(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
支持基板の主面にウェハが接着され、前記ウェハの片面に、前記ウェハよりも大サイズのダイシングテープが貼り付けられたワークから前記支持基板を剥離させる剥離装置であって、
前記ワークを前記ダイシングテープ側で吸着保持する吸着面を有する吸着ステージと、
前記吸着ステージに吸着保持された前記ワークにおける前記支持基板の主面側と裏面側との間に、前記主面側が陽圧となる圧力差を、前記主面における前記ウェハの一端から他端へ向かって範囲を徐々に拡大させつつ作用させ、前記一端で前記ウェハと前記支持基板との間に発生した開裂を、前記ウェハの一端から他端へ向かって漸次成長させる開裂成長機構と、
を備える剥離装置。
前記開裂成長機構は、前記吸着ステージの吸着面に対向配置され、前記支持基板の裏面を吸引する吸盤と、前記吸盤の吸引面における前記ウェハの一端から他端へ向かって範囲を徐々に拡大させつつ前記支持基板の裏面と前記吸盤の吸引面との間に吸引力を作用させる減圧装置と、を備える、請求項1に記載の剥離装置。
前記ワークの側方における前記一端に対向する位置で前記主面方向及び前記主面の法線方向に移動自在にされた当接部材と、前記当接部材を前記支持基板の前記主面の一端部に下方から当接させた後に上方に移動させる駆動装置と、を有する開裂発生機構をさらに備える、請求項1乃至4の何れかに記載の剥離装置。
前記ワークの側方における前記一端に対向する位置で前記主面方向及び前記主面の法線方向に移動自在にされた当接部材と、前記当接部材を前記支持基板の前記主面の一端部に下方から当接させた後に上方に移動させる駆動装置と、を有する開裂支援機構をさらに備える、請求項6又は7に記載の剥離装置。
前記駆動装置は、前記当接部材を前記支持基板の前記主面の一端部に下方から当接させる前に、前記当接部材を下降させて前記ダイシングテープを前記凹部内へ押圧する、請求項8に記載の剥離装置。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の第1の実施形態に係る剥離装置を、図面を参照して説明する。いくつかの図面において、互いに直交する水平軸としてのx軸とy軸、およびx軸とy軸に直交する垂直軸としてのz軸からなる座標軸を図示し、以下の説明においてこの座標軸を適宜参照する。xyz座標の原点は、後述する吸着ステージ14の中心を通る垂直軸上の任意の点に設定される。異なる図面に図示される同一の座標軸は互いに参照関係にある。また断面図は特に断らない限り、x軸に沿った垂直断面で示されている。また断面に付すべきハッチングは省略している場合もある。
【0021】
図1および
図2に示すように、剥離装置1は、大まかに下チャンバ11、上チャンバ12、昇降装置13から構成される。下チャンバ11および上チャンバ12は耐圧性と剛性を有する材質で形成された厚板である。
【0022】
下チャンバ11は、下チャンバ11の上面に開放された円形の穴として形成される処理室10Aと、下チャンバ11の上下に貫通する矩形の孔として形成される機構室10Bと、を有する。機構室10Bの底面の開口は、下チャンバ11のx軸方向の一端(同図では左端。)から外側へ張り出す底床板20によって閉鎖されている。
【0023】
処理室10Aと機構室10Bとはx軸方向の側面部で互いに連通している。下チャンバ11の上面と上チャンバ12の底面とは摺り合わせの面で構成され、処理室10Aおよび機構室10Bの周囲に配設されたシール部材15によって両室10A,10B内は気密にシールされる。シール部材15は例えばOリングが好適に使用される。下チャンバ11は可動式であり、昇降装置13によってz軸方向に昇降自在に構成される。昇降装置13は一例としてエアシリンダが用いられる。ワークWの搬入出時は、不動の上チャンバ12に対して下チャンバ11を昇降させ、処理室10Aを開閉する。なお、処理室10Aの開閉は、上チャンバ12が下チャンバ11に対して昇降しても良いし、その他の方式、例えばヒンジ式の開閉構造を採用することもできる。
【0024】
図2に示すように、下チャンバ11には吸着ステージ14、開裂発生機構2および開裂支援機構4が配設される。上チャンバ12には開裂成長機構3が配設される。以下、各要素について説明する。
【0025】
<ワーク>
ワークWの構造について
図7および
図8を参照して説明する。
【0026】
ワークWはある程度の剛性を有しフレキシブル性に乏しい円形の支持基板103の主面に、フレキシブル性を有する円形の極薄のウェハ101が接着され、さらに該ウェハ101の片面に、円形のダイシングテープ102が貼り付けられ、さらにダイシングテープ102の円周部にドーナツ型のテープフレーム104が貼り付けられた構造である。テープフレーム104はダイシングテープ102のウェハ101が貼り付けられた面と同じ面に貼り付けられる。
【0027】
支持基板103およびウェハ101の直径は略同一(厳密には、ウェハ101の直径の方が支持基板103より若干小さい。)であり、ダイシングテープ102の直径は支持基板103またはウェハ101の直径よりも一回り大きく、テープフレーム104の内径はダイシングテープ102の直径より若干小さくテープフレーム104の外径はダイシングテープ102の直径より若干大きい。ワークWは、ウェハ101、ダイシングテープ102、支持基板103およびテープフレーム104が同心円状に一体化されたものである。
【0028】
図8にワークWの要部の拡大図を示すように支持基板103とウェハ101は接着剤ADを用いて接着される。ウェハ101およびテープフレーム104はダイシングテープ102の片面全体に形成された粘着面に貼り付けられる。
【0029】
<吸着ステージ>
吸着ステージ14の構成を
図2、
図5、
図6、
図9および
図10を参照して説明する。
【0030】
図2および
図4に示すように、吸着ステージ14は下チャンバ11の処理室10A内に設置される。吸着ステージ14は吸着面140に吸着力を発生させることができれば、単一部品で形成されている必要はなく、ポーラスな材質に一部(例えば、吸着面140の一部。)が置換されたものなど複数の部品の組み合わせで構成することも可能である。
【0031】
吸着ステージ14の上面はワークWを吸着するための吸着面140に設定される。本実施形態では、間にテーパを介することで中央部に対して周囲部が低くなった段形状の吸着面140を示しているが、吸着面140は水平面のみで構成されていても構わない。
図9および
図10に示すようにワークWはダイシングテープ102を下にして吸着面140上に中心位置を一致させて載置される。
【0032】
吸着ステージ14の外周にはテープフレーム104の下面に当接するシール部材16が装着され、ワークWと吸着ステージ14の吸着面140との間が気密にシールされる。シール部材16は例えばVリングが好適に使用される。
【0033】
吸着面140には吸着溝144が形成される。吸着溝144の中心には通気孔145がステージ14のz軸方向に貫通している。通気孔145の下端は処理室10A床底部を貫通する通気孔111に接続される。通気孔111の下端にはジョイント17が取り付けられ、ジョイント17には減圧装置60が接続される。減圧装置60は例えば真空ポンプなどの吸引源、配管、開閉弁などで構成される。吸着面140にワークWが吸着された状態で減圧装置によって吸着溝144内の空気を吸引することにより吸着面140に吸引吸着力が発生しワークWが密着される。本実施形態では、吸着ステージ14は吸引吸着式としたが、その他の吸着方式、例えば静電吸着式を採用することも出来る。
【0035】
ステージ14の吸着面140には、ワークWのウェハ101のx軸方向の一端(
図9、
図10参照。同図では左端。)に対応する箇所に、y軸方向に延びる凹部146が形成される。凹部146のx軸方向の端部はR面に加工されている。吸着ステージ14の吸着面140にワークWが吸着された状態では、ダイシングテープ102のウェハ101(および支持基板103)が配置された部分のx軸方向の一端およびその周辺が凹部146上に位置している。
【0036】
凹部146の中央には通気孔147がステージ14のz軸方向に貫通している。通気孔147の下端は処理室10A底床部を貫通する通気孔112に接続さる。通気孔112の下端にはジョイント17が取り付けられ、ジョイント17に減圧装置70が接続される。減圧装置70は例えば真空ポンプなどの吸引源、配管、開閉弁などで構成される。
【0037】
以上のように構成される開裂発生機構2の作用を
図16(A),(B)を参照して説明する。
図16(A)に示すように、ステージ14の吸着面140にワークWが吸着された状態で減圧装置70によって凹部146内の空気を吸引することにより凹部146に吸引力が発生しその上にあるダイシングテープ102が凹部146に密着される。
【0038】
通常、ダイシングテープ102とウェハ101との間の粘着力は、ウェハ101と支持基板103との間の接着力よりも強い。したがって、凹部146の上方に位置する部分のウェハ101が支持基板103を置き去りにしてダイシングテープ102に追従して凹部146内に吸引される。この結果、
図16(B)に示すように、ウェハ101のx軸方向の一端では、ウェハ101と支持基板103との間に開裂(隙間)が生じる。凹部146のx軸方向の端部はR面1461に加工されているため、ウェハ101に急激な曲げ応力が作用することが避けられ、ウェハ101へのダメージの軽減に寄与する。同図では接着剤ADは開裂に伴ってウェハ101に付随している。接着剤ADが支持基板103とウェハ101のいずれに付随するかは接着剤の種類に依存する。
【0039】
図21(A)に示すように、開裂発生機構2に代えて開裂発生機構301を用いることもできる。開裂発生機構301は、当接部材310及び駆動装置320を備えている。当接部材310は、ワークWの側方における一端に対向する位置で主面方向及び主面の法線方向に移動自在に支持されている。当接部材310には、ワークWに対向する側面311の下部に爪部312が突出して形成されている。
【0040】
駆動装置320は、水平駆動部321、垂直駆動部322、ロードセル323、ロードセル324、制御部325を備えている。水平駆動部321は、当接部材310をx軸方向に往復移動させる。垂直駆動部322は、当接部材310をz軸方向に昇降移動させる。ロードセル323は、水平駆動部321の負荷を検出する。ロードセル324は、垂直駆動部322の負荷を検出する。制御部325は、ロードセル323及び324の検出データに基づいて水平駆動部321及び垂直駆動部322を動作させる。
【0041】
図21(A)に示すように、制御部325は、水平駆動部321を動作させ、当接部材310をダイシングテープ102側を吸着ステージ14に吸着させたワークWにおけるウェハ101の一端側に近接するように、矢印x1方向に移動させる。この時、爪部312は、支持基板103の主面よりも下方に位置している。
【0042】
図21(B)に示すように、制御部325は、ロードセル323の検出データに基づいて、当接部材310の側面311が支持基板103に当接したことを検出すると、水平駆動部321を反対方向に動作させ、当接部材310を所定量だけ矢印x2方向に移動させて側面311と支持基板103との間に間隙を形成する。
【0043】
この状態から、垂直駆動部322の動作によって当接部材310を矢印z1方向に上昇させ、
図21(C)に示すようにロードセル324の検出データに基づいて爪部312が支持基板103の端部に当接した時点から、
図21(D)に示すように所定量だけ当接部材310の矢印z1方向の上昇を継続する。
【0044】
以上の動作によって、開裂発生機構301を用いて、支持基板103の主面に塗布された接着剤ADとウェハ101との間に開裂を生じさせることができる。
【0046】
上チャンバ12には吸盤50が装着される。吸盤50は一例としてフランジ部を有する円盤体であり、処理室10A内に設置される吸着ステージ14の吸着面140に対向配置される。吸盤50はフランジ部で上チャンバ12の上面に固定され、上チャンバ12を貫通する底面(吸着面)が処理室10A内に臨んでいる。
【0047】
吸盤50のフランジ部はx軸方向に延びる線形空洞(シリンダ室)501を有する。シリンダ室501にはピストン54が往復動される。シリンダ室501のx軸方向の一端(
図2ではピストン左死点。)の壁を貫通してシャフト53が挿入される。シャフト53の先端にピストン54が取り付けられている。なお、シャフト53が貫通するシリンダ室501の孔は図示しないシール部材によって気密にシールされる。シャフト53の後端は上チャンバ12の上面に配設されるアクチュエータ51のスライダ52に固定される。
【0048】
シリンダ室501のx軸方向の一端および他端の天井部に通気孔504および通気孔505がそれぞれ貫通する。各通気孔504,505にはそれぞれジョイント17が取り付けられている。一方の通気孔504のジョイント17には減圧装置80が接続される。減圧装置80は例えば真空ポンプなどの吸引源、配管、開閉弁などで構成される。他方の通気孔505のジョイントには何も接続されないが、必要に応じて増圧装置を接続することも可能である。
【0049】
シリンダ室501の底床部にx軸方向に並ぶ複数の通気孔502が貫通する。
図12に示すように吸盤50の底面には複数の通気孔502に対応してy軸方向に延びる複数のスリット溝503が形成される。通気孔502の下端は各スリット溝503の中心に開口する。
【0050】
吸盤50の底面には、吸盤50の直径と同程度のサイズの吸着パッド55が接着剤などを用いて取付けられる。吸着パッド55は厚み方向に弾性を有する無孔質のスポンジなどが使用される。吸着パッド55は若干弾性圧縮された状態で吸着ステージ14の吸着面140上に吸着されたワークWの最上層の支持基板103の裏面(上面)に常時密着される(
図17参照。)。吸着パッド55は支持基板103の裏面側と処理室10Aとの間をシールするシール部材を兼ねている。
【0051】
図13に示すように、吸着パッド55には多数の通気孔551が全体に開口する。吸着パッド55が吸盤50に取付けられると、多数の通気孔551は
図14に示すように複数のスリット溝503の内側に位置する。
【0052】
吸着パッド55において、通気孔551は、必ずしも多数である必要はなく、省略することもできる。吸着パッド55の変形時に通気孔551が、平面視において変形又は変位し、各スリット溝503から外れたり、複数のスリット溝503に跨がって位置する可能性があり、これを回避するためには、通気孔551のない平板状の吸着パッド55を用いるべきである。
【0053】
処理室10Aの天井部を貫通する通気孔121にはジョイント17が取り付けられる。ジョイント17には増圧装置90が接続される。増圧装置90は例えばコンプレッサなどの加圧源、配管、開閉弁などで構成される。
【0054】
以上のように構成される開裂成長機構3の作用を
図17(A)〜(C)を参照して説明する。不図示のアクチュエータを駆動するとピストン54がシリンダ室501のx軸方向の一端(同図では左端。)から他端(同図では右端。)へ摺動する。摺動を開始するタイミングは、開裂発生機構2の作用によってウェハ101のx軸方向の一端に開裂が発生した時が好適である。このタイミングの判定は、例えば後述する開裂支援機構4が備えるロードセル181,182,19の検知信号に基づいて行う。
【0055】
シリンダ室501内はピストン移動方向の上流側の陰圧空間501Aと下流側の常圧空間501Bとに区切られる。陰圧空間501Aに不図示の減圧装置80が接続され、常圧空間501Bは大気圧に開放されている。ピストン54の移動距離に応じて陰圧空間501Aの容積は増加し、常圧空間501Bの容積は減少する。
【0056】
図17(A)に示すようにピストン54が摺動を開始する前はシリンダ室501の底床部でx軸方向に並ぶ複数の通気孔502は、常圧空間501Bにのみ連通している。
【0057】
図17(B)に示すようにピストン54の移動に伴って陰圧空間501Aが拡大することにより、ウェハ101のx軸方向の一端から他端に向かって吸盤50の底面(吸引面)の吸引エリアが漸次拡大する。吸盤50の吸引力は支持基板103に密着された吸着パッド55に伝わり、吸引エリアに対応して支持基板103の裏面が陰圧となる。吸着パッド55は支持基板103の裏面側と処理室10Aとの間をシールする役割もあるので、処理室10内で、支持基板103の剥離部の主面側と裏面側との間に大きな圧力差(主面側>裏面側)が形成される。この圧力差により、吸着パッド55は圧縮変形され、吸着ステージ14側へダイシングテープ102およびウェハ101を置き去りにして支持基板103のみが浮上することで開裂が成長する。ここで、増圧装置90(
図2参照。)を駆動すると、処理室10A内が加圧され、支持基板103の剥離部の主面側が陽圧になるため、前記の圧力差を増大し、開裂の成長を促進することができる。
【0058】
図17(C)に示すようにピストン54が移動しきると陰圧空間501Aが支配的となり、全体的に圧縮変形された吸着パッド55に支持基板103が吸着され、ワークWから支持基板103が剥離される。
【0059】
なお、ワークの種類によってはシリンダ室501の常圧空間501Bの通気孔505に設けられたジョイント17に図示しない増圧装置を接続し、開裂の成長点よりも下流側の部分のワークWを空気圧によって抑圧した方が剥離の精度が向上する。
【0060】
また、増圧装置90(第2の増圧装置)によって処理室10A内を加圧するとともに、シリンダ室501の空間501Bを図示しない増圧装置(第1の増圧装置)によって加圧することにより、シリンダ室501の空間501Aの減圧を不要にできる。支持基板103の裏面におけるウェハ101の一端から他端へ向かって範囲を徐々に減少させつつ支持基板103の主面をウェハ101側に押圧する圧力を作用させることができるからである。つまり、支持基板103の裏面において支持基板103の主面をウェハ101側に押圧する圧力が作用する範囲を徐々に小さくすることで、処理室10A内の陽圧の作用する範囲がウェハ101の一端から他端に向かって徐々に拡大し、ウェハ101と支持基板103との間の開裂を成長させることができる。
【0061】
<開裂支援機構>
開裂支援機構4の構成を
図2および
図15を参照して説明する。
【0062】
開裂支援機構4は下チャンバ11の吸着ステージ14のx軸方向の一端側(
図2では左端側。)に隣接して配設される。
【0063】
開裂支援機構4は大まかに、下チャンバ11の機構室10B内部に配設される運動部、下チャンバ11の外側に配置されて運動部を作動させる駆動部、および運動部と駆動部を連結する連結部とから構成される。運動部、駆動部及び連結部がこの発明の駆動装置に相当する。
【0064】
開裂支援機構4の運動部の構成を説明する。運動部は、開裂支援機構4の末端に位置する板状の作用片(当接部材)21を備える。作用片21の先端面底部には爪211が突設される。作用片21は第1ブロック27の水平上面のx軸方向中央に設けられた揺動軸によって揺動自在に支持され、さらに第1ブロック27の揺動軸を挟んでx軸方向の両側に配置された一対の第1ロードセル181,182に支持されることにより、水平状態に保たれている。第1ロードセル181,182は作用片21に作用する上下方向(z軸方向)の負荷を検知するもので、一方のロードセル181は下向きの負荷、他方のロードセル182は上向きの負荷に対応している。
【0065】
第1ブロック27は
図2に示すようにx-z断面が楔形を呈する部材である第1ブロック27の底面はx軸方向の一端(同図では左端。)から他端(同図では右端。)に向かって下降するテーパに設定される。第2ブロック26は、x-z断面が楔形を呈する部材であり、上面が第1ブロック27の底面に摺動するテーパに設定されている。第2ブロック26は第1ブロック27の下方に配置される。第2ブロック26は底床板20上に配置される。
【0066】
第1ブロック27と第2ブロック26との間に、第1ブロック27に対して第2ブロック26をx軸方向に摺動自在にするように構成させるリニアガイド25が設けられる。第2ブロック26と底床板20との間に、底床板20に対して第2ブロック26をx軸方向に摺動自在にするように構成されるリニアガイド24が設けられる。
【0067】
開裂支援機構4の駆動部の構成を説明する。駆動部は開裂支援機構4の動力源として、独立して駆動する第1アクチュエータ30および第2アクチュエータ40を備える。両アクチュエータ30,40はそれぞれのシャフト31,41をx軸方向に往復動させる。
【0068】
底床板20上の下チャンバ11の外部に張り出した部分には、y-z平面を持つ垂直壁である固定壁22および可動壁28が配設される。可動壁28と底床板20との間に、底床板20に対して可動壁28を摺動自在にするように構成されるリニアガイド23が設けられる。
【0069】
第1アクチュエータ30は固定壁22の外面(x軸方向の一端面。
図2では左端面。)に固定され、第2アクチュエータ40は可動壁28の外面に固定される。第1アクチュエータ30のシャフト31の先端は可動壁28の外面側に接続される。
【0070】
可動壁28の外面側にL型片281が突設される。L型片281には鞘32が貫通される。第1アクチュエータ30のシャフト31の先端は鞘32のx軸方向の一端面(
図2では左端面。)に固定される。鞘32はx軸方向の他端(
図2では右端。)が開放され、鞘32にコア33が摺動自在に収容される。コア33は鞘32の中空部に配置された圧縮バネ34により可動壁28の外面に近づく方向に付勢される。一方、鞘32は圧縮バネ34により可動壁28の外面から離れる方向に付勢される。鞘32はx軸方向の他端にフランジ状のストッパーを備えることで、L型片281からの抜け止めが図られている。
【0071】
コア33の先端は可動壁28の外面に設置された第2ロードセル19に当接している。第2ロードセル19は圧縮バネ34が伸縮に伴う加重の変化を計測することで作用片21に対してx軸方向に作用する負荷を検知する。
【0072】
開裂支援機構4の連結部の構成を説明する。可動壁28の内面と第1ブロック27のx軸方向の一端面(
図2では左端面。)との間にx軸方向に延びる連結棒291が設けられる。連結棒291の両端はy軸方向に延びる軸で回動自在に支持されることでリンク機構を構成する。このリンク機構によって、連結棒291のx軸方向の一端(同図では左端。)のz方向の位置が不変であるのに対して他端(同図では右端。)のz方向の位置が第1ブロック27の昇降動作に追従可能となる。シャフト41の先端と第2ブロック26のx軸方向の一端面(
図2では左端面。)との間にx軸方向に延びる連結棒292が設けられる。
【0073】
以上のように構成される開裂支援機構4の動作を
図3を参照して説明する。
図3に第1アクチュエータ30の動作を実線矢印で示す。第1アクチュエータ30が駆動するとシャフト31がx軸方向に往復動する。このシャフト31の動きは可動壁28に作用する。運動部の動作としてはシャフト31が移動すると第1ブロック27および第2ブロック26が一体で同じ距離だけx軸方向へ移動する。すなわち、第1アクチュエータ30は運動部の末端にある作用片21のx軸方向の移動に関与している。
【0074】
図3に第2アクチュエータ40の動作を点線矢印で示す。第1アクチュエータ30が停止した状態で第2アクチュエータ40が駆動するとシャフト41が往復動する。このシャフト41の動きは第2ブロック26に直接作用する。第1アクチュエータ30が停止しているので第1ブロック27はx軸方向に静止する一方、第2ブロック26は上下に配置されるリニアガイド24,25を使ってx軸方向に変位する。運動部の動作としてはシャフト41が移動すると第1ブロック27がz軸方向に所定距離だけ移動する。第1ブロック27のz軸方向の移動量は第2ブロック26のx軸方向の移動量(シャフト41の移動量と同じ。)に、リニアガイド25の勾配の正接を乗じたものとなる。すなわち、第2アクチュエータ40は機構部の運動部の末端にある作用片21のz軸方向の移動(昇降)に関与している。
【0075】
開裂支援機構4の作用について
図18(A)〜(D)を参照して説明する。予め作用片21はx軸方向およびz軸方向について
図18(A)に示すように所定の初期位置に待機される。このとき、作用片21の先端部が、ダイシングテープ102を間に挟んで凹部146の上方に位置している。
【0076】
そして、この位置から作用片21が下降する。吸着ステージ14の吸着面140はテーパによって周囲部が落ち込んでいるので、作用片21の逃げ場所が確保される。これにより、
図18(B)に示すように、作用片21の先端底部によって凹部146の上方に位置する部分のダイシングテープ102が凹部146内に押圧される。押圧はダイシングテープ102に及ぶz軸方向の力の反発力で第1ロードセル182に作用する負荷の変化を計測することにより検知することができる。
【0077】
このとき開裂発生機構2が作動し、上述した開裂発生機構2の作用によってウェハ101のx軸方向の一端でウェハ101と支持基板103との間の開裂が発生する。この場面では開裂支援機構4はダイシングテープ102を凹部146内に押さえ込むことによりこの開裂の発生を支援する役割をしている。
【0078】
続いて作用片21は若干上昇した後、x軸方向へ前進することにより、
図18(C)に示すように作用片21の先端面底部の爪211を支持基板103のx軸方向の一端に係合させる。この係合は支持基板103に及ぶx軸方向の力の反発力でロードセル19に作用する負荷の変化を計測することにより検知することができる。
【0079】
図18(D)に示すように作用片21が上昇することで、爪211で支持基板103をリフトアップさせる。このリフトアップは支持基板103に及ぶz軸方向の力の反発力で第1ロードセル181に作用する負荷の変化を計測することにより検知することができる。
【0080】
このとき不図示の開裂成長機構3が作動し、上述した開裂成長機構3の作用によって上記開裂がウェハ101のx軸方向の一端から他端へと成長していく。この場面では開裂支援機構4は支持基板103を物理的に持ち上げることで剥離の成長エンジンである、支持基板103の主面側と裏面側との間の圧力差を生ずる面積の拡大に寄与している。つまり、開裂の成長を支援する役割をしている。
【0081】
なお、開裂支援機構3は、
図18(A)及び(B)の動作を省略し、
図18(C)及び(D)の動作のみを行うものとすることもできる。
【0082】
以上説明した剥離装置1は、
図2に示すように、開裂発生機構2、開裂成長機構3、開裂支援機構4が上チャンバ12および下チャンバ11を筐体としたコンパクトなユニットとして纏められ、制御部5によってこれらの機構および昇降装置13などが統括的に制御される。
【0083】
制御部5による剥離装置1の制御は、
図19に示すように、開裂支援機構4の作動、開裂発生機構2の作動、開裂成長機構3の作動の順で実行される。開裂支援機構4および開裂成長機構3の作動はロードセル181,182,19からの検知結果も取り入れることにより、チャンバ11,12の外から見えない処理室10A内で起こる開裂の発生および成長の支援を確実を行うことが出来る。
【0084】
なお、開裂発生機構2により、ウェハ101の一端に支持基板103との間の開裂を確実に発生させることができる場合には、開裂支援機構4を省略できる。また、開裂支援機構4を開裂発生機構301として用いることができる。
【0085】
さらに、開裂発生機構2又は開裂発生機構301及び開裂支援機構4に代えて、例えば、ウェハ101と支持基板103との間に水平に差し込まれるブレードを備えた他の開裂発生機構を用いることもできる。
【0086】
図20(A)〜(C)に本発明の第2の実施形態に係る剥離装置の要部を断面図で示す。これらの図で第1の実施形態に係る剥離装置と共通部分に同一符号を付している。
【0087】
本実施形態は、吸盤が上チャンバ12と一体で形成され、吸着ステージが下チャンバ11と一体で出来ており、第1実施形態にはあった開裂支援機構は省略された簡易な構造を採用している。上チャンバ12に設けられたシール部材56は、環状を呈しており、支持基板103の裏面の円周部に当接する。支持基板103の裏面と吸盤(上チャンバ12と一体。)との間にシール部材56によってシールされた空間が形成されている。本実施形態の剥離装置の動作原理は第1実施形態と同じである。
【0088】
シール部材56は、通気孔502を介して支持基板103の裏面(上面)側に負圧を作用させる際に、支持基板103の裏面と上チャンバ12との間の気密性を維持するために機能する。シール部材56によって支持基板103の裏面と上チャンバ12との間が、シール部材56の外側に位置する支持基板103の裏面に対して気密にされる。これによって、支持基板103の主面と裏面との間に、支持基板103とウェハ101との開裂を成長させるための圧力差を生じさせることができる。特に、通気孔121を介して処理室10内を加圧することで、支持基板103の主面と裏面との間の圧力差が大きくなり、支持基板103とウェハ101との開裂を確実に成長させることができる。
【0089】
図20において、上チャンバ12と支持基板103との間に
図12〜
図14に示した吸盤50及び吸着パッド55を介在させることもできる。また、吸着パッド55が通気孔を省略したものである場合でも、吸盤50に形成されたスリット溝503の一部を吸着パッド55の周面の外側に連通させることにより、吸着パッド55の周囲とシール部材56との間が負圧状態となり、支持基板103を吸着パッド55に密着させることができる。
【0090】
なお、上記の説明では便宜上、天地(上チャンバ、下チャンバ)を定めた装置を用いて説明したが、剥離装置の配向は天地が反転しても良いし、その間の任意の向きで使用することも可能である。
【0091】
また、開裂支援機構4又は開裂発生機構301の動作に先立って、ワークWを薬剤に浸漬し、ウェハ101と支持基板103との間の接着剤ADの一部を除去しておくこともできる。
【0092】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。