mL抗体にモル比30倍過剰となる量のsulfo−SMCC(PIERCE社)を加え、30℃、1時間反応させた。
過剰な架橋剤を除くため、50mMリン酸カリウム、50mM NaCl、2mM EDTA(pH6.5)で平衡化した脱塩カラムで脱塩処理(ZebaSpinColumn、 サーモフィッシャーサイエンティフィック社)した。
【0134】
3.薬剤による抗体の修飾
1mg/mLのマレイミド化した抗体と、結合したマレイミド基数の1.7倍に相当する還元薬剤とを50mMリン酸カリウム、50mM NaCl、2mM EDTA(pH6.5)中で、室温にて一晩反応させた。その後、過剰な薬剤をゲルろ過操作により除いた。
【0135】
実施例16:抗体薬剤結合量の定量
抗体当たりの薬剤結合数は、252nm及び280nmの吸光度を測定することで決定した。決定方法は(J.Med.Chem.,49,4392−4408(2006))(非特許文献12)、及びMethods.Mol.Biol.525、p445−67(2009)(非特許文献21))に記載の方法を参考に、吸光係数も記載の値(εAb280=223,000M-1cm-1, εAb252=82,510M-1cm-1, εDM1280=5,180M-1cm-1, εDM1252=26,160M-1cm-1)を用いて行った。
【0136】
実施例17:細胞障害試験
薬剤結合抗体の細胞傷害性と特異性はWST−8を発色基質とした細胞増殖測定試薬(同仁化学研究所社,Cell counting assay kit−8)を使用して評価した。
即ち、各種癌細胞株とヒト化抗体薬剤コンジュゲートを任意の量共存させ、37℃で3日間、5%CO2環境下でインキュベートした。培地はFBSを添加した各細胞株所定のものとした。その後、細胞増殖測定試薬を添加放置後、A450/620の吸光度を測定し、癌細胞株のみで抗体を加えないウェルより得られた吸光度の値を100%としたときの相対的な値を細胞生存率として表記した。
【0137】
図7Aでは、細胞株としてNCI−H358、抗体薬剤コンジュゲートとしてPPAT−076−44Hb及びPPAT−076−44Hdに薬剤を結合したものを用いた。両抗体の薬剤コンジュゲートともに細胞傷害性を示した。
図7Bでは、細胞株としてHCC1954、抗体薬剤コンジュゲートとしてPPAT−076−44Hdに薬剤を結合したものを用い、図7Cでは細胞株としてHCC70、抗体薬剤コンジュゲートとしてPPAT−076−44Hdに薬剤を結合したものを用いた。両細胞株ともにCDH3が発現するため、PPAT−076−44Hdの薬剤コンジュゲートは細胞傷害性を示す。
図7Dでは、細胞株は表1に記したものを用い、抗体薬剤コンジュゲートとして、PPAT−076−44Hdに薬剤を結合したものを用いた。薬剤は、それぞれ実施例15に記載した方法で結合した。表1に記した細胞株のmRNAシグナル値は公開データベース(https://cabig−stage.nci.nih.gov/community/caArray_GSKdata/)から平均値を取得し、シグナルの小さなもの(NCIH1930, SW962)はCDH3発現陰性対照として試験した。CDH3が発現する細胞株は癌腫に関わらず、細胞増殖が阻害された。
いずれの薬剤コンジュゲートもDARは3〜4のものを用いた。
【0138】
【表1】
【0139】
実施例18:ヒト化抗体を用いたHCC1954担癌動物試験
ヒト化抗体(PPAT−076−44Hb、及びPPAT−076−44Hd)の抗体薬剤コンジュゲートによる腫瘍縮小効果を、乳がん細胞株HCC1954を移植したゼノグラフトモデルで確認した。
実施例16の方法で定量した両抗体薬剤コンジュゲートの薬剤結合数(DAR)は、PPAT−076−44Hb(DAR3.69)、PPAT−076−44Hd(DAR3.51)であった。
担癌は、まず抗アシアロGM1抗体(WAKO 014−09801)を、大塚蒸留水1mLで溶解後、大塚生理食塩水4mLを加えて全量5mLとした後、この溶液をマウス1匹あたり100uL腹腔内に投与した。次にHCC1954は10%FBS含有RPMI1640培地を用いて培養し、SCIDマウス(メス、日本クレア)の右腹側部皮下に5x106個/マウスになるように移植した 。
試験は各群5匹とし、5mg/kgで週に1度、計2回尾静脈より投与を行なった。
腫瘍体積を測定した結果を図8に示す。図8に示す通りヒト化抗体による抗体薬剤コンジュゲートは高い抗腫瘍効果を示した。
【0140】
実施例19:ヒト化抗体を用いたHCC70担癌動物試験(1)
ヒト化抗体(PPAT−076−44Hb)とキメラ化抗体(PPAT−076−44C)の抗体薬剤コンジュゲートによる腫瘍縮小効果を、乳がん細胞株HCC70を移植したゼノグラフトモデルにて確認した。
両抗体薬剤コンジュゲートのDARは、PPAT−076−44Hb(DAR2.90)、PPAT−076−44C(DAR3.07)であった。
担癌は、抗アシアロGM1抗体(WAKO 014−09801)を、大塚蒸留水1mLで溶解後、大塚生理食塩水4mLを加えて全量5mLとした後、この溶液をマウス1匹あたり100uL腹腔内に投与した。次にHCC70は10%FBS含有RPMI640培地を用いて培養し、SCIDマウス(メス、日本クレア)の右腹側部皮下に5x106個/マウスになるように移植した。
試験は各群5匹とし、ヒト化抗体コンジュゲートは0.6、3.0あるいは15mg/kg、キメラ化抗体コンジュゲートは3.0mg/kg、薬剤非結合のヒト化抗体(Naked)は15mg/kgの各用量で週に1度、計2回投与を行なった。腫瘍体積を測定した結果を図9に示す。図9に示す通り、ヒト化抗体による抗体薬剤コンジュゲートは、キメラ化抗体による抗体薬剤コンジュゲートに比して高い抗腫瘍効果が繰り返し示された。
【0141】
実施例20:ヒト化抗体を用いたHCC70担癌動物試験(2)
ヒト化抗体(PPAT−076−44Hd)とキメラ化抗体(PPAT−076−44C)の抗体薬剤コンジュゲートによる腫瘍縮小効果を、乳がん細胞株HCC70を移植したゼノグラフトモデルにて確認した。
担癌は実施例19と同様に行ない、ヒト化抗体コンジュゲートは0.6、3.0あるいは15mg/kg、キメラ化抗体コンジュゲートは3.0mg/kg、薬剤非結合のヒト化抗体(Naked)は15mg/kgの各用量で週に1度、計2回尾静脈より投与を行なった。試験は各群5匹とした。両抗体薬剤コンジュゲートのDARは、PPAT−076−44C(DAR3.07)、PPAT−076−44Hd(DAR2.98)だった。
腫瘍体積を測定した結果を図10に示す。図10に示した通り、ヒト化抗体は薬剤を結合する事で高い抗腫瘍効果を示し、用量に依存した抗腫瘍効果が確認された。また同じ投与量(3.0mg/kg)においては、実施例19と同様にキメラ化抗体の抗体薬剤コンジュゲートに比して高い抗腫瘍効果が再度示された。
【0142】
実施例21:ヒト化抗体を用いたOKa−C−1担癌動物試験
本願発明の抗体薬剤コンジュゲートの腫瘍増殖抑制能を、肺がん細胞株OKa−C−1(独立行政法人医薬基盤研究所、JCRB1343)を移植したゼノグラフトモデルで確認した。担癌は、OKa−C−1を10%FBS含有RPMI1640培地を用いて培養し、SCIDマウス(メス、日本クレア)の右腹側部皮下に6.5x106個/マウスになるように移植した。ヒト化抗体コンジュゲートは15mg/kgの用量で週に1度、計2回尾静脈より投与を行なった。試験は各群3匹とした。ここではヒト化抗体としてPPAT−076−44Hdを使用し、それぞれに実施例15に記載した方法で薬剤を結合した。各抗体分子当たりの平均薬剤結合数(DAR)を実施例16に記載した方法で定量したところ、DARは3.04だった。腫瘍体積を測定した結果を図11に示す。図11に示した通り、ヒト化抗体は薬剤を結合する事で、乳癌細胞株に対するものと同様に高い抗腫瘍効果が確認された。
【0143】
実施例22:CDH3N末部分長タンパク質の発現
(1)CDH3N末部分長タンパク質の発現ベクター作製
取得したCDH3抗体の反応性を確認するため、CDH3抗原のN末端領域をマウスIgG2aのFc部分と連結した融合蛋白質を調製した。融合タンパク質のcDNA配列は配列番号70、アミノ酸配列は配列番号71に記載した。シグナルペプチドは抗体κ鎖のものを使用し、サブクローニングのために制限酵素部位を5プライム側にNheIを、3プライム側にEcoRI部位を付加した(米GenScript社で合成)。これをNheIとEcoRIで消化した哺乳類用発現ベクターのpCAGGS、あるいは遺伝子増幅用にマウスDHFR遺伝子を組み込んだpCAGGS−DHFRに組み込んだ。
【0144】
(2) CDH3N末部分長タンパク質の発現と精製
一過性発現はライフテクノロジー社のフリースタイルを用いた。生産細胞にはライフテクノロジー社の293Fを使用し、遺伝子導入試薬はフリースタイル・マックス・トランスフェクション試薬(ライフテクノロジー社)を用いた。Fc融合可溶性抗原の遺伝子を導入した293Fは、CO2濃度を制御できるタイテック製の震盪機で4〜7日間培養して生産した。生産した融合蛋白質はプロテインAセファロース(プロテノバ社)カラムで精製した。一過性発現で発現・精製した抗原のCBB染色図を図12Aに示し、図12Bに市販CDH3抗体(BD BIOSCIENCE社、及びR&D Systems社)を1次抗体として用いた染色像を示す。2次標識抗体にはAnti Mouse IgG F(ab’)2-HRP(goat IgG)(CAPPEL #55553)を用いた。
【0145】
実施例23:CDH3N末部分長タンパク質固相ELISA
CDH3N末部分長タンパク質をPBSで2.5μg/mLとし、96ウェルプレートに100μL/ウェルで分注して、4℃で一晩静置した。翌日、ウェル内の溶液を捨て、Buffer A: 50mM Tris−HCl/150mM NaCl/1mM CaCl2/0.05% Tween20 (pH7.5)で洗浄した。次に被検物質(抗CDH3抗体)を希釈系列を作って100μL/ウェルで分注し、室温1時間震盪した。溶液を捨て、Buffer Aで洗浄した後、HRP標識抗体(HRP−goat anti human IgG (H+L) (absorbed with mouse, rabbit,bovine IgG) (American Qualex International, cat. A−110PD))をbufferAで10,000倍希釈したものを調製し、100μL/ウェルで分注し、室温1時間震盪した。Buffer Aで洗浄した後、TMB発色液を100μL/ウェルで加え、暗所で15分静置して発色を行った。停止液を100μL/ウェルで加えた後、プレートリーダーで450nmの吸光度を測定した。結果を図13に示す。披検物質としてPPAT−076−44Hb、及びPPAT−076−44Hdを用いた。
【0146】
実施例24:Alexa488標識抗体の作製
標識に用いる抗体を標識用緩衝液(50mM NaHCO3, 0.5M NaCl pH8.5)に置換する。抗体1mgに対し、25mM Alexa488(1mgをDMF62.1μlに溶解, ライフテクノロジー社)0.5μlを添加して、遮光下室温で1時間静置する。その後、PBSに緩衝液を交換した。
【0147】
実施例25:抗体親和性比較試験(1)
ヒト化が親和性に及ぼす影響をフローサイトメーター(FACS)を用いた競合試験で確かめた。測定は希釈系列を作った被験抗体、CDH3が発現している細胞株、及び被験抗体と競合する一定量のAmaxa488標識抗体を共存させて、室温1時間反応、FACS用液で洗浄後、FACS測定を行なった。各抗体濃度のGEO Mean値から、競合抗体のみのGEO Mean値を100%とした場合の阻害率を算出してIC50を求め、これを親和性の指標とした。
被験抗体と競合する抗体として、NITE BP−989細胞産生物から精製したマウス抗体を実施例24の方法で標識し、被験抗体としてPPAT−076−44Hd、PPAT−076−44C、及びPPAT−076−44Mを用いた。その結果を図14に示す。被験抗体は全てAlexa488標識抗体と競合するがその度合いが異なり、マウス及びキメラ化抗体に比して、本願のヒト化抗体(PPAT−076−44Hd)の親和性度合いが向上している事が示された。
【0148】
実施例26:抗体親和性比較試験(2)
本願発明のヒト化抗体に結合した平均薬剤結合数(DAR)が親和性に及ぼす影響を実施例25と同じくFACSを用いた競合試験で確かめた。抗体薬剤コンジュゲートは、実施例15に記載した方法で、平均DAR0〜8の範囲で調製した。DARは実施例16に記載した方法で定量した。
細胞株はNCI−H358を用い、PPAT−076−44Hb及びPPAT−076−44Hdを測定する時は、競合抗体として実施例24の手順でAlexa488を標識したNITE BP−989細胞産生物から精製したマウス抗体を用い、実施例25で示したのと同じFACS競合試験により、親和性の指標として各IC50値を算出した。
図15(A:PPAT−076−44Hb、B:PPAT−076−44Hd)に示した比較は、薬剤を結合していない各抗体のIC50値を1とした相対値を表している。いずれのヒト化抗体も薬剤が結合する事で親和性は低下しない事を示している。
【0149】
実施例27:担癌モデル株のCDH3発現確認
担癌モデル株のCDH3タンパク質の発現を確認するため、担癌組織切片の免疫染色を行った。マウス皮下に細胞株を移植して所定日数経過させた担癌マウスから得た腫瘍組織を脱パラフィン処理し、オートクレーブで121℃、15分賦活化を行った。0.3% H22を含むメタノールにて内在性ペルオキシダーゼの不活性化、10%ヤギ血清でブロッキング処理後、抗CDH3抗体610227(BD BIOSCIENCE社)に4℃一晩反応させた。抗体溶液を洗い流した後に、ヒストファインシンプルステインMAX−PO二次抗体試薬と室温1時間反応させた。ヒストファインDAB基質キットを添付プロトコールのとおり使ってDAB発色を行い、ヘマトキシリンエオジン溶液にて核染色を行った。図16(A:HCC1954、B:HCC70、C:OKa−C−1)に結果を示す。担癌腫瘍は細胞膜部分が抗CDH3抗体で染色された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]