(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378438
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】緊急時アクチュエータを有するロック
(51)【国際特許分類】
E05B 77/10 20140101AFI20180813BHJP
E05B 81/14 20140101ALI20180813BHJP
E05B 81/24 20140101ALI20180813BHJP
B60J 5/00 20060101ALN20180813BHJP
【FI】
E05B77/10
E05B81/14
E05B81/24
!B60J5/00 H
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-528490(P2017-528490)
(86)(22)【出願日】2016年3月29日
(65)【公表番号】特表2018-505976(P2018-505976A)
(43)【公表日】2018年3月1日
(86)【国際出願番号】EP2016056755
(87)【国際公開番号】WO2016156283
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2017年7月21日
(31)【優先権主張番号】MI2015A000467
(32)【優先日】2015年4月1日
(33)【優先権主張国】IT
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511020829
【氏名又は名称】サエス・ゲッターズ・エッセ・ピ・ア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ステファノ・アラックア
(72)【発明者】
【氏名】マッテオ・マッツォーニ
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィデ・フリジェリオ
【審査官】
小澤 尚由
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2010/0237632(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0217927(US,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第02845973(EP,A2)
【文献】
欧州特許出願公開第01279784(EP,A1)
【文献】
米国特許第08398128(US,B2)
【文献】
特開2016−014238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 1/00−85/28
B60J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロック本体(22)およびストライカ(24)を備える、フレーム(18)に対してドアを閉じるためのロック(20)であって、前記ロック本体(22)は前記ドア上に取り付けられ且つ前記ストライカ(24)は前記フレーム(18)上に取り付けられるか、またはその逆であり、前記ロック本体(22)は、
前記ストライカの保持位置(K)と解除位置(R)との間を回転するように取り付けられたキャッチ要素(26)と、
前記ストライカ保持位置(K)から前記ストライカ解除位置(R)へと前記キャッチ要素(26)を駆動することに適した弾性手段(28)と、
2つの位置、すなわち前記キャッチ要素(26)を前記ストライカ保持位置(K)に維持した閉位置(C)と、前記キャッチ要素(26)から係合解除された開位置(O)と、の間を移動することに適したレバー(30)と、
前記閉位置(C)から前記開位置(O)へと前記レバー(30)を動かすために、前記レバー(30)に対して力fを印加することに適したサービスアクチュエータ(32)と、
を備え、
前記ロック本体(22)は、前記閉位置(C)から前記開位置(O)へと前記レバー(30)を動かすために、前記レバー(30)に対して力Fを印加することに適した形状記憶合金アクチュエータ(34)をさらに備え、該形状記憶合金アクチュエータ(34)は、該形状記憶合金アクチュエータが変形した場合に、100N超の力Fを印加する、ロック(20)において、
前記形状記憶合金アクチュエータ(34)はブロック手段(36)を備え、該ブロック手段(36)は、前記力Fが前記ブロック手段(36)の破損または急激な変形の結果として所定のしきい値を超過した場合にのみ、前記レバー(30)に対して前記力Fが印加されることを可能にしていることを特徴とするロック(20)。
【請求項2】
前記形状記憶合金アクチュエータ(34)は、ニッケル-チタン合金から作製された形状記憶合金ワイヤ(340)を含む、請求項1に記載のロック(20)。
【請求項3】
前記形状記憶合金ワイヤ(340)は、0.5mm超の最大断面直径を有する、請求項2に記載のロック(20)。
【請求項4】
前記形状記憶合金アクチュエータ(34)は、350N超の力Fを印加することが可能である、請求項1から3のいずれか一項に記載のロック(20)。
【請求項5】
前記形状記憶合金ワイヤ(340)は、80℃以上の変態温度Asを有する、請求項2または3に記載のロック(20)。
【請求項6】
前記形状記憶合金ワイヤ(340)は、引っ張り応力条件のない状態において取り付けられている、請求項2、3、または5に記載のロック(20)。
【請求項7】
前記形状記憶合金ワイヤ(340)は、相変態の後に、少なくとも3.5%の長さの短縮を示す、請求項2、3、5、または6に記載のロック(20)。
【請求項8】
前記形状記憶合金ワイヤ(340)は、U字形状またはV字形状を有するように取り付けられている、請求項2、3、5、6、または7に記載のロック(20)。
【請求項9】
前記力Fが所定のしきい値を超過した場合にのみ前記レバー(30)に対して前記力Fを印加することを可能にするための前記形状記憶合金アクチュエータ(34)は、 ブロック手段(36)を備えている、請求項1に記載のロック(20)。
【請求項10】
前記形状記憶合金アクチュエータ(34)の形状記憶合金ワイヤ(340)は、前記ブロック手段が前記形状記憶合金ワイヤ(340)を引っ張り応力条件に維持するように前記 ブロック手段(36)に結合される、請求項9に記載のロック(20)。
【請求項11】
前記ブロック手段(36)は、前記形状記憶合金アクチュエータ(34)が作動した場合に破壊する犠牲要素(360、362、366)、または前記形状記憶合金アクチュエータ(34)が作動した場合に座屈するピーク荷重構成要素(364)を備える、請求項9または10に記載のロック(20)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊急時アクチュエータを有するロックに関し、詳細には車両用の電気ロックに関する。
【背景技術】
【0002】
以下において、自動車分野を繰り返し参照するが、本発明は、フレームに対してドアを閉じるためにロックが必要とされる他の分野においても本発明が容易に使用され得ることが、その説明から明らかになろう。
【0003】
自動車分野で使用される既知のロックは、ロック本体およびストライカを備え、これらはそれぞれ車両のフレーム上およびドア上に、またはその逆に取り付けられる。それ自体が知られている様式で、かかるロックは、ロック本体内に枢動的に取り付けられたキャッチ要素を備える。キャッチ要素は、ドアの閉鎖動作に続いてキャッチ要素がストライカに接触した場合に回転するのに適したものである。その回転位置において、キャッチ要素により、ストライカはドアを閉位置にしっかりと維持させられる。
【0004】
弾性手段が、ストライカの保持位置から解除位置へとキャッチ要素を押す一方で、レバーは、キャッチ要素を保持位置に安定的に維持する。ロックを開くためには、レバーを移動させて、レバーがキャッチ要素にもはや係合しないように、およびレバーがストライカ解除位置にて回転し得るようにすれば十分である。従来では、レバーの移動は、ユーザにとって快適である種々の位置に開制御を機械的に定めるキネマティックカプリングチェーンにより実現される。
【0005】
レバーの移動がロック本体内に備えられた小型電気モータにより実現される電気ロックが知られている。かかるタイプのロックにより、機械制御の全てのキネマティックカプリングチェーンが不要となり得るため、したがってロックが全体的に著しく簡素化される。
【0006】
しかし、かかる電気ロックは、欠点を有しないわけではなく、これが理由となり普及が非常に限定的である。
【0007】
電気ロックの使用から生ずる主な問題は、緊急時条件で車両を開くことに関する。平常時の使用条件では、レバーの移動に必要とされる力fは、典型的には非常に小さい。かかる力fは、組立精度、機構潤滑性、および他の要因に応じて変化し得るが、通常は30N未満であり、好ましくは20N未満である。
【0008】
例えば事故時に発生するものなどの衝撃後に、車両の全体構造は、フレームに対するドアの配置が変化し得るような変形を被る。かかる条件においては、ロックの種々の要素間における応力の上昇が生じる恐れがあり、結果として摩擦力の上昇が生じる恐れがある。この理由から、キャッチ要素を解除するために必要とされる力もまた、著しく上昇する。この特定のセクターにおける詳細な調査により、生存可能であるとみなされる事故後には、レバーの移動に必要とされる力はいくつかの場合では最大で700Nまで上昇することが判明している。したがって、30Nの最大力を印加するように設計された通常の電気モータは、ロックを開くことを可能にし得ないことが明らかである。したがって、機械制御がない場合には、ロックを開くことは不可能となることになり、このような条件は許容し得ないものとみなされる。
【0009】
形状記憶現象は、前記現象を示す合金から作製された機械片が、その機械片の製造時に事前に設定された2つの形状の間で温度変化時に遷移し得るという点に本質があることが知られている。かかる遷移は、非常に短時間で生じ、中間平衡位置を有さない。この現象が生じ得る第1のモードは、「一方向」と呼ばれ、機械片が、温度変化時に例えば形状Aから形状Bになど単一方向に形状変化し得るが、形状Bから形状Aへの逆遷移は機械力の印加を必要とする。
【0010】
対照的に、いわゆる「二方向」モードでは、両遷移が温度変化により引き起こされ得るものであり、これは本発明の適用ケースに相当する。これは、より低温において安定的であるマルテンサイト性(M)と呼ばれるタイプからより高温において安定的であるオーステナイト性(A)と呼ばれるタイプへと、およびその逆へと変化する(M/AおよびA/M遷移)片の微晶構造の変態により生じる。
【0011】
形状記憶合金ワイヤ(またはSMA(Shape Memory Alloy)ワイヤ)は、形状記憶要素の特徴を呈し得るように仕込まれなければならず、SMAワイヤの予備負荷プロセスは、通常はワイヤが加熱された場合に、マルテンサイト/オーステナイト(M/A)相転移を極めて反復自在な態様で誘起させ、ワイヤが冷却された場合にオーステナイト/マルテンサイト(A/M)相転移を誘起させる。M/A転移では、ワイヤは短縮化を被る。
【0012】
それ自体が知られている様式で、4つの特徴的な温度が、SMAの変態サイクルにおいて特定され得る。
- A
sは、加熱中にマルテンサイトからオーステナイトへの変態が開始する時点の温度である。
- A
fは、加熱中にマルテンサイトからオーステナイトへの変態が終了する時点の温度である。
- M
sは、冷却中にオーステナイトからマルテンサイトへの変態が開始する時点の温度である。
- M
fは、冷却中にオーステナイトからマルテンサイトへの変態が終了する時点の温度である。
【0013】
特許文献1は、レバーを移動させるための従来的な電気モータがSMAアクチュエータにより置き換えられた電気ロックを開示している。上述のように、かかる種類の合金は、それ自体が知られている様式で温度変化の結果としてそれら自体の形状を変化させる特性を有する。かかる既知の解決策により、SMAアクチュエータの温度は、ジュール効果によって容易にかつ反復的に上昇させられて、SMAワイヤに電流を供給し得る。しかし、特許文献1の解決策も、欠点を有しないわけではない。実際に、この解決策では、SMAアクチュエータは、電気モータとの置き換えが意図されるにすぎず、したがってSMAアクチュエータ自体がはるかにより高い力の発生に適している場合でも約30Nの力を発生させる。最大力は、アクチュエータを構成するSMAワイヤの直径に実質的に左右されるため、原則的には、最大で700Nまでのより高い力をさらに実現するために十分な大きさの直径を有するSMAワイヤが使用可能となる。しかし、より大きな直径は、SMAワイヤのより高い熱慣性を結果として伴い、すなわちアクチュエータをその初期条件へと戻すための冷却時間がより長くなる。かかる冷却時間中にドアを閉じることは不可能であるため、冷却時間は、可能な限り短いことが必要となり、したがってSMAワイヤの直径は、30Nを実現するために必要とされる直径を超過することはできない。したがって、特許文献1の解決策もまた、緊急時アクチュエータの確実性を欠く。
【0014】
特許文献2は、車室への機械連結を欠いた一次作動システムが、車両の電力系統に依拠しない補助作動機構に関連付けられ、すなわち作動信号が、キーまたは可搬式エネルギー蓄積デバイスにより引き起こされる、ラッチアセンブリを開示している。かかる既知の解決策によれば、SMA機械的構成要素は、レバーばねによりラッチの可動レバーに結合され、ラッチアセンブリの普通のロック解除に適する。特許文献2は、確実な緊急時アクチュエータを有する前記ラッチアセンブリの結合に関して言及していない。
【0015】
特許文献3は、事故後にキャッチを解除するためにレバーに対して力を印加するのに適したロックの緊急時アクチュエータを開示している。かかる既知の解決策によれば、直線伝動要素が、SMA要素とレバーとの間に物理的に配置され、前記SMA要素に連結される端部および前記レバーに連結される他方の端部を有する。SMA要素とレバーとの間の機械結合は、時間的に継続的に、おおび前記直線伝動要素の存在下においてのみ確保され、すなわちSMA要素およびレバーは、相互に直接的に接触状態にはならない。したがって、特許文献3は、その実施形態の中の1つにおいて、前記直線伝動要素が、SMAワイヤの作動後に破壊され得ることを開示しており、実際に、SMA要素は、伝動要素が破損するまでレバーに機械的に連結されるが、その破損後には連結解除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1279784号明細書
【特許文献2】米特許文献2
【特許文献3】欧州特許出願公開第2845973号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、本発明の目的は、先行技術に関して上述した欠点を少なくとも部分的に解消することである。
【0018】
特に、本発明の目的は、同時に簡易であり、確実であり、外部温度条件に関連する偶発的作動を回避するのに適した緊急時アクチュエータを有するロックを提供することである。
【0019】
以下、作動部材としてのワイヤの使用を具体的に参照するが、述べられるものは、例えばストリップ、ストリング、およびテープ等の、一般的に非常に小さい2つの寸法よりもはるかに大きな1つの寸法を有する他の同様の形状のものも該当する点に留意されたい。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上述の目的は、請求項1に記載のロックにより達成される。
【0021】
本発明のさらなる特徴および利点は、添付の図面を参照として例として提示されいかなる限定的な意図も伴わないいくつかの実施形態の以下に述べる説明から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】閉構成における先行技術によるロックの概略図である。
【
図2】開構成における
図1のロックの概略図である。
【
図3】閉構成における先行技術によるSMAワイヤを備えるロックの概略図である。
【
図4】本発明によるロックの第1の実施形態の特徴の概略図である。
【
図5a】
図4のVで示されるこの矢印方向に見た場合の細部の概略図である。
【
図5b】アクチュエータの動作後の
図5aの特徴を示す図である。
【
図6】本発明によるロックの第2の実施形態の特徴の概略図である。
【
図7a】
図6のVIIで示されるこの矢印方向に見た場合の細部の概略図である。
【
図7b】アクチュエータの動作後の
図7aの特徴を示す図である。
【
図8】本発明によるロックの第3の実施形態の特徴の概略図である。
【
図9a】
図8のIXで示されるこの矢印方向に見た場合の細部の概略図である。
【
図9b】アクチュエータの動作後の
図9aの特徴を示す図である。
【
図10】本発明によるロックの第4の実施形態の特徴の概略図である。
【
図11a】
図10のXIで示されるこの矢印方向に見た場合の細部の概略図である。
【
図12】形状記憶合金のいくつかの特徴に関するグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
添付の図面を参照すると、20は、フレーム18に対してドアを閉じるためのロックを全体として示す。ロック20は、ロック本体22およびストライカ24を備え、ロック本体22は、ドア上に取り付けられ、ストライカ24は、フレーム18上に取り付けられるか、それらの逆となる。ロック本体22は、
- ストライカ24の保持位置Kと解除位置Rとの間で回転するように取り付けられたキャッチ要素26と、
- ストライカ保持位置Kからストライカ解除位置Rにキャッチ要素26を駆動することに適した弾性手段28と、
- 2つの位置、すなわちストライカ保持位置Kにキャッチ要素26を維持する閉位置Cと、キャッチ要素26から係合解除される開位置Oと、の間で移動するのに適したレバー30と、
- 閉位置Cから開位置Oまでレバー30を動かすためにレバー30に対して力fを印加することに適したサービスアクチュエータ32と、
を備える。
【0024】
ロック本体22は、閉位置Cから開位置Oまでレバー30を動かすためにレバー30に対して力Fを印加することに適した緊急時SMAアクチュエータ34をさらに備える。
【0025】
本発明によれば、SMAアクチュエータ34は、100N超の力Fを印加することが可能となるように設計される。
【0026】
本発明のさらなる態様によれば、SMAアクチュエータ34は、力Fが所定のしきい値を超過した場合にのみレバー30に対して力Fが印加され得るようにするために、例えば戻り止めなどのブロック手段36を少なくとも備える。
【0027】
本発明の別の態様によれば、SMAアクチュエータ34は、ニッケル-チタン合金から作製されたSMAワイヤ340を備える。好ましくは、SMAワイヤ340は、0.5mm超の、より好ましくは1.0mm超の最大断面直径を有する。
【0028】
本発明の可能な一実施形態によれば、SMAアクチュエータ34は、変質温度A
sが80℃超となるように好ましくは設計されたSMAワイヤ340を備える。好ましくは、SMAワイヤ340は、A/M遷移が行われる場合に、開始時の長さから少なくとも3.5%だけ短縮し得る。
【0029】
SMAアクチュエータを使用した既知のロックの欠点を回避するために、本願出願人は、電気ロックにおけるSMAアクチュエータに対するアプローチを完全に変更した。実際に、本発明によれば、SMAアクチュエータ34は、緊急時条件のみに対して意図されたものである一方で、通常は、レバー30は別のサービスアクチュエータ32により移動され、SMAワイヤは、前記SMAワイヤに機械的に結合されたブロック手段の破断または急激な変形の後にのみレバー30を作動させるのに適した力を印加することが可能となる。
【0030】
上述のように、SMAアクチュエータ34は、100N超の力Fを印加することが可能である。有利には、SMAアクチュエータ34は、100Nを著しく超過した、好ましくは350N超の、およびより好ましくは約700Nの力Fを印加するように設計される。当業者はこの説明から容易に理解し得るであろうが、700Nの力Fを発生させるように設計されたかかるSMAアクチュエータ34は、高い熱慣性を有する大直径SMAワイヤ340を必ず必要とする。しかし、本発明によれば、ドアを閉じる緊急の必要性がない場合には、SMAアクチュエータ34が緊急時のみに対して意図されるためこれは問題とはならない。対照的に、平常使用中には、ロック20の開錠はサービスアクチュエータ32に割り当てられる。サービスアクチュエータ32は従来の電気モータか、または別のSMAアクチュエータが約30Nの力を発生させるようにおよび非常に低い熱慣性を有するように設計される場合には、別のSMAアクチュエータか、のいずれかを備えることが可能である。
【0031】
本発明によるこの構成は、平常時条件下および緊急時条件下の両方における使用に確実性を有する非常に簡易なロック20の実現を可能にする。
【0032】
SMAの特別な特性は、材料の応力/ひずみ状態に応じて変質温度が変化する点である。ここで、具体的には、ξがマルテンサイト分率を表し、Τが温度を表す
図12のグラフと、上述した変質温度A
s、A
f、M
s、M
fに関する説明と、を参照されたい。
【0033】
ワイヤが、所定の組成のSMAから実現され、選択された仕込みプロセスを受けると、変質温度もまた所定のものとなる。
【0034】
本願出願人は、太陽照射に車両が長期間にわたりさらされるなどの特定の環境条件下において自然発生的に作動しないSMAアクチュエータ34を実現するために、かかる特性を利用している。
【0035】
本発明のいくつかの実施形態によれば、SMAアクチュエータ34を実現するためのSMAワイヤ340は、最大で少なくとも80℃またはそれ以上までそのA
sを上昇させるように化学的に選択されるおよび/または仕込まれる。本発明のこの態様によれば、過酷な環境条件においても車両の平常使用中におけるドアの望ましくない開きを回避するために、アクチュエータ34の実変質温度A
sを設計することが可能である。例えば、SMAアクチュエータ34の変質温度A
sは、約80℃以上に設定され得る。
【0036】
さらに、A
sのさらなる上昇は、SMAアクチュエータ34の組立ての最中に引っ張り応力条件にワイヤ340をさらすことにより実現され得る。このようにすることで、温度A
sは、最大で150℃までもさらに上昇され得る。
【0037】
上記で既述のように、SMAアクチュエータ34は、例えば戻り止め36の形態などのブロック手段を備え、これは、ワイヤ340を予備伸張状態に維持するために構成され得る。SMAワイヤの前記伸張状態は、ロック内への形状記憶合金の設置前の塑性変形の結果として実現可能である、引張条件のない設計により、または前記戻り止め36に機械的に結合している結果としてSMAワイヤが引っ張り応力条件下にある設計により実現され得る。また、戻り止め36は、力Fが所定のしきい値を超過する場合にのみ、レバー30に対して力Fが印加されるのを可能にすることに適している。実際に、戻り止め36は、知られているようにワイヤ340により印加される、最大で所定のしきい値までの力Fに対抗するように設計される。ワイヤ340の力Fがかかるしきい値未満に留まる一方で、戻り止め36は、力F自体がロック20のレバー30に及ぶのを防止し得る。この力がかかるしきい値に達すると、戻り止めは、その反作用を中断し、したがって力Fがレバー30に及びそれによりレバー30を回転させることを可能にする。この特定の解決策を利用したいくつかの可能な実施形態が、
図4〜
図11を具体的な参照として以下で開示される。
【0038】
戻り止め36は、以下でさらに詳細に開示される犠牲要素またはピーク荷重構成要素を備えることが可能である。図面では、U字形設計またはV字形設計のSMAワイヤの使用を具体的に参照としているが、述べられたものは、機械的作動デバイスにおける牽引手段として使用されるのに適した他の形状にも当てはまる点を留意されたい。
【0039】
図4および
図5は、応力状態がしきい値に達した場合に破壊するように設計された前方ピン360を備える戻り止め36を示す。例えば、ピン360は切欠部により制御された様式で脆弱化され得る。車両の平常使用の最中に、ピン360は力Fがロック20のレバー30に及ぶのを防止する(
図5a参照)。緊急時条件下では、SMAアクチュエータ34は作動され、その力Fは、最大でピン360が破壊するしきい値まで上昇する(
図5b参照)。ピン360が破壊されると、力Fはレバー30に及び、したがってロック20を開錠させる。
【0040】
図6および
図7は、応力状態がしきい値に達した場合に破壊するように設計されたフック362を備える戻り止め36を示す。例えば、フック362は、切欠部により制御された様式で脆弱化され得る。車両の平常使用の最中に、フック362は、力Fがロック20のレバー30に及ぶことを防止する(
図7a参照)。緊急時条件下では、SMAアクチュエータ34は、作動され、その力Fは、最大でフック362が破壊するしきい値まで上昇する(
図7b参照)。フック362が破壊されると、力Fはレバー30に及び、したがってロック20を開錠させる。
【0041】
図8および
図9は、圧縮状態がしきい値に達した場合に座屈を被るように設計されたスレンダロッド364を備える戻り止め36を示す。当業者に知られているように、座屈は、即座にスレンダロッド364にその荷重担持能力を喪失させる急激な変形である。車両の平常使用の最中に、スレンダロッド364は、力Fがロック20のレバー30に及ぶことを防止する(
図9a参照)。緊急時条件下では、SMAアクチュエータ34は作動され、その力Fは、最大でスレンダロッド364が座屈を被るしきい値まで上昇する(
図9b参照)。スレンダロッド364が曲がると、力Fはレバー30に及び、したがってロック20を開錠させる。
【0042】
図4〜
図9の実施形態においては、戻り止め36は、レバー30が通常使用においていかなる妨害もなく自由に回転し得るように構成される。
【0043】
図10および
図11は、応力状態がしきい値に達した場合に破壊するように設計された後方ピン366を備える戻り止め36を示す。例えば、ピン366は切欠部により制御された様式で脆弱化され得る。車両の平常使用の最中に、ピン366は力Fがロック20のレバー30に及ぶことを防止する(
図11a参照)。緊急時条件下では、SMAアクチュエータ34は作動され、その力Fは、最大でピン366が破壊するしきい値まで上昇する(
図11bを参照)。ピン366が破壊されると、力Fはレバー30に及び、したがってロック20を開錠させる。ここで、
図10および
図11の実施形態では、戻り止め36は、平常時使用においてソリッドレバー30がピン366自体との干渉により自由に回転することができないように構成される点に留意されたい。したがって、この具体的な実施形態では、レバー30は、SMAアクチュエータ34により開始される緊急時移動から、サービスアクチュエータ32により開始される平常時移動を区別するように関節連結される。
【0044】
上記の説明から、犠牲要素(前方ピン360、フック362、後方ピン366)か、またはある程度まではさらにピーク荷重構成要素(スレンダロッド364)の形態の戻り止めを備える実施形態を特定の参照とする場合に、SMAアクチュエータ34は、1回のみの使用に構造的に限定される点が当業者には明らかである。SMAアクチュエータ34は、平常時使用ではなく緊急時のみのために意図されたものであるため、これは問題とはならない。
【0045】
幾分か安全な解決策によれば、事故が車載センサにより検出された後に、車両の主要バッテリからの電源は、フリースパークおよび/または電気ショックを回避するためにオフに切り替えられ得る。
【0046】
これらの場合には、本発明によるロック20は、例えば予備バッテリまたはコンデンサなどの独立した電源を備えることも可能である。他の可能な実施形態によれば、ロック20は、例えば花火成分等を含むカートリッジなどの他の非電気加熱システムを備えることが可能である。
【0047】
当業者が上記の説明から容易に理解し得るように、本発明によるロック20は、その目的、すなわち先行技術に関連して上述した欠点を少なくとも部分的に解消することを達成する。
【0048】
特に、本発明は、同時に簡易かつ確実である緊急時アクチュエータ34を有するロック20を提供する。さらに、本発明の緊急時アクチュエータ34は、外部温度条件に関連する偶発的作動を回避するのに適する。
【0049】
ロック20の上述の実施形態に関して、当業者は、具体的要件を満たすために、添付の特許請求の範囲から逸脱することなく修正を行うことが、および/または既述の要素を等価要素に置き換えることができる。
【符号の説明】
【0050】
18 フレーム
20 ロック
22 ロック本体
24 ストライカ
26 キャッチ要素
28 弾性要素
30 レバー
32 サービスアクチュエータ
34 緊急時SMAアクチュエータ
340 SMAワイヤ
36 戻り止め
360 前方ピン
362 フック
364 スレンダロッド
366 ピン