特許第6377769号(P6377769)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6377769
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】乗り物用シート
(51)【国際特許分類】
   A47C 31/11 20060101AFI20180813BHJP
【FI】
   A47C31/11
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-568318(P2016-568318)
(86)(22)【出願日】2015年12月21日
(86)【国際出願番号】JP2015085677
(87)【国際公開番号】WO2016111157
(87)【国際公開日】20160714
【審査請求日】2017年6月20日
(31)【優先権主張番号】特願2015-2912(P2015-2912)
(32)【優先日】2015年1月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】藤掛 勤
【審査官】 望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】 実開平02−141256(JP,U)
【文献】 実開昭61−079964(JP,U)
【文献】 特開平02−217210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 31/11
A47C 31/02
B60N 2/58
B68G 7/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部に吊り込み部を形成したクッション材と、前記クッション材を被覆するクッションカバーと、前記クッション材と前記クッションカバーとを被覆するとともに前記クッション材と前記クッションカバーから取り外し可能な表皮材と、前記表皮材の側に取り付けた第1の締結部材と、前記クッションカバーの側に取り付けた第2の締結部材とを有し、前記クッション材に形成した前記吊り込み部の内部で、前記クッションカバーが前記吊り込み部に前記クッション材との一体発泡成形又は接着により固定されており、前記吊り込み部の内部で前記第1の締結部材と前記第2の締結部材とを締結することにより、前記クッションカバーを介して前記表皮材を前記吊り込みに沿って前記クッション材に固定する吊り込み構造を備えたことを特徴とする乗り物用シート。
【請求項2】
請求項1記載の乗り物用シートであって、前記第1の締結部材と前記第2の締結部材とはファスナー構造を有し、前記ファスナー構造の前記第1の締結部材は前記表皮材に縫着されており、前記ファスナー構造の前記第2の締結部材は前記クッションカバーに縫着されていることを特徴とする乗り物用シート。
【請求項3】
請求項記載の乗り物用シートであって、前記クッションカバーに縫着されている前記ファスナー構造の前記第2の締結部材は、前記クッション材と一体で発泡成型されて前記縫着された部分が前記クッション材に固定されていることを特徴とする乗り物用シート。
【請求項4】
請求項1記載の乗り物用シートであって、前記第1の締結部材と前記第2の締結部材とは面状ファスナー構造を有し、前記面状ファスナー構造の前記第1の締結部材は前記表皮材に固定されており、前記面状ファスナー構造の前記第2の締結部材は前記クッションカバーに固定されていることを特徴とする乗り物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートに係り、クッション材を被覆する表皮材を取り外し可能に形成するとともに、表皮材の一部をクッション材に吊り込むシートの吊り込み構造を有する乗り物用シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種、シートの吊り込む構造としては、実開平2−141256号公報(特許文献1)記載のものがある。この特許文献1に記載されているシートは、クッション材の一部に、このクッション材を被覆する表皮材の一部を吊り込むための吊り込み溝を形成し、クッション材の表面をパッドカバーで覆い、パッドカバーの一部をクッション材の吊り込み溝においてクッション材側のインサートワイヤーにホックリングで吊り込み、パッドカバーと表皮材とに取り外し可能な吊り込み部材を設け、クッション材から表皮材が取り外し可能に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平2−141256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているシートの吊り込み構造では、パッドカバーの一部をクッション材の吊り込み溝においてクッション材側のインサートワイヤーにホックリングで吊り込み、パッドカバーと表皮材とに取り外し可能な吊り込み部材を設けているので、パッドカバーの一部をクッション材の吊り込み溝に吊り込む際、吊り込み溝での深い位置での吊り込み作業は作業性が悪いので、吊り込み位置が浅くなっている。それに伴い、パッドカバーと表皮材との吊り込み部材はクッション材の吊り込み溝の浅い位置となる。このように、表皮材の吊り込み位置が浅いと、見栄えの良い吊り込み部を形成するには、表皮材の厚さを厚くする必要があるが、その為にはコストが生じる。また、厚い表皮材とした際には、表皮材を取り外してパッドカバーに着座することもできるが、表皮材の有無で着座者のヒップポイントが大きく変化するという課題が生じる。一方、表皮材の厚さを薄くすると、表皮材に浮や皺が生じて外観上見栄えが悪くなる。更には、表皮材を取り外してパッドカバーに着座すると、パッドカバー側の吊り込み部材が浅い位置なので着座者は異物感を感じるという課題もある。
【0005】
本発明は、表皮材の吊り込み位置を深い位置で簡単に吊り込むことができ、外観上見栄えが良くなる吊り込み構造を備えた乗り物用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる乗り物用シートの吊り込み構造は、一部に吊り込み部を形成したクッション材と、このクッション材を被覆するクッションカバーと、前記クッション材と前記クッションカバーとを被覆するとともに前記クッション材と前記クッションカバーから取り外し可能な表皮材と、前記表皮材の側に取り付けた第1の締結部材と、前記クッションカバーの側に取り付けた第2の締結部材とを有し、前記クッション材に形成した前記吊り込み部の内部で、前記クッションカバーが前記吊り込み部に前記クッション材との一体発泡成形又は接着により固定されており、前記吊り込み部の内部で前記第1の締結部材と前記第2の締結部材とを締結することにより、前記クッションカバーを介して前記表皮を前記吊り込み溝に沿って前記クッション材に固定することを特徴とする。


【0007】
前記クッションカバーは前記クッション材の吊り込み部に形成した吊り込み溝に固定しているので、クッションカバーをクッション材に吊り込む作業が不要となり、クッションカバーを吊り込み部の深い位置での固定ができる。表皮材と前記クッションカバーとの間には吊り込み部材が設けられているが、吊り込み部材はクッション材の吊り込み部の深い位置でも吊り込むことができ、厚さの薄い表皮材であっても、吊り込み部の外観の見栄えが良くなる。また、薄い表皮材を取り外して、クッションカバーに着座しても、着座者のヒップポイントの変化を最小限とすることができ、しかも、吊り込み部材は深い位置に設けることができるので、吊り込み部材による異物感もなく、着座感が良くなる。
【0008】
前記クッションカバーを前記クッション材の吊り込み部で面状ファスナにより固定することが好ましく、前記クッションカバーの前記クッション材への固定作業が容易化する。
【0009】
前記クッションカバーを前記クッション材の吊り込む部に一体発泡成形することが好ましく、前記クッションカバーの前記クッション材への固定作業が容易化する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前記クッションカバーを前記クッション材の吊り込み部に形成した吊り込み溝に沿って固定することにより、表皮材の吊り込み位置を深い位置で簡単に吊り込むことができ、外観上見栄えが良くなるとともに、吊り込み作業が容易にできる吊り込み構造を備えた乗り物用シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る吊り込み構造を用いた乗り物用シートの斜視図である。
図2図1に示すシートにおける表皮材を取り外した斜視図である。
図3図1に示すA−A線に沿う部分断面図である。
図4図3に示すD部分の拡大図である。
図5】本発明に係る他の実施例を示す図4相当の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、シートクッションとシートバックとを備えたシートにおいて、シートクッション及びシートバックに、クッション材と、クッション材の表面を覆うクッションカバーと、クッションカバーの表面を覆いクッションカバーに対して着脱可能な表皮材と、この表皮材をクッション材の側に吊り込む吊り込み部材とを備え、表皮材とクッションカバーとは、クッション材に設けた溝部の内部で吊り込み部材により着脱可能に締結するように構成したものである。
以下、図面を参照しつつ本発明に係る乗り物用シートの吊り込み構造の好適な実施形態について詳細に説明する。本実施例では乗り物用シートとして自動車用シートの場合につき説明するが、乗り物用シートはこれに限られず、例えば、航空機、客船、電車等のシートであっても良い。
【実施例1】
【0013】
図1、2に示されるように、自動車用シート100は、フロア上で前後に移動自在なシートクッションSC:120と、シートクッションSC:120に対してリクライニング可能なシートバックSB:110とを備えている。シートクッションSC:120及びシートバックSB:110は、図3に示すように、発泡体からなるクッション材2がクッションカバー10で覆われるとともに、クッション材2から取り外し可能な表皮材3で被覆されている。
【0014】
このシート100において、シートクッションSC:120及びシートバックSB:110には、ライン状の吊り込み部B1〜B6が設けられている。この吊り込み部B1〜B6は、シート100の外観を形成する。
【0015】
ここで、シートバックSB:110を例に挙げて説明する。図2図4に示されるように、シートバックSB:110のクッション材2は、着座者の背凭れ面となるメインバック部SB1:111と、着座者の上半身を左右の横方向から保持するためのサイドバック部SB2:112とを有している。
【0016】
図3には、図1におけるA−A断面を示す。クッション材2はクッションカバー10で覆われている。このクッションカバー10は、クッション材2のメインバック部SB1:111を被覆する第一カバー11と、サイドバック部SB2:112を被覆する第二カバー12と、によって形成されている。クッションカバー10の第一カバー11と第二カバー12とは、吊り込み部材を構成する第一開閉式ファスナ5の基端51を間に挟んで継ぎ合わせ部4において縫着されている。
【0017】
この継ぎ合わせ部4において第一カバー11と第二カバー12とに縫着された第一開閉式ファスナ5は、クッション材2に形成した吊り込み部を形成する吊り込み溝21の溝面22に沿って第一カバー11と第二カバー12が吊り込み溝21内に固定され、吊り込み溝21内に位置している。第一カバー11と第二カバー12は、吊り込み溝21の溝面22にクッション材2と一体発泡により固定されている。第一カバー11と第二カバー12は、吊り込み溝21の溝面22に接着により固定しても良い。
ここで、クッションカバー10は、その一部として第一カバー11と第二カバー12として説明するが、吊り込み部B1〜B6での互いに隣接するクッションカバー10においても同様に構成されている。また、このシートバックSB:110では、吊り込み溝21は、クッション材2の上下方向、左右方向に形成され、シートクッションSC:120では、前後方向、左右方向に形成されている。
【0018】
そして、クッション材2は取り外し可能な表皮材3で被覆されている。この表皮材3はクッション材2を覆うクッションカバー10とクッション材2とから取り外し可能に設けられている。この表皮材3はクッション材2の後面を被覆する周囲表皮材31と背凭れ面側を被覆する主面表皮材32とからなる。。主面表皮材32はその外周に沿って第一締結部32aが設けられ、周囲表皮材31の外周に沿って第二締結部31aが設けられている。図2において矢印C1で示す主面表皮材32の第一締結部32aと周囲表皮材31の第二締結部31aとは締結可能に形成されている。主面表皮材32の第一締結部32aと周囲表皮材31の第二締結部31aとの締結を解除することにより、主面表皮材32の外周を周囲表皮材31から取り外すことができる。
【0019】
更に、主面表皮材32には、図2、3に示すように、クッションカバー10の第一開閉式ファスナ5と開閉可能に締結する第二開閉式ファスナ6が取り付けられている。
主面表皮材32は、クッション材2のメインバック部SB1:111を被覆する第一主面表皮材32bと、サイドバック部SB2:112を被覆する第二主面表皮材32cと、によって形成されている。第一主面表皮材32bと第二主面表皮材32cとは、継ぎ合わせ部7において縫着されている。この継ぎ合わせ部7の箇所においては、吊り込み部材を構成する第二開閉式ファスナ6の基端61が第一主面表皮材32bと第二主面表皮材32cとの間に縫い合わされている。第一開閉式ファスナ5と第二開閉式ファスナ6とで、吊り込み部材を構成している。
【0020】
主面表皮材32の第二開閉式ファスナ6は、クッションカバー10の第一開閉式ファスナ5と、図2で矢印C2、C3,C4で示した組合せで、開閉可能に締結することができる。主面表皮材32の第二開閉式ファスナ6をクッションカバー10の第一開閉式ファスナ5に締結することにより、図3に示すように、表皮材3の一部が吊り込まれ、クッション材2の上下、左右に凹部形状が形成されている。
ここで、表皮材3は、その一部として第一主面表皮材32bと第二主面表皮材32cとして説明するが、吊り込み部B1〜B6での互いに隣接する表皮材3においても同様に構成されており、図2の矢印C5〜C8の組合せで開閉可能に締結されている。この主面表皮材32は表皮とその内部のワディングとから形成されている。
【0021】
図3の円Dで囲んだ部分の拡大図として図4に示したように、かかる吊り込み構造では、第一カバー11と第二カバー12は、吊り込み溝21の溝面22にクッション材2と一体発泡成形することにより固定される。これにより、クッションカバー10に縫着した第一開閉式ファスナ5をクッション材2の吊り込み溝21の内部に固定する作業が不要になる。従って、第一開閉式ファスナ5を吊り込み溝21の深い位置に設定することができる。その結果、薄い表皮材3であっても、吊り込み部B1に凹部形状が形成され、見栄えが良くなる。また、シートクッションSC:120では、表皮材3を取り外してクッションカバー10に着座しても、着座者のピップポイントの変化が少なく、表皮材3の有無によりピップポイントの差を少なくできる。薄い表皮材3であっても、吊り込み部B1に凹部形状が形成され、見栄えが良くなるので、厚い表皮材とする必要がなく、その分、コストの低減化が図られる。
【0022】
表皮材3を取り外して、クッションカバー10に着座した際、クッションカバー10側の第一開閉式ファスナ5は吊り込み溝21の深い位置にあるため、第一開閉式ファスナ5による異物感が無く、着座感の良好化が図られる。
クッションカバー10の第一開閉式ファスナ5の基部51を挟んで縫着した継ぎ合わせ部4は、吊り込み溝21の溝面22にクッション材2と一体発泡成形により固定されているので、吊り込み溝21の形状が広くなり、表皮材3側の第二開閉式ファスナ6をクッションカバー10側の第一開閉式ファスナ5に締結する作業が容易で、簡単に表皮材3を吊り込み溝21に吊り込むことができる。
【実施例2】
【0023】
図5は本発明に係る吊り込み構造の第2の実施例を示す。実施例1とは異なる構成につき説明し、同様な構成については実施例1と同符号を付し、その説明は省略する。
実施例1では、第一開閉式ファスナ5の基部51を挟んで縫着したクッションカバー10の継ぎ合わせ部4をクッション材2と一体発泡成形して溝面22に固定する構成であった。これに対して本実施例では、これに替えて面状のファスナを用いてクッションカバー10の継ぎ合わせ部4を吊り込み溝21に固定する構成とした。
即ち、本実施例においては、面状のファスナ8クッション材2と一体発泡成形して吊り込み溝21の溝面21aに固定した。一方、開閉式ファスナ5の基部51を挟んで縫着したクッションカバー10の継ぎ合わせ部4の側にも面状のファスナ9を縫合して取り付けた。表皮材3の側の構成、及び、吊り込み溝21の内部における表皮材3側の第二開閉式ファスナ6とクッションカバー10側の第一開閉式ファスナ5との締結構造は、実施例1の場合と同様であるので、説明を省略する。
図5に示すように、本実施例においては、クッション材2に形成した吊り込み溝21の底面21aには、第一面状ファスナ8が吊り込み溝21に沿って固定されている。そして、この第一面状ファスナ8に取り外し可能な第二面状ファスナ9がクッションカバー10の第一カバー11と第二カバー12に設けられている。第一面状ファスナ8と第二面状ファスナ9とで吊り込み部材を構成している。
【0024】
かかる吊り込み構造では、クッションカバー10側の第二面状ファスナ9を第一面状ファスナ8に接着することにより、クッションカバー10を吊り込み溝21の溝面22に沿って固定することができるので、クッションカバー10の吊り込み溝21への固定作業が容易に行える。
なお、上記に説明した実施例2においては、クッション材2に形成した吊り込み溝21の底面21aに第一面状ファスナ8を固定する構造で説明したが、実施例1の図3及び4で示した構造の第一開閉式ファスナ5と第二開閉式ファスナ6とを実施例2で説明した第一面状ファスナ8と第二面状ファスナ9とに置き換えて、クッションカバー10と表皮材3とを第一面状ファスナ8と第二面状ファスナ9とで着脱するようにしてもよい。
【0025】
上記では、吊り込み部B1につき説明しているが、他の吊り込み部B2〜B6もB1と同様な構成であることはいうまでもない。
本発明は上記実施例に限られず、本発明の範囲内であれば、種々、変形することができることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、乗用車やバス、トラックなどの車両、及び航空機、客船、電車等の乗り物用シートに適用することができる。
【符号の説明】
【0027】
2・・・クッション材 10・・・クッションカバー 3・・・表皮材
5,6・・・吊り込み部材 B1〜B6・・・吊り込み部 8,9・・・面状ファスナ 100・・・車両用シート 110・・・シートクッション 120・・・シートバック
図1
図2
図3
図4
図5