【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度〜平成23年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発/要素技術開発/等価狭ギャップ構造による脱レアアース高性能リラクタンストルク応用モータの研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ステータと対向していないロータ延長部分においては、ステータと対向した部分と比べてエアギャップ長が長くなるため磁気抵抗が大きくなりロータコアの磁束密度が低く磁気飽和が緩和される。そのため、ステータと対向した部分とロータ延長部分とでは、トルクが最大となる電流位相が互いに異なり、この電流位相の相違ゆえに、特にリラクタンストルクを主体としたモータでは十分にトルクを発生できない。
【0005】
本発明は前記の問題に着目してなされたものであり、ロータがステータと対向していない部分を有したモータにおいて、トルクの向上を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するため、第1の発明は、
磁石(34)が埋め込まれたロータコア(31)を有したモータにおいて、
前記ロータコア(31)は、ステータコア(21)よりも軸方向長が長く形成されて、少なくとも一方の軸方向端部に前記ステータコア(21)に対向しない非対向部分を有し、全部又は一部によって前記非対向部分を構成する第1ロータコア(31a)と、前記第1ロータコア(31a)に隣接する第2ロータコア(31b)とに分割され、
前記第1ロータコア(31a)と前記第2ロータコア(31b)との間には、前記第1ロータコア(31a)の方が、前記分割の面において回転方向に進んだ位置となるように、スキューが設けられ、
前記スキュー及び前記第1ロータコア(31a)の軸方向長(La)は、
前記第2ロータコア(31b)のみで最大トルクを発生させたときの電流位相である第1電流位相(β2)と、電流位相が該第1電流位相(β2)の際に前記第1ロータコア(31a)のみで発生するトルク(Ta)と同じ大きさのトルク(Ta)を該第1ロータコア(31a)のみで発生させる、該第1電流位相(β2)よりも小さな値の電流位相である第2電流位相(β1)との間の電流位相に、前記第1ロータコア(31a)のみで最大トルクを発生させたときの電流位相がなるように設定されて
おり、
前記ロータコア(31)は、軸方向両端に前記第1ロータコア(31a)が設けられていることを特徴とする。
【0007】
この構成では、前記第1ロータコア(31a)と前記第2ロータコア(31b)との間には、前記第1ロータコア(31a)の方が回転方向に進んだ位置となるように、スキューが設けられているので、第1ロータコア(31a)における電流位相を小さくできる。これにより、第1ロータコア(31a)のトルクをトルク曲線(後述)のピークに近づけることができる。
【0008】
この構成では、電流位相(β)に応じてスキュー角(θ)が設定される。
【0009】
この構成では、電流位相(β)に応じて第1ロータコア(31a)の軸方向長(La)が設定される
。
【0010】
この構成では、ロータコア(31)の両端においてスキューが設けられる
。
【0011】
また、第
2の発明は、
第
1のモータにおいて、
前記第1ロータコア(31a)は、前記ロータコア(31)が前記ステータコア(21)に対向する部分を含んでいることを特徴とする。
【0012】
この構成では、第1ロータコア(31a)の一部分がステータコア(21)と対向するので、その対向部分ではマグネットトルクが発生する。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明によれば、第1ロータコア(31a)のトルクをトルク曲線(後述)のピークに近づけることができるので、モータ全体としてのトルクの向上を図ることが可能になる。また、第1ロータコア(31a)と第2ロータコア(31b)との間にスキューを設けたことにより、平均トルクを低下させること無くロータ(30)の磁気障壁に起因する高調波磁束を低減でき、その結果、鉄損の低減や、振動低減の効果を得ることも可能になる。また第1ロータコア(31a)と第2ロータコア(31b)は略同一の断面形状を持つため、鋼板打ち抜きのための金型を複数製作する必要がない。
【0014】
また、第1の発明によれば、確実にトルクを増大できる。
【0015】
また、第
1の発明によれば、ロータコア(31)の両端においてスキューが設けられるので、トルクをより増大させることが可能になる。
【0016】
また、第
2の発明によれば、より大きなトルクを発生させることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0019】
《発明の実施形態1》
図1は、本発明の実施形態1に係るモータ(10)の横断面図である。このモータ(10)は、例えばEV/HEVの駆動用モータや空気調和機の電動圧縮機(図示は省略)に用いる。
【0020】
〈モータ(10)の構成〉
モータ(10)は、
図1に示すように、ステータ(20)、ロータ(30)、及び駆動軸(40)を備え、前記電動圧縮機のケーシング(50)に収容されている。なお、以下の説明において、軸方向とは駆動軸(40)の軸心の方向をいい、径方向とは前記軸心と直交する方向をいう。また、外周側とは前記軸心からより遠い側をいい、内周側とは前記軸心により近い側をいう。
【0021】
〈ステータ(20)〉
ステータ(20)は、
図1に示すように、円筒状のステータコア(21)と、コイル(26)を備えている。
【0022】
ステータコア(21)は、電磁鋼板(P)をプレス加工によって打ち抜いて積層板を作成し、複数の積層板を軸方向に積層した積層コアである。ステータコア(21)は、
図1に示すように、1つのバックヨーク部(22)、それぞれ複数のティース部(23)、及びツバ部(24)を備えている。
【0023】
それぞれのティース部(23)は、ステータコア(21)において径方向に伸びる直方体状の部分である。各ティース部(23)の間の空間が、コイル(26)が収容されるコイル用スロット(25)である。
【0024】
バックヨーク部(22)は、円環状をしている。バックヨーク部(22)は、各ティース部(23)を該ティース部(23)の外周側で連結している。ステータコア(21)は、バックヨーク部(22)の外周部がケーシング(50)の内面に固定されている。
【0025】
ツバ部(24)は、それぞれのティース部(23)の内周側に連なる部分である。ツバ部(24)は、ティース部(23)よりも幅(周方向の長さ)が大きく構成されている。ツバ部(24)は、内周側の面が円筒面である。その円筒面は、後述のロータコア(31)の外周面(円筒面)と所定の距離(エアギャップ(G))をもって対向している。
【0026】
ティース部(23)には、いわゆる分布巻方式で、コイル(26)が巻回されている。勿論、コイル(26)は、集中巻方式で巻回することも可能である。
【0027】
〈ロータ(30)〉
図2は、ステータ(20)及びロータ(30)の縦断面図である。ロータ(30)は、ロータコア(31)、複数の磁石(34)、及び2つの端板(35)を備え、円筒状の形態である。この例では、ロータ(30)は、6つの磁極が形成され、磁石(34)は、各極毎に多層を構成するように設けられている。具体的には、それぞれの極に3層の永久磁石(34)が設けられている。
【0028】
ロータコア(31)は、電磁鋼板(P)をプレス加工によって打ち抜いて積層板を作成し、複数の積層板を軸方向に積層した積層コアである。ロータコア(31)は、前記軸方向に、互いに接する3つのロータコア(31a,31b,31a)に分割されている。より詳しくは、ロータコア(31)は、ステータ(20)よりも軸方向長が長く形成されて、2つの第1ロータコア(31a)と、1つの第2ロータコア(31b)とに分割されている。第2ロータコア(31b)は、軸方向両端から第1ロータコア(31a)によって挟み込まれている(
図2を参照)。この例では、第1ロータコア(31a)は、ロータコア(31)の軸方向両端においてステータ(20)に対向しない非対向部分と同じ軸方向長(La)を有している。すなわち、ロータコア(31)は、非対向部分の全部を含み、第2ロータコア(31b)の軸方向長(Lb)と、ステータコア(21)の軸方向長とは同じである。なお、この例では、
図2に示すように、それぞれの第1ロータコア(31a)の軸方向長(La)は、第2ロータコア(31b)の軸方向長(Lb)よりも小さい。
【0029】
ロータコア(31)では、第1ロータコア(31a)及び第2ロータコア(31b)の双方ともに、磁石(34)をそれぞれ装着する複数の磁石用スロット(32)が形成されている(
図1参照)。それぞれの磁石用スロット(32)は、ロータコア(31)の軸心回りに60°ピッチで配置されている。それぞれの磁石用スロット(32)は、軸方向から見て概ねU字状の形状を有し、ロータコア(31)を軸方向に貫通している。
【0030】
また、本実施形態では、第1ロータコア(31a)と第2ロータコア(31b)との間にスキューが設けられている。
図3は、ロータ(30)におけるスキュー角(θ)を説明する図であり、
図3(A)は、第2ロータコア(31b)の磁石(34)の位置を示し、
図3(B)は、第1ロータコア(31a)の磁石(34)の位置を示している。同図に示すように、第1ロータコア(31a)の磁石用スロット(32)の方が、第2ロータコア(31b)の磁石用スロット(32)よりも回転方向側に進んだ位置にある。このようなスキューを設けるために、それぞれの磁石(34)は、第1ロータコア(31a)用と、第2ロータコア(31b)用とに分割されている。
【0031】
〈端板(35)〉
端板(35)は、円板状の形態を有し、例えばステンレスなどの非磁性金属で形成されている。
【0032】
〈第1ロータコア長及びスキュー角の設定〉
図4は、第1ロータコア(31a)及び第2ロータコア(31b)のそれぞれについて、トルク(T)と電流位相(β)との関係を示した図(トルク曲線と呼ぶ)である。ここで、電流位相(β)とは、永久磁石同期モータのステータと第2ロータコアのd、q座標系におけるq軸からの電流の進み角(β=arctan id/iq)をいう。
図4に示すように、横軸を電流位相(β)、縦軸をトルク(T)とすると、トルク曲線は上に凸の曲線となる。第1ロータコア(31a)は、第2ロータコア(31b)よりも磁束密度が低いので、トルク(T)の最大値、及び最大値となる電流位相(β)は、第2ロータコア(31b)とは異なっている。なお、
図4の例では、第2ロータコア(31b)は、該第2ロータコア(31b)の電流位相(βb)がβ2のときに最大トルクとなる。
【0033】
例えば、第1ロータコア(31a)と第2ロータコア(31b)との間にスキュー角(θ)を設けない場合には、第2ロータコア(31b)のトルクが最大トルクの場合(電流位相(βb)=β2の場合)には、第1ロータコア(31a)の電流位相(βa)は、β2となる。このように、第1ロータコア(31a)と第2ロータコア(31b)とで、トルク(T)が最大値となる電流位相(β)が異なると、特にリラクタンストルクを主体としたモータでは十分にトルクを発生できない。
【0034】
本実施形態では、第2ロータコア(31b)が最大トルクを発生する際における第1ロータコア(31a)の電流位相(βa)が、
図4に示したβ1からβ2の間となるように、第1ロータコア(31a)の軸方向長(La)さ、及びスキュー角(θ)を設定してある。ここで、β1は、βa=β2の場合の第1ロータコア(31a)のトルクをTaとした場合に、β1<β2、且つ第1ロータコア(31a)のトルクがT=Taとなる第1ロータコア(31a)の電流位相である。
【0035】
すなわち、本実施形態では、第2ロータコア(31b)で最大トルクを発生させた際の第1ロータコア(31a)における電流位相(βa)が、第2ロータコア(31b)で最大トルクを発生させる電流位相(β2)よりも所定量だけ小さくなるように、ロータコア(31)の軸方向長(Lb)及びスキュー角(θ)を設定しているのである。例えば、本実施形態のモータ(10)を空気調和機の電動圧縮機に用いた例では、電気角(=機械角×極対数)で、1°から30°の範囲で後述の効果が得られた。
【0036】
〈本実施形態における効果〉
既述のとおり、第1ロータコア(31a)と第2ロータコア(31b)との間にスキュー角(θ)を設けていない場合には、第2ロータコア(31b)のトルクが最大トルクの場合(βb=β2の場合)には、第1ロータコア(31a)の電流位相(βa)は、β2となる。この場合には、第1ロータコア(31a)のトルクは、Taとなる。そして、第1ロータコア(31a)の軸方向端部での磁束漏れにより、ロータコア(31)の軸方向端部付近の磁気飽和は、ロータコア(31)の軸方向中心部に比べて緩和される。
【0037】
これに対し本実施形態では、第1ロータコア(31a)の磁石(34)を、第2ロータコア(31b)の磁石(34)よりも回転方向側に進んだ位置にすることで、第2ロータコア(31b)が最大トルクを発生する際における第1ロータコア(31a)の電流位相(βa)が、
図4に示したβ1からβ2の間となるようにしてある。つまり、第1ロータコア(31a)トルクが最大となる電流位相が遅れることになる。これにより、第1ロータコア(31a)のトルクは、Taよりも大きくなる。
【0038】
すなわち、ロータがステータと対向していない部分を有したモータにおいて、トルクの向上を図ることが可能になる。また、第1ロータコア(31a)と第2ロータコア(31b)との間にスキューを設けたことにより、ロータ(30)における高調波磁束を低減でき、その結果、鉄損の低減や、振動低減の効果を得ることも可能になる。
【0039】
《発明の
関連技術》
図5は、
関連技術に係るステータ(20)及びロータ(30)の縦断面図である。同図に示すように、本
関連技術のロータコア(31)は、一方の軸方向端部のみに第1ロータコア(31a)が設けられている。第1ロータコア(31a)は、非対向部分と同じ軸方向長を有している。この構成においても、第1ロータコア(31a)の磁石(34)が、第2ロータコア(31b)よりも回転方向側に進んだ位置になるように、第1ロータコア(31a)と第2ロータコア(31b)との間にスキューを設けてある。スキュー角(θ)の設定、及び第1ロータコア(31a)の軸方向長(La)の設定は、実施形態1と同様の考え方に基づいている。これにより、本
関連技術においても、トルクの向上を図ることが可能になる。
【0040】
また、第2ロータコア(31b)には、第1ロータコア(31a)が設けられていない軸方向端部側から磁石(34)を挿入すればよいので、組み立てが容易になる。また、第2ロータコア(31b)を設けた側には、磁石(34)の抜け止めを設ける必要がない。
【0041】
《発明の実施形態
2》
図6は、実施形態
2に係るステータ(20)及びロータ(30)の縦断面図である。本実施形態のロータコア(31)は、実施形態1と同様に、前記軸方向に、互いに接する3つのロータコア(31a,31b,31a)に分割されている。より詳しくは、ロータコア(31)は、ステータ(20)よりも軸方向長が長く形成されて、2つの第1ロータコア(31a)と、1つの第2ロータコア(31b)とに分割されている。第2ロータコア(31b)は、軸方向両端から第1ロータコア(31a)によって挟み込まれている(
図6を参照)。この例では、それぞれの第1ロータコア(31a)は、前記非対向部分よりも、軸方向長(La)が長く形成されている。すなわち、第1ロータコア(31a)は、その一部がステータコア(21)と対向している。この構成においても、第1ロータコア(31a)の磁石(34)が、第2ロータコア(31b)よりも回転方向側に進んだ位置になるように、第1ロータコア(31a)と第2ロータコア(31b)との間にスキューを設けてある。そのため、本実施形態でも実施形態1と同様に、トルクの向上を図ることが可能になる。
【0042】
《その他の実施形態》
なお、第1ロータコア(31a)は、軸方向長(La)を非対向部分の軸方向長よりも短くなる(すなわち、第1ロータコア(31a)が当該非対向部分の軸方向端部側の一部のみを含む)ように構成してもよい。
【0043】
また、非対向部分は、一方の軸方向端部のみに設けるようにしてもよい。
【0044】
また、第1及び第2ロータコア(31a,31b)は、積層コア(電磁鋼板)には限定されない。例えば、第1及び第2ロータコア(31a,31b)は、圧粉磁性体で構成することもできる。また、例えば、第1及び第2ロータコア(31a,31b)の一方を圧粉磁性体で構成し、もう一方を電磁鋼板で構成するなど、異種の磁性材料で構成したコアを組み合わせてロータコア(31)を構成してもよい。