(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378369
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】磁気共鳴画像システムにおけるT2*及び血管画像の同時獲得方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20180813BHJP
【FI】
A61B5/055 382
A61B5/055 311
A61B5/055ZDM
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-570987(P2016-570987)
(86)(22)【出願日】2015年3月26日
(65)【公表番号】特表2017-516586(P2017-516586A)
(43)【公表日】2017年6月22日
(86)【国際出願番号】KR2015002984
(87)【国際公開番号】WO2015194743
(87)【国際公開日】20151223
【審査請求日】2016年12月2日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0074442
(32)【優先日】2014年6月18日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514140698
【氏名又は名称】カチョン ユニバーシティ オブ インダストリー−アカデミック コーオペレイション ファウンデイション
(73)【特許権者】
【識別番号】516350318
【氏名又は名称】ギル メディカル センター
【氏名又は名称原語表記】GIL MEDICAL CENTER
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ジュン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ウン ヨプ
【審査官】
亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−067855(JP,A)
【文献】
特開平07−184879(JP,A)
【文献】
特開2011−254905(JP,A)
【文献】
特開2009−125582(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/034004(WO,A1)
【文献】
特開2001−149341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging)システムを通じてT2*強調画像を獲得する方法であって、
流動補償を使用しないT2*強調画像を獲得する第1の読み出し傾斜及び流動補償を使用したT2*強調画像を獲得する第2の読み出し傾斜を交互に印加する過程を、得ようとする画像の解像度だけ繰り返して信号を獲得する段階;
獲得された前記信号を再構成し、互いに異なる流動現象を反映する2個の画像を獲得する段階;及び
前記2個の画像のいずれか一つから、他の一つを差し引いて差の画像を獲得する段階を含み、
前記第1の読み出し傾斜は負の方向に傾斜が印加された後に前記負の方向に印加された傾斜の面積量の二倍になるように正の方向に傾斜が印加され、
前記第2の読み出し傾斜は一定量だけ正の方向に印加され、前記一定量だけ負の方向に二回印加され、前記一定量の2倍の面積量だけ正の方向に印加され、
前記互いに異なる流動現象を反映する2個の画像は、それぞれ第1及び第2の読み出し傾斜を使用して獲得された流動現象が最小化された画像及び流動現象が強調された画像である、MRI画像獲得方法。
【請求項2】
前記第1及び第2の読み出し傾斜を印加するエコータイム(TE、echo time)は15msec以上である、請求項1に記載のMRI画像獲得方法。
【請求項3】
前記流動現象が最小化された画像と、前記差の画像または前記差の画像のMIP(Maximum Intensity Projection)画像を結果として出力する段階をさらに含む、請求項1に記載のMRI画像獲得方法。
【請求項4】
前記第1及び第2の読み出し傾斜の印加の間には、読み取り傾斜が印加されない一定区間が含まれる、請求項1に記載のMRI画像獲得方法。
【請求項5】
前記差の画像に対し、MIP(Maximum Intensity Projection)を行って血管画像を再構成する段階をさらに含む、請求項1に記載のMRI画像獲得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MRI(Magnetic Resonance Imaging)システムで具現される画像技法に関し、より具体的には、MRIシステムにおいてT2*及び血管画像を同時に獲得する画像技法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像診断方法としてX線、CT、超音波、RI画像、MRIなど多様な方式の装置がある。その中でMRIは、他の画像診断機器に比べて人体に無害であり、人体の内部構成物質の特性を画像化するため、臨床診療において非常に重要な測定装置である。
【0003】
MRI装置は、生体の固有の情報であるスピン密度、T1、T2、化学的移動、磁化転移、化学交換飽和転移、血流、スペクトロスコピーなどの組織パラメータを得ることができ、このようなパラメータを通じて多様な生体情報画像を得ることができる。
【0004】
磁気共鳴血管造影術(Magnetic Resonance Angiography、MRA)は、MRI装置を使用して人体に流れる動脈と静脈の血流を測定し、画像に再構成する方法であり、現在血管疾患の診断及び治療のために非常に重要な臨床的情報を提供している。MRA画像の場合は、血流のT1強調画像を利用して血流の速度、即ち、TOF(time of flight)による性質を利用する。
【0005】
図1は、従来のMRA画像を得るために使用されるFLASH(Fast Low Angle Shot)のパルスシーケンスを示し、
図2a〜
図2cは、FLASHパルスシーケンスを用いて獲得した画像を示すもので、それぞれの静脈、動脈、静脈と動脈の画像を示す。
【0006】
FLASH技法は、速い画像獲得速度、短いTE(echo time)及びTR(repetition time)、低フリップ角(low flip angle)などの長所があるが、スピンエコー画像技術に比べて組織のコントラストが低く、人工物が多く発生するだけでなく、信号対雑音比(SNR)が低いという欠点がある。
【0007】
一方、T2*弛緩はスピンドル間の影響によるT2弛緩と共に外部磁場の不均一性により起こる横磁化減衰を示すものであって、T2*強調画像の場合は、脳出血による鉄成分の酸化程度を観察する臨床的判断に非常に有用に使用される。
【0008】
このような画像技法は、両者とも韓国人の死亡原因のランキングで癌に次いで2位を占めている脳血管疾患を診断するために有用に使用されることができるが、それぞれ個別の画像獲得過程を経なければならない不便がある。脳梗塞の診断は迅速に行わなければならず、その理由は、時間が遅延されるほど、脳細胞は、指数関数的に不可逆的な変化を経るからである。したがって、画像獲得時間を最小限に抑えることができなければならない。急性脳卒中が疑われる場合は、最初に実施する画像技法はT2* GREであり、この画像技法を活用して脳血管の状態まで判断することができれば、TOF MRAを得るまでの時間を短縮させることができる利点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した技術的な背景に基づいて着目されたものであり、磁気共鳴画像システムにおいてT2*及び血管画像を同時に獲得する方法を提供することをその課題とする。
【0010】
本発明の他の課題は、磁気共鳴画像システムにおいてT2*及び血管画像を同時に獲得し、総画像獲得時間を短縮しながらも、診断のための十分な画像の質を得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、本発明では、流動補償をしないT2*画像と流動補償をしたT2*画像の両者を獲得し、両画像を差し引いて流動現象を示す画像を追加で再構成することにより、正確なT2*画像と血管画像を同時に得る。
【0012】
本発明の一面によるMRI画像獲得方法は、磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging)システムを通じてT2*強調画像を獲得する方法であり、流動補償を使用しないT2*強調画像を獲得する第1の読み出し傾斜及び流動補償を使用したT2*強調画像を獲得する第2の読み出し傾斜を交互に印加する過程を、得ようとする画像の解像度だけ繰り返して信号を獲得する段階;獲得された前記信号を再構成し、互いに異なる流動現象を反映する2個の画像を獲得する段階;前記2個の画像のいずれかから、他の一つを差し引いて差の画像を獲得する段階を含んでなる。
【0013】
ここで、前記第1及び第2の読み出し傾斜を印加するエコータイム(TE、echo time)は15msec以上であることが望ましい。
第1の読み出し傾斜は負の方向に傾斜が印加された後に前記負の方向に印加された傾斜の面積量の二倍になるように正の方向に傾斜が印加されることができ、第2の読み出し傾斜は一定量だけの正の方向に印加され、上記一定量だけ負の方向に二回印加され、上記一定量の2倍の面積量だけ正の方向に印加することができる。
【0014】
上記互いに異なる流動現象を反映する2個の画像は、それぞれ第1及び第2の読み出し傾斜を使用して獲得された流動現象が最小化された画像及び流動現象が強調された画像であり、前記流動現象が最小化された画像と、上記差の画像または前記差の画像のMIP(Maximum Intensity Projection)画像を結果として出力することができる。
【0015】
第1及び第2の読み出し傾斜の印
加の間には、読み取り傾斜が印加されない一定区間が含まれることが好ましく、上記差の画像に対してMIP(Maximum Intensity Projection)を行い、血管画像を再構成する段階をさらに含むこ
ともできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の実施形態に係るパルスシーケンスを使用してT2*及び血管画像を同時に獲得する場合、流動補償を使用しない読み取り傾斜を使用して正確なT2*画像を得ることができ、正確なT2*画像と血管画像を同時に獲得することができるため、血管の血流速度に対する臨床的判断と急性脳卒中の臨床的判断を同時に考察することができ、臨床的に広く活用されることができる。
【0017】
また、本発明の実施形態によるT2*及び血管画像の同時獲得方法では、通常の確立されたプロトコルと比較することができるだけの画像の質を確保し、既存のT2*強調画像とMRA画像を順次獲得した場合に比べ、40%程度の総画像獲得時間を短縮させ、臨床適用時の患者の負担を減らすことができる利点を有するようになった。これは、特に、急性虚血性脳梗塞患者の場合には非常に有用であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】従来のMRA画像を得るために使用されるFLASH(Fast Low Angle Shot)のパルスシーケンスを示す。
【
図2】(a)〜(c)はFLASHパルスシーケンスを用いて獲得した画像を示すもので、それぞれ静脈、動脈、静脈と動脈の画像を示す。
【
図3】本発明の実施形態によるT2*及び血管画像の同時獲得方法で使用されるパルスシーケンスを示す。
【
図4】本発明の実施形態によるT2*及び血管画像の同時獲得方法で使用されるパルスシーケンスの理論的背景を説明するための図である。
【
図5】本発明の実施形態によるT2*及び血管画像の同時獲得方法において流動補償(flow compensation)を行わない場合の位相を示す。
【
図6】本発明の実施形態によるT2*及び血管画像の同時獲得方法において流動補償(flow compensation)を行った場合の位相を示す。
【
図7】本発明の実施形態に係るパルスシーケンスを用いて獲得された画像を示すもので、流動補償を行った場合を示す。
【
図8】本発明の実施形態に係るパルスシーケンスを用いて獲得された画像を示すもので、流動補償を行わない場合を示す。
【
図9】
図7及び
図8に示された画像の差で構成された(subtracted)画像である。
【
図10】
図9の画像のMIP(Maximum Intensity Projection)画像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明による磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging)システムを通じて画像を獲得するための方法の好ましい実施例を、添付した図面を参考にして詳しく説明する。ただし、本発明の要旨を不必要に曖昧にする公知機能及び構成に関する詳細な説明は省略する。
【0020】
本発明に適用されるMRIシステムの構成は、広く知られているため、省略する。
図3は、本発明の実施形態によるT2*及び血管画像の同時獲得方法で使用されるパルスシーケンスを示す。
【0021】
図3においてZ−Gradient、Y−Gradient、X−Gradientは、それぞれ断面選択(slice selection)、位相符号化(phase decoding)及び読み出し(readout)傾斜を示す。
【0022】
図3で示されたように、流動補償を行わない場合の読み出しの傾斜は負の方向に印加された後、負の方向に印加された読み出し傾斜の面積量が二倍になるように正の方向に再印加される。
【0023】
一方、流動補償を行う場合の読み出し傾斜はエコータイム(TE、echo time)内で一定時間、未印
加とされた後、正の方向に印加され、負の方向に印加され、再び負の方向に印加された後、正の方向に再印加される。この時、印加された読み出し傾斜の面積量は、最初に印
加された正の読み出し傾斜の面積量を1とした場合、1、−1、−1、2となる。
【0024】
流動補償を行わない読み出し傾斜により獲得された信号と流動補償を行った読み出し傾斜により獲得された信号を画像の解像度だけ繰り返して獲得し、画像を再構成し、互いに異なる流動現象を反映する2個の画像を獲得する。このように獲得された2個の画像は、流動現象を最小化した第1のT2*画像と流動現象を強調した第2のT2*画像になる。
【0025】
このような流動現象の増減によるT2*画像を利用して流動現象を最小化したT2*画像1個(第1のT2*画像)と、2個の獲得された画像(第1及び第2のT2*画像)をSubtractすることにより、血流部分を表す第三の画像を追加で得ることができる。それから、このような第三の画像に対してMIPを行って血管画像を再構成する。
【0026】
本発明の実施形態によるT2*及び血管画像の同時獲得方法を通じて結果的に獲得する画像は、流動補償を行わない読み出し傾斜を使用して得た流動現象が最小化されたT2*画像と2個のT2*画像の差で得た血管画像である。このような方法によれば、一回のスキャンによりT2*画像と血管画像を同時に獲得することができるだけでなく、T2*画像に対してもより正確な画像を得ることができるようになるが、これについては後述する。
【0027】
一方、
図3を参考に説明した本発明の実施例では、流動補償を行わない読み出し傾斜を先に印加し、流動補償を行う読み取り傾斜を続いて印加する形態のパルスシーケンスを使用するが、その順序を変更しても関係ない。
【0028】
図4は、本発明の実施例によるT2*及び血管画像の同時獲得方法で使用されるパルスシーケンスの理論的背景を説明するための図である。T2*画像を獲得するためには、TE時間が15msec以上でなければならない。このような状況を考慮し、Offset gradient(Go)を仮定してモデル化をした後、これを含めて数学式を展開しなければならない。
【0029】
図4で示されたように、全体のエコータイムは次の数学式1のように構成される。
【0031】
血流の動きは、次の数学式2のように表すことができる。
【0033】
このうち、a0は静的な成分で、t=TEにおいてGrによる位相に影響を与えないため、a1t成分のみを考慮すればよく、オフセット傾斜(Offset gradient、G0)による位相ずれはa0成分も考慮しなければならない。1次補正の場合α=βである。
【0034】
流動補償(flow compensation)を行わない場合、位相は次の数学式3のようになる。
【0036】
血液のT1値を強調して獲得する通常の血管画像では、通常、流動補償を使用するが、本発明の実施形態による方法では、T2*画像を獲得するに当たり、流動補償を使用しないが、これを通じてより正確なT2*画像を獲得することができることを明らかにした。
【0037】
一方、流動補償を行う場合の位相は、次の数学式4のようになる。
【0039】
図5及び
図6は、上記式に基づいて流動補償を行わない場合と、流動補償を行った場合の位相をそれぞれ示す。
図7及び
図8は、本発明の実施例に係るパルスシーケンスを用いて獲得された画像を示すものであり、それぞれ流動補償を行った場合と、流動補償を行わない場合を示す。
【0040】
図9は、
図7及び
図8で示された画像の差で構成された(subtracted)画像であり、
図10は、
図9の画像のMIP(Maximum Intensity Projection)画像である。
図9及び
図10に示すように、本発明の実施形態に係るパルスシーケンスを利用する場合、正確なT2*及び血管画像を同時に獲得することができる。即ち、流動補償を行った場合と行わない場合の違いを血管内における血液の流動現象の究明に利用することができ、血液のT1値を強調して獲得する通常の血管画像に使用される流動補償方法を、T2*画像を獲得する場合には使用しないことが、より正確な画像の獲得に有用であることを分析して原理を究明した。
【0041】
このような画像を利用して血管の血流速度に対する臨床的判断と急性脳卒中の臨床的判断を同時に考察することができ、臨床的利用に広く活用されることができる。
また、本発明の実施形態によるT2*及び血管画像の同時獲得方法では、
図9及び
図10で示されるように、通常の確立されたプロトコルと比較することができるだけの画像の質を確保することができ、既存のT2*強調画像とMRA画像を順次獲得する場合に比べて40%程度の総画像獲得時間を短縮することができる。
【0042】
上記では、本発明の好適な実施例を参照して説明したが、当業界において通常の知識を有する者であれば、以下の特許請求の範囲に記載された本発明の思想及び範囲を逸脱しない範囲内で本発明を多様に修正及び変更させることができることを理解できるだろう。