(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、前記旋回スクロールは、円盤状の鏡板と、前記鏡板の一側に形成される前記旋回ラップとからなる。さらに、前記旋回ラップが形成されていない前記鏡板の背面にボス部が形成され、前記ボス部は前記旋回スクロールを旋回駆動させる回転軸に連結される。このような形態の圧縮機は、前記鏡板の略全面積にわたって前記旋回ラップを形成することができ、同じ圧縮比を得るための前記鏡板の直径を小さくすることができるが、圧縮時に冷媒の反発力が作用する作用点と前記反発力を相殺するための反力が作用する作用点とが垂直方向に離隔しており、作動過程で前記旋回スクロールが傾き、振動や騒音が大きくなるという問題があった。
【0006】
このような問題を解消するためのものとして、回転軸と旋回スクロールの結合部が旋回ラップと同じ面に形成されるスクロール圧縮機が知られている。このような形態の圧縮機は、冷媒の反発力の作用点とその反力の作用点とが同一地点にあるため、前記旋回スクロールが傾く問題を解消することができる。しかし、このように前記回転軸が前記旋回ラップ部分まで延びた場合は、従来は圧縮空間として活用されていた前記旋回ラップの中心部に前記回転軸の端部が位置するので、意図した圧縮比を得るためには、前記回転軸の端部が占める空間だけ鏡板の直径を大きくしなければならない。つまり、圧縮機のサイズが大きくなるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題を解決するためになされたもので、圧縮機の全体サイズを小さくしながらも十分な圧縮比が得られるスクロール圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の一態様によれば、固定ラップを有する固定スクロールと、前記固定ラップと共に外側面と内側面に第1及び第2圧縮室を形成する旋回ラップを有し、前記固定スクロールに対して旋回運動する旋回スクロールと、一端部に偏心部を有し、前記偏心部が前記旋回ラップと横方向に重なるように結合される回転軸と、前記回転軸を駆動する駆動ユニットとを含むスクロール圧縮機であって、前記第1圧縮室は、前記固定ラップの内側面と前記旋回ラップの外側面とが接触して生じる2つの接触点(P
1、P
2)間に形成され、前記偏心部の中心(O)と前記2つの接触点(P
1、P
2)をそれぞれ結んだ2つの線がなす角度のうち大きい値を有する角度をαとすると、0<α<360゜であるスクロール圧縮機が提供される。
【0009】
ここで、前記2つの接触点(P
1、P
2)における法線間の距離をlとすると、l>0でもよい。
【0010】
また、前記2つの接触点(P
1、P
2)における法線が異なるように設定してもよい。
【0011】
また、前記旋回スクロールの中心部には、外周面が前記旋回ラップの一部を形成して内部に前記偏心部が結合される回転軸結合部が形成され、前記第1圧縮室が前記回転軸結合部の外周面に位置する場合、0<α<360゜、l>0でもよい。
【0012】
好ましくは、270<α<345°、l>0でもよい。
【0013】
一方、前記回転軸は、前記駆動ユニットに連結される軸部と、前記軸部の端部に前記軸部と同心に形成されるピン部と、前記ピン部に偏心して嵌合される偏心ベアリングとを含み、前記偏心ベアリングは、前記回転軸結合部に回転可能に結合されるようにしてもよい。
【0014】
また、前記固定ラップの内側端部の内周面には突部が形成され、前記回転軸結合部の外周面には前記突部と接触する凹部が形成されるようにしてもよい。
【0015】
また、前記凹部の一側壁を形成する第1増加部と、前記第1増加部から延びる第2増加部とをさらに含み、前記第1増加部での厚さ増加率が前記第2増加部での厚さ増加率より大きくなるように設定してもよい。
【0016】
ここで、前記第2増加部以降では前記回転軸結合部の厚さが減少するようにしてもよい。
【0017】
ここで、前記凹部の他側壁は、円弧形状を有するようにしてもよい。
【0018】
一方、前記第1圧縮室の一端部を定義する接触点をP
3とすると、前記P
3における接線と前記偏心部の中心(O)間の距離が前記偏心部の半径より小さくなるように設定してもよい。
【0019】
ここで、前記P
3は、吐出開始時における前記第1圧縮室の内側接触点と定義される。
【0020】
また、吐出開始から150゜前における前記第1圧縮室の内側接触点をP
4とすると、前記固定ラップの厚さは、前記P
3から前記P
4へ行くほど減少した後に増加するようにしてもよい。
【0021】
また、前記固定ラップの厚さは、前記P
3と前記固定ラップの内側端部との間で最大値を有するようにしてもよい。
【0022】
また、前記偏心部の中心と前記旋回ラップの外周面間の距離をD
Oとすると、前記D
Oは、前記P
3から前記P
4へ行くほど増加した後に減少するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0023】
このような構成を有する本発明の態様によれば、従来のインボリュート形状の固定ラップ及び旋回ラップを有するスクロール圧縮機に比べて、第1圧縮室の圧縮比を高めることができる。
【0024】
また、固定ラップの内側端部の厚さを増加させることができるので、強度を向上させると共に、漏洩防止性能を向上させる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明によるスクロール圧縮機の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
図1に示すように、本発明の一実施形態によるスクロール圧縮機100は、円筒状のケーシング110と、ケーシング110の上部及び下部をそれぞれ覆う上部シェル112及び下部シェル114とを有する。上部シェル112及び下部シェル114は、ケーシング110に溶接され、ケーシング110と共に1つの密閉空間を形成する。スクロール圧縮機100の下部空間は吸入空間であり、スクロール圧縮機100の上部空間は吐出空間である。前記下部空間と前記上部空間とは後述する上部フレーム115により区画される。
【0028】
上部シェル112の上部には吐出パイプ116が設けられている。吐出パイプ116は、圧縮された冷媒が外部に排出される通路であり、吐出パイプ116には、吐出される冷媒に混入したオイルを分離するオイルセパレータ(図示せず)が連結されてもよい。また、ケーシング110の側面には吸入パイプ118が設けられている。吸入パイプ118は、圧縮される冷媒が流入する通路であり、
図1においては、吸入パイプ118がケーシング110と上部シェル112の境界面に位置するが、その位置は任意に設定可能である。また、下部シェル114は、圧縮機が円滑に動作できるように供給されるオイルを貯蔵するオイルチャンバとしても機能する。
【0029】
ケーシング110内部の略中央部には、駆動ユニットとしてのモータ120が設けられている。モータ120は、ケーシング110の内面に固定される固定子122と、固定子122の内部に位置し、固定子122との相互作用により回転する回転子124とを含む。回転子124の中心には回転軸126が配置されており、回転子124と回転軸126とは共に回転する。
【0030】
回転軸126の中心部には、オイル流路126aが回転軸126の長手方向に沿って延びるように形成されており、回転軸126の下端部には、下部シェル114に貯蔵されているオイルを上部に供給するためのオイルポンプ126bが設けられている。オイルポンプ126bは、オイル流路126aの内部に螺旋状の溝を形成するか又はインペラを設けて構成してもよく、別途の容積式ポンプで構成してもよい。
【0031】
回転軸126の上端には、後述する固定スクロール130に形成されるボス部132の内部に挿入される拡径部126cが配置される。拡径部126cは他の部分より大きい直径を有するように形成され、拡径部126cの端部にはピン部126dが形成されている。ここで、拡径部126cを省略して全体が一定の直径を有するようにしてもよい。
【0032】
ピン部126dには偏心ベアリング128が嵌合されるが、
図2及び
図3を参照すると、偏心ベアリング128はピン部126dに対して偏心して嵌合され、偏心ベアリング128がピン部126dに対して回転しないように、両者の結合部は略D字状を有するように形成される。
【0033】
ケーシング110と上部シェル112の境界部には固定スクロール130が取り付けられる。固定スクロール130は、その外周面がケーシング110と上部シェル112との間に焼ばめ方式で圧入されて固定されてもよく、溶接によりケーシング110及び上部シェル112と結合されてもよい。
【0034】
固定スクロール130の底面には、前述した回転軸126が挿入されるボス部132が形成される。
図1におけるボス部132の上面には、回転軸126のピン部126dが貫通する貫通孔が形成されており、ピン部126dは、前記貫通孔から固定スクロール130の鏡板部134の上側に突出する。
【0035】
図2に示すように、鏡板部134の上面には、後述する旋回ラップ144と噛み合って圧縮室を形成する固定ラップ136が形成されており、鏡板部134の外周部には、後述する旋回スクロール140を収容する空間部を形成し、ケーシング110の内周面と接する側壁部138が形成されている。側壁部138の上端部内側には、旋回スクロール140の外周部が載置される旋回スクロール支持部138aが形成されている。旋回スクロール支持部138aは、固定ラップ136と同じ高さで形成されるか、又は固定ラップ136より若干低く形成され、旋回ラップ144の端部が固定スクロール130の鏡板部134の表面と接触できるようになっている。
【0036】
固定スクロール130の上方には旋回スクロール140が設けられる。
図2及び
図3に示すように、旋回スクロール140は、略円盤状の鏡板部142と、固定ラップ136と噛み合う旋回ラップ144とからなる。また、鏡板部142の中心部には、偏心ベアリング128が回転可能に挿入及び固定される略円形状の回転軸結合部146が形成されている。回転軸結合部146の外周部は、旋回ラップ144と連結されており、圧縮過程で固定ラップ136と共に圧縮室を形成する役割を果たす。これについては後述する。
【0037】
一方、回転軸結合部146に偏心ベアリング128が挿入され、回転軸126の端部が固定スクロール130の鏡板部134を貫通して挿入され、旋回ラップ144、固定ラップ136、及び偏心ベアリング128は前記圧縮機の横方向に重なるように設けられる。圧縮時は、冷媒の反発力が固定ラップ136と旋回ラップ144に加わり、これに対する反力として圧縮力が回転軸結合部146と偏心ベアリング128との間に加わる。このように、回転軸の一部が鏡板部を貫通してラップと重なる場合、冷媒の反発力と圧縮力とが鏡板部を基準として同一面に加わるので相殺される。これにより、冷媒の反発力と圧縮力との作用による旋回スクロールの傾きを防止することができる。
【0038】
ここで、偏心ベアリング128を代替して偏心ブッシュを設けてもよい。この場合は、前記偏心ブッシュが挿入される回転軸結合部146の内面を特殊処理して回転軸結合部146の内面がベアリングの役割を果たすようにしてもよく、前記偏心ブッシュと回転軸結合部146との間に別途のベアリングを設けてもよい。
【0039】
また、鏡板部142には吐出孔140aが形成されており、圧縮された冷媒がケーシング110の内部に吐出されるようにする。吐出孔140aの位置は、要求される吐出圧などを考慮して任意に設定可能である。鏡板部142は、吐出孔140aと共にバイパス孔をさらに含んでもよい。前記バイパス孔が吐出孔140aよりも鏡板部142の中心から遠い位置に配置される場合、前記バイパス孔の直径は吐出孔140aの有効直径の1/3より大きく設定してもよい。
【0040】
また、旋回スクロール140の上側には、旋回スクロール140の自転を防止するためのオルダムリング150が設けられる。オルダムリング150は、旋回スクロール140の鏡板部142の背面に嵌合される略円形状のリング部152と、リング部152の一側面に突出する一対の第1キー154及び第2キー156とを含む。一対の第1キー154は、旋回スクロール140の鏡板部142の外周側の厚さより長く突出し、固定スクロール130の側壁部138の上端と旋回スクロール支持部138aにわたって形成される第1キー溝154aの内部にそれぞれ挿入される。また、一対の第2キー156は、旋回スクロール140の鏡板部142の外周部に形成される第2キー溝156aにそれぞれ挿入された状態で結合される。
【0041】
ここで、第1キー溝154aは、上方向に延びる垂直部と左右方向に延びる水平部とを有するように形成されるが、旋回スクロール140の旋回運動時に、第1キー154の下端部は常に第1キー溝154aの水平部に挿入された状態を維持し、第1キー154の半径方向外側端部は第1キー溝154aの垂直部から離脱するように形成される。つまり、第1キー154と固定スクロール130との結合が上下方向に行われるため、固定スクロール130の直径を小さくすることができる。
【0042】
具体的には、前記旋回スクロールの鏡板部と前記固定スクロールの内壁との間には、旋回半径分の遊びを確保しなければならない。もし、前記オルダムリングのキーが前記固定スクロールと半径方向に結合される場合は、旋回過程で前記オルダムリングが前記固定スクロールに形成されるキー溝から離脱することを防止するために、前記キー溝の長さが少なくとも旋回半径よりは大きくなければならず、これは前記固定スクロールのサイズを増加させる原因となる。
【0043】
それに対して、本実施形態のように、キー溝が前記旋回スクロールの鏡板部と旋回ラップの間の空間の下方に延びる場合は、キー溝の長さを十分に確保しながらも、前記固定スクロールのサイズを小さくすることができる。
【0044】
また、本実施形態におけるオルダムリングは、リング部の一側面に全てのキーが形成されており、両側面にそれぞれキーが形成された場合に比べて、圧縮ユニットの上下方向の高さを減少させることができる。
【0045】
一方、ケーシング110の下部には、回転軸126の下部を回転可能に支持するための下部フレーム113が設けられ、旋回スクロール140の上部には、旋回スクロール140とオルダムリング150を支持する上部フレーム115がそれぞれ設けられる。上部フレーム115の中央には、旋回スクロール140の吐出孔140aに連通し、圧縮された冷媒が上部シェル112側に吐出されるようにする孔115aが形成されている。
【0046】
以下、本発明によるスクロール圧縮機の固定スクロール及び旋回スクロールの形状を説明する前に、本発明の理解を助けるために、固定ラップ及び旋回ラップがインボリュート形状を有する場合について説明する。
図4は、インボリュート形状の固定ラップ及び旋回ラップを有し、回転軸の一部が鏡板部を貫通するスクロール圧縮機において、吸入直後の圧縮室及び吐出直前の圧縮室を示す平面図である。
図4(a)は、固定ラップの内側面と旋回ラップの外側面との間に形成される第1圧縮室の変化を示すものであり、
図4(b)は、旋回ラップの内側面と固定ラップの外側面との間に形成される第2圧縮室の変化を示すものである。
【0047】
スクロール圧縮機において、圧縮室は、固定ラップと旋回ラップとが接触して生じる2つの接触点間に生じ、インボリュート形状の固定ラップ及び旋回ラップを有する場合、
図4に示すように、1つの圧縮室を定義する2つの接触点は一直線上に位置する。すなわち、前記圧縮室は、前記回転軸の中心に対して360゜にわたって配置される。
【0048】
図4(a)を参照して前記第1圧縮室の体積変化を説明すると次の通りである。圧縮室の体積は、旋回スクロールの旋回運動により中心部に移動することによって次第に減少し、旋回スクロールの中心に位置する回転軸結合部の外周部に至ると最小値を有する。インボリュート形状の固定ラップ及び旋回ラップを有する場合は、前記回転軸の旋回角度(以下、「クランク角」という)が増加することによって体積減少率が線形的に減少するので、高い圧縮比を得るためには圧縮室をできるだけ中心に近い位置に移動させなければならないが、前記のように中心部に前記回転軸が存在すると、圧縮室を前記回転軸の外周部までしか移動させることができない。これにより圧縮比が低くなるが、
図4(a)における圧縮比は約2.13である。
【0049】
一方、
図4(b)に示す第2圧縮室は、第1圧縮室より圧縮比が低く、約1.46である。しかしながら、前記第2圧縮室の場合は、旋回スクロールの形状を変更して、
図5に示すように回転軸結合部Pと旋回ラップの連結部位を円弧状にすると、吐出されるまでの前記第2圧縮室の圧縮経路が長くなり、圧縮比を約3.0まで高めることができる。この場合、前記第2圧縮室の範囲は、吐出直前に360゜未満である。しかし、このような方法は前記第1圧縮室には適用できない。
【0050】
つまり、インボリュート形状の固定ラップ及び旋回ラップを有する場合は、第2圧縮室においては意図したレベルの圧縮比が得られるが、第1圧縮室においては意図したレベルの圧縮比が得られない。このように、2つの圧縮室間で顕著な圧縮比の差がある場合、圧縮機の動作に好ましくない影響を及ぼすだけでなく、全圧縮比も低くなる。
【0051】
これを解消するために、本実施形態においては、固定ラップ及び旋回ラップを、インボリュート曲線ではなく、他の曲線状に形成する。
図6(a)〜(e)は、本実施形態の固定ラップ及び旋回ラップの形状を決定する過程を示すものであり、
図6において、実線は第1圧縮室の包絡線を示し、点線は第2圧縮室の包絡線を示す。ここで、包絡線とは所定の形態が移動しながら描く軌跡を意味するが、実線は前記第1圧縮室が吸入及び吐出の過程で描く軌跡を示し、点線は前記第2圧縮室が吸入及び吐出の過程で描く軌跡を示す。従って、実線を基準として旋回スクロールの旋回半径だけ両側に平行移動させると、固定ラップの内側面と旋回ラップの外側面の形状となり、点線を基準として旋回スクロールの旋回半径だけ両側に平行移動させると、固定ラップの外側面と旋回ラップの内側面の形状となる。
【0052】
図6(a)は、
図5に示すラップ形状を有するケースに該当する包絡線を示すものであり、太線で示す部分は吐出直前の第1圧縮室に該当し、同図に示すように開始点と終了点が一直線上に位置する。この場合は十分な圧縮比を得ることが難しいため、
図6(b)のように、太線の外側端部を前記包絡線に沿って時計方向に移動させ、太線の内側端部を前記回転軸結合部と接触する点まで移動させる。すなわち、前記包絡線のうち前記回転軸結合部に隣接する部分を、曲率半径がより小さくなるように曲げる。
【0053】
前述したように、スクロール圧縮機の特性上、圧縮室は、固定ラップと旋回ラップとが接触する2つの接触点により形成される。
図6(a)における太線の両端部が2つの接触点に該当し、スクロール圧縮機の動作原理上、各接触点における法線ベクトルは互いに平行に配置される。また、これら2つの法線ベクトルは、前記回転軸の中心と前記偏心ベアリングの中心とを結ぶ線とも平行である。ただし、固定ラップ及び旋回ラップがインボリュート形状を有する場合は、前記2つの法線ベクトルが平行であるだけでなく、
図6(a)に示すように一致する。
【0054】
すなわち、
図6(a)において、前記回転軸結合部の中心をOとし、2つの接触点をそれぞれP
1、P
2とすると、P
2はOとP
1を結んだ直線上に位置し、線OP
1と線OP
2がなす角のうち大きい角をαとすると、αは360゜となる。また、接触点P
1、P
2における法線ベクトル間の距離をlとすると、距離lは0となる。
【0055】
本発明者らの研究の結果、接触点P
1と接触点P
2を前記包絡線に沿ってより内側に移動させると、第1圧縮室の圧縮比を高めることができた。このために、接触点P
2を前記回転軸結合部側に移動させると、言い換えれば、前記第1圧縮室の包絡線を前記回転軸結合部側に曲げて移動させると、接触点P
2における法線ベクトルと平行な法線ベクトルを有する接触点P
1は、
図6(a)に比べて、
図6の時計方向に回転して移動した地点に位置する。前述したように、第1圧縮室は包絡線に沿って内側に移動するほど体積が小さくなるが、
図6(b)においては、第1圧縮室が
図6(a)より内側に移動するので、その分さらに圧縮されて圧縮比が高くなる。
【0056】
一方、
図6(b)においては、接触点P
1が前記回転軸結合部に近接しすぎ、前記回転軸結合部の厚さが小さくなるので、十分な剛性が得られない。よって、接触点P
1を後退させて
図6(c)のように包絡線を修正する。ところが、
図6(c)においては、第1圧縮室及び第2圧縮室の包絡線が密接しすぎ、ラップの厚さが過度に薄くなったり、物理的にラップを形成することができない。よって、
図6(d)のように第2圧縮室の包絡線を修正して、2つの包絡線が所定の間隔を維持できるようにする。さらに、第2圧縮室の包絡線のうち、その端部に位置する円弧部分Aが第1圧縮室の包絡線に接するように、
図6(e)のように修正する。そして、包絡線全体にわたって2つの包絡線が所定の間隔を維持するように修正し、固定ラップの端部のラップ強度を確保するために、第2圧縮室の包絡線のうち円弧部分Aの半径が大きくなるようにする。これにより、
図7に示すような包絡線が得られる。
【0057】
図8は、
図7の包絡線に基づいて完成した固定ラップ及び旋回ラップを示す平面図であり、
図9は、
図8の中央部の拡大平面図である。なお、
図8は、前記第1圧縮室で吐出が開始される時点における前記旋回ラップの位置を示すものである。
図8の接触点P
1は、第1圧縮室で吐出が開始される時点で前記第1圧縮室を定義する2つの接触点のうち内側に位置する接触点であり、
図9においてはこれを特にP
3で示す。また、線Sは前記回転軸の位置を示すための仮想線であり、円Cは線Sが描く軌跡である。以下、線Sが
図8に示すように配置された場合、すなわち、吐出開始時の場合にクランク角を0゜と定義し、反時計方向に回転した場合に負(−)の値を有し、時計方向に回転した場合に正(+)の値を有すると定義する。
【0058】
図8及び
図9を参照すると、接触点P
1と前記回転軸結合部の中心Oとを結んだ直線と、接触点P
2と前記回転軸結合部の中心Oとを結んだ直線とにより定義される角αは360゜より小さく、各接触点P
1、P
2における法線ベクトル間の距離lは0より大きい値を有することが分かる。これにより、インボリュート形状の固定ラップ及び旋回ラップを有する場合に比べて、吐出直前の第1圧縮室の体積が小さくなるので、圧縮比が増加する。また、
図8に示す固定ラップ及び旋回ラップは、直径と原点が異なる複数の円弧を連結した形状を有し、最外郭の曲線は長軸と短軸を有する略楕円形状を有する。
【0059】
上記実施形態においては、角αが270〜345゜の値を有するように設定される。
図10は、角αと圧縮比との関係を示すグラフである。圧縮比向上の観点からは、角αは小さく設定されることが有利であるが、角αが270゜より小さく設定されると、機械加工が難しくなり、生産性が悪くなり、圧縮機のコストが高くなるという問題がある。また、角αが345゜を超えると、圧縮比が2.1以下と低くなり、十分な圧縮比が得られなくなる。
【0060】
また、前記固定ラップの内側端部付近には前記回転軸結合部側に突出する突部160が形成され、さらに、突部160には突部160から突設される接触部162が形成される。すなわち、前記固定ラップの内側端部は他の部分より厚く形成される。これにより、前記固定ラップのうち最大の圧縮力が加わる内側端部のラップ強度を向上させることができるので、耐久性を向上させることができる。
【0061】
一方、接触部162において、
図9のように吐出開始時点で第1圧縮室を形成する2つの接触点のうち内側に位置する接触点P
3から、前記固定ラップの厚さは次第に減少する。具体的には、接触点P
3に隣接する第1減少部164、及び第1減少部164に続く第2減少部166を形成し、第1減少部164における厚さ減少率は第2減少部166における厚さ減少率より大きい。また、第2減少部166以降では、前記固定ラップの厚さは所定区間で増加する。
【0062】
また、
図9に示すように、前記固定ラップの内側面と前記回転軸の軸中心O’間の距離をD
Fとすると、距離D
Fは接触点P
3から反時計方向へ行くほど増加した後に減少するが、その区間を
図15に示す。
図15は、前記回転軸のクランク角が吐出開始から150゜前である場合、すなわち、前記回転軸のクランク角が150゜の場合における旋回ラップの位置を示す平面図であり、前記回転軸が
図15の状態からさらに150゜回転すると、
図9の状態に至る。
図15を参照すると、第1圧縮室を形成する2つの接触点のうち内側に位置する接触点P
4は、前記回転軸結合部の上側に位置し、距離D
Fは、
図9のP
3から
図15のP
4の区間で増加してから減少する。
【0063】
前記回転軸結合部には、突部160と噛み合う凹部170が形成される。凹部170の一側壁は、突部160の接触部162と接触して第1圧縮室の一接触点を形成する。前記回転軸結合部の中心から前記回転軸結合部の外周部間の距離をDoとすると、距離Doは、
図9のP
3から
図15のP
4の区間で増加してから減少する。同様に、前記回転軸結合部の厚さも、
図9のP
3から
図15のP
4の区間で増加してから減少する。
【0064】
また、凹部170の一側壁は、厚さが相対的に急激に増加する第1増加部172と、第1増加部172に続いて厚さが相対的に低い割合で増加する第2増加部174とを含む。これは、前記固定ラップの第1減少部164及び第2減少部166に対応する。第1増加部172、第1減少部164、第2増加部174、及び第2減少部166は、
図6(b)過程で包絡線を前記回転軸結合部側に曲げた結果として得られたものである。これにより、第1圧縮室を形成する内側接触点P
1が第1増加部172及び第2増加部174に位置し、吐出直前の第1圧縮室の長さが短くなり、結果として圧縮比を高めることができる。
【0065】
凹部170の他側壁は、円弧形状を有するように形成される。前記円弧の直径は、前記固定ラップの端部の厚さ及び前記旋回ラップの旋回半径により決定される。すなわち、前記固定ラップの端部の厚さを増加させると前記円弧の直径が大きくなる。これにより、前記円弧周囲の前記旋回ラップの厚さも増加して耐久性が確保され、圧縮経路が長くなってその分第2圧縮室の圧縮比も増加するという利点がある。
【0066】
ここで、凹部170の中央部は前記第2圧縮室の一部を形成する。
図16は、第2圧縮室で吐出が開始される時点の旋回ラップの位置を示す平面図であり、
図16において、第2圧縮室は、2つの接触点P
6、P
7間と定義され、凹部170の円弧形状の側壁と接しており、前記回転軸がさらに回転すると、前記第2圧縮室の一端部は凹部170の中央部を通る。
【0067】
図11は、
図9の状態を示す他の平面図である。
図11を参照すると、接触点P
3から引いた接線Tは前記回転軸結合部の内部を通過することが分かる。このような結果も、
図6(b)過程で包絡線を内側に曲げた結果として得られたものであり、接線Tと前記回転軸結合部の中心O間の距離が前記回転軸結合部の内部の直径R
Hより小さくなる。
【0068】
ここで、直径R
Hは、
図13(a)のように、前記回転軸結合部の内周面又は前記偏心ベアリングの外周面が潤滑処理されて別途のベアリングが追加されない場合は、前記回転軸結合部の内径と定義され、
図13(b)のように、前記回転軸結合部の内部に別途のベアリングが追加された場合は、前記ベアリングの外径と定義される。
【0069】
また、
図11及び
図12のP
5は、クランク角が90゜の場合の内側接触点を示すものであり、同図に示すように、前記回転軸結合部の外周部の曲率半径は、接触点P
3と接触点P
5との間で各地点に応じて様々な値を有する。ここで、下記式で定義される平均曲率半径R
mは、前記第1圧縮室の圧縮比に影響を及ぼす。
【0070】
【数1】
R
θ:クランク角がθである場合、前記第1圧縮室の内側接触点での前記旋回ラップの曲率半径
【0071】
図14は、平均曲率半径と圧縮比との関係を示すグラフである。一般に、空調用圧縮機において、冷暖房兼用装置に用いられる場合は2.3以上の圧縮比を有することが好ましく、冷房用装置に用いられる場合は2.1以上の圧縮比を有することが好ましい。
図14を参照すると、平均曲率半径が10.5以下の場合に圧縮比が2.1以上の値を有することが分かる。つまり、平均曲率半径R
mが10.5mm以下の値になるように設定すると、圧縮比を2.1以上にすることができる。ここで、平均曲率半径R
mは、スクロール圧縮機の用途に応じて任意に設定することができる。上記実施形態においては、直径R
Hが約15mmである。従って、平均曲率半径R
mが直径R
H/1.4より小さくなるように設定することもできる。
【0072】
一方、接触点P
5は必ずしもクランク角が90゜の場合に限られるものではないが、スクロール圧縮機の動作原理上、90゜以降の曲率半径における設計自由度が低いので、相対的に自由度の高い0゜〜90゜で形状を変更することが圧縮比向上に有利である。