【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、口腔内投与、特に舌下投与において、トール様受容体4(TLR4)アゴニスト、トール様受容体2/6(TLR2/6)アゴニスト、及び、環状ビスジヌクレオチド又はその誘導体若しくは塩からなる群より選択される少なくとも1種類をアジュバントとして、感染症由来抗原と共に舌下投与することで、効果的に全身性免疫応答及び粘膜免疫応答を誘導させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、ヒト又は動物の口腔内に投与されるワクチン組成物であって、少な
くとも一種類の感染症由来抗原と、トール様受容体2/6(TLR2/6)アゴニスト又
はその塩とを含
み、前記トール様受容体2/6(TLR2/6)アゴニストは、ジアシル化リポペプチド又はその誘導体若しくは塩を含み、前記ジアシル化リポペプチドは、Pam2CSK4又はMALP−2であるワクチン組成物である
。
また、上記感染症由来抗原は、インフルエンザウイルス由来抗原であることが好ましい。
また、上記インフルエンザウイルス由来抗原は、ヘマグルチニンタンパクであることが好
ましい。
また、上記インフルエンザウイルス由来抗原は、ウイルス全粒子であることが好ましい。
【0013】
また、本発明のワクチン組成物は、粘膜免疫応答及び全身性免疫応答を誘導せしめるものであり、上記粘膜免疫応答は、抗原特異的IgA抗体産生であり、上記全身性免疫応答は、抗原特異的IgG抗体産生及び抗原特異的細胞性免疫産生であることが好ましい。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明のワクチン組成物は、少なくとも一種類の感染症由来抗原を含有する。
上記感染症由来抗原とは、被験生物体によって生じる免疫応答の標的であることができるあらゆる物質を指す。また、上記感染症由来抗原は、免疫担当細胞に接触した際に、免疫応答(例えば、免疫担当細胞の成熟、サイトカイン産生、抗体産生等)の標的であってもよい。
【0015】
本発明で使用する感染症由来抗原としては、感染性病原体及び感染性病原体由来の抗原であれば特に限定されない。
上記感染性病原体から罹る疾患としては特に限定されず、例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、HSV−I、HSV−II、CMV、またはVZV)、ポックスウイルス(例えば、痘瘡若しくはワクシニア、又は、伝染性軟属腫などのオルトポックスウイルス)、ピコルナウイルス(例えば、ライノウイルス又はエンテロウイルス)、オルソミクソウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)、パラミクソウイルス(例えば、パラインフルエンザウイルス、おたふく風邪ウイルス、はしかウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV))、コロナウイルス(例えば、SARS)、パポバウイルス(例えば、生殖器疣、尋常性胱贅、又は、足底疣費を引き起こすものなどの乳頭腫ウイルス)、ヘパドナウイルス(例えば、肝炎Bウイルス)、フラビウイルス(例えば、肝炎Cウイルス又はデングウイルス)、又は、レトロウイルス(例えば、HIVなどのレンチウイルス)などのウイルス感染から罹る疾患などのウイルス疾患、エシェリキア属、エンテロバクター、サルモネラ、ブドウ球菌、赤痢菌、リステリア、アエロバクター、ヘリコバクター、クレブシエラ、プロテウス、シュードモナス、連鎖球菌、クラミジア、マイコプラズマ、肺炎球菌、ナイセリア、クロストリジウム、バシラス、コリネバクテリウム、マイコバクテリウム、カンピロバクター、ビブリオ、セラチア、プロビデンシア、クロモバクテリウム、ブルセラ、エルシニア、ヘモフィルス、又は、ボルデテラなどの細菌感染から罹る疾患などの細菌疾患、クラミジア、カンジダ症、アスペルギルス症、ヒストプラスマ症、クリプトコックス髄膜炎をはじめとするがこれに限定されるものではない真菌疾患、マラリア、ニューモシスティスカリニ肺炎、レーシュマニア症、クリプトスポリジウム症、トキソプラズマ症、及び、トリパノソーマ感染等が挙げられる。
【0016】
本発明において、上記感染症由来抗原は、インフルエンザウイルス由来抗原であることが好ましい。
ここで、上記インフルエンザウイルスとは、オルソミクソウイルス科に属する直径約100nmの粒子サイズを有するRNAエンベロープウイルスであり、内部タンパクの抗原性に基づいて、A、B及びC型に分けられる。上記インフルエンザウイルスは、脂質二重層構造を有するウイルスエンベロープに取り囲まれた内部ヌクレオキャプシド又は核タンパク質と会合したリボ核酸(RNA)のコアと、外部糖タンパク質とからなる。上記ウイルスエンベロープの内層は、主としてマトリックスタンパク質で構成され、外層は大部分が宿主由来脂質物質で構成される。また、上記インフルエンザウイルスのRNAは、分節構造をとる。なお、世界中で大流行するインフルエンザは、A型インフルエンザウイルスによるものであり、このA型インフルエンザウイルスは、ヘマグルチニン(HA)及びノイラミニダーゼ(NA)の2種類のエンベロープ糖タンパク質を有し、抗原性の違いによってHAでは16種、NAでは9種の亜型に区別されている。
本発明においては、上記感染症由来抗原としては、A型及びB型インフルエンザウイルス由来抗原が好適に用いられる。なお、上述したA型及びB型インフルエンザウイルスの亜型としては特に限定されず、これまで単離された亜型であっても将来単離される亜型であってもよい。
【0017】
本発明において、インフルエンザウイルス由来抗原としては、上記インフルエンザウイルスを構成する種々の成分の少なくとも一部であれば特に限定されるものではなく、例えば、精製ウイルス粒子が有機溶媒/界面活性剤若しくは他の試薬で不活化されたウイルス全粒子、又は、該ウイルス全粒子の中から不純物を取り除き、HA及び/若しくはNAを精製して作られたウイルスサブユニット等が挙げられる。免疫原性の観点から、HAサブユニット又はウイルス全粒子が好ましい。上記ウイルス全粒子は、ホルマリン等により不活化されたものがより好ましい。また、不純物が少なく、免疫賦活剤などのアジュバントが必須となるHAサブユニット(スプリット)について特に有効である。
上記インフルエンザウイルス抗原の調製方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法が限定なく使用できる。例えば、インフルエンザ感染動物又はインフルエンザの患者から単離されたウイルス株をニワトリ卵等に感染させて常法により培養し、精製したウイルス原液から抗原を調製する方法が挙げられる。また、遺伝子工学的に培養細胞中で調製したウイルス由来の抗原を用いてもよい。
【0018】
本発明のワクチン組成物において、上記感染症由来抗原は有効量含有されていればよいが、例えば、1個体に1回投与のために、本発明のワクチン組成物の全量に対して、0.001〜1000μgの範囲で含有されていることが好ましい。より好ましくは0.01〜100μgの範囲であり、更に好ましくは0.1μg〜50μgの範囲である。0.001μg未満であると、感染症の予防又は治療剤としての機能が不充分となることがあり、1000μgを超えると、安全性に関して問題となることがある。なお、本明細書にいう「1個体」とは、任意の哺乳動物であってよく、好ましくはヒトである。
【0019】
本発明のワクチン組成物は、トール様受容体4(TLR4)アゴニスト、トール様受容体2/6(TLR2/6)アゴニスト、及び、環状ビスジヌクレオチド又はその誘導体若しくは塩からなる群より選択される少なくとも1種類を含有する。
これらの化合物は、本発明のワクチン組成物において免疫賦活剤として機能するものである。
【0020】
上記トール様受容体4(TLR4)アゴニストとしては、リポポリサッカライド又はその塩が好適に挙げられる。なお、本明細書にいうリポポリサッカライドは、リポポリサッカライドそれ自体のほか、その性質を有する限りその誘導体であってもよい。本明細書にいう塩とは、任意の有機酸又は無機酸であってよいが、好ましくは薬学的に許容される塩である。
また、上記リポポリサッカライドは、グラム陰性菌細胞壁からの抽出物又はその改変体であってもよく、合成品であってもよい。
上記グラム陰性菌としては、例えば、Eschericha Coli属、Shigella属、Salmonella属、Klebsiella属、Proteus属、Yersinia属、V.cholerae属、Vparahaemolyticus属、Haemophilus属、Pseudomonas属、Legionella属、Bordetella属、Brucella属、Francisella tularensis属、Bacteroides属、Neisseria属、Chlamydia属、Plesiomonas属、Prophyromonas属、Pantoea属、Agrobacterium属、Stenortophomonas属、Enterobacter属、Acetobacter属、Xanthomonas属、Zymomonas属等が挙げられる。
なかでも、Eschericha Coli属由来、Salmonella属由来、Pantoea属由来、Acetobacter属由来、Zymomonas属由来、Xanthomonas属由来又はEnterobacter属由来のものであることが好ましい。これらは、古来より多くの食品、漢方薬に含まれ、生体への安全性が担保されており、特にPantoea属由来は、現在健康食品として用いられており、より有効であるといえる。これらの菌由来の抽出物又はその改変体をそのまま用いることも可能である。
【0021】
また、上記グラム陰性菌細胞壁からの抽出物又は精製したリポポリサッカライドとして用いる場合には、一般的には生体への安全性を加味する必要があり、これらを解毒化するための改変体として用いることもできる。一方、Acetobacter属(Acetobacter aceti、Acetobacter xylinum、Acetobacter orientalis等)、Zymomonas属(Zymomonas mobilis等)、Xanthomonas属(Xanthomonas campestris等)、Enterobacter属(Enterobacter cloacae等)、Pantoea属(Pantoea agglomerans等)は、古来より多くの食品、漢方薬に含まれ、生体への安全性が担保されており、これらの菌由来の抽出物又は精製したリポポリサッカライドをそのまま用いることも可能である。
【0022】
また、上記トール様受容体4(TLR4)アゴニストとしては、上記リポポリサッカライドの誘導体、例えば、多糖部分を除去したリピドA又はモノホスホリルリピッドA、3−脱−アシル化MPL等が挙げられ、若しくは塩であってもよい。
上記リポポリサッカライドの多糖部分を除去したリピドAとしては、上記グラム陰性菌由来の単離物であればよく、あるいはこれらグラム陰性菌由来の単離物と同じ構造になるように合成した物を用いてもよい。
また、上記リピドAの改変体としては、脱リン酸化を行ったモノホスホリルリピッド(MPL)又は塩も好適に用いられる。なお、本明細書にいうモノホスホリルリピッドは、モノホスホリルリピッドそれ自体のほか、その性質を有する限りその誘導体であってもよい。特に既に医療用途で免疫賦活剤として実績がある3−脱−アシル化物モノホスホリルリピッド(3D−MPL)、又は、米国特許出願公開第2010/0310602号明細書で提案されている脱アシル化されていない合成Glucopyranosyl lipidが生体への安全性の観点から好ましい。
また、上記モノホスホリルリピッドとしては、安全性及び使用前例のあるサルモネラ菌由来のものも好適に用いられる。
【0023】
上記トール様受容体2/6(TLR2/6)アゴニストとしては、例えば、ジアシル化リポペプチド又はその誘導体若しくは塩を含むことが好ましい。
上記ジアシル化リポペプチドとしては、安全性及び使用前例のあるPam
2CSK
4、MALP−2、FSL−1又はこれの誘導体若しくは塩からなる群より選択される少なくとも1種類を含むことが好ましい。
【0024】
また、上記トール様受容体2/6(TLR2/6)アゴニストとしては、マイコプラズマ細胞膜からの抽出物又はその改変体であってもよく、合成品であってもよい。
上記マイコプラズマとしては、例えば、Mycoplasma pneumoniae、Mycoplasma genitalium、Mycoplasma hominis、Ureaplasma、Mycoplasma salivarium、Mycoplasma fermentans、Mycoplasma gallisepticum、Mycoplasma hyopneumoniae、Mycoplasma laboratorium、Mycoplasma mycoides、Mycoplasma ovipneumoniae等が挙げられる。
【0025】
上記マイコプラズマ細胞膜からの抽出物又は精製したジアシル化リポペプチドとして用いる場合には、一般的には生体への安全性を加味する必要があり、これらを解毒化するための改変体として用いることもできる。
【0026】
上記環状ビスジヌクレオチドとしては、環状ビスジプリンヌクレオチド又はその誘導体若しくは塩であればよく、例えば、安全性の面からc−di−GMP、c−di−AMP又はその導体若しくは塩が好ましい。
【0027】
上記TLR4アゴニスト、TLR2/6アゴニスト及びc−di−GMPは、いずれも舌下免疫賦活剤として充分な機能を有するものであり、特にTLR4アゴニストは安価に手に入り、またヒトでも使用実績がある。例えば、上記TLR4アゴニストの一つであるパントエア菌由来LPSは、健康食品として広く使用されており、ヒトでの適応が容易であるといった利点がある。
【0028】
本発明のワクチン組成物において、上述した3種類の免疫賦活剤(TLR4、TLR2/6、環状ビスジヌクレオチド)のそれぞれの含有量としては、例えば、1個体に1回投与のために、本発明のワクチン組成物の全量に対して、0.1μg〜100mgの範囲で含有されていることが好ましい。0.1μg未満であると、充分な感染症の予防又は治療剤としての機能が得られないことがあり、100mgを超えると、安全性に関して問題となることがある。上記免疫賦活剤含有量のより好ましい下限は0.3μg、より好ましい上限は50mgである。
【0029】
また、本発明のワクチン組成物は、上述した3種類の群より選ばれる免疫賦活剤を少なくとも1種類含めば、これらと他の従来公知の免疫賦活剤を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
本発明のワクチン組成物は、上述した感染症由来抗原及び免疫賦活剤に必要に応じて他の成分(例えば、リン酸緩衝溶液等)を加え、公知の方法で攪拌混合することで調製することができる。
また、本発明のワクチン組成物を用いて、液剤、固形製剤、噴霧剤を調製することが可能であり、上述した材料以外に、所望により、賦形剤、結合剤、香料、矯味剤、甘味剤、着色剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤、界面活性剤等を適宜使用してもよい。
これらの材料としては特に限定されず、従来公知のものが使用できる。
【0031】
ここで、上記固形製剤には、錠剤、コーティング錠、散剤、顆粒剤、紬粒剤、口腔内崩壊錠、口腔内貼付剤、ゼリー剤、フィルム剤が含まれ、口腔粘膜、舌下粘膜に投与する固形状のものであれば特に限定されない。
【0032】
本発明のワクチン組成物は、ヒト又は動物(哺乳類、鳥類等)の口腔内への投与されるものであるが、当該口腔内への投与は、舌下粘膜への投与であることが好ましい。上述したように、口腔粘膜は、一般的には、免疫が起こりにくく、これら免疫寛容を引き起こすことができても、免疫を活性化することは難しいと考えられていたが、本発明のワクチン組成物は、少なくとも一種類の感染症由来抗原とともに、上述した特定の免疫賦活剤を併用するため、口腔粘膜への投与であっても、効果的に全身性免疫応答及び粘膜免疫応答を誘導することができる。
また、舌下粘膜への投与であることで、消化管粘膜へ抗原を投与する場合のように胃酸の影響やタンパク分解酵素の影響を受けることがなく、また、鼻腔粘膜へ抗原を投与する場合のように急性脳症等の重篤な副作用の可能性がなく、老人や乳児等でも投与が容易で更に鼻水等の身体的要因による安定した効果が妨げられることもない。
【0033】
また、本発明のワクチン組成物の投与方法としては、前述した通りである。また、その投与量としては、動物種、対象の年齢、性別、体重等を考慮して決められるが、例えば、感染症由来抗原としてHAを用いた場合、通常0.1μg〜50μgを1回又は2回以上投与することができる。好ましくは複数回の投与であり、この場合、1〜4週間の間隔をあけて投与することが好ましい。上記感染症由来抗原としてウイルス全粒子を用いた場合、HA換算で投与量を設定すればよい。なお、上記HAの重量は、SRD力価若しくはLowry法により測定した値である。