特許第6378502号(P6378502)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6378502リチウムイオン二次電池からの有価物回収方法
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  • 特許6378502-リチウムイオン二次電池からの有価物回収方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378502
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池からの有価物回収方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20180813BHJP
   C22B 1/00 20060101ALI20180813BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20180813BHJP
   C22B 15/00 20060101ALI20180813BHJP
   C22B 21/00 20060101ALI20180813BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20180813BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20180813BHJP
   B03B 4/00 20060101ALI20180813BHJP
   B07B 4/08 20060101ALI20180813BHJP
   B07B 9/00 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   H01M10/54ZAB
   C22B1/00 601
   C22B7/00 C
   C22B7/00 E
   C22B15/00
   C22B21/00
   B09B3/00 Z
   B09B3/00 303Z
   B09B5/00 A
   B03B4/00
   B07B4/08 Z
   B07B9/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-44498(P2014-44498)
(22)【出願日】2014年3月7日
(65)【公開番号】特開2015-170480(P2015-170480A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2017年1月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094547
【弁理士】
【氏名又は名称】岩根 正敏
(72)【発明者】
【氏名】本多 威暁
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】矢野 雄高
(72)【発明者】
【氏名】重原 智明
(72)【発明者】
【氏名】小菅 有磨
(72)【発明者】
【氏名】常世田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】松井 克己
【審査官】 永井 啓司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−074539(JP,A)
【文献】 特開2003−094438(JP,A)
【文献】 特開2009−125706(JP,A)
【文献】 特開平10−223264(JP,A)
【文献】 特開2013−004299(JP,A)
【文献】 特開2012−079630(JP,A)
【文献】 特開2011−124127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/54
B03B1/00−13/06
B07B1/00−15/00
B09B1/00−5/00
B09C1/00−1/02
1/06−1/10
C22B1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池を600〜1050℃の温度で加熱し、次に破砕した後、得られた破砕物を篩分けし、1.0〜10.0mmの破砕物に対して気流を用いた形状選別を行い、アルミニウムを重産物として、銅を軽産物として回収することを特徴とする、リチウムイオン二次電池からの有価物回収方法。
【請求項2】
上記形状選別により得られた重産物に対し、更に磁力選別を行い、重産物中から鉄系金属を分離することを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物回収方法。
【請求項3】
上記篩分けによる10.0mmを超える破砕物に対して、磁力選別により鉄系金属を分離した後、色彩選別により銅を回収することを特徴とする、請求項に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物回収方法。
【請求項4】
上記形状選別が、気流と振動とを併用したものであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池からの有価物回収方法。
【請求項5】
上記形状選別が、エアーテーブルを用いて行われることを特徴とする、請求項に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池からの有価物回収方法に関するもので、特に、アルミニウム、銅などの有価物を簡易かつ効率的にリチウムイオン二次電池から回収する方法に関するものである。
なお、この明細書および特許請求の範囲において、リチウムイオン二次電池とは、リチウムイオン二次電池の製造工程で発生する不良品や使用済みで廃棄される携帯電話、PC、家電用の小型リチウムイオン二次電池、車載用や産業用の大型のリチウムイオン二次電池、およびその他のリチウムを構成要素として含む電池を包含する概念である。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、アルミニウム箔にリチウム、コバルト、ニッケルなどを塗布した正極材、銅箔に黒鉛などを塗布した負極材、電解液、セパレーターなどから構成されている。このようにリチウムイオン二次電池には、リチウム、コバルト、ニッケル、アルミニウム、銅などの有価物が含まれているため、廃棄等されたリチウムイオン二次電池から、これらの有用物質を回収することは、資源の乏しいわが国にとって非常に重要である。
【0003】
リチウムイオン二次電池からの有価物回収方法に関しては、特許文献1に、使用済みリチウム二次電池を焙焼し、次に破砕した後、破砕物を篩分けして篩下を回収する、主にコバルトの回収を目的とした回収方法が提案されている。
しかし、この提案技術にあっては、アルミニウム、銅などの他の有価物を効率よく回収できるものではなかった。
【0004】
また、特許文献2には、アルミニウム製ケースに内蔵された使用済みリチウム電池を該アルミニウム製ケースとともに焙焼し、得られた焙焼物を破砕し、磁選して磁性物と非磁性物に分別し、さらに渦電流を発生させた非磁性物に磁石からの磁界を印加して、該非磁性物を該磁石から反撥させることにより、主としてアルミニウムからなる破砕粉と主として銅からなる破砕粉とに分別して回収する方法が提案されている。
しかし、この提案技術では、箔形状である正極集電体としてのアルミニウムと負極集電体としての銅は、その形状故に分離する際に、空気の影響を受ける事で煩雑な運動を示し、分離対象物の物理的な挙動の制御が難しく、かならずしも簡易に有価物を分離できる方法ではなかった。
【0005】
更に、特許文献3には、正極集電体としてのアルミニウムを有する正極と負極集電体としての銅を有する負極とを有するリチウムイオン二次電池を250℃〜550℃の温度で加熱して加熱物を得る加熱工程と、前記加熱物中の前記正極と前記負極とを選別する選別工程と、前記選別工程により選別された前記正極および前記負極をそれぞれ破砕し、正極破砕物および負極破砕物をそれぞれ得る破砕工程と、前記正極破砕物を篩分けして、前記アルミニウムを回収する第1の篩選別工程と、前記負極破砕物を篩分けして、前記銅を回収する第2の篩選別工程とを含むリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法が提案されている。
しかし、この提案技術では、正極と負極との選別工程を考慮した場合、その前工程である加熱工程においては、正極と負極との選別が容易となる電池セルの状態で加熱することが望ましく、電池セルの集合体である電池モジュール、更には電池モジュールの集合体である電池パックの場合には、それらを解体した後に加熱することが必要となり、また、正極と負極との選別工程は主に手作業となることから、かならずしも簡易かつ効率的に有価物を回収できる方法ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−346160号公報
【特許文献2】特開平11−242967号公報
【特許文献3】特開2013−80595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した背景技術が有する課題に鑑み成されたものであって、その目的は、リチウムイオン二次電池から、アルミニウム、銅などの有価物を簡単かつ効率的に回収することができるリチウムイオン二次電池からの有価物回収方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するため、本発明は、次の〔1〕〜〔〕に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物回収方法とした。
〔1〕リチウムイオン二次電池を600〜1050℃の温度で加熱し、次に破砕した後、得られた破砕物を篩分けし、1.0〜10.0mmの破砕物に対して気流を用いた形状選別を行い、アルミニウムを重産物として、銅を軽産物として回収することを特徴とする、リチウムイオン二次電池からの有価物回収方法。
〕上記形状選別により得られた重産物に対し、更に磁力選別を行い、重産物中から鉄系金属を分離することを特徴とする、上記〔〕に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物回収方法。
〕上記篩分けによる10.0mmを超える破砕物に対して、磁力選別により鉄系金属を分離した後、色彩選別により銅を回収することを特徴とする、上記〔〕に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物回収方法。
〕上記形状選別が、気流と振動とを併用したものであることを特徴とする、上記〔1〕〜〔〕のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池からの有価物回収方法。
〕上記形状選別が、エアーテーブルを用いて行われることを特徴とする、上記〔〕に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物回収方法。
【発明の効果】
【0009】
上記した本発明に係るリチウムイオン二次電池からの有価物回収方法によれば、リチウムイオン二次電池の形態、即ち電池セル、電池モジュール、そして電池パックを区別することなく処理することが可能となる。また、リチウムイオン二次電池から有価物、特に、アルミニウム、銅を簡易かつ効率的に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】エアーテーブルの構造イメージ図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るリチウムイオン二次電池からの有価物回収方法の実施の形態を、詳細に説明する。
【0012】
リチウムイオン二次電池は、アルミニウム箔にリチウム、コバルト、ニッケルなどを塗布した正極材、銅箔に黒鉛などを塗布した負極材、電解液、セパレーターなどから構成されている。そして、上記正極材と負極材との間を、電解液中においてリチウムイオンが移動することで、電池としての役割を果たす。
【0013】
リチウムイオン二次電池は、上記したように正極材、負極材、電解液、セパレーターなどで構成されているが、その形状は使用目的により異なる。特に電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)などの車載用に使用されるリチウムイオン二次電池は、ラミネート型、円筒型、角型などと数種類の電池セルがあり、また電池セルの集合体である電池モジュール、更には電池モジュールの集合体である電池パックも、電池メーカーや自動車メーカーによりその形状、大きさが大きく異なる。そのため、リチウムイオン二次電池からの有価物回収を行うにあたっては、これらの電池セル、電池モジュール、そして電池パックを、区別することなく処理することが可能な方法を確立する必要がある。
【0014】
本発明に係るリチウムイオン二次電池からの有価物回収方法は、PC、携帯電話などに使用される小型リチウムイオン二次電池の他に、上記したEV、PHVなどの車載用に使用される大型リチウムイオン二次電池について、電池パック或いは電池モジュールごと、600℃以上の温度で先ず加熱し、次に破砕した後、得られた破砕物に対して、少なくとも気流を用いた形状選別を行い、アルミニウムを重産物として、銅を軽産物として回収するものである。即ち、加熱工程、破砕工程、選別工程を少なくとも含み、必要に応じて更に他の工程を含むものである。
以下、上記した各工程について、詳述する。
【0015】
−加熱工程−
加熱工程としては、リチウムイオン二次電池を、電池セル、電池モジュール、そして電池パックを区別することなく、600℃以上の温度で加熱することができれば、その加熱手段、加熱雰囲気などに特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
リチウムイオン二次電池を、600℃以上の温度で加熱することで、該電池中に含まれる電解液などの有害物質の除去および無害化を実施する。また同時に、セパレーターなどの可燃物除去や、後の選別工程での選別効率を高める為にリチウムイオン二次電池中のアルミニウム箔の溶融も目的としている。このアルミニウム箔の溶融目的の為、加熱雰囲気は問わないが、酸化雰囲気での加熱であるならば600℃以上の温度で、可燃物による急激な燃焼を防止する為に還元雰囲気での加熱を行うのであるならばアルミニウムの融点である663℃以上の温度で処理することが望ましい。この温度条件下で加熱し、後工程の破砕を行うことにより、溶融したアルミニウム箔の分離を効果的に行うことができる。かかる観点および経済性の観点から、前記加熱の温度は、アルミニウム箔を溶融させることができる温度以上で、かつ銅の融点以下である、600〜1050℃とすることが好ましく、更には650〜900℃とすることがより好ましい。
【0016】
ここで、上記加熱温度とは、加熱時のリチウムイオン二次電池周辺の気体の温度をいい、例えば、加熱時の加熱炉内においてリチウムイオン二次電池が置かれた付近の気体の温度をいう。また前記加熱の時間としては、特に制限はないが、リチウムイオン二次電池の形状や大きさに応じて適時選択し、0.5時間〜6時間が好ましく、1時間〜4時間がより好ましい。
【0017】
上記リチウムイオン二次電池の加熱は、炉を用いて行うことができ、炉としては、特に制限はないが、ロータリーキルン炉、流動床炉、トンネル炉、マッフル等のバッチ式炉、キュウポラ炉、ストーカー炉などを用いることができる。
【0018】
−破砕工程−
リチウムイオン二次電池からアルミニウム、銅などの有価物を効率的に回収する為には、構成する部品、元素の単体分離が必要である。この単体分離を促進することを目的に、加熱したリチウムイオン二次電池の破砕を行う。
この破砕工程における破砕手法は問わないが、アルミニウム箔や銅箔に塗布されているコバルト、ニッケルなどの極材成分を効率良く剥がす、即ち単体分離する為には、原料が攪拌され擦られる効果を持つ破砕手法の選択が望ましく、例えば、攪拌効果を持つ剪断式破砕手法が好ましい。かかる効果的な破砕手法を備える破砕装置としては、例えば、該破砕刃の真下にある交換可能なスクリーンを通過する寸法になるまで破砕原料を再循環しながら破砕処理を行う、剪断式破砕機を挙げることができる。
【0019】
この破砕工程における破砕粒径は、上記単体分離の目的が達成でき、かつ、後の選別工程におけるアルミニウム、銅などの有価物の選別の容易性および収率性を考慮し、適宜決定する。例えば、上記した剪断式破砕機を用いて破砕を行う場合には、スクリーンの開口径を40mm程度とし、加熱したリチウムイオン二次電池を該スクリーンの開口を通過する粒径、つまり40mm以下まで破砕することにより、後の選別工程において、良好なアルミニウム、銅などの有価物の選別が可能であることが判明している。
【0020】
本発明における加熱後破砕では、リチウムイオン二次電池をそのまま破砕するのではなく、600℃以上の加熱により脆くなり、かつ重量が減っているリチウムイオン二次電池を破砕するため、破砕の負担が軽減されている。また加熱物はその殆どが金属であり、破砕が困難な炭素、有機物がほとんどなくなっており、また部品は熱膨張により物理的に剥離・分解されているために、この面でも破砕の負担が軽減される。
【0021】
−篩分け工程−
本発明においては、必要に応じて破砕後に篩分けを行う。この篩分け工程は、加熱、破砕工程を経て単体分離されたリチウムイオン二次電池を、各有価物の選別に適した粒度帯のものとする為に実施する。本発明者等の検証では、JIS Z 8801規格に基づいた篩いを用い、10.0mmを超える破砕物と、1.0〜10.0mmの破砕物と、1.0mmに満たない破砕物とに篩分けすることが、有価物の選別、特にアルミニウム、銅、コバルトの選別に適していることが判明している。これは、10mmを超える破砕物中には、破砕され難い銅が濃縮されている傾向があり、1.0〜10.0mmの中間物に対しては、アルミニウムと銅とを形状選別することで効率的にアルミニウムと銅とを回収でき、1.0mmに満たない破砕物中には、コバルトが濃縮されているためである。
なお、上記破砕工程によって、その殆どの破砕物が1.0〜10.0mmの破砕物である場合には、コバルトが濃縮されている1.0mmに満たない破砕物とアルミニウムと銅が濃縮される破砕物の分離を目的に1.0mmの篩分け工程のみおこなえばよい。また、後の選別工程における選別手法、使用する選別装置によっては、この篩分け工程が不要となる場合もある。
【0022】
−選別工程−
上記加熱工程、破砕工程を経たリチウムイオン二次電池に対し、気流を用いた形状選別を行い、アルミニウムを重産物として、銅を軽産物として回収する。
なお、この明細書および特許請求の範囲において、気流を用いた形状選別とは、少なくとも気流を選別する対象物にあて、対象物の『形状』の相違に基づく気流中で受ける空気抵抗(抗力)の違いを利用して対象物の選別を行うことを意味する。この気流を用いた形状選別によれば、先に記載した加熱・破砕条件にてリチウムイオン二次電池を処理することで、銅は箔状のままで、アルミニウムは溶融塊に形状を調整することができ、この形状を変化させることで、通常の比重選別とは異なり、銅箔を軽産物として、アルミニウム溶融塊を重産物として、それぞれ濃縮・分離することができる。ちなみに、アルミニウムの比重は2.7g/cm3、銅の仕重は8.94g/cm3である。これは、選別の要素となる『比重』、『粒径』そして『形状』のうち、気流を用いることにより、『形状』要素を大きく利用した分離を行った結果である。
【0023】
上記本発明に係る気流を用いた形状選別を行う装置としては、風力選別機、エアーテーブルなどを挙げることができる。
風力選別機には、吹上げ式、吸引式、密閉式があるが、いずれにおいても選別機本体内に空気の流れを形成し、その空気流中に処理物を投入し、箔状で空気抵抗(抗力)の大きいものは空気流と共に飛散して軽産物として捕集され、粒状物は抗力に対して重力が勝り、落下して重産物として回収される。これにより、箔状の銅は軽産物側に濃縮され、溶融して塊状となったアルミニウムは重産物側に濃縮され、それぞれ回収される。
【0024】
エアーテーブルは、気流と振動とを併用したものであり、気流に対する抵抗と、振動による転がり易さ、つまりテーブル面への摩擦力の相違により、対象物の選別を行うものである。
図1に、エアーテーブルの構造イメージ図を示す。
対象物(Feed)はフィーダーより供給され、テーブル面の振動運動(図1において左右方向)と空気流(図1において下から上への垂直方向)とにより分離操作を受ける。一般的に重量物は、空気流の影響を受け難く、振動運動により運搬され、図1の左側(Heavy)に落下する。一方軽量物は、空気流の影響を強く受け、浮遊することでテーブル面との摩擦が少ない状態となり、テーブルの傾斜を滑落し、図1の右側(Light)に落下する。
このような分離操作を行うエアーテーブルに、形状差のあるものを供給した場合、厚いものや球形に近い形状の物は空気流の影響をあまり受けないため、たとえ比重の小さなものでも重量物と同様の挙動をする。また薄い箔状の物は空気流の影響を強く受けるため、比重の大きなものでも軽量物と同様の挙動をする。そのため、箔状の銅は軽産物側に濃縮され、溶融して塊状となったアルミニウムは重産物側に濃縮され、それぞれ回収される。
【0025】
上記の風力選別機、エアーテーブル以外でも、少なくとも気流を選別する対象物にあて、対象物の『形状』の相違に基づく気流中で受ける空気抵抗(抗力)の違いを利用して対象物の選別を行うことができる装置であれば、本発明において用いることができる。但し、エアーテーブルにて選別を実施した場合には、気流のみならず振動、更にはテーブルの傾斜角度をも選別に影響を与えるパラメータとなり、これらを最適値に設定することにより、更に高い確度でアルミニウムを重産物として、銅を軽産物として回収することができる。
本発明者等の検証では、エアーテーブルを用いた選別によって、軽産物側には銅品位80wt%以上の比較的品位の高い銅を回収することができることが判明している。なお、重産物側にはアルミニウム溶融塊、一部の銅箔の他に、破砕された鉄屑が存在する。これらは例えば磁力選別により鉄屑除去後に、再度形状選別を行うことで、銅とアルミニウムの分離が可能であるが、銅やアルミニウムの品位と選別コストを考慮し、ミックスメタルとして売却することも考えられる。
【0026】
上記した気流を用いた形状選別は、加熱・破砕工程を経たリチウムイオン二次電池に対し、上記した篩分けを実施した場合には、1.0〜10.0mmの篩中間物に対してこの気流を用いた形状選別を実施する。これは、かかる粒径範囲の破砕物中には、箔状の銅と溶融して塊状となったアルミニウムとが多く含まれており、気流を用いた形状選別によって、効率的に銅とアルミニウムとを分離・回収できるためである。
【0027】
篩分けにより得られた10.0mmを超える破砕物に対しては、磁力選別により鉄系金属を分離した後、色彩選別により銅を回収する。
この粒度帯では、リチウムイオン二次電池の電池セルや電池モジュールに使用されるステンレスや鉄系部品の他、破砕され難い銅箔が濃縮され、少量のアルミニウム箔やその溶融塊が存在する。ステンレスや鉄系部品は磁力選別により容易に除去は可能である。また、アルミニウムと銅は10.0mmを超える粗粒として存在する為、分離が容易となる。
磁力選別設備により、磁着物である鉄系金属を分離した後、非磁着物であるアルミニウムと銅を金属探知機と色彩選別技術を組合せた公知のソーティング設備により、銅を選択的に選別する。この選別により、銅は品位95wt%以上の高品位銅を得る事ができる。
【0028】
篩分けにより得られた1.0mmに満たない破砕物中には、コバルトが濃縮されているため、公知の精錬プロセスによって、コバルトを効率的に回収することができる。
【0029】
次に、実施例を挙げ、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、何らかかる実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
リチウムイオン二次電池であるラミネート型電池セルの集合体からなる車載用電池モジュールに対し、本発明に係る有価物回収方法に従い、銅とアルミニウムの分離を行った。
【0031】
先ず、車載用電池モジュールを600℃〜700℃の熱風を発生させることが可能な熱風式加熱炉を用い、3時間の加熱処理を施した。この加熱処置を施した電池モジュールを、攪拌効果を持つ剪断式破砕装置を用いて40mm以下に破砕した。得られた破砕物を、JIS Z 8801規格に基づいた目開き1.0mmと10.0mmの篩を用い、1.0mm未満、1.0〜10.00mm、10.0mm超の破砕物に篩分けした。
【0032】
10.0mmを超える破砕物に対しては、磁選装置を用いて磁着物を分離した後、色彩選別機を用いて銅を分離した。
【0033】
1.0〜10.0mmの篩中間物に対しては、エアーテーブルを用いて軽産物と重産物に分離した。また、重産物については、磁選装置を用いて磁着物を分離した。
【0034】
得られた分離物の銅、アルミニウム、コバルト分析値を表1に、それぞれのマテリアルバランスを表2に記載する。
【表1】
【表2】
【0035】
表1、表2から、篩分けした10.0mm超の破砕物中から銅を分離・回収し、1.0〜10.0mmの篩中間物中から気流を用いた形状選別により軽産物を得ることで、電池モジュールに含まれる銅の約70%を高品位で回収することができることが分かる。
また、アルミニウムは、10.0mm超の破砕物の選別残や、1.0〜10.0mmの破砕物に対して行った気流を用いた形状選別により重産物側に濃縮される傾向があり、これにより、電池モジュールに含まれるアルミニウムの約90%を回収することができることが分かる。但し、これらは品位が低いことが懸念されるため、再度ソーティングや形状選別を行うことで品位の向上が可能であるが、銅やアルミニウムの品位と選別コストを考慮し、ミックスメタルとして合金メーカーへの売却も可能である。
コバルトに関しては、電池モジュールの60〜70%を1.0mm未満の破砕物として回収が可能である。同時に、これらには多量のリチウムを含むことから、例えばセメント原料として再利用する事が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係る技術は、リチウムイオン二次電池の形態、即ち電池セル、電池モジュール、そして電池パックを区別することなく実施可能であり、また、リチウムイオン二次電池から有価物、特に、アルミニウム、銅を簡易かつ効率的に回収することができる方法であることから、今後市場の拡大が見込まれる車載用や産業用の大型リチウムイオン二次電池からの有価物回収方法として、好適に利用することができる。
図1