特許第6378181号(P6378181)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378181
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】振動減衰型工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 29/02 20060101AFI20180813BHJP
   B23B 51/00 20060101ALI20180813BHJP
   B23C 9/00 20060101ALI20180813BHJP
   B23C 5/10 20060101ALI20180813BHJP
   B23B 27/00 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   B23B29/02 A
   B23B51/00 T
   B23C9/00 Z
   B23C5/10 D
   B23B27/00 C
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-528959(P2015-528959)
(86)(22)【出願日】2013年8月21日
(65)【公表番号】特表2015-530268(P2015-530268A)
(43)【公表日】2015年10月15日
(86)【国際出願番号】EP2013067354
(87)【国際公開番号】WO2014033020
(87)【国際公開日】20140306
【審査請求日】2016年6月21日
(31)【優先権主張番号】102012108098.4
(32)【優先日】2012年8月31日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】ペーター フランク
【審査官】 津田 健嗣
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/024389(WO,A1)
【文献】 特開2012−082880(JP,A)
【文献】 特開2001−090776(JP,A)
【文献】 特開2002−113603(JP,A)
【文献】 特開2003−175436(JP,A)
【文献】 実開昭52−027684(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 29/02
B23B 27/00
B23B 51/00
B23C 5/10
B23C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具本体を有する、ワークを機械加工するための工具において、
工具本体が少なくとも一つのキャビティを有し、該キャビティ内には、閉鎖された外側シェルを有する複数の中空構造要素が収容され、該複数の中空構造要素内に少なくとも1つの中実粒子又は中空体が自由に移動可能な状態で配置され、
前記工具は、回転軸を伴うドリル加工又はフライス加工用工具であり、工具を駆動機構に連結するためのシャフト部分と、ワークを機械加工するための切れ刃を有するか又は切れ刃を伴う切削用インサートが固定される工具部分と、を有し、
前記キャビティが実質的に環状であり、
前記キャビティが回転軸に対し直交する切断面内で2回転対称又は多重回転対称を有すること、又は、閉鎖された外側シェルを伴う複数の中空構造要素を収容する複数のキャビティであって、前記中空構造要素内には少なくとも1つの中実粒子又は中空体が自由に移動可能な状態で配置されている複数のキャビティが、回転軸に対し直交する切断面内で2回転対称又は多重回転対称を有する、ことを特徴とする工具。
【請求項2】
工具本体を有する、ワークを機械加工するための工具において、
工具本体が少なくとも一つのキャビティを有し、該キャビティ内には、閉鎖された外側シェルを有する複数の中空構造要素が収容され、該複数の中空構造要素内に少なくとも1つの中実粒子又は中空体が自由に移動可能な状態で配置され、
前記工具は2つの部分で構成され、該2つの部分が前記キャビティを画定し、
前記2つの部分はねじを介して互いに連結されており、該ねじは前記工具の回転軸上に配置され、該ねじの外側面は少なくとも複数の区分に前記キャビティを画定することを特徴とする工具。
【請求項3】
2つの部分のうちの好ましくは1つが、中空構造要素を中に注ぎ込むための開口部を有していることを特徴とする請求項に記載の工具。
【請求項4】
回転軸を伴うドリル加工又はフライス加工用工具であり、工具を駆動機構に連結するためのシャフト部分と、ワークを機械加工するための切れ刃を有するか又はこのような切れ刃を伴う切削用インサートをしっかり固定することのできる工具部分とを有することを特徴とする請求項又はに記載の工具。
【請求項5】
キャビティが実質的に環状であることを特徴とする請求項の何れか一項に記載の工具。
【請求項6】
中空構造要素が実質的に完全にキャビティを満たすことを特徴とする請求項1〜の何れか一項に記載の工具。
【請求項7】
中空構造要素が、焼結、接着又は注型用樹脂などの硬化物質により、キャビティ内部で互いに連結されていることを特徴とする請求項1〜の何れか一項に記載の工具。
【請求項8】
キャビティが軸の近位に、すなわち長さaだけ回転軸から半径方向外向きに延在する領域の内部に配置されており、ここで長さaは、0.8×r未満、好ましくは0.65×r未満、そして理想的には0.5×r未満であり、rは工具直径の半分であることを特徴とする請求項1〜の何れか一項に記載の工具。
【請求項9】
キャビティが駆動部分から工具部分の方向に、回転軸に沿って階段状に又は円錐形に形成されており、その結果、キャビティの回転軸に対して直交する断面積が、第2の軸方向位置においてよりも第1の軸方向位置においてより小さいものとなっており、第1の軸方向位置は第2の位置よりもシャフト部分の近位に配置されていることを特徴とする請求項1〜の何れか一項に記載の工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工具本体を伴う、ワークを機械加工するための工具に関する。
【背景技術】
【0002】
このような工具は以前から公知である。概して、工具本体は、駆動機構に対して連結するために提供されている駆動部分と、材料を機械加工するための少なくとも1つの切削要素を有する機械加工部分とを有する。このような工具の一例は、特許文献1に示されている。このドリル加工用工具は、ワークを機械加工するために提供されている切削用プレートのための一連の受容部を有する機械加工部分を有する。さらに、ドリル加工用工具は、切削用インサートのための受容部から離れるように面する側において、対応して形成された供給用要素を伴うシャフトの形をした駆動部分を有する。
【0003】
工具本体は通常、鋼などの金属材料から生産され、したがって中実である。原則として、可能なかぎり少量の材料を用いてこれらの工具本体を生産することが、工具の生産コストの削減および工具のエネルギー消費量の低減をもたらすことを理由として望ましい。
【0004】
一方で、機械加工中これらの工具は、結果として工具本体内に振動をもたらす可能性のある多大な力を受け、このことで今度は工具の切削品質が低下する。
【0005】
こうして、工具本体が長くなればなるほど発生し得る振動が強くなることから、長手方向における、すなわち駆動部分から機械加工部分までの工具本体の長さが制限されることが多い。
【0006】
工具内部で減衰された運動を実施できる受動的振動減衰装置を工具内に組込むために、すでに個別に試みがなされてきた。しかしながら、このような受動的振動減衰装置は、相当な長さにわたり延在し、概して工具の重量を増大させる。しかしながら、工具の重量が重くなると、その代りに、工具の固有振動数が減少するために振動は増大する結果となる。したがってこれらの工具が生産される場合、機械加工中の力を吸収するのに必要とされるものよりも多くの材料が使用されることが多い。この追加の質量には、単に振動をより良く減衰させることを可能にする役割しかない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2004/087354号パンフレット
【特許文献2】独国特許出願公開第102004003507号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、記載されている技術的現状から出発して、本発明の目的は、作動中極めて低い振動しか示さず、かつ、その長手方向の長さを従来の工具のものよりも長くすることのできる工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によると、この目的は、工具本体がキャビティを有し、このキャビティ内に、内部に少なくとも1つの中実粒子又は中空体が自由に移動可能な状態で配置される閉鎖された外側シェルを伴う複数の中空構造要素が収容されることによって達成される。このような構造要素は、例えば、中空構造要素の構造に関する内容が参照として援用されている特許文献2から公知である。特許文献2に記載されている中空構造要素は、全て原則として、工具本体のキャビティ内での配置に好適である。
【0010】
これらの中空構造要素は概して音の吸収のために使用され、例えば足音を軽減するために天井の中間充填材層として用いられる。
【0011】
中空構造要素の内部に収容される粒子又は中空体は、非常に優れた振動減衰特性を有することが見いだされた。詳細には、突発的衝撃の場合、自由に移動可能な粒子又は中空体は当初、その慣性のため所定の位置にとどまり、こうして衝撃の減衰を提供する。万一工具本体が振動した場合、振動は同様に、自由に移動可能な粒子又は中空体の中でも励起される。しかしながら、自由に移動可能な粒子又は中空体内の固有振動数は工具の固有振動数と著しく異なることから、この結果として振動は有効に減衰される。
【0012】
本発明によると、ここではキャビティが工具本体内に導入され、その結果、材料は節約され、したがって重量は低減される。単に重量を低減させるだけで、工具の固有振動数、ひいては振動感受性は削減される。
【0013】
このときこのキャビティ内に複数の前記中空構造要素が配置される。キャビティは次に閉鎖されるか、又は構造要素がキャビティ内にしっかりと固定される。すなわち、構造要素は音を吸収できるだけでなく、振動を著しく減衰するものとして機能する。したがって、本発明に係る措置の結果として、公知の工具において、キャビティを設け、このキャビティに前記中空構造要素を充填することによって材料を節約すると同時に工具の振動を低減させることが可能である。中空構造要素自体は非常に軽量である。
【0014】
好ましい実施形態において、工具は、回転軸を伴うドリル加工又はフライス加工用工具であり、工具を駆動機構に連結するためのシャフト部分と、ワークを機械加工するための切れ刃を有するか又はこのような切れ刃を伴う切削用インサートをしっかり固定することのできる工具部分とを有する。
【0015】
さらなる好ましい実施形態において、キャビティは、回転軸に対し直交する切断面内に2回転対称又は多重回転対称で設けられている。一実施形態としては、内部に少なくとも1つの中実粒子又は中空体が自由に移動可能な状態で配置される閉鎖された外側シェルを伴う複数の中空構造要素が各々の中に収容されている複数のキャビティを具備することも可能であり、これらのキャビティは、回転軸に対し直交する切断面内で2回転対称又は多重回転対称を伴って設計されているような形で配置される。
【0016】
2回転対称とは、回転軸を中心として180°回転させた場合にキャビティが元の形に戻ることを意味する。n回転対称の場合、回転軸を中心とした360°/nの回転において、キャビティは再び元の形に戻る。
【0017】
この配置には、キャビティの存在が、工具にいかなる追加の不均衡も及ぼすことがないという利点があり、このような追加の不均衡は本来ならば対応する措置により補償されなければならないものである。
【0018】
好ましい一実施形態において、キャビティは実質的に環状に形成される。環状の平面は、好ましくは工具の回転軸に対して直交して配置され、回転軸は環の中心点を通過する。
【0019】
一変形形態において、工具は非回転工具、例えば旋盤加工又は切断用の工具である。
さらなる好ましい実施形態において、工具は2つの部分で構築されており、2つの工具部分がキャビティを画定している。したがって、工具を生産又は組立てる場合、1つの工具部分内に開放穴又はくぼみとして形成されるキャビティには最初に中空構造要素が充填される。さらなるステップにおいて、第2の工具部分が第1の工具部分に連結され、ここで2つの工具部分は、第2の工具部分が開放穴又は開放陥凹を閉じるような形で形成されており、その結果、閉鎖されたキャビティが形成し、この中に複数の中空構造要素が配置される。
【0020】
好ましい実施形態において、2つの工具部分はねじを介して互いに連結され得、回転工具の場合のねじは、好ましくは回転軸上に位置し、ねじの外側面は、少なくとも複数の区分の形でキャビティを画定している。換言すると、キャビティはねじの外側面の周りに延び、好ましくは環状又は中空円筒形で形成され得る。
【0021】
中空構造要素は、工具の作動中、キャビティ内の構造要素の動きおよび付随する工具の不均衡を防止するため、実質的に完全にキャビティを満たさなければならない。
【0022】
一変形形態として、又は組合せの形で、中空構造要素は、焼結、接着又は注型用樹脂などの硬化物質により、キャビティ内部で互いに連結され得る。この措置の結果として、作動中に中空構造要素はもはや個別に移動することができないため、キャビティに中空構造要素を完全に充填することが今や必ずしも必要ではなくなる。その上、特に構造要素がキャビティの壁に連結されている場合、構造要素を連結することには、構造要素が力を吸収し、そのため工具本体に対する機械的必要条件又は工具本体が吸収しなければならない力はさらに一層削減され、結果としてさらに一層材料を節約できるというさらなる利点がある。
【0023】
さらなる好ましい実施形態においては、キャビティが軸の近位に、すなわち長さaだけ回転軸から半径方向外向きに延在する領域の内部に配置されており、ここで長さaは、0.8×r未満、好ましくは0.65×r未満、そして理想的には0.5×r未満であり、rは工具直径の半分であることが規定されている。
【0024】
さらなる好ましい実施形態において、キャビティは、シャフト部分側の端部に対してよりも工具部分側の工具の端部に対してより近位に配置されている。
【0025】
さらに好ましい実施形態において、キャビティは駆動部分から工具部分の方向に、回転軸に沿って階段状に又は円錐形に形成されており、その結果、キャビティの回転軸に対して直交する断面積が、第2の軸方向位置においてよりも第1の軸方向位置においてより小さいものとなっており、第1の軸方向位置は第2の位置よりもシャフト部分の近位に配置されている。
【0026】
一変形形態として、別個の容器内に中空構造本体を配置しこの容器をキャビティ内に導入することも可能であると考えられる。
【0027】
本発明のさらなる利点、特徴および考えられる用途は、好ましい実施形態についての以下の説明および付随する図から明白になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係る工具の第1の実施形態の側面図である。
図2図1中のC−C線に沿った断面図である。
図3】本発明の第2の実施形態の断面図である。
図4】本発明の第3の実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明に係る工具1は、駆動機構に取付けることのできるシャフト部分2を有する。その上、工具1は、切れ刃を伴う切削用プレート4が配置されている工具部分3を有する。工具は、加工中において回転軸5を中心にして回転するドリル加工用ヘッドを表わす。
【0030】
詳細には図2の断面図を見ればわかるように、工具1は、2つの部分、すなわち下部部分6と上部部分7で構成されている。下部部分6および上部部分7は、その両方の中に係合する中空ねじ8を介して、互いに連結されている。中空ねじ8を取り囲むように配置されたくぼみ又はキャビティ9が、下部部分6の中に設けられている。下部部分6の中のこのキャビティ9は、上部部分7によって閉鎖されており、その結果、上部部分がその上に設置された時点で、取り囲まれた空隙がもたらされることになる。図面に概略的に表わされているように、このキャビティ9内には複数の中空構造要素10が配置されており、これらの中空構造要素は、粘着性又は定形性を有しないバルク製品として導入される(この場合、キャビティ9はできるだけ完全に満たされなければならない)か、又は、接着剤又は樹脂構造内に埋め込まれる。中空構造要素10が相互にそして理想的には中空ねじ8および下部部分6に対しても接着などによって連結されている場合には、中空構造要素は振動吸収機能を果たすだけでなく、同時に力を吸収することもでき、結果として、下部部分6の外側壁をより小さい厚みで形成することができ、これはさらなる材料節約を意味する。必要な場合、中空ねじ8を介して、冷却剤および/又は潤滑剤を供給することができる。
【0031】
図3は、本発明の第2の実施形態の対応する断面図を示す。構造は第1の実施形態と非常に類似している。ただし、この場合、キャビティは円錐状で形成されている。すなわち、工具部分の方向に幅が広がっている。その結果、シャフト部分の近傍では、高レベルの剛性を達成することができ、工具部分の近傍では高レベルの振動減衰を達成することができる。さらに、キャビティの領域内において中空ねじはより小さい外径を有し、その結果、キャビティは回転軸の方向にさらに拡大することになるということがわかる。
【0032】
図4は、本発明の第3の実施形態の対応する断面図を示している。この実施形態は、2つの工具部分が中空ねじによって互いに連結されておらず、その結果この場合キャビティ12が同様に環状に形成されていないという点で、第2の実施形態とは異なっている。
【0033】
本発明に係る措置の結果として、機械加工用工具は、切削力が変化することなく、より大きな振動を結果として発生させずに、直径を変えずに回転軸の方向に著しく長尺で設計することができる。その上、工具の重量を著しく軽減することが可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 工具
2 シャフト部分
3 工具部分
4 切削用プレート
5 回転軸
6 下部部分
7 上部部分
8 中空ねじ
9、11、12 キャビティ
10 構造要素
図1
図2
図3
図4