(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
鉄鉱石等を輸送する貨物船などの船舶では、貨物艙(以下、ホールドと称することもある。)に積まれた鉄鉱石等の積荷(以下、カーゴと称することもある。)に含まれる水(以下、ビルジと称することもある。)を、船底付近に設けられたビルジウェルを経て、船外に排出している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、ブラジルのPDM(Ponta Da Madeira)港で積まれるカラジャスファイン(Carajas Fine)と呼ばれる鉄鉱石は、ビルジを多く含んでいることが知られている。
【0004】
積荷がカラジャスファインである場合、ビルジウェルへの排出口に設けられた金網状のストレーナー(フィルタ)が目詰まりし、これにより、ビルジがビルジウェルに排出されず、カーゴの周囲に残存してしまうことがある。ビルジが残存していると、荷揚げ時に、ビルジの排水処理等を行わなければならないため作業効率が悪く、その結果、荷揚げ作業に時間がかかってしまう。
【0005】
この課題に鑑みて発明された、ビルジを効率よく、ビルジウェルに排出するためのビルジ排出促進パイプがある(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、
図4は、ホールドの概略図である。
図4(A)は、ばら積み船のホールドを示し、
図4(B)は、鉱石専用船のホールドを示している。
【0008】
特許文献1に開示されている従来のビルジ排出促進パイプ11は、一般のばら積み船に鉄鉱石を積載する場合には有効である。これは、鉄鉱石201は、積載量の制限や比重などから、ホールド101内に満載されず、ホールド101の中央付近に、中央部が高く盛り上がった形状で積載されるためである(
図4(A)参照)。
【0009】
しかしながら、いわゆる鉱石専用船では、ホールド102の容積に対する鉄鉱石の積載量が、鉱石専用船以外の貨物船に比べて大きい。このため、鉱石専用船では、上述の従来のビルジ排出促進パイプ11が、カーゴ202により埋まってしまい(
図4(B)参照)、カラジャスファインに限らず、鉄鉱石を積載した場合にビルジの排出が十分に行われない。
【0010】
この発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、この発明の目的は、鉄鉱石に含まれるビルジをビルジウェルに排出させるビルジ排出促進パイプであって、ホールドの容積に対する鉄鉱石の積載量が大きい鉱石専用船に用いて好適なビルジ排出促進パイプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するために、この発明のビルジ排出促進パイプは、貨物艙内に設けられ、貨物艙に積み込まれた積荷である鉄鉱石に含まれるビルジを、ビルジウェルに排出する。
【0012】
このビルジ排出促進パイプは、順に接続された、第1部分と、第2部分と、第3部分とを備えて構成される。
【0013】
第1部分は、船艙を複数の貨物艙に区分する隔壁を支持する下部スツール内に設けられる。第2部分は、第1部分と接続され、隔壁に沿って鉛直に設けられ、側面に中空部分と連通する複数の穴を備える。第3部分は、第2部分と接続され、隔壁を支持する上部スツール内に設けられ、第2部分と接続される端部と反対側の端部が、上部デッキに達する。ここで、第2部分が備える穴は、第1部分側から、少なくとも、積荷の上面よりも高い位置まで設けられる。
【発明の効果】
【0014】
この発明のビルジ排出促進パイプによれば、ビルジが、第2部分に設けられた穴からビルジ排出促進パイプ内に送られ、第1部分を経てビルジウェルに排出される。この結果、荷揚げ時に貨物艙内のビルジの排出作業が不要になる、もしくは軽減される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態について説明するが、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係については、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例について説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。
【0017】
図1、2及び3を参照して、この実施形態のビルジ排出促進パイプについて説明する。
図1は、ビルジ排出促進パイプの模式図である。
図2は、ビルジ排出促進パイプが取り付けられる箇所を上面から見た模式図である。
図3は、ビルジ排出促進パイプの、特に第2部分の模式図である。
【0018】
一般に、貨物船では、貨物艙(ホールド)の下側の船底付近にビルジウェルが設けられている。積荷(カーゴ)に含まれる水(ビルジ)は、ホールドの底面に設けられた排水口を経てビルジウェルに送られる。ビルジウェルに送られたビルジは、状況に応じて、随時船外に排出される。
【0019】
鉱石専用船では、船艙が隔壁(Bulkhead)130により複数の貨物艙(ホールド:Hold)100に区分されている。また、ホールド100の下側の船底付近にビルジウェル110が設けられている。
【0020】
隔壁130は、ホールド100の底面(Tanktopとも称する。)110a側では、下部スツール(Lower Stool)120により支持される。また、隔壁130は、甲板(上部デッキとも称する。)100b側では、上部スツール(Upper Stool)140により支持される。隔壁130は、例えば、波形の板で形成される。この波形の板で形成された隔壁をCorrugated Bulkheadとも称する。
【0021】
積荷(カーゴ)200に含まれる水(ビルジ)は、ホールド100の底面110aに設けられた排水口(図示を省略する。)を経てビルジウェル110に送られる。ビルジウェル110に送られたビルジは、状況に応じて、随時船外に排出される。ここで、カーゴ200がカラジャスファインである場合、ビルジウェル110への排出口に設けられた金網状のストレーナー(フィルタ)が目詰まりし、これにより、ビルジがビルジウェル110に排出されず、カーゴ200の周囲に残存してしまうことがある。
【0022】
また、鉱石専用船の場合、カーゴ200の上面200aが、ホールド100の底面110aから高い位置に達する。このため、ビルジをビルジウェル110への排水口から排出するのが、ばら積み船に比べて困難になることが想定される。
【0023】
そこで、この実施形態のビルジ排出促進パイプ10は、第1部分20、第2部分30及び第3部分40がこの順に接続されて構成されている。
【0024】
ビルジ排出促進パイプ10は、任意好適な材料の管状部材(パイプ)を用いて構成される。複数のパイプを連結して、また、必要に応じて加工して所定の形状のビルジ排出促進パイプ10が形成される。ここでは、ビルジ排出促進パイプ10を、第1部分20、第2部分30、第3部分40が連結された構造として説明するが、これに限定されない。例えば、第1部分20、第2部分30及び第3部分40を、それぞれ複数のパイプを連結して構成してもよいし、第1部分20、第2部分30及び第3部分40を1本のパイプとして一体に構成してもよい。
【0025】
第1部分20は、主に下部スツール120内に設けられている。第1部分20の一方の端部(第1端部)22は、ビルジウェル110内に位置するように設けられる。第1部分20の他方の端部(第2端部)24は、下部スツール120の上面120a付近に位置するように設けられる。
【0026】
第2部分30は、下部スツール120の上面120aから、上部スツール140の下面140a付近まで、隔壁130に沿って鉛直に設けられる。第2部分30の一方の端部(第1端部)32は、第1部分20の第2端部24と接続される。また、第2部分30の他方の端部(第2端部)34は、上部スツール140の下面140a付近に位置するように設けられる。
【0027】
なお、隔壁130がCorrugated Bulkheadである場合は、
図2に示すように、ビルジ排出促進パイプ10は、この波形の板の間の部分に設けられる。すなわち、ビルジ排出促進パイプ10は、Corrugated Bulkheadから突出しないように、設けられる。
【0028】
第2部分30は、側面に中空部分36と連通する複数の穴38を備えている。この複数の穴38は、任意好適な手段で形成することができる。ここで、穴38の直径が小さいと、目詰まりを起こす可能性がある。一方、穴38の直径が大きいと、積み込み時や荷揚げ時に、鉄鉱石がビルジ排出促進パイプ10内に多量に入ってしまうなどして、良好な性能を示さない恐れがある。
【0029】
そこで、ここでは、穴38の直径を10mmとした。なお、良好な性能を示すのであれば、穴38の直径を10mmより小さくしてもよいし、10mmより大きくしてもよい。
【0030】
この穴38は、第2部分30の長手方向に直交する断面の円周上に、等間隔に4つ設けられる。すなわち、断面の中心に対して、0度、90度、180度、270度の位置に設けられる。この4つを1組とする穴38は、第2部分30の長手方向に100mm間隔で設けられる。なお、隣り合う組の穴38の位置は、断面の中心に対して、45度ずれている。従って、例えば、ある組の穴38の位置が、断面の中心に対して、0度、90度、180度、270度である場合、長手方向に隣り合う組の穴38の位置は、断面の中心に対して、45度、135度、225度、315度になる。なお、良好な性能を示すのであれば、穴の配置、個数は、上述の構成に限定されない。
【0031】
これらの穴38は、第2部分30の第1端部32側から第2端部34側に向けて、少なくとも、カーゴ200の上面200aより高い位置、すなわち、積付高さより高い位置まで設けられる。
【0032】
ここで、積付高さは、カーゴ200の上面200aの、隔壁130におけるホールド100の底面110aからの高さを指す。また、静止角は、これ以上の角度で積むと崩れる最大の角度であり、鉄鉱石の静止角は、約36度といわれている。
【0033】
ここで、ホールド100に積載される鉄鉱石の重量(単位:MT(metric ton)=1,000kg)と、ホールド100の容積(単位:CFT(cubic feet)=1.133 cubic meter)により与えられる積付係数SF(Stowage Factor)を13.5CFT/MT、静止角を25度と仮定すると、積付高さは、例えば11.8mとなる。
【0034】
従って、少なくとも、ホールド100の底面110aから11.8mの高さより高い位置まで、穴38を設ける必要がある。
【0035】
なお、積付係数SFが大きくなると、積付高さが高くなる。一般的な鉄鉱石の積付係数SFは13.0〜13.5であるが、積付係数SFが15まで排出可能にするのが良い。このため、この実施形態では、ホールド100の底面110aから13.2mの高さより高い位置まで、穴38を設けている。
【0036】
ここで、積付係数SFは、ホールドの形状や、鉄鉱石の産地、ブランド等によって定められる。また、積付高さは、これらに加えて、カーゴ200の積載量と、静止角により定められる。
【0037】
第3部分40は、主に上部スツール140内に設けられている。第3部分40の一方の端部(第1端部)42は、第2部分30の第2端部34と接続される。第3部分40の他方の端部(第2端部)44は、上部スツール140の上面付近、すなわち、上部デッキ100bに達する位置付近に設けられる。
図1では、第3部分40の第1端部42が、上部スツール140の下面140aの下側に設けられ、第3部分40の第2端部44が上部デッキ100b上に設けられる例を示しているが、これら、第1端部42及び第2端部44は、上部スツール140内に設けられてもよい。
【0038】
このビルジ排出促進パイプ10によれば、ビルジが、第2部分30に設けられた穴38からビルジ排出促進パイプ10内に送られ、第1部分20を経てビルジウェル110に排出される。この結果、荷揚げ時に貨物艙内のビルジの排出作業が不要になる、もしくは軽減される。
【0039】
また、ビルジ排出促進パイプ10の第1部分20は、下部スツール120内に設けられ、第2部分30は、隔壁130がCorrugated Bulkheadである場合は、Corrugated Bulkheadから突出しないように設けられる。このため、ビルジ排出促進パイプ10により、荷揚げ作業が妨げられることはない。
【0040】
このビルジ排出促進パイプ10では、第2部分30に設けられている穴38から鉄鉱石がパイプ10内に入ってしまうことがあり、それにより、良好な性能を示さない恐れがある。そのため、パイプ10内の鉄鉱石を取り除く保守作業などが必要になる。
【0041】
しかし、このビルジ排出促進パイプ10は、第1部分20が下部スツール120内に設けられ、また、第3部分40が上部スツール140内に設けられている。また、第2部分30は、10m以上の長さである。このため、運航中における、分解しての保守点検等は容易ではない。
【0042】
そこで、第3部分40の第2端部44からビルジ排出促進パイプ10内に注水することにより、パイプ内の鉄鉱石をパイプ外へ流す作業が行われる。このビルジ排出促進パイプ10では、第3部分40の第2端部44が上部デッキ110b付近に設けられているので、この保守作業を行う作業員がアクセスしやすい。
【0043】
また、第3部分40の第2端部44を、着脱自在の封止手段により、封止しておくのがよい。この構成によれば、パイプ内への注水などが必要なときのみ、第2端部44の封止手段を外して作業を行い、それ以外のときは、封止しておくことで、不要な物がパイプ内に入ってしまうことを防ぐことができる。