特許第6378311号(P6378311)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378311
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】物体を特徴付ける方法とシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/13 20060101AFI20180813BHJP
   A61B 8/12 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   A61B8/13
   A61B8/12
【請求項の数】22
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-503022(P2016-503022)
(86)(22)【出願日】2014年3月14日
(65)【公表番号】特表2016-515894(P2016-515894A)
(43)【公表日】2016年6月2日
(86)【国際出願番号】US2014029235
(87)【国際公開番号】WO2014144709
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2017年2月7日
(31)【優先権主張番号】61/791,713
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ティアニー ギレルモ ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】リー リー
(72)【発明者】
【氏名】サブラマニアム バラチュンダー
【審査官】 森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0255433(US,A1)
【文献】 特表2013−530741(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0022338(US,A1)
【文献】 特開2013−034852(JP,A)
【文献】 特開2012−217554(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0018645(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00−8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標物体である、少なくとも1つの解剖構造の血液酸素飽和度を決定するシステムであって、
時変強度を有する少なくとも1つの電磁放射前記少なくとも1つの解剖構造と、参照物体である、さらなる解剖構造とに送るように構成される第1の装置と、
前記少なくとも1つの解剖構造と前記さらなる解剖構造に影響を及ぼす前記少なくとも1つの電磁放射に反応して、前記少なくとも1つの解剖構造と前記さらなる解剖構造のそれぞれからもたらされる少なくとも1つの音響信号を検出するように構成される検出器である、第2の装置と、
(i)前記さらなる解剖構造からの前記音響信号から、その少なくとも1つの特性に基づいて較正データを得るように、かつ(ii)前記較正データと前記少なくとも1つの解剖構造からの前記音響信号とを用いて、前記少なくとも1つの解剖構造の前記血液酸素飽和度を決定するように構成される処理ハードウェアである、第3の装置と、を備えるシステム。
【請求項2】
前記第2の装置が少なくとも1つの音響変換器を備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記少なくとも1つの解剖構造が肺動脈を含み、かつ前記さらなる解剖構造が大動脈を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記少なくとも1つの解剖構造が静脈を含み、かつ前記さらなる解剖構造が動脈を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記少なくとも1つの電磁放射を、食道壁を通して前記肺動脈と前記大動脈とに送るように構成される光ガイドをさらに備える、請求項に記載のシステム。
【請求項6】
前記音響信号が前記大動脈から取得される、請求項に記載のシステム。
【請求項7】
前記肺動脈の前記血液酸素飽和度が混合静脈血酸素飽和度である、請求項に記載のシステム。
【請求項8】
前記大動脈の前記少なくとも1つの特性が動脈血酸素飽和度である、請求項に記載のシステム。
【請求項9】
動脈酸素飽和度を測定するように構成される酸素測定装置をさらに備える、請求項に記載のシステム。
【請求項10】
前記酸素測定装置がパルスオキシメータである、請求項に記載のシステム。
【請求項11】
前記音響変換器の少なくとも一部が、食道内部にあるように提供され、かつ構造化される、請求項に記載のシステム。
【請求項12】
前記音響変換器が、超音波画像を取得するように構成される、請求項に記載のシステム。
【請求項13】
媒質の背部または内部に位置する目標物体である、少なくとも1つの解剖構造血液酸素飽和度を決定するためのコンピュータ実行可能命令を含む非一時的なコンピュータアクセス可能媒体であって、ハードウェア処理装置が前記命令を実行するときに、前記処理装置が、
前記媒質の背部または内部に位置する参照物体である、さらなる解剖構造を特定するステップと、
少なくとも1つの電磁波を用いて、前記媒質の表面を介して前記目標物体と前記参照物体とに照射をもたらすステップと、
前記少なくとも1つの電磁波に反応して被照射組織容量からもたらされる少なくとも1つの音響信号を測定するステップと、
前記参照物体の少なくとも1つの既知の特性に基づいて、前記参照物体から測定される前記音響信号の較正情報を取得するステップと、
前記較正情報と前記目標物体からの前記音響信号とに基づいて、前記目標物体の前記血液酸素飽和度を決定するステップと、を備える手順を実行するように構成される、コンピュータアクセス可能媒体。
【請求項14】
前記少なくとも1つの解剖構造が肺動脈を含み、かつ前記さらなる解剖構造が大動脈を含む、請求項13に記載のコンピュータアクセス可能媒体。
【請求項15】
前記少なくとも1つの解剖構造が静脈を含み、かつ前記さらなる解剖構造が動脈を含む、請求項13に記載のコンピュータアクセス可能媒体。
【請求項16】
前記処理装置が、光ガイドを用いて食道壁を通して提供され、前記肺動脈と前記大動脈とに送られる前記少なくとも1つの電磁波をもたらすように構成される、請求項14に記載のコンピュータアクセス可能媒体。
【請求項17】
前記音響信号が前記大動脈から取得される、請求項14に記載のコンピュータアクセス可能媒体。
【請求項18】
前記肺動脈の前記血液酸素飽和度が混合静脈血酸素飽和度である、請求項14に記載のコンピュータアクセス可能媒体。
【請求項19】
前記大動脈の前記少なくとも1つの特性が動脈血酸素飽和度である、請求項14に記載のコンピュータアクセス可能媒体。
【請求項20】
音響変換器の少なくとも一部が、食道内部にあるよう提供され、かつ構造化される、請求項13に記載のコンピュータアクセス可能媒体。
【請求項21】
音響変換器が、超音波画像を取得するように構成される、請求項13に記載のコンピュータアクセス可能媒体。
【請求項22】
媒質の背部または内部に位置する目標物体の血液酸素飽和度を決定する方法であって、
前記媒質の背部または内部に位置する参照物体を特定するステップと、
少なくとも1つの電磁波を用いて、前記媒質の表面を介して前記目標物体と前記参照物体とに照射するステップと、
前記少なくとも1つの電磁波に反応して、前記目標物および参照物体の被照射組織容量からもたらされる音響信号を測定するステップと、
前記参照物体の少なくとも1つの既知の特性に基づいて、前記参照物体から測定される前記音響信号の少なくとも1つから較正情報を取得するステップと、
前記較正情報と前記目標物体からの前記音響信号とに基づいて、前記目標物体の前記血液酸素飽和度を決定するステップと、を備える方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
この出願は、2013年3月15日に出願された米国仮特許出願第61/791,713号に関連し、かつ当該出願からの優先権を主張する。その開示内容の全体が参照により本書に援用される。
【0002】
本開示の例示的な実施形態は、一般に、物体(例えば、組織深部の物体)を正確に特徴付ける方法とシステムに関し、具体的には、例えば集中治療において低リスクの血行動態モニタリングを提供するための例示的な方法とシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
血行動態モニタリングは、救急部、手術室、集中治療室での重症患者の管理において重要な役割を果たしている。組織への適切な血液酸素供給は、人間の生命を維持するために不可欠である。組織の酸素の欠乏が続くと、重要臓器の機能不全につながる可能性があり、最終的に、外傷、熱傷、心臓発作、および敗血症といったさまざまな疾患によって死に至ることも少なくない。混合静脈血酸素飽和度(SvO)は血行動態モニタリングの主な測定対象である。SvO、すなわち肺動脈の混合静脈血で測定される酸素飽和度は、全身の酸素の供給と需要の動的バランスを反映している。通常、SvOは厳密に60〜80%に維持されている。患者には酸素代謝のバランスに対しさまざまな攻撃がある。例えば、発熱、震え、発作では酸素需要が増加するのに対し、出血では酸素供給が低下することがある。攻撃されると、安定した患者は、心拍出量を増加させることによって酸素平衡を回復させることができ、血行動態介入は必要ない。しかし、リスクの高い患者、特に心肺予備力が低下している患者では、心拍出量の代償性増加が限定的である。その結果、身体の最後の砦として、血液からより多くの酸素を取り込む。つまりこのときにSvOが低下し始める。SvOにおいてベースラインから>10%の偏差が3分間を超えて認められる場合、即時の治療介入が指示される。
【0004】
現在現場では、SvOは末梢静脈から観血的に挿入される留置肺動脈カテーテル(PAC)で測定できる。しかしながら、PACの使用は、血腫、血管穿刺および心停止といった合併症を10%の発生率で伴うことが判明した。その結果、PACの使用は1993〜2004年の間に約65%減少した。最新の心エコー検査では、心臓運動のはっきりとした像と心拍出量の定量的評価が得られるが、血液酸素量に関する情報は得られない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、そうした欠陥および/または問題の少なくとも一部に対処する必要、ならびに、例えばSvOをモニタリングする安全な装置を提供する必要がある。
【0006】
そのため、物体(例えば、組織深部の物体)を正確に特徴付ける、および/または、例えば集中治療において低リスクの血行動態モニタリングを促進する例示的な方法とシステムを提供することが有益であり得る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の例示的な実施形態に従って、媒質の背部または内部に位置する深部目標物体を正確に特徴付けるための方法とシステムを提供することができる。この方法とシステムは、前記媒質の背部および内部に位置する参照物体を特定するステップと、電磁波を用いて媒質の表面を通して目標物体および参照物体の両方に照射するステップと、被照射組織容量から発せられる音響信号を測定するステップと、参照物体の少なくとも1つの既知の特性に基づいて、参照物体から測定される音響信号から較正データセットを取得するステップと、較正データと目標物体からの音響信号とを用いて、目標物体の少なくとも1つの特性を決定するステップと、を含む。
【0008】
別の実施形態に従って、本開示は、時変強度を有する光線を発生させる線源と、食道壁を通して肺動脈と大動脈とに照射する前記光線を誘導する光ガイドと、被照射組織容量から発生する音響信号を検出する少なくとも1つの音響変換器と、(i)大動脈の少なくとも1つの特性に基づいて、大動脈から測定される音響信号から較正データを取得し、かつ(ii)較正データと肺動脈からの音響信号とを用いて、肺動脈の少なくとも1つの特性を決定する処理装置とを有する、肺動脈の混合静脈血酸素飽和度をモニタリングするシステムを提供する。
【0009】
本開示のさらに別の例示的な実施形態に従って、媒質の背部または内部に位置する目標物体の少なくとも1つの特徴を決定するための例示的なシステム、方法、およびコンピュータアクセス可能媒体が提供される。例えば、媒質の背部または内部に位置する参照物体を特定することができる。少なくとも1つの電磁波を用いて、媒質の表面を介して目標物体と参照物体とに照射できる。電磁波に反応する被照射組織容量からもたらされる少なくとも1つの音響信号を測定できる。参照物体の少なくとも1つの既知の特性に基づいて、参照物体から測定される音響信号から較正情報を取得できる。次いで、較正情報と目標物体からの音響信号とに基づいて、目標物体の特徴を決定できる。
【0010】
本開示の別の例示的な実施形態では、少なくとも1つの解剖構造の少なくとも1つの特徴を決定するシステムを提供できる。例えば、時変強度を有する少なくとも1つの電磁放射線を前記少なくとも1つの解剖構造とさらなる解剖構造とに送るように構成される第1の装置が提供され得る。上記少なくとも1つの解剖構造と上記さらなる解剖構造に影響を及ぼす上記少なくとも1つの電磁放射線に反応して、上記少なくとも1つの解剖構造と上記さらなる解剖構造のそれぞれからもたらされる少なくとも1つの音響信号を検出するように構成される第2の装置が提供され得る。(i)上記さらなる組織構造からの音響信号から、その少なくとも1つの特性に基づいて較正データを得るように、かつ(ii)上記較正データと上記少なくとも1つの解剖構造からの上記音響信号とを用いて、解剖構造の特徴を決定するように構成される第3の装置である処理ハードウェアが提供され得る。
【0011】
上記特徴は混合静脈血酸素飽和度を含むことができる。上記第2の装置は少なくとも1つの音響変換器を備えることができる。上記解剖構造は肺動脈を含むことができ、上記さらなる解剖構造は大動脈を含むことができる。食道壁を通して肺動脈と大動脈とに放射線を送るように構成される光ガイドを提供することができる。上記音響信号は大動脈から取得できる。肺動脈の特徴は混合静脈血酸素飽和度であり得る。大動脈の特性は動脈血酸素飽和度であり得る。動脈酸素飽和度を測定するための酸素測定装置を提供でき、この装置はパルスオキシメータを含むことができる。音響変換器の少なくとも一部が、食道内部にあるよう提供、かつ構造化することができる。音響変換器は超音波画像を取得するように構成できる。
【0012】
本開示の例示的な実施形態のこれらの目的、特徴、および利点は、添付の請求項の範囲と合わせて、以下に詳細に記述する本開示の例示的な実施形態を読むことで明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本開示のさらなる目的、特徴、および利点は、本開示の例示的な実施形態を示す添付の図面と合わせて、以下の詳細な記述により明らかとなろう。
【0014】
図1a】本開示の例示的な実施形態に従った、深部組織を特徴付ける手順/方法を説明する図である。
図1b図1aに示す例示的な手順/方法によるステップを説明する流れ図である。
図2】本開示の例示的な実施形態に従った、混合静脈血酸素飽和度をモニタリングする経食道光音響内視鏡システムの図である。
図3a】本開示の例示的な実施形態に従った経食道内視鏡システムによって測定した血液酸素飽和度と音波との例示的な関係を説明する例示的なグラフである。
図3b】本開示の例示的な実施形態に従った経食道内視鏡システムを用いて混合静脈血酸素飽和度を正確にモニタリングする例示的な方法の流れ図である。
図4a】SvOを用いた較正なしで、本開示の例示的な実施形態に従った経食道内視鏡システムによって測定したSvOと、COオキシメータによって静脈血サンプルで測定したSvOとの比較を示すブランドアルトマングラフである。
図4b】SvOを用いて較正した、本開示の例示的な実施形態に従った経食道内視鏡システムによって測定したSvOと、COオキシメータによって静脈血サンプルで測定したSvOとの比較を示すブランドアルトマングラフである。
【0015】
図面を通して、同一の参照符号および文字は、もしあれば、特に明記しない限り、説明する実施形態の同様の特徴、要素、コンポーネント、または部分を示すのに用いられる。さらに、開示の主題を、図面を参照しながら、例示的な実施形態に関連して詳細に説明していく。説明する例示的な実施形態に対し、開示の主題の真の範囲および精神から逸脱することなく、変更および修正を行うことができることが意図される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本開示の一実施形態に従った、少なくとも1回の電磁波放射によって、または複数の電磁放射線110を用いて生成される音響信号112、116を用いて、対象の物体102(例えば、深部物体)を特徴付ける例示的な方法/手順を説明する。目標とする物体102は、媒質104(例えば、生体媒質)の背部または内部に位置し得る。媒質104の少なくとも1つの特性が未知であるか、または時間とともに未知の挙動で変化するため、投射する電磁波/放射線110は、目標物102に到達する前に、1つまたは複数の未知の改変を経る可能性がある。その結果、例えば媒質104に関する幅広い知識がなければ、目標物102を正確に特徴付けることが一般に困難である。
【0017】
図1bの流れ図に示すように、前述の問題に対処するために、まず、参照物体106を特定することができる。参照物体106はまた、同じ媒質104の背部または内部に位置することができる(手順150)。そのような参照物体106は、好ましくは、目標物102の近くに位置することができる。例えば、参照物106の少なくとも1つの特性が既知であるか、または当業者に既知の別の方法/手順によって取得および/または測定できる。加えて、目標物体102と自然に共存できる、および/または目標物体102の特徴付けとは異なる目的(例えば、介入、異なる測定など)で挿入されてよい参照物体106を選択することができる(手順155)。
【0018】
次に、電磁波/放射線110を送り、媒質104の表面を通して目標物体102と参照物体106の両方に照射する(手順160)。電磁波/放射線110は、光線、マイクロ波、またはX線であり得る。さらに、電磁波110の強度は時間とともに変化し得る。電磁エネルギの一部を吸収した後に、目標物体102と参照物体106は、例えば熱弾性膨張によって、それぞれ伝搬音波112、116を発することができる。次いで、媒質104の表面で音波112、116の両方を測定することができる(手順165)。測定される音波112、116は時間的または空間的に離散し得る。
【0019】
さらに、少なくとも物理機構または実験に基づいて、物体の少なくとも1つの特性と、物体から発せられ測定される音波の少なくとも1つの特徴との少なくとも1つの関係を確立することができる(手順170)。さらに、確立された関係に基づき、参照物106から測定される音波116の少なくとも1つの特徴とその既知の特性とを用いて、媒質104によってなされる電磁波110に対する改変を反映する較正データセットを取得することができる(手順175)。最後に、確立された関係に基づき、較正データセットと音波112とを用いて、目標物体102に関する少なくとも1つの特性(例えば、化学組成、剛性、または温度)を得ることができる(手順180)。
【0020】
例えば、物体(102または106)はN主成分を含有することができる。εおよびCは、それぞれi番目の構成成分のモル吸光係数と濃度である。発せられる音波(112または116)のピーク・ピーク圧力Pは、以下の方程式の群により、物体(例えば、物体102または物体106)の化学組成、例えば、{C…C}に関連することができることが、物理法則により示される。
【0021】
【数1】
【0022】
上式で、kはシステム定数、Fは物体(102または106)に到達する電磁波照射のフルエンス、λは音響放射を励起するのに用いられるM電磁波波長の1つである。媒質104に関する知識が足りないため、Fのλへの依存は未知である。本開示の一実施形態に従って、参照物体106の組成(すなわち{C…C})および対応する測定された音波116に関する知識を用いて、方程式1に基づいて、kF(λj=1,…,Mを計算できる。最後に、方程式1に基づいて、kF(λj=1,…,Mおよび測定した音波112を用いて、目標物体102の化学組成(すなわち{C…C})を得ることができる。
【0023】
図2は、本開示の別の例示的な実施形態に従った経食道内視鏡システムを示す。例示的なシステムを用いて、肺動脈202における混合静脈血の混合静脈血酸素飽和度(SvO)を、食道壁204を通して、大動脈206における動脈血を参考として、安全にモニタリングできる。例示的なシステムは、光源222(もしくは光学源、または別の電磁放射線源)、経食道プローブ224、音響パルサ/レシーバ226、プロセッサ228、およびグラフィックユーザインターフェース230を備えることができる。線源222は、時変強度を有する光線または別の電磁放射線を生成できる。放射線および/または光線は、600〜1200nmの波長を有することができる。例えば、線源222は、パルスレーザ、例えばQスイッチNd:YAGレーザ、ファイバレーザ、色素レーザ、チタンサファイアレーザ、光パラメトリック発振器(OPO)レーザ、またはパルスダイオードレーザなどであり得る。パルス持続時間はおよそ数ナノ秒であってよい。線源222はまた、振幅変調連続波光源、例えばレーザダイオード、LED、または固体レーザなどであり得る。測定は複数の波長の光線/放射線を用いて行い、血液酸素飽和度を推定することができる。線源222を変えて、波長の異なる複数の光線および/または他の放射線を生成できる。加えて、例示的な線源222は、異なる波長で作動する複数の光源の組み合わせであり得るか、またはその組み合わせを含むことができる。
【0024】
経食道プローブ224は、光ガイド232と音響変換器234とをさらに備えることができる。光ガイド232は、線源222からの光線および/または他の放射線を、例えば近位端で集め、光線210(および/または他の放射線)を発し、遠位端で組織に照射するように構成することができる。光ガイド232の例として、ガラス繊維束、シリカ繊維束、フォトニック結晶ファイバ、またはミラーもしくはプリズムを有する関節アームが挙げられるがこれらに限定されない。音響変換器234の例として、マイクロホン、ハイドロホン、圧電変換器、ポリフッ化ビニリデン膜変換器、容量マイクロマシン加工変換器、光学セットアップまたは光学配置に基づく光音響センサ(例えば、干渉計、共振器など)が挙げられるがこれらに限定されない。音響変換器234は、例えばフェーズドアレイ音響プローブといった前述の音響検波器の複数の組み合わせでもあり得るか、またはその組み合わせを含むこともできる。音響検波器の中心波長は約0.5〜10MHzの範囲内にあってよい。
【0025】
光ガイド232の遠位端と音響変換器234とをカプセル236に組み込むことができる。カプセル236の直径は、好ましくは2cmより小さいため、口または鼻を通して食道204に挿入できる。前記カプセル236は、好ましくはプローブ224を前進させる、回転させる、または曲げることによって操作し、食道壁を通して異なる組織を特徴付けることができる。同様に、音響変換器234は、好ましくはカプセルの中で回転させ、対象の観察面にある組織を調べることができる。図2に示すように、SvOをモニタリングするには、カプセル236を大動脈弓206と肺動脈202との間の高さに位置付け、カプセル236を回転させて音響変換器234が両方の血管に向くようにし、次いで、音響変換器234を回転させて矢状面で両方の血管を調べることができる。カプセル236の前述の配置は、上部食道大動脈弓の修正短軸像と呼ばれる。
【0026】
光線210または他の放射線による照射の後、肺動脈202および大動脈206からそれぞれ生成された音波212および216を、音響変換器234で検出し、パルサ/レシーバ226で増幅およびデジタル化し、プロセッサ228で分析してSvOを計算し、グラフィックインターフェース230に結果を表示することができる。パルサ/レシーバ226は、音響変換器234にエネルギを与えて音波(図示せず)を発するように構成することもできる。組織から反射される音波(図示せず)を検出することにより、組織構造を示すリアルタイム超音波画像238を取得し、カプセル236を、例えば所望の観察位置に誘導および/または展開することができる。いろいろな生理的条件下で、動脈血に十分に酸素を供給することができ、例えば大動脈における血液酸素化、つまりSaOは、100%近くであり得る。例示的な経食道内視鏡システムは、リアルタイムでSaOを測定するオキシメータ(図示せず)をさらに備えてよい。オキシメータの例として、パルスオキシメータ、COオキシメータ、または末梢動脈オキシメトリカテーテルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
例えば、肺動脈202の特性(例えばSvO)を、測定された音波212および216の少なくとも1つの特徴と関連付けるための関係を確立することができる。そのような例示的な特徴の例として、音波のピーク・ピーク圧力、傾斜、ピーク振幅、またはスペクトル、異なる2つの波長で測定した音波のピーク・ピーク圧力の比、3つ以上の波長で測定した音波のピーク・ピーク圧力の関数が挙げられるが、これらに限定されない。図3aは、本開示の例示的な実施形態に従った経食道内視鏡システムによって測定した血液酸素飽和度と音波との例示的な関係を示すプロットを図示する。図2に示す例示的なシステムを用いて、2つの波長(830nmおよび760nm)の光線で、既知の酸素飽和度(SO)を用いて血液サンプルの一群から音波を生成できる。表記P(830)およびP(760)は、例えばそれぞれ約830nmおよび760nmの光線を用いて血液サンプルから測定した音波のピーク・ピーク圧力を意味する。表記F(830)およびF(760)は、例えばそれぞれ約830nmおよび760nmでの血液サンプル表面の光学フルエンスを示す。さらに、Pr=P(830)/P(760)およびFr=(830)/F(760)である。実験から、SOおよびPr/Frは、図3aの実線の曲線に示すように、多項式曲線M(SO、Pr/Fr)でフィットさせることができることがわかった。
【0028】
図3bは、本開示の例示的な実施形態に従った経食道内視鏡システムを用いて混合静脈血酸素飽和度を正確にモニタリングする例示的な方法の流れ図である。手順350で、医師はリアルタイム超音波画像238を手引きとして使用し、患者の口または鼻を通してカプセル236を挿入し、上部食道大動脈弓の修正短軸像においてこれを位置付ける。次いで、手順352で、例示的なシステムは、約830nmで少なくとも1回、線源222を作動および/または制御し、肺動脈からの音波212−Ppa(830)と大動脈からの音波216−Pao(830)のピーク・ピーク圧力を測定できる。さらに、手順354では、例示的なシステムは、例えば約760nmで少なくとも1回、線源222を作動および/または制御し、肺動脈からのPpa(760)と大動脈からのPao(760)を測定できる。手順354および356は、逆転、および/または異なる光学波長で実施できる。次に、手順356で、例示的なシステムは、Prpa=Ppa(830)/Ρpa(760)とPrao=Pao(830)/Pao(760)を計算できる。さらに、手順358で、例示的なシステムは、大動脈酸素飽和度SaOの代表値(例えば100%)を仮定するか、または指、足指、耳たぶ、もしくは食道壁の一部からパルスオキシメータでそのような例示的な値を測定するかできる。図3aに示すM(SO2、Pr/Fr)に基づいて、PraoおよびSaOを用いて、例示的なシステムは較正データセットFrを計算できる。最後に、手順360で、図3aに示すM(SO2、Pr/Fr)に基づいて、PrpaおよびFrを用いて、例示的なシステムでSvOを計算し、表示できる。手順358および360は、以下の方程式に簡略化することができる。
【0029】
【数2】
【0030】
図4aおよび4bは、SaOを用いた較正ステップあり、および較正ステップなしでの、経食道内視鏡システムによるSvO測定のバイアスおよび精度の比較を示す例示的なグラフである(図3bの手順358参照)。いずれの測定も、代表的なCOオキシメータによって静脈血サンプルから測定した実際のSvOに対し、標準的なブランドアルトマン法を用いて分析できる。本開示の例示的な実施形態に従ったSaO図3bの手順358参照)を利用する較正ステップを用いることにより、バイアスを大幅に減らすことができ(約6.4%から約0.4%)、かつ、SvOの測定精度も改善できる(約3.3%から約2.4%)。
【0031】
以上は本開示の原理を説明しているにすぎない。本書の教示に鑑み、記述した実施形態に対するさまざまな修正および変更が、当業者には明らかとなろう。本開示の例示的な実施形態に従った装置、システム、および方法を用いて、任意の静脈(例えば頸静脈)の静脈血酸素飽和度を、近接する動脈(例えば頸動脈)を参考として用いることによって測定できる。実際に、本開示の例示的な実施形態に従った装置、システム、および方法は、任意のOCTシステム、OFDIシステム、SD−OCTシステム、または他の画像システム、および例えば2005年5月26日に国際公開第2005/047813号として公開された2004年9月8日に出願されたPCT/米国特許出願公開第2004/029148号、2006年5月4日に米国特許出願公開第2006/0093276号として公開された2005年11月2日に出願された米国特許出願第11/266,779号、2005年1月27日に米国特許出願公開第2005/0018201号として公開された2004年7月9日に出願された米国特許出願第10/501,276号、2002年5月9日に公開された米国特許出願公開第2002/0122246号(これらの開示内容の全体が参照により本書に援用される)に記述されたシステムを用いて使用でき、および/またはこれらのシステムを実行できる。したがって、当然のことながら、当業者は、本書に明示または記述されていなくとも、多数のシステム、装置、および方法を考案でき、本開示の原理を具体化できるであろうことから、それらは本開示の精神および範囲に含まれる。当然のことながら、本書に記述する例示的な手順は、ハードドライブ、RAM、ROM、リムーバブルディスク、CD−ROM、メモリスティックなどのコンピュータアクセス可能媒体に保存でき、かつ、ハードウェアプロセッサ、マイクロプロセッサ、ミニ、マクロ、メインフレームなど、ならびにそれらの複数および/または組み合わせであり得る、および/またはそれらを含むことができる処理装置および/またはコンピュータ装置によって実行できる。加えて、明細書、図面、および特許請求の範囲など本開示で用いられる特定の用語は、場合によっては同意語として用いることができる(例えば、データおよび情報などがあるが、これらに限定されない)。当然のことながら、互いに同意語であり得るこれらの語および/または他の語は、本明書において同意語として用いることができる一方で、そうした単語を同意語として用いることが意図できない場合もあり得る。さらに、先行技術の知識が、参照により上述の本書に明示的に援用されていない場合において、その全体を本書に明示的に援用することができる。本書で参照されるすべての出版物は、その全体を参照により本書に援用することができる。
図1a
図1b
図2
図3a
図3b
図4a
図4b