(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
重量%で、炭素(C):0.4〜0.7%、マンガン(Mn):12〜24%、アルミニウム(Al):0.01〜3.0%、シリコン(Si):0.3%以下、リン(P):0.03%以下、硫黄(S):0.03%以下、窒素(N):0.04%以下と、残部鉄及びその他の不可避不純物とからなり、微細組織としてオーステナイト単相組織からなり、圧延方向の結晶粒の縦横比(b(圧延方向)/a(圧延方向の直角方向))が2以上となる結晶粒が70%以上であり、引張強度は1300MPa以上、降伏強度は1000MPa以上である、超高強度鋼板。
重量%で、炭素(C):0.4〜0.7%、マンガン(Mn):12〜24%、アルミニウム(Al):0.01〜3.0%、シリコン(Si):0.3%以下、リン(P):0.03%以下、硫黄(S):0.03%以下、窒素(N):0.04%以下、ニッケル(Ni):0.05〜1.0%、クロム(Cr):0.05〜1.0%及びスズ(Sn):0.01〜0.10%と、残部鉄及びその他の不可避不純物とからなり、微細組織としてオーステナイト単相組織からなり、圧延方向の結晶粒の縦横比(b(圧延方向)/a(圧延方向の直角方向))が2以上となる結晶粒が70%以上であり、引張強度は1300MPa以上、降伏強度は1000MPa以上である、超高強度鋼板。
重量%で、炭素(C):0.4〜0.7%、マンガン(Mn):12〜24%、アルミニウム(Al):0.01〜3.0%、シリコン(Si):0.3%以下、リン(P):0.03%以下、硫黄(S):0.03%以下、窒素(N):0.04%以下、チタン(Ti):0.005〜0.10%及びボロン(B):0.0005〜0.0050%と、ニッケル(Ni):0.05〜1.0%及びクロム(Cr):0.05〜1.0%のうち1種以上と、残部鉄及びその他の不可避不純物とからなり、微細組織としてオーステナイト単相組織からなり、圧延方向の結晶粒の縦横比(b(圧延方向)/a(圧延方向の直角方向))が2以上となる結晶粒が70%以上であり、引張強度は1300MPa以上、降伏強度は1000MPa以上である、超高強度鋼板。
重量%で、炭素(C):0.4〜0.7%、マンガン(Mn):12〜24%、アルミニウム(Al):0.01〜3.0%、シリコン(Si):0.3%以下、リン(P):0.03%以下、硫黄(S):0.03%以下、窒素(N):0.04%以下であり、残部鉄及びその他の不可避不純物を含む鋼塊又は連鋳スラブを1050〜1300℃に加熱して均質化処理する段階と、
仕上げ熱間圧延温度を850〜1000℃として前記均質化処理された鋼塊又は連鋳スラブを熱間圧延する段階と、
前記熱間圧延された鋼板を200〜700℃で巻き取る段階と、
前記巻き取られた鋼板を30〜80%の冷間圧下率で冷間圧延する段階と、
前記冷間圧延された鋼板を400〜900℃で連続焼鈍処理する段階と、
前記連続焼鈍処理された鋼板を常温で30〜50%の圧延率で再圧延する段階と、
を含む、
微細組織としてオーステナイト単相組織からなり、前記再圧延後の圧延方向の結晶粒の横縦比(b(圧延方向)/a(圧延方向の直角方向))が2以上となる結晶粒が70%以上であり、引張強度は1300MPa以上、降伏強度は1000MPa以上である超高強度鋼板の製造方法。
前記鋼塊又は連鋳スラブは、ニッケル(Ni):0.05〜1.0%、クロム(Cr):0.05〜1.0%及びスズ(Sn):0.01〜0.10%をさらに含む、請求項6に記載の超高強度鋼板の製造方法。
前記鋼塊又は連鋳スラブは、チタン(Ti):0.005〜0.10%及びボロン(B):0.0005〜0.0050%をさらに含み、ニッケル(Ni):0.05〜1.0%及びクロム(Cr):0.05〜1.0%のうち1種以上をさらに含む、請求項6に記載の超高強度鋼板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、従来の高マンガン鋼において多量のマンガン添加によって高強度の確保は可能であるが、延性の確保が困難であり、成形が容易ではないという問題を解決するために深く研究した結果、優れた強度及び延性をともに確保するために添加される成分を制御し、製造された鋼を再圧延によって加工硬化させることにより、自動車部品の製造に必要な多様な加工性に優れた製品に用いられることができる超高強度鋼板を製造することができることを見出した。
【0016】
また、合金成分の成分組成及び含量を最適化することにより、優れた衝突特性とめっき性の他にも、3枚重ね溶接時の優れた溶接性を確保することができることを確認し、本発明に至った。
【0017】
したがって、本発明は、成分系の制御、即ち、オーステナイト安定化元素であるマンガン、炭素、アルミニウムの添加量を制御して常温で完全オーステナイト相を確保し、塑性変形中の変形双晶の生成を最適化するとともに、製造された鋼の再圧延によって優れた強度を確保し、微細組織を制御することにより、優れた加工性及び衝突特性の他にも優れためっき性と溶接性を全て確保した超高強度鋼板に関するものである。
【0019】
まず、本発明の超高強度鋼板において成分を制限する理由について詳細に説明する。ここで、成分元素の含有量は全て重量%を意味する。
【0020】
C:0.4〜0.7%
炭素(C)は、オーステナイト相の安定化に寄与する元素であるため、その添加量が増加するほど、オーステナイト相の形成に有利である。但し、炭素の含量が0.4%未満では、変形時にα´(アルファ´´)−マルテンサイト相が形成されるため、加工時にクラックが発生し、延性が低くなるという短所がある。これに対し、Cの含量が0.7%を超える場合には、電気抵抗が増加し、電気抵抗を利用して溶接する3枚重ねスポット溶接時の溶接性が低下するという問題がある。したがって、本発明では、Cの含量を0.4〜0.7%に制限することが好ましい。
【0021】
Mn:12〜24%
マンガン(Mn)は、炭素と共にオーステナイト相を安定化させるのに必須の元素である。但し、その含量が12%未満の場合には、成形性を害するα´(アルファ´)−マルテンサイト相が生成されて強度は増加するが、延性が急激に減少し、加工硬化率も少なくなる。これに対し、Mnの含量が24%を超える場合には、双晶の生成が抑制されて強度は増加するが、延性が減少し、電気抵抗が増加して溶接性が低下する。また、Mnの添加量が増加するほど、熱間圧延時にクラックが発生しやすく、製造原価が増加して経済的な面で不利である。したがって、本発明では、Mnの含量を12〜24%に制限することが好ましい。
【0022】
Al:0.01〜3.0%
アルミニウム(Al)は、通常、鋼の脱酸のための目的で添加されるが、本発明では、延性の向上及び耐遅れ破壊特性の向上のために添加される。即ち、Alは、フェライト相の安定した元素であるが、鋼の滑り面における積層欠陥エネルギーを増加させ、ε−マルテンサイト相の生成を抑制して延性及び耐遅れ破壊性を向上させる。また、Alは、Mnの添加量が低い場合にもε−マルテンサイト相の生成を抑制するため、マンガンの添加量を最小化し且つ加工性を向上させるのに大きく寄与する。したがって、このAlの添加量が0.01%未満の場合には、ε−マルテンサイト相が生成されて強度は増加するが、延性が急激に減少するという短所がある。これに対し、3.0%を超える場合には、双晶の発生を抑制して延性を減少させ、連続鋳造時の鋳造性を悪くし、熱間圧延時に鋼板の表面の酸化が多く発生して製品の表面品質を低下させる。したがって、本発明では、Alの含量を0.01〜3.0%に制限することが好ましい。
【0023】
Si:0.3%以下
シリコン(Si)は、固溶強化する元素であって、固溶効果によって結晶粒度を減らすことにより鋼板の降伏強度を増加させる元素である。通常、Siが過剰に添加される場合は、表面にシリコン酸化層を形成して溶融めっき性を低下させることが知られている。
【0024】
しかしながら、Mnが多量に添加された鋼においては、適切な量のSiが添加される場合、表面に薄いシリコン酸化層が形成され、Mnの酸化を抑制するため、冷延鋼板において圧延後に形成される厚いMn酸化層が形成されることを防止することができ、焼鈍後に冷延鋼板で進行する腐食を防止して表面品質を向上させ、電気めっき材の素地鋼板として優れた表面品質を維持することができる。但し、このSiの添加量が増加しすぎると、熱間圧延時に鋼板の表面にSi酸化物が多量に形成されて酸洗性を低下させ、熱延鋼板の表面品質を低下させるという短所がある。また、Siは、連続焼鈍工程と連続溶融めっき工程において、高温焼鈍の際に、鋼板の表面に濃化し、溶融めっきの際に、鋼板の表面における溶融亜鉛の濡れ性を減少させてめっき性を低下させる。また、多量のSiの添加は、鋼の溶接性を大きく低下させる。したがって、上述の問題を回避するためには、Siを0.3%以下で添加することが好ましい。
【0025】
P及びS:それぞれ0.03%以下
通常、リン(P)及び硫黄(S)は、鋼の製造時に不可避に含有される元素であるため、その含量をそれぞれ0.03%以下に制限する。特に、Pは偏析を発生させて鋼の加工性を減少させる。Sは粗大な硫化マンガン(MnS)を形成してフランジクラックのような欠陥を発生させる。そのため、鋼板の穴広げ性を減少させるため、これらの含量を最大限に抑制することが好ましい。
【0026】
N:0.04%以下
窒素(N)は、オーステナイト結晶粒内で凝固過程時にAlと作用して微細な窒化物を析出させ、双晶の発生を促進するため、鋼板の成形の際の強度と延性を向上させる。但し、その含量が0.04%を超える場合には、窒化物が過剰に析出されて熱間加工性及び延伸率を低下させるため、その上限を0.04%に制限することが好ましい。
【0027】
本発明は、上述の成分の他に、本発明が目的とする効果、特に、衝突特性及びめっき性をさらに効果的に達成するために、次のようにニッケル(Ni)、クロム(Cr)及びスズ(Sn)をさらに含むことができる。
【0028】
Ni:0.05〜1.0%
ニッケル(Ni)は、オーステナイト相を安定化させるのに有効な元素であって、鋼板の強度を増加させるのに効果的な元素である。但し、その含量が0.05%未満で微量添加される場合には、上記の効果を得ることが困難であり、これに対し、1.0%を超える場合には、製造原価が増加するため非経済的である。したがって、本発明では、Niの含量を0.05〜1.0%に制限することが好ましい。
【0029】
Cr:0.05〜1.0%
クロム(Cr)は、鋼板のめっき性を改善し強度を増加させるのに効果的な元素である。但し、その含量が0.05%未満の場合には、上述の効果を得ることが困難であり、これに対し、1.0%を超える場合には、製造原価が増加するため非経済的である。したがって、本発明では、Crの含量を0.05〜1.0%に制限することが好ましい。
【0030】
Sn:0.01〜0.1%
スズ(Sn)は、上記クロム(Cr)と共に鋼板のめっき性を改善し強度を増加させるのに効果的な元素である。但し、その含量が0.01%未満の場合には、上述の効果を得ることが困難であり、これに対し、0.1%を超える場合には、製造原価が増加するため非経済的である。したがって、本発明では、Snの含量を0.01〜0.1%に制限することが好ましい。
【0031】
また、本発明は、溶接性及び加工性をさらに効果的に達成するために次のようにチタン(Ti)及びボロン(B)をさらに含むことができる。このとき、上記Ti及びBの他に、NiとCrのうち1種を単独又は複合添加することができる。NiとCrのうち1種以上を添加する場合、上述の成分範囲で含むことが好ましい。
【0032】
Ti:0.005〜0.10%
チタン(Ti)は、炭素と結合して炭化物を形成する強炭化物元素であって、このときに形成された炭化物が結晶粒の成長を抑制することから結晶粒度の微細化に効果的な元素である。このTiは、ボロン(B)と複合添加される場合、柱状晶粒界に高温化合物を形成して粒界クラックを防止する。但し、その含量が0.005%未満で微量添加される場合には、上述の効果を得ることが困難である。これに対し、0.10%を超える場合には、過量のTiが結晶粒界に偏析して粒界脆化を起こしたり、析出相が過度に粗大化して結晶粒の成長効果を低下させる。したがって、本発明では、Tiの含量を0.005〜0.10%に制限することが好ましい。
【0033】
B:0.0005〜0.0050%
ボロン(B)は、上記Tiと共に添加されて粒界の高温化合物を形成し、粒界クラックを防止する役割をする元素である。但し、このBの含量が0.0005%未満で微量添加される場合には、上述の効果を得ることが困難である。これに対し、0.0050%を超えると、ボロン化合物を形成してめっき性を低下させる。したがって、本発明では、Bの含量を0.0005〜0.0050%に制限することが好ましい。
【0034】
上述の成分系を満たす鋼板は、微細組織としてオーステナイト単相組織を含み、上記微細組織は、加工硬化によって圧延方向の結晶粒の縦横比が2以上となる結晶粒を70%以上含むことが好ましい。
【0035】
微細組織の圧延方向の結晶粒の縦横比が2未満の場合には、目的とする強度及び延性を確保するのに困難がある。したがって、加工硬化によって変形された結晶粒の圧延方向の縦横比が2以上であり、且つこの結晶粒を70%以上含むことにより、優れた強度及び延性を確保すると共に、優れた衝突特性を確保することができる。
【0036】
また、本発明の鋼板は、微細組織の平均粒度の大きさが2〜10μmであることが好ましい。微細組織の平均粒度の大きさが10μmを超える場合には目的とする強度及び延性を確保するのに困難がある。平均粒度の大きさが小さければ小さいほど強度を確保するのに有利になるが、作業上限界があるため、その下限を2μmに制限することが好ましい。より好ましくは、微細組織は2〜5μmの平均粒度の大きさを有することで、優れた強度及び延性を確保するのにより有利である。
【0037】
本発明は、上述のように成分系を制御することにより、鋼板の溶接時の電流範囲を1.0〜1.5kAに確保することができる。
【0038】
溶接技術のうち、スポット溶接は、電気抵抗による抵抗熱で対象素材を溶融して接合する技術である。スポット溶接時、合金元素が過剰に添加された素材を用いる場合、母材の電気抵抗が増加したり、接触表面に酸化物などが発生して電気抵抗が変わるため、スポット溶接をするための作業条件が狭くなったり、溶接されても溶接部に欠陥が発生して溶接性が低下する。したがって、炭素とマンガンが多量に添加された鋼では、母材の電気抵抗を急激に増加させてスポット溶接性が低下するため、本発明では、炭素及びマンガンの含量を適切に制御することにより、スポット溶接時の電流範囲を1.0〜1.5kAに確保することができる。
【0039】
以下、上述の成分系を満たす超高強度鋼板を製造するために本発明者らによって導き出された好ましい方法について具体的に説明する。
【0040】
本発明は、上記のような成分系及び組成範囲で構成された鋼塊又は連鋳スラブを加熱して均質化処理した後、熱間圧延及び熱延巻き取りを経て熱延鋼板に製造するか、又は上記熱延鋼板を冷間圧延及び焼鈍処理して冷延鋼板に製造したり、上記冷延鋼板を電気亜鉛めっき鋼板又は溶融亜鉛めっき鋼板に製造することができる。本発明では、上記鋼塊又は連鋳スラブを単にスラブと称する。
【0041】
以下、上記鋼板の製造過程に関するそれぞれの製造条件を詳細に説明する。
【0042】
加熱段階(均質化処理):1050〜1300℃
本発明において高マンガン鋼のスラブを加熱して均質化処理するとき、加熱温度を1050〜1300℃に設定することが好ましい。
【0043】
スラブを加熱して均質化処理するとき、加熱温度が高くなるほど、結晶粒度が増加し、表面酸化が発生して強度が減少したり表面品質が劣る可能性がある。また、スラブの柱状晶粒界に液状膜が生じるため、熱間圧延時に亀裂が発生する可能性がある。したがって、加熱温度の上限を1300℃に限定することが好ましい。これに対し、加熱温度が1050℃未満の場合には、仕上げ圧延時、温度の確保が困難であり、温度の減少によって圧延荷重が増加し、所定の厚さまで十分に圧延を行うことができない。したがって、加熱温度の下限を1050℃に限定することが好ましい。
【0044】
熱間圧延段階:仕上げ熱間圧延温度850〜1000℃
上記加熱によって均質化処理されたスラブに熱間圧延を施して鋼板に製造する。このとき、仕上げ熱間圧延の温度を850〜1000℃に設定することが好ましい。
【0045】
仕上げ熱間圧延温度が850℃未満の場合には、圧延荷重が高くなって圧延機に負担がかかるのみならず鋼板の内部の品質も低下する可能性がある。これに対し、仕上げ熱間圧延温度が1000℃を超えて過度に高い場合には、圧延時に表面酸化が発生する可能性がある。したがって、仕上げ熱間圧延の温度を850〜1000℃に限定することが好ましく、900〜1000℃に限定することがより好ましい。
【0046】
巻き取り段階:200〜700℃
上記熱間圧延された鋼板に熱延巻き取りを施す。このときの巻き取り温度は700℃以下であることが好ましい。
【0047】
熱延巻き取り時、巻き取り温度が700℃を超える場合には、熱延鋼板の表面に厚い酸化膜と内部酸化が発生する可能性があり、酸洗過程で酸化層の除去が容易ではないため、巻き取り温度を700℃以下に設定することが好ましい。但し、巻き取り温度を200℃未満とするためには熱間圧延後に多くの冷却水を噴射しなければならず、この場合、コイルの進行が困難であり、作業性が低下する。したがって、巻き取り温度範囲の下限を200℃に設定することが好ましい。
【0048】
冷間圧延段階:冷間圧下率30〜80%
上述のような条件で熱間圧延を完了した後、鋼板の形状及び厚さを制御するために通常の条件で冷間圧延を行うことができる。このときの冷間圧下率は、顧客が求める厚さに合うように製造し、且つ強度及び延伸率を制御するための目的で30〜80%であることが好ましい。
【0049】
連続焼鈍段階:400〜900℃
上記冷間圧延された鋼板に連続焼鈍処理を施す。このときの連続焼鈍温度は400〜900℃であることが好ましい。これは、優れためっき性と高い強度を共に得るためである。
【0050】
より具体的には、連続焼鈍時、焼鈍温度が低すぎると、十分な加工性を確保することが困難であり、低温でオーステナイト相を維持することができるほどのオーステナイト変態が十分に起こらないため、400℃以上で行うことが好ましい。但し、焼鈍温度が高すぎると、再結晶の過多又は結晶粒の成長によって強度が1000MPa以下と低くなる可能性がある。特に、溶融めっき時、表面に酸化物が多くなり、優れためっき性を得ることが困難であるため、その上限を900℃に制限する。
【0051】
本発明による高マンガン鋼は、相変態が起こらないオーステナイト鋼であるため、再結晶温度以上に加熱すると、十分な加工性を確保することができる。したがって、通常の焼鈍条件で焼鈍を行って製造することが好ましい。
【0052】
上述の製造条件によって製造された冷延鋼板をめっき浴に浸漬して溶融めっき鋼板に製造したり、電気めっきを行って電気めっき鋼板又は合金化溶融めっき処理による合金化溶融めっき鋼板を製造することができる。
【0053】
このとき、通常の方法及び条件で電気めっきを施すことにより上記電気めっき鋼板を製造することができる。また、連続焼鈍が施された冷延鋼板に通常の合金化溶融めっき処理を施すことにより、合金化溶融めっき鋼板を製造することができる。
【0054】
通常、電気めっき又は合金化溶融めっき工程時の熱処理条件は、一般変態組織鋼に影響を及ぼすため、適切な熱処理条件が求められる場合がほとんどであるが、本発明による高マンガン鋼は、オーステナイト単相組織を有し、変態が起こらないため、特別な熱処理条件がなくても機械的特性に大きな差異が発生しない。したがって、通常の条件でめっきを行って鋼板を製造することができる。
【0055】
また、上述のように製造された鋼板、例えば、上述の条件によって製造された冷延鋼板、溶融めっき鋼板、合金化溶融めっき鋼板又は電気めっき鋼板を、調質圧延(Skin Pass Mill)、二重圧延(Double Reduction)、熱延精整及び連続圧延のうち一つの工程で再圧延を行うことにより、加工硬化によって強度を増加させることができる。
【0056】
このときの再圧延率は、引張強度を効率的に向上させ、圧延負荷も大きくないようにするための目的で、30%以上であることが好ましい。より好ましくは30〜50%の範囲の圧下率で圧延を行う。
【0057】
図1に示すように、再圧延による微細組織の変化をEBSD(電子線後方散乱回折)で観察してみた結果、再圧延前には、圧延方向の結晶粒の縦横比が1未満程度であることを確認できる。再圧延後には、圧延方向の結晶粒の縦横比が2以上であり、且つこの結晶粒が70%以上であることを確認できる。また、双晶分率も増加することを確認できる。したがって、本発明の高マンガン鋼は、再圧延によって超高強度を確保することができ、また、優れた衝突特性を確保することができる。したがって、再圧延後の圧延方向の結晶粒の縦横比が2以上の結晶粒が70%以上であることが好ましい。
【0058】
ここで、結晶粒の縦横比(アスペクト比)は、
図2に示すように結晶粒の横(a)及び縦(b)の比率(b/a)で示した値を意味する。
【0059】
また、
図4に示すように、再圧延の前後の微細組織の粒度の大きさを観察してみた結果、再圧延前には、平均粒度の大きさが10μm程度であるが、再圧延後には、平均粒度の大きさが5μm程度と微細化し、双晶分率も増加することを確認できる。
【0060】
一般に、鋼は、冷間圧延又は引張などの変形によって結晶粒が変形方向に沿って延伸されるが、高マンガンTWIP鋼の場合は、変形によって結晶粒が延伸されるとともに双晶が形成される。このとき、形成された双晶は、結晶粒内で新たな結晶方位を形成しながら結晶粒を微細化する効果を示す。したがって、再圧延を行うと、結晶粒が微細化して超高強度を確保することができる。本発明では、再圧延後の微細組織の平均粒度の大きさが2〜10μmの方が超高強度を確保するのに好ましい。
【0061】
衝突特性はめっき層の腐食性とは異なり内部金属基地層の機械的特性に関連しており、めっきのための熱処理条件がオーステナイト単相組織を有する高マンガン鋼の機械的特性に影響を及ぼさないため、本発明はめっき鋼板の衝突特性も含む。
【0062】
このように、本発明で提案する成分系及び製造条件を満たす鋼板は、引張強度1300MPa以上と超高強度鋼板であるとともに、降伏強度も1000MPa以上である。
【0063】
即ち、本発明は、優れた強度のみならず優れた延性も確保することにより、鋼板を成形するにあたり優れた加工性を確保することができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。但し、下記実施例は、本発明をより詳細に説明するための例示に過ぎず、本発明の権利範囲を制限するものではない。
【0065】
(実施例1)
下記表1に示す成分系を有する鋼塊を1200℃の加熱炉で1時間維持した後、熱間圧延を行った。このときの熱間圧延仕上げ温度は900℃に設定し、熱間圧延後、650℃で巻き取りを行った。その後、上記熱延鋼板を利用して酸洗を行い、50%の冷間圧下率で冷間圧延を行った。その後、冷間圧延された試験片を焼鈍温度800℃、過時効温度400℃として連続焼鈍模擬熱処理を行った後、下記表2に示すように再圧延率を異ならせて再圧延を行った。
【0066】
上記製造された冷延鋼板を利用して再圧延処理するとき、再圧延率による機械的性質、即ち、引張試験を通じて強度と延伸率を評価した。下記表2に示す。このとき、再圧延された鋼板をJIS5号規格の引張試験片に加工した後、万能引張試験機を利用して引張試験を行った。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
上記表2は、表1に示す成分系を有する鋼塊を熱延、冷延してから再圧延して加工硬化させた鋼板の強度を評価した結果を示すものである。このとき、表2において再圧延時の再圧延率による引張強度、降伏強度及び延伸率に優れた鋼を区分して発明例と表記した。
【0070】
上記表2に示したように、表1の試験片1を利用した鋼種1−1から1−3は、炭素及びマンガンの含量が本発明で提案する範囲より少なくて、降伏強度及び引張強度が低く、特に、再圧延率が30%以上の場合(鋼種1−3)に比べて30%未満の場合(鋼種1−1、1−2)に降伏強度及び引張強度がさらに低い。
【0071】
また、表1の試験片2を利用した鋼種2−1及び2−2は、アルミニウムが添加されていないもので、この場合にも降伏強度及び引張強度が確保されていないことが分かる。ここでも、再圧延率が30%以上の場合(鋼種2−2)に比べて30%未満の場合(鋼種2−1)に降伏強度及び引張強度がさらに低い。
【0072】
また、表1の試験片6を利用した鋼種6−1から6−3は、マンガン及びシリコンの含量が本発明で提案する範囲を満たさないもので、降伏強度が低く、このときにも再圧延率が30%以上の場合に比べて30%未満の場合に降伏強度及び引張強度がさらに低い。
【0073】
したがって、上記の結果から、再圧延時の再圧延率を30%以上とする方が、優れた降伏強度及び引張強度を確保するのに好ましいことが分かる。
【0074】
これに対し、本発明で提案する成分系を全て満たす試験片を利用した場合(鋼種3−1から5−4)には、降伏強度及び引張強度全てに優れた値を示す。
【0075】
これと共に、再圧延による降伏強度及び引張強度の増加に対する微細組織の影響を調べるために、本発明による発明鋼5を利用して再圧延の前後の微細組織の変化をEBSDで観察した。これを
図1に示す。
【0076】
その結果、
図1に示したように、再圧延前には、圧延方向の結晶粒の縦横比が約1程度であったが、再圧延後には、圧延方向の結晶粒の縦横比が2以上であり、且つこの結晶粒が70%以上であることを確認した。また、再圧延によって双晶分率も増加することを確認した。このように、再圧延によって圧延方向の結晶粒の縦横比が増加するとともに双晶の形成が増加することにより、再圧延後の引張強度及び降伏強度が増加するものと解釈できる。このことから、上記他の発明例の場合にも、再圧延後の引張強度及び降伏強度が増加することにより、優れた衝突特性を有するものと判断できる。
【0077】
したがって、本発明の高マンガン鋼は、再圧延によって超高強度を確保することができ、また、優れた衝突特性を確保することができる。
【0078】
(実施例2)
下記表3に示す成分系を有する鋼塊を1200℃の加熱炉で1時間維持した後、熱間圧延を行った。このときの熱間圧延仕上げ温度は900℃に設定し、熱間圧延後、650℃で巻き取りを行った。その後、上記熱延鋼板を利用して酸洗を行い、50%の冷間圧下率で冷間圧延を行った。その後、冷間圧延された試験片を焼鈍温度800℃、過時効温度400℃として連続焼鈍模擬熱処理を行った。また、上記冷延鋼板を上記と同じ条件で連続焼鈍模擬熱処理した後、溶融亜鉛浴の温度を460℃に設定して溶融亜鉛めっき模擬試験を行った。そして、上記と同じように連続焼鈍した鋼板に、下記表4に示すように再圧延率を異ならせて再圧延を施した。
【0079】
上記製造された溶融亜鉛めっき鋼板のめっき性を測定した。下記表4に示す。このとき、鋼板のめっきは、溶融亜鉛浴の温度を460℃に設定し、上記溶融亜鉛浴に鋼板を入れることにより行った。その後、めっき鋼板の外観を肉眼で観察してめっき性を評価した。このとき、めっき層が均一に形成された場合には「良好」、めっき層が不均一に形成された場合には「不良」と表記し、下記表4に示す。
【0080】
また、上記製造された冷延鋼板を利用して再圧延処理するとき、再圧延率による機械的性質、即ち、引張試験を通じて強度と延伸率を評価し、下記表4に示す。このとき、再圧延された鋼板をJIS5号規格の引張試験片に加工した後、万能引張試験機を利用して引張試験を行った。
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
【0083】
上記表4において、めっき性測定結果は、表3の試験片を再圧延する前に、製造された冷延鋼板を溶融亜鉛めっき模擬実験した鋼に対するめっき性を測定した結果である。また、強度測定結果は、表3に示す成分系を有する鋼塊を熱延、冷延してから再圧延して加工硬化させた鋼板の強度を評価した結果である。
【0084】
上記表4に示すように、鋼種1−1から1−3は、表3の試験片1を利用したもので、めっき性に影響を及ぼすNi、Cr又はSnの含量が本発明で提案する範囲を満たすことにより、めっき性は良好であるが、鋼板の強度に影響を及ぼすCの含量が本発明で提案する含量より少なくて加工硬化後に引張強度及び降伏強度が確保されていない。特に、再圧延率が30%以上の場合に比べて、30%未満の場合に強度がさらに低い。
【0085】
また、表3の試験片2から4は、めっき性に影響を及ぼすSnが添加されないもので、これらを利用したそれぞれの鋼種2−1及び2−2、鋼種3−1、鋼種4−1から4−4はめっき性が劣ることを確認した。
【0086】
また、表3の試験片8を利用した鋼種8−1から8−3は、めっき性に影響を及ぼすNi、Cr、Snのいずれか1種も添加されていないもので、めっき性が非常に不良であることが観察できた。
【0087】
これに対し、本発明で提案する成分系を全て満たす試験片5から7を利用した鋼種(5−1から5−4、6−2から6−5及び7−2から7−3)は、めっき性のみならず降伏強度及び引張強度全てに優れた値を示す。但し、鋼種6−1及び7−1は、30%未満の再圧延率で再圧延を行ったもので、この場合には引張強度及び降伏強度が本発明を満たしていない。即ち、再圧延時の再圧延率が高いほど、具体的には30%以上であるほど、降伏強度及び引張強度がさらに増加した。したがって、上記の結果から、再圧延時の再圧延率を30%以上とする方が、優れた降伏強度及び引張強度を確保するのに好ましいことが分かる。
【0088】
これと共に、再圧延による降伏強度及び引張強度の増加に対する微細組織の影響を調べるために、本発明による発明鋼5を利用して再圧延後の微細組織の変化をEBSDで観察した。これを
図3に示す。
【0089】
図3に示したように、再圧延後の圧延方向の結晶粒の縦横比が2以上であり、且つこの結晶粒が70%以上であることを確認し、また、双晶が多く形成されたことを確認した。
【0090】
このように、再圧延によって圧延方向の結晶粒の縦横比が増加するとともに双晶の形成が増加することにより、再圧延後の引張強度及び降伏強度が増加するものと解釈できる。このことから、上記他の発明例の場合にも、再圧延後の引張強度及び降伏強度が増加することにより優れた衝突特性を有するものと判断できる。
【0091】
したがって、本発明の高マンガン鋼は、再圧延によって超高強度を確保することができ、また、優れた衝突特性を確保することができる。
【0092】
(実施例3)
下記表5に示す成分系を有する鋼塊を1200℃の加熱炉で1時間維持した後、熱間圧延を行った。このときの熱間圧延仕上げ温度は900℃に設定し、熱間圧延後、650℃で巻き取りを行った。その後、上記熱延鋼板を利用して酸洗を行い、50%の冷間圧下率で冷間圧延を行った。その後、冷間圧延された試験片を焼鈍温度800℃、過時効温度400℃として連続焼鈍模擬熱処理を行った。また、上記冷延鋼板を焼鈍温度800℃で連続焼鈍した後、溶融亜鉛浴の温度を460℃に設定して溶融亜鉛めっき模擬試験を行った。
【0093】
上記によって製造された冷延鋼板をJIS5号規格の引張試験片に加工した後、万能引張試験機を利用して引張試験を行った。その結果を下記表6に示す。
【0094】
また、上記連続焼鈍模擬熱処理を行った冷延鋼板及びめっき鋼板を利用して、3枚重ね溶接性が可能な電流範囲を評価した。ISO標準スポット溶接試験方法を利用して、本発明による鋼板(TWIP鋼)とMild鋼、DP鋼を3枚重ね溶接するにあたり溶接が可能な電流範囲を設定して行った。その結果を下記表6に示す。
【0095】
また、冷延鋼板から標準カップ試験片を製造し、塩水噴霧条件で遅れ破壊によるクラックの発生の有無を確認した。標準カップ試験片の製造方法により絞り比を1.8として絞りカップを製造した後、製造されたカップ試験片を塩水噴霧試験(SST)を通じてクラックの発生する時間を測定し、クラック発生時間(240時間)を基準に基準時間までクラックが発生していない場合を良好な状態と判断した。その結果を表6に共に示す。
【0096】
また、冷延鋼板を利用して再圧延処理した鋼板の成分系及び製造条件による機械的性質、即ち、引張試験を通じて強度と延伸率を評価した。下記表7及び
図5に示す。
【0097】
【表5】
【0098】
【表6】
【0099】
上記表6では、溶接電流範囲と耐遅れ破壊性が良好な鋼を区分して発明鋼と表記した。
【0100】
上記表6に示すように、表5の試験片1を利用した鋼種1は、成分系のうち炭素及びマンガンの含量が本発明で提案する範囲より少ないもので、強度及び延性が確保されておらず、耐遅れ破壊性が劣り、表5の試験片2を利用した鋼種2は、成分系のうちアルミニウムを添加していないもので、耐遅れ破壊性が劣り、クラックが発生することが確認できる。また、表5の試験片3を利用した鋼種3と試験片11を利用した鋼種11は、炭素の含量が本発明で提案する範囲より高いもので、3枚重ねスポット溶接が可能な電流範囲が1kA未満であることが確認された。また、本発明で提案するマンガン及びシリコンの含量範囲を満たさない試験片12を利用した鋼種12も、十分な強度及び延性を確保しておらず、耐遅れ破壊性も劣ることが分かる。
【0101】
しかしながら、表5の発明鋼を利用した鋼種3から10は、炭素、マンガン、アルミニウムの含量が最適化したもので、3枚重ねスポット溶接電流範囲が1kA以上と広く、耐遅れ破壊性も良好であることが確認できる。
【0102】
【表7】
【0103】
上記表7は、表5に示した成分系を有する鋼塊を熱延、冷延してから再圧延して加工硬化させた鋼板の強度を評価した結果を示すものである。
【0104】
上記表7では、再圧延率による引張強度、降伏強度及び延伸率に優れた鋼を区分して発明鋼と表記した。
【0105】
上記表7に示したように、表5の試験片1を利用した場合は、炭素及びマンガンの含量が本発明で提案する範囲より少なくて降伏強度が低く、特に、再圧延率が30%以上の場合に比べて30%未満の場合に降伏強度がさらに低い。また、炭素の含量が本発明で提案する範囲より高い試験片3又は11を利用した場合も、再圧延率が30%を超えても降伏強度又は引張強度が低く、特に、再圧延率が30%未満の場合に強度の確保がさらに困難である。また、表5の試験片12を利用した場合も、マンガン及びシリコンの含量が本発明で提案する範囲を満たさない場合であり、降伏強度が低い。但し、このとき、再圧延率が30%以上の場合に比べて30%未満の場合に降伏強度値がさらに低い。したがって、このような結果から、再圧延時の再圧延率を30%以上とする方が降伏強度を確保するのに好ましいことが分かる。
【0106】
これと共に、再圧延による降伏強度及び引張強度の増加に対する微細組織の影響を調べるために、本発明による発明鋼7を利用して再圧延の前後の微細組織の変化をEBSDで観察した。これを
図4に示す。
【0107】
図4に示したように、再圧延前には、結晶粒の平均の大きさが約10μm程度であったが、再圧延後には、結晶粒が微細化することによりその平均の大きさが約5μm程度であることを確認した。また、再圧延によって双晶分率も増加することを確認した。このように、再圧延によって結晶粒が微細化するとともに双晶の形成が増加することにより、再圧延後の引張強度及び降伏強度が増加するものと解釈できる。
【0108】
また、
図5は、上記表7の比較例及び発明例の引張強度及び降伏強度値をグラフで示したもので、比較例及び発明例の引張強度及び降伏強度範囲が確認できる。
図5に示したように、再圧延時の再圧延率によって自動車用衝突部材に求められる降伏強度1000MPa以上、引張強度1300MPa以上の優れた範囲を本発明で提案する範囲で確認できる。