(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6377923
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】高パワー光学システムからの望ましくない光の除去
(51)【国際特許分類】
H01S 3/04 20060101AFI20180813BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20180813BHJP
H01S 3/06 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
H01S3/04
G02B6/02 B
H01S3/06
【請求項の数】8
【外国語出願】
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-51491(P2014-51491)
(22)【出願日】2014年3月14日
(65)【公開番号】特開2014-183317(P2014-183317A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2014年9月16日
【審判番号】不服2016-18531(P2016-18531/J1)
【審判請求日】2016年12月9日
(31)【優先権主張番号】61/787,854
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】14/206,731
(32)【優先日】2014年3月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509094034
【氏名又は名称】オーエフエス ファイテル,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(72)【発明者】
【氏名】マーク マーメルシュタイン
【合議体】
【審判長】
森 竜介
【審判官】
恩田 春香
【審判官】
近藤 幸浩
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−14173(JP,A)
【文献】
特開2003−139996(JP,A)
【文献】
特開2008−310277(JP,A)
【文献】
特開2007−108325(JP,A)
【文献】
特開2011−205102(JP,A)
【文献】
特開2009−194317(JP,A)
【文献】
特開2003−198026(JP,A)
【文献】
特開2007−108325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S3/00-3/02,3/04-3/0959,3/098-3/102,3/105-3/131,3/136-3/213,3/23-4/00
G02B6/00-6/036,6/10,6/245-6/25,6/44-6/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高パワー光学システムから望ましくないクラッド光を除去するための装置であって、前記光学システムが光ファイバを備え、前記光ファイバがファイバ・クラッドを備え、前記ファイバ・クラッドがn1の屈折率を有し、前記装置が、
前記ファイバを包囲するための流体であって、n2≧n1であるようなn2の屈折率を有し、おおよそ100マイクロメートル(μm)の距離にわたってτfluid≧0.999であるようなτfluidの内部透過率を有する流体と、
前記光ファイバのための経路を備えるガラス・ブロックであって、前記流体が、前記ガラス・ブロックと前記ファイバ・クラッドとの間に挿置され、前記ガラス・ブロックが、n3≧n2であるようなn3の屈折率を有し、おおよそ1センチメートル(cm)の距離にわたってτglass≧0.999であるようなτglassの透過率を有するガラス・ブロックと、
前記ガラス・ブロックに接触した、光を吸収するためのサーマル・コンパウンドと、
前記装置から熱を除去するための冷却板であって、おおよそ0.15℃−in2/W未満である熱抵抗を呈する冷却板と、
おおよそ200ワット毎メートル−摂氏度(W/m−℃)より大きい熱伝導率を有する金属ハウジングであって、前記ガラス・ブロックの外部に配置され、前記ガラス・ブロックと前記金属ハウジングとの間のガラス−金属境界面の全体で前記サーマル・コンパウンドにより前記金属ハウジングが前記ガラス・ブロックと熱的に結合される金属ハウジングと
を備える装置。
【請求項2】
前記ガラス・ブロック内の前記経路が、前記ガラス・ブロック内で中ぐりされた孔である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
光ファイバのための経路を備えるガラス・ブロックであって、前記光ファイバがクラッドを有し、前記クラッドがn1の屈折率を有し、前記ガラス・ブロックがn3≧n1であるようなn3の屈折率を有するガラス・ブロックと、
前記ガラス・ブロックに接触しているサーマル・コンパウンドと、
おおよそ200ワット毎メートル−摂氏度(W/m−℃)より大きい熱伝導率を有する金属ハウジングであって、前記ガラス・ブロックの外部に配置され、前記ガラス・ブロックと前記金属ハウジングとの間のガラス−金属境界面の全体で前記サーマル・コンパウンドにより前記金属ハウジングが前記ガラス・ブロックと熱的に結合される金属ハウジングと
を備える装置。
【請求項4】
前記金属ハウジングに接触し、前記装置から熱を除去する冷却板
をさらに備える、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記冷却板が、おおよそ0.15摂氏度−平方インチ毎ワット(℃−in2/W)未満である熱抵抗を呈する、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記ファイバを包囲するための流体であって、おおよそ100マイクロメートル(μm)の距離にわたってτfluid≧0.999であるようなτfluidの内部透過率を有する流体
をさらに備える、請求項3に記載の装置。
【請求項7】
前記ファイバを包囲するための流体であって、n3≧n2≧n1であるようなn2の屈折率を有する流体
をさらに備える、請求項3に記載の装置。
【請求項8】
前記ガラス・ブロック内の前記経路が、前記ガラス・ブロック内で中ぐりされた孔である、請求項3に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、「Glass Buffers」という名称を有する、HollandおよびSullivanにより2013年3月15日に出願した米国仮特許出願第61/787,854号、ならびに、「Glass Buffers」という名称を有する、HollandおよびSullivanにより本出願と同時に出願した2014年3月12日に出願した米国特許出願第14/206,641号を、その全体を参照により組み込むものである。
【0002】
本開示は、一般には光学機器に、およびより詳細には高パワー光学システムに関する。
【背景技術】
【0003】
ファイバ・レーザおよび光学増幅器は、高パワー光学応用物において使用されることが多い。これらの応用物で用いられる高パワーレベルが、傷付きやすい様々な個所で昇温状態をもたらす場合がある。その結果、高パワー光学システム内部での潜在的な過熱を緩和するための取り組みが進行中である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、光ファイバ・ベースの高パワーシステム内の望ましくないクラッド光を除去することを対象とするものである。一部の実施形態は、ファイバ・クラッドの屈折率より大きい屈折率を有するガラス・ブロックと、ガラス・ブロックの外部に配置された金属ハウジングとを備える。ガラス・ブロックおよび金属ハウジングは、協同して望ましくないクラッド光を除去する。
【0005】
本開示の多くの態様を、以下の図面を参照してより良く理解することが可能である。図面内の構成要素は、必ずしも一定の縮尺ではなく、代わりに本開示の原理を明確に例示することが重要視されている。さらに図面では類似する参照番号が、いくつかの視図の全体を通して対応する部分を指定する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】望ましくないクラッド光を除去するための装置とともに光ファイバの一実施形態を示す図である。
【
図2A】機械加工された溝部(trough)を有するガラス・ブロックの上面視図を示す図である。
【
図2B】
図2Aのガラス・ブロックの正面視図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
何キロワット(kW)もの光学パワーを給送するファイバ・レーザまたはファイバ増幅器などの高パワー光学応用物を、多くのkWクラスのデバイス(例えばレーザまたは増幅器)を一体に多重化することにより実現することが可能である。このスケーラブルな構造を、コヒーレント結合、スペクトル結合、またはハイブリッド結合の体系により実現することが可能である。各々の段階ではこれらのkWクラスのデバイスは、数kWのポンプ光を用い、おおよそ80パーセント(80%)の光−光効率で動作していることが知られている。この効率を仮定すると、数百ワット(W)の使用されない残留ポンプ・パワーを出力におけるクラッド内で伝搬させることが起こり得る。高パワー信号光が湾曲部またはスプライスなどでコアから散乱させられ、そのことによって望ましくない信号光がクラッド内で伝搬するということもまた起こり得る。
【0008】
例えば、70%の光−光効率を伴い976ナノメートル(nm)のポンプ光を用いる、1083nm、2.0kW、10デシベル(dB)の増幅器は、典型的にはおおよそ2.5kWのポンプ・パワーを要することになる。したがっておおよそ90%の効率では、増幅器出力で750Wほども多量の残留ポンプが存在する場合がある。この残留ポンプ・パワーは、非線形性を最小限に抑えるために通常必要とされる増幅器の有限の長さ、および、ファイバの長さに沿った不完全なポンプ・モード・スクランブルに起因するものである。
【0009】
より短い波長(例えば1060nm未満)で動作する増幅器は、過大な単光路利得およびスプリアス・レーザ発振(spurious lasing)を防止するために、より短いファイバの長さを要することが多い。しかしながらこれらのより短いファイバによって、吸収されるポンプ・パワーの量が低減し、そのことにより、使用されないポンプ・パワーが過剰になる結果になる。この使用されないポンプ・パワーは、出力でのスペクトル純度を乱し、そのことにより、これらのkWクラスのデバイスを多重化する能力を損なう。さらに、吸収されないポンプ光(および他のクラッド光)は、望ましくない加熱を生成する。したがって、ポンプ波長でのこの使用されないポンプ・パワー(および他のクラッド光)を、増幅器出力のスペクトル純度を保つために除去することが望ましく、そうしないとその使用されないポンプ・パワー(および他のクラッド光)は、多重化体系を妨げ、望ましくない加熱を生み出す場合がある。
【0010】
本開示は、過剰なポンプ光などのクラッド内の望ましくない光のこの問題に対処するためのシステムおよび方法を提供する。詳細には開示する手法は、適切な屈折率を伴うガラス・ブロック内に光ファイバを埋め込むことにより、望ましくないクラッド光を除去するための機構を提供する。例えば光ファイバが、n
1の屈折率を有するクラッドを有するならば、関心の温度範囲にわたってn
3≧n
1であるn
3の屈折率を有するガラス・ブロックによって、クラッド内の過剰な光が屈折率の違いに起因して除去される結果となる。好ましくは設計および材料が、熱流束をおおよそ200ワット毎平方インチ(W/in
2)未満に低減するように選定される。
【0011】
概要を提供したので、次に、図面に例示するような実施形態の説明を詳細に参照する。いくつかの実施形態をこれらの図面に関して説明するが、本明細書で開示する実施形態または複数の実施形態に本開示を限定する意図はない。それとは反対に意図は、すべての代替物、修正、および等価物を網羅することである。
【0012】
図1は、光ファイバ増幅器または光ファイバ・レーザなどの高パワー光学システムから望ましくないクラッド光を除去するための装置とともに光ファイバの一実施形態を示す図である。具体的には
図1の実施形態は、ガラス・ブロック110内に配置された光ファイバ140を示す。光ファイバ140は、コア150、クラッド160、および低屈折率被覆190を備える。クラッド160はn
1の屈折率を有する。
【0013】
流体180が、ガラス・ブロック110と光ファイバ140との間に挿置され、そのことにより、ガラス・ブロック110内の経路内部に存する光ファイバ140を包囲する。好ましくは、経路は、光ファイバ140の外径よりおおよそ20パーセント(%)大きい寸法を有するべきである。したがって例えば、おおよそ330μmの外径を有する光ファイバに対しては、経路はおおよそ400μm未満の幅を有するべきであり、そのことにより、おおよそ35μmの平均ギャップ距離が残る。だれでも認識可能であるように経路は、ガラス・ブロック110内に中ぐりされた孔である場合があり、または代替的には、ガラス・ブロック110内に機械加工される溝部である場合がある。
【0014】
流体180は、n
2≧n
1であるようなn
2の屈折率を有し、おおよそ100マイクロメートル(μm)の距離にわたってτ
fluid≧0.999であるようなτ
fluidの内部透過率を有する。したがって屈折率の違いによって光が、クラッド160から流体180に脱出することが可能になる。さらに流体180の高い透過率に起因して、流体180に脱出するどの光も、多量の吸収もなく流体180を通って伝搬することになる。したがって(たとえあるとしても)非常にわずかな熱が、流体180内で生成されることになる。一部の実施形態に関しては、流体180は、光学流体、または、何らかのタイプの透過性の光学的なセメント、ペースト、もしくはゲルであり得る。
【0015】
図1に示すようにガラス・ブロック110は、n
3≧n
2であるようなn
3の屈折率を有し、そのことにより光が、流体180からガラス・ブロック110に脱出することが可能になる。一部の実施形態に関しては、ガラス・ブロック110の屈折率はおおよそ1.7である。加えてガラス・ブロック110は、おおよそ1センチメートル(cm)の距離にわたってτ
glass≧0.999であるようなτ
glassの透過率を有する。やはりガラス・ブロック110の高い透過率によって、ほとんど吸収されることなく、ガラス・ブロック110を光が伝搬することが可能になる。好ましくは、ガラス・ブロック110は、光が集中される領域がないように十分に大きい寸法を有するべきである。例としてガラス・ブロック110は、おおよそ5cm×2cm×2cmであり得る。
【0016】
図1の実施形態は、ガラス・ブロック110の外部に配置された金属ハウジング170、および、ガラス・ブロック110と金属ハウジング170との間のガラス−金属境界面で光を吸収するサーマル・コンパウンド130をさらに備える。好ましくは、金属ハウジング170は、おおよそ200ワット毎メートル−摂氏度(W/m−℃)より大きい熱伝導率を有し、このことによって、ガラス−金属境界面での熱流束がおおよそ200ワット毎平方インチ(W/in
2)未満になる結果となる。一部の実施形態に関しては、金属ハウジング170は、高い伝導率を有し、吸収を増大するための黒色被覆を備える。例の金属には、おおよそ401W/m−℃の熱伝導率を有する銅、または205W/m−℃の熱伝導率を有する黒色陽極処理アルミニウムがあり、それらの金属により、金属ハウジング170に接触している場合がある冷却板(図示せず)などの冷却用要素への効率的な熱流が可能になる。おおよそ0.15℃−in
2/W未満である熱抵抗を有する冷却板を使用することにより、ガラス−金属境界面で生成される熱の大部分を、システムから効率的に取り出すことが可能である。一部の実施形態に関しては、冷却板は、ガラス−金属境界面でおおよそ50℃未満である動作温度を維持するための十分な熱取り出し潜在能力をもつ水冷式の冷却板である。したがって例えば、おおよそ500Wのポンプ・パワーを用いる光ファイバ・レーザは、ガラス−金属境界面でおおよそ25W/cm
2の熱流束をもたらすことになる。
【0017】
図1を続けると、動作中、(
図1の左側から入射するように示す)クラッド光がクラッド160を通って伝搬する。クラッド光がガラス・ブロック110に達するとき、クラッド光は、流体180およびガラス・ブロック110を通って取り出される。取り出されるクラッド光がガラス−金属境界面に達する際、そのクラッド光は、金属ハウジング170の内部表面により散乱および吸収され、そのことにより、ガラス−金属境界面で熱を生成し、熱の一部はサーマル・コンパウンド130により吸収される。熱の残りは、金属ハウジング170を通って、システムから熱を除去する冷却用板まで伝達される。だれでも認識可能であるように、ファイバ・クラッド160より高い屈折率を有するガラス・ブロック110を設けることにより、望ましくないクラッド光を、システムから取り出し除去することが可能である。
【0018】
図2Aは、機械加工された溝部220a、220b、220c(集合的に220)を有するガラス・ブロック210の上面視図を示す図であり、一方で
図2Bは、ガラス・ブロック210の正面視図を示す図である。
図2Aおよび
図2Bの個別の実施形態に関しては、3つの溝部220が、中に光ファイバが最終的に位置させられることになる経路を形成するように、おおよそ1.7の屈折率を伴う透過性の高屈折率ガラス・ブロック210内に機械加工される。
図2Aおよび
図2Bのガラス・ブロック210の個別の寸法は、おおよそ55ミリメートル(mm)×16mm×4mmである。溝部220の幅および深さは、おおよそ500μmである。光ファイバが溝部220の1つの内部に配設されると、別のガラス・ブロック(図示せず)が
図2Aおよび
図2Bのガラス・ブロック210の上に配設され、そのことにより、高屈折率ガラス・ブロック210内部に光ファイバを効果的に収納する。
【0019】
例として、サーマル・コンパウンドを使用して15℃の水冷式の冷却板上にガラス・ブロック210を装着し、976nmでの80Wのパワーを、溝部220内部に位置させられている裸のコアレスの330μmの光ファイバに注入することが、コアレス・ファイバ内を伝搬しているクラッド光のおおよそ12デシベル(dB)の吸光度をもたらす。この個別の例に関しては、光学パワーの関数としての表面温度が、0.3℃/W未満の上昇を示す。したがって100Wでは、温度がおおよそ42℃に達するであろうと予測される。この温度上昇を、ガラス・ブロック210の寸法を増大することにより低減することが可能である。加えてより多くの熱を、すべての側部において装置を冷却板で包囲することにより、または、ガラス・ブロック210内に埋め込まれる光ファイバの長さを増大することにより、システムから除去することが可能である。
【0020】
このタイプの熱取り出し機構を提供することにより、高パワー光学システム内の過剰なクラッド光に関連する問題を改善することが可能である。加えて、装置に関する寸法および材料を慎重に制御することによって、多数のkWクラスのデバイスが一体に多重化される非常に高いパワーのシステムにおいての使用が可能になる。したがって開示した実施形態を、数百kWの、およびメガワット(MW)の範囲までものパワーレベルを受け入れるシステムにおいて使用することが可能である。
【0021】
例示的な実施形態を示し説明したが、説明したような開示に対していくつかの変更、修正、または代替を行うことが可能であることは当業者には明らかであろう。したがってすべてのそのような変更、修正、および代替は、本開示の範囲内であるとみなされるべきである。