(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378110
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】遊星歯車伝動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/28 20060101AFI20180813BHJP
B62M 9/121 20100101ALI20180813BHJP
B62M 9/131 20100101ALI20180813BHJP
【FI】
F16H1/28
B62M9/121
B62M9/131
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-30897(P2015-30897)
(22)【出願日】2015年2月19日
(65)【公開番号】特開2016-151349(P2016-151349A)
(43)【公開日】2016年8月22日
【審査請求日】2017年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001225
【氏名又は名称】日本電産コパル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】特許業務法人 英知国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100118898
【弁理士】
【氏名又は名称】小橋 立昌
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 恵介
【審査官】
岩本 薫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−117521(JP,A)
【文献】
特開2003−184974(JP,A)
【文献】
特開2004−301278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/28
B62M 9/121
B62M 9/131
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力伝動要素から中間伝動要素を介して出力伝動要素に回転力を伝動する遊星歯車機構を備え、外力による出力伝動要素の回転を防止するセルフロック機能を有する遊星歯車伝動装置であって、
前記入力伝動要素と前記中間伝動要素との間、或いは前記中間伝動要素相互間に伝動損失部を備え、
前記伝動損失部は、前記入力伝動要素の一部と前記中間伝動要素の一部とを摩擦接触させる機構であり、前記入力伝動要素の一部に前記中間伝動要素の一部を圧接する弾性部材を備えることを特徴とする遊星歯車伝動装置。
【請求項2】
前記入力伝動要素を回転駆動するモータを備えることを特徴とする請求項1に記載の遊星歯車伝動装置。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか1項に記載された遊星歯車伝動装置を変速機駆動ユニットとして備える自転車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルフロック機能を有する遊星歯車伝動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遊星歯車機構は、太陽歯車と遊星歯車とキャリアを伝動要素として備え、2KH、3K、KHVなどに分類される各種の機構が知られている。また、遊星歯車機構は、一般の歯車列と比べて構造が小型軽量で大きな変速比が得られることなどから、変速装置として多くの分野で用いられている。
【0003】
遊星歯車機構を備えた伝動装置は、入力伝動要素に加わる回転力を伝動して出力伝動要素を回転させるものであるが、出力伝動要素に外部から回転力が加わった場合にこれを入力側に伝えない、すなわち、出力伝動要素は自身に加わる外力では回転しない、セルフロック機能を有するものが知られている(下記、特許文献1参照)。このような伝動装置は、この伝動装置を介してモータ軸の回転を伝動して出力軸を回転させる際に、出力軸の回転をモータによる回転のみに限定して、出力軸が外力で回転するのを防止する機構などとして用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−91384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セルフロック機能を有する遊星歯車伝動装置は、セルフロック機能を発揮するための条件が遊星歯車機構の諸元によって設定されているが、様々な減速比(変速比)を実現すること、或いは装置の小型化に対応することなどを考慮すると、セルフロック機能を発揮するための諸元の条件を十分に満足することが困難な場合があり、遊星歯車機構の諸元を様々に設定することでセルフロック機能が効果的に発揮できなくなる場合がある。
【0006】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、様々な遊星歯車機構の諸元に対して、セルフロック機能を効果的に得ることができる遊星歯車伝動装置を提供すること、などが発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するために、本発明は、以下の構成を具備するものである。
入力伝動要素から中間伝動要素を介して出力伝動要素に回転力を伝動する遊星歯車機構を備え、外力による出力伝動要素の回転を防止するセルフロック機能を有する遊星歯車伝動装置であって、前記入力伝動要素と前記中間伝動要素との間、或いは前記中間伝動要素相互間に伝動損失部を備え
、前記伝動損失部は、前記入力伝動要素の一部と前記中間伝動要素の一部とを摩擦接触させる機構であり、前記入力伝動要素の一部に前記中間伝動要素の一部を圧接する弾性部材を備えることを特徴とする遊星歯車伝動装置。
【発明の効果】
【0008】
このような特徴を有する本発明は、遊星歯車機構が、入力伝動要素と中間伝動要素との間、或いは中間伝動要素相互間に伝動損失部を備えることで、効果的にセルフロック機能を発揮することができ、様々な変速比(減速比)の遊星歯車伝動装置において、一定のセルフロック機能を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る遊星歯車伝動装置を示した断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る遊星歯車伝動装置を示した分解斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る遊星歯車伝動装置の応用例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の図において、各図に示す共通する部位には同一符号を付しており、重複説明は省略する。
図1及び
図2において、遊星歯車伝動装置1は、入力伝動要素2から中間伝動要素4を介して出力伝動要素3に回転力が伝動される遊星歯車機構を備えている。
【0011】
図示の例では、遊星歯車伝動装置1は、一対の支持板5を備え、その支持板5,6間に支持部材7を介して支持されたシャフト8を備えており、シャフト8の周りに、外歯11Aを有する固定太陽歯車11、外歯12Aとキャリアピン12Bを有するキャリア12、キャリアピン12Bに軸支されて2段の外歯13A,13Bを有する駆動遊星歯車13、シャフト8に軸支されて2段の外歯14A,14Bを有する駆動太陽歯車14、内歯15Aを有する固定内歯車15、外歯16Aを有する駆動遊星歯車16、外歯17Aと駆動遊星歯車16を軸支するキャリアピン17Bを有しシャフト8に軸支されるキャリア17を備えている。
【0012】
ここで、固定太陽歯車11の外歯11Aに駆動遊星歯車13の外歯13Aが噛み合い、駆動遊星歯車13の外歯13Bが駆動太陽歯車14の外歯14Aに噛み合い、駆動太陽歯車14の外歯14Bと固定内歯車15の内歯15Aに駆動遊星歯車16の外歯16Aが噛み合っている。そして、入力伝動要素2となるキャリア12の外歯12Aには、モータ9の駆動軸に装着されるピニオンギヤ9Aが噛み合い、出力伝動要素3となるキャリア17の外歯17Aには、出力ギヤ10の外歯10Aが噛み合っている。
【0013】
更に、入力伝動要素2のキャリア12と出力伝動要素3のキャリア17との間には、中間板20が設けられている。また、出力ギヤ10は、支持板5と固定内歯車15の間に軸受21を介して軸支されている。ここで、固定太陽歯車11,駆動遊星歯車13,駆動太陽歯車14,固定内歯車15,駆動遊星歯車16が中間伝動要素4であり、これらの遊星歯車機構とモータ9及び出力ギヤ10がケース22に収容されている。
【0014】
このような遊星歯車伝動装置1は、ピニオンギヤ9Aの歯数と、外歯11A,12A,13A,13B,14A,14B,16A,17Aの歯数と、内歯15Aの歯数と、出力ギヤ10の外歯10Aの歯数を適宜設定することで、所望の減速比を得ることができるが、ここで、遊星歯車機構の諸元を必要な条件に設定することで、出力ギヤ10や出力伝動要素3に外力が加わった場合にも、出力ギヤ10や出力伝動要素3の回転を防止するセルフロック機能を付与することができる。
【0015】
出力ギヤ10や出力伝動要素3に外力が加わると、駆動太陽歯車14に回転する力が加わる。しかしながら、駆動太陽歯車14の外歯14Aから駆動遊星歯車13の外歯13Aに加わる力と、固定太陽歯車11の外歯11Aから駆動遊星歯車13の外歯13Bに加わる反力との釣り合いにより、キャリア12を回転させる力は極めて小さくなっている。これにより、出力ギヤ10や出力伝動要素3から回転させる外力が入力されても、出力ギヤ10や出力伝動要素3が回転することを防止している。
【0016】
このとき、駆動遊星歯車13に加わる力の均衡が取れなくなると、セルフロック機能が解除される。この要因は、ギヤの諸元が変更されることにより起こり得る。ギヤの諸元は遊星歯車伝動装置1が採用される装置に依存して設定されるものであり、セルフロック機構を維持しながら、ギヤの諸元を適宜の仕様に合せて設定できない場合が生じる。
【0017】
ここで、遊星歯車伝動装置1の遊星歯車機構は、入力伝動要素2と中間伝動要素4との間、或いは中間伝動要素4相互間に伝動損失部を備えており、この伝動損失部によって、セルフロック機能を得ることができる諸元の設定範囲を広げている。伝動損失部は、入力伝動要素3の駆動を妨げない範囲で伝動要素間に伝動損失を生じさせるものであり、例えば、入力伝動要素3の一部と中間伝動要素4の一部とを摩擦接触させる機構などを設けることで実現することができる。
【0018】
図示の例では、伝動損失部は、シャフト8の周りに弾性部材(コイルバネ)30を設けることで、中間伝動要素4である固定太陽歯車11の一部を入力伝動要素2であるキャリア12の一部に圧接させて、伝動損失を生じさせている。ここでは、固定太陽歯車11とキャリア12が共にシャフト8に交差する当接面11S,12Sを有しており、この当接面11S,12Sが互いに摩擦接触するように、弾性部材30が設けられている。ここでは、入力伝動要素2と中間伝動要素4とを摩擦接触させる例を示したが、中間伝動要素4の各要素間に同様の摩擦接触部分を設けることでも同様の効果を得ることができる。
【0019】
固定太陽歯車11の当接面11Sには、支持板5側へ突出するボス11Bが設けられており、支持板5には、ボス11Bが嵌り込む穴部5Aが設けられている。これにより、固定太陽歯車11はシャフト8の延在方向への移動が許容されると共に、回転移動が防止される。
【0020】
図3は、前述した遊星歯車伝動装置1の応用例として、自転車100の変速機駆動ユニット101,102として、前述した遊星歯車伝動装置1を利用した例を示している。変速機駆動ユニット101は、フロントギヤ用ユニットであり、シフトスイッチ103の操作によって送信される信号でモータ9を駆動してフロントギヤ104のシフトチェンジを行う。変速機駆動ユニット102は、リアギヤ用ユニットであり、シフトスイッチ103の操作によって送信される信号でモータ9を駆動してリアギヤ105のシフトチェンジを行う。
【0021】
このような変速機駆動ユニット101,102に前述した遊星歯車伝動装置1を採用することで、効果的にセルフロック機能を発揮させ、外力の付与で意図しないシフトチェンジが生じる不都合を効果的に解消することができる。そして、その際に遊星歯車伝動装置1の減速比を、セルフロック機能を維持しながら、適宜の仕様に合わせて設定することができる。
【実施例】
【0022】
以下に、遊星歯車伝動装置1の諸元を特定した実施例(弾性部材30有り)と比較例(弾性部材30無し)で、セルフロック機能を効き易さを検討した。実施例と比較例の遊星歯車伝動装置は共に表1に示した諸元を備える。
【0023】
【表1】
【0024】
<実施例>
表1に示した諸元で、弾性部材30(バネ与圧100gf)を備えるものは、出力ギヤ10の回転軸にトルクを加えて、セルフロックが解かれる(出力ギヤが回転してしまう)トルクを測定すると、平均12.5kgf・cm(最小6.9kgf・cm)であった。
<比較例>
表1に示した諸元で、弾性部材30を備えないものは、実施例同様に出力ギヤ10の回転軸にトルクを加えて、セルフロックが解かれるトルクを計測すると、2.5〜10kgf・cmの範囲のトルクでセルフロックが解かれることになった。
【0025】
前述した実施例と比較例の測定結果から、セルフロック機能が効き難い諸元の遊星歯車伝動装置(比較例)であっても、バネ与圧100gf程度の弾性部材30を具備することで、効果的にセルフロック機能を付与することができることが確認できた。
【0026】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0027】
1:遊星歯車伝動装置,2:入力伝動要素,3:出力伝動要素,
4:中間伝動要素,5,6:支持板,7:支持部材,8:シャフト,
9:モータ,9A:ピニオンギヤ,10:出力ギヤ,
11:固定太陽歯車,12,17:キャリア,13:駆動遊星歯車,
14:駆動太陽歯車,15:固定内歯車,16:駆動遊星歯車,
100:自転車,101、102:変速機駆動ユニット,
103:シフトスイッチ,104:フロントギヤ,105:リアギヤ