(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378277
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】時計に適用するための鉄・ニッケル・クロム・マンガン合金の改良方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20180813BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20180813BHJP
C21C 7/00 20060101ALI20180813BHJP
G04B 17/22 20060101ALI20180813BHJP
F16F 1/02 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
C22C38/00 302A
C22C38/58
C21C7/00 101A
C21C7/00 101Z
G04B17/22 Z
F16F1/02 A
【請求項の数】14
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-196247(P2016-196247)
(22)【出願日】2016年10月4日
(65)【公開番号】特開2017-101319(P2017-101319A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2016年10月4日
(31)【優先権主張番号】15197408.6
(32)【優先日】2015年12月2日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス−ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン・シャルボン
【審査官】
河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】
特表2016−526163(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2016/0124391(US,A1)
【文献】
特公昭48−014526(JP,B1)
【文献】
特公昭49−010892(JP,B1)
【文献】
国際公開第2009/069762(WO,A1)
【文献】
特公昭50−019511(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/00 − 49/14
C21C 7/00
F16F 1/02
G04B 17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計に適用するための鉄・ニッケル・クロム・マンガン合金の改良方法であって、質量にして:
−ニッケルを4.0〜13.0%、
−クロムを4.0〜12.0%、
−マンガンを21.0〜25.0%、
−モリブデンを0〜5.0%、および/または銅を0〜5.0%、
−残りの部分は鉄及び不可避的不純物、
からなるベース合金を選択および製造すること、ならびに、前記ベース合金の総質量に対する内割りで:
−炭素を0.10〜1.20%、および/または
−窒素を0.10〜1.20%
を添加して、これら炭素および/または窒素を格子間に挿入させることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ベース合金の質量に対する炭素の割合と窒素の割合の合計が、0.60〜0.95%になるように、炭素と窒素の前記挿入を調整することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ベース合金の質量に対する炭素の割合と窒素の割合の合計が、0.75〜0.95%になるように、炭素と窒素の前記挿入を調整することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ベース合金の質量に対する炭素の割合と窒素の割合の合計が、0.80〜0.85%になるように、炭素と窒素の前記挿入を調整することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ベース合金の総質量に対する内割りで炭素の割合と窒素の割合の比が、0.5〜2.0になるように、炭素と窒素の前記挿入を調整することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ベース合金の総質量に対する内割りで炭素の割合と窒素の割合の比が、1.0〜1.5になるように、炭素と窒素の前記挿入を調整することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ベース合金は、質量にして、少なくとも8.0%のクロムを含むよう選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
耐食性を改善するために、前記ベース合金の質量に対する割合として、0.5〜5.0%のモリブデンおよび/または銅が前記ベース合金に含まれていることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
質量にして:
−ニッケルを4.0〜13.0%、
−クロムを4.0〜12.0%、
−マンガンを21.0〜25.0%、
−モリブデンを0〜5.0%、および/または銅を0〜5.0%、
−残りの部分に鉄
を含むベース合金を選択および製造することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
正しい化学組成を得るために、前記窒素はフェロクロムに添加されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
正しい化学組成を得るために、前記炭素はフェロマンガンに添加されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
正しい化学組成を得るために、前記窒素はフェロクロムに添加され、前記炭素はフェロマンガンに添加されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記合金の製造が:
−一方では純金属、ニッケル、クロム、および鉄を、もう一方では:
クロム65質量%、窒素3質量%、残りは鉄から成る、Nitrided Low Carbon Ferro Chromiumと呼ばれる低炭素フェロクロム系、
マンガン75質量%、炭素7質量%、残りは鉄から成る、High Carbon Ferro Manganeseと呼ばれる高炭素フェロマンガン系、
マンガン95質量%、残りは鉄から成る、Low Carbon Ferro Manganeseと呼ばれる低炭素フェロマンガン系
のプレアロイを、適切な割合で準備するステップA、
−真空誘導炉で、窒素分圧下で、鉄、ニッケル、およびクロムを溶融して合金を生成するステップB、
−前記低炭素フェロマンガンと前記高炭素フェロマンガンとを前記ステップBで生成された前記合金に添加するステップC、
−前記ステップCで生成された合金の温度を制御し、この合金の液相線より少なくとも20℃高く維持するステップD、
−前記低炭素フェロクロムを前記ステップDで生成された合金に添加するステップE、
−前記ステップEで生成された合金の温度を制御し、この合金の液相線より少なくとも20℃高く維持するステップF、
−前記ステップFで生成された合金のインゴットの鋳造を実行するステップG
を含む鋳造工程を含むことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
時計のヒゲゼンマイを製造するための、請求項1に従って製造される合金の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計に適用するための鉄・ニッケル・クロム・マンガン合金の改良方法に関する。
【0002】
本発明は、ヒゲゼンマイを製造するためのそのような合金の使用にも関する。
【背景技術】
【0003】
時計のヒゲゼンマイに使用される温度補正合金は、その多くがシャルル・エドゥアール・ギヨームの研究の産物であり、Fe−Ni−Crのエリンバーに基づく。その後、W+Cや、Ti+Al、Be、Nbといった硬化元素が加わり、特に、「エリンバー」、「Ni−Span」、「Nivarox」、「Isoval」といった合金が生まれた。
【0004】
これらの合金はすべて、その機械的特性ゆえに適用に適しているが、強磁性であるため、磁場に敏感で、これが時計の機能に害を及ぼす。
【0005】
1970〜1990年に抗強磁性合金に関する研究が発表されたが、産業開発には至らなかった。これらの合金は磁場の影響をほとんど受けないが、産業上の問題がいくつかあり、1980年代に時計産業の危機が訪れたことにより開発が止まった。
【0006】
出願人NIVAROX SAによる欧州特許出願公開2924514号明細書は、オーステナイトの面心立方構造に従って配置された、鉄とクロムを主成分とし、マンガンと窒素を含むステンレス鋼合金で製造される時計ばねまたは宝飾品を記述しており、そのばねの組成は、質量にして以下の通りである。
−クロム:最小値15%、最大値25%;
−マンガン:最小値5%、最大値25%;
−窒素:最小値0.10%、最大値0.90%;
−炭素:最小値0.10%、最大値1.00%;
−炭素と窒素の総質量値(C+N)の、総量に対する割合が0.40%〜1.50%;
−総量に対する炭素の質量含有量の割合と、窒素のそれとの比率(C/N)が0.125〜0.550;
−不純物、および鉄以外の金属;最小値0%、最大値12.0%;
−鉄:補完して100%にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願公開2924514号明細書
【発明の概要】
【0008】
特にManfred Muller工学博士の研究から知られている、Fe−Mn−Ni−Cr系の抗強磁性合金群が特に注目される。
【0009】
そのような合金は、Beを添加して、またはTi+Alを添加して硬化させることができる。
【0010】
Beは毒性があるため望ましくない。また、Ti+Alの添加は、合金中に存在するNiとTi+Alが反応するため難しく、組成を局所的に改変することにより、合金の熱係数を制御することが難しくなる。さらに、Ni
3AlおよびTi
3Alの沈殿による組織硬化のために、合金の延性が低下する傾向がある。
【0011】
本発明の目的は、十分な硬化を可能にする代替物を見つけることである。
【0012】
このため、本発明は、請求項1に記載する、時計に適用するための鉄・ニッケル・クロム・マンガン合金の改良方法に関する。
【0013】
要するに、本発明は、HIS鋼の原理に従って、炭素と窒素を格子間に挿入することにより、Fe−Mn−Ni−Cr系合金を硬化させることができる。
【0014】
C+Nによるそのような硬化は、抗強磁性で環境にやさしい、良好な機械的特性を有する合金の開発を可能にする。
【0015】
本発明は、時計のヒゲゼンマイを製造するためのそのような合金の使用にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、時計に適用するための鉄・ニッケル・クロム・マンガン合金の改良方法に関する。
【0017】
本発明に従って、質量にして:
−ニッケルを4.0〜13.0%、
−クロムを4.0〜12.0%、
−マンガンを21.0〜25.0%、
−モリブデンを0〜5.0%、および/または銅を0〜5.0%、
−残りの部分に鉄
を含むベース合金を選択および製造し、かつ、このベース合金の質量の割合にして:
−炭素を0.10〜1.20%、および/または
−窒素を0.10〜1.20%
で、炭素と窒素を格子間に挿入することによって、この合金の抗強磁特性を維持しながらこれを硬化する。
【0018】
したがって、クロムの割合は、先に挙げた欧州特許出願公開2924514号明細書よりもはるかに小さい。
【0019】
より詳細には、ベース合金の質量に対する炭素の割合と窒素の割合の合計が、0.60〜0.95%になるように、炭素と窒素のこの挿入を調整する。
【0020】
より詳細には、ベース合金の質量に対する炭素の割合と窒素の割合の合計が、0.75〜0.95%になるように、炭素と窒素のこの挿入を調整する。
【0021】
より詳細には、ベース合金の質量に対する炭素の割合と窒素の割合の合計が、0.80〜0.85%になるように、炭素と窒素のこの挿入を調整する。
【0022】
より詳細には、ベース合金の総質量に対する炭素の割合と窒素の割合の比が、0.5〜2.0になるように、炭素と窒素のこの挿入を調整する。
【0023】
より詳細には、ベース合金の総質量に対する炭素の割合と窒素の割合の比が、1.0〜1.5になるように、炭素と窒素のこの挿入を調整する。
【0024】
より詳細には、このベース合金は、質量にして、少なくとも8.0%のクロムを含むよう選択される。
【0025】
より詳細には、耐食性を改善するために、ベース合金の質量に対する割合として、0.5〜5.0%のモリブデンおよび/または銅がベース合金に含まれている。
【0026】
より詳細には、質量にして:
−ニッケルを4.0〜13.0%、
−クロムを4.0〜12.0%、
−マンガンを21.0〜25.0%、
−モリブデンを0〜5.0%、および/または銅を0〜5.0%、
−残りの部分に鉄
を含むベース合金を選択および製造する。
【0027】
より詳細には、正しい化学組成を得るために、窒素にフェロクロムを添加する。
【0028】
より詳細には、正しい化学組成を得るために、炭素にフェロマンガンを添加する。
【0029】
より詳細には、正しい化学組成を得るために、窒素にフェロクロムを添加し、炭素にフェロマンガンを添加する。
【0030】
より詳細には、この合金の製造は:
−一方では純金属、ニッケル、クロム、および鉄を、もう一方では:
クロム65%、窒素3%、残りは鉄から成る、Nitrided Low Carbon Ferro Chromiumと呼ばれる低炭素フェロクロム系、
マンガン75%、炭素7%、残りは鉄から成る、High Carbon Ferro Manganeseと呼ばれる高炭素フェロマンガン系、
マンガン95%、残りは鉄から成る、Low Carbon Ferro Manganeseと呼ばれる低炭素フェロマンガン系
のプレアロイを、適切な割合で準備するステップ、
−真空誘導炉で、窒素分圧下で、鉄、ニッケル、およびクロムを溶融するステップ、
−低炭素フェロマンガンと高炭素フェロマンガンとを添加するステップ、
−温度を制御し、合金の液相線より約20℃高く、または合金の液相線より少なくとも20℃高く維持するステップ、
−窒素の主な成分である低炭素窒素にフェロクロムを添加するステップ、
−温度を制御し、合金の液相線より約20℃高く、または合金の液相線より少なくとも20℃高く維持するステップ、
−インゴットの鋳造を実行するステップ
を含む鋳造工程を含む。
【0031】
本発明は、時計のヒゲゼンマイ、特に発振器用のヒゲゼンマイを製造するためのそのような合金の使用にも関する。