特許第6378317号(P6378317)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378317
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】締結部材および締結部材用棒状部材
(51)【国際特許分類】
   F16B 35/00 20060101AFI20180813BHJP
   F16B 37/00 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   F16B35/00 J
   F16B37/00 X
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-508845(P2016-508845)
(86)(22)【出願日】2015年3月20日
(86)【国際出願番号】JP2015058620
(87)【国際公開番号】WO2015141857
(87)【国際公開日】20150924
【審査請求日】2017年8月7日
(31)【優先権主張番号】特願2014-59148(P2014-59148)
(32)【優先日】2014年3月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000134327
【氏名又は名称】株式会社トープラ
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】風間 俊男
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健
(72)【発明者】
【氏名】森 茂人
【審査官】 鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平6−257609(JP,A)
【文献】 特開2012−112476(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/073575(WO,A1)
【文献】 特開2003−94164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 35/00
F16B 37/00
F16B 5/00−5/12
F16B 15/00−19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部材を締結する締結部材であって、
亜鉛を0.005wt%以上5.0wt%以下含むとともに、マグネシウムを0.6wt%以上2.0wt%以下含むアルミニウム合金からなり、前記複数の部材の少なくともいずれか一つと接触する部分に設けられる第1合金部と、
マグネシウムを2.0wt%より大きく5.0wt%以下含むとともに、亜鉛を5.0wt%より大きく10wt%以下含むアルミニウム合金からなり、前記第1合金部に接合されてなる第2合金部と、
を備えたことを特徴とする締結部材。
【請求項2】
前記第2合金部のビッカース硬さが170以上であることを特徴とする請求項1に記載の締結部材。
【請求項3】
前記第1合金部の表面の一部にねじ山が形成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の締結部材。
【請求項4】
前記ねじ山が外周の少なくとも一部に形成された円柱状の軸部、該軸部の軸線方向の一端に設けられる頭部、および前記軸部と前記頭部との境界をなす首部を有する雄ねじであり、
前記第1合金部は、前記ねじ山の表層部分、前記首部の表面、および前記頭部の座面の表層部分を少なくとも構成し、
前記第1合金部のうち前記ねじ山の表層部分の径方向の厚さが前記軸部の最大外径の1/2000以上1/10以下であることを特徴とする請求項3に記載の締結部材。
【請求項5】
中心部に形成される穴の内面に前記ねじ山が形成された雌ねじであり、
前記第2合金部は、前記第1合金部の外周側に位置し、
前記第1合金部の径方向の厚さが前記雌ねじの最大外径の1/2000以上1/10以下であることを特徴とする請求項3に記載の締結部材。
【請求項6】
円柱状の軸部、該軸部の軸線方向の一端部に設けられる頭部、および前記軸部と前記頭部との境界をなす首部を有するリベットであり、
前記第1合金部は、前記軸部の表層部分、前記首部の表面、および前記頭部の座面の表層部分を少なくとも構成し、
前記軸部における前記第1合金部の径方向の厚さが前記軸部の外径の1/2000以上1/10以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の締結部材。
【請求項7】
円柱状をなし、マグネシウムを2.0wt%より大きく5.0wt%以下含むとともに、亜鉛を5.0wt%より大きく10wt%以下含むアルミニウム合金からなる芯部と、
前記芯部の側面を隙間なく被覆する中空円柱状をなし、亜鉛を0.005wt%以上5.0wt%以下含むとともに、マグネシウムを0.6wt%以上2.0wt%以下含むアルミニウム合金からなる外周部と、
を備えたことを特徴とする締結部材用棒状部材。
【請求項8】
前記外周部の径方向の厚さは、前記外周部の最大外径の1/2000以上1/10以下であることを特徴とする請求項7に記載の締結部材用棒状部材。
【請求項9】
中空円柱状をなし、亜鉛を0.005wt%以上5.0wt%以下含むとともに、マグネシウムを0.6wt%以上2.0wt%以下含むアルミニウム合金からなる芯部と、
前記芯部の側面を隙間なく被覆する中空円柱状をなし、マグネシウムを2.0wt%より大きく5.0wt%以下含むとともに、亜鉛を5.0wt%より大きく10wt%以下含むアルミニウム合金からなる外周部と、
を備えたことを特徴とする締結部材用棒状部材。
【請求項10】
前記芯部の径方向の厚さは、前記外周部の最大外径の1/2000以上1/10以下であることを特徴とする請求項9に記載の締結部材用棒状部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の部材を締結する締結部材および該締結部材の製造に用いる締結部材用棒状部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の燃費向上を実現するための一つの方策として、各種部品の軽量化が追求されている。例えば、エンジンブロックの材料として、鋳鉄の代わりにアルミニウム合金を使用したり、エンジンカバーやオイルパンの材料として、鋼の代わりにマグネシウム合金が使われるようになってきている。
【0003】
上述したアルミニウム合金またはマグネシウム合金からなる部品同士を従来の鋼製ボルトによって締結する場合、アルミニウム合金やマグネシウム合金の線膨張係数と鋼の線膨張係数との差が大きいことに起因してゆるみが発生しやすい上、異種金属の接触による腐食も発生しやすい。このため、締結の信頼性を十分確保するには、部品のねじ穴を深くして鋼製ボルトの軸部長さを長くしたり、鋼製ボルトの径を太くしたりしなければならない。ところが、鋼製ボルトの軸部長さは部品の肉厚に影響を及ぼす一方、鋼製ボルトの径の太さは部品のねじ穴を設けるフランジ部分の幅に影響を及ぼすため、アルミニウム合金やマグネシウム合金からなる部品の締結用に鋼製ボルトを使用することは、軽量化を追求する上で障害となっていた。
【0004】
このような鋼製ボルトの問題を解決するために、アルミニウム合金やマグネシウム合金からなる部品同士を締結する締結部材として、アルミニウム合金製のボルトを採用する動きも広がってきている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1では、ボルト製造時の加工性に優れるとともに十分な強度を備えるボルト用の材料として、6000系のアルミニウム合金が開示されている。アルミニウム合金製のボルトは、各種部品を構成するアルミニウム合金やマグネシウム合金との線膨張係数の差が小さくかつ異種金属接触腐食が小さいため、部品のねじ穴を浅くしたりボルトの径を細くしたりしても締結の信頼性を確保することができ、軽量化を図るのに好適である。
【0005】
上述した6000系のアルミニウム合金よりも高強度のアルミニウム合金として、7000系のアルミニウム合金が知られている(例えば、特許文献2を参照)。7000系のアルミニウム合金を用いれば、6000系のアルミニウム合金製のボルトよりも高強度のボルトを作成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5335056号公報
【特許文献2】特許第3705320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、一般に7000系のアルミニウム合金は、6000系のアルミニウム合金と比較して耐応力腐食割れ性に劣るため、ボルトとして適用する場合には、耐応力腐食割れ性を改善する必要があった。このような状況の下、強度および耐応力腐食割れ性に優れた材料からなる締結部材が求められていた。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、強度および耐応力腐食割れ性に優れた締結部材および該締結部材の製造に用いる締結部材用棒状部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る締結部材は、複数の部材を締結する締結部材であって、亜鉛を0.005wt%以上5.0wt%以下含むとともに、マグネシウムを0.6wt%以上2.0wt%以下含むアルミニウム合金からなり、前記複数の部材の少なくともいずれか一つと接触する部分に設けられる第1合金部と、マグネシウムを2.0wt%より大きく5.0wt%以下含むとともに、亜鉛を5.0wt%より大きく10wt%以下含むアルミニウム合金からなり、前記第1合金部に接合されてなる第2合金部と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る締結部材は、上記発明において、前記第2合金部のビッカース硬さが170以上であることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る締結部材は、上記発明において、前記第1合金部の表面の一部にねじ山が形成されたことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る締結部材は、上記発明において、前記ねじ山が外周の少なくとも一部に形成された円柱状の軸部、該軸部の軸線方向の一端に設けられる頭部、および前記軸部と前記頭部との境界をなす首部を有する雄ねじであり、前記第1合金部は、前記ねじ山の表層部分、前記首部の表面、および前記頭部の座面の表層部分を少なくとも構成し、前記第1合金部のうち前記ねじ山の表層部分の径方向の厚さが前記軸部の最大外径の1/2000以上1/10以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る締結部材は、上記発明において、中心部に形成される穴の内面に前記ねじ山が形成された雌ねじであり、前記第2合金部は、前記第1合金部の外周側に位置し、前記第1合金部の径方向の厚さが前記雌ねじの最大外径の1/2000以上1/10以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る締結部材は、上記発明において、円柱状の軸部、該軸部の軸線方向の一端部に設けられる頭部、および前記軸部と前記頭部との境界をなす首部を有するリベットであり、前記第1合金部は、前記軸部の表層部分、前記首部の表面、および前記頭部の座面の表層部分を少なくとも構成し、前記軸部における前記第1合金部の径方向の厚さが前記軸部の外径の1/2000以上1/10以下であることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る締結部材用棒状部材は、円柱状をなし、マグネシウムを2.0wt%より大きく5.0wt%以下含むとともに、亜鉛を5.0wt%より大きく10wt%以下含むアルミニウム合金からなる芯部と、前記芯部の側面を隙間なく被覆する中空円柱状をなし、亜鉛を0.005wt%以上5.0wt%以下含むとともに、マグネシウムを0.6wt%以上2.0wt%以下含むアルミニウム合金からなる外周部と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
本発明に係る締結部材用棒状部材は、上記発明において、前記外周部の径方向の厚さは、前記外周部の最大外径の1/2000以上1/10以下であることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る締結部材用棒状部材は、中空円柱状をなし、亜鉛を0.005wt%以上5.0wt%以下含むとともに、マグネシウムを0.6wt%以上2.0wt%以下含むアルミニウム合金からなる芯部と、前記芯部の側面を隙間なく被覆する中空円柱状をなし、マグネシウムを2.0wt%より大きく5.0wt%以下含むとともに、亜鉛を5.0wt%より大きく10wt%以下含むアルミニウム合金からなる外周部と、を備えたことを特徴とする。
【0018】
本発明に係る締結部材用棒状部材は、上記発明において、前記芯部の径方向の厚さは、前記外周部の最大外径の1/2000以上1/10以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高強度のアルミニウム合金と耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金とを備えたクラッド材を用いることにより、強度および耐応力腐食割れ性に優れた締結部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の実施の形態1に係る締結部材の構成を示す側面図である。
図2図2は、図1に示す締結部材の中心軸を通過する断面図である。
図3図3は、図2の領域Dの拡大図である。
図4図4は、本発明の実施の形態1に係る締結部材用棒状部材の構成を示す断面図である。
図5図5は、本発明の実施の形態2に係る締結部材の構成を示す平面図である。
図6図6は、図5のA−A線断面図である。
図7図7は、本発明の実施の形態2に係る締結部材用棒状部材の構成を示す断面図である。
図8図8は、本発明の実施の形態2に係る締結部材用棒状部材に対してくり抜き加工を行った後の構成を示す断面図である。
図9図9は、本発明の実施の形態3に係る締結部材の構成を示す側面図である。
図10図10は、図9に示す締結部材の中心軸を通過する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)を説明する。なお、図面は模式的なものであって、各部分の厚みと幅との関係、それぞれの部分の厚みの比率などは現実のものとは異なる場合があり、図面の相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる場合がある。
【0022】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る締結部材の構成を示す側面図である。図2は、図1に示す締結部材の長手方向(図1の左右方向)の中心軸を通過する断面図である。これらの図に示す締結部材1は、互いに異なる2種類のアルミニウム(Al)合金を接合することによって形成されたクラッド材からなるボルト(雄ねじの一種)である。締結部材1は、円柱状をなす軸部2と、軸部2の軸線方向(図1の左右方向)の一端に設けられる頭部3と、軸部2と頭部3との境界をなす首部4とを備える。軸部2は、表面にねじ山21が形成されたねじ部22を有する。なお、図1に示す頭部3の形状(六角トリム型)はあくまでも一例に過ぎず、その他の形状(六角フランジ型、なべ型、皿型、トラス型、平型等)を有していても構わない。
【0023】
締結部材1は、互いに異なる2種類のアルミニウム合金を用いてそれぞれ形成される第1合金部1aおよび第2合金部1bを有する。第1合金部1aは、締結対象の部材と接触する部分に設けられる。すなわち、第1合金部1aは、軸部2の表層部分、首部4の表面、頭部3の座面31および側面32の表層部分を構成する。第2合金部1bは、軸部2および頭部3における径方向の内周側を構成する。なお、締結部材1によって締結対象の複数の部材同士を締結した状態で、複数の部材のいずれとも接触しない部分は、第2合金部1bが露出するような構成としてもよい。
【0024】
第1合金部1aは、亜鉛(Zn)を0.005wt%以上5.0wt%以下含むとともに、マグネシウム(Mg)を0.6wt%以上2.0wt%以下含むアルミニウム合金からなる。このアルミニウム合金は、好ましくは銅(Cu)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、鉄(Fe)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、スカンジウム(Sc)からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む。このような組成を有するアルミニウム合金としては、例えばA6056を挙げることができる。A6056は、Al−Mg-Siを主要元素とする合金であり、比較的高い強度を有するとともに、耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金として知られている。第1合金部1aの厚さは、10μm以上1.5mm以下である。特に、軸部2における第1合金部1aの径方向の厚さは、軸部2の最大外径r1図2を参照)の1/2000以上1/10以下である。
【0025】
第2合金部1bは、マグネシウム(Mg)を2.0wt%より大きく5.0wt%以下含むとともに、亜鉛(Zn)を5.0wt%より大きく10wt%以下含むアルミニウム合金からなる。このアルミニウム合金は、好ましくは銅(Cu)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、鉄(Fe)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、スカンジウム(Sc)からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上を含み、より好ましくは銅(Cu)およびジルコニウム(Zr)を含む。このような組成を有するアルミニウム合金として、例えばA7050を挙げることができる。A7050は、高強度のアルミニウム合金として知られている。第2合金部1bの具体的な強度として、ビッカース硬さが170以上であることが望ましい。
【0026】
図3は、図2の領域Dの拡大図である。図3に示すように、第1合金部1aのうちねじ部22のねじ山21の表層部分の径方向の厚さは必ずしも均一ではなく、頂21aの厚さt1は谷底21bの厚さt2よりも大きい(t1>t2)。また、ねじ山21の表層部分の径方向の厚さは、軸部2の最大外径r1の1/2000以上1/10以下の範囲に含まれる。これにより、ねじ部22のうち少なくとも締結対象の部材と接触する部分はすべて、耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金となる。
【0027】
図4は、締結部材1の原材料である締結部材用棒状部材の構成を示す断面図である。同図に示す締結部材用棒状部材100(以下、単に「棒状部材100」という)は、第2合金部1bと同じアルミニウム合金からなる円柱状の芯部101と、芯部101の外周を被覆し、第1合金部1aと同じアルミニウム合金からなる外周部102とを備えた2層構造の円柱状をなす。外周部102の厚さt100は、棒状部材100の直径r100の1/2000以上1/10以下(r100/2000≦t100≦r100/10)である。締結部材1は、棒状部材100に対して伸線加工やヘッダ加工等を施すことによって成形される。このような成形を可能とするためには、成形後に第2合金部1bとなる芯部101を構成するアルミニウム合金の室温(1〜35℃程度)における破断伸びが8%以上であることが望ましい。
【0028】
棒状部材100に対して伸線加工およびヘッダ加工を施すことによって締結部材1を形成すると、ねじ部22では、金属結晶がねじ表面形状に沿って繊維状に引き延ばされるファイバーフローが見られる。ねじ部22にき裂が生じる場合には、ファイバーフローを横切るようにき裂が進む。したがって、ファイバーフローがあることにより、応力腐食割れを抑制することができる。
【0029】
以上説明した本発明の実施の形態1によれば、締結対象の部材と接触する部分に耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金からなる第1合金部を備えるとともに、上記以外の部分に高強度のアルミニウム合金からなる第2合金部を備えた2層構造とすることによって、強度および耐応力腐食割れ性に優れた締結部材を提供することができる。
【0030】
また、本実施の形態1によれば、第1合金部の表面の一部にねじ山が形成されているため、締結対象の部材との接触部分の耐応力腐食割れ性を向上させることができる。
【0031】
また、本実施の形態1によれば、ねじ山を含む外周側が第1合金部である雄ねじを構成し、雄ねじのねじ山の表層部分の径方向の厚さがねじ部の外径の1/2000以上1/10以下であるため、強度と耐応力腐食割れ性を適切なバランスで両立させることができる。
【0032】
また、本実施の形態1によれば、中空円柱状をなし、締結対象の部材と接触する部分に耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金からなる外周部を備えるとともに、外周部によって隙間なく被覆される円柱状をなし、高強度のアルミニウム合金からなる芯部とを備えたクラッド材である締結部材用棒状部材を構成することにより、従来と同様の製造方法により、強度および耐応力腐食割れ性に優れた締結部材(雄ねじ)を成形することができる。
【0033】
また、本実施の形態1によれば、締結部材用棒状部材の外周部の径方向の厚さは、当該締結部材用棒状部材の径の1/2000以上1/10以下であるため、成形後の締結部材(雄ねじ)において、強度と耐応力腐食割れ性を適切なバランスで両立させることができる。
【0034】
(実施の形態2)
図5は、本発明の実施の形態2に係る締結部材の構成を示す平面図である。図6は、図5のA−A線断面図である。これらの図に示す締結部材5は、互いに異なる2種類のアルミニウム合金を接合することによって形成されたクラッド材からなるナット(雌ねじの一種)である。締結部材5は、中空円柱状をなしており、中心部に形成される穴51の内面にねじ山52が形成されている。なお、図5に示す締結部材5の形状(六角ナット)はあくまでも一例に過ぎず、他の形状を有するナット(フランジ付ナット、袋ナット、高ナット等)として実現することも可能である。
【0035】
締結部材5は、互いに異なる2種類のアルミニウム合金を用いてそれぞれ形成される第1合金部5aおよび第2合金部5bを備える。第1合金部5aは、締結対象の部材と接触する部分であるねじ山52の表層部分を構成するリング状をなす。第2合金部5bは、第1合金部5aの外周面を被覆するリング状をなす。
【0036】
第1合金部5aは、実施の形態1の第1合金部1aと同様のアルミニウム合金からなり、第2合金部5bは、実施の形態1の第2合金部1bと同様のアルミニウム合金からなる。第1合金部5aの厚さが10μm以上1.5mm以下である点は、第1合金部1aと同様である。また、第1合金部5aの径方向の厚さは、締結部材5の最大外径(円相当外径)r2図6を参照)の1/2000以上1/10以下である。さらに、第2合金部5bのビッカース硬さが170以上である点や、第2合金部5bの室温での破断伸びが8%以上である点も第2合金部1bと同様である。
【0037】
第1合金部5aのうちねじ山52の表層部分の径方向の厚さは必ずしも均一ではなく、締結部材5の最大外径(円相当外径)r2の1/2000以上1/10以下の範囲に含まれる。これにより、少なくとも締結対象の部材と接触する部分であるねじ山52はすべて、耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金となる。
【0038】
図7は、締結部材5の原材料である締結部材用棒状部材の構成を示す断面図である。同図に示す締結部材用棒状部材200(以下、単に「棒状部材200」という)は、第1合金部5aと同じアルミニウム合金からなる円柱状の芯部201と、芯部201の外周を被覆し、第2合金部5bと同じアルミニウム合金からなる外周部202とを備えた2層構造の円柱状をなすクラッド材である。締結部材5は、棒状部材200に対して伸線加工、芯部201のくり抜き加工、およびヘッダ加工等を施すことによって成形される。このような成形を可能とするためには、成形後に第2合金部5bとなる外周部202を構成するアルミニウム合金の室温における破断伸びが8%以上であることが望ましい。
【0039】
図8は、棒状部材200において芯部201のくり抜き加工を行った後の構成を示す断面図である。図8に示す棒状部材200’は、芯部201’と外周部202’とを備える。このうち、芯部201’の径方向の厚さt200は、棒状部材200’の直径r200の1/2000以上1/10以下(r200/2000≦t200≦r200/10)である。本実施の形態2では、棒状部材200に対して伸線加工を行った後、くり抜き加工を行うことによって穴211’を形成した芯部201’を備えた棒状部材200’を得る。その後、棒状部材200’に対してヘッダ加工等を施すことによって締結部材5を形成する。なお、棒状部材200に対してくり抜き加工を行った後に伸線加工を行ってもよい。また、棒状部材200に対して伸線加工を行った後、締結部材5(ナット)を形成するために必要な長さに切断した後で、くり抜き加工を行ってもよい。
【0040】
以上説明した本発明の実施の形態2によれば、締結対象の部材と接触する部分に耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金からなる第1合金部を備えるとともに、第1合金部の外周側に強度に優れたアルミニウム合金からなる第2合金部を備えた2層構造とすることによって、実施の形態1と同様、強度および耐応力腐食割れ性に優れた締結部材を提供することができる。
【0041】
また、本実施の形態2によれば、第1合金部の表面の一部にねじ山が形成されているため、締結対象の部材との接触部分の耐応力腐食割れ性を向上させることができる。
【0042】
また、本実施の形態2によれば、内周側が第1合金部である雌ねじを構成し、第1合金部の径方向の厚さが雌ねじの最大外径の1/2000以上1/10以下であるため、強度と耐応力腐食割れ性を適切なバランスで両立させることができる。
【0043】
また、本実施の形態2によれば、中空円柱状をなし、締結対象の部材と接触する部分に耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金からなる芯部を備えるとともに、円柱状をなして深部の外周を被覆し、高強度のアルミニウム合金からなる外周部とを備え、芯部の径方向の厚さが、外周部の最大外径の1/2000以上1/10以下である締結部材用棒状部材を構成することにより、従来と同様の製造方法により、強度および耐応力腐食割れ性を適切なバランスで両立させた締結部材(ナット)を成形することができる。
【0044】
(実施の形態3)
図9は、本発明の実施の形態3に係る締結部材の構成を示す側面図である。図10は、図9に示す締結部材の長手方向(図9の左右方向)の中心軸を通過する断面図である。これらの図に示す締結部材6は、互いに異なる2種類のアルミニウム合金を接合することによって形成されたクラッド材からなるリベットである。締結部材6は、円柱状の軸部7と、軸部7をなす円柱の高さ方向(図9の左右方向)の一端に設けられる頭部8と、軸部7と頭部8との境界をなす首部9とを備える。なお、図9に示す頭部8の形状(丸型)はあくまでも一例に過ぎず、その他の形状(皿型等)を有していても構わない。
【0045】
締結部材6は、互いに異なる2種類のアルミニウム合金を用いてそれぞれ形成される第1合金部6aおよび第2合金部6bを備える。第1合金部6aは、締結対象の部材と接触する部分に設けられる。すなわち、第1合金部6aは、軸部7の表層部分、首部9の表面、頭部8の座面81の表層部分、および頭部8の表面82のうち座面81に連なる領域の少なくとも一部の表層部分を構成する。第2合金部6bは、軸部7の内周側および頭部8の第1合金部6a以外の部分を構成する。
【0046】
第1合金部6aは、実施の形態1の第1合金部1aと同様のアルミニウム合金からなり、第2合金部6bは、実施の形態1の第2合金部1bと同様のアルミニウム合金からなる。第1合金部6aの厚さが10μm以上1.5mm以下である点は、第1合金部1aと同様である。また、軸部7における第1合金部6aの径方向の厚さは、軸部7の外径r3図10を参照)の1/2000以上1/10以下である。さらに、第2合金部6bのビッカース硬さが170以上である点や、第2合金部6bの室温での破断伸びが8%以上である点も第2合金部1bと同様である。
【0047】
軸部7における第1合金部6aの厚さt3は、軸部7の外径r3の1/2000以上1/10以下(r3/2000≦t3≦r3/10)である。このような締結部材6は、図4に示す棒状部材100に対して伸線加工やヘッダ加工等を施すことによって成形することができる。
【0048】
以上説明した本発明の実施の形態3によれば、締結対象の部材と接触する部分に耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金からなる第1合金部を備えるとともに、上記以外の部分に強度に優れたアルミニウム合金からなる第2合金部を備えた2層構造とすることによって、実施の形態1と同様、強度および耐応力腐食割れ性に優れた締結部材を提供することができる。
【0049】
また、本実施の形態3によれば、外周側が第1合金部であるリベットを構成し、リベットの軸部における第1合金部の径方向の厚さが軸部の外径の1/2000以上1/10以下であるため、強度と耐応力腐食割れ性を適切なバランスで両立させることができる。
【0050】
また、本実施の形態3によれば、中空円柱状をなし、締結対象の部材と接触する部分に耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金からなる外周部を備えるとともに、外周部によって隙間なく被覆される円柱状をなし、高強度のアルミニウム合金からなる芯部とを備えたクラッド材である締結部材用棒状部材を構成することにより、従来と同様の製造方法により、強度および耐応力腐食割れ性に優れた締結部材(リベット)を成形することができる。
【0051】
また、本実施の形態3によれば、締結部材用棒状部材の外周部の径方向の厚さは、当該締結部材用棒状部材の径の1/2000以上1/10以下であるため、成形後の締結部材(リベット)において、強度と耐応力腐食割れ性を適切なバランスで両立させることができる。
【0052】
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は上述した実施の形態1〜3によってのみ限定されるべきものではない。例えば、本発明に係る締結部材を、ボルト以外の雄ねじである小ねじやタッピンねじとして実現することも可能である。
【0053】
また、本発明において、さらに耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金からなる層を第1合金部の表面に設けることも可能である。このようなアルミニウム合金としては、例えば2000系、3000系、4000系または5000系のアルミニウム合金を挙げることができる。
【0054】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含みうるものであり、請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1、5、6 締結部材
1a、5a、6a 第1合金部
1b、5b、6b 第2合金部
2、7 軸部
3、8 頭部
4、9 首部
21、52 ねじ山
21a 頂
21b 谷底
22 ねじ部
31、81 座面
32 側面
51、211’ 穴
82 表面
100、200、200’ 締結部材用棒状部材
101、201、201’ 芯部
102、202、202’ 外周部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10