(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
杭によって支持された状態で前記構造物よりも先に前記対象範囲内に建っていた少なくとも1つの構造物である旧構造物のうちの地上部分を除去してから、前記第1杭打ち過程を行い、
前記地下空間形成過程では、前記対象範囲の地下の土砂とともに前記旧構造物の前記杭を除去する、
請求項1記載の場所打ち杭工法。
前記構台の上に載置したクレーンにより、前記地下空間の底に場所打ち杭を打込むために用いられる杭打機を降ろし、当該杭打機を用いて、前記第2杭打ち過程における、前記場所打ち杭の打込みを行う、
請求項1記載の場所打ち杭工法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、構造物の施主からの、低コスト化や工期についての要求が年々厳しくなっている。したがって、構造物の建築を引き受ける者は、もし可能なのであれば毎日24時間継続して工事を進めることを望む。工期の遅れは、人件費や重機のリース料等の高騰に繋がるから、工期短縮は低コスト化という面からも非常に重要な課題となる。しかしながら、間断なく工事を進めることを実現できない理由がある。
まず、上述した騒音の規制の問題がある。騒音の規制は特に夜間の騒音については当然に厳しい。したがって、杭基礎の設置のために比較的静かな場所打ち杭工法を採用したとしても、夜間に作業を行うのが難しいという事情がある。
次に、天候に基づいて生じる問題がある。杭基礎を設置する場合に限られないが、工事は、例えば雨天の場合には中止(延期)されることが多い。工事の中止があると、当然に工期は伸びる。
また、労働環境の規制についての問題がある。近年においては、騒音についての規制だけでなく、工事現場で働く労働者の労働環境についての規制も益々厳しくなっている。例えば、労働者に十分な休養、休日を与えることが、労働者を雇用する企業に厳しく義務付けられるようになってきている。もちろん多くの労働者を集めることができ、例えば三交代で労働者に労働を行わせることができれば、毎日24時間継続して工事を行わせることは可能であろうが、そのようなことをした場合に、上述した工事の中止があると、人件費は膨れ上がる。
これらの理由から、工期の短縮は難しい。
【0004】
本願発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決することを意図したものであり、少なくとも、工期の短縮を実現することのできる場所打ち杭工法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するため、本願発明者は以下の発明を提案する。
本願発明は、地下に構造体を有する構造物を建築するに先立って、場所打ち杭を地盤に打込むための場所打ち杭工法である。構造物は、既に述べたように建造物を含む広い概念である。本願発明における構造体とは、構造物が完成したときに構造物の一部として地下に存在する物を意味する。構造物がビルディングである場合、構造体は典型的には地下室、地下通路等である。
本願発明による場所打ち杭工法は、平面視した場合に前記構造体が設けられる範囲である対象範囲のうち、後に平面視した場合にその上で作業を行うための台であり、その下方から支持体によって支持される構台が設けられる範囲である特定範囲に、その上端が前記構造体の下端に対応した高さとなるようにして、地表から複数の場所打ち杭を打込む第1杭打ち過程と、前記第1杭打ち過程が終わった後に、前記構台を構築する構台構築過程と、前記第1杭打ち過程が終わった後に、前記対象範囲を掘ることで、その底の深さが前記第1杭打ち過程で打ち込まれた前記場所打ち杭の上端かその近傍に対応する空間である地下空間を形成するとともに、前記地下空間を形成したことにより生じた土砂を除去する、地下空間形成過程と、前記地下空間形成過程により現れた前記地下空間の底から、前記対象範囲のうちの前記特定範囲以外の部分に、複数の場所打ち杭を打込む第2杭打ち過程と、を含んでなる。
【0006】
かかる場所打ち杭工法において場所打ち杭は、構造体が設けられる範囲である対象範囲の全体に、必要に応じて打たれる。本願発明による場所打ち杭工法では、場所打ち杭は、第1杭打ち過程と、第2杭打ち過程とに分けて、それぞれ異なる場所に打たれることになる。
第1杭打ち過程では、場所打ち杭は、対象範囲のうち、後に構台が設けられる範囲である特定範囲の下側に打たれる。構台は、後にその上に適宜の重機(例えば、クレーン車やダンプカー)が乗入れて作業を行うための台である。構台は、柱や梁によって構成される支持体によってその下方から支持されるが、支持体が存在する構台の下においては、後述する第2杭打ち過程で行うような場所打ち杭の杭打ちを行うのが難しい。したがって、第1杭打ち過程では、構台の下側の部分において、必要に応じた複数の場所打ち杭を打込むことになる。
第2杭打ち過程でもそうであるが第1杭打ち過程において場所打ち杭の打込みに用いられる工法は、従来工法で構わない。一般的な場所打ち杭の従来工法は、鉛直に穴を掘る、掘った穴の底から適宜の高さまで、穴の径に対応した直径を持つ金属製のかごを入れる、穴の底からかごの上端に対応する高さまでコンクリートを打設し硬化させる、というものであり、硬化させられたコンクリートが場所打ち杭となる。場所打ち杭の上端は、地表に位置させることも可能であるし、地下に位置させることも可能である。場所打ち杭の上端が地下にある場合には、穴の場所打ち杭よりも上側の部分は埋め戻されるのが通常である。第1杭打ち過程では、場所打ち杭を打つための上述の穴を地表から掘り進めることになる。この場合、穴の長さは、後述する第2杭打ち過程において掘られる穴よりも深くなるし、また、特に本願発明における場所打ち杭工法が、構造物の建て替え(例えば、都市の再開発によるビルディングの建て替え)に使用される場合であって地下に先に建ててあったビルディング(構造物)の地下の構造体が存在するような場合には、地下に残存する構造体を貫いてその穴を掘る必要がある。したがって、第1杭打ち過程で実行される場所打ち杭を打つための工法において必要となる穴を掘る作業には、ある程度の長い時間がかかる。
他方、第2杭打ち過程では、対象範囲のうちの、特定範囲以外の範囲に必要に応じて複数本の場所打ち杭が打たれることになる。ただし、第1杭打ち過程における場所打ち杭とは異なり、第2杭打ち過程で打たれる場所打ち杭は、地上から打たれない。第1杭打ち過程が終わった後、第2杭打ち過程が初められる前に、地下空間形成過程が実行される。地下空間形成過程は、第1杭打ち過程が終わった後に、対象範囲を掘ることで、その底の深さが第1杭打ち過程で打ち込まれた場所打ち杭の上端かその近傍に対応する空間である地下空間を形成するというものである。第2杭打ち過程では、場所打ち杭は、地表からではなく、地下空間の底から地中に打込まれる。ここで、地下空間の底は、第1杭打ち過程で打ち込まれた場所打ち杭の上端かその近傍に対応しているので、第2杭打ち過程で場所打ち杭を打つために地中に掘られる穴の深さは、第2杭打ち過程で打込まれる場所打ち杭の長さと等しいか略等しい。したがって、第2杭打ち過程で場所打ち杭を打つために穴を掘るために要する時間は、穴の長さが短いことから非常に短くて済む。また、第2杭打ち過程で場所打ち杭を打つために穴を掘る場合には、仮に本願の場所打ち杭工法が構造物の建て替えに使用される場合であり、且つ先に建てられていた構造物の地下の構造体が存在していた場合であっても、当該構造体は、上述した地下空間形成過程において土砂とともに破壊されつつ少なくともその大半が除去されているので、残存する構造体が穴を掘ることの妨げになることも略無い。これも第2杭打ち過程で場所打ち杭を打つ場合に穴を掘るための時間が短くて済む理由となる。また、第2杭打ち過程において場所打ち杭を打つための作業は、地下で行われるとはいえ、広い地下空間の底で行われることになるから、その作業性は地表で場所打ち杭を打つ場合と変わらないから、地下で作業を行うことが場所打ち杭を打つ作業を難化させることもない。これらにより、第2杭打ち過程で1本の場所打ち杭を打つために要する時間は、第1杭打ち過程で1本の場所打ち杭を打つために要する時間よりも大幅に短縮することができる。
以上の説明からわかるように、本願発明の場所打ち杭工法の要点は、対象範囲のうち、後から場所打ち杭を打つのが難しい構台の下の特定範囲についてのみ、第1杭打ち過程で時間のかかる地表からの場所打ち杭の打込みを行い、対象範囲のうち後から場所打ち杭を打つのに対して特に問題の生じない特定範囲以外の部分においては、第2杭打ち過程で、地下空間の底から場所打ち杭を打つ、という点にある。特定範囲と特定範囲以外の範囲は、比較すれば後者の方が遥かに広いから、第1杭打ち過程で打たれる場所打ち杭の数より、第2杭打ち過程で打たれる場所打ち杭の数の方が遥かに多いのが通常である。このボリュームのある第2杭打ち過程における場所打ち杭の打込みに要する時間を、先に地下空間形成過程を実行することにより短縮しようというのが、本願発明のコンセプトである。地下空間形成過程は、ブルドーザその他の重機を用いて土砂を外部に搬出することにより実行することができ、仮に地下空間に相当する場所に先に建てられていた構造物における地下の構造体が存在したとしても構造体を破壊しながら土砂とともに外部に搬出してしまえば良いので、それに要する時間は、第1杭打ち過程や第2杭打ち過程で場所打ち杭を打込む時間に比して、相対的に遥かに短い。土砂の外部への排出には構台を利用することが可能である。そのような地下空間形成過程をあえて設けることで、本来であれば最も時間のかかる第2杭打ち過程で場所打ち杭を打込むために必要な時間を短縮することが可能となり、それにより対象範囲のすべての範囲に場所打ち杭を打込む時間を圧倒的に圧縮することが可能となる。
ちなみに従来は、対象範囲のすべての範囲において、本願発明の第1杭打ち過程の場合のように、地表から場所打ち杭を打ち込んでおり、すべての場所打ち杭の打込みが終わってから、地下空間を形成して構台を構築している。これに比べると、本願発明による場所打ち杭工法で場所打ち杭を打つのに要する時間は、遥かに短くて済む。
なお、第2杭打ち過程は、地下空間形成過程が完全に終了してから開始する必要はなく、地下空間形成過程により地下空間の予定された底が現れ始めた場合には、他の部分においては地下空間形成過程を続行しつつ、予定された地下空間の底で第2杭打ち過程を開始することが可能である。つまり、地下空間形成過程と第2杭打ち過程とは、時間的に重複していても良い。
【0007】
本願発明による場所打ち杭工法は、杭によって支持された状態で前記構造物よりも先に前記対象範囲内に建っていた少なくとも1つの構造物である旧構造物のうちの地上部分を除去してから、前記第1杭打ち過程を行い、前記地下空間形成過程では、前記対象範囲の地下の土砂とともに前記旧構造物の前記杭を除去するものとなっていてもよい。
上述したように、対象範囲内に先に建っていた構造物における地下の構造体が存在する場合には、場所打ち杭を地中に打込むのに要する時間が長くなる。本願発明による場所打ち杭工法による工期短縮の効果は、対象範囲内に、地下の構造物を有する旧構造物が存在した場合における建て替えに応用した場合に、より顕著に得られることになる。
旧構造物の地上部分の除去乃至解体は、従来工法によることが可能であり、それで十分である。
【0008】
本願発明の場所打ち杭工法では、前記地下空間形成過程を実行する際に生じた土砂を、一旦前記構台の上にあげ、前記構台の上に乗入れたトラックにより、前記対象範囲から搬出してもよい。
このようにすることで、地下空間を形成するときに生じた土砂を速やかに外部に排出することが可能となる。土砂は、例えば、公知或いは周知の排土装置によって、掘り進められている地下空間のその時点の底から構台の上に引き上げることが可能である。
【0009】
本願発明の場所打ち杭工法では、前記構台の上に載置したクレーンにより、前記地下空間の底に場所打ち杭を打込むために用いられる杭打機を降ろし、当該杭打機を用いて、前記第2杭打ち過程における、前記場所打ち杭の打込みを行うようにしてもよい。
構台の上にクレーン(クレーン車でも良い。)を持ち込み、杭打機を地下空間の底に下ろすことにより、地下空間の底に素早く杭打機を降ろすことが可能となり、それにより場所打ち杭を打つのに要する全体的な時間を短縮することが可能となる。
なお、第2杭打ち過程において使用される杭打機は複数でもよく、そうすることにより第2杭打ち過程を実行するのに要する時間はより短縮される。その場合には、構台の上のクレーンから地下空間の底に降ろされる杭打機の数は当然に複数となる。
【0010】
本願発明の場所打ち杭工法では、前記対象範囲の全体を仮設のテントで覆った状態で、前記第1杭打ち過程、前記構台構築過程、前記地下空間形成過程、及び前記第2杭打ち過程を実行してもよい。
これによる効果は、2つある。
まずは、仮設のテント内で第1杭打ち過程、構台構築過程、地下空間形成過程、及び第2杭打ち過程を実行することにより、周囲に対する騒音の漏れ出しを抑制できるということである。これによれば、場所打ち杭工法を毎日24時間継続して行える可能性があり、少なくとも従来よりも長く場所打ち杭工法を実施できるようになる蓋然性が高い。仮設のテントは従来と同様のものでも良いが、かかる観点からすれば、騒音の漏れ出しを抑制するための工夫があった方が良いのは当然である。
2つ目は、仮設のテント内で第1杭打ち過程、構台構築過程、地下空間形成過程、及び第2杭打ち過程を実行することにより、天候の別なく場所打ち杭工法を実施できるようになるということである。
これらにより、本願発明の場所打ち杭工法は、更に工期を短縮できるようになり、また、天候の別によらず、予定通りに場所打ち杭の打込みを行うことができるようになる。
【0011】
本願発明の場所打ち杭工法では、地下空間の側面を板である矢板(連壁、SMW(Soil Mixing Wall)を含む。)で覆うようにしてもよい。矢板は通常、板状の物体を地下に打ちこむが、連壁、SMWは、コンクリートを打設することで、地下で板状の物体を形成する。どれも、公知或いは周知であり、土砂止の効果を有する点で共通する。
地下空間の内部では上述したように、例えば、第2杭打ち過程が実施される。その場合、地下空間の内部に作業者が降りることになる。地下空間の深さは、場合にもよるが数十mに及び、地下空間の側面の崩落から作業者を守る必要が生じる。上述の如き矢板があれば、地下空間の内部に降りた作業者の安全を確保するに寄与する。
矢板は例えば、縦方向に伸びる板を並列させた構造とすることができる。矢板は、矢板の外側の地中に埋設されたアースアンカーによって、地下空間の外側下向き方向に力が加えられるようにしても良い。そうすることにより、矢板を地下空間の側面により密着させることが可能となり、地下空間の側面の崩落を矢板がよりよく防止できるようになる。
【0012】
本願発明の場所打ち杭工法に続けて、以下のような構造体の建築工法が実行されても良い。
その方法は、以上で説明したいずれかの場所打ち杭工法に続けて実施される、構造体の建築工法であって、前記構台の上に乗入れた重機を用いて、前記地下空間内に、前記第1杭打ち過程と、前記第2杭打ち過程とによって打込まれた前記場所打ち杭の上端にその下端が支持された前記構造体を建築する、構造体の建築工法である。
構台を利用することにより、構造体をより早く構築することが可能となる。
この場合、前記構造体が建築される過程で、前記構台を維持しつつ、不要になった前記構台の前記支持体を除去していくようにしてもよい。構造体は、地下空間の底から上方向に構築されていく。したがって、当初は地下空間の底にその下端が位置していた構台の支持体は、構造体が上方向に伸びていくにしたがって、その下方から不要になっていく。不要になった支持体は、順次撤去し、支持体の下端を上方に伸びてきた構造体の例えば上端で支持するようにすることができる。
構造体の建築工法を実行する場合、前記対象範囲の全体を仮設のテントで覆った状態で前記構造体を建築するようにしてもよい。これによっても、騒音の漏れの抑制と、天候の別によらない工事の継続の効果を得られるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい一実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
この実施形態では、ある敷地に建っている構造物であり、地下に構造体を有する旧構造物を構造体ごと解体し、旧構造物が存在していた敷地に、地下に構造体を有する構造物を建築する場合について説明する。
この実施形態では、新しい構造物の杭基礎としての場所打ち杭を打つために、本願発明による場所打ち杭工法を使用する。
【0016】
図1〜
図3に、これから解体される旧構造物10を示す。
図1は、平面図、
図2は斜視図、
図3は、地下も含む
図1中の矢印Aで矢視した方向からの側面図である。
旧構造物10は、この実施形態では、3つのビルディング11、12、13である。旧構造物10はいずれも、地上に位置する旧地上部分10Aと、本願発明における構造体に相当する地下に位置する旧地下部分10Bとを備えている。旧地上部分10Aはいずれも、公知或いは周知のビルディングの地上部分であり、旧地下部分10Bはいずれも、公知或いは周知のビルディングの地下部分である。旧地下部分10Bは典型的には、地下室、地下通路である。
ビルディング11、12、13は、道路15で囲まれた一区画に建てられている(
図1)。当該区画において網掛けされているXの符号が付された範囲が、後に新たな構造物である追って説明するビルディングが建てられる範囲であり、本願発明における対象範囲に相当する。後述する場所打ち杭は、この対象範囲内の全域に、複数本、必要に応じて打たれることになる。これには限られないが、対象範囲Xは、この実施形態では、
図1において左右方向に長い、横長の矩形である。これには限られないが、この実施形態では、建て替えのために取り壊される旧構造物10は、ビルディング11、12、13の3つであり、その敷地にこれも追って説明するように1つの大型のビルディングである新しい構造物が建てられることになる。これは、小さいビルディングが複数建っていた隣接する敷地に、大きなビルディングを建て替えて建設するものであり、街の再開発でよく見られる建て替えの態様に相当する。
図3に示したように、旧構造物10の旧地下部分10Bの下には、旧構造物10を支えていた杭である旧杭10Cが存在している。旧杭10Cは、場所打ち杭であるか否かを問わない。一般に、高い或いは大きな建造物の杭程その長さが長い。これには限られないが、この実施形態では、一番大きなビルディング11の旧杭10Cが一番長く、一番小さなビルディング13の旧杭10Cが一番短くなっている。
【0017】
建て替えの工事を行う場合、まず、旧構造物10の解体を行う。
旧構造物10の解体は、その旧地上部分10Aから行う。旧地上部分10Aの解体は、従来工法によることができる。旧地上部分10Aの解体を行う場合には多くの場合、後述する仮設テントは使用しない。旧構造物10の旧地上部分10Aを解体するために仮設テントを建てようとしても、旧構造物10の地上部分10Aの周囲に仮設テントを建てるために十分なスペースを確保するのが、事実上殆ど不可能であるためである。従来工法による解体は例えば、旧構造物10の旧地上部分10Aの周囲に仮設足場を設けて、散水工法を用いて解体を行うといったものである。
旧地上部分10Aを解体したことによって生じた瓦礫は、対象範囲Xから、外部へ搬出する。かかる瓦礫の搬出も、公知或いは周知技術によって行えば良い。
その後、対象範囲Xの全体を整地する。対象範囲Xを整地するとき、旧地下部分10Bに空間がある場合には、当該空間を埋め戻すのが好ましい。例えば、旧地下部分10Bにある空間は、床スラブや、旧地上部分10Aを破砕することによって生成したコンクリート再生砕石材等によって埋め戻すことができる。
対象範囲Xを整地した後の状態を、
図4の平面図と、
図5の側面図とに示す。
【0018】
この実施形態では、以降しばらくの工程は、仮設テントを用いて実施される。
これには限られないが、この実施形態における仮設テントは、以下のようにして構築される。
この実施形態では、仮設テントを構築するために、対象範囲Xを挟むようにして、2本の基礎レール110が配置される(
図6)。なお、基礎レール110の配置は、それが可能なのであれば、旧構造物10の旧地上部分10Aの解体が終了する前に、旧地上部分10Aの解体作業と並行して行われても構わない。
2本の基礎レール110はいずれも長尺であり、いずれも水平となるようにして、また互いに平行になるようにして配される。この実施形態では2本の基礎レール110は、矩形の対象範囲Xの長辺の長さよりも若干長くなっており、対象範囲Xの長辺の若干外側に、当該長辺からその両端がやや食み出るような状態で、配される。
基礎レール110は、その上に仮設テントを構築するためのものであり、仮設テントのいわば基礎となるものである。仮設テントの下端は、基礎レール110に対して固定されることになる。それにより、仮設テントが、例えば強風によって移動することが防止されることになる。そのような効果が得られるような重量を基礎レール110は備えており、重量を稼ぐ、また剛性が求められる等の事情により、その素材は金属製とされている。仮設テントの少なくとも一部は、後述するようにして、基礎レール110の上を基礎レール110の長さ方向に移動できるようになっている。
基礎レール110は、その上で、仮設テントを案内しながら移動させることが可能となっていればよく、公知、周知のものをこれに応用することができる。基礎レール110は、例えば、鉄道の軌道として用いられているレールをこれに利用することも可能であるし、一般的なH鋼をこれに利用することも可能である。
【0019】
ところで、2本の基礎レール110は、その長さ方向の所定の複数の箇所で、地表から打たれてその上端が地表から突出している杭の地表から突出している部分の上側に固定される。なお、この杭は、後述する場所打ち杭とは異なる。かかる杭に対して基礎レール110を固定すべきなのは、基礎レール110に固定された仮設テントの移動を防止するためには、まず基礎レール110自体が地表に対して移動を防止されている必要があるからである。杭を介して、基礎レール110は地表に対して強固に固定される。
しかしながら、2本の基礎レール110を、予定した通りに、水平に、且つ互いに平行に配するのはかなり難しい。1本の基礎レール110に着目した場合、基礎レール110は上述した通り、平面視した場合に直線上に所定間隔で打込まれた杭に対して、その長さ方向の所定の箇所を固定される。
この場合、杭を正確に直線上に打つことが難しいため、杭が予定された直線上からずれる場合があり得る。かかる杭の水平方向のずれ(直線の長さ方向のずれは大きな問題を生じないが、直線の幅方向のずれは問題を生じる。)は、基礎レール110の水平方向のずれを生じるか、若しくはずれた杭を基礎レール110に固定できないという状態を生じる。他方、多数の基礎レール110を地中に打ち込んだときに、各杭における地表から突出している長さを予定された高さに揃えるのが難しいため、各杭の地表から突出した部分の上側の高さに鉛直方向のずれが生じる場合があり得る。かかる杭の鉛直方向のずれは、基礎レール110の鉛直方向のずれを生じるか、若しくはずれた杭を基礎レール110に固定できないという状態を生じる。もっとも、杭を精密に打つことで、上述の水平方向及び鉛直方向のずれを生じさせないようにすることも可能ではあるが、重機を用いて大掛かりに行う杭打ちの作業を精密に行うのには時間がかかり、工期の短縮という面から見て妥当ではない。
かかる課題を、この実施形態では以下のようにして克服している。
【0020】
この実施形態においても、基礎レール110は、
図7に示したような杭120に対して固定される。この実施形態における杭120は、一般的な既製杭である杭本体121と、杭本体121に取付けられる補正材122とにより構成される。杭本体121は、地表から鉛直下方に打込まれる杭であり、例えば一般的に鋼管杭と呼ばれる筒状の杭である。鋼管杭である場合、杭本体121は、公知、或いは周知のものでよく、金属、例えば鉄により構成される。鋼管杭である場合、杭本体121は一般に円筒形である。杭本体121の下端には、杭本体121が地中から抜け出ないようにするための横方向に広がったアンカー体121Aが取付けられている。杭本体121は、公知或いは周知の既製杭用の杭打機を用いて、地中に打込まれる。
地中に打込まれる杭本体121は、上述したように、基礎レール110が配置される予定の直線上に複数本打込まれる。もっとも、杭本体121の水平方向の位置は、それ程正確である必要はなく多少の水平方向のずれは許容される。また、各杭本体121は、それらの上側の一部が地表から幾らか突出した状態とされる。しかしながら、各杭本体121の上端部分の高さは、それ程正確に揃っている必要はなく、多少の鉛直方向のずれは許容される。
【0021】
各杭本体121の上端には、
図7、
図8に示したような補正材122が取付けられる。補正材122は、各杭本体121に生じた水平方向のずれと、鉛直方向のずれとをともに吸収するものである。補正材122が存在することにより、杭本体121に水平方向のずれと鉛直方向のずれとの少なくとも一方が多少存在していたとしても、各杭120に対して基礎レール110は、直線性と水平性とを保った状態で固定可能となる。補正材122は、杭本体121の上端に、杭本体121の長さ方向の適宜の位置に任意に位置決めして固定できるようになっている。
補正材122は、
図8の斜視図に示されたように、その下方の筒状の筒部122Aと、筒部122Aの上端に取付けられた取付部122Bとにより構成されている。補正材122は、金属製であり、例えば、杭本体121と同じ金属でできている。この実施形態では、補正材122と、杭本体121とは、互いに溶接可能となっており、それが可能な素材でできている。
筒部122Aは、筒状であり、杭本体121の外形に対応した内側形状を有している。一般に杭本体121の長さ方向に垂直な方向の断面形状は円形であるので、筒部122Aの内側の空間の断面形状は、円形である。ここで説明する例では、筒部122Aの内径は、杭本体121の外径に事実上等しくされている。それにより筒部122Aは、杭本体121の上端の外面に対してその内面を添わせるようにして、杭本体121の上端近傍に被せたような状態で、取り付けることができるようになっている。それが可能であれば筒部122Aの外形は問わないが、この実施形態における、筒部122Aは、その外形も円筒形とされている。
取付部122Bは、その上面に平面を備えている。かかる平面に、基礎レール110は固定される。取付部122Bは、上面が平面であればその他の部分の形状は問わないが、この実施形態ではすべての部分で同じ厚さの板状とされている。取付部122Bは、筒部122Aの中心軸から外側に向かって例えばすべての方向に伸びている。この実施形態における取付部122Bは、これには限られないが、筒部122Bの上端に取付けられた、筒部122Bの軸に対して垂直であり、平面視した場合にドーナツ型となっている板とされている。ドーナツ型となっている取付部122Bの径方向の幅は、すべての部分で同一となっているが、これはその限りではない。なお、取付部122Bの中心には、
図7、
図8に示したような、筒部122Aから連通する孔が存在していてもよいが、取付部122Bを円板状として、その孔を無くすことも可能である。また、その孔の大きさを、筒部122Aの孔の大きさよりも小さくする等、筒部122Aの孔と異ならせることも可能である。
かかる補正材122は、上述したように、杭本体121の上端の外面に対してその内面を添わせるようにして筒部122Aを杭本体121の上端に被せることにより、杭本体121の上端に対して取り付ける(
図7(A))。このとき、杭本体121の上端から、筒部122Aの下端までの距離Lを調整することで、補正材122における取付部122Bの上側の面の高さ位置を、任意に調整することができる。各杭本体121の上端の高さに多少のずれがあったとしても、各杭120において、上述の距離Lを適宜に調整することにより、各杭120における取付部122Bの上側の面の高さを揃えることが可能となる。各杭120における取付部122Bの上側の面の高さの調整可能な幅は、筒部122Aの長さによって決定される。筒部122Aの長さは、必要な調整幅に応じて決定すれば良い。補正材122の杭本体121に対する固定は、その固定が基礎レール110の移動を生じさせない程度に強固なものである限りどのような方法によって行っても良いが、例えば溶接により、それを行うことが可能である。
他方、杭本体121の水平方向のずれは、取付部122Bの上面が広がりを持っていることによって吸収される。
図7(A)で示した図で、その長さ方向に対して垂直な断面が示された基礎レール110は、杭本体121の中心軸から多少左にずれた状態で図示されている。本来、杭本体121が予定された上述の直線上にきっちり乗っているのであれば、杭本体121の軸は、基礎レール110の幅方向の中心を貫いているはずである。しかしながら、杭本体121が直線上から多少ずれている場合には、
図7(A)に示されたように、基礎レール110の幅方向の中心が、杭本体121の軸から相対的に幾らかずれることになる。しかしながら、杭本体121の位置に、本来予定された位置からの水平方向のずれが存在していたとしても、基礎レール110が取付けられる取付部122Bの上面に幾らかの広がりが存在するため、基礎レール110を杭120に固定するには支障は生じない。各杭120における基礎レール110の水平方向の調整可能な幅は、取付部122Bの形状、大きさによって決定される。取付部122Bの形状、大きさは、必要な調整幅に応じて決定すれば良い。基礎レール110の杭120に対する、より詳細には取付部122Bの上面に対する固定は、基礎レール110の杭120に対する移動が生じない程度に強固であればどのような方法によっても良いが、例えば、溶接によりこれを行うことが可能である。
【0022】
なお、上述の例においては、補正材122の筒部122Aの内径は、杭本体121の外径に事実上等しくされており、それにより筒部122Aは、杭本体121の上端の外面に対してその内面を添わせるようにして、杭本体121の上端近傍に被せたような状態で、取り付けることができるようになっていた(
図7(A))。これに代えて、補正材122の筒部122Aの外径を、杭本体121の内径に事実上等しくすることにより、それにより筒部122Aを、杭本体121の上端の内面に対してその外面を添わせるようにして、杭本体121の上端近傍に挿入するような状態で、取り付けられるようにすることも可能である(
図7(B))。このように、補正材122は、杭本体121に対して、上下方向の位置を適宜に位置決めして取付けられるようになっていれば、特にその筒部122Aの構成は問わない。
図7(B)に示した場合においても、杭本体121と補正材122との固定は、例えば溶接によって行うことが可能である。
補正材122と杭本体121との固定を、溶接以外の方法によって行う場合の例を、
図9に示す。補正材122と杭本体121とを溶接によって着脱不能に固定してしまった場合には、互いに固定された補正材122と杭本体121とは、それらの位置関係を2度と修正できなくなる。したがって、当該杭本体121と補正材122とは、ある現場において利用された場合には、他の現場において再利用することが難しくなる。他方、補正材122と、杭本体121との固定を着脱自在とした場合には、基礎レール110を杭120に固定するにあたって、ある現場において補正材122と杭本体121とが固定された場合において、基礎レール110の使用が終わった後に、杭本体121と、補正材122との固定を解除することにより、杭本体121と、補正材122とを他の現場で再利用することが可能となる。なお、この場合には、基礎レール110と補正材122との固定も、着脱自在とするべきである。補正材122と基礎レール110の着脱自在な固定の方法は、杭120と、基礎レール110とを、例えばボルト及びナットにより着脱自在に固定する方法が公知或いは周知であるので、それを利用すれば良い。
図9で示した例について説明する。
図9(A)は、杭本体121の上端部近辺を示す斜視図である。杭本体121の適宜の位置には、孔121Bが穿たれている。孔121Bは少なくとも1つであり、この実施形態では3つとされている。
図9(B)は、補正材122を示す図である。この補正材122は、
図8に示したものと同様に、筒部122Aと、取付部122Bとを備えている。筒部122Aには、筒部122Aの下端から上端に向かって切られた螺旋状の取付溝122A1が設けられている。取付溝122A1は、筒部122Aの下端にまで及んでいる。
図9に示された例では、筒部122Aを上下させながら回転させることにより、筒部122Aの取付溝122A1と、杭本体121に穿たれた孔121Bとの位置とを、杭本体121に対して補正材122の高さを任意の高さとしつつ、位置合わせすることが可能となっている。その状態で、筒部122Aの内側か外側から、3つの孔121Bとそれと重なっている取付溝122A1とをそれぞれ、ボルト123Aでまとめて貫くとともに、そのボルト123Aにナット123Bを螺合させることにより、ボルト123Aの頭部とナット123Bとにより、筒部122Aと杭本体121とを挟持する(
図9(C))。これにより、杭本体121に対して補正材122を、杭本体121に対する高さ位置を適宜に位置決めした状態で固定することが可能となる。ボルト123Aと、ナット123Bによる筒部122Aと杭本体121との挟持には、周知のようにワッシャー123Cを用いることも当然に可能である。
なお、
図9に示した例では、筒部122Aに設けられた螺旋状の取付溝122A1は一連となっていた。しかしながら、取付溝122A1が一連であると筒部122Aの強度に影響が生じるおそれがある反面、取付溝122A1は、ボルト123Aに貫かれる部分以外は機能しない。したがって、取付溝122A1のうち、当初からボルト123Aに貫かれることが予定されない部分では取付溝122A1を設けず、筒部122Aの壁をそのまま残すこと、言い換えれば取付溝122A1を分割することも可能である。例えば、
図9に示した例では、筒部122Aと、杭本体121とは、3本のボルト123Aに貫かれるのであるから、取付溝122A1は、3つに分割され、それらの間の2箇所に筒部122Aの壁を残すようにすることができる。そのようにすれば、筒部122Aの強度に与える影響を押さえつつも、既に説明した通りの方法での筒部122Aと、杭本体121との着脱自在な固定を実現できることになる。
【0023】
次いで、2本の直線上に並べられた杭120に対して、2本の基礎レール110をそれぞれ固定する。基礎レール110は長尺であるが、1本ものである必要はなく、公知或いは周知のように同一直線上に基礎レール110を構成する複数の部材を並べることで構成されていても良い。
これら2本の基礎レール110を利用して、仮設テントを設ける。仮設テントは、これには限られないが、この実施形態では、
図10〜
図13のようにして設ける。
この実施形態では、仮設テント200(
図13参照)は、複数の分割テント210を組み合わせて構成される。分割テント(
図10〜
図12参照)は、仮設テント200の一部となるものである。分割テント210は、
図10等に示したように、骨材220と、骨材220の間に張られたシート230とからなる。
骨材220は、仮設テント200の骨組みとなるものであり、仮設テント200を覆うシート230を支持するためのものである。骨材220の構成は、公知或いは周知のものと同じで構わない。この実施形態における骨材220は、平面視した場合に基礎レール110に対して垂直であり、所定の間隔を空けて配置される。これには限られないが、骨材220同士の間隔は、この実施形態では一定であり、且つ骨材220同士は、図示せぬ部材によって互いに接続されることにより、その一定の間隔が保たれるようになっている。この実施形態において、1つの分割テント210に含まれる骨材220の数は3つとされているが、これはこの限りではない。分割テント210は後述するようにしてそれらを基礎レール110の上を移動させた後に組合せることにより仮設テント200を構成するが、分割テント200に含まれる骨材220の数が多ければ、分割テント210の移動の回数を減らすことができるようになるから、分割テント210の移動に関する作業の負担、及び作業時間は減る。もっとも、分割テント210に含まれる骨材220の数を増やすことにより分割テント210の重量が大きくなるため、分割テント210の大きさ乃至それに含まれる骨材220の数は、移動させることの可能な分割テント210の重量によって制限を受けることになるし、また、後述するようにして組立てられる分割テント210の組立て場所の広さによっても制限を受けることになる。
骨材220は、鉛直方向に伸びる柱221と、柱221によって支持される梁222とから構成されている。柱221と梁222とはともに、棒状ではあるが、1本の棒状体で構成されている必要はなく、複数の部材を例えばトラス構造となるように組合せて構成されていても良い。この実施形態における梁222は、仮設テント200の屋根を構成するものとなっており、中央が高くなるように2本が傾斜して接続されている。結果として、仮設テント200は、
図13に示されたように切妻型の屋根を持つことになるが、仮設テント200の屋根の構造はこれには限られない。仮設テント200は、対象範囲X全体を覆うことが可能であり、その内部で、後述するような重機(例えば、クレーン車)が作業を行うことができるようなものとする必要がある。仮設テント200の大きさは、例えば、長辺が100mを超える場合があり、高さが50mを超える場合がある。
【0024】
シート230は、例えば、樹脂製のシート、或いは、繊維による織物又は編物の少なくとも一方の面を樹脂でコーティングしたシートとすることができる。シート230を構成する樹脂の例は、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン等であり、その厚さは、例えば0.5mm〜2.0mmである。シート230は、巻取り又は折畳みが可能とされているが、この実施形態ではその双方が可能とされており、少なくとも骨材220に沿って曲折可能な程度の柔軟性を有している。
シート230はこの実施形態では、長尺の矩形である。シート230の幅は隣り合う骨材220の間の間隔と同じかそれよりも若干長い長さとされている。シート230の長手方向の長さは、1つの骨材220の長さ、即ち1つの骨材220に含まれる2つの柱221と2つの梁222の長さを合わせた長さに対応したものとされている。シート230は、複数枚のシート材を熱融着などによって貼り合わせたものであってももちろん構わない。
シート230の幅方向の両端を、隣接する2つの骨材220に沿って固定することにより、シート230が隣接する2つの骨材220の間に張り渡されることになる。シート230と骨材220との固定の仕方は、公知或いは周知技術によれば良い。なお、シート230は、仮設テント200の中の明るさを保つためにある程度の透光性を持つのが好ましく、また、仮設テント200内で行われる作業に基づく音が仮設テント200外に漏れるのを防止するために、ある程度の遮音性を有するのが好ましい。主に、遮音性を向上させる目的で、シート230を二重構造にすることも可能である。また、シート230の選択には、耐候性等必要な機能が勘案される。
【0025】
この実施形態において、分割テント210は、基礎レール110の一方側の端部の上で組上げられる。基礎レール110の一方側の端部付近に、分割テント210を組上げるために必要な重機、例えばクレーンが配置される。
この実施形態では、柱221も梁222も、多数の部材をトラス状に組上げて構成されている。2本の基礎レール110の一方側の端部の上に、各骨材220の2本の柱221が組上げられる。次いで、両柱221の上端に2本の梁222の基端が接続され、梁222を基礎レール110の中心方向に向けて上り傾斜を付けて伸ばして行き、梁222の先端同士が接続される。これにより、骨材220が完成する。この作業を、3つの骨材220に対して行う。
次いで、各骨材220間を上述の図示せぬ部材で繋いで、各骨材220の間隔が一定に保たれるようにする。そして、隣接する2本の骨材220の間に、シート230が張り渡される。
このようにして、1つ目の分割テント210が、基礎レール110の一端側の上で構築される(
図10)。
【0026】
次いで、1つ目の分割テント210を、
図10中で矢視したように、基礎レール110の他端側にスライドさせて移動させる。分割テント210の移動の方法は公知或いは周知技術によることができ、分割テント210の基礎レール110上での移動に用いる動力は適宜選択することが可能である。この実施形態では、これには限られないが、この実施形態では油圧で駆動するジャッキスピンドルを動力として用い、例えば基礎レール110の適宜の位置にジャッキスピンドルの本体を固定するとともに、分割テント210をジャッキスピンドルの本体に対して基礎レール110の長さ方向に平行移動するシリンダに固定して、本体に対して、シリンダを平行移動させる作業を繰返すことで、シリンダの移動距離に応じた距離ずつ、分割テント210を移動させることによりこれを行う。
結果として、分割テント210は、基礎レール110の他端側まで移動させられる(
図11)。
【0027】
次いで、2つ目の分割テント210が、1つ目の分割テント210と同様に、1つ目の分割テント210と同じ過程を経て、基礎レール110の一端側で構築される。なお、2つ目の分割テント210は、1つ目の分割テント210の移動中にその構築が開始されていても良く、これは以後も同様である。
構築された2つ目の分割テント210は、1つ目の分割テント210と同様に、基礎レール110の上を、基礎レール110の他端側に向けて移動させられる。
2つ目の分割テント210は、基礎レール110の他端側寄りで、1つ目の分割テント210と接続される。2つ目の分割テント210と、1つ目の分割テント210とを接続する方法は、以下の2通りであり、そのいずれかを採用する。
1つ目の方法は、1つ目の分割テント210の骨材220のうち、分割テント210の進行方向で考えて最も後ろのものと、2つ目の分割テント210の骨材220のうち、分割テント210の進行方向で考えて最も前のものとを、そのまま接続する、というものである。その場合、接続された部分の骨材220は、分割テント210の進行方向で考えて、他の骨材220の2倍の厚さとなる。それを嫌うのであれば、各分割テント210の骨材220のうち、分割テント210の進行方向で考えて最も前と最も後ろのものとの分割テント210の進行方向で考えた厚さを、他の骨材220の半分としておけば良い。そうすることで、接続された部分の骨材220の厚さを、他の部分の骨材220の厚さと揃えることが可能となる。
2つ目の方法では、まず、1つ目の分割テント210の骨材220のうち、分割テント210の進行方向で考えて最も後ろのものと、2つ目の分割テント210の骨材220のうち、分割テント210の進行方向で考えて最も前のものとの間に、各分割テント210における骨材220間の距離に相当する間隔が空くところまで、2つ目の分割テント210を進める。そして、その後、1つ目の分割テント210の骨材220のうち、分割テント210の進行方向で考えて最も後ろのものと、2つ目の分割テント210の骨材220のうち、分割テント210の進行方向で考えて最も前のものとの間に、分割テント210を作る場合と同様にして、シート230を張り渡す、というものである。この場合、1つ目の分割テント210の骨材220のうち、分割テント210の進行方向で考えて最も後ろのものと、2つ目の分割テント210の骨材220のうち、分割テント210の進行方向で考えて最も前のものとの間に、それら2つの骨材の距離を一定に保つための上述した部材を配しても良い。
いずれの方法を取るにせよ、これにより、2つ目の分割テント210は1つ目の分割テント210に接続される。
【0028】
同様にして、3つ目の分割テント210、4つ目の分割テント210、5つ目の分割テント210…を基礎レール110の一端側で構築し、基礎レール110の上を基礎レール110の他端側に送った上で、その1つ手前の分割テント210に接続していく(
図11)。
最後の分割テント210は、基礎レール110の上を送られなくともよい。最終的に、基礎レール110の略全長にまたがる仮設テント200が略完成する(
図12)。
この状態では、仮設テント200の分割テント210の移動方向で考えた場合における前方と後方は開放されている。その開放されている部分を、この実施形態であれば五角形のシート240で覆うことにより、対象範囲Xをすっぽり覆う仮設テント200が完成する(
図13)。
シート240は、シート230と形状のみ異なるものとすることが可能である。シート240の仮設テント200の最も前と後ろの骨材220への固定の方法は、公知或いは周知技術に倣えばよい。シート240には必要に応じて、少なくとも一つの開閉可能な扉241が設けられる。扉241は、重機や作業者が仮設テント200に出入りするためのものであり、その構成は、公知或いは周知技術に倣えばよい。なお、シート240を張るタイミングは、仮設テント200が
図12で示す状態になった後でなくとも良い。例えば、最初の分割テント210は、基礎レール110の一端側で組上げられた段階で既にシート240が張られていてもよい。
なお、5角形のシート240を仮設テント200に張る際に、仮設テントの前後の5角形の開口部に、図示を省略の柱と梁を適宜に設けることが可能である。この場合において、柱の下端は何らかの基礎に固定すべきである。例えば、上述したような杭120に固定した、対象範囲Xの短辺に沿って配された基礎レール110を基礎とし、その上に柱の下端を固定することが可能である。この場合、仮設テント200が
図12に示した状態となってから柱や梁が組上げられ、その後シート240が取付けられるというのが通常での方法として採用可能である。
【0029】
以上で説明したように、仮設テント200は、基礎となる基礎レール110の上に構築される。より詳細には、基礎レール110に対して、骨材220を構成する柱221の下端が乗る。
上述のように、基礎レール110は、対象範囲Xの2本の長辺の外側に、1本ずつ配されることとなっている。もっとも、基礎レール110の幅が小さい場合には、各基礎レール110で支えることのできる、柱221の太さにも制限が生じる可能性がある。そうすると、骨材220の太さ、強度にも制限が生じる可能性がある。
そのような制限を解消するために、対象範囲Xの2本の長辺の外側に配される基礎レール110をそれぞれ、二本一組とすることが可能である。この場合、
図30、
図31に示したように、杭120は、対象範囲Xの長辺とともに平行な2本の仮想の直線(第1直線)上に、一組で打たれる。多数の杭120は、理想的には、2本の第1直線のいずれととも直交する例えば等間隔で引かれた直線(第2直線)と、2本の第1直線とが交差する交点に打たれる。多数の杭120のうち、共通する第2直線上に位置する杭120が、1組の杭120である。なお、この場合の杭120は、用い方も含めて、ここまでに詳述した杭120と同じである。
そして、1組の杭120には、
図30に示したような跨ぎ材150が渡される。跨ぎ材150は、1組の杭120にわたすことのできるだけの長さを持ち、その上に平面を作ることができる、頑丈な部材であれば良い。跨ぎ材150は、例えばH鋼である。H鋼をHの字を横倒しにするように用いれば、その上には平面ができる。
上述の例では、杭120の一部を成す補正材122が備える取付部122Bの上面に基礎レール110が固定されたが、この例では、杭120の取付部122Bの上に固定された跨ぎ材150の上面に、2本の基礎レール110が平行に取付けられる。つまり、この例では、杭120に対して、基礎レール110が、跨ぎ材150を介して間接的に固定される。
ここで重要となるのが、跨ぎ材150の上面が水平を保つこと、及び平面視した場合における跨ぎ材150の長さ(第2直線方向の長さ)の間に2本のレールを収められることである。
上述したように、多数の杭120は、理想的には、2本の第1直線と、多数の第2直線とが交差する交点に打たれる。しかし、各杭120の位置は、第1直線方向にも、第2直線方向にもずれる場合がある。杭120が第1直線方向にずれると、1組の杭120にわたされる跨ぎ材150が、第1直線に対して直交しなくなる。そうすると、平面視した場合における跨ぎ材150の長さの間に2本のレールを収められなくなり得る。杭120が第2直線方向にずれると、特に杭120が2本の第1直線から外側にずれた場合には、1組の杭120に対して跨ぎ材150を固定できなくなる可能性がある。そのような第1直線方向、第2直線方向のずれは、杭120の一部を成す補正材122が備える取付部122Bの広がりによって吸収される。つまり、1組の杭120に対して、跨ぎ材150は、第1直線に直交するようにして、予定された位置に固定することができる。
また、多数の杭120における杭本体121の上端の位置、即ち、杭本体121の地表から突出した長さは、各杭本体121毎に異なってしまう場合がある。そうすると、1組の杭120に対してわたされた跨ぎ材150の上面が水平を保てなくなるおそれがある。また、1組の杭120の高さを揃えられたとしても、すべての1組の杭120にわたされた跨ぎ材150の上面が水平であったとしても、すべての杭120の高さが揃っていないと、各跨ぎ材150の水平な上面の高さが揃わないという事態が生じうる。その場合には、跨ぎ材150の上面に固定される基礎レール110が水平を保てないか、悪い場合には、跨ぎ材150の上面に基礎レール110を固定できなくなる。このような杭本体121の鉛直方向のずれは、杭本体121に対する補正材122の高さ位置の調整によって吸収することができる。
そのようにして、対象範囲Xの2つの長辺の外側のそれぞれに、2本ずつの基礎レール110が配されることになる。隣接する2本の基礎レール110を1組の基礎レール110と称するとすれば、1組の基礎レール110はともに、水平であり、直線状であり、互いに平行である。
この1組の基礎レール110の上に、骨材220の柱221が固定される。
図31に示した、4つの221Aの符号で示されているのが、1本の柱221を構成する柱体221Aの断面である。柱体221Aは、例えば鉄骨であって、鉛直方向に伸びる。これには限られないが、この実施形態における柱体221Aは、平面視した場合に、基礎レール110の上にあり、且つ所定の正方形の頂点上に位置するようにされている。そのような鉛直な4本の柱体221Aの間に、例えば、トラス構造を構成するような梁状の補強部材を適宜固定することにより、この場合の柱221は構成されることになる。その場合、梁222も、同様にトラス構造で構成されるのが通常である。
【0030】
次いで、建て替えによって建てられる新しい構造物についての杭基礎を構築する。新しい構造物は、追って説明するように、対象範囲Xに建てられる1つのビルディングである。1つのビルディングについての杭基礎は、場所打ち杭である。
ここで打たれる場所打ち杭20Cは、
図14に示したように、対象範囲Xの一部である特定範囲Y内にのみ打たれる。なお、
図14は、対象範囲Xの平面図であるが、仮設テント200の図示を省略している。特定範囲Yは、後述する構台で覆われる範囲であり、言い換えれば構台の下側に位置する範囲である。
図15〜
図19を参照して、具体的な場所打ち杭20Cの打ち方について説明する。なお、場所打ち杭20Cの打ち方は、公知或いは周知技術に倣えばよい。今回の特定範囲Yにおける場所打ち杭20Cの打込みの他に、後でもう一度、場所打ち杭20Cを打つ場面が登場するが、その場合も同様である。なお、
図15〜
図18は、
図1においてAで示した矢印で矢視された方向から見た、地下も含む対象範囲Xの側面図である。
図19は、
図1においてBで示した矢印で矢視された方向から見た、地下も含む対象範囲Xの側面図である。
図15〜18、及び
図19はいずれも模式的なものであり、作図上の都合から、
図14とは、特に場所打ち杭20Cの本数について正確性を欠いている。
図15に示したように、まず、対象範囲Xのうち、特定範囲Yの場所打ち杭20Cを打つべき位置に対応する整地された地表の所定の位置に、杭打機300を置く。この杭打機300は、地下に向けて鉛直に穴を穿つ機能と、コンクリートを流し込む機能とを備えている。これら機能は、複数の装置に割り振られていてもよく、その場合には杭打機300は複数の装置から構成されることになる。
そして、杭打機300により、鉛直方向に穴301を掘る。穴301は、旧構造物10の旧地下部分10Bや、旧杭10Cと干渉するのであれば、それらを貫きつつ地下に向けて掘り進められる。穴301は、場所打ち杭20Cが後に建てられるビルディングを支えるに足る強度が得られる位置にまで掘り進められる。一般的には、硬い地盤に到達するまで穴301が掘り進められることが多い。穴301の底付近の径をその上の部分よりも大きくすることも可能である。
次いで、穴301の中に、穴301の内壁に層円筒形の図示を省略の一般には鉄筋で作られた、金属製のかごを入れる。かごは、穴301の底から、所定の高さにまで及ぶようにする。そして、穴301の中に杭打機300から、液状のコンクリートを流し込む。コンクリートは、穴301の底から、かごの上端までを満たす。そのコンクリートが硬化することで、場所打ち杭20Cとなる(
図16)。かごは、場所打ち杭20C内で、その強度を保証する鉄筋となる。穴301の底付近の径がその上の部分よりも大きくなっている場合には、場所打ち杭20は拡底杭となる。
次いで、他の場所に杭打機300を移動して、同様に穴301を穿つ。そして、上述の場合と同様に、穴301の中にかごを入れ、コンクリートを流し込みそれを硬化させることで、場所打ち杭20Cとする(
図17)。
以上を繰返すことにより、
図14、
図18、
図19に示したように、特定範囲Yの全域に、場所打ち杭20Cが打たれることとなる。なお、この実施形態では、場所打ち杭20Cの下端の深さ(高さ位置)は揃っているものとするが、これはこの限りではない。各場所打ち杭20Cの下端の深さは、上述したように、各場所打ち杭20Cが、後に建てられるビルディングを支えるに足る強度が得られるかという観点から決定される。また、この実施形態では、場所打ち杭20Cの上端の深さ(高さ位置)は揃っているものとするが、これもこの限りではない。各場所打ち杭20Cの上端の深さは、後に作られるビルディングの後述する地下部分の、各場所打ち杭20Cがある部分の下面に相当する高さとされる。結果として、場所打ち杭20Cは、下方から構造物としてのビルディングの地下部分を支持することになる。
なお、一般的な場所打ち杭の工法では、場所打ち杭の上端が地下にある場合には、穴の場所打ち杭よりも上側の部分は埋め戻されるのが通常であるが、この実施形態では、当該部分は後述するように周囲の土砂ごと除去されるので、かかる埋め戻しを行う必要は特に無い。
また、この例では、杭打機300は一つとされ、場所打ち杭20Cは一本ずつ打たれていたが、複数の杭打機300を用いて、複数の場所打ち杭20Cを同時並行して同時に打つことももちろん可能である。工期短縮を目指すのであれば、もちろんその方が良い。
また、ここでの特定範囲Yに場所打ち杭20を打つ作業は地上で行われる。かかる作業は、必ずしも仮設テント200が完成してから行われる必要はない。仮設テント200が作られる前、或いは仮設テント200を構築する作業と並行して、特定範囲Yに場所打ち杭20を打つ作業が行われても良い。特に、仮設テント200を構築する作業と並行して、特定範囲Yに場所打ち杭20を打つ作業行うと工期短縮の効果が大きい。
【0031】
続けての作業を、
図20〜
図29を用いて説明する。これらのうち、
図26の作図法は
図14にならっており、その他の図の作図法は、
図19にならっている。
特定範囲Yの全体に上述したようにして場所打ち杭20Cを打ったら、次いで、構台410を設置する(
図20)。構台410は、その上に重機、車両、作業員が乗って作業を行うための台である。それを行えるだけの強度、広さが構台410には必要である。この実施形態における構台410は、板状である。構台410は、最初に構築されるときはそれのみであっても良いし、それに加えて、後述する支持体のうち上側の最小限の部分を含んでいてもよい。構台410が覆うのは、上述した特定範囲Yである。この実施形態における特定範囲Yは、
図14で示したように矩形であったが、これは必ずしもこの限りではなく、また、特定範囲Yの長さは、対象範囲Xの長手方向の全長に及ぶ必要もない。もっとも、構台410の一部は、対象範囲X外から構台410の上に車両等が侵入できるようにするために、対象範囲Xの外縁の一部に接している必要がある。例えば、この実施形態でいえば、仮設テント200の扉241のある部分において、構台410と対象範囲Xの縁とを接するようにするのが便利であり、これには限られないがこの実施形態ではそうされている。
【0032】
整地された地表に構台410を構築したら、対象範囲Xの全体を、掘り下げていくことにより、地下空間を形成していく。これには限られないが、この実施形態では、対象範囲Xの掘下げが開始されるときには、仮設テント200は完成している。対象範囲Xの掘下げを含む、仮設テント200内で行われる作業は、仮設テント200の防音性能や周囲の環境が許せば、例えば三交代で、毎日24時間連続で施工することが可能である。また、仮設テント200内での作業は、仮設テント200によって雨も避けることができるので、いわゆるドライ施工も実行できる。対象範囲Xの掘り下げには、所定の重機を用いる。この実施形態で、対象範囲Xの掘り下げに用いられる重機は、これには限られないが好ましくは複数のブルドーザ510である(
図21、
図22)。パワーシャベル等の他の重機がこの作業に用いられても構わない。
ブルドーザ510によって対象範囲Xの全体を掘り下げていくと、土砂が除去されることにより空間が現れる。これが地下空間Sである。地下空間Sを形成する場合、そこに旧構造物10の旧地下部分10Bや、旧杭10Cが存在するのであれば、それらを土砂と一緒に破壊して除去する。旧構造物10Bや、旧杭10Cを土砂と一緒に除去することが可能であるから、この作業に費やされる労力と時間はそれ程大きくない。土砂、破壊された旧地下部分10B及び旧杭10Cは、地下空間Sから取り除かれる。この実施形態では、現れた地下空間Sの底に配置された公知又は周知の排土機520によって土砂等を構台410の上にまで引上げることによりそれを行う。排土機520によって構台410の上に引き上げられた土砂等は、例えば、構台410の上に乗入れているダンプカー530の荷台に積み替えられる。ダンプカー530は、構台410の上を走り、仮設テント200の扉241から外部へ出て、所定の場所に土砂を捨てに走る。このようにして、構台410を利用することにより、土砂を地下空間Sから、対象範囲X外の適当な場所に排出する作業が容易になる。かかる土砂の排出も、昼間のみならず夜間にも行うことができる。夜間であれば一般に、車両の渋滞を考慮する必要がないから、ダンプカー530の往来を予定通りに通常よりも長い距離で行うことができるし、また多くのダンプカー530を集めることも容易であるから、工期短縮に有用である。土砂と、破壊された旧地下部分10B及び旧杭10Cとを分別する必要があるのであれば、対象範囲X外で行うのが容易であろうが、それは必ずしもその限りではない。
地下空間Sの底が掘り下げられて行くと、当然に構台410は支えを必要とする。地下空間Sを掘り下げていく場合、構台410の下には、支持体420が設けられる。支持体420は、構台410を下から支えることが可能であればどのような構成でも構わない。支持体420は、例えば、柱と、梁とを適宜に組合せて構成可能である。もっとも、深い穴を掘って打つ必要のある場所打ち杭20Cの数を減らすためには、特定範囲Yの範囲を狭くすべきであるから、その観点からすると、支持体420は、平面視した場合に構台410により隠れる範囲にのみ存在するようにするのが良い。この実施形態ではそうされている。支持体420の下端は、例えば、地下空間Sの底に当接しており、地下空間Sの底が下方に下がっていくと、それに追随して下方に向けてその長さを伸ばされる。このようにすることで、構台410は、当初設けられた位置から、その位置が移動することがない。
地下空間Sを構築する場合、地下空間Sの側面は、例えば鉛直である。地下空間Sの深さは、最終的に、例えば50mを超える場合もあり、何らの処置もしない場合には、地下空間Sの側面が崩落することも考えられる。そのような危険から、地下空間Sで作業を行う作業者を守るため、この実施形態では、これには限られないが、矢板430によって、地下空間Sの側面を補強することとしている。矢板430は、縦長の細長い矩形の板を、並列して地下空間Sの側面に沿って打込むことによって構成される。矢板430は、止水連壁でもよく、SMWでも良い。これらは、板を地中に打込むのではなく、液状のコンクリートを地中に打設してから硬化させることで、地中にコンクリートによる板を形成するものである。矢板430は、例えば、地下空間Sの全面を覆い、且つ最終的に形成される地下空間Sの底よりも深い位置にまでその下端が及ぶようになっている。矢板430には、外側から地下空間Sの側に向けて矢板430を内側に押し倒そうとする力がはたらくが、矢板430がその力に抗することができるようにするために、矢板430の外側に公知のアースアンカー440を設けてもよい。この実施形態では、例えば、
図22に示したようにそうされている。アースアンカー440は、矢板430に対して、外向き、且つ下方向きの力を与える。かかる力は、矢板430の上下方向の複数の箇所に与えられる。矢板430は、地下空間Sの形成のための対象範囲Xの掘削開始の前に構築されても構わないし、対象範囲Xの掘削が開始された後、地下空間Sの側面の崩落が予想されない段階の適宜のタイミングで構築されても構わない。
アースアンカー440は、公知或いは周知のように、地下空間Sが下方に向かって掘り進められるに連れ、その上方のものから順に設置されていく。
【0033】
そして、地下空間Sは、予定された深さまで掘り進められる。予定された地下空間Sの底の深さとは、先程特定範囲Yに打たれた場所打ち杭20Cの上端とその高さ位置が揃う深さか、当該場所打ち杭20Cの上端よりもその高さ位置が幾らか高い程度の深さである。この実施形態では、地下空間Sの底は、特定範囲Yに打たれた場所打ち杭20Cの上端とその高さ位置が揃う深さとされる(
図23)。なお、地下空間Sの底の深さは、旧地下部分10Bや旧杭10Cが存在する深さよりも低くなっている必要は必ずしもない。
次いで、地下空間Sの底に、新たに場所打ち杭20Cが打たれる。新たに打たれる場所打ち杭20Cは、平面視した場合における、対象範囲Xのうちの特定範囲Yを除いた範囲に打たれる。今回打たれる場所打ち杭20Cは、地表からではなく、地下空間Sの底から打たれる。
地下空間Sの底で場所打ち杭20Cを打つために、地下空間Sの底に、先程説明したのと同じ杭打機300を降ろす。杭打機300は、一つでも良いし複数でも良い。杭打機300は、例えば、構台410の上に乗入れたクレーン車540によって、構台410の上から、地下空間Sの底に降ろされる(
図24)。
この場合における、特定範囲Y外の場所打ち杭20Cの打ち方は、上述した、特定範囲Y内の場所打ち杭20Cの打ち方と変わらない。穴301(
図24)を掘って、そこに図示せぬかごを入れ、穴301の中に液状のコンクリートを流し込んで、それを硬化させる。それにより、場所打ち杭20Cが打たれる。場所打ち杭20Cは、地下空間Sの底を平面視した場合における、特定範囲Y外の対象範囲X内の全域にわたって必要に応じて打たれることになる(
図25、
図26)。ここで場所打ち杭20Cを打つために掘られる穴301の上下方向の長さは、特定範囲Y内に場所打ち杭20Cを打つために掘られる穴301の上下方向の長さよりも短く、また、穴301を掘る際に、旧地下部分10Bや旧杭10Cが穴301を掘る邪魔になることが無いか、少ない。したがって、特定範囲Y外に1本の場所打ち杭20Cを打つ作業は、特定範囲Y内に1本の場所打ち杭20Cを打つ作業にくらべて、格段に時間がかからない。したがって、特定範囲Y外に打たれる場所打ち杭20Cの数が一般に、特定範囲Y内に打たれる場所打ち杭20Cの数よりも遥かに多いことも相俟って、場所打ち杭20Cを打つために必要となる時間の全体は、大幅に節約されることになる。
この実施形態では、特定範囲Y外に打たれる複数の場所打ち杭20Cの下端の高さ位置は、特定範囲Y内に打たれる複数の場所打ち杭20Cの下端の高さ位置と同じく揃っている。しかしこれは、特定範囲Y内に打たれる各場所打ち杭20Cの場合と同じ理由でこの限りではない。また、この実施形態では、特定範囲Y外に打たれる複数の場所打ち杭20Cの上端の高さ位置は、特定範囲Y内に打たれる複数の場所打ち杭20Cの上端の高さ位置と同じく揃っている。しかしこれは、特定範囲Y内に打たれる各場所打ち杭20Cの場合と同じ理由でこの限りではない。
【0034】
このようにして、必要な場所打ち杭20Cが、平面視した場合における対象範囲Xの全体に打たれる。
場所打ち杭20Cが打たれたら、次に、新しいビルディングの地下構造物である地下部分20Bが構築される(
図27)。
地下部分20Bを構築するには例えば、構台410の上に乗せられた重機が利用される。この重機は例えば、クレーン、或いはクレーン車である。この実施形態では、重機は、クレーン車540であるものとする。クレーン車540により、例えば、図示せぬダンプカーによって構台410の上に運ばれた図示せぬ資材を地下空間Sの内部に降ろすことにより、地下部分20Bは、地下空間Sの底から順に、上方に向けて構築されていく。地下部分20Bは、柱、壁、床等、公知或いは周知の構造を備えており、また、必要に応じて複数フロアに分割されている。もちろん、地下空間Sには作業者が降りて作業を行っても良い。地下部分20Bの底は、場所打ち杭20Cの上端によって支持される。それにより、地下部分20Bは、下方から場所打ち杭20Cによって支持されることになる。
地下空間S内で地下部分20Bが構築されていると、地下部分20Bが、構台410の支持体420と干渉することがある。その場合には、地下部分20Bと干渉する支持体を撤去して、撤去された直上の支持体420を地下部分20Bに固定すれば良い。撤去された支持体420は、例えば、クレーン車540によって、構台410の上に引き上げることが可能であり、構台410の上に引き上げられた支持体420は、例えば図示せぬダンプカーによって、仮設テント200外に搬出すれば良い。また、地下部分20Bが構築されていくに連れて、アースアンカー440は、その下方のものから順に撤去されていく。
なお、構台410の支持体420の始末は、以下のように行っても良い。この場合の、支持体420の構成は、ここまで説明したものと若干異なるものとなる。この場合における支持体420には、鉛直方向に伸びる柱と、柱と柱の間を補強的に繋ぐ梁とにより構成される。まず、特定範囲Yに地表から場所打ち杭20Cを打つ場合と同様に、地表から、柱を打込む。この作業は、特定範囲Yに場所打ち杭20Cを打込む作業と同時に、或いはそれに前後して行われる。柱の下端は、少なくとも地下空間Sの底となるよりも深い場所にまで至るようにし、支持体420により構台を安定して支持できる深さまで至るようにする。例えば、支持体420は、特定範囲Yに打たれる場所打ち杭20Cの下端とその下端が揃うようにする。このようにして設けた柱の上に構台410を設置する。その後、上述した如き、対象範囲Xを下方に掘り進め地下空間Sを形成する。地下空間Sを掘り進めて行くと、支持体420の一部である上述した柱がその上側から徐々に露出してくる。露出した柱の長さが長くなってくると、柱の強度に不安が生じる。そこで、露出した部分の柱に対して、適宜梁を固定していく。この作業を地下空間Sを掘り進めて行きながら適宜行い、柱には十分な数の梁が設けられる。結果として、地下空間Sに存在する構台410及び支持体420は、柱の下端が地下空間Sの底よりも下方に至っているという点を除けば、
図24、25に示したものと同じになる。
この場合においても、上述したように、地下空間Sには、地下部分20Bがその下方から上方に向けて構築されていく。この場合においては、地下部分20Bと干渉する構台410の支持体420は撤去されない。構台の支持体420が存在していても、それに構わず地下部分20Bを構築していく。地下部分は、非常に大雑把に言えば、鉄骨と打設され硬化されたコンクリート等でできている。支持体420は、鉄骨とは干渉しない位置に予め作られており、部分的にコンクリートの中に埋め込まれる。地下部分20Bの中には、例えば、廊下、居室となる空間があり、支持体420の一部は地下部分20Bの中に埋め込まれ、また支持体420の残部は、その空間内に露出することになる。そして、どこかのタイミングで、例えば、地下部分20Bが完成した後の適当なタイミングで、支持体420のうち、地下部分20Bに埋め込まれている部分はそのままに、地下部分20B内の空間に露出している部分のみを撤去する。そうすると、地下部分20Bの壁、天井等には、支持体420の柱や梁の断面が露出することになる。そのような露出した柱や梁の断面が美観的に問題なのであれば、その上から塗装を行ったり、壁紙を張る等すれば、美観の問題を解消することができる。このように構台410及び支持体420の始末を行うことも可能である。
以上のように作業を行い、地下空間S内に、地下部分20Bが完成する(
図28)。この実施形態では、地下空間Sの形成開始から、ここまでの作業はすべて仮設テント200内で行われる。
【0035】
地下部分20Bが完成したら、仮設テント200を撤去する。また、矢板430と地下部分20Bとの間の空間を埋め戻すことで、矢板430が不要になったのであれば、矢板430を撤去しても構わない。矢板430は残しても良い。仮設テント200とともに、基礎レール110及び既製杭120をも撤去しても良い。
仮設テント200等の撤去は、公知或いは周知技術によれば良い。
仮設テント200、及びその他の不要なものを撤去したら、構造物の地上部分(図示せず)を構築する。構造物の地上部分は、従来工法と同様の工法にて構築することが可能である。
地上部分は、例えば、仮設テント200の撤去に前後して地下部分20Bの上に構築された、タワークレーン用の土台20Dの上に設けられたタワークレーン550を用いてそれを行えば良い。タワークレーン550はマストクライミングタイプでも良いが、フロアクライミングタイプでももちろん構わない。地上部分は、上方に向かって伸びていき、やがて完成する。
地下部分と地上部分とが完成することにより、新しいビルディングが完成する。これにより、ビルディングの建て替えが終了する。
【解決手段】後に構台410が設けられる部分の直下である特定範囲における場所打ち杭20Cのみを地表から打つ。その後、場所打ち杭20Cを打つことが必要な範囲である対象範囲の全域を掘り下げて地下空間Sを形成する。形成された地下空間Sの底から、対象範囲内で且つ特定範囲外において必要となる、残りの場所打ち杭20Cを打つ。