(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
環状エステルが、置換基を有していてもよい、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、ζ−エナントラクトン、又はη−カプリロラクトンである請求項1〜5の何れか1項に記載のラクトン重合体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、環境負荷が懸念される金属化合物触媒を用いることなく、良好な色相を有し、分子量分布の狭いラクトン重合体を効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、触媒として、環境負荷が懸念されるスズ化合物に代えて、リン化合物を有機酸ビスマス塩と共に使用すると、ラクトンの開環重合反応を温和な条件で効率よく進行させてラクトン重合体を製造することができ、得られるラクトン重合体は色相に優れ、分子量分布が狭いことを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、下記式(1)で表されるリン化合物と有機酸ビスマス塩の共存下で、環状エステルを開環重合することによりラクトン重合体を得るラクトン重合体の製造方法を提供する。
【化1】
[式中、R
1、R
2は同一又は異なって、アルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を示す。R
1、R
2は互いに結合して(−Z
1−P−Z
2−)基と共に環を形成していてもよい。XはOH、SH、SeH、又は−NHR’基(前記R’はアリール基、アリールスルホニル基、又はトリフルオロメチルスルホニル基)を示す。Yは酸素原子、硫黄原子、又はセレニウム原子を示す。Z
1、Z
2は同一又は異なって、酸素原子又は(−NR”−)基(前記R”は4−メチルフェニルスルホニル基、4−(トリフルオロメチル)フェニルスルホニル基、又は2−ナフチルスルホニル基)を示す]
【0009】
本発明は、また、有機酸ビスマス塩が、炭素数2〜18の脂肪族カルボン酸のビスマス塩である前記のラクトン重合体の製造方法を提供する。
【0010】
本発明は、また、有機酸ビスマス塩が、ネオデカン酸ビスマス(III)塩である前記のラクトン重合体の製造方法を提供する。
【0011】
本発明は、また、リン化合物と有機酸ビスマス塩を100/1〜5/1(前者/後者;モル比)の割合で使用する前記のラクトン重合体の製造方法を提供する。
【0012】
本発明は、また、活性水素を含む官能基を有する化合物を開始剤として使用する前記のラクトン重合体の製造方法を提供する。
【0013】
本発明は、また、環状エステルが、置換基を有していてもよい、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、ζ−エナントラクトン、又はη−カプリロラクトンである前記のラクトン重合体の製造方法を提供する。
【0014】
本発明は、また、リン化合物がリン酸ジフェニルである前記のラクトン重合体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のラクトン重合体の製造方法は、触媒としてリン化合物を有機酸ビスマス塩と併せて使用するため、温和な条件下で効率よくラクトン重合体を製造することができる。
そして、本発明のラクトン重合体の製造方法により得られるラクトン重合体は色相に優れる。また、低分子量成分の混入割合が低く、分子量分布が狭いため、最終製品にブリードアウトやブルーミングが発生することを抑制することができる。
そのため、本発明のラクトン重合体の製造方法は、工業的にラクトン重合体を製造する方法として好適であり、本発明の製造方法により得られるラクトン重合体は、ポリウレタンやウレタン(メタ)アクリレート等の樹脂原料として有用である。また、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、エポキシ樹脂などに流動性等を付与する樹脂改質剤としても好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のラクトン重合体の製造方法は、環状エステルを開環重合することによりラクトン重合体を得るラクトン重合体の製造方法であって、触媒として、リン化合物と有機酸ビスマス塩を併用することを特徴とする。
【0017】
(リン化合物)
本発明におけるリン化合物は、下記式(1)で表される。リン化合物は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【化2】
[式中、R
1、R
2は同一又は異なって、アルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を示す。R
1、R
2は互いに結合して(−Z
1−P−Z
2−)基と共に環を形成していてもよい。XはOH、SH、SeH、又は−NHR’基(前記R’はアリール基、アリールスルホニル基、又はトリフルオロメチルスルホニル基)を示す。Yは酸素原子、硫黄原子、又はセレニウム原子を示す。Z
1、Z
2は同一又は異なって、酸素原子又は(−NR”−)基(前記R”は4−メチルフェニルスルホニル基、4−(トリフルオロメチル)フェニルスルホニル基、又は2−ナフチルスルホニル基)を示す]
【0018】
R
1、R
2におけるアルキル基としては、例えば、ブチル基、イソデシル基等の炭素数1〜18(好ましくは、炭素数1〜12)の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を挙げることができる。
【0019】
R
1、R
2におけるアリール基としては、フェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基、フェナントレニル基、アントラセニル基等の、炭素数6〜22(好ましくは、炭素数6〜14)のアリール基を挙げることができる。
【0020】
R
1、R
2におけるアリール基が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ハロゲン化C
1-4アルキル基(例えば、トリフルオロメチル基等)、トリ(C
1-4アルキル基及び/又はC
6-14アリール基)置換シリル基(例えば、トリフェニルシリル基、t−ブチル−ジフェニルシリル基等)、ニトロ基、C
1-4アルコキシ基、C
6-14アリール基、C
1-4アルキル基等を挙げることができる。
【0021】
R
1、R
2が互いに結合して(−Z
1−P−Z
2−)基と共に形成していてもよい環としては、例えば5〜7員環である。
【0022】
R’におけるアリール基としては、上記R
1、R
2におけるアリール基と同様の例を挙げることができる。
【0023】
R’におけるアリールスルホニル基としては、例えば、フェニルスルホニル基、ビフェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基等の炭素数6〜22(好ましくは、炭素数6〜14)アリールスルホニル基を挙げることができる。
【0024】
式(1)で表されるリン化合物の具体例としては、下記式(1-1)〜(1-5)で表される化合物等を挙げることができる。下記式中、X、Y、Z
1、Z
2は前記に同じ。
【化3】
【0025】
本発明におけるリン化合物としては、特に上記式(1-2)で表される化合物(とりわけ、リン酸ジフェニル)が、入手が容易である点、及び環状エステルに対する溶解性に優れ、添加量あたりの触媒効率に優れ、色相に優れたラクトン重合体が得られる点で好ましい。
【0026】
リン化合物の使用量としては、環状エステル(開始剤を使用する場合は、環状エステルと開始剤の総量)に対して、例えば1〜2000ppm、好ましくは5〜1000ppm、特に好ましくは10〜800ppm、最も好ましくは50〜200ppmである。リン化合物を、次に記載の有機酸ビスマス塩と共に上記範囲で使用すると、優れた触媒活性を発揮することができ、良好な色相を有し、分子量分布の狭いラクトン重合体を効率よく製造することができる。リン化合物の使用量が上記範囲を上回ると、得られるラクトン重合体の色相が悪化する傾向がある。一方、リン化合物の使用量が上記範囲を下回ると、十分な触媒活性が得られ難くなる傾向がある。また、得られるラクトン重合体の色相が悪化したり、低分子量のラクトン重合体の混入割合が増加し、分子量分布が広くなる傾向がある。
【0027】
(有機酸ビスマス塩)
本発明における有機酸ビスマス塩を構成する有機酸には、脂肪族カルボン酸、脂環式カルボン酸、及び芳香族カルボン酸が含まれる。従って、有機酸ビスマス塩には、脂肪族カルボン酸ビスマス塩、脂環式カルボン酸ビスマス塩、及び芳香族カルボン酸ビスマス塩が含まれる。有機酸ビスマス塩は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。本発明では、上記リン化合物と有機酸ビスマス塩を併用するため、色相に優れたラクトン重合体が得られる。
【0028】
前記脂肪族カルボン酸ビスマス塩としては、例えば、2−エチルヘキサン酸ビスマス(III)塩、ネオデカン酸ビスマス(III)塩、ネオドデカン酸ビスマス(III)塩、クエン酸ビスマス(III)塩、オレイン酸ビスマス(III)塩等の、炭素数2以上(例えば2〜18であり、下限は好ましくは4、特に好ましくは6、最も好ましくは8、とりわけ好ましくは9である。上限は好ましくは16、特に好ましくは14、最も好ましくは12である)の飽和若しくは不飽和の直鎖状又は分岐鎖状脂肪族カルボン酸のビスマス塩を挙げることができる。これらのなかでも飽和若しくは不飽和の分岐鎖状脂肪族カルボン酸のビスマス塩が好ましく、特に分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸のビスマス塩が好ましく、とりわけネオデカン酸ビスマス(III)塩が好ましい。
【0029】
前記脂環式カルボン酸ビスマス塩としては、例えば、ナフテン酸ビスマス(III)塩等の炭素数4〜20の脂環式カルボン酸のビスマス塩を挙げることができる。
【0030】
前記芳香族カルボン酸ビスマス塩としては、例えば、次サリチル酸ビスマス塩、次没食子酸ビスマス塩、安息香酸ビスマス(III)塩、トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル安息香酸)ビスマス塩等の、炭素数7〜10(好ましくは炭素数7〜9)の芳香族カルボン酸のビスマス塩を挙げることができる。
【0031】
本発明においては、特に優れた触媒活性を発揮することができる点で、脂肪族カルボン酸ビスマス塩が好ましい。
【0032】
本発明における有機酸ビスマス塩は市販品を使用することができる。市販のネオデカン酸ビスマス(III)塩(例えば、商品名「Valikat Bi2010」、Umicore社製)にはネオデカン酸を不純物として含有する場合があるが、ネオデカン酸の含有量が40重量%未満であれば本発明における有機酸ビスマス塩として問題なく使用することができる。
【0033】
有機酸ビスマス塩の使用量としては、環状エステル(開始剤を使用する場合は、環状エステルと開始剤の総量)に対して、例えば1〜1000ppmであり、上限は、好ましくは500ppm、更に好ましくは200ppm、特に好ましくは100ppm、最も好ましくは50ppmである。下限は、好ましくは3ppm、特に好ましくは5ppmである。有機酸ビスマス塩を、リン化合物と共に上記範囲で使用すると、優れた触媒活性を発揮することができ、良好な色相を有し、分子量分布の狭いラクトン重合体を効率よく製造することができる。有機酸ビスマス塩の使用量が上記範囲を外れると、十分な触媒活性が得られ難くなり、得られるラクトン重合体の色相が悪化したり、低分子量のラクトン重合体の混入割合が増加し、分子量分布が広くなる傾向がある。
【0034】
更に、上述のリン化合物と有機酸ビスマス塩の使用割合(前者/後者;モル比)は、例えば100/1〜5/1、好ましくは50/1〜15/1、特に好ましくは45/1〜25/1、最も好ましくは45/1〜30/1である。リン化合物と有機酸ビスマス塩を上記割合で併用することにより、色相に優れ、分子量分布の狭いラクトン重合体を効率よく製造することができる。
【0035】
(環状エステル)
本発明における環状エステルとしては、例えば、α−アセトラクトン、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、ζ−エナントラクトン、η−カプリロラクトン(=8−ヒドロキシオクタン酸ラクトン)、12−ヒドロキシドデカン酸ラクトン、13−ヒドロキシトリデカン酸ラクトン、14−ヒドロキシテトラデカン酸ラクトン、15−ヒドロキシペンタデカン酸ラクトン等の3〜16員の環状エステル等を挙げることができる。
【0036】
環状エステルには、例えば、1,4−ジオキサン−2−オン等のジオキサン類も含まれる。
【0037】
これらの環状エステル(ジオキサン類も含む)は置換基を有していてもよい。前記置換基としては、アルキル基やアルコキシ基等を挙げることができる。
【0038】
前記アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル基等の炭素数1〜10程度の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基等を挙げることができる。アルキル基を有する環状エステルとしては、例えば、β−ブチロラクトン、γ−エナントラクトン等を挙げることができる。アルキル基を有するジオキサン類としては、例えば、3−エチル−2−ケト−1,4−ジオキサン、3−プロピル−2−ケト−1,4−ジオキサン等を挙げることができる。
【0039】
前記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、t−ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ基等の炭素数1〜10程度(好ましくは炭素数1〜6、特に好ましくは炭素数1〜4)のアルコキシ基等を挙げることができる。
【0040】
上記環状エステルは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。本発明においては、なかでも、置換基を有していてもよい、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、ζ−エナントラクトン、又はη−カプリロラクトンを使用することが好ましく、特に、ε−カプロラクトンが好ましい。
【0041】
本発明では、環状エステルと共に、環状エステルと共重合可能な他の重合性モノマー(例えば、ラクチド、トリメチレンカーボネート、グリコリド等)を開環重合に付してもよい。その場合は、環状エステル由来の構成単位と他のモノマー由来の構成単位を有するラクトン重合体が得られる。尚、開環重合に付す全重合性モノマーにおける環状エステルの割合は、例えば50重量%以上である。
【0042】
(開始剤)
本発明のラクトン重合体の製造方法では、活性水素を含む官能基を有する化合物を開始剤として使用することが好ましい。開始剤を使用することにより重合反応が制御され、分子量分布の狭いラクトン重合体が得られる。
【0043】
前記活性水素を含む官能基を有する化合物としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、リン酸基、アミノ基、及びチオール基から選択される少なくとも1種の官能基を有する化合物等を挙げることができる。本発明においては、なかでも、水酸基を有する化合物が、反応性に優れる点で好ましい。
【0044】
前記水酸基を有する化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、アリルアルコール等の1価の脂肪族アルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の脂肪族多価アルコール;エチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールモノアセテート等の脂肪族多価アルコールのモノアルキル又はアルケニルエステル;エチレングリコールモノアルキル又はアルケニルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキル又はアルケニルエーテル、プロピレングリコールモノアルキル又はアルケニルエーテル、ジプロピレングリコールモノアルキル又はアルケニルエーテル、ブチレングリコールモノアルキル又はアルケニルエーテル等の脂肪族多価アルコールのモノアルキル又はアルケニルエーテル;ベンジルアルコール、フェノール、カテコール、ビフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ノボラック等の芳香族アルコール;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、前記水酸基含有(メタ)アクリレートの重合体等の水酸基を有する化合物のオリゴマー又はポリマー;末端に水酸基を有するエポキシ樹脂、末端に水酸基を有するポリブタジエン等の高分子化合物等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
本発明においては、なかでも、脂肪族多価アルコール及び/又は水酸基含有(メタ)アクリレートを開始剤として使用することが好ましい。本発明のラクトン重合体の製造方法では上記触媒を使用するため、従来のラクトン重合体の製造方法と比べて、水酸基含有(メタ)アクリレートを開始剤として使用する場合に、特に、ラクトン重合体を効率よく得ることができる。
【0046】
前記開始剤の使用量としては、環状エステル100モルに対して、例えば0.1〜100モル、好ましくは0.5〜100モル、特に好ましくは1〜100モルである。環状エステルと開始剤のモル比をコントロールすることにより得られるラクトン重合体の分子量を調整することが可能である。
【0047】
本発明のラクトン重合体の製造方法における反応温度は例えば30〜220℃、好ましくは80〜200℃、特に好ましくは100〜180℃である。反応温度が低すぎると、リン化合物の会合が起きやすくなるためか反応速度が遅くなる傾向がある。一方、反応温度が高すぎると、エステル交換反応による着色や生じた重合体の分解反応が進行するため、色相が良好であり、分子量分布の狭いラクトン重合体を得ることは困難となる傾向がある。また、反応時間は、例えば0.5〜60時間、好ましくは1〜50時間であり、前記範囲内において、反応温度が高い場合は短めに、反応温度が低い場合は長めに調整することが好ましい。更に反応圧力は例えば0.7〜1.3気圧、好ましくは0.8〜1.2気圧、特に好ましくは0.9〜1.1気圧であり、常圧下(1気圧下)で行うことが最も好ましい。
【0048】
また、反応の雰囲気は反応を阻害しない限り特に限定されないが、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の不活性ガス雰囲気下で反応を行うことが好ましい。
【0049】
本発明のラクトン重合体の製造方法では、重合性の炭素−炭素二重結合を有する開始剤を使用する場合は、前記開始剤の自己重合を抑制するために、ハイドロキノン、メトキノン(=p−メトキシフェノール)等の重合禁止剤や重合抑制剤を反応系に添加したり、前記重合禁止剤や重合抑制剤の添加と共に、又は重合禁止剤や重合抑制剤の添加に代えて酸素含有ガスを供給しつつ反応を行ってもよい。
【0050】
本発明のラクトン重合体の製造方法では、塊状重合、溶液重合、及び懸濁重合の何れの重合方法も採用することができる。
【0051】
前記溶液重合の際に使用する溶剤としては、比較点沸点が高く且つ反応に不活性な溶媒を使用することが好ましく、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素を使用することが好ましい。溶媒は実質的に無水のものが望ましい。
【0052】
本発明のラクトン重合体の製造方法では、開環重合反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式等の何れの方法で行うこともできる。反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィー等の分離精製手段やこれらを組み合わせた手段により分離精製できる。
【0053】
本発明の製造方法により得られるラクトン重合体は、好ましくは開始剤に対し1分子以上の環状エステルが開環重合して得られる化合物であり、1分子の環状エステルが開環重合して得られるラクトン付加物、1分子を超え10分子以下の環状エステルが開環重合して得られるラクトンオリゴマー、及び10分子を超える環状エステルが開環重合して得られるラクトンポリマーが含まれる。ラクトン重合体は、環状エステル由来の構成単位をラクトン重合体全量の50モル%以上含有する。前記ラクトン重合体には、環状エステル由来の構成単位以外にも環状エステルと共重合可能な他のモノマー由来の構成単位を含有していてもよい。
【0054】
本発明の製造方法は上記触媒を使用するため、色相に優れた(色相[APHA]は、例えば70以下、好ましくは45以下、より好ましくは40以下、特に好ましくは30以下、最も好ましくは25以下)ラクトン重合体が得られる。
【0055】
また、本発明の製造方法で得られるラクトン重合体は低分子量成分の混入割合が低い。そのため、分子量分布[重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)]が狭く、例えば1.8以下、好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.3以下、最も好ましくは1.25以下、とりわけ好ましくは1.2以下である。そのため、ポリウレタンやウレタン(メタ)アクリレート等の原料として使用した場合に、最終製品にブリードアウトやブルーミング(低分子量成分のしみだし)が発生することを抑制することができる。
【0056】
本発明の製造方法で得られるラクトン重合体は上記特性を併せて有するため、樹脂原料や樹脂改質剤等として好適に使用することができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0058】
実施例1
ガス導入管、撹拌装置、冷却管、温度調節器を備えた1リットルの4ツ口フラスコに、開始剤としての2−ヒドロキシエチルアクリレート2.9mol(336.9g、環状エステル100モルに対して50モル)、環状エステルとしてのε−カプロラクトン5.8mol(663.1g)、メトキノン0.5g、リン酸ジフェニル(DPP)0.1g(環状エステルと開始剤の総量に対して、100ppm)、ネオデカン酸ビスマス(III)塩0.007g(環状エステルと開始剤の総量に対して、7ppm)を加え、7%O
2雰囲気下で、110℃に加熱し撹拌した[DPP/ネオデカン酸ビスマス(III)塩(モル比)=41/1]。
ガスクロマトグラフィで反応液中のε−カプロラクトン濃度を測定し、ε−カプロラクトン濃度が1%未満になったところで反応液を冷却して反応を停止して、ラクトン重合体を得た。得られたラクトン重合体の分子量分布、及び色相を下記方法で測定した。
【0059】
<分子量分布>
高速GPC装置を用いて、ポリスチレン標品との比較から数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を求め、分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
測定条件は下記の通りである。
測定装置:高速GPC装置「HLC−8220GPC」、東ソー(株)製
移動相:テトラヒドロフラン
<色相:APHA>
ASTM D 1209に準拠して測定した。
【0060】
実施例2
ネオデカン酸ビスマス(III)塩に代えて、2−エチルヘキサン酸ビスマス(III)塩0.008g(環状エステルと開始剤の総量に対して、8ppm)を使用した以外は実施例1と同様に行って[DPP/2−エチルヘキサン酸ビスマス(III)塩(モル比)=32/1]、ラクトン重合体を得た。
【0061】
比較例1
ネオデカン酸ビスマス(III)塩を使用しなかった以外は実施例1と同様に行って、ラクトン重合体を得た。
【0062】
上記結果を下記表にまとめて示す。
【表1】
【0063】
実施例3
ガス導入管、撹拌装置、冷却管、温度調節器を備えた1リットルの4ツ口フラスコに、開始剤としてのネオペンチルグリコール0.5mol(52.0g、環状エステル100モルに対して6モル)、環状エステルとしてのε−カプロラクトン8.3mol(948.0g)、リン酸ジフェニル(DPP)0.1g(環状エステルと開始剤の総量に対して、100ppm)、ネオデカン酸ビスマス(III)塩0.007g(環状エステルと開始剤の総量に対して、7ppm)を加え、窒素雰囲気下で、180℃に加熱し撹拌した[DPP/ネオデカン酸ビスマス(III)塩(モル比)=41/1]。
ガスクロマトグラフィで反応液中のε−カプロラクトン濃度を測定し、ε−カプロラクトン濃度が0.5%未満になったところで反応液を冷却して反応を停止して、ラクトン重合体を得た。得られたラクトン重合体の分子量分布、及び色相を上記方法で測定した。
【0064】
比較例2
ネオデカン酸ビスマス(III)塩を使用しなかった以外は実施例3と同様に行って、ラクトン重合体を得た。
【0065】
上記結果を下記表にまとめて示す。
【表2】
【0066】
実施例4
ガス導入管、撹拌装置、冷却管、温度調節器を備えた1リットルの4ツ口フラスコに、開始剤としての2−ヒドロキシエチルメタクリレート4.1mol(532.8g、環状エステル100モルに対して100モル)、環状エステルとしてのε−カプロラクトン4.1mol(467.2g)、メトキノン2g、リン酸ジフェニル(DPP)0.1g(環状エステルと開始剤の総量に対して、100ppm)、ネオデカン酸ビスマス(III)塩0.007g(環状エステルと開始剤の総量に対して、7ppm)を加え、7%O
2雰囲気下で、110℃に加熱し撹拌した[DPP/ネオデカン酸ビスマス(III)塩(モル比)=41/1]。
ガスクロマトグラフィで反応液中のε−カプロラクトン濃度を測定し、ε−カプロラクトン濃度が1%未満になったところで反応液を冷却して反応を停止して、ラクトン付加物を得た。得られたラクトン付加物の分子量分布、及び色相を上記方法で測定した。
【0067】
比較例3
ネオデカン酸ビスマス(III)塩を使用しなかった以外は実施例4と同様に行って、ラクトン付加物を得た。
【0068】
【表3】
【0069】
実施例5
ガス導入管、撹拌装置、冷却管、温度調節器を備えた1リットルの4ツ口フラスコに、開始剤としての2−ヒドロキシエチルアクリレート2.9mol(336.9g、環状エステル100モルに対して50モル)、環状エステルとしてのε−カプロラクトン5.8mol(663.1g)、メトキノン0.5g、ビス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェート(DXP)0.12g(環状エステルと開始剤の総量に対して、120ppm)、ネオデカン酸ビスマス(III)塩0.007g(環状エステルと開始剤の総量に対して、7ppm)を加え、7%O
2雰囲気下で、110℃に加熱し撹拌した[DXP/ネオデカン酸ビスマス(III)塩(モル比)=33/1]。
ガスクロマトグラフィで反応液中のε−カプロラクトン濃度を測定し、ε−カプロラクトン濃度が1%未満になったところで反応液を冷却して反応を停止して、ラクトン重合体を得た。得られたラクトン重合体の分子量分布、及び色相を上記方法で測定した。
【0070】
比較例4
ネオデカン酸ビスマス(III)塩を使用しなかった以外は実施例5と同様に行って、ラクトン重合体を得た。
【0071】
【表4】