特許第6378156号(P6378156)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6378156圧粉磁心、圧粉磁心用粉末、および圧粉磁心の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378156
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】圧粉磁心、圧粉磁心用粉末、および圧粉磁心の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/24 20060101AFI20180813BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20180813BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20180813BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20180813BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20180813BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20180813BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20180813BHJP
   H01F 1/33 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   H01F1/24
   H01F27/255
   H01F41/02 D
   C22C38/00 303T
   B22F1/00 Y
   B22F1/02 E
   B22F3/00 B
   H01F1/33
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-202971(P2015-202971)
(22)【出願日】2015年10月14日
(65)【公開番号】特開2017-76689(P2017-76689A)
(43)【公開日】2017年4月20日
【審査請求日】2017年4月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100105463
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100129861
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 滝治
(74)【代理人】
【識別番号】100160668
【弁理士】
【氏名又は名称】美馬 保彦
(72)【発明者】
【氏名】岡本 大祐
(72)【発明者】
【氏名】高橋 利光
(72)【発明者】
【氏名】三枝 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】石井 洪平
(72)【発明者】
【氏名】岩田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】ファン ジョンハン
(72)【発明者】
【氏名】大坪 将士
(72)【発明者】
【氏名】服部 毅
(72)【発明者】
【氏名】原 昌司
【審査官】 右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−243215(JP,A)
【文献】 特許第5682723(JP,B2)
【文献】 特開2015−103770(JP,A)
【文献】 特開2005−050918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/24
B22F 1/00−1/02
B22F 3/00
C22C 38/00
H01F 1/33
H01F 27/255
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe−Si−Al合金からなる母材の表層に窒化アルミニウム層を有する軟磁性粒と、軟磁性粒同士の間において圧粉磁心を焼鈍する際の前記軟磁性粒の焼鈍温度よりも低い軟化点温度を有する低融点ガラス層と、を備えた圧粉磁心であって、
前記圧粉磁心は、印加磁場1kA/mにおける微分比透磁率を第1の微分比透磁率μ’Lとし、印加磁場40kA/mにおける微分比透磁率を第2の微分比透磁率μ’Hとしたときに、前記圧粉磁心は、第1の微分比透磁率μ’Lと第2の微分比透磁率μ’Hとの比が、μ’L/μ’H≦6の関係を満たし、印加磁場60kA/mにおける磁束密度が1.4T以上であり、
前記軟磁性粒は、1.0〜3.0質量%の範囲でSiを含有しており、かつ、
前記圧粉磁心をXRD分析したときに、Feに由来したピーク波形の面積Sfeに対する、AlNに由来したピーク波形の面積Salの比であるピーク面積比Sal/Sfeが4%以上であることを特徴とする圧粉磁心。
【請求項2】
前記低融点ガラス層を形成する低融点ガラスは、圧粉磁心全体を100質量%として0.05〜5.0質量%含有されていることを特徴とする請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項3】
Fe−Si−Al合金からなる母材の表面に窒化アルミニウム層を有する軟磁性粉末と、該軟磁性粉末の表面において圧粉磁心を焼鈍する際の前記軟磁性粉末の焼鈍温度よりも低い軟化点温度を有する低融点ガラス皮膜と、を備えた圧粉磁心用粉末であって、
前記軟磁性粉末は、該軟磁性粉末全体を100質量%として1.0〜3.0質量%の範囲でSiを含有しており、
前記圧粉磁心用粉末は、該圧粉磁心用粉末をXRD分析したときに、Feに由来したピーク波形の面積Sfeに対する、AlNに由来したピーク波形の面積Salの比であるピーク面積比Sal/Sfeが4%以上であることを特徴とする圧粉磁心用粉末。
【請求項4】
Fe−Si−Al合金からなる軟磁性粉末であって、該軟磁性粉末全体を100質量%として1.0〜3.0質量%の範囲でSiを含有し、AlとSiの合計含有量に対するAl含有量の質量割合であるAl比率が、0.45以上である軟磁性粉末を準備する工程と、
準備した前記軟磁性粉末を窒素ガス雰囲気下で加熱することにより前記軟磁性粉末を窒化処理する窒化処理工程であって、窒化処理された軟磁性粉末をXRD分析したときのFeに由来したピーク波形の面積Sfeに対する、AlNに由来したピーク波形の面積Salの比であるピーク面積比Sal/Sfeが4%以上となるように、前記軟磁性粉末の表面に窒化アルミニウム層を形成する窒化処理工程と、
窒化処理された前記軟磁性粉末に、圧粉磁心を焼鈍する際の焼鈍温度よりも低い軟化点温度を有する低融点ガラスを添加し、前記軟磁性粉末の表面を被覆するように前記低融点ガラスからなる低融点ガラス皮膜を形成して、圧粉磁心用粉末を製造する工程と、
前記低融点ガラス皮膜が形成された圧粉磁心用粉末から圧粉磁心を成形した後、該圧粉磁心を焼鈍する工程と、を含むことを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【請求項5】
前記窒化処理工程において、800℃以上、0.5時間以上で前記軟磁性粉末を加熱することを特徴とする請求項4に記載の圧粉磁心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気特性に優れた圧粉磁心、圧粉磁心用粉末、および圧粉磁心の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ハイブリッド自動車、電気自動車、太陽光発電装置などでは、リアクトルが用いられ、このリアクトルは、圧粉磁心であるリング状のコアにコイルを巻いた構造が採用されている。リアクトルの使用時には、コイルに幅広い電流域の電流を流すため、コアには、少なくとも40kA/mの磁場が印加される。このような環境下であっても、リアクトルのインダクタンスを安定して確保する必要があった。
【0003】
このような点を鑑みて、例えば、図13(a)に示すリアクトル9が提案されている(例えば、特許文献1参照)。リアクトル9は、リング状のコア(圧粉磁心)91を分割し、分割したコア同士92A,92Bの間にギャップ93を設け、このギャップ93を含むコア91の部分にコイル95A,95Bを巻いている。
【0004】
このリアクトル9によれば、分割したコア同士92A,92Bの間にギャップ93を設けることにより、リアクトル9のコイル95A,95Bに幅広い電流域で電流を流したとしても、これらの電流域において安定したインダクタンスを確保することができる。
【0005】
ところで、チョークコイル、インダクターなどにも圧粉磁心が用いられている。このような圧粉磁心として、初透磁率をμ,印加磁界(印加磁場)が24kA/mのときの透磁率をμとしたとき、μとμの間に、μ/μ≧0.5の関係を満たす圧粉磁心が開示されている(例えば、特許文献2参照)。この圧粉磁心によれば、圧粉磁心に高磁界が印加されたとしても、圧粉磁心の透磁率の低下を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−296015号公報
【特許文献2】特開2002−141213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、たとえば特許文献1に示す技術の場合、分割したコア同士の間のギャップが形成されているため、図13(b)に示すように、分割したコア同士92A,92Bの間に形成されたギャップ93に、磁束Tの漏れが発生する。特に、ハイブリッド自動車などの大電流が流れるリアクトルの場合、コアに40kA/m以上の高磁場が印加されるため、この印加磁場でリアクトル(すなわちコア)のインダクタンスを維持するためには、さらに上述したギャップを広げることになる。これにより、ギャップからの磁束Tの漏れが増大し、この漏れ磁束がコイルに鎖交することによりコイル渦損が発生することがあった。
【0008】
このようにリアクトルで示した課題は、その一例であり、圧粉磁心に低磁場から高磁場(40kA/m)まで印加されるような機器・装置において、インダクタンスを維持することは難しく、構造的に何らかの措置が取られていることが一般的である。
【0009】
仮に、特許文献2に示す特性を有した圧粉磁心に用いたとしても、40kA/m以上の高磁場が印加されることまでは想定されていない。したがって、このような材料であっても、高磁場(40kA/m以上)では、インダクタンスが大幅に低下することが想定される。また、これに加えて、圧粉磁心の強度低下、および飽和磁束密度の低下も懸念される。
【0010】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、圧粉磁心の鉄損と強度低下を抑えつつ、圧粉磁心に印加される磁場が、高磁場(40kA/m以上)であったとしても、インダクタンスの低下を抑制することができる圧粉磁心、圧粉磁心用粉末、および圧粉磁心の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、高磁場においてもインダクタンスの低下を抑制するには、Fe基成分の多さを維持することにより高磁場においても、所定の磁束密度の大きさを確保しつつ、かつ、低磁場での微分比透磁率を小さくすることが重要であると考えた。そこで、発明者らは、特定の低磁場の微分比透磁率と、特定の高磁場の微分比透磁率との比に着眼した。そして、このような関係を満たした上で、圧粉磁心の鉄損を低減し、その強度を確保することが重要であるとの知見を得た。
【0012】
本発明は、発明者らの前記着眼に基づくものであり、本発明に係る圧粉磁心は、Fe−Si−Al合金からなる母材の表層に窒化アルミニウム層を有する軟磁性粒と、軟磁性粒同士の間において圧粉磁心を焼鈍する際の前記軟磁性粒の焼鈍温度よりも低い軟化点温度を有する低融点ガラス層と、を備えた圧粉磁心であって、前記圧粉磁心は、印加磁場1kA/mにおける微分比透磁率を第1の微分比透磁率μ’Lとし、印加磁場40kA/mにおける微分比透磁率を第2の微分比透磁率μ’Hとしたときに、前記圧粉磁心は、第1の微分比透磁率μ’Lと第2の微分比透磁率μ’Hとの比が、μ’L/μ’H≦6の関係を満たし、印加磁場60kA/mにおける磁束密度が1.4T以上であり、前記軟磁性粒は、1.0〜3.0質量%の範囲でSiを含有しており、かつ、前記圧粉磁心をXRD分析したときに、Feに由来したピーク波形の面積Sfeに対する、AlNに由来したピーク波形の面積Salの比であるピーク面積比Sal/Sfeが4%以上であることを特徴とする。
【0013】
本発明の圧粉磁心によれば第1の微分比透磁率μ’Lと第2の微分比透磁率μ’Hとの比が、μ’L/μ’H≦6の関係を満たすことにより、高磁場であっても圧粉磁心のB−H曲線の勾配をこれまでのものよりも大きく保つことができる。これにより、圧粉磁心に対して、低磁場(1kA/m)から高磁場(40kA/m)に変化させても、圧粉磁心のインダクタンスの変動を抑えることができる。
【0014】
ここで、μ’L/μ’H>6の場合には、低磁場と高磁場の微分比透磁率の差が大きくなってしまい、圧粉磁心に対して高磁場領域に磁場を印加した場合、インダクタンスが著しく低下する。たとえば、リアクトルに分割したコアを用いた場合には、これらのギャップを大きくしなければ、リアクトルのインダクタンスを維持することができない。この結果、ギャップからの磁束の漏れが増大し、この漏れ磁束がコイルに鎖交することによりコイル渦損が発生してしまう。なお、μ’L/μ’Hは、より小さいことが好ましいがその下限値は、1である。μ’L/μ’H<1となる圧粉磁心を製造することは難しい。
【0015】
また、印加磁場60kA/mにおける磁束密度が1.4T以上を確保しているため、低磁場から高磁場におけるインダクタンスの値を保持することができる。すなわち、印加磁場60kA/mにおける磁束密度が1.4T未満の場合、所望のインダクタンスを得るためには、リアクトル等の機器の体格が大きくなってしまう。印加磁場60kA/mにおける磁束密度の上限値は、2.1Tであることが好ましい。純鉄の飽和磁束密度が約2.2Tであることから、この値を超える圧粉磁心を製造することは難しい。
【0016】
ここで、本発明でいう「微分比透磁率」とは、圧粉磁心に磁場を連続的に増加するように印加したときに得られる磁場Hと磁束密度Bとの曲線(B−H曲線)の接線の傾きを真空透磁率で割ったものである。例えば、磁場40kA/mにおける微分比透磁率(第2の微分比透磁率μ’H)は、B−H曲線上の磁場40kA/mにおける接線の傾きを真空透磁率で割ったものである。
【0017】
また、軟磁性粒は、母材の表層に、母材よりも硬質な窒化アルミニウム層を有するため、成形後の軟磁性粒間の距離を確保し、これらの間には非磁性体である窒化アルミニウム層が保持されることになる。
【0018】
また、圧粉磁心を構成する軟磁性粒は、1.0〜3.0質量%の範囲でSiを含有している。Siの含有量が、1.0質量%未満である場合には、圧粉磁心の鉄損が増加する。一方、Siの含有量が、3.0質量%を超えた場合には、後述するピーク面積比Sal/Sfe≧4%の関係を満たさず、すなわち、窒化アルミニウム層の厚さが小さくなるため、μ’Lを十分に小さくすることができない。
【0019】
また、圧粉磁心は、前記圧粉磁心をXRD分析したときに、Feに由来したピーク波形の面積Sfeに対する、AlNに由来したピーク波形の面積Salの比であるピーク面積比Sal/Sfeが4%以上である。この関係を満たすことにより、非磁性の窒化アルミニウム層の厚さが厚くなり、軟磁性粒同士の距離を確保でき、μ’Lを小さくすることが可能である。また、軟磁性粒の窒化アルミニウム層に対する低融点ガラス層の濡れ性および馴染み性が向上し、圧粉磁心の強度を高めることができる。
【0020】
本発明の圧粉磁心の好ましい態様として、前記低融点ガラス層を形成する低融点ガラスは、圧粉磁心全体を100質量%として0.05〜5.0質量%含有されている。低融点ガラスの含有量が0.05質量%未満である場合には、十分な低融点ガラス層が形成されず、高比抵抗で高強度な圧粉磁心を得ることができないことがある。一方、低融点ガラスの含有量が5.0質量%を超えた場合には、圧粉磁心の磁気特性が低下し得ることがある。
【0021】
本発明として、上述した圧粉磁心に製造する好適な圧粉磁心用粉末も開示する。本発明に係る圧粉磁心用粉末は、Fe−Si−Al合金からなる母材の表面に窒化アルミニウム層を有する軟磁性粉末と、該軟磁性粉末の表面において圧粉磁心を焼鈍する際の前記軟磁性粉末の焼鈍温度よりも低い軟化点温度を有する低融点ガラス皮膜と、を備えた圧粉磁心用粉末であって、前記軟磁性粉末は、該軟磁性粉末全体を100質量%として1.0〜3.0質量%の範囲でSiを含有しており、前記圧粉磁心用粉末は、該圧粉磁心用粉末をXRD分析したときに、Feに由来したピーク波形の面積Sfeに対する、AlNに由来したピーク波形の面積Salの比であるピーク面積比Sal/Sfeが4%以上であることを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、軟磁性粉末は、母材の表層に、母材よりも硬質な窒化アルミニウム層を有するため、圧粉磁心用粉末から成形された圧粉磁心の軟磁性粒間の距離を確保し、これらの間には非磁性の窒化アルミニウム層が保持される。これにより、上述したμ’L/μ’Hの関係および磁束密度の範囲を満たす圧粉磁心を製造し易い。
【0023】
軟磁性粉末は、該軟磁性粉末全体を100質量%として1.0〜3.0質量%の範囲でSiを含有している。上述たように、Siの含有量が、1.0質量%未満である場合には、圧粉磁心の鉄損が増加し、Siの含有量が、3.0質量%を超えた場合には、後述するピーク面積比Sal/Sfe≧4%の関係を満たす軟磁性粉末を製造することが難しい。
【0024】
さらに、圧粉磁心用粉末は、ピーク面積比Sal/Sfe≧4%の関係を満たすので、圧粉磁心用粉末から成形された圧粉磁心の窒化アルミニウム層に対する低融点ガラス層(低融点ガラス皮膜)の濡れ性および馴染み性を向上させ、圧粉磁心の強度を高めることができる。
【0025】
本発明として、上述した圧粉磁心の製造方法も開示する。本発明に係る圧粉磁心の製造方法は、Fe−Si−Al合金からなる軟磁性粉末であって、該軟磁性粉末全体を100質量%として1.0〜3.0質量%の範囲でSiを含有し、AlとSiの合計含有量に対するAl含有量の質量割合であるAl比率が、0.45以上である軟磁性粉末を準備する工程と、準備した前記軟磁性粉末を窒素ガス雰囲気下で加熱することにより前記軟磁性粉末を窒化処理する窒化処理工程であって、窒化処理された軟磁性粉末をXRD分析したときのFeに由来したピーク波形の面積Sfeに対する、AlNに由来したピーク波形の面積Salの比であるピーク面積比Sal/Sfeが4%以上となるように、前記軟磁性粉末の表面に窒化アルミニウム層を形成する窒化処理工程と、窒化処理された前記軟磁性粉末に、圧粉磁心を焼鈍する際の焼鈍温度よりも低い軟化点温度を有する低融点ガラスを添加し、前記軟磁性粉末の表面を被覆するように前記低融点ガラスからなる低融点ガラス皮膜を形成して、圧粉磁心用粉末を製造する工程と、前記低融点ガラス皮膜が形成された圧粉磁心用粉末から圧粉磁心を成形した後、該圧粉磁心を焼鈍する工程と、を含むことを特徴とする。
【0026】
本発明によれば、上述した含有量でSiを含有し、Al比率が、0.45以上である軟磁性粉末に対して、窒化処理を行うことにより、ピーク面積比Sal/Sfeが4%以上となるように、軟磁性粉末の表面に窒化アルミニウム層を形成することができる。
【0027】
ここで、軟磁性粉末のAl比率が、0.45未満である場合には、窒化処理工程において、軟磁性粉末の表面に窒化アルミニウム層が形成されない。また、Siの含有量が、3.0質量%を超えた場合には、ピーク面積比Sal/Sfe≧4%の関係を満たす軟磁性粉末を製造することが難しい。なお、上述したように、Siの含有量が、1.0質量%未満である場合には、製造された圧粉磁心の鉄損が増加してしまう。
【0028】
窒化処理された軟磁性粉末に低融点ガラス皮膜を形成して、圧粉磁心用粉末を製造し、圧粉磁心用粉末から圧粉磁心を成形後、これを焼鈍する。焼鈍時には、低融点ガラスが軟化するので、圧粉磁心の軟磁性粒同士の間に低融点ガラス層を形成することができる。特に、圧粉磁心用粉末は、ピーク面積比Sal/Sfe≧4%の関係を満たすので、圧粉磁心用粉末から成形された圧粉磁心の窒化アルミニウム層に対する低融点ガラス層の濡れ性および馴染み性を向上させ、圧粉磁心の強度を高めることができる。
【0029】
さらに好ましい態様としては、前記窒化処理工程において、800℃以上、0.5時間以上で前記軟磁性粉末を加熱する。これにより、ピーク面積比Sal/Sfeを満たす軟磁性粉末を簡単に得ることができる。
【0030】
また、このような圧粉磁心をコアとし、該コアにコイルを巻いてリアクトルとすることが好ましい。このようなリアクトルは、コイルに小電流から大電流まで通電したとしても、インダクタンスが維持されるので、コアを分割することなく、または、分割したとしてもこれらのギャップを小さくすることができる。このような結果、漏れ磁束によるコイル渦損をなくすまたは低減することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、圧粉磁心の鉄損と強度低下を抑えつつ、圧粉磁心に印加される磁場が、高磁場(40kA/m程度)であったとしても、インダクタンスの低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の実施形態に係る圧粉磁心(圧粉磁心)の製造方法を説明するための模式図であり、(a)は、軟磁性粉末を示した図であり、(b)は、窒化処理された軟磁性粉末を示した図であり、(c)は、圧粉磁心用粉末を示した図であり、(d)は、成形体の軟磁性粒の状態を示した図である。
図2】(a)は、軟磁性粉末をXRD分析したときの波形であり、(b)は、AlNに由来したピーク波形であり、(c)は、Feに由来したピーク波形である。
図3】従来の圧粉磁心(圧粉磁心)の製造方法を説明するための模式図であり、(a)は、軟磁性粉末を示した図であり、(b)は、圧粉磁心用粉末を示した図であり、(c)は、成形体の軟磁性粒の状態を示した図である。
図4】(a)従来品1とこれに樹脂を増加した従来品2の印加磁場と磁束密度の関係を示した図であり、(b)は、従来品1と実施品との印加磁場と磁束密度の関係を示した図である。
図5】実施例3および比較例1〜3に係る圧粉磁心のB−H線図である。
図6】実施例1〜4および比較例1〜3に係る圧粉磁心のμ’L/μ’Hと印加磁場60kA/mにおける磁束密度Bの関係を示した図である。
図7】実施例1〜4および比較例4〜6に係る軟磁性粉末のSi含有量と、圧粉磁心の鉄損の関係を示した図である。
図8】実施例1〜4および比較例4〜6に係る軟磁性粉末のSi含有量と、圧粉磁心の強度の関係を示した図である。
図9】実施例1〜4および比較例4〜6に係る窒化処理後の軟磁性粉末のピーク面積比と、窒化アルミニウム層の厚みの関係を示した図である。
図10】(a)は、実施例1〜4および比較例4〜6に係る軟磁性粉末のSi含有量と、窒化処理後の軟磁性粉末のピーク面積比との関係を示した図であり、(b)は、実施例1〜4および比較例4〜6に係る軟磁性粉末のSi含有量と、窒化処理後の軟磁性粉末の窒化アルミニウム層の厚みの関係を示した図である。
図11】実施例1〜4および比較例4〜6に係る窒化処理後の軟磁性粉末のピーク面積比と、圧粉磁心の強度の関係を示した図である。
図12】実施例1〜4および比較例4〜6に係る窒化処理後の軟磁性粉末のピーク面積比と、圧粉磁心のμ’L/μ’Hの関係を示した図である。
図13】(a)は、従来のリアクトルの模式図であり、(b)は、要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、図面を参照して、本発明に係る圧粉磁心用粉末、圧粉磁心、およびその製造方法の一実施形態に基づいて説明する。
【0034】
1.圧粉磁心用粉末およびその製造方法について
1−1.軟磁性粉末11’について
図1(a)に示す軟磁性粉末11’は、Fe−Si−Al合金(鉄合金)からなる軟磁性粉末(粒子)であり、集合体として用いられる。この軟磁性粉末11’は、圧粉磁心用粉末(粒子)1を製造する際に、窒化処理される(図1(b)参照)。
【0035】
軟磁性粉末11’は、その全体(全粉末)に対して(軟磁性粉末11’全体を100質量%として)、1.0〜3.0質量%の範囲でSiを含有している。Siの含有量が、1.0質量%未満である場合には、結晶磁気異方性の悪化により、圧粉磁心1Aの鉄損が増加してしまう。一方、Siの含有量が、3.0質量%を超えた場合には、後述する窒化処理時に、所望の層厚さの窒化アルミニウム層12が形成され難い。
【0036】
さらに、軟磁性粉末11’は、AlとSiの合計含有量に対するAl含有量の質量割合であるAl比率(Al/Al+Si)が、0.45以上である。ここで、Al比率が、0.45未満である場合には、後述する発明者らの実験からも明らかなように、窒化処理による窒化アルミニウム層12が形成され難くなる。なお、磁気特性を考慮すると、Al比率の上限値は、1以下であることが好ましく、より好ましくは、0.9以下である。さらに、AlとSiの合計含有量は、Fe−Si−Al合金(鉄合金)の全体を100質量%としたときに、10質量%以下であることが好ましい。
【0037】
軟磁性粉末(粒子)11’の粒径(メディアン径D50)は、特に限定されないが、通常、30〜80μmであることが好ましい。粒径が30μm未満である場合には、圧粉磁心1Aのヒステリシス損失の増加を招き、生産性が損なわれることがある。さらに、粒径が80μmを超えると、圧粉磁心1Aの渦電流損失の増加と、圧粉磁心1Aの強度低下を招くことがある。
【0038】
軟磁性粉末11’には、水アトマイズ粉末、ガスアトマイズ粉末、または粉砕粉末等を挙げることができ、圧粉成形時における窒化アルミニウム層12の破壊の抑制を考慮した場合、軟磁性粉末11’の表面に凹凸の少ない粉末を選定することがより好ましい。
【0039】
1−2.窒化アルミニウム層12の形成(窒化処理)について
図1(a)に示す、軟磁性粉末11’に対して窒化処理を行うことにより、軟磁性粉末11’の表面に窒化アルミニウム層(AlN)12を形成する。これにより、図1(b)に示すように、Fe−Si−Al合金からなる母材13の表面に窒化アルミニウム層12が形成された軟磁性粉末11を得ることができる。
【0040】
ここで、上述した如く、軟磁性粉末11’のSiの含有量を3質量%以下に制限したことにより、窒化処理時の鉄合金のα相の安定化を抑えることができる。α相が安定するとNの固溶拡散が小さくなるため、所望の層厚さの窒化アルミニウム層12を形成することができなくなる。
【0041】
窒化処理は、窒素ガス雰囲気中において、800℃〜1200℃の範囲で加熱することが好ましく、加熱時間は、たとえば、0.5〜10時間程度であることが好ましい。本実施形態では、以下に示すピーク面積比Sal/Sfeの関係を満たすように、窒素ガスのガス濃度、加熱温度、加熱時間等を調整して、軟磁性粉末11’の窒化処理を行う。
【0042】
具体的には、窒化処理された軟磁性粉末11をXRD分析したときに、図2(a)に示す波形を得ることができる。得られた波形から、図2(b)および(c)に示すように、AlNに由来したピーク波形の面積Salを算出し、Feに由来したピーク波形の面積Sfeを算出し、ピーク面積比Sal/Sfeを算出する。
【0043】
具体的には、XRD分析では、AlNに由来したピーク波形は、測定角度2θ=35〜37°の範囲にあり、この範囲におけるピーク波形の面積Salを算出する。一方、Feに由来したピーク波形は、測定角度2θ=43〜46°の範囲にあり、この範囲におけるピーク波形の面積Sfeを算出する。
【0044】
本実施形態では、窒化処理された軟磁性粉末11は、Feに由来したピーク波形の面積Sfeに対する、AlNに由来したピーク波形の面積Salの比であるピーク面積比Sal/Sfeが4%以上の関係を満たす。この関係は、後述する低融点ガラス皮膜を形成した圧粉磁心用粉末においても、同じである。なお、ピーク面積比Sal/Sfeの大きさは、後述するオージェ分光分析(AES)により求めた軟磁性粉末11に形成された窒化アルミニウム層12の膜厚と、略正比例関係にある。ピーク面積比Sal/Sfeが4%以上は、窒化アルミニウム層の厚さ580nm以上に相当する。
【0045】
本実施形態では、ピーク面積比Sal/Sfeが4%以上の関係を満たすことにより、軟磁性粉末11の表層に窒化アルミニウム層12が均一に形成されることになる。これにより、後述する低融点ガラス皮膜14との濡れ性および馴染み性が向上し、圧粉磁心1Aの強度が向上すると考えられる。また、窒化アルミニウム層12の形成により、母材13中のアルミニウムが減少するため、母材13の塑性変形能の向上による圧粉成形性が高まり、密度の高い(すなわち、強度の高い)圧粉磁心1Aを得ることができる。
【0046】
1−3.低融点ガラス皮膜14の形成について
次に、窒化処理された軟磁性粉末11に、前記圧粉磁心を焼鈍する際の焼鈍温度よりも低い軟化点温度を有する低融点ガラスを添加し、軟磁性粉末11の表面に低融点ガラス皮膜14を被覆する。これにより、圧粉磁心用粉末1を製造することができる。
【0047】
ここで、低融点ガラスは、例えば、珪酸塩系ガラス、硼酸塩系ガラス、ビスマス珪酸塩系ガラス、硼珪酸塩系ガラス、酸化バナジウム系ガラス、または、リン酸系ガラスなどを挙げることができる。これらの低融点ガラスは、圧粉磁心1Aを焼鈍する際の軟磁性粉末(軟磁性粒)の焼鈍温度よりも低い軟化点温度を有する。
【0048】
珪酸塩系ガラスには、例えば、SiO−ZnO、SiO−LiO、SiO−NaO、SiO−CaO、SiO−MgO、SiO−Al等を主成分とするものがある。ビスマス珪酸塩系ガラスには、例えば、SiO−Bi−ZnO、SiO−Bi−LiO、SiO−Bi−NaO、SiO−Bi−CaO等を主成分とするものがある。硼酸塩系ガラスには、例えば、B−ZnO、B−LiO、B−NaO、B−CaO、B−MgO、B−Al等を主成分とするものがある。硼珪酸塩系ガラスには、例えば、SiO−B−ZnO、SiO−B−LiO、SiO−B−NaO、SiO−B−CaO等を主成分とするものがある。酸化バナジウム系ガラスには、例えば、V−B、V−B−SiO、V−P、V−B−P等を主成分とするものがある。リン酸系ガラスには、例えば、P−LiO、P−NaO、P−CaO、P−MgO、P−Al等を主成分とするものがある。
【0049】
低融点ガラスは、圧粉磁心用粉末1の全体(集合体)または圧粉磁心1A全体を100質量%としたときに、0.05〜5.0質量%含有されていることが好ましい。低融点ガラスの含有量が0.05質量%未満である場合には、十分な低融点ガラス皮膜14が形成されず、高比抵抗で高強度な圧粉磁心1Aを得ることができないことがある。一方、低融点ガラスの含有量が5.0質量%を超えた場合には、圧粉磁心1Aの磁気特性が低下し得ることがある。
【0050】
ここで、低融点ガラス皮膜14は、軟磁性粉末(粒子)11よりも粒径の小さい微粒子として軟磁性粉末11の表面に付着した層であってもよく、軟磁性粉末11の表面に連続的に付着した層であってもよい。例えば、低融点ガラス皮膜14を形成する際には、低融点ガラスからなる微粒子の粉末と軟磁性粉末11とを分散媒中で混合してこれを乾燥してもよく、加熱により軟化した低融点ガラスを軟磁性粉末(粒子)11に付着させてもよい。また、低融点ガラスからなる微粒子の粉末と軟磁性粉末11とを、PVAまたはPVBなどの結合剤(バインダー)により結合してもよい。
【0051】
2.圧粉磁心1Aの製造方法について
得らえた、圧粉磁心用粉末1を圧粉成形して、圧粉磁心1Aを製造し、これを熱処理により焼鈍する。本実施形態では、圧粉磁心用粉末1の集合体から圧粉磁心1Aを、例えば一般的に知られた温間金型潤滑成形法により成形してもよい。
【0052】
成形後の圧粉磁心1Aは、例えば、600℃以上の焼鈍温度で焼鈍される。これにより、圧粉磁心中の軟磁性粒11Aに導入された残留ひずみおよび残留応力を除去し、圧粉磁心1Aの保持力またはヒステリシス損失を低減することができる。さらに本実施形態では、この焼鈍時に、低融点ガラスが軟化するため、軟磁性粒11A間に、低融点ガラス層14Aを介在させることができる。本実施形態では、上述したピーク面積比Sal/Sfeが4%以上であるので、軟磁性粒11Aの窒化アルミニウム層12Aに対する低融点ガラス層14Aの濡れ性および馴染み性が向上し、圧粉磁心の強度を高めることができる。
【0053】
3.圧粉磁心1Aについて
得らえた圧粉磁心1Aは、図1(d)に示すように、Fe−Si−Al合金からなる母材13Aの表層に窒化アルミニウム層12Aが形成された軟磁性粒11Aと、軟磁性粒11A,11A同士の間に形成された低融点ガラス層14Aと、を備えている。ここで、圧粉磁心1Aは、第1の微分比透磁率μ’Lと第2の微分比透磁率μ’Hとの比が、μ’L/μ’H≦6の関係を満たし、印加磁場60kA/mにおける磁束密度が1.4T以上である。
【0054】
また、上述した製造方法からも明らかなように、軟磁性粒11Aは、1.0〜3.0質量%の範囲でSiを含有しており、圧粉磁心1Aは、圧粉磁心1AをXRD分析したときに、Feに由来したピーク波形の面積Sfeに対する、AlNに由来したピーク波形の面積Salの比であるピーク面積比Sal/Sfeが4%以上の関係を満たす。
【0055】
なお、圧粉磁心用粉末1には、窒化アルミニウム層が形成されているので、上述した成形条件および焼鈍条件を適切に設定することにより、圧粉磁心1Aは、上述したμ’L/μ’H≦6の関係を満たし、磁束密度を前記範囲とすることができる。
【0056】
すなわち、図1(d)に示すように、母材13Aよりも硬質である窒化アルミニウム層12Aを設けたことにより、3つの軟磁性粒11Aの母材13A同士の境界部(3重点)に、窒化アルミニウムが偏在し難い。これにより、成形後の軟磁性粒11A同士の間の距離を確保し、これらの間には窒化アルミニウム層12Aの材料である非磁性材料が保持されることになる。
【0057】
これまでは、図3(a),(b)に示すように、軟磁性粉末81の表面に、シリコーン樹脂などの軟質の樹脂皮膜82を被覆した、圧粉磁心用粉末83の集合体から、図3(c)に示す圧粉磁心8を製造していた。
【0058】
ここで、圧粉磁心(リアクトル)のインダクタンスLは、L=n・S・μ’(ただし、n:コイル巻き数、S:コイルに巻かれた部分の圧粉磁心の断面積、μ’:微分比透磁率)で表せる。高磁場で、圧粉磁心のインダクタンスLの特性を維持するためには、高磁場において微分比透磁率の低下を抑えることが重要である。
【0059】
しかしながら、図3(c)に示す圧粉磁心8に対して、低磁場から高磁場まで磁場を印加した場合、高磁場(磁場40kA/mを超えた磁場)では、磁束密度が飽和磁束密度に近づき、微分比透磁率は小さくなり、好ましくない(図4(a)の従来品1参照)。
【0060】
そこで、図3(c)に示す樹脂皮膜82の膜厚を増加させた(樹脂の割合を増加させた)場合、非磁性成分である樹脂の含有量が増加することにより、図4(b)の従来品2の如く、低磁場の微分比透磁率を低下させることができる。これにより、低磁場から高磁場まで磁場を印加した場合であっても、圧粉磁心のインダクタンスLの変動を抑えることができる。しかしながら、このような樹脂の増加は、高磁場における圧粉磁心8の飽和磁束密度をも低下させてしまう。
【0061】
これは、図3(c)に示すように、圧粉磁心用粉末80を用いて成形体を成形した場合、3つの圧粉磁心用粉末の軟磁性粉末81同士の境界部84等に、樹脂皮膜82を構成する樹脂が過剰に偏在したことが、その要因と考えられる。
【0062】
この点を鑑みると、従来品1(コア)に対して、図13(a)に示すようなギャップ93を設けることにより、図4(b)の従来品1(ギャップあり)に示すように、低磁場における磁束密度を低減し、高磁場における微分比透磁率の低下を低減することも考えられる。しかしながら、このようなギャップ93を設けた場合には、図13(b)に示すようにギャップ93からの磁束Tの漏れが増大し、この漏れ磁束がコイル95A,95Bに鎖交することによりコイル渦損が発生してしまう。
【0063】
そこで、本実施形態では、図1(d)に示すように、軟磁性粒11Aの表層に、母材13Aよりも硬質の窒化アルミニウム層12Aを設けた。これにより、成形後の軟磁性粒11A、11Aの間の距離を確保し、これらの間には窒化アルミニウム層12Aの材料である非磁性材料が保持されることになる。
【0064】
このようにして得られた圧粉磁心1Aは、印加磁場1kA/mにおける微分比透磁率を第1の微分比透磁率μ’Lとし、印加磁場40kA/mにおける微分比透磁率を第2の微分比透磁率μ’Hとしたときに、第1の微分比透磁率μ’Lと第2の微分比透磁率μ’Hとの比が、μ’L/μ’H≦6の関係を満たし、印加磁場60kA/mにおける磁束密度が1.4T以上となる。
【0065】
これにより、図4(b)の実施品に示すように、低磁場(1kA/m)から高磁場(40kA/m)まで圧粉磁心に磁場を印加しても、高磁場における微分比透磁率の低下を抑えることができる。これにより、印加した磁場の領域において圧粉磁心(リアクトル)のインダクタンスを維持することができる。このようにして本実施形態では、図13(a)に示す如く、分割したコア92A,92B同士のギャップ93をこれまでの如く大きく設けなくてもよいので、リアクトルの漏れ磁束の発生を抑えることができる。
【0066】
さらに、圧粉磁心1Aの軟磁性粒11Aは、1.0〜3.0質量%の範囲でSiを含有しているため、後述する発明者らの実験からも明らかなように、圧粉磁心1Aの強度を確保しつつ、圧粉磁心1Aの鉄損を低減することができる。すなわち、Siの含有量が1.0質量%未満である場合には、圧粉磁心1Aの鉄損が大きくなる。一方、Siの含有量が3.0質量%を超えた場合には、圧粉磁心用粉末1の製造過程において、窒化アルミニウム層12Aが十分に形成されない(層厚みが薄くなり断続的な層となる)。このため、低融点ガラス層14Aと窒化アルミニウム層12Aとの馴染み性が十分に図れず、圧粉磁心1Aの強度が低下してしまう。
【0067】
また、軟磁性粒11Aは、軟磁性粒11AをXRD分析したときに、Feに由来したピーク波形の面積Sfeに対する、AlNに由来したピーク波形の面積Salの比であるピーク面積比Sal/Sfeが4%以上の関係を満たす。これにより、窒化アルミニウム層12Aが十分な層厚みを有するため、低融点ガラス層14Aと窒化アルミニウム層12Aとの馴染み性が十分に図れ、圧粉磁心1Aの強度を確保することができる。
【実施例】
【0068】
以下の本発明を実施例に基づいて説明する。
(実施例1)
<圧粉磁心用粉末の作製>
軟磁性粉末に、FeにSiを1.50質量%、Alを3.55質量%含有した鉄−シリコン−アルミニウム合金(Fe−1.50Si−3.55Al)からなる水アトマイズ粉末(最大粒度:180μm、45μm以下の割合が30質量%(JIS−Z8801に規定する試験用篩い用いて測定))を準備した。なお、軟磁性粉末において、AlとSiの合計含有量に対するAl含有量の割合であるAl比率が、質量%で0.70である。
【0069】
次に、窒素ガス圧力110KPaの窒素ガス雰囲気下(窒素ガス100体積%)で、1100℃、5時間加熱し、軟磁性粉末の窒化処理を行った。これにより、軟磁性粉末の表面に、絶縁層として窒化アルミニウム層を形成した。なお、窒化処理された軟磁性粉末の集合体を、これをXRD分析したときに、Feに由来したピーク波形の面積Sfeに対する、AlNに由来したピーク波形の面積Salの比であるピーク面積比Sal/Sfeが7.8%であり、これは、オージェ分光分析(AES)により測定した層厚さ917nmに相当する。また、窒素の含有量は、圧粉磁心用粉末に対して0.6質量%であった。
【0070】
なお、XRD分析では、管球:Cu、管電圧:50kV、管電流:300mA、測定法:FT法(ステップスキャン法)、ステップ角:0.004℃、送り速度:1秒/ステップの上限で行った。また、オージェ分光分析(AES)では、加速電圧:10kV、照射電流:10nA、試料傾斜角度:30°、層厚さの測定(膜厚測定):SiO換算で、行った。
【0071】
<リング試験片(圧粉磁心)の作製>
次に、圧粉磁心を焼鈍する際の焼鈍温度(750℃)よりも低い軟化点温度を有する低融点ガラスとして、SiO−B−ZnO系の低融点ガラス(軟化点590℃)を準備し、窒化処理した圧粉磁心用粉末に対して、1.0質量%添加して、混合し、金型に投入した。
【0072】
圧粉磁心用粉末を金型に投入し、金型温度130℃、成形圧力10t/cmの条件で、金型潤滑温間成形法により、外径39mm、内径30mm、厚さ5mmのリング形状の圧粉成形体を作製した。成形された圧粉成形体を、窒素雰囲気下で、750℃の範囲で30分の焼鈍(焼結)を行なった。これによりリング試験片(圧粉磁心)を作製した。
【0073】
(実施例2)
実施例1と同じようにして、リング試験片(圧粉磁心)を作製した。実施例1と相違する点は、表1に示すように、軟磁性粉末に、FeにSiを1.78質量%、Alを3.65質量%含有した鉄−シリコン−アルミニウム合金(Fe−1.78Si−3.65Al)からなる水アトマイズ粉末を用いた点である。したがって、この軟磁性粉末のAl比率は、0.67である。
【0074】
また、窒化処理された圧粉磁心用粉末は、XRD分析によるピーク面積比Sal/Sfeが5.6%であり、これは、層厚さ923nmに相当する。また、窒素の含有量は、圧粉磁心用粉末に対して0.6質量%であった。
【0075】
(実施例3)
実施例1と同じようにして、リング試験片(圧粉磁心)を作製した。実施例1と相違する点は、表1に示すように、軟磁性粉末に、FeにSiを2.08質量%、Alを3.21質量%含有した鉄−シリコン−アルミニウム合金(Fe−2.08Si−3.21Al)からなる水アトマイズ粉末を用いた点である。したがって、この軟磁性粉末のAl比率は、0.61である。
【0076】
また、窒化処理された圧粉磁心用粉末は、XRD分析によるピーク面積比Sal/Sfeが6.2%であり、これは、層厚さ801nmに相当する。また、窒素の含有量は、圧粉磁心用粉末に対して0.6質量%であった。
【0077】
(実施例4)
実施例1と同じようにして、リング試験片(圧粉磁心)を作製した。実施例1と相違する点は、表1に示すように、軟磁性粉末に、FeにSiを2.80質量%、Alを3.49質量%含有した鉄−シリコン−アルミニウム合金(Fe−2.80Si−3.49Al)からなる水アトマイズ粉末を用いた点である。したがって、この軟磁性粉末のAl比率は、0.55である。
【0078】
また、窒化処理された圧粉磁心用粉末は、XRD分析によるピーク面積比Sal/Sfeが4.2%であり、これは、層厚さ580nmに相当する。また、窒素の含有量は、圧粉磁心用粉末に対して0.5質量%であった。
【0079】
(比較例1)
実施例1と同じように、リング試験片(圧粉磁心)を作製した。実施例1と相違する点は、軟磁性粉末として、軟磁性粉末にFeにSiを3質量%含有した鉄−シリコン(Fe−3.00Si)を用い、この粉末に対して、窒化処理は行わず、0.5質量%のシリコーン樹脂を添加して、成膜温度130℃、成膜時間130分の条件で、シリコーン樹脂を軟磁性粉末に被覆した圧粉磁心用粉末を用いた点である。
【0080】
(比較例2)
実施例1と同じように、リング試験片(圧粉磁心)を作製した。実施例1と相違する点は、軟磁性粉末として、軟磁性粉末にFeにSiを3質量%含有した鉄−シリコン(Fe−3.00Si)を用い、この粉末に対して、窒化処理は行わず、2.5質量%のシリコーン樹脂を添加して、成膜温度130℃、成膜時間130分の条件で、シリコーン樹脂を軟磁性粉末に被覆した圧粉磁心用粉末を用いた点である。
【0081】
(比較例3)
比較例3では、表1に示すように、軟磁性粒子を構成する軟磁性粉末に、FeにSiを3.00質量%含有した鉄−シリコン合金(Fe−3.00Si)からなる軟磁性粉末を準備し、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂を70体積%含有するように、軟磁性粉末とPPS樹脂を混練し、実施例1と同じ大きさおよび形状に射出成形し、リング試験片を作製した。
【0082】
(比較例4)
実施例1と同じようにして、リング試験片(圧粉磁心)を作製した。実施例1と相違する点は、表1に示すように、軟磁性粉末に、FeにSiを0.55質量%、Alを3.45質量%含有した鉄−シリコン−アルミニウム合金(Fe−0.55Si−3.45Al)からなる水アトマイズ粉末を用いた点である。したがって、この軟磁性粉末のAl比率は、0.86である。
【0083】
また、窒化処理された圧粉磁心用粉末は、XRD分析によるピーク面積比Sal/Sfeが13.0%であり、これは、層厚さ1283nmに相当する。また、窒素の含有量は、圧粉磁心用粉末に対して1.1質量%であった。
【0084】
(比較例5)
実施例1と同じようにして、リング試験片(圧粉磁心)を作製した。実施例1と相違する点は、表1に示すように、軟磁性粉末に、FeにSiを3.15質量%、Alを3.49質量%含有した鉄−シリコン−アルミニウム合金(Fe−3.15Si−3.49Al)からなる水アトマイズ粉末を用いた点である。したがって、この軟磁性粉末のAl比率は、0.53である。
【0085】
また、窒化処理された圧粉磁心用粉末は、XRD分析によるピーク面積比Sal/Sfeが2.3%であり、これは、層厚さ280nmに相当する。また、窒素の含有量は、圧粉磁心用粉末に対して0.4質量%であった。
【0086】
(比較例6)
実施例1と同じようにして、リング試験片(圧粉磁心)を作製した。実施例1と相違する点は、表1に示すように、軟磁性粉末に、FeにSiを4.11質量%、Alを3.50質量%含有した鉄−シリコン−アルミニウム合金(Fe−4.11Si−3.50Al)からなる水アトマイズ粉末を用いた点である。したがって、この軟磁性粉末のAl比率は、0.46である。
【0087】
また、窒化処理された圧粉磁心用粉末は、XRD分析によるピーク面積比Sal/Sfeが3.4%であり、これは、層厚さ280nmに相当する。また、窒素の含有量は、圧粉磁心用粉末に対して0.4質量%であった。
【0088】
(比較例7)
実施例1と同じようにして、リング試験片(圧粉磁心)を作製した。実施例1と相違する点は、表1に示すように、軟磁性粉末に、FeにSiを3.00質量%、Alを3.50質量%含有した鉄−シリコン−アルミニウム合金(Fe−3.00Si−3.50Al)からなる水アトマイズ粉末を用いた点である。したがって、この軟磁性粉末のAl比率は、0.54である。さらに、比較例7では、低融点ガラスを添加せずに、実施例1と同じ条件で圧粉磁心を成形した。
【0089】
(比較例8)
実施例1と同じようにして、リング試験片(圧粉磁心)を作製しようとした。実施例1と相違する点として、表1に示すように、軟磁性粉末に、FeにSiを6.00質量%、Alを1.60質量%含有した鉄−シリコン−アルミニウム合金(Fe−6.00Si−1.60Al)からなる水アトマイズ粉末を用いた点である。ここで、実施例1と同じように、軟磁性粉末に対して窒化処理を行ったが、その表面に、窒化アルミニウム層が形成されなかった。したがって、比較例8は、この時点で、試験を終了し、圧粉磁心を作製しなかった。
【0090】
【表1】
【0091】
<リング試験片の密度>
実施例1〜4および比較例1〜7に係るリング試験片の質量を測定し、測定した質量と、リング試験片の体積から、リング試験片の密度を測定した。この結果を表2に示す。
【0092】
<μ’L/μ’Hと磁束密度の測定>
作製した実施例1〜4及び比較例1〜6の各リング試験片に巻き数励磁側450ターン、検出側90ターンでコイルを巻き、コイルに電流を通電することにより、直流磁気磁束計で、0〜60kA/mまで線形的に磁場が増加するように磁場を印加したときの磁束密度を測定した。
【0093】
得られた印加磁場と磁束密度のグラフ(B−H線図)から、印加磁場1kA/mにおける第1の微分比透磁率μ’L、印加磁場40kA/mにおける第2の微分比透磁率μ’Hを算出し、これらからμ’L/μ’Hを算出した。μ’L/μ’Hの結果を、表2に示す。また、実施例1〜4および比較例1〜6に係るリング試験片に対して、印加磁場H=60kA/mにおける磁束密度も測定した。この結果を表2に示す。
【0094】
なお、第1の微分比透磁率μ’Lは、図4(b)に示す如きB−H曲線において、印加磁場1kA/mを挟んで、印加磁場1kA/m近傍の2点を結ぶ直線の勾配(ΔB/ΔH)を算出し、この勾配を真空透磁率で割ることにより算出した。第2の微分比透磁率μ’Hも同様に、図4(b)に示す如きB−H曲線において、印加磁場40kA/mを挟んで、印加磁場40kA/m近傍の2点を結ぶ直線の勾配(ΔB/ΔH)を算出し、この勾配を真空透磁率で割ることにより算出した。μ’L/μ’Hは、第1の微分比透磁率μ’L/第2の微分比透磁率μ’Hの値である。
【0095】
<強度の測定>
JISZ2507の「焼結軸受−圧環強さ試験方法」に準拠して、実施例1〜4および比較例1〜7に係るリング試験片のそれぞれの圧環強さを強度として測定した。この結果を表2に示す。
【0096】
<インダクタンスの測定>
さらに、実施例1〜4および比較例1〜7のリング試験片に検出用90ターン、巻線用90ターンの巻き線を施し、交流BHアナライザーにてI=10mAの条件で測定した。この結果を表2に示す。
【0097】
<鉄損の測定>
実施例1〜4および比較例1〜7に係るリング試験片にφ0.5mmの銅線を用いて、励磁用90ターンおよび検出用90ターンの巻き線を巻いた。交流BHアナライザーを用いて、0.1T、20kHzの鉄損を測定した。この結果を表2に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
[結果1:μ’L/μ’Hと磁束密度について]
図5および図6に示すように、実施例1〜4に係る圧粉磁心では、第1の微分比透磁率μ’Lと第2の微分比透磁率μ’Hとの比μ’L/μ’Hが、比較例1および2のものよりも明らかに小さく、6以下の値となった。すなわち、実施例1〜4の係る圧粉磁心は、比較例1、2のものに比べて、高磁場における微分比透磁率の低下が抑えられた圧粉磁心であるといえる。
【0100】
これは、以下に示す理由であると考えられる。実施例1〜4の圧粉磁心は、窒化アルミニウムからなる絶縁層を軟磁性粉末に形成した圧粉磁心用粉末を用いたので、比較例1および2の樹脂皮膜(絶縁皮膜)にシリコーン樹脂を用いたものに比べて、圧粉成形時に、絶縁層が流動し難い。これにより、実施例1〜4の圧粉磁心は、比較例1および2のものに比べて、軟磁性粒間の絶縁層(窒化アルミニウム層)が確保され、印加磁場が高磁場であっても微分比透磁率の低下が抑えられると考えられる。なお、図6には示していないが、表2からも明らかなように、比較例4〜6に係る圧粉磁心のμ’L/μ’Hも、同様の理由により比較例1および2のものよりも明らかに小さくなったと考えられる。
【0101】
図5および図6に示すように、実施例1〜4に係る圧粉磁心では、印加磁場60kA/mにおける磁束密度が、比較例3のものよりも明らかに大きく、1.4T以上の値となった。これは、比較例3に係る圧粉磁心は、樹脂の含有量が多いため、軟磁性粒間の距離が離れてしまい、これらの間に樹脂が存在するため、実施例1〜4よりも印加磁場60kA/mにおける磁束密度が小さくなったと考えられる。なお、図6には示していないが、表2からも明らかなように、比較例4〜6に係る圧粉磁心の印加磁場60kA/mにおける磁束密度も、同様の理由により比較例3のものよりも明らかに大きくなったと考えられる。
【0102】
[結果2:Siの含有量について]
図7は、実施例1〜4および比較例4〜6に係る軟磁性粉末のSi含有量と、圧粉磁心の鉄損の関係を示した図である。図7に示すように、実施例1〜4および比較例5、6に係る圧粉磁心は、比較例4のものに比べて、鉄損が小さかった。これは、比較例4では、軟磁性粉末(軟磁性粒)に含まれるSiの含有量が過少であることが起因すると考えられ、母材の結晶磁気異方性が悪化したため、鉄損が悪化したと考えられる。このことから、圧粉磁心の製造時に軟磁性粉末に含まれるSiおよび圧粉磁心の軟磁性粒に含まれるSiの含有量は、1.0質量%以上であれは、圧粉磁心の鉄損の増加は、抑えられると考えられる。
【0103】
図8は、実施例1〜4および比較例4〜6に係る軟磁性粉末のSi含有量と、圧粉磁心の強度の関係を示した図である。図8に示すように、実施例1〜4および比較例4に係る圧粉磁心の強度は、比較例5および6のものに比べて大きく、60MPaを超えていた。これは、比較例5および6に係る軟磁性粉末に含まれるSiの含有量が過多であることが起因すると考えられる。このことから、圧粉磁心の製造時に軟磁性粉末に含まれるSiの含有量は、3.0質量%以下であれば、圧粉磁心の強度の低下は、抑えられると考えられる。なお、より詳細な理由は、ピーク面積比(窒化アルミニウム層の厚さ)と共に後述する。
【0104】
[結果3:ピーク面積比Sal/Sfeについて]
図9は、実施例1〜4および比較例4〜6に係る窒化処理後の軟磁性粉末のピーク面積比と、窒化アルミニウム層の厚みの関係を示した図である。図9から明らかなように、窒化処理後の軟磁性粉末のピーク面積比と、軟磁性粉末に形成された窒化アルミニウム層の厚みとは、線形的な比例関係にあることがわかった。
【0105】
なお、窒化処理後の軟磁性粉末から製造された圧粉磁心用粉末および圧粉磁心においても、窒化処理後の軟磁性粉末の母材のFeと窒化アルミニウム層とは、ほとんど変化なく存在する。したがって、圧粉磁心をXRD分析したときのFeに由来したピーク波形の面積Sfeに対する、AlNに由来したピーク波形の面積Salの比であるピーク面積比Sal/Sfeは、窒化処理後の軟磁性粉末のピーク面積比と相違ないと考えられる。
【0106】
図10(a)は、実施例1〜4および比較例4〜6に係る軟磁性粉末のSi含有量と、窒化処理後の軟磁性粉末のピーク面積比との関係を示した図であり、図10(b)は、実施例1〜4および比較例4〜6に係る軟磁性粉末のSi含有量と、窒化処理後の軟磁性粉末の窒化アルミニウム層の厚みの関係を示した図である。
【0107】
図10(a)および図10(b)に示すように、実施例1〜4および比較例4に係る軟磁性粉末は、比較例5および6のものに比べて、窒化処理後の軟磁性粉末のピーク面積比および窒化処理後の軟磁性粉末の窒化アルミニウム層の厚みは大きかった。軟磁性粉末のSiの含有量が、3.0質量%以下であれば、実施例1〜4および比較例4の如く、安定した窒化アルミニウム層が、形成されると考えられる。
【0108】
図11は、実施例1〜4および比較例4〜6に係る窒化処理後の軟磁性粉末のピーク面積比と、圧粉磁心の強度の関係を示した図である。図11に示すように、実施例1〜4および比較例4に係る圧粉磁心の強度は、比較例5および6のものに比べて大きく、60MPaを超えていた。これは、実施例1〜4および比較例4に係る窒化処理後の軟磁性粉末および圧粉磁心のピーク面積比が、比較例5および6のものに比べて大きい、すなわち、窒化アルミニウム層の層厚みが、大きいことが起因すると考えられる。
【0109】
このことから、窒化処理後の軟磁性粉末および圧粉磁心のピーク面積比は、4%以上、換言すると、窒化アルミニウム層の厚みが580nm以上であれば、圧粉磁心の強度が確保されると考えられる。すなわち、この条件を満たすことにより、安定して形成された窒化アルミニウム層に対して、低融点ガラスの濡れ性および馴染み性が十分に確保され、圧粉磁心の強度を確保することができたと考えられる。
【0110】
そして、上述した図8および図10(a),(b)に示すように、製造時において、軟磁性粉末に含有するSiの含有量が、3.0質量%以下であれば、ピーク面積比(窒化アルミニウム層の厚み)が上述した範囲を満たし、圧粉磁心の強度が確保されると言える。
【0111】
図12は、実施例1〜4および比較例4〜6に係る窒化処理後の軟磁性粉末のピーク面積比と、圧粉磁心のμ’L/μ’Hの関係を示した図である。図12に示すように、窒化処理後の軟磁性粉末および圧粉磁心のピーク面積比は、4%以上、換言すると、窒化アルミニウム層の厚みが580nm以上であれば、圧粉磁心のμ’L/μ’Hもさらに低減できると考えられる。
【0112】
[結果4:低融点ガラスの効果について]
表2に示すように、比較例7に係る圧粉磁心の強度は、実施例1〜4のものよりも、低くなった。これは、比較例7は、低融点ガラスを用いずに、軟磁性粉末を圧粉成形したことによると考えらえる。
【0113】
[結果5:Al比率について]
表1に示すように、比較例8では、軟磁性粉末の表面に、窒化アルミニウム層が形成されていなかった。これは、比較例8では、軟磁性粉末のAl比率が、実施例1〜4のものよりも低いことに起因していると考えられる。そして、軟磁性粉末のAl比率が、0.45以上、好ましくは、実施例4の如く0.55以上であれば、窒化処理により、軟磁性粉末の表面に、窒化アルミニウム層が形成されると推定される。
【0114】
<確認試験(解析)>
上述した、実施例3、4および比較例1〜3において測定したB−H線図で得られたデータを用いて、図13(a)に示すリアクトルのモデルを想定し、リアクトルのインダクタンスが一定となるように、コア(圧粉磁心)の体格、ギャップ長さ、損失を算出した。損失はリアクトルアッシーとしての損失であり、具体的には、鉄損(コア損)コイル直流損(ジュール損)およびコイル渦損も含む。この結果を以下の表3に示す。なお、表3では、比較例1に相当するリアクトルの体格、コイルターン数、インダクタンス、損失を、基準値100として、他の値を示している。
【0115】
【表3】
【0116】
この結果から、比較例1および2に係るリアクトルは、実施例3および4のものよりも、損失が大きかった。一方、比較例3に係るリアクトルは、実施例3および4のものよりも、損失が小さかったが、実施例3および4よりも磁束密度が低いため、比較例3に係るコア体格は、実施例3および4のものに対して1.6倍となった。
【0117】
以上、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0118】
1:圧粉磁心用粉末、1A:圧粉磁心、11:軟磁性粉末、11A:軟磁性粒、12,12A:窒化アルミニウム層、13,13A:母材、14:低融点ガラス皮膜、14A:低融点ガラス層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13