(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記皮膜を形成するニッケル、チタン、クロム、銅、ステンレス、および鉄ニッケル合金からなる群から選択される粉末の粒径は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉末の粒径の±60%の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
絶縁基材の片面に銅もしくは銅合金、またはアルミニウムもしくはアルミニウム合金からなる回路層が設けられるとともに、他面に銅もしくは銅合金、またはアルミニウムもしくはアルミニウム合金からなる金属層が設けられた基板と、
前記回路層に半田を介して実装される半導体チップと、
アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉末と、ニッケル、チタン、クロム、銅、ステンレス、および鉄ニッケル合金からなる群から選択される粉末とを混合した混合粉末を用いて形成され、前記金属層上に積層されてなる緩衝層と、
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、平板状をなす基部と、該基部の一方の面に設けられた冷却部と、を有し、前記基部の他方の面において前記緩衝層と接着された冷却器と、
を備え、前記緩衝層の熱伝導率は24W/m・K以上185W/m・K以下、熱膨張率は9ppm/K以上22ppm/K以下、4点曲げ強度が200MPa以上であって、前記基板の熱膨張率より大きく、かつ前記冷却器の熱膨張率より小さく、
前記金属層と前記緩衝層との界面が塑性変形していることを特徴とするパワーモジュール。
絶縁基材の片面に銅もしくは銅合金、またはアルミニウムもしくはアルミニウム合金からなる回路層が設けられるとともに、他面に銅もしくは銅合金、またはアルミニウムもしくはアルミニウム合金からなる金属層が設けられた基板と、
前記回路層に半田を介して実装される半導体チップと、
アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉末と、ニッケル、チタン、クロム、銅、ステンレス、および鉄ニッケル合金からなる群から選択される粉末とを混合した混合粉末を用いて形成され、前記金属層上に積層されてなる緩衝層と、
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、平板状をなす基部と、該基部の一方の面に設けられた冷却部と、を有し、前記基部の他方の面において前記緩衝層と接着された冷却器と、
を備え、前記緩衝層の熱伝導率は24W/m・K以上185W/m・K以下、熱膨張率は9ppm/K以上22ppm/K以下、4点曲げ強度が200MPa以上であって、前記基板の熱膨張率より大きく、かつ前記冷却器の熱膨張率より小さく、
前記冷却器と前記緩衝層との界面が塑性変形していることを特徴とするパワーモジュール。
絶縁基材の片面に銅もしくは銅合金、またはアルミニウムもしくはアルミニウム合金からなる回路層が設けられるとともに、他面に銅もしくは銅合金、またはアルミニウムもしくはアルミニウム合金からなる金属層が設けられた基板と、
前記回路層に半田を介して実装される半導体チップと、
アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉末と、ニッケル、チタン、クロム、銅、タングステン、ステンレス、鉄ニッケル合金およびモリブデンからなる群から選択される粉末とを混合した混合粉末を用いて形成され、前記金属層上に積層されてなる緩衝層と、
アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉末と、ニッケル、チタン、クロム、銅、タングステン、ステンレス、鉄ニッケル合金、およびモリブデンからなる群から選択される粉末とを混合した混合粉末を用いて形成され、平板状をなす基部と、該基部の一方の面に設けられた冷却部と、を有し、前記基部の他方の面において前記緩衝層と接着された冷却器と、
を備え、前記緩衝層および前記冷却器の熱伝導率が24W/m・K以上185W/m・K以下であるとともに、前記緩衝層および前記冷却器の熱膨張率は9ppm/K以上22ppm/K以下であって、前記緩衝層の熱膨張率は、前記基板の熱膨張率より大きく、かつ前記冷却器の熱膨張率より小さく、
前記金属層と前記緩衝層との界面、および前記緩衝層と前記冷却器との界面が塑性変形していることを特徴とするパワーモジュール。
アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉末と、ニッケル、チタン、クロム、銅、ステンレス、および鉄ニッケル合金からなる群から選択される粉末とを混合した混合粉末を、前記アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉末の融点より低い温度に加熱されたガスとともに加速し、金属または合金からなる基材表面に固相状態のままで吹き付けて堆積させて、熱膨張率が9ppm/K以上22ppm/K以下、熱伝導率が24W/m・K以上185W/m・K以下、4点曲げ強度が200MPa以上の皮膜を形成することを特徴とする積層体の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態1にかかるパワーモジュールの構造を示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すパワーモジュールの製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態1にかかるパワーモジュールの製造に使用されるコールドスプレー装置の概要を示す模式図である。
【
図4】
図4は、ニッケルを添加材として用いた場合の混合紛体中のニッケル含有率と皮膜中のニッケル含有率との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、ニッケルを添加材として用いた場合の皮膜中のアルミニウムの含有率と熱膨張率(CTE)との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6、はニッケルを添加材として用いた場合の皮膜中のアルミニウムの体積含有率と原料アルミニウム(A1050)に対する熱伝導率比(導電率比)との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、ニッケルを添加材として用いた場合の混合紛体中のニッケルの体積含有率と曲げ強度との関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、チタンを添加材として用いた場合の混合紛体中のチタン含有率と皮膜中のチタン含有率との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、チタンを添加材として用いた場合の皮膜中のアルミニウムの含有率と熱膨張率(CTE)との関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、チタンを添加材として用いた場合の皮膜中のアルミニウムの体積含有率と原料アルミニウム(A1050)に対する熱伝導率比(導電率比)との関係を示すグラフである。
【
図11】
図11は、チタンを添加材として用いた場合の混合紛体中のチタンの体積含有率と曲げ強度との関係を示すグラフである。
【
図12】
図12は、クロムを添加材として用いた場合の混合紛体中のクロム含有率と皮膜中のクロム含有率との関係を示すグラフである。
【
図13】
図13は、クロムを添加材として用いた場合の皮膜中のアルミニウムの含有率と熱膨張率(CTE)との関係を示すグラフである。
【
図14】
図14は、クロムを添加材として用いた場合の皮膜中のアルミニウムの体積含有率と原料アルミニウム(A1050)に対する熱伝導率比(導電率比)との関係を示すグラフである。
【
図15】
図15は、クロムを添加材として用いた場合の混合紛体中のクロムの体積含有率と曲げ強度との関係を示すグラフである。
【
図16】
図16は、銅を添加材として用いた場合の混合紛体中の銅含有率と皮膜中の銅含有率との関係を示すグラフである。
【
図17】
図17は、銅を添加材として用いた場合の皮膜中のアルミニウムの含有率と熱膨張率(CTE)との関係を示すグラフである。
【
図18】
図18は、銅を添加材として用いた場合の皮膜中のアルミニウムの体積含有率と原料アルミニウム(A1050)に対する熱伝導率比(導電率比)との関係を示すグラフである。
【
図19】
図19は、銅を添加材として用いた場合の混合紛体中の銅の体積含有率と曲げ強度との関係を示すグラフである。
【
図20】
図20は、タングステンを添加材として用いた場合の混合紛体中のタングステン含有率と皮膜中のタングステン含有率との関係を示すグラフである。
【
図21】
図21は、タングステンを添加材として用いた場合の皮膜中のアルミニウムの含有率と熱膨張率(CTE)との関係を示すグラフである。
【
図22】
図22は、タングステンを添加材として用いた場合の皮膜中のアルミニウムの体積含有率と原料アルミニウム(A1050)に対する熱伝導率比(導電率比)との関係を示すグラフである。
【
図23】
図23は、タングステンを添加材として用いた場合の混合紛体中のタングステンの体積含有率と曲げ強度との関係を示すグラフである。
【
図24】
図24は、ステンレス(SUS304)を添加材として用いた場合の混合紛体中のステンレス含有率と皮膜中のステンレス含有率との関係を示すグラフである。
【
図25】
図25は、ステンレスを添加材として用いた場合の皮膜中のアルミニウムの含有率と熱膨張率(CTE)との関係を示すグラフである。
【
図26】
図26は、ステンレスを添加材として用いた場合の皮膜中のアルミニウムの体積含有率と原料アルミニウム(A1050)に対する熱伝導率比(導電率比)との関係を示すグラフである。
【
図27】
図27は、ステンレスを添加材として用いた場合の混合紛体中のステンレスの体積含有率と曲げ強度との関係を示すグラフである。
【
図28】
図28は、実験により得られた皮膜の表面を写したSEM画像(アルミニウム:インバー=20:80)である。
【
図29】
図29は、実験により得られた皮膜の表面を写したSEM画像(アルミニウム:インバー=50:50)である。
【
図30】
図30は、実験により得られた皮膜の表面を写したSEM画像(アルミニウム:インバー=80:20)である。
【
図31】
図31はインバーを添加材として用いた場合の混合紛体中のインバー含有率と皮膜中のインバー含有率との関係を示すグラフである。
【
図32】
図32はインバーを添加材として用いた場合の皮膜中のアルミニウムの含有率と熱膨張率(CTE)との関係を示すグラフである。
【
図33】
図33はインバーを添加材として用いた場合の皮膜中のアルミニウムの体積含有率と原料アルミニウム(A1050)に対する熱伝導率比(導電率比)との関係を示すグラフである。
【
図34】
図34はインバーを添加材として用いた場合の混合紛体中のインバーの体積含有率と曲げ強度との関係を示すグラフである。
【
図35】
図35は、実験により得られた皮膜の表面を写したSEM画像(アルミニウム:モリブデン=20:80)である。
【
図36】
図36は、実験により得られた皮膜の表面を写したSEM画像(アルミニウム:モリブデン=50:50)である。
【
図37】
図37は、実験により得られた皮膜の表面を写したSEM画像(アルミニウム:モリブデン=80:20)である。
【
図38】
図38は、モリブデンを添加材として用いた場合の混合紛体中のモリブデン含有率と皮膜中のモリブデン含有率との関係を示すグラフである。
【
図39】
図39は、モリブデンを添加材として用いた場合の皮膜中のアルミニウムの含有率と熱膨張率(CTE)との関係を示すグラフである。
【
図40】
図40は、モリブデンを添加材として用いた場合の皮膜中のアルミニウムの体積含有率と原料アルミニウム(A1050)に対する熱伝導率比(導電率比)との関係を示すグラフである。
【
図41】
図41は、モリブデンを添加材として用いた場合の混合紛体中のインバーの体積含有率と曲げ強度との関係を示すグラフである。
【
図42】
図42は、本発明の実施の形態2にかかるパワーモジュールの構造を示す断面図である。
【
図43】
図43は、本発明の実施の形態3にかかるパワーモジュールの構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、以下の説明において参照する各図は、本発明の内容を理解し得る程度に形状、大きさ、及び位置関係を概略的に示してあるに過ぎない。即ち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、及び位置関係のみに限定されるものではない。
【0019】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るパワーモジュールの構造を示す断面図である。
図1に示すパワーモジュール1は、基板10と、該基板10と緩衝層11を介して配設された冷却器(放熱器)12とを備える。
【0020】
基板10は、平板状をなす絶縁基材13の一方の面に形成された回路層14と、該回路層14に半田15を介して配設された半導体チップ16と、絶縁基材13の他方の面に形成された金属層17とを有する。
【0021】
絶縁基材13は、例えば、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物系セラミックスや、アルミナ、マグネシア、ジルコニア、ステアタイト、フォルステライト、ムライト、チタニア、シリカ、サイアロン等の酸化物系セラミックスといった絶縁性材料からなる略板状の部材である。
【0022】
回路層14は、例えば銅、アルミニウム等の良好な電気伝導度を有する金属又は合金からなる金属層である。この回路層14には、半導体チップ16等に対して電気信号を伝達するための回路パターンが形成されている。
【0023】
半導体チップ16は、ダイオード、トランジスタ、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)等の半導体チップによって実現される。なお、半導体チップ16は、使用の目的に合わせて回路層14上に複数個設けられても良い。
【0024】
金属層17は、例えば銅、アルミニウム等の良好な電気伝導度を有する金属又は合金からなり、半導体チップ16及び回路層14において発生した熱の緩衝層11及び冷却器12への伝熱、および緩衝層11との接着を考慮して設けられている。
【0025】
緩衝層11は、アルミニウムまたはアルミニウム合金に対し、タングステン、クロム、ニッケル、銅、チタン、鉄ニッケル合金(Fe−36Ni、Fe−32Ni−5Co)、ステンレス、およびモリブデンからなる群から選択されるいずれかを添加した複合材からなり、基板10の金属層17側に、所謂コールドスプレー法により直接形成されている。なお、鉄ニッケル合金(Fe−36Ni)は一般にインバー(INVAR(登録商標))と呼ばれており、以下においても、鉄ニッケル合金(Fe−36Ni)のことをインバーともいう。また、鉄ニッケル合金(Fe−32Ni−5Co)は一般にスーパーインバーと呼ばれており、以下においても、鉄ニッケル合金(Fe−32Ni−5Co)のことをスーパーインバーともいう。
【0026】
緩衝層11の熱膨張率は、絶縁基材13および冷却器12との熱膨張率の差に起因する熱応力の負荷を抑制するために、絶縁基材13の熱膨張率より大きく、冷却器12の熱膨張率より小さいことが好ましい。緩衝層11の熱膨張率は、9ppm/K以上22ppm/K以下であり、絶縁基材13および冷却器12に使用する材料に応じて、アルミニウムまたはアルミニウム合金に添加する材料および添加量を適宜選択すればよい。
【0027】
一般に、比重やヤング率や粒径が互いに異なる材料粉末を混合してコールドスプレー法により皮膜を形成する場合、皮膜内の添加材の比率を制御するのは困難であるが、母材としてアルミニウムまたはアルミニウム合金を使用する場合、混合紛体中の添加材含有率を制御することにより、皮膜中の添加材含有率を比較的容易に制御できることが本発明者らにより確認された。したがって、所望する熱膨張率および熱伝導率を有する緩衝層11を設計および製造可能となる。また、本実施の形態1では、コールドスプレー法により緩衝層11を形成するため、金属層17に緩衝層11を構成する材料粉末が衝突し、金属層17と緩衝層11との界面で塑性変形が生じる。
【0028】
また、金属層17に緩衝層11を構成する材料粉末が衝突する際、金属層17の表面、および材料粉末の表面の酸化皮膜が破壊されて新生面同士による金属結合が生じる。界面での塑性変形によるアンカー効果により金属層17と緩衝層11との密着性が向上するとともに、新生面同士による金属結合により金属層17と緩衝層11との密着性および緩衝層11内部の緻密性が向上し、パワーモジュール1の耐久性が向上する。さらに、本実施の形態1では、アルミニウムまたはアルミニウム合金に添加材を混合した混合粉末により緩衝層11を形成することにより、アルミニウムまたはアルミニウム合金単独で形成される皮膜に比べて、より緻密な皮膜とすることができる。
【0029】
緩衝層11は、基板10と反対側の面(
図1においては下面)において、伝熱シート18を介して冷却器12と接着されている。冷却器12は、アルミニウムやアルミニウム合金等の良好な熱伝導性を有する金属又は合金からなり、平板状をなす基部12aと、該基部12aの裏面(
図1においては下面)に設けられた板状をなす複数の冷却部(冷却フィン)12bとを有する。このような冷却器12を介して、半導体チップ16から発生した熱が絶縁基材13を介して外部に放出される。
【0030】
緩衝層11と冷却器12との間は、伝熱シート18により接着される。本実施の形態1では、金属層17と緩衝層11との間の接着に伝熱シートを使用しないため、パワーモジュール1の熱抵抗を低減することができる。なお、伝熱シート18の代わりに、ゲル状のシート部材やグリースを用いて緩衝層11と冷却器12とを接着しても良い。
【0031】
次に、パワーモジュール1の製造方法について説明する。
図2は、パワーモジュール1の製造方法を示すフローチャートである。
まず、ステップS1において、基板10を作製する。基板10は、絶縁基材13の一方の面に回路層14を、他方の面に金属層17をろう付法により形成し、エッチング法により回路パターンを形成する。なお、ろう付法の代わりに、後述するコールドスプレー法を用いて回路層14や金属層17を形成しても良い。半導体チップ16は半田15等を用いて回路層14上に実装される。
【0032】
続くステップS2において、緩衝層11の材料となる混合粉末を調製する。混合粉末は、所定の中心粒径をそれぞれ有するアルミニウムまたはアルミニウム合金の粉末と、添加材の粉末を用意し、予め設定された混合比率となるように両者を秤量して混合することにより調製する。粉末の混合方法は特に限定されず、本実施の形態1においては、乾式混合法(ドライブレンド法)によって混合する。
【0033】
アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉末の粒径については、コールドスプレー法に適用可能な粒径(例えば5〜100μm程度)であれば特に限定されない。一方、添加材の粉末の粒径は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉末の粒径に対して±60%の範囲内にすると良い。これは、コールドスプレー法を行った際に、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉末のふるまいに対して添加材の粉末が同様にふるまうことが好ましいからである。そのため、例えば、中心粒径が約35μmのアルミニウムの粉末を用いる場合、添加材の粉末の中心粒径を14〜56μm程度にすると良い。粉末の調製方法については、後で詳しく説明する。
【0034】
続くステップS3において、コールドスプレー法により、ステップS1において作製した基板10の金属層17側に緩衝層11を形成する。
図3は、コールドスプレー装置の構成例を示す模式図である。
図3に示すコールドスプレー装置100は、圧縮ガスを加熱するガス加熱器101と、皮膜の材料の粉末を収容してスプレーガン103に供給する粉末供給装置102と、スプレーガン103に供給された材料の粉末を、加熱された圧縮ガスと共に基材110に向けて噴射するガスノズル104と、ガス加熱器101及び粉末供給装置102に対する圧縮ガスの供給量をそれぞれ調節するバルブ105及び106とを備える。
【0035】
圧縮ガスとしては、ヘリウム、窒素、空気などが使用される。ガス加熱器101に供給された圧縮ガスは、材料の粉末の融点よりも低い範囲の温度に加熱された後、スプレーガン103に供給される。圧縮ガスの加熱温度は、100℃以上アルミニウムまたはアルミニウム合金の融点以下であり、300℃以上600℃以下が好ましい。
【0036】
一方、粉末供給装置102に供給された圧縮ガスは、粉末供給装置102内の材料粉末をスプレーガン103に所定の吐出量となるように供給する。
【0037】
加熱された圧縮ガスは、末広形状をなすガスノズル104を通過することにより超音速流(約340m/s以上)となって噴射される。この際の圧縮ガスのガス圧力は、1〜5MPa程度とすることが好ましい。圧縮ガスの圧力をこの程度に調整することにより、基材110に対する皮膜111の密着強度の向上を図ることができるからである。より好ましくは、2〜5MPa程度の圧力で処理すると良い。
【0038】
このようなコールドスプレー装置100において、基材110として、基板10の金属層17側をスプレーガン103に向けて配置すると共に、ステップS2において調製した混合粉末を粉末供給装置102に投入し、ガス加熱器101及び粉末供給装置102への圧縮ガスの供給を開始する。それにより、スプレーガン103に供給された混合粉末が、この圧縮ガスの超音速流の中に投入されて加速され、スプレーガン103から噴射される。この混合粉末が、固相状態のまま基材110(金属層17)に高速で衝突して堆積することにより、皮膜111が形成される。そして、この皮膜111を所望の厚さとなるまで堆積させることで、緩衝層11が形成される。
【0039】
なお、コールドスプレー法による成膜装置としては、材料の粉末を基材110に向けて固相状態で衝突させて皮膜を形成できる装置であれば、
図3に示すコールドスプレー装置100の構成に限定されるものではない。
【0040】
続くステップS4において、伝熱シート18を介して、ステップS3において形成した緩衝層11に冷却器12を貼り付ける。それにより、
図1に示すパワーモジュール1が完成する。
【0041】
次に、ステップS2における混合粉末の調製方法を詳しく説明する。
本願発明者は、緩衝層11として好適な高熱伝導率及び低熱膨張率を有し、且つ、容易に作製することができる複合材を探索するため、銅に対して種々の材料を添加した混合粉末を用いてコールドスプレー法により皮膜を形成する実験を実施した。表1は、母材であるアルミニウム(A1050)及び添加材として用いた材料の特性を示す表である。併せて、表1の右端に、基材(
図1に示す絶縁基材13)として用いる窒化ケイ素の特性を示す。
【0043】
具体的には、以下の実験(1)〜(4)を行った。
実験(1):アルミニウムの粉末と添加材の粉末との混合比率を種々の比率で混合し、コールドスプレー法により、50mm角×3mm厚のアルミニウム基材(A1050)上に10mmの皮膜を形成した。アルミニウムの粉末としては、ガスアトマイズ法で作製した中心粒径35μmの粉末を用い、乾式混合法により添加材の粉末と混合した。アルミニウムの粉末と添加材の粉末との混合比率は、アルミニウム:添加材=20:80、50:50、及び80:20の3種類とした。また、コールドスプレー条件としては、圧縮ガスの温度を450℃とし、ガス圧力を5MPaとした。
【0044】
そして、形成した皮膜中における添加材の体積含有率を測定し、混合粉末における添加材の体積含有率と、皮膜中における添加材の体積含有率との相関を求めた。皮膜における添加材の体積含有率は、皮膜表面のSEM画像に対して画像解析を行い、アルミニウムの領域の面積と添加材の領域の面積とを比較することにより算出した。
【0045】
実験(2):実験(1)と同様にして厚さ10mmの皮膜を形成し、この皮膜から5mm角×15mm厚の試験片を放電ワイヤー法により切り出し、皮膜の堆積方向と直交する方向における熱膨張率を測定した。該測定結果より、皮膜におけるアルミニウムの体積含有率と熱膨張率との相関を求めた。
【0046】
実験(3):実験(1)と同様にして厚さ10mmの皮膜を形成し、この皮膜から2mm角×40mm厚の試験片を放電ワイヤー法により切り出し、四端子法により導電率を測定した。該測定結果より、皮膜におけるアルミニウムの体積含有率と導電率との相関を求めた。
【0047】
実験(4):実験(1)と同様にして厚さ10mmの皮膜を形成し、この皮膜から2mm角×40mm厚の試験片を放電ワイヤー法により切り出し、皮膜の堆積方向と直交する方向における4点曲げ強度を測定した。該測定結果より、皮膜におけるアルミニウムの体積含有率と曲げ強度との相関を求めた。
【0048】
また、
図4〜
図7は、添加材として中心粒径が21μmのニッケル粉末を使用した場合の実験(1)〜(4)の結果をそれぞれ示すグラフである。
図4の横軸は、成膜前の混合粉末におけるニッケルの体積含有率[vol%]を示し、縦軸は、成膜後の皮膜におけるニッケルの体積含有率[vol%]を示す。
【0049】
また、
図5の横軸は、皮膜におけるアルミニウムの体積含有率[vol%]を示し、縦軸は、皮膜の熱膨張率(CTE)[×10
-6/K]を示す。
図5には併せて、アルミニウムの体積含有率に対する熱膨張率の理論値(Turner則、線形則)も表示している。ターナー(Turner)則は、次式(1)、線形則は次式(2)によって示される。
α
c=(v
mE
mα
m+v
aE
aα
a)/(v
mE
m+v
aE
a) …(1)
α
c=(v
mE
m+v
aE) …(2)
【0050】
式(1)および(2)における各符号は、以下の値を示す。
α
c:複合材における熱膨張率
v
m:母材(アルミニウム)の体積含有率
E
m:母材のヤング率(アルミニウムの場合、E
m=70GPa)
α
m:母材の熱膨張率(アルミニウムの場合、α
m=23×10
-6/K)
v
a:添加材の体積含有率
E
a:添加材のヤング率
α
a:添加材の熱膨張率
ニッケルの場合、添加材のヤング率E
aは200GPaであり、添加材の熱膨張率α
aは13.4×10
-6/Kである。
【0051】
また、
図6の横軸は、皮膜におけるアルミニウムの体積含有率[vol%]を示し、縦軸は、アルミニウム(A1050)に対する導電率比[%]を示す。ここで、アルミニウムに対する導電率比は、アルミニウムに対する熱伝導率比に対応するため、以下においては、導電率比により熱伝導率比を評価する。
図6には併せて、アルミニウムの体積含有率に対する熱伝導率比の理論値も表示している。この理論値は、次式(3)により算出されたものである。
【0053】
式(3)における各符号は、以下の値を示す。
1−Φ:皮膜における添加材の体積含有率
λ
c:皮膜における熱伝導率
λ
m:母材(アルミニウム)の熱伝導率(アルミニウムの場合、λ
m=236W/m・K)
λ
a:添加材の熱伝導率
ニッケルの場合、添加材の熱伝導率λ
aは90.9W/m・Kである。
【0054】
また、
図7の横軸は、混合粉末中のニッケルの体積含有率[vol%]を示し、縦軸は、曲げ強度[MPa]を示す。
【0055】
図4に示すように、中心粒径が21μmのニッケルの粉末を添加材として用いた場合、成膜前の混合粉末におけるニッケルの体積含有率は、皮膜におけるニッケルの体積含有率に概ねリニアな関係が見られた。これより、粉末の状態におけるアルミニウムとニッケルとの混合比率を調節することによって、皮膜に含まれるアルミニウムとニッケルとの比率を精度良く制御できることがわかる。
【0056】
図5に示すように、アルミニウムの体積含有率に対する熱膨張率の実測値は、理論値に概ね沿った傾向を示していた。これより、皮膜におけるアルミニウムとニッケルとの比率を調節することにより、熱膨張率を制御できることがわかる。
【0057】
図6に示すように、アルミニウムの体積含有率に対する導電率比の実測値は、アルミニウムの体積含有率が高くなると熱伝導率比の理論値から乖離してしまった。しかしながら、実測値においても、アルミニウムの体積含有率に対する導電率比に一定の関係が見られることから、アルミニウムとニッケルとの比率を調節することにより、皮膜の熱伝導率を制御することが可能である。
【0058】
図7に示すように、ニッケルの体積含有率に対する曲げ強度は、ニッケルの体積含有率の増加により、概ね直線的に増加することがわかった。これにより、皮膜におけるアルミニウムとニッケルとの比率を調節することにより、曲げ強度を制御できることがわかる。
【0059】
図8〜
図11は、中心粒径が約35μmのチタン(Ti)の粉末を添加材として用いた場合の実験(1)〜(4)の結果をそれぞれ示すグラフである。このうち、
図9に示す理論値は、式(1)および(2)において、添加材のヤング率E
aを106GPaとし、添加材の熱膨張率α
aを8.6×10
-6/Kとして算出したものである。また、
図10に示す理論値は、式(3)において、添加材の熱伝導率λ
aを21.9W/m・Kとして算出したものである。
【0060】
図8に示すように、中心粒径が35μmのチタンの粉末を添加材として用いた場合、成膜前の混合粉末におけるチタンの体積含有率は、皮膜におけるチタンの体積含有率に概ねリニアな関係が見られた。これより、粉末の状態におけるアルミニウムとチタンとの混合比率を調節することによって、皮膜に含まれるアルミニウムとチタンとの比率を精度良く制御できることがわかる。
【0061】
また、
図9に示すように、アルミニウムの体積含有率に対する熱膨張率の実測値は、理論値に概ね沿った傾向を示していた。従って、皮膜におけるアルミニウムとチタンとの比率を調節することにより熱膨張率を制御することが可能であるといえる。
【0062】
さらに、
図10に示すように、アルミニウムの体積含有率に対する導電率比の実測値は、理論値に概ね沿った傾向を示していた。これより、皮膜におけるアルミニウムとチタンとの比率を調節することにより、熱伝導率を制御できる。
【0063】
また、
図11に示すように、チタンの体積含有率に対する曲げ強度は、チタンの体積含有率の増加により、概ね直線的に減少することがわかった。しかしながら、チタンを含まない皮膜(アルミニウムの体積含有率が100%)の曲げ強度が192.6MPaであるのに対し、皮膜中に25〜72体積%のチタンを含む皮膜の曲げ強度は200MPa以上であり、チタンを配合することにより、曲げ強度を向上でき、かつ、皮膜におけるアルミニウムとチタンとの比率を調節することにより、曲げ強度を制御できることがわかった。
【0064】
図12〜
図15は、中心粒径が約35μmのクロム(Cr)の粉末を添加材として用いた場合の実験(1)〜(4)の結果をそれぞれ示すグラフである。このうち、
図13に示す理論値は、式(1)および(2)において、添加材のヤング率E
aを279GPaとし、添加材の熱膨張率α
aを4.9×10
-6/Kとして算出したものである。また、
図14に示す理論値は、式(3)において、添加材の熱伝導率λ
aを93.9W/m・Kとして算出したものである。
【0065】
図12に示すように、中心粒径が35μmのクロムの粉末を添加材として用いた場合、混合粉末におけるクロムの体積含有率に対し、皮膜においてはクロムの体積含有率が低くなっていた。これは、コールドスプレー法で皮膜を形成する場合、クロムの粉末が皮膜に入り込み難いため、クロムの体積含有率を多く(例えば50%以上)することが困難であることを示している。しかしながら、混合粉末におけるクロムの体積含有率に対し、皮膜におけるクロムの体積含有率に一定の関係が見られることから、粉末の状態におけるアルミニウムとクロムとの混合比率を調節することによって、皮膜に含まれるアルミニウムとクロムとの比率を精度良く制御できることがわかる。
【0066】
また、
図13に示すように、アルミニウムの体積含有率に対する熱膨張率の実測値は、理論値に概ね沿った傾向を示していた。従って、皮膜におけるアルミニウムとクロムとの比率を調節することにより熱膨張率を制御することが可能である。
【0067】
さらに、
図14に示すように、アルミニウムの体積含有率に対する導電率比の実測値は、理論値に概ね沿った傾向を示していた。これより、皮膜におけるアルミニウムとクロムとの比率を調節することにより、熱伝導率を制御できる。
【0068】
また、
図15に示すように、クロムの体積含有率に対する曲げ強度は、クロムの体積含有率の増加により、概ね直線的に増加することがわかった。これにより、皮膜におけるアルミニウムとクロムとの比率を調節することにより、曲げ強度を制御できることがわかる。
【0069】
図16〜
図19は、中心粒径が約39μmの銅(Cu)の粉末を添加材として用いた場合の実験(1)〜(4)の結果をそれぞれ示すグラフである。このうち、
図17に示す理論値は、式(1)および(2)において、添加材のヤング率E
aを120GPaとし、添加材の熱膨張率α
aを16.6×10
-6/Kとして算出したものである。また、
図18に示す理論値は、式(3)において、添加材の熱伝導率λ
aを397W/m・Kとして算出したものである。
【0070】
図16に示すように、中心粒径が39μmの銅の粉末を添加材として用いた場合、成膜前の混合粉末における銅の体積含有率は、皮膜における銅の体積含有率に概ねリニアな関係が見られた。これより、粉末の状態におけるアルミニウムと銅との混合比率を調節することによって、皮膜に含まれるアルミニウムと銅との比率を精度良く制御できることがわかる。
【0071】
また、
図17に示すように、アルミニウムの体積含有率に対する熱膨張率の実測値は、理論値に概ね沿った傾向を示していた。従って、皮膜におけるアルミニウムと銅との比率を調節することにより熱膨張率を制御することが可能であるといえる。
【0072】
さらに、
図18に示すように、アルミニウムの体積含有率に対する導電率比の実測値は、理論値に概ね沿った傾向を示していた。これより、皮膜におけるアルミニウムと銅との比率を調節することにより、熱伝導率を制御できる。
【0073】
また、
図19に示すように、銅の体積含有率に対する曲げ強度は、銅の体積含有率の増加により、概ね直線的に増加することがわかった。これにより、皮膜におけるアルミニウムと銅との比率を調節することにより、曲げ強度を制御できることがわかる。
【0074】
図20〜
図23は、中心粒径が約35μmのタングステン(W)の粉末を添加材として用いた場合の実験(1)〜(4)の結果をそれぞれ示すグラフである。このうち、
図21に示す理論値は、式(1)および(2)において、添加材のヤング率E
aを400GPaとし、添加材の熱膨張率α
aを4.5×10
-6/Kとして算出したものである。また、
図22に示す理論値は、式(3)において、添加材の熱伝導率λ
aを174W/m・Kとして算出したものである。
【0075】
図20に示すように、中心粒径が35μmのタングステンの粉末を添加材として用いた場合、成膜前の混合粉末におけるタングステンの体積含有率は、皮膜におけるタングステンの体積含有率に概ねリニアな関係が見られた。これより、粉末の状態におけるアルミニウムとタングステンとの混合比率を調節することによって、皮膜に含まれるアルミニウムとタングステンとの比率を精度良く制御できることがわかる。
【0076】
また、
図21に示すように、アルミニウムの体積含有率に対する熱膨張率の実測値は、理論値に概ね沿った傾向を示していた。従って、皮膜におけるアルミニウムとタングステンとの比率を調節することにより熱膨張率を制御することが可能であるといえる。
【0077】
さらに、
図22に示すように、アルミニウムの体積含有率に対する導電率比の実測値は、熱伝導率比の理論値から乖離してしまった。そこで、アルミニウムの体積含有率に対する熱伝導率比を実測したところ、アルミニウムの体積含有率に対する熱伝導率比に一定の関係が見られることが確認できた。したがって、アルミニウムとタングステンとの比率を調節することにより、皮膜の導電率比を制御することが可能である。
【0078】
また、
図23に示すように、タングステンの体積含有率に対する曲げ強度は、タングステンの体積含有率の増加に伴い、概ね直線的に増加することがわかった。これにより、皮膜におけるアルミニウムとタングステンとの比率を調節することにより、曲げ強度を制御できることがわかる。
【0079】
図24〜
図27は、中心粒径が約30μmのステンレス(SUS304)の粉末を添加材として用いた場合の実験(1)〜(4)の結果をそれぞれ示すグラフである。このうち、
図25に示す理論値は、式(1)および(2)において、添加材のヤング率E
aを199GPaとし、添加材の熱膨張率α
aを17.3×10
-6/Kとして算出したものである。また、
図26に示す理論値は、式(3)において、添加材の熱伝導率λ
aを16.7W/m・Kとして算出したものである。
【0080】
図24に示すように、中心粒径が30μmのステンレスの粉末を添加材として用いた場合、成膜前の混合粉末におけるステンレスの体積含有率は、皮膜におけるステンレスの体積含有率に概ねリニアな関係が見られた。これより、粉末の状態におけるアルミニウムとステンレスとの混合比率を調節することによって、皮膜に含まれるアルミニウムとステンレスとの比率を精度良く制御できることがわかる。
【0081】
また、
図25に示すように、アルミニウムの体積含有率に対する熱膨張率の実測値は、理論値に概ね沿った傾向を示していた。従って、皮膜におけるアルミニウムとステンレスとの比率を調節することにより熱膨張率を制御することが可能であるといえる。
【0082】
さらに、
図26に示すように、アルミニウムの体積含有率に対する導電率比の実測値は、熱伝導率比の理論値に沿った傾向を示していた。これより、皮膜におけるアルミニウムとステンレスとの比率を調節することにより、熱伝導率を制御できる。
【0083】
また、
図27に示すように、ステンレスの体積含有率に対する曲げ強度は、ステンレスの体積含有率の増減にかかわらず、概ね一定値となることがわかった。これにより、皮膜におけるアルミニウムとステンレスとの比率を調節することにより、曲げ強度を制御できることがわかる。
【0084】
また、
図28〜
図30は、添加材として中心粒径が35μmのインバー粉末を使用した場合の実験(1)によりえられた皮膜の表面を映したSEM写真である。
図28は、混合粉末におけるアルミニウムとインバーとの混合比率(アルミニウム:インバー)が20:80)、
図29は、50:50、
図30は、80:20の場合をそれぞれ示している。
【0085】
図31〜
図34は、中心粒径が約35μmのインバーの粉末を添加材として用いた場合の実験(1)〜(4)の結果をそれぞれ示すグラフである。このうち、
図32に示す理論値は、式(1)および(2)において、添加材のヤング率E
aを142GPaとし、添加材の熱膨張率α
aを1.2×10
-6/Kとして算出したものである。また、
図33に示す理論値は、式(3)において、添加材の熱伝導率λ
aを13.4W/m・Kとして算出したものである。
【0086】
図31に示すように、中心粒径が35μmのインバーの粉末を添加材として用いた場合、成膜前の混合粉末におけるインバーの体積含有率は、皮膜におけるインバーの体積含有率に概ねリニアな関係が見られた。これより、粉末の状態におけるアルミニウムとインバーとの混合比率を調節することによって、皮膜に含まれるアルミニウムとインバーとの比率を精度良く制御できることがわかる。
【0087】
また、
図32に示すように、アルミニウムの体積含有率に対する熱膨張率の実測値は、理論値に概ね沿った傾向を示していた。従って、皮膜におけるアルミニウムとインバーとの比率を調節することにより熱膨張率を制御することが可能であるといえる。
【0088】
さらに、
図33に示すように、アルミニウムの体積含有率に対する導電率比の実測値は、
熱伝導率比の理論値に沿った傾向を示していた。従って、皮膜におけるアルミニウムとインバーとの比率を調節することにより熱伝導率を制御することが可能であるといえる。
【0089】
また、
図34に示すように、インバーの体積含有率に対する曲げ強度は、インバーの体積含有率の増加に伴い、概ね直線的に増加することがわかった。これにより、皮膜におけるアルミニウムとインバーとの比率を調節することにより、曲げ強度を制御できることがわかる。
【0090】
また、
図35〜
図37は、添加材として中心粒径が25μmのモリブデン粉末を使用した場合の実験(1)によりえられた皮膜の表面を映したSEM写真である。
図35は、混合粉末におけるアルミニウムとモリブデンとの混合比率(アルミニウム:モリブデン)が20:80)、
図36は、50:50、
図37は、80:20の場合をそれぞれ示している。
【0091】
図38〜
図41は、中心粒径が約25μmおよび57μmのモリブデンの粉末を添加材として用いた場合の実験(1)〜(4)の結果をそれぞれ示すグラフである(
図41は中心粒径が約25μmのみ)。このうち、
図38に示す理論値は、式(1)および(2)において、添加材のヤング率E
aを330GPaとし、添加材の熱膨張率α
aを4.8×10
-6/Kとして算出したものである。また、
図39に示す理論値は、式(3)において、添加材の熱伝導率λ
aを138W/m・Kとして算出したものである。
【0092】
図38に示すように、中心粒径が25μm、57μmのモリブデンの粉末を添加材として用いた場合、混合粉末におけるモリブデンの体積含有率に対し、皮膜においてはモリブデンの体積含有率が低くなっていた。これは、コールドスプレー法で皮膜を形成する場合、モリブデンの粉末が皮膜に入り込み難いため、モリブデンの体積含有率を多く(例えば80%以上)することが困難であることを示している。しかしながら、混合粉末におけるモリブデンの体積含有率に対し、皮膜におけるモリブデンの体積含有率に一定の関係が見られることから、粉末の状態におけるアルミニウムとモリブデンとの混合比率を調節することによって、皮膜に含まれるアルミニウムとモリブデンとの比率を精度良く制御できることがわかる。
【0093】
また、
図39に示すように、アルミニウムの体積含有率に対する熱膨張率の実測値は、理論値(線形則)に沿った傾向を示していた。従って、皮膜におけるアルミニウムとモリブデンとの比率を調節することにより熱膨張率を制御することが可能であるといえる。
【0094】
さらに、
図40に示すように、アルミニウムの体積含有率に対する導電率比の実測値は、アルミニウムの体積含有量が高くなると熱伝導率比の理論値から乖離してしまった。しかしながら、実測値においても、アルミニウムの体積含有率に対する導電率比に一定の関係が見られることから、アルミニウムとモリブデンとの比率を調節することにより、皮膜の熱伝導率を制御することが可能である。
【0095】
また、
図41に示すように、モリブデンの体積含有率に対する曲げ強度は、モリブデンの体積含有率の増加に伴い、概ね直線的に増加することがわかった。これにより、皮膜におけるアルミニウムとモリブデンとの比率を調節することにより、曲げ強度を制御できることがわかる。
【0096】
以上説明したように、本実施の形態1によれば、コールドスプレー法を用いることにより、緩衝層11を基板10(金属層17)上に直接形成することができる。そのため、絶縁基材13と冷却器12との間における熱応力を緩和することができる。また、従来のパワーモジュールの構成に対し、伝熱シートやグリース等の熱抵抗層を1層省くことができる。従って、基板10において発生した熱を効率良く放出することができる。さらに、金属層17と緩衝層11との界面での塑性変形によるアンカー効果で金属層17と緩衝層11との密着性が向上し、耐久性に優れたパワーモジュールを実現することが可能となる。
【0097】
また、本実施の形態1によれば、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉末と、ニッケル、チタン、クロム、銅、タングステン、ステンレス、鉄ニッケル合金およびモリブデンからなる群から選択される粉末との混合粉末をコールドスプレー法の材料粉末に適用するので、粉末の混合比率を調節することで、所望の組成比を有する皮膜、言い換えると、所望の熱膨張率や熱伝導率を有する皮膜を容易に形成することができる。また、アルミニウムまたはアルミニウム合金と添加材との粉末の混合比率を調節することにより、皮膜の熱膨張率や熱伝導率を容易に制御することができる。従って、パワーモジュール1における緩衝層11のように、低熱膨張且つ高熱伝導といった要求される特性等に応じた皮膜を容易に実現することができる。また、このような皮膜の組成や特性の制御を、AlSiC、AlC複合材等よりも容易且つ安価に行うことができる。
【0098】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について説明する。
図42は、本実施の形態2に係るパワーモジュールの構造を示す断面図である。
図42に示すパワーモジュール1Aは、
図1に示すパワーモジュール1に対し、緩衝層11が冷却器12の表面(
図1においては上面)に直接形成されていると共に、伝熱シート18を介して緩衝層11が基板10の金属層17側に接着されている点が異なる。各部の材料や構成については、実施の形態1と同様である。
【0099】
実施の形態2にかかるパワーモジュール1Aは、実施の形態1のステップS1およびステップS2と同様にして、基板10および緩衝層11の材料となる混合粉末を調製する。その後、コールドスプレー法により、冷却器12に緩衝層11を形成する。即ち、
図3に例示するコールドスプレー装置100において、基材110として冷却器12の基部12aの表面(
図42においては上面)をスプレーガン103に向けて配置すると共に、調製した混合粉末を粉末供給装置102に投入して、皮膜111を形成する。冷却器12に緩衝層11を構成する材料粉末が衝突し、冷却器12と緩衝層11との界面で塑性変形が生じる。この界面での塑性変形によるアンカー効果により冷却器12と緩衝層11との密着性が向上する。コールドスプレー法により形成された緩衝層11は、伝熱シート18を介して基板10に貼り付けられる。これにより、
図42に示すパワーモジュール1Aが完成する。
【0100】
本実施の形態2によれば、冷却器12側に直接緩衝層11を形成する場合においても、従来のパワーモジュールの構成に対し、伝熱シートやグリース等の熱抵抗層を1層省くことができるので、基板10において発生した熱を効率良く放出することができる。また、コールドスプレー法により冷却器12上に緩衝層11を形成するため、冷却器12に緩衝層11を構成する材料粉末が衝突して、冷却器12と緩衝層11との界面で塑性変形が生じ、この界面での塑性変形によるアンカー効果で冷却器12と緩衝層11との密着性が向上し、耐久性に優れたパワーモジュールを実現することが可能となる。
【0101】
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3について説明する。
図43は、本実施の形態3に係るパワーモジュールの構造を示す断面図である。
図43に示すパワーモジュール1Bは、
図1に示すパワーモジュール1に対し、冷却器12がコールドスプレー法により緩衝層11に直接形成されている点が異なる。各部の材料や構成については、実施の形態1と同様である。
【0102】
実施の形態3にかかるパワーモジュール1Bは、実施の形態1のステップS1〜ステップS3と同様にして、基板10および緩衝層11の材料となる混合粉末を調製し、コールドスプレー法により、金属層17に緩衝層11を形成した後、緩衝層11に冷却器12をコールドスプレー法により形成する。冷却部12bは、マスクを用いてコールドスプレー法によりフィン形状としてもよく、あるいは、基部12aと同様にしてコールドスプレー法により平板状とした後、切削によりフィン形状を形成してもよい。
【0103】
実施の形態3にかかる緩衝層11および冷却器12の熱膨張率は、9ppm/K以上22ppm/K以下である。緩衝層11および冷却器12を構成する添加材は同一のものでも異なるものでもよいが、緩衝層11の熱膨張率が、基板10の熱膨張率より大きく、かつ冷却器12の熱膨張率より小さくなるように、添加材の種類、または添加材の配合量を選択することが好ましい。また、緩衝層11および冷却器12の熱伝導率は24W/m・K以上185W/m・K以下である。
【0104】
本実施の形態3によれば、伝熱シートやグリース等の熱抵抗層を使用しないため、基板10において発生した熱を効率良く放出することができる。また、コールドスプレー法により緩衝層11および冷却器12を形成するため、金属層17と緩衝層11との界面、冷却器12と緩衝層11との界面で塑性変形が生じ、この界面での塑性変形によるアンカー効果で金属層17と緩衝層11、および冷却器12と緩衝層11との密着性が向上し、耐久性に優れたパワーモジュールを実現することが可能となる。