特許第6377979号(P6377979)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6377979
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】ゴムウエットマスターバッチの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/22 20060101AFI20180813BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20180813BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20180813BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   C08J3/22CEQ
   C08K3/06
   C08K3/04
   C08L7/00
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-135540(P2014-135540)
(22)【出願日】2014年7月1日
(65)【公開番号】特開2016-14086(P2016-14086A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2017年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野村 健治
(72)【発明者】
【氏名】田中 惇
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−284799(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/116543(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/073234(WO,A1)
【文献】 特開2012−144680(JP,A)
【文献】 特開2014−091810(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J3/00−3/28
C08K3/00−13/08
C08L1/00−101/14
B29B7/00−11/14,
13/00−15/06
B60C1/00,15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として得られるゴムウエットマスターバッチの製造方法であって、
前記充填材を前記分散溶媒中に分散させて充填材含有スラリー溶液を製造する工程(I)、前記充填材含有スラリー溶液に前記ゴムラテックス溶液を添加して得られる充填材含有ゴムラテックス溶液を、加熱しながら撹拌することにより凝固させる工程(II)、および酸を添加しつつ撹拌することにより前記充填材含有ゴムラテックス溶液を凝固させる工程(III)を有し、
前記工程(II)において、撹拌時に使用する混合槽が備える撹拌羽根の周速が10m/s未満であり、かつ加熱により前記充填材含有ゴムラテックス溶液に付与される単位時間および単位質量当りの熱量が、25J以上250J以下であることを特徴とするゴムウエットマスターバッチの製造方法。
【請求項2】
前記工程(II)における撹拌時間が、前記工程(III)における撹拌時間の1.5倍以上である請求項1に記載のゴムウエットマスターバッチの製造方法。
【請求項3】
前記工程(I)が、前記充填材を前記分散溶媒中に分散させる際に、前記ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材を含有するスラリー溶液を製造する工程(I−(a))であり、
前記工程(II)が、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材を含有するスラリー溶液に、残りの前記ゴムラテックス溶液を添加して得られる、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材含有ゴムラテックス溶液を、加熱しながら撹拌することにより凝固させる工程(II−(a))である請求項1または2に記載のゴムウエットマスターバッチの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として得られるゴムウエットマスターバッチおよびその製造方法、ゴムウエットマスターバッチを含有するゴム組成物、ならびにゴム組成物を用いて得られた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ゴム業界においては、カーボンブラックなどの充填材を含有するゴム組成物を製造する際の加工性や充填材の分散性を向上させるために、ゴムウエットマスターバッチを用いることが知られている。これは、充填材と分散溶媒とを予め一定の割合で混合し、機械的な力で充填材を分散溶媒中に分散させた充填材含有スラリー溶液と、ゴムラテックス溶液と、を液相で混合し、その後、酸などの凝固剤を加えて凝固させたものを回収して乾燥するものである。ゴムウエットマスターバッチを用いる場合、充填材とゴムとを固相で混合して得られるゴムドライマスターバッチを用いる場合に比べて、充填材の分散性に優れ、加工性や補強性などのゴム物性に優れるゴム組成物が得られる。このようなゴム組成物を原料とすることで、例えば転がり抵抗が低減され、耐疲労性に優れた空気入りタイヤなどのゴム製品を製造することができる。
【0003】
ただし、市場においては、ゴムウエットマスターバッチ技術を利用することにより得られる充填材の分散性向上の効果に関し、さらなる性能アップが求められるのが実情であり、ゴムウエットマスターバッチを製造する際の各工程において、充填材の分散性向上のために多くの工夫がなされている。
【0004】
下記特許文献1では、ジエン系ゴム成分のラテックス100重量部(固形分として)並びに表面に無定形シリカを付着させたゴム補強用カーボンブラックのスラリー10〜250重量部(固形分として)の混合物を凝固剤で凝固せしめる技術が記載されている。
【0005】
また、下記特許文献2では、天然ゴムラテックスとカーボンブラックスラリーを液相で混合する工程及び凝固する工程を有する天然ゴムマスターバッチの製造方法において、酸などの凝固剤を使用してゴムラテックスを凝固する際、せん断力を3〜100Paに調整する技術が記載されている。
【0006】
また、下記特許文献3では、天然ゴムラテックスとカーボンブラックスラリ−を液相で混合・凝固する工程において、凝固剤を添加することなく液相のpHを8〜10に調整し、かつ液相の温度20〜80℃、撹拌せん断力を10〜1000kPaに設定することにより、マスターバッチ中の天然ゴムの平均分子量の低下を抑制する技術が記載されている。
【0007】
さらに、下記特許文献4では、充填材を含有するスラリー溶液とゴム溶液とを連続的に混合・凝固させてウエットマスターバッチを製造する方法において、凝固槽に設けられた攪拌羽根によりスラリー溶液とゴム溶液とを攪拌しながら凝固物を生成し、この凝固物を、凝固槽に設けられた破砕羽根によって破砕する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−118781号公報
【特許文献2】特開2006−213866号公報
【特許文献3】特開2006−328135号公報
【特許文献4】特開2007−237456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、上記先行技術にはいずれも課題が存在することが判明した。具体的には、特許文献1〜4に記載の技術はいずれも、ゴムウエットマスターバッチを製造する際の凝固工程を2工程有するものではなく、ましてや凝固工程を2工程とした場合に、最初の凝固工程における熱的エネルギーと機械的エネルギーとのバランスを最適化する点についての検討がされている訳でもない。このため、特に充填材の分散性の点でさらなる改良の余地があることが判明した。
【0010】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、充填材が均一に分散したゴムウエットマスターバッチであって、発熱性および耐疲労性に優れた加硫ゴムの原料となるゴムウエットマスターバッチおよびその製造方法、ゴム組成物ならびに空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明者らは特に、ゴムウエットマスターバッチを製造する際の凝固工程に着目して鋭意検討を行った。その結果、凝固工程を2工程に分け、第1の凝固工程では、充填材含有スラリー溶液にゴムラテックス溶液を添加して得られる充填材含有ゴムラテックス溶液に対し、熱的エネルギーおよび機械的エネルギーを最適化しながら付与することにより凝固工程を実施し、第2の凝固工程では、充填材含有ゴムラテックス溶液に対し、酸を加えて凝固工程を実施することにより、得られるゴムウエットマスターバッチ中のカーボンブラックの分散性を著しく向上できることを見出した。本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、下記構成を備える。
【0012】
即ち本発明は、少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として得られるゴムウエットマスターバッチの製造方法であって、前記充填材を前記分散溶媒中に分散させて充填材含有スラリー溶液を製造する工程(I)、前記充填材含有スラリー溶液に前記ゴムラテックス溶液を添加して得られる充填材含有ゴムラテックス溶液を、加熱しながら撹拌することにより凝固させる工程(II)、および酸を添加しつつ撹拌することにより前記充填材含有ゴムラテックス溶液を凝固させる工程(III)を有し、前記工程(II)において、撹拌時に使用する混合槽が備える撹拌羽根の周速が10m/s未満であり、かつ加熱により前記充填材含有ゴムラテックス溶液に付与される単位時間および単位質量当りの熱量が、25J以上250J以下であることを特徴とするゴムウエットマスターバッチの製造方法、に関する。
【0013】
本発明に係るゴムウエットマスターバッチの製造方法は、凝固工程として2工程、具体的には第1の凝固工程である工程(II)と第2の凝固工程である工程(III)とを有する。第1の凝固工程である工程(II)では、充填材含有ゴムラテックス溶液に対し付与される機械エネルギーを適度に低くするため、撹拌時に使用する混合槽が備える撹拌羽根の周速を10m/s未満とする。そして、機械的エネルギーを適度に低くする代わりに、充填材含有ゴムラテックス溶液に対し付与される熱的エネルギーを最適化するために、加熱により付与される単位時間および単位質量当りの熱量を25J以上250J以下とする。これにより、工程(II)において、充填材の分散性を高めつつ、ゴムラテックスを凝固することができる。工程(II)において充填材含有ゴムラテックス溶液をある程度凝固させた段階で、さらに工程(III)において酸を添加しつつ撹拌することにより、充填材含有ゴムラテックス溶液を凝固させる。これにより、最終的に得られるゴム凝固物中のカーボンブラックの分散性を飛躍的に向上させることができる。
【0014】
なお、本発明において「加熱により付与される単位時間および単位質量当りの熱量」とは、((攪拌終了時の温度[K])−(攪拌開始時の温度[K]))×(比熱[J/kg・K])/(攪拌時間[sec])により算出できる。
【0015】
上記製造方法において、前記工程(II)における撹拌時間が、前記工程(III)における撹拌時間の1.5倍以上であることが好ましい。かかる製造方法によれば、酸による充填材含有ゴムラテックス溶液の凝固の割合が適度なものとなるため、ゴム凝固物中のカーボンブラックの分散性をさらに向上させることができる。工程(III)における撹拌時間に対する工程(II)における撹拌時間の上限は特に限定はないが、生産性を考慮すると10倍以下であることが好ましい。
【0016】
上記製造方法において、前記工程(I)が、前記充填材を前記分散溶媒中に分散させる際に、前記ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材を含有するスラリー溶液を製造する工程(I−(a))であり、前記工程(II)が、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材を含有するスラリー溶液に、残りの前記ゴムラテックス溶液を添加して得られる、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材含有ゴムラテックス溶液を、加熱しながら撹拌することにより凝固させる工程(II−(a))であることが好ましい。
【0017】
上記製造方法によれば、充填材を分散溶媒中に分散させる際に、ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着した充填材を含有するスラリー溶液を製造する(工程(I)−(a))。これにより、充填材の表面の一部あるいは全部に、極薄いラテックス相が生成し、工程(II−(a))において残りのゴムラテックス溶液と混合する際、充填材の再凝集を防止することができる。その結果、充填材が均一に分散し、経時的にも充填材の分散安定性に優れたゴムウエットマスターバッチを製造することができる。かかるウエットマスターバッチは充填材が均一に分散し、かつ経時的な分散材の再凝集も抑制されているため、これを含有するゴム組成物を原料として得られる加硫ゴムでは、発熱性および耐疲労性が著しく向上する。
【0018】
なお、上記製造方法では、単に充填材を分散溶媒中に分散させてスラリー溶液を製造する場合に比べて、スラリー溶液中の充填材の分散性に優れ、かつ充填材の再凝集を防止することができるため、スラリー溶液の保存安定性にも優れるという効果も奏する。
【0019】
また、本発明は、前記いずれかに記載の製造方法により製造されたゴムウエットマスターバッチおよび該ゴムウエットマスターバッチを含有するゴム組成物に関する。かかるゴムウエットマスターバッチは、カーボンブラックの分散性に優れる。このため、該ゴムウエットマスターバッチを含有するゴム組成物の加硫ゴムおよび空気入りタイヤは、発熱性および耐疲労性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として得られるゴムウエットマスターバッチの製造方法に関する。
【0021】
本発明において、充填材とは、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウムなど、ゴム工業において通常使用される無機充填材を意味する。上記無機充填材の中でも、本発明においてはカーボンブラックを特に好適に使用することができる。
【0022】
カーボンブラックとしては、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなど、通常のゴム工業で使用されるカーボンブラックの他、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックは、通常のゴム工業において、そのハンドリング性を考慮して造粒された、造粒カーボンブラックであってもよく、未造粒カーボンブラックであってもよい。
【0023】
分散溶媒としては、特に水を使用することが好ましいが、例えば有機溶媒を含有する水であってもよい。
【0024】
ゴムラテックス溶液としては、天然ゴムラテックス溶液および合成ゴムラテックス溶液を使用することができる。
【0025】
天然ゴムラテックス溶液は、植物の代謝作用による天然の生産物であり、特に分散溶媒が水である、天然ゴム/水系のものが好ましい。天然ゴムラテックス溶液については濃縮ラテックスやフィールドラテックスといわれる新鮮ラテックスなど区別なく使用できる。合成ゴムラテックス溶液としては、例えばスチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴムを乳化重合により製造したものがある。
【0026】
以下に、本発明に係るゴムウエットマスターバッチの製造方法について説明する。かかる製造方法は、充填材を分散溶媒中に分散させて充填材含有スラリー溶液を製造する工程(I)、充填材含有スラリー溶液にゴムラテックス溶液を添加して得られる充填材含有ゴムラテックス溶液を、加熱しながら撹拌することにより凝固させる工程(II)、および酸を添加しつつ撹拌することにより充填材含有ゴムラテックス溶液を凝固させる工程(III)を有する。そして、本発明においては、凝固工程として2工程、具体的には第1の凝固工程である工程(II)と第2の凝固工程である工程(III)とを有する点が特徴である。
【0027】
特に、本実施形態では、充填材としてカーボンブラック、ゴムラテックス溶液として、天然ゴムラテックス溶液を使用した例について説明する。この場合、カーボンブラックの分散度合いが非常に高く、かつ加硫ゴムとしたときの発熱性および耐疲労性能をさらに向上したゴムウエットマスターバッチを製造することができる。
【0028】
(1)工程(I)
工程(I)では、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させてカーボンブラック含有スラリー溶液を製造する。ただし、本発明においては工程(I)として、カーボンブラックの分散性をさらに向上させるために、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させる際に、天然ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する工程(I−(a))を採用することが好ましい。工程(I−(a))では、天然ゴムラテックス溶液は、あらかじめ分散溶媒と混合した後、カーボンブラックを添加し、分散させても良い。また、分散溶媒中にカーボンブラックを添加し、次いで所定の添加速度で、天然ゴムラテックス溶液を添加しつつ、分散溶媒中でカーボンブラックを分散させても良く、あるいは分散溶媒中にカーボンブラックを添加し、次いで何回かに分けて一定量の天然ゴムラテックス溶液を添加しつつ、分散溶媒中でカーボンブラックを分散させても良い。天然ゴムラテックス溶液が存在する状態で、分散溶媒中にカーボンブラックを分散させることにより、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造することができる。工程(I−(a))における天然ゴムラテックス溶液の添加量としては、使用する天然ゴムラテックス溶液の全量(工程(I−(a))および工程(II)で添加する全量)に対して、0.5〜50質量%が例示される。
【0029】
工程(I−(a))では、添加する天然ゴムラテックス溶液の固形分(ゴム)量が、カーボンブラックとの質量比で0.5〜10%であることが好ましく、1〜6%であることが好ましい。また、添加する天然ゴムラテックス溶液中の固形分(ゴム)濃度が、0.5〜5質量%であることが好ましく、0.5〜1.5質量%であることがより好ましい。これらの場合、天然ゴムラテックス粒子をカーボンブラックに確実に付着させつつ、カーボンブラックの分散度合いを高めたゴムウエットマスターバッチを製造することができる。
【0030】
工程(I−(a))において、天然ゴムラテックス溶液存在下でカーボンブラックおよび分散溶媒を混合する方法としては、高せん断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機を使用してカーボンブラックを分散させる方法が挙げられる。
【0031】
上記「高せん断ミキサー」とは、ローターとステーターとを備えるミキサーであって、高速回転が可能なローターと、固定されたステーターと、の間に精密なクリアランスを設けた状態でローターが回転することにより、高せん断作用が働くミキサーを意味する。このような高せん断作用を生み出すためには、ローターとステーターとのクリアランスを0.8mm以下とし、ローターの周速を5m/s以上とすることが好ましい。このような高せん断ミキサーは、市販品を使用することができ、例えばSILVERSON社製「ハイシアーミキサー」が挙げられる。
【0032】
本発明においては、天然ゴムラテックス溶液存在下でカーボンブラックおよび分散溶媒を混合し、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する際、カーボンブラックの分散性向上のために界面活性剤を添加しても良い。界面活性剤としては、ゴム業界において公知の界面活性剤を使用することができ、例えば非イオン性界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両イオン系界面活性剤などが挙げられる。また、界面活性剤に代えて、あるいは界面活性剤に加えて、エタノールなどのアルコールを使用しても良い。ただし、界面活性剤を使用した場合、最終的な加硫ゴムのゴム物性が低下することが懸念されるため、界面活性剤の配合量は、天然ゴムラテックス溶液の固形分(ゴム)量100質量部に対して、2質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、実質的に界面活性剤を使用しないことが好ましい。
【0033】
工程(I−(a))において製造されるスラリー溶液中、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックは、90%体積粒径(μm)(「D90」)が、31μm以上であることが好ましく、35μm以上であることがより好ましい。この場合、スラリー溶液中のカーボンブラックの分散性に優れ、かつカーボンブラックの再凝集を防止することができるため、スラリー溶液の保存安定性に優れると共に、最終的な加硫ゴムの発熱性、耐久性およびゴム強度にも優れる。なお、本発明において天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックのD90は、カーボンブラックに加えて、付着した天然ゴムラテックス粒子も含めて測定した値を意味するものとする。
【0034】
(2)工程(II)
工程(II)では、カーボンブラック含有スラリー溶液に天然ゴムラテックス溶液を添加して得られるカーボンブラック含有天然ゴムラテックス溶液を、加熱しながら撹拌することにより凝固させる。そして、工程(II)において、撹拌時に使用する混合槽が備える撹拌羽根の周速を10m/s未満とし、かつ加熱によりカーボンブラック含有スラリー溶液に付与される単位時間および単位質量当りの熱量を、25J以上250J以下とする。撹拌時に使用する混合槽が備える撹拌羽根の周速を10m/s以上とすると、カーボンブラックの分散性が悪化し、最終的に得られる加硫ゴムの発熱性および耐疲労性が悪化する場合がある。
【0035】
また、加熱によりカーボンブラック含有天然ゴムラテックス溶液に付与される単位時間および単位質量当りの熱量を、25J未満とすると、熱エネルギーによる凝固が不十分となり、後の工程(III)において、酸によるカーボンブラック含有天然ゴムラテックス溶液の凝固が急激に進行するため、カーボンブラックの分散性が悪化し、最終的に得られる加硫ゴムの発熱性および耐疲労性が悪化する場合がある。一方、加熱によりカーボンブラック含有天然ゴムラテックス溶液に付与される単位時間および単位質量当りの熱量が250Jを超えると、付与される熱的エネルギー大きすぎるため、カーボンブラック含有天然ゴムラテックス溶液の凝固が急激に進行し、カーボンブラックの分散性が悪化する傾向がある。
【0036】
工程(II)において、加熱によりカーボンブラック含有スラリー溶液に付与される単位時間および単位質量当りの熱量を、25J以上250J以下とするためには、例えば加熱温度を70〜180℃とし、加熱しながらの撹拌時間を5〜60分とすることが好ましく、加熱温度を80〜160℃とし、加熱しながらの撹拌時間を10〜45分とすることがより好ましい。
【0037】
本発明に係る製造方法において、工程(II)で使用可能な混合槽とは、周速が10m/s未満を満たすものであれば公知の何れの混合機でも使用可能であるが、円筒状容器内でブレードが回転するものを好適に用いることができ、例えば(カワタ社製「スーパーミキサー」、新栄機械製作所社製「スーパーミキサー」、月島マシンセールス社製「ユニバーサルミキサー」や日本コークス工業社製「ヘンシェルミキサー」)が挙げられる。
【0038】
残りの天然ゴムラテックス溶液は、次工程(III)での乾燥時間・労力を考慮した場合、工程(I)で添加した天然ゴムラテックス溶液よりも固形分(ゴム)濃度が高いことが好ましく、具体的には固形分(ゴム)濃度が10〜60質量%であることが好ましく、20〜30質量%であることがより好ましい。
【0039】
なお、本発明に係る製造方法においては、カーボンブラックの分散性向上のために、工程(II)として、ゴムラテックス粒子が付着した充填材を含有するスラリー溶液に、残りのゴムラテックス溶液を添加して得られる、ゴムラテックス粒子が付着した充填材含有ゴムラテックス溶液を、加熱しながら撹拌することにより凝固させる工程(II−(a))であることが好ましい。
【0040】
(3)工程(III)
工程(III)では、酸を添加しつつ撹拌することによりカーボンブラック含有天然ゴムラテックス溶液を凝固させる。凝固剤として作用する酸としては、ゴムラテックス溶液の凝固用として通常使用されるギ酸、硫酸などが挙げられる。
【0041】
得られるゴムウエットマスターバッチ中のカーボンブラックの分散性をさらに向上させるためには、工程(II)における撹拌時間が、工程(III)における撹拌時間の1.5倍以上であることが好ましく、2倍以上10倍以下であることがより好ましい。
【0042】
工程(III)における凝固段階の後、凝固物を含む溶液を乾燥させることでゴムウエットマスターバッチを得る。凝固物を含む溶液の乾燥方法としては、オーブン、真空乾燥機、エアードライヤーなどの各種乾燥装置を使用することができる。
【0043】
工程(III)後に得られるゴムウエットマスターバッチは、ゴム100質量部に対して充填材を40〜80質量部含有することが好ましい。この場合、充填材の分散度合いと、加硫ゴムとしたときの発熱性および耐疲労性能とを、バランス良く向上したゴムウエットマスターバッチを製造することができる。
【0044】
工程(III)後に得られる天然ゴムウエットマスターバッチは、含有するカーボンブラックが均一に分散し、経時的なカーボンブラックの分散安定性に優れる。
【0045】
工程(III)後に得られるゴムウエットマスターバッチにおいて、必要に応じて硫黄系加硫剤、加硫促進剤、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、有機過酸化物、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤を配合することにより、本発明に係るゴム組成物を製造することができる。
【0046】
硫黄系加硫剤としての硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。本発明に係るタイヤゴム用ゴム組成物における硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して0.3〜6質量部であることが好ましい。硫黄の含有量が0.3質量部未満であると、加硫ゴムの架橋密度が不足してゴム強度などが低下し、6質量部を超えると、特に耐熱性および耐久性の両方が悪化する。加硫ゴムのゴム強度を良好に確保し、耐熱性と耐久性をより向上するためには、硫黄の含有量がゴム成分100質量部に対して1.5〜5.5質量部であることがより好ましく、2.0〜4.5質量部であることがさらに好ましい。
【0047】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して1〜5質量部であることがより好ましく、1.5〜4質量部であることがさらに好ましい。
【0048】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン−ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して0.5〜6.0質量部であることがより好ましく、1.0〜4.5質量部であることがさらに好ましい。
【0049】
本発明に係るゴム組成物は、ゴムウエットマスターバッチに加えて、必要に応じて、追加ゴム、硫黄系加硫剤、加硫促進剤、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、有機過酸化物、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などを、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどの通常のゴム工業において使用される混練機を用いて混練りすることにより得られる。
【0050】
また、上記各成分の配合方法は特に限定されず、硫黄系加硫剤、および加硫促進剤などの加硫系成分以外の配合成分を予め混練してマスターバッチとし、残りの成分を添加してさらに混練する方法、各成分を任意の順序で添加し混練する方法、全成分を同時に添加して混練する方法などのいずれでもよい。
【0051】
上述したとおり、本発明に係るゴムウエットマスターバッチは、含有する充填材が均一に分散し、経時的な充填材の分散安定性に優れることから、これを用いて製造されたゴム組成物も、やはり含有する充填材が均一に分散し、経時的な充填材の分散安定性に優れる。特に、このゴム組成物を用いて製造された空気入りタイヤ、具体的にはトレッドゴム、サイドゴム、プライもしくはベルトコーティングゴム、またはビードフィラーゴムに本発明に係るゴム組成物を使用した空気入りタイヤは、充填材が良好に分散したゴム部を有することとなるため、例えば転がり抵抗が低減され、かつ発熱性および耐疲労性能に優れる。
【実施例】
【0052】
以下に、この発明の実施例を記載してより具体的に説明する。使用原料および使用装置は以下のとおりである。
【0053】
(使用原料)
a)充填材
カーボンブラック「N110」;「シースト9」東海カーボン社製
カーボンブラック「N330」;「シースト3」東海カーボン社製
カーボンブラック「N774」;「シーストS」東海カーボン社製
b)分散溶媒 水
c)ゴムラテックス溶液 ゴムラテックスとして天然ゴムラテックスを使用し、ゴム成分25重量%になるように、常温で水を加えて濃度を調整。(DRC(Dry Rubber Content))=31.2%、質量平均分子量Mw=23.2万、Golden Hope社製
d)凝固剤 ギ酸(一級85%、10%溶液を希釈して、pH1.2に調整したもの)、ナカライテスク社製
e)酸化亜鉛 1号亜鉛華、三井金属社製
f)ステアリン酸 ルナックS−20、花王社製
g)ワックス OZOACE0355、日本精蝋社製
h)老化防止剤
(A)N−フェニル−N'−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン「ノクラック 6C」、大内新興化学社製
(B)2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体「RD」、大内新興化学社製
i)硫黄 鶴見化学工業社製
j)加硫促進剤 N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド 「サンセラーCM」(三新化学工業社製)
k)追加ゴム 「BR150L」;宇部興産社製
【0054】
(評価)
評価は、各ゴム組成物を所定の金型を使用して、150℃で30分間加熱、加硫して得られたゴムについて行った。
【0055】
(加硫ゴムの発熱性)
JIS K6265に準じて、製造した加硫ゴムの発熱性を、損失正接tanδにより評価した。なお、tanδは、UBM社製レオスペクトロメーターE4000を使用し、50Hz、80℃、動的歪2%の状態で測定し、その測定値を指標化した。評価は、実施例1〜5および比較例1〜4については、比較例1を100としたときの指数評価で示し、実施例6については、比較例5を100としたときの指数評価で示し、実施例7については、比較例6を100としたときの指数評価で示した。数値が小さいほど発熱性に優れることを意味する。
【0056】
(加硫ゴムの耐疲労性能)
製造した加硫ゴムの耐疲労性能を、JIS K6260に準拠して評価した。評価は、実施例1〜5および比較例1〜4については、比較例1を100としたときの指数評価で示し、実施例6については、比較例5を100としたときの指数評価で示し、実施例7については、比較例6を100としたときの指数評価で示した。数値が大きいほど良好な耐疲労性能を示す。
【0057】
実施例1
0.5質量%に調整した希薄ラテックス水溶液にカーボンブラック50質量部を添加し、これにシルバーソン社製攪拌機(フラッシュブレンド)を使用してカーボンブラックを分散させることにより(該フラッシュブレンドの条件:3600rpm、30min)、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有スラリー溶液を製造した(工程(I))。
【0058】
次に、工程(I)で製造された天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有スラリー溶液に、残りの天然ゴムラテックス溶液(固形分(ゴム)濃度25質量%となるように水を添加して調整されたもの)を、工程(I)で使用した天然ゴムラテックス溶液と合わせて、固形分(ゴム)量で100質量部となるように添加した。次いでカワタ社製混合機(スーパーミキサーSM−20)を使用し、表1に記載の条件にて、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有天然ゴムラテックス溶液を加熱しつつ撹拌することにより凝固させた(工程(II))。
【0059】
その後、凝固剤としてギ酸10質量%水溶液をpH4になるまで添加しつつ撹拌することにより、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有天然ゴムラテックス溶液を凝固させた(工程(III))。凝固物をスエヒロEPM社製スクリュープレスV−02型で水分率1.5%以下まで乾燥することにより、天然ゴムウエットマスターバッチを製造した。
【0060】
得られた天然ゴムウエットマスターバッチに表1に記載の各種添加剤を配合してゴム組成物とし、その加硫ゴムの物性を測定した。結果を表1に示す。
【0061】
比較例1〜6、実施例2〜11
各種配合、工程(II)の加温の有無、工程(III)における酸の添加の有無、工程(II)における撹拌羽根の周速、工程(II)における熱量、(工程(II)における撹拌時間)/(工程(III)における撹拌時間)を表1および表2に記載のものに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法によりゴムウエットマスターバッチ、ゴム組成物および加硫ゴムを製造した。加硫ゴムの物性を表1および表2に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
表1および表2の結果から、実施例1〜11に係るゴムウエットマスターバッチを使用して得られた加硫ゴムは、発熱性および耐疲労性に優れることがわかる。