【実施例】
【0068】
以下の本発明を実施例に基づいて説明する。
(実施例1)
<圧粉磁心用粉末の作製>
軟磁性粉末に、FeにSiを1.50質量%、Alを3.55質量%含有した鉄−シリコン−アルミニウム合金(Fe−1.50Si−3.55Al)からなる水アトマイズ粉末(最大粒度:180μm、45μm以下の割合が30質量%(JIS−Z8801に規定する試験用篩い用いて測定))を準備した。なお、軟磁性粉末において、AlとSiの合計含有量に対するAl含有量の割合であるAl比率が、質量%で0.70である。
【0069】
次に、窒素ガス圧力110KPaの窒素ガス雰囲気下(窒素ガス100体積%)で、1100℃、5時間加熱し、軟磁性粉末の窒化処理を行った。これにより、軟磁性粉末の表面に、絶縁層として窒化アルミニウム層を形成した。なお、窒化処理された軟磁性粉末の集合体を、これをXRD分析したときに、Feに由来したピーク波形の面積Sfeに対する、AlNに由来したピーク波形の面積Salの比であるピーク面積比Sal/Sfeが7.8%であり、これは、オージェ分光分析(AES)により測定した層厚さ917nmに相当する。また、窒素の含有量は、圧粉磁心用粉末に対して0.6質量%であった。
【0070】
なお、XRD分析では、管球:Cu、管電圧:50kV、管電流:300mA、測定法:FT法(ステップスキャン法)、ステップ角:0.004℃、送り速度:1秒/ステップの上限で行った。また、オージェ分光分析(AES)では、加速電圧:10kV、照射電流:10nA、試料傾斜角度:30°、層厚さの測定(膜厚測定):SiO
2換算で、行った。
【0071】
<リング試験片(圧粉磁心)の作製>
次に、圧粉磁心を焼鈍する際の焼鈍温度(750℃)よりも低い軟化点温度を有する低融点ガラスとして、SiO
2−B
2O
3−ZnO系の低融点ガラス(軟化点590℃)を準備し、窒化処理した圧粉磁心用粉末に対して、1.0質量%添加して、混合し、金型に投入した。
【0072】
圧粉磁心用粉末を金型に投入し、金型温度130℃、成形圧力10t/cm
2の条件で、金型潤滑温間成形法により、外径39mm、内径30mm、厚さ5mmのリング形状の圧粉成形体を作製した。成形された圧粉成形体を、窒素雰囲気下で、750℃の範囲で30分の焼鈍(焼結)を行なった。これによりリング試験片(圧粉磁心)を作製した。
【0073】
(実施例2)
実施例1と同じようにして、リング試験片(圧粉磁心)を作製した。実施例1と相違する点は、表1に示すように、軟磁性粉末に、FeにSiを1.78質量%、Alを3.65質量%含有した鉄−シリコン−アルミニウム合金(Fe−1.78Si−3.65Al)からなる水アトマイズ粉末を用いた点である。したがって、この軟磁性粉末のAl比率は、0.67である。
【0074】
また、窒化処理された圧粉磁心用粉末は、XRD分析によるピーク面積比Sal/Sfeが5.6%であり、これは、層厚さ923nmに相当する。また、窒素の含有量は、圧粉磁心用粉末に対して0.6質量%であった。
【0075】
(実施例3)
実施例1と同じようにして、リング試験片(圧粉磁心)を作製した。実施例1と相違する点は、表1に示すように、軟磁性粉末に、FeにSiを2.08質量%、Alを3.21質量%含有した鉄−シリコン−アルミニウム合金(Fe−2.08Si−3.21Al)からなる水アトマイズ粉末を用いた点である。したがって、この軟磁性粉末のAl比率は、0.61である。
【0076】
また、窒化処理された圧粉磁心用粉末は、XRD分析によるピーク面積比Sal/Sfeが6.2%であり、これは、層厚さ801nmに相当する。また、窒素の含有量は、圧粉磁心用粉末に対して0.6質量%であった。
【0077】
(実施例4)
実施例1と同じようにして、リング試験片(圧粉磁心)を作製した。実施例1と相違する点は、表1に示すように、軟磁性粉末に、FeにSiを2.80質量%、Alを3.49質量%含有した鉄−シリコン−アルミニウム合金(Fe−2.80Si−3.49Al)からなる水アトマイズ粉末を用いた点である。したがって、この軟磁性粉末のAl比率は、0.55である。
【0078】
また、窒化処理された圧粉磁心用粉末は、XRD分析によるピーク面積比Sal/Sfeが4.2%であり、これは、層厚さ580nmに相当する。また、窒素の含有量は、圧粉磁心用粉末に対して0.5質量%であった。
【0079】
(比較例1)
実施例1と同じように、リング試験片(圧粉磁心)を作製した。実施例1と相違する点は、軟磁性粉末として、軟磁性粉末にFeにSiを3質量%含有した鉄−シリコン(Fe−3.00Si)を用い、この粉末に対して、窒化処理は行わず、0.5質量%のシリコーン樹脂を添加して、成膜温度130℃、成膜時間130分の条件で、シリコーン樹脂を軟磁性粉末に被覆した圧粉磁心用粉末を用いた点である。
【0080】
(比較例2)
実施例1と同じように、リング試験片(圧粉磁心)を作製した。実施例1と相違する点は、軟磁性粉末として、軟磁性粉末にFeにSiを3質量%含有した鉄−シリコン(Fe−3.00Si)を用い、この粉末に対して、窒化処理は行わず、2.5質量%のシリコーン樹脂を添加して、成膜温度130℃、成膜時間130分の条件で、シリコーン樹脂を軟磁性粉末に被覆した圧粉磁心用粉末を用いた点である。
【0081】
(比較例3)
比較例3では、表1に示すように、軟磁性粒子を構成する軟磁性粉末に、FeにSiを3.00質量%含有した鉄−シリコン合金(Fe−3.00Si)からなる軟磁性粉末を準備し、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂を70体積%含有するように、軟磁性粉末とPPS樹脂を混練し、実施例1と同じ大きさおよび形状に射出成形し、リング試験片を作製した。
【0082】
(比較例4)
実施例1と同じようにして、リング試験片(圧粉磁心)を作製した。実施例1と相違する点は、表1に示すように、軟磁性粉末に、FeにSiを0.55質量%、Alを3.45質量%含有した鉄−シリコン−アルミニウム合金(Fe−0.55Si−3.45Al)からなる水アトマイズ粉末を用いた点である。したがって、この軟磁性粉末のAl比率は、0.86である。
【0083】
また、窒化処理された圧粉磁心用粉末は、XRD分析によるピーク面積比Sal/Sfeが13.0%であり、これは、層厚さ1283nmに相当する。また、窒素の含有量は、圧粉磁心用粉末に対して1.1質量%であった。
【0084】
(比較例5)
実施例1と同じようにして、リング試験片(圧粉磁心)を作製した。実施例1と相違する点は、表1に示すように、軟磁性粉末に、FeにSiを3.15質量%、Alを3.49質量%含有した鉄−シリコン−アルミニウム合金(Fe−3.15Si−3.49Al)からなる水アトマイズ粉末を用いた点である。したがって、この軟磁性粉末のAl比率は、0.53である。
【0085】
また、窒化処理された圧粉磁心用粉末は、XRD分析によるピーク面積比Sal/Sfeが2.3%であり、これは、層厚さ280nmに相当する。また、窒素の含有量は、圧粉磁心用粉末に対して0.4質量%であった。
【0086】
(比較例6)
実施例1と同じようにして、リング試験片(圧粉磁心)を作製した。実施例1と相違する点は、表1に示すように、軟磁性粉末に、FeにSiを4.11質量%、Alを3.50質量%含有した鉄−シリコン−アルミニウム合金(Fe−4.11Si−3.50Al)からなる水アトマイズ粉末を用いた点である。したがって、この軟磁性粉末のAl比率は、0.46である。
【0087】
また、窒化処理された圧粉磁心用粉末は、XRD分析によるピーク面積比Sal/Sfeが3.4%であり、これは、層厚さ280nmに相当する。また、窒素の含有量は、圧粉磁心用粉末に対して0.4質量%であった。
【0088】
(比較例7)
実施例1と同じようにして、リング試験片(圧粉磁心)を作製した。実施例1と相違する点は、表1に示すように、軟磁性粉末に、FeにSiを3.00質量%、Alを3.50質量%含有した鉄−シリコン−アルミニウム合金(Fe−3.00Si−3.50Al)からなる水アトマイズ粉末を用いた点である。したがって、この軟磁性粉末のAl比率は、0.54である。さらに、比較例7では、低融点ガラスを添加せずに、実施例1と同じ条件で圧粉磁心を成形した。
【0089】
(比較例8)
実施例1と同じようにして、リング試験片(圧粉磁心)を作製しようとした。実施例1と相違する点として、表1に示すように、軟磁性粉末に、FeにSiを6.00質量%、Alを1.60質量%含有した鉄−シリコン−アルミニウム合金(Fe−6.00Si−1.60Al)からなる水アトマイズ粉末を用いた点である。ここで、実施例1と同じように、軟磁性粉末に対して窒化処理を行ったが、その表面に、窒化アルミニウム層が形成されなかった。したがって、比較例8は、この時点で、試験を終了し、圧粉磁心を作製しなかった。
【0090】
【表1】
【0091】
<リング試験片の密度>
実施例1〜4および比較例1〜7に係るリング試験片の質量を測定し、測定した質量と、リング試験片の体積から、リング試験片の密度を測定した。この結果を表2に示す。
【0092】
<μ’L/μ’Hと磁束密度の測定>
作製した実施例1〜4及び比較例1〜6の各リング試験片に巻き数励磁側450ターン、検出側90ターンでコイルを巻き、コイルに電流を通電することにより、直流磁気磁束計で、0〜60kA/mまで線形的に磁場が増加するように磁場を印加したときの磁束密度を測定した。
【0093】
得られた印加磁場と磁束密度のグラフ(B−H線図)から、印加磁場1kA/mにおける第1の微分比透磁率μ’L、印加磁場40kA/mにおける第2の微分比透磁率μ’Hを算出し、これらからμ’L/μ’Hを算出した。μ’L/μ’Hの結果を、表2に示す。また、実施例1〜4および比較例1〜6に係るリング試験片に対して、印加磁場H=60kA/mにおける磁束密度も測定した。この結果を表2に示す。
【0094】
なお、第1の微分比透磁率μ’Lは、
図4(b)に示す如きB−H曲線において、印加磁場1kA/mを挟んで、印加磁場1kA/m近傍の2点を結ぶ直線の勾配(ΔB/ΔH)を算出し、この勾配を真空透磁率で割ることにより算出した。第2の微分比透磁率μ’Hも同様に、
図4(b)に示す如きB−H曲線において、印加磁場40kA/mを挟んで、印加磁場40kA/m近傍の2点を結ぶ直線の勾配(ΔB/ΔH)を算出し、この勾配を真空透磁率で割ることにより算出した。μ’L/μ’Hは、第1の微分比透磁率μ’L/第2の微分比透磁率μ’Hの値である。
【0095】
<強度の測定>
JISZ2507の「焼結軸受−圧環強さ試験方法」に準拠して、実施例1〜4および比較例1〜7に係るリング試験片のそれぞれの圧環強さを強度として測定した。この結果を表2に示す。
【0096】
<インダクタンスの測定>
さらに、実施例1〜4および比較例1〜7のリング試験片に検出用90ターン、巻線用90ターンの巻き線を施し、交流BHアナライザーにてI=10mAの条件で測定した。この結果を表2に示す。
【0097】
<鉄損の測定>
実施例1〜4および比較例1〜7に係るリング試験片にφ0.5mmの銅線を用いて、励磁用90ターンおよび検出用90ターンの巻き線を巻いた。交流BHアナライザーを用いて、0.1T、20kHzの鉄損を測定した。この結果を表2に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
[結果1:μ’L/μ’Hと磁束密度について]
図5および
図6に示すように、実施例1〜4に係る圧粉磁心では、第1の微分比透磁率μ’Lと第2の微分比透磁率μ’Hとの比μ’L/μ’Hが、比較例1および2のものよりも明らかに小さく、6以下の値となった。すなわち、実施例1〜4の係る圧粉磁心は、比較例1、2のものに比べて、高磁場における微分比透磁率の低下が抑えられた圧粉磁心であるといえる。
【0100】
これは、以下に示す理由であると考えられる。実施例1〜4の圧粉磁心は、窒化アルミニウムからなる絶縁層を軟磁性粉末に形成した圧粉磁心用粉末を用いたので、比較例1および2の樹脂皮膜(絶縁皮膜)にシリコーン樹脂を用いたものに比べて、圧粉成形時に、絶縁層が流動し難い。これにより、実施例1〜4の圧粉磁心は、比較例1および2のものに比べて、軟磁性粒間の絶縁層(窒化アルミニウム層)が確保され、印加磁場が高磁場であっても微分比透磁率の低下が抑えられると考えられる。なお、
図6には示していないが、表2からも明らかなように、比較例4〜6に係る圧粉磁心のμ’L/μ’Hも、同様の理由により比較例1および2のものよりも明らかに小さくなったと考えられる。
【0101】
図5および
図6に示すように、実施例1〜4に係る圧粉磁心では、印加磁場60kA/mにおける磁束密度が、比較例3のものよりも明らかに大きく、1.4T以上の値となった。これは、比較例3に係る圧粉磁心は、樹脂の含有量が多いため、軟磁性粒間の距離が離れてしまい、これらの間に樹脂が存在するため、実施例1〜4よりも印加磁場60kA/mにおける磁束密度が小さくなったと考えられる。なお、
図6には示していないが、表2からも明らかなように、比較例4〜6に係る圧粉磁心の印加磁場60kA/mにおける磁束密度も、同様の理由により比較例3のものよりも明らかに大きくなったと考えられる。
【0102】
[結果2:Siの含有量について]
図7は、実施例1〜4および比較例4〜6に係る軟磁性粉末のSi含有量と、圧粉磁心の鉄損の関係を示した図である。
図7に示すように、実施例1〜4および比較例5、6に係る圧粉磁心は、比較例4のものに比べて、鉄損が小さかった。これは、比較例4では、軟磁性粉末(軟磁性粒)に含まれるSiの含有量が過少であることが起因すると考えられ、母材の結晶磁気異方性が悪化したため、鉄損が悪化したと考えられる。このことから、圧粉磁心の製造時に軟磁性粉末に含まれるSiおよび圧粉磁心の軟磁性粒に含まれるSiの含有量は、1.0質量%以上であれは、圧粉磁心の鉄損の増加は、抑えられると考えられる。
【0103】
図8は、実施例1〜4および比較例4〜6に係る軟磁性粉末のSi含有量と、圧粉磁心の強度の関係を示した図である。
図8に示すように、実施例1〜4および比較例4に係る圧粉磁心の強度は、比較例5および6のものに比べて大きく、60MPaを超えていた。これは、比較例5および6に係る軟磁性粉末に含まれるSiの含有量が過多であることが起因すると考えられる。このことから、圧粉磁心の製造時に軟磁性粉末に含まれるSiの含有量は、3.0質量%以下であれば、圧粉磁心の強度の低下は、抑えられると考えられる。なお、より詳細な理由は、ピーク面積比(窒化アルミニウム層の厚さ)と共に後述する。
【0104】
[結果3:ピーク面積比Sal/Sfeについて]
図9は、実施例1〜4および比較例4〜6に係る窒化処理後の軟磁性粉末のピーク面積比と、窒化アルミニウム層の厚みの関係を示した図である。
図9から明らかなように、窒化処理後の軟磁性粉末のピーク面積比と、軟磁性粉末に形成された窒化アルミニウム層の厚みとは、線形的な比例関係にあることがわかった。
【0105】
なお、窒化処理後の軟磁性粉末から製造された圧粉磁心用粉末および圧粉磁心においても、窒化処理後の軟磁性粉末の母材のFeと窒化アルミニウム層とは、ほとんど変化なく存在する。したがって、圧粉磁心をXRD分析したときのFeに由来したピーク波形の面積Sfeに対する、AlNに由来したピーク波形の面積Salの比であるピーク面積比Sal/Sfeは、窒化処理後の軟磁性粉末のピーク面積比と相違ないと考えられる。
【0106】
図10(a)は、実施例1〜4および比較例4〜6に係る軟磁性粉末のSi含有量と、窒化処理後の軟磁性粉末のピーク面積比との関係を示した図であり、
図10(b)は、実施例1〜4および比較例4〜6に係る軟磁性粉末のSi含有量と、窒化処理後の軟磁性粉末の窒化アルミニウム層の厚みの関係を示した図である。
【0107】
図10(a)および
図10(b)に示すように、実施例1〜4および比較例4に係る軟磁性粉末は、比較例5および6のものに比べて、窒化処理後の軟磁性粉末のピーク面積比および窒化処理後の軟磁性粉末の窒化アルミニウム層の厚みは大きかった。軟磁性粉末のSiの含有量が、3.0質量%以下であれば、実施例1〜4および比較例4の如く、安定した窒化アルミニウム層が、形成されると考えられる。
【0108】
図11は、実施例1〜4および比較例4〜6に係る窒化処理後の軟磁性粉末のピーク面積比と、圧粉磁心の強度の関係を示した図である。
図11に示すように、実施例1〜4および比較例4に係る圧粉磁心の強度は、比較例5および6のものに比べて大きく、60MPaを超えていた。これは、実施例1〜4および比較例4に係る窒化処理後の軟磁性粉末および圧粉磁心のピーク面積比が、比較例5および6のものに比べて大きい、すなわち、窒化アルミニウム層の層厚みが、大きいことが起因すると考えられる。
【0109】
このことから、窒化処理後の軟磁性粉末および圧粉磁心のピーク面積比は、4%以上、換言すると、窒化アルミニウム層の厚みが580nm以上であれば、圧粉磁心の強度が確保されると考えられる。すなわち、この条件を満たすことにより、安定して形成された窒化アルミニウム層に対して、低融点ガラスの濡れ性および馴染み性が十分に確保され、圧粉磁心の強度を確保することができたと考えられる。
【0110】
そして、上述した
図8および
図10(a),(b)に示すように、製造時において、軟磁性粉末に含有するSiの含有量が、3.0質量%以下であれば、ピーク面積比(窒化アルミニウム層の厚み)が上述した範囲を満たし、圧粉磁心の強度が確保されると言える。
【0111】
図12は、実施例1〜4および比較例4〜6に係る窒化処理後の軟磁性粉末のピーク面積比と、圧粉磁心のμ’L/μ’Hの関係を示した図である。
図12に示すように、窒化処理後の軟磁性粉末および圧粉磁心のピーク面積比は、4%以上、換言すると、窒化アルミニウム層の厚みが580nm以上であれば、圧粉磁心のμ’L/μ’Hもさらに低減できると考えられる。
【0112】
[結果4:低融点ガラスの効果について]
表2に示すように、比較例7に係る圧粉磁心の強度は、実施例1〜4のものよりも、低くなった。これは、比較例7は、低融点ガラスを用いずに、軟磁性粉末を圧粉成形したことによると考えらえる。
【0113】
[結果5:Al比率について]
表1に示すように、比較例8では、軟磁性粉末の表面に、窒化アルミニウム層が形成されていなかった。これは、比較例8では、軟磁性粉末のAl比率が、実施例1〜4のものよりも低いことに起因していると考えられる。そして、軟磁性粉末のAl比率が、0.45以上、好ましくは、実施例4の如く0.55以上であれば、窒化処理により、軟磁性粉末の表面に、窒化アルミニウム層が形成されると推定される。
【0114】
<確認試験(解析)>
上述した、実施例3、4および比較例1〜3において測定したB−H線図で得られたデータを用いて、
図13(a)に示すリアクトルのモデルを想定し、リアクトルのインダクタンスが一定となるように、コア(圧粉磁心)の体格、ギャップ長さ、損失を算出した。損失はリアクトルアッシーとしての損失であり、具体的には、鉄損(コア損)コイル直流損(ジュール損)およびコイル渦損も含む。この結果を以下の表3に示す。なお、表3では、比較例1に相当するリアクトルの体格、コイルターン数、インダクタンス、損失を、基準値100として、他の値を示している。
【0115】
【表3】
【0116】
この結果から、比較例1および2に係るリアクトルは、実施例3および4のものよりも、損失が大きかった。一方、比較例3に係るリアクトルは、実施例3および4のものよりも、損失が小さかったが、実施例3および4よりも磁束密度が低いため、比較例3に係るコア体格は、実施例3および4のものに対して1.6倍となった。
【0117】
以上、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本発明に含まれるものである。