特許第6378058号(P6378058)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378058
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】地盤改良方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20180813BHJP
   C04B 5/00 20060101ALI20180813BHJP
   C09K 17/02 20060101ALI20180813BHJP
   C09K 17/40 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   E02D3/12 103
   C04B5/00 Z
   C09K17/02 P
   C09K17/40 P
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-232536(P2014-232536)
(22)【出願日】2014年11月17日
(65)【公開番号】特開2016-94782(P2016-94782A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2016年12月15日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000200301
【氏名又は名称】JFEミネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083253
【弁理士】
【氏名又は名称】苫米地 正敏
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 千秋
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】須藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】島田 裕一
【審査官】 石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭53−012111(JP,A)
【文献】 特開2014−133782(JP,A)
【文献】 特開2013−245461(JP,A)
【文献】 特開昭58−213913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
C04B 5/00
C09K 17/02
C09K 17/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤を構成するシラスに、地盤改良材としてJIS A5015の附属書Bで規定する鉄鋼スラグの水浸膨張試験による膨張率が0.5%以上の製鋼スラグのみを、シラスと当該製鋼スラグの合計に対して40vol%以上60vol%以下の割合で混合することを特徴とする地盤改良方法。
【請求項2】
製鋼スラグは未エージングの製鋼スラグであることを特徴とする請求項1に記載の地盤改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼スラグを地盤改良材とする地盤改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼製造プロセスの製鋼工程では、大量のスラグが副産物として生成する。従来、この製鋼スラグは路盤材、海域・陸域の土木材料、地盤改良材などとして利用されている。
製鋼工程(溶銑の予備処理、脱炭処理など)では、CaOやMgOなどの精錬剤が使用されるため、生成する製鋼スラグには不可避的に遊離CaOや遊離MgOが残存する。このため製鋼スラグをそのまま利材化すると、遊離CaOや遊離MgOが水と反応してスラグが膨張(さらに粉化)する問題があり、また、アルカリ分によって高pHの溶出水が生じる問題もある。
【0003】
このような問題に対して、従来では、製鋼スラグにエージング処理(大気中でのエージング、蒸気エージング、加圧エージングなど)を施し、強制的に水和反応を生じさせた上で各種材料に利用している。しかし、エージングには専用の広大なスペースが必要であること、大気中でのエージングには長い期間(6ヶ月以上)が必要であること、蒸気エージングや加圧エージングには処理コストがかかること、などの問題があるだけでなく、エージング処理を施しても完全には遊離CaOや遊離MgOを水和させることができないため、長期間に亘り膨張する可能性を抱えており、その解決策が望まれている。
【0004】
また、製鋼スラグを地盤改良材として利用する技術としては、軟弱地盤を対象としたもの(特許文献1、2など)が知られているが、実際には、製鋼スラグの大半は路盤材と海域・陸域の土木材料に利用され、地盤改良材としての利用はごく限られたものであり、利用拡大が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−82649号公報
【特許文献2】特開2014−133782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、製鋼スラグを地盤改良材とする地盤改良方法であって、製鋼スラグの膨張を長期間に亘り抑制しつつ、高い地盤改良効果を得ることができる地盤改良方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、製鋼スラグの膨張問題を解決する方策として、地盤改良による土との緩衝作用で膨張抑制を図るという着想の下で実験と検討を重ねた結果、製鋼スラグを特にシラスの地盤改良材として特定の割合で混合した場合に、他の土を対象とした場合には見られない、優れたスラグの膨張抑制効果と地盤改良効果が得られることを見出した。
【0008】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]地盤を構成するシラスに、地盤改良材として製鋼スラグを、シラスと製鋼スラグの合計に対して60vol%以下の割合で混合することを特徴とする地盤改良方法。
[2]上記[1]の地盤改良方法において、製鋼スラグは、JIS A5015の附属書Bで規定する鉄鋼スラグの水浸膨張試験による膨張率が0.5%以上の製鋼スラグであることを特徴とする地盤改良方法。
[3]上記[2]の地盤改良方法において、製鋼スラグは未エージングの製鋼スラグであることを特徴とする地盤改良方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、地盤を構成するシラスに、地盤改良材として製鋼スラグを特定の割合で混合することにより、製鋼スラグの膨張を長期間に亘り抑制しつつ、高い地盤改良効果を得ることができる。このため、製鋼スラグの地盤改良材としての利用範囲を拡大することができる。
また、本発明では、製鋼スラグに含まれる遊離CaOや遊離MgOをシラス中のガラス質のSiOやAlと水和反応させるものであるため、未エージング若しくは軽度のエージングを施した製鋼スラグを用いることができ、エージング処理に要する手間やコストを省く若しくは軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】地盤改良の対象土と製鋼スラグの粒度分布(粒径加積曲線)を示すグラフ
図2】製鋼スラグの外観(写真)と模式的な粒子形状を示す図面
図3】製鋼スラグの締固め曲線と修正CBRを示すグラフ
図4】地盤改良の対象土(粉末試料)のX線回折結果を示すグラフ
図5】地盤改良の対象土の締固め試験の結果を示すグラフ
図6】地盤改良の対象土に製鋼スラグを混合した場合において、製鋼スラグの混合割合とCBRとの関係を示すグラフ
図7】地盤改良の対象土に製鋼スラグを混合した試料について、膨張比と養生日数との関係を示すグラフ
図8】地盤改良の対象土に製鋼スラグを混合した試料について、製鋼スラグの混合割合と80℃水浸10日間の膨張試験終了後に求めたCBRとの関係を示すグラフ
図9】黒ぼく土に製鋼スラグを混合した試料であって、未処理試料と80℃養生試料のX線回折パターン結果を示すグラフ
図10】褐色土に製鋼スラグを混合した試料であって、未処理試料と80℃養生試料のX線回折パターン結果を示すグラフ
図11】シラスに製鋼スラグを混合した試料であって、未処理試料と80℃養生試料のX線回折パターン結果を示すグラフ
図12】黒ぼく土に製鋼スラグを混合した試料であって、未処理試料と80℃養生試料について、エネルギー分散走査型電子顕微鏡(EDAX)による試料表面の構成元素の定性分析結果を示す写真
図13】褐色土に製鋼スラグを混合した試料であって、未処理試料と80℃養生試料について、エネルギー分散走査型電子顕微鏡(EDAX)による試料表面の構成元素の定性分析結果を示す写真
図14】シラスに製鋼スラグを混合した試料であって、未処理試料と80℃養生試料について、エネルギー分散走査型電子顕微鏡(EDAX)による試料表面の構成元素の定性分析結果を示す写真
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の地盤改良方法は、シラスを対象土とする地盤改良方法であり、地盤を構成するシラスに、地盤改良材として製鋼スラグを、シラスと製鋼スラグの合計に対して60vol%以下の割合で混合するものである。
対象土であるシラスは、九州南部一帯に厚い地層として分布する火山灰土であり、SiO2、Alを主成分とする非晶質なガラス構造を有する。シラスの特徴としては、土粒子密度が小さい、粒径分布範囲が比較的広い、などの点が挙げられ、特に、降雨や流水による浸食作用を受けやすく、表層部ではガリ浸食を、地下部では地下水流に浸食されて地下空洞被害を引き起こすことが知られている。
【0012】
また、地盤改良材として用いられる製鋼スラグとは、鉄鋼製造プロセスの製鋼工程において溶銑を精錬する過程で副生するスラグであり、具体的には、溶銑予備処理スラグ、転炉脱炭スラグ、電気炉スラグなどが挙げられる。また、溶銑予備処理スラグとしては、脱珪スラグ、脱燐スラグなどがある。本発明では、これらを単独で使用しても、また2種以上を適宜混合して使用してもよい。
【0013】
このような製鋼スラグを地盤改良材としてシラスに特定の割合で混合することにより、他の対象土では得られない特有の作用効果により、高い地盤改良効果が得られるとともに、地盤改良による緩衝作用でスラグの膨張抑制を図ることできる。すなわち、シラスはSiOとAlを主成分とする非晶質なガラス構造を有するが、これに改良材として製鋼スラグを混合すると、製鋼スラグに含まれる遊離CaOや遊離MgOがシラス中のガラス質のSiOとAlと水和反応して硬化し、地盤に高い支持力が付与される。一方、スラグの膨張抑制効果については、(i)製鋼スラグに含まれる遊離CaOや遊離MgOがシラスとの水和反応に消費されること、(ii)その水和反応により地盤に高い支持力を有する強固な層が形成され、これが膨張を抑える効果があること、により高い膨張抑制効果が得られる。
【0014】
製鋼スラグのシラスに対する混合割合は、シラスと製鋼スラグの合計に対して60vol%以下とする。製鋼スラグの混合割合が60vol%を超えると、スラグの膨張抑制効果が十分に得られない。なお、シラスと製鋼スラグの合計に対する製鋼スラグの体積%とは、シラスと製鋼スラグを混合した状態での製鋼スラグの体積%である。
また、製鋼スラグの混合割合の下限は特にないが、シラスの地盤改良材として地盤に高い支持力を付与すること、製鋼スラグを地盤改良材として有効利用することなどの観点からは、40vol%以上とすることが好ましい。
【0015】
本発明は、製鋼スラグに含まれる遊離CaOや遊離MgOをシラス中のガラス質のSiOとAlと水和反応させて硬化させるものであるので、製鋼スラグに遊離CaOや遊離MgOが残存していることが前提である。このため、製鋼スラグは、JIS A5015の附属書Bで規定する鉄鋼スラグの水浸膨張試験による膨張率が0.5%以上の製鋼スラグであることが好ましい。
また、製鋼スラグのエージング処理の有無は問わないが、上述した趣旨からして、未エージングの製鋼スラグを使用することが好ましい。ここで、未エージングの製鋼スラグとは、製造後6ヶ月以内のスラグであって、自然エージング以外のエージング処理(蒸気エージングや加圧エージングなど)が施されていないスラグである。
【0016】
製鋼スラグの粒度に特別な制限はないが、シラスとの反応性を確保するため40mm以下(40mm以下が100mass%)が好ましい。
なお、製鋼スラグをシラスに混合する場合、製鋼スラグ以外の材料(例えば、他の地盤改良材、添加剤など)を適量混合することは妨げない。
製鋼スラグをシラスと混合する方法は任意であり、例えば、(i)製鋼スラグをシラス地盤上に撒き出した後、シラス地盤を掘削することで製鋼スラグとシラスを混合する方法、(ii)地盤から掘り出された状態のシラスと製鋼スラグを混合機で混合した後、その混合土を地盤に埋め戻す方法、などを採用することができる。
対象となる改良地盤は特に限定されないが、膨張よる隆起を防止するなど観点から、一般には、路盤、駐車場、資材置き場、宅地などが対象となる。
【0017】
以下、本発明の効果を確認するため、本発明者らが行った試験の内容とその結果について説明する。この試験は、製鋼スラグを地盤改良材とする路床・路体の地盤改良を目的として行った。
試験では、本発明の対象土であるシラスのほかに、軟弱な山林土壌である黒ぼく土と褐色土を比較の対象土とした。シラスについては、鹿児島県内のシラス採取場から採取した試料を、黒ぼく土と褐色土については、広島県神石高原町の山林内で採取した試料を、それぞれ用いた。また、製鋼スラグとしては、製造して6ヶ月以内の未エージングの転炉脱炭スラグ(粒径40mm以下)を用いた。
【0018】
まず、対象土と製鋼スラグについて、化学組成と工学的特性を調べた結果を示す。
表1に蛍光X線分析で測定した対象土と製鋼スラグの化学組成を示す。
製鋼スラグは、CaOを主としてFeとSiOを含有し、MgOやPなども少量含まれている。このうち、CaOとMgOは体積膨張し、アルカリ性を呈する成分であるが、水和により固化する反応が期待できる成分でもある。
【表1】
【0019】
表2に、対象土と製鋼スラグの物理特性の測定結果を示す。また、図1に対象土と製鋼スラグの粒度分布(粒径加積曲線)を示す。なお、粒度分布の良否を均等係数Ucと曲率係数Uc’から判定した結果を図1中に示す。
【表2】
【0020】
製鋼スラグの絶乾密度は3.42(g/cm)と大きく、吸水率は3.0%以下と小さく、コンクリート用骨材の規定を満たす良質な材料である。したがって、森林の路網整備で表層材として使用されている砕石に置き換えることも可能な材料である。また、図2に、製鋼スラグの外観(写真)及び模式的な粒子形状を示すが、この図2に示すような粒子形状から、内部摩擦とかみ合わせ効果も期待できる材料である。
【0021】
製鋼スラグは、図1の粒径加積曲線から、均等係数Ucは10.0、曲率係数Uc’は1.17の結果が得られ、大・小粒子からなる粒度分布の良い材料である。したがって、締固めエネルギーを加えた時に、大きい粒子の空隙に小さい粒子が充てんされ、締め固まりやすくなる。
製鋼スラグの路盤材料としての適否を舗装施工便覧((社)日本道路協会,pp.52〜54,2006年2月)で見ると、CBRは下層路盤材は30%以上、上層路盤材は80%以上と規定されている。図3に締固め曲線と修正CBRを示すが、同図の含水比およびCBRと乾燥密度の関係から、用いた材料はその規定を満たしているので、有効利用できる材料である。しかし、上述したように膨張現象が長期的に発生しない方策が重要な課題である。
【0022】
次に、対象土の化学組成と工学的特性は、以下の通りである。
表1によれば、黒ぼく土と褐色土は、SiO、Fe、Alの合計が全体のほとんどを占める試料である。一方、シラスも同様にSiO、Fe、Alを主成分としているが、CaOとNaOを少量含んでいることが特徴として挙げられる。いずれの対象土もポゾラン反応に必要なガラス質のSiOとAlを含有していることから、遊離CaOと遊離MgOによるアルカリ刺激を受けてSiOとAlのネットワーク構造が切断されれば、水和反応が生じることになる。
図4に、粉末試料による対象土のX線回折結果を示す。黒ぼく土と褐色土は、試料の違いに関わらず双方とも似通った鉱物を含有している。一次鉱物としては、フェルスパー、クオーツ、二次鉱物としてはバーミキュライト、イライト、ハロイサイトを含んでいる。一方、シラスは、一次鉱物のフェルスパー、クオーツを主体としている。
【0023】
表2に示される対象土の物理特性の測定結果によると、黒ぼく土は自然含水比と液性限界が高く、強熱減量も36.89%と高い値を示している。これはスポンジ構造体の空隙部に水分を保持していること、強熱減量試験の結果より水分保持の強い有機物を多く含んでいることが要因として挙げられる。褐色土は自然含水比と有機物含有量は決して高くはないが、試験過程で練り返すと粘着質が強く現れているので、ハンドリングとトラフィカビリティーの確保が困難な試料であることが推察される。シラスは目視ではサラサラ状態であるが、自然含水比は16.1%程度あり、土粒子密度は2.50(g/cm)と軽い値を示している。シラスの粒子内部は微小な空隙と気泡からなる構造体であることが要因として挙げられる。また、コンシステンシー限界のNPは非塑性であることを示す。このように粘着力のないサラサラとしたシラスは、雨水の影響で分散することが誘引となって浸食や斜面崩壊を引き起こしているものと考えられる。
【0024】
図1に示される対象土の粒径加積曲線から対象土を工学分類すると、シラスは礫まじり砂、褐色土は砂質ローム、黒ぼく土は有機質粘土に分類される。シラスと褐色土は粒度分布が良く粒径範囲の広い試料である。一方、黒ぼく土は粒度分布が悪く、粘土分を50%以上も含んでいる試料である。
図5に、対象土の締固め試験の結果を示す。突固めによる締固め試験はA−c法(湿潤法で非繰返し法)で行った。黒ぼく土は含水比が50〜90%と変化しても乾燥密度は0.7〜0.8g/cmと小さく、曲線のピークは平坦であり、最大乾燥密度に対する含水比の影響は鈍くなっている。褐色土は、砂質と細粒分が適当に混合しているいわゆる粒度分布の良い試料で、含水比の変化に伴い間隙部が充てんされ、締め固まりやすい試料である。シラスは、地盤材料の分類では礫まじり砂に分類される。
【0025】
次に、対象土に製鋼スラグを混合し、地盤改良特性(CBR特性と膨張特性)を調べた結果を示す。
CBR試験は、IJIS A1211:CBR試験方法に準拠して行った。このCBR試験では、初期含水比は試験施工現場で採取した時の自然含水比を試料として用いた。供試体の作製は設計CBRに準拠して、3層67回の突き固め条件とした。製鋼スラグの混合割合は20vol%、40vol%、60vol%、80vol%、100vol%の5水準とし、製鋼スラグの混合量がCBR値におよぼす影響について検討を行った。
膨張特性の評価試験は、舗装調査・試験法便覧E004:80℃水浸膨張試験方法((社)日本道路協会,舗装調査・試験法便覧[第4分冊],pp.[4]-16〜[4]-23,2006年2月)により準拠して行った。この試験では、製鋼スラグの混合割合は40vol%、60vol%、80vol%、100vol%の4水準とした。
【0026】
図6に製鋼スラグの混合割合とCBRの関係を示す。全体を概観すると製鋼スラグ60vol%添加で各試料のCBR値は増加傾向を示している。これは製鋼スラグによるかみ合わせおよび摩擦効果が寄与しているものと推察される。また、製鋼スラグ40vol%添加までのCBRの傾向としては、黒ぼく土、褐色土、シラスともに製鋼スラグ添加による効果は見られない。一方、シラスは製鋼スラグ40〜60vol%添加において、他の対象土に比べてCBR値の改善効果は大きい。
【0027】
図7に膨張比と養生日数の関係を示す(表中の「○○%」は製鋼スラグの混合割合(vol%)を示す)。対象土に関わらず、製鋼スラグを40〜60vol%添加することで膨張比は抑制される傾向が得られたが、特に、シラスの地盤改良でその効果が顕著に現れている。一方、製鋼スラグが80vol%以上になると遊離CaOや遊離MgOの含有量が多くなり、Ca(OH)やMg(OH)が生成するため、反応する相手のSiOやAlが少なくなり、その結果体積膨張が生じるため、膨張比は高くなる傾向にある。
図8に、製鋼スラグの混合割合と80℃水浸10日間の膨張試験終了後に求めたCBRとの関係を示す。図6で得られたCBRの結果と見比べると、養生条件の影響を受けて黒ぼく土と褐色土は微増傾向であるが、シラスは約3倍のCBR値が得られている。これは、明らかに水和反応生成物の影響によるものと推察され、製鋼スラグ中のCaOやMgOがシラスに含まれるガラス質のSiOやAlと水和反応し、化学的にも支持力の向上に寄与している。
【0028】
地盤改良メカニズムを調べるために、X線回折と走査型電子顕微鏡によって反応生成物の同定と観察を行なった。
用いた試料は、黒ぼく土、褐色土およびシラスからなる各試料(未処理試料)と、それらの各対象土に製鋼スラグを40vol%添加し、80℃水浸膨張試験(10日間養生)を施した試料(スラグ添加・80℃養生試料)であり、これらの試料についてX線回折による同定を行った。
図9図11に未処理試料とスラグ添加・80℃養生試料のX線回折パターン結果を比較して示す。図9図10の結果より、黒ぼく土と褐色土に含まれるフェルスパー、バーミキュライト、イライトおよびハロイサイトのピークは製鋼スラグを40vol%添加することでシフトするものと考えられる。また、図11のシラスも同様にフェルスパーのピークが低減し、消費されている。これは、製鋼スラグを40vol%添加した影響で鉱物のピーク強度がシフトしたものと考えられる。また、図8のCBR値の増加傾向からみて、これら鉱物にはシリカやアルミナが主体で構成されているので、製鋼スラグ中に含まれる遊離CaOとのポゾラン反応でC−S−HやC−A−S−Hが生成された影響も関与しているものと考えられる。
【0029】
走査型電子顕微鏡(SEM)による観察と同時に、元素固有の特性X線のエネルギーを検出するエネルギー分散走査型電子顕微鏡(EDAX)により、試料表面の構成元素について定性分析を行った。試料はX線回折で用いた試料と同様のものであり、未処理試料とスラグ添加・80℃養生試料の分析結果を図12図14に示す。図12の写真(a)、(b)は黒ぼく土に関する試料の分析結果であり、写真(a)は未処理試料、写真(b)はスラグ添加・80℃養生試料のものである。未処理試料、スラグ添加・80℃養生試料ともにI〜IIIの元素が検出され、スラグ添加・80℃養生試料の粒子表面を見ると単位フロック化していることが認められる。図13の写真(a)、(b)は褐色土に関する試料の分析結果であり、写真(a)は未処理試料、写真(b)はスラグ添加・80℃養生試料のものである。未処理試料はI〜IVの元素が、スラグ添加・80℃養生試料はVに新たな元素としてFe・Mgが検出され、粒子表面は結晶化が進んでいるように見受けられる。図14の写真(a)、(b)はシラスに関する試料の分析結果であり、写真(a)は未処理試料、写真(b)はスラグ添加・80℃養生試料のものである。未処理試料はI〜IIIの元素が、スラグ添加・80℃養生試料はIVに新たな元素としてMg・Feが検出され、結晶粒子間が埋めつくされている状態が確認できる。対象試料を概観すると、共通して言えることはSi、Al、Caを共存していることである。これらは、製鋼スラグに含まれる遊離CaOと黒ぼく土、褐色土、シラスに含まれるSiO、Alであり、これらがポゾラン反応により、C−S−H及びC−A−S−H等の水和物を生成したものと考えられる。
【0030】
以上の試験結果から、遊離CaO、遊離MgOを含む製鋼スラグは水和反応による地盤改良効果が期待でき、また、粒度分布が連続しているので、かみ合わせと内部摩擦角による地盤改良効果が期待できることが判ったが、特に、シラスを対象土として製鋼スラグ(地盤改良材)を混合し、且つ製鋼スラグの混合割合を60vol%以下とすることにより、他の対象土とは異なる特有の作用効果により、高い地盤改良効果とスラグ膨張抑制効果が得られることが判った。すなわち、シラスはSiOとAlを主成分とする非晶質なガラス構造を有するが、これに地盤改良材として製鋼スラグを混合すると、製鋼スラグに含まれる遊離CaOや遊離MgOがシラス中のガラス質のSiOとAlと水和反応して硬化し、地盤に高い支持力が付与されるとともに、(i)製鋼スラグに含まれる遊離CaOや遊離MgOがシラスとの水和反応に消費されること、(ii)その水和反応により地盤に高い支持力を有する強固な層が形成され、これが膨張を抑える効果があること、により高いスラグ膨張抑制効果が得られる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14