(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6377875
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】衣服および衣服セット
(51)【国際特許分類】
A41D 13/12 20060101AFI20180813BHJP
A41D 13/00 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
A41D13/12 145
A41D13/12 190
A41D13/00 102
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-73068(P2018-73068)
(22)【出願日】2018年4月5日
(62)【分割の表示】特願2017-213946(P2017-213946)の分割
【原出願日】2017年11月6日
【審査請求日】2018年4月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514171474
【氏名又は名称】▲廣▼▲瀬▼ 幸治
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100117097
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 充浩
(72)【発明者】
【氏名】▲廣▼▲瀬▼ 幸治
【審査官】
▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−013211(JP,A)
【文献】
実開平02−050204(JP,U)
【文献】
特開2004−105605(JP,A)
【文献】
実開昭57−069812(JP,U)
【文献】
登録実用新案第3041264(JP,U)
【文献】
特開2004−084151(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3167349(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 1/02 − 1/04
3/00 − 3/08
29/00
A41D 13/00 − 13/12
A44B 1/02
H02F 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の身体の少なくとも一部を筒状に被包することができ、前記筒は破断され、その破断により対を成す破断面の近傍には、該対を成す破断面間で磁気吸着することができる第1の磁気吸着部材を備える上着と、
非着用の状態で、大略帯状に形成され、略中央部に前記使用者の首を通す孔が形成されることで、着用状態では、前記使用者の前側および背中側に垂下がり、垂下がって使用者の体外側となる表面で、前記上着の破断面を案内することで、前記上着の着用の補助となるアンダーウエアとを備えることを特徴とする衣服セット。
【請求項2】
前記対を成す破断面は、少なくとも一部の箇所において、隣接する箇所と、相互に異なる形状に形成されることを特徴とする請求項1記載の衣服セット。
【請求項3】
前記上着は左右のピースに半割れ可能であり、前記上着およびアンダーウエアの肩部には、相互に磁気吸着する第2の磁気吸着部材が設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の衣服セット。
【請求項4】
前記上着およびアンダーウエアには、前記上着を前記半割れにする境界線付近に、相互に磁気吸着する第3の磁気吸着部材が設けられていることを特徴とする請求項3記載の衣服セット。
【請求項5】
前記アンダーウエアは、メッシュ生地から成ることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の衣服セット。
【請求項6】
前記アンダーウエアは、放射線遮断素材から成ることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の衣服セット。
【請求項7】
使用者の身体の少なくとも一部を筒状に被包することができ、前記筒は破断され、その破断により対を成す破断面の近傍には、該対を成す破断面間で磁気吸着することができる電磁石が設けられており、
前記電磁石は、制御装置によって電力付勢が制御されており、
前記制御装置には、情報処理端末と近距離無線通信によって、前記電力付勢の指示が与えられることを特徴とする衣服。
【請求項8】
前記情報処理端末は、音声認識によって、前記制御装置に前記電力付勢の指示を与えることを特徴とする請求項7記載の衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体の少なくとも一部を筒状に被包することができる、たとえば胴部や腕部を被包するシャツなどの衣服に関し、特に身体の機能に不自由がある使用者やギブスを嵌めた使用者に脱いだり着たりし易くすることができるように、前記の筒が破断されている衣服、およびそれを用いる衣服セットに関する。
【背景技術】
【0002】
障害者やお年寄りが脱いだり着たりし易い衣服を実現するために、たとえば特許文献1では、電磁ボタンが提案されている。この従来技術によれば、使用者が上着を着て(袖を通して)、前見頃(シャツの場合は前立て)を合せて、前記電磁石を励磁することで係合を行わせている。これによって、片手の不自由な人や、幼児・お年寄り等の細かな作業ができない使用者にも、脱いだり着たりし易い衣服が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の従来技術では、電磁石の極性が互い違いに配置されており、前見頃が大きくずれて吸着してしまう、すなわちボタンの掛け違いのような着間違いを防止することができるようにもなっている。しかしながら、普通の衣服にボタンだけ細工をしたので、手が上がらなかったり、ギブスを嵌めていたりして、袖などを通すことができない使用者は着用することができない。
【0005】
本発明の目的は、身体の機能に不自由がある使用者やギブスを嵌めた使用者が容易に着脱することができる衣服および衣服セットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の衣服セットは、使用者の身体の少なくとも一部を筒状に被包することができ、前記筒は破断され、その破断により対を成す破断面の近傍には、該対を成す破断面間で磁気吸着することができる第1の磁気吸着部材を備える上着と、非着用の状態で、大略帯状に形成され、略中央部に前記使用者の首を通す孔が形成され、着用状態では、前記使用者の前側および背中側に垂下がり、その表面で、前記上着の破断面を案内することで、前記上着の着用の補助となるアンダーウエアとを備えることを特徴とする。
【0007】
上記の構成によれば、身体の少なくとも一部を筒状に被包することができる、たとえば胴部や腕部を被包するシャツなどの衣服において、その筒を破断して、前記胴部や腕部を衣服の中を通さず、つまり体を大きく動かさなくても、前記胴部や腕部に周囲から巻付けるようにして、着用できる衣服を作成する。これによって、身体の機能に不自由がある使用者や、ギブスを嵌めた使用者にでも、着用することができる衣服を作成することができる。
【0008】
しかしながら、そのような衣服は、対を成す破断面間をボタンなどで止めていたのでは、前記胴部や腕部を衣服の中を通さなくてもよいものの、前記身体の機能が不自由な人にとっては、脱いだり着たりすることが、非常な困難となる。そこで、本発明では、第1の磁気吸着部材を破断面の近傍に設け、対を成す破断面間を磁気吸着で止める。これによって、破断面が或る程度近付くと吸着によって相互に係止し、また引き離すことでその吸着が外れ、容易に脱いだり着たりすることができるようになる。たとえば、片手が不自由な使用者でも、もう片方の手で脱いだり着たりすることができる。また、磁気吸着であるので、その吸着力は継続して発揮され、吸着力を上回る力が加わらないと吸着が外れないので、不所望に脱げてしまったりすることもない。
【0009】
さらに、前記の衣服を上着として使用し、その着用の補助となるアンダーウエアを組合わせて、衣服セットを構成する。このアンダーウエアは、着用すると、帯状の生地に孔を開けて首を通した、簡単なチョッキ、つまり袖無しの胴着の両脇を開いたようなものとなる。したがって、このアンダーウエアを被るだけで、その表面で、前記上着の破断面が案内され、容易に着用することができる。
【0010】
また、本発明の衣服セットでは、前記対を成す破断面は、少なくとも一部の箇所において、隣接する箇所と、相互に異なる形状に形成されることを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、前記対を成す破断面がずれて吸着してしまう、すなわちボタンの掛け違いのような着間違いを防止することができ、前記身体の機能に不自由がある使用者やギブスを嵌めた使用者に優しい衣服を提供することができる。
【0012】
さらにまた、本発明の衣服セットでは、前記上着は左右のピースに半割れ可能であり、前記上着およびアンダーウエアの肩部には、相互に磁気吸着する第2の磁気吸着部材が設けられていることを特徴とする。
【0013】
上記の構成によれば、上述のようにアンダーウエアが上着の案内となるので、上着は左右2ピースに分割されるだけで、着用し易い。特に、使用者が袖を通せる場合、胸元や煩雑な腕周りは破断(展開可能)にする必要は無いので、より着用し易くすることができる。そして、上着およびアンダーウエアの肩部には、相互に磁気吸着する第2の磁気吸着部材が設けられているので、半割れの上着を肩部に乗せるだけで、首回りが出る正しい位置に着用することができる。
【0014】
また、本発明の衣服セットでは、前記上着およびアンダーウエアには、前記上着を前記半割れにする境界線付近に、相互に磁気吸着する第3の磁気吸着部材が設けられていることを特徴とする。
【0015】
上記の構成によれば、第3の磁気吸着部材の吸着によって、半割れの上着が、アンダーウエアの上で、前見頃および後ろ身頃を合せた正しい位置に着用することができる 。
【0016】
さらにまた、本発明の衣服セットでは、前記アンダーウエアは、メッシュ生地から成ることを特徴とする。
【0017】
上記の構成によれば、メッシュの通気性を利用して、アンダーウエアの機能を向上することができる。
【0018】
また、本発明の衣服セットでは、前記アンダーウエアは、放射線遮断素材から成ることを特徴とする。
【0019】
上記の構成によれば、アンダーウエアは、鉛板をぶら下げる放射線遮蔽服として使用することができる。その上で、上着を、粉塵などに対する放射線防護服として使用することができる。そして、その放射線防護服は、上述のように、非常に着用し易い。
【0020】
さらにまた、本発明の衣服は、使用者の身体の少なくとも一部を筒状に被包することができ、前記筒は破断され、その破断により対を成す破断面の近傍には、該対を成す破断面間で磁気吸着することができる電磁石が設けられており、前記電磁石は、制御装置によって電力付勢が制御されており、前記制御装置には、情報処理端末と近距離無線通信によって、前記電力付勢の指示が与えられることを特徴とする。
【0021】
上記の構成によれば、前記破断面の近傍に電磁石を設けておくことで、逆極性に付勢することで、解放、すなわち脱ぐことが容易になる。また、スマートフォンなどの情報処理端末で、電磁石の吸着や解放を制御することができ、利便性を向上することができる。
【0022】
また、本発明の衣服では、前記情報処理端末は、音声認識によって、前記制御装置に前記電力付勢の指示を与えることを特徴とする。
【0023】
上記の構成によれば、スマートフォンのネットワークを利用した人工知能による音声認識機能などを利用して、使用者が情報処理端末に話し掛けるだけで、電磁石の吸着や解放を制御、すなわち着たり脱いだりすることができ、特に手の不自由な使用者の利便性を向上することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の衣服および衣服セットは、以上のように、身体の少なくとも一部を筒状に被包することができる、たとえば胴部や腕部を被包するシャツなどの衣服において、その筒を破断して、前記胴部や腕部を衣服の中を通さず、周囲から巻付けるようにすることで、身体の機能に不自由がある使用者や、ギブスを嵌めた使用者にでも、着用できる衣服を作成することができる。
【0025】
さらに、対を成す破断面間を磁気吸着や電磁吸着で止めるので、容易に脱いだり着たりすることができ、たとえば片手で脱いだり着たりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施の一形態に係る衣服の正面図である。
【
図2】前記衣服において着脱の際に開ける破断面の構造を模式的に示す正面図である。
【
図3】前記破断面の構造を模式的に示す断面図である。
【
図4】本発明の実施の他の形態に係る衣服セットにおけるアンダーウエアの斜視図である。
【
図5】本発明の実施のさらに他の形態に係る衣服セットにおける上着の正面図である。
【
図6】
図5で示す上着と合わせて着用されるアンダーウエアの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の一形態に係る衣服1の正面図である。この衣服1は、上着であるシャツを模式的に示しているが、本発明は、上半身に着用する衣服だけでなく、ズボンなどの下半身に着用する衣服であってもよい。ただし、本発明が対象とする衣服は、身体の少なくとも一部を筒状に被包することができる衣服である。
図1の場合、使用者2の胴部21および腕部22を筒状に被包する。つまり、そのままでは、使用者2は、前記筒に、首23や腕部22を通したりして着用する必要のある衣服である。
【0028】
しかしながら、この衣服1は、身体の機能に不自由がある使用者や、ギブスを嵌めた使用者にでも着用できるように、前記の筒を破断して、胴部21や腕部22を衣服1の中を通さず、つまり体を大きく動かさなくても、該胴部21や腕部22に周囲から巻付けるようにして、着用できるようになっている。前見頃11(シャツの場合は前立て)の部分の縦方向への破断面を参照符号111で示し、胸部12での横方向への破断面を参照符号121で示し、袖13の前腕部での破断面を参照符号131で示している。
【0029】
この衣服1は、そのように筒を切り開いて使用者2が着用することが可能になっているので、着用した後には、破断面111,121,131を閉じて、脱げ難くする必要がある。そこで、破断面111,121,131の近傍には、その間を連結するように、面ファスナー112,122,132が設けられている。面ファスナー112,122,132は、片手で引き剥がしたり、押し付けたりすることで、衣服1の脱着が可能になるが、同様に片手操作が可能なホックが用いられてもよい。このようにして、胴部21や腕部22に周囲から巻付けるようにして着用しても、該胴部21や腕部22を筒状の衣服1に通して着た場合と同様に、脱げ難くすることができる。
【0030】
この衣服1は、上述のように、使用者2の胴部21や腕部22を該衣服1の中を通さなくて脱着できるものの、該衣服1を使用者2の肩部24に掛け、面ファスナー112,122,132を貼付けるまでに、破断面111,121,131を合せる作業に困難がある。そこで本実施形態の衣服1では、
図2で示すように、破断面14の近傍に(
図2では破断面14に)、第1の磁気吸着部材である磁石3を設けている。
図2の破断面14は、同様の構造を有する破断面111,121,131を代表して示すものであり、
図2は、共通の破断面14に隙間を生じているように、該破断面14を僅かに離した状態で示している。
【0031】
したがって、使用者2が衣服1を肩部24に掛け、面ファスナー112,122,132を貼付ける前に、対を成す破断面14間を或る程度近付けることで、磁石3が磁気吸着によって相互に係止し、仮止めを行うことができる。その後、使用者2は、面ファスナー112,122,132を貼付けることで、強固に本止めすることができる。一方、面ファスナー112,122,132を剥がし、衣服1の一部を引っ張って磁石3を引き離すことで、その吸着が外れる。こうして、たとえば片手が不自由な使用者でも、もう片手で脱いだり着たりすることができ、身体の機能が不自由な使用者や、ギブスを嵌めている使用者にとっても、衣服1を、容易に着たり脱いだりすることができる。また、磁気吸着であるので、その吸着力は継続して発揮され、吸着力を上回る力が加わらないと吸着が外れないので、不所望に脱げてしまったりすることもない。
【0032】
さらに、注目すべきは、本実施形態の衣服1では、対を成す破断面14を、少なくとも一部の箇所において、隣接する箇所と、相互に異なる形状に形成しておくことである。
図2の例では、参照符号14aで示す破断基準面に対して、破断面14は凹凸に形成されており、対向面間では、その凹凸の位相が一致している。しかしながら、参照符号L1で示す凹凸の部分と、参照符号L2で示す凹凸の部分との長さが異なる。これによって、対を成す破断面14がずれて吸着してしまう、すなわちボタンの掛け違いのような着間違いを防止することができ、前記身体の機能に不自由がある使用者やギブスを嵌めた使用者に、優しい衣服を提供することができる。
【0033】
さらにまた、注目すべきは、本実施形態の衣服1では、磁石3は、破断面14の破断方向に連続して形成されておらず、分断されており、その分断部分に電磁石4が設けられていることである。電磁石4は、導線または導電板41を介して、制御装置5(
図1参照)に接続されている。制御装置5は、衣服1のポケット15などに内蔵されており、使用者2の指示に応答して、電磁石4を電力付勢(通電)するか否か、および電力付勢(通電)する場合の付勢(通電)方向を制御する。
【0034】
制御装置5が、電磁石4を吸着方向に電力付勢(通電)することで、使用者2が大まかに合せていた衣服1の破断面14を完全に一致させて、磁石3の係合を行わせることができる。磁石3の吸着後、電力付勢(通電)が停止され、磁石3の吸着のみとなり、前記制御装置5の電池の消耗が抑えられる。したがって、電池切れで、衣服1が不所望に脱げてしまうようなこともない。電力付勢(通電)の停止は、使用者2の操作によって行われてもよく、または制御装置5にタイマー機能を持たせて、それで行われてもよい。面ファスナー112,122,132が剥がされている状態で、制御装置5が、電磁石4を反発方向に電力付勢(通電)することで、その反発力は磁石3の吸着力を超えて、衣服1の破断面14が外れ、衣服1を脱ぎ易くなる。
【0035】
このように、破断面14の全部に磁石3を設けるのでは無く、一部に電磁石4を設けておくことで、吸着力をアップすることができるとともに、逆極性に付勢することで、解放、すなわち脱ぐことが容易になる。
【0036】
さらに、制御装置5によって、電磁石4の電力付勢(通電)を制御する場合、
図1で示すように、その制御装置5を、スマートフォン61などの情報処理端末によって制御することが好ましい。詳しくは、スマートフォン61は、近距離無線通信62によって、制御装置5に、電力付勢(通電)の指示を与える。そうすることで、スマートフォン61で、電磁石4の吸着や解放を制御することができ、利便性を向上することができる。
【0037】
さらに好ましくは、スマートフォン61は、音声認識によって、制御装置5に前記電力付勢の指示を与える。その音声認識は、スマートフォン61がネットワーク63を介してサーバコンピュータ64に音声データを送信し、人工知能による音声認識機能などを利用して実現することができる。これによって、使用者2がスマートフォン61に話し掛けるだけで、電磁石4の吸着や解放を制御、すなわち着たり脱いだりすることができ、特に手の不自由な使用者の利便性を向上することができる。
【0038】
ところで、衣服1の生地10は、様々である。本実施形態の衣服1も、下着として着用されてもよく、上着として着用されてもよい。たとえば、綿素材は、皺が寄り易く、衣服1自体、或いはその下に着込まれているシャツが、そのような皺の寄り易い素材である場合、その皺のために、破断面14が皺に埋もれてしまったり、或いは破断面14間に皺を挟み込んだりしてしまう可能性がある。そこで本実施形態の衣服1では、
図3で示すように、対を成す破断面14の一方の生地101の裏面に、案内テープ7が貼付けられている。
【0039】
この案内テープ7は、ファスナーにおけるスライダーを案内するような案内テープと同様である。したがって、この案内テープ7を設けておくことで、磁石3や電磁石4による磁気吸着の際に、生地102側の破断面14が生地101の裏面に潜り込んだり、下に着ている下着等の皺に阻害されたりすることを未然に防止し、対を成す破断面14同士を、円滑に磁気吸着させることができる。
【0040】
さらに、本実施形態の衣服は、上述のように、ズボンなどに適用されてもよいが、本実施形態の衣服1は、上着のシャツを例示している。その場合、
図1で示すように、破断面14は、破断面111による左右の前開きとともに、破断面121による胸元から、破断面131による前腕部に連通して形成されることが好ましい。これは、上着で、肩24や腕22を通すにあたって、肩24や、それから連なる腕22の頂部241,221に破断面121,131を形成すると、衣服が前後に分割されることになるのに対して、この
図1のように胸元から前腕部に破断面121,131を形成すると、衣服1は、後ろ側に多く分割されることになるためである。これによって、肩24や腕22の頂部241,221を越えて、胸元から前腕部に垂れ下がる部分が引っ掛かる、つまりずり落ちないので、前記後ろ側を先に装着して、次に前側を持って来て、破断面111,121,131同士を合せることで、容易に着用することができる。
【0041】
また、こうして上着の衣服1が破断面121によって胸元で切り開かれて後ろ側の部分が肩24に載るようになっている場合、肩パッド16が入れられていることが好ましい。そうすることで、よりずり落ち難くなる。
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の他の形態に係る衣服セットを構成するアンダーウエア8の斜視図である。このアンダーウエア8は、
図4(a)で示すように、非着用の状態で、大略帯状に形成され、その帯の長手方向および幅方向の略中央部に、使用者2の首23を通す孔81が形成される。破断面161は、使用者2の胸元に、横一直線で形成されている。これによって、このアンダーウエア8は、
図4(b)で示すように、着用状態では、使用者2の前側および背中側に垂下がるものである。つまり、着用すると、帯状の生地に孔81を開けて首23を通した、簡単なチョッキ、つまり袖無しの胴着の両脇を開いたようなものとなる。破断面161は、磁石3や電磁石4を備えており、また面ファスナー162によって、本止めされる。
【0042】
したがって、このアンダーウエア8は、2つのピース82,83に分割されるだけで、着用し易く、特に煩雑な腕周りを止める必要が無いので、袖を通し難い使用者が着用し易い。着用は、孔81に首23を通して、ピース83を背中にあてがい、ピース82を胸元にあてがい、破断面161の磁石3や電磁石4を吸着させて仮止めを行い、面ファスナー162で本止めを行うことで実現することができる。
【0043】
2つのピース82,83の表面には、帯の長手方向に延びる磁石84が敷設される。そうすることで、この着易いアンダーウエア8を着用した上で、上述の上着の衣服1をセットで着用し、上着側の磁石と磁石84との吸着によって、弛みなどの無いように正しく着付けを行うことができる。好ましくは、ピース82,83が、メッシュ生地から成ることで、該アンダーウエア8が、メッシュの通気性によって、蒸れずに好適である。このような上着(衣服1)とアンダーウエア8との組合わせは、介護用などに好適である。
【0044】
また、孔81の中央から胸元の破断面161の中央に、切れ目163を形成しておくことで、このアンダーウエア8は、袖も無く、面ファスナー162を外し、電磁石4の電力付勢(通電)を解除して、2つのピース82,83に分割すれば、首23の周りを切り開くことができる。これによって、面ファスナー162を緩めて上着(衣服1)を着用し、電磁石4の電力付勢(通電)を解除した後、ピース82,83の両端を引っ張ることで、上着(衣服1)の内側で脱ぐことができる。これによって、上着(衣服1)を正しく着ることができる。
(実施の形態3)
図5は、本発明の実施のさらに他の形態に係る衣服セットにおける上着9の正面図である。この上着9は、
図1〜3で示す衣服1に類似し、対応する部分には同一の参照符号を付して、その説明を省略する。注目すべきは、この上着9は、左右のピース91,92に、半割れし、左右から1人で着脱可能になっていることである。つまり、前見頃11、胸部12、袖13だけでなく、背中17にも破断面171が形成されていることである。その破断面171には、前側の破断面111と同様に、磁石3や電磁石4が設けられている(図示せず)。この上着9は、胸部12や袖13には破断面121,131が形成されていない、つまり使用者2は袖13を通して着用する必要があるが、衣服1と同様に、破断されていてもよい。
【0045】
また注目すべきは、本実施形態では、そのような半割れのピース91,92を着用し易くするために、
図6で示すようなアンダーウエア8aが、合せて着用されることである。このアンダーウエア8aは、アンダーウエア8と同様に、非着用の状態では、
図6(a)で示すように大略帯状に形成され、その帯の長手方向および幅方向の略中央部に、使用者2の首23を通す孔81aが形成される。
図6(b)で示す着用状態では、使用者2の前側および背中側に、2つのピース82a,83aが、それぞれ垂下がる。したがって、着用すると、帯状の生地に孔81aを開けて首23を通した、簡単なチョッキ、つまり袖無しの胴着の両脇を開いたようなものとなる。そして、このアンダーウエア8aを被るだけで、その表面で、下着の皺の影響などを受けることなく、上着9の破断面111,171が案内され、容易に着用することができる。このアンダーウエア8aは、2つのピース82a,83aが連結されて構成されているが、前述のアンダーウエア8のように、破断面161で分割可能となっていてもよい。
【0046】
また、注目すべきは、本実施形態では、上着9の肩部24およびアンダーウエア8aの肩部87には、相互に磁気吸着する第2の磁気吸着部材である磁石951,952;851,852が設けられていることである。なお、磁石951,952と851,852との一方が、鉄板などの磁性体であってもよい。アンダーウエア8a側の磁石851,852は、棒状で、肩部87の折り曲がり部分に、縫い付けや貼付けで固定されている。上着9側の磁石951,952は、棒状で、馬の鞍状の肩当て961,962の頂部に搭載され、その肩当て961,962が上着9の肩部24の内側から縫い付けなどで固定される。磁石851,852は、
図4のアンダーウエア8にも示す。
【0047】
このように構成することで、半割れの左右のピース82a,83aを、使用者2が袖13を通してゆくと、上述のようにアンダーウエア8aの表面が上着9の内面を案内し、やがて磁石951,952;851,852同士が吸着すると、半割れの上着9を肩部24に乗せ、首23回りが出る正しい位置に着用することができる。こうして、上着9を容易に着用することができる。特に、使用者2が袖13を通せる場合、上述の胸元12や煩雑な腕22周りは破断(展開可能)にする必要は無いので、より着用し易くすることができる。
【0048】
さらにまた、注目すべきは、本実施形態では、上着9およびアンダーウエア8aにおいて、上着9を左右のピース82a,83aに半割れにする境界線(破断面111,171)付近に、相互に磁気吸着する第3の磁気吸着部材である磁石941,942;841,842が設けられていることである。したがって、磁石941,942;841,842の吸着によって、半割れの上着9が、アンダーウエア8aの上で、前見頃11および後ろ身頃(17)を合せた正しい位置に着用することができる 。
【0049】
ここで、このような上着9とアンダーウエア8aとの組合わせによる衣服セットは、放射線作業で着用する衣服として好適である。具体的には、2つのピース82a,83aは、布などの基材821,831の裏面に、放射線遮断素材822,832、たとえば鉛板が貼付けられて構成される。そうすることで、アンダーウエア8aは、鉛板をぶら下げる放射線遮蔽服として使用することができる。一方、上着9を、フードやマスクなどを設け、さらにズボンと組合わせることで、粉塵などに対する放射線防護服として使用することができる。そして、その放射線防護服は、上述のように、非常に着用し易く、好適である。
【符号の説明】
【0050】
1 衣服
10;101,102 生地
11 前見頃
111,121,131,14,161,171 破断面
112,122,132,162 面ファスナー
12 胸部
13 袖
14a 破断基準面
15 ポケット
16 肩パッド
17 背中
2 使用者
21 胴部
22 腕部
221,241 頂部
23 首
24 肩部
3 磁石
4 電磁石
41 導線または導電板
5 制御装置
61 スマートフォン
62 近距離無線通信
63 ネットワーク
64 サーバコンピュータ
8,8a アンダーウエア
81 孔
82,82a,83,83a ピース
84;841,842 磁石
851,852 磁石
87 肩部
9 上着
91,92 ピース
941,942 磁石
951,952 磁石
961,962 肩当て
【要約】
【課題】身体が不自由な使用者やギブスを嵌めた使用者に優しい衣服を提供する。
【解決手段】身体の少なくとも一部を筒状に被包することができる、たとえば胴部や腕部を被包する衣服において、上着9とアンダーウエアとでセットを構成する。そして、上着9は、前後の破断面111,117で、左右のピース91,92に半割れし、左右から1人で着脱可能になっている。合せて着用されるアンダーウエアは、非着用の状態では大略帯状に形成され、その帯の長手方向および幅方向の略中央部に、使用者の首を通す孔が形成され、袖無しの胴着の両脇を開いたようなものとする。したがって、アンダーウエアを被るだけで、その表面で、下着の皺の影響などを受けることなく、上着9の破断面111,171付近の内面が案内され、磁石941,942がアンダーウエア側の磁石に吸着して、容易に着用することができる。
【選択図】
図5