(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対して、窒素吸着比表面積が150m
2/g以上であるシリカを10〜120質量部、およびシリカ100質量部に対して、下記式(1)で表わされるポリスルフィドカップリング剤を含むシランカップリング剤を1〜25質量部含み、該ポリスルフィドカップリング剤が、高速液体クロマトグラフィーで測定した場合にx=2のジスルフィド体の含有量が83〜87質量%であり、pHが7.7〜8.2であることを特徴とする。
【化2】
(xは1以上の整数で分布を有する。)
【0011】
本発明に使用できるゴム成分としては、特に限定されず、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエン(NBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)などを使用することができ、NR、ENR、BR、SBR、SIBR、CR、NBRなどのジエン系ゴムが好ましく用いられ、特に、タイヤの各部材において必要な性能を容易に確保できるという理由から、NR、ENR、BR、SBRなどがより好ましい。これらのゴム成分は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらのゴム成分は、ゴムの主鎖および末端が変性剤により変性されたものでもよく、また一部が多官能型、たとえば四塩化スズ、四塩化珪素のような変性剤を用いることにより分岐構造を有しているものでもよい。なお、ゴム種の配合量は、適用部材などに応じて適宜選択することができる。
【0012】
天然ゴムとしては、特に限定されるものではなく、タイヤ業界において一般的なものを用いることができ、例えば、SIR20、RSS#3、TSR20などが挙げられる。
【0013】
ブタジエンゴムとしては特に限定されず、例えば、ハイシス1,4−ポリブタジエンゴム(ハイシスBR)、1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含むブタジエンゴム(SPB含有BR)、変性ブタジエンゴム(変性BR)などを使用できる。なかでも、耐摩耗性の向上効果が高いという理由から、シス含有量が95質量%以上のハイシスBRが好ましい。
【0014】
ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。ゴム成分中のBRの含有量を、5質量%以上とすることにより、十分な耐摩耗性が得られ、低燃費性、耐摩耗性、ウェットグリップ性能をバランス良く向上できる傾向がある。ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、50質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましい。ゴム成分中のBRの含有量を、50質量%以下とすることにより、十分なウェットグリップ性能が得られ、低燃費性、耐摩耗性、ウェットグリップ性能をバランス良く向上できる傾向がある。
【0015】
スチレンブタジエンゴムとしては特に限定されず、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)、これらのSBRを変性した変性SBR(変性E−SBR、変性S−SBR)など、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。なかでも、加工性とグリップ特性とのバランスに優れるという理由から、S−SBRが好ましい。
【0016】
ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、50質量%以上が好ましく、65質量%以上がより好ましい。ゴム成分中のSBRの含有量を50質量%以上とすることにより、十分なウェットグリップ性能が得られ、低燃費性、耐摩耗性、ウェットグリップ性をバランス良く向上できる傾向がある。ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましい。ゴム成分中のSBRの含有量を95質量%以下とすることにより、十分な耐摩耗性が得られ、低燃費性、耐摩耗性、ウェットグリップ性能をバランス良く向上できる傾向がある。
【0017】
本発明に用いられるシリカは、150m
2/g以上の窒素吸着比表面積を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)などが挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0018】
本発明に用いられるシリカの窒素吸着比表面積(N
2SA)は、150m
2/g以上であり、160m
2/g以上が好ましく、170m
2/g以上がより好ましい。シリカの窒素吸着比表面積が150m
2/g未満では、加硫後の破壊強度が低下する傾向がある。また、シリカのN
2SAは、500m
2/g以下が好ましく、300m
2/g以下がより好ましい。シリカの窒素吸着比表面積が500m
2/gを超えると、低発熱性、ゴムの加工性が低下する傾向がある。なお、シリカの窒素吸着比表面積は、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0019】
本発明に用いられるシリカのDBP吸油量(ジブチルフタレート吸油量)は、240ml/100g以下であることが好ましく、220ml/100g以下であることがより好ましく、200ml/100g以下であることがさらに好ましい。シリカのDBP吸油量を240ml/100g以下に調整することにより、優れた加工性と耐摩耗性の両立が得られる傾向がある。DBP吸油量の下限は特に限定されるものではない。なお、シリカのDBP吸油量は、JIS K6217−4:2008に準拠して測定される。
【0020】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、10質量部以上であり、20質量部以上が好ましく、40質量部以上がより好ましい。10質量部未満であると、低発熱性が不十分になるおそれがある。また、シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、120質量部以下であり、110質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましい。120質量部を超えると、充填剤のゴムへの分散が困難になり、ゴムの加工性が悪化する傾向がある。
【0021】
本発明においては、シランカップリング剤として、下記式(1)で表され、高速液体クロマトグラフィーで測定した場合にx=2のジスルフィド体の含有量が83〜87質量%であり、またpHが7.7〜8.2であるポリスルフィドカップリング剤を用いることを特徴とする。これにより、ゴム成分に対するシリカの分散性を改善し、ムーニー粘度を低減させ、十分な加工性を確保した、耐摩耗性に優れたゴム組成物とすることができる。その他のシランカップリング剤を併用しても良いが、シランカップリング剤としては、下記式(1)で表され、高速液体クロマトグラフィーで測定した場合にx=2のジスルフィド体の含有量が83〜87質量%であり、またpHが7.7〜8.2であるポリスルフィドカップリング剤のみを用いることが好ましい。
【化3】
(xは1以上の整数で分布を有する。)
【0022】
上記(1)で表されるポリスルフィドシランは、xが1以上の整数で分布を有するため、硫黄連鎖長(x)が異なるポリスルフィドシランの混合物である。このような混合物は、当該技術分野における公知の方法により製造することができる。
【0023】
x=2のジスルフィド体の含有量は、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC)で測定することができる。このポリスルフィドシランをHPLCで測定すると、得られたチャートにはそれぞれの硫黄連鎖長(x)を有するポリスルフィドシランに対応するピークが現れる。また各ピークの面積の全ピーク面積に対する面積比率(%)がピーク面積比率(%)として求められ、それぞれ硫黄連鎖長(x)を有するポリスルフィドシランの含有量(質量%)に対応する。本発明においては、x=2のジスルフィド体の含有量は83質量%〜87質量%である。x=2のジスルフィド体の含有量が83質量%未満の場合、低燃費性、補強性が低下する傾向がある。x=2のジスルフィド体の含有量が87質量%を超えると、加工性が悪化する傾向がある。
【0024】
また、本発明に用いられるポリスルフィドカップリング剤のpHは、7.7以上であり、7.9以上が好ましい。pHが7.7未満の場合、低燃費性、補強性が低下する傾向がある。ポリスルフィドカップリング剤のpHは、8.2以下であり、pHが8.2を超えると、加工性が悪化する傾向がある。なお、ポリスルフィドカップリング剤のpH値は、ポリスルフィドカップリング剤を水に懸濁し、数時間撹拌し、その後静置した後の上澄み液のpHを測定することにより得ることができる。
【0025】
本発明に用いられるポリスルフィドカップリング剤中の全硫黄量は、特に限定されるものではないが、14.0質量%以上であることが好ましく、14.3質量%以上であることがより好ましい。全硫黄量を14.0質量%以上とすることにより、低燃費性、補強性が低下することを防ぐことができる傾向がある。また、ポリスルフィドカップリング剤中の全硫黄量は、特に限定されるものではないが、15.0質量%以下であることが好ましく、14.7質量%以下であることがより好ましい。全硫黄量を15.0質量%以下とすることにより、加工性の悪化を防ぐことができる傾向がある。
【0026】
シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、1質量部以上であり、1.5質量部以上が好ましく、2.5質量部以上がより好ましい。シランカップリング剤の含有量が1質量部未満では、シリカを良好に分散させることが難しくなるおそれがある。また、該シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、25質量部以下であり、15質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。シランカップリング剤の含有量を25質量部を超えて増やしても、シリカの分散を向上させる効果が得られず、コストが不必要に増大する傾向がある。また、混練や押し出しでの加工性が悪化する傾向がある。
【0027】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、所定のシリカを所定量含有するものであるが、その他の白色充填剤としてゴム工業で一般に使用されているもの、たとえば、炭酸カルシウム、セリサイトなどの雲母、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、クレー、タルク、アルミナ、酸化チタンなどを加えることもできる。
【0028】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、カーボンブラックを含有することが好ましい。これにより良好な補強効果が得られるとともに、白色化を防止する効果を高めることができる。使用できるカーボンブラックの例としては、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなどが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0029】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N
2SA)は、10m
2/g以上が好ましく、20m
2/g以上がより好ましい。カーボンブラックのN
2SAが10m
2/g未満では、十分な耐候性が得られず、また耐摩耗性が低下する傾向がある。また、カーボンブラックのN
2SAは、280m
2/g以下が好ましく、250m
2/g以下がより好ましい。カーボンブラックのN
2SAが280m
2/gを超えると、分散性に劣り、耐摩耗性が低下する傾向がある。なお、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K 6217のA法によって求められる。
【0030】
カーボンブラックとしては、平均粒子径が31nm以下および/またはDBP吸油量が100ml/100g以上のものが好ましい。このようなカーボンブラックを配合することにより、必要な補強性を付与し、ブロック剛性、耐摩耗性、破壊強度を確保し、本発明の効果が顕著に得られる。
【0031】
カーボンブラックの平均粒子径が31nmを超えると、破壊強度が大幅に悪化するおそれがある。該平均粒子径は、25nm以下がより好ましい。また、上記平均粒子径は、15nm以上が好ましく、19nm以上がより好ましい。15nm未満であると、配合したゴムの粘度が大幅に上昇し、加工性が悪化するおそれがある。本発明において平均粒子径は数平均粒子径であり、透過型電子顕微鏡により測定される。
【0032】
カーボンブラックのDBP吸油量(ジブチルフタレート吸油量)が100ml/100g未満であると、補強性が低く、破壊強度の確保が困難となるおそれがある。上記DBP吸油量は、105ml/100g以上がより好ましく、110ml/100g以上がさらに好ましい。また、上記DBP吸油量は、160ml/100g以下が好ましく、150ml/100g以下がより好ましい。160ml/100gを超えると、カーボンブラック自体の製造が困難である。なお、カーボンブラックのDBP吸油量は、JIS K6217−4:2001に準拠して測定される。
【0033】
カーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、150質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましい。カーボンブラックの含有量を1〜150質量部とすることにより、ゴムの力学強度を確保することができ、良好な耐候性が得られる。カーボンブラックは単独で用いてもよく、2種以上を併用することもできる。さらに、将来の石油資源の枯渇を想定した場合、再生可能な生物由来原料を使用したカーボンブラックを使用することが好ましい。
【0034】
本発明のタイヤ用ゴム組成物には、必要に応じて、その他従来ゴム工業で使用される配合剤、たとえばステアリン酸、酸化亜鉛、各種老化防止剤、ワックス、オイルなどの軟化剤、加硫剤、加硫促進剤などを適宜配合することができる。
【0035】
オイルとしては、特に限定されるものではないが、たとえば、プロセスオイル、植物油脂またはその混合物を用いることができる。プロセスオイルとしては、たとえば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどを用いることができる。
【0036】
老化防止剤としては、アミン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩などの老化防止剤を適宜選択して配合することができ、これらの老化防止剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、耐オゾン性を顕著に改善できるという理由からアミン系老化防止剤が好ましく、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンがより好ましい。
【0037】
ワックス、ステアリン酸、酸化亜鉛はいずれも、ゴム工業において一般的に用いられるものを好適に用いることができる。
【0038】
本発明のタイヤ用ゴム組成物には、その他、硫黄、含硫黄化合物などの加硫剤、加硫促進剤などを含有させることができる。
【0039】
加硫剤は特に限定されるものではなく、ゴム工業において一般的なものを使用することができるが、硫黄原子を含むものが好ましく、粉末硫黄が特に好ましく用いられる。
【0040】
加硫促進剤も特に限定されるものではなく、ゴム工業において一般的なものを使用することができる。
【0041】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ゴム工業において一般的な方法で製造される。すなわち、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどで前記各成分を混練りし、その後加硫する方法などにより製造することができる。
【0042】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、たとえばキャップトレッド、ベーストレッド、アンダートレッド、クリンチエイペックス、ビードエイペックス、サイドウォール、ブレーカークッションゴム、カーカスコード被覆用ゴム、ランフラット補強層、インスレーション、チェーファー、インナーライナーなどのタイヤ用部材などに好適に使用することができ、加工性や耐摩耗性に優れることから、タイヤのトレッド、特にタイヤのキャップトレッドに好適に使用することができる。
【0043】
本発明のタイヤは、本発明のタイヤ用ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。すなわち、本発明のタイヤ用ゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤの各部材(たとえば、トレッド)の形状にあわせて押し出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成形機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤを製造することができる。
【0044】
本発明のタイヤは、空気入りタイヤ、エアレス(ソリッド)タイヤのいずれであってもかまわないが、空気入りタイヤであることが特に好ましい。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0046】
製造例1:カップリング剤の製造
500ml三口フラスコに乾燥した窒素ガスを流しながら、エタノール125g、無水硫化ソーダ40g(0.5mol)、硫黄16g(0.5mol)を仕込み、75℃にて3−クロロプロピルトリエトキシシラン120.2g(0.5mol)およびn−ヘキシルクロライド60.2g(0.5mol)の混合物を滴下した。8時間還流で加熱した後、エタノールを減圧留去し、生成した塩化ナトリウムを濾別することにより、トリエトキシプロピルシリルジスルフィド(S−1)を得た。
【0047】
製造例2:カップリング剤の製造
500ml三口フラスコに乾燥した窒素ガスを流しながら、エタノール125g、無水硫化ソーダ40g(0.5mol)、硫黄12.8g(0.40mol)を仕込み、75℃にて3−クロロプロピルトリエトキシシラン120.2g(0.5mol)およびn−ヘキシルクロライド60.2g(0.5mol)の混合物を滴下した。8時間還流で加熱した後、エタノールを減圧留去し、生成した塩化ナトリウムを濾別することにより、トリエトキシプロピルシリルジスルフィド(S−2)を得た。
【0048】
製造例3:カップリング剤の製造
500ml三口フラスコに乾燥した窒素ガスを流しながら、エタノール125g、無水硫化ソーダ40g(0.5mol)、硫黄16g(0.5mol)を仕込み、75℃にて3−クロロプロピルトリエトキシシラン120.2g(0.5mol)およびn−ヘキシルクロライド48.2g(0.4mol)の混合物を滴下した。8時間還流で加熱した後、エタノールを減圧留去し、生成した塩化ナトリウムを濾別することにより、トリエトキシプロピルシリルジスルフィド(S−3)を得た。
【0049】
製造例4:カップリング剤の製造
500ml三口フラスコに乾燥した窒素ガスを流しながら、エタノール125g、無水硫化ソーダ40g(0.5mol)、硫黄20.8g(0.65mol)を仕込み、75℃にて3−クロロプロピルトリエトキシシラン120.2g(0.5mol)およびn−ヘキシルクロライド60.2g(0.5mol)の混合物を滴下した。12時間還流で加熱した後、エタノールを減圧留去し、生成した塩化ナトリウムを濾別することにより、トリエトキシプロピルシリルジスルフィド(S−4)を得た。
【0050】
製造例5:カップリング剤の製造
500ml三口フラスコに乾燥した窒素ガスを流しながら、エタノール125g、無水硫化ソーダ40g(0.5mol)、硫黄11.2g(0.35mol)を仕込み、75℃にて3−クロロプロピルトリエトキシシラン120.2g(0.5mol)およびn−ヘキシルクロライド60.2g(0.5mol)の混合物を滴下した。12時間還流で加熱した後、エタノールを減圧留去し、生成した塩化ナトリウムを濾別することにより、トリエトキシプロピルシリルジスルフィド(S−5)を得た。
【0051】
製造例6:カップリング剤の製造
500ml三つ口フラスコに乾燥した窒素ガスを流しながら、エタノール115g、蒸留水10g無水硫化ソーダ40g(0.5mol)、硫黄11.2g(0.35mol)を仕込み、75℃にて3−クロロプロピルトリエトキシシラン120.2g(0.5mol)およびn−ヘキシルクロライド60.2g(0.5mol)の混合物を滴下した。12時間還流で加熱した後、エタノールを減圧留去し、生成した塩化ナトリウムを濾別することにより、トリエトキシプロピルシリルジスルフィド(S−6)を得た。
【0052】
製造例1〜6で得られたカップリング剤と、S−7としてEVONIK‐DEGUSSA製のSi75とについて、以下の方法にしたがって各物性値を測定した。結果を表1に示す。
【0053】
<硫黄成分量の分析>
硫黄成分S
xの分布割合は高速液体クロマトグラフィー法(HPLC)により求められたピーク面積(%)より算出した。
【化4】
【0054】
HPLCの分析条件は以下の通りである。
・HPLC: 東ソー(株)製 HLC−8020
・紫外(UV)検出器: 東ソー(株)製 UV−8010(254nm)
・カラム: 東ソー(株)製 TSKgel ODS−80TM CTR
(内径:4.6mm、長さ:10cm)
・測定温度: 40℃
・試料濃度: 試料0.06gを秤量し、アセトニトリル10mlに溶解した。
・試料注入量: 5μl
・溶出条件: 流速1ml/分
・移動相: アセトニトリル:水=9:1の混合溶液にて2分間溶出し、その後18分間かけてアセトニトリルが100%になるようにグラジェントをかけて溶出した。
【0055】
<全硫黄量の分析>
試料を0.03g計量し、燃焼濾紙にて試料を包んだ。燃焼フラスコに過酸化水素/塩素吸収液を10cm
3加えた。その後約30秒間酸素を通した。燃焼瓶を傾けながら濾紙に火をつけ、試料を完全燃焼させた。フラスコを2時間放置し、吸収液中にガスを完全に溶解させた。
【0056】
フラスコの内容物を250cm
3フラスコに注ぎ入れた。燃焼フラスコおよび試料キャリアーの側面を5cm
3の水で洗い、洗浄液を上記と同じ250cm
3フラスコに入れた。水洗をさらに2回行った。溶液および洗浄水を100cm
3の三角フラスコに集め、煮沸して過剰の過酸化水素を分解させた。溶液の体積が5〜10cm
3になるまで蒸発させた。
【0057】
試験液のアルコール分が70〜90%となるように十分な量の2−プロパノールを加えた。フラスコ内に回転子を入れ,フラスコをマグネチックスターラーの上に載せた。トリン溶液指示薬2〜3滴を加えた。マイクロビュレットを用いて過塩素酸バリウム溶液を1滴ずつ滴下して滴定した。また、試験片を加えずに同じ手順を繰り返し、空試験を行った。全硫黄量の質量百分率は、次の式によって求めた。結果を表1に示す。
【0058】
【数1】
v
b : 空試験において滴定に要した過塩素酸バリウム溶液の体積(cm
3)
v
t : 試験片の滴定に要した過塩素酸バリウム溶液の体積(cm
3)
c : 過塩素酸バリウム溶液の濃度(mol/dm
3)
m
2 : 試験片の質量(g)
0.0321:1mmolの硫黄の質量(g)
【0059】
<pH測定方法>
ビーカーに10gのサンプルを計り取り、水40gを加え、スターラーで4時間攪拌した。攪拌後30分ほど静置し、上澄み液を分取した。上澄み液にpH測定電極を挿入し、pHを測定した。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
以下、実施例および比較例において用いた各種材料をまとめて示す。
SBR:LANXESS社製 Buna(登録商標)VSL 2525−0(S−SBR、スチレン量:25質量%、ビニル量:25質量%)
BR:宇部興産(株)製のUBEPOL BR(登録商標)150B(1,4−シス含有量:97質量%、ML
1+4(100℃):40、Mw/Mn:3.3)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックI(ISAFカーボン、N
2SA:114m
2/g、平均粒子径23nm、DBP吸油量114ml/100g)
シリカ(1):EVONIK‐DEGUSSA製のULTRASIL(登録商標)VN3(N
2SA:175m
2/g、平均一次粒子径:15nm、DBP吸油量:185ml/100g)
シリカ(2):Solvey社製のPremium200MP(N
2SA:200m
2/g、平均一次粒子径:10nm、DBP吸油量:220ml/100g)
シランカップリング剤:製造例1〜6により得られたS−1〜S−6およびS−7(エボニック・デグザ社製のSi75)
オイル:(株)ジャパンエナジー製のTDAEオイル
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン)(6PPD)
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤(1):大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤(2):大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(N,N’−ジフェニルグアニジン)
【0062】
実施例1〜8ならびに比較例1〜20
表2または3に示す配合にしたがって、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を混練りした。つぎに、ロールを用いて得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を添加して練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を170℃で15分間、2mmの金型でプレス加硫して加硫物を得た。得られた未加硫ゴム組成物の一部については加工性および作業性の評価試験を以下のとおり行い、加硫物については、ゴム強度、耐摩耗性の評価試験を以下のとおり行った。結果を表2に示す。
【0063】
<ゴム肌>
混練押出し直後のシートのゴム肌(表面形状)を目視により以下の基準で評価した。ゴム肌(表面形状)が悪いほど、作業性が低いことを示す。なお、○以上を性能目標値とする。
◎:ゴム肌(表面形状)が非常に良好
○:ゴム肌(表面形状)が良好
△:ゴム肌(表面形状)が悪い
×:ゴム肌(表面形状)が非常に悪い
【0064】
<加工性:ムーニー粘度の測定>
得られた未加硫ゴム組成物について、JIS K6300−1の「未加硫ゴム物理特性−第1部:ムーニー粘度計による粘度およびスコーチタイムの求め方」に準じたムーニー粘度の測定方法にしたがい、130℃の温度条件にて、ムーニー粘度(ML
1+4)を測定した。比較例1のムーニー粘度指数を100とし、下記計算式により各配合のムーニー粘度を指数表示した。指数が大きいほどムーニー粘度が低く、加工性に優れる。なお、95以上を性能目標値とし、105以上がより好ましい。
(加工性指数)=(比較例1のML
1+4)/(各配合のML
1+4)×100
【0065】
<ゴム強度>
JIS−K−6251「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム引張特性の求め方」に準じて、各加硫ゴム組成物からなる3号ダンベル型試験片を用いて、23℃雰囲気下にて引張試験を実施し、加硫ゴム組成物の破断時伸び(EB)(%)と破断時の引張強度(TB)(MPa)を測定した。結果は、比較例1のゴム強度指数を100とし、下記計算式により、各配合のEB×TBをそれぞれ指数表示した。ゴム強度指数が大きいほど破断強度に優れ、機械的強度にも優れることを示す。なお、105以上を性能目標値とする。
(ゴム強度指数)=(各配合のEB×TB)/(比較例1のEB×TB)×100
【0066】
<耐摩耗性>
各加硫ゴム組成物について、ランボーン型摩耗試験機を用いて、室温、負荷荷重1.0kgf、スリップ率30%の条件で摩耗量を測定した。結果は、摩耗量の逆数を、比較例1を100として指数表示した。数値が大きいほど耐摩耗性が高いことを示す。なお、90以上を性能目標値とし、105以上がより好ましい。
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
表2および3の結果より、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ゴム肌が良好で、加工性、ゴム強度、耐摩耗性に優れるゴム組成物であることがわかる。また、S
2量が低いシランカップリング剤を用いた比較例2ではゴム肌が悪化し、ムーニー粘度は良好であるが、ゴム強度、耐摩耗性が十分でないことがわかる。S
2量が高いシランカップリング剤を用いた比較例3では、ゴム肌が著しく悪化し、耐摩耗性が若干低下していることがわかる。pH、S
2量共に高いシランカップリング剤を用いた比較例4では、ゴム肌が著しく悪化し、加工性、耐摩耗性も大きく低下したことがわかる。